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審決分類 審判 全部申し立て 特17条の2、3項新規事項追加の補正  A61K
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
管理番号 1331263
異議申立番号 異議2017-700474  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-09-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-05-15 
確定日 2017-08-15 
異議申立件数
事件の表示 特許第6025881号発明「高純度PTH含有凍結乾燥製剤およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6025881号の請求項1?18に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6025881号の請求項1?18に係る特許(以下、「本件特許」ということがある。)についての出願は、平成24年5月31日(優先権主張 平成23年6月7日)を国際出願日とする特願2013-519467号の一部を平成27年1月20日に新たな特許出願としたものであって、平成28年10月21日に設定登録がなされ、その後、その特許について、特許異議申立人 谷口文哉(以下、「申立人」ということがある。)により特許異議の申立てがなされたものである。

第2 本件特許発明
特許第6025881号の請求項1?18の特許に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1?18に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、特許第6025881号の請求項1?18の特許に係る発明を、その請求項に付された番号順に、「本件特許発明1」等ということがある。また、これらをまとめて「本件特許発明」ということがある。)。

「【請求項1】
無菌注射剤の製造施設内における、PTHペプチド含有凍結乾燥製剤の製造方法であって、PTHペプチド含有溶液調製工程の開始から凍結乾燥手段への搬入工程終了の間の工程のうち、少なくとも搬入工程を含む1以上のグレードAの環境を有する工程において、PTHペプチド含有溶液と同無菌注射剤製造施設内空気に含まれる0.1ppm以下のオゾンとの接触を抑制することを特徴とする方法であって、同PTHペプチド含有凍結乾燥製剤とは、当該製剤中のPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に対するいずれのPTH類縁物質の量も1.0%以下であり、及びPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に対する全PTH類縁物質量が5.0%以下であることを少なくとも意味する、PTHペプチド含有凍結乾燥製剤の製造方法。

【請求項2】
PTHペプチド含有溶液調製工程の開始から凍結乾燥手段への搬入工程終了の間の工程のうち、1以上のグレードAの環境を有する工程が、PTHペプチド含有溶液充填工程の開始から凍結乾燥手段への搬入工程終了の間の工程であって、かつ、グレードAの環境を有する工程、である、請求項1に記載の方法。

【請求項3】
更に、凍結乾燥後のバイアル封栓工程においても凍結乾燥物が無菌注射剤製造施設内空気に含まれるオゾンと接触されることを抑制することを含む、請求項1又は2に記載の方法。

【請求項4】
前記搬入工程での接触の抑制が、無菌注射剤製造施設内空気が凍結乾燥手段内へ流入することを抑制する手段が講じられた凍結乾燥庫を用いることを特徴とする、請求項1?3いずれかに記載の方法。

【請求項5】
凍結乾燥手段への搬入工程が3時間以上にわたる該工程である、請求項4に記載の方法。

【請求項6】
前記凍結乾燥手段が、凍結乾燥前PTHペプチド含有溶液を収容する容器を搬出入する際に開く小扉部分に生じる開口部に備えられた容易に開閉可能な副扉を有する凍結乾燥庫であり、それにより前記搬入工程において、該副扉を容器搬入時のみ開け搬入後は速やかに閉めることで凍結乾燥前PTHペプチド含有溶液と無菌注射剤製造施設内空気に含まれるオゾンとの接触を抑制する、請求項4又は5に記載の方法。

【請求項7】
前記凍結乾燥手段が、凍結乾燥前PTHペプチド含有溶液を収容する容器を該手段に搬出入する際に開く小扉部分に生じる開口部を有する凍結乾燥庫であり、無菌注射剤製造施設内空気が凍結乾燥手段内へ流入することを抑制する手段が、流動空気の流れを該開口部から庫内に向かわない方向に変える整風カバーである、請求項4又は5に記載の方法。

【請求項8】
凍結乾燥手段内を不活性ガスで置換することで凍結乾燥前PTHペプチド含有溶液と無菌注射剤製造施設内空気に含まれるオゾンとの接触を抑制することを特徴とする、請求項5に記載の方法。

【請求項9】
前記凍結乾燥手段が、凍結乾燥前PTHペプチド含有溶液を収容する容器を搬出入する際に開く小扉部分に生じる開口部に備えられた容易に開閉可能な副扉を有する凍結乾燥庫であり、それにより前記搬入工程において、該副扉を溶液容器搬入時のみ開け搬入後に速やかに閉めること、並びに凍結乾燥手段内を不活性ガスで置換することで凍結乾燥前PTHペプチド含有溶液と無菌注射剤製造施設内空気に含まれるオゾンとの接触を抑制することを特徴とする、請求項5に記載の方法。

【請求項10】
前記凍結乾燥手段が、凍結乾燥前PTHペプチド含有溶液を収容する容器を該手段に搬出入する際に開く小扉部分に生じる開口部を有し、更に該開口部に整風カバーを備える凍結乾燥庫であり、それにより前記搬入工程において、該整風カバーが流動空気の流れを庫内に向かわない方向に変えること、並びに凍結乾燥手段内を不活性ガスで置換することで凍結乾燥前PTHペプチド含有溶液と無菌注射剤製造施設内空気に含まれるオゾンとの接触を抑制することを特徴とする、請求項5に記載の方法。

【請求項11】
前記不活性ガスが窒素である、請求項8乃至10のいずれか1項に記載の方法。

【請求項12】
前記PTHペプチド含有溶液を収容する容器がガラス製バイアルである、請求項1乃至11のいずれか1項に記載の方法。

【請求項13】
前記PTHがヒトPTH(1-34)である、請求項1乃至12のいずれか1項に記載の方法。

【請求項14】
無菌注射剤製造施設内空気環境が、1)グレードAの空気であり、2)粒径0.3μmの粒子を99.97%以上の効率で捕らえる性能を有するHEPAフィルターを通過した清浄な空気が上から下方に向かって一方向の気流として維持されており、且つ、3)含有オゾン濃度が0.001?0.1ppmの空気環境である、請求項1乃至13のいずれか1項に記載の方法。

【請求項15】
無菌注射剤製造施設内空気環境が、含有ホルムアルデヒド濃度0.1ppm以下の空気環境である、請求項1乃至14のいずれか1項に記載の方法。

【請求項16】
前記PTHペプチド含有凍結乾燥製剤が、下記の
1)類縁物質1:
製剤に含有されたPTHペプチドの質量数より64Da大きな質量数を有し、且つ当該類縁物質をトリプシン消化した際に、以下の(1-a)?(1-c)のフラグメントに対応する消化物を生じる前記PTHペプチドの酸化物、
(1-a) Ser-Val-Ser-Glu-Ile-Gln-Leu-Met-His-Asn-Leu-Gly-Lys(配列番号:1)の質量数+16Da、
(1-b) His-Leu-Asn-Ser-Met-Glu-Arg(配列番号:2)の質量数+16Da、及び
(1-c) Val-Glu-Trp-Leu-Arg(配列番号:3)の質量数+4Da;
2)類縁物質2:
製剤に含有されたPTHペプチドの質量数より36Da大きな質量数を有し、且つ当該類縁物質をトリプシン消化した際に、以下の(2-a)?(2-c)のフラグメントに対応する消化物を生じる前記PTHペプチドの酸化物、
(2-a) Ser-Val-Ser-Glu-Ile-Gln-Leu-Met-His-Asn-Leu-Gly-Lys(配列番号:1)の質量数+16Da、
(2-b) His-Leu-Asn-Ser-Met-Glu-Arg(配列番号:2)の質量数+16Da、及び
(2-c) Val-Glu-Trp-Leu-Arg(配列番号:3)の質量数+4Da;
3)類縁物質3:
製剤に含有されたPTHペプチドの質量数より32Da大きな質量数を有し、且つ当該類縁物質をトリプシン消化した際に、以下の(3-a)?(3-b)のフラグメントに対応する消化物を生じる前記PTHペプチドの酸化物、
(3-a) Ser-Val-Ser-Glu-Ile-Gln-Leu-Met-His-Asn-Leu-Gly-Lys(配列番号:1)の質量数+16Da、及び
(3-b) His-Leu-Asn-Ser-Met-Glu-Arg(配列番号:2)の質量数+16Da;
4)類縁物質4:
製剤に含有されたPTHペプチドの質量数より48Da大きな質量数を有し、且つ当該類縁物質をトリプシン消化した際に、以下の(4-a)?(4-b)のフラグメントに対応する消化物を生じる前記PTHペプチドの酸化物、
(4-a) Ser-Val-Ser-Glu-Ile-Gln-Leu-Met-His-Asn-Leu-Gly-Lys(配列番号:1)の質量数+16Da、及び
(4-b) Val-Glu-Trp-Leu-Arg(配列番号:3)の質量数+4Da;
5)類縁物質5:
製剤に含有されたPTHペプチドの質量数より48Da大きな質量数を有し、且つ当該類縁物質をトリプシン消化した際に、以下の(5-a)?(5-b)のフラグメントに対応する消化物を生じる前記PTHペプチドの酸化物、
(5-a) His-Leu-Asn-Ser-Met-Glu-Arg(配列番号:2)の質量数+16Da、及び
(5-b) Val-Glu-Trp-Leu-Arg(配列番号:3)の質量数+4Da;
6)類縁物質6:
製剤に含有されたPTHペプチドの質量数より20Da大きな質量数を有し、且つ当該類縁物質をトリプシン消化した際に、以下の(6-a)?(6-b)のフラグメントに対応する消化物を生じる前記PTHペプチドの酸化物、
(6-a) His-Leu-Asn-Ser-Met-Glu-Arg(配列番号:2)の質量数+16Da、及び
(6-b) Val-Glu-Trp-Leu-Arg(配列番号:3)の質量数+4Da;
7)類縁物質9:
製剤に含有されたPTHペプチドの質量数より32Da大きな質量数を有し、且つ当該類縁物質をトリプシン消化した際に、以下の(9-a)のフラグメントに対応する消化物を生じる前記PTHペプチドの酸化物、
(9-a) Val-Glu-Trp-Leu-Arg(配列番号:3)の質量数+4Da;
8)類縁物質10:
製剤に含有されたPTHペプチドの質量数より16Da大きな質量数を有し、且つ当該類縁物質をトリプシン消化した際に、以下の(10-a)のフラグメントに対応する消化物を生じる前記PTHペプチドの酸化物、
(10-a) Val-Glu-Trp-Leu-Arg(配列番号:3)の質量数+16Da;及び
9)類縁物質11:
製剤に含有されたPTHペプチドの質量数より4Da大きな質量数を有し、且つ当該類縁物質をトリプシン消化した際に、以下の(11-a)のフラグメントに対応する消化物を生じる前記PTHペプチドの酸化物、
(11-a) Val-Glu-Trp-Leu-Arg(配列番号:3)の質量数+4Da
からなる群から選択される1種以上のPTH類縁物質、並びに、
10)類縁物質7
製剤に含有されたPTHペプチドの質量数より16Da大きな質量数を有し、且つ当該類縁物質をトリプシン消化した際に、以下の(7-a)のフラグメントに対応する消化物を生じる前記PTHペプチドの酸化物、
(7-a) Ser-Val-Ser-Glu-Ile-Gln-Leu-Met-His-Asn-Leu-Gly-Lys(配列番号:1)の質量数+16Da;及び
11)類縁物質8
製剤に含有されたPTHペプチドの質量数より16Da大きな質量数を有し、且つ当該類縁物質をトリプシン消化した際に、以下の(8-a)のフラグメントに対応する消化物を生じる前記PTHペプチドの酸化物、
(8-a) His-Leu-Asn-Ser-Met-Glu-Arg(配列番号:2)の質量数+16Da;
を含む、請求項1乃至15のいずれか1項に記載の方法。

【請求項17】
前記PTHペプチド含有凍結乾燥製剤が、下記の
1)類縁物質1’:
ヒトPTH(1-34)の8位および18位メチオニンに対応する残基がメチオニンスルホキシド残基に、並びに23位トリプトファンに対応する残基が下記構造式(a)で示される残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物、
【化1】

;
2)類縁物質2’:
ヒトPTH(1-34)の8位および18位メチオニンに対応する残基がメチオニンスルホキシド残基に、並びに23位トリプトファンに対応する残基が下記構造式(b)で示される残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物、
【化2】

;
3)類縁物質3’:
ヒトPTH(1-34)の8位および18位メチオニンに対応する残基がメチオニンスルホキシド残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物;
4)類縁物質4’:
ヒトPTH(1-34)の8位メチオニンに対応する残基がメチオニンスルホキシド残基に、並びに23位トリプトファンに対応する残基が上記構造式(a)で示される残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物;
5)類縁物質5’:
ヒトPTH(1-34)の18位メチオニンに対応する残基がメチオニンスルホキシド残基に、並びに23位トリプトファンに対応する残基が上記構造式(a)で示される残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物;
6)類縁物質6’:
ヒトPTH(1-34)の18位メチオニンに対応する残基がメチオニンスルホキシド残基に、並びに23位トリプトファンに対応する残基が上記構造(b)で示される残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物;
7)類縁物質9’:
ヒトPTH(1-34)の23位トリプトファンに対応する残基が上記構造式(a)で示される残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物;
8)類縁物質10’:
ヒトPTH(1-34)の23位トリプトファンに対応する残基が下記構造式(c-1
)又は(c-2)で示されるトリプトファン一酸化物残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物;
【化3】

;及び
9)類縁物質11’:
ヒトPTH(1-34)の23位トリプトファンに対応する残基が上記構造式(b)で示される残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物、
からなる群から選択される1種以上のPTH類縁物質、並びに、
10)類縁物質7’
ヒトPTH(1-34)の8位メチオニンに対応する残基がメチオニンスルホキシド残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物; 及び
11)類縁物質8’
ヒトPTH(1-34)の18位メチオニンに対応する残基がメチオニンスルホキシド残基に変化した前記PTHペプチドの酸化物;
を含む、請求項1乃至15のいずれか1項に記載の方法。

【請求項18】
無菌注射剤の製造施設内における、高純度のPTHペプチドを有効成分として含有する凍結乾燥製剤の製造方法であって、該製造方法は、グレードAの環境下、凍結乾燥前PTHペプチド含有溶液を凍結乾燥手段へ搬入する際に無菌注射剤製造施設内空気に含まれる0.1ppm以下のオゾンと接触されるのを抑制したことを特徴とする方法であり、但し前記高純度とは、当該製剤中のPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に対するいずれのPTH類縁物質の量も1.0%以下であり、及びPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に対する全PTH類縁物質量が5.0%以下であることを少なくとも意味し、前記搬入工程は3時間以上にわたる工程であり、且つ前記グレードAの環境はHEPAフィルターを通過した清浄な空気が上から下方に向かって一方向の気流として維持されている環境であり、該HEPAフィルター直下20cmの位置の気流が0.2?1.0m/sの流速気流である、前記製造方法。」

第3 申立理由の概要
特許異議申立人は、本件特許は、以下の理由1?5により、取り消されるべきものである旨主張している。

1.申立理由1
平成28年8月3日付け手続補正書によりなされた補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内におけるものではなく、新規事項の追加に該当するから、当該補正は特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしておらず、同法第113条第1号に該当する。

2.申立理由2
本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載には不備があり、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないから、本件特許発明1?18は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、同法第113条第4号に該当する。

3.申立理由3
本件特許発明1?18は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、同法第113条第4号に該当する。

4.申立理由4
本件特許発明1?18は、明確でないところがあるから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、同法113条第4号に該当する。

5.申立理由5
本件特許出願後の、平成28年4月18日付け意見書及び平成28年8月3日付け意見書において提出された実験データは参酌されるべきものではなく、当該実験データが参酌されなければ、平成28年6月7日(発送日)付けの拒絶理由通知書において示された進歩性違反の拒絶理由は十分に解消していないことになるから、本件特許発明1?18は、特許法第29条第2項の規定に違反するものであり、同法113条第2号に該当する。

第4 判断
1.特許法第17条の2第3項について
(1)本件特許発明1について
申立人は、平成28年8月3日付け手続補正書によりなされた補正のうち、本件特許発明1において、下記下線部の「「空気に含まれる0.1ppm以下のオゾンとの接触を抑制すること」という発明特定事項は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件当初明細書」という。)における、請求項14、段落【0011】、段落【0042】、段落【0121】を参照しても、本件当初明細書に記載された事項の範囲内におけるものではないから、新たな技術的事項を導入するものである」と主張している。
「【請求項1】
無菌注射剤の製造施設内における、PTHペプチド含有凍結乾燥製剤の製造方法であって、PTHペプチド含有溶液調製工程の開始から凍結乾燥手段への搬入工程終了の間の工程のうち、少なくとも搬入工程を含む1以上のグレードAの環境を有する工程において、PTHペプチド含有溶液と同無菌注射剤製造施設内空気に含まれる0.1ppm以下のオゾンとの接触を抑制することを特徴とする方法であって、同PTHペプチド含有凍結乾燥製剤とは、当該製剤中のPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に対するいずれのPTH類縁物質の量も1.0%以下であり、及びPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に対する全PTH類縁物質量が5.0%以下であることを少なくとも意味する、PTHペプチド含有凍結乾燥製剤の製造方法。」

以下、申立人の主張について検討する。
申立人が指摘する下線部の補正は、本件当初明細書の【請求項1】等における「PTHペプチド含有溶液の医薬品製造施設内空気環境への暴露を抑制することを特徴とする方法」が「PTHペプチド含有溶液と同無菌注射剤製造施設内空気に含まれる0.1ppm以下のオゾンとの接触を抑制することを特徴とする方法」へと補正がなされたものと認められる。
ここで、本件当初明細書には、以下の記載がなされている。
「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
・・・PTHペプチドを含有する製剤を骨粗鬆症の治療/予防のために投与する場合、その投与期間が長期に渉ることもあり得るから、PTHペプチドを含有する製剤は特に高純度であることが必要とされるであろう。
【0008】
しかしながら、・・・PTHペプチド含有凍結乾燥製剤を工業的に製造しようとすると、・・・PTHペプチドの化学構造が変化した物質(以下、「PTH類縁物質」という。)を含んだ製剤が製造されてしまうことが知見された。・・・
【0009】
しかして、本発明は、高純度、すなわちPTH類縁物質の含量が許容できるまで低いレベルであるPTHペプチド含有凍結乾燥製剤を提供することを課題とする。さらに本発明は、当該高純度PTHペプチド含有凍結乾燥製剤の製造方法を提供することを課題とする。・・・
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、・・・当該PTH類縁物質を単離しキャラクタゼーションすることに成功した。更に、当該PTH類縁物質の生成が、PTHペプチド含有溶液等の医薬品製造施設内空気環境への暴露を抑制することにより顕著に防止・低減されることを見出した。
【0011】
また、理論に拘束されるわけではないが、前記でキャラクタリゼーションされたPTH類縁物質の構造的特徴、および当該類縁物質の生成が医薬品製造施設内空気環境への暴露を抑制することにより防止・低減された事実から、それらのPTH類縁物質の生成が、医薬品製造施設内空気環境内に存在する酸化能を有する物質に起因すると推定された。確かに、医薬品製造施設の空気環境は、高い清浄度(グレードA等)であることの他に、屡、酸化能を有する気体性物質を含むことがある。つまり、医薬品製造施設は、より徹底した無菌環境を実現するためにホルムアルデヒドやオゾン等の滅菌剤により燻蒸消毒されることがある。そして、当該燻蒸消毒の残留物としてホルムアルデヒドやオゾンといった酸化能を有する気体を含有する場合があり得ることにも思い至ったのである。更に言えば、燻蒸消毒の有無に拘らずオゾンは大気中にも0.001?0.02ppm、場所や時間、季節によっては約0.02?0.1ppmの濃度で存在している。
【0012】
しかるに、本発明者らは、本発明で明らかとなったPTH類縁物質の生成が、オゾンを含有する空気に対してPTHペプチドを接触させることにより再現されることも確認した。」
当該記載に基づくと、本件当初明細書には、PTHペプチド含有凍結乾燥製剤を医薬品製造施設内で製造するにあたり、当該医薬品製造施設では、その施設の燻蒸消毒のためにオゾンが用いられて残留していることがあるところ、「オゾン濃度の高い医薬品製造施設内の空気との接触を抑制すること」により、オゾンに起因して生成される不純物であるPTH類縁物質の生成を低減し、より高純度のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤を製造できることが記載されているものといえる。そして、本件当初明細書の請求項14には、「医薬品製造施設内空気環境が、・・・オゾン濃度が0.001?0.1ppmの空気環境である、請求項1乃至13のいずれか1項に記載の方法。」と記載されているところ、本件のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤を製造する医薬品製造施設内の空気のオゾン濃度は、本件当初明細書において「0.001?0.1ppm」であることが記載されていることが認められる。そうすると、上述の「オゾン濃度の高い医薬品製造施設内の空気との接触を抑制すること」を意味するものとして、当該医薬品製造施設内の空気におけるオゾン濃度として本件当初明細書の請求項14に記載されている「0.001?0.1ppm」で存在する「オゾンとの接触を抑制すること」との補正を行うことは、新規事項の追加にあたらない。
加えて、上記の本件当初明細書の【発明が解決しようとする課題】及び【課題を解決するための手段】の記載から明らかなとおり、本件のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤を製造する医薬品製造施設内の空気のオゾン濃度は、それが低いほど、PTH類縁物質の生成が低減されて、より高純度のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤を提供できるようになることが明らかであるから、医薬品製造施設内の空気のオゾン濃度として、ことさらに「0.001ppm」という下限値を設けることに技術的意義がないことも明らかである。
とすると、上述の「オゾン濃度の高い医薬品製造施設内の空気との接触を抑制すること」を意味するものとして、その「医薬品製造施設内の空気」における「オゾン濃度」の下限値は特定することなく、医薬品製造施設内の空気におけるオゾン濃度の最高濃度として本件当初明細書に記載されている「0.1ppm」以下で存在する「オゾンとの接触を抑制すること」との補正を行うことは、本件当初明細書に記載した事項の範囲内においてしたものと認められる。

(2)本件特許発明18について
申立人は、平成28年8月3日付け手続補正書によりなされた補正のうち、本件特許発明18において、下記下線部の「「空気に含まれる0.1ppm以下のオゾンと接触されるのを抑制したこと」という発明特定事項は、本件特許発明1における補正と同様に、新たな技術的事項の導入に他ならないから、当該補正は、新規事項の追加を孕んでいることは明らかである」と主張している。
「【請求項18】
無菌注射剤の製造施設内における、高純度のPTHペプチドを有効成分として含有する凍結乾燥製剤の製造方法であって、該製造方法は、グレードAの環境下、凍結乾燥前PTHペプチド含有溶液を凍結乾燥手段へ搬入する際に無菌注射剤製造施設内空気に含まれる0.1ppm以下のオゾンと接触されるのを抑制したことを特徴とする方法であり、但し前記高純度とは、当該製剤中のPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に対するいずれのPTH類縁物質の量も1.0%以下であり、及びPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に対する全PTH類縁物質量が5.0%以下であることを少なくとも意味し、前記搬入工程は3時間以上にわたる工程であり、且つ前記グレードAの環境はHEPAフィルターを通過した清浄な空気が上から下方に向かって一方向の気流として維持されている環境であり、該HEPAフィルター直下20cmの位置の気流が0.2?1.0m/sの流速気流である、前記製造方法。」
申立人が指摘する下線部の補正は、本件当初明細書の【請求項20】等における「凍結乾燥前PTHペプチド含有溶液を凍結乾燥手段へ搬入する際に医薬品製造施設内空気環境に対して曝露を抑制したことを特徴とする方法」が「凍結乾燥前PTHペプチド含有溶液を凍結乾燥手段へ搬入する際に無菌注射剤製造施設内空気に含まれる0.1ppm以下のオゾンと接触されるのを抑制したことを特徴とする方法」へと補正がなされたものと認められる。
しかしながら、この補正は、上記(1)の本件特許発明1における補正と同様の補正であるから、上記(1)において述べたとおりの理由で、当該補正は、本件当初明細書に記載した事項の範囲内においてしたものと認められる。

(3)本件特許発明2?17について
申立人は、本件特許発明2?17は、「本件特許発明1に直接的又は間接的に従属されているから、本件特許発明1に係る補正による新規事項の追加を孕んでいることは明らかである」と主張している。
しかしながら、(1)において述べたとおりの理由で、本件特許発明1の補正は、本件当初明細書に記載した事項の範囲内のものと認められるから、本件特許発明2?17も、本件当初明細書に記載した事項の範囲内のものと認められる。

(4)小括
したがって、平成28年8月3日付け手続補正書によりなされた補正が特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないものであるとする申立理由1には理由がない。

2.特許法第36条第4項第1号について
(1)本件特許発明1について
申立人は、本件特許発明1は、「空気に含まれる0.1ppm以下のオゾンとの接触を抑制すること」が発明特定事項として規定されているところ、本件特許明細書の段落【0124】?【0137】には、PTHペプチド含有溶液が流動空気と接触を抑制する手段等が記載されており、当該明細書の記載内容によれば、製造施設の滅菌(燻蒸消毒)に用いた高濃度のオゾンを通常の大気中に存在するオゾン濃度まで減少させることはできるかもしれないが、搬入工程を含む凍結乾燥製剤の製造工程におけるグレードAの環境における空気に含まれる極微量のオゾン(例えば0.001ppm)のオゾンとの接触を回避する方法については、本件特許明細書に明確かつ十分に記載されておらず、当業者の技術常識を考慮したとしてもその実施は困難である」と主張している。

以下、申立人の主張について検討する。
本件特許発明1は、「無菌注射剤の製造施設内における、PTHペプチド含有凍結乾燥製剤の製造方法であって、PTHペプチド含有溶液調製工程の開始から凍結乾燥手段への搬入工程終了の間の工程のうち、少なくとも搬入工程を含む1以上のグレードAの環境を有する工程において、PTHペプチド含有溶液と同無菌注射剤製造施設内空気に含まれる0.1ppm以下のオゾンとの接触を抑制することを特徴する方法」の発明であって、この製造方法により製造される「同PTHペプチド含有凍結乾燥製剤」が、「当該製剤中のPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に対するいずれのPTH類縁物質の量も1.0%以下であり、及びPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に対する全PTH類縁物質量が5.0%以下であることを少なくとも意味する」ものであることが規定されている。
すなわち、本件特許発明1は、所定の製造工程において、無菌注射剤製造施設内空気に含まれるオゾン(最高濃度は0.1ppm)との接触を抑制することにより、不純物であるPTH類縁物質の生成量を所定量以下に低減する、「PTHペプチド含有凍結乾燥製剤の製造方法。」に係る発明であるが、本件特許明細書の【0123】?【0140】段落においては、無菌注射剤製造施設内空気に含まれるオゾン(最高濃度は0.1ppm)との接触を抑制するため、PTHペプチド原薬、含有溶液、凍結乾燥製剤を医薬品製造施設内空気環境に全く接触させないことのほか、その接触を実質的に(例えば、時間や接触量を)制限することが記載されており、さらに、その具体的な手段が種々挙げられている。具体的な手段としては、凍結乾燥庫前面を覆う大扉のほかに小扉や副扉、整風カバーを設け、凍結乾燥庫への搬入時に製造施設内の空気が庫内へ流入することを抑制する手段のほか(【0127】?【0128】段落、【0134】段落)、調製工程において用いられるタンク、容器等の調製用設備や、薬液が充填されるガラス製容器を、予め窒素やアルゴンなどの不活性ガスで置換し、また調製・充填後にさらにタンク、容器等を不活性ガスで置換して閉封する手段(【0129】段落、【0131】段落、【0132】段落)、調製設備内の液送に用いられる加圧用の気体を不活性ガスにする手段(【0130】段落)、容器の運搬中の環境を不活性ガスの気流下とする手段(【0133】段落)、凍結乾燥工程で用いられる凍結乾燥庫内の空気を予め不活性ガスで置換する手段(【0135】段落)、凍結乾燥庫内への搬入時に搬入口から不活性ガスを庫内へ流入する手段(【0135】段落)、そして、それらの手段を講じるべき工程(【0136】段落)や、手段を講じるべき時間(【0137】段落)などが説明されている。
また、本件特許明細書の【0142】?【0146】段落においては、実施例として、その具体的な態様も説明されており、さらに【0147】?【0153】段落においては、講じられたオゾンとの接触抑制手段の少ない比較例と、当該接触抑制手段のより多い実施例とを対比して、実施例では、PTH類縁物質の生成が所定量以下に低減されたPTH凍結乾燥製剤を製造することができたのに対し、比較例では製造することができなかったことを具体的に確認している。
加えて、【0153】?【0159】段落の試験例2では、0.08ppmのオゾン雰囲気下に約20時間曝露することにより、PTH類縁物質を総量80%生成することを確認して、空気中のオゾンが、不純物であるPTH類縁物質を生成させる要因であることも実証している。
そうすると当業者は、本件特許明細書の記載に基づき、PTHペプチド含有凍結乾燥製剤の製造にあたり、PTH類縁物質の生成を所定量以下に低減するためには、オゾンとの接触を抑制することが肝要であることを十分に理解することができ、そのことを理解した上で、本件特許明細書の【0123】?【0140】段落に記載の方法や、【0142】?【0146】段落に記載の実施例の具体的な方法に基づき、これらの方法を適宜組み合わせることにより、無菌注射剤製造施設内空気に含まれるオゾン(最高濃度は0.1ppm)との接触を抑制して、PTH類縁物質の生成を所定量以下に低減した凍結乾燥製剤を製造することができると認められる。
申立人は、製造施設内の空気に含まれる極微量のオゾンとの接触を回避する手段が不明である旨主張するが、上記本件特許明細書中に挙げられている、窒素等の不活性ガスによる置換は、その置換によって相当程度オゾンを減らすことが可能であることが理解されるところ、これらの不活性ガスによる置換や、その他の本件特許明細書に示されている種々の手段を必要により複数組み合わせて、所望の製剤が得られるようにオゾンの量を減らすことは、当業者にとって可能であるといえる。またこの点は、本件特許明細書に記載の実施例において、実際にPTH類縁物質の生成が所定量にまで低減された、本件特許発明1に記載の凍結乾燥製剤が得られていることからも、オゾン濃度が、所望の製剤が得られるように適切に抑制されていることは明らかである。
また申立人は、平成28年4月18日付けの意見書及び平成28年8月3日付けの意見書において、本件特許権者が提出した実験データでは、目的の製剤を得るためにはオゾン濃度が0.02ppm以下であることが示されており、また、本件特許明細書の【0154】の試験例2では、約0.08ppmのオゾン雰囲気下に20時間曝露することによりPTH類縁物質が80%生成しているところ、オゾン濃度を0.1ppm以下に抑制することができても、目的の製剤を製造できない場合があり、オゾン濃度を0.1ppmよりもさらに減少させる必要があると考えられるが、その更なる減少の程度が不明である旨も、主張する。
しかしながら、上述のとおり、本件特許明細書の記載に基づき、PTHペプチド含有凍結乾燥製剤の製造にあたり、PTH類縁物質の生成を所定量以下に低減するためには、オゾンとの接触を抑制することが肝要であることを当業者は十分に理解した上で、本件特許明細書に記載されている具体的な手段を必要により適宜組み合わせて、製剤が接触するオゾンの濃度を低減し、またオゾンとの接触時間も抑えることにより、PTH類縁物質の生成を所定量以下に低減した目的の製剤を得ることは可能であると認められる。
したがって、本件特許明細書は、本件特許発明1に記載の発明を、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものであると認められる。

(2)本件特許発明18及び本件特許発明2?17について
申立人は、本件特許発明18にも「空気に含まれる0.1ppm以下のオゾンと接触されるのを抑制したこと」が発明特定事項として規定されており、また、本件特許発明1を引用する本件特許発明2?17も、「空気に含まれる0.1ppm以下のオゾンとの接触を抑制すること」という発明特定事項を含むため、部分的にも実施することができないことが明らかである旨、主張する。
しかしながら、上述のとおり、本件特許明細書の記載に基づき、PTHペプチド含有凍結乾燥製剤の製造にあたり、PTH類縁物質の生成を所定量以下に低減するためには、オゾンとの接触を抑制することが肝要であることを当業者は十分に理解することができ、そのことを理解した上で、本件特許明細書に記載されている具体的な手段を必要により適宜組み合わせて、製剤が接触するオゾンの濃度を低減し、またオゾンとの接触時間も抑えることにより、PTH類縁物質の生成を所定量以下に低減した目的の製剤を得ることは可能であると認められる点は、本件特許発明18及び本件特許発明2?17についても同様である。
したがって、本件特許明細書は、本件特許発明18及び本件特許発明2?17に記載の発明を、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものと認められる。

(3)小括
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないものであるとする申立理由2には理由がない。

3.特許法第36条第6項第1号について
申立人は、本件特許発明の解決しようとする課題は、高純度、すなわちPTH類縁物質の含量が本件特許発明1に規定される量以下のPTHペプチド含有凍結乾燥製剤及びその製造方法を提供すること、また、当該PTHペプチド含有凍結乾燥製剤の純度を確認するなどの目的のためにPTH類縁物質の検査方法を提供することにあり、本件特許発明1?17は、「空気に含まれる0.1ppm以下のオゾンとの接触を抑制すること」という発明特定事項を、また、本件特許発明18は、「空気に含まれる0.1ppm以下のオゾンと接触されるのを抑制したこと」を発明特定事項として含むが、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、当該発明特定事項が形式的にも一切記載も示唆もされておらず、また、技術常識に照らしても、当該発明特定事項を含む本件特許発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できない旨、主張する。
しかしながら、2.(1)において述べたとおり、本件特許発明1は、所定の製造工程において、無菌注射剤製造施設内空気に含まれるオゾン(最高濃度は0.1ppm)との接触を抑制することにより、不純物であるPTH類縁物質の生成量を所定量以下に低減する、「PTHペプチド含有凍結乾燥製剤の製造方法。」に係る発明であるが、本件特許明細書の【0123】?【0140】段落においては、無菌注射剤製造施設内空気(最高濃度は0.1ppm)に含まれるオゾンとの接触を抑制するため、PTHペプチド原薬、含有溶液、凍結乾燥製剤を医薬品製造施設内空気環境に全く接触させないことのほか、その接触を実質的に(例えば、時間や接触量を)制限するための具体的な手段が種々挙げられ、また、【0142】?【0146】段落においては、実施例として、その具体的な態様も詳述されている。加えて、【0147】?【0153】段落の実施例と比較例との対比、及び、【0153】?【0159】段落の試験例2では、空気中のオゾンが、不純物であるPTH類縁物質を生成させる要因であることを実証もしている。
そうすると当業者は、本件特許明細書の記載に基づき、PTHペプチド含有凍結乾燥製剤の製造にあたり、PTH類縁物質の生成を所定量以下に低減するためには、オゾンとの接触を抑制することが肝要であることを十分に理解することができ、そのことを理解した上で、本件特許明細書の【0123】?【0140】段落に記載の方法や、【0142】?【0146】段落に記載の実施例の具体的な方法に基づき、これらの方法を適宜組み合わせて、無菌注射剤製造施設内空気に含まれるオゾン(最高濃度は0.1ppm)との接触を抑制することにより、PTH類縁物質の生成を所定量以下に低減した凍結乾燥製剤を製造することができるから、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものであると認められる。
またこの点は、本件特許発明2?17、及び、本件特許発明18についても同様である。
したがって、本件特許発明1?18が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものであるとする申立理由3には理由がない。

4.特許法第36条第6項第2号について
申立人は、本件特許発明1?17は、「空気に含まれる0.1ppm以下のオゾンとの接触を抑制すること」という発明特定事項を、また、本件特許発明18は、「空気に含まれる0.1ppm以下のオゾンと接触されるのを抑制したこと」を発明特定事項として含むが、かかる発明特定事項において「0.1ppm以下」には「0ppm」も含まれるところ、これらの発明特定事項には、「0ppmのオゾンとの接触を抑制すること」も含んでいるが、オゾンが0ppmであれば、その接触を抑制することはできないから、そのような発明特定事項を含む本件特許発明は明確であるということはできない旨、主張する。
しかしながら、本件特許発明1は、「無菌注射剤の製造施設内における、PTHペプチド含有凍結乾燥製剤の製造方法であって、PTHペプチド含有溶液調製工程の開始から凍結乾燥手段への搬入工程終了の間の工程のうち、少なくとも搬入工程を含む1以上のグレードAの環境を有する工程において、PTHペプチド含有溶液と同無菌注射剤製造施設内空気に含まれる0.1ppm以下のオゾンとの接触を抑制することを特徴する方法」の発明であって、この製造方法により製造される「同PTHペプチド含有凍結乾燥製剤」が、「当該製剤中のPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に対するいずれのPTH類縁物質の量も1.0%以下であり、及びPTHペプチド量と全PTH類縁物質量の和に対する全PTH類縁物質量が5.0%以下であることを少なくとも意味する」ものであることが規定されており、すなわち、本件特許発明1は、PTHペプチド含有凍結乾燥製剤の製造工程において、その製造が行われる施設内空気に含まれるオゾン(最高濃度は0.1ppm)との接触を抑制することにより、PTH類縁物質の生成を所定量以下に低減したPTHペプチド含有凍結乾燥製剤の製造方法であって、その発明は明確である。
申立人は、「0.1ppm以下のオゾン」には「0ppm」の場合も含まれるため、当該0ppmのときには、オゾンが存在しないため「接触を抑制することはできない」ことを理由に発明が不明確である旨主張するが、本件特許発明1の記載は、「空気に含まれる・・・オゾン」であり、オゾンが空気に含まれることを前提とした表現となっており、また、上記1.(1)において摘記した【発明が解決しようとする課題】、【課題を解決するための手段】や、本件特許明細書の【0153】?【0159】の試験例2の記載等から明らかなとおり、本件特許発明は、空気中に極微量であってもオゾンが存在することを前提としていることは明らかであるから、申立人のこの主張は失当というほかない。
したがって、「空気に含まれる0.1ppm以下のオゾンとの接触を抑制すること」という発明特定事項は、空気に含まれているオゾン(最高濃度は0.1ppm)との接触を抑制することを意味することが明確であるから、本件特許発明1は明確である。
またこの点は、本件特許発明2?17、及び、本件特許発明18についても同様である。
よって、本件特許発明1?18が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないものであるとする申立理由4には理由がない。

5.特許法第29条第2項について
申立人は、具体的な証拠に基づいて本件特許発明が進歩性を有しないことを説明していないため、いずれの証拠に基づいて、どのような理由で本件特許発明が進歩性を有しないことを主張しているものであるか、その具体的な理由については不明であるが、申立人は、専ら、本件特許権者が平成28年4月18日付け意見書及び平成28年8月3日付け意見書において提出した実験データの採否について述べているので、以下では、その点について判断する。
申立人は、上記意見書における「一般に、オゾンの残留基準が0.1ppmであることが知られていますが(引用例7の表1参照)、このことは0.1ppmを下回る極僅かなオゾンは一般的に製造時の医薬品品質に悪影響を与えないことを示唆していると考えられます。実際に、引用例7は、燻蒸時のオゾン濃度(100?200ppm;表1「使用濃度」)が製造用部品などに与える影響を評価した結果(99頁左欄11?13行)等を報告するに留まり、燻蒸を終えさらに残留基準0.1ppmを下回り製造可能な状態となったその極僅かなオゾンが製造時の医薬品の品質に影響を与えるといった記載や示唆は一切ありません。
ところが、上記図から明らかなように、大気中のOx濃度が0.1ppm以下であっても、PTHペプチド製剤中の類縁物質量(酸化体量)がOx濃度と相関することは分かります。
すなわち、PTHペプチド製剤中の類縁物質がその製造過程において極僅かなオゾン濃度に相関して生成されることは本願発明によって初めて明らかになったことであります(本願明細書の段落【0154】?【0159】)。」なる記載に基づいて、この記載は、「通常の医薬品であれば0.1ppm以下のオゾンは品質に影響を与えないから実質無視してよいが、PTHペプチドの場合は、0.1ppm以下の極僅かなオゾンであっても、PTH類縁物質がオゾン濃度に相関して生成されることが本件特許発明によって初めて明らかになり、かかる知見は意外であるから特許に値するものである」が、本件特許明細書において上記記載をうかがわせる内容は見当たらないから、当該意見書に添付されている実験データを提出することができる根拠が本件特許明細書にはなく、したがって、進歩性の判断において、当該実験データは参酌されるべきではなく、また参酌されなければ、平成28年6月7日付けの拒絶理由通知書において示された進歩性の拒絶理由は十分に解消されていないこととなる旨、主張する。
しかしながら、出願後に提出される実験データであっても、その実験データが、特許出願人が出願当初の明細書に記載していた事項が正しくかつ妥当なものであることを釈明又は立証するために提出されるものであれば、進歩性の判断において、その参酌は許されるべきものである。
この点、上記意見書に添付された実験データは、空気中の0.1ppm以下の濃度のオゾン量とPTH類縁物質の生成割合が相関することを示すものと認められるが、本件特許明細書には、その出願当初から、【0153】?【0159】段落の試験例2の結果(オゾン濃度0.08ppmの試験結果)や、【0142】?【0153】の実施例と比較例の対比の結果(製造施設内の空気曝露低減工程が、実施例の方が比較例よりも多い)に基づいて、製造施設内の空気中のオゾン(最高濃度0.1ppm)がPTH類縁物質生成の要因であることを確認した上で、当該事項に基づいて、製剤と接触する製造施設内の空気のオゾン濃度(最高濃度0.1ppm)を低減・抑制する様々な具体的な手段を講じることにより、PTH類縁物質の生成を所定量にまで低減した製剤を製造できることが記載されていたものであるから、上記意見書において提出した実験データが示す内容は、本件特許明細書の出願当初に記載されていた事項を釈明又は立証するものと認められる。
したがって、申立人の、本件特許出願後の、平成28年4月18日付け意見書及び平成28年8月3日付け意見書において提出された実験データは参酌されるべきものではなく、本件特許発明1?18が特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるとする申立理由5には理由がない。

第6 むすび
以上、申立人が主張する申立理由によっては、請求項1?18に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?18に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-08-03 
出願番号 特願2015-8625(P2015-8625)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A61K)
P 1 651・ 537- Y (A61K)
P 1 651・ 561- Y (A61K)
P 1 651・ 536- Y (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 吉田 佳代子  
特許庁審判長 關 政立
特許庁審判官 田村 聖子
井上 明子
登録日 2016-10-21 
登録番号 特許第6025881号(P6025881)
権利者 旭化成ファーマ株式会社
発明の名称 高純度PTH含有凍結乾燥製剤およびその製造方法  
代理人 細田 芳徳  
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