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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 A63B
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A63B
管理番号 1331824
審判番号 不服2017-685  
総通号数 214 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-10-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-01-18 
確定日 2017-09-19 
事件の表示 特願2012-134987「スポーツ用手袋」拒絶査定不服審判事件〔平成25年12月26日出願公開、特開2013-255748、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年6月14日付けの特許出願であって、原審において平成28年4月7日付けで拒絶理由通知がされた後、同年5月20日付けで手続補正がされ、同年10月11日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。原査定の謄本の送達(発送)日 同月18日。)がされ、これに対して、平成29年1月18日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されて特許請求の範囲を補正する手続補正がなされたものである。

第2 原査定の概要
原査定に係る拒絶理由の概要は、次のとおりである。
1.原査定時の請求項1ないし5に係る各発明は、下記の引用文献1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当するから特許を受けることができない。
2.原査定時の請求項1ないし5に係る各発明は、下記の引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、同じく請求項6に係る発明は、下記の引用文献1ないし3に記載された発明あるいは周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該各請求項に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
1.実願昭56-8994号(実開昭57-121615号)のマイクロフィルム
2.米国特許出願公開第2004/0244092号明細書(周知技術を示す文献)
3.実願昭48-114844号(実開昭50-65572号)のマイクロフィルム(周知技術を示す文献)

第3 審判請求時の補正について
以下のとおり、審判請求時の補正は、特許法第17条の2第3項から第6項までに規定されている要件に違反するものではない。
審判請求時における、請求項1に「伸びの少ない柔軟な素材である」という事項を追加する補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、上記追加事項は、当初明細書の段落【0023】に記載されているから、審判請求時の補正は新規事項を追加するものではない。
そして、「第4 本願の発明」から「第7 むすび」までに示されているように、補正後の請求項1ないし6に係る発明は、独立特許要件を満たすものである。

第4 本願の発明
本願の請求項1ないし6に係る発明(以下それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明6」という。)は、平成29年1月18日付けの手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は次のとおりのものである。
「【請求項1】
ストレッチ素材を部分的に配置した伸びの少ない柔軟な素材である天然皮革、人工皮革又は合成皮革からなるスポーツ用手袋において、前記ストレッチ素材を、小指、薬指でバットまたはクラブを把持した際に、大きく膨らむ甲側面部分の小指外転筋を覆う領域に配置したことを特徴とするスポーツ用手袋。」

なお、本願発明2ないし6は、本願発明1を引用し、これを更に減縮した発明である。

第5 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前の昭和57年7月28日に頒布された刊行物である引用文献1(実願昭56-8994号(実開昭57-121615号)のマイクロフィルム)には、図面と共に次の事項が記載されている。(以下の下線は、いずれも審決で付した。引用文献2以下についても同様である。)
「この考案は野球、ゴルフ、テニス等のときに用いるスポーツ用手袋に関するもので、その主たる目的は、把握時に指節関節部がスムーズに動作し、把握弛緩を予防することにある。
従来から野球においてはバット、ゴルフにおいてはゴルフクラブ、テニスにおいてはラケットを把握するときに、手袋を片手又は両手に着用することが一般化している。しかし、これらの手袋は柔軟な皮革、合成皮革等が用いられているが、伸縮性に乏しいため把握時に指節関節部が行う屈曲動作に応じて手袋の掌部は緩むが甲側は引張られて緊張する。したがって、指節関節部には張力が作用した状態で把握していることになるので、把握時間の経過とともに握力が衰え疲労が増大して把握弛緩をきたすため、例えば野球バットを強振時に手から離れて飛んで行く光景がしばしば起き危険が伴う欠点があった。
かかる欠点に鑑みて改良したのがこの考案であり、その実施数例を図面について説明する。」(第2頁第4行?第3頁第3行)
「実施例2
皮革その他からなる手袋本体1の甲側において、指節関節部A-A’、B-B’-B”、C-C’-C“、D-D’-D”、E-E’-E”を包含する甲部と指部を切欠し、該切欠部に伸縮生地2を縫着する。この伸縮生地2はE-E’-E”に位置する部分を他部よりもより伸縮率の大きい生地2’を用いたことを特徴とするスポーツ用手袋である。」(第3頁第10?17行)
「なお、手を平にしたときと手を握ったときに皮膚の伸びを測定すると、次のように伸びることが判明した。
A-A’の伸び 約126%
B-B”の伸び 約127%
C-C”の伸び 約124%
D-D”の伸び 約129%
E-E”の伸び 約139%
したがって、把握において手袋は甲側が伸びるようにすることが有効な手段であり、最も伸びるE-E”の部分、つまり小指部が他の指部よりも伸びが大きいから、その伸びを抑制しない方が把握力を高められるので、実施例2のように構成するとゴルフクラブの把握などに有効である。」(第5頁第18行?第6頁第12行)

第1図から、「指節関節部A-A’、B-B’-B”、C-C’-C”、D-D’-D”、E-E’-E”」は、五つの指のそれぞれの指節関節部をいったものであり、そのうち、「E-E’-E”」は小指の指節関節部をいったものであることが看取できる。

上記の記載事項を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認定できる。
「柔軟ではあるが伸縮性に乏しい皮革その他からなる手袋本体1の甲側において、五つの指それぞれの指節関節部を包含する甲部と指部を切欠し、該切欠部に伸縮生地2を縫着した、野球、ゴルフ、テニス等のときに用いるスポーツ用手袋であって、この伸縮生地2は小指の指節関節部に位置する部分を他部よりもより伸縮率の大きい生地2’を用いて、他の指部よりも伸びが大きい小指部の伸びを抑制しないようにして把握力を高めることにより、ゴルフクラブの把握などに有効であるスポーツ用手袋。」

2.引用文献2について
また、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前の2004(平成16年)年12月9日に頒布された刊行物である引用文献2(米国特許出願公開第2004/0244092号明細書)には図面と共に次の事項が記載されている。(なお、原文の後の括弧{}内に記載したものは、当審での訳文である。)
「【0001】 This invention relates generally to gloves, and more specifically to sports gloves such as golf gloves having an improved design that allows the direct embroidery of a logo or design directly to the back of the glove to improve the appearance of the glove. 」
{「【0001】 この発明は一般的には手袋に係り、より詳細には、ゴルフ用の手袋のようなスポーツ手袋、それも改良されたデザインのものとすることにより、手袋の甲部にロゴや模様を直接刺繍して、手袋の見栄えを良くすることができるようにした手袋に係る。」}
「【0016】 As shown in FIG. 1 , a slit 28 extends from the open end 30 of glove 10 below tab 24 and patch 26 . The length of slit 28 is great enough that the open end 30 of glove 10 can be stretched over a conventional embroiderying device, for example either a tubular, oval sock, or rotary frame, for the direct embroidery step of this invention. It will be appreciated by those skilled in the art that the combination of a palm side tab 24 and extended slit 28 allows glove 10 to be stretched over a conventional hoop and directly embroidered in accordance with this invention. 」
{「【0016】 図1に示されるように、スリット28は、タブ24とパッチ26の下部で、手袋10の開放端30から延びている。スリット28の長さは、この発明の直接刺繍工程のために十分大きなものであり、従来から知られている刺繍用具、例えば、tubular、oval sock、あるいはrotary frameに手袋10の自由端30を伸ばして被せることができるようにされている。手の平側のタブ24と長く延びるスリット28との組合せで、手袋10が伸ばされて従来から知られているhoopに被せられることにより、この発明にしたがった直接の刺繍を可能にするという、これらの技術の巧妙さが理解されるであろう。」}
図1から、スリット28は手袋10の親指側に形成されていることが看取できる。

したがって、上記引用文献2には、「ゴルフ用の手袋のようなスポーツ手袋において、スリットを手袋の親指側に形成する」という技術事項が記載されていると認められる。

3.引用文献3について
また、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前の昭和50年6月13日に頒布された刊行物である引用文献3(実願昭48-114844号(実開昭50-65572号)のマイクロフィルム)には、図面と共に次の事項が記載されている。
「本考案はゴルフ手袋の改良に関する。
従来から、ゴルフ手袋は、ベルトを片方から締めるものであるが、本考案のゴルフ手袋は両サイドから、幅広のベルトで締めるもので革のたるみがない特徴がある。又、手袋部の両方に切り込みがあるので、残された中央部分を指方向にめくると、手袋が脱げやすい特徴もある」(第1頁第10?16行)
「・・・手袋には、2つの切り込み(3)(4)が中央部分(5)を残して、指方向に向かって両サイドにある。」(第1頁第18?20行)

第1ないし3図から、「切り込み(3)」が、手袋の甲部の親指側に設けられていることが看取できる。

ゴルフ手袋は「スポーツ手袋」といえるし、上記の「切り込み(3)」は手袋の着脱を容易にする、本願発明6の「スリット形状の履き口」に相当するものである。したがって、上記引用文献3には、「スポーツ手袋においてスリット形状の履き口を手袋の甲部の親指側に形成する」という技術事項が記載されていると認められる。

第6 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、後者の「スポーツ用手袋」は、野球やゴルフ等に用いられるものであるから、前者の「スポーツ用手袋」に相当し、以下同様に、「『伸縮生地2』、及び『より伸縮率の大きい生地2’』」は「ストレッチ素材」に、「柔軟ではあるが伸縮性に乏しい皮革」は「伸びの少ない柔軟な素材である天然皮革、人工皮革又は合成皮革」に、それぞれ相当する。
また、後者において「手袋本体1の甲側において、五つの指それぞれの指節関節部を包含する甲部と指部を切欠し、該切欠部に伸縮生地2を縫着した」としているのは、「(手袋に)ストレッチ素材を部分的に配置した」といえる。

したがって、両者は、
「ストレッチ素材を部分的に配置した伸びの少ない柔軟な素材である天然皮革、人工皮革又は合成皮革からなるスポーツ用手袋。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点] ストレッチ素材の配置部分が、本願発明1では「小指、薬指でバットまたはクラブを把持した際に、大きく膨らむ甲側面部分の小指外転筋を覆う領域」であるのに対し、引用発明では「五つの指それぞれの指節関節部を包含する甲部と指部を切欠し、該切欠部に伸縮生地2を縫着し、この伸縮生地2は小指の指節関節部に位置する部分を他部よりもより伸縮率の大きい生地2’を用いている」ものの、甲側面部分の小指外転筋を覆う領域には及んでいない点。

(2)判断
そうすると、引用発明は、上記相違点に係る本願発明1の発明特定事項を具備していない。
したがって、本願発明1が、引用発明であるとすることはできない。

次に、上記相違点について以下検討する。
引用文献2、3にも、上記相違点に係る本願発明1の発明特定事項は開示されていないし、これを示唆するものもない。
また、上記相違点に係る本願発明1の発明特定事項が、当業者にとって設計事項であるとする根拠もない。
そして、本願発明1は上記相違点に係る発明特定事項を備えることによって、「小指、薬指でしっかりとバット等を把持した際に、小指側の手の甲の側面部分が大きく膨らんでも、この膨らみに追随して小指外転筋を覆う領域に配置したストレッチ素材が伸びるので、素手で握った場合と同様のフィット感、グリップ感が得られる」(段落【0017】参照。)という作用効果を奏するものである。
したがって、本願発明1は、引用発明、及び引用文献2、3に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

2.本願発明2ないし6について
本願発明2ないし6も、本願発明1の上記相違点に係る発明特定事項を備えるものであるから、本願発明1についてと同様の理由で引用発明とはいえないし、また、引用発明、及び引用文献2、3に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、本願発明1ないし6は、引用発明とはいえないし、また、引用発明及び引用文献2、3に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-09-04 
出願番号 特願2012-134987(P2012-134987)
審決分類 P 1 8・ 113- WY (A63B)
P 1 8・ 121- WY (A63B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 宮本 昭彦  
特許庁審判長 吉村 尚
特許庁審判官 畑井 順一
黒瀬 雅一
発明の名称 スポーツ用手袋  
代理人 鳥居 和久  

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