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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G02B
管理番号 1331242
異議申立番号 異議2016-701023  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-09-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-10-27 
確定日 2017-07-27 
異議申立件数
事件の表示 特許第5911785号発明「光学積層体」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第5911785号の請求項1ないし4に係る特許を取り消す。 
理由 1 手続の経緯
特許第5911785号(請求項の数4。以下,「本件特許」という。)に係る出願(優先権主張 平成19年3月31日)は,平成20年3月27日に出願した特願2008-84716号(以下,「原出願」という。)の一部を平成24年10月24日に新たな特許出願としたものであって,平成28年4月8日に本件特許の設定登録がされた(平成28年4月27日特許掲載公報発行)。
これに対し,同年10月27日に特許異議申立人より本件特許の請求項1ないし4に係る特許について特許異議の申立てがされ,平成29年1月25日付けで特許権者に取消理由が通知され,同年3月24日に特許権者より意見書が提出され,同年3月30日付けで特許権者に取消理由通知(決定の予告)がされ,同年5月23日に特許権者より意見書が提出された。


2 本件特許の請求項1ないし4に係る発明
本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下,それぞれを「本件特許発明1」ないし「本件特許発明4」といい,これらを総称して「本件特許発明」という。)は,それぞれ,請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ,請求項1ないし4の記載は次のとおりである。

「【請求項1】
透光性基体の片面又は両面に,直接又は他の層を介して,少なくとも透光性微粒子を含有する,光学機能層を一層設けた光学積層体において,前記透光性微粒子の光学機能層中における面積分散バラツキの標準偏差が0.04?0.20の範囲にあり,光学積層体は次式(1)?(4)を充足する内部ヘイズ値(X)と全ヘイズ値(Y)を有することを特徴とする光学積層体。
Y>X (1)
Y≦X+11 (2)
Y≦28.5 (3)
X≧15 (4)
【請求項2】
前記透光性微粒子が,その個数の95%以上が電子顕微鏡による粒径の実測値で1?20μmの範囲にある透光性球状樹脂微粒子である,請求項1記載の光学積層体。
【請求項3】
前記光学機能層が,少なくとも放射線硬化型樹脂と,1種又は複数種の低屈折性透光性微粒子及び1種又は複数種の高屈折性透光性微粒子とを含有する,請求項1又は2記載の光学積層体。
【請求項4】
前記放射線硬化型樹脂と前記低屈折性透光性微粒子の屈折率差が±0.05以下の範囲にあり,且つ,前記放射線硬化型樹脂と前記高屈折性透光性微粒子の屈折率差が0.05以上の範囲にある,請求項3記載の光学積層体。」


3 取消理由通知(決定の予告)の概要
本件特許発明1ないし4に係る特許に対して平成29年3月30日付け取消理由通知(決定の予告)により通知された取消理由(以下,当該取消理由を「本件取消理由」という。)は,概略次のとおりである。

本件特許発明1ないし4に係る特許は,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。


4 本件取消理由の成否についての判断
(1) 特許法36条6項は,「特許請求の範囲は,次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し,その1号において,「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している(以下,「サポート要件」という。)ところ,特許請求の範囲の記載が当該サポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり,特に,いわゆるパラメータ発明において,特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するためには,発明の詳細な説明は,その数式が示す範囲と得られる効果(性能)との関係の技術的な意味が,特許出願時において,具体例の開示がなくとも当業者に理解できる程度に記載するか,又は,特許出願時の技術常識を参酌して,当該数式が示す範囲内であれば,所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に具体例を開示して記載することを要するものと解される(知財高裁 平成17年11月11日判決 平成17年(行ケ)第10042号)。

(2) 以上の観点から,本件について検討すると,本件特許発明1ないし4は前記2で認定したとおりのものであるところ,当該発明は,いずれも,「透光性微粒子の光学機能層中における面積分散バラツキの標準偏差」(以下,「分散度パラメータ」という。)が0.04ないし0.20の範囲にあるとの構成要件(以下,「第1構成要件」という。),及び内部ヘイズ値(X)と全ヘイズ値(Y)が式(1)ないし(4)を充足するとの構成要件(以下,「第2構成要件」という。)を有している。

(3) 一方,本件特許の明細書(以下,単に「本件明細書」という。)の発明の詳細な説明には,次の記載がある。(記載中に付されていた下線は省略した。下記摘記中の下線は,後述する発明の詳細な説明の記載事項の認定に特に関係する箇所を示す。)
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は,液晶ディスプレイ(LCD)やプラズマディスプレイ(PDP)等のディスプレイ表面に設ける光学積層体に関し,特に画面の視認性を改善するための光学積層体に関する。」
イ 「【背景技術】
【0002】
・・・中略・・・
【0003】
これらのディスプレイは,表示装置表面に蛍光燈などの室内照明,窓からの太陽光の入射,操作者の影などの写り込みにより,画像の視認性が妨げられる。そのため,ディスプレイ表面には,画像の視認性を向上するために,表面反射光を拡散し,外光の正反射を抑え,外部環境の写り込みを防ぐことができる(防眩性を有する)微細凹凸構造を形成させた防眩フィルムなどの,機能性フィルムが最表面に設けられている(従来AG)。
・・・中略・・・
【0006】
最表面に防眩フィルムを用いた場合には,明るい部屋での使用の際に,光の拡散により黒表示の画像が白っぽくなり,コントラストの低下する問題が有った。このため,防眩性を低減させてでも,高コントラストが達成できる防眩フィルムが求められている(高コントラストAG)。
・・・中略・・・
【0008】
一方で,防眩フィルムを最表面に用いた場合には,微細凹凸構造に起因すると思われるギラツキ(輝度の強弱の部分)が表面に発生し視認性を低下させる問題がある。このギラツキは,ディスプレイの画素数の増加に伴う画素の精細化,及び画素分割方式などのディスプレイの技術の向上に伴い発生しやすくなり,ギラツキ防止効果を持った防眩フィルムが求められている(高精細AG)。
【0009】
・・・中略・・・また画面への外光の写り込み,ギラツキ現象や白味のバランスを調整する方法として,特許文献2及び特許文献3のように表面ヘイズと内部ヘイズの範囲を細かく規定したりする方法も開発が進められている。」
ウ 「【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このように,防眩機能,高コントラスト,ギラツキ防止という解決課題は存在しているものの,一方の性質を追求すると他方の性質が犠牲になるというトレードオフの関係にある。したがって,透光性基体上に1層積層した構成でこれら機能を満足するものは,いまだ存在しない。そこで,これら機能を同時に付与する方法として,多層に積層した膜やフィルム表面の形状などの開発が進められているが,多層化により複数回透光性基体上に塗工する工程が必要となりコストが多く掛かる。また,多層化による各層間のバランスを調整することが難しく,実際には使用する目的に応じてこれら機能の一部を選択・実現しているに過ぎない。
【0011】
そこで,本発明は,防眩機能,高コントラスト及びギラツキ防止の機能(特に,高い防眩性とギラツキ防止の機能)をバランスよく備えた,高精細なLCDにも適用可能な光学積層体を提供すること,特に,透光性基体上に1層積層した構成でこれら機能が達成された光学積層体を提供することを目的とする。」
エ 「【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は,高い防眩性を有し,且つ,ギラツキを抑える方策を鋭意研究の結果,光学積層体の光学機能層の透光性微粒子の分散度が重要であることを見出し,本発明(1)?(4)を完成させるに至ったものである。
【0013】
本発明(1)は,透光性基体の片面又は両面に,直接又は他の層を介して,少なくとも透光性微粒子を含有する,光学機能層を一層設けた光学積層体において,前記透光性微粒子の光学機能層中における面積分散バラツキの標準偏差が0.04?0.20の範囲にあり,光学積層体は次式(1)?(4)を充足する内部ヘイズ値(X)と全ヘイズ値(Y)を有することを特徴とする光学積層体である。
Y>X (1)
Y≦X+11 (2)
Y≦28.5 (3)
X≧15 (4)」
オ 「【発明の効果】
【0017】
本発明によれば,光学機能層が一層構造である場合であっても,高い防眩性を担保しつつ,ギラツキも高程度に抑制された光学積層体を提供することができるという効果を奏する。」
カ 「【0031】
本最良形態に係る光学機能層において,透光性微粒子の分散状態は,光学機能層中に均一分散している状態でもなく,また,凝集している状態でもなく,前記の均一分散と凝集の中間的な状態である。図1は,当該状態を示した電子写真である。ここで,「面積分散バラツキの標準偏差」とは,50μm四方の区画を無作為に100区画抽出し,その中に含まれる粒子の数を算出し,各々格子中の粒子の数の標準偏差の値を,100区画中の平均粒子数で除した値を示す。本発明における面積分散バラツキの標準偏差は,0.04?0.20であることが好ましく,0.06?0.15でより好ましく,0.08?0.13で更に好ましい。」
キ 「【0047】
当該光学積層体は,次式(1)?(4)を充足する内部ヘイズ値(X)と全ヘイズ値(Y)を有することが好適である。ここで,「全ヘイズ値」は,光学積層体のヘイズ値を指し,「内部ヘイズ値」は,光学積層体の微細凹凸形状表面に,粘着剤付透明性シートを貼り合わせた状態のもののヘイズ値から粘着剤付透明性シートのヘイズ値を引いた値を指す。尚,いずれのヘイズ値も,JIS K7105に従い測定した値を指す。
【0048】
Y>X (1)
Y≦X+11 (2)
Y≦50 (3)
X≧15 (4)
【0049】
ここで,Y>X+11の範囲では,表面での光拡散効果が大きくなることにより表面が白っぽくなり,コントラストが低下する。好ましい範囲は,X+1<Y<X+8で,より好ましくはX+2≦Y≦X+6である。Y≦X+11,Y>50の範囲では,透過率が減少する一方白画像表示に着色が確認され,視認性が低下する。X<15の範囲では,内部拡散効果が不十分でギラツキが発現する。好ましい範囲は,18<X<40,より好ましくは25≦X≦35である。」
ク 「【0069】
実施例1?4及び比較例1?4で得られた光学積層体(光学機能層フィルム)を用い,全光線透過率,透過像鮮明度(透過画像鮮明度),防眩性,コントラスト及びギラツキについて,下記方法により測定及び評価した。
【0070】
全光線透過率
JIS K7105に従い,ヘイズメーター(商品名:NDH2000,日本電色社製)を用いて測定
透過像鮮明度
JIS K7105に従い,写像性測定器(商品名:ICM-1DP,スガ試験機社製)を用い,測定器を透過モードに設定し,光学くし幅0.5mmにて測定
ヘイズ値
ヘイズ値は,JIS K7105に従い,ヘイズメーター(商品名:NDH2000,日本電色社製)を用いて測定した。
「内部ヘイズ値」は,光学積層フィルムの微細凹凸形状表面に,粘着剤付透明性シートを貼り合わせた状態のもののヘイズ値から粘着剤付透明性シートのヘイズ値を引いた値である。
内部ヘイズを測定する際に使用した粘着剤付透明性シートは,以下の通りである。
透明性シート:成分 ポリエチレンテレフタラート(PET)
厚さ 38μm
粘着材層 :成分 アクリル系粘着剤
厚さ 10μm
粘着剤付透明性シートのヘイズ 3.42
防眩性
防眩性は,透過画像鮮明度の値が0?30のとき◎,31?70のとき○,71?100のとき×とした。
コントラスト
コントラストは各実施例及び各比較例の光学積層体形成面と反対面に,無色透明な粘着層を介して液晶ディスプレイ(商品名:LC-37GX1W,シャープ社製)の画面表面に貼り合せ,液晶ディスプレイ画面の正面上方60°の方向から蛍光灯(商品名:HH4125GL,ナショナル社製)にて液晶ディスプレイ表面の照度が200ルクスとなるようにした後,液晶ディスプレイを白表示及び黒表示としたときの輝度を色彩輝度計(商品名:BM-5A,トプコン社製)にて測定し,得られた黒表示時の輝度(cd/m^(2))と白表示時の輝度(cd/m^(2))を以下の式にて算出した時の値が,600?800のとき×,801?1000のとき○,1001?1200のとき◎とした。
コントラスト=白表示の輝度/黒表示の輝度
ギラツキ
ギラツキは,各実施例及び各比較例の光学積層体形成面と反対面に,無色透明な粘着層を介して解像度が50ppiの液晶ディスプレイ(商品名:LC-32GD4,シャープ社製)と,解像度が100ppiの液晶ディスプレイ(商品名:LL-T1620-B,シャープ社製)と,解像度が120ppiの液晶ディスプレイ(商品名:LC-37GX1W,シャープ社製)と,解像度が140ppiの液晶ディスプレイ(商品名:VGN-TX72B,ソニー社製)と,解像度が150ppiの液晶ディスプレイ(商品名:nw8240-PM780,日本ヒューレットパッカード社製)と,解像度が200ppiの液晶ディスプレイ(商品名:PC-CV50FW,シャープ社製)の画面表面にそれぞれ貼り合わせ,暗室にて液晶ディスプレイを緑表示とした後,各液晶TVの法線方向から解像度200ppiのCCDカメラ(CV-200C,キーエンス社製)にて撮影した画像において,輝度バラツキが確認されない時の解像度の値が,0?50ppiのとき×,51?140ppiのとき○,141?200ppiのとき◎とした。
【0071】
上記評価方法による評価結果を表7に示す。
【0072】
【表7】



(4)ア 前記(3)イには,防眩フィルムにおいて,画面への外光の写り込み,ギラツキ現象や白味のバランスを調整するために,従来,表面ヘイズと内部ヘイズの範囲を規定する方法等があったことが記載され,前記(3)ウには,防眩機能,高コントラスト及びギラツキ防止の機能はトレードオフの関係にあり,透光性基体上に光学機能層を一層積層した構成でこれら機能を満足するものが存在しなかったことが記載されているところ,これらの記載から,本件特許発明が解決しようとする課題は,透光性基体上に1層積層した構成で,防眩機能,高コントラスト及びギラツキ防止の機能,特に,高い防眩性とギラツキ防止の機能をバランスよく備えた光学積層体を提供することにあると認められる。
イ また,前記(3)エ及びオには,高い防眩性を有し,かつ,ギラツキを抑えるためには,「光学機能層の透光性微粒子の分散度」が重要であること,及び,本件特許の請求項1に記載された構成要件を採用することで,光学機能層が一層構造である場合であっても,高い防眩性を担保しつつ,ギラツキも高程度に抑制された光学積層体を提供することができるという効果が得られることを見いだしたことが記載されていると認められるところ,前記(3)カの記載から,「光学機能層の透光性微粒子の分散度」を規定するパラメータが第1構成要件の「分散度パラメータ」であることを把握でき,かつ,前記(3)キの記載から,第2構成要件も,課題の解決に寄与することが理解される。したがって,本件明細書の発明の詳細な説明から,本件特許発明は,発明の課題を解決するための主な手段として,第1構成要件と第2構成要件(前記(2)参照)を採用したものと理解される。
ウ そして,前記(3)クには,本件特許発明の具体例としての実施例1ないし4と比較例1ないし4とが記載されており,それらの防眩性,コントラスト及びギラツキの評価が,実施例1ないし4ではいずれの項目も◎又は○であり,×が存在しないのに対して,比較例1ないし4では少なくとも一つの項目で×であることが示されている。当該評価結果及び前記(3)クに記載された各評価項目の説明から,前記アで認定した発明の課題における「防眩機能,高コントラスト及びギラツキ防止の機能」を「バランスよく備える」とは,防眩機能については,光学くし幅0.5mmにて測定した透過画像鮮明度の値が70以下であり,コントラストについては,所定の測定条件で測定した「白表示の輝度/黒表示の輝度」の値が801以上であり,ギラツキについては,所定の条件で撮影した画像において輝度バラツキが確認されないときの解像度の値が51ppi以上であることを指していると解される。

(5)ア 前記(2)及び前記(4)イに照らせば,本件特許発明は,いわゆるパラメータ発明に該当する。
そこで,前記(1)に鑑み,まず,本件明細書の発明の詳細な説明が,特許法44条2項の規定により本件特許に係る出願の出願時とみなされる原出願の出願時(以下,単に「本件特許の出願時」という。)の技術常識を参酌して,「分散度パラメータ」,「内部ヘイズ値(X)」及び「全ヘイズ値(Y)」が第1構成要件及び第2構成要件に規定される範囲内であれば,前記(4)アで認定した所望の効果を得られると当業者において認識できる程度に具体例を開示して記載したものといえるのか否かについて検討する。
イ 【0072】(前記(3)ク)の【表7】によれば,実施例1ないし4の全ヘイズ値(Y)はそれぞれ27.5,27.8,26.5及び28.5であり,内部ヘイズ値(X)はそれぞれ23.5,23.3,24.0及び23.5であり,「分散度パラメータ」はそれぞれ0.09,0.10,0.06及び0.19である。
一方,比較例1ないし4の全ヘイズ値(Y)はそれぞれ30.5,48.5,30.5及び1.5であり,内部ヘイズ値(X)はそれぞれ22.1,36.5,4.2及び0.2であり,「分散度パラメータ」はそれぞれ0.31,0.03,0.35及び1.12である。
ウ ここで,実施例1ないし4及び比較例1ないし4の全ヘイズ値(Y)及び内部ヘイズ値(X)を,縦軸を全ヘイズ値(Y)とし横軸を内部ヘイズ値(X)としたグラフにプロットするとともに,式(1)ないし(4)を記入すると,次の参考図のとおりである。
【参考図】

エ 実施例1ないし4の「分散度パラメータ」は,第1構成要件の「0.04ないし0.20」という範囲のうちの大部分(0.06ないし0.19)をカバーしている。
一方で,前記参考図から明らかなように,実施例1ないし4の内部ヘイズ値(X)及び全ヘイズ値(Y)は,式(1)ないし(4)を満足する内部ヘイズ値(X)及び全ヘイズ値(Y)の範囲(参考図における斜線部分)のうちのきわめて狭い領域(内部ヘイズ値(X)では23.3ないし24.0の範囲,全ヘイズ値(Y)では26.5ないし28.5の範囲)に集中している。
このような実施例1ないし4が,内部ヘイズ値(X)及び全ヘイズ値(Y)が式(1)ないし(4)を満足し(第2構成要件,参考図における斜線部分),さらに,「分散度パラメータ」が0.04ないし0.20という範囲にある(第1構成要件)ことで,課題を解決し,「防眩機能,高コントラスト及びギラツキ防止の機能」を「バランスよく備える」との実施例1ないし4と同様の効果が得られることを裏付けているとは到底いえない。
また,そもそも,内部ヘイズ値(X)をXとし全ヘイズ値(Y)をYとするXY平面において,実施例1ないし4と比較例1ないし4との間には,式(1)ないし(4)に対応する4つの直線以外にも様々な境界線を想定することができるのであって,たとえ本件特許の出願時の技術常識を参酌しても,本件明細書の発明の詳細な説明の記載からは,各実施例のような「防眩機能,高コントラスト及びギラツキ防止の機能」を「バランスよく備える」ものと,各比較例のような各機能のうち少なくとも一つが劣ったものとの境界線が,式(1)ないし(4)に対応する4つの直線であると,当業者が理解することはできない。
したがって,本件明細書の発明の詳細な説明は,本件特許の出願時の技術常識を参酌して,「分散度パラメータ」,「内部ヘイズ値(X)」及び「全ヘイズ値(Y)」が第1構成要件及び第2構成要件に規定される範囲内であれば,前記(4)で認定した所望の効果を得られると当業者において認識できる程度に具体例を開示して記載したものとはいえない。

(6)ア 次に,本件明細書の発明の詳細な説明が,「分散度パラメータ」,「内部ヘイズ値(X)」及び「全ヘイズ値(Y)」が第1構成要件及び第2構成要件に規定される範囲内にあることと,得られる効果との関係の技術的な意味が,本件特許の出願時において,具体例の開示がなくとも当業者に理解できる程度に記載したものであるのか否かについて検討する。
イ 本件明細書の発明の詳細な説明の前記(3)カの記載から,課題を解決し,所望の効果を得るためには,透光性微粒子の分散状態が,光学機能層中に均一分散している状態でも凝集している状態でもなく,均一分散と凝集の中間的な状態である必要があることを把握でき,「分散度パラメータ」が当該透光性微粒子の分散状態を表すパラメータであることを理解できる。
また,前記(3)キの記載から,表面での光拡散効果が大きくなるとコントラストが低下することから,式(2)がこのようなものを除外するための構成要件であり,内部拡散効果が不充分だとギラツキが発現することから,式(4)がこのようなものを除外するための構成要件であることを理解できる。
しかしながら,これらの記載から理解できるのは,「分散度パラメータ」,「内部ヘイズ値(X)」及び「全ヘイズ値(Y)」の値の変化による「防眩機能,高コントラスト及びギラツキ防止の機能」の変化の定性的な傾向にすぎないのであって,課題を解決し,「防眩機能,高コントラスト及びギラツキ防止の機能」を「バランスよく備える」(前記(4)ウ)という所望の効果を得ることができる「分散度パラメータ」や「内部ヘイズ値(X)」及び「全ヘイズ値(Y)」の値が第1構成要件及び第2構成要件に規定する「0.04ないし0.20」という範囲や式(1)ないし(4)を満足する範囲であることは,前記記載をもってしても,具体例の開示がなければ,当業者に理解できることではない。
したがって,本件明細書の発明の詳細な説明は,「分散度パラメータ」,「内部ヘイズ値(X)」及び「全ヘイズ値(Y)」が第1構成要件及び第2構成要件に規定される範囲内にあることと,得られる効果との関係の技術的な意味が,本件特許の出願時において,具体例の開示がなくとも当業者に理解できる程度に記載したものとはいえない。

(7) なお,平成29年5月23日提出の意見書において,特許権者は,「知財高裁 平成17年11月11日判決 平成17年(行ケ)第10042号」(以下,「大合議判決」という。)が,「パラメータ発明」を「特性値を表す二つの技術的な変数(パラメータ)を用いた一定の数式により示される範囲をもって特定した物を構成要件とするもの」と定義しており,従来の特許庁の審査基準が,このようなパラメータを「特殊パラメータ」と称しており,当該「特殊パラメータ」について,当該技術分野において当業者に慣用されているものは該当しない等と定義がされていたところ,本件特許発明は,「特殊パラメータ」を用いた「パラメータ発明」ではなく,単なる数値限定発明であるから,大合議判決が求める厳格なサポート要件の適用を受けないなどと主張する。
そこで検討するに,特許権者が指摘する大合議判決の判示箇所の記載は,「本件発明は,特性値を表す二つの技術的な変数(パラメータ)をもって特定した物を構成要件とするものであり,いわゆるパラメータ発明に関するものであるところ」であって,当該記載は,パラメータ発明の定義を示したものでなく,単に,特許権者がいう「特性値を表す二つの技術的な変数(パラメータ)を用いた一定の数式により示される範囲をもって特定した物を構成要件とするもの」は「パラメータ発明」に該当することを述べたにすぎないと解するのが相当である。
また,この点を措くとしても,特許権者が指摘する審査基準(旧基準)の「特殊パラメータ」の定義は,請求項が「特殊パラメータ」による物の特定を含む場合,発明の範囲が不明確となる(明確性要件に違反する)場合が多いことを説明した記載における「特殊パラメータ」の定義であって,「パラメータ発明」の定義を記したものでないから,前記特許権者の主張はそもそも審査基準を誤認したものである。
さらに,仮に,本件特許発明が,いわゆる「パラメータ発明」には該当せず,単なる「数値限定発明」であるとしても,大合議判決が判示するように,特許請求の範囲の記載が当該サポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解されるところ,そもそも,「分散度パラメータ」,「内部ヘイズ値(X)」及び「全ヘイズ値(Y)」の値に関して,本件特許発明が,本件明細書の発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでなく,また,発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が本件特許の出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでもないことは,前記(5)及び(6)で述べたのと同様であるから,本件特許の請求項1ないし4の記載がサポート要件に適合していないことに何ら変わりはない。
したがって,前記特許権者の主張は採用できない。


5 むすび
以上のとおり,本件特許の請求項1ないし4に係る特許は,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって,同法113条4号に該当し,取り消されるべきものである。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-06-09 
出願番号 特願2012-235170(P2012-235170)
審決分類 P 1 651・ 537- Z (G02B)
最終処分 取消  
前審関与審査官 藤岡 善行  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 清水 康司
河原 正
登録日 2016-04-08 
登録番号 特許第5911785号(P5911785)
権利者 株式会社巴川製紙所
発明の名称 光学積層体  
代理人 伊藤 温  
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