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審決分類 |
審判 全部申し立て 特39条先願 C03C 審判 全部申し立て 1項2号公然実施 C03C 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C03C 審判 全部申し立て 2項進歩性 C03C 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C03C |
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管理番号 | 1331215 |
異議申立番号 | 異議2016-700867 |
総通号数 | 213 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-09-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-09-14 |
確定日 | 2017-07-11 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5890515号発明「生溶解性ミネラルウール繊維組成物およびミネラルウール繊維」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5890515号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。 特許第5890515号の請求項1、3ないし7に係る特許を維持する。 特許第5890515号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1.手続の経緯 特許第5890515号は、平成24年4月9日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2011年4月12日 韓国(KR))を国際出願日とする特願2014-505070号の願書に添付された特許請求の範囲に記載された請求項1-7に係る発明について、平成28年2月26日に設定登録がされたものであり、その後、その請求項1-7に係る特許に対し、特許異議申立人 遠藤 哲子により特許異議の申立てがされ、平成28年12月20日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年4月3日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して特許異議申立人 遠藤 哲子から意見書が提出されたものである。 第2.訂正の適否についての判断 1.訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は以下のア?エのとおりである。 ア 特許請求の範囲の請求項1における「R_(2)O(Na_(2)OおよびK_(2)Oのうち少なくとも1種を含む)0.1?5質量%を含み、」との記載を「R_(2)O(Na_(2)OおよびK_(2)Oのうち少なくとも1種を含む)4.30?4.55質量%を含み、」に訂正する。請求項1の記載を引用する請求項3?5、7についても同様に訂正する。 イ 特許請求の範囲の請求項2を削除する。 ウ 特許請求の範囲の請求項6における「R_(2)O(Na_(2)OおよびK_(2)Oのうち少なくとも1種を含む)0.1?5質量%を含む」との記載を「R_(2)O(Na_(2)OおよびK_(2)Oのうち少なくとも1種を含む)4.30?4.55質量%を含む」に訂正する。請求項6の記載を引用する請求項7についても同様に訂正する。 エ 特許請求の範囲の請求項7における「請求項1?6のいずれか1項」との記載を「請求項1、3、4、5及び6のいずれか1項」に訂正する。 2.訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 上記ア、ウの訂正は、組成物に含まれるR_(2)O(Na_(2)OおよびK_(2)Oのうち少なくとも1種を含む)の含有量を、訂正後の「4.30?4.55質量%」に特定するものである。訂正前の記載における組成物に含まれるR_(2)Oの含有量は「0.1?5質量%」であり、「4.30?4.55質量%」はこの範囲に含まれる。したがって、ア、ウの訂正は、組成物に含まれるR_(2)Oの含有量を更に限定するものである。 よって、ア、ウの訂正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 また、上記イの訂正は、請求項2の削除を行うことで特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 さらに、上記エの訂正は、上記イの訂正における請求項2の削除に伴い、請求項7が請求項2を引用しないように訂正するものであり、イの訂正に付随して行われる形式的なものであり、その目的はイの訂正に対応するものである。 したがって、エの訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 そして、訂正前の請求項1を請求項2?5、7が引用し、請求項6を請求項7が引用していることから、訂正前の請求項1?7は、一群の請求項である。 よって、ア?エの訂正は一群の請求項に対して請求されたものである。 3.小括 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正を認める。 第3.特許異議の申立てについて 1.本件発明 本件訂正請求により訂正された訂正請求項1,3-7に係る発明(以下「本件発明1」、「本件発明3」-「本件発明7」という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1,3-7に記載された事項により特定される次のとおりのものと認められる。 「【請求項1】 組成物の総質量に対して、SiO_(2)30?45質量%、Al_(2)O_(3)15?22質量%、酸化鉄(FeOおよびFe_(2)O_(3)の少なくとも1種を含む)8?12質量%、CaO20.5?30質量%、MgO5?15質量%、R_(2)O(Na_(2)OおよびK_(2)Oのうち少なくとも1種を含む)4.30?4.55質量%を含み、 前記組成物の総質量に対して、SiO_(2)およびAl_(2)O_(3)の合計含有量が45?60質量%、CaO、MgO、Na_(2)OおよびK_(2)Oの合計含有量が29.2?40質量%であり、 人工体液に対する溶解速度定数が300ng/cm^(2)・hr以上である生溶解性ミネラルウール繊維組成物。 【請求項3】 R_(2)O(Na_(2)OおよびK_(2)Oの少なくとも1種を含む)/Al_(2)O_(3)の質量比が0.5未満である、請求項1に記載の生溶解性ミネラルウール繊維組成物。 【請求項4】 繊維延伸粘度温度と液相温度との差が80℃以上である、請求項1に記載の生溶解性ミネラルウール繊維組成物。 【請求項5】 耐水性が0.8%以下である、請求項1に記載の生溶解性ミネラルウール繊維組成物。 【請求項6】 組成物の総質量に対して、SiO_(2)30?45質量%、Al_(2)O_(3)15?22質量%、酸化鉄(FeOおよびFe_(2)O_(3)の少なくとも1種を含む)8?12質量%、CaO20.5?30質量%、MgO5?15質量%、R_(2)O(Na_(2)OおよびK_(2)Oのうち少なくとも1種を含む)4.30?4.55質量%を含む生溶解性ミネラルウール繊維組成物であって、 前記組成物の総質量に対して、SiO_(2)およびAl_(2)O_(3)の合計含有量が45?60質量%、CaO、MgO、Na_(2)OおよびK_(2)Oの合計含有量が29.2?40質量%であり、 式[(Na_(2)O+K_(2)O+CaO+MgO)-2×Al_(2)O_(3)]の値(質量%で計算する)が20以下であり、人工体液に対する溶解速度定数が300ng/cm^(2)・hr以上である、生溶解性ミネラルウール繊維組成物。 【請求項7】 請求項1、3、4、5及び6のいずれか1項の生溶解性ミネラルウール繊維組成物からなる生溶解性ミネラルウール繊維。」 2.取消理由について (1)訂正前の請求項1-7に係る特許に対して平成28年12月20日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 請求項1-7に係る発明は、甲第1号証(特表平11-501277号公報、以下、「甲1」という。)に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、取り消されるべきものである。 (2)甲1の請求項1には、次の記載がある。 「1. 1種またはそれ以上の鉱物溶融液を形成し、そして、1種または各溶融液から繊維を形成することから成る人造ガラス質繊維製品を製造する方法において、 1種または各組成物の溶融粘度及び4?5の範囲のpHにおける繊維溶解速度を測定し、 1400℃において10?70ポイズの粘度を有し、pH4.5で測定して少なくとも20nm/日の溶解速度を有する繊維を提供し、かつ、酸化物の重量で、以下の成分 SiO_(2) 32?48% Al_(2)O_(3) 10?30% CaO 10?30% MgO 2?20% FeO 2?15% Na_(2)O+K_(2)O 0?12% TiO_(2) 0?6% 他の素成分 0?15% から成る組成物を選択し、そして、 選択した組成物を利用して人造ガラス質繊維を製造することを特徴とする方法。」 よって、甲1には、「酸化物の重量で、SiO_(2)32?48%、Al_(2)O_(3)10?30%、CaO10?30%、MgO2?20%、FeO2?15%、Na_(2)O+K_(2)O0?12%、TiO_(2)0?6%及び他の素成分0?15%を含み、pH4.5で測定して少なくとも20nm/日の溶解速度を有する人造ガラス質繊維用組成物」(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 (3)まず、R_(2)Oの含有量について検討する。 甲1の第11頁第9行-第13行には、「16%以上のAl_(2)O_(3)を有する繊維において、アルカリ(Na_(2)O+K_(2)O)の総合量は、通常、少なくとも1%、好ましくは、少なくとも2%であり、7%または10%までかあるいはそれ以上である。Al_(2)O_(3)の量が16%超過である場合、アルカリの量は、通常5%以下、好ましくは3%以下である。」ことが記載されているが、甲1には、Na_(2)O+K_(2)Oの総合量が、4.30?4.55質量%の範囲から外れる具体例しか記載されていない。 (4)それに対し、本件発明1は、R_(2)O(Na_(2)OおよびK_(2)Oのうち少なくとも1種を含む)の含有量を4.30?4.55質量%とすることで、「生溶解性」と「耐水性」の「両方の点で優れる」という顕著な効果を有するものと認められ、このことは、本件明細書の段落【0028】の「例えば、Na_(2)O、K_(2)Oなどが挙げられる。この2種のアルカリ金属酸化物は、生溶解性を大幅に増加させるものの、繊維の耐水性には悪い影響を及ぼし、繊維のつぶれおよび復元率にも影響を与える成分である。」との記載や、実験例1,5,6から推認できるものである。 (5)この点について、申立人は、実験例5,6がR_(2)O以外の成分組成において本件発明1の範囲から外れており、本件発明1の実施例ではないことから、R_(2)Oの含有量を4.30質量%とすることによる効果が認められないこと、実験例5,6や甲1発明に相当する本件明細書の比較実験例1,5,6は、本件発明1の実施例である実験例1より、耐水性に優れており、本件発明は、甲1発明と比較して顕著に優れた耐水性を有するものではないから、本件発明1は、選択発明とは認められない旨主張している。 (6)しかしながら、そもそも本件明細書の比較実験例1,5,6の組成を有する繊維が甲1に実施例として記載されているわけではないから、上記比較実験例1,5,6が甲1発明の耐水性を示すという認定は誤りである。 また、本件発明1は、耐水性を向上させることだけを目的とするものではなく、耐水性や生溶解性等のいずれの特性をも満たすことを目的とするものであるから、本件発明1の実施例である実験例1が参考例や比較例に相当する他の例と比較して、耐水性の観点でのみ劣っていたとしても、本件発明1の効果を否定するものではない。 (7)さらに、溶解速度について検討すると、甲1発明の溶解速度は、甲1の第15頁28行?第16頁第6行に記載されているように、300mgの繊維をそれぞれ500mlの変性ガンブル液(即ち錯化剤を有する)を含有するポリエチレン瓶に入れ、pH7.5及び4.5に調整し、1日に一回pHをチェックし、必要ならばHClによって調整し、 試験を1週間の期間中実施したものであって、瓶を37℃の水浴中で保持し、1日に二回激しく振盪させ、溶液の一定量を1日及び4日後に取り出して、パーキン-エルマー原子吸光分析器によってSiを分析して測定しているものである。 (8)これに対し、本件発明1の溶解速度定数は、本件明細書の段落【0041】に記載されているように、ガラス繊維を、プラスチックフィルター支持台で固定された0.2μmのポリカーボネートメンブランフィルター(polycarbonate membrane filter)の薄い層の間に置き、人工体液をフィルターで濾過して溶解速度を測定したものであって、実験が行われる間、継続的に人工体液の温度を37℃、流量を135mL/日に調節し、HClを用いてpHを4.5±0.1に維持し、長期間にわたっての繊維の溶解度を正確に測定するために、繊維を21日間浸出(leaching)させながら、特定の間隔(1、4、7、11、14、21日)で濾過した人工体液を誘導結合プラズマ分光分析法(ICP、Inductively Coupled Plasma Spectrometer)を用いて、溶解したイオンを分析した後、その結果を用いて数式1で溶解速度定数(Kdis)を求めたものである。 (9)したがって、両者は溶解速度の測定条件が異なっていることから、本件発明1の測定値と甲1発明の測定値を直接比較することはできない。 (10)そして、乙第1号証(Christensen V.R. et al., (1994) "Effect of Chemical Composition of Man-made Vitreous Fibres on the Rate of Dissolution in Vitro at Different pHs" Environmental Health Perspectives, 102 Suppl. 5:83-86)にもあるように、甲1発明において用いられている測定方法は、本件発明1において用いられている測定方法よりも、溶解速度が約2.6倍から約4.24倍程度大きな値に測定される傾向が示されていることを考慮すると、甲1発明が、本件発明1の溶解速度を満足しているとはいえない。 また、申立人が意見書において主張するように、仮に、甲1発明の人造ガラス質繊維用組成物が乙第1号証に記載された繊維と組成が異なることで、上記傾向に当てはまらなかったとしても、甲1発明の人造ガラス質繊維用組成物が本件発明で特定する溶解速度定数を満たす証拠があるわけでもない。 そして、甲1発明において、人工体液に対する溶解速度定数を300ng/cm^(2)・hr以上にするように、R_(2)O等をはじめとする各成分の組成を限定する動機付けは存在しない。 (11)したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 また、本件発明3-5,7は、本件発明1を引用し、本件発明1をさらに限定する発明であるから、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 さらに、本件発明6、及びこれを引用する本件発明7は、本件発明1を引用したものでないが、本件発明1の発明特定事項を全て含む発明であるから、同様に甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 3.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について (1)申立理由の概要 申立人は、上記取消理由の他に、甲1及び甲第2?5号証(以下、「甲2?5」という。)を提出し、訂正前の請求項1-7に係る発明は、甲1,2に記載された発明であるか、甲1,2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第1項第3号または第2項の規定に違反してされたものであると主張し(以下、「申立理由1」という。)、また、訂正前の請求項1-7に係る発明は、甲3に記載された発明と同一であるから、その特許は、特許法第39条第1項の規定に違反してされたものであると主張し(以下、「申立理由2」という。)、さらに、訂正前の請求項1-7に係る発明は、公然実施された発明であるから、その特許は、特許法第29条第1項第2号の規定に違反してされたものであると主張し(以下、「申立理由3」という。)、またさらに、訂正前の請求項1-7に係る発明は、明細書に記載されていないものも含むことから、その特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであると主張している(以下、「申立理由4」という。)。 甲第2号証:欧州特許第0866776号明細書 甲第3号証:特許第3955091号公報 甲第4号証:実験成績証明書 甲第5号証:溶解速度の単位の換算方法 (2)申立理由1について 「第3.2.」で検討したとおり、甲1には、R_(2)O(Na_(2)OおよびK_(2)Oのうち少なくとも1種を含む)を4.30?4.55質量%とすること及び、人工体液に対する溶解速度定数を300ng/cm^(2)・hr以上とすることは記載も示唆もされていない。 また、甲2についても同様に、Na_(2)O+K_(2)Oを0?12%とすることや、Na_(2)O+K_(2)Oの合計量が2.3%である例は記載されているものの、R_(2)O(Na_(2)OおよびK_(2)Oのうち少なくとも1種を含む)を4.30?4.55質量%とすること及び、人工体液に対する溶解速度定数を300ng/cm^(2)・hr以上とすることは記載も示唆もされていない。 してみれば、「第3.2.」で検討したとおり、本件発明1は、R_(2)O(Na_(2)OおよびK_(2)Oのうち少なくとも1種を含む)の含有量を4.30?4.55質量%とすることで、「生溶解性」と「耐水性」の「両方の点で優れる」という顕著な効果を有する選択発明性を有するものといえる。 したがって、本件発明1は、甲1,2に記載された発明でも、甲1,2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。本件発明3-7についても同様である。 したがって、この申立理由には理由がない。 (3)申立理由2について 甲3は、本件特許の優先日前である平成22年6月28日に出願され、特許異議申立人から「申立理由1」の証拠として提出された甲1の登録公報である。 「第3.2.」で検討したのと同様に、甲3にも、R_(2)O(Na_(2)OおよびK_(2)Oのうち少なくとも1種を含む)を4.30?4.55質量%とすること及び、人工体液に対する溶解速度定数を300ng/cm^(2)・hr以上とすることは記載も示唆もされていない。 してみれば、「第3.2.」で検討したとおり、本件発明1は、R_(2)O(Na_(2)OおよびK_(2)Oのうち少なくとも1種を含む)の含有量を4.30?4.55質量%とすることで、「生溶解性」と「耐水性」の「両方の点で優れる」という顕著な効果を有するという選択発明性を有するものである。 したがって、本件発明1は、甲3に記載された発明ではない。本件発明3-7についても同様である。 なお、特許異議申立人は、「甲3号証による特許は、20年の特許期間を経て、平成27年11月8日に期間満了した。従って、甲3発明は何人でも自由に実施できる公共の財産となったはずである。しかしながら、わずか数か月後に本件特許が発生し、甲3発明と重複するかなりの範囲の組成の繊維に再び独占権が付与されるのは、知的財産法の精神に反する。」点も主張しているものの、訂正により、甲3発明と本件発明1がかなりの範囲の組成で重なるとの主張は妥当なものではなくなっている。 したがって、この申立理由には理由がない。 (4)申立理由3について 特許異議申立人は、市販品の無機繊維又は製品に含まれる無機繊維について、組成を分析した結果を甲4に記載し、当該甲4に記載された無機繊維は、本件発明1の組成条件「SiO_(2)30?45質量%、Al_(2)O_(3)15?22質量%、酸化鉄(FeOおよびFe_(2)O_(3)の少なくとも1種を含む)8?12質量%、CaO20.5?30質量%、MgO5?15質量%、R_(2)O(Na_(2)OおよびK_(2)Oのうち少なくとも1種を含む)0.1?5質量%」に含まれるから、本件発明1は、本件特許に係る出願の優先日前に公然実施されていた発明であると主張している。 しかしながら、甲4に示された無機繊維は、いずれもR_(2)O(Na_(2)OおよびK_(2)Oのうち少なくとも1種を含む)が4.30?4.55質量%の範囲から外れるものである。 よって、本件発明1は、本件特許に係る出願の優先日前に公然実施されていた発明であるとはいえない。本件発明3-7についても同様である。 したがって、この申立理由には理由がない。 (5)申立理由4について 特許異議申立人は、本件明細書の段落【0053】、【0054】では、「溶解速度定数」と「耐水性」を満たす実施例につき、請求項1に記載のある所定の酸化物でほぼ100%を占める組成物しか記載されていないのに対し、請求項1に記載されている各酸化物をすべて最も少ない含量で含む組成物は、SiO_(2)30質量%、Al_(2)O_(3)15質量%、酸化鉄8質量%、CaO20.5質量%、MgO5質量%、R_(2)O0.1質量%:合計78.6質量%となり、最大で21.4%まで、任意の他の成分を含むことができることになって、21.4%も他の成分を含めば、全く異なる繊維となり、特性も異なるものになることは技術常識であるから、本件発明1は、明細書に記載されていない組成物を包含することになり、サポート要件を満たしていないと主張する。 しかしながら、本件発明1は、本件明細書の段落【0005】に記載されているように、「生溶解性および耐水性に優れるセラミック繊維」を課題とするものであり、「生溶解性」については、「人工体液」に対して「300ng/cm^(2)・hr以上」の「溶解速度定数」を有することが特定されているから、請求項1に記載された各酸化物の含有量は、当該課題を解決し、特性を満たす範囲で変更されるものであるし、請求項1に記載されていない任意の他の成分も、当該課題を解決し、特性を満たす範囲で追加が可能なものであって、本件発明1における各酸化物の含有量の数値範囲が、当該数値範囲の中で自由に変更し得ることを意味するわけではない。 さらに、本件明細書の段落【0053】、【0054】に記載された実施例では、「任意の他の成分」として「TiO_(2)」が含まれており、段落【0024】には、「工程上加工性などの別の問題を引き起こすおそれ」があり、「添加することな」い酸化物として、「P_(2)O_(5)」、「SO_(3)」の例示もあるから、本件発明1において、含有成分の数値範囲の特定が、任意の他の成分を含み得るようになっていることをもって、明細書に記載された範囲を超えたことになるわけでもない。本件発明3-7についても同様である。 したがって、この申立理由には理由がない。 第4.むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1,3-7に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1,3-7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 さらに、請求項2は削除されたため、本件特許の請求項2に対する特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 組成物の総質量に対して、SiO_(2)30?45質量%、Al_(2)O_(3)15?22質量%、酸化鉄(FeOおよびFe_(2)O_(3)の少なくとも1種を含む)8?12質量%、CaO20.5?30質量%、MgO5?15質量%、R_(2)O(Na_(2)OおよびK_(2)Oのうち少なくとも1種を含む)4.30?4.55質量%を含み、 前記組成物の総質量に対して、SiO_(2)およびAl_(2)O_(3)の合計含有量が45?60質量%、CaO、MgO、Na_(2)OおよびK_(2)Oの合計含有量が29.2?40質量%であり、 人工体液に対する溶解速度定数が300ng/cm^(2)・hr以上である生溶解性ミネラルウール繊維組成物。 【請求項2】 (削除) 【請求項3】 R_(2)O(Na_(2)OおよびK_(2)Oの少なくとも1種を含む)/Al_(2)O_(3)の質量比が0.5未満である、請求項1に記載の生溶解性ミネラルウール繊維組成物。 【請求項4】 繊維延伸粘度温度と液相温度との差が80℃以上である、請求項1に記載の生溶解性ミネラルウール繊維組成物。 【請求項5】 耐水性が0.8%以下である、請求項1に記載の生溶解性ミネラルウール繊維組成物。 【請求項6】 組成物の総質量に対して、SiO_(2)30?45質量%、Al_(2)O_(3)15?22質量%、酸化鉄(FeOおよびFe_(2)O_(3)の少なくとも1種を含む)8?12質量%、CaO20.5?30質量%、MgO5?15質量%、R_(2)O(Na_(2)OおよびK_(2)Oのうち少なくとも1種を含む)4.30?4.55質量%を含む生溶解性ミネラルウール繊維組成物であって、 前記組成物の総質量に対して、SiO_(2)およびAl_(2)O_(3)の合計含有量が45?60質量%、CaO、MgO、Na_(2)OおよびK_(2)Oの合計含有量が29.2?40質量%であり、 式[(Na_(2)O+K_(2)O+CaO+MgO)-2×Al_(2)O_(3)]の値(質量%で計算する)が20以下であり、人工体液に対する溶解速度定数が300ng/cm^(2)・hr以上である、生溶解性ミネラルウール繊維組成物。 【請求項7】 請求項1、3、4、5及び6のいずれか1項の生溶解性ミネラルウール繊維組成物からなる生溶解性ミネラルウール繊維。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2017-06-29 |
出願番号 | 特願2014-505070(P2014-505070) |
審決分類 |
P
1
651・
112-
YAA
(C03C)
P 1 651・ 537- YAA (C03C) P 1 651・ 121- YAA (C03C) P 1 651・ 113- YAA (C03C) P 1 651・ 4- YAA (C03C) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 吉川 潤 |
特許庁審判長 |
大橋 賢一 |
特許庁審判官 |
宮澤 尚之 山崎 直也 |
登録日 | 2016-02-26 |
登録番号 | 特許第5890515号(P5890515) |
権利者 | ケーシーシー コーポレーション カンパニー リミテッド |
発明の名称 | 生溶解性ミネラルウール繊維組成物およびミネラルウール繊維 |
代理人 | 龍華国際特許業務法人 |
代理人 | 龍華国際特許業務法人 |