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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 H01M 審判 全部申し立て 2項進歩性 H01M |
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管理番号 | 1331266 |
異議申立番号 | 異議2017-700486 |
総通号数 | 213 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-09-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-05-16 |
確定日 | 2017-08-24 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6025958号発明「非水電解液二次電池用セパレータおよびその利用」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6025958号の請求項1?5に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6025958号の請求項1?5に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成27年11月30日に特許出願され、平成28年10月21日に特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人 森本晋により特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件発明 特許第6025958号の請求項1?5の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1?5」といい、まとめて、「本件発明」ということもある。)は、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものである。 第3 申立理由の概要 特許異議申立人は、証拠として甲第1号証?甲第4号証を提出し、以下の理由により、請求項1?5に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。 1 申立理由1-1 本件発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された事項に基づいて、又は、甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証、甲第3号証、甲第4号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。 2 申立理由1-2 本件発明2?5は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明2?5に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。 3 申立理由2 請求項1?5に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 [証拠方法] 甲第1号証:特開2014-218668号公報 甲第2号証:特開2015-171814号公報 甲第3号証:特開2013-159750号公報 甲第4号証:特開2005-11726号公報 第4 甲号証の記載事項 1 本件特許に係る出願の出願日前に頒布された甲第1号証には、「樹脂組成物、シート、および多孔質フィルム」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている(なお、下線は当合議体が付加したものであり、「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。)。 (1a) 「【請求項2】 高分子量ポリオレフィン、および重量平均分子量700?6000のポリオレフィンワックスを含む多孔質フィルムであって、該多孔質フィルム中に含まれる前記高分子量ポリオレフィンの重量をW1、重量平均分子量700?6000のポリオレフィンワックス重量をW2とし、前記高分子量ポリオレフィンの固有粘度を[η]とするとき、[η]が4?7.7であり、かつ下記式(1)を満たす多孔質フィルム。 [η]×4.3-21< {W2/(W1+W2)}×100 < [η]×4.3-8 式(1) 【請求項3】 請求項2に記載の多孔質フィルムと、多孔質の耐熱層とが積層されてなる積層多孔質フィルム。 【請求項4】 請求項2に記載の多孔質フィルムまたは請求項3記載の積層多孔質フィルムを含む電池用セパレータ。」 (1b) 「【0022】 ・・・また延伸の後に、必要に応じて孔の形態を安定化するために熱固定処理を行なってもよい。」 (1c) 「【0052】 実施例1 固有粘度[η]7.7の高分子量ポリエチレン粉末(ハイゼックスミリオン145M、三井化学社製)20.9g(=W1)、ポリエチレンワックス粉末(ハイワックス110P、三井化学社製、重量平均分子量1000)3.7g(=W2)、炭酸カルシウム(010AS、丸尾カルシウム社製)39.6g、酸化防止剤 (Irg1010、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)0.17g、(P168、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)0.05g、ステアリン酸ナトリウム0.47gを粉末のまま混合した後、ラボプラストミル(R-60H型)にて200℃、60rpmで3分間混練し、次いで230℃、100rpmで3分間混練して均一な混練物としてとりだした。 得られた混練物を230℃に設定した熱プレスで厚さ約150μmのシート状に加工したのち、冷却プレスで固化させた。得られたシートを界面活性剤入りの塩酸で洗い、炭酸カルシウムを溶解させ多孔質シートとし、その後水洗、乾燥した。得られた多孔質シートを、オートグラフ(AGS-G, 島津製作所)を用いて5倍に一軸延伸し、延伸フィルムとした。なお延伸は105℃、延伸速度200mm/minで行った。延伸フィルムの突刺強度を表1に示す。 【0053】 実施例2 固有粘度[η]7.5の高分子量ポリエチレン(GUR4012、ティコナ社製)を用いた以外は実施例1と同様にして混練物および延伸フィルムを得た。評価結果を表1に示す。 【0054】 比較例1 固有粘度[η]14.1の高分子量ポリエチレン粉末(GUR4032、ティコナ社製)を17.2g(=W1)、ポリエチレンワックス粉末(ハイワックス110P、三井化学社製、重量平均分子量1000)7.4g(=W2)を用いた以外は実施例1と同様にして混練物および延伸フィルムを得た。評価結果を表1に示す。」 2 本件特許に係る出願の出願日前に頒布された甲第2号証には、「積層多孔質フィルムおよび非水電解液二次電池」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。 (2a) 「【請求項1】 ポリオレフィンを含む多孔質層の少なくとも片面に、耐熱性材料を含む多孔質層が積層された積層多孔質フィルムであって、下記式(I)を満足する積層多孔質フィルム。 0.1136×α+0.0819×β+3.8034≧4.40 (I) α:積層多孔質フィルムの膜抵抗値(Ω・cm^(2)) β:耐熱性材料を含む多孔質層1m^(2)あたりに含まれる耐熱性材料の体積値(cc/m^(2))」 (2b) 「【0001】 本発明は、積層多孔質フィルムに関する。さらに、本発明は、この積層多孔質フィルムを含む非水電解液二次電池に関する。」 (2c) 「【0008】 本発明の目的は、電池容量が増大した非水電解液二次電池において、釘刺し試験に代表される異物の貫通によって生じる内部短絡に対する安全性に優れるものとすることのできる、非水電解液二次電池用セパレータとして好適な積層多孔質フィルムを提供することにある。」 (2d) 「【0075】 ・・・ <A層の製造> 高分子量ポリエチレン粉末(GUR4032(ティコナ株式会社製))を70重量%、重量平均分子量1000のポリエチレンワックス(FNP-0115(日本精鑞株式会社製))30重量%、この高分子量ポリエチレンとポリエチレンワックスの合計100重量部に対して、酸化防止剤(Irg1010(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製))0.4重量部、酸化防止剤(P168(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製))0.1重量部、ステアリン酸ナトリウム1.3重量部を加え、さらに全体積に対して38体積%となるように平均粒径0.1μmの炭酸カルシウム(丸尾カルシウム株式会社製)を加え、これらを粉末のままヘンシェルミキサーで混合した後、二軸混練機で溶融混練してポリオレフィン樹脂組成物とした。該ポリオレフィン樹脂組成物を表面温度が150℃の一対のロールにて圧延しシートを作製した。同様の方法で圧延時のドロー比を変えたシートを作製し、これらの2枚のシートを130℃で熱圧着させ積層シートとした。このシートを塩酸水溶液(塩酸4mol/L、非イオン系界面活性剤0.5重量%)に浸漬させることで炭酸カルシウムを除去し、続いて105℃で任意の倍率で延伸して、所定厚みのポリオレフィン多孔質フィルム(A層)を得た。 ・・・」 3 本件特許に係る出願の出願日前に頒布された甲第3号証には、「ポリオレフィン微多孔フィルムの製造方法及び積層多孔フィルム」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。 (3a) 「【請求項1】 炉内を搬送される微細空孔を有する原料ポリオレフィンシートを、前記炉内の複数の延伸領域にてテンター延伸することにより、ポリオレフィン微多孔フィルムを製造する方法であって、 前記複数の延伸領域は、フィルム拡幅速度の異なる少なくとも2つの延伸領域を有し、当該少なくとも2つの延伸領域におけるフィルム拡幅速度が大きい延伸領域の温度が、フィルム拡幅速度が小さい延伸領域より低く、 且つ、最もフィルム拡幅速度が大きい延伸領域が、最もフィルム拡幅速度が小さい延伸領域より、前段に位置することを特徴とするポリオレフィン微多孔フィルムの製造方法。 ・・・ 【請求項5】 前記テンター延伸が一軸延伸である請求項1から4のいずれかに記載のポリオレフィン微多孔フィルムの製造方法。 【請求項6】 前記原料ポリオレフィンシートが、重量平均分子量50万以上の超高分子量ポリオレフィンと重量平均分子量2000以下のポリオレフィンワックスとからなる請求項1から5のいずれかに記載のポリオレフィン微多孔フィルムの製造方法。」 (3b) 「【0001】 本発明は、ポリオレフィン微多孔フィルムの製造方法に関する。更に詳しくは、非水電解液二次電池セパレータの構成部材として好適なポリオレフィン微多孔フィルムの製造方法に関するものである。」 (3c) 「【0024】 熱固定領域24では、延伸後の横幅F_(2)を保った状態で、所定の温度に加熱することにより、延伸フィルム11の熱的安定性を高めることができる。熱固定温度(熱固定領域24の雰囲気の温度)は、前段の延伸領域と同じでもよく、異なっていてもよいが、フィルムに延伸する際にかけた温度をはるかに超える温度がかかると延伸フィルムは収縮しやすくなるため、熱固定温度は、延伸温度と同じ温度から延伸温度よりも30℃高い温度までの温度範囲内であることが好ましい。」 (3d) 「【0077】 <原料ポリオレフィンシートの調製> 超高分子量ポリエチレン粉末(340M、三井化学社製、分子量320万)を70重量%および重量平均分子量1000のポリエチレンワックス(FNP-0115、日本精鑞社製)30重量%と、該超高分子量ポリエチレンとポリエチレンワックスとの合計量100重量部に対して、酸化防止剤(Irg1010、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)を0.4重量%、酸化防止剤(P168、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)を0.1重量%、ステアリン酸ナトリウムを1.3重量%を加え、更に全体積に対して38体積%となるように平均粒径0.1μmの炭酸カルシウム(丸尾カルシウム社製)を加え、これらを粉末のままヘンシェルミキサーで混合した後、二軸混練機で溶融混練してポリオレフィン樹脂組成物とした。該ポリオレフィン樹脂組成物を表面温度が150℃の一対のロールにて圧延しシートを作製した。このシートを塩酸水溶液(塩酸4mol/L、非イオン系界面活性剤0.5重量%)に浸漬し、炭酸カルシウムを溶解、除去し、原料ポリオレフィンシートを得た。 【0078】 テンター式延伸機として、株式会社市金工業社製の一軸延伸型テンター式延伸機を用いた。 ・・・」 (3e) 「【0081】 実施例1 レールパターンをパターン1に設定し、延伸領域Aの温度を95℃、延伸領域Bの温度を115℃、予熱領域及び熱固定領域の温度をそれぞれ120℃に設定して原料ポリオレフィンシートを延伸し、実施例1のポリオレフィン微多孔フィルムを得た。」 (3f) 「【0090】 【表2】 」 4 本件特許に係る出願の出願日前に頒布された甲第4号証には、「電池用セパレータ及びアルカリ一次電池」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。 (4a) 「【0014】 ・・・セパレータ製筒時の底部の剥離強度が150mN/mm^(2)以上確保できないと、セパレータ製筒時正極缶内にうまく挿入できない問題が生じる場合があり、また落下による衝撃に底部の接着部分が外れ、内部短絡を生じる可能性がある。」 第5 判断 1 申立理由1-1及び1-2について (1) 甲号証に記載された発明 ア 甲第1号証の前記(1a)の【請求項2】及び【請求項4】によれば、甲第1号証には、以下の発明が記載されていると認められる。 「高分子量ポリオレフィン、および重量平均分子量700?6000のポリオレフィンワックスを含む多孔質フィルムであって、該多孔質フィルム中に含まれる前記高分子量ポリオレフィンの重量をW1、重量平均分子量700?6000のポリオレフィンワックス重量をW2とし、前記高分子量ポリオレフィンの固有粘度を[η]とするとき、[η]が4?7.7であり、かつ下記式(1)を満たす多孔質フィルムを含む電池用セパレータ。 [η]×4.3-21< {W2/(W1+W2)}×100 < [η]×4.3-8 式(1)」(以下、「甲1発明」という。) イ 甲第2号証の前記(2a)及び(2c)によれば、甲第2号証には、以下の発明が記載されていると認められる。 「ポリオレフィンを含む多孔質層の少なくとも片面に、耐熱性材料を含む多孔質層が積層された積層多孔質フィルムであって、下記式(I)を満足する積層多孔質フィルムからなる非水電解液二次電池用セパレータ。 0.1136×α+0.0819×β+3.8034≧4.40 (I) α:積層多孔質フィルムの膜抵抗値(Ω・cm^(2)) β:耐熱性材料を含む多孔質層1m^(2)あたりに含まれる耐熱性材料の体積値(cc/m^(2))」(以下、「甲2発明」という。) (2) 本件発明1について ア 本件発明1と甲1発明又は甲2発明とを対比すると、当該甲1発明又は甲2発明のいずれにも、「ブロッキング試験で測定される剥離強度が0.2N以上であ」るとの特性、及び、「前記ブロッキング試験前の突刺強度に対する、前記ブロッキング試験後の突刺強度の変化率が15%以下であ」り、「前記ブロッキング試験は、80mm×80mmの2枚の前記非水電解液二次電池用セパレータを、100mm×100mmの治具で挟み込み、3.5kgの荷重をかけながら133℃±1℃の雰囲気下で30分静置した後、前記荷重を取り除き、室温まで冷却した後に、27mm×80mmの試験片に切り出し、当該試験片に対して100mm/minの条件で剥離強度を測定する試験である。」との特性(以下、まとめて「本件特性」という。)は記載されていない。 そして、この本件特性は、甲第1号証?甲第4号証のいずれにも記載も示唆もされていないし、甲第1号証?甲第4号証に記載された多孔質フィルムが、上記本件特性を有することを立証する証拠も提示されていない。 したがって、本件発明1は、甲1発明及び甲第3号証に記載された事項に基づいて、又は、甲2発明及び甲第1号証、甲第3号証、甲第4号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易になし得るものとはいえない。 イ 特許異議申立人の主張について (ア) 特許異議申立人は、特許異議申立書の18頁1行?21頁11行において、甲第1号証に記載の多孔質フィルムの製造方法において、「孔の形態を安定化するための熱固定」を、甲第3号証に記載されているように「延伸温度と同じ温度から延伸温度よりも30℃高い温度までの温度範囲内」で行うことは、当業者にとって設計事項の範囲であり、甲1発明に甲第3号証の記載事項を組み合わせて、本件発明1の多孔質フィルムを得ることは容易である旨、及び、特許異議申立書の21頁17行?22頁最下行において、甲第2号証に記載の多孔質フィルムの製造方法において、甲第1号証、甲第3号証に記載されるように「孔の形態を安定化するための熱固定処理を延伸温度と同じ温度から延伸温度よりも30℃高い温度までの温度範囲内」で行うことは、当業者にとって設計事項の範囲であるから、甲第1号証?甲第4号証の記載事項を組み合わせて、本件発明1の多孔質フィルムを得ることは容易である旨主張している。 (イ) しかし、本件特許明細書の【0036】及び【0015】によれば、本件発明1は、セパレータを構成する樹脂材料に応じて、延伸時の熱固定温度を調整することで、本件特性を有することができるものであり、それによって、耐電圧特性に優れるという効果を奏するものであるところ、甲第1号証?甲第4号証のいずれにも、セパレータを構成する樹脂材料に応じて、延伸時の熱固定温度を調製することで、本件特性を有するものとすること、及び、そうすることによって、耐電圧特性に優れるという効果が得られることは、何ら記載も示唆もされていない。 また、甲第1号証?甲第4号証に記載された製造方法によって製造された多孔質フィルムが、本件特性を有することを立証する証拠も提示されていない。 したがって、甲1発明に甲第3号証の記載事項を組み合わせて、本件発明1の多孔質フィルムを得ること、及び、甲第1号証?甲第4号証の記載事項を組み合わせて、本件発明1の多孔質フィルムを得ることは、いずれも当業者にとって容易であるとはいえない。 (ウ) なお、仮に、甲第1号証又は甲第2号証に記載の多孔質フィルムの製造方法において、「孔の形態を安定化するための熱固定処理を延伸温度と同じ温度から延伸温度よりも30℃高い温度までの温度範囲内」で行うことが、当業者にとって設計事項の範囲であるとしても、甲第1号証及び甲第2号証における延伸温度は、いずれも105℃(甲第1号証の【0052】?【0054】、甲第2号証の【0075】)であるから、熱固定温度は105℃?135℃の温度範囲となる。 ここで、上記(イ)の検討によれば、本件特性は、セパレータを構成する樹脂材料に応じて、延伸時の熱固定温度を調整することで得られるものであり、しかも、上記105℃?135℃との熱固定温度の温度範囲は、本件発明1の実施例1?3(【0094】?【0096】)における熱固定温度(126℃、115℃、120℃)よりも広い範囲であるから、この温度範囲において熱固定処理された多孔質フィルムが、本件特性を必ず有しているとはいえない。 (エ) 以上のとおりであるから、特許異議申立人の前記(ア)の主張は採用できない。 (3) 本件発明2?5について 本件発明2?5は、いずれも、本件発明1の全ての発明特定事項を有しているから、前記(2)で検討したのと同様の理由により、本件発明2?5は、甲1発明及び甲第3号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易になし得るものとはいえない。 (4) まとめ 以上のとおりであるから、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された事項に基づいて、又は、甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証、甲第3号証、甲第4号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないし、また、本件発明2?5は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 2 申立理由2について (1) 特許異議申立人は、特許異議申立書の24頁2行?25頁3行において、本件特許明細書の【0036】、【0037】に記載される製造方法は、例えば、甲第1号証、甲第3号証に記載されるように公知の製造方法であるといえるから、本件の実施例に記載の範囲のみが、発明の詳細な説明において開示された範囲であるといえ、出願時の技術常識に照らしても、請求項1に規定されるように、全ての「ポリオレフィン系樹脂を主成分とする多孔質フィルム」にまで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない旨主張している。 (2) しかし、本件発明1は、「ポリオレフィン系樹脂を主成分とする多孔質フィルム」が、本件特性を有することが特定されているから、全ての「ポリオレフィン系樹脂を主成分とする多孔質フィルム」を含み得るものではない。 そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0007】によれば、本件発明が解決しようとする課題は、「耐電圧特性に優れた非水電解液二次電池用セパレータ・・・を提供すること」であるところ、同【0033】、【0021】?【0022】、【0025】?【0026】の記載からすると、当業者であれば、本件特性を有する「ポリオレフィン系樹脂を主成分とする多孔質フィルム」が、上記課題を解決し得るものであることを認識できるといえ、同【0087】?【0103】の実施例の記載は、本件特性を有する「ポリオレフィン系樹脂を主成分とする多孔質フィルム」が、上記課題を解決できることを裏付けるものであるといえる。 そうすると、発明の詳細な説明の記載に照らして、当業者が上記課題を解決し得るものであると認識できる範囲のものは、本件発明1と相違しないから、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であるといえる。 また、本件発明2?5は、いずれも、本件発明1の全ての発明特定事項を有しているから、同様の理由により発明の詳細な説明に記載された発明であるといえる。 (3) 以上のとおり、本件特許の特許請求の範囲の記載は、発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえないから、特許異議申立人の前記(1)の主張は採用できない。 第6 むすび したがって、特許異議申立ての理由及び証拠方法によっては、請求項1?5に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2017-08-16 |
出願番号 | 特願2015-233942(P2015-233942) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
Y
(H01M)
P 1 651・ 121- Y (H01M) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 神野 将志 |
特許庁審判長 |
池渕 立 |
特許庁審判官 |
河本 充雄 土屋 知久 |
登録日 | 2016-10-21 |
登録番号 | 特許第6025958号(P6025958) |
権利者 | 住友化学株式会社 |
発明の名称 | 非水電解液二次電池用セパレータおよびその利用 |
代理人 | 長谷川 和哉 |
代理人 | 鶴田 健太郎 |