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審決分類 審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B65D
審判 一部申し立て 2項進歩性  B65D
管理番号 1331260
異議申立番号 異議2017-700005  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-09-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-01-05 
確定日 2017-08-18 
異議申立件数
事件の表示 特許第5946134号発明「トリガー式液体噴出器」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5946134号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5946134号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?3に係る特許についての出願は、平成25年1月31日に特許出願され、平成28年6月10日にその特許権の設定登録がされ、その後、請求項1に係る特許について、特許異議申立人ディスペンシング・テクノロジーズ・ベスローテン・フェンノートシャップにより特許異議の申立てがされ、当審において平成29年4月12日付けで取消理由を通知し、その指定期間内である平成29年6月13日に意見書が提出されたものである。

2.本件発明
本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
容器体(80)内とパイプ(52)を介して連通する縦流路(Pa)と、縦流路(Pa)と連通して前方へ突設したシリンダ筒(20)と、シリンダ筒(20)上方位置に於いて縦流路(Pa)と連通して前方へ延設した射出流路(Pb)とを有する本体(B)を備え、射出流路(Pb)を画成する射出筒(13)の先端にノズル(E)を装着し、射出筒(13)前部より揺動可能に垂設したトリガー(G)操作により、容器体(80)内の液をシリンダ筒(20)内に吸い上げて、ノズル(E)の噴出口より噴出するトリガー式液体噴出器であって、内筒(50)及び外筒(51)を備え、内筒(50)内を縦流路(Pa)とパイプ(52)とを連通する連絡路(53)として画成し、内筒(50)と外筒(51)間の環状空間(54)と縦流路(Pa)内上部を連通路(33)を介して連通した補助シリンダ(C)を設け、内筒(50)に内周縁部を、外筒(51)に外周縁部をそれぞれ液密摺動可能に嵌合させて環状空間(54)を上下に区画する環状ピストン(55)を上方付勢状態で装着し、トリガー(G)の操作によりノズル(E)の噴出口より噴出する加圧液の一部が、環状ピストン(55)を押圧して補助シリンダ(C)内に導入され、トリガー(G)操作後に環状ピストン(55)の上方付勢力により補助シリンダ(C)内の液がノズル(E)の噴出口より噴出可能に構成したことを特徴とするトリガー式液体噴出器。」

3.取消理由の概要
当審において、本件発明1に係る特許に対して通知した上記取消理由の要旨は、次のとおりである。
なお、当該取消理由の通知により、本件特許異議申立ての全ての理由が通知された。
以下、甲各号証を「甲1」等という。また、甲各号証に記載された発明及び事項を、「甲1発明」、「甲2記載事項」等という。

1)本件特許の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
2)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

甲1:特許第3781904号公報
甲2:特開平10-137642号公報
甲3:特開2002-35655号公報
甲4:特開昭50-146919号公報
甲5:米国特許第4191313号明細書

[理由1](特許法第29条第2項)
(1)本件発明1は、甲1発明及び甲4記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2)本件発明1は、甲2発明及び甲4記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3)本件発明1は、甲3発明及び甲4記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4)本件発明1は、甲4発明及び甲5記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

[理由2](特許法第36条第6項第1号)
本件特許の請求項1には、「トリガー(G)の操作によりノズル(E)の噴出口より噴出する加圧液の一部が、環状ピストン(55)を押圧して補助シリンダ(C)内に導入され、トリガー(G)操作後に環状ピストン(55)の上方付勢力により補助シリンダ(C)内の液がノズル(E)の噴出口より噴出可能に構成した」とのみ記載され、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されていないので、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。

4.甲各号証の記載
(1)甲1(特許第3781904号公報)
甲1(特に、【0002】、【0009】及び図1)には、以下の甲1発明が記載されている。
「容器体内と吸い上げパイプ8を介して連通する縦流路と、縦流路と連通して前方へ突設した往復ポンプ4と、往復ポンプ4上方位置に於いて縦流路と連通して前方へ延設した射出流路とを有する噴出器本体1を備え、射出流路を画成する射出筒10の先端にノズル2を装着し、射出筒10前部より揺動可能に垂設したトリガー操作により、容器体内の液を往復ポンプ4内に吸い上げて、ノズル2の噴出口より噴出するトリガー式液体噴出器。」

(2)甲2(特開平10-137642号公報)
甲2(特に、請求項1,2、【0009】?【0011】、【0015】?【0017】)には、以下の甲2発明が記載されている。
「噴霧器本体2と、タンク4と、トリガ-ハンドル5と、ピストン15と、そのトリガ-ハンドル5の操作に連動して弁7,8を開閉させることにより前記タンク4から第1通液管9を介して液を吸入しバネ材12に抗してその液を一時的に蓄える蓄圧室10と、その蓄圧室10内の液が所定以上に達したとき前記バネ材12の反発力と圧縮空気圧とにより蓄圧室10内の液を第2通液管13を介してノズル14へ送る噴霧器において、
第2通液管13の途中に前記タンク4に液を戻す第3通液管17をバルブ体18を介して設け、該バルブ体18にはノズル14へ液を送付するときは第3通液管17への送付を遮断し、第3通液管17へ液を送付するときはノズル14への液の送付を遮断するシーソーボタン19を設けた噴霧器。」

(3)甲3(特開2002-35655号公報)
甲3(特に、請求項1、【0015】、【0023】?【0025】)には、以下の甲3発明が記載されている。
「液体を貯蔵するタンク22と、このタンク22上に載置された、タンク22中の液体をノズル23を通して噴霧する噴霧器本体24とを備え、この噴霧器本体24は回動軸を支点として回動するトリガーハンドル26と、このトリガーハンドル26の回動操作によりピストン運動するピストン28と、このピストン運動により開閉自在な吸い込み弁30を有する第1通液管29と、前記ピストン運動により開閉自在な吐き出し弁32を有し、この吐き出し弁32および吸い込み弁30を介して第1通液管29と通じ、底面33がバネ34の付勢により支持される蓄圧室31と、この蓄圧室31から前記ノズル23に通じる第2通液管37と、第2通液管37から分岐され、前記タンク22内に通じる第3通液管38と、この第3通液管38、または前記分岐点よりもノズル側の第2通液管37を、前記第3通液管38を遮断しているときには前記第2通液管37を開放し、前記第2通液管37を遮断しているときには第3通液管38を開放するように遮断する、前記トリガーハンドル26の裏側に配置されたシーソーボタン40とを備えてなる噴霧器。」

(4)甲4(特開昭50-146919号公報)
甲4(特に、特許請求の範囲、2頁左下欄13行?右下欄16行、4頁左上欄11行?右上欄12行、4頁右下欄2?6行)には、以下の甲4発明が記載されている。
「連通する2つのシリンダ室と一方シリンダと連通し下端が容器6の低部に臨むパイプ4と該パイプ4からシリンダ室への液体の通過のみを許容する逆止弁9とを備え、容器6へ取付け得るように作られたシリンダボデー3と、前記シリンダボデー3の両シリンダ室内にわたって嵌入し外部の操作筒1により昇降操作可能に配備したピストン棒8と、前記ピストン棒8に固定となり一方シリンダ室内に嵌合して昇降動で液体を他方シリンダ室内に圧入するピストン10と、他方シリンダ室内でピストン棒8との間を気密状に摺動し圧入された液体で押上げられるピストン7と、このピストン7に下降弾性を附勢し圧入された液体を蓄圧するばね13,14と、ピストン棒の軸心に沿って蓄圧液体が流出するように設けた通路17と、ピストン棒の上端に取付けた噴霧ボタン11と、該噴霧ボタン11とピストン棒8の間に組込まれ噴霧ボタン11を押圧したとき通路17とノズル5を連通させて噴霧を行う弁15とを具備した蓄圧噴霧装置。」

(5)甲5(米国特許第4191313号明細書)
甲5には、以下の事項が記載されている。(訳文は、特許異議申立書のとおり。)
「組み合わせされたピストンとトリガーユニット16はマニホールドに保持されており、容器から材料を吸引し、加圧し、さらにマニホールド11とフロートピストン17によって形成されたチャンバに運ぶ。」(第4欄15?18行)
「図2,3に示すように、マニホールド11は、第1の前方に伸びてポンプ室を形成するシリンダ19と、第2の後方に伸びてアキュムレータ室を形成するシリンダ20を含む。」(第4欄26?29行)

5.判断
(1)理由1(特許法第29条第2項に係る理由)
本件発明1の「補助シリンダ(C)」は、「縦流路(Pa)内上部を連通路(33)を介して連通」しており、「トリガー(G)の操作によりノズル(E)の噴出口より噴出する加圧液の一部が、環状ピストン(55)を押圧して補助シリンダ(C)内に導入され」、「トリガー(G)操作後に環状ピストン(55)の上方付勢力により補助シリンダ(C)内の液がノズル(E)の噴出口より噴出可能に構成した」ものである。すなわち、「補助シリンダ(C)」は、主たる流路「容器(80)-パイプ(52)-縦流路(Pa)-シリンダ筒(20)-射出流路(Pb)-ノズル(E)」とは別に設けられた、連通路(33)を有する補助的流路を構成するものである。
一方、甲1発明?甲4発明は、いずれも主たる流路「容器-パイプ-縦流路-往復ポンプ(シリンダ筒)あるいは蓄圧室、シリンダーボデー-射出流路-ノズル」を有するのみで、「補助シリンダ」及び「連通路を有する補助的流路」に相当するものは有していない。甲5記載事項についても、「補助シリンダ」及び「連通路を有する補助的流路」を備えていない点で同様である。
すなわち、甲1?甲5には、本件発明1の「容器体(80)内とパイプ(52)を介して連通する縦流路(Pa)と、縦流路(Pa)と連通して前方へ突設したシリンダ筒(20)と、シリンダ筒(20)上方位置に於いて縦流路(Pa)と連通して前方へ延設した射出流路(Pb)とを有する本体(B)を備え、射出流路(Pb)を画成する射出筒(13)の先端にノズル(E)を装着し、射出筒(13)前部より揺動可能に垂設したトリガー(G)操作により、容器体(80)内の液をシリンダ筒(20)内に吸い上げて、ノズル(E)の噴出口より噴出するトリガー式液体噴出器であって、」「内筒(50)と外筒(51)間の環状空間(54)と縦流路(Pa)内上部を連通路(33)を介して連通した補助シリンダ(C)を設け、」「トリガー(G)の操作によりノズル(E)の噴出口より噴出する加圧液の一部が、環状ピストン(55)を押圧して補助シリンダ(C)内に導入され、トリガー(G)操作後に環状ピストン(55)の上方付勢力により補助シリンダ(C)内の液がノズル(E)の噴出口より噴出可能に構成した」流路構成(以下、「本件発明1流路構成」という。)が記載も示唆もされていない。
そして、本件発明1は、本件発明1流路構成を有することにより、「通常のトリガー操作により液の連続噴出が可能となる。」(本件明細書【0010】)という作用効果を奏する。
さらに、甲1?甲5には、本件発明1の「内筒50及び外筒51を備え、内筒50内を縦流路Paとパイプ52とを連通する連絡路53として画成し、内筒50と外筒51間の環状空間54と縦流路Pa内上部を連通路33を介して連通した補助シリンダCを設け」ている補助シリンダの配置構成(以下、「本件発明1補助シリンダ配置構成」という。)が記載も示唆もされていない。
そして、本件発明1は、本件発明1補助シリンダ配置構成を有することにより、「その構造も簡素であり、従来品と比較しても大きさの変化を少なく形成でき、取り扱い操作も簡便である。」(本件明細書【0010】)という作用効果を奏する。

以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1発明及び甲4記載事項、甲2発明及び甲4記載事項、甲3発明及び甲4記載事項、又は甲4発明及び甲5記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

したがって、本件発明1に係る特許は、特許法第113条第2号に該当せず、取り消されるべきものとすることはできない。

(2)理由2(特許法第36条第6項第1号に係る理由)
本件発明1は、トリガー式液体噴出器の形態で、通常のトリガー操作により液の連続噴出が可能となるトリガー式液体噴出器を提案すること、その構造も簡素であり、従来品と比較しても大きさの変化を少なく形成でき、取り扱い操作も簡便なトリガー式液体噴出器を提案すること(本件特許明細書【0006】)を課題としている。
この課題の解決のため、本件発明1は、上記の本件発明1流路構成及び本件発明1補助シリンダ配置構成を備えたものである。ここで、本件特許明細書の記載をみると、本件特許明細書【0010】には、「本発明は、内筒50及び外筒51を備え、内筒50内を縦流路Paとパイプ52とを連通する連絡路53として画成し、内筒50と外筒51間の環状空間54と縦流路Pa内上部を連通路33を介して連通した補助シリンダCを設けているので、通常のトリガー操作により液の連続噴出が可能となる。また、その構造も簡素であり、従来品と比較しても大きさの変化を少なく形成でき、取り扱い操作も簡便である。」と、【0034】及び【0035】には、「上記の如く構成したトリガー式液体噴出器1は、図1の状態からトリガーGを後方へ引くことで、プランジャFを押し込み、シリンダ筒20内の液が縦流路Pa内に圧入され、・・・射出流路PbよりノズルE内を介してノズルEの噴出口より噴出される。同時に、加圧液の一部が連通路33を介して補助シリンダC内に導入される。
次いでトリガーGの引き込みをやめると・・・トリガーGが元の状態に戻されるとともに、プランジャFが引き出され、負圧化したシリンダ筒20内に・・・容器体80内の液が導入される。その際、補助シリンダC内の環状ピストン55は上方付勢力で上昇し補助シリンダC内の液を加圧して連通路33から、縦流路Paの上端部、射出流路Pbを介してノズルEの噴出口より噴出される。従って、トリガーGを繰り返し引くことで、液の連続噴出が可能となる。」と記載され、本件発明1の本件発明1流路構成及び本件発明1補助シリンダ配置構成を備えることによって、上記課題を解決し得ることは明らかである。
特許異議申立人は、本件発明1には、更に「縦流路Paに配置された弁V1、V2」や「第1連通路39」等の事項の特定が必須である旨主張するが、本件発明1のような「トリガー式液体噴出器」において「連続噴出が可能」とするには、当然、流れを制御するための弁構成や、必要な流路を備えていることは、請求項に特定されていなくとも、当業者にとって明らかであり、それらの事項が特定されていないことをもって、本件発明1が発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えているものとすることはできない。
よって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものといえる。

したがって、本件発明1に係る特許は、特許法第113条第4号に該当せず、取り消されるべきものとすることはできない。

6.むすび
以上のとおりであるから、本件特許異議申立ての全ての理由を含む、上記取消理由によっては、本件発明1に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-08-10 
出願番号 特願2013-17518(P2013-17518)
審決分類 P 1 652・ 537- Y (B65D)
P 1 652・ 121- Y (B65D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 西堀 宏之田中 佑果  
特許庁審判長 千壽 哲郎
特許庁審判官 蓮井 雅之
井上 茂夫
登録日 2016-06-10 
登録番号 特許第5946134号(P5946134)
権利者 株式会社吉野工業所
発明の名称 トリガー式液体噴出器  
代理人 今岡 憲  
代理人 石野 明則  

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