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審決分類 審判 査定不服 特29条の2 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G11B
管理番号 1331802
審判番号 不服2016-7726  
総通号数 214 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-10-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-05-26 
確定日 2017-08-21 
事件の表示 特願2011-289182「サスペンション用基板、サスペンション、ヘッド付サスペンションおよびハードディスクドライブ」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 7月11日出願公開、特開2013-137852〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯及び本願発明

1 手続の経緯
本願は,平成23年12月28日の出願であって,平成27年7月3日付けで拒絶の理由が通知され,同年9月1日付けで意見書及び手続補正書が提出され,平成28年3月1日付けで拒絶査定されたところ,同年5月26日に拒絶査定不服審判の請求がされ,同時に手続補正がなされたものであり,平成29年2月14日付けで拒絶の理由を当審から通知し,同年4月4日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成29年4月4日付けで補正された特許請求の範囲における請求項1に記載された事項により特定される次のおりのものである。(下線は請求人が付与。)

【請求項1】
ヘッドスライダが実装されるサスペンション用基板であって、外部接続基板に接続されると共にアクチュエータ素子に導電性接着剤を介して接続されるサスペンション用基板において、
前記ヘッドスライダが実装されるヘッド部と、前記外部接続基板が接続されるテール部と、を有する基板本体と、
一対の素子接続部であって、各々が前記基板本体に別々の直線状の引出部を介して連結され、前記アクチュエータ素子に前記導電性接着剤を介して接続される素子接続端子を有する一対の素子接続部と、を備え、
前記引出部の各々は、平面視で、前記アクチュエータ素子の伸縮方向に直交する方向に延びているとともに、前記ヘッドスライダと前記外部接続基板とを接続する配線の両側方に配置され、
前記基板本体、前記引出部および前記素子接続部は、絶縁層と、前記絶縁層の前記アクチュエータ素子とは反対側の面に設けられ、前記配線および前記素子接続端子を有する配線層と、を有し、
前記基板本体および前記素子接続部において、前記絶縁層の前記アクチュエータ素子の側の面に金属支持層が設けられ、
前記引出部において、前記絶縁層の前記アクチュエータ素子の側の面に前記金属支持層は設けられておらず、
前記素子接続部において、前記金属支持層に前記導電性接着剤が注入される金属支持層注入孔が設けられるとともに、前記絶縁層に前記導電性接着剤が注入される絶縁層注入孔が設けられ、
前記素子接続端子は、断面視において、前記絶縁層注入孔に入り込むことなく平坦状に形成されていることを特徴とするサスペンション用基板。


第2 当審拒絶理由の概要

平成29年2月14日付けで当審から通知した拒絶の理由(以下「当審拒絶理由」という。)の概要は次のとおりである。

理 由
[理由2](拡大先願)
本件出願の請求項に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた下記の特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
本件出願の請求項に係る発明は,平成28年5月26日付け手続補正書における特許請求の範囲の請求項1から8に記載された事項により特定されるとおりのものである。
なお,以下において,請求項に係る発明を,請求項の番号に従って,「本願第1発明」などといい,「本願第1発明」から「本願第8発明」を併せて「本願発明」という。
また,原査定では,引用文献等の番号(「引用文献番号」)として「1」から「7」が使用されたため,この拒絶理由通知書では,原査定と同じ引用文献等には同じ引用文献番号を使用し,異なる引用文献等には引用文献番号として「8」以降を使用する。
□ 理由2(29条の2(41条3項参照))に関して
○ 本願第1発明について
本件出願の出願後に公開された特願2012-119267号(以下「先願10」という。)は,平成23年5月31日に出願された特願2011-121280号を「先の出願」(以下「優先基礎出願」という。)とする優先権の主張を伴うものである。
そして,優先基礎出願及び先願10それぞれの願書に最初に添付された明細書及び図面の記載は,次の1.及び2.のとおりである。
以下において,優先基礎出願の願書に最初に添付された「明細書」及び「図面」を,それぞれ「優先基礎出願明細書」,「優先基礎出願図面」といい,これらを併せて「優先基礎出願明細書等」という。また,先願10の願書に最初に添付された「明細書」及び「図面」を,それぞれ「先願明細書」,「先願図面」といい,これらを併せて「先願明細書等」という。
○ 理由2(29条の2(41条3項参照))に関するまとめ
本願第1発明は,優先基礎出願明細書等に記載された発明であるということができる。
また,優先基礎出願に係る発明の発明者と本願に係る発明の発明者は同一でなく,また,先願10の出願人と本願の出願人も同一でない。
<引用文献等一覧>
10:特願2012-119267号(特開2013-12725号(平成25年1月17日公開),平成24年5月25日出願(優先権主張 特願2011-121280号(平成23年5月31日出願,「先の出願」(41条3項))「先願10」)


第3 請求人意見の概要

平成29年4月4日付け意見書において,請求人は次の意見(以下「請求人意見」という。)を記している。

【意見の内容】
1.拒絶理由の内容
[理由2]
本願は、請求項1に係る発明が、下記の引用文献10に記載された発明であるから、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない旨、認定された。
引用文献10:特願2012-119267号(特開2013-12725号)
これに対して本件出願人は、特許請求の範囲を補正するとともに、以下意見を述べる。
2.手続補正書の概要
本件出願人は、本意見書と同日付けで提出された手続補正書により、特許請求の範囲を補正した。
すなわち、上記手続補正書に示すように、請求項1において、「素子接続端子を有する」との事項を追加した。当該事項は、例えば、本願明細書の段落[0024]等に基づいているものと思料する。
また、請求項1に、
「前記基板本体、前記引出部および前記素子接続部は、絶縁層と、前記絶縁層の前記アクチュエータ素子とは反対側の面に設けられ、前記配線および前記素子接続端子を有する配線層と、を有し、
前記基板本体および前記素子接続部において、前記絶縁層の前記アクチュエータ素子の側の面に金属支持層が設けられ、
前記引出部において、前記絶縁層の前記アクチュエータ素子の側の面に前記金属支持層は設けられておらず、」
という事項を追加した。当該事項は、例えば、本願明細書の段落[0023]?[0026]、図4等に基づいているものと思料する。
さらに、請求項1に、
「前記素子接続部において、前記金属支持層に前記導電性接着剤が注入される金属支持層注入孔が設けられるとともに、前記絶縁層に前記導電性接着剤が注入される絶縁層注入孔が設けられ、
前記素子接続端子は、断面視において、前記絶縁層注入孔に入り込むことなく平坦状に形成されている」
という事項を追加した。当該事項は、例えば、本願明細書の段落[0019]、[0025]、[0049]、図4、図5等に基づいているものと思料する。
このようになされた特許請求の範囲の補正は、出願当初の明細書の記載、特許請求の範囲の記載および図面の記載に基づいており、特許法第17条の2第3項に規定する要件を十分に満たしていることは明らかである。
3.本件出願人の意見
(1)本願発明の特徴
本願発明の特徴は、上記手続補正書により補正された補正後の請求項1に記載の通りであるが、とりわけ主要な構成として、以下の点を特徴としている。
(a)基板本体、引出部および素子接続部は、絶縁層と、絶縁層のアクチュエータ素子とは反対側の面に設けられ、配線および素子接続端子を有する配線層と、を有していること。
(b)引出部において、絶縁層のアクチュエータ素子の側の面に金属支持層は設けられていないこと。
(c)素子接続端子は、断面視において、絶縁層注入孔に入り込むことなく平坦状に形成されていること。
しかして本願発明によれば、上記特徴(a)により、基板本体、引出部および素子接続部を、共通の絶縁層、配線層によって構成することができる。このため、サスペンション用基板の構成や製造が複雑化することを防止できる。
また、上記特徴(b)により、引出部に金属支持層が設けられないため、金属支持層が設けられる基板本体や素子接続部よりも引出部の柔軟性を向上させることができる。このため、素子接続部とアクチュエータ素子とを接合している導電性接着剤に応力が負荷されることを抑制できる。そして、上記特徴(c)により、絶縁層注入孔に導電性接着剤を注入することができる。このため、アクチュエータ素子と素子接続端子とを接続する導電性接着剤の注入量を確保することができる。この結果、導電性接着剤が、素子接続部から剥離されること、および、アクチュエータ素子から剥離されることを防止し、導電性接着剤を介して接続されるアクチュエータ素子と素子接続部との接合信頼性を向上させることができる(本願明細書の段落[0018]、[0026]、[0049]、[0054]参照)。
(2)引用文献との対比
(引用文献10)
引用文献10に記載されたものは「配線回路基板およびその製造方法」であるが、引用文献10には上述した本願発明の特徴(a)?(c)について何も記載されていない。
すなわち、引用文献10の明細書の段落[0092]には、
「また、図3および図5に示すように、圧電側端子40は、枠導体39の内周部からベース絶縁層28の第1ベース開口部37内に落ち込むように形成されている。」
という記載がある。
しかしながら、引用文献10の圧電側端子40が、断面視において、第1ベース開口部37に入り込むことなく平坦状に形成されている旨の記載は無く、そのようなことを示唆する旨の記載も無い。
このため、引用文献10には、上述した本願発明の特徴(a)?(c)が記載も示唆もされていないことは明白である。
4.結び
上述のように、本願発明は、上記引用文献10に記載された発明と構成および作用効果が相違するので、上記引用文献10に記載された発明ではない、と思料する。
上記点をご考慮の上、特許すべき旨の審決をお願いいたします。


第4 先願発明等

1 先願明細書等記載事項
当審拒絶理由で「先願10」(以下では「先願」ということがある。)として引用した出願は,平成23年5月31日に出願された特願2011-121280号を「先の出願」(以下「優先基礎出願」という。)として,その願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された発明に基づく優先権を主張し,そして,平成24年5月25日に出願され,平成25年1月17日に特開2013-12725号(以下「先願公報」という。)として出願公開された特願2012-119267号であり,優先基礎出願について,出願人を「日東電工株式会社」とし,発明者を「石垣さおり」とし,先願について,出願人を「日東電工株式会社」とし,発明者を「石垣さおり」,「石井淳」,「藤村仁人」,「杉本悠」とするものである。

以下においては,優先基礎出願の願書に最初に添付された「明細書」,「特許請求の範囲」及び「図面」を,それぞれ「優先基礎出願明細書」,「優先基礎出願特許請求の範囲」及び「優先基礎出願図面」といい,これらを併せて「優先基礎出願明細書等」という。また,先願10の願書に最初に添付された「明細書」,「特許請求の範囲」及び「図面」を,それぞれ「先願明細書」,「先願特許請求の範囲」及び「先願図面」といい,これらを併せて「先願明細書等」という。

そして,先願明細書等には,次の記載がある。(下線は当審が付与。)

(1) 記載事項1
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、本発明の配線回路基板の一実施形態である回路付サスペンション基板を備えるアセンブリの平面図、図2は、図1に示すアセンブリのA-A線に沿う断面図、図3は、図1に示すアセンブリのB-B線に沿う断面図、図4は、図3に示すアセンブリの圧電側端子の拡大断面図、図5は、図1に示すアセンブリのC-C線に沿う断面図、図6は、図1に示すアセンブリの接続アームの拡大平面図、図7は、図1に示すアセンブリの接続アームの拡大底面図、図8および図9は、回路付サスペンション基板を製造する方法を説明する工程図を示す。
【0023】
なお、図1において、ベース絶縁層28およびカバー絶縁層29は、金属支持基板18および導体層19の相対配置を明確に示すため、省略している。
【0024】
図1および図2において、アセンブリ1は、磁気ヘッド(図示せず)を実装するスライダ22が実装された回路付サスペンション基板3を支持プレート2によって支持させて、ハードディスクドライブ(図示せず)に実装されるヘッドスタックアセンブリ(HSA)である。アセンブリ1は、支持プレート2と、支持プレート2の上(厚み方向他方側、以下同様。)に配置され、支持プレート2によって支持される回路付サスペンション基板3と、支持プレート2に支持されながら、回路付サスペンション基板3の位置および角度を精細に調節するための電子素子としての圧電素子(ピエゾ素子)5とを備えている。
【0025】
支持プレート2は、長手方向(先後方向)に延びるように形成されており、アクチュエータプレート部6と、アクチュエータプレート部6の下(厚み方向一方側、以下同様。)に形成されるベースプレート部7と、アクチュエータプレート部6の先側に連続して形成されるロードビーム部8とを備えている。
【0026】
アクチュエータプレート部6は、後プレート部9と、後プレート部9の先側に間隔を隔てて配置される先プレート部10と、後プレート部9および先プレート部10の間に形成される可撓部11とを一体的に備えている。
【0027】
後プレート部9は、アクチュエータプレート部6の後端部において、平面視略矩形状に形成されている。
【0028】
先プレート部10は、幅方向(先後方向に直交する方向)に延びる平面視略矩形状に形成されている。
【0029】
可撓部11は、アクチュエータプレート部6の幅方向両側に設けられている。幅方向一方側の可撓部11は、後プレート部9の先端部と、先プレート部10の後端部とを架設するように形成されている。また、幅方向他方側の可撓部11は、後プレート部9の先端部と、先プレート部10の後端部とを架設するように形成されている。
【0030】
各可撓部11は、その先後方向中央部が幅方向両外側に湾曲し、かつ、先後方向にわたって略同幅に形成されている。詳しくは、可撓部11の先後方向中央部は、幅方向両外側に略U字(あるいは略V字)形状に張り出すように形成されている。
【0031】
従って、可撓部11は、後述するが、圧電素子5の伸縮によって、先プレート部10を、後プレート部9に対して離間および近接可能に形成されている。

(2) 記載事項2
【0041】
回路付サスペンション基板3は、先後方向に延びる平面視略平帯形状に形成されている。
【0042】
回路付サスペンション基板3は、図1に示すように、金属支持基板18と、金属支持基板18に支持される導体層19とが設けられている。
【0043】
金属支持基板18は、回路付サスペンション基板3の外形形状に対応するように形成されており、配線部16と、配線部16の先側に形成される先部15と、配線部16の後側に形成される後部17とを一体的に備えている。
【0044】
配線部16は、金属支持基板18の先後方向中央部に形成されており、先後方向に延びる第1直線部20と、第1直線部20の後端部から幅方向一方に屈曲した後、さらに、後方に屈曲する第1屈曲部21とを一体的に備えている。なお、第1直線部20および第1屈曲部21は、先後方向にわたって略同幅に形成されている。
【0045】
配線部16は、配線25(後述)を支持する。

(3) 記載事項3
【0049】
後部17は、第1屈曲部21の後端から連続しており、第1屈曲部21と略同幅の平面視略矩形状に形成されている。後部17は、後側端子27(後述)を支持する。
【0050】
導体層19は、金属支持基板18の上において、先後方向に沿って延びる配線25と、配線25の先端部に連続する先側端子26と、配線25の後端部に連続する後側端子27とを一体的に備えている。
【0051】
配線25は、磁気ヘッド(図示せず)およびリード・ライト基板(図示せず)間に電気信号を伝達する信号配線25Aを備え、回路付サスペンション基板3の先後方向全体にわたって配置されている。信号配線25Aは、幅方向に間隔を隔てて複数(4個)配置されている。
【0052】
また、配線25は、さらに、電源配線25Bを複数(2個)備えている。
【0053】
電源配線25Bは、次に説明する電源側端子27Bと電気的に接続されており、後部17において、電源側端子27Bに連続し、後部17および第1屈曲部21において、信号配線25Aの両側に間隔を隔てて並行して配置され、第1直線部20の先後方向中央部において、幅方向両外側に屈曲して、後述する枠導体39(図6参照)に至るように配置されている。
【0054】
先側端子26は、先部15に配置され、具体的には、ジンバル23の先側において、スライダ22の先端面に沿い、幅方向に間隔を隔てて複数(4個)配置されている。
【0055】
先側端子26は、磁気ヘッド(図示せず)が電気的に接続されるヘッド側端子26Aである。
【0056】
後側端子27は、後部17の後端部に配置され、具体的には、先後方向に間隔を隔てて複数(6個)配置されている。後側端子27は、信号配線25Aに連続し、リード・ライト基板の端子が接続される複数(4個)の外部側端子27Aを備えている。
【0057】
また、後側端子27は、さらに、電源配線25Bに連続し、圧電素子5と電気的に接続される電源側端子27Bを複数(2個)備えている。なお、電源側端子27Bは、外部側端子27Aの先後方向両側に間隔を隔てて配置されており、電源(図示せず)に電気的に接続される。
【0058】
そして、図3および図5に示すように、回路付サスペンション基板3は、金属支持基板18と、その上に形成される絶縁層30と、絶縁層30に被覆される導体層19とを備えている。
【0059】
金属支持基板18は、例えば、ステンレス、42アロイ、アルミニウム、銅-ベリリウム、りん青銅などの金属材料から形成されている。好ましくは、ステンレスから形成されている。金属支持基板18の厚みは、例えば、15?50μm、好ましくは、15?20μmである。
【0060】
絶縁層30は、金属支持基板18の上面に形成されるベース絶縁層28と、ベース絶縁層28の上に、配線25を被覆するように形成されるカバー絶縁層29とを備えている。
【0061】
ベース絶縁層28は、図1が参照されるように、先部15、配線部16および後部17における金属支持基板18の上面に、導体層19に対応するパターンに形成されている。
【0062】
ベース絶縁層28は、例えば、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、アクリル樹脂、ポリエーテルニトリル樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂などの合成樹脂などの絶縁材料から形成されている。好ましくは、ポリイミド樹脂から形成されている。
【0063】
ベース絶縁層28の厚み(最大厚み)は、例えば、1?35μm、好ましくは、8?15μmである。
【0064】
カバー絶縁層29は、配線部16、先部15および後部17において、配線25から露出するベース絶縁層28の上面と、配線25の上面および側面とを被覆するように形成されている。また、カバー絶縁層29は、図示しないが、先部15において、先側端子26を露出するとともに、後部17において、後側端子27を露出するパターンに形成されている。
【0065】
カバー絶縁層29は、ベース絶縁層28の絶縁材料と同様の絶縁材料から形成されている。カバー絶縁層29の厚みは、例えば、1?40μm、好ましくは、1?10μmである。
【0066】
導体層19は、図1および図3に示すように、先部15、配線部16および後部17におけるベース絶縁層28の上面に、上記したパターンに形成されている。
【0067】
導体層19は、例えば、銅、ニッケル、金、はんだ、またはそれらの合金などの導体材料などから形成されている。好ましくは、銅から形成されている。

(4) 記載事項4
【0071】
そして、この回路付サスペンション基板3は、図1および図2に示すように、金属支持基板18の下面が支持プレート2に支持されている。具体的には、配線部16および先部15の下面が、支持プレート2に支持され、後部17の下面が、支持プレート2に支持されることなく、支持プレート2から後方に突出している。
【0072】
詳しくは、回路付サスペンション基板3は、第1屈曲部21が、後プレート部9の幅方向一端部および先端部に沿って略L字形状に配置され、第1直線部20が、後プレート部9の先端部の幅方向中央部からプレート開口部12の幅方向中央部を横切り、その後、先プレート部10の幅方向中央部に至るように、配置されている。また、回路付サスペンション基板3は、先部15が、ロードビーム部8の先後方向にわたって、ロードビーム部8の幅方向中央部に形成されるように、配置されている。
【0073】
圧電素子5は、支持プレート2の下側に取り付けられている。
【0074】
具体的には、圧電素子5は、幅方向に間隔を隔てて複数(2個)設けられている。
【0075】
各圧電素子5は、先後方向に伸縮可能なアクチュエータであって、先後方向に長い平面視略矩形状に形成されている。圧電素子5は、プレート開口部12を先後方向に跨ぐように配置されている。
【0076】
詳しくは、各圧電素子5の先後方向両端部は、後プレート部9の先端部および先プレート部10の後端部における取付領域13(図1の破線)に、接着剤層31を介して接着され、固定されている。
【0077】
また、図3に示すように、各圧電素子5の上面には、先後方向中央部に、圧電端子48が設けられており、圧電端子48が、回路付サスペンション基板3の圧電側端子40(後述)と電気的に接続されている。

(5) 記載事項5
【0079】
次に、回路付サスペンション基板3における幅方向一方側の圧電側端子40について詳述する。なお、幅方向他方側の圧電側端子40は、幅方向一方側の圧電側端子40と第1直線部20に対して対称となるように形成されており、その説明を省略する。
【0080】
回路付サスペンション基板3には、図6および図7に示すように、圧電側端子40を含む接続アーム32が設けられている。
【0081】
接続アーム32は、第1直線部20の先後方向中央部から幅方向外側にアーム状に突出するように設けられている。
【0082】
接続アーム32は、第1直線部20と幅方向一方側に間隔を隔てて配置されるパッド部33と、第1直線部20およびパッド部33を連結するジョイント部41とを備えている。
【0083】
パッド部33は、図3および図4に示すように、金属支持基板18と、金属支持基板18の上に形成されるベース絶縁層28と、ベース絶縁層28の上に形成される導体層19と備えている。
【0084】
パッド部33において、金属支持基板18は、図6および図7に示すように、平面視略円環(リング)形状に支持パッド50として形成されている。つまり、図3に示すように、支持パッド50の中央部には、厚み方向を貫通する平面視略円形状の支持開口部34が形成されている。
【0085】
パッド部33において、図4および図6に示すように、ベース絶縁層28は、支持パッド50よりわずかに小さい平面視略円環(リング)形状に形成されている。ベース絶縁層28の中央部には、厚み方向を貫通する平面視略円形状の絶縁開口部としてのベース開口部である第1ベース開口部37が形成されている。つまり、ベース絶縁層28は、その第1ベース開口部37の内径が、支持パッド50の支持開口部34の内径より小さくなり、かつ、ベース絶縁層28の外径が、支持パッド50の外径より小さくなるように、形成されている。

(6) 記載事項6
【0090】
枠導体39は、図6に示すように、ベース絶縁層28によりわずかに小さい平面視略円環(リング)形状に形成されている。具体的には、枠導体39の外径は、図3に示すように、厚み方向に投影したときに、ベース絶縁層28の外径より小さく形成されている。
【0091】
圧電側端子40は、図6に示すように、平面視において、枠導体39の内周部に連続する平面視略円形状に形成されている。
【0092】
また、図3および図5に示すように、圧電側端子40は、枠導体39の内周部からベース絶縁層28の第1ベース開口部37内に落ち込むように形成されている。
【0093】
圧電側端子40の下面は、ベース絶縁層28の第1ベース開口部37および第2ベース開口部38内、および、支持パッド50の支持開口部34内に露出するとともに、圧電側端子40の上面も、露出している。

(7) 記載事項7
【0109】
また、圧電側端子40の平面積(底面積と実質的に同一)S3の、圧電側端子40の平面積S3および枠導体39の平面積S4の総面積に対する比率(=S3/(S3+S4))は、百分率で、例えば、5%を超過し、好ましくは、10%を超過し、通常、例えば、100%未満である。
【0110】
ジョイント部41は、図6および図7に示すように、第1直線部20の先後方向中央部における幅方向一端部と、パッド部33の幅方向他端部とを架設している。
【0111】
ジョイント部41は、幅方向に延び、パッド部33の外径より小さい幅(短い先後方向長さ)の平面視略矩形状に形成されている。
【0112】
ジョイント部41は、図5および図6に示すように、ベース絶縁層28と、ベース絶縁層28の上に形成される電源配線25Bと、ベース絶縁層28の上に、電源配線25Bを被覆するように形成されるカバー絶縁層29とを備えている。
【0113】
ジョイント部41において、図6に示すように、ベース絶縁層28は、ジョイント部41の外形形状に対応する形状に形成されている。ジョイント部41のベース絶縁層28は、第1直線部20におけるベース絶縁層28と、パッド部33におけるベース絶縁層28とに連続して形成されている。
【0114】
ジョイント部41における電源配線25Bは、幅方向に沿って延びるように形成され、第1直線部20の電源配線25Bと、パッド部33の枠導体39の幅方向他端部とに連続して形成されている。
【0115】
ジョイント部41において、カバー絶縁層29は、電源配線25Bの上面および側面を被覆するとともに、ベース絶縁層28の先後方向両端部の上面を露出するパターンに形成されている。
【0116】
なお、この回路付サスペンション基板3において、図3および図5が参照されるように、各端子、具体的には、先側端子26(図1参照)、後側端子27(図1参照)、圧電側端子40および枠導体39の表面には、保護薄膜47が形成されている。
【0117】
パッド部33において、保護薄膜47は、枠導体39の上面および外側面に形成されるとともに、圧電側端子40の上面および下面の両面に形成されている。
【0118】
保護薄膜47は、例えば、ニッケル、金などの金属材料から形成されている。好ましくは、ニッケルから形成されている。保護薄膜47の厚みは、例えば、0.05?0.1μmである。

(8) 記載事項8
【0149】
そして、図3および図5に示すように、導電性接着剤42を介して、回路付サスペンション基板3の圧電側端子40と、圧電素子5の圧電端子48とを電気的に接続する。具体的には、圧電側端子40と圧電端子48との間に導電性接着剤42を介在させ、それらを例えば、比較的低温(具体的には、100?200℃)に加熱することにより、圧電側端子40と圧電端子48とを接着するとともに、導電性接着剤42を介して圧電側端子40と圧電端子48とを電気的に接続する。
【0150】
導電性接着剤42は、比較的低温の加熱(例えば、100?200℃)により接着作用を発現する接続媒体である。接続媒体は、例えば、銀ペーストなどの導電性ペースト、例えば、錫-ビスマス合金、錫-インジウム合金などの共晶合金(錫系合金)などの低融点金属などからなる。接続媒体は、好ましくは、導電性ペーストから形成される。

(9) 先願図面記載事項
図1として次の記載がある。

図5として次の記載がある。

(10) 先願発明
上記(1)から(9)によると,先願明細書等には次の発明(以下「先願発明」という。)が記載されてるといえる。

回路付サスペンション基板を備えるアセンブリにおいて,
アセンブリ(1)は,磁気ヘッドを実装するスライダ(22)が実装された回路付サスペンション基板(3)を支持プレート(2)によって支持させて,ハードディスクドライブに実装されるヘッドスタックアセンブリ(HSA)であり,アセンブリ(1)は,支持プレート(2)と,支持プレート(2)の上(厚み方向他方側,以下同様。)に配置され,支持プレート(2)によって支持される回路付サスペンション基板(3)と,支持プレート(2)に支持されながら,回路付サスペンション基板(3)の位置および角度を精細に調節するための電子素子としての圧電素子(ピエゾ素子)(5)とを備え,
回路付サスペンション基板(3)は,金属支持基板(18)と,金属支持基板(18)に支持される導体層(19)とが設けられ,
金属支持基板(18)は,回路付サスペンション基板(3)の外形形状に対応するように形成されており,配線部(16)と,配線部(16)の先側に形成される先部(15)と,配線部(16)の後側に形成される後部(17)とを一体的に備え,
配線部(16)は,金属支持基板(18)の先後方向中央部に形成されており,先後方向に延びる直線部(20)と,直線部(20)の後端部から幅方向一方に屈曲した後,さらに,後方に屈曲する屈曲部21とを一体的に備え,
配線部(16)は,配線(25)を支持し,
後部(17)は,屈曲部(21)の後端から連続しており,屈曲部(21)と略同幅の平面視略矩形状に形成され,後部(17)は,後側端子(27)を支持し,
導体層(19)は,金属支持基板(18)の上において,先後方向に沿って延びる配線(25)と,配線(25)の先端部に連続する先側端子(26)と,配線(25)の後端部に連続する後側端子(27)とを一体的に備え,
また,配線(25)は,さらに,電源配線(25B)を複数(2個)備え,
電源配線(25B)は,電源側端子(27B)と電気的に接続されており,後部(17)において,電源側端子(27B)に連続し,後部(17)および屈曲部(21)において,信号配線(25A)の両側に間隔を隔てて並行して配置され,直線部(20)の先後方向中央部において,幅方向両外側に屈曲して,枠導体(39)に至るように配置され,
そして,回路付サスペンション基板(3)は,金属支持基板(18)と,その上に形成される絶縁層(30)と,絶縁層(30)に被覆される導体層(19)とを備え,
圧電素子(5)は,支持プレート(2)の下側に取り付けられ,
具体的には,圧電素子(5)は,幅方向に間隔を隔てて複数(2個)設けられ,
各圧電素子(5)は,先後方向に伸縮可能なアクチュエータであって,先後方向に長い平面視略矩形状に形成され,圧電素子(5)は,プレート開口部(12)を先後方向に跨ぐように配置され,
回路付サスペンション基板(3)には,圧電側端子(40)を含む接続アーム(32)が設けられ,
接続アーム(32)は,直線部(20)の先後方向中央部から幅方向外側にアーム状に突出するように設けられ,
接続アーム(32)は,直線部(20)と幅方向一方側に間隔を隔てて配置されるパッド部(33)と,直線部(20)およびパッド部(33)を連結するジョイント部(41)とを備え,
パッド部(33)は,金属支持基板(18)と,金属支持基板(18)の上に形成されるベース絶縁層(28)と,ベース絶縁層(28)の上に形成される導体層(19)と備え,
また,圧電側端子(40)は,枠導体(39)の内周部からベース絶縁層(28)の第1ベース開口部(37)内に落ち込むように形成され,
圧電側端子(40)の下面は,ベース絶縁層(28)の第1ベース開口部(37)および第2ベース開口部(38)内,および,金属支持基板(18)の支持開口部(34)内に露出するとともに,圧電側端子(40)の上面も,露出し,
ジョイント部(41)は,ベース絶縁層(28)と,ベース絶縁層(28)の上に形成される電源配線(25B)と,ベース絶縁層(28)の上に,電源配線(25B)を被覆するように形成されるカバー絶縁層(29)とを備えている
回路付サスペンション基板。

2 優先基礎出願明細書等記載事項
既に記したとおり,出願日を,本願は平成23年12月28日とするところ,先願は平成24年5月25日とする。
そこで,平成23年5月31日を出願日とする優先基礎出願に係る優先基礎出願明細書等に,先願発明が記載されているといえるかについて確認する。(特許法第41条第3項)
そして,優先基礎出願明細書等には次の記載がある。(下線は当審が付与,上記(1)から(8)において附した下線に対応。)

(1) 記載事項1
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、本発明の配線回路基板の一実施形態である回路付サスペンション基板を備えるアセンブリの平面図、図2は、図1に示すアセンブリのA-A線に沿う断面図、図3は、図1に示すアセンブリのB-B線に沿う断面図、図4は、図3に示すアセンブリの圧電側端子の拡大断面図、図5は、図1に示すアセンブリのC-C線に沿う断面図、図6は、図1に示すアセンブリの接続アームの拡大平面図、図7は、図1に示すアセンブリの接続アームの拡大底面図、図8および図9は、回路付サスペンション基板を製造する方法を説明する工程図を示す。
【0022】
なお、図1において、ベース絶縁層28およびカバー絶縁層29は、金属支持基板18および導体層19の相対配置を明確に示すため、省略している。
【0023】
図1および図2において、アセンブリ1は、磁気ヘッド(図示せず)を実装するスライダ22が実装された回路付サスペンション基板3を支持プレート2によって支持させて、ハードディスクドライブ(図示せず)に実装されるヘッドスタックアセンブリ(HSA)である。アセンブリ1は、支持プレート2と、支持プレート2の上(厚み方向他方側、以下同様。)に配置され、支持プレート2によって支持される回路付サスペンション基板3と、支持プレート2に支持されながら、回路付サスペンション基板3の位置および角度を精細に調節するための電子素子としての圧電素子(ピエゾ素子)5とを備えている。
【0024】
支持プレート2は、長手方向(先後方向)に延びるように形成されており、アクチュエータプレート部6と、アクチュエータプレート部6の下(厚み方向一方側、以下同様。)に形成されるベースプレート部7と、アクチュエータプレート部6の先側に連続して形成されるロードビーム部8とを備えている。
【0025】
アクチュエータプレート部6は、後プレート部9と、後プレート部9の先側に間隔を隔てて配置される先プレート部10と、後プレート部9および先プレート部10の間に形成される可撓部11とを一体的に備えている。
【0026】
後プレート部9は、アクチュエータプレート部6の後端部において、平面視略矩形状に形成されている。
【0027】
先プレート部10は、幅方向(先後方向に直交する方向)に延びる平面視略矩形状に形成されている。
【0028】
可撓部11は、アクチュエータプレート部6の幅方向両側に設けられている。幅方向一方側の可撓部11は、後プレート部9の先端部と、先プレート部10の後端部とを架設するように形成されている。また、幅方向他方側の可撓部11は、後プレート部9の先端部と、先プレート部10の後端部とを架設するように形成されている。
【0029】
各可撓部11は、その先後方向中央部が幅方向両外側に湾曲し、かつ、先後方向にわたって略同幅に形成されている。詳しくは、可撓部11の先後方向中央部は、幅方向両外側に略U字(あるいは略V字)形状に張り出すように形成されている。
【0030】
従って、可撓部11は、後述するが、圧電素子5の伸縮によって、先プレート部10を、後プレート部9に対して離間および近接可能に形成されている。

(2) 記載事項2
【0040】
回路付サスペンション基板3は、先後方向に延びる平面視略平帯形状に形成されている。
【0041】
回路付サスペンション基板3は、図1に示すように、金属支持基板18と、金属支持基板18に支持される導体層19とが設けられている。
【0042】
金属支持基板18は、回路付サスペンション基板3の外形形状に対応するように形成されており、配線部16と、配線部16の先側に形成される先部15と、配線部16の後側に形成される後部17とを一体的に備えている。
【0043】
配線部16は、金属支持基板18の先後方向中央部に形成されており、先後方向に延びる直線部20と、直線部20の後端部から幅方向一方に屈曲した後、さらに、後方に屈曲する屈曲部21とを一体的に備えている。なお、直線部20および屈曲部21は、先後方向にわたって略同幅に形成されている。
【0044】
配線部16は、配線25(後述)を支持する。

(3) 記載事項3
【0048】
後部17は、屈曲部21の後端から連続しており、屈曲部21と略同幅の平面視略矩形状に形成されている。後部17は、後側端子27(後述)を支持する。
【0049】
導体層19は、金属支持基板18の上において、先後方向に沿って延びる配線25と、配線25の先端部に連続する先側端子26と、配線25の後端部に連続する後側端子27とを一体的に備えている。
【0050】
配線25は、磁気ヘッド(図示せず)およびリード・ライト基板(図示せず)間に電気信号を伝達する信号配線25Aを備え、回路付サスペンション基板3の先後方向全体にわたって配置されている。信号配線25Aは、幅方向に間隔を隔てて複数(4個)配置されている。
【0051】
また、配線25は、さらに、電源配線25Bを複数(2個)備えている。
【0052】
電源配線25Bは、次に説明する電源側端子27Bと電気的に接続されており、後部17において、電源側端子27Bに連続し、後部17および屈曲部21において、信号配線25Aの両側に間隔を隔てて並行して配置され、直線部20の先後方向中央部において、幅方向両外側に屈曲して、後述する枠導体39(図6参照)に至るように配置されている。
【0053】
先側端子26は、先部15に配置され、具体的には、ジンバル23の先側において、スライダ22の先端面に沿い、幅方向に間隔を隔てて複数(4個)配置されている。
【0054】
先側端子26は、磁気ヘッド(図示せず)が電気的に接続されるヘッド側端子26Aである。
【0055】
後側端子27は、後部17の後端部に配置され、具体的には、先後方向に間隔を隔てて複数(6個)配置されている。後側端子27は、信号配線25Aに連続し、リード・ライト基板の端子が接続される複数(4個)の外部側端子27Aを備えている。
【0056】
また、後側端子27は、さらに、電源配線25Bに連続し、圧電素子5と電気的に接続される電源側端子27Bを複数(2個)備えている。なお、電源側端子27Bは、外部側端子27Aの先後方向両側に間隔を隔てて配置されており、電源(図示せず)に電気的に接続される。
【0057】
そして、図3および図5に示すように、回路付サスペンション基板3は、金属支持基板18と、その上に形成される絶縁層30と、絶縁層30に被覆される導体層19とを備えている。
【0058】
金属支持基板18は、例えば、ステンレス、42アロイ、アルミニウム、銅-ベリリウム、りん青銅などの金属材料から形成されている。好ましくは、ステンレスから形成されている。金属支持基板18の厚みは、例えば、15?50μm、好ましくは、15?20μmである。
【0059】
絶縁層30は、金属支持基板18の上面に形成されるベース絶縁層28と、ベース絶縁層28の上に、配線25を被覆するように形成されるカバー絶縁層29とを備えている。
【0060】
ベース絶縁層28は、図1が参照されるように、先部15、配線部16および後部17における金属支持基板18の上面に、導体層19に対応するパターンに形成されている。
【0061】
ベース絶縁層28は、例えば、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、アクリル樹脂、ポリエーテルニトリル樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂などの合成樹脂などの絶縁材料から形成されている。好ましくは、ポリイミド樹脂から形成されている。
【0062】
ベース絶縁層28の厚み(最大厚み)は、例えば、1?35μm、好ましくは、8?15μmである。
【0063】
カバー絶縁層29は、配線部16、先部15および後部17において、配線25から露出するベース絶縁層28の上面と、配線25の上面および側面とを被覆するように形成されている。また、カバー絶縁層29は、図示しないが、先部15において、先側端子26を露出するとともに、後部17において、後側端子27を露出するパターンに形成されている。
【0064】
カバー絶縁層29は、ベース絶縁層28の絶縁材料と同様の絶縁材料から形成されている。カバー絶縁層29の厚みは、例えば、1?40μm、好ましくは、1?10μmである。
【0065】
導体層19は、図1および図3に示すように、先部15、配線部16および後部17におけるベース絶縁層28の上面に、上記したパターンに形成されている。
【0066】
導体層19は、例えば、銅、ニッケル、金、はんだ、またはそれらの合金などの導体材料などから形成されている。好ましくは、銅から形成されている。

(4) 記載事項4
【0070】
そして、この回路付サスペンション基板3は、図1および図2に示すように、金属支持基板18の下面が支持プレート2に支持されている。具体的には、配線部16および先部15の下面が、支持プレート2に支持され、後部17の下面が、支持プレート2に支持されることなく、支持プレート2から後方に突出している。
【0071】
詳しくは、回路付サスペンション基板3は、屈曲部21が、後プレート部9の幅方向一端部および先端部に沿って略L字形状に配置され、直線部20が、後プレート部9の先端部の幅方向中央部からプレート開口部12の幅方向中央部を横切り、その後、先プレート部10の幅方向中央部に至るように、配置されている。また、回路付サスペンション基板3は、先部15が、ロードビーム部8の先後方向にわたって、ロードビーム部8の幅方向中央部に形成されるように、配置されている。
【0072】
圧電素子5は、支持プレート2の下側に取り付けられている。
【0073】
具体的には、圧電素子5は、幅方向に間隔を隔てて複数(2個)設けられている。
【0074】
各圧電素子5は、先後方向に伸縮可能なアクチュエータであって、先後方向に長い平面視略矩形状に形成されている。圧電素子5は、プレート開口部12を先後方向に跨ぐように配置されている。
【0075】
詳しくは、各圧電素子5の先後方向両端部は、後プレート部9の先端部および先プレート部10の後端部における取付領域13(図1の破線)に、接着剤層31を介して接着され、固定されている。
【0076】
また、図3に示すように、各圧電素子5の上面には、先後方向中央部に、圧電端子48が設けられており、圧電端子48が、回路付サスペンション基板3の圧電側端子40(後述)と電気的に接続されている。

(5) 記載事項5
【0078】
次に、回路付サスペンション基板3における幅方向一方側の圧電側端子40について詳述する。なお、幅方向他方側の圧電側端子40は、幅方向一方側の圧電側端子40と直線部20に対して対称となるように形成されており、その説明を省略する。
【0079】
回路付サスペンション基板3には、図6および図7に示すように、圧電側端子40を含む接続アーム32が設けられている。
【0080】
接続アーム32は、直線部20の先後方向中央部から幅方向外側にアーム状に突出するように設けられている。
【0081】
接続アーム32は、直線部20と幅方向一方側に間隔を隔てて配置されるパッド部33と、直線部20およびパッド部33を連結するジョイント部41とを備えている。
【0082】
パッド部33は、図3および図4に示すように、金属支持基板18と、金属支持基板18の上に形成されるベース絶縁層28と、ベース絶縁層28の上に形成される導体層19と備えている。
【0083】
パッド部33において、金属支持基板18は、図6および図7に示すように、平面視略円環(リング)形状に形成されている。つまり、図3に示すように、金属支持基板18の中央部には、厚み方向を貫通する平面視略円形状の支持開口部34が形成されている。
【0084】
パッド部33において、図4および図6に示すように、ベース絶縁層28は、金属支持基板18よりわずかに小さい平面視略円環(リング)形状に形成されている。ベース絶縁層28の中央部には、厚み方向を貫通する平面視略円形状の絶縁開口部としてのベース開口部である第1ベース開口部37が形成されている。つまり、ベース絶縁層28は、その第1ベース開口部37の内径が、金属支持基板18の支持開口部34の内径より小さくなり、かつ、ベース絶縁層28の外径が、金属支持基板18の外径より小さくなるように、形成されている。

(6) 記載事項6
【0089】
枠導体39は、図6に示すように、ベース絶縁層28によりわずかに小さい平面視略円環(リング)形状に形成されている。具体的には、枠導体39の外径は、図3に示すように、厚み方向に投影したときに、ベース絶縁層28の外径より小さく形成されている。
【0090】
圧電側端子40は、図6に示すように、平面視において、枠導体39の内周部に連続する平面視略円形状に形成されている。
【0091】
また、図3および図5に示すように、圧電側端子40は、枠導体39の内周部からベース絶縁層28の第1ベース開口部37内に落ち込むように形成されている。
【0092】
圧電側端子40の下面は、ベース絶縁層28の第1ベース開口部37および第2ベース開口部38内、および、金属支持基板18の支持開口部34内に露出するとともに、圧電側端子40の上面も、露出している。

(7) 記載事項7
【0108】
また、圧電側端子40の平面積(底面積と実質的に同一)S3の、圧電側端子40の平面積S3および枠導体39の平面積S4の総面積に対する比率(=S43/(S3+S4))は、百分率で、例えば、5%を超過し、好ましくは、10%を超過し、通常、例えば、100%未満である。
【0109】
ジョイント部41は、図6および図7に示すように、直線部20の先後方向中央部における幅方向一端部と、パッド部33の幅方向他端部とを架設している。
【0110】
ジョイント部41は、幅方向に延び、パッド部33の外径より小さい幅(短い先後方向長さ)の平面視略矩形状に形成されている。
【0111】
ジョイント部41は、図5および図6に示すように、ベース絶縁層28と、ベース絶縁層28の上に形成される電源配線25Bと、ベース絶縁層28の上に、電源配線25Bを被覆するように形成されるカバー絶縁層29とを備えている。
【0112】
ジョイント部41において、図6に示すように、ベース絶縁層28は、ジョイント部41の外形形状に対応する形状に形成されている。ジョイント部41のベース絶縁層28は、直線部20におけるベース絶縁層28と、パッド部33におけるベース絶縁層28とに連続して形成されている。
【0113】
ジョイント部41における電源配線25Bは、幅方向に沿って延びるように形成され、直線部20の電源配線25Bと、パッド部33の枠導体39の幅方向他端部とに連続して形成されている。
【0114】
ジョイント部41において、カバー絶縁層29は、電源配線25Bの上面および側面を被覆するとともに、ベース絶縁層28の先後方向両端部の上面を露出するパターンに形成されている。
【0115】
なお、この回路付サスペンション基板3において、図3および図5が参照されるように、各端子、具体的には、先側端子26(図1参照)、後側端子27(図1参照)、圧電側端子40および枠導体39の表面には、保護薄膜47が形成されている。
【0116】
パッド部33において、保護薄膜47は、枠導体39の上面および外側面に形成されるとともに、圧電側端子40の上面および下面の両面に形成されている。
【0117】
保護薄膜47は、例えば、ニッケル、金などの金属材料から形成されている。好ましくは、ニッケルから形成されている。保護薄膜47の厚みは、例えば、0.05?0.1μmである。

(8) 当審注
上記【0108】には「圧電側端子40の平面積S3および枠導体39の平面積S4の総面積に対する比率(=S43/(S3+S4))は」との記載がある。該記載が正しくは「圧電側端子40の平面積S3および枠導体39の平面積S4の総面積に対する比率(=S4/(S3+S4))は」であることは,該【0108】における「圧電側端子40の平面積S3および枠導体39の平面積S4の総面積に対する比率」との記載から明らかである。

(9) 記載事項8
【0149】
そして、図3および図5に示すように、導電性接着剤42を介して、回路付サスペンション基板3の圧電側端子40と、圧電素子5の圧電端子48とを電気的に接続する。具体的には、圧電側端子40と圧電端子48との間に導電性接着剤42を介在させ、それらを例えば、比較的低温(具体的には、100?200℃)に加熱することにより、圧電側端子40と圧電端子48とを接着するとともに、導電性接着剤42を介して圧電側端子40と圧電端子48とを電気的に接続する。
【0150】
導電性接着剤42は、比較的低温の加熱(例えば、100?200℃)により接着作用を発現する接続媒体(例えば、銀ペーストなどの導電性ペースト)である。圧電側端子40は、導電性接着剤42を介して圧電素子5の圧電端子48と電気的に接続されるとともに、圧電端子48に接着する。

(10) 優先基礎出願図面記載事項
図1として次の記載がある。

図5として次の記載がある。

(11) 先願発明が優先基礎出願明細書等に記載されているといえるか(41条3項の規定を適用できるか)について

ア 優先基礎出願明細書【0043】(上記2.(2)参照。)では「配線部16は、金属支持基板18の先後方向中央部に形成されており、先後方向に延びる直線部20と、直線部20の後端部から幅方向一方に屈曲した後、さらに、後方に屈曲する屈曲部21とを一体的に備えている。なお、直線部20および屈曲部21は、先後方向にわたって略同幅に形成されている。」との記載が,先願明細書【0044】(上記1.(2)参照。)では「配線部16は、金属支持基板18の先後方向中央部に形成されており、先後方向に延びる第1直線部20と、第1直線部20の後端部から幅方向一方に屈曲した後、さらに、後方に屈曲する第1屈曲部21とを一体的に備えている。なお、第1直線部20および第1屈曲部21は、先後方向にわたって略同幅に形成されている。」と記載される。
これは,優先基礎出願明細書では,単に「直線部20」,「屈曲部21」との記載であったのに対し,先願明細書では,「第1直線部」,「第1屈曲部」のように「第1」との数詞を附したものであるから,両者の記載は実質的に同一の記載であるということができる。

イ 優先基礎出願明細書【0052】(上記2.(3)参照。)「電源配線25Bは、次に説明する電源側端子27Bと電気的に接続されており、後部17において、電源側端子27Bに連続し、後部17および屈曲部21において、信号配線25Aの両側に間隔を隔てて並行して配置され、直線部20の先後方向中央部において、幅方向両外側に屈曲して、後述する枠導体39(図6参照)に至るように配置されている。」との記載が,先願明細書【0053】(上記1.(3)参照。)「電源配線25Bは、次に説明する電源側端子27Bと電気的に接続されており、後部17において、電源側端子27Bに連続し、後部17および第1屈曲部21において、信号配線25Aの両側に間隔を隔てて並行して配置され、第1直線部20の先後方向中央部において、幅方向両外側に屈曲して、後述する枠導体39(図6参照)に至るように配置されている。」と記載される。
これは,上記アに述べたのと同様であり,両者の記載は実質的に同一の記載であるといえる。

ウ 優先基礎出願明細書【0078】(上記2.(5)参照。)では「次に、回路付サスペンション基板3における幅方向一方側の圧電側端子40について詳述する。なお、幅方向他方側の圧電側端子40は、幅方向一方側の圧電側端子40と直線部20に対して対称となるように形成されており、その説明を省略する。」との記載が,先願明細書【0079】(上記1.(5)参照。)「次に、回路付サスペンション基板3における幅方向一方側の圧電側端子40について詳述する。なお、幅方向他方側の圧電側端子40は、幅方向一方側の圧電側端子40と第1直線部20に対して対称となるように形成されており、その説明を省略する。」と記載される。
これは,上記アに述べたのと同様であり,両者の記載は実質的に同一の記載であるといえる。

3 小括
以上のとおりであるから,先願発明は,先願明細書等に記載された発明のうち,優先基礎出願明細書等に記載された発明(以下「優先基礎発明」という。)であるということができる。
したがって,特許法第41条第3項の規定により,該優先基礎発明については,先願10について出願公開された時に優先基礎出願(「先の出願」)について出願公開がされたものとみなし,同法第29条の2本文の規定を適用することができる。


第5 周知技術

1 周知例1
本件出願の日前に頒布された特開2010-86649号公報(平成22年4月15日公開。以下「周知例1」という。)には,図面とともに次の記載がある。(下線は当審が付与。)

(1) 記載事項1
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ディスク装置の磁気ヘッドスライダを支持するためのヘッドサスペンションに関する。特に、本発明は、電圧の印加状態に応じて変形する圧電素子を備え、圧電素子の変形に従って磁気ヘッド側をスウェイ方向に微少移動させる圧電アクチュエータに関する。

(2) 記載事項2
【0052】
以下の説明において、共通の部材には共通の符合を付して、重複した説明を省略する。また、相互に類似する構成については、その相違点を中心に説明する。さらに、例えば、端子部材57A,57Bに代えて“端子部材57”のように“A”または“B”等の添え字を省略して表記したときは、端子部材57を総称するものとする。“端子部材57”以外の部材も同様とする。
【0053】
本発明実施例に係るヘッドサスペンション31の組立時において、圧電素子13は、開口部43の内周面によって所定の位置に位置決めされる。その結果、図4,図5及び図10等に示すように、圧電素子13に対する給電、並びに磁気ヘッドにおける読み取りまたは書き込み信号を伝送するための、フレキシャ39における配線部材55のうち端子部材57と、圧電素子13における共有電極板19とが、相互に対面するように位置する。これら両者間の高低差は数10μm程度とごく僅かである。
【0054】
なお、図5(A),図10(A)に示すように、端子部材57(配線部材55も同様)は、導電性基材(フレキシャ39のSUS製基材)59上に、電気絶縁層61を介して例えば銅線等からなる配線部63を、都合三層に積層させて構成されている。
【0055】
また、図5(B),図10(B)に示すように、端子部材57のうち、圧電素子13の共有電極板19と対面する範囲65について、共有電極板19と導電性基材59間における短絡事故を未然に回避する目的で、導電性基材59はエッチング処理によって除去されている。
【0056】
さて、端子部材57Aと、圧電素子13の共有電極板19と、の間における僅かな高低差を埋めて両者間の電気的な接続関係を確保するために、第1?第4端子部材57A-1?4に係る基本となる圧電素子の電気的接続構造は、圧電素子13に設けられる共有電極板19と、共有電極板19に給電するための端子部材57Aと、電気絶縁層61のみを貫通するように端子部材57Aに設けられる貫通孔67Aと、を備える。共有電極板19と端子部材57Aとを、電気絶縁層61側を圧電素子13側に向けて対面させ、かつ、共有電極板19と端子部材57Aとの間であって貫通孔67Aの周辺に液止め部材69を介在させた状態で、貫通孔67A内に液状の導電性接着剤71が注入される。これによって、共有電極板19と配線部63Aとの間を電気的に接続するように構成されている。
【0057】
第1?第4端子部材57A-1?4に係る圧電素子の電気的接続構造では、図5(A),図5(B)に示すように、貫通孔67Aは、電気絶縁層61のみを貫通するように端子部材57Aに設けられている。配線部63Aには孔が空けられていない。
【0058】
従って、電気絶縁層61に空けられた貫通孔67Aを通して、配線部63Aの端面を望むことができるようになっている。
【0059】
ここで、液止め部材69は、貫通孔67に導電性接着剤液71が注入されたとき、共有電極板19と端子部材57との間に生じる隙間を狭くさせ、かかる狭い隙間で毛細管現象を発生させる目的で、共有電極板19と端子部材57との間に介在させている。
【0060】
液止め部材69の材質は、導電性接着剤71の立体障害としての役割を果たす目的を考慮すると、導電性接着剤71に係る素材との相性が良好(浸食や溶解等の作用がない)である限りにおいて、例えば金属や樹脂など、あらゆる材質を採用することができる。導電性接着剤71としては、例えば銀ペーストなど、適宜の素材を採用することができる。
【0061】
なお、圧電素子13における第1及び第2電極板15,17の各々と、ベースプレート33との各間には、図1に示すように、各間における電気的な接続を確保するための一対の導電性接着剤53a,53bが塗布されている。これにより、第1及び第2電極板15,17の各々と、ベースプレート33との各間における電気的な接続関係が担保されている。
【0062】
次いで、第1端子部材57A-1に係る圧電素子の電気的接続構造について、前述した基本となる接続構造との差異に注目して説明すると、図6(A),図6(B),図6(C)に示すように、共有電極板19と第1端子部材57A-1との間であって貫通孔67Aの周囲にわたりリング状の液止め部材69-1を介在させた状態で、貫通孔67A内に液状の導電性接着剤71が注入されることによって、共有電極板19と配線部63Aとの間を電気的に接続するように構成されている。

(3) 図6として次の記載がある。

ここで,周知例1の【0057】における記載と,図6(C)の記載とによれば,「配線部(63A)が,断面視において貫通孔(67A)に入り込むことなく平坦上に形成されている」構成が,周知例1には記載されているということができる。

(4) 以上によれば,周知例1には,次の技術(以下「周知例1記載技術」という。)が記載されているということができる。

「磁気ディスク装置の磁気ヘッドスライダを支持するためのヘッドサスペンションにおいて,
端子部材(57A)と,圧電素子(13)の共有電極板(19)と,の間における僅かな高低差を埋めて両者間の電気的な接続関係を確保するために,圧電素子の電気的接続構造は,圧電素子(13)に設けられる共有電極板(19)と,共有電極板(19)に給電するための端子部材(57A)と,電気絶縁層(61)のみを貫通するように端子部材(57A)に設けられる貫通孔(67A)と,を備え,
共有電極板(19)と第1端子部材(57A-1)との間であって貫通孔(67A)の周囲にわたりリング状の液止め部材(69-1)を介在させた状態で,貫通孔(67A)内に液状の導電性接着剤(71)が注入されることによって,共有電極板(19)と配線部(63A)との間を電気的に接続するように構成し,
配線部(63A)が,断面視において貫通孔(67A)に入り込むことなく平坦状に形成される」技術。

2 周知例2
本件出願の日前に頒布された特開2011-222075号公報(平成23年11月4日公開。以下「周知例2」という。)には,図面とともに次の記載がある。(下線は当審が付与。)

(1) 記載事項1
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードディスク等の記憶媒体に対してデータをリード及び/又はライトする磁気ヘッドスライダを支持する為の磁気ヘッドサスペンション及びその製造方法に関する。

(2) 記載事項2
【0093】
さらに、本実施の形態に係る前記磁気ヘッドサスペンション1Aは、前記フレクシャ部40の前記絶縁層420に積層された第1及び第2電圧供給配線440(1),440(2)を介して前記一対の圧電素子60(1),60(2)に電圧供給を行うように構成されている。
【0094】
詳しくは、前記フレクシャ部40の前記絶縁層420のディスク対向面には、前記信号配線430に加えて前記第1及び第2電圧供給配線440(1),440(2)が積層されている。
【0095】
前記第1電圧供給配線440(1)は、図1B及び図2Bに示すように、基端部(図示略)が外部の電圧源に電気接続可能とされ且つ先端部が平面視において対応する前記第1圧電素子60(1)とオーバーラップされている。
同様に、前記第2電圧供給配線440(2)は、基端部(図示略)が前記電圧源に電気接続可能とされ且つ先端部が平面視において対応する前記第2圧電素子60(2)とオーバーラップされている。
【0096】
前記絶縁性420の前記連結領域429は、前記ディスク面と直交する平面視において前記第1及び第2圧電素子60(1),60(2)と少なくとも部分的にオーバーラップするように配置されている。
そして、前記連結領域429には、図4及び図6に示すように、前記第1及び第2電圧供給配線440(1),440(2)の前記先端部に対応した位置に開口429aが形成されており、前記第1及び第2電圧供給配線440(1),440(2)の先端部は前記開口429aを貫通するように設けられた下面側導電性接着剤75を介して対応する前記圧電素子60(1),60(2)の前記下面側電極層に電気的に接続されている。
【0097】
なお、前記圧電素子60(1),60(2)の前記上面側電極層は、図4に示すように、上面側導電性接着剤76を介して前記支持部10に電気的に接続されることで接地電位とされる。
好ましくは、前記上面側導電性接着剤76は、図1A及び図4に示すように、カバー用絶縁性接着剤77によって囲繞され得る。
【0098】
好ましくは、図2A,図3,図4及び図6に示すように、前記絶縁層420の前記連結領域429のディスク面とは反対側には前記下面側導電性接着剤75を囲繞するように配置された金属リング450が備えられる。
前記金属リング450を備えることにより、前記導電性接着剤75の広がりを抑制でき、前記導電性接着剤75による前記圧電素子60(1),60(2)の前記下面側電極層と前記第1及び第2電圧供給配線440(1),440(2)との電気的接続を確実に行うことができる。さらに、前記導電性接着剤75が広がって前記絶縁性接着剤73,74と混入することも有効に防止できる。

(3) 図面記載事項
図1Bとして次の記載がある。

図4として次の記載がある。

図6として次の記載がある。

ここで,周知例2の【0096】における記載と,図4及び図6の記載とによれば,「電気供給配線(440)が,断面視において,開口(429a)に入り込むことなく平坦状に形成される」構成が,周知例2には記載されているということができる。

(4) 以上によれば,周知例2には,次の技術(以下「周知例2記載技術」という。)が記載されているということができる。

「磁気ヘッドスライダを支持する為の磁気ヘッドサスペンションにおいて,
磁気ヘッドサスペンション(1A)は,フレクシャ部(40)の絶縁層(420)に積層された第1及び第2電圧供給配線(440(1),440(2))を介して一対の圧電素子(60(1),60(2))に電圧供給を行うように構成され,
フレクシャ部(40)の絶縁層(420)のディスク対向面には,信号配線(430)に加えて前記第1及び第2電圧供給配線(440(1),440(2))が積層され,
絶縁性(420)の連結領域(429)は,ディスク面と直交する平面視において第1及び第2圧電素子(60(1),60(2))と少なくとも部分的にオーバーラップするように配置され,
連結領域(429)には,第1及び第2電圧供給配線(440(1),440(2))の先端部に対応した位置に開口(429a)が形成されており,第1及び第2電圧供給配線(440(1),440(2))の先端部は開口(429a)を貫通するように設けられた下面側導電性接着剤(75)を介して対応する圧電素子(60(1),60(2))の下面側電極層に電気的に接続され,
絶縁層(420)の連結領域(429)のディスク面とは反対側には下面側導電性接着剤(75)を囲繞するように配置された金属リング(450)が備えられ,
電気供給配線(440)が,断面視において,開口(429a)に入り込むことなく平坦状形成される」技術。

3 周知技術
上記1及び2において例示した周知例1及び2は,次の技術が周知(以下「周知技術」という。)であることを裏付けるものであるということができる。

「磁気ディスク装置の磁気ヘッドスライダを支持するためのヘッドサスペンションにおいて,
導電性接着剤を介して圧電素子に電気的に接続される配線が,断面視において,貫通部(「貫通孔(67A)」,「開口(429a)」)に入り込むことなく平坦状に形成される」技術。


第6 当審の判断

1 対比
本願発明と優先基礎発明を比較すると次のことがいえる。

(1) 優先基礎発明における「金属支持基板(18)」,「先部(15)」,「スライダ」,「後側端子(27)」は,本願発明における「基板本体」,「ヘッド部」,「ヘッドスライダ」,「テール部」にそれぞれ相当する。
上記「後側端子」は,上記「金属支持基板」の上において,「導体層(19)」に「先後方向に沿って延びる配線(25)と、配線(25)の先端部に連続する先側端子(26)と」一体的に備えられるものである。つまり,該「後側端子」は「金属支持基板」が有するものであるといい得る。

そうすると,優先基礎発明及び本願発明は,「ヘッドスライダが実装されるサスペンション用基板」に係る発明の点で共通し,優先基礎発明も,本願発明における「前記ヘッドスライダが実装されるヘッド部と、前記外部接続基板が接続されるテール部と、を有する基板本体」を備えているということができる。
上記「後側端子」が「外部接続基板」と接続されることは当然であるということができる。

(2) 優先基礎発明における「圧電素子(5)」,「ジョイント部(41)」は,本願発明における「アクチュエータ素子」,「引出部」にそれぞれ相当する。

そして,先願明細書【0149】及び優先基礎出願明細書【0149】における記載によると,上記「圧電素子」は,「導電性接着剤(42)」を介して,上記「圧電側端子(40)」と接続される。
一方,本願発明における「アクチュエータ素子」は,導電性接着剤を介して「素子接続端子」と接続される。
このことから,優先基礎発明における「圧電側端子」は,本願発明における「素子接続端子」に相当するということができる。
また,優先基礎発明における「パッド部(33)」が,「圧電側端子」を有していることは明らかであるから,該「パッド部(33)」は本願発明における「素子接続部」に相当するということができる。

そして,優先基礎出願図面の図1の記載によると,該「ジョイント部」は<1>「直線状」であり,該「ジョイント部」の各々が,<2>平面視で,上記「圧電素子」の「直交する方向」に延び,<3>上記「スライダ」と「外部接続基板」とを接続する「配線(25)」の両側方に配置されていると解することができる。

以上のことから,優先基礎発明における「回路付サスペンション基板」も,「外部接続基板に接続されると共にアクチュエータ素子に導電性接着剤を介して接続されるサスペンション用基板」ということができる。
そして,優先基礎発明は,「一対の素子接続部であって、各々が前記基板本体に別々の直線状の引出部を介して連結され、前記アクチュエータ素子に前記導電性接着剤を介して接続される素子接続端子を有する一対の素子接続部」を備え,更に「前記引出部の各々は、平面視で、前記アクチュエータ素子の伸縮方向に直交する方向に延びているとともに、前記ヘッドスライダと前記外部接続基板とを接続する配線の両側方に配置されている」構成を有しているということができる。

(3) 優先基礎出願図面における図5の記載及び優先基礎出願明細書における記載から,次のことがいえる。

ア 優先基礎発明における「金属支持基板(18)」,「ジョイント部(41)」及び「パッド部(33)」は,「ベース絶縁層(28)」と,前記「ベース絶縁層(28)」の「圧電素子(5)」とは反対側の面に設けられ,「配線(25)」及び「圧電側端子(40)」を有する「配線部(16)」とを有している。
ここで,該「配線部(16)」は,本願発明における「配線層」に相当するということができる。
そして,上記(1)及び(2)に記したことを踏まえれば,優先基礎発明は,本願発明と同様に,「前記基板本体、前記引出部および前記素子接続部は、絶縁層と、前記絶縁層の前記アクチュエータ素子とは反対側の面に設けられ、前記配線および前記素子接続端子を有する配線層と」を有しているということができる。

イ 優先基礎発明における「パッド部(33)」が,「金属支持基板(18)と,金属支持基板(18)の上に形成されるベース絶縁層(28)と,ベース絶縁層(28)の上に形成される導体層(19)と」を備えることは明らかである。

ここで,優先基礎発明における「金属支持基板」は,「例えば、ステンレス、42アロイ、アルミニウム、銅-ベリリウム、りん青銅などの金属材料から形成されている。好ましくは、ステンレスから形成され,金属支持基板(18)の厚みは、好ましくは、15?20μmである」ものである(先願明細書【0059】及び優先基礎出願明細書【0058】参照。)。
このことから,該「金属支持基板」は「金属支持層」ともいうことができることは明らかである。

ウ 上記(1)及び(2)に記したことも併せてみれば,優先基礎発明には,本願発明と同様に,「前記基板本体および前記素子接続部において、前記絶縁層の前記アクチュエータ素子の側の面に金属支持層が設けられ」る構成が開示されているということができる。

エ 更に,優先基礎出願図面の図4及び先願図面の図4をみると,該「金属支持基板」が,「ジョイント部(41)」において,「ベース絶縁層(28)」の「圧電素子」の側の面に設けられていないことは,優先基礎発明において明らかであるということができる。
このことから,優先基礎発明は,本願発明と同様,「前記引出部において、前記絶縁層の前記アクチュエータ素子の側の面に前記金属支持層は設けられて」いないことは明らかである。

(4) 上記(1)から(3)によれば,本願発明と優先基礎発明は,次の点で一致し,相違するということができる。

[一致点]
ヘッドスライダが実装されるサスペンション用基板であって,外部接続基板に接続されると共にアクチュエータ素子に導電性接着剤を介して接続されるサスペンション用基板において,
前記ヘッドスライダが実装されるヘッド部と,前記外部接続基板が接続されるテール部と,を有する基板本体と,
一対の素子接続部であって,各々が前記基板本体に別々の直線状の引出部を介して連結され,前記アクチュエータ素子に前記導電性接着剤を介して接続される素子接続端子を有する一対の素子接続部と,を備え,
前記引出部の各々は,平面視で,前記アクチュエータ素子の伸縮方向に直交する方向に延びているとともに,前記ヘッドスライダと前記外部接続基板とを接続する配線の両側方に配置され,
前記基板本体,前記引出部および前記素子接続部は,絶縁層と,前記絶縁層の前記アクチュエータ素子とは反対側の面に設けられ,前記配線および前記素子接続端子を有する配線層と,を有し,
前記基板本体および前記素子接続部において,前記絶縁層の前記アクチュエータ素子の側の面に金属支持層が設けられ,
前記引出部において,前記絶縁層の前記アクチュエータ素子の側の面に前記金属支持層は設けられていないことを特徴とするサスペンション用基板。

[相違点]
ア 本願発明においては,「前記素子接続部において,前記金属支持層に前記導電性接着剤が注入される金属支持層注入孔が設けられるとともに,前記絶縁層に前記導電性接着剤が注入される絶縁層注入孔が設けられ」るとの特定があるのに対し,優先基礎発明においては,「金属支持層」に「金属支持層注入孔」を設け,かつ,「絶縁層」に「絶縁層注入孔」を設け,これら「注入孔」に「導電性接着剤」が注入されるとの明示的な特定がない点。(「相違点ア」)

イ 本願発明における「素子接続端子」は,「断面視において,前記絶縁層注入孔に入り込むことなく平坦状に形成されている」との特定があるのに対し,優先基礎発明においては,そのように形成することの明示的な特定がない点。(「相違点イ」)

2 検討
(1) 相違点アについて
<1> 先願明細書【0084】及び優先基礎出願明細書【0083】には,「パッド部(33)において,金属支持基板(18)は,厚み方向を貫通する支持開口部が(34)が形成されている。」旨の記載がある。
このことから,該「支持開口部」は,「パッド部」において,「金属支持基板」に設けられた「貫通孔」ということができることは明らかである。

<2> 先願明細書【0085】及び優先基礎出願明細書【0084】には,「パッド部(33)において,ベース絶縁層(28)には,厚み方向を貫通する第1ベース開口部(37)が形成されている。」旨の記載がある。
このことから,該「第1ベース開口部」は,「パッド部」において,「金属支持基板」に設けられた「貫通孔」ということができることは明らかである。

<3> 上記「1 対比」の(2)にも記したように,本願発明においても,優先基礎発明においても,「アクチュエータ素子」と「素子接続端子」との接続に,「導電性接着剤」が介在する点が共通することは明らかである。
しかし,本願発明では,「導電性接着剤」が,「金属支持層注入孔」及び「絶縁層注入孔」それぞれに「注入される」との特定があり,優先基礎発明にはそのような「注入される」との特定はない。

この点を更に検討するに,上記のように「注入される」か否かとの事項は,「アクチュエータ素子」と「素子接続端子」との接続に際し,「導電性接着剤」をどのように供給するかのサスペンション製造時の差異に過ぎず,「サスペンション」という「物」によって生じる差異ということはできない。
そうすると,本願発明における「前記素子接続部において、前記金属支持層に前記導電性接着剤が注入される金属支持層注入孔が設けられるとともに、前記絶縁層に前記導電性接着剤が注入される絶縁層注入孔が設けられ」るとの特定事項は,単に,「前記素子接続部において、前記金属支持層に前記導電性接着剤が充填されている金属支持層注入孔が設けられるとともに、前記絶縁層に前記導電性接着剤が充填されている絶縁層注入孔が設けられ」ることを技術的に意味すると解するべきである。
なお,周知例1の【0056】,【0059】,【0062】(上記「第5」の「1 周知例1」の(2)参照。)には,「圧電素子(67A)」と「配線部(63A)」との接続を介在する「導電性接着剤」を「注入する」旨の記載がある。

<4> ここで,上記<1>に記した「支持開口部(34)」にも,上記<2>に記した「第1ベース開口部(37)」にも,優先基礎発明における「導電性接着剤」が充填されることは明らかである。

そうすると,上記<3>に記したことを踏まえれば,上記「支持開口部」と,金属支持層に導電性接着剤が注入される「金属支持層注入孔」とに実質的な相違はなく,かつ,上記「第1ベース開口部」と,絶縁層に導電性接着剤が注入される「絶縁層注入孔」とにも実質的な相違はないということができる。

したがって,相違点アは,実質的な相違に当たらない。

(2) 相違点イについて
磁気ディスク装置の磁気ヘッドスライダを支持するためのヘッドサスペンションに関する分野において,圧電素子に設けられる電極板と,該電極板に給電するための端子部材と,電気絶縁層のみを貫通するように端子部材に設けられる貫通孔とを備える電気的接続構造に関し,磁気ヘッド側を微少移動させる圧電素子の電極と配線部とを電気的に接続するのに,「導電性接着剤を介して圧電素子に電気的に接続される配線が,断面視において,貫通部(「貫通孔(67A)」,「開口(429a)」)に入り込むことなく平坦状に形成される」技術は周知(上記「第5」の3参照。)であったということができる。

このように,周知技術を踏まえれば,優先基礎発明において,本願発明における「素子接続端子」に相当する「圧電側端子(40)」を,「パッド部」において,相違点イに係る構成とすることは,周知技術の転換に過ぎないというべきであって,本願発明において,このように「素子接続端子」を形成したことに格別な技術的意義があるということもできない。

そうすると,相違点イは,実質的な相違に当たらない。

3 まとめ
上記のとおりであるから,本願発明と優先基礎発明には,実質的な相違はない。

そして,本願発明の発明者と優先基礎発明の発明者は同一の者でないことは明白であり,また,本件出願の時にその出願人と先願の出願人も同一の者でないことは明白である。


第7 むすび

以上のとおりであるから,本願発明は,特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。
したがって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-06-20 
結審通知日 2017-06-23 
審決日 2017-07-10 
出願番号 特願2011-289182(P2011-289182)
審決分類 P 1 8・ 16- WZ (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 齊藤 健一  
特許庁審判長 北岡 浩
特許庁審判官 近藤 聡
川口 貴裕
発明の名称 サスペンション用基板、サスペンション、ヘッド付サスペンションおよびハードディスクドライブ  
代理人 朝倉 悟  
代理人 佐藤 泰和  
代理人 山下 和也  
代理人 永井 浩之  
代理人 堀田 幸裕  
代理人 中村 行孝  

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