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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C01B
管理番号 1332013
審判番号 不服2016-9300  
総通号数 214 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-10-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-06-22 
確定日 2017-08-31 
事件の表示 特願2015-133223「フッ化水素の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年2月25日出願公開、特開2016-28003〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年7月2日(優先権主張 平成26年7月11日)の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成27年 9月 7日付け:拒絶理由の通知
同年11月12日 :意見書、手続補正書の提出
平成28年 3月17日付け:拒絶査定
同年 6月22日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 平成28年6月22日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)についての補正却下の決定

1.補正の却下の決定の結論
平成28年6月22日にされた手続補正を却下する。

2.理由
(1)補正の内容
本件補正により、請求項1の記載は、以下のとおり補正された。(下線部は補正箇所である。)

【請求項1】
フッ化カルシウムと硫酸(ただし、三酸化硫黄と水の組合せを除く)とを反応させてフッ化水素を製造する方法であって、
(a)フッ化カルシウム粒子に、硫酸を、フッ化カルシウム1molに対して流量0.002?1mol/minで、硫酸/フッ化カルシウムのモル比が0.9?1.1となる量まで供給し、
(i)目視、
(ii)混合に用いる撹拌機のトルクおよび/または電流値の急激な上昇および/またはハンチングの観察、ならびに
(iii)工程(a)の一の時点において供給される硫酸の量に基づいて求められるフッ化水素の発生量の理論値と、該一の時点において発生するフッ化水素の量との比較
のいずれか1つ又は2つ以上の方法を組み合わせることによって、フッ化カルシウムと硫酸とを、フッ化カルシウム粒子と硫酸とからなる混合物が実質的に粉粒体を維持することを確認しながら混合および反応させて、フッ化水素を得る工程
を含む方法。

これに対し、本件補正前の請求項1の記載は、平成27年11月12日付けの手続補正書によって補正された請求項1に記載された、以下のとおりのものである。

【請求項1】
フッ化カルシウムと硫酸(ただし、三酸化硫黄と水の組合せを除く)とを反応させてフッ化水素を製造する方法であって、
(a)フッ化カルシウム粒子に、硫酸を、フッ化カルシウム1molに対して流量0.002?1mol/minで、硫酸/フッ化カルシウムのモル比が0.9?1.1となる量まで供給しながら、フッ化カルシウムと硫酸とを、フッ化カルシウム粒子と硫酸とからなる混合物が実質的に粉粒体を維持するように混合および反応させて、フッ化水素を得る工程
を含む方法。

(2)補正の目的、新規事項の追加の有無
上記補正は、補正前の発明特定事項である、「フッ化カルシウム粒子と硫酸とからなる混合物が実質的に粉粒体を維持するように混合および反応させ」ることを、補正後の請求項1に記載された(i)?(iii)のいずれか1つ又は2つ以上の方法を組み合わせることによって、確認しながら行うとするものである。

ここで、「フッ化カルシウム粒子と硫酸とからなる混合物が実質的に粉粒体を維持するように混合および反応させ」るためには、混合物が実質的に粉粒体を維持していることを、何らかの方法で確認する必要があることは明らかである。
してみれば、上記補正は、その確認方法を、(i)?(iii)のいずれか1つ又は2つ以上の方法に具体的に限定するものといえる。

そして、補正前の請求項1に記載された発明と、補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)との産業上の利用分野、及び解決しようとする課題は同一であると認められる。
よって、上記補正は、特許法第17条の2第5項2号に掲げる、いわゆる特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものに該当する。

また、混合物が実質的に粉粒体を維持しているか否かを、(i)?(iii)のいずれか1つ又は2つ以上の方法を組み合わせることによって確認することは、本願当初明細書【0040】に記載された事項であるから、上記補正は、特許法第17条の2第3項に規定する、いわゆる新規事項の追加にあたるものではない。

(3)独立特許要件
ア 本件補正発明
本件補正発明は、上記(1)に記載されたとおりのものである。

イ 引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先日(平成26年7月11日)前に頒布された刊行物である、特表2011-519335号公報(以下、「引用例」という。)には、以下の記載がある。

a 「【請求項1】
フッ化水素の製造方法であって、出発原料として実質的に微粉の形態のフッ化カルシウムが硫酸と反応させられるが、ただし、反応混合物中の硫酸の含有率が反応混合物の総重量の20重量%以下の量に保たれる方法。
・・・
【請求項4】
天然蛍石からの微粉が出発原料として使用される請求項1に記載の方法。」

b 「【0012】
本発明によれば、出発原料として実質的に微粉の形態のフッ化カルシウムが硫酸と反応させられるが、ただし、反応混合物中の硫酸の含有率が20重量%以下の量に保たれる方法が提供される。これは、反応の全体にわたって、硫酸の量が反応混合物の総重量の20重量%を決して超えないことを意味する。反応の高速を達成するために、硫酸の濃度は好ましくは5重量%以下である。このようにして、反応混合物は腐食性にならず、凝集せず、かつ、後で固化し、こうして反応器内部構造物を塞ぐ可能性があるペースト様材料を形成しない。それとは反対に、それは流動化可能のままであり、簡単な機械的手段によって撹拌することができる。」

c 「【0025】
蛍石と硫酸との全体反応を考えると、フッ化カルシウムの全てをHFおよび硫酸カルシウムへ転化するために化学量論的に必要とされる硫酸の少なくとも95%、好ましくは少なくとも100%を適用することが賢明である。」

d 「【0034】
完全な反応を達成するために、熱を供給することが必要である可能性があることが分かった。熱は外部源から供給することができる。」

e 「【0045】
実施例1:基本的影響要因の測定
一般的な手順:96.2重量%H_(2)SO_(4)濃度の25mlの硫酸を(伝熱を向上させるための)アルミニウムコーティングでコートされたポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製の、および磁気撹拌棒を含む容器に入れた。容器を次に磁気撹拌機の加熱板上に置いた。試験サンプルを120℃で2時間乾燥させた。各試験について、0.5gの試験サンプルを熱硫酸にゆっくり加えた。反応温度に達した場合に、ストップウォッチをスタートさせて反応時間を測定した。所望の反応時間後に、熱い反応塊を氷冷した金属ボウルに入れ、ボウルで反応混合物は急冷し、反応は停止した。冷却した反応混合物を次に水と接触させ、濾過し、120℃で2時間乾燥させた。生じた生成物を次に、レントゲン蛍光分析(Bruker axs S4 Explorer)によって分析した。得られたデータから、CaF_(2)の転化率を計算することができた。
・・・
【0047】
【表1】

【0048】
試験結果を表2にまとめる。各試験について、それぞれの試験番号、試験材料、(測定された場合には)m^(2)/g単位の比(BET)表面積、反応温度(℃単位)、反応時間(秒単位)および転化率(含まれるCaF_(2)に対する%単位)を示す。
【0049】
【表2】



f 「【0051】
実施例2:流動床反応器のシミュレーション
・・・
【0052】
約10gの硫酸カルシウム(硬石膏)およびそれぞれの量の硫酸を十分に混合し、この容器に入れ、加熱した。180℃の温度に達したならば、試験材料を-100%選択率という仮定の下に-反応混合物中に含まれる硫酸の正確に50%を転化する量で加えた。ある反応時間後に、反応を停止させ、転化率を上記の通り測定した。固化スラッジを試験材料として適用した。
【0053】
それぞれのデータ(スラッジの重量(「Ps」))およびg単位の硬石膏、℃単位の反応温度、秒単位の反応時間、%単位の転化率および出発原料中の重量%単位の硫酸の含有率)を表3にまとめる。
【0054】
【表3】



g 「【0056】
実施例3:ミキサー(回分法)で出発原料として天然蛍石の微粉
反応は、Loedigeのプラウシェアミキサーで行うことができる。反応器への硫酸の直接供給のために、ランセットまたは注入器を使用することができる。
【0057】
(最小量のみの炭酸カルシウムを含む)天然蛍石から分離されたダストを、炭酸カルシウムの約20重量%の含有率まで炭酸カルシウムと混合し、反応器に入れる。外部熱は全く必要とされない。濃硫酸を、反応混合物中のH_(2)SO_(4)含有率が16重量%を超えないように、間隔をあけてまたは連続的に反応器へ注入する。生じたガス成分を、硫酸を満たした洗浄機に通す。反応器を出た前精製したガス混合物を次に蒸留して精製HFを得る。化学量論的に必要とされる量の105%の硫酸の添加後に、反応混合物を、ポスト反応段階後にミキサーから取り出し;炭酸カルシウムを加えて残存硫酸を中和する。」

h 「【0060】
実施例5:流動床反応器での出発原料として天然蛍石の微粉
実施例3を繰り返す。炭酸カルシウムを今回は全く加えないが、反応器およびその内容物を硫酸の添加の間ずっと180℃に加熱する。HFおよび硬石膏の単離は、実施例3に記載されたように行う。」

引用発明の認定
引用例の実施例5には、天然蛍石の微粉に硫酸を添加して加熱し、反応させ、フッ化水素を製造したことが記載されている。(摘示箇所a、d、h)

そして、上記反応の全体にわたって、反応混合物中の硫酸の含有率は20重量%以下の量に保たれるものであり(摘示箇所a、b、g)、これにより、反応混合物は腐食性にならず、凝集せず、かつ、後で固化し、こうして反応器内部構造物を塞ぐ可能性があるペースト様材料を形成せず、流動化可能のままであり、簡単な機械的手段によって撹拌することができるものである(摘示箇所b)。

硫酸の添加量について、引用例には、「フッ化カルシウムの全てをHFおよび硫酸カルシウムへ転化するために化学量論的に必要とされる硫酸の・・・好ましくは少なくとも100%を適用することが賢明である」と記載されている(摘示箇所c)。
また、実施例5には、「実施例3を繰り返す。」と記載されているから(摘示箇所h)、実施例5における硫酸の添加量も、「化学量論的に必要とされる量の105%」(摘示箇所g)であるといえ、これは上記摘示箇所cとも整合する。

したがって、これらのことを、本件補正発明の記載ぶりに即して整理すると、引用例には、
「天然蛍石の微粉に硫酸を添加して反応させ、フッ化水素を製造する方法であって、
天然蛍石の微粉に、硫酸を、化学量論的に必要とされる量の105%添加し、
反応混合物中の硫酸の含有率が反応混合物の総重量の20重量%以下の量に保たれることにより、反応混合物はペースト様材料を形成せず、流動化可能のままであり、簡単な機械的手段によって撹拌することができる、
フッ化水素の製造方法。」(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

エ 対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。

(ア)引用発明の「天然蛍石の微粉」は、本件補正発明の「フッ化カルシウム」に相当するから、引用発明の、「天然蛍石の微粉に硫酸を添加して反応させ、フッ化水素を製造する方法」は、本件補正発明の、「フッ化カルシウムと硫酸(ただし、三酸化硫黄と水の組合せを除く)とを反応させてフッ化水素を製造する方法」及び「フッ化カルシウムと硫酸とを、混合および反応させて、フッ化水素を得る工程を含む方法」に相当する。

(イ)フッ化カルシウムと硫酸とが反応し、フッ化水素が生成する反応の反応式は、

CaF_(2)+H_(2)SO_(4)→CaSO_(4)+2HF

と書くことができるから、「化学量論的に必要とされる量」の「硫酸」とは、「硫酸/フッ化カルシウムのモル比が1.0となる量」である。

すると、引用発明の、「天然蛍石の微粉に、硫酸を、化学量論的に必要とされる量の105%添加」することは、すなわち、「硫酸/フッ化カルシウムのモル比が1.05となる量添加」することになるから、本件補正発明の、「フッ化カルシウム粒子に、硫酸を、硫酸/フッ化カルシウムのモル比が0.9?1.1となる量まで供給」することに相当する。

(ウ)引用発明における、「反応混合物中の硫酸の含有率が反応混合物の総重量の20重量%以下の量に保たれることにより、反応混合物はペースト様材料を形成せず、流動化可能のままであり、簡単な機械的手段によって撹拌することができる」ことについて、固体である天然蛍石の微粉が、ペースト様材料を形成せず、簡単な機械的手段によって撹拌することができる流動化可能な状態であるということは、粉体ないし粒体の状態を維持していることといえるから、本件補正発明の、「フッ化カルシウム粒子と硫酸とからなる混合物が実質的に粉粒体を維持する」ことに相当する。

以上(ア)?(ウ)から、本件補正発明と引用発明とは、下記の点で一致し、下記の点で相違する。

・一致点
「フッ化カルシウムと硫酸(ただし、三酸化硫黄と水の組合せを除く)とを反応させてフッ化水素を製造する方法であって、
(a)フッ化カルシウム粒子に、硫酸を、硫酸/フッ化カルシウムのモル比が0.9?1.1となる量まで供給し、
フッ化カルシウムと硫酸とを、フッ化カルシウム粒子と硫酸とからなる混合物が実質的に粉粒体を維持するように混合および反応させて、フッ化水素を得る工程
を含む方法。」

・相違点1
本件補正発明は、「フッ化カルシウム粒子に、硫酸を、フッ化カルシウム1molに対して流量0.002?1mol/minで」供給するのに対し、引用発明は、硫酸の供給流量が不明である点。

・相違点2
本件補正発明は、
「(i)目視、
(ii)混合に用いる撹拌機のトルクおよび/または電流値の急激な上昇および/またはハンチングの観察、ならびに
(iii)工程(a)の一の時点において供給される硫酸の量に基づいて求められるフッ化水素の発生量の理論値と、該一の時点において発生するフッ化水素の量との比較
のいずれか1つ又は2つ以上の方法を組み合わせることによって、フッ化カルシウムと硫酸とを、フッ化カルシウム粒子と硫酸とからなる混合物が実質的に粉粒体を維持することを確認しながら混合および反応させ」るのに対し、
引用発明は、「反応混合物はペースト様材料を形成せず、流動化可能のままであり、簡単な機械的手段によって撹拌することができる」ものであるが、その確認方法が不明である点。

オ 判断
以下、上記相違点について検討する。

(ア)相違点1について
引用発明は、「反応混合物中の硫酸の含有率が反応混合物の総重量の20重量%以下の量に保たれることにより、反応混合物はペースト様材料を形成せず、流動化可能のままであり、簡単な機械的手段によって撹拌することができる」ものである。
したがって、引用発明における硫酸の流量は、反応混合物中の硫酸の含有率が、反応混合物の総重量の20重量%以下の量に保たれるものでなければならない。

ここで、引用発明は、「硫酸を、化学量論的に必要とされる量の105%添加」するもの、すなわち、「フッ化カルシウム1molに対して1.05mol添加」するものであるから、仮に、硫酸の流量を、「フッ化カルシウム1molに対して流量1mol/min」としたとき、「フッ化カルシウム1molに対して1.05mol」の硫酸は、1.05分(63秒)で添加されることになる。
そして、引用例の実施例1、2はいずれも、化学量論的に必要とされる量に比べて硫酸を過剰に用いるものであるが、その結果である表2、3には、反応時間を130?600(秒)としたことが記載されている(摘示箇所e、f)。
また、例えば特開2002-29706号公報の【0035】?【0036】には、粉末状の蛍石と濃硫酸とを、CaF_(2):H_(2)SO_(4)のモル比1:0.9?1:1.1で反応させ、フッ化水素と石膏とを得る反応について、約40?200℃の予備反応器の平均滞留時間を約2?30分とし、予備反応器出口での蛍石の転化率は約15?55%であること、更に、約150?350℃に加熱されるロータリーキルンでの平均滞留時間を約1?10時間とすることが記載されている。
上記引用例の実施例1、2や、特開2002-29706号公報の記載に照らせば、フッ化カルシウムと硫酸との反応は、混合して即座に進行するものではないことが当業者の技術常識ということができ、引用発明において硫酸の流量を「フッ化カルシウム1molに対して流量1mol/min」としたとき、全ての硫酸が添加された1.05分の時点において、添加された硫酸は半分も反応して(消費されて)いないといえるから、硫酸(分子量98.1)とフッ化カルシウム(分子量78.1)との混合物中における未反応の硫酸の含有率は、反応による硫酸の消費を考慮しても、20重量%を超えることは明らかであるといえる。

よって、引用発明において、「反応混合物中の硫酸の含有率が反応混合物の総重量の20重量%以下の量に保たれる」ためには、硫酸の流量を、少なくとも「フッ化カルシウム1molに対して流量1mol/min未満」としなければならないことは明らかである。
そして、「反応混合物中の硫酸の含有率が反応混合物の総重量の20重量%以下の量に保たれる」、すなわち、硫酸の流量を、「フッ化カルシウム1molに対して流量1mol/min未満」という条件を前提として、反応時間(例えば、表2、3に記載された130?600秒)、反応温度、フッ化カルシウムの比表面積などを考慮して、硫酸の流量の範囲を決定することは、当業者であれば適宜なし得る程度の設計事項である。

(イ)相違点2について
引用発明は、「反応混合物中の硫酸の含有率が反応混合物の総重量の20重量%以下の量に保たれることにより、反応混合物はペースト様材料を形成せず、流動化可能のままであり、簡単な機械的手段によって撹拌することができる」ものであり、ペースト様材料が形成されると、後で固化し、反応器内部構造物を塞ぐ可能性があるのだから(摘示箇所b)、反応混合物がペースト様材料を形成しておらず、流動化可能のままであることを、何らかの方法で確認する必要があることは明らかである。
そして、「目視」は、特定の装置を必要としない簡便な状態確認方法の一つであり、これを採用することは当業者であれば容易になし得ることである。

(ウ)本件補正発明の奏する作用効果について
請求人は、審判請求書において、本件補正発明は、実質的に粉粒体を維持しているか否かをリアルタイムで経時的に確認することができるので、工程(a)の開始から終了に至る時間全体にわたって硫酸の流量の値を適切な範囲内に調節することができるという効果を奏する旨主張している。
しかしながら、上記(イ)で説示するとおり、引用発明も、反応混合物がペースト様材料を形成しておらず、流動化可能のままであることを、何らかの方法で確認しているものといえるから、上記効果も、引用発明の奏する作用効果から当業者に予測可能な範囲内のものである。

(エ)本件補正発明の進歩性についてのむすび
したがって、本件補正発明は、引用例に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、独立して特許を受けることができないものである。

カ 本件補正の却下の決定についてのむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、その余について検討するまでもなく、本件補正は、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 原査定の理由について

1.原査定の理由
本件補正前の請求項1に対する原査定の理由は、引用例(特表2011-519335号公報)に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

2.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?10に係る発明は、平成27年11月12日付けの手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定されるものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、以下のとおりのものである。

【請求項1】
フッ化カルシウムと硫酸(ただし、三酸化硫黄と水の組合せを除く)とを反応させてフッ化水素を製造する方法であって、
(a)フッ化カルシウム粒子に、硫酸を、フッ化カルシウム1molに対して流量0.002?1mol/minで、硫酸/フッ化カルシウムのモル比が0.9?1.1となる量まで供給しながら、フッ化カルシウムと硫酸とを、フッ化カルシウム粒子と硫酸とからなる混合物が実質的に粉粒体を維持するように混合および反応させて、フッ化水素を得る工程
を含む方法。

3.引用例の記載事項、引用発明の認定
原査定の拒絶の理由で引用された引用例の記載事項は、前記「第2 2.(3)イ」に記載したとおりであり、該引用例に記載された発明、すなわち引用発明は、同「第2 2.(3)ウ」に記載したとおりである。

4.対比、判断
本件補正発明は、前記「第2 2.(2)」で検討したとおり、本願発明1において、混合物が実質的に粉粒体を維持していることの確認方法を具体的に限定したものであるから、本願発明1は、本件補正発明を包含するものである。
そして、前記「第2 2.(3)エ、オ」で検討したとおり、本件補正発明は、引用例に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同様の理由により、本願発明1も、引用例に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.上申書に記載された補正案について
請求人は上申書において、請求項1について下記の補正案を示し、「(i)混合に用いる撹拌機のトルクおよび/または電流値の急激な上昇および/またはハンチングの観察」、及び「(ii)工程(a)の一の時点において供給される硫酸の量に基づいて求められるフッ化水素の発生量の理論値と、該一の時点において発生するフッ化水素の量との比較」とはいずれも、引用例に記載も示唆もされていないと主張している。

【請求項1】
フッ化カルシウムと硫酸(ただし、三酸化硫黄と水の組合せを除く)とを反応させてフッ化水素を製造する方法であって、
(a)フッ化カルシウム粒子に、硫酸を、フッ化カルシウム1molに対して流量0.002?1mol/minで、硫酸/フッ化カルシウムのモル比が0.9?1.1となる量まで供給し、
(i)混合に用いる撹拌機のトルクおよび/または電流値の急激な上昇および/またはハンチングの観察、ならびに
(ii)工程(a)の一の時点において供給される硫酸の量に基づいて求められるフッ化水素の発生量の理論値と、該一の時点において発生するフッ化水素の量との比較
のいずれか1つ又は両方の方法を組み合わせることによって、フッ化カルシウムと硫酸とを、フッ化カルシウム粒子と硫酸とからなる混合物が実質的に粉粒体を維持することを確認しながら混合および反応させて、フッ化水素を得る工程
を含む方法。
(下線部は、本件補正発明からの補正箇所である。)

しかしながら、例えば実願昭59-1952号(実開昭60-115531号)のマイクロフィルムの明細書第1ページ第13行?第2ページ第4行に、
「高含水率物質または乾物質を水分調節機(乾燥機及び加湿器等)で処理すると物質は含水率の変化により物性(粘性)が変化する。
この物性変化は水分調節機の攪拌装置に負荷変化を与えることになる。即ち攪拌装置の回転トルクや駆動モータの電流値が変化する。
含有水分に対する粘性特性は物質によって定ったパターンを有する為,このパターンを攪拌装置の回転トルクや駆動モータの電流値の変化特性として捕えることにより,必要な含水分の物質に調製することができる。」
と記載されるように、撹拌装置のトルクや電流値の変化から、撹拌される物質の含水率の変化を把握することは、本願優先日前に当業者に周知の技術事項である。
してみれば、引用発明において、反応混合物がペースト様材料を形成しておらず、流動化可能のままであることを確認する方法として、撹拌装置のトルクや電流値を採用して、上記補正案に記載された発明に想到することは、当業者が容易になし得たことである。
したがって、上記補正案に記載された発明も、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

6.むすび
以上のとおり、本願発明1は、引用例に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-06-30 
結審通知日 2017-07-04 
審決日 2017-07-18 
出願番号 特願2015-133223(P2015-133223)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C01B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 壷内 信吾  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 宮澤 尚之
永田 史泰
発明の名称 フッ化水素の製造方法  
代理人 鮫島 睦  
代理人 吉田 環  

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