• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1331247
異議申立番号 異議2017-700368  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-09-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-04-13 
確定日 2017-08-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第6023894号発明「シリコーンゲル組成物及びシリコーンゲル硬化物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6023894号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6023894号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、2014年7月29日(優先権主張 2013年10月17日)を国際出願日とする特許出願であって、平成28年10月14日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、平成29年4月13日付け(受理日:同年4月14日)で特許異議申立人 柏木 里実(以下、単に「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし3)がされたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし3に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」ないし「本件特許発明3」という。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
(A)下記一般式(1)で表される、一分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を1個以上有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
R_(a)R^(1)_(b)SiO_((4-a-b)/2) (1)
(式中、Rは独立にアルケニル基であり、R^(1)は独立に脂肪族不飽和結合を含まない置換又は非置換の1価炭化水素基であり、aは0.0001?0.2の正数であり、bは1.7?2.2の正数であり、a+bは1.9?2.4である。)
(B)下記一般式(2)で表される、一分子中にケイ素原子に結合した水素原子を2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:前記(A)成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基1個あたり前記ケイ素原子に結合した水素原子が0.6?3個となる量、
R^(2)_(c)H_(d)SiO_((4-c-d)/2) (2)
(式中、R^(2)は独立に脂肪族不飽和結合を含まない置換又は非置換の1価炭化水素基であり、cは0.7?2.2の正数であり、dは0.001?1の正数であり、c+dは0.8?3である。)
(C)白金系触媒:有効量、及び
(D)カーボンナノチューブ:0.01?3質量部、
を含有するものであることを特徴とするシリコーンゲル組成物。
【請求項2】
前記シリコーンゲル組成物を硬化した際のJIS K 2220(1/4コーン)で規定される針入度が、10?200のものであることを特徴とする請求項1に記載のシリコーンゲル組成物。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のシリコーンゲル組成物を硬化してなるシリコーンゲル硬化物であって、該シリコーンゲル硬化物を230℃で1,000時間加熱した後の針入度の加熱前からの変化率が-70%以上のものであることを特徴とするシリコーンゲル硬化物。」

第3 特許異議申立理由の概要
特許異議申立人は、証拠方法として、本件特許の優先日前に、日本国内において頒布された刊行物である以下の甲第1ないし6号証を提出し、おおむね次の取消理由を主張している。

本件特許発明1ないし3は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2ないし6号証に記載された事項(周知技術)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

甲第1号証.特開2008-291148号公報
甲第2号証.特開2011-201961号公報
甲第3号証.特開2010-90194号公報
甲第4号証.特開2006-312726号公報
甲第5号証.特開2010-92008号公報
甲第6号証.特開2011-186127号公報

第4 特許異議申立理由についての判断
1 甲第1ないし6号証の記載等
(1)甲第1号証に記載された事項及び甲1発明
ア 甲第1号証に記載された事項
甲第1号証には、「耐熱性に優れたシリコーンゲル組成物」に関して、次の記載(以下、総称して「甲第1号証に記載された事項」という。)がある。

・「【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記一般式(1):
R_(a)R^(1)_(b)SiO_((4-a-b)/2) (1)
(式中、Rは各々独立にアルケニル基であり、R^(1)は各々独立に脂肪族不飽和結合を含まない非置換または置換の一価炭化水素基であり、aは0.0001?0.2の正数であり、bは1.7?2.2の正数であり、但しa+bは1.9?2.4である)
で表される、一分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を少なくとも1個有するオルガノポリシロキサン: 100質量部、
(B)下記一般式(2):
R^(2)_(c)H_(d)SiO_((4-c-d)/2) (2)
(式中、R^(2)は独立に脂肪族不飽和結合を含まない非置換または置換の一価炭化水素基であり、cは0.7?2.2の正数であり、dは0.001?1の正数であり、但しc+dは0.8?3である)
で表される、一分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン: 前記(A)成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基1個当りケイ素原子に結合した水素原子が0.01?3個となる量、
(C)白金系触媒: 有効量、及び
(D)下記a)、b)及びc)を150℃以上の温度で熱処理して得られた反応生成物:0.01?5質量部
a)25℃における粘度が10?10000mPa・sであるオルガノポリシロキサン: 100質量部
b)一般式:
(R^(3)COO)_(n)M^(1)
(式中、R^(3)は同種または異種の一価炭化水素基、M^(1)はセリウム又はセリウムを主成分とする希土類元素混合物、そしてnは3?4の正数である)
で示されるセリウムのカルボン酸塩: セリウム量が上記a)成分100質量部に対して0.05?5質量部となる量、
c)一般式:
(R^(4)O)_(4)M^(2)
(式中、R^(4)は同種又は異種の一価の炭化水素基、M^(2)はチタン又はジルコニウムである)
で表されるチタン若しくはジルコニウム化合物および/又はその部分加水分解縮合物:
チタン若しくはジルコニウムの質量が上記b)成分のセリウムの質量に対して、0.1?5倍となる量、
を含有してなるシリコーンゲル組成物。
【請求項2】
請求項1記載のシリコーンゲル組成物を硬化してなる、JIS K2220で規定される針入度が10?200であるシリコーンゲル硬化物。」

・「【0060】
[耐熱性試験]
上記実施例1?4および比較例1?4で得られた硬化物を用いて、150℃および200℃の恒温槽中に長期間放置した際の、針入度を表1に示す。
【0061】
【表1】



イ 甲1発明
甲第1号証に記載された事項(特に、請求項1の記載に着目。)を整理すると、甲第1号証には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

「(A)下記一般式(1):
R_(a)R^(1)_(b)SiO_((4-a-b)/2) (1)
(式中、Rは各々独立にアルケニル基であり、R^(1)は各々独立に脂肪族不飽和結合を含まない非置換または置換の一価炭化水素基であり、aは0.0001?0.2の正数であり、bは1.7?2.2の正数であり、但しa+bは1.9?2.4である)
で表される、一分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を少なくとも1個有するオルガノポリシロキサン: 100質量部、
(B)下記一般式(2):
R^(2)_(c)H_(d)SiO_((4-c-d)/2) (2)
(式中、R^(2)は独立に脂肪族不飽和結合を含まない非置換または置換の一価炭化水素基であり、cは0.7?2.2の正数であり、dは0.001?1の正数であり、但しc+dは0.8?3である)
で表される、一分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン: 前記(A)成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基1個当りケイ素原子に結合した水素原子が0.01?3個となる量、
(C)白金系触媒: 有効量、
を含有してなるシリコーンゲル組成物。」

(2)甲第2号証に記載された事項
甲第2号証には、「樹脂着色剤および樹脂組成物」に関して、次の記載(以下、「甲第2号証に記載された事項」という。)がある。

・「【0009】
本発明に係る樹脂着色剤は、カーボンナノチューブを主成分として含有する。
・・・(略)・・・
【0012】
本発明の漆黒性樹脂組成物は、上記カーボンナノチューブを全体重量に対して0.05?2重量%の割合で含有することが好ましい。
・・・(略)・・・
【0014】
1つの実施態様においては、上記樹脂成分は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリブテン、結晶性ポリプタジエン、ポリスチレン、スチレン-ブタジエン樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリメチルメタアクリレート、ポリ塩化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、エチレン-ポリテトラフルオロエチレン樹脂、エチレン-酢酸ビニル樹脂、アクリロニリル-スチレン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂、アクリロニトリル-アクリレート-スチレン樹脂、アクリロニトリル-塩化ポリエチレン-スチレン樹脂、アイオノマー、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、不飽和ポリエステル、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、変性メラミン樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、セルロイド、セロファン、酢酸セルロース、酢酪酸セルロース、エボナイト、およびゼラチンからなる群から選択される少なくとも1種の樹脂である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、樹脂成形品に高級感ある漆黒性を提供することができる。本発明の樹脂着色剤は成形時における昇華が起こらないため、金型汚染、すなわち、金型表面の曇りの発生を回避することができる。これにより、樹脂成形品の生産性を向上することができる。また、本発明の樹脂着色剤は、安定性の高いカーボンナノチューブを主成分とするため、優れた耐熱性および耐候性を有し、樹脂成形品の経時的な品質劣化を防止することができ、所望の漆黒性を長期にわたって持続することができる。」

(3)甲第3号証に記載された事項
甲第3号証には、「耐熱性高熱伝導性接着剤」に関して、次の記載(以下、「甲第3号証に記載された事項」という。)がある。

・「【0014】
以上の構成を採る本発明の耐熱性高熱伝導性接着剤は、ナノサイズのフィラーとエポキシ樹脂との組み合わせをベースとし、優れた機械的強度、耐熱性および熱伝導性を有する。本発明の接着剤は、12?18MPaの引張強度を有する。また、本発明の接着剤は、200?380℃において安定した耐熱性を示す。さらに、本発明の接着剤は、0.55?150W/m・Kの範囲内の高い熱伝導率を有し、様々な分野での応用が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の耐熱性高熱伝導性接着剤は、(a)第1反応性官能基で表面改質されたカーボン系フィラーと、第2反応性官能基をを有する接着性ポリマーマトリックスとが第1反応性官能基と第2反応性官能基との付加縮合反応により結合した第1成分と、(b)第3反応性官能基で表面改質されたカーボン系フィラーからなる第2成分とを含み、第3反応性官能基は、光または熱の印加によって第2反応性官能基と付加縮合反応を起こす官能基であることを特徴とする。
【0016】
ここで、第1成分および第2成分のカーボン系フィラーのそれぞれは、カーボンナノチューブ、グラファイト、およびカーボンナノファイバーからなる群から選択することができる。カーボンナノチューブとしては、マルチウォールカーボンナノチューブ(MWNT)を使用することが望ましい。」

(4)甲第4号証に記載された事項
甲第4号証には、「導電性硬化性樹脂組成物、その硬化体およびその成形体」に関して、次の記載(以下、総称して「甲第4号証に記載された事項」という。)がある。

・「【0001】
本発明は、硬化性樹脂組成物に関する。更に詳しくは、本発明は、導電性、機械強度に優れ、更にモールド成形性に優れた硬化性樹脂組成物、その硬化体、およびそれらの成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、高い導電性が求められる用途に対しては、金属や炭素材料等の材料が用いられてきた。中でも、炭素材料は導電性に優れ、金属のような腐食がなく、耐熱性、潤滑性、熱伝導性、耐久性等にも優れた材料であることから、エレクトロニクス、電気化学、エネルギー、輸送機器等の分野で重要な役割を果たしてきた。そして、炭素材料と高分子材料の組み合わせによる複合材料においても目覚ましい発展を遂げ、その結果、このような複合材料も高性能化、高機能性化の一躍を担って来た。特に、高分子材料との複合化により成形加工性の自由度が向上したことが、導電性が要求される各分野で炭素材料が発展してきた一つの理由である。」

・「【0054】
(エラストマー)
本発明における(B)成分であるエラストマーは、(A)成分を除くゴム弾性を示す高分子化合物であれば特に限定されるものではないが、機械強度、導電性、耐久性、耐熱性、耐熱水性、加工面、炭素-炭素二重結合を複数個有する炭化水素化合物との相溶性、組成物中への分散性、導電性フィラーの高充填性の面から適当なエラストマーが選ばれる。特に耐熱水性の面からでは、熱水による加水分解を避けるため、エステル結合、ウレタン結合等加水分解を受ける結合部位を有するエラストマーの使用量は少ないほうが好ましいが、他の物性とのバランスで適切な量とすることができる。具体的には、水素化アクリロニトリルブタジエンゴム、エチレンオクテン共重合体、エチレンブテン共重合体、エチレンプロピレンゴム、フッ素ゴム、イソプレンゴム、シリコーンゴム、アクリルゴム、ノルボルネンゴム、及びブチルゴムからなる群より選ばれた1種または2種類以上の組み合わせによるものが好ましく、更には水素化アクリロニトリルブタジエンゴム、エチレンオクテン共重合体、エチレンブテン共重合体、エチレンプロピレンゴム、イソプレンゴム、アクリルゴム、ノルボルネンゴム、及びブチルゴムからなる群より選ばれた1種または2種類以上の組み合わせが好適であるが、これらに限定するものではない。」

・「【0055】
(炭素質材料)
本発明における(C)成分の炭素質材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛、カーボンブラック、炭素繊維、気相法炭素繊維、カーボンナノチューブ中から選ばれた1ないし2種類以上の組み合わせが挙げられる。」

・「【0065】
(カーボンナノチューブ)
カーボンナノチューブとは、近年その機械的強度のみでなく、電界放出機能や、水素吸蔵機能が産業上注目され、更に磁気機能にも目が向けられ始めている。この種のカーボンナノチューブは、グラファイトウィスカー、フィラメンタスカーボン、グラファイトファイバー、極細炭素チューブ、カーボンチューブ、カーボンフィブリル、カーボンマイクロチューブ、カーボンナノファイバー等とも呼ばれている。カーボンナノチューブにはチューブを形成するグラファイト膜が一層である単層カーボンナノチューブと、多層である多層カーボンナノチューブがある。本発明では、単層および多層カーボンナノチューブのいずれも使用可能であるが、単層カーボンナノチューブを用いた方が、より高い導電性や機械的強度の硬化物が得られる傾向があるため好ましい。」

・「【0114】
本発明における導電性硬化性樹脂組成物は、モールド成形が容易なため、厚み精度を要求される分野の複合材料として最適である。更に、その硬化体は、黒鉛の導電性や熱伝導性を限りなく再現でき、耐熱性、耐熱水性、耐食性、成形精度に優れる点で極めて高性能なものが得られる。これらの導電性硬化性樹脂組成物ないし硬化体の用途は特に制限されないが、該用途の具体例としては、燃料電池用セパレータ、電極、電磁波シールド、放熱材料、電池用集電体、電子回路基板、抵抗器、ヒーター、集塵フィルタエレメント、面状発熱体、電磁波材料等を挙げることができる。」

(5)甲第5号証に記載された事項
甲第5号証には、「定着用ベルト」に関して、次の記載(以下、総称して「甲第5号証に記載された事項」という。)がある。

・「【0015】
本発明者は、鋭意検討の結果、チューブ状の基材、表層、及び前記基材と表層間に弾性層を有する定着用ベルトにおいて、弾性層の材質として、充填剤とカーボンナノチューブを配合したゴムを用い、充填剤とカーボンナノチューブの配合比を所定の式で表される範囲内とすることにより、高い熱伝導率と適度な弾力性を両立でき、かつ機械的強度も低下しないことを見出し、本発明を完成した。すなわち、前記の課題は以下に示す構成からなる発明により解決される。」

・「【0026】
前記弾性層を構成する材質(マトリックス材)としては、従来の定着用ベルトにおいて、弾性を付与するための中間層に用いられる耐熱性エラストマーを用いることができる。必ずしも加硫ゴムに限定されず、定着用ベルトの製造や使用時における加熱によっても劣化しにくくかつ弾性を有するものを用いることができる。耐熱性エラストマーとしては、シリコーンゴム又はフッ素ゴムが、耐熱性に優れるので、好ましく用いられる(請求項3)。」

(6)甲第6号証の記載
甲第6号証には、「定着用ベルト」に関して、次の記載(以下、総称して「甲第6号証に記載された事項」という。)がある。

・「【0013】
本発明者は、鋭意検討の結果、チューブ状の基材、表層、及び前記基材と表層間に弾性層を有する定着用ベルトにおいて、弾性層の材質として、炭化ケイ素粉末を主体とした充填剤とカーボンナノチューブを配合したゴムを用い、この充填剤とカーボンナノチューブの配合比を所定の式で表される範囲内とすることにより、高い熱伝導率と適度な弾力性を両立でき、かつ機械的強度も低下しないことを見出し、本発明を完成した。すなわち、前記の課題は以下に示す構成からなる発明により解決される。」

・「【0026】
前記弾性層を構成する材質(マトリックス材)としては、従来の定着用ベルトにおいて、弾性を付与するための中間層に用いられる耐熱性エラストマーを用いることができる。必ずしも加硫ゴムに限定されず、定着用ベルトの製造や使用時における加熱によっても劣化しにくくかつ弾性を有するものを用いることができる。耐熱性エラストマーとしては、シリコーンゴム又はフッ素ゴムが耐熱性に優れるので好ましく用いられる(請求項2)。」

2 本件特許発明1について
(1)対比
本件特許発明1と甲1発明を対比する。

甲1発明における「(A)下記一般式(1):
R_(a)R^(1)_(b)SiO_((4-a-b)/2) (1)
(式中、Rは各々独立にアルケニル基であり、R^(1)は各々独立に脂肪族不飽和結合を含まない非置換または置換の一価炭化水素基であり、aは0.0001?0.2の正数であり、bは1.7?2.2の正数であり、但しa+bは1.9?2.4である)
で表される、一分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を少なくとも1個有するオルガノポリシロキサン: 100質量部」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本件特許発明1における「(A)下記一般式(1)で表される、一分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を1個以上有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
R_(a)R^(1)_(b)SiO_((4-a-b)/2) (1)
(式中、Rは独立にアルケニル基であり、R^(1)は独立に脂肪族不飽和結合を含まない置換又は非置換の1価炭化水素基であり、aは0.0001?0.2の正数であり、bは1.7?2.2の正数であり、a+bは1.9?2.4である。)」に相当する。
また、甲1発明における「前記(A)成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基1個当りケイ素原子に結合した水素原子が0.01?3個となる量」は、本件特許発明1における「前記(A)成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基1個あたり前記ケイ素原子に結合した水素原子が0.6?3個となる量」と重複一致することから、甲1発明における「(B)下記一般式(2):
R^(2)_(c)H_(d)SiO_((4-c-d)/2) (2)
(式中、R^(2)は独立に脂肪族不飽和結合を含まない非置換または置換の一価炭化水素基であり、cは0.7?2.2の正数であり、dは0.001?1の正数であり、但しc+dは0.8?3である)
で表される、一分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン: 前記(A)成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基1個当りケイ素原子に結合した水素原子が0.01?3個となる量」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本件特許発明1における「(B)下記一般式(2)で表される、一分子中にケイ素原子に結合した水素原子を2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:前記(A)成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基1個あたり前記ケイ素原子に結合した水素原子が0.6?3個となる量、
R^(2)_(c)H_(d)SiO_((4-c-d)/2) (2)
(式中、R^(2)は独立に脂肪族不飽和結合を含まない置換又は非置換の1価炭化水素基であり、cは0.7?2.2の正数であり、dは0.001?1の正数であり、c+dは0.8?3である。)」に相当する。
さらに、甲1発明における「(C)白金系触媒: 有効量」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本件特許発明1における「(C)白金系触媒:有効量」に相当する。

したがって、両者は次の点で一致する。
「(A)下記一般式(1)で表される、一分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を1個以上有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
R_(a)R^(1)_(b)SiO_((4-a-b)/2) (1)
(式中、Rは独立にアルケニル基であり、R^(1)は独立に脂肪族不飽和結合を含まない置換又は非置換の1価炭化水素基であり、aは0.0001?0.2の正数であり、bは1.7?2.2の正数であり、a+bは1.9?2.4である。)
(B)下記一般式(2)で表される、一分子中にケイ素原子に結合した水素原子を2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:前記(A)成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基1個あたり前記ケイ素原子に結合した水素原子が0.6?3個となる量、
R^(2)_(c)H_(d)SiO_((4-c-d)/2) (2)
(式中、R^(2)は独立に脂肪族不飽和結合を含まない置換又は非置換の1価炭化水素基であり、cは0.7?2.2の正数であり、dは0.001?1の正数であり、c+dは0.8?3である。)
(C)白金系触媒:有効量、
を含有するものであるシリコーンゲル組成物。」

そして、次の点で相違する。
<相違点>
本件特許発明1においては、「(D)カーボンナノチューブ:0.01?3質量部」を発明特定事項とするのに対し、甲1発明においては、これを具備しない点。

(2)判断
そこで、上記相違点について検討する。

本件特許明細書の「本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、硬化した際に低弾性率かつ低応力であり、230℃での耐熱性に優れるシリコーンゲル硬化物となるシリコーンゲル組成物を提供することを目的とする。」(【0006】)、「以上のように、本発明のシリコーンゲル組成物であれば、硬化した際に低弾性率かつ低応力であり、また硬化物に優れた耐熱性を付与するカーボンナノチューブを含むことで、230℃での耐熱性に優れるシリコーンゲル硬化物となる。さらに、硬化後230℃の高温条件下に長時間置かれても、シリコーンゲル硬化物の弾性率や応力を低く保つことができる。」(【0013】)及び「本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、付加反応硬化型オルガノポリシロキサン組成物がカーボンナノチューブを含むことで、硬化した際に低弾性率かつ低応力であり、230℃での耐熱性に優れるシリコーンゲル硬化物となることを見出し、本発明を完成させた。」(【0015】)という記載によると、本件特許発明1は、「(D)カーボンナノチューブ:0.01?3質量部」を発明特定事項とすることにより、「230℃での耐熱性に優れる」という効果を奏するものである。
そして、本件特許明細書の「(耐熱性の評価)
上記実施例1?3及び比較例1で得られた組成物A?Dを硬化した硬化物A?Dについて、初期(耐熱性試験前)、及び230℃で1,000時間加熱する耐熱性試験後のJIS K 2220(1/4コーン)で規定される針入度を評価した。結果を表1に示す。」(【0057】)、「 表1に示されるように、シリコーンゲル組成物にカーボンナノチューブを含む実施例1?3では、耐熱性試験前のシリコーンゲル硬化物は低弾性率及び低応力であり、また耐熱性試験後の針入度の変化率が-60%?+9%であり、230℃の高温条件下に長時間置かれても、シリコーンゲル硬化物は軟らかさを保持しており、弾性率や応力を低く保つことができた。また、耐寒性試験後も針入度が変わらず、比較例1と同等の耐寒性を有していた。
一方、カーボンナノチューブを含まない比較例1では、耐熱性試験前の硬化物は低弾性率及び低応力であるものの、耐熱性試験後の針入度の変化率が-98%であり、230℃の高温条件下に長時間置かれることでシリコーンゲル硬化物が硬くなり、弾性率や応力が高くなった。」(【0059】)及び「以上のように、本発明のシリコーンゲル組成物であれば、硬化した際に低弾性率かつ低応力であり、230℃での耐熱性に優れるシリコーンゲル硬化物となる。さらに、硬化後長時間230℃の高温条件下に置かれても、シリコーンゲル硬化物が軟らかさを保持しており、弾性率や応力を低く保つことができることが明らかとなった。」(【0060】)という記載によると、「230℃での耐熱性に優れる」という効果とは、230℃で1,000時間加熱した後でも、シリコーンゲル硬化物の針入度の変化率が-60%?+9%であり、230℃の高温条件下に長時間置かれても、シリコーンゲル硬化物は軟らかさを保持するという効果を意味するものであると解される。

他方、甲第2号証に記載された「耐熱性」は、「着色剤」が所望の漆黒性を長期にわたって持続することができることを意味するものであり、甲第3号証に記載された「耐熱性」は、「接着剤」が200?380℃において安定であることを意味するものであり、甲第4号証に記載された「耐熱性」は、導電性の硬化体を、具体的には、燃料電池用セパレータ、電極、電磁波シールド、放熱材料、電池用集電体、電子回路基板、抵抗器、ヒーター、集塵フィルタエレメント、面状発熱体、電磁波材料等の用途に用いた際の「耐熱性」を意味するものであり、いずれも本件特許発明1における「耐熱性」とは技術的な意味が異なるものである。
また、甲第5及び6号証には、「定着用ベルト」としての「適度な弾力性」を持たせるために、カーボンナノチューブを配合することが記載されているが、「定着用ベルト」としての「適度な弾力性」は、本件特許発明1が奏する効果である「230℃の高温条件下に長時間置かれても、シリコーンゲル硬化物は軟らかさを保持すること」における「軟らかさ」とは、技術的な意義が異なるものである。
さらに、甲第2ないし6号証は、シリコーン樹脂又はシリコーンゴムを含む樹脂組成物を対象とするものであり、甲1発明のようなシリコーンゲル組成物を対象とするものではない。
したがって、甲第2ないし6号証に記載された事項からは、シリコーンゲル組成物において、「(D)カーボンナノチューブ:0.01?3質量部」という発明特定事項により、上述した「230℃での耐熱性に優れる」という効果を奏することが、本件特許の優先日時点において、周知技術であったとはいえない。

よって、甲1発明において、甲第2ないし6号証に記載された事項を考慮しても、相違点に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
そして、本件特許発明1は、「230℃での耐熱性に優れる」という格別顕著な効果を奏するものでもある。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、甲1発明、すなわち甲第1号証に記載された発明及び甲第2ないし6号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

なお、特許異議申立人は、本件特許発明1における「(A)」?「(C)」の発明特定事項は、特開2007-126576号公報及び特開2012-251116号公報によって周知であり、本件特許発明1における「(D)カーボンナノチューブ:0.01?3質量部」という発明特定事項は、甲第1ないし6号証によって周知であるから、本件特許発明1は、周知技術の寄せ集めでもある旨も主張するが、本件特許発明1における「(D)カーボンナノチューブ:0.01?3質量部」という発明特定事項は、「230℃での耐熱性に優れる」という効果を奏させるための事項であって、上記第4 2(2)のとおり、甲第2ないし6号証に記載された事項からは、本件特許の優先日時点において、周知技術であったとはいえないし、甲第1号証に記載された事項からも、周知技術であったとはいえないので、該主張は採用できない。

3 本件特許発明2及び3について
本件特許発明2及び3は、請求項1を引用するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲第1号証に記載された発明及び甲第2ないし6号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできないし、周知技術の寄せ集めとして当業者が容易に発明をすることができたものとすることもできない。

4 むすび
したがって、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号に該当しない。

第5 結語
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠方法によっては、請求項1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-07-25 
出願番号 特願2015-542487(P2015-542487)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 岡▲崎▼ 忠  
特許庁審判長 小野寺 務
特許庁審判官 加藤 友也
福井 美穂
登録日 2016-10-14 
登録番号 特許第6023894号(P6023894)
権利者 信越化学工業株式会社
発明の名称 シリコーンゲル組成物及びシリコーンゲル硬化物  
代理人 小林 俊弘  
代理人 好宮 幹夫  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ