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審決分類 審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  F04D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  F04D
審判 全部申し立て 2項進歩性  F04D
審判 全部申し立て 1項2号公然実施  F04D
審判 全部申し立て 1項1号公知  F04D
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  F04D
管理番号 1332219
異議申立番号 異議2016-700135  
総通号数 214 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-10-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-02-18 
確定日 2017-07-25 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5767636号発明「真空ポンプ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5767636号の明細書,特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書,特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1?6〕について訂正することを認める。 特許第5767636号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1.手続の経緯
特許第5767636号の請求項1?6に係る特許についての出願は,平成23年5月20日の特許出願であって,平成27年6月26日にその特許権の設定登録がされた。これらの請求項1?6に係る特許について,特許異議申立人 プファイファー・ヴァキューム・ゲーエムベーハーにより特許異議の申立てがあり,平成28年4月13日付けで取消理由が通知され,その指定期間内である同年6月16日付けで特許権者により意見書の提出及び訂正の請求があったものである。その後,同年6月24日付けで訂正拒絶理由が通知され,同年7月29日付けで特許権者により意見書が提出され,同年9月26日付けで特許異議申立人により意見書が提出され,同年12月13日付けで再度訂正拒絶理由が通知され,平成29年1月13日付けで特許権者により意見書が提出され,同年2月17日付けで取消理由(決定の予告)が通知され,その指定期間内である同年4月21日付けで特許権者により意見書の提出及び訂正の請求があったものである。その後,同年6月26日付けで特許異議申立人により意見書が提出されたところである。

第2.訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
平成29年4月21日付けの訂正請求(以下,「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は以下の訂正事項1?8のとおりである(下線は,訂正箇所を示し,当審で付与した。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「少なくともネジ溝ポンプ部あるいはゲーデポンプ部などを構成する円筒ロータと,前記円筒ロータと回転軸とを接続する第2のロータとを備え,前記第2のロータに形成された鍔状円環部に付設された接合部に対し,前記円筒ロ-タの側面の一部を接合して構成された真空ポンプにおいて,前記円筒ロータの上端面は,前記円筒ロータと前記第2のロータとの接触部より上側に突出されていることを特徴とする真空ポンプ。」とあるのを,
「円筒形に成形してなる円筒ロ-タと,
前記円筒ロータと回転軸とを接続する第2のロータとを備え,
前記第2のロータに形成された鍔状円環部に付設された接合部に対し,
前記円筒ロータの側面の一部を接合して構成された真空ポンプにおいて,
前記接合部の外径は,前記円筒ロータの内径より大きく,前記円筒ロータの内径に圧入嵌合可能な大きさであり,
前記円筒ロータの上端面は,前記円筒ロータと前記第2のロータとの接触部より上流側に突出されていることを特徴とする真空ポンプ。」
に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「少なくともネジ溝ポンプ部あるいはゲーデポンプ部などを構成する円筒ロータと,前記円筒ロータと回転軸とを接続する第2のロータとを備え,前記第2のロータに形成された鍔状円環部に付設された接合部に対し,前記円筒ロータの側面の一部を接合して構成された真空ポンプにおいて,前記接合部は,前記鍔状円環部より下方へ突出したL字状に形成されているとともに,前記円筒ロータの上端面は,前記鍔状円環部の下面より下側へ退避されていることを特徴とする真空ポンプ。」とあるのを,
「円筒形に成形してなる円筒ロータと,
前記円筒ロータと回転軸とを接続する第2のロータとを備え,
前記第2のロータに形成された鍔状円環部に付設された接合部に対し,
前記円筒ロータの側面の一部を接合して構成された真空ポンプにおいて,
前記接合部の外径は,前記円筒ロータの内径より大きく,前記円筒ロータの内径に圧入嵌合可能な大きさであり,
前記接合部は,前記鍔状円環部より下流側へ突出したL字状に形成されているとともに,前記円筒ロータの上端面は,前記鍔状円環部の下面より下流側へ退避されていることを特徴とする真空ポンプ。」に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「少なくともネジ溝ポンプ部あるいはゲーデポンプ部などを構成する円筒ロータと,前記円筒ロータと回転軸とを接続する第2のロータとを備え,前記第2のロータに形成された鍔状円環部に付設された接合部に対し,前記円筒ロータの側面の一部を接合して構成された真空ポンプにおいて,前記接合部は,前記鍔状円環部より上方へ突出したL字状に形成されているとともに,前記円筒ロータの上端面は,前記鍔状円環部の上側へ設置されていることを特徴とする真空ポンプ。」とあるのを,
「円筒形に成形してなる円筒ロータと,
前記円筒ロータと回転軸とを接続する第2のロータとを備え,
前記第2のロータに形成された鍔状円環部に付設された接合部に対し,
前記円筒ロータの側面の一部を接合して構成された真空ポンプにおいて,
前記接合部は,前記鍔状円環部より上流側へ突出したL字状に形成されているとともに,前記円筒ロータの上端面は,前記鍔状円環部の上流側へ設置されていることを特徴とする真空ポンプ。」
に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に「少なくともネジ溝ポンプ部あるいはゲーデポンプ部などを構成する円筒ロータと,前記円筒ロータと回転軸とを接続する第2のロータとを備え,前記第2のロータに形成された鍔状円環部に付設された接合部に対し,前記円筒ロータの側面の一部を接合して構成された真空ポンプにおいて,前記接合部は,前記鍔状円環部より下方へ突出したL字状に形成されているとともに,前記接合部の上部に小径部を設け,前記円筒ロータと前記第2のロータとの接触部は,前記鍔状円環部の下側へ退避されているとともに,前記円筒ロータの上端面は,前記接触部より上側に突出されていることを特徴とする真空ポンプ。」とあるのを,
「円筒形に成形してなる円筒ロータと,
前記円筒ロータと回転軸とを接続する第2のロータとを備え,
前記第2のロータに形成された鍔状円環部に付設された接合部に対し,
前記円筒ロータの側面の一部を接合して構成された真空ポンプにおいて,
前記接合部の外径は,前記円筒ロータの内径より大きく,前記円筒ロータの内径に圧入嵌合可能な大きさであり,
前記接合部は,前記鍔状円環部より下流側へ突出したL字状に形成されているとともに,前記接合部の上部に小径部を設け,
前記円筒ロータと前記第2のロータとの接触部は,前記鍔状円環部の下流側へ退避されているとともに,前記円筒ロータの上端面は,前記接触部より上流側に突出されていることを特徴とする真空ポンプ。」に訂正する。
(5)訂正事項5
願書に添付した明細書の段落【0005】に記載された「請求項1記載の発明では,少なくともネジ溝ポンプ部あるいはゲーデポンプ部などを構成する円筒ロータと,前記円筒ロータと回転軸とを接続する第2のロータとを備え,前記第2のロータに形成された鍔状円環部に付設された接合部に対し,前記円筒ロータの側面の一部を接合して構成された真空ポンプにおいて,前記円筒ロータの上端面は,前記円筒ロータと前記第2のロータとの接触部より上側に突出されていることを特徴とする真空ポンプを提供する。」とあるのを,
「請求項1記載の発明では,円筒形に成形してなる円筒ロータと,前記円筒ロータと回転軸とを接続する第2のロータとを備え,前記第2のロータに形成された鍔状円環部に付設された接合部に対し,前記円筒ロータの側面の一部を接合して構成された真空ポンプにおいて,前記接合部の外径は,前記円筒ロータの内径より大きく,前記円筒ロータの内径に圧入嵌合可能な大きさであり,前記円筒ロータの上端面は,前記円筒ロータと前記第2のロータとの接触部より上流側に突出されていることを特徴とする真空ポンプを提供する。」に訂正する。
(6)訂正事項6
願書に添付した明細書の段落【0005】に記載された「請求項2記載の発明では,少なくともネジ溝ポンプ部あるいはゲーデポンプ部などを構成する円筒ロータと,前記円筒ロータと回転軸とを接続する第2のロータとを備え,前記第2のロータに形成された鍔状円環部に付設された接合部に対し,前記円筒ロータの側面の一部を接合して構成された真空ポンプにおいて,前記接合部は,前記鍔状円環部より下方へ突出したL字状に形成されているとともに,前記円筒ロータの上端面は,前記鍔状円環部の下面より下側へ退避されていることを特徴とする真空ポンプを提供する。」とあるのを,
「請求項2記載の発明では,円筒形に成形してなる円筒ロータと,前記円筒ロータと回転軸とを接続する第2のロータとを備え,前記第2のロータに形成された鍔状円環部に付設された接合部に対し,前記円筒ロータの側面の一部を接合して構成された真空ポンプにおいて,前記接合部の外径は,前記円筒ロータの内径より大きく,前記円筒ロータの内径に圧入嵌合可能な大きさであり,前記接合部は,前記鍔状円環部より下流側へ突出したL字状に形成されているとともに,前記円筒ロータの上端面は,前記鍔状円環部の下面より下流側へ退避されていることを特徴とする真空ポンプを提供する。」に訂正する。
(7)訂正事項7
願書に添付した明細書の段落【0005】に記載された「請求項3記載の発明では,少なくともネジ溝ポンプ部あるいはゲーデポンプ部などを構成する円筒ロータと,前記円筒ロータと回転軸とを接続する第2のロータとを備え,前記第2のロータに形成された鍔状円環部に付設された接合部に対し,前記円筒ロータの側面の一部を接合して構成された真空ポンプにおいて,前記接合部は,前記鍔状円環部より上方へ突出したL字状に形成されているとともに,前記円筒ロータの上端面は,前記鍔状円環部の上側へ設置されていることを特徴とする真空ポンプを提供する。」とあるのを,
「請求項3記載の発明では,円筒形に成形してなる円筒ロータと,前記円筒ロータと回転軸とを接続する第2のロータとを備え,前記第2のロータに形成された鍔状円環部に付設された接合部に対し,前記円筒ロータの側面の一部を接合して構成された真空ポンプにおいて,前記接合部は,前記鍔状円環部より上流側へ突出したL字状に形成されているとともに,前記円筒ロータの上端面は,前記鍔状円環部の上流側へ設置されていることを特徴とする真空ポンプを提供する。」に訂正する。
(8)訂正事項8
願書に添付した明細書の段落【0005】に記載された「請求項4記載の発明では,少なくともネジ溝ポンプ部あるいはゲーデポンプ部などを構成する円筒ロータと,前記円筒ロータと回転軸とを接続する第2のロータとを備え,前記第2のロータに形成された鍔状円環部に付設された接合部に対し,前記円筒ロータの側面の一部を接合して構成された真空ポンプにおいて,前記接合部は,前記鍔状円環部より下方へ突出したL字状に形成されているとともに,前記接合部の上部に小径部を設け,前記円筒ロータと前記第2のロータとの接触部は,前記鍔状円環部の下側へ退避されているとともに,前記円筒ロータの上端面は,前記接触部より上側に突出されていることを特徴とする真空ポンプを提供する。」とあるのを,
「請求項4記載の発明では,円筒形に成形してなる円筒ロータと,前記円筒ロータと回転軸とを接続する第2のロータとを備え,前記第2のロータに形成された鍔状円環部に付設された接合部に対し,前記円筒ロータの側面の一部を接合して構成された真空ポンプにおいて,前記接合部の外径は,前記円筒ロータの内径より大きく,前記円筒ロータの内径に圧入嵌合可能な大きさであり,前記接合部は,前記鍔状円環部より下流側へ突出したL字状に形成されているとともに,前記接合部の上部に小径部を設け,前記円筒ロータと前記第2のロータとの接触部は,前記鍔状円環部の下流側へ退避されているとともに,前記円筒ロータの上端面は,前記接触部より上流側に突出されていることを特徴とする真空ポンプを提供する。」に訂正する。

2.訂正要件についての判断
(1)訂正事項1
ア.訂正の目的について
訂正事項1による訂正は,訂正前の請求項1の「少なくともネジ溝ポンプ部あるいはゲーデポンプ部などを構成する」,「上側」の明瞭でない記載を釈明するとともに,接合部及び円筒ロータの径寸法の大小関係を特定するものであるから,特許法第120条の5第2項第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」及び同3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正である。
イ.願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項1のうち,明瞭でない記載の釈明に関する訂正のうち「少なくともネジ溝ポンプ部あるいはゲーデポンプ部などを構成する円筒モータ」を「円筒形に成形してなる円筒モータ」とした訂正は,特許明細書の段落【0010】(特許掲載公報の第7頁第35?36行目)の「・・円筒形に成形してなる円筒ロータ・・」との記載に依拠するものであり,また,「接触部より上側」を「接触部より上流側」とする訂正については,「同図において,複合型真空ポンプ10は,吸気口11と排気口12を有する筐体13を備えている。該筐体13内には,上部にターボ分子ポンプ部14と,その下方に円筒形のネジ溝ポンプ部15が設けられているとともに,該ターボ分子ポンプ部14内と該ネジ溝ポンプ部15内を通って前記吸気口11と前記排気口12を連通してなる排気経路24が形成されている。
前記排気通路24は,より具体的には,前記ターボ分子ポンプ部14の後述する相対しているロータ17の外周面と前記筐体13の内周面の間の隙間及び前記ネジ溝ポンプ部15の後述する円筒ロータ21の外周面とステータ23の内周面の間の隙間を相互に連通させるとともに,前記ターボ分子ポンプ部14側の隙間上端側を前記吸気口11に連通させ,かつ,前記ネジ溝ポンプ部15側の隙間下端側を前記排気口12に連通して形成されている。」(特許明細書の段落【0009】(特許掲載公報の第5頁32?42行)),「そして,前記ネジ溝22の下端は前記排気経路24の最下流側において前記排気口12に連通され,前記ターボ分子ポンプ部14の前記ロータ17と前記ネジ溝ポンプ部15の前記円筒ロータ21の接合部分は,前記排気経路24の上流側に設置されている。」(特許明細書の段落【0009】(特許掲載公報の第6頁2?5行))等に記載されるように,上下関係における「上」,「下」がそれぞれ排気流路24の「上流」,「下流」であることは明らかであることに依拠するものである。
そして,上記訂正事項1のうち,接合部及び円筒ロータの径寸法の大小関係を特定するための訂正は,特許明細書の段落【0009】(特許掲載公報の第6貞11?12行)の「前記接合部20aは,前記円筒ロータ21の内径より若干大きく,該円筒ロータ21内に圧入嵌合可能な外径を有する・・」との記載に依拠するものであり,当該訂正事項1は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ.実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないこと
上記訂正事項1のうち,明瞭でない記載の釈明に関する訂正は,何ら実質的な内容の変更を伴うものではなく,また,上記訂正事項1のうち,接合部及び円筒ロータの径寸法の大小関係を特定する訂正は,発明特定事項を直列的に付加するものであり,カテゴリーや対象,目的を変更するものには該当しないから,上記訂正事項1は,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
(2)訂正事項2
ア.訂正の目的について
訂正事項2による訂正は,訂正前の請求項2の「少なくともネジ溝ポンプ部あるいはゲーデポンプ部などを構成する」,「下方」,「下側」の明瞭でない記載を釈明するとともに,接合部及び円筒ロータの径寸法の大小関係を特定するものであるから,特許法第120条の5第2項第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」及び同3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正である。
イ.願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項2による訂正は,上記訂正事項1について検討した理由と同様な理由により,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ.実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないこと
上記訂正事項2のうち,明瞭でない記載の釈明に関する訂正は,何ら実質的な内容の変更を伴うものではなく,また,上記訂正事項2のうち,接合部及び円筒ロータの径寸法の大小関係を特定する訂正は,上記訂正事項1のうち,接合部及び円筒ロータの径寸法の大小関係を特定する訂正と同様であるから,上記訂正事項2は,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
(3)訂正事項3
ア.訂正の目的について
訂正事項3による訂正は,訂正前の請求項3の「少なくともネジ溝ポンプ部あるいはゲーデポンプ部などを構成する」,「上方」,「上側」の明瞭でない記載を釈明する訂正であり,特許法第120条の5第2項第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正である。
イ.願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項3による訂正は,上記訂正事項1のうちの明瞭でない記載の釈明に関する訂正について検討した理由と同様な理由により,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ.実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないこと
上記訂正事項3は,上記訂正事項1で述べたように,明瞭でない記載の釈明に関する訂正であって,何ら実質的な内容の変更を伴うものではなく,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に規定に適合するものである。
(4)訂正事項4
ア.訂正の目的について
訂正事項4による訂正は,訂正事項1及び2と同様に,訂正前の請求項4の「少なくともネジ溝ポンプ部あるいはゲーデポンプ部などを構成する」,「下方」,「下側」,「上側」の明瞭でない記載を釈明するとともに,接合部及び円筒ロ-タの径寸法の大小関係を特定するものであるから,特許法第120条の5第2項第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」及び同3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正である。
イ.願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項4による訂正は,上記訂正事項1について検討した理由と同様な理由により,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ.実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないこと
上記訂正事項4による訂正は,上記訂正事項1及び2と同様に,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
(5)訂正事項5
ア.訂正の目的について
訂正事項5による訂正は,上記訂正事項1に係る訂正に伴い,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るために,願書に添付した明細書の段落【0005】に記載された「請求項1記載の発明では,少なくともネジ溝ポンプ部あるいはゲーデポンプ部などを構成する円筒ロータと,前記円筒ロータと回転軸とを接続する第2のロータとを備え,前記第2のロータに形成された鍔状円環部に付設された接合部に対し,前記円筒ロータの側而の一部を接合して構成された真空ポンプにおいて,前記円筒ロータの上端面は,前記円筒ロータと前記第2のロータとの接触部より上側に突出されていることを特徴とする真空ポンプを提供する。」を,「請求項1記載の発明では,円筒形に成形してなる円筒ロータと,前記円筒ロータと回転軸とを接続する第2のロータとを備え,前記第2のロータに形成された鍔状円環部に付設された接合部に対し,前記円筒ロータの側面の一部を接合して構成された真空ポンプにおいて,前記接合部の外径は,前記円筒円筒ロータの上端面は,前記円筒口-タと前記第2のロータとの接触部より上流側に突出されていることを特徴とする真空ポンプを提供する。」に訂正するものである。
当該訂正は,特許法第120条の5第2項第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正である。
イ.願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項5による訂正は,上記訂正事項1と同様に,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ.実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないこと
上記訂正事項5による訂正は,上記訂正事項1と同様に,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
(6)訂正事項6
ア.訂正の目的について
訂正事項6による訂正は,上記訂正事項2に係る訂正に伴い,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るために,願書に添付した明細書の段落【0005】に記載された「請求項2記載の発明では,少なくともネジ溝ポンプ部あるいはゲーデポンプ部などを構成する円筒ロータと,前記円筒ロータと回転軸とを接続する第2のロータとを備え,前記第2のロータに形成された鍔状円環部に付設された接合部に対し,前記円筒ロータの側面の一部を接合して構成された真空ポンプにおいて,前記接合部は,前記鍔状円環部より下方へ突出したL字状に形成されているとともに,前記円筒ロータの上端面は,前記鍔状円環部の下面より下側へ退避されていることを特徴とする真空ポンプを提供する。」を,「請求項2記載の発明では,円筒形に成形してなる円筒ロ-タと,前記円筒ロータと回転軸とを接続する第2のロータとを備え,前記第2のロータに形成された鍔状円環部に付設された接合部に対し,前記円筒ロータの側面の一部を接合して構成された真空ポンプにおいて,前記接合部の外径は,前記円筒ロータの内径より大きく,前記円筒ロータの内径に圧入嵌合可能な大きさであり,前記接合部は,前記鍔状円環部より下流側へ突出したL字状に形成されているとともに,前記円筒ロータの上端面は,前記鍔状円環部の下面より下流側へ退避されていることを特徴とする真空ポンプを提供する。」に訂正するものである。
当該訂正は,特許法第120条の5第2項第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正である。
イ.願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項6による訂正は,上記訂正事項2と同様に,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ.実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないこと
上記訂正事項6による訂正は,上記訂正事項2と同様に,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
(7)訂正事項7
ア.訂正の目的について
訂正事項7による訂正は,上記訂正事項3に係る訂正に伴い,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るために,願書に添付した明細書の段落【0005】に記載された「少なくともネジ溝ポンプ部あるいはゲーデポンプ部などを構成する円筒ロータと,前記円筒ロータと回転軸とを接続する第2のロータとを備え,前記第2のロータに形成された鍔状円環部に付設された接合部に対し,前記円筒ロータの側面の一部を接合して構成された真空ポンプにおいて,前記接合部は,前記鍔状円環部より上方へ突出したL字状に形成されているとともに,前記円筒ロータの上端面は,前記鍔状円環部の上側へ設置されていることを特徴とする真空ポンプ。」を,「円筒形に成形してなる円筒ロータと,前記円筒ロータと回転軸とを接続する第2のロータとを備え,前記第2のロータに形成された鍔状円環部に付設された接合部に対し,前記円筒ロータの側面の一部を接合して構成された真空ポンプにおいて,前記接合部は,前記鍔状円環部より上流側へ突出したL字状に形成されているとともに,前記円筒ロータの上端面は,前記鍔状円環部の上流側へ設置されていることを特徴とする真空ポンプ。」に訂正するものである。
当該訂正は,特許法第120条の5第2項第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正である。
イ.願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項7による訂正は,上記訂正事項3と同様に,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ.実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないこと
上記訂正事項7による訂正は,上記訂正事項3と同様に,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
(8)訂正事項8
ア.訂正の目的について
訂正事項8による訂正は,上記訂正事項4に係る訂正に伴い,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るために,願書に添付した明細書の段落【0005】に記載された「少なくともネジ溝ポンプ部あるいはゲーデポンプ部などを構成する円筒ロータと,前記円筒口-タと回転軸とを接続する第2のロータとを備え,前記第2のロータに形成された鍔状円環部に付設された接合部に対し,前記円筒ロータの側面の一部を接合して構成された真空ポンプにおいて,前記接合部は,前記鍔状円環部より下方へ突出したL字状に形成されているとともに,前記接合部の上部に小径部を設け,前記円筒ロータと前記第2のロータとの接触部は,前記鍔状円環部の下側へ退避されているとともに,前記円筒ロータの上端面は,前記接触部より上側に突出されていることを特徴とする真空ポンプ。」を,「円筒形に成形してなる円筒ロータと,前記円筒ロータと回転軸とを接続する第2のロータとを備え,前記第2のロータに形成された鍔状円環部に付設された接合部に対し,前記円筒ロータの側面の一部を接合して構成された真空ポンプにおいて,前記接合部の外径は,前記円筒ロータの内径より大きく,前記円筒ロータの内径に圧入嵌合可能な大きさであり,前記接合部は,前記鍔状円環部より下流側へ突出したL字状に形成されているとともに,前記接合部の上部に小径部を設け,前記円筒ロータと前記第2のロータとの接触部は,前記鍔状円環部の下流側へ退避されているとともに,前記円筒ロータの上端面は,前記接触部より上流側に突出されていることを特徴とする真空ポンプ。」に訂正するものである。
当該訂正は,特許法第120条の5第2項第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正である。
イ.願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項8による訂正は,上記訂正事項4と同様に,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ.実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないこと
上記訂正事項8による訂正は,上記訂正事項4と同様に,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
(9)一群の請求項について
これらの訂正は一群の請求項に対して請求されたものである。
よって,これらの訂正は,特許法第120条の5第4項,及び,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第4項の規定に適合するものである。

3.むすび
以上のとおりであるから,本件訂正請求による訂正は,特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条第4項,及び,同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項の規定に適合するので,訂正後の請求項〔1?6〕について訂正を認める。

第3.特許異議の申立てについて
1.本件特許発明
本件訂正請求により訂正された訂正請求項1ないし6に係る発明(以下,「本件特許発明1」ないし「本件特許発明6」という。)は,その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
円筒形に成形してなる円筒ロータと,
前記円筒ロータと回転軸とを接続する第2のロータとを備え,
前記第2のロータに形成された鍔状円環部に付設された接合部に対し,
前記円筒ロータの側面の一部を接合して構成された真空ポンプにおいて,
前記接合部の外径は,前記円筒ロータの内径より大きく,前記円筒ロータの内径に圧入嵌合可能な大きさであり,
前記円筒ロータの上端面は,前記円筒ロータと前記第2のロータとの接触部より上流側に突出されていることを特徴とする真空ポンプ。」
「【請求項2】
円筒形に成形してなる円筒ロータと,
前記円筒ロータと回転軸とを接続する第2のロータとを備え,
前記第2のロータに形成された鍔状円環部に付設された接合部に対し,
前記円筒ロータの側面の一部を接合して構成された真空ポンプにおいて,
前記接合部の外径は,前記円筒ロータの内径より大きく,前記円筒ロータの内径に圧入嵌合可能な大きさであり,
前記接合部は,前記鍔状円環部より下流側へ突出したL字状に形成されているとともに,前記円筒ロータの上端面は,前記鍔状円環部の下面より下流側へ退避されていることを特徴とする真空ポンプ。」
「【請求項3】
円筒形に成形してなる円筒ロータと,
前記円筒ロータと回転軸とを接続する第2のロータとを備え,
前記第2のロータに形成された鍔状円環部に付設された接合部に対し,
前記円筒ロータの側面の一部を接合して構成された真空ポンプにおいて,
前記接合部は,前記鍔状円環部より上流側へ突出したL字状に形成されているとともに,前記円筒ロータの上端面は,前記鍔状円環部の上流側へ設置されていることを特徴とする真空ポンプ。」
「【請求項4】
円筒形に成形してなる円筒ロータと,
前記円筒ロータと回転軸とを接続する第2のロータとを備え,
前記第2のロータに形成された鍔状円環部に付設された接合部に対し,
前記円筒ロータの側面の一部を接合して構成された真空ポンプにおいて,
前記接合部の外径は,前記円筒ロータの内径より大きく,前記円筒ロータの内径に圧入嵌合可能な大きさであり,
前記接合部は,前記鍔状円環部より下流側へ突出したL字状に形成されているとともに,前記接合部の上部に小径部を設け,
前記円筒ロータと前記第2のロータとの接触部は,前記鍔状円環部の下流側へ退避されているとともに,前記円筒ロータの上端面は,前記接触部より上流側に突出されていることを特徴とする真空ポンプ。」
「【請求項5】
上記円筒ロータの突出部分の長さは,該円筒ロータの肉厚の2倍以上であることを特徴とする請求項1又は4記載の真空ポンプ。」
「【請求項6】
上記第2のロータは,少なくともターボ分子ポンプ部あるいは渦流ポンプ部などのポンプ機構を構成することを特徴とする請求項1,2,3,4又は5記載の真空ポンプ。」

2.取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし6に係る特許に対して平成29年2月17日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は,次のとおりである。
ア.請求項1,2,4は,その出願前日本国内または外国において公然知られた発明である,又は,その出願前日本国内または外国において公然実施をされた発明であるから,請求項1,2,4に係る特許は,特許法第29条第1項第1号又は第2号の規定に違反してされたものであり,取り消されるべきものである。
イ.請求項1,2,4,5,6は,その出願前日本国内または外国において公然知られた発明又は公然実施された発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,請求項1,2,4,5,6に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり,取り消されるべきものである。
ウ.請求項1ないし6は,特許法第36条第6項2号の規定する要件を満たしていないから,請求項1ないし6に係る特許は,取り消されるべきものである。

3.甲号証の記載
ア.甲第1号証?甲第7号証
甲第1号証:ターボ分子ドラッグポンプTMH262(品番PM P02 990A)図面
甲第2号証:ターボ分子ドラッグポンプTMH262(品番PM P02 990A)部品表
甲第3号証:ラビリンスハブ(品番PM 103 145)図面
甲第4号証:ローターアッセンブリー(品番PM 103 153-X)部品表
甲第5号証:ローターアッセンブリー(品番PM 103 153-X)図面
甲第6号証:納品書231571-N及び請求書326763-N
甲第7号証:宣誓供述書

(ア)甲第1号証及び甲第2号証が開示する事項(下線部は当審により付与した。以下同様。)
甲第1号証及び甲第2号証は,品番PM P02 990Aが付されたターボ分子ドラッグポンプTMH262の図面及び部品表である。部品表(甲第2号証)より当該ターボ分子ドラッグポンプは,ローターアッセンブリー(品番PM 103 153 -X)を有しており,参照符号1を付与されているから,当該ローターアッセンブリー(品番PM 103 153 -X)は,図面(甲第1号証)において参照符号1を付されて表されたものといえる。
部品表(甲第2号証)より,当該ターボ分子ドラッグポンプは,ホルベックスリーブ(品番PM 063 826 A)を有しており,参照符号19を付与されているから,当該ホルベックスリーブは,図面(甲第1号証)において参照符号19を付されて表されたものといえ,技術常識を考慮して甲第1号証を参照すると,後述の炭素繊維スリーブ13は,ホルベックスリーブ19と協働して,ネジ溝ポンプを構成していることが理解できる。
(イ)甲第3号証ないし甲第5号証が開示する事項
甲第4号証及び甲第5号証は,ローターアッセンブリー(品番PM 103 153 -X)の部品表及び図面である。図面(甲第5号証)により,符号13を付された炭素繊維スリーブが看て取れる。この炭素繊維スリーブ13の品番は,部品表(甲第4号証)よれば,PM 103 154であることが理解できる。
甲第5号証からみて,ラビリンスハブ7(品番PM 103 145)は炭素繊維スリーブ13とローター軸1とを接続していることが理解できる。
甲第3号証は,ラビリンスハブ(品番PM 103 145)の図面である。
甲第3号証により,ラビリンスハブは全体は円板状であって,ラビリンスハブに鍔のように形成された円環部が形成されていることが理解できる。
甲第3号証及び甲第5号証により,ラビリンスハブの外周部は,前記円環部及び該円環部の外周端に付設されて回転軸方向(後述するF側)に突出する部分(以下,「突出部」という。)からなり,全体が断面L字状に形成されていることが理解できる。
そして,前記円環部の外周面は,直径φ94.3であるA(参考図2参照)と,該Aより半径方向外方に突出し,直径φ97±0.05(甲第3号証のラビリンスハブの全体図参照)であるBを有することが理解できる。
また,前記突出部は,前記Bに隣接し,外周面の直径がφ94.31-0.05であるCと,前記Cに隣接し,前記Cよりも突出しているDと,前記Dに隣接し,外周面の直径がφ94.52±0.02であるEと,前記Eに隣接し前記Eよりも半径方向に突出しているF(この部分は断面L字状部分の端部となる。)とからなることが理解できる。
以下において,AからFに向かう方向を「F側」といい,FからAに向かう方向を「A側」ということにする。
また,前記AないしF,下記GないしIを甲第5号証と甲第3号証のZ部分拡大図を利用して参考図1,2として図示する(別紙参照)。
甲第5号証の図示内容を考慮すると,炭素繊維スリーブが,ラビリンスハブに接続する箇所の詳細が看取できる(甲第3号証のZ部拡大図を参照)。
甲第5号証には,前記突出部に対して,炭素繊維スリーブ13の内側の一部が接合されていることが理解できる。
炭素繊維スリーブ13は,円環状のラビリンスハブの突出部に接合されており,それぞれ左右の炭素繊維スリーブ13を結ぼうとする線が図示されているから,炭素繊維スリーブ13は円筒形のローターを形成しているといえる。
炭素繊維スリーブ13が炭素繊維から構成されていることを考慮すると,甲第5号証と甲第3号証のZ部拡大図からみて,CとEにおいては,炭素繊維スリーブ13とラビリンスハブ7が直接接触しないこと(つまり,鍔のように形成された円環部からF側に向かって突出した断面L字状の突出部には,非接触領域C,Eが設けられていること)が理解できる。
さらに,ラビリンスハブに形成された断面L字状の部分の端部であるFと,Dは,炭素繊維スリーブ13とラビリンスハブ7との接触領域であることが理解できる。
甲第5号証には,ラビリンスハブに設けられる半径方向突出部BにおけるF側の面Hに炭素繊維スリーブ13のA側の端面Gが位置することが図示されており,甲第3号証のZ部分の拡大図からみて,面Hに位置する炭素繊維スリーブのA側の端面Gは,炭素繊維スリーブとラビリンスハブとの接触領域D,FよりA側に位置していることが理解できる。
甲第3号証からみて,ラビリンスハブに設けられる半径方向突出部BのF側の面Hは,ラビリンスハブの鍔のように形成された円環部のF側の面IよりF側に位置していることが理解できる。よって炭素繊維スリーブのA側の端面Gは,ラビリンスハブの鍔のように形成された円環部のF側の面IよりF側に位置しているといえる。
また,ラビリンスハブの前記非接触領域C,Eの直径は,炭素繊維スリーブとラビリンスハブの間の接触領域D,Fにおけるラビリンスハブの径よりも小さいものとなっているとともに,前記非接触領域Cは接触領域D,FよりもA側に位置していることも理解できる。
甲第5号証と甲第3号証のZ部拡大図からみて,炭素繊維スリーブとラビリンスハブとの接触領域D,Fは,ラビリンスハブの,鍔のように形成された円環部のF側の面IよりF側に位置していることが理解できる。
(ウ)甲第6号証は,品番PM P02 990Aが付されたターボ分子ドラッグポンプTMH262の納品書及び請求書である。当該ターボ分子ドラッグポンプTMH 262が製造され,会社BASF AGに対して1個,販売されたことを示す。引き渡しの日は,納品書に記載される納品日2003年4月17日である。
甲第7号証は,宣誓供述書である。ターボ分子ドラッグポンプTMH262が上述の通り,本件特許出願前に実施されていたことを供述するものである。
そうすると,甲第6号証によれば,かかるターボ分子ドラッグポンプTMH262は,本件特許の出願前において公然知られたもの又は公然実施されたものである。
また,甲第7号証には,「位置1,3,5においては,ホルベックローターがラビリンスハブに直接当接している。ローター2には,間隙が残されている。位置4におけるくぼみは,接着剤で満たされており,この接着剤は,ホルベックローターとラビリンスハブの間の固定接続を確実に行う。」(甲第7号証の抄訳1ページ下から7行?下から4行)という記載がある。
(エ)公然知られた発明又は公然実施発明
してみれば,本件特許の出願前に甲第1号証乃至甲第5号証から把握される以下の発明が,公然知られた又は公然実施されたものと認められる(以下,「公然知られた発明1」又は「公然実施発明1」という。)。
「円筒形のローターを形成している炭素繊維スリーブと,
前記炭素繊維スリーブとローター軸とを接続するラビリンスハブとを備え,
前記ラビリンスハブに形成された鍔のように形成された円環部の外周端に付設された突出部に対し,
前記炭素繊維スリーブの内側の一部を接合して構成されたターボ分子ドラッグポンプにおいて,
前記炭素繊維スリーブのA側の端面Gは,前記炭素繊維スリーブと前記ラビリンスハブとの接触領域D,FよりA側に位置している,ターボ分子ドラッグポンプ。」
また,本件特許の出願前に甲第1号証乃至甲第5号証から把握される以下の発明も,公然知られた又は公然実施されたものと認められる(以下,「公然知られた発明2」又は「公然実施発明2」という。)。
「円筒形のローターを形成している炭素繊維スリーブと,
前記炭素繊維スリーブとローター軸とを接続するラビリンスハブとを備え,
前記ラビリンスハブに形成された鍔のように形成された円環部の外周端に付設された突出部に対し,
前記炭素繊維スリーブの内側の一部を接合して構成されたターボ分子ドラッグポンプにおいて,
前記突出部は,前記鍔のように形成された円環部よりF側へ突出した断面L字状に形成されているとともに,
前記炭素繊維スリーブのA側の端面Gは,前記鍔のように形成された円環部のF側の面IよりF側へ位置している,
ターボ分子ドラッグポンプ。」
そして,本件特許の出願前に甲第1号証乃至甲第5号証から把握される以下の発明も,公然知られた又は公然実施されたものと認められる(以下,「公然知られた発明3」又は「公然実施発明3」という。)。
「円筒形のローターを形成している炭素繊維スリーブと,
前記炭素繊維スリーブとローター軸とを接続するラビリンスハブとを備え,
前記ラビリンスハブに形成された鍔のように形成された円環部の外周端に付設された突出部に対し,
前記炭素繊維スリーブの内側の一部を接合して構成されたターボ分子ドラッグポンプにおいて,
前記突出部は,前記鍔のように形成された円環部よりF側へ突出した断面L字状に形成されているとともに,
前記突出部に,非接触領域Cを設け,非接触領域Cの直径は接触領域D,Fの直径よりも小さくなっており,非接触領域Cは接触領域D,FよりもA側にあり,
前記炭素繊維スリーブと前記ラビリンスハブとの接触領域D,Fは,前記鍔のように形成された円環部のF側の面IよりF側に位置しているとともに,前記炭素繊維スリーブのA側の端面Gは,前記接触領域D,FよりA側に位置している,
ターボ分子ドラッグポンプ。」

4.当審の判断
(1)取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について
ア.特許法第29条第1項第1号,特許法第29条第1項第2号,及び,特許法第29条第2項について
(ア)本件特許発明1について
本件特許発明1と公然知られた発明1(又は,公然実施発明1)とを対比する。
後者の「円筒形のローターを形成している炭素繊維スリーブ」は前者の「円筒形に成形してなる円筒ロータ」に相当し,以下同様に,「ローター軸」は「回転軸」に,「鍔のように形成された円環部」は「鍔状円環部」に,「炭素繊維スリーブの内側」は「円筒ロータの側面」に,「接触領域」は「接触部」に,「ターボ分子ドラッグポンプ」は真空ポンプの一種であるから「真空ポンプ」に,それぞれ相当する。
後者の「ラビリンスハブ」は,ターボ分子ドラッグホンプにおいて炭素繊維スリーブ(円筒ロータ)とローター軸(回転軸)を接続しており,炭素繊維スリーブと別の回転体であるから,前者の「第2のロータ」に相当する。
後者の「鍔のように形成された円環部の外周端に付設された突出部」には,炭素繊維スリーブの内側の一部を接合するから,後者の「鍔のように形成された円環部の外周端に付設された突出部」は前者の「鍔状円環部に付設された接合部」に相当する。
後者の「前記炭素繊維スリーブのA側の端面Gは,前記炭素繊維スリーブと前記ラビリンスハブとの接触領域D,FよりA側に位置している」ことと,前者の「前記円筒ロータの上端面は,前記円筒ロータと前記第2のロータとの接触部より上流側に突出されていること」とは,「前記円筒ロータの上流側の端面は,前記円筒ロータと前記第2のロータとの接触部より上流側に突出されていること」で共通する。
そうすると,本件特許発明1と公然知られた発明1(又は,公然実施発明1)とは,
「円筒形に成形してなる円筒ロータと,
前記円筒ロータと回転軸とを接続する第2のロータとを備え,
前記第2のロータに形成された鍔状円環部に付設された接合部に対し,
前記円筒ロータの側面の一部を接合して構成された真空ポンプにおいて,
前記円筒ロータの上流側の端面は,前記円筒ロータと前記第2のロータとの接触部より上流側に突出されている,真空ポンプ」
の点で一致し,以下の点で相違していると認められる。
<相違点1>
円筒ロータの上流側の端面が,本件特許発明1では,「上端面」であるのに対して,公然知られた発明1(又は,公然実施発明1)では,「A側の端面G」である点。
<相違点2>
本件特許発明1では,「前記接合部の外径は,前記円筒ロータの内径より大きく,前記円筒ロータの内径に圧入嵌合可能な大きさであ」るのに対して,公然知られた発明1(又は,公然実施発明1)では,そのような特定はなされていない点。

<相違点1について>
本件特許発明1では,真空ポンプの上流側の端面を「上端面」としている。
それに対して,公然知られた発明1(又は,公然実施発明1)では,ターボ分子ドラッグポンプをどのように置くかは,明示されていないが,ターボ分子ドラッグポンプを縦置きで使用すること,さらに縦置きにした場合には,「A側」を上側とするのが技術常識といえる。
そうすると,相違点1は,実質的な相違点とはいえない。
また,仮に,上記相違点1が実質的な相違点だとしても,公然知られた発明1(又は,公然実施発明1)において,ターボ分子ドラッグポンプを縦置きとし,「A側」を「上側」として設置して,「A側の端面G」を「上端面」とすることは,当業者が通常行う事項である。
<相違点2について>
公然知られた発明1(又は,公然実施発明1)の炭素繊維スリーブとラビリンスハブの接続に関しては,甲第1号証ないし甲第5号証には接続の態様について記載されておらず,甲第7号証(宣誓供述書)に,「位置1,3,5においては,ホルベックローター(炭素繊維スリーブ)がラビリンスハブに直接当接している。ローター2(取消理由通知[決定の予告]の参考図2における「C」部)には,間隙が残されている。位置4(取消理由通知[決定の予告]の参考図2における「E」部)におけるくぼみは,接着剤で満たされており,この接着剤は,ホルベックローター(炭素繊維スリーブ)とラビリンスハブの間の固定接続を確実に行う。」と記載されているのみなので,参考図2のE部のくぼみにおいて接着剤による固定接続がなされていると解すべきである。
そうすると,圧入が固着手段として周知であっても公然知られた発明1(又は,公然実施発明1)において,炭素繊維スリーブ13とラビリンスハブ7の接続に適用した場合には,ラビリンスハブ7と炭素繊維スリーブ13との間のくぼみにて接着剤で接着することで簡便に組み立てられるという公然知られた発明1(又は,公然実施発明1)の効果を喪失することになるから,公然知られた発明1(又は,公然実施発明1)には,圧入という固着手段を適用することに関して阻害理由があるというべきであるから,相違点2は実質的な相違点であって,公然知られた発明1(又は,公然実施発明1)において,相違点2に係る本件特許発明1の構成とすることは,当業者にとって容易ではない。
<本件特許発明1についてまとめ>
したがって,本件特許発明1は,公然知られた発明1(又は,公然実施発明1)ではなく,公然知られた発明1(又は,公然実施発明1)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから,特許法第29条第1項第1号,特許法第29条第1項第2号,及び,特許法第29条第2項についての取消理由は,いずれも成り立たない。

(イ)本件特許発明2について
本件特許発明2と公然知られた発明2(又は,公然実施発明2)とを対比する。
上記(ア)の対比に加えて,後者の「断面L字状」は前者の「L字状」に相当する。
後者の「前記突出部は,前記鍔のように形成された円環部よりF側へ突出した断面L字状に形成されているとともに,前記炭素繊維スリーブのA側の端面Gは,前記鍔のように形成された円環部のF側の面IよりF側へ位置している」ことと,前者の「前記接合部は,前記鍔状円環部より下流側へ突出したL字状に形成されているとともに,前記円筒ロータの上端面は,前記鍔状円環部の下面より下流側へ退避されていること」とは,「前記接合部は,前記鍔状円環部より下流側へ突出したL字状に形成されているとともに,前記円筒ロータの上流側の端面は,前記鍔状円環部の下流側の面より下流側へ退避されていること」において共通する。
そうすると,本件特許発明2と公然知られた発明2(又は,公然実施発明2)とは,
「円筒形に成形してなる円筒ロータと,
前記円筒ロータと回転軸とを接続する第2のロータとを備え,
前記第2のロータに形成された鍔状円環部に付設された接合部に対し,
前記円筒ロータの側面の一部を接合して構成された真空ポンプにおいて,
前記接合部は,前記鍔状円環部より下流側へ突出したL字状に形成されているとともに,
前記円筒ロータの上流側の端面は,前記鍔状円環部の下流側の面より下流側へ退避されている,
真空ポンプ。」
の点で一致し,以下の点で相違していると認められる。
<相違点1’>
前記接合部は,前記鍔状円環部より下流側へ突出したL字状に形成されているとともに,前記円筒ロータの「上流側の端面」は,前記鍔状円環部の「下流側の面」より下流側へ退避されている点に関して,「上流側の端面」,「下流側の面」がそれぞれ,本件特許発明2では,「上端面」,「下面」であるのに対して,公然知られた発明2(又は,公然実施発明2)では,「A側の端面G」,「F側の面I」である点。
<相違点2’>
本件特許発明2では,「前記接合部の外径は,前記円筒ロータの内径より大きく,前記円筒ロータの内径に圧入嵌合可能な大きさであ」るのに対して,公然知られた発明2(又は,公然実施発明2)では,そのような特定はなされていない点。

<相違点1’について>
本件特許発明2では,真空ポンプの上流側の端面を「上端面」,下流側の面を「下面」としている。
それに対して,公然知られた発明2(又は,公然実施発明2)では,ターボ分子ドラッグポンプをどのように置くかは,明示されていないが,ターボ分子ドラッグポンプを縦置きに使用すること,さらに縦置きにした場合には,「A側の端面G」を「上端面」とし,「F側の面I」を「下面」とするのが技術常識といえる。
そうすると,相違点1’は,実質的な相違点とはいえない。
また,仮に,上記相違点1’が実質的な相違点だとしても,公然知られた発明2(又は,公然実施発明2)において,ターボ分子ドラッグポンプを縦置きとし,「A側の端面G」を「上端面」とし,「F側の面I」を「下面」として設置することは,当業者が通常行う事項である。
<相違点2’について>
相違点2’は相違点2と同様であるから,本件特許発明1の<相違点2について>について検討した理由と同様な理由により,相違点2’は実質的な相違点であって,公然知られた発明2(又は,公然実施発明2)において,相違点2’に係る本件特許発明1の構成とすることは,当業者にとって容易ではない。
<本件特許発明2についてまとめ>
したがって,本件特許発明2は,公然知られた発明2(又は,公然実施発明2)ではなく,公然知られた発明2(又は,公然実施発明2)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから,特許法第29条第1項第1号,特許法第29条第1項第2号,及び,特許法第29条第2項についての取消理由は,いずれも成り立たない。

(ウ)本件特許発明4について
本件特許発明4と公然知られた発明3(又は,公然実施発明3)とを対比する。
上記(ア),(イ)の対比に加えて,後者の「前記突出部に,非接触領域Cを設け,非接触領域Cの直径は接触領域D,Fの直径よりも小さくなっており,非接触領域Cは接触領域D,FよりもA側にあ」ることと,前者の「前記接合部の上部に小径部を設け」ることとは,「前記接合部の上流側の部分に小径部を設け」ることで共通する。
後者の「前記炭素繊維スリーブと前記ラビリンスハブとの接触領域D,Fは,前記鍔のように形成された円環部のF側の面IよりF側に位置しているとともに,前記炭素繊維スリーブのA側の端面Gは,前記接触領域D,FよりA側に位置している」ことと,前者の「前記円筒ロータと前記第2のロータとの接触部は,前記鍔状円環部の下流側へ退避されているとともに,前記円筒ロータの上端面は,前記接触部より上流側に突出されていること」とは,「前記円筒ロータと前記第2ロータとの接触部は,前記鍔状円環部の下流側に退避されているとともに,前記円筒ロータの上流側の端面は,前記接触部より上流側に突出されている」ことにおいて共通する。
そうすると,本件特許発明4と公然知られた発明3(又は,公然実施発明3)とは,
「円筒形に成形してなる円筒ロータと,
前記円筒ロータと回転軸とを接続する第2のロータとを備え,
前記第2のロータに形成された鍔状円環部に付設された接合部に対し,
前記円筒ロータの側面の一部を接合して構成された真空ポンプにおいて,
前記接合部は,前記鍔状円環部より下流側へ突出したL字状に形成されているとともに,
前記接合部の上流側の部分に小径部を設け,
前記円筒ロータと前記第2のロータとの接触部は,前記鍔状円環部の下流側へ退避されているとともに,前記円筒ロータの上流側の端面は,前記接触部より上流側に突出されている,
ターボ分子ドラッグポンプ。」
の点で一致し,以下の点で相違していると認められる。
<相違点1”>
前記接合部は,前記鍔状円環部より下流側へ突出したL字状に形成されているとともに,前記接合部の「上流側の部分」に小径部を設け,前記円筒ロータと前記第2のロータとの接触部は,前記鍔状円環部の下流側へ退避されているとともに,前記円筒ロータの「上流側の端面」は,前記接触部より上流側に突出されていることに関して,「上流側の部分」,「上流側の端面」がそれぞれ,本件特許発明4では,「上部」,「上端面」であるのに対して,公然知られた発明3(又は,公然実施発明3)では,「A側」の部分,「A側の端面G」である点。
<相違点2”>
本件特許発明4では,「前記接合部の外径は,前記円筒ロータの内径より大きく,前記円筒ロータの内径に圧入嵌合可能な大きさであ」るのに対して,公然知られた発明3(又は,公然実施発明3)では,そのような特定はなされていない点。

<相違点1”について>
本件特許発明4では,真空ポンプの上流側の部分を「上部」とし,上流側の端面を「上端部」としている。
それに対して,公然知られた発明3(又は,公然実施発明3)では,ターボ分子ドラッグポンプをどのように置くかは,明示されていないが,ターボ分子ドラッグポンプを縦置きで使用すること,さらに,縦置きにした場合には,「A側」の部分を「上部」,「A側の端面G」を「上端面」とするのが技術常識といえる。
そうすると,相違点1”は,実質的な相違点とはいえない。
また,仮に,上記相違点1”が実質的な相違点だとしても,公然知られた発明3(又は,公然実施発明3)において,ターボ分子ドラッグポンプを縦置きとし,「A側」の部分を「上部」,「A側の端面G」を「上端面」として設置することは,当業者が通常行う事項である。
<相違点2”について>
相違点2”は相違点2と同様であるから,本件特許発明1の<相違点2について>について検討した理由と同様な理由により,相違点2”は実質的な相違点であって,公然知られた発明3(又は,公然実施発明3)において,相違点2”に係る本件特許発明4の構成とすることは,当業者にとって容易ではない。
<本件特許発明4についてまとめ>
したがって,本件特許発明4は,公然知られた発明3(又は,公然実施発明3)ではなく,公然知られた発明3(又は,公然実施発明3)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから,特許法第29条第1項第1号,特許法第29条第1項第2号,及び,特許法第29条第2項についての取消理由は,いずれも成り立たない。

(エ)本件特許発明5について
本件特許発明5は,本件特許発明1又は本件特許発明4において,さらに「上記円筒ロータの突出部分の長さは,該円筒ロータの肉厚の2倍以上である」と限定したものである。
本件特許発明5と引用発明1とを対比すると,上記(ア)の一致点で一致すると共に,上記相違点1,2に加えて,以下の相違点3で相違すると認められる。
<相違点3>
本件特許発明5では,「上記円筒ロータの突出部分の長さは,該円筒ロータの肉厚の2倍以上である」のに対して,公然知られた発明1(又は,公然実施発明1)では,そのような特定はなされていない点。

そうすると,上記(ア)本件特許発明1について検討したのと同様な理由により,本件特許発明5は,公然知られた発明1又は3(又は,公然実施発明1又は3)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから,特許法第29条第2項についての取消理由は,成り立たない。

(オ)本件特許発明6について
本件特許発明6は,本件特許発明1ないし本件特許発明5において,さらに「上記第2のロータは,少なくともターボ分子ポンプ部あるいは渦流ポンプ部などのポンプ機構を構成すること」と限定したものである。
本件特許発明6と公然知られた発明1(公然実施発明1)とを対比すると,上記相違点1,2に加えて,下記相違点で相違するものと認められる。
<相違点4>
本件特許発明6では,「上記第2のロータは,少なくともターボ分子ポンプ部あるいは渦流ポンプ部などのポンプ機構を構成する」のに対して,公然知られた発明1(又は.公然実施発明1)では,そのような特定はなされていない点。

そうすると,上記(ア)本件特許発明1について検討したのと同様な理由により,本件特許発明6は,公然知られた発明1ないし3(又は,公然実施発明1ないし3)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから,特許法第29条第2項についての取消理由は,成り立たない。

イ.明確性要件違反について
本件訂正により,請求項1?4の「少なくともネジ溝ポンプ部あるいはゲーデポンプ部などを構成する円筒ロータ」を「円筒形に成形してなる円筒ロータ」と訂正し,請求項1,3,4の「上側」,「上方」を「上流側」と訂正し,請求項2,4の「下側」,「下方」を「下流側」と訂正したので,本件特許発明1ないし6の構成は明確となった。
なお,本件特許発明1ないし4における「上」端面,本件特許発明4における「上」部,本件特許発明2における「下」面なる記載はあるが,前述したように「同図において,複合型真空ポンプ10は,吸気口11と排気口12を有する筐体13を備えている。該筐体13内には,上部にターボ分子ポンプ部14と,その下方に円筒形のネジ溝ポンプ部15が設けられているとともに,該ターボ分子ポンプ部14内と該ネジ溝ポンプ部15内を通って前記吸気口11と前記排気口12を連通してなる排気経路24が形成されている。
前記排気通路24は,より具体的には,前記ターボ分子ポンプ部14の後述する相対しているロータ17の外周面と前記筐体13の内周面の間の隙間及び前記ネジ溝ポンプ部15の後述する円筒ロータ21の外周面とステータ23の内周面の間の隙間を相互に連通させるとともに,前記ターボ分子ポンプ部14側の隙間上端側を前記吸気口11に連通させ,かつ,前記ネジ溝ポンプ部15側の隙間下端側を前記排気口12に連通して形成されている。」(特許明細書の段落【0009】(特許掲載公報の第5頁32?42行)),「そして,前記ネジ溝22の下端は前記排気経路24の最下流側において前記排気口12に連通され,前記ターボ分子ポンプ部14の前記ロータ17と前記ネジ溝ポンプ部15の前記円筒ロータ21の接合部分は,前記排気経路24の上流側に設置されている。」(特許明細書の段落【0009】(特許掲載公報の第6頁2?5行))等に記載されるように,上下関係の「上」,「下」がそれぞれ排気流路24の「上流」,「下流」であることが明らかであるから,「上」端部,「上」部が排気流路24の「上流側」の端部,「上流側」の部分であり,上下関係の「下」面が排気流路24の「下流側」の面であると理解することができ,これらの記載も明確でないとまではいえない。

(2)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
ア.特許法第29条第2項について
(ア)本件特許発明3について
甲第1号証?甲第5号証のいずれにも「前記接合部が,前記鍔状円環部より上流側へ突出したL字状に形成されているとともに,前記円筒ロータの上端面は,前記鍔状円環部の上流側へ設置されている」ことは開示されていない。
この点に関し,特許異議申立人は特許異議申立書において,「L字状の接合部を,円環部より上方に突出させるか,下方に突出させるか,これに対応して円筒ロータの上端面をどのように設置するか等ということは,当業者が適宜選択すべき設計事項であるから,本件特許発明3は,公然知られた発明1(又は,公然実施発明1)に基づいて当業者が容易にすることができた発明である。」旨主張しているが,本件特許発明3は,上記構成により,「接合部の突出部が撓んで負荷を緩和することが出来るため,他の部分に比べて材料強度の低い円筒の上端面に高負荷がかかるのを防ぐことが出来る」という格別の作用効果を奏するものであって,当業者が適宜選択すべき設計事項であるとはいえない。
したがって,本件特許発明3は,甲第1号証ないし甲第5号証から把握される公然知られた発明1ないし3(又は,公然実施発明1ないし3)に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

第4.結び
以上のとおりであるから,取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した異議申立ての理由によっては,本件請求項1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に本件請求項1ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (54)【発明の名称】
真空ポンプ
【技術分野】
【0001】
本発明は真空ポンプに関するものであり、特に半導体製造や高エネルギー物理学等の工業真空装置において、低真空から高真空及び超高真空にわたる圧力範囲で利用可能な真空ポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
本明細書では、ターボ分子ポンプ部とネジ溝ポンプ部とを備える複合型真空ポンプを例に挙げて説明する。従来、この種の複合型真空ポンプは、図12に示す従来の一実施例の複合型真空ポンプの縦断面図のように、吸気口101と排気口102とを有する筐体103内に、該吸気口101側からターボ分子ポンプ部104と円筒形ネジ溝ポンプ部105を順次配設した構造となっている。尚、図13は図12のB部拡大図である。
なお、図12において、符号106は前記ターボ分子ポンプ部104及び円筒形ネジ溝ポンプ部105のロータ107の回転軸、108は該回転軸106を回転させるモータである。
また、従来の複合型真空ポンプ100では、前記円筒形ネジ溝ポンプ部105のロータ107はアルミ合金製であり、複合型真空ポンプの回転数の高速化は、円筒形ネジ溝ポンプ部105のロータ107の強度で制限される。
そこで、前記複合型真空ポンプのネジ溝ポンプ部のロータに、繊維強化プラスチック材(Fiber Reinforced Plastics、通称「FRP材」という。)を円筒形に成形してなる円筒ロータ109を使用し、強度アップを図るようにした構造も知られている。
繊維強化プラスチック材としては、アラミド繊維、ボロン繊維、炭素繊維、ガラス繊維、ポリエチレン繊維などを用いたものがある。
しかしながら、複合型真空ポンプにおけるターボ分子ポンプ部104のロータ107の下端部に、繊維強化プラスチック材(以下、「FRP材」という)の円筒ロータ109を設置する場合、異種材料を組み合わせることになるため、熱膨張量や遠心力による変形量に差が生じる。そのため、接合部が緩む不具合や、逆に高い負荷がかかりFRP材製の円筒ロータ109が破損する虞があった。特に円筒の端面で繊維が途切れてしまうために、端面付近の強度は、他の部分に比べて低く、この部分に負荷がかかると容易に破損する虞があった。
また、一般に、接合部の形状は、円筒ロータ109の傾きを防止して同軸度を確保する観点、及び軽量化を図る観点から、ロータ107の接合部110は、円板部分110aと接合部分110bからなる断面L字状となっている。この構造の場合、接合部分110bの下部側が撓み、負荷を緩和する作用があるが、FRPの構造上、最も強度が弱い端面付近はほとんど撓まないため、負荷を緩和する作用がほとんどない。
そこで、従来から、その対策として、例えば特許文献1及び特許文献2で知られるような、様々な手段が提案されている。
すなわち、特許文献1の複合型真空ポンプでは、ターボ分子ポンプ部とネジ溝ポンプ部との熱膨張の差や遠心力による変形量の差を緩和するため、FRP材の支板を介して前記ターボ分子ポンプ部のロータと前記ネジ溝ポンプ部の円筒ロータを接合している。
特許文献2の複合型真空ポンプでは、ターボ分子ポンプ部とネジ溝ポンプ部との熱膨張の差や遠心力による変形量の差を緩和するため、FRP材における繊維の巻き付け角、及び、樹脂含有量等の成形条件や形状を工夫している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3098139号公報。
【特許文献2】特開2004-278512号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記ターボ分子ポンプ部のロータと前記ネジ溝ポンプ部の前円筒ロータをFRP材の支板を介して接合するようにした特許文献1に記載される構造では、部品点数及び組立工数が増えるためにコストアップになるという問題点があった。また、精度良く組み立てるのが難しく、固定部との接触を避ける為にクリアランスを従来より広げることが必要となり、その結果、排気性能が低下するという問題点があった。
また、上述した特許文献2に記載される構造、すなわちFRP材における繊維の巻き付け角、及び、樹脂含有量等の成形条件や形状を工夫している構造では、FRP材の形状が複雑となるため、生産性が悪く、コストアップになるという問題点があった。
そこで、高負荷に耐え得る強度を有するとともに低コスト化が可能な、繊維強化プラスチック材を成形してなる円筒ロータを使用した複合型真空ポンプを提供するために解決すべき技術的課題が生じてくるのであり、本発明はこの課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記目的を達成するために提案されたものであり、請求項1記載の発明では、円筒形に成形してなる円筒ロータと、前記円筒ロータと回転軸とを接続する第2のロータとを備え、前記第2のロータに形成された鍔状円環部に付設された接合部に対し、前記円筒ロータの側面の一部を接合して構成された真空ポンプにおいて、前記接合部の外径は、前記円筒ロータの内径より大きく、前記円筒ロータの内径に圧入嵌合可能な大きさであり、前記円筒ロータの上端面は、前記円筒ロータと前記第2のロータとの接触部より上流側に突出されていることを特徴とする真空ポンプを提供する。
請求項2記載の発明では、円筒形に成形してなる円筒ロータと、前記円筒ロータと回転軸とを接続する第2のロータとを備え、前記第2のロータに形成された鍔状円環部に付設された接合部に対し、前記円筒ロータの側面の一部を接合して構成された真空ポンプにおいて、前記接合部の外径は、前記円筒ロータの内径より大きく、前記円筒ロータの内径に圧入嵌合可能な大きさであり、前記接合部は、前記鍔状円環部より下流側へ突出したL字状に形成されているとともに、前記円筒ロータの上端面は、前記鍔状円環部の下面より下流側へ退避されていることを特徴とする真空ポンプを提供する。
請求項3記載の発明では、円筒形に成形してなる円筒ロータと、前記円筒ロータと回転軸とを接続する第2のロータとを備え、前記第2のロータに形成された鍔状円環部に付設された接合部に対し、前記円筒ロータの側面の一部を接合して構成された真空ポンプにおいて、前記接合部は、前記鍔状円環部より上流側へ突出したL字状に形成されているとともに、前記円筒ロータの上端面は、前記鍔状円環部の上流側へ設置されていることを特徴とする真空ポンプを提供する。
請求項4記載の発明では、円筒形に成形してなる円筒ロータと、前記円筒ロータと回転軸とを接続する第2のロータとを備え、前記第2のロータに形成された鍔状円環部に付設された接合部に対し、前記円筒ロータの側面の一部を接合して構成された真空ポンプにおいて、前記接合部の外径は、前記円筒ロータの内径より大きく、前記円筒ロータの内径に圧入嵌合可能な大きさであり、前記接合部は、前記鍔状円環部より下流側へ突出したL字状に形成されているとともに、前記接合部の上部に小径部を設け、前記円筒ロータと前記第2のロータとの接触部は、前記鍔状円環部の下流側へ退避されているとともに、前記円筒ロータの上端面は、前記接触部より上流側に突出されていることを特徴とする真空ポンプを提供する。
請求項5記載の発明では、上記円筒ロータの突出部分の長さは、該円筒ロータの肉厚の2倍以上であることを特徴とする請求項1又は4記載の真空ポンプを提供する。
請求項6記載の発明では、上記第2のロータは、少なくともターボ分子ポンプ部あるいは渦流ポンプ部などのポンプ機構を構成することを特徴とする請求項1,2,3,4又は5記載の真空ポンプを提供する。
【発明の効果】
【0006】
請求項1記載の発明では、円筒ロータの上端面を、円筒ロータと第2のロータとの接触部より上側に突出させることにより、他の部分に比べて材料強度の低い円筒の上端面に高負荷がかかるのを防ぐことが出来る。
請求項2記載の発明では、接合部を鍔状円環部より下方へ突出したL字状に形成するとともに、円筒ロータの上端面を前記鍔状円環部の下側へ退避させることにより、接合部の突出部が撓んで負荷を緩和することが出来るため、他の部分に比べて材料強度の低い円筒の上端面に高負荷がかかるのを防ぐことが出来る。
請求項3記載の発明では、接合部を鍔状円環部より上方へ突出したL字状に形成するとともに、円筒ロータの上端面を前記鍔状円環部の上側に設置することにより、接合部の突出部が撓んで負荷を緩和することが出来るため、他の部分に比べて材料強度の低い円筒の上端面に高負荷がかかるのを防ぐことが出来る。
請求項4記載の発明では、前記接合部を鍔状円環部より下方へ突出したL字状に形成するとともに、接合部の上部に小径部を設けて、円筒ロータと第2のロータとの接触部を鍔状円環部の下側へ退避させることにより、接合部の突出部が撓んで負荷を緩和することが出来る。さらに、円筒ロータの上端面を、接触部より上側に突出させることにより、他の部分に比べて材料強度の低い円筒の上端面に高負荷がかかるのを防ぐことが出来る。
請求項5記載の発明では、円筒ロータの突出部分の長さを、円筒ロータの肉厚の2倍以上とすることにより、他の部分に比べて材料強度の低い円筒の上端面に高負荷がかかるのを防ぐことが充分に出来る。
請求項6記載の発明では、第2のロータにターボ分子ポンプ部あるいは渦流ポンプ部などのポンプ機構を構成することにより、広い圧力範囲で動作可能な真空ポンプを提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1は本発明の一実施例として示す複合型真空ポンプの縦断面図である。
図2は同上真空ポンプにおけるターボ分子ポンプ部のロータとネジ溝ポンプ部の円筒ロータとの接合構造を示す縦断面図である。
図3は図2のA部拡大図である。
図4は同上真空ポンプにおけるターボ分子ポンプ部のロータとネジ溝ポンプ部の円筒ロータの接合方法を説明する図である。
図5は図3に示した接合構造の一変形例を示す図である。
図6は同上真空ポンプにおけるターボ分子ポンプ部のロータとネジ溝ポンプ部の円筒ロータの別の接合構造を示す縦断面図である。
図7は図6に示した接合構造の一変形例を示す図である。
図8は同上真空ポンプにおけるターボ分子ポンプ部のロータとネジ溝ポンプ部の円筒ロータのさらに別の接合構造を示す縦断面図である。
図9は同上真空ポンプにおけるターボ分子ポンプ部のロータとネジ溝ポンプ部の円筒ロータのさらに別の接合構造を示す縦断面図である。
図10は同上真空ポンプにおけるターボ分子ポンプ部のロータとネジ溝ポンプ部の円筒ロータのさらに別の接合構造を示す縦断面図である。
図11は本発明の他の実施例として示す真空ポンプの縦断面図である。
図12は従来の一実施例として示す複合型真空ポンプの縦断面図である。
図13は図12のB部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、高負荷に耐え得る強度を有するとともに低コスト化が可能な、繊維強化プラスチック材を成形してなる円筒ロータを使用した複合型真空ポンプを提供するという目的を達成するために、少なくともネジ溝ポンプ部あるいはゲーデポンプ部などを有する円筒ロータと、ターボ分子ポンプ部あるいは過流ポンプ部などを有するロータとを備え、前記ロータに形成された鍔状円環部に付設された接合部に対して前記円筒ロータの側面の一部が接合して構成された真空ポンプにおいて、前記接合部は、前記鍔状円環部と一体的に、且つL字状に形成されていることを特徴とする真空ポンプを提供することによって実現した。
【実施例】
【0009】
以下、本発明の複合型真空ポンプについて、好適な実施例を添付図面を参照して説明する。図1及び図2は本発明に係る複合型真空ポンプを示すもので、図1はその縦断面図、図2は、そのポンプのターボ分子ポンプ部のロータとネジ溝ポンプ部の円筒ロータとの接合構造を示す縦断面図、図3は図2のA部拡大断面図、図4は、図2に示したターボ分子ポンプ部のロータとネジ溝ポンプ部の円筒ロータとの接合部分を分解して示す縦断面図である。
同図において、複合型真空ポンプ10は、吸気口11と排気口12を有する筐体13を備えている。該筐体13内には、上部にターボ分子ポンプ部14と、その下方に円筒形のネジ溝ポンプ部15が設けられているとともに、該ターボ分子ポンプ部14内と該ネジ溝ポンプ部15内を通って前記吸気口11と前記排気口12を連通してなる排気経路24が形成されている。
前記排気通路24は、より具体的には、前記ターボ分子ポンプ部14の後述する相対しているロータ17の外周面と前記筐体13の内周面の間の隙間及び前記ネジ溝ポンプ部15の後述する円筒ロータ21の外周面とステータ23の内周面の間の隙間を相互に連通させるとともに、前記ターボ分子ポンプ部14側の隙間上端側を前記吸気口11に連通させ、かつ、前記ネジ溝ポンプ部15側の隙間下端側を前記排気口12に連通して形成されている。
前記ターボ分子ポンプ部14は、回転軸16に固設されたアルミ合金製のロータ17の外周面に突設された多数の動翼18,18…と、前記筐体13の内周面に突設された多数の静翼19,19…との組み合わせからなる。
前記ネジ溝ポンプ部15は、前記ターボ分子ポンプ部14におけるロータ17の下端部の外周面に断面L字状に突設された鍔状円環部20の外周、すなわち接合部20aに圧入固着して取り付けられた円筒ロータ21と、該円筒ロータ21の外周と小隙間を有して対向し、該小隙間と共に前記排気経路24の一部を形成してなるネジ溝22が刻設されたステータ23とからなる。
前記ステータ23の前記ネジ溝22は、下方に行くに従って深さが浅くなるようにして形成されている。また、該ステータ23は、前記筐体13の内面に固定されている。そして、前記ネジ溝22の下端は前記排気経路24の最下流側において前記排気口12に連通され、前記ターボ分子ポンプ部14の前記ロータ17と前記ネジ溝ポンプ部15の前記円筒ロータ21の接合部分は、前記排気経路24の上流側に設置されている。
また、前記回転軸16の中間部には、モータ筐体25内に設けたインダクションモータ等の高周波モータ26のロータ26aが固定されている。該回転軸16は、磁気軸受で支承され、上部及び下部に保護軸受27,27が設けられている。
前記円筒ロータ21は、円周方向と軸方向の両方に力が分担するように繊維を配向させて、複合層として円筒形に形成してなる。
前記接合部20aは、前記円筒ロータ21の内径より若干大きく、該円筒ロータ21内に圧入嵌合可能な外径を有する接触部28と、接触部28の上方に位置し、かつ、前記円筒ロータ21の内径より小さな外径を有する小径部29を設けてなる。
そして、前記ロータ17は、図4に示すように、前記円筒ロータ21の上端側に前記接合部20aを対応させ、かつ、図1及び図2に示すように該接合部20aを該円筒ロータ21内に挿入させて該接合部20aの該接触部28を円筒ロータ21の内面に圧接させて該円筒ロータ21に取り付けられる。また、必要に応じて、該接触部28と円筒ロータ21との間を接着剤で固定する。
すなわち、本実施例の構造では、図3に詳細に示すように、接合部20aは、該接合部20aの上面と円筒ロータ21の上端面がほぼ一致する位置まで挿入すると、前記接触部28の外周面が前記円筒ロータ21の内周面と圧接し、また前記小径部29の外周面と前記円筒ロータ21の内周面の間に隙間S3が設けられる。さらに、本実施例の構造では、前記円筒ロータ21の上端面から前記接触部28までの距離、すなわち前記小径部29の距離S1は前記円筒ロータ21の肉厚tの2倍以上、また前記ターボ分子ポンプ部14の前記ロータ17の底面から前記接触部28までの距離S2を十分得るようにして形成されている。
次に、上記実施例の複合型真空ポンプの動作を説明する。前記高周波モータ26の駆動により前記吸気口11から流入する気体は、分子流あるいはそれに近い中間流状態にあり、その気体分子は前記ターボ分子ポンプ部14の回転する前記動翼18,18…と前記筐体13から突設した前記静翼19,19…との作用より、下方向に運動量が与えられ、該動翼18,18…の拘束回転と共に圧縮移動する。
また、前記圧縮移動された気体は、前記ネジ溝ポンプ部15において、回転する前記円筒ロータ21と、小間隙を有して形成された前記ステータ23に沿って流れるに従って深さが浅くなる前記ネジ溝22に導かれるようにして、粘性流状態まで圧縮されながら前記排気通路24内を流れて前記排気口12から排出される。
そして、前記円筒ロータ21と前記ロータ17とは、該円筒ロータ21の端面から十分な距離S1だけ離れた位置で接触しているので、該接触部28と該円筒ロータ21の間に高負荷がかかったとき、該接触部28が該小径部29に対して撓み、負荷を吸収して該円筒ロータ21を保護することができる。これにより簡単な構造であるにもかかわらず、高負荷に耐え得る強度を備え、回転の高速化を可能にする。また、前記接触部28と前記円筒ロータ21とが、該ターボ分子ポンプ部14のロータ17の底面より下側で接触しているので、該接触部28と該円筒ロータ21との間に高負荷がかかったとき、該接触部28の撓みがより一層得られることになる。
なお、上記複合型真空ポンプ10の構造において、例えば図5に示すように、前記接触部28の下端部に、前記円筒ロータ21の内径より小さな外径で傾斜するガイド傾斜面30を設けてなる構成にすると、前記ロータ17の接合部20aを該円筒ロータ21の上端部に挿入する際、該ガイド傾斜面30をガイドとしてスムーズに挿入させることができ、組立作業を容易にして低コスト化できる。また、組立時、接合部20aを冷やし、予め外径寸法を縮小させた状態にして挿入、すなわち冷やしバメして挿入するとさらに組立作業を容易にすることができる。
さらに、上記複合型真空ポンプ10の構造において、例えば図6に示すように、前記ターボ分子ポンプ部14の前記ロータ17側、すなわち前記小径部29の上端部に、前記円筒ロータ21の挿入量を規制するストッパー31を設けてなる構成にし、該円筒ロータ21の上端部に、該ロータ17の接合部20aを挿入する際、前記ストッパー31に前記円筒ロータ21の上部端面が当接するまで挿入させるようにすると、該ロータ17と円筒ロータ21を簡単に所定の位置に取り付けることができ、組立精度を安定化させることができる。
さらに、図6に示した変形例において、例えば図7に示すように、図5で示した構造と同様にして前記接触部28の下端部に、前記円筒ロータ21の内径より小さな外径で傾斜するガイド傾斜面30を設けてなる構成にすると、前記ロータ17の接合部20aを該円筒ロータ21の上端部に挿入する際、該ガイド傾斜面30をガイドとしてスムーズに挿入させることができ、組立作業を容易にして低コスト化できる。
また、上記複合型真空ポンプ10の構造において、例えば図8に示すように、前記円筒ロータ21の上端部を前記接合部20aの上端面より上方に大きく突き出した構造、あるいは図9に示すように、前記円筒ロータ21の上端部を前記接合部20aの下面面より下方に大きく退避させた構造にしてもよい。さらに、図8及び図9の構造において、図5及び図7に示した接合部20aの構造と同様に、ガイド傾斜面を設けると、前記ロータ17の接合部20aを該円筒ロータ21の上端部に挿入する際、該ガイド傾斜面30をガイドとしてスムーズに挿入させることができる。尚、図9の構造は、円筒ロータの上端を鍔上円環部の下方に退避させることで、円筒ロータ上端に掛かる応力を低減させることが出来る。このとき、円筒ロータの上端が鍔状円環部より上側に無くても、L字の部分が撓むことによって円筒ロータ上端に掛かる応力を低減させることが出来る。このように、円筒ロータ上端に掛かる応力を低減させる方法ということで発明の単一性は存在する。
尚、図8に示すように、円筒ロータ21の上端部を接合部20aの上端面より上方に大きく突き出した構造、あるいは、図9に示すように、円筒ロータ21の上端部を接合部20aの下面より下方に大きく退避させた構造においては、小径部29が無くても円筒ロータ21の上端部に作用する応力を小さくすることができる。または、図10に示すように、接合部を鍔状円環部より上方へ突出したL字状に形成し、円筒ロータの上端面を前記鍔状円環部の上側へ退避させても良い。
以上、本発明の具体的な実施例を説明したが、本発明の真空ポンプは本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変を為すことができ、そして、本発明が上述した変形例以外の改変されたものに及ぶことは当然である。
【産業上の利用可能性】
【0010】
以上説明したように、本発明は複合型真空ポンプ以外の、FRP材で円筒形に成形してなる円筒ロータを使用する装置にも応用できる。例えば、図11に示す本発明の他の実施例の真空ポンプの縦断面図のように、ネジ溝ポンプ部のみを備える真空ポンプにも応用することができる。この場合、回転軸16に固設された鍔状円環部40の外周、すなわち接合部40aに、円筒ロータ41が圧入固着して取付けられる。尚、動作は、図1のネジ溝ポンプ部15の動作と同じである。
また、本発明は、FRP材を使用した円筒ロータを例にして説明したが、金属製の円筒ロータであっても同様の効果が期待できる。すなわち、円筒ロータの上部端面に掛かる応力が低減され、端面付近についたキズなどから亀裂が進展するのを防止できるため、金属製の円筒ロータであっても、ロータの強度を高くすることが出来る。
【符号の説明】
【0011】
10 複合型真空ポンプ
11 吸気口
12 排気口
13 筐体
14 ターボ分子ポンプ部
15 ネジ溝ポンプ部
16 回転軸
17 ロータ
18 動翼
19 静翼
20、40 鍔状円環部
20a 接合部
21、41 円筒ロータ
22 ネジ溝
23 ステータ
24 排気通路
25 モータ筐体
26 高周波モータ
26a ロータ
27 保護軸受
28 接触部
29 小径部
30 ガイド傾斜面
31 ストッパー
38 接触部
39 小径部
40a 接合部
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形に成形してなる円筒ロータと、
前記円筒ロータと回転軸とを接続する第2のロータとを備え、
前記第2のロータに形成された鍔状円環部に付設された接合部に対し、
前記円筒ロータの側面の一部を接合して構成された真空ポンプにおいて、
前記接合部の外径は、前記円筒ロータの内径より大きく、前記円筒ロータの内径に圧入嵌合可能な大きさであり、
前記円筒ロータの上端面は、前記円筒ロータと前記第2のロータとの接触部より上流側に突出されていることを特徴とする真空ポンプ。
【請求項2】
円筒形に成形してなる円筒ロータと、
前記円筒ロータと回転軸とを接続する第2のロータとを備え、
前記第2のロータに形成された鍔状円環部に付設された接合部に対し、
前記円筒ロータの側面の一部を接合して構成された真空ポンプにおいて、
前記接合部の外径は、前記円筒ロータの内径より大きく、前記円筒ロータの内径に圧入嵌合可能な大きさであり、
前記接合部は、前記鍔状円環部より下流側へ突出したL字状に形成されているとともに、前記円筒ロータの上端面は、前記鍔状円環部の下面より下流側へ退避されていることを特徴とする真空ポンプ。
【請求項3】
円筒形に成形してなる円筒ロータと、
前記円筒ロータと回転軸とを接続する第2のロータとを備え、
前記第2のロータに形成された鍔状円環部に付設された接合部に対し、
前記円筒ロータの側面の一部を接合して構成された真空ポンプにおいて、
前記接合部は、前記鍔状円環部より上流側へ突出したL字状に形成されているとともに、前記円筒ロータの上端面は、前記鍔状円環部の上流側へ設置されていることを特徴とする真空ポンプ。
【請求項4】
円筒形に成形してなる円筒ロータと、
前記円筒ロータと回転軸とを接続する第2のロータとを備え、
前記第2のロータに形成された鍔状円環部に付設された接合部に対し、
前記円筒ロータの側面の一部を接合して構成された真空ポンプにおいて、
前記接合部の外径は、前記円筒ロータの内径より大きく、前記円筒ロータの内径に圧入嵌合可能な大きさであり、
前記接合部は、前記鍔状円環部より下流側へ突出したL字状に形成されているとともに、前記接合部の上部に小径部を設け、
前記円筒ロータと前記第2のロータとの接触部は、前記鍔状円環部の下流側へ退避されているとともに、前記円筒ロータの上端面は、前記接触部より上流側に突出されていることを特徴とする真空ポンプ。
【請求項5】
上記円筒ロータの突出部分の長さは、該円筒ロータの肉厚の2倍以上であることを特徴とする請求項1又は4記載の真空ポンプ。
【請求項6】
上記第2のロータは、少なくともターボ分子ポンプ部あるいは渦流ポンプ部などのポンプ機構を構成することを特徴とする請求項1,2,3,4又は5記載の真空ポンプ。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-07-14 
出願番号 特願2012-522525(P2012-522525)
審決分類 P 1 651・ 851- YAA (F04D)
P 1 651・ 853- YAA (F04D)
P 1 651・ 111- YAA (F04D)
P 1 651・ 112- YAA (F04D)
P 1 651・ 121- YAA (F04D)
P 1 651・ 537- YAA (F04D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 田谷 宗隆  
特許庁審判長 久保 竜一
特許庁審判官 中川 真一
藤井 昇
登録日 2015-06-26 
登録番号 特許第5767636号(P5767636)
権利者 エドワーズ株式会社
発明の名称 真空ポンプ  
代理人 江崎 光史  
代理人 林 孝吉  
代理人 清水 貴光  
代理人 篠原 淳司  
代理人 林 孝吉  
代理人 清水 貴光  
代理人 清田 栄章  
代理人 鍛冶澤 實  

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