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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B60R
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B60R
管理番号 1332009
審判番号 不服2015-19077  
総通号数 214 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-10-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-10-22 
確定日 2017-08-31 
事件の表示 特願2014-561607号「ベルト取付具」拒絶査定不服審判事件〔平成27年7月30日国際公開、WO2015/111226〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014年(平成26年)1月27日を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成27年6月22日付け :拒絶理由の通知
平成27年7月24日 :意見書、手続補正書の提出
平成27年8月19日付け :拒絶査定
平成27年10月22日 :審判請求書、手続補正書の提出
平成28年8月31付け :拒絶理由の通知
平成28年9月20日 :意見書の提出
平成28年12月27日付け:拒絶理由の通知
平成29年2月8日 :意見書の提出

第2 本願発明
本願請求項1-2に係る発明は、平成27年10月22日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-2に記載された事項により特定される発明であるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。
「車両のシートベルト装置用のベルトが挿通される挿通孔が形成され、車両に取付けられる本体部材と、
前記本体部材に設けられて前記挿通孔の外周面を構成し、前記挿通孔の全周において先端側部分を基端側部分から離間される状態に前記挿通孔の径方向外側に延出される突出部と、
を備えたベルト取付具。」

第3 引用文献および引用発明
1.当審において通知した、平成28年12月27日付けの拒絶の理由に引用された引用文献1(独国出願公開第102004041665号明細書)には、図面とともに次の事項が記載されている。なお、訳は当審で訳したものであり、下線は当審で付したものである。
(1a)

「[0001]本発明は、支持部材とベルトカバーを持つベルトガイドに、また、ベルトリトラクタにも関する。 」
(1b)

「[0002]技術の現状において、ベルトガイドが使用されている。このベルトガイドは、プラスチック製のベルトカバーが金属支持部材にはめ込まれている。
[0003]その際の顕著な欠点は、プラスチック製ベルトカバーが別体であるためのコストがかかることである。このコストは、プラスチック製部品の製造のコストと、それを金属支持部材に取り付けるために関連したコストである。」
(1c)

「[0004]本発明の目的は、上述したタイプのベルトガイドでコストを削減する一方で、ベルトガイドに更なる機能を統合することにある。
[0005]上記目的は、金属支持部材と金属のベルトカバーとを単一構造体として形成することで達成される。これによって、ベルトカバーの機能を引き継ぐ他の部品の製造のための追加コストの必要はない。また、組立コストが回避できる。」
(1d)

「[0009]さらにベルトガイドにおいて支持装置が形成されている。支持装置によってベルトガイドは車体部分に装着することができる。・・・略・・・」
(1e)

「[0020]ベルトカバー2の第2の実施形態(図4、参照)によれば、壁4は支持部材1の一方側の面に延在する。図3に示すように、ベルトカバー2は、支持部材1の裏側でベルト方向に限られている。壁4の曲率半径は、図3のように増加する。ベルト3のたわみ時に、ベルト3と壁4の接触は、例えば、ベルト3の座面が増加し、ベルト3の曲率が低減される。ベルト3の負荷は、特に、たわみによって減少する。」
(1g)

「[0021]ベルトカバー2(図5、参照)の第3の実施形態によれば、このベルトカバーは支持部材1の両側で支持部材1の両側を通じて延在している。この実施形態によればベルトカバーは、非常に大きな曲率半径を有し、また、ベルト3のための大きな座面となることを可能にする。ベルトカバーは、支持部材を型押し、プレスまたは深絞り成形することによって得られる。」


2.引用文献1の図2、4より次の技術的事項が看取できる
車体部分14に取付けられる支持部材1にベルト3が挿通される挿通孔が形成されている(図2、4)。
挿通孔の周りにベルトカバー2が形成されている(図2、4)。
ベルトカバー2は挿通孔と一体成形されている(図4)。
ベルトカバー2の壁4は挿通孔の外周面を構成している(図4)。
ベルトカバー2の先端側部分は、ベルト3が挿通する挿通孔の径方向外側に延出されている(図4)。

3.上記記載及び上記図面から看取できる技術的事項を総合すると、引用文献には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、以下の、引用発明の認定は図4に示された実施形態である。

「ベルト3が挿通される挿通孔が形成され、車体部分14に取付けられる支持部材1と、
前記挿通孔の周りにベルトカバー2が形成され、
前記ベルトカバー2は挿通孔と一体形成され、
前記ベルトカバー2の壁4は挿通孔の外周面を構成しており、また、壁4は支持部材1の一方側に延在しており、
前記ベルトカバー2の先端側部分は、前記挿通孔3の径方向外側に延出されている、ベルトガイド。」

第4 対比・判断
1.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「支持部材1」及び「挿通孔」は、機能的にみて本願発明の「本体部材」及び「挿通孔」に相当する。
引用発明の「車体部分14」は、本願発明の「車両」に相当すること、また、引用発明の「ベルト3」が、本願発明の「シートベルト装置用のベルト」に相当することは明らかである。
したがって、引用発明の「ベルト3が挿通される挿通孔が形成され、車体部分14に取付けられる支持部材1」は、本願発明の「車両のシートベルト装置用のベルトが挿通される挿通孔が形成され、車両に取付けられる本体部材」に相当する。
イ 引用発明の「ベルトカバー2の壁4は挿通孔の外周面を構成して」いるとともに、「壁4は支持部材1の一方側に延在している」こと、および、図4(ベルトカバー2が支持部材1の下面を越えてさらに下側である一方側へ延在していることが図示されている)から、引用発明の「ベルトカバー2」は支持部材1から支持部材1の一方側へ突出しているといえる。よって、引用発明の「ベルトカバー2」は本願発明の「前記本体部分に設けられ」た「突出部」に相当する。
そして、引用発明の「ベルトカバー2」は「挿通孔の周りに」「挿通孔と一体形成され」ているとともに、「ベルトカバー2の壁4は挿通孔の外周面を構成し」ているから、引用発明の「前記ベルトカバー2は挿通孔と一体形成され、前記ベルトカバー2の壁4は挿通孔の外周面を構成しており」は、本願発明の「前記挿通孔の外周面を構成し」に相当する。
ウ 上記のごとく、引用発明の「ベルトカバー2」は「前記挿通孔の周りに」「挿通孔と一体形成され」ている。そしてその「先端側部分は、前記挿通孔3の径方向外側に延出されて」いる。この両者から、引用発明の「ベルトカバー2の先端側分」は、ベルトカバー2の先端側部分とは反対側の挿通孔と一体形成された部分、すなわち、基端側部分からは、離間される状態に、「前記挿通孔3の径方向外側に延出されて」いるといえる。したがって、引用発明の「前記挿通孔の周りにベルトカバー2が形成され、」「前記ベルトカバー2の先端側部分は、前記挿通孔3の径方向外側に延出されている」は、本願発明の「前記挿通孔の全周において先端側部分を基端側部分から離間される状態に前記挿通孔の径方向外側に延出される突出部を備える」との対比において、「前記挿通孔の周囲において先端側部分を基端側部分から離間される状態に前記挿通孔の径方向外側に延出される突出部を備える」限度で相当する。
エ 引用発明の「ベルトガイド」は、ベルト3(本願発明の「シートベルト装置用のベルト」に相当する)が挿通されるとともに車体部分14(本願発明の「車両」に相当する)に取付けられるものであるから、機能的に、本願発明の「ベルト取付具」に相当する。
オ 以上ア-エより、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は次のとおりである。
[一致点]
「車両のシートベルト装置用のベルトが挿通される挿通孔が形成され、車両に取付けられる本体部材と、
前記本体部材に設けられて前記挿通孔の外周面を構成し、前記挿通孔の周囲において先端側部分を基端側部分から離間される状態に前記挿通孔の径方向外側に延出される突出部と、
を備えたベルト取付具。」
[相違点]
突出部に関し、本願発明の「突出部」は「挿通孔の全周において」「延出されている」ものであるのに対し、引用発明の「ベルトカバー2」は「挿通孔の周囲に」「延出されている」ものである点。

2.判断
上記相違点について検討する。
(1)引用文献1の図1、2、6には、ベルトカバー2は挿通孔の全周に形成されていることが示唆されている(図1、2、6においてベルトカバー2は挿通孔の全周において存在するように図示されている。また、図2においては、ベルトカバー2の引き出し線が挿通孔長手方向外側部分から画かれており、挿通孔長手方向両外側部分においてもベルトカバー2が存在することが伺える。さらに、図6においては、挿通穴の全周にベルトカバー2が膨出しているように図示されている。)。したがって、引用発明の「ベルトカバー2」も挿通孔の全周において延出されているものいえる。よって、引用発明の「ベルトカバー2」は「挿通孔の周囲に」「延出されている」は、本願発明1の「突出部」は「挿通孔の全周において」「延出されている」に相当し、上記相違点は実質的な相違点とはいえない。
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明、すなわち、引用文献1に記載された発明であるといえ、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。

(2)なお、引用文献1には、ベルトカバー2が挿通孔の全周において延出されているものである点の明示の記載はなく、また、図4-5が、その記載内容から見て、挿通孔短手方向における断面図であると推認されることから、ベルトカバー2の挿通孔長手方向両外側部分についての構成が必ずしも明らかでなく、挿通孔長手方向両外側部分においては、突出部の先端側部分が基端側部分から離間される状態に挿通孔の径方向外側に延出していない、すなわち、引用発明の「ベルトカバー2」は挿通孔の全周において延出されているものではないと解する余地もあるので、念のため、そのように解して以下検討する。
上記のごとく、引用文献1の図1、2、6からは、挿通孔長手方向両外側部分の突出部の先端部分の形状については明らかでないものの、ベルトカバー2は挿通孔の全周に形成されていることが示唆されていること、また、引用発明のベルトカバー2は支持部材を型押し、プレスまたは深絞り成形によって支持部材と一体形成するものといえるところ(引用文献1の段落[0021]、参照。)、支持部材にベルトカバーとなる突出部、すなわち、その先端側部分が基端側部分から離間される状態に挿通孔の径方向外側に延出されてなる形状の突出部を一体形成する際、挿通孔の全周において突出部を形成することが通常であり、わざわざ周囲の一部に突出部を形成しない成形手段を採用すると加工が複雑化するということが当業者における技術常識であることを考えると、引用発明の「ベルトカバー2」が「挿通孔の周囲に」「延出されている」ものを、挿通孔の全周に延出されるようにし、挿通孔長手方向両外側部分においても、突出部の先端側部分が基端側部分から離間される状態に挿通孔の径方向外側に延出されてなる形状とすることは、当業者であれば容易に想到し得たものである。
この点について、審判請求人は、平成29年2月8日に提出の意見書において、「ベルトプロテクター2(合議体注:「ベルトカバー2」のこと、以下同様。)を筒状に形成した後に、挿通孔の全周においてベルトプロテクター2の先端側部分をベルトプロテクター2の基端側部分から離間される状態に挿通孔の径方向外側に延出される形状に形成するのは、ベルトプロテクター2の先端側部分が周方向において分割破断し易いため、困難である。
これにより、ベルトプロテクター2が挿通孔の全周において先端側部分を基端側部分から離間される状態に挿通孔の径方向外側に延出されるようにすることは、想到困難である。」と主張する(【意見の内容】(2)第5-6段落)。
しかしながら、例えば、上記意見書での【意見の内容】の(2)第5段落にも記載しているように、突出部の肉厚寸法を小さくすることによって材料の塑性流動性を高め、先端側部分の周方向における分割破断を抑制できるし、塑性加工における材料の分割破断という課題が、当業者における周知の課題であることからすれば、分割破断の生じにくい成形手段を採用し、突出部の先端側部分の周方向における分割破断を抑制することも、当業者にとって格別困難なことではない。
したがって、審判請求人の上記主張は採用できない。

(3)そして、本願発明の奏する作用効果は、引用発明の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

(4)したがって、本願発明は、引用発明の「ベルトカバー2」は挿通孔の全周において延出されているものではないと解したとしても、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明、すなわち、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、あるいは、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-06-29 
結審通知日 2017-07-04 
審決日 2017-07-18 
出願番号 特願2014-561607(P2014-561607)
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (B60R)
P 1 8・ 121- WZ (B60R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 永冨 宏之  
特許庁審判長 島田 信一
特許庁審判官 氏原 康宏
尾崎 和寛
発明の名称 ベルト取付具  
代理人 加藤 和詳  
代理人 中島 淳  
代理人 福田 浩志  

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