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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01R
管理番号 1331688
審判番号 不服2017-1081  
総通号数 214 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-10-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-01-25 
確定日 2017-09-05 
事件の表示 特願2012-240799号「コネクタ」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 5月19日出願公開、特開2014- 93121号、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年10月31日の出願であって、平成27年10月1日に手続補正書が提出され、平成28年5月20日付けで拒絶の理由が通知され、同年7月20日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年11月21日付けで拒絶査定(発送日:同年11月29日)がなされ、これに対し、平成29年1月25日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がされたものである。

第2 原査定の概要
平成28年11月21日付け拒絶査定(以下、「原査定」という。)の概要は次のとおりである。

〔原査定の概要〕
本願の請求項1に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明と、引用文献2又は引用文献3のいずれかに記載された発明とに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献
1.国際公開第2012/144326号
2.特開平7-231165号公報
3.特開2005-259801号公報

第3 審判請求時の手続補正について
審判請求時の手続補正は、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。
審判請求時の手続補正による特許請求の範囲の補正は、請求項1の「第1基材」、「第2基材」、「第3基材」について、「ガラス入りエポキシ製である」という事項を追加するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえ、また、これらの事項は当初明細書の段落【0020】、【0022】、【0024】に記載されているから、新規事項を追加するものではない。
そして、「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように、補正後の請求項1、2に係る発明は、独立特許要件を満たすものである。

第4 本願発明
本願の請求項1、2に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」、「本願発明2」という。)は、平成29年1月25日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定される発明であり、次のとおりのものである。
「【請求項1】
隔壁で区画される気密チャンバの内側及び外側を電気的に相互接続するために用いられ、隔壁に形成された、気密チャンバの内部と外部とを貫通する開口部を塞ぐコネクタであって、
前記開口部を塞ぐ多層基板を備え、
該多層基板は、平板状の第1基材と、該第1基材の内表面側に配置されて前記開口部を塞ぐ平板状の第2基材と、前記第1基材の外表面側に配置される平板状の第3基材とを備え、
前記第1基材は、該第1基材の内表面及び外表面との間を貫通する貫通孔の内周面に前記内表面と外表面との間を延びる第1導電めっきを施してなる第1スルーホールを有するとともに、前記第1基材の内表面に設けられた、前記第1導電めっきの内表面側に接続された第1導電層と、前記第1基材の外表面に設けられた、前記第1導電めっきの外表面側に接続された第2導電層とを備え、
前記第2基材は、該第2基材の内表面及び外表面との間を貫通する貫通孔の内周面に前記第2基材の内表面と外表面との間を延びる第2導電めっきを施してなる第2スルーホールを有するとともに、前記第2基材の内表面に設けられた、前記第2導電めっきの内表面側に接続された第3導電層を備え、
前記第3基材は、該第3基材の内表面及び外表面との間を貫通する貫通孔の内周面に前記第3基材の内表面と外表面との間を延びる第3導電めっきを施してなる第3スルーホールを有するとともに、前記第3基材の外表面に設けられた、前記第3導電めっきの外表面側に接続された第4導電層を備え、
前記第2基材の外表面を前記第1基材の内表面に接するように配置して前記第2基材によって前記第1スルーホールの内表面側を塞ぐとともに、前記第1導電層と前記第2導電めっきの外表面側とを接続し、
前記第3基材の内表面を前記第1基材の外表面に接するように配置して前記第3基材によって前記第1スルーホールの外表面側を塞ぐとともに、前記第2導電層と前記第3導電めっきの内表面側とを接続し、
前記第1基材、前記第2基材及び前記第3基材は、ガラス入りエポキシ製であることを特徴とするコネクタ。
【請求項2】
前記第1スルーホールが、樹脂で充填されていることを特徴とする請求項1に記載のコネクタ。」

第5 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、「コネクタおよびコネクタの製造方法」に関し、図面(特に、図6、図8)とともに次の事項が記載されている。
なお、下線は当審で付与した。以下同様。


「[0001]
本発明は、高い気密性を有する装置における電気接続を担うコネクタおよびこのコネクタの製造方法に関する。」

「[0019]
図1から図6に示すコネクタ1は、例えば減圧環境を作り出すチャンバのように高い気密性が求められる装置における電気接続を担う気密コネクタである。コネクタ1は、絶縁基板11と、絶縁基板11に接続されたコンタクト部材12,13とを備えている。」

「[0020]
絶縁基板11は、絶縁材料で形成された板材である。絶縁材料は例えばガラスエポキシ樹脂である。ただし、絶縁基板11の材料にはガラスエポキシ樹脂以外にも、例えばフェノール樹脂に代表される樹脂、ガラス、およびセラミックスが採用可能である。また、「絶縁基板」には、金属製基板の貫通孔を含む一部表面に絶縁層が形成されたものも含まれる。絶縁基板11には、表面11aから裏面11bまで貫通した貫通部111が設けられている。貫通部111は、図6に示すように、表面11aから裏面11bまで貫通した貫通孔111hを気密に塞いでおり導電性を有する。図に示すコネクタ1は、4極コネクタである。コネクタ1の絶縁基板11には4つの貫通部111が配列されている。貫通部111は金属メッキ膜112および封止材113からなる。より詳細には、貫通孔111hの内壁面は金属メッキ膜112で覆われており、金属メッキ膜112で覆われた貫通孔111h内に封止材113が充填されている。金属メッキ膜112の材料は例えば銅であり、封止材113は錫を主成分とする半田である。ただし、金属メッキ膜112の材料には、銅以外の金属も採用可能であり、封止材113の材料には、アルミや銀を主成分とする合金も採用可能である。封止材113は、金属メッキ膜112に密着しているため、絶縁基板11の表面11aと裏面11bとに圧力差が生じても表面11aから裏面11bに、又は裏面11bから表面11aに気体が抜けるような隙間が生じない。」

「[0021]
絶縁基板11の表面11aおよび裏面11bには、金属メッキ膜112に接続された導電パッド114a,114bがそれぞれ設けられている。導電パッド114a,114bは金属メッキ膜112と同じ材料で形成されており、金属メッキ膜112から続いて表面11aおよび裏面11bのそれぞれに広がっている。金属メッキ膜112および導電パッド114a,114bによって、導体トレースTが構成されている。導体トレースT、すなわち金属メッキ膜112および導電パッド114a,114bは、貫通孔111hが形成された絶縁基板11に、メッキ処理によって一体のメッキ膜として形成される。」

「[0031]
図8に示す装置2は、圧力や組成が調整された雰囲気中で動作するチャンバ装置である。より詳細には、装置2は、隔壁21、内部回路基板22、外部回路基板23、そして、図1?図6に示すコネクタ1を備えている。」

「[0032]
隔壁21は、外部の空間と内部の空間とを仕切る容器である。隔壁21の内部には、内部回路基板22が配置されている。内部回路基板22には減圧または加圧された雰囲気中で動作する電子部品や機構装置が実装されている。隔壁21には、電気配線用の配線孔21hが設けられている。コネクタ1は絶縁基板11で配線孔21hを塞ぐようにして隔壁21に取り付けられる。コネクタ1の絶縁基板11と隔壁21との間には、シール材(図示せず)が充填される。」

「[0033]
外部回路基板23は隔壁21の外部に配置されており、内部回路基板22に電源を供給するとともに、内部回路基板22を制御する。内部回路基板22と外部回路基板23とは、コネクタ1が接続される相手部品である。内部回路基板22と外部回路基板23とは、コネクタ1を介して互いに電気的に接続されている。内部回路基板22および外部回路基板23は、コネクタ1のコンタクト部材12,13を絶縁基板11に向かって押圧するよう、隔壁21に保持されている。」

上記記載事項及び図示内容を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
〔引用発明1〕
「高い機密性が求められるチャンバ装置において、内部回路基板22と外部回路基板23との電気接続を担い、チャンバ装置の隔壁21に設けられる電気配線用の配線孔21hを塞ぐように隔壁21に取り付けられる、コネクタ1であって、
前記配線孔21hを塞ぐ絶縁基板11を備え、
前記絶縁基板11は、表面11aから裏面11bまで貫通する貫通孔111hを有し、該貫通孔111hの内壁面は金属メッキ膜112で覆われ、
前記絶縁基板11の表面11aおよび裏面11bに設けられる導電パッド114a、114bは、前記金属メッキ膜112に接続されており、
前記貫通孔111hは、封止材113が充填され、
前記絶縁基板11はガラスエポキシ樹脂である、コネクタ1。」

2.引用文献2について
同じく、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、「多層配線基板及びその製造方法」に関し、図面(特に、図1)とともに次の事項が記載されている。


「【0012】
【実施例1】以下に、本発明の一実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。図1には、本実施例における多層配線基板が示されている。この多層配線基板は、3つの両面配線基板1からなる。各両面配線基板1は、表面と裏面に配線パターンを有し、両配線パターンは、配線基板に形成されたスルーホール内表面に施されたスルーホール銅めっき6によって電気的に接続されている。そして、多層配線基板は、上記両面配線基板1が積層され、表面配線パターン2と、層間配線パターン3と、裏面配線パターン4と、各両面配線基板1を機械的及び電気的に接合するAu-Sn接合層5とを有している。
【0013】以下に、上記多層配線基板の製造方法を説明する。まず、複数の両面配線基板1を個々に製造する。ここで、両面配線基板の初期材料として用いられる材料は、銅貼ガラスエポキシ板、銅貼ガラスホリイミド板又は厚膜配線印刷セラミック板等のいずれでも良い。」

「【0015】次に、上記のようにして製造された各両面配線基板1は、以下のように接合される。図2には、多層配線基板の接合部の拡大図が示されている。この図2には図示されていないが、予め各両面配線基板1の各配線パターン上には、0.1?1.0μmの厚さのAuめっきが、無電解めっき及び電気めっきの両方法を用いることによって施されている。このAuめっきは、微細な銅配線パターンの耐食性を向上させることを目的として、超高密度のモジュール基板に多用されている。・・・
【0016】そして、両面配線基板1の接合面の一方の上記Auめっき上にSnめっきを部分的に施し、Snめっき層9を形成する。Snめっきは、電気Snめっきや化学Snめっき等、いずれの方法を用いても良く、めっき不要部へめっきレジストを塗布したり、永久ソルダーレジスト8を塗布(接合ろう材の流れを食い止めるためのダムの役割を果たす)することによって部分的にめっきを施すことができる。・・・ 」

「【0017】以上のように両面配線基板1の接合面を処理した後、両面配線基板1同士を加熱・加圧してAu─Sn共晶合金法を用いて接合する。ところが、この際、以下のような問題がある。すなわち、多層配線基板の多くは、上述したガラスエポキシやガラスホリイミド等からなるため熱に非常に弱いという問題がある。したがって、低温で接合しないと接合温度で基板材料の劣化、例えば、基板の軟化による銅配線パターンの剥離、スルーホール銅めっきの剥離及び基板自身の熱劣化等が生じる。」
(当審注:上記クの段落【0013】、上記コの段落【0017】の「ホリイミド」との記載は「ポリイミド」の誤記と認められ、以下「ポリイミド」として取り扱う。)

上記記載事項及び図示内容からみて、引用文献2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
〔引用発明2〕
「3つの両面配線基板1からなる多層配線基板であって、
両面配線基板1の初期材料は、銅貼ガラスエポキシ板、銅貼ガラスポリイミド板又は厚膜配線印刷セラミック板等であり、
両面配線基板1は、表面と裏面に配線パターンを有し、両配線パターンは、配線基板に形成されたスルーホール内表面に施されたスルーホール銅めっき6によって電気的に接続され、積層された両面配線基板1の表面配線パターン2と、層間配線パターン3と、裏面配線パターン4と、各両面配線基板1を、各両面配線基板1の各配線パターン上に形成されたAu-Sn接合層5により機械的及び電気的に接合する、多層配線基板。」

3.引用文献3について
同じく、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には、「多層ガラス基板の製造方法」に関し、図面(特に、図1、図2)とともに次の事項が記載されている。


「【請求項1】
第一主面と第二主面とを接続するためのスルーホールが形成され、前記スルーホールの内壁面と、前記第一主面のスルーホール開口部周囲を含む近傍の面と前記第二主面のスルーホール開口部周囲を含む近傍の面に導電膜が形成されたガラス基板の複数枚を重ねて、加熱加圧して相互に接着することを特徴とする多層ガラス基板の製造方法。」

「【0014】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、スルーホールがあっても気密性を確保した多層ガラス基板の製造方法を提供することを目的とする。」

「【0026】
ガラス基板1a、1bのスルーホール2a、2bの内壁5とガラス基板1a、1bのそれぞれの第一主面10と第二主面11とのスルーホール2a、2b開口部周囲6近傍の面に真空蒸着またはスパッタリングなどにより3a、3b、3cから成る導体膜3を形成する(図2(b)参照)。尚、導体膜3a、3bは、要求される配線パターンに応じたパターンに形成される。配線パターンの形成には、フォトレジスト法その他の適宜の配線パターンの形成法が採用し得る。ここで導体膜3a、3b、3cの一連に連なった導体膜を説明の便宜上まとめて3と表現しているが、図2中では符号3は付するのを省略した。
【0027】
このとき、接着される各ガラス基板1aの第二主面11とガラス基板1bの第一主面10に形成される導体膜3a、3bとガラス基板1a、1bとの熱圧着の際の接着性が良好なことから、導体膜の素材としてはチタンあるいは銅が望ましい。
【0028】
かくして得られたガラス基板1a、1bを圧着金型4を用いて好ましくはガラスの徐冷点より高く軟化点未満程度の温度に加熱しながら加圧する(図2(c)参照)。
【0029】
この場合、通常、ガラス基板1aの第二主面11に、ガラス基板1bの導体膜3aが接着し、ガラス基板1bの第一主面10に、ガラス基板1aの導体膜3bが接着する。ガラス基板1aの第二主面11上の導体膜3bとガラス基板1bの第一主面10上の導体膜3aとが重なり合う部分は導体膜3bと導体膜3aとが接触し導通される。この導体膜3bと導体膜3aとが接触し導通された導体膜をまとめて導体膜3a+bで示した。(図2(d)参照)。」

「【0031】
主に、一つのガラス基板上に形成されている導体膜とそれと対面している他方のガラス基板の面とが加熱加圧により接着するのは、導体膜の方がガラス材料より熱伝導性がよく、圧着金型4の熱が、導体膜を通して伝導しやすくなるためと考えられる。この加熱加圧接着により、一つのガラス基板のスルーホール開口部周囲を含む近傍の面の導体膜と対面している他方のガラス基板の面と密着して接着するので、スルーホール開口部から接着面へのガスの流路は遮断され多層基板の気密性が保たれる。」

「【0036】
また、上記図1、図2を用いて説明した実施の形態例は、ガラス基板2枚を接着する例を示して説明したが、ガラス基板3枚以上からなる更に多層のガラス基板を同様にして製造することもできる。」

上記ソの記載によれば、上記サ?セに記載されている2枚のガラス基板1a、1bの接着構造を3枚のガラス基板にも同様に用いうると認められ、便宜的に、3枚目のガラス基板を「1c」と認定すると、上記記載事項及び図示内容からみて、引用文献3には、次の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。
〔引用発明3〕
「第一主面10と第二主面11とを接続するための複数のスルーホール2a、2bが形成され、前記スルーホール2a、2bの内壁面5と、前記第一主面10のスルーホール開口部周囲を含む近傍6の面と前記第二主面11のスルーホール開口部周囲を含む近傍6の面に導電膜3a、3b、3cが形成されたガラス基板であって、
前記ガラス基板1a、1b、1cの3枚を重ね、ガラスの徐冷点より高く軟化点未満程度の温度で熱圧着することにより、
ガラス基板1aの第二主面11に、ガラス基板1bの第一主面10に形成された導体膜3aが接着し、ガラス基板1bの第一主面10に、ガラス基板1aの第二主面に形成された導体膜3bが接着し、ガラス基板1bの第二主面11に、ガラス基板1cの第1主面10に形成された導体膜3aが接着し、ガラス基板1cの第一主面10に、ガラス基板1bの第二主面に形成された導体膜3bが接着する、多層ガラス基板。」

第6 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。

引用発明1の「高い機密性が求められるチャンバ装置」は、「隔壁21」を有するものであるので、本願発明1の「隔壁で区画される気密チャンバ」に相当する。

引用発明1の「チャンバ装置の隔壁21に設けられる電気配線用の配線孔21h」は本願発明1の「隔壁に形成された、気密チャンバの内部と外部とを貫通する開口部」に相当する。

引用発明1の「内部回路基板22と外部回路基板23との電気接続を担い、チャンバ装置の隔壁21に設けられる電気配線用の配線孔21hを塞ぐように隔壁21に取り付けられる、コネクタ1」は、本願発明1の「気密チャンバの内側及び外側を電気的に相互接続するために用いられ、隔壁に形成された、気密チャンバの内部と外部とを貫通する開口部を塞ぐコネクタ」に相当する。

引用発明1の「配線孔21hを塞ぐ絶縁基板11」は、本願発明1の「開口部を塞ぐ多層基板」と、「開口部を塞ぐ基板」である限りにおいて一致する。

そうすると、本願発明1と引用発明1とは、次の一致点、相違点を有するものといえる。
[一致点]
「隔壁で区画される気密チャンバの内側及び外側を電気的に相互接続するために用いられ、隔壁に形成された、気密チャンバの内部と外部とを貫通する開口部を塞ぐコネクタであって、
前記開口部を塞ぐ基板を備えた、コネクタ。」

[相違点]
「開口部を塞ぐ基板」について、本願発明1では、「多層基板」であって、「多層基板は、平板状の第1基材と、該第1基材の内表面側に配置されて前記開口部を塞ぐ平板状の第2基材と、前記第1基材の外表面側に配置される平板状の第3基材とを備え、前記第1基材は、該第1基材の内表面及び外表面との間を貫通する貫通孔の内周面に前記内表面と外表面との間を延びる第1導電めっきを施してなる第1スルーホールを有するとともに、前記第1基材の内表面に設けられた、前記第1導電めっきの内表面側に接続された第1導電層と、前記第1基材の外表面に設けられた、前記第1導電めっきの外表面側に接続された第2導電層とを備え、前記第2基材は、該第2基材の内表面及び外表面との間を貫通する貫通孔の内周面に前記第2基材の内表面と外表面との間を延びる第2導電めっきを施してなる第2スルーホールを有するとともに、前記第2基材の内表面に設けられた、前記第2導電めっきの内表面側に接続された第3導電層を備え、前記第3基材は、該第3基材の内表面及び外表面との間を貫通する貫通孔の内周面に前記第3基材の内表面と外表面との間を延びる第3導電めっきを施してなる第3スルーホールを有するとともに、前記第3基材の外表面に設けられた、前記第3導電めっきの外表面側に接続された第4導電層を備え、前記第2基材の外表面を前記第1基材の内表面に接するように配置して前記第2基材によって前記第1スルーホールの内表面側を塞ぐとともに、前記第1導電層と前記第2導電めっきの外表面側とを接続し、前記第3基材の内表面を前記第1基材の外表面に接するように配置して前記第3基材によって前記第1スルーホールの外表面側を塞ぐとともに、前記第2導電層と前記第3導電めっきの内表面側とを接続し、前記第1基材、前記第2基材及び前記第3基材は、ガラス入りエポキシ製である」のに対して、
引用発明1では、1層の「絶縁基板11」であり、「絶縁基板11は、表面11aから裏面11bまで貫通する貫通孔111hを有し、該貫通孔111hの内壁面は金属メッキ膜112で覆われ、前記絶縁基板11の表面11aおよび裏面11bに設けられる導電パッド114a、114bは、前記金属メッキ膜112に接続されており、前記貫通孔111hは、封止材113が充填され、前記絶縁基板11はガラスエポキシ樹脂である」点。

(2)相違点についての判断

(ア) 引用発明2及び引用発明3の多層基板は、3層からなる多層基板であって、本願発明1の多層基板の積層方向における電気的に導通させるためのスルーホール及び導電層に係る特定事項、すなわち、上記相違点の内、前半の「平板状の第1基材と、該第1基材の内表面側に配置されて前記開口部を塞ぐ平板状の第2基材と、前記第1基材の外表面側に配置される平板状の第3基材とを備え、…(略)…、前記第3基材の外表面に設けられた、前記第3導電めっきの外表面側に接続された第4導電層を備え」るとの事項と、格別にその構造が異なるものではない。
そこで、相違点の内、後半の「前記第2基材の外表面を前記第1基材の内表面に接するように配置して前記第2基材によって前記第1スルーホールの内表面側を塞ぐとともに、前記第1導電層と前記第2導電めっきの外表面側とを接続し、前記第3基材の内表面を前記第1基材の外表面に接するように配置して前記第3基材によって前記第1スルーホールの外表面側を塞ぐとともに、前記第2導電層と前記第3導電めっきの内表面側とを接続し、前記第1基材、前記第2基材及び前記第3基材は、ガラス入りエポキシ製である」点について、検討する。
(イ) 上記後半の特定事項は、要するに、第1基材、第2基材及び第3基材がガラス入りエポキシ製であり、第1基材の外表面に、第3基材の内表面が、第1基材の内表面に第2基材の外表面が「接するように配置」され、且つ、第2基材および第3基材により、第1スルーホールの内表面および外表面を「塞ぐ」ことを特定しており、結局、基材の内外表面が接するように配置されていること、スルーホールの内外表面が第2、第3基材により塞がれている点に特徴のあるものと認められる。

まず、引用発明2について検討する。
(ア) 引用発明2は多層配線基板を示すに留まり、引用文献2の記載を参照しても、多層配線基板をその表側と裏側との間で気密性を必要とする箇所に用いることは何ら記載も示唆もされていない。
してみると、引用発明1のチャンバ装置の配線孔21hを塞ぐ絶縁基板11に、引用発明2の多層配線基板を適用する動機付けはないといえる。
(イ) 引用発明2は、多層配線基板を構成する両面配線基板1の初期材料を「銅貼ガラスエポキシ板、銅貼ガラスポリイミド板又は厚膜配線印刷セラミック板等」としているとともに、「両面配線基板1の表面配線パターン2と、層間配線パターン3と、裏面配線パターン4と、各両面配線基板1を、各両面配線基板1の各配線パターン上に形成されたAu-Sn接合層5により機械的及び電気的に接合する」ものであり、Au-Sn接合層は必須の要件であり、該接合層により、配線パターン同士を電気的に接合し、両面配線基板1同士を機械的に接合するものである。
また、引用文献2には、ガラスエポキシやガラスポリイミド等は熱に弱く、高温の接合温度では基板材料の劣化、例えば、基板の軟化による銅配線パターンの剥離や基板自身の熱劣化等が生じる旨記載されているものの(上記「第5 2.コ」の段落【0017】を参照)、両面配線基板1同士の接合に、基板自体が寄与することは記載されていない。
以上の点を踏まえれば、引用発明2は両面配線基板1同士を積極的に接触させるものとは認められず、基板同士が接するように配置されることで、スルーホールの内表面及び外表面を塞ぐことを示唆するものとはいい難い。
してみれば、引用発明1の絶縁基板11に、引用発明2の多層配線基板を適用できたとしても、相違点1に係る本願発明1の構成には至らないといえる。
(ウ) 結局、引用発明1を、相違点に係る本願発明1の構成とすることは、引用発明2から当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

次に引用発明3について検討する。
引用発明3は、「スルーホールがあっても気密性を確保した多層ガラス基板」(上記「第5 3.シ」を参照)に関するものである。
ところで、引用発明3の多層ガラス基板は、「ガラス基板1a、1b、1cの3枚を重ね、ガラスの徐冷点より高く軟化点未満程度の温度で熱圧着する」ものであり、「ガラス基板1aの第二主面11に、ガラス基板1bの第一主面10に形成された導体膜3aが接着し、ガラス基板1bの第一主面10に、ガラス基板1aの第二主面に形成された導体膜3bが接着し、ガラス基板1bの第二主面11に、ガラス基板1cの第1主面10に形成された導体膜3aが接着し、ガラス基板1cの第一主面10に、ガラス基板1bの第二主面に形成された導体膜3bが接着」するものである。
引用発明3においては、ガラス基板1a、1b、1cと導電膜3a、3bの金属とがガラスの徐冷点より高く軟化点未満程度の温度で接着するので、当該温度ではガラス基板1a、1b、1cが軟化せず、ガラス基板1a、1b、1c内に導電膜3a、3bが入り込むこともないので、ガラス基板1a、1b、1cは導電膜3a、3bを介在して位置することになる。
そうすると、引用発明3において、各ガラス基板1a、1b、1cの間に導電膜3a、3bが存在している箇所では、各ガラス基板1a、1b、1c同士が接することはなく、導電膜3a、3bが存在しない箇所では、導電膜の厚み分だけ隙間ができるといわざるを得ず、ガラス基板1a、1b、1c同士が接しているとはいえない。
してみれば、引用発明1の絶縁基板11に、引用発明3の多層ガラス基板を適用しても、相違点に係る本願発明1の構成には至らないといえる。

以上のとおりであるから、本願発明1は、引用発明1と引用発明2または引用発明3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2.本願発明2について
本願発明2は、本願発明1のすべての事項を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、引用発明1と引用発明2または引用発明3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第7 原査定について
審判請求時の手続補正は、上記「第3」で述べたとおり適法なものであり、当該手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定される本願発明1、2は、上記「第4」?「第6」で述べたとおり、原査定において引用された引用文献1に記載された発明(引用発明1)と引用文献2または引用文献3に記載された発明(引用発明2または引用発明3)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、原査定の理由を維持することはできない

第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-08-22 
出願番号 特願2012-240799(P2012-240799)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01R)
最終処分 成立  
前審関与審査官 片岡 弘之  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 平田 信勝
小関 峰夫
発明の名称 コネクタ  
代理人 廣瀬 一  
代理人 田中 秀▲てつ▼  
代理人 森 哲也  

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