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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G03G 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G03G 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 G03G |
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管理番号 | 1331633 |
審判番号 | 不服2016-9709 |
総通号数 | 214 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-10-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-06-29 |
確定日 | 2017-09-05 |
事件の表示 | 特願2012- 27364「画像形成装置及び画像形成方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 6月27日出願公開、特開2013-127592、請求項の数(14)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成24年2月10日(優先権主張 平成23年3月18日(以下「優先日」という。)、同年11月14日)の出願であって、平成27年8月11日付けで拒絶理由が通知され、同年10月19日付けで手続補正がされ、平成28年3月18日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ(同査定の謄本の送達(発送)日 同年同月29日)、これに対し、同年6月29日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がされ、その後、当審において平成29年4月25日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年7月3日付けで手続補正がされたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1ないし14に係る発明は、平成29年7月3日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された事項により特定されるものと認められる。本願の請求項1ないし14に係る発明(以下、順に「本願発明1」ないし「本願発明14」という。)は以下のとおりである。 「【請求項1】 像担持体のトナー像を担持している面に当接して転写ニップを形成する転写部材と、前記転写ニップ内に挟み込んだ記録材に対して前記像担持体上のトナー像を転写するために電圧を出力する電源とを有し、 前記電圧として、表面凹凸が所定より大きな記録材に対して前記像担持体上のトナー像を転写する際に、前記トナー像を前記像担持体側から記録材側に転写させる転写方向の電圧と、前記転写方向の電圧と逆極性の電圧と、がゼロボルトを境に交互に切り替わるものであり、かつ、 前記電圧の時間平均値(Vave)が、前記トナー像を前記像担持体側から記録材側に転写させる転写方向の極性に設定され、かつ、前記電圧の最大値と最小値の中心値(Voff)よりも前記転写方向寄りに設定されたものを出力することを特徴とする画像形成装置。 【請求項2】 請求項1に記載の画像形成装置において、 前記電圧は、前記中心値(Voff)よりも前記転写方向寄りの値の電圧の出力時間をA、前記中心値(Voff)よりも前記転写方向とは逆極性寄りの値の電圧の出力時間をBとしたとき、 A>Bとなるように設定されていることを特徴とする画像形成装置。 【請求項3】 請求項2に記載の画像形成装置において、 前記電圧は、X=B/(A+B)としたとき、0.04≦X<0.40となるように設定されていることを特徴とする画像形成装置。 【請求項4】 請求項2または3に記載の画像形成装置において、 前記電源は、前記電圧における、前記転写方向側への電圧と逆極性の電圧の印加時間が、0.03msec以上となるように前記電圧を出力することを特徴とする画像形成装置。 【請求項5】 請求項2ないし4の何れか1つに記載の画像形成装置において、 前記電源は、周波数をf[Hz]、前記転写ニップの像担持体表面移動方向の長さであるニップ幅をd[mm]、前記像担持体の表面移動速度をv[mm/s]としたとき、 「f>(4/d)×v」を満たすように、前記電圧を出力することを特徴とする像形成装置。 【請求項6】 請求項2ないし5の何れか1つに記載の画像形成装置において、 前記電源は、直流成分と交流成分を重畳したものを前記電圧として出力するものであり、前記直流成分を定電流制御で出力するように構成されていることを特徴とする画像形成装置。 【請求項7】 請求項6記載の画像形成装置において、 前記電源は、前記交流成分の最大値から最小値までの電流(ピークツウピーク電流)の出力値を定電流制御して出力するように構成されていることを特徴とする画像形成装置。 【請求項8】 請求項5または6記載の画像形成装置において、 前記像担持体の表面移動速度の情報を取得する情報取得手段と、 前記情報取得手段による取得結果に応じて、予め設定された前記直流成分の出力電流の目標値を変更する変更手段を有することを特徴とする画像形成装置。 【請求項9】 像担持体のトナー像を担持している面に当接して転写ニップを形成する転写部材と、前記転写ニップ内に挟み込んだ記録材に対して前記像担持体上のトナー像を転写するために電圧を出力する電源とを有し、 表面凹凸が所定より大きな記録材に対して前記像担持体上のトナー像を転写する際に、前記トナー像を前記像担持体側から記録材側に転写させる転写方向の電圧と前記転写方向の電圧とは逆極性の電圧とをゼロボルトを境に交互に切り替え、前記トナー像を前記像担持体側から記録材側に転写させる転写方向の極性に電圧の時間平均値(Vave)を設定し、かつ、前記電圧の最大値と最小値の中心値(Voff)よりも転写方向寄りに設定した電圧を電源から出力することを特徴とする画像形成方法。 【請求項10】 請求項9に記載の画像形成方法において、 前記中心値(Voff)よりも転写方向寄りの値の電圧の出力時間をA、中心値(Voff)よりも転写方向とは逆極性寄りの値の電圧の出力時間をBとしたとき、A>Bとなるように設定した電圧を前記電源から出力することを特徴とする画像形成方法。 【請求項11】 請求項1に記載の画像形成装置において、 前記電圧として、表面凹凸が所定より小さな記録材に対して前記像担持体上のトナー像を転写する際に、直流電圧だけからなるものを出力することを特徴とする画像形成装置。 【請求項12】 請求項2に記載の画像形成装置において、 前記電圧は、X=B/(A+B)としたとき、0.04≦X≦0.32となるように設定されていることを特徴とする画像形成装置。 【請求項13】 請求項2に記載の画像形成装置において、 前記電圧は、X=B/(A+B)としたとき、0.08≦X≦0.32となるように設定されていることを特徴とする画像形成装置。 【請求項14】 請求項2に記載の画像形成装置において、 前記電圧は、X=B/(A+B)としたとき、0.08≦X≦0.16となるように設定されていることを特徴とする画像形成装置。」 第3 原査定の理由について 1.原査定の理由の概要 原査定は、平成27年8月11日付けの拒絶理由の理由3によるものであって、その概要は以下のとおりである。 「理由3.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 ・請求項 1,2,4-12,14-17 ・引用文献 1-4 <引用文献等一覧> 引用文献1 特開2011-13241号公報 引用文献2 特開2000-131961号公報 引用文献3 特開平2-300774号公報 引用文献4 特開2006-71954号公報」 2.原査定の理由の判断 (1)引用例 ア.引用例1 原査定に係る拒絶理由で引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2011-13241号公報(以下「引用例1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている(下線は審決で付した。以下同じ。)。 (ア)「【請求項1】 トナー像を担持して回転する像担持体と、 前記像担持体との間に記録材を挟持して記録材に対するトナー像の転写部を形成する転写部材と、 前記像担持体のトナー像を記録材へ転写するために、直流電圧に交流電圧を重畳した電圧を前記転写部に印加する電源と、を備えた画像形成装置において、 前記交流電圧の波形におけるトナーを記録材へ転写させる方向の電圧のデューティ比を50%未満の範囲に設定するように前記電源を制御する制御手段を備えたことを特徴とする画像形成装置。」 (イ)「【0028】 図2に示すように、像担持体(30)は、トナー像を担持して回転する。転写部材(50)は、像担持体(30)との間に記録材を挟持して記録材に対するトナー像の転写部(T2)を形成する。すなわち、二次転写ローラ50は、対向ローラ33に内側面を支持された中間転写ベルト30の湾曲面に当接して二次転写部T2を形成する。電源80が正極性の直流電圧を二次転写ローラ50に印加することによって、負極性に帯電して中間転写ベルト30に担持されたトナー像が記録材Pへ二次転写される。」 (ウ)「【0042】 図2を参照して図3に示すように、制御回路96は、画像形成がスタートされると、記録材の表面粗さが大きいほど交流電圧の波形におけるトナーを記録材へ転写させる方向の電圧のデューティ比を低下させる。これにより、トナーを飛翔させる電圧を高めて溝部の底へも十分なトナーの転写量を確保する。」 (エ)「【0051】 図4の(a)に示すように、紙種判定部92より出力紙が普通紙であるとの情報が入力された場合、制御回路96は、交流電圧の波形のデューティ比を50%とするように、デューティ比変更部83に信号を送る。 【0052】 図4の(b)に示すように、紙種判定部92より出力紙がエンボス紙であるとの情報が入力された場合、制御回路96は、交流電圧の波形のデューティ比を30%とするように、デューティ比変更部83に信号を送る。 【0053】 ここで、記録材Pがエンボス紙の場合に、普通紙の場合よりもデューティ比を下げる理由について説明する。表1は、上記の普通紙、エンボス紙に対し、画像形成装置100により画像形成した場合の、転写性、及び飛び散り性のレベルを比較している。 (中略) 【0055】 表1では、簡単のため、表面粗さの異なる記録材の種類は、代表的な1種類づつを示す。表中の転写性とは、中間転写ベルト30上のトナー量に対して、どの程度の量まで記録材P上に転写できたかのレベルを示す。表中の飛び散り性とは、中間転写ベルト30から記録材Pへ転写される際に、本来画像の無いところにトナーが飛翔してしまうことにより、画像を乱してしまう現象のレベルを示す。表1に示すように、交流電圧の波形のデューティ比を下げると、飛び散り性が悪化する。 【0056】 図5に示すように、トナーの飛び散りは、二次転写部T2の直前で中間転写ベルト30と記録材Pとが接触しないうちに、二次転写ローラ50に印加された電圧による転写電界がトナーを飛翔させることに起因する。そして、図4に示すように、デューティ比の低い交流電圧は、デューティ比の高い交流電圧に比較してトナーを記録材へ転写させる方向の電圧が高いため、二次転写部T2上流の遠い位置から、トナーが飛翔し始める。 【0057】 このため、デューティ比30%の交流電圧を含む電圧を二次転写ローラ50に印加した場合、デューティ比50%の交流電圧を含む電圧の場合よりもトナーの飛翔距離が長くなる。これにより、記録材P上の本来トナーが転写されるべき領域以外の位置にトナーが転写されてしまう確率が高くなり、飛び散り性が悪化する。 【0058】 しかし、表1に示されるように、エンボス紙においては、デューティ比の違いによる転写性の変化が大きく、デューティ比50%の交流電圧では、記録材表面の凹部(溝部)への転写性が十分でない。特に、複数色を重ねて発色を得る二次色の画像については、中間転写ベルト30の表面から遠い層の色しか転写されず、凹部と周囲の色が大きく異なってしまった。従って、エンボス紙に対しては、転写性の良好なデューティ比30%の交流電圧を用いることが妥当である。 【0059】 そこで、デューティ比30%の交流電圧を用いることで、エンボス紙に対する転写性を改善している。改善される理由は、中間転写ベルト30の表面から記録材Pへのトナーの飛翔性が高まるからである。中間転写ベルト30に一次転写されたトナーは、静電気力と物理的付着力によって中間転写ベルト30の表面に保持されている。また、二次転写ローラ50に印加されるトナーの帯電極性と逆極性の電圧がこれらの力に打ち勝った場合に、トナーが中間転写ベルト30の表面から離脱して記録材Pの表面へ移転する。このため、交流電圧の波形におけるトナーを記録材へ転写する方向の電圧のデューティ比を下げると、トナーを記録材へ転写する方向のピーク電圧が高くなるため、トナーが中間転写ベルト30から離脱し易くなる。」 (オ)「【0091】 実施例2では、電源80に対する電圧パラメータの変更はデューティ比及び振幅のみであり、実施例1と同様に、二次転写ローラ50に印加される電圧の直流電圧は1000Vであり、交流電圧の周波数は2kHzである。」 (カ)「【0104】 図9の(a)に示すように、紙種判定部92より出力紙が普通紙であるとの情報が入力された場合、制御回路96は、交流電圧の振幅を1300Vとするように振幅変更部85に信号を送る。また、交流電圧の波形のデューティ比を50%とするように、デューティ比変更部83に信号を送る。 【0105】 図9の(b)に示すように、紙種判定部92より出力紙がエンボス紙であるとの情報が入力された場合、制御回路96は、交流電圧の振幅を1300Vとするように振幅変更部85に信号を送る。また、交流電圧の波形のデューティ比を30%とするように、デューティ比変更部83に信号を送る。 【0106】 図9の(c)に示すように、紙種判定部92より出力紙がコート紙であるとの情報が入力された場合、制御回路96は、交流電圧の振幅を800Vとするように振幅変更部85に信号を送る。また、交流電圧の波形のデューティ比を50%とするように、デューティ比変更部83に信号を送る。」 (キ)「【0109】 表5では、簡単のため、各紙種は、代表的な1種類づつを示す。表5に示すように、コート紙においては、デューティ比を普通紙と同じ50%にしたまま、振幅を800Vに下げても良好な転写性が確認された。そして、交流電圧の振幅を下げることで、記録材へトナー像を転写する方向の最大電圧値が下がるため、飛び散り性が振幅1300の場合よりも改善された。 【0110】 ここで、交流電圧の振幅を下げる効果を確認するために、交流電圧の振幅を1300Vのまま、波形における記録材へトナー像を転写する方向の電圧のデューティ比を70%に上げて二次転写を行う実験を行った。振幅1300Vとデューティ比70%との組み合わせによれば、記録材へトナー像を転写する方向の最大電圧値が振幅800Vとデューティ比50%との組み合せと等しくなるからである。その結果、振幅1300Vとデューティ比70%との組み合わせでは、飛び散り性を改善することは可能であったが、転写性が悪化した。 【0111】 この理由は、実施例1でも述べたように、交流電圧における記録材へトナー像を転写する方向とは逆方向の電圧が900Vとなって、中間転写ベルト30に引き戻されるトナーが多くなるためである。また、交流電圧の振幅を下げると飛び散り性が改善する理由は、振幅が小さいほど記録材へトナー像を転写する方向の最大電圧が低いため、二次転写部T2の上流におけるトナーの飛翔が少なくなるためである。」 上記の記載事項を総合すると、引用例1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。 「トナー像を担持して回転する像担持体と、 前記像担持体との間に記録材を挟持して記録材に対するトナー像の転写部を形成する転写部材と、 前記像担持体のトナー像を記録材へ転写するために、直流電圧に交流電圧を重畳した電圧を前記転写部に印加する電源と、を備え、 制御回路は、記録材の表面粗さが大きいほど交流電圧の波形におけるトナーを記録材へ転写させる方向の電圧のデューティ比を低下させ、 エンボス紙においては、デューティ比50%の交流電圧では、記録材表面の凹部(溝部)への転写性が十分でなく、 転写性の良好なデューティ比30%の交流電圧を用いることで、エンボス紙に対する転写性を改善する 画像形成装置。」 イ.引用例2 原査定に係る拒絶理由で引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2000-131961号公報(以下「引用例2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。 (ア)「【0035】転写装置2は、無端状ベルトからなる転写ベルト20と、この転写ベルト20を張架した状態で感光ドラム1と同期して矢印B方向に回転走行するように支持する支持ロール21,22と、転写ベルト20に転写にトナー像のトナー帯電極性と逆極性の転写バイアスを一定電流となるように供給する定電流電源(バイアス電源)23と、この定電流電源23から出力される転写バイアスを転写ベルト20に印加する給電ロール24と、転写ベルト20に付着するトナー等を除去するクリーニングブレード25とでその主要部が構成されている。」 (イ)「【0060】また、図4に示すように、転写バイアスにおける基準電流Eは40μA(転写電流に相当)とした。平常時における転写バイアスのデューティー比Dは「100%」とした。これは、みかけ上は40μAの定電流バイアスに相当するものである。また、高湿時における転写バイアスのデューティー比Dは「33%」とした。ちなみに、この転写バイアスは、デューティー比の低下による転写むらの発生を防ぐ観点から、記録用紙Pが転写ニップ部N(ニップ幅10mm)を通過するに要する通過所要時間(この例ではニップ幅をプロセススピードで除した値:40ms)よりも十分に大きなものとなるように、その周波数を600Hzとした。従って、このときの転写バイアスの矩形パルスの周期Tは約1.7ms(=1/600)とした。なお、電源24には、感光ドラム1と記録用紙P間の過剰放電による転写不良が起こることを防止するため、出力電圧の最大値が600V以下になるようなリミッタを設けた。」 上記の記載事項を総合すると、引用例2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。 「転写ベルトと、転写ベルトにトナー像のトナー帯電極性と逆極性の転写バイアスを一定電流となるように供給する定電流電源(バイアス電源)と、この定電流電源から出力される転写バイアスを転写ベルトに印加する給電ロールと、クリーニングブレードとで主要部が構成され、 平常時における転写バイアスのデューティー比は「100%」とし、高湿時における転写バイアスのデューティー比は「33%」とし、 記録用紙が転写ニップ部(ニップ幅10mm)を通過するに要する通過所要時間(ニップ幅をプロセススピードで除した値:40ms)よりも十分に大きなものとなるように、転写バイアスの周波数を600Hzとし、 転写バイアスの矩形パルスの周期は約1.7ms(=1/600)とした 転写装置。」 ウ.引用例3 原査定に係る拒絶理由で引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平2-300774号公報(以下「引用例3」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。 (ア)「第1図は本発明の実施例を示す画像形成装置の、とくに転写部位近傍の部分を示す要部の概略側面図であって、紙面に垂直方向に延び、矢印A方向に回転する円筒状の感光体1の表面に、周知の画像形成プロセスによってトナー像Tが形成され、感光体1の回転にともなって、該トナー像が、感光体1と、これに圧接する転写ローラ3のニップ部たる転写部位に到達すると、このときまでに、転写材Pが、前記トナー像とタイミングをあわせて転写部位に到来し、さらに矢印B方向に搬送されるものとする。 転写ローラ3には、交流定電圧電源5、直流可変電圧電源6によって、芯金4を介して、交流に直流を重畳した波形の転写バイアスが印加され、よって形成される電界の作用で、感光体側1のトナー像は転写材Pに転移することになる。」(第2ページ右上欄第13行?左下欄第10行) (イ)「第6図は本発明の更に他の実施例を示すもので、前述の実施例と対応する部分には同一の符号を付して示してある。 転写ローラ3には、所定の正と負のピーク電圧を有し、夫々の出力時間(デューティ)を可変とした矩形波電源10によって転写バイアスが印加されるものとする。 第7a図ないし第7c図は、常温常湿、低温低湿、高温高湿環境における前記矩形波電源の出力電圧波形を示すもので、夫々のピーク電圧値を維持しながら転写材Pに一定の電荷が付与されるように正電圧、負電圧の印加時間(デューティ)が制御されるようになっている。」(第4ページ左下欄第1?13行) 上記の記載事項を総合すると、引用例3には、次の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されているものと認められる。 「転写ローラには、交流定電圧電源、直流可変電圧電源によって、交流に直流を重畳した波形の転写バイアスが印加され、 転写ローラには、所定の正と負のピーク電圧を有し、夫々の出力時間(デューティ)を可変とした矩形波電源によって転写バイアスが印加される 画像形成装置。」 エ.引用例4 原査定に係る拒絶理由で引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2006-71954号公報(以下「引用例4」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。 (ア)「【請求項1】 像坦持体と、 前記像坦持体に潜像を形成する潜像形成手段と、 前記潜像にトナー像を形成する複数色のカラー現像手段と、 前記像担持体上に形成されたカラートナー像を順次中間転写体上に多重転写する一次転写手段と、 残転写材の裏面に接触し前記中間転写体上のトナー像を前記転写材に二次転写する二次転写手段と、 前記二次転写手段にバイアスを印加する二次転写バイアス印加手段と、 前記二次転写手段に印加するバイアスを所定の値に制御する二次転写バイアス制御手段と、 前記二次転写バイアス印加手段によって印加されたバイアスから二次転写手段の出力値を検知する二次転写出力検知手段と、 前記二次転写バイアス制御手段は非画像形成時に二次転写手段にバイアスを印加し、前記二次転写出力検知手段は前記二次転写手段の出力値を検知し、前記検知された出力値から前記二次転写手段に印加する二次転写バイアス値を決定する多色画像形成装置において、 前記多色画像形成装置は、少なくとも2種類以上のプロセス速度を有し、 前記二次転写出力検知は前記2種類以上のプロセス速度の各々に対して実行する、 ことを特徴とする画像形成装置。」 (イ)「【0027】 実施例1 本実施例では、以上説明したような4連の感光体ドラムシステム構成において、二次転写バイアス制御に二次転写の出力検知方式を採用した。この二次転写バイアス制御の基本的なシーケンスを図4に示す。装置の電源ON時の立ち上げにおいて、高圧電源100により二次転写バイアスローラ22を所定の電圧値(本実施例では1000V)で定電圧制御し、この時に流れた電流値を電流検知手段101によって検知し、画像形成時には前記検知された電流値から演算処理された結果から得られた転写電流値で定電流制御するようにしたものである。この二次転写の出力電流値検知を行なっている際には、実際の二次転写を行なっている状態と同様の状態であるほうがより正確な検知ができることから、一次転写バイアスローラには所定の一次転写バイアス(本実施例では15μAの定電流制御)を印加していることが好ましい。」 上記の記載事項を総合すると、引用例4には、次の発明(以下「引用発明4」という。)が記載されているものと認められる。 「中間転写体上のトナー像を転写材に二次転写する二次転写手段と、 二次転写手段に印加するバイアスを所定の値に制御する二次転写バイアス制御手段とを有し、 装置の電源ON時の立ち上げにおいて、高圧電源により二次転写バイアスローラを所定の電圧値で定電圧制御し、この時に流れた電流値を電流検知手段によって検知し、画像形成時には前記検知された電流値から演算処理された結果から得られた転写電流値で定電流制御する 画像形成装置。」 (2)対比 本願発明1と引用発明1とを対比する。 後者の「像担持体」は、その構造、機能、作用等からみて、前者の「像担持体」に相当し、同様に「トナー像」は「トナー像」に、「転写部」は「転写ニップ」に、「転写部材」は「転写部材」に、「記録材」は「記録材」に、「電源」は「電源」に、「画像形成装置」は「画像形成装置」に、それぞれ相当する。 転写部材が像担持体との間に記録材を挟持する際に、像担持体のトナー像を担持する面に当接することは明らかであるから、後者の「転写部材」が「像担持体との間に記録材を挟持して記録材に対するトナー像の転写部を形成する」点は、前者の「転写部材」が「像担持体のトナー像を担持している面に当接して転写ニップを形成する」点に相当する。 転写部材が像担持体との間に記録材を挟持して記録材に対するトナー像の転写部を形成するのだから、転写の際に記録材が転写部に挟持されることは明らかであって、後者の「電源」が「像担持体のトナー像を記録材へ転写するために、電圧を転写部に印加する」点は、前者の「電源」が「転写ニップ内に挟み込んだ記録材に対して像担持体上のトナー像を転写するために電圧を出力する」点に相当する。 したがって、両者は、 「像担持体のトナー像を担持している面に当接して転写ニップを形成する転写部材と、前記転写ニップ内に挟み込んだ記録材に対して前記像担持体上のトナー像を転写するために電圧を出力する電源とを有する画像形成装置。」 の点で一致し、以下の点で相違している。 [相違点] 前者では、電圧として、「表面凹凸が所定より大きな記録材に対して像担持体上のトナー像を転写する際に、前記トナー像を前記像担持体側から記録材側に転写させる転写方向の電圧と、前記転写方向の電圧と逆極性の電圧と、がゼロボルトを境に交互に切り替わるものであり、かつ、前記電圧の時間平均値(Vave)が、前記トナー像を前記像担持体側から記録材側に転写させる転写方向の極性に設定され、かつ、前記電圧の最大値と最小値の中心値(Voff)よりも前記転写方向寄りに設定されたものを出力する」のに対して、後者はそのようなものでない点。 (3)判断 上記相違点について検討する。 引用例1には、実験として、転写部に印加される電圧の直流電圧を1000Vとし、交流電圧の振幅を1300Vのまま、波形における記録材へトナー像を転写する方向の電圧のデューティ比を70%に上げて二次転写を行い、交流電圧における記録材へトナー像を転写する方向とは逆方向の電圧を900Vとしたものが記載されている(以下「実験例」という。段落【0091】及び【0109】ないし【0111】。上記(1)ア.(オ)及び(キ)参照。)。 本実験例においては、転写部に印加される電圧の直流電圧は1000V、交流電圧の振幅は1300V、波形における記録材へトナー像を転写する方向の電圧のデューティ比は70%、交流電圧における記録材へトナー像を転写する方向とは逆方向の電圧は900Vであるから、本実験例における電圧の時間平均値(Vave)及び電圧の最大値と最小値の中心値(Voff)はそれぞれ以下のようになる。 電圧の時間平均値(Vave):(1000V+(1300V-900V))*(70/100)+(1000V-900V)*(1-70/100)=1010V 電圧の最大値:1000V+(1300V-900V)=1400V 電圧の最小値:1000V-900V=100V 電圧の最大値と最小値の中心値(Voff):(1400V+100V)/2=750V そうすると、本実験例においては、電圧の時間平均値(Vave)が正の値であるから、電圧の時間平均値(Vave)がトナー像を像担持体側から記録材側に転写させる転写方向の極性に設定されているといえ、また、電圧の時間平均値(Vave)が電圧の最大値と最小値の中心値(Voff)より大きいから、電圧の時間平均値(Vave)が電圧の最大値と最小値の中心値(Voff)よりも転写方向寄りに設定されているといえる。 しかしながら、引用発明1が、「制御回路は、記録材の表面粗さが大きいほど交流電圧の波形におけるトナーを記録材へ転写させる方向の電圧のデューティ比を低下させ、エンボス紙においては、デューティ比50%の交流電圧では、記録材表面の凹部(溝部)への転写性が十分でなく、転写性の良好なデューティ比30%の交流電圧を用いることで、エンボス紙に対する転写性を改善する」ものであるのに対して、上記実験例においては、デューティ比を70%に上げた場合に、転写性が悪化している(段落【0110】。上記(1)ア.(キ)参照。)。 そうすると、引用発明1においては転写性の良好なデューティ比として50%と対照した上で30%を選択している一方、上記実験例においてデューティ比を70%に上げた場合には転写性が悪化することが示されているのだから、引用発明1において、デューティ比として30%や50%を上回る値である70%を選択する動機付けはなく、むしろ阻害要因があるといえる。してみると、引用発明1において上記実験例の記載事項を採用することによって、電圧の時間平均値(Vave)をトナー像を像担持体側から記録材側に転写させる転写方向の極性に設定するとともに、電圧の時間平均値(Vave)を電圧の最大値と最小値の中心値(Voff)よりも転写方向寄りに設定することは、当業者が容易になし得たこととはいえない。 また、引用発明2ないし4も、上記相違点に係る本願発明1の発明特定事項を備えるものではない。 そして、本願発明1は、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項を具備することにより、「従来のように中心値(Voff)と時間平均値(Vave)が等しい正弦波や対称矩形波状の電圧を用いる場合に比べて、転写方向の電圧と逆極性の電圧(Vt)を小さく抑えたまま、必要な転写方向の電圧(Vr)と十分な時間平均値(Vave)が得られ、記録材表面の凹部と凸部とでそれぞれ十分な画像濃度を得ながら、白点の発生を抑えることができ、良好な画像をえることができる。」(段落【0018】)という作用効果を奏するものである。 また、上記相違点に係る本願発明1の発明特定事項が、当業者にとって設計事項であるとする根拠もない。 したがって、本願発明1は、当業者が引用発明1ないし4に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。 (4)まとめ 以上のとおり、本願発明1は、当業者が引用発明1ないし4に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。 本願発明2ないし8及び11ないし14は、本願発明1をさらに限定したものである。また、本願発明9は、本願発明1のカテゴリーを変更して「画像形成方法」としたものであって、本願発明10は本願発明9をさらに限定したものである。 そうすると、本願発明2ないし14は、本願発明1と同様に、当業者が引用発明1ないし4に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。 よって、本願については、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。 第4 当審拒絶理由について 1.当審拒絶理由の概要 「本件出願は、明細書、特許請求の範囲及び図面の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号及び第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 記 (1)請求項3における「X」の数値範囲が、明細書のどのような記載に対応するのかが不明である。 よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項3に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。 (2)請求項4における「X」の数値範囲と実施例8との関係が不明である。 よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項4に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。 (3)請求項4での「X」の数値範囲と請求項13ないし15での「X」の数値範囲とは、明細書及び上記意見書の記載によればともに実施例8に基づくものであるにもかかわらず、両者の数値範囲の上限及び下限にはズレがあって、一方の数値範囲が他方の数値範囲を包含するような関係にはなっていない。このため、各数値範囲の上限及び下限にどのような技術的意味があるのかが明らかでない。請求項3の数値範囲と請求項13の数値範囲にも同様のズレがあり、各数値範囲の上限及び下限にどのような技術的意味があるのかが明らかでない。 また、例えば、図32記載の実施例7と、図35記載の実施例10は、ともに戻し時間が16%で共通する一方、「転写方向の電圧と逆極性の電圧」及び「転写方向の電圧」の波形が前者は「三角波-台形波」であるのに対して後者は「三角波-台形波 丸め」である点で相違するものである。そして、図32記載の実施例7の効果と、図35記載の実施例10の効果とを対比すると、両者は画像濃度の評価結果である○△×の分布が異なっているから、一般に、画像濃度は戻し時間(すなわち、「X」の値)の大小だけでなく、上記の各電圧の波形等によっても変化するものと認められる。そうすると、請求項3、4、13ないし15は各電圧の波形等がどのような場合の「X」の数値範囲であるのかを特定するための発明特定事項が不足している。 よって、請求項3、4及び13ないし15に係る発明は明確でない。」 2.当審拒絶理由の判断 平成29年7月3日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)により、本件補正前の請求項3は上記「第2 本願発明」において摘示した請求項3のとおりに補正された。また、本件補正前の本願の請求項4は削除され、請求項5ないし15はそれぞれ請求項4ないし14に繰り上げられた。 また、平成29年7月3日提出の意見書において、「0.04≦X<0.40という発明特定事項を有することで、波形の形状を特定しなくとも、「成立範囲が広がっていることで」「良好な画像を得られる」(0094段落参照)という作用効果を得ることができます。」と釈明されたことにより、請求項3及び12ないし14に係る発明の作用効果が波形の形状にかかわらないものであることが明らかになった。 これらのことにより、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項3に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとなった。また、請求項3及び12ないし14に係る発明は明確となった。 よって、当審拒絶理由は解消した。 第5 むすび 以上のとおりであるから、原査定の理由及び当審拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2017-08-18 |
出願番号 | 特願2012-27364(P2012-27364) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(G03G)
P 1 8・ 536- WY (G03G) P 1 8・ 537- WY (G03G) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 佐藤 孝幸 |
特許庁審判長 |
黒瀬 雅一 |
特許庁審判官 |
森次 顕 畑井 順一 |
発明の名称 | 画像形成装置及び画像形成方法 |
代理人 | 本多 章悟 |
代理人 | 工藤 修一 |