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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1331759
審判番号 不服2017-1225  
総通号数 214 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-10-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-01-27 
確定日 2017-09-19 
事件の表示 特願2015- 84835「半導体装置およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 9月 3日出願公開,特開2015-159316,請求項の数(21)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,平成22年12月20日(国内優先権主張 平成22年3月23日)を国際出願日とする特願2012-506779号の一部を平成27年4月17日に新たな出願としたものであって,その手続の経緯は以下のとおりである。

平成27年 4月17日 審査請求
平成28年 6月27日 拒絶理由通知
平成28年 8月30日 意見書
平成28年11月18日 拒絶査定
平成29年 1月27日 審判請求

第2 原査定の理由の概要

1.(新規性)この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。

2.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

●理由1(新規性),理由2(進歩性)について
・請求項1?5,21
・引用文献1
意見書において出願人は,以下のとおりの主張をしている。
『しかし,引用文献1には,「フォトルミネッセンス測定において波長390nm付近のピーク強度に対する波長500nm付近のピーク強度の比が0.1以下となる物性を前記第2の面において有する基板」は全く記載も示唆もされていません。
引用文献1では,基板を薄くするために裏面を研磨していますが,基板自体が上記のような特性を有していなければ,エピタキシャル成長により超高濃度層5を形成しても,その超高濃度層5は上記のような特性を有するものではありません。したがって,基板を残したとしても,基板を除去したとしても,いずれの場合も,「フォトルミネッセンス測定において波長390nm付近のピーク強度に対する波長500nm付近のピーク強度の比が0.1以下となる物性」を有しているとはいえません。
・・略・・
したがって,引用文献1から,独立請求項1,21に係る本願発明を容易に想到できるものではありません。』
しかしながら,引用文献1の段落0020に「次に,本実施形態の半導体装置の製造方法について説明する。まず,昇華法を初めとするSiCバルク基板作製法によりSiCインゴットを作製し,その後機械研磨および化学的機械研磨(CMP)にてSiCバルク基板を作製する。SiCバルク基板内のドーピング濃度は約1×10^(18)?1×10^(19)/cm^(3)であり,ここでは8×10^(18)/cm^(3)とする。原理的にはこれより多くの不純物を混入することも可能であるが,積層欠陥などの結晶欠陥ができやすく結晶の品質が落ちるためデバイス向けではない。」と記載されているように,引用文献1に記載された発明のSiCバルク基板1は,積層欠陥などの結晶欠陥が少ないものである。
したがって,上記の主張は採用できない。

また,意見書において出願人は,以下のとおりの主張もしている。『また,引用文献1に記載のダメージ層と,本願の加工ダメージ層は異なるものです。本願の加工ダメージ層は,室温ではシート抵抗の上昇をもたらさないものですが,1200℃で熱処理を行うとシート抵抗が急激に増大するものです(本願明細書の段落[0057]参照)。それに対し,引用文献1に記載のダメージ層は,高抵抗成分となるダメージ層であり(引用文献1の段落[0046]参照),室温で高抵抗成分となることが意図されています。
審査官殿は,拒絶理由通知書において,引用文献1に記載の発明で,高抵抗成分となるダメージ層を除去しているから,「フォトルミネッセンス測定において波長390nm付近のピーク強度に対する波長500nm付近のピーク強度の比が0.1以下となっているものと認められる。」と述べておられますが,上述のように,引用文献1に記載のダメージ層と,本願の加工ダメージ層は異なるものですので,ご指摘の主張は妥当であるとはいえません。』
しかしながら,引用文献1に記載された発明は,SiCインゴットからSiCバルク基板を形成していることから,本願発明の「加工」と同様の加工がされているものといえる。そして,先の拒絶理由に記載したとおり,引用文献1に記載された発明は,SiCの裏面を研磨することによってできた高抵抗成分となるダメージ層を取り除いていることから,当然に,SiCインゴットからSiCバルク基板を形成する際に形成される「加工ダメージ層」も除去しているものといえる。
したがって,上記の主張も採用できない。

また,意見書において出願人は,以下のとおりの主張もしている。
『審査官殿は,引用文献1に記載の発明と,請求項1,21に係る本願発明とが同一でないとしても,高抵抗成分となるダメージ層を取り除いていることから,SiCの裏面の「フォトルミネッセンス測定において波長390nm付近のピーク強度に対する波長500nm付近のピーク強度の比」を0.1以下とすることは当業者であれば容易になし得たことである。」と述べておられます。
しかし,「フォトルミネッセンス測定」についてすら全く着目していない引用文献1から,当業者と雖も,「波長390nm付近のピーク強度に対する波長500nm付近のピーク強度の比」を着想し,さらに,その比の値を0.1以下とすることを,容易に想到できるものではありません。
したがって,引用文献1から,独立請求項1,21に係る本願発明を容易に想到できるものではありません。』
この主張のとおり,引用文献1に記載された発明において,「波長390nm付近のピーク強度に対する波長500nm付近のピーク強度の比」を0.1以下とすることは直接着想するものとはいえないものの,引用文献1に記載された発明において,SiCバルク基板1を,積層欠陥などの結晶欠陥が少ないものとすることや,SiCバルク基板1のダメージ層を確実に除去し,積層欠陥などの結晶欠陥が少ないものとすることは,当業者であれば容易に着想できたものであり,その結果として,SiCバルク基板1の裏面を「フォトルミネッセンス測定において波長390nm付近のピーク強度に対する波長500nm付近のピーク強度の比が0.1以下となる物性」を満たすようにすることに,何ら困難性を認めることはできない。
したがって,上記の主張も採用できない。

よって,先の拒絶理由のとおり,本願の請求項1?5,21に係る発明は,引用文献1に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。また,そうでないとしても,本願の請求項1?5,21に係る発明は,引用文献1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。

●理由2(進歩性)について
・請求項6?10
・引用文献1,2
上記の「・請求項1?5,21」に記載したとおり,意見書における出願人の主張は採用できない。
よって,先の拒絶理由のとおり,本願の請求項6?10に係る発明は,引用文献1,2に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。

●理由2(進歩性)について
・請求項12?15,18?20
・引用文献1,3
上記の「・請求項1?5,21」に記載したとおり,意見書における出願人の主張は採用できない。
よって,先の拒絶理由のとおり,本願の請求項12?15,18?20に係る発明は,引用文献1,3に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。

●理由2(進歩性)について
・請求項17
・引用文献1,3?5
上記の「・請求項1?5,21」に記載したとおり,意見書における出願人の主張は採用できない。
よって,先の拒絶理由のとおり,本願の請求項17に係る発明は,引用文献1,3?5に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
1.特開2009-130266号公報
2.特開2009-164571号公報
3.特開2001-002499号公報
4.特開平07-097299号公報
5.特開2005-286038号公報

第3 本願発明
本願の請求項1ないし21に係る発明は,出願当初の特許請求の範囲の請求項1ないし21に記載された事項により特定される発明(以下,各々「本願発明1」ないし「本願発明21」という。)であり,以下のとおりである。

「【請求項1】
電流経路を有するトランジスタであって,
前記電流経路の少なくとも一部を構成する半導体層と,
前記半導体層を支持する第1の面と前記第1の面に対向する第2の面とを有し,かつ4H型の単結晶構造を有する炭化珪素から作られ,かつフォトルミネッセンス測定において波長390nm付近のピーク強度に対する波長500nm付近のピーク強度の比が0.1以下となる物性を前記第2の面において有する基板とを備える,トランジスタ。
【請求項2】
前記半導体層上に絶縁膜をさらに備えた,請求項1に記載のトランジスタ。
【請求項3】
前記絶縁膜は前記半導体層の材料の酸化物から作られている,請求項2に記載のトランジスタ。
【請求項4】
前記絶縁膜は熱酸化膜である,請求項2に記載のトランジスタ。
【請求項5】
前記基板は前記電流経路の一部を構成する,請求項1に記載のトランジスタ。
【請求項6】
前記第1の面は{0001}面に対して50°以上65°以下のオフ角を有する,請求項1に記載のトランジスタ。
【請求項7】
前記オフ角のオフ方位は<11-20>方向に対して±5°以下の範囲内にある,請求項6に記載のトランジスタ。
【請求項8】
前記オフ角のオフ方位は<01-10>方向に対して±5°以下の範囲内にある,請求項6に記載のトランジスタ。
【請求項9】
前記第1の面は<01-10>方向において{03-38}面に対して-3°以上+5°以下のオフ角を有する,請求項8に記載のトランジスタ。
【請求項10】
前記第1の面は<01-10>方向において(0-33-8)面に対して-3°以上+5°以下のオフ角を有する,請求項9に記載のトランジスタ。
【請求項11】
前記基板を支持し,かつ炭化珪素から作られたベース層をさらに備える,請求項1に記載のトランジスタ。
【請求項12】
電流経路を有するトランジスタの製造方法であって,
第1の面と,前記第1の面に対向する第2の面とを有し,かつ4H型の単結晶構造を有する炭化珪素から作られた基板を準備する工程を備え,前記基板を準備する工程において前記第2の面上に加工ダメージ層が形成され,さらに
前記第2の面上における前記加工ダメージ層を除去する工程と,
前記第1の面上に,前記電流経路の少なくとも一部を構成する半導体層を形成する工程と,
前記加工ダメージ層を除去する工程の後に,前記基板および前記半導体層を加熱する工程とを備え,
前記加工ダメージ層が除去された後の前記基板は,フォトルミネッセンス測定において波長390nm付近のピーク強度に対する波長500nm付近のピーク強度の比が0.1以下となる物性を前記第2の面において有する,トランジスタの製造方法。
【請求項13】
前記基板および前記半導体層を加熱する工程は,前記半導体層の表面を熱酸化することによって前記半導体層上に絶縁膜を形成する工程を含む,請求項12に記載のトランジスタの製造方法。
【請求項14】
前記基板を準備する工程は,
4H型の単結晶構造を有する炭化珪素から作られたインゴットを準備する工程と,
前記インゴットをスライスすることによって前記第2の面を形成する工程とを含む,請求項12に記載のトランジスタの製造方法。
【請求項15】
前記半導体層を形成する工程の前に,前記第1の面を研磨する工程をさらに備える,請求項12に記載のトランジスタの製造方法。
【請求項16】
前記加工ダメージ層を除去する工程の後,かつ前記半導体層を形成する工程の前に,前記第2の面上に炭化珪素から作られたベース層を形成する工程をさらに備える,請求項12に記載のトランジスタの製造方法。
【請求項17】
前記加工ダメージ層を除去する工程は,溶融KOHエッチングによって前記加工ダメージ層を除去する工程を含む,請求項12に記載のトランジスタの製造方法。
【請求項18】
前記加工ダメージ層を除去する工程は,ドライエッチングによって前記加工ダメージ層を除去する工程を含む,請求項12に記載のトランジスタの製造方法。
【請求項19】
前記加工ダメージ層を除去する工程は,前記加工ダメージ層を昇華させる工程を含む,請求項12に記載のトランジスタの製造方法。
【請求項20】
前記加工ダメージ層を除去する工程は,研磨によって前記加工ダメージ層を除去する工程を含む,請求項12に記載のトランジスタの製造方法。
【請求項21】
電流経路を有するトランジスタ用の基板であって,
前記電流経路の少なくとも一部を構成する半導体層を支持する第1の面と,
前記第1の面に対向する第2の面とを有し,
4H型の単結晶構造を有する炭化珪素から作られ,
フォトルミネッセンス測定において波長390nm付近のピーク強度に対する波長500nm付近のピーク強度の比が0.1以下となる物性を前記第2の面において有する,基板。」

第4 引用文献,引用発明等

1 引用文献1について
(1)引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開2009-130266号公報(以下,「引用文献1」という。)には,図面とともに,次の記載がある。(下線は当審において付加した。以下同じ。)

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は,炭化珪素(SiC)基板及びこれを用いた縦型半導体装置およびその製造方法に関わり,特に順方向抵抗の低減技術に関わる。」

イ 「【0020】
次に,本実施形態の半導体装置の製造方法について説明する。まず,昇華法を初めとするSiCバルク基板作製法によりSiCインゴットを作製し,その後機械研磨および化学的機械研磨(CMP)にてSiCバルク基板を作製する。SiCバルク基板内のドーピング濃度は約1×10^(18)?1×10^(19)/cm^(3)であり,ここでは8×10^(18)/cm^(3)とする。原理的にはこれより多くの不純物を混入することも可能であるが,積層欠陥などの結晶欠陥ができやすく結晶の品質が落ちるためデバイス向けではない。」

ウ 「【0060】
(第3の実施形態)
図11は,本発明の第3の実施の形態に係る縦型MOSFETの要部断面図である。第1の実施形態のSiC基板1(不図示)の主面側に超高濃度n^(++)型層5を設け,その上にn型バッファ層6を介してn^(-)型ドリフト層2を形成している。n^(-)型ドリフト層2の表面には選択的にオーミック接合となるソース電極3と,薄い酸化膜または高誘電体膜のゲート絶縁膜16を介してゲート電極17が形成されている。SiC基板1の研磨により露出したn^(++)型超高濃度層5の裏面には,オーミック接合となるドレイン電極4が形成されている。
【0061】
また,n^(-)型ドリフト層2の主面側にはゲート絶縁膜16を介しゲート電極17に接しソース電極3の下に選択的に設けられたp^(-)型領域18と,前記p^(-)型領域18の内部表面にあって,ソース電極3およびゲート絶縁膜16を介してゲート電極17に接するように設けられたn^(+)型ソースコンタクト領域19を有し,素子全体として縦型MOSFETとして機能する。
-(中略)-
【0063】
第3の実施形態にかかる縦型MOSFETの製造方法を第1の実施形態の図3?8を援用して説明する。まず,図3と同様に,高結晶品質の4H-SiC基板1上にエピタキシャル成長により数?数十μmの厚さの超高濃度n^(++)型層5を形成する。この際の不純物は例えば窒素(N)を用いる。続いて,n型バッファ層およびn^(-)型ドリフト層をエピタキシャル成長にて形成する。
【0064】
n型バッファ層6およびn^(-)型ドリフト層2の不純物元素は,例えばNを用い,不純物濃度はn型バッファ層6の場合は,例えば1×10^(17)?5×10^(18)/cm^(3)程度であり,n^(-)型ドリフト層2の場合には,設計耐圧1200Vの場合には1×10^(15)?2×10^(16)/cm^(3)程度である。ドリフト層2の場合には,設計耐圧に応じて不純物濃度を調整することができる。また厚さはバッファ層6の場合,0.3?1.0μm程度であり,n^(-)型ドリフト層2の場合には5?15μm程度である。
【0065】
続いて不純物濃度1×10^(17)?1×10^(18)/cm^(3),厚さ約0.6μmのp^(-)型エピタキシャル層(不図示)を,ドリフト層2の全面に形成する。SiCのp型不純物種にはAlまたはBを使用する。
【0066】
その後,p^(-)型エピタキシャル層上面に,例えばシリコン酸化膜のイオン注入マスク(不図示)を形成し,p^(-)型エピタキシャル層にNまたはPをイオン種として選択的にカウンターイオン注入を行い,p^(-)型エピタキシャル層の一部を貫通してドリフト層2に接続するn^(-)型層20(図11)を形成する。イオン注入種はPの方が低抵抗化が可能であるが,Nでも,P^(+)Nでもよい。このとき,約400keVを最高エネルギーとする多段イオン注入を行い,不純物濃度が約1×10^(16)?3×10^(17)/cm^(3)になるようにドーズ量を調節する。この際,最高エネルギーにて注入したn型領域20はp^(-)型エピタキシャル層を貫通してn型ドリフト層2に接する。
【0067】
イオン注入マスク剥離後,再度イオン注入マスク(不図示)を形成し,不純物濃度約1×10^(18)?3×10^(19)/cm^(3),深さ約0.3μmのn^(+)ソースコンタクト19を形成する。深さは上記p^(-)型エピタキシャル領域18の内部に位置する必要がある。その後,注入したイオン種を結晶格子内に配置させ,活性化させるために約1600℃程度の高温にて数分間処理する。
【0068】
その後,上部にゲート酸化膜16となる約30?50μm厚さのシリコン酸化膜をウエット酸化,水素雰囲気でのPOA(post oxidation annealing)を行い形成する。その上部にCVD法により,例えばポリシリコンのゲート電極17を形成,その上部にCVDによりさらに約1μm厚さのシリコン酸化膜を形成し,レジストにてパターニングを行うことにより,ゲート電極が形成される場所のみにシリコン酸化膜を残すことができる。その後,ソース電極層を形成し,パターニングを行いソース領域上にソース電極3を形成する。
【0069】
その後,図6と同様に,表面をテープ材13などで表面を保護し,裏面の機械研削を行う。研削基板の厚みに合わせて機械研削の速度,研削の種類などを変えて最終的に数μmまで研削を行う。ストップポイントは膜厚モニタおよびダミー基板によるC-V測定などにより超高濃度層5が表面に出ていることを確認する。
【0070】
その後簡単な洗浄を行った後,上記基板保持テープ13が付いている状態で,超高濃度層5の裏面上にドレイン電極4を形成する。この際,ドレイン電極はドレインコンタクトのほかに基板保持の役割も果たすので,電界めっきなどで約数十?100μmの厚みをつけると良い。p型コンタクトに適している電極材料はTiおよびTi/Alなどであるが,Ti/Alなどの複合材料の場合には先に蒸着などでTi/Alを成膜してから上部にAlを電界めっきで形成しても良い。その後,テープ材13を剥離したのち,ソース電極3およびドレイン電極4のコンタクト抵抗を下げるため,950℃以上の熱処理を行う。
【0071】
なお,第3の実施の形態において,n型とp型を逆にしてp型MOSFETにしてもよい。さらに,超高濃度層5をエピタキシャル成長ではなく,主面側からのイオン注入によって形成しても良い。その場合にはイオン注入により形成される超高濃度層5を裏面研磨のストップポイントにする必要がある。反応性イオンエッチング(RIE)によって薄片化してもよい。
【0072】
また,n^(-)型ドリフト層2上のp^(-)型層18はエピタキシャル成長ではなく,イオン注入で形成しても良い。すなわち,n^(-)型ドリフト層を上記の厚みに0.6μm分加えて形成し,その後p^(-)のイオン注入を選択的に行うことにより,p^(-)型層18を作製する。その後n^(+)型ソースコンタクト19を形成し,その後ソース電極3を形成する。
【0073】
以上のように,第3の実施形態によれば,低抵抗のSiC層を用いた縦型MOSFETを形成することができる。」

(2)引用装置発明1
前記(1)アないしウ,及び図11より,引用文献1には次の発明(以下,「引用装置発明1」という。)が記載されていると認められる。

「高結晶品質の4H-SiC基板1の主面側に超高濃度n^(++)型層5を設け,その上にn型バッファ層6を介してn^(-)型ドリフト層2を形成し,n^(-)型ドリフト層2の表面には選択的にオーミック接合となるソース電極3と,薄い酸化膜または高誘電体膜のゲート絶縁膜16を介してゲート電極17が形成され,SiC基板1の研磨により露出したn^(++)型超高濃度層5の裏面には,オーミック接合となるドレイン電極4が形成されている縦型MOSトランジスタ。」

(3)引用製造方法発明1
前記(1)アないしウより,引用文献1には,次の発明(以下,「引用製造方法発明1」という。)が記載されていると認められる。

「昇華法を初めとするSiCバルク基板作製法によりSiCインゴットを作製し,その後機械研磨および化学的機械研磨(CMP)にてSiCバルク基板を作製し,当該基板として高結晶品質の4H-SiC基板1を準備する工程と,
当該基板1の主面側にエピタキシャル成長により超高濃度n^(++)型層5,n型バッファ層6,n^(-)型ドリフト層2を形成する工程と,
前記n^(-)型ドリフト層2上に,p^(-)型エピタキシャル層18を形成し,当該p^(-)型エピタキシャル層18内にイオン注入によりn^(-)型層20,ソースコンタクト層19を形成する工程と,
その後,イオン種を結晶格子内に配置させ活性化させるために1600℃程度の高温処理を行う工程と,
その上部にゲート酸化膜16,ゲート電極17,ソース電極3を形成する工程と,
基板1の裏面を機械研削し,超高濃度n^(++)型層5が表面にでるように研磨する工程と,
超高濃度n^(++)型層5上にドレイン電極4を形成する工程と,
を備えた縦型MOSFETの製造方法。」

(4)引用基板発明1
前記(1)アないしウより,引用文献1には,次の発明(以下,「引用基板発明1」という。)が記載されていると認められる。

「昇華法を初めとするSiCバルク基板作製法によりSiCインゴットを作製し,その後機械研磨および化学的機械研磨(CMP)にて作製された縦型MOSFET用の高結晶品質の4H-SiC基板1であって,当該基板1の主面側にエピタキシャル成長により形成される超高濃度n^(++)型層5,n型バッファ層6,n^(-)型ドリフト層2等を備え,基板1の裏面側にドレイン電極4を形成する前に,超高濃度n^(++)型層5が表面に出るように基板1は研磨される縦型MOSFET用の高結晶品質の4H-SiC基板1。」

2 引用文献2について
(1)引用文献2の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開2009-164571号公報(以下,「引用文献2」という。)には,図面とともに,次の記載がある。

ア 「【技術分野】
【0001】
この発明は,炭化ケイ素半導体装置およびその製造方法に関し,より特定的には,優れた電気的特性を示す炭化ケイ素半導体装置およびその製造方法に関する。」

イ 「【0005】
この発明に従った炭化ケイ素半導体装置は,面方位{0001}に対しオフ角が50°以上65°以下である,炭化ケイ素からなる基板と,バッファ層と,活性層とを備える。バッファ層は,基板上に形成され,炭化ケイ素からなる。活性層は,バッファ層上に形成され,炭化ケイ素からなる。活性層におけるマイクロパイプ密度は基板におけるマイクロパイプ密度より低い。また,活性層における,バーガーズベクトルの向きが[0001]である転位の密度は,基板における当該転位の密度より高い。」

ウ 「【0070】
上記半導体装置1において,基板2のオフ方位は<11-20>方向±5°以下の範囲であってもよい。また,炭化ケイ素からなる基板2が4H型ポリタイプのSiC基板であってもよい。また,上記半導体装置1において,基板2のオフ方位が<01-10>方向±5°以下の範囲であってもよい。この場合,上述したオフ方位は4H型ポリタイプのSiC基板における代表的なオフ方位であり,SiC基板上へのエピタキシャル層の形成などを容易に行なうことができる。なお,オフ方位の範囲をそれぞれ±5°以下としたのは,基板スライス時の加工ばらつきを考慮したからである。
【0071】
上記半導体装置1において,基板2の主表面の面方位は,面方位{03-38}に対しオフ角が-3°以上+5°以下であってもよい。また,より好ましくは基板の主表面の面方位が実質的に{03-38}であり,さらに好ましくは基板の主表面の面方位が{03-38}である。ここで,基板の主表面が実質的に{03-38}であるとは,基板の加工精度などにより実質的に面方位が{03-38}とみなせるオフ角の範囲に基板の主表面の面方位が入っていることを意味し,この場合のオフ角の範囲としてはたとえば{03-38}に対してオフ角が±2°といった範囲である。このように,炭化ケイ素半導体装置としてMOSFETを形成した場合,活性層に形成されるチャネル領域(図1のp型層4におけるn+領域5,6の間の領域,または図3ので酸化膜26に接する部分であって,n+領域24と耐圧保持層22との間のp領域23の部分)のキャリア移動度(チャネル移動度)を大きくすることができるので,マイクロパイプの低減された活性層を利用して良好な特性の半導体装置1を得ることができる。」

(2)引用発明2
前記(1)アないしウの記載から,引用文献2には次の発明(以下,「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

「基板において主表面が,面方位{0001}に対しオフ角が50°以上65°以下であり,基板のオフ方位は<11-20>方向±5°以下の範囲,又は<01-10>方向±5°以下の範囲であり,基板の主表面の面方位は,面方位{03-38}に対しオフ角が-3°以上+5°以下の特徴を有する炭化珪素基板。」

3 引用文献3について
(1)引用文献3の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開2001-2499号公報(以下,「引用文献3」という。)には,図面とともに,次の記載がある。

ア 「【0001】
本発明は,炭化珪素(SiC)基板及びこれを用いた縦型半導体装置およびその製造方法に関わり,特に順方向抵抗の低減技術に関わる。」

イ 「【0051】
さらに,反応性イオンエッチングによるダメージを除去するために,上記種結晶1を酸洗浄した後,酸化雰囲気中,1080℃で,4時間熱酸化を行い,約15?100nmの熱酸化膜を形成した。この熱酸化膜を,10%フッ酸を用いたウェットエッチングにより除去した。」

(2)引用発明3
前記(1)ア,イの記載から,引用文献3には次の発明(以下,「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。

「炭化珪素基板に対する反応性イオンエッチングによるダメージを除去するために,種結晶を酸洗浄した後,酸化雰囲気中,1080℃で,4時間熱酸化を行い,約15?100nmの熱酸化膜を形成した後,当該熱酸化膜を,10%フッ酸を用いたウェットエッチングにより除去するダメージ除去技術。」

4 引用文献4について
(1)引用文献4の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開平7-97299号公報(以下,「引用文献4」という。)には,図面とともに,次の記載がある。

ア 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は,SiC単結晶の作製方法に関するものである。詳しくは,青色発光ダイオードなどの応用面に有用な良質の6H形(Hは六方晶系,6は原子積層が6層で一周期となる結晶構造を意味する)SiC単結晶や,紫色発光ダイオードなどの応用面に有用な良質の4H形(Hは六方晶系,4は原子積層が4層で一周期となる結晶構造を意味する)SiC単結晶などを成長させる,SiC単結晶の成長に関するものである。」

イ 「【0008】
種結晶として本発明で使用する{0001}面に垂直な面は,図2中に示した -中略- このような面をもつ基板は,例えば昇華再結晶法により{0001}面上に成長させたSiC単結晶インゴットを{0001}に垂直に切り出し加工することにより得られる。切断後,表面を平坦にするためにダイヤモンド粒子を含む研磨液で研磨する。粒度を小さくしていき,ウェハが鏡面となるまで行う。このウェハを約530℃の溶融KOH中で5?20分エッチングを行い表面ダメージ層を取り除く。エッチング速度はその温度に大きく依存するが,エッチング時間が短すぎると表面ダメージ層が完全に除去できないため効果はなく,長すぎるとダメージのないバルク結晶までエッチングをうけることになり好ましくない。」

(2)引用発明4
前記(1)ア,イの記載から,引用文献4には次の発明(以下,「引用発明4」という。)が記載されていると認められる。

「SiC単結晶インゴットを{0001}に垂直に切断後,表面を平坦にするためにダイヤモンド粒子を含む研磨液で研磨し,このウェハを約530℃の溶融KOH中で5?20分エッチングを行い表面ダメージ層を取り除いたSiC単結晶基板。」

5 引用文献5について
(1)引用文献5の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開2005-286038号公報(以下,「引用文献5」という。)には,図面とともに,次の記載がある。

ア 「【0001】
本発明は,炭化珪素基板およびその製造方法等に関するものである。」

イ 「【0018】
本発明は,機械加工工程後に,炭化珪素の表面層の0.1μm以上を除去している。これにより,前記機械的加工によるダメージが十分に除去される。これをCVD成長の基板に用いると,当該炭化珪素の,表面欠陥密度の十分小さいホモエピタキシャル成長が実現する。炭化珪素の表面層の除去量が,0.1μm未満の場合には,機械加工によるダメージが十分に除去されない。
なお,炭化珪素の表面層の除去とは,炭化珪素の表面層が溶融等によって除去される場合に限られず,例えば,表面層を酸化することにより,炭化珪素の表面層が変質し,炭化珪素とは異なる部分が形成されることにより,炭化珪素部分が減少することにより除去される場合も含まれる。
【0019】
本発明は,前記炭化珪素の表面層を,化学反応により除去している。これは,CMPによる除去では,機械研磨の成分によりダメージが生じ,低オフ角においては,表面欠陥密度が高くなるが,化学反応による除去では,このような問題が生じないからである。
【0020】
本発明は,前記炭化珪素の表面層を,酸素原子含有物質または溶融アルカリを用いた化学反応により除去している。これにより,機械的加工によるダメージが十分に除去される。前記以外の物質,例えば,ハロゲンを用いた化学反応では,ハロゲンの高い反応性のために,0.1μmという,わずかな表面層を除去する過程において,表面が許容限度を超えて荒れ,機械加工によるダメージが十分に除去されない。なお,酸素原子含有物質には,酸素自体も含まれる。」

(2)引用発明5
前記(1)ア,イの記載から,引用文献5には次の発明(以下,「引用発明5」という。)が記載されていると認められる。

「機械加工工程後に,炭化珪素の表面層の0.1μm以上を溶融アルカリを用いた化学反応により除去した炭化珪素基板。」

第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)本願発明1と引用装置発明1との対比
ア 引用装置発明1の「主面」,「裏面」は,各々本願発明1の「第1の面」,「第2の面」に相当する。

イ 引用装置発明1の「縦型MOSトランジスタ」は基板表面に対して垂直方向,すなわち縦方向に電流経路を有するMOSトランジスタであるから,本願発明1の「電流経路を有するトランジスタ」に相当する。

ウ 引用装置発明1の「n^(-)型ドリフト層2」は,縦型MOSトランジスタの電流経路の一部となるので,本願発明1の「半導体層」に相当する。

エ 引用装置発明1の「高結晶品質の4H-SiC基板」は,「高結晶品質」は結晶分野の技術常識を参酌すると「単結晶構造」を意味し,4H型の炭化珪素から作られ,超高濃度n^(++)型層5,その上のn型バッファ層6を介して「n^(-)型ドリフト層2」を支持し,裏面にドレイン電極を形成することから,前記ア,イを考慮すると,下記相違点を除き,本願発明1の「半導体層を支持する第1の面と前記第1の面に対向する第2の面とを有し,かつ4H型の単結晶構造を有する炭化珪素から作られる基板」という点で共通する。

すると,本願発明1の引用装置発明1とは,下記オの点で一致し,下記カの点で相違する。

オ 一致点
電流経路を有するトランジスタであって,
前記電流経路の少なくとも一部を構成する半導体層と,
前記半導体層を支持する第1の面と前記第1の面に対向する第2の面と,
を有し,かつ4H型の単結晶構造を有する炭化珪素から作られる基板とを備えるトランジスタ。

カ 相違点
本願発明1では,フォトルミネッセンス測定において波長390nm付近のピーク強度に対する波長500nm付近のピーク強度の比が0.1以下となる物性を前記第2の面において有する基板であるのに対して,引用装置発明1では,基板の第2の面の物性について,特に,明記していない点。

(2)相違点についての判断
本願発明1は,4H型の単結晶構造を有するSiCから作られた基板の抵抗率の増大の原因のひとつは,フォトルミネッセンス測定における波長500nm付近のピークの存在によって特定される積層欠陥であり,半導体装置の製造工程,加熱をともなう工程において加工ダメージ層中の欠陥が積層欠陥化し,特に,基板の第2の面からその内部への上記欠陥が進展することを防止する必要があるという技術的課題を見いだし,(明細書【0007】,【0008】,【0019】参照),その解決手段として,前記相違点の内容である基板の第2の面に対するフォトルミネッセンス測定において波長390nm付近のピーク強度に対する波長500nm付近のピーク強度の比が0.1以下となる物性を有する構成を備えたものである。
前記技術的課題及び解決手段は,引用文献1ないし5には,いずれも記載されておらず,また示唆もされていない。特に,引用装置発明1は,トランジスタのドレイン電極4を基板1の第2の面側に形成する工程の前段階で,基板1は前記超高濃度n^(++)型層5が表面に出るように研磨,すなわち基板1は全て研磨されてしまうことから,基板1の第2の面の物性に配慮する必要性を見いだすことは困難である。
また,本願発明1は,前記相違点の構成を備える事により,トランジスタの製造工程における基板の抵抗率の増大を抑制でき,特に,裏面近傍の抵抗率の増大を抑制することが可能となり,この抵抗率の増大の抑制により,低いオン抵抗を有するトランジスタを提供できるという格別な効果を奏する(明細書【0059】参照)。
したがって,本願発明1は,引用文献1に記載された発明ではなく,また,引用文献1ないし5に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 本願発明2ないし11について
本願発明2ないし11は,本願発明1の発明特定事項をすべて含みさらに別の発明特定事項を付加したものであるから,本願発明1が前記1(2)のとおり,引用文献1に記載された発明ではなく,また引用文献1ないし5に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本願発明2ないし11も同様の理由で,引用文献1に記載された発明ではなく,また引用文献1ないし5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

3 本願発明12について
(1)本願発明12と引用製造方法発明1との対比
ア 引用製造方法発明1の「縦型MOSFETの製造方法」は,前記1(1)イを参酌すると,本願発明12の「電流経路を有するトランジスタの製造方法」に相当する。

イ 引用製造方法発明1の「昇華法を初めとするSiCバルク基板作製法によりSiCインゴットを作製し,その後機械研磨および化学的機械研磨(CMP)にてSiCバルク基板を作製し,当該基板として高結晶品質の4H-SiC基板1を準備する工程」は,前記1(1)ア及びエを参酌すると,本願発明12の「第1の面と,前記第1の面に対向する第2の面とを有し,かつ4H型の単結晶構造を有する炭化珪素から作られた基板を準備する工程」に相当する。

ウ 引用製造方法発明1の「当該基板上にエピタキシャル成長により超高濃度n^(++)型層5,n型バッファ層6,n^(-)型ドリフト層2を形成する工程」は,前記1(1)ア及びウを参酌すると,本願発明12の「前記第1の面上に,前記電流経路の少なくとも一部を構成する半導体層を形成する工程」に相当する。

エ 引用製造方法発明1の「イオン種を結晶格子内に配置させ活性化させるために1600℃程度の高温処理を行う工程」は,加工ダメージ層を除去する工程に関する下記相違点の点を除いて,本願発明12の「基板および半導体層を加熱する工程」という点で共通する。

すると,本願発明12と引用製造方法発明1とは,下記オの点で一致し,下記カの点で相違する。

オ 一致点
電流経路を有するトランジスタの製造方法であって,
第1の面と,前記第1の面に対向する第2の面とを有し,かつ4H型の単結晶構造を有する炭化珪素から作られた基板を準備する工程を備え,
前記第1の面上に,前記電流経路の少なくとも一部を構成する半導体層を形成する工程と,
前記基板および前記半導体層を加熱する工程と,
を備えるトランジスタの製造方法。

カ 相違点
本願発明12では,基板を準備する工程において第2の面上に加工ダメージ層が形成され,さらに前記第2の面上における前記加工ダメージ層を除去する工程を有し,前記加工ダメージ層が除去された後の前記基板は,フォトルミネッセンス測定において波長390nm付近のピーク強度に対する波長500nm付近のピーク強度の比が0.1以下となる物性を前記第2の面において有するのに対して,引用製造方法発明1では,加工ダメージ層の原因となる加工工程として,SiCインゴットを作製し,その後機械研磨および化学的機械研磨(CMP)にてSiCバルク基板を作製する工程は有するが,その後の加工ダメージ層の取り扱いについて,特に明記されていない点。

(2)相違点についての判断
本願発明12は,4H型の単結晶構造を有するSiCから作られた基板の抵抗率の増大の原因のひとつは,フォトルミネッセンス測定における波長500nm付近のピークの存在によって特定される積層欠陥であり,半導体装置の製造工程,加熱をともなう工程において加工ダメージ層中の欠陥が積層欠陥化し,特に,基板の第2の面からその内部への上記欠陥が進展することを防止する必要があるという技術的課題を見いだし,(明細書【0007】,【0008】,【0019】参照),その解決手段として,前記相違点の内容である基板の第2の面に対するフォトルミネッセンス測定において波長390nm付近のピーク強度に対する波長500nm付近のピーク強度の比が0.1以下となる物性を有する構成をトランジスタの製造工程の一つとして備えたものである。
前記技術的課題及び解決手段は,引用文献1ないし5には,いずれも記載されておらず,また示唆もされていない。特に,引用製造方法発明1は,トランジスタのドレイン電極4を基板1の第2の面側に形成する工程の前段階で,基板1は前記超高濃度n^(++)型層5が表面に出るように研磨,すなわち基板1は全て研磨されてしまうことから,基板1の第2の面の物性に配慮する必要性を見いだすことは困難である。
また,本願発明12は,前記相違点の構成を備える事により,トランジスタの製造工程における基板の抵抗率の増大を抑制でき,特に裏面近傍の抵抗率の増大を抑制することが可能となり,この抵抗率の増大の抑制により,低いオン抵抗を有するトランジスタの製造方法を提供できるという格別な効果を奏する(明細書【0059】参照)
したがって,本願発明12は,引用文献1に記載された発明ではなく,また,引用文献1ないし5に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

4 本願発明13ないし20について
本願発明13ないし20は,本願発明12の発明特定事項をすべて含みさらに別の発明特定事項を付加したもであるから,本願発明12が前記3(2)のとおり,引用文献1に記載された発明ではなく,また引用文献1ないし5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本願発明13ないし20も同様の理由で,引用文献1に記載された発明ではなく,また引用文献1ないし5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

5 本願発明21について
(1)本願発明21と引用基板発明1との対比

ア 引用基板発明1の「主面」,「裏面」は,各々本願発明21の「第1の面」,「第2の面」に相当する。

イ 引用基板発明1の「縦型MOSFET用の基板」は,前記1(1)アを参酌すると,本願発明21の「電流経路を有するトランジスタ用の基板」に相当する。

ウ 引用基板発明1の「基板の表面側にエピタキシャル成長により形成される超高濃度n^(++)型層5,n型バッファ層6,n^(-)型ドリフト層2」は,前記1(1)ア,ウを参酌すると,本願発明21の「電流経路の少なくとも一部を構成する半導体層」に相当する。

エ 引用基板発明1の「高結晶品質の4H-SiC基板」は,前記1(1)エを参酌すると,本願発明21の,「4H型の単結晶構造を有する炭化珪素から作られた基板」の点で一致する。

すると,本願発明21と引用基板発明1とは,下記オの点で一致し,下記カの点で相違する。

オ 一致点
電流経路を有するトランジスタ用の基板であって,
前記電流経路の少なくとも一部を構成する半導体層を支持する第1の面と,
前記第1の面に対向する第2の面とを有し,
4H型の単結晶構造を有する炭化珪素から作られる基板。

カ 相違点
本願発明21では,フォトルミネッセンス測定において波長390nm付近のピーク強度に対する波長500nm付近のピーク強度の比が0.1以下となる物性を前記第2の面において有するのに対して,引用基板発明1では,第2の面の物性について明記していない点。

(2)相違点についての判断
本願発明21は,4H型の単結晶構造を有するSiCから作られた基板の
抵抗率の増大の原因のひとつは,フォトルミネッセンス測定における波長500nm付近のピークの存在によって特定される積層欠陥であり,半導体装置の製造工程,加熱をともなう工程において加工ダメージ層中の欠陥が積層欠陥化し,特に,基板の第2の面からその内部への上記欠陥が進展することを防止する必要があるという技術的課題を見いだし,(明細書【0007】,【0008】,【0019】参照),その解決手段として,前記相違点の内容である基板の第2の面に対するフォトルミネッセンス測定において波長390nm付近のピーク強度に対する波長500nm付近のピーク強度の比が0.1以下となる物性を有する構成をトランジスタ用の基板として備えたものである。
前記技術的課題及び解決手段は,引用文献1ないし5には,いずれも記載されておらず,また示唆もされていない。特に,引用基板発明1は,トランジスタのドレイン電極4を基板1の第2の面側に形成する工程の前段階で,基板1は前記超高濃度n^(++)型層5が表面に出るように研磨,すなわち基板1は全て研磨されてしまうことから,基板1の第2の面の物性に配慮する必要性を見いだすことは困難である。
また,本願発明21は,前記相違点の構成を備える事により,トランジスタの製造工程における基板の抵抗率の増大を抑制でき,特に裏面近傍の抵抗率の増大を抑制することが可能となり,この抵抗率の増大の抑制により,低いオン抵抗を有するトランジスタ用の基板を提供できるという格別な効果を奏する(明細書【0059】参照)。
したがって,本願発明21は,引用文献1に記載された発明ではなく,また,引用文献1ないし5に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第6 原査定について
前記第5で検討したように,本願発明1ないし21は,引用文献1に記載された発明ではなく,また,引用文献1ないし5に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって,原査定を維持することはできない。

第7 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-09-04 
出願番号 特願2015-84835(P2015-84835)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01L)
P 1 8・ 113- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 綿引 隆  
特許庁審判長 鈴木 匡明
特許庁審判官 深沢 正志
大嶋 洋一
発明の名称 半導体装置およびその製造方法  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  
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