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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01B 審判 査定不服 5項独立特許用件 取り消して特許、登録 H01B |
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管理番号 | 1332144 |
審判番号 | 不服2017-4058 |
総通号数 | 214 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-10-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-03-21 |
確定日 | 2017-09-27 |
事件の表示 | 特願2013-547181「透明導電性フィルムの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 6月 6日国際公開、WO2013/080995、請求項の数(13)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2012年11月28日(優先権主張 2011年11月28日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成28年9月16日付けで拒絶理由が通知され、同年11月25日付けで意見書が提出されたが、同年12月13日付けで拒絶査定(原査定)がなされ、これに対し、平成29年3月21日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がされたものである。 第2 原査定の理由の概要 原査定(平成28年12月13日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。 1.本願請求項1-14に係る発明は、以下の引用文献1-4に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 <引 用 文 献 等 一 覧> 1.特開2011-037679号公報 2.特開2004-349112号公報 3.特開2004-197178号公報 4.特開2009-238416号公報 第3 本願発明 本願請求項1-13に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明13」という。)は、平成29年3月21日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-13に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。 「【請求項1】 フィルム基材と、前記フィルム基材上に形成された結晶化したインジウムスズ酸化物層とを備える透明導電性フィルムの製造方法であって、 インジウムスズ酸化物をターゲット材として用いるスパッタ装置内に、前記フィルム基材を入れ、前記ターゲット材上の水平方向磁場が50mT以上であるマグネトロンスパッタリング法により、前記フィルム基材上に非晶質部分を含むインジウムスズ酸化物を堆積させる工程と、 前記非晶質部分を含むインジウムスズ酸化物を堆積する工程の後に、前記非晶質部分を含むインジウムスズ酸化物を加熱処理することによって、前記非晶質部分を含む前記インジウムスズ酸化物を結晶化させて、平均の結晶粒径が、175nmから250nmである前記結晶化したインジウムスズ酸化物層を形成する工程と、 を有する透明導電性フィルムの製造方法。 【請求項2】 前記非晶質部分を含むインジウムスズ酸化物を堆積させる工程は、大気圧よりも低い気圧下で実施され、 前記結晶化したインジウムスズ酸化物層を形成する工程は、大気圧下で実施されることを特徴とする請求項1に記載の透明導電性フィルムの製造方法。 【請求項3】 前記水平方向磁場が、80mTから200mTであることを特徴とする請求項1又は2に記載の透明導電性フィルムの製造方法。 【請求項4】 前記水平方向磁場が、100mTから200mTであることを特徴とする請求項1又は2に記載の透明導電性フィルムの製造方法。 【請求項5】 前記非晶質部分を含むインジウムスズ酸化物を堆積させる工程は、40℃から200℃の温度で実施されることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の透明導電性フィルムの製造方法。 【請求項6】 前記非晶質部分を含むインジウムスズ酸化物を堆積させる工程は、40℃から150℃の温度で実施されることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の透明導電性フィルムの製造方法。 【請求項7】 前記結晶化したインジウムスズ酸化物層を形成する工程は、120℃から200℃の温度で実施されることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の透明導電性フィルムの製造方法。 【請求項8】 前記フィルム基材は、ポリエチレンテレフタレート、ポリシクロオレフィン又はポリカーボネートのいずれかによって構成されることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の透明導電性フィルムの製造方法。 【請求項9】 前記フィルム基材は、前記インジウムスズ酸化物の堆積側の表面に易接着層を備えることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の透明導電性フィルムの製造方法。 【請求項10】 前記フィルム基材は、前記インジウムスズ酸化物の堆積側の表面に屈折率調整層を備えることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の透明導電性フィルムの製造方法。 【請求項11】 前記フィルム基材は、前記インジウムスズ酸化物の堆積側の表面にハードコート層を備えることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の透明導電性フィルムの製造方法。 【請求項12】 前記結晶化したインジウムスズ酸化物層は、厚みが20nmから50nmであることを特徴とする請求項1から11のいずれか一項に記載の透明導電性フィルムの製造方法。 【請求項13】 前記フィルム基材は、厚みが15μmから50μmであることを特徴とする請求項1から12のいずれか一項に記載の透明導電性フィルムの製造方法。」 第4 引用文献、引用発明等 1.引用文献1について 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は、当審において付加した。以下、同じ。) ア.「【0039】 (複合酸化物結晶質膜) 本実施形態に係る複合酸化物結晶質膜は、上記スパッタリングターゲットを用いたスパッタリングにより成膜されることを特徴とし、このような複合酸化物結晶質膜は、抵抗率が低く、可視光領域だけでなく赤外領域においても光透過性に優れる。 【0040】 複合酸化物結晶質膜は、スパッタリングターゲットを用いたスパッタリング法により成膜されことが好ましい。スパッタリング法としては、DCスパッタリング法、RFスパッタリング法、DCマグネトロンスパッタリング法、RFマグネトロンスパッタリング法、イオンビームスパッタリング法等を適宜選択することができ、これらのうち、大面積に均一に、且つ高速成膜することが可能であるため、DCマグネトロンスパッタリング法、RFマグネトロンスパッタリング法が好ましい。 【0041】 複合酸化物結晶質膜は、上記スパッタリングターゲットを用いたスパッタリングにより成膜された複合酸化物非晶質膜を、加熱して製造することができる。このようにして製造された複合酸化物結晶質膜は、抵抗率が低く、可視光領域及び赤外領域における光透過性に一層優れる。加熱温度は200℃以上の加熱であることが好ましい。これにより複合酸化物非晶質膜の結晶化が十分に進行し、より良好な抵抗率並びに可視光領域及び赤外領域における光透過性が得られる。 【0042】 複合酸化物非晶質膜は、可視光領域及び赤外領域における光透過性に優れ、エッチング等により容易に加工できる。そのため、スパッタリングターゲットを用いたスパッタリングにより成膜され、さらにエッチング等によりパターニングされた複合酸化物非晶質膜を、加熱することにより、所定の形状を有する複合酸化物結晶質膜を製造することができる。 【0043】 複合酸化物非晶質膜の成膜は、膜の結晶化が起こらない成膜温度、例えば、室温(約25℃)?150℃以下で行う。成膜温度としては、上記上限値以下の温度から、基板等の特性にあわせて適宜選択することができるが、低温である方が装置上、材料上の制約が少なくなるため、100℃以下が好ましい。 【0044】 複合酸化物非晶質膜は、200℃以上に加熱することにより結晶化し、複合酸化物結晶質膜となる。この加熱は、大気中で行ってもよく、窒素やアルゴン等の非酸化性ガス雰囲気又は不活性ガス雰囲気下で行ってもよく、真空中で行ってもよい。加熱時間は、加熱温度や雰囲気とのかねあいによるが、通常数時間以内で結晶化が完了する。 【0045】 また、複合酸化物結晶質膜は、スパッタリングターゲットを用いたスパッタリングにより、加熱された基板上に成膜することでも製造することができる。このようにして製造された複合酸化物結晶質膜は、膜全体が結晶質であり、抵抗率が均一に低くなり、可視光領域及び赤外領域における光透過性に一層優れる。基板の加熱温度は、200℃以上であることが好ましく、これにより上記の効果が一層有効に得られる。 【0046】 ここで、複合酸化物結晶質膜とは、膜を構成する複合酸化物が実質的に結晶構造を有している膜を示す。また、複合酸化物非晶質膜とは、膜を構成する複合酸化物が実質的に結晶構造を有していない膜を示す。なお、本実施形態において、実質的に結晶構造を有するとは、X線回折測定において結晶構造由来の回折パターンが観測されることを表し、実質的に結晶構造を有していないとは、X線回折測定において結晶構造由来の回折パターンが観測されないことを表す。」(7頁46行-8頁43行) イ.「【実施例】 【0050】 本発明を、実施例と比較例により具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。 【0051】 (実施例1?8、比較例1?6) インジウム、錫及びストロンチウムの原子数の比が表1に記載の値となるように、純度99.99%、平均粒径0.5μmの酸化インジウム粉末、純度99.99%、平均粒径0.5μmの酸化錫粉末及び純度99.9%、平均粒径1μmの炭酸ストロンチウム粉末を、乾式ボールミルで混合した。次いで、大気中、1000℃で2時間仮焼した後、乾式ボールミルで解砕した。得られた粉末を3.0ton/cm^(2)でCIP成形し、純酸素雰囲気焼結炉内に設置して、以下の条件で焼結して複合酸化物焼結体を得た。 【0052】 [焼結条件] ・昇温速度 :50℃/時間 ・焼結温度 :1600℃ ・保持時間 :5時間 ・焼結雰囲気:昇温時の室温から降温時の100℃まで純酸素ガスを炉内に導入 ・酸素流量 :仕込重量(kg)/酸素流量(L/min)=0.8 ・降温速度 :100℃/時間 【0053】 得られた複合酸化物焼結体の特性を、以下のように評価した。評価結果を表1に示す。 【0054】 [複合酸化物焼結体の焼結密度の測定方法] 複合酸化物焼結体の焼結密度は、JIS-R1634-1998に準拠してアルキメデス法で測定した。この焼結密度から、上述の方法により相対密度を求めた。 【0055】 [複合酸化物焼結体の平均粒径の測定方法] 複合酸化物焼結体を適当な大きさに切断した後、観察面を鏡面研磨し、次に塩酸溶液でケミカルエッチングを行った。この観察面を、走査型電子顕微鏡等を用いて観察し、観察写真から平均粒径を求めた。 【0056】 次に、複合酸化物焼結体を4インチφサイズに加工し、ダイヤモンド砥石を用いた平面研削盤による機械加工によりスパッタ面を作製して、スパッタリングターゲットを得た。得られたスパッタリングターゲットについて、以下のように中心線平均粗さと放電特性を評価した。評価結果を表1に示す。 【0057】 [スパッタリングターゲットの中心線平均粗さの測定方法] スパッタリングターゲットのスパッタ面を測定面とし、当該測定面を表面性状測定装置(ミツトヨ社製、SV-3100)で評価し、中心線平均粗さを求めた。 【0058】 [スパッタリングターゲットの放電特性の評価] 下記スパッタリング条件下で、1時間当りに発生した異常放電の回数を観測した。 <スパッタリング条件> ・装置 :DCマグネトロンスパッタ装置(アルバック社製) ・磁界強度 :1000Gauss(ターゲット直上、水平成分) ・基板温度 :室温(約25℃) ・到達真空度 :5×10^(-5)Pa ・スパッタリングガス :アルゴン+酸素(酸素の占める体積割合が0.5%) ・スパッタリングガス圧:0.5Pa ・DCパワー :300W ・スパッタリング時間 :30時間 【0059】 次に、得られたスパッタリングターゲットをターゲットとし、DCマグネトロンスパッタリング法により、下記の条件で成膜して複合酸化物膜を得た。さらに、得られた複合酸化物膜を、大気中、250℃で1時間加熱した。 【0060】 [スパッタリング成膜条件] ・装置 :DCマグネトロンスパッタ装置(アルバック社製) ・磁界強度 :1000Gauss(ターゲット直上、水平成分) ・基板温度 :室温(約25℃) ・到達真空度 :5×10^(-5)Pa ・スパッタリングガス :アルゴン+酸素(酸素の占める体積割合(%)を、酸素量として表2に記載した。) ・スパッタリングガス圧:0.5Pa ・DCパワー :300W ・膜厚 :150nm ・使用基板 :無アルカリガラス(コーニング社製#1737ガラス) 厚さ0.7mm 【0061】 加熱前後の複合酸化物膜の特性を、それぞれ以下のように測定した。測定結果を表2に示す。」(9頁12行-10頁33行) ウ.「【0067】 【表1】 」(11頁) エ.「【0068】 【表2】 」(11頁) ・上記イ.の段落【0051】には、インジウム、錫及びストロンチウムの原子数の比が、上記ウ.の表1の値となるように混合し、その後、焼結することで複合酸化物焼結体を得ることが、さらに、上記ウ.の表1には、比較例2、3として、ストロンチウムを含まず、インジウムと錫のみからなる複合酸化物焼結体が、記載されている。 さらに、段落【0056】には、該複合酸化物焼結体から、スパッタリングターゲットを得ることが、そして、段落【0059】には、該スパッタリングターゲットを用いて、DCマグネトロンスパッタリング法により複合酸化物膜を成膜し、成膜した複合酸化物膜を、大気中、250℃で1時間加熱する複合酸化物膜の製造方法が記載されている。 また、段落【0061】には、前記複合酸化物膜の加熱の前後での特性が、上記エ.の【表2】のようになること、そして、上記エ.の【表2】には、比較例2、3の特性として、加熱の前では複合酸化物膜は非晶質であり、加熱後では複合酸化物膜は結晶質になること、が記載されており、また、上記ア.の段落【0041】、及び、上記エ.の【表2】の抵抗率、透過率を参照すると、比較例2、3の加熱後の複合酸化物膜においては、導電性、透明性を有していものと認められる。 したがって、引用文献1には、インジウムと錫のみからなる複合酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして、DCマグネトロンスパッタリング法により非晶質の複合酸化物膜を成膜し、成膜した非晶質の複合酸化物膜を、大気中、250℃で1時間加熱することで結晶質の複合酸化物膜を得る、結晶質の透明導電性の複合酸化物膜の製造方法、が記載されているといえる。 ・上記イ.の段落【0060】には、上記DCマグネトロンスパッタリング法により複合酸化物膜の成膜条件として、磁界強度が1000Gauss(ターゲット直上、水平成分)であり、使用基板が厚さ0.7mm無アルカリガラス(コーニング社製#1737ガラス)であることが記載されている。 したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 〈引用発明〉 「インジウムと錫のみからなる複合酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして、DCマグネトロンスパッタリング法により、磁界強度が1000Gauss(ターゲット直上、水平成分)で、使用基板が厚さ0.7mm無アルカリガラス(コーニング社製#1737ガラス)上に非晶質の複合酸化物膜を成膜し、 前記成膜した非晶質の複合酸化物膜を、大気中、250℃で1時間加熱することで結晶質の複合酸化物膜を得る、 結晶質の透明導電性の複合酸化物膜の製造方法。」 2.引用文献2について 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。 「【0023】 (透明プラスチックフィルム基材) 本発明で透明導電性フィルムの基材として用いる透明プラスチックフィルムとは、有機高分子を溶融押出し又は溶液押出しをして、必要に応じ、長手方向及び/又は幅方向に延伸、冷却、熱固定を施したフィルムである。なお、本願でいう透明プラスチックフィルムとは、前記基材の少なくとも片面に硬化物層や低反射処理層などの導電層以外の機能層を積層したものも含まれる。 【0024】 有機高分子としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ナイロン6、ナイロン4、ナイロン66、ナイロン12、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルサルファン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリアリレート、セルロースプロピオネート、ポリ塩化ビニール、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキサイド、ポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレン、ノルボルネン系ポリマーなどが挙げられる。」(5頁4-19行) 3.引用文献3について 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている。 「【0031】 【発明の実施の形態】 (基材) 本発明において、透明導電性フィルムの基材として用いる透明プラスチックフィルムは、有機高分子を溶融押出し又は溶液押出しをして、必要に応じ、長手方向及び/又は幅方向に延伸、冷却、熱固定を施したフィルムである。有機高分子としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ナイロン6、ナイロン4、ナイロン66、ナイロン12、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリアリレート、セルロースプロピオネート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキサイド、ポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレン、ノルボルネン系ポリマーなどが挙げられる。 【0032】 これらの有機高分子のなかで、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、シンジオタクチックポリスチレン、ノルボルネン系ポリマー、ポリカーボネート、ポリアリレートなどが好適である。また、これらの有機高分子は他の有機重合体の単量体を少量共重合したり、他の有機高分子をブレンドしてもよい。」(5頁19-37行) 4.引用文献4について 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4には、図面とともに次の事項が記載されている。 「【0049】 なお、本発明の透明導電膜付き基板にあっては、基板としてはガラス材料、プラスチック材料を用いることができる。また、カラーフィルターにおいて、ブラックマトリックス形成材料、着色層形成材料、フォトスペーサー形成材料、配向制御用突起材料としては公知のものを使用できる。」(9頁25-29行」 第5 対比・判断 1.本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。 ア.引用発明の「無アルカリガラス」の「使用基板」と、本願発明1の「フィルム基材」とは、「基材」の点では共通する。 また、引用発明の「結晶質の透明導電性の複合酸化物膜の製造方法」の「複合酸化物膜」は、「無アルカリガラス」の「使用基板」上に、「インジウムと錫のみからなる複合酸化物焼結体をスパッタリングターゲット」として「非晶質」状態で成膜し、その後、加熱し結晶質としたものであり、結晶化したインジウムスズ酸化物層と認められることから、引用発明の「製造方法」と、本願発明1の「フィルム基材と、前記フィルム基材上に形成された結晶化したインジウムスズ酸化物層とを備える透明導電性フィルムの製造方法」とは、「基材と、前記基材上に形成された結晶化したインジウムスズ酸化物層とを備える透明導電性基材の製造方法」の点では共通する。 イ.引用発明の「DCマグネトロンスパッタリング法」は、本願発明の「マグネトロンスパッタリング法」に相当する。 また、引用発明の「基板」上に「非晶質の複合酸化物膜を成膜」することは、「インジウムと錫のみからなる複合酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして、磁界強度が1000Gauss(ターゲット直上、水平成分)」で「DCマグネトロンスパッタリング法」で行うものであり、ここで、「1000Gauss」は100mTであることから、引用発明の「非晶質の複合酸化物膜を成膜」することと、本願発明1の「インジウムスズ酸化物をターゲット材として用いるスパッタ装置内に、前記フィルム基材を入れ、前記ターゲット材上の水平方向磁場が50mT以上であるマグネトロンスパッタリング法により、前記フィルム基材上に非晶質部分を含むインジウムスズ酸化物を堆積させる工程」とは、「インジウムスズ酸化物をターゲット材として用いるスパッタ装置内に、前記基材を入れ、前記ターゲット材上の水平方向磁場が50mT以上であるマグネトロンスパッタリング法により、前記基材上に非晶質部分を含むインジウムスズ酸化物を堆積させる工程」の点では共通する。 ウ.引用発明において「結晶質の複合酸化物膜を得る」ための手段は、「前記成膜した非晶質の複合酸化物膜を、大気中、250℃で1時間加熱すること」であるから、引用発明の「結晶質の複合酸化物膜を得る」ことと、本願発明1の「前記非晶質部分を含むインジウムスズ酸化物を堆積する工程の後に、前記非晶質部分を含むインジウムスズ酸化物を加熱処理することによって、前記非晶質部分を含む前記インジウムスズ酸化物を結晶化させて、平均の結晶粒径が、175nmから250nmである前記結晶化したインジウムスズ酸化物層を形成する工程」とは、「前記非晶質部分を含むインジウムスズ酸化物を堆積する工程の後に、前記非晶質部分を含むインジウムスズ酸化物を加熱処理することによって、前記非晶質部分を含む前記インジウムスズ酸化物を結晶化させて、前記結晶化したインジウムスズ酸化物層を形成する工程」の点では共通する。 よって、本願発明1と引用発明は、以下の点で一致、ないし相違している。 (一致点) 「基材と、前記基材上に形成された結晶化したインジウムスズ酸化物層とを備える透明導電性基材の製造方法であって、 インジウムスズ酸化物をターゲット材として用いるスパッタ装置内に、前記基材を入れ、前記ターゲット材上の水平方向磁場が50mT以上であるマグネトロンスパッタリング法により、前記基材上に非晶質部分を含むインジウムスズ酸化物を堆積させる工程と、 前記非晶質部分を含むインジウムスズ酸化物を堆積する工程の後に、前記非晶質部分を含むインジウムスズ酸化物を加熱処理することによって、前記非晶質部分を含む前記インジウムスズ酸化物を結晶化させて、前記結晶化したインジウムスズ酸化物層を形成する工程と、 を有する透明導電性基材の製造方法。」 (相違点1) 一致点である「基材」が、本願発明1では、「フィルム基材」であり、「透明導電性フィルムの製造方法」であるのに対して、引用発明では、ガラス基材であり、該ガラス基材上の透明導電性の複合酸化物膜の製造方法である点。 (相違点2) 本願発明1では、「結晶化したインジウムスズ酸化物層」の「平均の結晶粒径が、175nmから250nmである」のに対して、引用発明では、結晶質の複合酸化物膜の結晶粒径に関してそのような特定がされていない点。 (2)相違点についての判断 事案に鑑みて、上記相違点2について先に検討すると、上記引用文献2-4には、透明導電性膜の基材として高分子のフィルム基材を用いることは記載されているが、結晶化されたインジウムスズ酸化物の平均の結晶粒径を、175nmから250nmとすることは記載されておらず、本願優先日前において周知技術であるともいえない。 したがって、相違点1について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用発明、引用文献2-4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。 2.本願発明2-13について 本願発明2-13は、請求項1をさらに限定するものであって、本願発明1の「平均の結晶粒径が、175nmから250nmである」と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明、引用文献2-4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 第6 原査定について 審判請求時の補正により、本願発明1-13は「平均の結晶粒径が、175nmから250nmである」という事項を有するものとなっており、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1-4に基づいて、容易に発明できたものとはいえない。したがって、原査定の理由を維持することはできない。 第7 むすび 以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2017-09-12 |
出願番号 | 特願2013-547181(P2013-547181) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(H01B)
P 1 8・ 575- WY (H01B) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 和田 財太 |
特許庁審判長 |
新川 圭二 |
特許庁審判官 |
山澤 宏 土谷 慎吾 |
発明の名称 | 透明導電性フィルムの製造方法 |
代理人 | 西島 孝喜 |
代理人 | 田中 伸一郎 |
代理人 | 大塚 文昭 |
代理人 | 岸 慶憲 |
代理人 | 弟子丸 健 |
代理人 | 須田 洋之 |
代理人 | 近藤 直樹 |
代理人 | 上杉 浩 |