• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C02F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C02F
管理番号 1332234
異議申立番号 異議2016-700568  
総通号数 214 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-10-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-06-24 
確定日 2017-07-28 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5834492号発明「超純水製造装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5834492号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。 特許第5834492号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 特許第5834492号の請求項4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1.手続の経緯
特許第5834492号は、平成23年5月25日に出願された特願2011-117142号について、平成27年11月13日に設定登録がされ、その後、その請求項1-4に係る特許に対し、特許異議申立人 三田 翔により特許異議の申立てがなされ、平成28年9月16日付けで本件特許の請求項1-4に係る特許に対する取消理由が通知され、平成28年11月15日付けで特許権者より意見書の提出及び訂正の請求がなされ、平成28年12月28日付けで特許異議申立人より意見書の提出がなされ、平成29年3月2日付けで本件特許の請求項1-3に係る特許に対する取消理由が通知され、平成29年4月14日付けで特許権者より意見書の提出及び訂正の請求がなされ、平成29年6月9日付けで特許異議申立人より意見書の提出がなされたものである。

第2.訂正の請求
1.訂正の内容
平成29年4月14日付け訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、次の訂正事項1-4よりなる。
(平成28年11月15日付けの訂正請求は、みなし取下げとなった。)

(ア)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「該一次純水システムに設置された逆浸透膜分離装置が高圧型逆浸透膜分離装置であって、」と記載されているのを「該一次純水システムは、高圧型逆浸透膜分離装置、イオン交換装置及び脱気装置を備え、かつ高圧型逆浸透膜分離装置、イオン交換装置及び脱気装置がこの順番で配置されており、」と訂正すると共に、「前記高圧型逆浸透膜分離装置は、標準運転圧力におけるNaCl除去率99.5%(NaCl32000mg/L)以上の特性を有し、且つ単段にて設置されている」と記載されているのを、「前記高圧型逆浸透膜分離装置は、標準運転圧力におけるNaCl除去率99.5%(NaCl32000mg/L)以上の特性を有し、膜面有効圧力が1.5?3MPaであり、且つ単段にて設置されている」に訂正する。

(イ)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4を削除する。

(ウ)訂正事項3
明細書の【0011】に「該一次純水システムに設置された逆浸透膜分離装置が高圧型逆浸透膜分離装置であって、」と記載されているのを「該一次純水システムは、高圧型逆浸透膜分離装置、イオン交換装置及び脱気装置を備え、かつ高圧型逆浸透膜分離装置、イオン交換装置及び脱気装置がこの順番で配置されており、」と訂正すると共に、「前記高圧型逆浸透膜分離装置は、標準運転圧力におけるNaCl除去率99.5%(NaCl32000mg/L)以上の特性を有し、且つ単段にて設置されている」と記載されているのを、「前記高圧型逆浸透膜分離装置は、標準運転圧力におけるNaCl除去率99.5%(NaCl32000mg/L)以上の特性を有し、膜面有効圧力が1.5?3MPaであり、且つ単段にて設置されている」に訂正する。

(エ)訂正事項4
明細書の【0014】を削除する。

2.訂正の適否
(ア)訂正事項1について
訂正事項1は、請求項1において、訂正前に特定されていない一次純水システムの「装置構成」を「高圧型逆浸透膜分離装置、イオン交換装置及び脱気装置を備え、かつ高圧型逆浸透膜分離装置、イオン交換装置及び脱気装置がこの順番で配置されて」いることを特定し、高圧型逆浸透膜分離装置の「膜面有効圧力」を「1.5?3MPa」に限定するものだから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、当該訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
さらに、当該訂正事項1において限定した事項は、願書に添付した図面の図1及び特許請求の範囲の請求項4の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。

(イ)訂正事項2について
訂正事項2は、特許請求の範囲の請求項4を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、当該訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。

(ウ)訂正事項3について
訂正事項3は、上記訂正事項1に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに相当する。
したがって、当該訂正事項3は、訂正事項1同様、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。

(エ)訂正事項4について
訂正事項4は、上記訂正事項2に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るために、該当段落を削除する訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに相当する。
そして、当該訂正事項4は、訂正事項2同様、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。

3.一群の請求項について
訂正事項1、2に係る訂正前の請求項1-4について、請求項2-4は請求項1を引用しているものであって、請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1-4に対応する訂正後の請求項1-4(ただし、請求項4は削除)は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
そして、訂正事項3,4に係る明細書の訂正は、これら一群の請求項の全てについて請求するものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とし、同条第4項及び第9項の規定によって準用する第126条第4項乃至第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正を認める。

第3.本件発明
上記「第2.」のとおり、本件訂正請求による訂正が認められるから、本件特許の請求項1-3に係る発明(以下、請求項の項番にしたがって、「本件発明1」などといい、全体をまとめて「本件発明」という。)は、平成29年4月14日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1-3に記載された事項により特定される、以下のものである。

「【請求項1】
一次純水システムと、該一次純水システムの処理水を処理するサブシステムとを備え、少なくとも該一次純水システムに逆浸透膜分離装置が設けられている超純水製造装置において、該一次純水システムは、高圧型逆浸透膜分離装置、イオン交換装置及び脱気装置を備え、かつ高圧型逆浸透膜分離装置、イオン交換装置及び脱気装置がこの順番で配置されており、前記高圧型逆浸透膜分離装置は、標準運転圧力におけるNaCl除去率99.5%(NaCl32000mg/L)以上の特性を有し、膜面有効圧力が1.5?3MPaであり、且つ単段にて設置されていることを特徴とする超純水製造装置。
【請求項2】
請求項1において、前記高圧型逆浸透膜分離装置は、標準運転圧力5.52MPa以上、標準運転圧力における純水フラックス0.5m^(3)/m^(2)・D以上の特性を有することを特徴とする超純水製造装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、原水を処理する前処理システムを有し、該前処理システムの処理水が前記一次純水システム及びサブシステムで順次処理される超純水製造装置であって、前記高圧型逆浸透膜分離装置への給水のTDSが1500mg/L以下であることを特徴とする超純水製造装置。」

第4.取消理由についての当審の判断
1.取消理由の概要
特許異議申立人は、証拠として下記甲第1-10号証(以下、「甲1」、「甲2」等という。)を提出し、本件訂正前の請求項1-4に係る特許は、特許法第113条第2号又は第4号に該当し、取り消すべきものである旨、主張している。
これに対し、当審にて本件訂正前の請求項1-4に係る特許に対して平成28年9月16日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。

1)本件訂正前の請求項1-4に係る発明は、本件特許の出願前に発行された下記甲5に記載された発明、甲3の記載事項および甲2、9に記載された技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

甲1:特開平11-165170号公報
甲2:JIS K3805-1990、平成2年1月1日制定
甲3:特開2006-26484号公報
甲4:現場で役立つ膜ろ過技術、株式会社工業調査会、2006年7月10日発行
甲5:特開2003-266097号公報
甲6:実開昭63-130196号公報
甲7:特開2009-160500号公報
甲8:膜処理による水処理技術の新展開、株式会社シーエムシー出版、2004、9月30日発行
甲9:超純水の科学、株式会社リアライズ社、平成2年9月11日発行
甲10:日東電工SWC4+のスペックシート

2.引用例の記載事項及び引用発明
(1)甲5の記載事項
甲5(特開2003-266097号公報)には、「超純水製造装置」(発明の名称)について、次の記載がある。
(ア)「【請求項1】 前処理システムと、該前処理システムによって処理された前処理水を処理して一次純水とする一次純水システムと、一次純水を処理するサブシステムとを有する超純水製造装置において、
該一次純水システムが、逆浸透膜分離装置、脱ガス装置、電気脱イオン装置、紫外線酸化装置、及び非再生型イオン交換装置の順で接続された構成とされていることを特徴とする超純水製造装置。」
(イ)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は半導体、液晶、製薬、食品、電力等の分野の各種産業、民生用又は研究設備で利用される超純水を製造する超純水製造装置に係る。特に、シリカ、ホウ素、TOCなどの弱電解物質において高い水質を要求される超純水製造装置の一次純水システムの改良に関する。」
(ウ)「【0002】
【従来の技術】従来、半導体等の分野で用いられている超純水は、前処理システム、前処理水を処理する一次純水システム及び一次純水を処理するサブシステムで構成される超純水製造装置で、原水(工業用水、市水、井水等)を処理することにより製造されている。」
(エ)「【0004】逆浸透(RO)膜分離装置、脱ガス装置及び再生型イオン交換装置(混床式又は4床5塔式など)を備える一次純水系システムでは、原水中のイオンや有機成分の除去を行う。なお、RO膜分離装置では、塩類を除去すると共に、イオン性、コロイド性のTOCを除去する。イオン交換装置では、塩類を除去すると共にイオン交換樹脂によって吸着又はイオン交換されるTOC成分の除去を行う。脱ガス装置では無機系炭素(IC)、溶存酸素の除去を行う。」
(オ)「【0014】一方、半導体分野で使用される超純水の要求水質は最も厳しく、特にシリカ、ホウ素、TOCは現在の分析のレベルの下限値以下まで要求される。」
(カ)「【0025】図1(a),(b)に示す超純水製造装置は、前処理システム1、一次純水システム2及びサブシステム3で構成される。図1(a)の超純水製造装置の一次純水システム2は、脱ガス装置21、RO膜分離装置22、電気脱イオン装置23、UV酸化装置24及び非再生型イオン交換装置25がこの順で接続されて構成されている。図1(b)の超純水製造装置の一次純水システム2は、RO膜分離装置22、脱ガス装置21、電気脱イオン装置23、UV酸化装置24及び非再生型イオン交換装置25がこの順で接続されて構成されている。」
(キ)「【0027】脱ガス装置21は、被処理水中の溶存酸素(DO)及び炭酸ガス(CO2)を除去するために設置される。DOが電気脱イオン装置23に流入すると、イオン交換部材が劣化する。また、CO2が存在すると、電気脱イオン装置23における脱イオン効率が低下する。このため、脱ガス装置21により、被処理水中のDO及びCO2を予め除去しておく。電気脱イオン装置23におけるイオン交換部材の劣化防止及び脱イオン効率の向上のためには、脱ガス装置21の処理水のDO濃度が1ppm未満、CO2濃度が1.0ppm未満となるように除去することが好ましい。脱ガス装置としては、膜脱気装置、真空脱気装置、窒素脱気装置等を用いることができる。」
(ク)「【0028】RO膜分離装置22は、被処理水中の塩類、シリカ、ホウ素、TOC、微粒子等を分離除去するために設置される。RO膜分離装置22によるこれらの不純物の除去率には限界があり、一般的な市水、工水を原水として処理した場合、RO膜分離装置22の処理水の比抵抗値は約0.5MΩ・cm、シリカ濃度は約500ppb、ホウ素濃度は約10ppb、TOC濃度は約100ppbであるため、要求水質を満たすためには、後段に電気脱イオン装置23等が更に必要となる。」
(ケ)「【0029】RO膜分離装置22のRO膜としては、NaCl除去率98%以上を有する膜であれば特に限定するものではないが、ポリアミド膜が好ましい。
【0030】前述の如く、RO膜分離装置を直列に多段に設けると、後段の電気脱イオン装置の負荷は低減するが、装置の構成の複雑化、高圧ポンプ容量の増大を招くため、本発明ではRO膜分離装置を1段で構成する。」
(コ)「【0039】本発明では、RO膜分離装置を一段とするため、TOCをより高度に除去するために、有機物分解装置としてのUV酸化装置24と、UV酸化装置24での分解により生成した有機酸等のイオン状物質を除去するための非再生型イオン交換装置25を設ける。」
(サ)「【0043】なお、以下の実施例及び比較例で用いた各装置の仕様は次の通りである。
活性炭装置:栗田工業(株)製「クリコールKW10-30」
通水SV;20/hr
RO膜分離装置:栗田工業(株)製「膜エースKN200」
脱ガス装置:脱気膜モジュール;大日本インキ化学工業(株)製
電気脱イオン装置:栗田工業(株)製
処理量;100L/hr
低圧UV酸化装置:(株)日本フォトサイエンス社製
UL-UVoxランプ「AZ26」1本
非再生型イオン交換装置:栗田工業(株)製「DZ-50」」

(2)引用発明の認定
記載事項(ア)(カ)によれば、甲5には、前処理システムと、前処理システムによって処理された前処理水を処理して一次純水とする一次純水システムと、一次純水を処理するサブシステムとを備え、一次純水システムが、逆浸透膜分離装置、脱ガス装置、電気脱イオン装置、紫外線酸化装置、及び非再生型イオン交換装置の順で接続されている超純水製造装置が記載されている。
記載事項(ケ)によれば、甲5には、一次純水システムの逆浸透膜分離装置(RO膜分離装置)は1段で構成され、逆浸透膜分離装置(RO膜分離装置)のRO膜は、NaCl除去率98%以上であることが記載されている。
したがって、甲5には、
「前処理システムによって処理された前処理水を処理して一次純水とする一次純水システムと、該一次純水システムで処理された一次純水を処理するサブシステムとを備え、該一次純水システムが逆浸透膜分離装置、脱ガス装置、電気脱イオン装置、紫外線酸化装置、及び非再生型イオン交換装置の順で接続されている超純水製造装置において、該一次純水システムに設置された逆浸透膜分離装置が、NaCl除去率98%以上の特性を有し、且つ1段にて設置されている超純水製造装置。」(以下「引用発明1」という)が記載されていると認められる。

3.本件発明1と引用発明1との対比・判断
(1)対比
本件発明1と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「一次純水」、「1段」は、本件発明1の「一次純水システムの処理水」、「単段」に相当する。
したがって、本件発明1と引用発明1とは、
「一次純水システムと、該一次純水システムの処理水を処理するサブシステムとを備え、少なくとも該一次純水システムに逆浸透膜分離装置が設けられている超純水製造装置において、該一次純水システムに設置された逆浸透膜分離装置が単段にて設置されていることを特徴とする超純水製造装置。」である点で一致し、下記(相違点1)、(相違点2)で相違する。

(相違点1)
本件発明1では、「一次純水システム」が「高圧型逆浸透膜分離装置、イオン交換装置及び脱気装置を備え、かつ高圧型逆浸透膜分離装置、イオン交換装置及び脱気装置がこの順番で配置されて」いるのに対し、引用発明1では、「一次純水システム」が「逆浸透膜分離装置、電気脱イオン装置及び脱ガス装置を備え、かつ逆浸透膜分離装置、脱ガス装置、電気脱イオン装置の順で接続されて」いる点。

(相違点2)
本件発明1では、「NaCl32000mg/L」の評価条件で「NaCl除去率」が「99.5%以上」の「高圧型」の逆浸透膜分離装置が一次純水システムに設置され、該逆浸透膜分離装置の膜面有効圧力が「1.5?3MPa」に特定されているであるのに対し、引用発明1では、一次純水システムに設置される逆浸透膜分離装置のNaCl除去率は、「98%以上」であって、「NaCl除去率」の評価条件は不明であり、該逆浸透膜分離装置が「高圧型」であるかや、膜面有効圧力も不明である点。

(2)判断
まず、(相違点1)について検討する。
引用発明1は、一次純水システムが、逆浸透膜分離装置、脱ガス装置、電気脱イオン装置の順で接続されているものであり、この順序について、記載事項(キ)によれば、甲5には、「DOが電気脱イオン装置23に流入すると、イオン交換部材が劣化する。また、CO_(2)が存在すると、電気脱イオン装置23における脱イオン効率が低下する。このため、脱ガス装置21により、被処理水中のDO及びCO_(2)を予め除去しておく。」ことが記載されている。
したがって、申立人が主張するように、一次純水システムの配置順として、逆浸透膜分離装置、イオン交換装置、脱気装置の順序が周知であったとしても、また、甲3,2,9の記載事項を考慮しても、甲5に記載された引用発明1の一次純水システムにおいて、電気脱イオン装置と脱ガス装置の順序を逆にすることには阻害要因がある。
よって、(相違点2)について判断するまでもなく、本件発明1は、甲5に記載された発明、甲3の記載事項および甲2、9に記載された技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

4.本件発明2,3について
本件発明2,3は、本件発明1を引用し、本件発明1をさらに限定する発明であるから、引用発明1、甲3の記載事項および甲2、9に記載された技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第5.取消理由において採用しなかった特許異議申立理由について
特許異議申立人は、「第4」で検討した取消理由1)に加え、下記申立理由2)、3)により、本件特許の請求項1-4に係る特許は、特許法第113条第2号及び第4号に該当し、取り消すべきものである旨、主張しているので、以下検討する。

申立理由2)本件特許の請求項1-4に係る発明は、本件特許の出願前に発行された下記甲1に記載された発明および技術常識に基づいて、若しくは、甲1に記載された発明、甲3の記載事項および技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
申立理由3)本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

1.申立理由2)について
(1)甲1の記載事項
甲1(特開平11-165170号公報)には、「超純水の製造方法」(発明の名称)について、次の記載がある。
(シ)「【請求項1】前処理した原水を、逆浸透膜モジュ-ルを備えた一次純水システムで純水に仕上げ、上記とは別箇の逆浸透膜モジュ-ル及び該逆浸透膜モジュ-ルの透過側に紫外線照射装置またはイオン交換装置の少なくとも何れかを備えたサブシステムで上記純水を超純水に精製する方法において、サブシステムの逆浸透膜モジュ-ルに、阻止性能が一次純水システムの逆浸透膜モジュ-ルの阻止性能よりも高いものを使用することを特徴とする超純水の製造方法。」
(ス)「【0005】本発明の目的は、・・・超純水の製造方法において、有機物を効果的に除去してTOCを低減し、その結果・・・経済的なシステムを提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明に係る超純水の製造方法は、前処理した原水を、逆浸透膜モジュ-ルを備えた一次純水システムで純水に仕上げ、上記とは別箇の逆浸透膜モジュ-ル及び該逆浸透膜モジュ-ルの透過側に紫外線照射装置またはイオン交換装置の少なくとも何れかを備えたサブシステムで上記純水を超純水に精製する方法において、サブシステムの逆浸透膜モジュ-ルに、阻止性能が一次純水システムの逆浸透膜モジュ-ルの阻止性能よりも高いものを使用することを特徴とする構成であり、逆浸透膜モジュ-ルの阻止性能を1ppm以下のイソプロピルアルコ-ルを含む液を評価液として求めた阻止率で評価することが適切である。」
(セ)「【0007】
【発明の実施の形態】本発明は、前処理システム、一次純水システム及びサブシステムを順次に経て超純水を製造する場合に実施される。・・・
【0008】上記前処理システム及び一次純水システムにおける逆浸透膜モジュ-ルには、評価液3.5%NaCl水溶液、評価圧力56kgf/cm^(2)での阻止率が99%以下といった通常の逆浸透膜モジュ-ルを使用しているので、充分に高い透過流束を保証しつつ、無機イオン、有機物及びその他の微粒子を除去してグレ-ドを高めていくことができる。この場合、有機物中の低分子量成分は逆浸透膜モジュ-ルをリ-クし、一次純水タンク内の純水のTOC値は、数10ppb程度となる。而るに、本発明においては、サブシステムの逆浸透膜モジュ-ルに上記前処理システムや一次純水システムの逆浸透膜モジュ-ルの阻止性能よりも高い阻止性能の逆浸透膜モジュ-ルを使用しているから、サブシステムの逆浸透膜モジュ-ルの透過側のTOCを従来よりも充分に低くできる。具体的には、TOCが20ppbの一次純水を、評価液3.5%NaCl水溶液、評価圧力56kgf/cm^(2)での阻止率が99%の全芳香族ポリアミド複合膜の逆浸透膜モジュ-ルで処理する従来例の場合、その透過側のTOCは8.0ppbであったが、評価液3.5%NaCl水溶液、評価圧力56kgf/cm^(2)での阻止率が99.5%の架橋全芳香族ポリアミド複合膜の逆浸透膜モジュ-ルで処理する本発明の場合、その透過側のTOCは4.9ppbであった。従って、本発明によれば、サブシステムの逆浸透膜モジュ-ルの透過側のTOCを軽減でき、その結果逆浸透膜モジュ-ルの下流に設置された低圧UVランプの本数を低減でき、イオン交換樹脂の交換頻度を長くできる。」
(ソ)「【0009】本発明において、逆浸透膜モジュ-ルの阻止性能は、有機物の低分子量成分に対する通過阻止性を問題にしており、混入されている有機物としては、イソプロピルアルコ-ルが一般的であってその混入量が1ppm以下であるから、イソプロピルアルコ-ルの含有量が1ppm以下の水溶液を評価液とする阻止率で逆浸透膜モジュ-ルの阻止性能を評価することが適切である。・・・」
(タ)「【0010】
【実施例】〔実施例1〕一次純水システムの逆浸透膜モジュ-ルに100ppbイソプロピルアルコ-ル水溶液、圧力15kgf/cm^(2)での阻止率が88%(3.5%NaCl水溶液、圧力56kgf/cm^(2)での阻止率が99%)の全芳香族ポリアミド複合半透膜の逆浸透膜モジュ-ルを用い、サブシステムの逆浸透モジュ-ルに100ppbイソプロピルアルコ-ル水溶液、圧力15kgf/cm^(2)での阻止率が93%の全芳香族ポリアミド複合半透膜の逆浸透膜モジュ-ルを用いた。サブシステムの逆浸透膜モジュ-ルの透過側には低圧UVランプとイオン交換装置を設置した。サブシステムは回収率90%で運転した。このシステムの一次純水のTOCは20ppbであり、逆浸透膜モジュ-ルの透過水出口のTOCは4.1ppbであった。また、これを低圧UVランプ及びイオン交換樹脂で処理した最終的な処理水のTOCは0.6ppbであり、256Mbitでの要求水質とされている1.0ppb以下を満足した。」
(チ)「【0011】〔実施例2〕実施例1に対し、サブシステムの逆浸透モジュ-ルに3.5%NaCl水溶液、圧力56kgf/cm^(2)での阻止率が99.5%の全芳香族ポリアミド複合半透膜の逆浸透膜モジュ-ルを用いた。他は実施例1に同じとした。このシステムの一次純水のTOCは20ppbであり、逆浸透膜モジュ-ルの透過水出口でのTOCは4.9ppbであった。また、これを低圧UVランプ及びイオン交換樹脂で処理した最終的な処理水のTOCは0.7ppbであり、256Mbitでの要求水質とされている1.0ppb以下を満足した。」

(2)引用発明の認定
記載事項(シ)-(チ)によれば、甲1には、
「前処理システムによって処理された前処理水を処理して一次純水とする一次純水システムと、該一次純水システムで処理された一次純水を処理するサブシステムとを備え、該一次純水システムの逆浸透膜モジュールは、評価液3.5%NaCl水溶液、評価圧力56kgf/cm^(2)での阻止率が99%、評価液100ppbイソプロピルアルコール水溶液、評価圧力15kgf/cm^(2)での阻止率が88%であり、サブシステムの逆浸透膜モジュールは一次純水システムの逆浸透膜モジュールより阻止性能が高く、評価液100ppbイソプロピルアルコール水溶液、評価圧力15kgf/cm^(2)での阻止率が93%、又は、評価液3.5%NaCl水溶液、評価圧力56kgf/cm^(2)での阻止率が99.5%である、超純水を製造するシステム。」(以下「引用発明2」という)が記載されていると認められる。

(3)本件発明1と引用発明2との対比
本件発明1と引用発明2とを対比すると、
「一次純水システムと、該一次純水システムの処理水を処理するサブシステムとを備え、少なくとも該一次純水システムに逆浸透膜分離装置が設けられている超純水製造装置。」である点で一致し、下記(相違点1)、(相違点2)で相違する。

(相違点1)
本件発明1では、「一次純水システム」が「高圧型逆浸透膜分離装置、イオン交換装置及び脱気装置を備え、かつ高圧型逆浸透膜分離装置、イオン交換装置及び脱気装置がこの順番で配置されて」いるのに対し、引用発明2では、「一次純水システム」が逆浸透膜分離モジュールを含むことしか記載されていない点。

(相違点2)
本件発明1では、「NaCl32000mg/L」の評価条件で「NaCl除去率」が「99.5%以上」の「高圧型」の逆浸透膜分離装置が一次純水システムに設置され、該逆浸透膜分離装置の膜面有効圧力が「1.5?3MPa」に特定されているものであるのに対し、引用発明2では、一次純水システムに設置される逆浸透膜分離装置のNaCl除去率は、「3.5%NaCl水溶液」(35000mg/L NaCl水溶液)で、「99%」であって、該逆浸透膜分離装置が「高圧型」であるかや、膜面有効圧力も不明である点。

(4)判断
事案に鑑み、まず(相違点2)について検討する。
甲3の【0042】?【0043】には、実施例1の複合逆浸透膜として、「操作圧力5.5MPa」で、本件発明1の「NaCl32000mg/L」に対応する「塩化ナトリウム3.2重量%」を含有する水溶液を用いて行った評価試験で、「NaClの阻止率」が「99.9%」であり、「操作圧力1.5MPa」でおこなった評価試験で、「IPA阻止率」が「99.5%」である複合逆浸透膜が記載されている。
しかしながら、記載事項(セ)によれば、引用発明2の一次純水システムでは、「評価液3.5%NaCl水溶液、評価圧力56kgf/cm^(2)での阻止率が99%以下」の「通常の逆浸透膜モジュ-ル」を用いることにより、「無機イオン、有機物及びその他の微粒子を除去してグレ-ドを高め」ることによって、「充分に高い透過流束を保証」するものであるといえる。
したがって、引用発明2において、甲3に記載されるようなNaClの阻止率が99%を超える高圧型の分離装置を使用し、かつ、通常より低圧で使用する動機付けがない。
よって、(相違点1)について判断するまでもなく、本件発明1及び、本件発明1を引用する本件発明2、3は、甲1に記載された発明および技術常識から、若しくは、甲1に記載された発明、甲3の記載事項および技術常識から、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものでない。

2.申立理由3)について
本件明細書の段落【0008】-【0010】、【0022】等の記載によれば、本件発明の課題は、「有機物濃度」を低減して「1段RO膜処理のみで従来の2段ROと同等の処理水水質・処理水量を得ること」を可能とすることにより、「逆浸透膜分離装置の設置数が少ない超純水製造装置を提供する」ことであるといえる。
そして、段落【0022】に記載されているように、「高圧型逆浸透膜分離装置」が、「従来の超純水製造装置の一次純水システムに用いられている低圧又は超低圧型逆浸透膜」に比べて「膜表面のスキン層が緻密」で、「単位操作圧力当りの膜透過水量は低いものの有機物除去率は極端に高い」ものであることから、本件発明1では、「一次純水システムに設置された逆浸透膜分離装置」を、「標準運転圧力におけるNaCl除去率99.5%(NaCl32000mg/L)以上」の、「高圧型逆浸透膜分離装置」とし、且つ「単段にて設置」することにより、上記課題を解決しているものであるといえる。
ここで、特許異議申立人は、甲9の3.3(2)(270頁)の第3行-第4行には、「有機物の除去率は、たとえ塩化ナトリウムの除去率が同じであっても異なる場合があり、膜材質や膜の緻密性に由来するものが大きいと考えられる。」という技術常識が記載されており、また甲3の段落【0050】【表1】には、NaCl阻止率:99.9%、IPA阻止率99.5%である実施例5及びNaCl阻止率:99.7%、IPA阻止率96.4%である比較例3が示され、塩化ナトリウムの阻止率の差が0.2%の範囲であるにもかかわらず、IPA阻止率が3.1%もの広範囲に分布した高圧型逆浸透膜の例が記載されており、また、甲4の表4.2にも、NaClの阻止率差が0.2%(99.7%、99.5%)で、IPA阻止率差が2%(94%、96%)である低圧型逆浸透膜の例(ES-20とES-10)が記載されていることから、本件発明1において、「高圧型逆浸透膜分離装置」の特性を、「標準運転圧力におけるNaCl除去率」で特定するだけでは、「有機物濃度」を低減し、「1段RO膜処理のみで従来の2段ROと同等の処理水水質・処理水量を得ること」が可能となるとはいえないから、本件発明1には、発明の課題を解決するための手段が反映されておらず、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて、特許請求するものであると主張している。
しかしながら、甲3、甲4の記載から、高圧型のIPA除去率99.5?96.4%が低圧型の94?96%よりも大きいことは明らかであるから、段落【0022】の記載事項は裏付けられている。
よって、本件特許は、請求項1及び請求項1を引用する請求項2、3の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。

第6.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1-3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1-3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項4は削除されたため、本件特許の請求項4に対する特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
超純水製造装置
【技術分野】
【0001】
本発明は超純水製造装置に係り、特に逆浸透膜分離装置(RO装置)を有する一次純水システムを備えた超純水製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体洗浄用水として用いられている超純水は、図2に示すように前処理システム1、一次純水システム2、サブシステム(二次純水システム)3から構成される超純水製造装置で、原水(工業用水、市水、井水、半導体工場から排出される使用済み超純水(以下「回収水」と称す。)等)を処理することにより製造される。図2において各システムの役割は次の通りである。
【0003】
凝集、加圧浮上(沈殿)、濾過(膜濾過)装置などよりなる前処理システム1では、原水中の懸濁物質やコロイド物質の除去を行う。また、この過程では高分子系有機物、疎水性有機物などの除去も可能である。
【0004】
逆浸透膜分離(RO)装置、脱気装置及びイオン交換装置(混床式又は4床5塔式など)を備える一次純水システム2では、原水中のイオンや有機成分の除去を行う。なお、逆浸透膜分離装置では、塩類を除去すると共に、イオン性、コロイド性のTOCを除去する。イオン交換装置では、塩類を除去すると共にイオン交換樹脂によって吸着又はイオン交換されるTOC成分の除去を行う。脱気装置では無機系炭素(IC)、溶存酸素(DO)の除去を行う。
【0005】
低圧紫外線酸化装置、イオン交換純水装置及び限外濾過膜分離装置を備えるサブシステム3では、一次純水システム2で得られた純水の純度をより一層高めて超純水にする。なお、低圧紫外線酸化装置では、低圧紫外線ランプより出される波長185nmの紫外線によりTOCを有機酸、さらにはCO_(2)まで分解する。分解により生成した有機物及びCO_(2)は後段のイオン交換樹脂で除去される。限外濾過膜分離装置では、微粒子が除去され、イオン交換樹脂の流出粒子も除去される。
【0006】
なお、図2では、一次純水システムの逆浸透膜分離装置が前段側と最後段部とに配置されているが、直列に2段に設置することもある。また、図2では、前処理システムが1系統のみ設置されているが、市水、工水等を処理する前処理システムと、半導体製造工程排水などの希薄系排水を処理する希薄系排水回収システムとを並列設置することもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許3468784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来、超純水製造システムにおいては有機物濃度低減目的からRO分離装置を直列で2段通水する2段RO方式が一次純水あるいは排水回収システムにおいて主として採用されている。RO膜種としては処理対象となる原水が工業用水、水道水、井戸水あるいは塩類負荷の低い希薄系排水であることから、標準運転圧力0.75MPa、純水フラックス25m^(3)/m^(2)・D/本(8インチ)以上である超低圧RO膜、あるいは標準運転圧力1.47MPa、純水フラックス25m^(3)/m^(2)・D/本(8インチ)以上である低圧RO膜を用いるのが一般的であった。
【0009】
しかしながら、このように逆浸透膜分離装置を2段に設置すると、設置スペースが増大すると共に、装置運転管理が煩雑化する。即ち、半導体製造工場の超純水製造プラントでは、規模にもよるが、一次純水システムの第1段目の逆浸透膜分離装置として例えば4?40個を並列設置し、第2段目にこれと同程度の逆浸透膜分離装置を並列設置しており、逆浸透膜分離装置の設置数が極めて多いものとなっており、逆浸透膜分離装置の設備コスト及びランニングコストが嵩むと共に、設置面積も大きいものとなっている。
【0010】
本発明は、上記従来の問題点を解決し、逆浸透膜分離装置の設置数が少ない超純水製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明(請求項1)の超純水製造装置は、一次純水システムと、該一次純水システムの処理水を処理するサブシステムとを備え、少なくとも該一次純水システムに逆浸透膜分離装置が設けられている超純水製造装置において、該一次純水システムは、高圧型逆浸透膜分離装置、イオン交換装置及び脱気装置を備え、かつ高圧型逆浸透膜分離装置、イオン交換装置及び脱気装置がこの順番で配置されており、前記高圧型逆浸透膜分離装置は、標準運転圧力におけるNaCl除去率99.5%(NaCl32000mg/L)以上の特性を有し、膜面有効圧力が1.5?3MPaであり、且つ単段にて設置されていることを特徴とするものである。
【0012】
請求項2の超純水製造装置は、請求項1において、前記高圧型逆浸透膜分離装置は、標準運転圧力5.52MPa以上、標準運転圧力における純水フラックス0.5m^(3)/m^(2)・D以上の特性を有することを特徴とするものである。
【0013】
請求項3の超純水製造装置は、請求項1又は2において、原水を処理する前処理システムを有し、該前処理システムの処理水が前記一次純水システム及びサブシステムで順次処理される超純水製造装置であって、前記高圧型逆浸透膜分離装置への給水のTDS(全溶解性物質)が1500mg/L以下であることを特徴とするものである。
【0014】
(削除)
【発明の効果】
【0015】
高圧型逆浸透膜分離装置は、従来、海水淡水化プラントに用いられているものであり、塩分濃度の高い海水を逆浸透膜処理するために膜面有効圧力(1次側圧力と2次側圧力との差)を5.52MPa程度の高圧として使用される。
【0016】
本発明では、この高圧型逆浸透膜分離装置を超純水製造装置の一次純水システムに単段(1段)に設置する。一般に、海水淡水化用逆浸透膜は、脱塩や有機物除去に寄与するスキン層の分子構造が緻密であるため、有機物除去率が高い。海水淡水化においては、原水の塩類濃度が高く、これに伴い浸透圧が高くなるため、透過水量を確保するには、膜面有効圧力が5.5MPa以上となる。一方、電子産業分野における一般的なRO膜に適用する原水の塩類濃度は低く、TDS(全溶解性物質)が1500mg/L以下である。このような原水においては、浸透圧が低く、膜面有効圧力わずか2?3MPa程度で十分な透過水量を得、かつ上述のごとく透過水の水質は、従来の逆浸透膜(超低圧RO膜、低圧RO膜)に比べ格段と向上する。
【0017】
このように一次純水システムに高圧型逆浸透膜分離装置を単段設置することにより、逆浸透膜分離装置の設置数が従来の2段設置の場合に比べて半分となり、逆浸透膜分離装置の設置スペースが半減すると共に、設備コスト、運転管理コストもほぼ半減する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の超純水製造装置の実施の形態の一例を示す系統図である。
【図2】従来の超純水製造装置を示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の超純水製造装置の実施の形態を詳細に説明する。
【0020】
本発明においては、図1に示すように、原水を好ましくは前処理システム、一次純水システム及びサブシステムで順次処理して超純水を製造するに当たり、一次純水システムに逆浸透膜分離装置(RO装置)として高圧型逆浸透膜分離装置を単段にて設置する。
【0021】
高圧型逆浸透膜分離装置は、従来、海水淡水化に用いられている逆浸透膜分離装置であり、標準運転圧力5.52MPa以上であり、標準運転圧力において、純水フラックス0.5m^(3)/m^(2)・D以上、NaCl除去率99.5%(NaCl32000mg/L)以上の特性を有する。このNaCl除去率は、NaCl濃度32000mg/LのNaCl水溶液に対する25℃における除去率である。なお、逆浸透膜のカタログ(技術資料を含む)には、膜メーカーよりスペック表示がなされており、高圧型であるか低圧型又は超低圧型であるかはカタログ値として判別できる。
【0022】
この高圧型逆浸透膜は、従来の超純水製造装置の一次純水システムに用いられている低圧又は超低圧型逆浸透膜に比べて膜表面のスキン層が緻密となっている。そのため、高圧型逆浸透膜は低圧型又は超低圧型逆浸透膜に比べて単位操作圧力当りの膜透過水量は低いものの有機物除去率は極端に高い。TDS(全溶解性物質)1500mg/L以下の塩類濃度の給水を逆浸透膜処理する場合においては、回収率90%時の運転条件下で逆浸透膜にかかる浸透圧は最大1.0MPa程度である。従って、TDS1500mg/L以下の給水の処理に高圧型逆浸透膜分離装置を用いた場合、好ましくは1.5?3MPa、特に好ましくは2?3MPa程度の膜面有効圧力(1次側と2次側との圧力差)で、低圧型又は超低圧型逆浸透膜と同程度の水量を確保することが可能となる。その結果、1段RO膜処理のみで従来の2段ROと同等の処理水水質・処理水量を得ることが可能となり、それに伴い膜本数、ベッセル、配管が削減でき低コスト、省スペース化が可能となる。
【0023】
逆浸透膜の膜形状は、特に限定されるものではなく、例えばスパイラル型、中空子型等、4インチRO膜、8インチRO膜、16インチRO膜などのいずれでもよい。
【0024】
なお、図1では、原水を前処理システムで処理して一次純水システムに供給しているが、この前処理システムと並列に希薄系排水処理システム(図示略)を設置し、この希薄系排水処理システムの処理水も一次純水システムに供給するようにしてもよい。この場合、図1のフローにおいて、一次純水システムの前段にタンクを設置し、このタンクに前処理システムからの処理水と希薄系排水の処理水とを流入させるのが好ましい。
【実施例】
【0025】
<実験例1>
電子デバイス工場排水(電気伝導率100mS/m、TDS600mg/L、TOC10mg/L)を1段のみ設置された高圧型逆浸透膜分離装置(RO膜はSWC4+:日東電工製。運転圧力5.52MPaにおけるフラックス24.6m^(3)/m^(2)・D、NaCl除去率99.8%(NaCl32000mg/L))に回収率73%の条件で通水した。その結果、透過水のTOCは0.85mg/Lとなった。膜面有効圧力は2.0MPaであった。
【0026】
<実験例2>
実験例1と同じ電子デバイス工場排水を、超低圧RO膜(ES-20:日東電工製)を充填した2段RO装置に前段RO回収率75%、後段RO回収率90%、全体水回収率73%の条件(後段RO濃縮水は前段RO給水に合流)で通水した。その結果、第1段目RO透過水のTOC濃度は1.35mg/L、第2段目RO透過水のTOC濃度は0.9mg/Lとなった。膜面有効圧力は1段目0.5MPa、2段目0.75MPaであった。
【0027】
この実験例1,2より、高圧型逆浸透膜分離装置単段通水と超低圧型逆浸透膜分離装置の2段通水とで、同等の水質の透過水が得られることが認められた。また、実験例2において、第1段目RO透過水のTOC濃度は1.35mg/Lと高く、超低圧型逆浸透膜分離装置の単段設置ではTOC及びTDSの除去が高圧型逆浸透膜分離装置よりも低いことが認められた。
【0028】
そこで、上記高圧型逆浸透膜分離装置を用い、図2に示す既存のフローの超純水製造装置の一次純水システムを図1のように高圧型逆浸透膜分離装置単独設置とし、膜面有効圧力を2.0MPaとして運転したところ、従前(2段RO。1段目の膜面有効圧力0.5MPa、2段目の膜面有効圧力0.75MPa)と同様の水質の超純水がほぼ同生産水量にて製造されることが認められた。
【符号の説明】
【0029】
1 前処理システム
2 一次純水システム
3 サブシステム
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次純水システムと、該一次純水システムの処理水を処理するサブシステムとを備え、少なくとも該一次純水システムに逆浸透膜分離装置が設けられている超純水製造装置において、該一次純水システムは、高圧型逆浸透膜分離装置、イオン交換装置及び脱気装置を備え、かつ高圧型逆浸透膜分離装置、イオン交換装置及び脱気装置がこの順番で配置されており、前記高圧型逆浸透膜分離装置は、標準運転圧力におけるNaCl除去率99.5%(NaCl32000mg/L)以上の特性を有し、膜面有効圧力が1.5?3MPaであり、且つ単段にて設置されていることを特徴とする超純水製造装置。
【請求項2】
請求項1において、前記高圧型逆浸透膜分離装置は、標準運転圧力5.52MPa以上、標準運転圧力における純水フラックス0.5m^(3)/m^(2)・D以上の特性を有することを特徴とする超純水製造装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、原水を処理する前処理システムを有し、該前処理システムの処理水が前記一次純水システム及びサブシステムで順次処理される超純水製造装置であって、前記高圧型逆浸透膜分離装置への給水のTDSが1500mg/L以下であることを特徴とする超純水製造装置。
【請求項4】
(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-07-19 
出願番号 特願2011-117142(P2011-117142)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C02F)
P 1 651・ 121- YAA (C02F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 齊藤 光子富永 正史  
特許庁審判長 大橋 賢一
特許庁審判官 中澤 登
山崎 直也
登録日 2015-11-13 
登録番号 特許第5834492号(P5834492)
権利者 栗田工業株式会社
発明の名称 超純水製造装置  
代理人 重野 剛  
代理人 重野 剛  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ