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審決分類 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  C08J
審判 一部申し立て 2項進歩性  C08J
管理番号 1331232
異議申立番号 異議2017-700508  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-09-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-05-24 
確定日 2017-08-01 
異議申立件数
事件の表示 特許第6031884号発明「長繊維強化ポリアミド樹脂成形品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6031884号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1 主な手続の経緯等
特許第6031884号(請求項の数は6。以下、「本件特許」という。)は、平成24年8月9日(優先権主張 平成24年5月11日)に出願された特許出願である特願2012-176993号に係るものであって、平成28年11月4日に設定登録され、平成29年5月24日に、特許異議申立人 特許業務法人虎ノ門知的財産事務所(以下、単に「異議申立人」という。)により、本件特許の請求項1ないし5に係る特許に対して特許異議の申立てがなされたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1ないし5に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明5」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
強化繊維40?80質量%とポリアミド6系樹脂60?20質量%を含有し、該ポリアミド6系樹脂は、ポリアミド6構造単位を80モル%以上含有し、共重合成分としては、パラキシリレンジアミン、メタキシリレンジアミン、フェニレンジアミン、トルエンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、アジピン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、2-メチルテレフタル酸、6-アミノカプロン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸、p-アミノメチル安息香酸、ω?ラウロラクタムから選ばれるポリアミド樹脂であり、小角X線散乱から求めた長周期分布のピーク値が、8.75nm?15.0nmであり、かつ広角X線回折の最大散乱強度を示す面間隔が0.43nm?0.45nmであることを特徴とする長繊維強化ポリアミド樹脂スタンピング成形品。
【請求項2】
強化繊維40?80質量%とポリアミド6系樹脂60?20質量%を含有し、該ポリアミド6系樹脂は、ポリアミド6構造単位を80モル%以上含有し、共重合成分としては、パラキシリレンジアミン、メタキシリレンジアミン、フェニレンジアミン、トルエンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、アジピン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、2-メチルテレフタル酸、6-アミノカプロン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸、p-アミノメチル安息香酸、ω?ラウロラクタムから選ばれるポリアミド樹脂であり、10℃/分の昇温速度で測定したヒートフロー曲線が195℃から225℃の間で2つ以上の多重吸熱ピークを示し、かつ2番目に大きな吸熱を示すピーク温度が200℃?215℃の範囲に存在することを特徴とする長繊維強化ポリアミド樹脂スタンピング成形品。
【請求項3】
繊維軸方向の曲げ強さと破壊ひずみの積が15MPa以上であることを特徴とする、強化繊維が一方向に配向した請求項1または2に記載の長繊維強化ポリアミド樹脂スタンピング成形品。
【請求項4】
成形品の面上任意の方向の曲げ強さと破壊ひずみの積が5MPa以上であることを特徴とする、強化繊維が面内ランダムに配向した請求項1または2に記載の長繊維強化ポリアミド樹脂スタンピング成形品。
【請求項5】
表面温度が165℃?200℃である金型を使用してスタンピング成形することを特徴とする、請求項1?4のいずれかに記載の長繊維強化ポリアミド樹脂スタンピング成形品の製造方法。」

第3 申立理由の概要
異議申立人は、証拠方法として甲第1ないし9号証を提出し、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、以下の取消理由1-1及び1-2並びに取消理由2-1及び2-2により、取り消されるべきものである旨主張している。

1 証拠方法
(1) 甲第1号証: 特開平11-114952号公報(以下、「甲1」という。)
(2) 甲第2号証: 山田恵彦「カーボンファイバの科学」、内田老鶴圃、1995年5月15日、p.61-63(以下、「甲2」という。)
(3) 甲第3号証: 特開平11-188797号公報(以下、「甲3」という。)
(4) 甲第4号証: 岡村誠三他「高分子化学序論(第2版)」、株式会社化学同人、1981年2月1日、p.82(以下、「甲4」という。)
(5) 甲第5号証: 自念栄一他「ナイロン6プラスチックのガラス繊維混入による結晶構造の変化」、「高分子化学」、Vol.30、No.342、1973年10月、p.591-598(以下、「甲5」という。)
(6) 甲第6号証: 特開2012-51225号公報(以下、「甲6」という。)
(7) 甲第7号証: 計算表(以下、「甲7」という。)
(8) 甲第8号証: 宮入裕夫他「複合材料の事典(普及版)」朝倉書店、2011年1月15日、p.162-163(以下、「甲8」という。)
(9) 甲第9号証: 宮入裕夫「機能材料 -高機能化と複合設計-」、技報堂出版、2003年3月15日、p.162-163(以下、「甲9」という。)

2 取消理由1-1
本件発明1及び3は、甲4、甲5並びに甲7に照らせば甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

3 取消理由1-2
本件発明1、4は、甲4及び甲5に照らせば甲3に記載された発明であり、本件発明2は、甲3に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

4 取消理由2-1
本件発明1ないし5は、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

5 取消理由2-2
本件発明1ないし5は、甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 当合議体の判断
当合議体は、以下述べるように、取消理由1-1及び1-2並びに取消理由2-1及び2-2にはいずれも理由はないと判断する。

1 取消理由1-1(新規性)について
(1) 甲1に記載された発明
甲1の特許請求の範囲の請求項1、段落【0001】、【0003】、【0008】、【0010】、【表1】、【図2】の記載から、以下の甲1発明が記載されているといえる。

<甲1発明>
「補強繊維素材60%とマトリックス樹脂を40%を含有し、
マトリックス樹脂として、第1のナイロン系樹脂であるナイロン6と、第1のナイロン樹脂に含有率が30?80wt%の範囲で、メタキシレンジアミンとアジピン酸の重縮合反応から得られる結晶性のポリアミド樹脂からなる第2のナイロン系樹脂を含有する、
繊維強化成形用材料を成形してなる成形品。」

(2) 本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「補強繊維素材」は、本件発明1における「強化繊維」に相当し、その配合量も重複一致している。
甲1発明の「マトリックス樹脂」は、「第1のナイロン系樹脂であるナイロン6」と、「第2のナイロン系樹脂」を含有するものであるから、ナイロン6樹脂を含有する樹脂という限りにおいて、本件発明1の「ポリアミド6系樹脂」ということができ、その配合量も重複一致している。

そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「強化繊維40?80質量%とポリアミド6系樹脂60?20質量%を含有する繊維強化ポリアミド樹脂成形品。」の点で一致し、以下の点で相違している。

<相違点1>
成形品について、本件発明1は、「小角X線散乱から求めた長周期分布のピーク値が、8.75nm?15.0nmであり、かつ広角X線回折の最大散乱強度を示す面間隔が0.43nm?0.45nmであること」を特定するのに対し、甲1発明は、この点を特定しない点。

<相違点2>
成形品について、本件発明1は、「スタンピング成形品」と特定するのに対して、甲1発明は、単なる「成形品」である点。

<相違点3>
ポリアミド6系樹脂に関し、本件発明1は、「ポリアミド6構造単位を80モル%以上含有し、共重合成分としては、パラキシリレンジアミン、メタキシリレンジアミン、フェニレンジアミン、トルエンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、アジピン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、2-メチルテレフタル酸、6-アミノカプロン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸、p-アミノメチル安息香酸、ω?ラウロラクタムから選ばれるポリアミド樹脂であり」と特定していて、共重合ポリアミド樹脂とみられるのに対して、甲1発明は、第1のナイロン系樹脂のナイロン6とメタキシレンジアミンとアジピン酸の重縮合反応から得られる結晶性のポリアミド樹脂からなる第2のナイロン系樹脂を含有するものである点。

<相違点4>
強化繊維に関し、本件発明1は、「長」繊維と特定するのに対して、甲1発明は、この点を特定しない点。

以下、相違点について検討する。
相違点1について
本件特許明細書には、「小角X線散乱から求めた長周期分布のピーク値」及び「広角X線回折の最大散乱強度を示す面間隔」について、以下の記載がある。
「【0009】
本発明者らは鋭意検討した結果、複合材料の母相をなす樹脂が高強度でかつ破壊強さと破壊ひずみのバランスがよいことが必要であり、靭性の高いポリアミド6樹脂の結晶構造を特定化することで達成できることが分かり、以下に示す手段により、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。」
「【0016】
本発明の長繊維強化ポリアミド樹脂成形品は、母相を成すポリアミド6の主たる結晶形態はα型、好ましくは70質量%以上がα型であり、その長周期は、8.75nm?15.0nm、好ましく8.9nm?14.0nmにある。このような結晶構造がバランスのとれた機械的性質を示す理由は、未だ明確ではないが、下記のように考察される。主たる結晶形態がα型の場合は、結晶弾性率が高く、安定であり好ましい。また長周期が8.75nm未満では結晶化度や降伏強度が低く高性能を必要とする構造材としては不適で好ましくない。また長周期が15.0nmを超えると靭性が低下し、耐衝撃性を必要とする構造材としては好ましくない。結晶形態は、成形時の結晶化条件や結晶核剤の種類の組み合わせにより制御される。また長周期は、成形時の結晶化条件または共重合成分や可塑剤の配合により制御される。ただ共重合や可塑剤を用いた場合、共重合成分や可塑剤が到達結晶化度を低下する作用を有する場合が多く、目的とする機械的要求性能を損なうことが多いから、結晶化条件により制御することが好ましい。
ポリアミド6の結晶形態において、広角X線回折の最も高い回折強度から観測される面間隔が0.43nm?0.45nmであれば〈200〉面が成長したα型が主であると判断される。また長周期は、小角X線散乱強度がピークを示す散乱角から算定される。」
「【0018】
本発明の長繊維強化ポリアミド樹脂成形品は、表面温度が165℃?200℃、好ましくは、170℃?195℃である金型を使用してスタンピング成形することが好ましい製造方法の態様である。」
「【実施例】
【0025】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
(実施例1?5と7?10、比較例1?6のUD板)
ポリアミド6系樹脂ペレットを100℃にて17時間真空乾燥後、シリンダー温度を280℃に温度制御した2軸押し出し機(日本製鋼所製TEX30)のホッパーに投入し、溶融し、時間当たり一定質量部を押出した。一方、表1に示した強化繊維のロービングを100質量部になる速度で拡張開繊して押出機のダイヘッドに供給した。幅10mm・厚さ0.2mmのダイから含浸被覆されたテープ状プリプレグを引き抜いて固化した後、枷に巻き取った。
テープ状プリプレグを、繊維軸を1方向に揃えて、間隔200mm,幅150mmの枷に巻き取り12層重ねた。これをIRヒータにより、280℃に予熱した後、表1に示した所定温度に調節された200mm×150mm×2mmの金型にセットして、5分間30MPa圧縮保持した。金型を圧縮成形機から取り出した。30分放冷後、金型を開き、厚さ約2mmの、繊維が一軸配向した平板(UD平板)を得た。なお実施例3、4と比較例3については得られた平板を熱風オーブン中で、表1、2に記載の条件で熱処理をした。
(実施例6のRS平板)
・・・
【0027】
実験に使用した原料と記号
PA-A:PA6(東洋紡績製、相対粘度2.5)
PA-B:PA6/66=モル比95/5(東洋紡績製、相対粘度2.5)
PA-C:PA6/66=モル比75/25(東洋紡績製、相対粘度2.5)
【表1】

【表2】



上記本件特許明細書の記載から、相違点1は、本件発明1のポリアミド系樹脂の特定の結晶構造を特定する条件であって、成形時の結晶化条件や結晶核剤の種類の組み合わせにより制御されるものであり、具体的な実施例においては、スタンピング成形に用いられる金型温度を170℃?195℃とすることで達成されており、金型温度が170℃より低い150℃及び195℃より高い215℃では達成できないことが示されている。
一方、甲1発明の繊維強化成形用材料を成形してなる成形品の成形条件は不明であって、甲1には、いかなる成形条件で行うかの記載並びに示唆もない。
そうすると、甲1発明の成形品を形成する成形材料が、本件発明1の成形材料と同じであっても、成形条件が不明であるから、成形品が「小角X線散乱から求めた長周期分布のピーク値が、8.75nm?15.0nmであり、かつ広角X線回折の最大散乱強度を示す面間隔が0.43nm?0.45nmである」との特性を備えているとはいえない。
したがって、相違点1は実質的な相違点である。

なお、異議申立人は、甲4及び甲5に基づけば、上記相違点1は実質上の相違点でない旨主張するが、以下のとおり、当該主張は失当であって採用できない。
確かに、甲4には、ポリアミド6等の結晶性高分子の場合に、小角X線散乱から求めた長周期分布のピーク値が7.5nm?20nmの範囲に有ることが開示されており、本件発明1の「小角X線散乱から求めた長周期分布のピーク値が、8.75nm?15.0nm」と形式的には重複するものの、甲1発明には、上記のように、本件発明1の成形条件を必ず満足するといえない。
また、甲4開示のものが成形条件に依存しないと解するのは相当でないから、これを甲1発明にそのまま適用できるとはいえない。
次に、甲5において、ポリアミド6の結晶構造がα型である場合の広角X線回折の最大散乱強度を示す面間隔が0.43nm?0.45nmであることが開示されているとしても、甲1発明の成形品の結晶構造は不明であるから、甲1発明の成形品の広角X線回折の最大散乱強度を示す面間隔が0.43nm?0.45nmであるということはできない。
さらに、甲7は、相違点4に係る事項に関する異議申立人が作成した計算表であって、相違点1に係る事項は記載されていない。

よって、相違点2ないし4について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明ということはできない。

(3) 本件発明3と甲1発明との対比
本件発明3は、本件発明1を直接に引用し、さらに限定した発明であり、少なくとも上記(2)で検討した相違点1で実質的に相違しているから、甲1に記載された発明ではない。

(4) まとめ
上記のとおりであって、異議申立人が主張する取消理由1-1には、理由がない。

2 取消理由1-2(新規性)について
(1) 甲3に記載された発明
甲3の特許請求の範囲の請求項1ないし9、段落【0008】、【0014】、【0016】、【0027】、【0037】、【表1】の記載から、実施例9のスタンパブルシートを金型にてブレスした成形品として、以下の甲3発明が記載されているといえる。

<甲3発明>
「溶融したナイロン6樹脂上に10mmにカットした繊維をランダムに配向させた後に、プレスすることにより得られた、繊維含有率が40%のスタンパブルシートを金型温度275℃にて、プレス成形した成形品。」

(2) 本件発明1と甲3発明との対比
本件発明1と甲3発明とを対比する。
甲3発明の「繊維」は、本件発明1における「強化繊維」に相当する。
甲3発明の「ナイロン6樹脂」は、100モル%のポリアミド6構造からなるので、ポリアミド6構造単位を80モル%以上含有するポリアミド樹脂である限りにおいて、本件発明1の「ポリアミド6系樹脂」に相当する。
甲3発明の「10mmにカットした繊維」は、本件特許明細書の「本発明に使用される強化長繊維の繊維長は、7.5mm以上であれば特に限定されない」(段落【0011】)との記載から、本件発明1の「長繊維」に相当し、甲3発明の「スタンパブルシートを金型温度275℃にて、プレス成形した成形品」は、「スタンピング成形品」といえるのは明らかであるから、甲3発明の「スタンパブルシートを金型温度275℃にて、プレス成形した成形品」は、本件発明1の「長繊維強化ポリアミド樹脂スタンピング成形品」に相当している。
また、甲3発明の「繊維」は、「繊維含有率が40%」であるから、本件発明1の「強化繊維」の含有率に包含され、甲3発明の「ナイロン6樹脂」は、その含有率が60%(100%-40%)であるから、本件発明1の「ポリアミド6系樹脂」の含有率に包含される。

そうすると、本件発明1と甲3発明とは、
「強化繊維40?80質量%とポリアミド6系樹脂60?20質量%を含有し、該ポリアミド6系樹脂は、ポリアミド6構造単位を80モル%以上含有する長繊維強化ポリアミド樹脂スタンピング成形品。」の点で一致し、以下の点で相違している。

<相違点5>
本件発明1は、「小角X線散乱から求めた長周期分布のピーク値が、8.75nm?15.0nmであり、かつ広角X線回折の最大散乱強度を示す面間隔が0.43nm?0.45nmであること」を特定するのに対し、甲3発明は、この点を特定しない点。

<相違点6>
ポリアミド6系樹脂に関し、本件発明1は、「共重合成分としては、パラキシリレンジアミン、メタキシリレンジアミン、フェニレンジアミン、トルエンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、アジピン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、2-メチルテレフタル酸、6-アミノカプロン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸、p-アミノメチル安息香酸、ω?ラウロラクタムから選ばれるポリアミド樹脂であり」と特定し、共重合ポリアミド樹脂であるのに対して、甲1発明は、共重合成分を含有しないポリアミド樹脂である点。

以下、相違点について検討する。
相違点5について
本件特許明細書には、上記1(2)の相違点1での検討のとおりの記載があるから、相違点5は、本件発明1のポリアミド系樹脂の特定の結晶構造を特定する条件であって、成形時の結晶化条件や結晶核剤の種類の組み合わせにより制御されるものであり、具体的な実施例においては、スタンピング成形に用いられる金型温度を170℃?195℃とすることで達成されており、金型温度が170℃より低い150℃及び195℃より高い215℃では達成できないことが示されている。
一方、甲3発明における成形条件は、275℃の金型で成形しているから、成形されたポリアミド樹脂の結晶構造は本件発明1で特定する構造と同じであるとはいえず、さらに、甲3発明の成形品を形成する成形材料が、本件発明1の成形材料とは異なることから、甲3発明の成形品が「小角X線散乱から求めた長周期分布のピーク値が、8.75nm?15.0nmであり、かつ広角X線回折の最大散乱強度を示す面間隔が0.43nm?0.45nmである」との特性を備えているとはいえない。
したがって、相違点5は実質的な相違点である。

なお、異議申立人は、甲4及び甲5に基づけば、上記相違点5は実質上の相違点でない旨主張するが、以下のとおり、当該主張は失当であって採用できない。
確かに、甲4には、ポリアミド6等の結晶性高分子の場合に、小角X線散乱から求めた長周期分布のピーク値が7.5nm?20nmの範囲に有ることが開示されており、本件発明1の「小角X線散乱から求めた長周期分布のピーク値が、8.75nm?15.0nm」と形式的には重複するものの、甲3発明には、上記のように、本件発明1の成形条件を満足していない。
また、甲4開示のものが成形条件に依存しないと解するのは相当でないから、これを甲3発明にそのまま適用できるとはいえない。
次に、甲5において、ポリアミド6の結晶構造がα型である場合の広角X線回折の最大散乱強度を示す面間隔が0.43nm?0.45nmであることが開示されているとしても、甲3発明の成形品の結晶構造は不明であり、上記製造条件の検討から、甲3発明の成形品の広角X線回折の最大散乱強度を示す面間隔が0.43nm?0.45nmであるということはできない。

よって、相違点6について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明ということはできない。

(3) 本件発明2と甲3発明との対比
本件発明2と甲3発明とを対比すると、上記(2)と同様の相当関係があるから、本件発明2と甲3発明とは、

「強化繊維40?80質量%とポリアミド6系樹脂60?20質量%を含有し、該ポリアミド6系樹脂は、ポリアミド6構造単位を80モル%以上含有する長繊維強化ポリアミド樹脂スタンピング成形品。」の点で一致し、以下の点で相違している。

<相違点7>
本件発明2は、「10℃/分の昇温速度で測定したヒートフロー曲線が195℃から225℃の間で2つ以上の多重吸熱ピークを示し、かつ2番目に大きな吸熱を示すピーク温度が200℃?215℃の範囲に存在すること」を特定するのに対し、甲3発明は、この点を特定しない点。

<相違点8>
ポリアミド6系樹脂に関し、本件発明2は、「共重合成分としては、パラキシリレンジアミン、メタキシリレンジアミン、フェニレンジアミン、トルエンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、アジピン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、2-メチルテレフタル酸、6-アミノカプロン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸、p-アミノメチル安息香酸、ω?ラウロラクタムから選ばれるポリアミド樹脂であり」と特定し、共重合ポリアミド樹脂であるのに対して、甲3発明は、共重合成分を含有しないポリアミド樹脂である点。

以下、相違点について検討する。
相違点7について
本件特許明細書には、「10℃/分の昇温速度で測定したヒートフロー曲線が195℃から225℃の間で2つ以上の多重吸熱ピークを示し、かつ2番目に大きな吸熱を示すピーク温度が200℃?215℃の範囲に存在すること」について、上記1(2)において摘示した記載に加えて、以下の記載がある。

「【0017】
本発明の長繊維強化ポリアミド樹脂成形品は、10℃/分の昇温速度で測定したヒートフロー曲線が195℃から225℃の間で多重ピークを示す。これらの多重ピークは、ポリアミド6系樹脂の融点に由来するもので、無限大サイズの結晶融点である平衡融点に対して、それぞれのピークは結晶化温度の差による結晶サイズの差によるものと推定されている。多重ピーク温度は、それぞれ成形品の熱履歴により決定され、高次構造の指標といえる。特定の多重ピークを有する複合材が、高い破壊強度と良好な破壊ひずみとのバランスを有する理由は、未だ明確ではないが、その結晶サイズや結晶化度が物性上、最も適当であり、有効な代用特性となっていると考察される。本発明の長繊維強化ポリアミド樹脂成形品は、この温度範囲の多重ピークの2番目に大きいヒートフローを示す温度が200℃?215℃にある。200℃を下回ると、結晶サイズがやや小さく、成形品の強度がやや低く好ましくなく、また215℃を超えると、結晶サイズが大きくなりすぎ、曲げ破壊ひずみが低下し好ましくない。」

上記本件特許明細書の記載から、相違点7は、本件発明1のポリアミド系樹脂の特定の結晶構造を特定する条件であって、ポリアミド樹脂の組成及び成形時の結晶化条件や結晶核剤の種類の組み合わせにより制御されるものであり、具体的な実施例においては、PA6/66=モル比95:5(東洋紡績製、相対粘度2.5)を利用し、スタンピング成形に用いられる金型温度を170℃?195℃とすることで達成されており、金型温度が170℃より低い150℃及び195℃より高い215℃では達成できないことが示されている。
一方、甲3発明の長繊維強化成形用材料を成形してなる成形品の樹脂は、ナイロン6樹脂であり、ポリアミド樹脂の成形条件は、「金型温度275℃にて、プレス成形」するものであって、樹脂の組成も異なり、成形条件は、本件発明2の相違点7に係る発明特定事項を満足できないとされている成形条件である。
そうすると、甲3発明の成形品を形成する成形材料が、本件発明2の成形材料と異なるとともに、成形条件も満足していないから、成形品が「10℃/分の昇温速度で測定したヒートフロー曲線が195℃から225℃の間で2つ以上の多重吸熱ピークを示し、かつ2番目に大きな吸熱を示すピーク温度が200℃?215℃の範囲に存在すること」との特性を備えているとはいえない。
したがって、相違点7は実質的な相違点である。

なお、異議申立人は、甲3に記載された発明におけるポリアミド6系樹脂が、本件特許発明2の具体的な実施例において用いられている「PA-B:PA6/66=モル比95/5(東洋紡績製、相対粘度2.5)」と同一の組成比を有するものであるから、成形品は、相違点7の特性を備えている蓋然性が高い旨主張するが、甲3において、「PA-B」が用いられている実施例は全て射出成形により得られた成形品の成形材料として利用されているものであって、上記(1)での認定のとおり、スタンパブルシートから得られた成形品の成形材料として利用されているものは、ナイロン6樹脂であるから、異議申立人の上記主張は、その前提において誤っていて、採用できない。

よって、相違点8について検討するまでもなく、本件発明2は、甲3に記載された発明ということはできない。

(4) 本件発明4と甲3発明との対比
本件発明4は、本件発明2を直接に引用し、さらに限定する発明であり、少なくとも上記(3)で検討した相違点7で実質的に相違しているから、甲3に記載された発明ではない。

(5) まとめ
上記のとおりであって、異議申立人が主張する取消理由1-2には、理由がない。

3 取消理由2-1(進歩性)について
(1) 甲1に記載された発明
上記1(1)のとおりの甲1発明が記載されているといえる。

(2) 本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、上記1(2)のとおりであって、上記1(2)の相違点1ないし4で相違している。
以下、相違点について検討する。
相違点1について
甲1には、「小角X線散乱から求めた長周期分布のピーク値」及び「広角X線回折の最大散乱強度を示す面間隔」に関する記載は一切なく、用いられているポリアミド樹脂の結晶構造に関する記載も一切存在しない。
一方、本件発明1は、相違点1により、生産性が高く、高強度でかつ破壊強さと破壊ひずみのバランスがよく靱性の高い複合材料成形品を目的とするものであるところ、異議申立人が提示した甲2ないし9のいずれの文献においても、相違点1に係る「小角X線散乱から求めた長周期分布のピーク値」及び「広角X線回折の最大散乱強度を示す面間隔」を特定の数値範囲とすることで、生産性が高く、高強度でかつ破壊強さと破壊ひずみのバランスがよく靭性の高い複合材料成形品を提供できることは記載されておらず、示唆もされていない。
そして、本件の優先日当時の当業者において、「小角X線散乱から求めた長周期分布のピーク値」及び「広角X線回折の最大散乱強度を示す面間隔」を特定の数値範囲とすることで、生産性が高く、高強度でかつ破壊強さと破壊ひずみのバランスがよく靭性の高い複合材料成形品を提供できることが周知技術(技術常識)であったとも認められない。

してみれば、相違点1は、甲2ないし9に記載された発明及び周知技術を参酌したとしても、当業者においても容易に想到できたものとはいえない。
そして、本件発明1は、相違点1に係る構成を備えることにより、高強度でかつ破壊強さと破壊ひずみのバランスがよく靭性の高い複合材料成形品が得られるとの効果を奏するものであり、この効果は、格別な効果と認められる。

以上のことから、相違点2ないし4について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲2ないし9に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3) 本件発明2と甲1発明との対比
本件発明2と甲1発明とを対比すると、
甲1発明の「補強繊維素材」は、本件発明2における「強化繊維」に相当し、その配合量も重複一致している。
甲1発明の「マトリックス樹脂」は、「第1のナイロン系樹脂であるナイロン6」と、「第2のナイロン系樹脂」を含有するものであるから、ナイロン6樹脂を含有する樹脂という限りにおいて、本件発明2の「ポリアミド6系樹脂」ということができ、その配合量も重複一致している。

そうすると、本件発明2と甲1発明とは、
「強化繊維40?80質量%とポリアミド6系樹脂60?20質量%を含有する繊維強化ポリアミド樹脂成形品。」の点で一致し、以下の点で相違している。

<相違点9>
成形品について、本件発明2は、「10℃/分の昇温速度で測定したヒートフロー曲線が195℃から225℃の間で2つ以上の多重吸熱ピークを示し、かつ2番目に大きな吸熱を示すピーク温度が200℃?215℃の範囲に存在すること」を特定するのに対し、甲1発明は、この点を特定しない点。

<相違点10>
成形品について、本件発明2は、「スタンピング成形品」と特定するのに対して、甲1発明は、単なる「成形品」である点。

<相違点11>
ポリアミド6系樹脂に関し、本件発明2は、「ポリアミド6構造単位を80モル%以上含有し、共重合成分としては、パラキシリレンジアミン、メタキシリレンジアミン、フェニレンジアミン、トルエンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、アジピン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、2-メチルテレフタル酸、6-アミノカプロン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸、p-アミノメチル安息香酸、ω?ラウロラクタムから選ばれるポリアミド樹脂であり」と特定していて、共重合ポリアミド樹脂とみられるのに対して、甲1発明は、第1のナイロン系樹脂のナイロン6とメタキシレンジアミンとアジピン酸の重縮合反応から得られる結晶性のポリアミド樹脂からなる第2のナイロン系樹脂を含有するものである点。

<相違点12>
強化繊維に関し、本件発明2は、「長」繊維と特定するのに対して、甲1発明は、この点を特定しない点。

以下、相違点について検討する。
相違点9について
甲1には、「10℃/分の昇温速度で測定したヒートフロー曲線が195℃から225℃の間で2つ以上の多重吸熱ピークを示し、かつ2番目に大きな吸熱を示すピーク温度が200℃?215℃の範囲に存在すること」に関する記載は一切なく、用いられているポリアミド樹脂の結晶構造に関する記載も一切存在しない。
一方、本件発明2は、相違点9により、生産性が高く、高強度でかつ破壊強さと破壊ひずみのバランスがよく靱性の高い複合材料成形品を目的とするものであるところ、異議申立人が提示した甲2ないし9のいずれの文献においても、相違点9に係る「10℃/分の昇温速度で測定したヒートフロー曲線が195℃から225℃の間で2つ以上の多重吸熱ピークを示し、かつ2番目に大きな吸熱を示すピーク温度が200℃?215℃の範囲に存在すること」で、生産性が高く、高強度でかつ破壊強さと破壊ひずみのバランスがよく靭性の高い複合材料成形品を提供できることは記載されておらず、示唆もされていない。
そして、本件の優先日当時の当業者において、成形品において「10℃/分の昇温速度で測定したヒートフロー曲線が195℃から225℃の間で2つ以上の多重吸熱ピークを示し、かつ2番目に大きな吸熱を示すピーク温度が200℃?215℃の範囲に存在すること」で、生産性が高く、高強度でかつ破壊強さと破壊ひずみのバランスがよく靭性の高い複合材料成形品を提供できることが周知技術(技術常識)であったとも認められない。

してみれば、相違点9は、甲2ないし9に記載された発明及び周知技術を参酌したとしても、当業者においても容易に想到できたものとはいえない。
そして、本件発明2は、相違点9に係る構成を備えることにより、高強度でかつ破壊強さと破壊ひずみのバランスがよく靭性の高い複合材料成形品が得られるとの効果を奏するものであり、この効果は、格別な効果と認められる。

以上のことから、相違点10ないし12について検討するまでもなく、本件発明2は、甲1発明及び甲2ないし9に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4) 本件発明3ないし5との対比
本件発明3ないし5は、本件発明1または本件発明2を直接又は間接的に引用し、更に限定する発明であり、少なくとも上記(2)で検討した相違点1または上記(3)で検討した相違点9の点で当業者が容易に想到し得たものとはいえないから、甲1発明及び甲2ないし9に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5) まとめ
上記のとおりであって、異議申立人が主張する取消理由2-1には、理由がない。

4 甲3に基づく取消理由2-2(進歩性)について
(1) 甲3に記載された発明
上記2(1)のとおりの甲3発明が記載されているといえる。

(2) 本件発明1と甲3発明との対比
本件発明1と甲3発明とを対比すると、上記2(2)のとおりであって、上記2(2)の相違点5及び6で相違している。
以下、相違点について検討する。
相違点5について
甲3には、「小角X線散乱から求めた長周期分布のピーク値」及び「広角X線回折の最大散乱強度を示す面間隔」に関する記載は一切なく、用いられているポリアミド樹脂の結晶構造に関する記載も一切存在しない。
一方、異議申立人が提示した甲1、2及び甲4ないし9のいずれの文献においても、相違点5に係る「小角X線散乱から求めた長周期分布のピーク値」及び「広角X線回折の最大散乱強度を示す面間隔」を特定の数値範囲とすることで、生産性が高く、高強度でかつ破壊強さと破壊ひずみのバランスがよく靭性の高い複合材料成形品を提供できることは記載されておらず、示唆もされていない。
そして、本件の優先日当時の当業者において、「小角X線散乱から求めた長周期分布のピーク値」及び「広角X線回折の最大散乱強度を示す面間隔」を特定の数値範囲とすることで、生産性が高く、高強度でかつ破壊強さと破壊ひずみのバランスがよく靭性の高い複合材料成形品を提供できることが周知技術であったとも認められない。

してみれば、相違点5は、甲1及び2並びに4ないし9に記載された発明及び周知技術を参酌したとしても、当業者においても容易に想到できたものとはいえない。
そして、本件発明1は、相違点5に係る構成を備えることにより、高強度でかつ破壊強さと破壊ひずみのバランスがよく靭性の高い複合材料成形品が得られるとの効果を奏するものであり、この効果は、格別な効果と認められる。

以上のことから、相違点6について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明及び甲1及び2並びに4ないし9に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3) 本件発明2と甲3発明との対比
本件発明2と甲3発明とを対比すると、上記2(2)及び(3)のとおりであって、上記2(3)の相違点7及び相違点8で相違している。
以下、相違点について検討する。
相違点7について
甲3には、「10℃/分の昇温速度で測定したヒートフロー曲線が195℃から225℃の間で2つ以上の多重吸熱ピークを示し、かつ2番目に大きな吸熱を示すピーク温度が200℃?215℃の範囲に存在すること」に関する記載は一切なく、用いられているポリアミド樹脂の結晶構造に関する記載も一切存在しない。
一方、本件発明2は、相違点7により、生産性が高く、高強度でかつ破壊強さと破壊ひずみのバランスがよく靱性の高い複合材料成形品を目的とするものであるところ、異議申立人が提示した甲1及び2並びに甲4ないし9のいずれの文献においても、相違点7に係る「10℃/分の昇温速度で測定したヒートフロー曲線が195℃から225℃の間で2つ以上の多重吸熱ピークを示し、かつ2番目に大きな吸熱を示すピーク温度が200℃?215℃の範囲に存在すること」で、生産性が高く、高強度でかつ破壊強さと破壊ひずみのバランスがよく靭性の高い複合材料成形品を提供できることは記載されておらず、示唆もされていない。
そして、本件の優先日当時の当業者において、成形品において「10℃/分の昇温速度で測定したヒートフロー曲線が195℃から225℃の間で2つ以上の多重吸熱ピークを示し、かつ2番目に大きな吸熱を示すピーク温度が200℃?215℃の範囲に存在すること」で、生産性が高く、高強度でかつ破壊強さと破壊ひずみのバランスがよく靭性の高い複合材料成形品を提供できることが周知技術(技術常識)であったとも認められない。

してみれば、相違点7は、甲1及び2並びに4ないし9に記載された発明及び周知技術を参酌したとしても、当業者においても容易に想到できたものとはいえない。
そして、本件発明2は、相違点7に係る構成を備えることにより、高強度でかつ破壊強さと破壊ひずみのバランスがよく靭性の高い複合材料成形品が得られるとの効果を奏するものであり、この効果は、格別な効果と認められる。

以上のことから、相違点8について検討するまでもなく、本件発明2は、甲3発明及び甲1及び2並びに4ないし9に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4) 本件発明3ないし5と甲3発明との対比
本件発明3ないし5は、本件発明1または本件発明2を直接又は間接的に引用し、更に限定する発明であり、少なくとも上記(2)で検討した相違点5または上記(3)で検討した相違点7の点で当業者が容易に想到し得たものとはいえないから、甲3発明及び甲1及び2並びに4ないし9に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5) まとめ
上記のとおりであって、異議申立人が主張する取消理由2-2には、理由がない。

5 異議申立人の特許異議申立書における引用発明の認定について
(1)甲1発明について
異議申立人は、特許異議申立書において、甲1発明を以下のように認定する。
「A 補強繊維素材60%と第1のナイロン系樹脂(ナイロン6)40%を含有し、
B 該第1のナイロン系樹脂は、ナイロン6構造単位を80モル%以上含有し、
C 共重合成分としては、メタキシレンジアミンとアジピン酸の重縮合反応から得られる結晶性のポリアミド樹脂からなる第2のナイロン系樹脂を含有する、
E 強化繊維が一方向に配向した長繊維強化ポリアミド樹脂スタンピング成形品。」
しかしながら、異議申立人が摘示する記載からは「強化繊維が一方向に配向した長繊維」を利用している点、及び「スタンピング成形品」である点は認定することができず、また、Cの構成についても、上記1において、相違点3として認定したとおりであって、異議申立人の特許異議申立書における甲1発明の認定は誤りである。
そして、この認定に基いた異議申立人の申立理由は採用できない。

(2)甲3発明について
異議申立人は、特許異議申立書において、甲3発明を以下のように認定する。
「A 強化繊維8?70質量%とポリアミド6系樹脂92?30質量%を含有し、
B 該ポリアミド6系樹脂は、ポリアミド6構造単位を95%以上含有し、
C 共重合成分としては、ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸からなるナイロン66を含有する
E 長繊維強化ポリアミド樹脂スタンピング成形品。」
しかしながら、甲3においてスタンピング成形された成形品が得られている実施例は、実施例9のみであり、当該実施例9において利用されている樹脂は、N6(ナイロン6樹脂)であって、N6/66(ナイロン6樹脂(95%)とナイロン66樹脂(5%))ではないから、実施例9から甲3発明を認定しているとすれば、異議申立人の特許異議申立書における甲3発明の樹脂の認定は誤りである。また、仮に、一般記載から認定しているとすれば、甲3の段落【0027】に基づいて、「例えばナイロン4、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン10、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン46等の脂肪族ナイロン、ポリヘキサジアミンテレフタルアミド、ポリヘキサメチレンジアミンイソフタル酸アミド、キシレン基含有ポリアミド等の芳香族ナイロン、およびそれらの共重合体、変性体、および2種類以上ブレンドした樹脂等を意味するポリアミド樹脂」との認定となるから、異議申立人の特許異議申立書における甲3発明の樹脂の認定は誤りである。
そして、この認定に基いた異議申立人の申立理由は採用できない。

第5 むすび
したがって、異議申立人の主張する申立理由及び証拠方法によっては、請求項1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。また、他に請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2017-07-18 
出願番号 特願2012-176993(P2012-176993)
審決分類 P 1 652・ 121- Y (C08J)
P 1 652・ 113- Y (C08J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 増永 淳司  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 福井 美穂
大島 祥吾
登録日 2016-11-04 
登録番号 特許第6031884号(P6031884)
権利者 東洋紡株式会社
発明の名称 長繊維強化ポリアミド樹脂成形品  
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