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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1331248
異議申立番号 異議2017-700492  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-09-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-05-17 
確定日 2017-08-18 
異議申立件数
事件の表示 特許第6034707号発明「空気圧機器のシール用ゴム組成物およびそれを用いた空気圧機器用シール」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6034707号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6034707号の請求項1ないし7に係る特許についての出願は、平成25年1月28日に特許出願され、平成28年11月4日にその特許権の設定登録がなされ、その後、その特許に対し、平成29年5月17日に特許許異議申立人 星 正美(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。


第2 本件発明
特許第6034707号の請求項1ないし7に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される次のとおりものである(以下、特許第6034707号の請求項1ないし7に係る発明を、その請求項に付された番号順に、「本件特許発明1」等という。)。

「【請求項1】
ムーニー粘度ML_(1+4)(100℃)が90?150の水素化ニトリルゴムと、FEFカーボンブラックと、有機過酸化物とを含むゴム組成物であって、
該水素化ニトリルゴム100質量部当たり該カーボンブラックを60?80質量部含有することを特徴とする、空気圧機器のシール用ゴム組成物(但し、ポリアミドを含むゴム組成物を除く)。
【請求項2】
さらに水素化ニトリルゴム100質量部当たり、可塑剤を3?40質量部含有する、請求項1記載のゴム組成物。
【請求項3】
可塑剤がポリエーテル系可塑剤または/およびポリエステル系可塑剤である、請求項2記載のゴム組成物。
【請求項4】
さらに架橋助剤を含有する、請求項1?3のいずれか1項記載のゴム組成物。
【請求項5】
請求項1?4のいずれか1項記載ゴム組成物を架橋してなる、空気圧機器のシール用架橋ゴム組成物。
【請求項6】
請求項5記載の架橋ゴム組成物を用いてなる空気圧機器用シール。
【請求項7】
スプール弁に装着するパッキンである、請求項6記載の空気圧機器用シール。 」

第3 申立理由の概要及び提出した証拠
1.申立理由の概要
申立人は、甲第1?3号証を提出し、下記の申立理由を挙げ、本件特許発明1ないし7は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第2号に該当するので、それらの特許は取り消されるべきものである旨主張している。
(1)申立理由1
本件特許発明1ないし7は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)申立理由2
本件特許発明1ないし7は、甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された事項又は甲2に記載された発明、甲第1号証に記載された事項及び甲第3号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

2.証拠方法
(1)甲第1号証:特開2002-3648号公報
(2)甲第2号証:特開2001-343073号公報
(3)甲第3号証:特開2004-175877号公報

(以下、各甲号証を甲1号証から順に「甲1」、「甲2」、「甲3」と略記する。)

第4 甲号証の記載事項
1.甲1の記載事項
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 (a)結合アクリロニトリル量が30?40重量%、ヨウ素価が7?16(mg/100mg)およびムーニー粘度〔ML_(1+4)(100℃)〕が70?150の水素添加ニトリルゴム100重量部、
(b)カーボンブラック40?80重量部、
(c)架橋助剤として1,2-ビニル結合を85%以上含有する液状ポリブタジエン1?10重量部、
(d)フタレート系および/またはセバケート系可塑剤1?10重量部ならびに
(e)架橋剤として有機過酸化物2?10重量部を含有することを特徴とするオイルシール部材成形用ゴム組成物。
【請求項2】 冷凍機およびカーエアコン用コンプレッサの少なくともいずれかのオイルシール部材に使用されるものである請求項1に記載のオイルシール部材成形用ゴム組成物。
【請求項3】 請求項1または2に記載のオイルシール部材成形用ゴム組成物を用いたゴム成形物と、オイルシール部材用金具とを加硫接着剤を用いて加硫接着してなることを特徴とするオイルシール部材。」

イ 「【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、それを用いて成形したゴム成形物が硬さ、伸び、耐熱性、耐油性にすぐれ、圧縮永久歪みが小さく、150℃の環境下においても発泡、ブリスタおよびクラックが発生しにくいなどといった冷媒であるフルオロ炭化水素に対する耐性にすぐれ、さらに金属との加硫接着の安定性が向上されるオイルシール部材成形用ゴム組成物、およびそれを用いたオイルシール部材を提供することである。」

ウ 「【0012】さらにH-NBR(a)は、ムーニー粘度〔ML_(1+4)(100℃)〕が70?150、好ましくは75?145である。該ムーニー粘度が70未満であると該ゴム成形物が耐ブリスタ性に劣る不具合があり、該ムーニー粘度が150を超えると該ゴム成形物の加工性が悪くなってしまう不具合がある。ここで上記ムーニー粘度〔ML_(1+4)(100℃)〕は、100℃でラージロータを用い、予熱1分、回転開始後4分の場合のムーニー粘度計で測定した値をさす。一般に、組成物の主成分となるゴムが高ムーニー粘度である程、圧縮永久歪みの小さいゴム成形物を得ることができる。」

エ 「【0015】カーボンブラック(b)は、一般に使用されているMTカーボンブラック、FTカーボンブラック、SRFカーボンブラック、FEFカーボンブラック、HAFカーボンブラック、ISAFカーボンブラックなど各種のグレードの少なくともいずれかを用いることができ、特には限定されないが、好ましくはFEFカーボンブラック、MTカーボンブラック、SRFカーボンブラックを単独で、もしくはFEFカーボンブラックとMTカーボンブラックとの併用系またはMTカーボンブラックとSRFカーボンブラックとの併用系が用いられる。なおMTカーボンブラックはASTM1765-1987に従って測定した粒子径が200?500nm程度のものをいう。・・・。FEFカーボンブラックは上記粒子径が40?50nm程度のものをいう。・・・ISAFカーボンブラックは上記粒子径が20?25nm程度のものをいう。
【0016】本発明のゴム組成物において、カーボンブラック(b)は、上記の特定の物性を有するH-NBR(a)100重量部に対して40?80重量部、好ましくは50?70重量部配合される。上記カーボンブラックの配合量が40重量部未満であると該ゴム組成物を用いたゴム成形物が耐ブリスタ性に劣り、カーボンブラックの配合量が80重量部を超えると該ゴム成形物が硬くなり過ぎたり、伸びが小さくなるなど機械的特性に劣る。」

オ 「【0022】有機過酸化物(e)は、一般にゴムに架橋剤として配合される有機過酸化物であれば、特別の制限なく用いることができる。このような有機過酸化物(e)としては、具体的には、ベンゾイルパーオキサイド、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロドデカン、n-ブチル-4,4-ビス(t-ブチルパーオキシ)バレレート、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゾエート、ジ-t-ブチルパーオキサイド、1,3-ビス(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、t-ブチルパーオキシクメンなどが挙げられる。」

カ 「【0024】本発明のオイルシール部材成形用ゴム組成物は、特定量のカーボンブラック(b)、液状ポリブタジエン(c)、可塑剤(d)ならびに有機過酸化物(e)を、特定のH-NBR(a)に添加することによって、硬さ、伸び、耐熱性、耐油性にすぐれ、圧縮永久歪みが小さく、150℃の環境下においても発泡、ブリスタおよびクラックが発生しにくいといった冷媒であるフルオロ炭化水素に対する耐性にすぐれる上に、さらに金属との加硫接着の安定性を向上させたゴム成形物を成形することができる。」

キ 「【0033】また本発明のゴム組成物を用いたオイルシール部材は、該ゴム組成物を成形してなるゴム予備成形物をオイルシール部材用金具に加硫接着させてなるオイルシール部材には限定されず、ゴム成形物自体を用いてなるたとえばパッキンやOリングなどのオイルシール部材であってもよい。また該オイルシール部材は、エアコンディショナ機や冷凍機に特に好適に用いられるけれども、その用途をこれらに限定されず、上記以外のオイルシール部材にも好適に使用することができる。」

ク 「【0034】
【実施例】・・・
(実施例1)H-NBR(a)、カーボンブラック(b)、液状ポリブタジエン(c)、可塑剤(d)および有機過酸化物(e)を下記の配合比で配合して、本発明のオイルシール部材成形用ゴム組成物を作成した。
(ゴム組成物の配合比)
H-NBR(a) 100重量部
カーボンブラック(b) 55重量部
液状ポリブタジエン(架橋助剤)(c) 5重量部
可塑剤(d) 5重量部
有機過酸化物(架橋剤)(e) 3重量部
老化防止剤 2重量部
酸化亜鉛 5重量部
なおH-NBR(a)としては、結合アクリロニトリル量が36重量%、ヨウ素価が11(mg/100mg)およびムーニー粘度〔ML_(1+4)(100℃)〕が136のものを用いた。カーボンブラック(b)としてはFEFカーボンブラックを用いた。また液状ポリブタジエン(c)としては1,2-ビニル結合が91%のものを用いた。可塑剤(d)としてはジオクチルセバケートを用いた。有機過酸化物(e)としては1,3-ビス(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼンを用いた。さらに添加物として老化防止剤および酸化亜鉛を添加した。上記のように配合されたゴム組成物を、オープンロールで混練して調製した。このようにして調製されたゴム組成物を、175℃の金型中で20分間圧縮成形してゴム予備成形物の試供品とした。」

ケ 「【0048】また上記の実施例1?7ならびに比較例1?6で得られた試供品それぞれについて、下記の(1)、(2)の各試験を行い、その特性を評価した。
(1)耐発泡性
各試供品は、JIS B 2401 P26のOリングに加工したものを用いた。HFC134a中に25℃、70時間浸漬後、直ちに150℃のオーブンに投入し、発泡の有無を観察した。外観の観察により、発泡しないものを○、発泡のあるものを×とした。」

コ 「【0050】
【表1】

【0051】
【表2】



2.甲2の記載事項
サ 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 水素化ニトリルゴムを含有することを特徴とする空気圧機器用シール部材成形用材料。
【請求項2】 さらに可塑剤を含有する、請求項1記載の空気圧機器用シール部材成形用材料。
【請求項3】 可塑剤が、ポリエーテル系可塑剤または/およびポリエステル系可塑剤である、請求項2記載の空気圧機器用シール部材成形用材料。
【請求項4】 可塑剤の含有量が、水素化ニトリルゴム100重量部に対して10重量部以下である、請求項2記載の空気圧機器用シール部材成形用材料。
【請求項5】 請求項1?4のいずれかに記載の材料を成形してなる空気圧機器用シール部材。」

シ 「【0003】空気圧機器の接続を示す概略図は一般的には図1で示され、空気圧源1(コンプレッサー等)から出た圧縮空気は、フィルタ2でドレンが除去され、減圧弁3で圧力調整された後、ルブリケータ4で潤滑油(タービン油等)を霧状にする。霧状の潤滑油を含んだ圧縮空気は、方向制御弁5で方向制御され、エアシリンダ7等に送られる。方向制御弁5の内部にはスプール弁6があり、図2に示すように、このスプール弁6が左右に動くことによって圧縮空気の流れを制御して、エアシリンダ7が左右に動く。スプール弁6にはOリング等のシール部材が配置されている。」

ス 「【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は上記の問題点を解決しようとするものであり、その目的は、タービン油やドレンと接触した後の体積変化や物性の変化が少ない(即ち、耐タービン油性、耐ドレン性に優れた)、空気圧機器用シール部材成形用材料およびそれを用いた空気圧機器用シール部材を提供することにある。」

セ 「【0010】本発明の空気圧機器用シール部材成形用材料は、水素化ニトリルゴムに加えて、さらに可塑剤を含有することが好ましい。可塑剤は本発明の成形用材料の加工性を良好にするために配合される。本発明で使用される可塑剤としては、例えば、ポリエーテル/ポリエステル系;ポリエーテル系;アジピン酸系ポリエステル等のポリエステル系;トリクレジルフォスフェート、トリオクチルフォスフェート等のフォスフェート系;ジオクチルセバケート、ジブチルセバケート等のセバケート系;ジオクチルアジペート等のアジペート系;ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート等のフタレート系等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、揮発性が小さく、低温で耐脆化性が良い点から、ポリエーテル系可塑剤または/およびポリエステル系可塑剤が好ましい。」

ソ 「【0012】本発明の空気圧機器用シール部材成形用材料は、水素化ニトリルゴムや可塑剤に加えて、さらに、過酸化物、架橋助剤、カーボンブラック等を含有することが好ましい。」

タ 「【0016】本発明で使用できるカーボンブラックとしては、特に限定されず、例えば、一般に使用されているMTカーボンブラック、FTカーボンブラック、SRFカーボンブラック、FEFカーボンブラック、HAFカーボンブラック、ISAFカーボンブラック等各種のグレードのものが挙げられ、中でも、FEFカーボンブラック、MTカーボンブラック、SRFカーボンブラックが好ましい。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なお、MTカーボンブラックはASTM1765-1987に従って測定した粒子径が200?500nm程度のものをいう。・・・SRFカーボンブラックは上記粒子径が60?100nm程度のものをいう。FEFカーボンブラックは上記粒子径が40?50nm程度のものをいう。・・・カーボンブラックの含有量は、水素化ニトリルゴム100重量部に対して、好ましくは20?180重量部、より好ましくは30?150重量部である。当該含有量が20重量部未満であるとシール部材の耐磨耗性が劣り、逆に、180重量部を超えると、シール部材の製造が困難となる。」

チ 「【0019】このようにして得られた本発明のシール部材は、タービン油やドレンと接触した後の体積変化や物性の変化が少ない(即ち、耐タービン油性、耐ドレン性に優れた)ので、空気圧機器、例えば、電磁弁、シリンダー等用シール部材として特に有用である。」

ツ 「【0020】
【実施例】以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
実施例1?6および比較例1?3
表1または表2に記載の組成物をニーダーおよびオープンロールを用いて混合し、実施例1?6の場合は165℃で10分間プレス加硫し、さらに150℃で4時間オーブン加硫して、比較例1?3の場合は165℃で10分間プレス加硫して、試料を作成した。これらの試料について評価を行った。その結果を表1および表2に示す。なお、耐タービン油性は、FBKタービン32(日本石油製)に100℃で7日間浸漬した後、耐ドレン性は、水道水に70℃で7日間浸漬した後、各物性を測定した。硬さ、引張強さ、伸び、体積変化はJIS K 6258に準拠して測定した。」

テ 「【0022】
【表2】



3.甲3の記載事項
ト 「【請求項1】
ヨウ素価が15g/100g以下の水素化ニトリルゴムと、SRFカーボンブラック、FEFカーボンブラックおよびHAFカーボンブラックのうちから選ばれる少なくとも1種のカーボンブラックと、脂肪族二塩基酸エステルとを含有するゴム組成物。
【請求項2】
上記水素化ニトリルゴム100重量部に対し、上記カーボンブラックを50重量部?150重量部、上記脂肪族二塩基酸エステルを2重量部?20重量部含有するものである請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のゴム組成物を成形したものである、シール。」

ナ 「【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、優れた耐摩耗性、圧縮永久歪みおよび耐ブリスタ性を兼ね備えたシール、およびそのためのゴム組成物を提供することである。」

ニ 「【0012】
本発明のゴム組成物において、上記カーボンブラックの含有量(上述した中から選ばれる二種以上のカーボンブラックを含有する場合には、その合計量)に特に制限はないが、HNBR100重量部に対し50重量部?150重量部であるのが好ましく、50重量部?100重量部であるのがより好ましい。カーボンブラックの配合量がHNBR100重量部に対し50重量部未満であると、得られたゴム成形物が柔らかすぎて、充分なシール機能を発揮し得ない虞があるためであり、また、カーボンブラックの配合量がHNBR100重量部に対し150重量部を超えると、圧縮永久歪みが低下する虞があるためである。」

ヌ 「【0023】
本発明のシールは、その形状に特に限定はなく、Oリング、Dリング、パッキン、リップシール(軸シール)などその目的に応じて適宜選ばれる。またゴム成形物の大きさも特に限定はなく、目的に応じ適宜選ばれる。」

ネ 「【0025】
加硫剤としては、例えば、従来公知のo-メチルベンゾイルパーオキサイド、ビス(3,5,5-トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシピバレート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシイソブチレート、ジクミルパーオキサイド、1,3-ビス(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)-ヘキシン-3、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジt-ブチルパーオキサイドなどから選ばれる少なくとも1種を特に制限なく用いることができる。加硫剤を配合する場合には、圧縮永久歪み、引張強さ、伸びとのバランスをとるために、HNBR100重量部に対して1重量部?10重量部程度配合するのが好ましい。」

ノ 「【0026】
【実施例】
・・・
実施例1
ヨウ素価(中心値)が4g/100gのHNBR(ゼットポール2000、日本ゼオン社製)100重量部あたりFEFカーボンブラック(シーストG-SO、東海カーボン社製)を100重量部、DOS(田岡化学工業製)を10重量部添加したゴム組成物を、165℃で10分間のプレス成形(一次加硫)後、165℃で1時間の二次加硫という条件で加硫・成形して、ゴム成形物を作製した。」

ハ 「【0035】
(3)耐ブリスタ性
AS568-214に準じ、OリングをCO_(2)、70kgf/cm^(2)中に1日×25℃放置後、直ちに150℃×1時間放置した後、亀裂数を測定した。亀裂数が0個であったものを合格(○)とし、亀裂数が1個以上であったものを不合格(×)と評価した。
結果を表1に示す。」


第5 当合議体の判断
1.申立理由1について
申立理由1は、甲1を主引例としたもので、その要旨は、上記「第3 1.(1)」で述べたとおり、本件特許発明1ないし7は、甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許を受けることができるものではない、というものである。

(1)本件特許発明1について
ア.甲1に記載された発明
上記甲1の記載事項ア?コを踏まえると、甲1には、以下の発明が記載されているといえる。
「(a)結合アクリロニトリル量が36重量%、ヨウ素価が11(mg/100mg)およびムーニー粘度〔ML_(1+4)(100℃)〕が136の水素添加ニトリルゴム100重量部、
(b)FEFカーボンブラック55重量部、
(c)架橋助剤として1,2-ビニル結合を85%以上含有する液状ポリブタジエン5重量部、
(d)ジオクチルセバケート(DOS)可塑剤5重量部ならびに
(e)架橋剤として1,3-ビス(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン 3重量部を含有するオイルシール部材成形用ゴム組成物。 」(以下、「甲1発明」という。)

イ.対比及び判断
本件特許発明1と甲1発明を比較すると、甲1発明の「結合アクリロニトリル量が36重量%、ヨウ素価が11(mg/100mg)およびムーニー粘度〔ML_(1+4)(100℃)〕が136の水素添加ニトリルゴム」、「1,3-ビス(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン」は、本件特許発明1の「ムーニー粘度ML_(1+4)(100℃)が90?150の水素化ニトリルゴム」、「有機過酸化物」に相当し、また、甲1発明の「FEFカーボンブラック 55重量部」と本件特許発明1の「FEFカーボンブラック」は、「FEFカーボンブラック」を含む限りで相当し、さらに、甲1発明はポリアミドは含まないので、両発明は
「ムーニー粘度ML_(1+4)(100℃)が90?150の水素化ニトリルゴムと、FEFカーボンブラックと、有機過酸化物とを含むシール用ゴム組成物(但し、ポリアミドを含むゴム組成物を除く)。」
の発明である点で一致し、
・ FEFカーボンブラックの配合量に関し、本願特許発明1では「該水素化ニトリルゴム100質量部当たり該カーボンブラックを60?80質量部含有する」と特定があるのに対し、甲1発明では「(a)結合・・・水素添加ニトリルゴム100重量部」、「(b)FEFカーボンブラック55重量部」との特定があって、水素添加ニトリルゴム(水素化ニトリルゴム)100重量部に対するFEFカーボンブラックの配合量が異なる点(以下、「相違点1」という。)、
・ 「ゴム組成物」に関し、本件特許発明1では、「空気圧機器のシール用」との用途の特定されているのに対し、甲1発明では「オイルシール部材成形用」との用途の特定がされている点(以下、「相違点2」という。)、
において両者は相違している。
上記相違点2について検討する。
甲1の記載事項キの「また該オイルシール部材は、エアコンディショナ機や冷凍機に特に好適に用いられるけれども、その用途をこれらに限定されず、上記以外のオイルシール部材にも好適に使用することができる。」との記載は、オイルシール部材以外のシール用途への使用を意図するものではなく、オイルシール部材における様々な用途に用いられることを意味するにすぎないと解するのが相当である。また、甲2の記載事項サ?テの記載からみて、甲2には、水素化ニトリルゴム、過酸化物、カーボンブラックを含有する空気圧機器用シール部材成形用材料が記載されているが、空気圧機器用部材以外の他のシール部材の用途に転用できること、例えばオイルシール部材用として転用できる旨の記載はない。
そうすると、甲1及び甲2には、オイルシール部材成形用ゴム組成物を空気圧機器のシール用ゴム組成物に転用できる根拠となる記載も示唆もなく、また、ゴム組成物であれば、シールする対象に関わらず(オイルシール用であるか空気圧機器用であるかに関わらず)使用可能であったということが、本件特許の出願時の技術常識であったとする具体的な根拠も見当たらないから、相違点2は当業者において容易になし得たものとはいえない。
そして、本件特許発明1の効果のうち、相違点2に関連する「長期高温時のシール性」に優れるとの点は、申立人の提出したいずれの文献にも記載ないし示唆されておらず、当業者において予想し得たものとはいえない。
したがって、相違点1は検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明及び甲2に記載された事項に基いて、当業者は容易に発明をすることができたものではない。

ウ.申立人の主張
申立人は、上記相違点2について、甲1と甲2は、ゴム材料として水素化ニトリニルゴム(HNBR)を用いる点、カーボンブラック、可塑剤を配合している点、用途がシール材である点で共通しており、両者を組み合わせるための十分な動機付けがある旨の主張をしている。
上記主張について検討するに、甲1発明のオイルシール部材と甲2の記載された空気機器用シール部材とは、シール部材(シール材)としては異なる用途であり、ともに本件特許発明1に係る課題を目的としたものではない。また、本件特許発明1の課題及びこの課題に対する解決手段は、シール部材全般あるいはオイルシール部材と空気機器用シール部材に共通の、周知の課題及び課題解決事項であったとする根拠もない。そうであれば、甲1発明と甲2に記載された事項について両者の配合成分の類似性とシール材との点に着目しても、本件特許発明1の課題と解決手段との関係が導き出せないので、両者を組み合わせる動機付けにはならず、上記申立人の主張は採用できない。
なお、本件特許発明1は、水素化ニトリルゴムのムーニー粘度を90?150と特定し、下限値90より低いムーニー粘度85、78のものを用いても(比較例3、4)、課題とする「長期高温時のシール性」が達成されないものである。これに対し、甲1発明の実施例1のムーニー粘度は136で本件特許発明1の範囲にあるものの、甲1の特許請求の範囲には水素添加ニトリルゴム(水素化ニトリルゴム)のムーニー粘度は70?150との範囲が記載され、90以上の範囲がよい旨の指摘があるわけでもなく、また、ムーニー粘度が85でも甲1発明の課題(甲1の記載事項イ)は達成されるものである(甲1の記載事項コ 表1実施例2)。このように、本件特許発明1と甲1発明とは、ムーニー粘度が136との点で一致してはいるが、課題および達成すべき効果が明らかに異なり、この差異を甲2に記載された事項で埋めることができないから、上記の申立人の動機付けでは甲1発明と甲2に記載された事項とを組み合わせることはできない。
さらに、効果について、申立人は、本件特許発明1の効果は「長期高温時のシール性」、「長期伸長時の耐弾性劣化性」および「耐オゾン性」に優れていることであるが、甲2には「タービン油やドレンと接触した後の体積変化や物性の変化が少ない(即ち、耐タービン油性、耐ドレン性に優れた)、空気圧機器用シール部材成形用材料およびそれを用いた空気圧機器用シール部材を提供すること」(甲2の記載事項ス)との記載があって、この甲2の記載は換言すると『長期の使用』に耐えるということであり、また、甲1発明のゴム組成物は、甲1の記載事項イに「硬さ、伸び、耐熱性、耐油性にすぐれ、圧縮永久歪みが小さく、150℃の環境下においても発泡、ブリスタおよびクラックが発生しにくいなどといった冷媒であるフルオロ炭化水素に対する耐性にすぐれ、さらに金属との加硫接着の安定性が向上される」との記載があるとおり、150℃との『高温での耐性』を含む諸々の利点を有するから、この甲1発明のゴム組成物を「空気圧機器のシール用」として用いたときに、本件特許発明1の効果を示すであろうことは当業者であれば容易に想到しうる旨の主張をしている。
この効果に関する主張について検討するに、甲1に『高温での耐性』が記載されているとしても、具体的にはフルオロ炭化水素等の冷媒に対する高温での耐性であって、本件特許発明1の効果である「長期高温時のシール性」の耐性ではない。また、甲2に記載された効果を換言した『長期の耐性』についても、具体的には本件特許発明1の「長期伸長時の耐弾性劣化性」とは異なるものである。そして、本件特許発明1に係る効果は、特定のムーニー粘度を有する水素化ニトリルゴムと、特定量のFEFカーボンブラックと配合した空気圧機器のシール用ゴム組成物とすることで初めて奏されるものであり、甲1および甲2の記載から導き出せず、当業者であっても想起できないから、当該効果に関する申立人の主張も採用できない。

エ.まとめ
本件特許発明1は、甲1発明及び甲2に記載された事項により、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものではないから、その特許は同法第113条第2項に該当せず、取り消すべきものではない。

(2)本件特許発明2ないし7
本件特許発明2ないし7は、本件特許発明1を直接又は間接的に引用し、これをさらに限定するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明及び甲2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものではないから、それらの特許は同法第113条第2項に該当せず、取り消すべきものではない。

(3)小括
よって、本件特許発明1ないし7は、甲1発明及び甲2に記載された事項に基いて特許法第29条第2項の規定に違反して特許がなされてものはないから、それらの特許は同法第113条第2項に該当せず、それらの特許を取り消すべきとする申立理由1には理由がない。


2.申立理由2について
申立理由1は、甲2を主引例としたもので、その要旨は、上記「第3 1.(2)」で述べたとおり、本件特許発明1ないし7は、甲2に記載された発明及び甲1に記載された事項又は甲2に記載された発明、甲1に記載された事項及び甲3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許を受けることができるものではない、というものである。

(1)本件特許発明1について
ア.甲2に記載された発明
上記甲2の記載事項サ?テ(特に、実施例)を踏まえると、甲2には、以下の発明が記載されているといえる。
「水素化ニトリルゴム、過酸化物、カーボンブラックを含有する空気圧機器用シール部材成形用材料。」(以下、「甲2発明」という。)

イ.対比及び判断
本件特許発明1と甲2発明を比較する。
甲2発明の「水素化ニトリルゴム」、「過酸化物」、「空気圧機器用シール部剤成形用材料」は、本件特許発明1の「水素化ニトリルゴム」、「有機過酸化物」、「空気圧機器のシール用ゴム組成物」に相当し、また、甲2発明の「カーボンブラック」と本件特許発明1の「FEFカーボンブラック」とは「カーボンブラック」の限りにおいて相当し、さらに、甲2発明はポリアミドを含まないので、両発明は、
「水素化ニトリルゴムと、カーボンブラックと、有機過酸化物とを含むゴム組成物であって、空気圧機器のシール用ゴム組成物(但し、ポリアミドを含むゴム組成物を除く) 」
で一致し、
・ 本件特許発明1では、「水素化ニトリルゴム」が「ムーニー粘度ML_(1+4)(100℃)が90?150」との特性を備えているのに対し、甲2発明ではこの特定がない点(以下、「相違点3」という。)、
・ 本件特許発明1では、「カーボンブラック」は「FEFカーボンブラック」であって、「水素化ニトリルゴム100質量部当たり該カーボンブラックを60?80質量部含有すること」を特徴とするのに対し、甲2発明ではこれらの特定を備えていない点(以下、「相違点4」という。)、
で両発明は相違している。
上記相違点3について検討する。
甲1には、ムーニー粘度〔ML_(1+4)(100℃)〕が70?150の水素添加ニトリルゴム100重量部、カーボンブラック40?80重量部、架橋剤として有機過酸化物2?10重量部を含有することを特徴とするオイルシール部材成形用ゴム組成物が記載されており、実施例では、ムーニー粘度が136の水素添加ニトリルゴムを用いた例の記載があるものの、その用途はオイルシール部材成形用であって、甲2発明の空気圧機器用シール部材成形用の用途とは異なるものである。そして、甲1、2には、シール用ゴム組成物を異なる用途に転用することに関する記載も示唆もなく、また、甲3の記載事項ト?ハにも、その可能性を示唆する記載はない上に、本件特許の出願時の技術常識から明らかであったとする根拠もない。この点について、特許異議申立書をみても、甲2発明と甲1に記載された事項とを組み合わせるに際し、用途の相違について十分な検討はされていない。
そうすると、相違点3について、甲2発明と甲1の記載事項を組み合わせる動機付けが見出せない。
さらに、甲1及び甲3には、水素添加ニトリルゴム(水素化ニトリルゴム)の下限の閾値を90とすることの記載も示唆もないから、本件特許発明1における水素化ニトリルゴムのムーニー粘度として下限を90以上とする150までの範囲を採用とすることできず、相違点3は当業者が容易になし得たものではない。
そして、本件特許発明1は、特定のムーニー粘度の採用により、「長期高温時のシール性」に優れるとの格別顕著な効果を奏するものであり、これは甲1?3からは予測し得ないものである。
したがって、相違点4を検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲2発明及び甲1に記載された事項又は甲2発明、甲1に記載された事項及び甲3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ.申立人の主張
申立人は、相違点3について、本件発明1の粘度範囲は、甲1の推奨するムーニー粘度の範囲の中でその下限値を75から90と限定しただけであり、甲1で推奨する範囲とほとんど重複するから、当業者がなんの発明的努力を要することなく想起し得る程度であるとの主張をしている。
しかしながら、本件特許発明1は、水素化ニトリルゴムのムーニー粘度の下限を90以上と特定したことで、特に「長期高温時のシール性」に優れた空気機器用のシール材ゴム組成物となったものであり、この特定が当業者が何の努力もなく容易に想起できたとはいえないから、上記申立人の主張は採用できない。
さらに、効果についての申立人の主張も、上記1.(1)ウ.の主張と同じ内容であり、これも上記1.(1)ウ.で述べたとおり採用できない。

エ.まとめ
したがって、本件特許発明1は、甲2発明及び甲1に記載された事項又は甲2発明、甲1に記載された事項及び甲3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、その特許を取り消すべきものではない。

(2)本件特許発明2ないし7
本件特許発明2ないし7は、本件特許発明1をさらに限定するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲2発明及び甲1に記載された事項又は甲2発明、甲1に記載された事項及び甲3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、それらの特許を取り消すべきものではない。

(3)小括
よって、本件特許発明1ないし7は、甲2発明及び甲1に記載された事項又は甲2発明、甲1に記載された事項及び甲3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定に違反して特許がなされてものはないから、それらの特許は同法第113条第2項に該当せず、それらの特許を取り消すべきとする申立理由2には理由がない。


第6 むすび
以上のとおりであるから、請求項1ないし7に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由及び証拠によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-08-07 
出願番号 特願2013-13501(P2013-13501)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 上前 明梨  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 大島 祥吾
福井 美穂
登録日 2016-11-04 
登録番号 特許第6034707号(P6034707)
権利者 三菱電線工業株式会社
発明の名称 空気圧機器のシール用ゴム組成物およびそれを用いた空気圧機器用シール  
代理人 高島 一  

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