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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
管理番号 1331244
異議申立番号 異議2017-700413  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-09-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-04-24 
確定日 2017-08-10 
異議申立件数
事件の表示 特許第6012821号発明「ポリウレタン樹脂組成物、封止材及び電気電子部品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6012821号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

1.本件特許の設定登録までの経緯
本件特許第6012821号に係る出願(特願2015-144865号、以下「本願」という。)は、平成27年7月22日に出願人サンユレック株式会社(以下「特許権者」ということがある。)によりされた特許出願であり、平成28年9月30日に特許権の設定登録(請求項の数4)がされたものである。

2.本件異議の申立ての趣旨
本件特許につき平成29年4月24日に特許異議申立人安田愛美(以下「申立人」という。)により「特許第6012821号の特許請求の範囲の全請求項に記載された発明についての特許を取消すべきである。」という趣旨の本件異議の申立てがされた。

第2 本件特許の特許請求の範囲に記載された事項
本件特許の特許請求の範囲には、請求項1ないし請求項4が記載されており、そのうち請求項1には、以下のとおりの記載がある。
「イソシアネート基含有化合物と水酸基含有化合物とが反応してなるポリウレタン樹脂、無機充填剤及び可塑剤を含有するポリウレタン樹脂組成物であって、
前記水酸基含有化合物はポリブタジエンポリオールの水素化物を含有し、
前記ポリブタジエンポリオールの水素化物は、ポリブタジエン単位及び水素化ポリブタジエン単位の合計量100モル%に対する1,2-ビニル基を有するポリブタジエン単位の含有量が7モル%以下であり、且つ、数平均分子量が1500?2500であり、
前記ポリブタジエンポリオールの水素化物は、1,2-ポリブタジエンポリオールの水素化物であり、
前記水酸基含有化合物は、更に、ひまし油系ポリオール及びひまし油系ポリオールの水素化物から選択される少なくとも1種を含む、
ことを特徴とするポリウレタン樹脂組成物。」
(以下、上記請求項1に記載された事項で特定される発明を「本件発明」ということがある。)

第3 申立人が主張する取消理由
申立人は、本件異議申立書(以下、「申立書」という。)において、下記甲第1号証ないし甲第3号証を提示し、具体的な取消理由として、以下の(1)及び(2)が存するとしている。

(1)本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に甲第2号証及び甲第3号証に記載された事項を組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由1」という。)
(2)本件特許の請求項1に関して、同項の記載が不備であり、請求項1及び同項を引用する請求項2ないし4の各記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、同条同項(柱書)の規定を満たしていないから、請求項1ないし4に係る発明についての特許は、いずれも特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法第113条第4号の規定に該当し、取り消されるべきものである。(以下「取消理由2」という。)

・申立人提示の甲号証
甲第1号証:特開2011-168754号公報
甲第2号証:特開2007-131830号公報
甲第3号証:特開2009-67816号公報
(以下、「甲第1号証」ないし「甲第3号証」をそれぞれ「甲1」ないし「甲3」と略していう。)

第4 当審の判断
当審は、
申立人が主張する上記取消理由1及び2につきいずれも理由がないから、本件の請求項1及び同項を引用する請求項2ないし4に係る発明についての特許はいずれも維持すべきもの、
と判断する。
以下、各取消理由につき詳述する。

I.取消理由1について

1.各甲号証の記載事項及び記載された発明
上記取消理由1は、本件特許が特許法第29条に違反してされたものであることに基づくものであるから、当該理由につき検討するにあたり、申立人が提示した甲1ないし甲3に記載された事項の摘示及び当該事項に基づく甲1に係る引用発明の認定を行う。
なお、各記載事項に付された下線は当審が付したものである。

(1)甲1の記載事項及び甲1に記載された発明

ア.甲1の記載事項
甲1には、以下の事項が記載されている。

(a-1)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
数平均分子量1,000?10,000、および臭素価(g/100g)20以下のポリオレフィンポリオール(a)、炭素数6?20の分岐炭化水素ポリオール(b)、(芳香)脂肪族もしくは脂環式ポリイソシアネート(c)および無機充填剤(d)を含有することを特徴とするウレタン樹脂形成性組成物。
【請求項2】
(a)が、分岐炭化水素基を有するポリオレフィンポリオールである請求項1記載の組成物。
【請求項3】
(a)が、-20℃以下のガラス転移温度を有するポリオレフィンポリオールである請求項1または2記載の組成物。
【請求項4】
(a)が、水添ポリブタジエンポリオールまたは水添ポリイソプレンポリオールである請求項1?3のいずれか記載の組成物。
【請求項5】
(a)と(b)の重量比が、40/60?97/3である請求項1?4のいずれか記載の組成物。
【請求項6】
組成物の全体積に基づく(d)の含有量が30?80%である請求項1?5のいずれか記載の組成物。
【請求項7】
請求項1?6のいずれか記載の組成物を硬化させてなる電気・電子部品用封止材。
【請求項8】
0.1?160W/m・Kの熱伝導率を有する請求項7記載の封止材。
【請求項9】
請求項7または8記載の封止材で電子回路基板が封止されてなる電気・電子部品。
【請求項10】
請求項1?6のいずれか記載の組成物を用いて電子回路基板を被覆し、硬化させて封止することを特徴とする電気・電子部品の封止方法。」

(a-2)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、ウレタン樹脂形成性組成物、および該組成物を硬化させてなる封止材で封止されてなる電気・電子部品に関する。」

(a-3)
「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の組成物はプレス成形用組成物であるため、精密な電気・電子部品を隙間なく封止することができず成形性が悪い;特許文献2に記載の組成物におけるウレタン樹脂は、分子内に二重結合を多く有するため、該組成物を硬化させてなる封止材の耐熱劣化性が悪い;特許文献3に記載の組成物は、無機充填剤含有率が低く、該組成物を硬化させてなる封止材の熱放散性が十分でない;また、特許文献4に記載の組成物を硬化させてなる封止材は、可とう性が低く封止対象との密着性が悪い等、従来の封止材用組成物には種々問題点があった。
本発明の目的は、成形加工性に優れ、硬化させてなる硬化物が耐熱劣化性、熱放散性および可とう性のいずれにも優れる、ウレタン樹脂形成性組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は、数平均分子量1,000?10,000、および臭素価(g/100g)20以下のポリオレフィンポリオール(a)、炭素数6?20の分岐炭化水素ポリオール(b)、(芳香)脂肪族もしくは脂環式ポリイソシアネート(c)および無機充填剤(d)を含有することを特徴とするウレタン樹脂形成性組成物である。
【発明の効果】
【0006】
本発明のウレタン樹脂形成性組成物は、下記の効果を奏する。
(1)成形加工性に優れる。
(2)該組成物を硬化させてなる硬化物は、可とう性、耐熱劣化性、熱放散性に優れる。」

(a-4)
「【0007】
[ポリオレフィンポリオール(a)]
本発明におけるポリオレフィンポリオール(a)は、ポリオレフィンの末端に2個またはそれ以上のOH基を有するもので、1,000?10,000(好ましくは1,500?5,000)の数平均分子量[以下Mnと略記。測定はゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)法による。]を有する。Mnが1,000未満では後述する硬化物の可とう性が劣り、10,000を超えるとウレタン樹脂形成性組成物の粘度が高くなり成形加工性が悪くなる。
【0008】
(a)の臭素価(g/100g)は、20以下、好ましくは0?15、さらに好ましくは0?10である。臭素価が20を超えると耐熱劣化性が悪化する。
なお、臭素価は成分中の不飽和度を表す尺度であり、JIS K 2605「化学製品-臭素価試験方法-電気滴定法」に従って測定される(単位はg/100g)。
また、(a)のOH当量(OH基当たりの分子量)は、可とう性および成形加工性の観点から好ましくは500?5,000、さらに好ましくは750?2,000である。
【0009】
(a)としては、成形加工性および可とう性の観点から分岐炭化水素基を有するポリオレフィンポリオールが好ましい。該分岐炭化水素基を有するポリオレフィンポリオールは後述する製造方法で得ることができる。
【0010】
また、(a)のガラス転移温度(以下Tgと略記)(℃)は、可とう性の観点から好ましくは-20℃以下、さらに好ましくは-30℃以下である。
【0011】
上記ポリオレフィンポリオール(a)としては、例えば二重結合を2個またはそれ以上有する、好ましくは炭素数(以下Cと略記)4?10(さらに好ましくは4?8)の不飽和炭化水素(ジエン化合物等)、例えばブタジエン、イソプレン等をアニオン重合触媒(金属リチウム、金属カリウム、金属ナトリウム等)の存在下で重合させた後、アルキレンオキサイド(エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等)を付加重合させて得られるポリオールをさらに水素添加したもの;上記不飽和炭化水素を、水酸基を有するラジカル重合開始剤(過酸化水素等)を用いてラジカル重合させて得られるポリオールをさらに水素添加したもの;二重結合を1個有する、好ましくはC4?10(さらに好ましくは4?8)の不飽和炭化水素、例えば1-ブテンを、水酸基を有するラジカル重合開始剤(過酸化水素等)を用いてラジカル重合させたもの等が挙げられる。
該(a)には、分岐炭化水素基を有するものが含まれ、可とう性の観点から該分岐炭化水素基を有するものが好ましい。
【0012】
(a)の市販品としては、「GI-1000」、「GI-2000」および「GI-3000」[商品名、いずれも日本曹達(株)製、水添ポリブタジエンポリオール]、「ポリテールH」[商品名、三菱化学(株)製、水添ポリブタジエンポリオール]、「エポール」〔商品名、出光興産(株)製、水添ポリイソプレンポリオール〕等が挙げられる。
【0013】
上記(a)のうち、耐熱劣化性の観点から好ましいのは水添ポリブタジエンポリオール、水添ポリイソプレンポリオール、成形加工性の観点からさらに好ましいのは水添ポリブタジエンポリオールである。」

(a-5)
「【0014】
[分岐炭化水素ポリオール(b)]
本発明における、分岐炭化水素ポリオール(b)は、C6?20(好ましくは8?12)の分岐炭化水素の末端に2個またはそれ以上のOH基を有するポリオールである。(b)の炭素数が6未満では(b)と前記ポリオレフィンポリオール(a)との相溶性が悪くなり、20を超えるとウレタン樹脂形成性組成物の成形加工性が悪くなる。
また、(b)の有するOH基の個数は、2?3個、可とう性の観点から好ましくは2個である。
【0015】
(b)には、(芳香)脂肪族、脂環含有ポリオール等が含まれる。
脂肪族ポリオールとしては、3-メチル-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2-メチルオクタンジオール等が挙げられる。
芳香脂肪族ポリオールとしては、o-、m-およびp-キシリレンジオール、スチレングリコール等が挙げられる。
脂環含有ポリオールとしては、1,2-、1,3-および1,4-シクロヘキサンジオール、水添ビスフェノールA、-Fおよび-S等が挙げられる。
【0016】
上記(b)のうち、成形加工性の観点から好ましいのは脂肪族ポリオール、さらに好ましいのは2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2-メチルオクタンジオール、とくに好ましいのは2-エチル-1,3-ヘキサンジオールである。
【0017】
(b)の融点は、本発明のウレタン樹脂形成性組成物の成形加工性の観点から好ましくは80℃以下、さらに好ましくは-60?60℃である。」

(a-6)
「【0018】
[(芳香)脂肪族もしくは脂環式ポリイソシアネート(c)]
本発明における(芳香)脂肪族もしくは脂環式ポリイソシアネート(c)としては、以下に示す、2官能および3官能のものが挙げられ、(芳香)脂肪族ポリイソシアネートには、(芳香)脂肪族ポリイソシアネートの多量体(イソシアヌレート等)も含まれる。
(c)としては、(芳香)脂肪族ポリイソシアネートもしくは脂環式ポリイソシアネートそれぞれの1種単独でも2種以上の併用でも、また、(芳香)脂肪族ポリイソシアネートと脂環式ポリイソシアネートの併用でもいずれでもよい。
【0019】
(c)のうち2官能のジイソシアネート(以下DIと略記)としては、脂肪族DI、例えば、ヘキサン-1,6-ジイソシアナート(以下HDIと略記);(芳香)脂肪族DI、例えばキシリレンDI、α,α,α’,α-テトラメチルキシリレンDI;脂環式DI、例えば、3,5,5-トリメチル-3-(イソシアナトメチル)シクロヘキシルイソシアナート(以下IPDIと略記)、メチレンビス(シクロヘキサン-4,1-)DI(以下水添MDIと略記)、1-メチルシクロヘキサン-2,4-DI、シクロヘキサン-1,3-DI、シクロヘキサン-1,4-DI、シクロヘキサン-1,3-ビス(メチルイソシアナート)が挙げられる。これらのうち、(a)との相溶性の観点から好ましいのは、脂環式DI、さらに好ましいのはIPDI、水添MDIである。
【0020】
(c)のうち3官能のトリイソシアネート(以下TIと略記)としては、脂肪族TI、例えば、イソシアナート基と反応しうる官能基を有する活性水素原子含有化合物[トリメチロールプロパン(以下TMPと略記)等]と前記DIの付加反応物、前記DIの3量体であるイソシアヌレートが挙げられる。これらのイソシアヌレートのうち、(a)との相溶性の観点から好ましいのは、HDIのイソシアヌレート、IPDIのイソシアヌレート、さらに好ましいのはHDIのイソシアヌレートである。
【0021】
上記(c)のうち(a)との相溶性および耐熱劣化性の観点から、もっとも好ましいのはIPDIと、HDI3量体との併用である。併用する場合の重量比(IPDI/HDI3量体)は、相溶性および耐熱劣化性の観点から好ましくは60/40?95/5、さらに好ましくは70/30?90/10である。」

(a-7)
「【0022】
[無機充填剤(d)]
本発明における無機充填剤(d)は本発明のウレタン樹脂形成性組成物を硬化させてなる硬化物(封止材等、以下同じ。)の熱放散性の向上を目的に配合されるものであり、(d)には、金属水酸化物、金属酸化物および金属窒化物からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属化合物が含まれる。
(d)のうち、金属水酸化物としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等;金属酸化物としては、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ケイ素(シリカ等)、酸化チタン等;金属窒化物としては、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等が挙げられる。これらの(d)は、1種単独でも、2種以上の併用でもいずれでもよい。
【0023】
(d)の含有量は、組成物の全体積に基づいて熱放散性および成形加工性の観点から好ましくは30?80%、さらに好ましくは45?75%である。」

(a-8)
「【0027】
[ウレタン樹脂形成性組成物]
本発明のウレタン樹脂形成性組成物は、前記(a)?(d)を含有してなる組成物である。該組成物は1液硬化型、2液硬化型のいずれの形態でも使用可能であるが、成形加工性の観点から好ましいのは2液硬化型である。
2液硬化型の組成物は、通常、(a)、(b)を主成分(50重量%以上を意味する。以下同じ。)とするポリオール成分(A)と、(c)を主成分とするイソシアネート成分(B)の2液型として使用される。前記(d)については(A)、(B)のいずれか、または両方に任意の割合で配合することができる。
【0028】
該組成物において、ポリオレフィンポリオール(a)と(芳香)脂肪族もしくは脂環式ポリオール(b)の重量比は、後述する封止材の可とう性および組成物の成形加工性の観点から好ましくは35/65?97/3、さらに好ましくは50/50?92/8である。
【0029】
該組成物において、(芳香)脂肪族もしくは脂環式ポリイソシアネート(c)と、(a)と(b)の合計量との割合は、(c)中のNCO基と、(a)と(b)の合計中のOH基との反応当量比[NCO/OH]で、耐熱性および形状安定性の観点から好ましくは1.00?1.20、さらに好ましくは1.02?1.05である。
【0030】
また、組成物中の(d)の割合は、組成物の全重量に基づいて、封止材の熱放散性および組成物の成形加工性、封止材の可とう性の観点から好ましくは30?80%、さらに好ましくは45?70%である。
【0031】
また、本発明の樹脂組成物には、必要により、本発明の効果を阻害しない範囲でその他の添加剤(e)を任意に添加することができる。(e)としては、ウレタン化触媒(e1)、フィラー表面処理剤(e2)、滑剤(e3)、酸化防止剤(e4)、難燃剤(e5)および紫外線吸収剤(e6)からなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。」

(a-10)
「【実施例】
【0042】
実施例1?8、比較例1?6
表1に示す各成分を用い表2に示す配合組成で実施例1?8、比較例1?5の各ポリウレタン樹脂形成性組成物を得た。得られた組成物の粘度および該組成物を硬化させてなる硬化物(封止材)の性能について下記の方法に従って評価した。配合成分を表1に、配合組成、評価結果を表2に示す。
【0043】
<性能評価方法>
(1)粘度(単位:mPa・s)<成形加工性の評価>
表2の配合組成で合計100部を秤り取り、自転公転式高速混練脱泡機[型番「AR-550L-3」、(株)シンキー製]で5分間混合し、25℃で減圧脱泡(13.3Pa×30分間)した。60℃の恒温槽[型番「ビスコブロックVTB-250」、東機産業(株)製]で15分間静置、さらに1分後の粘度(mPa・s)を回転式粘度計[RB80型粘度計、東機産業(株)製]で測定した。
【0044】
(2)硬化物の硬度<耐熱劣化性の評価>
上記(1)と同様にして合計500部の混合液を得て、タテ120mm×ヨコ60mm×深さ20mmの金属シャーレに移した。120℃の恒温槽で4時間養生後(初期)およびさらに150℃で300時間静置後の硬化物について、それぞれ25℃で2時間静置した後に、ショアーD硬度計[高分子計器(株)製]を用いて25℃におけるショアーD硬度〔10秒値(測定開始10秒後の値)〕を測定した。
【0045】
(3)熱伝導率(単位:W/m・K)<熱放散性の評価>
(2)と同様の方法で120℃で4時間養生後の硬化物について、25℃で2時間静置し、熱伝導率計[型番「QTM-D3」、京都電子工業(株)製]を用いて、プローブ法にて測定した。
【0046】
(4)加熱減量(単位:重量%)<耐熱劣化性の評価>
(2)の方法で作製した硬化物について、初期の重量(W1)および150℃で300時間静置後の重量(W2)を測定し、下記の計算式から加熱減量を求めた。

加熱減量(%)=100×(W1-W2)/W1

【0047】
【表1】


【0048】
【表2】


【0049】
表2に示すように、実施例1?8の組成物は比較例1、2および5と比べて、フィラー含量(体積%)の割には低粘度であり、かつ(d)を45体積%以上含むため、成形加工性と熱伝導性がともに優れる。また、実施例1?8の硬化物(封止材)は比較例3、4と比べて、150℃で300時間静置後の硬度変化が少ないこと、および加熱減量が小さいことから耐熱劣化性に優れる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明のウレタン樹脂形成性組成物は、成形加工性に優れ、該組成物を硬化させてなる硬化物は可とう性、耐熱劣化性、熱放散性および電子部品の封止性に優れるため、コイル、電子回路、昇圧回路、半導体、抵抗器、LED、コンデンサ、トランジスタ、ダイオード、発光ダイオード、IC、LSI、ディッピング、トランスファーモールド、アンダーフィル、電子素子、半導体素子等の電気・電子部品用の封止材等として好適に用いることができることから極めて有用である。」

イ.甲1に記載された発明
上記甲1には、上記(a-1)ないし(a-10)の各記載(特に下線部参照)からみて、
「数平均分子量1,000?10,000及び臭素価(g/100g)20以下の水添ポリブタジエンポリオールなどの分岐炭化水素基を有するポリオレフィンポリオール(a)、2-エチル-1,3-ヘキサンジオールなどの炭素数6?20の分岐炭化水素ポリオール(b)、ヘキサン-1,6-ジイソシアナート(HDI)のイソシアヌレートなどの(芳香)脂肪族もしくは脂環式ポリイソシアネート(c)、無機充填剤(d)及び他の添加剤(e)を含有し、(a)と(b)の重量比が、40/60?97/3であり、組成物の全体積に基づく(d)の含有量が30?80%であるウレタン樹脂形成性組成物。」
に係る発明(以下「甲1発明1」という。)が記載されているとともに、上記(a-10)の比較例1、2及び5に係る記載からみて、
「「GI-1000」なる商品名の数平均分子量1,500及び臭素価(g/100g)13以下の水添ポリブタジエンポリオール(a)80重量部、数平均分子量720及び水酸基価156の水添ヒマシ油系エステル(b)4.4重量部又は22.5重量部、イソホロンジイソシアネートの10.6重量部又は12.5重量部とヘキサン-1,6-ジイソシアナート(HDI)イソシアヌレートの5重量部との混合物(c)、組成物の全体積に基づく含有量が45%、61%又は70%である無機充填剤(d)からなるウレタン樹脂形成性組成物。」
に係る発明(以下「甲1発明2」という。)が記載されているといえる。

(2)甲2の記載事項
甲2には、以下の事項が記載されている。

(b-1)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)水酸基を有するポリブタジエン、
(b)ヒマシ油エステル交換物、
(c)ポリイソシアネート、
(d)可塑剤、
(e)無機フィラーを含むウレタン樹脂組成物であって、
前記(e)無機フィラーが、(e1)アルミナ(Al_(2)O_(3))を含み、且つ(e)無機フィラーの含有割合がウレタン樹脂組成物の総量に対して70重量%以上であるウレタン樹脂組成物。
・・(中略)・・
【請求項5】
請求項1?4のいずれか一項に記載のウレタン樹脂組成物を用いて絶縁処理された電気電子部品。
【請求項6】
請求項1?4のいずれか一項に記載のウレタン樹脂組成物を用いて絶縁処理されたリアクトルコイル。」

(b-2)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、電気電子部品の絶縁処理に好適なウレタン樹脂組成物及び該樹脂組成物を用いて絶縁処理された電気電子部品に関する。
・・(中略)・・
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記特許文献2において、低粘度で水酸基を有していない可塑剤の配合量が多すぎると、ウレタン樹脂硬化物の絶縁性及び機械特性が低下する、という欠点がある。
【0007】
近年、電気機器として多用されている例えばリアクトルコイル(昇圧回路)においては、特に小さな隙間にも入り込むことができる低粘度性を有すると共に、リアクトルコイルで発生する熱を瞬時に放出することができる高熱伝導率性を有することが望まれている。
【0008】
本発明は、前記問題に鑑み、各種電気機器の絶縁材料として用いる場合、粘度が低く且つ高熱伝導率性を備えたウレタン樹脂組成物及び該樹脂組成物を用いて絶縁処理された電気電子部品を提供することを課題とする。
・・(中略)・・
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るウレタン樹脂組成物は、可とう性、作業性及び熱放散性に優れた硬化物を生成することができ、これによって高い信頼性の絶縁処理された電気電子部品を提供することができる。
また、本発明に係るウレタン樹脂組成物は、ポリウレタン樹脂が本来持っている優れた電気絶縁性を保ちつつ、熱放散性も有しているので、多湿条件、高温条件下で優れた威力を発揮する。従って、自動車部品等のコイルや機器制御等に使用されている電子、電気部品(たとえば実装基盤)に含まれる電気・電子回路を湿気、高温から保護するために該回路を封止する注型材として好適に用いられる。」

(b-3)
「【0018】
本発明に用いられる、(a)水酸基を有するポリブタジエンは、分子量(数平均)が700?8,000が好ましく、1,000?4,000がより好ましく、1500?3000がさらに好ましい。上記の分子量に適合する水酸基を有するポリブタジエンは、1,4ポリブタジエンが用いられ、市販品としては、例えば商品名「poly bdR-45HT、R-45M、R-15HT」(出光石油化学社製)等が挙げられる。」

(b-4)
「【0025】
本発明に用いられる、(d)可塑剤としては、硬化物の弾性及び低粘度化の観点から水酸基を有さない可塑剤であることが好ましく、このような可塑剤はジオクチルフタレート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート等のフタル酸エステル、燐酸エステル等が挙げられ、市販品としては、例えば商品名「TCP、CDP」(大八化学社製)等が挙げられる。
【0026】
可塑剤の配合割合は、前記(a)水酸基を有するポリブタジエン100重量部に対して80?120重量部が好ましく、90?110重量部がより好ましく、95?105重量部がさらに好ましい。可塑剤が80重量部未満では、樹脂組成物の粘度が高く作業性が悪くなり、また可とう性が低下するため耐クラック性が劣る傾向がある。120重量部を超えると、硬化物の機械特性が低下し、樹脂組成物の耐湿性が低下する傾向がある。」

(3)甲3の記載事項
甲3には、以下の事項が記載されている。

(c-1)
「【請求項1】
(a)2以上の水酸基を有するポリブタジエンと、
(b)ポリイソシアネートと、
(c)可塑剤と、
(d)ゼオライトと、
(e)水和金属化合物と
を含むポリウレタン樹脂電気絶縁組成物であって、
前記(e)水和金属化合物100重量部中に、該水和金属化合物/水=8/80の重量比で混合し80℃で13時間放置した後の上澄み液の電気伝導度が40μS/cm以下であるものを10?100重量部含んでいることを特徴とするポリウレタン樹脂電気絶縁組成物。
・・(中略)・・
【請求項6】
請求項1乃至5の何れかに記載のポリウレタン樹脂電気絶縁組成物を用いて絶縁処理された電気・電子部品。」

(c-2)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、電気・電子部品の絶縁処理に好適に使用し得るポリウレタン樹脂電気絶縁組成物及びこの組成物を用いて絶縁処理された電気・電子部品に関する。
・・(中略)・・
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題点に鑑み、鉛フリーはんだを用いた回路基板の封止剤、、電気・電子部品等の絶縁材料等として使用した場合に、湿熱環境下でも絶縁特性が低下せず、しかも放熱効果および難燃性の高いポリウレタン樹脂電気絶縁組成を提供することを目的とする。また、このポリウレタン樹脂電気絶縁組成物を用いて絶縁処理された電気・電子部品を提供することをも目的とする。
・・(中略)・・
【発明の効果】
【0012】
本発明のポリウレタン樹脂電気絶縁組成物は、(d)ゼオライト及び(e)水和金属化合物を含有しているので、湿熱環境下においてもポリウレタン樹脂が本来的に有する優れた電気絶縁性を保ちつつ、高い放熱効果を維持することができる。これによって高い信頼性の電気・電子部品を提供することができる。
【0013】
従って、電気洗濯機、便座、湯沸し器、浄水器、風呂、食器洗浄機、電動工具、自動車、バイクなどに使用されているコイルや電子・電気部品を、水分や湿気から保護するために使用される封止剤、シーリング剤、コーティング剤として、また、コンデンサーやコンバーターの絶縁材料などとして、好適に使用することができる。」

(c-3)
「【0015】
本発明においては、ポリオール成分として、(a)2以上の水酸基を有するポリブタジエンが使用される。このようなポリブタジエンを使用すれは、得られるポリウレタンが良好なエラストマー(ゴム弾性体)となり、回路基板や電気・電子部品に密着して良好な絶縁性を発揮することが可能となる。(a)2以上の水酸基を有するポリブタジエンの分子量(数平均)は、700?8,000の範囲であることが好ましく、1,000?4,000の範囲がより好ましく、1500?3000の範囲がさらに好ましい。上記の分子量に適合する2以上の水酸基を有するポリブタジエンとしては、末端水酸基を有する1,4-ポリブタジエンが挙げられ、市販品としては、例えば商品名「poly bd R・45HT、poly bd R・45M、poly bd R・15HT」(出光石油化学(株)製)などが挙げられる。」

(c-4)
「【0018】
本発明に用いられる(c)可塑剤としては、硬化物に弾性を付与するとともに、組成物調製時に低粘度化を図るという観点から、水酸基を持たない可塑剤であることが好ましい。このような可塑剤としては、ジオクチルフタレート、ジイソノニルフタレート、ジウンデシルフタレートなどのフタル酸エステル、トリエチルヘキシルトリメリテート、トリイソデシルトリメリテートなどのトリメリテート系可塑剤、トリクレジルフォスフェート、トリスキシレニルフォスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルホスフェート、トリフェニルフォスフェートなどリン酸エステルが挙げられる。
【0019】
(c)可塑剤の配合割合は、(a)水酸基を有するポリブタジエンと、(b)ポリイソシアネートと、後述の水酸基を有するポリブタジエン以外のポリオール成分との総量100重量部に対して、50?500重量部、好ましくは100?300重量部である。可塑剤が上記範囲未満では粘度が高くなって作業性が低下し、上記範囲を超えると、硬化物の機械特性が低下し、樹脂組成物の耐湿性が低下する傾向がある。」

2.対比・検討

(1)前提事項
本件発明と甲1発明1又は2とを対比・検討するにあたり、前提として、甲1発明1における「数平均分子量1,000?10,000及び臭素価(g/100g)20以下の水添ポリブタジエンポリオールなどの分岐炭化水素基を有するポリオレフィンポリオール(a)」の好適例として甲1で挙げられ、また、甲1の実施例(比較例)において「ポリオレフィンポリオール(a)」として使用されている「GI-1000」なる商品名の水添ポリブタジエンポリオールにつき検討する。
上記「GI-1000」なる商品名の水添ポリブタジエンポリオールは、製造元の日本曹達株式会社のホームページ(下記参考URL参照。)によると、数平均分子量1500、ヨウ素価21g/100g以下、1,2ビニル基含量が7%未満の1,2-ポリブタジエンポリオールの水素化物であるものと認められるとともに、本件特許に係る明細書(【0061】)には、本件発明に係る実施例における「ポリブタジエンポリオールの水素化物」として、「GI-1000:ポリブタジエンポリオール水素化物 日本曹達社製、1,2-ビニル基含有量7モル%未満、Mn=1500、粘度105Poise/45℃、Tg-44℃」が使用されることが記載されている。
してみると、上記「GI-1000」なる商品名の水添ポリブタジエンポリオールは、本件発明における「ポリブタジエン単位及び水素化ポリブタジエン単位の合計量100モル%に対する1,2-ビニル基を有するポリブタジエン単位の含有量が7モル%以下であり、且つ、数平均分子量が1500・・であ」る「1,2-ポリブタジエンポリオールの水素化物」であると理解するのが自然であるから、以下の検討にあたって、甲1発明1における「数平均分子量1,000?10,000及び臭素価(g/100g)20以下の水添ポリブタジエンポリオールなどの分岐炭化水素基を有するポリオレフィンポリオール(a)」として、「GI-1000」なる商品名の水添ポリブタジエンポリオールが好適に又は専ら使用されるものであるならば、実質的な相違点とはならないものとして検討する。

参考URL:http://www.nippon-soda.co.jp/pb-j/list.html

(2)甲1発明1に基づく検討

ア.対比
本件発明と上記甲1発明1とを上記(1)の前提事項を踏まえて対比すると、本件発明と甲1発明1とは、
「水酸基含有化合物はポリブタジエンポリオールの水素化物を含有し、
ポリブタジエンポリオールの水素化物は、ポリブタジエン単位及び水素化ポリブタジエン単位の合計量100モル%に対する1,2-ビニル基を有するポリブタジエン単位の含有量が7モル%未満であり、且つ、数平均分子量が1500であり、
前記ポリブタジエンポリオールの水素化物は、1,2-ポリブタジエンポリオールの水素化物であるポリウレタン系樹脂組成物。」
の点で一致し、下記の3点で相違するものといえる。

相違点1:本件発明は「イソシアネート基含有化合物と水酸基含有化合物とが反応してなるポリウレタン樹脂、無機充填剤及び可塑剤を含有するポリウレタン樹脂組成物」であるのに対して、甲1発明1は「ポリオレフィンポリオール(a)」、「炭素数6?20の分岐炭化水素ポリオール(b)」、「(芳香)脂肪族もしくは脂環式ポリイソシアネート(c)」、「無機充填剤(d)及び他の添加剤(e)を含有」する「ウレタン樹脂形成性組成物」である点
相違点2:本件発明では「水酸基含有化合物は、更に、ひまし油系ポリオール及びひまし油系ポリオールの水素化物から選択される少なくとも1種を含む」のに対して、甲1発明1では「2-エチル-1,3-ヘキサンジオールなどの炭素数6?20の分岐炭化水素ポリオール(b)・・を含有」する点
相違点3:本件発明では、「可塑剤」を含有するのに対して、甲1発明1では「他の添加剤(e)」を含有する点

イ.各相違点についての検討
事案に鑑み、相違点1、3及び2の順で検討する。

(ア)相違点1について
上記相違点1につき検討すると、甲1発明1の「ウレタン樹脂形成性組成物」を反応硬化させた場合、「ポリオレフィンポリオール(a)」及び「分岐炭化水素ポリオール(b)」と「ポリイソシアネート(c)」とが反応してポリウレタン樹脂となり、反応硬化後の組成物では、当該「ポリウレタン樹脂」、無機充填剤(d)及び他の添加剤(e)を含むものとなることが当業者に自明である。
してみると、本件発明の「ポリウレタン樹脂組成物」と甲1発明1の「ウレタン樹脂形成用組成物」とは、反応硬化の前後において単に表現が分かれたものに過ぎないから、実質的な相違点であるとはいえない。
したがって、相違点1は、実質的な相違点であるとはいえない。

(イ)相違点3について
上記相違点3につき検討すると、上記甲2(摘示(b-4))又は甲3(摘示(c-4))にもそれぞれ記載されているとおり、ポリブタジエンポリオール、ポリイソシアネート及び無機充填剤を含有する絶縁材などに使用されるポリウレタン樹脂組成物において、作業性・硬化物の可とう性又は耐クラック性と硬化物の機械特性・耐湿性とのバランスをとるために可塑剤を適量添加使用することは、当業者の周知技術であるから、甲1発明1において、形成用組成物の作業性・硬化物の可とう性又は耐クラック性と硬化物の機械特性・耐湿性とのバランスをとるために、当該当業者の周知技術に基づき、他の添加剤(e)としての可塑剤を使用することは、当業者が適宜なし得ることである。
してみると、相違点3については、甲1発明1において、当業者が適宜なし得ることである。

(ウ)相違点2について
上記相違点2につき検討すると、甲1には、水添ヒマシ油系エステルを使用した場合が比較例として記載されており(比較例1、2及び5)、実施例の「2-エチル-1,3-ヘキサンジオールなどの炭素数6?20の分岐炭化水素ポリオール(b)」を使用した場合に比して、粘度が上昇するなど効果が劣ることが記載されているのであるから、甲1発明1において、ヒマシ油系ポリオールを、「分岐炭化水素ポリオール(b)」に代えて使用すること又は付加的に使用することについて、阻害要因が存するか、少なくとも動機付ける事項が存しないものと認められる。
してみると、上記相違点2は、甲1発明1において、当業者が適宜なし得ることではない。

ウ.本件発明の効果について
本件発明の効果につき本件特許に係る明細書の記載に基づき検討すると、本件発明に係る「水酸基含有化合物」として特定の「ポリブタジエンポリオールの水素化物」と「ひまし油系ポリオール(水素化物)」とを併用した実施例3ないし6と他の実験例との対比からみて、硬化反応前の組成物の粘度につき改善されていることが明らかであるから、本件発明は、上記相違点(特に相違点2)により、有意な優れた効果を奏しているものと認められる。

エ.小括
以上のとおりであるから、本件発明は、甲1発明1に基づいて、当業者が容易に発明することができたものではない。

(3)甲1発明2に基づく検討

ア.対比
本件発明と上記甲1発明2とを上記(1)の前提事項を踏まえて対比すると、本件発明と甲1発明2とは、
「水酸基含有化合物はポリブタジエンポリオールの水素化物を含有し、
前記ポリブタジエンポリオールの水素化物は、ポリブタジエン単位及び水素化ポリブタジエン単位の合計量100モル%に対する1,2-ビニル基を有するポリブタジエン単位の含有量が7モル%以下であり、且つ、数平均分子量が1500であり、
前記ポリブタジエンポリオールの水素化物は、1,2-ポリブタジエンポリオールの水素化物であり、
前記水酸基含有化合物は、更に、ひまし油系ポリオールを含む、
ことを特徴とするポリウレタン樹脂組成物。」
の点で一致し、下記の2点で相違するものといえる。

相違点1’:本件発明は「イソシアネート基含有化合物と水酸基含有化合物とが反応してなるポリウレタン樹脂、無機充填剤及び可塑剤を含有するポリウレタン樹脂組成物」であるのに対して、甲1発明2は「「GI-1000」なる商品名の数平均分子量1,500及び臭素価(g/100g)13以下の水添ポリブタジエンポリオール(a)80重量部、数平均分子量720及び水酸基価156の水添ヒマシ油系エステル(b)4.4重量部又は22.5重量部、イソホロンジイソシアネートの10.6重量部又は12.5重量部とヘキサン-1,6-ジイソシアナート(HDI)イソシアヌレートの5重量部との混合物(c)、組成物の全体積に基づく含有量が45%、61%又は70%である無機充填剤(d)からなるウレタン樹脂形成性組成物」である点
相違点3’:本件発明では、「可塑剤」を含有するのに対して、甲1発明2では「可塑剤」を使用しない点

イ.各相違点についての検討

(ア)相違点1’について
上記相違点1’につき検討すると、甲1発明2の「ウレタン樹脂形成性組成物」を反応硬化させた場合、「水添ポリブタジエンポリオール(a)」及び「水添ヒマシ油系エステル(b)」と「ポリイソシアネート(c)」とが反応してポリウレタン樹脂となり、反応硬化後の組成物では、当該「ポリウレタン樹脂」及び無機充填剤(d)などの非反応成分を含むものとなることが当業者に自明である。(「可塑剤」の点は下記(イ)参照。)
してみると、本件発明の「ポリウレタン樹脂組成物」と甲1発明2の「ウレタン樹脂形成用組成物」とは、反応硬化の前後において単に表現が分かれたものに過ぎないから、「可塑剤」の点を除き、実質的な相違点であるとはいえない。

(イ)相違点3’について
上記相違点3’につき検討すると、上記(1)イ.(イ)で示したが、甲2(摘示(b-4))又は甲3(摘示(c-4))にもそれぞれ記載されているとおり、ポリブタジエンポリオール、ポリイソシアネート及び無機充填剤を含有する絶縁材などに使用されるポリウレタン樹脂組成物において、作業性・硬化物の可とう性又は耐クラック性と硬化物の機械特性・耐湿性とのバランスをとるために可塑剤を適量添加使用することは、当業者の周知技術ではある。
しかるに、甲1発明2は、甲1における主たる発明、すなわち、甲1発明1に対する比較例とされている発明であり、甲1発明1に係る実施例1ないし8が甲1発明2に係る比較例1、2及び5と比べて、フィラー含量の割には低粘度である旨開示されている(摘示(a-10)【0049】)から、甲1に接した当業者が、甲1発明2に基づき、形成用組成物の作業性・硬化物の可とう性又は耐クラック性と硬化物の機械特性・耐湿性とのバランスをとるために、上記当業者の周知技術に基づき、可塑剤を更に使用することを動機付ける事項が存するものではない。
(例えば、甲1発明2の組成物に可塑剤を添加する手段はとらず、甲1発明1を実施しようとする、すなわち、甲1発明2における「水添ヒマシ油系エステル(b)」に代えて「炭素数6?20の分岐炭化水素ポリオール(b)」を使用しようとするものと解される。)
してみると、相違点3’については、甲1発明2において、当業者が適宜なし得ることではない。

ウ.小括
以上のとおりであるから、本件発明は、甲1発明2に基づいて、当業者が容易に発明することができたものではない。

(4)まとめ
以上のとおりであるから、本件発明は、甲1に記載された発明(甲1発明1及び甲1発明2)及び甲1ないし甲3に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるということはできない。

3.他の請求項に係る発明について
本件特許の請求項2ないし4に係る発明は、いずれも請求項1に係る本件発明を直接または間接に引用して記載しているものであるところ、上記2.で説示したとおりの理由により、本件発明は、甲1に記載された発明(甲1発明1及び甲1発明2)及び甲1ないし甲3に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるということはできない。
したがって、本件特許の請求項2ないし4に係る発明につき、甲1に記載された発明及び甲1ないし甲3に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるということはできない。

4.取消理由1に係るまとめ
以上のとおり、本件の請求項1ないし4に係る発明は、いずれも、甲1に記載された発明及び甲1ないし甲3に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるということはできない。
よって、本件の請求項1ないし4に係る発明についての特許は、いずれも特許法第29条の規定に違反してされたものということはできないから、取消理由1は、理由がない。

II.取消理由2について
取消理由2について、申立人が特に主張する点は、申立書の記載(第12頁第5行?末行)からみて、
(a)ポリブタジエンポリオールの水素化物のうち効果が確認されているものは、数平均分子量1500?2500の範囲の下限である1500のもののみであること、及び
(b)ひまし油系ポリオールのうち効果が確認されているものは、ヒマシ油又は水素化ひまし油のみであって、他のひまし油誘導体を使用した場合に係る記載がないこと、
により、本件の特許請求の範囲(の請求項1)の記載は、いわゆるサポート要件を満たさない、というものであると認められる。
しかるに、本件特許明細書の発明の詳細な説明の実施例(比較例)に係る記載(【0060】?【0073】)に基づき検討すると、本件の請求項1に記載されている事項を具備する実施例3ないし6の場合には、比較例1ないし4の場合はもとより、ひまし油系ポリオールを含有しない実施例1、2及び7の場合に比しても、硬化前の組成物粘度が低く作業性が良好であり、他の硬化物の諸物性についても良好であることが看取できるから、当業者は当該記載に照らして、本件の請求項1に記載されている事項のうち、少なくとも特定のポリブタジエンポリオールの水素化物とひまし油系ポリオールとを併用した場合においては、本件発明の解決課題を解決できるであろうと認識することができるものと解するのが自然である。
また、本件発明の(樹脂)組成物において、上記数平均分子量範囲の上限付近(例えば2500)のポリブタジエンポリオールの水素化物を使用した場合又はひまし油誘導体を使用した場合に、所期の解決課題を解決できるものでないとすべき当業者の技術常識・阻害要因などが存するものとも認められない。
してみると、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、特許請求の範囲(の請求項1)に記載された事項を具備する発明が、解決しようとする課題を解決できるであろうと当業者が認識することができるように記載されているものといえるから、特許請求の範囲(の請求項1)に記載された事項を具備する発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものである。
したがって、申立人の上記(a)及び(b)の点により本件請求項1に記載されている事項が発明の詳細な説明に記載も示唆もされておらず、本件の特許請求の範囲(の請求項1)の記載がサポート要件を満たさない旨の主張は、採用することができない。
よって、申立人が主張する上記取消理由2についても、理由がない。

III.当審の判断のまとめ
以上のとおりであるから、申立人が主張する取消理由1及び2はいずれも理由がなく、本件の請求項1ないし4に係る発明についての特許は、取り消すことができない。

第5 むすび
以上のとおり、本件異議の申立てにおいて申立人が主張する取消理由はいずれも理由がなく、本件の請求項1ないし4に係る発明についての特許は、取り消すことができない。
ほかに、本件の請求項1ないし4に係る発明についての特許を取り消すべき理由も発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-08-01 
出願番号 特願2015-144865(P2015-144865)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C08L)
P 1 651・ 537- Y (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 久保田 英樹  
特許庁審判長 小野寺 務
特許庁審判官 佐久 敬
橋本 栄和
登録日 2016-09-30 
登録番号 特許第6012821号(P6012821)
権利者 サンユレック株式会社
発明の名称 ポリウレタン樹脂組成物、封止材及び電気電子部品  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  

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