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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01S
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01S
管理番号 1332128
審判番号 不服2016-2135  
総通号数 214 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-10-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-02-12 
確定日 2017-09-08 
事件の表示 特願2013-556846「高次モードファイバを用いる超短パルスのファイバデリバリーのための方法、およびシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 9月 7日国際公開、WO2012/118937、平成26年 5月29日国内公表、特表2014-513411〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2012年(平成24年)3月1日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年3月1日 米国、2012年2月13日 米国)を国際出願日とする出願であって、その後の手続の経緯は以下のとおりである。

平成26年11月 6日付け 拒絶理由通知(発送日 同年11月11日)平成27年 5月11日 手続補正書及び意見書提出
平成27年10月 6日付け 拒絶査定(謄本送達日 同年10月13日)
平成28年 2月12日 拒絶査定不服審判請求、手続補正書提出
平成28年 3月24日 手続補正書(方式)提出
平成28年 9月14日付け 拒絶理由通知(発送日 同年9月15日)
平成28年12月15日 手続補正書及び意見書提出

第2 当審の拒絶由の概要
当審において平成28年9月14日付けで通知した拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)の概要は以下のとおりである

[理由1]
この出願の請求項1ないし5に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。また、この出願の請求項1ないし5に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


"Novel concept for large distance ultrashort pulse fiber delibery without pre-chirping", T.Le ET AL, Proc. SPIE 7912,Solid State Lasers XX:Technology and Devices, 791214(February 15 ,2011); doi 10.1117/12.873584 第1-8頁

[理由2]
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。


(1)請求項1及び5における「前記第一のファイバの分散勾配に等しい相対的分散勾配」は、審判請求書によれば、「前記第一のファイバの相対的分散勾配に等しい相対的分散勾配」とのことであるが、「相対的分散勾配」の意味するところが不明であり、発明が明確とはいえない。
また、本願明細書の発明の詳細な説明には、「相対的分散勾配」の記載がなく、「第一のファイバの相対的分散勾配」と「高次モードファイバの相対的分散勾配」が等しいことに関する記載もないから、本願の請求項に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。
(2)請求項1及び5には、「基底モードのビーム出力を得るために」という記載と「結果として生じる高次モードの光を自由空間の出力として作り出すために」という記載があり、請求項に係る全ファイバデリバリーシステムから出力されるビームが、基底モードであるのか高次モードであるのか、いずれであるのか不明瞭である。
(3)請求項5には、「正常分散を有するシングルモードファイバ」の記載があるが、この「シングルモードファイバ」と「第1のファイバ」の関係が不明であり、発明が明確でない。
なお、この「シングルモードファイバ」が「第1のファイバ」であるとすると、請求項5の「前記第1のファイバは微小構造ファイバまたはマルチモードファイバの内の1つからなり」と整合しない。

第3 本願の特許請求の範囲の記載
平成28年12月15日に補正された本願の特許請求の範囲の請求項1及び2の記載は、以下のとおりである。
「【請求項1】
パルスのプリチャープをしないフェムト秒レーザパルスのための全ファイバデリバリーシステムであって、
正常分散を有する第一のファイバ、および
異常分散を有する高次モードファイバであって、前記第一のファイバの分散勾配に等しい相対的分散勾配および14.9μm^(2)の有効断面積を有する高次モードファイバを備え、
前記全ファイバデリバリーシステムが、光バルクを必要とせず、かつ結果として生じる高次モードの光を自由空間の出力として作り出すために適しており、
前記高次モードは、LP_(02)、LP_(03)、あるいはLP_(04)の内の1つからなり、
前記第一のファイバは微小構造ファイバまたはマルチモードファイバの内の1つからなる、全ファイバデリバリーシステム。
【請求項2】
前記第一のファイバがシングルモードファイバからなる、請求項1に記載の全ファイバデリバリーシステム。」

第4 記載要件(特許法第36条第6項第1項及び第2項)について
1 請求項1について
(1)請求項1の記載に関する経緯
ア 平成26年11月6日付け拒絶理由通知の指摘
『本願の請求項1に、「異常分散を有する高次モードファイバであって、前記第一のファイバの分散勾配に実質的に等しい相対的分散勾配を有する高次モードファイバ」と記載されている。
しかし、「実質的に等しい」、「相対的分散勾配」という語の意味及び範囲が不明確であり、「実質的に等しい相対的分散勾配を有する」とは技術的にどのようなことを意味するのか明確でない。』

イ 平成27年5月11日提出の意見書の主張
『補正後の独立請求項において、「実質的に」は削除されました。したがって、第一のファイバの分散勾配が相対的分散勾配と等しいことは明確になったものと思料します。なお、「相対的分散勾配」はそれ自身が1つの周知な技術用語であり、明確であるため、補正の必要はないものと思料します。』

ウ 拒絶査定における指摘
『本拒絶査定の理由ではありませんが、以下の拒絶理由にも注意して下さい。 …
請求項1及び13には、「前記第一のファイバの分散勾配に等しい相対的分散勾配(中略)を有する高次モードファイバ」と記載されている。しかし、「分散勾配」と「相対的分散勾配」(=分散勾配/波長分散)とは次元の異なるパラメータであり、両者が「等しい」とは何を意味するのか理解できない。
よって、請求項1-13に係る発明は明確でない。』

エ 審判請求書の記載
『補正後の請求項1および5における「前記第一のファイバの分散勾配に等しい相対的分散勾配」は「前記第一のファイバの相対的分散勾配に等しい相対的分散勾配」と補正するべきと思料するものの、特許法17条の2第5項第4号を鑑み、補正を控えました。上記記載を補正する機会を頂けますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。』

オ 平成28年9月14日起案の拒絶理由通知の指摘
『請求項1及び5における「前記第一のファイバの分散勾配に等しい相対的分散勾配」は、審判請求書によれば、「前記第一のファイバの相対的分散勾配に等しい相対的分散勾配」とのことであるが、「相対的分散勾配」の意味するところが不明であり、発明が明確とはいえない。
また、本願明細書の発明の詳細な説明には、「相対的分散勾配」の記載がなく、「第一のファイバの相対的分散勾配」と「高次モードファイバの相対的分散勾配」が等しいことに関する記載もないから、本願の請求項に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。』

カ 平成28年12月15日提出の意見書の主張
『「相対的分散勾配」のうちの「分散勾配」は、本願明細書には、以下のように記載されております。
「図示されるように、約770nmにおけるHOMのLP_(02)分散は、分散勾配が約S=-2.542ps(nm^(2)km)で約D=+112.7ps/(nm km)であるとわかる。これは、それぞれ約β_(2)=-0.0355ps^(2)/m、およびβ_(3)=-0.0002229ps^(3)/mの第二、および第三次分散(TOD)に対応する・・・基底LP_(01)モードは・・・SMFの分散勾配、およびTODは、それぞれ約S=+0.591ps/(nm^(2) km)、およびβ_(3)=+0.0000236ps^(3)/mである・・・LP_(02)、およびSMFの二次分散は、符号が逆でおおよそ同じ大きさである・・・高次の分散は部分的に補償されるので・・・おおよそ同じ大きさで符号が等しい」(段落[0034]?[0036])
このように、「分散勾配」とは、「第二」次分散と対応し、二つのファイバの「二次分散は、符号が逆でおおよそ同じ大きさ」です。そして、このように、分散勾配の値がおおよそ同じ大きさであり、符号が逆な状態を、本願発明では、相対的分散勾配が等しい、と表現しております。』

(2)当審の判断
ア 「相対的分散勾配」という事項について、本願明細書の発明の詳細な説明の欄には、何ら説明が記載されていない。
請求人は、「相対的分散勾配」について、平成27年5月11日提出の意見書において、「周知な技術用語」というだけで、その内容の説明をしておらず、現在に至るもその説明はなされていないので、その意味するところが明確とはいえない。
技術用語辞典を参照すると、例えば、オプトロニクス社編集部「キーワード解説 光用語総合事典」(株式会社オプトロニクス社、平成16年12月12日第1版第1刷発行、第370-371頁)の「分散補償ファイバー」の項には、「RDS(relative dispersion slope)」の記載があり、「RDSは,波長分散をD,分散スロープをSとするとS/Dで表される。」と記載されていることから、請求人がいう「周知な技術用語」としての「相対的分散勾配」は、このRDSを意味するものと考えることもできるが、この場合、拒絶査定において、『「分散勾配」と「相対的分散勾配」(=分散勾配/波長分散)とは次元の異なるパラメータであり、両者が「等しい」とは何を意味するのか理解できない。』と指摘されているように、「相対的分散勾配」をRDSと解したとしても、当該発明特定事項により特定される発明が明確であるとはいえない。
請求人は、請求書において、『「前記第一のファイバの分散勾配に等しい相対的分散勾配」は「前記第一のファイバの相対的分散勾配に等しい相対的分散勾配」と補正するべきと思料するものの、特許法17条の2第5項第4号を鑑み、補正を控えました。上記記載を補正する機会を頂けますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。』というが、平成28年12月15日の補正においてもそのような補正はなされておらず、請求項1に係る発明は、上記のとおり、「前記第一のファイバの分散勾配に等しい相対的分散勾配」との事項をその発明特定事項とするものであり、発明が明確とはいえない。

イ 上記のとおり、平成28年12月15日の補正において、「前記第一のファイバの相対的分散勾配に等しい相対的分散勾配」とする補正はなされておらず、本願請求項1に係る発明は、「第一のファイバの分散勾配に等しい相対的分散勾配…を有する高次モードファイバ」を発明特定事項とするものであるので、これが本願明細書の発明の詳細な説明に記載されているかについて検討する。
本願明細書に「第一のファイバの分散勾配」として記載されているのは、請求人が平成28年12月15日提出の意見書において引用する【0035】に記載される(シリカの材料分散によって特徴付けられる分散を有する整合クラッドファイバ型からなる商標名「クリアライト 780-11」である)SMFの分散勾配、約S=+0.591ps/(nm^(2) km)のみである。
また、「高次モードファイバ」については、【0034】にHOMのLP_(02)モードについて、分散勾配S=-2.542ps(nm^(2 )km)、分散D=+112.7ps/(nm km)と記載されているだけであり、本願明細書の発明の詳細な説明に「相対的分散勾配」との用語の記載もなく、仮に、そのRDSを計算しても(-2.542)/112.7=-0.0226であり、上記SMFの分散勾配S=+0.591に等しい数値を示すものは何も記載されていない。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明に本願請求項1に係る「第一のファイバの分散勾配に等しい相対的分散勾配…を有する高次モードファイバ」を備えるものが記載されているとはいえない。
さらに言えば、本願請求項1に係る発明は、「第一のファイバ」が「微小構造ファイバまたはマルチモードファイバの内の1つからなる」ものであるところ、本願明細書に「第1のファイバの分散勾配」として記載されているのは、上記のとおり、(シリカの材料分散によって特徴付けられる分散を有する整合クラッドファイバ型からなる)SMFの分散勾配のみであって、微小構造ファイバやマルチモードファイバの分散勾配は記載されていないから、本願請求項1に係る発明、すなわち、「第一のファイバは微小構造ファイバまたはマルチモードファイバの内の1つからなり」、「第一のファイバの分散勾配に等しい相対的分散勾配…を有する高次モードファイバ」を備えるものが本願明細書の発明の詳細な説明に記載されているとはいえない。

ウ 請求人は、平成28年12月15日提出の意見書において、『このように、「分散勾配」とは、「第二」次分散と対応し、二つのファイバの「二次分散は、符号が逆でおおよそ同じ大きさ」です。そして、このように、分散勾配の値がおおよそ同じ大きさであり、符号が逆な状態を、本願発明では、相対的分散勾配が等しい、と表現しております。』と主張する。
しかしながら、本願明細書の【0035】には、「(約β_(2)=+0.144ps^(2)/mに対応する)約D=-456.9ps^(2)/(nmkm)の高い正常分散を備える。」及び「約770nmにおけるSMFの分散は(約β_(2)=+0.0427ps^(2)/mに対応する)D=-135.71ps^(2)/(nm km)」と記載されており、「第二次分散β_(2)」と対応するのは「分散D」である旨の記載があるから、「分散勾配」と「第二次分散β_(2)」とが対応するという請求人の上記主張は採用できない。

エ 上記のとおりであって、本願請求項1に係る発明は明確とはいえず、また、本願請求項1に係る発明は本願明細書の発明の詳細な説明に記載されていると認めることもできないから、本願は、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしておらず、拒絶されるべきものである。

2 請求項2について
(1)本願請求項2に係る発明は、「前記第一のファイバがシングルモードファイバからなる、請求項1に記載の全ファイバデリバリーシステム。」というものであり、ここで、請求項1に記載の全ファイバデリバリーシステムは、「第一のファイバは微小構造ファイバまたはマルチモードファイバの内の1つからなる」ものであるところ、請求項1の「微小構造ファイバ」又は「マルチモードファイバ」と請求項2の「シングルモードファイバ」の関係が不明であり、本願請求項2に係る発明は明確であるとはいえない。

(2)請求項1における「第一のファイバは微小構造ファイバまたはマルチモードファイバの内の1つからなる」から、「前記第一のファイバがシングルモードファイバからなる」請求項2に係る発明は、「第一のファイバ」が「微小構造ファイバ」であり、かつ、「シングルモードファイバ」、又は、「第一のファイバ」が「マルチモードファイバ」であり、かつ、「シングルモードファイバ」ということを意味するものと考えられなくもないが、本願明細書には、「シングルモードファイバ」、「微小構造ファイバ」及び「マルチモードファイバ」について、【0020】に「ある実施例において、正常分散を有する第一のファイバは、シングルモードファイバ、微小構造ファイバ、あるいは同様の機能、すなわち正常分散を備える他のマルチモードファイバからなってよい。」と並列的に記載されているところであり、また、「シングルモードファイバ」については、【0028】に「 多くの実施例において、第一のファイバ120はシングルモードファイバ(SMF)からなる。ある実施例において、第一のファイバ120はコアの上にクラッド、および/あるいは被覆を備えるシリカコアファイバからなる。典型的な一実施例において、第一のファイバ120は、シリカクラッド、およびその上にアクリル被覆を備えるシリカコアファイバからなり、「クリアライト 780-11(ClearLite 780-11)」の商標で、ジョージア州、ノークロス(Norcross, GA)のOFSファイテル(OFS Fitel)から商業的に販売されている。」と、「コアの上にクラッド、および/あるいは被覆を備えるシリカコアファイバからなる」ものしか記載されておらず、「微小構造ファイバ」であり、かつ、「シングルモードファイバ」、又は、「マルチモードファイバ」であり、かつ、「シングルモードファイバ」というものについての記載はなされていないから、「前記第一のファイバがシングルモードファイバからなる、請求項1に記載の全ファイバデリバリーシステム。」なる請求項2に係る発明が本願明細書の発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。

(3)上記のとおり、本願請求項2に係る発明は、明確であるといえず、また、発明の詳細な説明に記載したものとはいえないから、本願は、当審拒絶理由において、平成28年2月12日に補正された特許請求の範囲の請求項5に係る発明に関して指摘したように、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。

第5 進歩性(特許法第29条第2項)について
1 本願発明
本願の請求項1の記載は、前記「第3 本願の特許請求の範囲の記載」の【請求項1】のとおりであり、再掲すると以下のとおりである。
「【請求項1】
パルスのプリチャープをしないフェムト秒レーザパルスのための全ファイバデリバリーシステムであって、
正常分散を有する第一のファイバ、および
異常分散を有する高次モードファイバであって、前記第一のファイバの分散勾配に等しい相対的分散勾配および14.9μm^(2)の有効断面積を有する高次モードファイバを備え、
前記全ファイバデリバリーシステムが、光バルクを必要とせず、かつ結果として生じる高次モードの光を自由空間の出力として作り出すために適しており、
前記高次モードは、LP_(02)、LP_(03)、あるいはLP_(04)の内の1つからなり、
前記第一のファイバは微小構造ファイバまたはマルチモードファイバの内の1つからなる、全ファイバデリバリーシステム。」

ここで、上記第3の「1 請求項1について」で述べたとおり、本願の請求項1に係る発明は明確でなく、また、請求人の平成28年12月15日提出の意見書における『このように、「分散勾配」とは、「第二」次分散と対応し、二つのファイバの「二次分散は、符号が逆でおおよそ同じ大きさ」です。そして、このように、分散勾配の値がおおよそ同じ大きさであり、符号が逆な状態を、本願発明では、相対的分散勾配が等しい、と表現しております。』との主張は採用できるものではないが、以下においては、仮に、上記請求人の主張のとおりに解して、すなわち、本願の請求項1における「分散勾配」とは、「第2次分散β_(2)」のことであり、請求項1における「前記第一のファイバの分散勾配に等しい相対的分散勾配」とは、「前記第一のファイバの第二次分散β_(2)と値がおおよそ同じ大きさであり、符号が逆な状態の第二次分散β_(2)」を意味すると解して、検討する。
以下、本願の請求項1に係る発明を「本願発明」という。

2 引用例
(1)本願の優先日前に頒布された刊行物であり、当審拒絶理由で引用した"Novel concept for large distance ultrashort pulse fiber delibery without pre-chirping", T.Le ET AL, Proc. SPIE 7912,Solid State Lasers XX:Technology and Devices, 791214(February 15 ,2011); doi 10.1117/12.873584 第1-8頁(以下「引用例」という。)には以下の記載がある(日本語訳は当審による)。

ア (標題)「Novel concept for large distance ultrashort pulse fiber delibery without pre-chirping」(プリチャープしない超短パルスの長距離ファイバデリバリーのための新しいコンセプト)

イ (第2頁下から14行?1行)「3. LASER PULSE FIBER DELIVERY
An mode-locked Ti:Sapphire laser with a repetition rate of 264 MHz, a spectral bandwidth of 6 nm FWHM and an average output power of 210 mW is used as a the pulsed light source. The laser light is centered at 770 nm which is essentially given by the properties of the available HOM fiber that shows optimal anomalous second and third order dispersion at 770 nm.
・・・
The solid-silica fiber module consists of a single-mode fiber (SMF) and the anomalous dispersion HOM fiber with a long-period-grating (LPG) mode converter in between. Figure 1 shows a diagram of the fiber module. The effective area of the HOM fiber is calculated from pre-form data to be 14.9 μm^(2) at 770 nm.」
(3.レーザパルスファイバデリバリー
繰り返しレートが264MHz、スペクトル帯域の半値幅が6nm、平均出力が210mWのモードロックされたTi:サファイアレーザがパルス光源として用いられる。レーザ光は、770nmにおいて最適な第二次及び第三次異常分散を示す入手可能なHOMファイバの特性によって本質的に決まる770nmに合わせられる。
・・・
固体シリカファイバモジュールは、長周期回折格子(LPG)モード変換器を間に備えるシングルモードファイバ(SMF)及び異常分散HOMファイバからなる。図1は、ファイバモジュールのダイアグラムを示す。HOMファイバの有効断面積はプリフォームデータから770nmにおいて14.9μm^(2)であると計算される。)

ウ (第3頁第2?14行)「In Figure 1 the dispersion curves of the LP_(01) and LP_(02) modes and the single-mode fiber ClearLite 780-11(OFS product) are shown. The dispersion of the LP_(01) and LP_(02) modes are calculated from the index profile of the relevant pre-form portion using a scalar mode solver. The HOM LP_(02) dispersion at 770 nm is found to be D=+112.7 ps/(nm ・km) with a dispersion slope of S=-2.542 ps(nm^( 2)・km). This corresponds to a second and third order dispersion (TOD) of β_(2) =-0.0355 ps^( 2) /m and β_( 3) =-0,0002229 ps^( 3) / m, respectively. The fundamental LP_(01) mode has a high normal dispersion D=-456.9 ps^( 2) /(nm・km) (β_(2)=+0.144 ps^( 2)/m) due to the combination of high material dispersion and high normal waveguide dispersion. For comparison, the dispersion of the SMF at 770 nm is measured to be D=-135.71 ps^( 2) /(nm・km) (β_( 2 )=+0.0427 ps^( 2) / m). The SMF dispersion slope and TOD are S=+0.591 ps/(nm^( 2) ・km) and β_( 3) =+0.0000236 ps^( 3 )/m, respectively. The SMF is a match-clad fiber type with a dispersion dominated by the material dispersion of silica. The second order dispersion of the LP_(02) and the SMF are approximately of the same magnitude with opposite sign. Furthermore, it is seen that the dispersion slopes are of opposite sign such that when combining fiber sections of LP_(02) and SMF the higher order dispersion is partly compensated . 」
(図1(審決注:「図2」の誤記と認められる。)に、LP_(01)及びLP_(02)モード並びにシングルモードファイバClearLite 780-11(OFS製品)の分散曲線が示されている。LP_(01)及びLP_(02)モードの分散はスカラーモード解法を用いて関連するプリフォーム部分の屈折率プロファイルから計算される。770nmにおけるHOMのLP_(02)分散は、分散勾配がS=-2.542ps(nm^(2)・km)でD=+112.7ps/(nm・km)であるとわかる。これは、それぞれβ_(2)=-0.0355ps^(2)/m及びβ_(3)=-0.0002229ps^(3)/mの第二次及び第三次分散(TOD)に対応する。基底LP_(01モ)ードは、高い材料分散及び高い正常波長分散の組合せに起因するD=-456.9ps^(2)/(nm・km)(β_(2)=+0.144ps^(2)/m)の高い正常分散を備える。比較のために、770nmにおけるSMFの分散はD=-135.71ps^(2)/(nm km)(β_(2)=+0.0427ps^(2)/m)として測定される。SMFの分散勾配及びTODは、それぞれS=+0.591ps/(nm^(2)・km)及びβ_(3)=+0.0000236ps^(3)/mである。SMFは、シリカの材料分散によって特徴付けられる分散を有する整合クラッドファイバ型からなる。LP_(02)及びSMFの第二次分散は、符号が逆でおおよそ同じ大きさである。さらに、分散勾配は符号が逆で、LP_(02)及びSMFのファイバ部分を結合するとき、高次の分散は部分的に補償される。)

エ (4頁1?3行)「In our setup light from the fs-laser is coupled into the single-mode end of the fiber module (Figure 1). After travelling through 9 m single-mode fiber it is coupled into the HOM fiber by the mode converter and exits the fiber module in a LP02 mode.」
(我々のセットアップにおいて、fs-レーザからの光はファイバモジュールのシングルモード端に結合される(図1)。9mのシングルモードファイバを通過した後、光はモード変換器によってHOMに結合され、そして、LP_(02)モードでファイバモジュールから出る。)


オ 図1は、以下のものである。



(図1の説明文の日本語訳)(図1.フェムト秒パルスデリバリのための固体シリカモジュール。)

カ 図2は、以下のものである。



(図2の説明文の日本語訳)(図2.ファイバプリフォームの屈折率プロファイルから計算されたLP_(02)HOM及びLP_(01)基底モードの分散曲線。シングルモードファイバClearLite 780-11の計算された分散も示されている。・・・)

(2)引用発明
上記(1)ア?カの記載から、引用例の図1に記載されたファイバモジュールについて、以下の点が理解できる。
ア ファイバモジュールは、プリチャープしないものであること。
イ ファイバモジュールは、長周期回折格子モード変換器を間に備えるシングルモードファイバ及び異常分散HOMファイバからなること。
ウ ファイバモジュールは、フェムト秒パルスデリバリのための固体シリカモジュールであること。
エ シングルモード端にfs-レーザ(フェムト秒レーザ)のパルス光が結合されること。
オ シングルモードファイバとして「ClearLite 780-11(OFS製品)」が用いられること。
カ 異常分散HOMファイバは、LP_(02)モードで動作可能なファイバであること。
キ LP_(02)及びシングルモードファイバの第二次分散は、符号が逆でおおよそ同じ大きさであること。
ク 異常分散HOMファイバは、14.9μm^(2)の有効断面積を有すること。
ケ 光は、LP_(02)モードでファイバモジュールから出ること。

以上から、引用例には、図1のファイバモジュールとして、以下の発明(以下「引用発明」という)が記載されていると認められる。

「ファイバモジュールであって、
プリチャープしないフェムト秒パルスデリバリのための固体シリカモジュールであり、
長周期回折格子モード変換器を間に備えるシングルモードファイバ及び異常分散HOMファイバからなり、
前記シングルモードファイバは、ClearLite 780-11(OFS製品)であり、
前記異常分散HOMファイバはLP_(02)モードで動作可能なファイバであり、
LP_(02)及びシングルモードファイバの第二次分散は、符号が逆でおおよそ同じ大きさであり、
異常分散HOMファイバは、14.9μm^(2)の有効断面積を有し、
シングルモード端にフェムト秒レーザのパルス光が結合され、
光は、LP_(02)モードでファイバモジュールから出る、
ファイバモジュール。」

2 対比
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)と引用発明と対比する。

引用発明は、「プリチャープしないフェムト秒パルスデリバリのための固体シリカモジュール」であり、「シングルモード端にフェムト秒レーザのパルス光が結合され」る「ファイバモジュール」であるから、本願発明と「パルスのプリチャープをしないフェムト秒レーザパルスのための全ファイバデリバリーシステム」である点で共通する。
引用発明における「シングルモードファイバ」である「ClearLite 780-11(OFS製品)」は、分散の値が「負」(図1参照)であるから、正常分散を有するファイバである。したがって、前記「ClearLite 780-11(OFS製品)」は、本願発明における「正常分散を有する第一のファイバ」に相当する。
引用発明において、「異常分散HOMファイバ」は、「LP_(02)モードで動作可能なファイバであり」、かつ、「14.9μm^(2)の有効断面積を有し」ている。また、引用発明において、「LP_(02)及びシングルモードファイバの第二次分散は、符号が逆でおおよそ同じ大きさ」である。また、引用発明における「LP_(02)」は、高次モードの一種であることは明らかである。したがって、上記1で述べた仮の解釈を踏まえると、引用発明における「異常分散HOMファイバ」は、本願発明における「異常分散を有する高次モードファイバであって、前記第一のファイバの分散勾配に等しい相対的分散勾配および14.9μm^(2)の有効断面積を有する高次モードファイバ」に相当する。
本願発明における「全ファイバデリバリーシステム」は、「第一のファイバ」と「高次ファイバ」との間に長周期回折格子モード変換器を備えてもよい(本願の明細書【0025】、【0030】及び特許請求の範囲【請求項3】、【請求項4】参照)。したがって、引用発明の「長周期回折格子モード変換器を間に備えるシングルモードファイバ及び異常分散HOMファイバから」なる「ファイバモジュール」は、本願発明と「全ファイバデリバリーシステム」という概念で共通し、また、引用発明のファイバモジュールは、本願発明の「全ファイバデリバリーシステム」と同じく、「光バルクを必要とせず、かつ結果として生じる高次モードの光を自由空間の出力として作り出すために適して」いるといえる。

以上のことから、本願発明と引用発明は、以下の点で一致する。

[一致点]
「パルスのプリチャープをしないフェムト秒レーザパルスのための全ファイバデリバリーシステムであって、
正常分散を有する第一のファイバ、および
異常分散を有する高次モードファイバであって、前記第一のファイバの分散勾配に等しい相対的分散勾配および14.9μm^(2)の有効断面積を有する高次モードファイバを備え、
前記全ファイバデリバリーシステムが、光バルクを必要とせず、かつ結果として生じる高次モードの光を自由空間の出力として作り出すために適しており、
前記高次モードは、LP_(02)、LP_(03)、あるいはLP_(04)の内の1つからなる、全ファイバデリバリーシステム。」

一方、両者は、以下の点で相違する。
[相違点]
第一のファイバについて、本願発明においては、「前記第一のファイバは、微小構造ファイバまたはマルチモードファイバの内の1つからなる」と特定されているのに対し、引用発明では、「ClearLite 780-11(OFS製品)」というシングルモードファイバファイバである点。

3 判断
上記相違点について検討する。
引用発明における「シングルモードファイバ」は、「ClearLite 780-11(OFS製品)」に代えて、他のシングルモードファイバから選択し得ることは、当業者にとって明らかである。
一方、シングルモードファイバファイバとして、微小構造ファイバ(「ホーリーファイバ」とも呼ばれる。本願明細書【0045参照。】)は、後述の周知例1ないし3に記載されており、周知である。そして、引用発明における「シングルモードファイバ」として周知の「微小構造ファイバ」を採用することに格別の困難性は認められない。
したがって、上記相違点に係る本願発明の構成とすることは、周知の事項に基づいて、当業者が容易に想到し得ることである。
また、本願発明によって、当業者が予期し得ない格別顕著な効果が奏されるとも認められない。
よって、本願発明は、引用発明及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

[周知例1]原査定の理由で引用された特開2009-42523号公報
【0002】「ホーリーファイバ(Holy Fiber)、あるいはフォトニッククリスタルファイバは、中心に位置するコア部と、コア部の外周に位置し、コア部の周囲に配置した複数の空孔を有するクラッド部とを備え、空孔によってクラッド部の平均屈折率を下げ、光の全反射の原理を利用してコア部に光を伝搬させる新しいタイプの光ファイバである。このホーリーファイバは、空孔を用いて屈折率を制御することによって、従来の光ファイバでは実現不可能なEndlessly Single Mode(ESM)や、きわめて短波長側にシフトした零分散波長等の特異な特性を実現可能である。」

[周知例2]原査定の理由で引用された国際公開第2008/093870号
[0002]「ホーリーファイバ(Holy Fiber)は、中心に位置するコア部と、コア部の外周に位置し、コア部の周囲に周期的に配置した複数の空孔を有するクラッド部とを備え、空孔によってクラッド部の平均屈折率を下げ、光の全反射の原理を利用してコア部に光を伝送させる新しいタイプの光ファイバである。このホーリーファイバは、空孔を用いて屈折率を制御することによって、従来の光ファイバでは実現不可能なEndlessly Single Mode(ESM)等の特異な特性を実現可能である。」

[周知例3]オプトロニクス社編集部「キーワード解説 光用語総合事典」(株)オプトロニクス社、平成16年12月12日第1版第1刷発行の第346-347頁、「フォトニック結晶光ファイバー」の項
「ホーリーファイバー(holey fiber)や微細構造ファイバー(microstructured fiber)と呼ばれることもある。全反射型のフォトニック結晶光ファイバーでは、全波長帯域でのシングルモード動作…が実現できる。」

第6 むすび
以上のとおり、本願は、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていないので、拒絶されるべきものである。
また、本願は、本願発明が特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるので、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-03-31 
結審通知日 2017-04-04 
審決日 2017-04-28 
出願番号 特願2013-556846(P2013-556846)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01S)
P 1 8・ 537- WZ (H01S)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 古田 敦浩佐藤 秀樹  
特許庁審判長 小松 徹三
特許庁審判官 近藤 幸浩
河原 英雄
発明の名称 高次モードファイバを用いる超短パルスのファイバデリバリーのための方法、およびシステム  
代理人 岡部 讓  

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