• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01M
管理番号 1331857
審判番号 不服2016-7723  
総通号数 214 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-10-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-05-26 
確定日 2017-08-24 
事件の表示 特願2014-226045「リチウムイオン電池用外装材」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 3月12日出願公開、特開2015- 46405〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成22年 4月 1日に出願された特願2010-85037号(以下、「原出願」という。)の一部を、特許法第44条第1項の規定に基づき、平成26年11月 6日に分割して新たな特許出願としたものであって、同年同月同日付けの上申書が提出され、平成27年 8月10日付けの拒絶理由通知に対して、同年10月14日付けで意見書とともに特許請求の範囲と明細書とについての手続補正書が提出されたが、平成28年 3月16日付けで拒絶査定がなされ、この査定を不服として同年 5月26日付けで拒絶査定不服審判が請求されると同時に特許請求の範囲と明細書とについての手続補正書が提出されたものである。


第2 平成28年 5月26日付けの手続補正についての補正の却下の決定
【補正の却下の決定の結論】
平成28年 5月26日付けの手続補正を却下する。

【理由】
I.補正の内容
平成28年 5月26日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1の記載を、以下の(A)から(B)とする補正を含む。

(A)「【請求項1】
基材層の一方の面に対し、少なくとも、接着剤層、アルミニウム箔層、アルミニウム保護層、接着樹脂層、シーラント層をこの順番で積層したリチウムイオン電池用外装材において、
上記接着樹脂層は、無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂に、オレフィン系エラストマー及びスチレン系エラストマーのうち少なくとも一方のエラストマーを含み、
該エラストマーの配合量は、1質量%以上20質量%以下の範囲内であることを特徴とするリチウムイオン電池用外装材。」

(B)「【請求項1】
基材層の一方の面に対し、少なくとも、接着剤層、アルミニウム箔層、アルミニウム保護層、接着樹脂層、シーラント層をこの順番で積層したリチウムイオン電池用外装材において、
上記シーラント層は、平均粒径200nm以下の微粒子からなるエラストマーを含み、
上記接着樹脂層は、無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂に、オレフィン系エラストマー及びスチレン系エラストマーのうち少なくとも一方のエラストマーを含み、
上記接着樹脂層に含まれるエラストマーの配合量は、1質量%以上20質量%以下の範囲内であり、平均粒径200nm以下の微粒子からなることを特徴とするリチウムイオン電池用外装材。」


II.当審の判断
前記I.の補正は、前記第1のとおり、拒絶査定不服審判の請求と同時に行われたところ、
本件補正前の請求項1に記載された発明における、「シーラント層」について、「上記シーラント層は、平均粒径200nm以下の微粒子からなるエラストマーを含み、」との特定を付加する補正事項aと、
本件補正前の請求項1に記載された発明における、「該エラストマーの配合量は、1質量%以上20質量%以下の範囲内である」を、「上記接着樹脂層に含まれるエラストマーの配合量は、1質量%以上20質量%以下の範囲内であり、平均粒径200nm以下の微粒子からなる」とする補正事項bと、
からなる。

補正事項aは、本件補正前の請求項1に記載の「シーラント層」について、願書に最初に添付した明細書の【0041】、【0043】、【0044】の記載に基づいて、「平均粒径200nm以下の微粒子からなるエラストマーを含」むとの限定を付加するとの補正事項であるし、また、補正事項bは、願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項2に記載されていた発明特定事項によって、本件補正後の請求項1に係る発明を限定するとの補正事項であるから、これらの補正事項は、いずれも、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の範囲内においてされたものであることは明らかであり、特許法第17条の2第3項に規定された要件を満たしているし、また、これらの補正事項によっても、産業の利用分野及び解決しようとする課題は本件補正前と同一のままであるから、これらの補正事項は、いずれも、特許法第17条の2第5項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、このことを目的とする場合、本件補正後の請求項1に記載された発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定)。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下に検討する。


III.独立特許要件
1 本件補正発明
本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)は、前記(B)に記載された事項により特定されるとおりのものである。

2 特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているか否かについて
(1) 判断手法
特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断する(知的財産高等裁判所特別部判決平成17年(行ケ)第10042号参照。)。


(2) 発明の詳細な説明の記載及び図面の記載
平成28年 5月26日付けの手続補正書によって補正された明細書の発明の詳細な説明及びそこで引用される図面には、以下の記載がある(なお、「…」は記載の省略を表す。)。
(2-1) 「【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池用外装材に関する。」

(2-2) 「【背景技術】
【0002】
携帯電話、ノート型パソコンなどの携帯端末装置、ビデオカメラ、衛星、電気自動車などに用いられる電池として、超薄型化、小型化が可能なリチウムイオン電池が盛んに開発されている。リチウムイオン電池の外装材には、金属板などをプレス成形し、円柱状もしくは直方体状などの形状に加工した金属製の缶タイプのものと、アルミニウム箔を利用したラミネートフィルム(例えば耐熱性基材層/アルミニウム箔層/接着樹脂層/シーラント層のような構成)タイプのものの2種類がある。
【0003】
電池の外装材に金属製の缶を用いた場合には、電池自体の形状に制約が多くなる。これに対し、アルミニウム箔を利用したラミネートフィルムタイプの外装材は形状を自由に選択でき、更に軽量化が図れる点で注目を集めている。
アルミニウム箔を利用したラミネートフィルムタイプの外装材は、アルミニウム箔層とシーラント層間の接着樹脂層が熱硬化性材料であるドライラミネート用接着樹脂層からなるドライラミネート構成と、アルミニウム箔層とシーラント層間の接着樹脂層が熱可塑性材料からなる熱ラミネート構成との2種類に大きく分類される。一般的にドライラミネート構成品は、成型性が求められるポータブル機器などの民生用途に使用され、一方、熱ラミネート構成品は、信頼性や安全性が求められる電気自動車、衛星、潜水艦、電動自転車などの大型用途に使用される。
【0004】
アルミニウム箔を利用したラミネートフィルムタイプの外装材は、正極、セパレーター、負極、電解液及びタブなどの内容物を収納するために、外装材を冷間成型して凹部を形成する。しかしながら、凹部にエンボス成型されたラミネートフィルムは、金型での冷間成型時に、リチウムイオン電池用外装材各層の延伸性の差や、加熱および冷却工程でのフィルムの結晶化状態により、アルミニウム箔と接着樹脂層間が剥離したり、シーラント層と接着樹脂層で、クラックにより破断や白化を生じたりすることがある。一般的にドライラミネート構成よりも熱ラミネート構成の方がラミネートフィルム製造時にかかる熱量が大きいため、シーラント層や接着樹脂層などが結晶化しやすく、凹部冷間成型時に延伸率の高い部位である辺や角にクラックによる破断や白化が起こりやすい。そのため、熱ラミネート構成でもドライラミネート構成と同様に、エンボス成型時にクラックによる破断や白化がないように成型性や耐衝撃性を持たせることが必要となってきている。またリチウムイオン電池用外装材に使用しているシーラント層や接着樹脂層は一般的に押出成型により製膜させるため、押出成型時に発生する応力などによりフィルムの流れ方向であるMD方向(機械方向)に配向しやすい。そのため、シーラント層や接着樹脂層の分子配向により、伸び率や応力などがMD方向(機械方向)とTD方向(機械方向に対し垂直方向)とで異なる特性をとるため、凹部冷間成型時にクラックによる破断や白化に異方性が発生しやすい傾向にある。特に白化の点ではシーラント層の異方性により冷間成型時の白化部分が凹部4辺のうちMD方向2辺、もしくはTD方向2辺に集中して発生していた。
【0005】
またリチウムイオン電池は、電池内容物として正極材、負極材、正極材と負極材の短絡を防止するセパレーターと共に、炭酸プロピレン、炭酸エチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチルなどの浸透力を有する非プロトン性の溶媒に、電解質(リチウム塩)を溶解した電解液、もしくは該電解液を含浸させたポリマーゲルからなる電解質層を含んでいる。このような浸透力を有する溶媒がリチウムイオン電池用外装材のシーラントとなる熱融着性フィルム層を通過すると、アルミニウム箔層と熱融着性フィルムとの間のラミネート強度が低下し、最終的には電解液が漏れ出すといった問題がある。
【0006】
また、電解質であるリチウム塩としてはLiPF6、LiBF4などの塩が用いられるが、これらの塩は水分との加水分解反応によりフッ酸を発生するので、金属面の腐食や多層フィルムの各層間のラミネート強度の低下を引き起こす問題がある。そのため、リチウムイオン電池用外装材にはアルミニウム箔にフッ酸による腐食を防止する機能、アルミニウム箔層と耐熱性基材層もしくはアルミニウム箔層と熱融着性フィルム層との層間密着強度を強める機能を付与し、内容物耐性(耐電解液性や耐フッ酸性)を持たせることが必要である。
【0007】
このようにリチウムイオン電池は凹部を冷間成型して使用することが多いという観点から、リチウムイオン電池用包装材の各物性は異方性が小さく、電池の内容物耐性(耐電解液性や耐フッ酸性)があることが好ましい。
…」


(2-3) 「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】

【0011】
本発明は、上述のような点に鑑みてなされたもので、アルミニウム箔を利用したラミネートフィルムタイプの外装材を冷間成型して凹部を形成する際に、シーラント層と接着樹脂層で、白化が発生せず、電池の内容物耐性(耐電解液性や耐フッ酸性)があるリチウムイオン電池用外装材を提供することを目的とする。」

(2-4) 「【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するための手段として、本発明のうち請求項1に記載の発明は、基材層の一方の面に対し、少なくとも、接着剤層、アルミニウム箔層、アルミニウム保護層、接着樹脂層、シーラント層をこの順番で積層したリチウムイオン電池用外装材において、上記シーラント層は、平均粒径200nm以下の微粒子からなるエラストマーを含み、上記接着樹脂層は、無水マレイン酸変性変性ポリオレフィン樹脂に、オレフィン系エラストマー及びスチレン系エラストマーのうち少なくとも一方のエラストマーを含み、上記接着樹脂層に含まれるエラストマーの配合量は、1質量%以上20質量%以下の範囲内であり、平均粒径200nm以下の微粒子からなることを特徴とするものである。
【0013】
次に、請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した構成に対し、上記シーラント層は、ポリオレフィン樹脂からなることを特徴とするものである。
【0014】
次に、請求項3に記載した発明は、請求項2に記載した構成に対し、上記シーラント層は、ランダムポリプロピレン、ホモポリプロピレン、ブロックポリプロピレンのうち少なくとも1種類以上を使用した、単層もしくは多層構造からなることを特徴とするものである。
次に、請求項4に記載した発明は、請求項2又は請求項3に記載した構成に対し、上記シーラント層は、上記ポリオレフィン樹脂に、オレフィン系エラストマー及びスチレン系エラストマーのうち少なくとも一方のエラストマーを含み、該エラストマーの配合量は、1質量%以上25質量%以下の範囲内であることを特徴とするものである。
【0015】
次に、請求項5に記載した発明は、請求項1?請求項4のいずれか1項に記載した構成に対し、上記シーラント層は、0.5質量%以下の滑剤を含むことを特徴とするものである。」

(2-5) 「【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係るリチウムイオン電池用外装材の実施形態の一例を示して詳細に説明する。
本実施形態の第1のリチウムイオン電池用外装材10は、図1に示すように、基材層11の一方の面に、接着剤層12、アルミニウム箔層13、アルミニウム保護層14、接着樹脂層15、シーラント層16がこの順番に積層して構成されている。
【0019】
また、本実施形態の第2のリチウムイオン電池用外装材20は、図2に示すように、基材層11の一方の面に、接着剤層12、アルミニウム保護層14、アルミニウム箔層13、アルミニウム保護層14、接着樹脂層15、シーラント層16がこの順番に積層している。
【0020】
(基材層)
上記基材層11は、リチウムイオン電池を製造する際のシール工程における耐熱性を付与し、加工や流通の際に起こりうるピンホールの発生を抑制する役割を果たす。
【0021】
基材層11としては、絶縁性を有する樹脂層が好ましい。該樹脂層としては、例えば、ポリエステルフィルム、ポリアミドフィルム、ポリプロピレンフィルムなどの延伸または未延伸フィルムが挙げられる。なかでも、成形性、耐熱性、耐ピンホール性、絶縁性を向上させる点から、延伸ポリアミドフィルムや延伸ポリエステルフィルムが好ましい。
基材層11は、単層であってもよく、複数層の積層構造であってもよい。

【0023】
(接着剤層)
接着剤層12は、基材層11とアルミニウム箔層13とを接着する層である。…

【0025】
(アルミニウム箔層)
アルミニウム箔層13としては、一般のアルミニウム箔を用いることができる。…

【0031】
(アルミニウム保護層)
アルミニウム保護層14は、アルミニウム箔層13と接着樹脂層15とを強固に密着させると共に、アルミニウム箔層13を、電解液や電解液から発生するフッ酸から保護する役割を果たす。
【0032】
アルミニウム保護層14としては、耐薬品性を向上させることおよび接着樹脂層などとの密着性を改善する目的で、リン酸クロメート処理、塗布型クロメート処理等のクロム系化成処理、あるいは、ジルコニウム、チタン等のノンクロメート系化成処理等を行うことが出来る。さらに樹脂フィルムとのラミネート接着性能を向上させる目的で、シランカップリング剤、チタンカップリング剤等のアンダーコート、あるいはコロナ放電処理等の前処理を行ってもよい。
【0033】
なお、アルミニウム保護層はアルミニウム箔層13と接着樹脂層15との間の片面だけの処理でも、アルミニウム箔層13と接着樹脂層15との間、アルミニウム箔層13と接着剤層12との間の両面に処理しても構わない。…
【0034】
(接着樹脂層)
接着樹脂層15は、シーラント層16と、アルミニウム保護層14が形成されたアルミニウム箔層13とを接着する層である。接着樹脂層15を構成する樹脂としては、ポリオレフィン樹脂を酸でグラフト変性させた酸変性ポリオレフィン系樹脂が好ましい。ポリオレフィン樹脂としては、例えば、低密度、中密度、高密度のポリエチレン;エチレン-αオレフィン共重合体;ホモ、ブロック、またはランダムポリプロピレン;プロピレン-αオレフィン共重合体などが挙げられる。該ポリオレフィン樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。グラフト変性する酸としては、カルボン酸、エポキシ化合物、酸無水物などが挙げられ、無水マレイン酸が好ましい。
【0035】
したがって、接着樹脂層15としては、ポリオレフィン樹脂を無水マレイン酸でグラフト変性させた、無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂が好ましい。
接着樹脂層は一般的に押出成型により製膜させるため、押出成型時に発生する応力などによりフィルムの流れ方向であるMD方向(機械方向)に配向しやすい。そのため、その異方性を緩和するために適宜エラストマーを添加する。
【0036】
接着樹脂層に添加するエラストマーは、オレフィン系エラストマーもしくはスチレン系エラストマーが挙げられる。オレフィン系エラストマーとスチレン系エラストマーは1種類を単独で使用しても良く、2種類以上を混合して使用してもよい。配合するエラストマーの粒径は各種樹脂との相溶性、各種樹脂の異方性の緩和を考慮した場合、微粒子の状態で分散させることで樹脂との相溶性も向上し、異方性もより緩和する方向に働くため、平均粒径が200nm以下のものを添加する。
【0037】
エラストマーの配合量としては1質量%以上25質量%以下の範囲が好ましく、より好ましくは10質量%以上20質量%以下の範囲がよりこのましい。エラストマー配合量が1質量%未満の場合は各種樹脂との相溶性の向上、各種樹脂の異方性の緩和といった本発明の目的を達成することができない。また25質量%を越えると電池の内容物である電解液に対して膨潤しやすくなり、内容物耐性を満たすことが出来なくなる。

【0039】
(シーラント層)
シーラント層16はリチウムイオン電池用外装材10の内層となり、また、電池組み立て時には、内層同士を熱溶着するため、熱溶着性のフィルムからなる層である。

【0041】
発明者らは、アルミニウム箔を利用したラミネートフィルムタイプの外装材を冷間成型して凹部を形成する際に、シーラント層の異方性により、白化する方向に特徴があることを見出した。シーラント層は主に押出しにより製膜されており、機械的には延伸していないが、押出し方向に配向傾向があり、その方向に垂直な方向に延伸すると白化が発生しやすい傾向にある。そこでシーラント層の配向による異方性を緩和するために、エラストマーを添加する。

【0043】
添加するエラストマーは、接着樹脂層と同様にオレフィン系エラストマーもしくはスチレン系エラストマーが挙げられる。オレフィン系エラストマーとスチレン系エラストマーは1種類を単独で使用しても良く、2種類以上を混合して使用してもよい。配合するエラストマーの粒径は各種樹脂との相溶性、各種樹脂の異方性の緩和を考慮し、微粒子の状態で分散させることで樹脂との相溶性も向上し、異方性もより緩和する方向に働くため、平均粒径が200nm以下のものを添加する。
【0044】
平均粒径が200nmより大きい場合は樹脂との相溶性が低下するとともに、本発明の目的である異方性を緩和する効果が低下する。
エラストマーの配合量としては、1質量%以上25質量%以下の範囲が好ましく、より好ましくは10質量%以上20質量%以下の範囲がよりこのましい。エラストマー配合量が1質量%未満の場合は、各種樹脂との相溶性の向上、各種樹脂の異方性の緩和といった本発明の目的を達成することができない。また25質量%を越えると、電池の内容物である電解液に対して膨潤しやすくなり、内容物耐性を満たすことが出来なくなる。

【0047】
<リチウムイオン電池用外装材の製造方法>
次に、図1に示す本実施形態のリチウムイオン電池用外装材10の製造方法について記載する。但し、本発明はこれに限定されない。
【0048】
(アルミニウム箔層へのアルミニウム保護層の積層工程)
塗布型クロメート処理液をアルミニウム箔層13へ塗工し、乾燥・硬化・焼き付けを行い、アルミニウム保護層14を形成させる。なお、上述したようにアルミニウム保護層はシーラント層側のみの形成でも、シーラント層側と基材層側の両面に形成しても構わない。

【0050】
(基材層とアルミニウム箔層の貼合わせ工程)
アルミニウム保護層14を積層したアルミニウム箔層13と、基材層11とを貼り合わせる。貼り合わせの方法としては、ドライラミネーション、ノンソルベントラミネーション、ウェットラミネーションなどの手法を用い、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、アクリルポリオールを主剤としたポリウレタン系接着剤にて両者を貼り合わせ、積層体を作成する。
【0051】
(シーラント層の積層工程)
上記積層体上にシーラント層16を積層する。積層の方法としては、ドライプロセスとウェットプロセスが挙げられる。
【0052】
ドライプロセスの場合は、上記積層体のアルミニウム保護層14上に接着樹脂を押出ラミネートし、さらにインフレーション法またはキャスト法により得られるシーラント層16を積層して、リチウムイオン電池用外装材10を製造する。…

【0054】
ウェットプロセスの場合は、酸変性ポリオレフィン系樹脂のディスパージョンを、上記積層体のアルミニウム保護層14上に塗工し、酸変性ポリオレフィン系樹脂の融点以上の温度で溶媒を飛ばし、樹脂を溶融軟化させて、焼き付けを行った後、シーラント層16を熱ラミネーションなどの熱処理により積層させて、図1のようなリチウムイオン電池用外装材10および図2のようなリチウムイオン電池用外装材20を製造する。

【実施例1】
【0056】
以下に本発明に基づく実施例について説明する。ただし、本発明はこれに限定されるわけではない。
試験例として、本発明に基づく実施例と、比較のための比較例とをそれぞれ作製した。
[使用材料]
各試験例に用いた共通材料は下記の通りである。
【0057】
<基材層>
A-1:2軸延伸ナイロンフィルム(25μm)。
<接着剤層>
B-1:ポリウレタン系接着剤(4μm)
<アルミニウム箔層>
C-1:焼鈍処理した軟質アルミニウム箔8079材(40μm)。
<アルミニウム保護層>
D-1:塗布型クロメート処理
<接着樹脂層>
E-1:無水マレイン酸変成ポリプロピレン樹脂(20μm)。
【0058】
E-2:無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(90質量%)+水添スチレン系熱可塑性エラストマー(10質量%、平均粒径30nm)
E-3:無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(80質量%)+水添スチレン系熱可塑性エラストマー(20質量%、平均粒径30nm)
E-4:無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(60質量%)+水添スチレン系熱可塑性エラストマー(40質量%、平均粒径30nm)
【0059】
<シーラント層>
F-1:ポリプロピレン樹脂(40μm、ランダムポリプロピレン/ブロックポリプロピレン/ランダムポリプロピレンの3層構成)
F-2:ポリプロピレン樹脂(40μm、ランダムポリプロピレン/ブロックポリプロピレン/ランダムポリプロピレンの3層構成)+ブロックPP部に水添スチレン系熱可塑性エラストマー添加したもの(20質量%、平均粒径30nm)
F-3:ポリプロピレン樹脂(40μm、ランダムポリプロピレン/ブロックポリプロピレン/ランダムポリプロピレンの3層構成)+ブロックPPおよびランダムPPに水添スチレン系熱可塑性エラストマー添加したもの(20質量%、平均粒径30nm)
F-4:ポリプロピレン樹脂(40μm、ランダムポリプロピレン/ブロックポリプロピレン/ランダムポリプロピレンの3層構成)+ブロックPP部に水添スチレン系熱可塑性エラストマー添加したもの(40質量%、平均粒径30nm)
F-5:ポリプロピレン樹脂(40μm、ランダムポリプロピレン/ブロックポリプロピレン/ランダムポリプロピレンの3層構成)+ブロックPPおよびランダムPPに水添スチレン系熱可塑性エラストマー添加したもの(20質量%、平均粒径1μm)
[リチウムイオン電池用外装材の作成]
<外装材の作成>
以上の材料を使用して本実施例及び比較例の外装材を作成した。
【0060】
表1に、本実施例及び比較例の作成を示す。
【0061】
【表1】

【0062】
作成は次の通りである。
まず、アルミニウム箔上に、塗布型クロメート処理液をマイクログラビアコートにより塗工し、乾燥ユニットにて150?250℃で焼き付け処理を施し、アルミニウム箔コイル上に、アルミニウム保護層を積層させた。
【0063】
次いで、アルミニウム箔層の、アルミニウム保護層とは反対側の面に、ドライラミネート手法により、ポリウ接着剤を用いて基材層を設けた。これらを押出ラミネート機の巻出し部に、シーラント層をサンド基材部にセットし、接着樹脂を加工条件として290℃、80m/分、20μmの厚みでサンドラミネートして、アルミニウム保護層上に接着樹脂層を介して、シーラント層を積層させた。その後、熱圧着(熱処理)を施し、リチウムイオン電池用外装材を作成した。
【0064】
<評価>
得られたリチウムイオン電池用外装材に対して以下の評価を行った。
(耐電解液評価)
エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート/ジメチルカーボネート=1/1/1の割合の溶液に対し、LiPF6が1.5Mになるように調整した電解液を作成し、水を1500ppmになるように配合したものを内容量250mlのテフロン(登録商標)の容器に充填した。その中にサンプルを入れ、密栓後85℃、4時間、1日、1週間、2週間で保管した。
【0065】
保管後のサンプルの剥離状況を、以下の基準にて評価した。
○:デラミネーションせず、ラミネート強度が剥離困難、またはシーラント層の破断レベルである。
△:デラミネーションは起こらないが、ラミネート強度が剥離可能レベル(100gf/15mm以上、クロスヘッドスピードが300mm/分)である。
×:デラミネーションによる浮きが確認できる。
【0066】
(成形性評価)
絞り部分が80mm×100mmの冷間成型が可能な、成型装置を使用して冷間成型を行った。絞り深さは5mmで行った。その後冷間成型を行った部分のMD辺(機械方向の
辺)、TD辺(機械方向に垂直の方向の辺)の白化の評価を行った。
○:MD辺、TD辺ともに白化せず。
×:MD辺、TD辺のどちらか一方が白化する。
その評価結果を、上記表1に併せて示した。
【0067】
表1から分かるように、エラストマーを配合していない比較例6では電解液耐性は問題ないが、成型白化評価で白化している。また平均粒径の大きいエラストマーを配合した比較例7も白化は改善されない。
【0068】
それに対し、シーラント層にエラストマーを配合したものは、成型時の白化を抑えることが出来ている。またシーラント層のみにエラストマーが配合された実施例5においても白化はおさえることが出来た。したがって、白化の点ではシーラント層にエラストマーを配合することで改善できる。
【0069】
また接着樹脂層についてもエラストマーを添加しない場合よりも添加した場合のほうが、製膜性が上がるため、添加するほうが好ましい。ただし、エラストマーの配合比を増加させていくと、比較例1?5のように電解液での膨潤により、電解液耐性が劣化するため、エラストマーは20質量%以下に抑えることが好ましい。
【0070】
このように、本発明によれば、アルミニウム箔を利用したラミネートフィルムタイプの外装材を冷間成型して凹部を形成する際に、シーラント層と接着樹脂層で、白化の発生しないリチウムイオン電池用外装材を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、リチウムイオン電池の内容物を収納するために、凹部にエンボス成型するアルミラミネートフィルムタイプの外装材において、冷間成型時やヒートシール後の折り曲げ時に、リチウムイオン電池用外装材各層の延伸性の差や、加熱工程でのフィルムの結晶化状態により、シーラント層と接着樹脂層で、白化を生じること防止することが出来、かつ電池の内容物耐性(耐電解液性や耐フッ酸性)があるチウムイオン電池用外装材を提供する。」

(2-6) 「【図1】

【図2】




(3) 特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との対比・検討
前記(1)に示した判断手法に従い、前記(B)に示した本件補正発明と前記(2)に示した平成28年 5月26日付けの手続補正書によって補正された明細書の発明の詳細な説明(以下、単に、「発明の詳細な説明」という。)の記載とを対比して、本件補正発明と、発明の詳細な説明の記載に基づき出願時の技術常識に照らして当業者が本件補正発明の課題を解決できると認識できる範囲との対応関係を検討することとなるから、まず、発明の詳細な説明の記載に基づき、本件補正発明に係るリチウムイオン電池用外装材の発明が解決しようとする課題を確認し、次に、発明の詳細な説明の記載に基づき出願時の技術常識に照らして当業者がリチウムイオン電池用外装材の発明の課題を解決できると認識できる範囲につき整理した後、最終的に、本件補正発明との対比関係の検討を行うこととする。


(3-1) 本件補正発明が解決すべき課題
ア. 前記(2-1)?(2-2)に示したように、発明の詳細な説明には、【背景技術】について、「アルミニウム箔を利用したラミネートフィルムタイプのリチウムイオン電池用外装材は、正極、セパレーター、負極、電解液及びタブなどの内容物を収納するために、外装材を冷間成型して凹部を形成するが、凹部にエンボス成型されたラミネートフィルムは、金型での冷間成型時に、リチウムイオン電池用外装材各層の延伸性の差や、加熱および冷却工程でのフィルムの結晶化状態により、アルミニウム箔と接着樹脂層間が剥離したり、シーラント層と接着樹脂層で、クラックにより破断や白化を生じたりすることがあるところ、一般的に、アルミニウム箔層とシーラント層間の接着樹脂層が熱可塑性材料からなる場合には、ラミネートフィルム製造時にかかる熱量が大きいため、シーラント層や接着樹脂層などが結晶化しやすく、凹部冷間成型時に延伸率の高い部位である辺や角にクラックによる破断や白化が起こりやすいことから、エンボス成型時にクラックによる破断や白化がないように成型性や耐衝撃性を持たせることが必要となってきており、またリチウムイオン電池用外装材に使用しているシーラント層や接着樹脂層は一般的に押出成型により製膜させることから、押出成型時に発生する応力などによりフィルムの流れ方向であるMD方向(機械方向)に分子配向しやすく、その分子配向により、伸び率や応力などがMD方向(機械方向)とTD方向(機械方向に対し垂直方向)とで異なる特性をとるため、凹部冷間成型時にクラックによる破断や白化に異方性が発生しやすい傾向にある。
またリチウムイオン電池は、電池内容物として炭酸プロピレン、炭酸エチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチルなどの浸透力を有する非プロトン性の溶媒に、電解質(リチウム塩)を溶解した電解液、もしくは該電解液を含浸させたポリマーゲルからなる電解質層を含んでいるところ、このような浸透力を有する溶媒がリチウムイオン電池用外装材のシーラントとなる熱融着性フィルム層を通過すると、アルミニウム箔層と熱融着性フィルムとの間のラミネート強度が低下し、最終的には電解液が漏れ出すといった問題があり、また、電解質であるリチウム塩としてはLiPF6、LiBF4などの塩が用いられるが、これらの塩と水分との加水分解反応により発生するフッ酸は、金属面の腐食や多層フィルムの各層間のラミネート強度の低下を引き起こすことがあることから、リチウムイオン電池用外装材にはアルミニウム箔にフッ酸による腐食を防止する機能、アルミニウム箔層と耐熱性基材層もしくはアルミニウム箔層と熱融着性フィルム層との層間密着強度を強める機能を付与し、内容物耐性(耐電解液性や耐フッ酸性)を持たせることが必要である。
このようにリチウムイオン電池は凹部を冷間成型して使用することが多いという観点から、リチウムイオン電池用包装材の各物性は異方性が小さく、電池の内容物耐性(耐電解液性や耐フッ酸性)があることが好ましい。」(【0001】?【0007】)旨の記載がある。

イ. 前記(2-3)に示したように、発明の詳細な説明には、【発明が解決しようとする課題】について、「本発明は、上述のような点に鑑みてなされたもので、アルミニウム箔を利用したラミネートフィルムタイプの外装材を冷間成型して凹部を形成する際に、シーラント層と接着樹脂層で、白化が発生せず、電池の内容物耐性(耐電解液性や耐フッ酸性)があるリチウムイオン電池用外装材を提供することを目的とする。」(【0011】)との記載がある。

ウ. 前記イ.によれば、本件補正発明は、アルミニウム箔を利用したラミネートフィルムタイプの外装材を冷間成型して凹部を形成する際にシーラント層と接着樹脂層で白化が発生しないリチウムイオン電池用外装材を提供することと、電池の内容物耐性(耐電解液性や耐フッ酸性)があるリチウムイオン電池用外装材を提供することとを目的としていると解される。

エ. そして、前記ア.によれば、アルミニウム箔を利用したラミネートフィルムタイプの外装材を冷間成型して凹部を形成する際に、シーラント層と接着樹脂層で、白化が発生しないようにするには、シーラント層と接着樹脂層に成型性や耐衝撃性を持たせること、シーラント層と接着樹脂層における伸び率や応力などの異方性を小さくすることが必要であるといえるのに対し、電池の内容物耐性(耐電解液性や耐フッ酸性)があるリチウムイオン電池用外装材を提供するには、アルミニウム箔にフッ酸による腐食を防止する機能、アルミニウム箔層と耐熱性基材層もしくはアルミニウム箔層とシーラント層との層間密着強度を強める機能を付与する必要があるといえ、そして、リチウムイオン電池用包装材の各物性は異方性が小さく、電池の内容物耐性(耐電解液性や耐フッ酸性)があることが好ましいされている。

オ. 前記ア.?エ.の検討を踏まえると、本件補正発明が目的としている、アルミニウム箔を利用したラミネートフィルムタイプの外装材を冷間成型して凹部を形成する際に、シーラント層と接着樹脂層で白化が発生しないリチウムイオン電池用外装材を提供することと、電池の内容物耐性(耐電解液性や耐フッ酸性)があるリチウムイオン電池用外装材を提供することは、互いに、リチウムイオン電池用外装材に必要とされる特性が異なることから、別異の目的であるところ、リチウムイオン電池用包装材の各物性は異方性が小さく、電池の内容物耐性(耐電解液性や耐フッ酸性)があることが好ましい、すなわち、リチウムイオン電池用外装材としては必要とされるいずれの特性も備えることが好ましいことから、本件補正発明は、いずれのことも目的としていると認められる。

カ. 前記オ.の認定は、例えば、リチウムイオン電池用外装材が、リチウムイオン電池用包装材の各物性は異方性が小さいものの、電池の内容物耐性を備えていない場合には、役に立たないとの原出願時の技術常識を考慮すると、当然の認定であることは明らかである。

キ. そうすると、発明の詳細な説明によれば、本件補正発明が解決すべき課題(以下、単に、「課題」という。)は、アルミニウム箔を利用したラミネートフィルムタイプの外装材を冷間成型して凹部を形成する際にシーラント層と接着樹脂層で白化が発生しない、且つ、電池の内容物耐性(耐電解液性や耐フッ酸性)がある、リチウムイオン電池用外装材を提供することであるといえる。


(3-2) 課題を解決できると認識できる範囲
ア. 前記(2-4)に示したように、発明の詳細な説明には、【課題を解決するための手段】について、「本発明のうち請求項1に記載の発明は、基材層の一方の面に対し、少なくとも、接着剤層、アルミニウム箔層、アルミニウム保護層、接着樹脂層、シーラント層をこの順番で積層したリチウムイオン電池用外装材において、上記シーラント層は、平均粒径200nm以下の微粒子からなるエラストマーを含み、上記接着樹脂層は、無水マレイン酸変性変性ポリオレフィン樹脂に、オレフィン系エラストマー及びスチレン系エラストマーのうち少なくとも一方のエラストマーを含み、上記接着樹脂層に含まれるエラストマーの配合量は、1質量%以上20質量%以下の範囲内であり、平均粒径200nm以下の微粒子からなることを特徴とするものである。」(【0012】)との記載がある。

イ. しかしながら、前記ア.に示した【課題を解決するための手段】では、課題を解決し得ないことは、発明の詳細な説明の記載からして、明らかである。その理由は、以下の(イ-1)?(イ-7)のとおりである。
すなわち、
(イ-1) まず、前記ア.に示した記載自体では、「上記接着樹脂層は、無水マレイン酸変性変性ポリオレフィン樹脂に、オレフィン系エラストマー及びスチレン系エラストマーのうち少なくとも一方のエラストマーを含み、上記接着樹脂層に含まれるエラストマーの配合量は、1質量%以上20質量%以下の範囲内であり、平均粒径200nm以下の微粒子からなる」との記載のうちの、「平均粒径200nm以下の微粒子からなる」の主語が、必ずしも、明記されてはいないが、その記載よりも上の、「シーラント層は、平均粒径200nm以下の微粒子からなるエラストマーを含み、」との記載との対応関係からみて、「平均粒径200nm以下の微粒子からなる」の主語は、「接着樹脂層に含まれるエラストマー」であることは明らかである。

(イ-2) そこで、前記ア.に示した【課題を解決するための手段】は、「本発明のうち請求項1に記載の発明は、基材層の一方の面に対し、少なくとも、接着剤層、アルミニウム箔層、アルミニウム保護層、接着樹脂層、シーラント層をこの順番で積層したリチウムイオン電池用外装材において、上記シーラント層は、平均粒径200nm以下の微粒子からなるエラストマーを含み、上記接着樹脂層は、無水マレイン酸変性変性ポリオレフィン樹脂に、オレフィン系エラストマー及びスチレン系エラストマーのうち少なくとも一方のエラストマーを含み、上記接着樹脂層に含まれるエラストマーの配合量は、1質量%以上20質量%以下の範囲内であり、上記接着樹脂層に含まれるエラストマーは平均粒径200nm以下の微粒子からなることを特徴とするものである。」ということを意味しているとして、以下の検討を行うこととする。(なお、下線は、当審で付した。以下、同じ)

(イ-3) 前記(2-5)に示したように、発明の詳細な説明には、実施例1?5及び比較例1?7のリチウムイオン電池用外装材を作成し、得られたリチウムイオン電池用外装材に対して、耐電解液評価と成形性評価とを行ったところ、比較例6?7では、耐電解液評価は「○」であるが、成形性評価が「×」であって、白化が改善されないし、また、比較例1?5では、成形性評価が「○」であるが、耐電解液評価は「△」であって、電解液耐性が劣化するのに対し、実施例1?5では、耐電解液評価と成形性評価のいずれも「○」であることに基づく、「リチウムイオン電池の内容物を収納するために、凹部にエンボス成型するアルミラミネートフィルムタイプの外装材において、冷間成型時やヒートシール後の折り曲げ時に、リチウムイオン電池用外装材各層の延伸性の差や、加熱工程でのフィルムの結晶化状態により、シーラント層と接着樹脂層で、白化を生じること防止することが出来、かつ電池の内容物耐性(耐電解液性や耐フッ酸性)があるチウムイオン電池用外装材を提供する。」との記載がある(【0056】?【0071】)。

(イ-4) ここで、前記(2-5)に示したような、発明の詳細な説明における【0056】?【0063】の記載によれば、実施例1?5及び比較例1?7のリチウムイオン電池用外装材は、いずれも、基材層の一方の面に対し、接着剤層、アルミニウム箔層、アルミニウム保護層、接着樹脂層、シーラント層をこの順番で積層したリチウムイオン電池用外装材において、上記基材層はA-1からなり、上記接着剤層はB-1からなり、上記アルミニウム箔層はC-1からなり、上記アルミニウム保護層はD-1からなるところ、接着樹脂層、シーラント層の組み合わせが実施例1?5及び比較例1?7のそれぞれで異なり、実施例1ではE-2、F-2であり、実施例2ではE-2、F-3であり、実施例3ではE-3、F-2であり、実施例4ではE-3、F-3であり、実施例5ではE-1、F-2であるのに対し、比較例1ではE-2、F-4であり、比較例2ではE-3、F-4であり、比較例例3ではE-4、F-2であり、比較例4ではE-4、F-3であり、比較例5ではE-4、F-4であり、比較例6ではE-1、F-1であり、比較例7ではE-1、F-5であるとされ、
また、A-1、B-1、C-1、D-1、E-1?E-4、F-1?F-5は、それぞれ、次のとおりとされている。
<基材層>
A-1:2軸延伸ナイロンフィルム(25μm)。
<接着剤層>
B-1:ポリウレタン系接着剤(4μm)
<アルミニウム箔層>
C-1:焼鈍処理した軟質アルミニウム箔8079材(40μm)。
<アルミニウム保護層>
D-1:塗布型クロメート処理
<接着樹脂層>
E-1:無水マレイン酸変成ポリプロピレン樹脂(20μm)。
E-2:無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(90質量%)+水添スチレン系熱可塑性エラストマー(10質量%、平均粒径30nm)
E-3:無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(80質量%)+水添スチレン系熱可塑性エラストマー(20質量%、平均粒径30nm)
E-4:無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(60質量%)+水添スチレン系熱可塑性エラストマー(40質量%、平均粒径30nm)
<シーラント層>
F-1:ポリプロピレン樹脂(40μm、ランダムポリプロピレン/ブロックポリプロピレン/ランダムポリプロピレンの3層構成)
F-2:ポリプロピレン樹脂(40μm、ランダムポリプロピレン/ブロックポリプロピレン/ランダムポリプロピレンの3層構成)+ブロックPP部に水添スチレン系熱可塑性エラストマー添加したもの(20質量%、平均粒径30nm)
F-3:ポリプロピレン樹脂(40μm、ランダムポリプロピレン/ブロックポリプロピレン/ランダムポリプロピレンの3層構成)+ブロックPPおよびランダムPPに水添スチレン系熱可塑性エラストマー添加したもの(20質量%、平均粒径30nm)
F-4:ポリプロピレン樹脂(40μm、ランダムポリプロピレン/ブロックポリプロピレン/ランダムポリプロピレンの3層構成)+ブロックPP部に水添スチレン系熱可塑性エラストマー添加したもの(40質量%、平均粒径30nm)
F-5:ポリプロピレン樹脂(40μm、ランダムポリプロピレン/ブロックポリプロピレン/ランダムポリプロピレンの3層構成)+ブロックPPおよびランダムPPに水添スチレン系熱可塑性エラストマー添加したもの(20質量%、平均粒径1μm)

(イ-5) 前記(イ-4)からすると、
比較例1のリチウムイオン電池用外装材は、基材層の一方の面に対し、接着剤層、アルミニウム箔層、アルミニウム保護層、接着樹脂層、シーラント層をこの順番で積層したリチウムイオン電池用外装材において、シーラント層は、ポリプロピレン樹脂(40μm、ランダムポリプロピレン/ブロックポリプロピレン/ランダムポリプロピレンの3層構成)とブロックPP部に水添スチレン系熱可塑性エラストマー添加したもの(40質量%、平均粒径30nm)とからなり、接着樹脂層は、無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(90質量%)と水添スチレン系熱可塑性エラストマー(10質量%、平均粒径30nm)とからなる、リチウムイオン電池用外装材であるし、
また、比較例2のリチウムイオン電池用外装材は、基材層の一方の面に対し、接着剤層、アルミニウム箔層、アルミニウム保護層、接着樹脂層、シーラント層をこの順番で積層したリチウムイオン電池用外装材において、シーラント層は、ポリプロピレン樹脂(40μm、ランダムポリプロピレン/ブロックポリプロピレン/ランダムポリプロピレンの3層構成)とブロックPP部に水添スチレン系熱可塑性エラストマー添加したもの(40質量%、平均粒径30nm)とからなり、接着樹脂層は、無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(80質量%)と水添スチレン系熱可塑性エラストマー(20質量%、平均粒径30nm)とからなる、リチウムイオン電池用外装材であるから、
比較例1?2のリチウムイオン電池用外装材は、いずれも、前記(イ-2)に示した【課題を解決するための手段】に該当している。

(イ-6) しかしながら、前記(イ-3)によれば、比較例1?2のリチウムイオン電池用外装材についての耐電解液評価、成形性評価は、比較例3?5のリチウムイオン電池用外装材についての耐電解液評価、成形性評価と同様の、電解液耐性が劣化するとの評価であって、課題を解決できたと評価できるものではない。
ちなみに、比較例3?5のリチウムイオン電池用外装材は、接着樹脂相に含まれるエラストマーの配合量が40質量%であるため、前記(イ-2)に示した【課題を解決するための手段】には該当しないというものである。

(イ-7) 前記(イ-1)?(イ-6)の検討からすると、前記(イ-2)に示した【課題を解決するための手段】は、課題を解決できないものまで包含している、換言すると、課題を解決するために必要不可欠な、電解液耐性の向上を可能とする特定事項を欠いているといえる。


ウ. そこで、課題を解決するために必要不可欠な手段である、電解液耐性の向上を可能とする特定事項について、発明の詳細な説明にどのような記載があるかにつき、以下に検討する。

エ. 発明の詳細な説明には、前記(イ-3)に示したような、実施例1?5によると課題を解決できたと評価できる記載がある。

オ. また、前記(2-5)に示した、発明の詳細な説明には、「…エラストマーの配合比を増加させていくと、比較例1?5のように電解液での膨潤により、電解液耐性が劣化するため、エラストマーは20質量%以下に抑えることが好ましい。」(【0069】)との記載があり、前記(イ-5)に示したとおり、比較例1?2では、シーラント層におけるエラストマーの配合量が20質量%を超えていることが記載され、また、発明の詳細な説明には、シーラント層におけるエラストマーの配合量について、「…エラストマーの配合量としては、1質量%以上25質量%以下の範囲が好ましく、より好ましくは10質量%以上20質量%以下の範囲がよりこのましい。エラストマー配合量が1質量%未満の場合は、各種樹脂との相溶性の向上、各種樹脂の異方性の緩和といった本発明の目的を達成することができない。また25質量%を越えると、電池の内容物である電解液に対して膨潤しやすくなり、内容物耐性を満たすことが出来なくなる。」(【0044】)との記載があるものの、シーラント層におけるエラストマーの配合量が20質量%を超え25質量%以下の範囲の場合に、課題を解決できるといえるまでの具体的な根拠は見当たらない。

カ. また、接着樹脂層におけるエラストマーの配合量について、発明の詳細な説明には、前記オ.に示した記載と同様の、「エラストマーの配合量としては1質量%以上25質量%以下の範囲が好ましく、より好ましくは10質量%以上20質量%以下の範囲がよりこのましい。エラストマー配合量が1質量%未満の場合は各種樹脂との相溶性の向上、各種樹脂の異方性の緩和といった本発明の目的を達成することができない。また25質量%を越えると電池の内容物である電解液に対して膨潤しやすくなり、内容物耐性を満たすことが出来なくなる。」(【0037】)との記載はあるが、「…エラストマーの配合比を増加させていくと、比較例1?5のように電解液での膨潤により、電解液耐性が劣化するため、エラストマーは20質量%以下に抑えることが好ましい。」(【0069】)との記載に基づき、【課題を解決するための手段】では、前記(イ-2)に示したとおり、「本発明のうち請求項1に記載の発明は、基材層の一方の面に対し、少なくとも、接着剤層、アルミニウム箔層、アルミニウム保護層、接着樹脂層、シーラント層をこの順番で積層したリチウムイオン電池用外装材において、…上記接着樹脂層に含まれるエラストマーの配合量は、1質量%以上20質量%以下の範囲内であ…ることを特徴とするものである。」との記載になっている。

キ. 前記オ.?カ.の検討からすると、シーラント層におけるエラストマーの配合量の上限を、接着樹脂層におけるエラストマーの配合量の上限と同様に、発明の詳細な説明における「…エラストマーの配合比を増加させていくと、比較例1?5のように電解液での膨潤により、電解液耐性が劣化するため、エラストマーは20質量%以下に抑えることが好ましい。」(【0069】)との記載に基づいて、20質量%以下に抑えれば、課題を解決できることは明らかといえる。

ク. 前記エ.?キ.によれば、前記(イ-2)に示した「基材層の一方の面に対し、少なくとも、接着剤層、アルミニウム箔層、アルミニウム保護層、接着樹脂層、シーラント層をこの順番で積層したリチウムイオン電池用外装材において、上記シーラント層は、平均粒径200nm以下の微粒子からなるエラストマーを含み、上記接着樹脂層は、無水マレイン酸変性変性ポリオレフィン樹脂に、オレフィン系エラストマー及びスチレン系エラストマーのうち少なくとも一方のエラストマーを含み、上記接着樹脂層に含まれるエラストマーの配合量は、1質量%以上20質量%以下の範囲内であり、上記接着樹脂層に含まれるエラストマーは平均粒径200nm以下の微粒子からなる」との手段は、「上記シーラント層に含まれるエラストマーの配合量は、1質量%以上20質量%以下の範囲内である」場合に課題が解決できることが把握される。

ケ. よって、発明の詳細な説明の記載に基づき出願時の技術常識に照らして当業者が本件補正発明の課題を解決できると認識できる範囲(以下、「本件補正発明の課題を解決できると認識できる範囲」という。)は、「基材層の一方の面に対し、少なくとも、接着剤層、アルミニウム箔層、アルミニウム保護層、接着樹脂層、シーラント層をこの順番で積層したリチウムイオン電池用外装材において、上記シーラント層は、平均粒径200nm以下の微粒子からなるエラストマーを含み、上記シーラント層に含まれるエラストマーの配合量は、1質量%以上20質量%以下の範囲内であり、上記接着樹脂層は、無水マレイン酸変性変性ポリオレフィン樹脂に、オレフィン系エラストマー及びスチレン系エラストマーのうち少なくとも一方のエラストマーを含み、上記接着樹脂層に含まれるエラストマーの配合量は、1質量%以上20質量%以下の範囲内であり、上記接着樹脂層に含まれるエラストマーは平均粒径200nm以下の微粒子からなる」というものである。


(3-3) 対比・検討
ア. そこで、前記I.(B)に示した本件補正発明と、本件補正発明の課題を解決できると認識できる範囲とを対比する。

イ. 前記I.(B)に示した本件補正発明を再掲すると、次のとおりものである。
「【請求項1】
基材層の一方の面に対し、少なくとも、接着剤層、アルミニウム箔層、アルミニウム保護層、接着樹脂層、シーラント層をこの順番で積層したリチウムイオン電池用外装材において、
上記シーラント層は、平均粒径200nm以下の微粒子からなるエラストマーを含み、
上記接着樹脂層は、無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂に、オレフィン系エラストマー及びスチレン系エラストマーのうち少なくとも一方のエラストマーを含み、
上記接着樹脂層に含まれるエラストマーの配合量は、1質量%以上20質量%以下の範囲内であり、平均粒径200nm以下の微粒子からなることを特徴とするリチウムイオン電池用外装材。」

ウ. 前記イ.に示した本件補正発明は、前記(3-2)ア.に示した【課題を解決するための手段】と同じであるから、前記(3-2)イ.で検討した、課題を解決するために必要不可欠な、電解液耐性の向上を可能とする特定事項を欠いている発明に該当することは明らかである。

エ. そして、前記(3-2)ウ.?ケ.での検討と同様にして、前記ウ.に示した、電解液耐性の向上を可能とする特定事項は、「上記シーラント層に含まれるエラストマーの配合量は、1質量%以上20質量%以下の範囲内である」ことである。
しかしながら、前記イ.に示したように、本件補正発明は、その特定事項を備えるものではない。

オ. そうすると、本件補正発明は、発明の詳細な説明の記載に基づき出願時の技術常識に照らして当業者が本件補正発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものとはいえない。

カ. したがって、本件補正発明は、本願の発明の詳細な説明に記載された発明ではない。


(4) 補足
(4-1) 請求人の主張
なお、請求人は、平成28年 5月26日付けの審判請求書において、「本願請求項1に係る発明(当審注:「本件補正発明」を意味する。)は、シーラント層及び接着樹脂層に平均粒径200nm以下の微粒子からなるエラストマーを含むことにより、アルミニウム箔を利用したラミネートフィルムタイプの外装材を冷間成型して凹部を形成する際に、シーラント層と接着樹脂層で、クラックにより破断や白化が発生することを防止する、という発明であり、本審判請求書と同時に提出の手続補正書にて、シーラント層に含まれるエラストマーの粒径は200nm以下であることを特定したことにより、本発明の課題である破断や白化を解決することが可能となるもので、本願明細書の表1および0069に記載の通り、シーラント層に含まれるエラストマーを20質量%以下に抑えることは電解液耐性の劣化を防ぐため好ましい構成ではあるものの、リチウムイオン電池の用途によって求められる電解液耐性は異なるため、シーラント層におけるエラストマーの含有量は、本願発明の課題を解決するために必須の手段ではないため、補正後の本願発明は特許法第36条第6項第1号の規定を満たすものである。」旨主張をしている(審判請求書「4.(1)理由1(特許法第36条第6項第1号)について」)。

(4-2) 当審の見解
しかし、前記(3-1)ア.?キ.で検討したとおり、発明の詳細な説明によれば、本件補正発明が解決すべき課題は、アルミニウム箔を利用したラミネートフィルムタイプの外装材を冷間成型して凹部を形成する際にシーラント層と接着樹脂層で白化が発生しない、且つ、電池の内容物耐性(耐電解液性や耐フッ酸性)がある、リチウムイオン電池用外装材を提供することであるため、請求人の前記(4-1)の主張は、発明の詳細な説明に基づく妥当な主張とはいえない。
また、請求人は、前記(4-1)に示したとおり、本願明細書の【表1】および【0069】に記載の電解液耐性は、リチウムイオン電池の用途によって求められる電解液耐性とは異なる旨も主張しており、仮に、その主張が妥当であるとすると、発明の詳細な説明には、課題を解決するために必要不可欠な手段である、電解液耐性の向上を可能とする特定事項が十分に開示されていないとの認定が可能となるところ、その主張の妥当性を裏付け得る客観的かつ具体的な証拠も見当たらない。
よって、請求人の前記主張は採用できない。


3 小括
以上のとおり、本件補正発明は、発明の詳細な説明に記載された発明ではないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を備えるものではなく、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。


IV.まとめ
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 原査定の理由についての検討
1.本願発明
本願の平成28年 5月26日付けの手続補正は、前記第2のとおり、却下された。
したがって、本願の特許請求の範囲は、平成27年10月14日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲に記載されるとおりのものと認められるところ、その特許請求の範囲の請求項1に記載された発明は、前記「第2 I.」の(A)に【請求項1】として示すとおりのものであり(以下、本願の請求項1に記載された発明を「本願発明」という。)、再掲すると、次のとおりものである。
「【請求項1】
基材層の一方の面に対し、少なくとも、接着剤層、アルミニウム箔層、アルミニウム保護層、接着樹脂層、シーラント層をこの順番で積層したリチウムイオン電池用外装材において、
上記接着樹脂層は、無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂に、オレフィン系エラストマー及びスチレン系エラストマーのうち少なくとも一方のエラストマーを含み、
該エラストマーの配合量は、1質量%以上20質量%以下の範囲内であることを特徴とするリチウムイオン電池用外装材。」


2.原査定の理由の概要
原審における拒絶査定の理由の一つは、概略、以下のものである。

本願発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。


3.当審の判断
本願発明は、本件補正発明における、「上記シーラント層は、平均粒径200nm以下の微粒子からなるエラストマーを含」むとの発明特定事項と、上記接着樹脂層に含まれるエラストマーについての、「平均粒径200nm以下の微粒子からなることを」との発明特定事項とを備えていないものであるところ、前記(3-3)で検討したとおり、本件補正発明は、発明の詳細な説明の記載に基づき出願時の技術常識に照らして当業者が本件補正発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものとはいえないのであるから、本願発明も、発明の詳細な説明の記載に基づき出願時の技術常識に照らして当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものとはいえないことは明らかである。
してみると、本願発明は、発明の詳細な説明に記載された発明ではないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を備えるものではない。


第4 むすび
以上のとおりであるから、原査定は妥当であり、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-06-13 
結審通知日 2017-06-20 
審決日 2017-07-07 
出願番号 特願2014-226045(P2014-226045)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (H01M)
P 1 8・ 572- Z (H01M)
P 1 8・ 575- Z (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渡部 朋也  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 長谷山 健
小川 進
発明の名称 リチウムイオン電池用外装材  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ