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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
管理番号 1332212
異議申立番号 異議2016-701045  
総通号数 214 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-10-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-11-11 
確定日 2017-07-21 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5913933号発明「分散性を向上させた増粘組成物およびそれに用いる金属塩含有澱粉分解物」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第5913933号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 特許第5913933号の請求項3ないし5に係る特許を維持する。 特許第5913933号の請求項1及び2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5913933号(以下「本件特許」という。)の請求項1?5に係る特許についての出願は,平成28年4月8日付けでその特許権の設定登録がされ,平成28年11月11日に特許異議申立人である大隅庸平より全請求項に係る特許に対して特許異議の申立てがされた。
そして,その後の手続の経緯は次のとおりである。
平成29年 2月2日 取消理由通知
同年 4月5日 意見書提出(特許権者)
〃 訂正請求書提出(特許権者)
同年 6月9日 意見書提出(特許異議申立人)


第2 訂正の適否
1 訂正の内容
特許権者が平成29年4月5日に提出した訂正請求書(以下「本件訂正請求書」という。)における請求の趣旨は,本件特許の特許請求の範囲を,本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1?5について訂正することを求めるものであり,その内容は,本件訂正請求書によれば,次のとおりである。(下線は訂正箇所を示す。)

(1)訂正事項1
訂正前の請求項1及び2を削除する。

(2)訂正事項2
訂正前の請求項3に,
「【請求項3】
増粘組成物に含まれる金属塩含有澱粉分解物と増粘多糖類との質量比が,金属塩含有澱粉分解物:増粘多糖類=55:45?99:1であることを特徴とする,請求項1または2に記載の増粘組成物。」
とあるうち,請求項2を引用するものについて請求項間の引用関係を解消し,請求項1を引用しないものとし,
「【請求項3】
金属塩を含有する澱粉分解物と増粘多糖類とを含む分散性の改善された増粘組成物であって,前記金属塩を含有する澱粉分解物が金属塩と澱粉分解物とを含有する溶液を粉末化したものであり,前記金属塩がカルシウム塩,ナトリウム塩,カリウム塩,マグネシウム塩から選択される1種以上であり,金属塩の含有量が,澱粉分解物100質量部に対し,0.5?40質量部であり,増粘組成物に含まれる金属塩含有澱粉分解物と増粘多糖類との質量比が,金属塩含有澱粉分解物:増粘多糖類=55:45?99:1であることを特徴とする,増粘組成物。」
と訂正する。

(3)訂正事項3
訂正前の請求項4に,
「【請求項4】
請求項1?3のいずれか一つに記載の増粘組成物を含む,とろみ調整剤。」
とあるのを,訂正前の請求項1及び2を削除することに伴い,引用する請求項をあらため,
「【請求項4】
請求項3に記載の増粘組成物を含む,とろみ調整剤。」
と訂正する。

(4)訂正事項4
訂正前の請求項5に,
「【請求項5】
澱粉分解物の製造工程中に,金属塩を添加することを特徴とする,請求項1?3のいずれか一つに記載の増粘組成物の製造方法。」
とあるのを,訂正前の請求項1及び2を削除することに伴い,引用する請求項をあらため,
「【請求項5】
澱粉分解物の製造工程中に,金属塩を添加することを特徴とする,請求項3に記載の増粘組成物の製造方法。」
と訂正する。


2 訂正の目的の適否,新規事項の有無,特許請求の範囲の拡張・変更の存否,及び一群の請求項

(1)訂正事項1について
訂正事項1は,訂正前の請求項1,2を削除するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして,これは,新規事項の追加に該当せず,また,実質上特許請求の範囲を変更し,又は拡張するものでもない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は,訂正前の請求項1又は請求項2を引用する訂正前の請求項3のうち,訂正前の請求項2を引用する訂正前の請求項3について,訂正前の請求項2の記載を引用しないものとするものであるから,特許請求の範囲の減縮及び他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。そして,これは,新規事項の追加に該当せず,また,実質上特許請求の範囲を変更し,又は拡張するものでもない。

(3)訂正事項3,4について
訂正事項3,4は,訂正事項1により訂正前の請求項1及び2が削除されたことに伴い,それと整合させるように訂正前の請求項4,5において訂正前の請求項1及び2を引用することを削除するものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。そして,これは,新規事項の追加に該当せず,また,実質上特許請求の範囲を変更し,又は拡張するものでもない。

(4)訂正事項1?4は,訂正前の請求項1?5からなる一群の請求項に対してなされたものである。


3 むすび
以上のとおりであるから,本件訂正請求書の上記訂正事項1は,特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を,同訂正事項2は,同項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を,また,同訂正事項3及び4は,同項ただし書第3号に掲げる事項を,それぞれ目的とするものであり,かつ,同条第4項,及び同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので,訂正後の請求項〔1-5〕について訂正を認める。


第3 本件発明
上記のとおり本件訂正が認められるから,本件特許の請求項1?5係る発明(以下「本件発明3」等という。また,本件発明3?5をまとめて「本件発明」という。)は,訂正特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される,次のとおりのものである。

「【請求項1】
(削除)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
金属塩を含有する澱粉分解物と増粘多糖類とを含む分散性の改善された増粘組成物であって,前記金属塩を含有する澱粉分解物が金属塩と澱粉分解物とを含有する溶液を粉末化したものであり,前記金属塩がカルシウム塩,ナトリウム塩,カリウム塩,マグネシウム塩から選択される1種以上であり,金属塩の含有量が,澱粉分解物100質量部に対し,0.5?40質量部であり,増粘組成物に含まれる金属塩含有澱粉分解物と増粘多糖類との質量比が,金属塩含有澱粉分解物:増粘多糖類=55:45?99:1であることを特徴とする,増粘組成物。
【請求項4】
請求項3に記載の増粘組成物を含む,とろみ調整剤。
【請求項5】
澱粉分解物の製造工程中に,金属塩を添加することを特徴とする,請求項3に記載の増粘組成物の製造方法。」


第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
請求項1?5に係る特許に対し,平成29年2月2日付けで通知した取消理由の概要は次のとおりである。

(1)取消理由1(新規性)
請求項1,2,4及び5に係る発明は,その出願前に日本国内において,頒布された以下の甲1号証に記載された発明であり,特許法第29条第1項第3号に該当するから,それらの請求項に係る特許は,同法第113条第2号に該当し,取り消されるべきものである。

(2)取消理由2(進歩性)
請求項1,2,4及び5に係る発明は,その出願前に日本国内において,頒布された以下の甲1号証に記載された発明に基いて,また,請求項1?5に係る発明は,その出願前に日本国内において,頒布された以下の甲2号証及び甲3号証に記載された発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定に違反するから,それらの請求項に係る特許は,同法第113条第2号に該当し,取り消されるべきものである。

(3)取消理由3(サポート要件)
本件特許請求の範囲の記載には下記の点で記載不備があり,請求項1?5に係る特許は,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから,同法第113条第4号に該当し,取り消されるべきものである。

ア 請求項1には,増粘組成物中の,金属塩含有澱粉分解物と増粘多糖類との質量比が特定されておらず,請求項1,2に係る発明,及び請求項3を引用しない請求項4,5に係る発明は,発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。

イ 請求項1には,澱粉分解物100質量部に対する金属塩の含有量が特定されておらず,請求項1に係る発明,及び請求項2を引用しない請求項3?5に係る発明は,発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。

<甲号証一覧>
甲1号証 再公表特許第2007/136083号
甲2号証 特開昭54-126742号公報
甲3号証 特表2011-505828号公報
甲4号証 特願2011-261466号の平成27年9月3日付け拒絶理由通知書
甲5号証 特願2011-261466号の平成27年10月22日付け面接記録
甲6号証 特願2011-261466号の平成27年11月10日付け応対記録及び添付書類
甲7号証 特許庁HP「標準技術集(農薬製剤技術)データベース:造粒,成形技術」 https://www.jpo.go.jp/shiryou/s_sonota/hyoujyun_gijyutsu/nouyaku/0010.html


2 取消理由1,2についての判断
上記取消理由1,2について検討するに,甲1号証ないし甲3号証にはいずれも,少なくとも,本件発明3の「金属塩の含有量が,澱粉分解物100質量部に対し,0.5?40質量部であり,増粘組成物に含まれる金属塩含有澱粉分解物と増粘多糖類との質量比が,金属塩含有澱粉分解物:増粘多糖類=55:45?99:1である」という特定事項について記載も示唆もない。(以下,「金属塩の含有量が,澱粉分解物100質量部に対し,0.5?40質量部」であることを「特定事項A」,「増粘組成物に含まれる金属塩含有澱粉分解物と増粘多糖類との質量比が,金属塩含有澱粉分解物:増粘多糖類=55:45?99:1」であることを「特定事項B」という。)
そして,本件発明3は,本件特許明細書の全記載によれば,上記特定事項A及びBを合わせて有することにより,金属塩含有澱粉分解物を含有しない増粘組成物に比して,その分散性が向上するという顕著な効果を奏するものである。(例えば,本件特許明細書の【表2】には,特定事項A及びBを有する実施品1?17が,また,【表3】には,特定事項Aを有さずBを有する比較品1?5,9,10,特定事項Aを有しBを有さない比較品14?19,及び,特定事項AもBも有さない比較品6?8,11?13が記載されており,【表4】?【表6】には,それらの評価として,特定事項A及びBを有する各実施品が,特定事項A,Bの少なくとも一方を有さない各比較品に比して,分散性が良好であることが示されている。)
よって,本件発明3は,甲1号証記載の発明ではないし,甲1号証ないし甲3号証記載の発明から当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

なお,甲2号証の2ページ右上欄11?20行には,上記特定事項A,Bに関連して,以下の記載がある。
「本発明の食品用増粘剤における各成分の比率は,重量比において,キサンタンガム1に対して,植物性種子ガムが0.3乃至0.6程度,水溶性でん粉分解物が0.6乃至2.0程度,食塩が0.3乃至1.0程度である。好ましくは,キサンタンンガム1に対して,植物性種子ガムが0.4乃至0.5程度,水溶性でん粉分解物が0.7乃至1.5程度,食塩が0.4乃至0.7程度である。また,キサンタンガムと植物性種子ガムとの比率が約2対1のときに,好ましい場合がある。」
ここで,甲2号証の「食品用増粘剤」,「キサンタンガム」及び「植物性種子ガム」,「水溶性でん粉分解物」は,文言上はそれぞれ,本件発明3の「増粘組成物」,「増粘多糖類」,「澱粉分解物」に相当するところ,上記記載の成分比率をもとに,「水溶性でん粉分解物」及び「食塩」の含有量や,「キサンタンガム」及び「植物性種子ガム」に対する「水溶性でん粉分解物」及び「食塩」の質量比を計算すると,一見,上記特定事項A及びBと部分的に重なるところがあるが,甲2号証の「食品用増粘剤」は,「水溶性でん粉分解物」と「食塩」とを粉末混合してなるものであるから(2ページ左下欄1?12行等参照),本件発明3の「金属塩と澱粉分解物とを含有する溶液を粉末化したもの」であるところの「金属塩を含有する澱粉分解物」とは異なるものである。また,甲2号証の上記粉末混合してなるものを,上記のような「金属塩を含有する澱粉分解物」に変更する理由もない。
さらに,甲2号証の「水溶性でん粉分解物」と「食塩」とを合わせたものが,仮に本件発明3の「金属塩を含有する澱粉分解物」に相当するとしても,上記各成分比率に係る記載は,本件発明3の上記特定事項A及びBに,数字の上で一部重複し得ることを示唆するだけであり,これを特定事項A及びBに一致する又は包含されるように変更する動機付けは,他の甲号証を参酌しても見出せない。

よって,請求項3に係る特許は,上記取消理由1,2によって取り消されるべきものであるとすることはできない。
また,本件発明4,5は,本件発明3をさらに減縮したものであるから,請求項4,5に係る特許は,同様の理由により,上記取消理由1,2によって取り消されるべきものであるとすることはできない。


3 取消理由3(サポート要件)についての判断
上記取消理由3について検討するに,本件発明3は,上記「第3 本件発明」で示したように,「金属塩の含有量が,澱粉分解物100質量部に対し,0.5?40質量部」であるという事項(特定事項A)と,「増粘組成物に含まれる金属塩含有澱粉分解物と増粘多糖類との質量比が,金属塩含有澱粉分解物:増粘多糖類=55:45?99:1」であるという事項(特定事項B)とを備えるものである。
そして,上記取消理由3の「ア」でいうところの,増粘組成物中の,金属塩含有澱粉分解物と増粘多糖類との質量比は,上記特定事項Bに対応し,同「イ」でいうところの,澱粉分解物100質量部に対する金属塩の含有量は,上記特定事項Aに対応するから,本件発明3は,同「ア」及び「イ」で特定すべきとされた事項を共に備えるものである。
よって,請求項3に係る特許は,上記取消理由3によって取り消されるべきものであるとすることはできない。
また,本件発明4,5は,本件発明3の発明特定事項を備えるものであるから,請求項4,5に係る特許は,同様の理由により,上記取消理由3によって取り消されるべきものであるとすることはできない。


第5 むすび
以上のとおりであるから,上記取消理由通知に記載した取消理由によっては,請求項3?5に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に請求項3?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また,上記「第2」のとおり本件訂正が認められることにより,請求項1及び2は削除され,それらの特許に対して特許異議申立人がした特許異議の申立てについては,対象となる請求項が存在しないものとなったため,本件特許の請求項1及び2に対しての特許異議の申立ては,不適法であって,その補正をすることができないものであるから,特許法第120条の8で準用する同法第135条の規定により却下すべきものである。
よって,結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
金属塩を含有する澱粉分解物と増粘多糖類とを含む分散性の改善された増粘組成物であって、前記金属塩を含有する澱粉分解物が金属塩と澱粉分解物とを含有する溶液を粉末化したものであり、前記金属塩がカルシウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩から選択される1種以上であり、金属塩の含有量が、澱粉分解物100質量部に対し、0.5?40質量部であり、増粘組成物に含まれる金属塩含有澱粉分解物と増粘多糖類との質量比が、金属塩含有澱粉分解物:増粘多糖類=55:45?99:1であることを特徴とする、増粘組成物。
【請求項4】
請求項3に記載の増粘組成物を含む、とろみ調整剤。
【請求項5】
澱粉分解物の製造工程中に、金属塩を添加することを特徴とする、請求項3に記載の増粘組成物の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-07-13 
出願番号 特願2011-261466(P2011-261466)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (A23L)
P 1 651・ 113- YAA (A23L)
P 1 651・ 121- YAA (A23L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 坂崎 恵美子  
特許庁審判長 千壽 哲郎
特許庁審判官 中村 則夫
山崎 勝司
登録日 2016-04-08 
登録番号 特許第5913933号(P5913933)
権利者 三菱商事フードテック株式会社 日澱化學株式会社
発明の名称 分散性を向上させた増粘組成物およびそれに用いる金属塩含有澱粉分解物  
代理人 太田 恵一  
代理人 太田 恵一  
代理人 慶田 晴彦  
代理人 太田 恵一  
代理人 慶田 晴彦  
代理人 慶田 晴彦  

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