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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C04B 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C04B 審判 全部申し立て 1項2号公然実施 C04B 審判 全部申し立て 2項進歩性 C04B |
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管理番号 | 1332237 |
異議申立番号 | 異議2017-700041 |
総通号数 | 214 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-10-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-01-18 |
確定日 | 2017-07-24 |
異議申立件数 | 2 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5954455号発明「クリンカ組成物、セメント組成物及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5954455号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?3〕について訂正することを認める。 特許第5954455号の請求項1?5に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5954455号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成27年3月5日の出願であって、平成28年6月24日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人中嶋美奈子(以下、「異議申立人1」という。)及び特許異議申立人浜俊彦(以下、「異議申立人2」という。)により特許異議の申立てがされ、平成29年3月22日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年5月26日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して、平成29年6月28日に異議申立人1より意見書(以下、「異議申立人1意見書」という。)が提出され、平成29年7月3日に異議申立人2より意見書(以下、「異議申立人2意見書」という。)が提出されたものである。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は以下のとおりである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に記載された「Mn含有量が0.05質量%未満であり、」を、「Mn含有量が0.05質量%未満、Co含有量が0.002質量%未満であり、」に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1に記載された「C_(3)AとC_(4)AFとの合計量が28質量%以下である」を「C_(3)AとC_(4)AFとの合計量が20?28質量%である」に訂正する。 2 訂正要件の判断 (1)訂正事項1について ア 訂正事項1は、請求項1に記載された「クリンカ組成物」の化学組成について、Co含有量が0.002質量%未満である化学組成に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 訂正事項1に関連する記載として、本件特許の願書に添付された明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の発明の詳細な説明には、「したがって、本発明においては、Co含有量は0.002質量%未満とすることが好ましく、0.001質量%以下とすることがより好ましい。Co含有量が0.002質量%未満であることで、Niによる効果、すなわち、フリーライムの量を少なくする効果を発揮させやすくすることができる。」(段落【0023】)と記載されているから、訂正事項1は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてなされたものであり、新規事項の追加に該当しない。 ウ 訂正事項1は、「クリンカ組成物」の化学組成を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)訂正事項2について ア 訂正事項2は、請求項1に記載された「C_(3)AとC_(4)AFとの合計量」を「28質量%以下」から「20?28質量%」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 訂正事項2に関連する記載として、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「ボーグ式で算出される鉱物組成において、C_(3)AとC_(4)AFとの合計量が28質量%以下となっていることが好ましい。上記合計量が28質量%を越えるとフリーライム低減効果が得られず、強度が低くなる。上記合計量は16?28質量%であることが好ましく、20?28質量%であることがより好ましい。」(段落【0019】)と記載されているから、訂正事項2は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてなされたものであり、新規事項の追加に該当しない。 ウ 訂正事項2は、「C_(3)AとC_(4)AFとの合計量」を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)一群の請求項について 訂正前の請求項2及び3は、訂正前の請求項1を引用するものであり、訂正事項1及び2に係る訂正は一群の請求項に請求されたものである。 3 むすび 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?3〕について訂正を認める。 第3 特許異議の申立てについて 1 本件発明 本件訂正請求により訂正された請求項1?5に係る発明(以下「本件発明1?5」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 【請求項1】 Ni含有量が20?200ppm、Li含有量が10?100ppm、Mn含有量が0.05質量%未満、Co含有量が0.002質量%未満であり、 前記Ni含有量と前記Li含有量との質量比(Ni/Li)が1以上であり、 ボーグ式で算出される、C_(3)Sが55?65質量%、C_(2)Sが3?15質量%、C_(3)Aが5?12質量%、C_(4)AFが6?18質量%、及びC_(3)AとC_(4)AFとの合計量が20?28質量%であるクリンカ組成物。 【請求項2】 請求項1に記載のクリンカ組成物と石膏とを含むセメント組成物。 【請求項3】 SO_(3)が1.5?2.5質量%、ブレーン比表面積が3000?4000cm^(2)/gである請求項2に記載のセメント組成物。 【請求項4】 クリンカ組成物において、Ni含有量が20?200ppm、Li含有量が10?100ppmで、前記Ni含有量と前記Li含有量との質量比(Ni/Li)が1以上であり、かつ、ボーグ式で算出される、C_(3)Sが55?65質量%、C_(2)Sが3?15質量%、C_(3)Aが5?12質量%、C_(4)AFが6?18質量%、及びC_(3)AとC_(4)AFとの合計量が28質量%以下となるように、石灰石、珪石、石炭灰、粘土、高炉スラグ、建設発生土、汚泥、及び鉄源の少なくともいずれかと、Niを含有する廃棄物及びLiを含有する廃棄物とを配合し、粉砕する原料工程と、粉砕後の原料を焼成してクリンカ組成物を製造する焼成工程と、クリンカ組成物と石膏とを混合し粉砕を行う仕上工程を含み、 前記Niを含有する廃棄物及び前記Liを含有する廃棄物の配合量を調整することによって前記Ni含有量と前記Li含有量との質量比(Ni/Li)を1以上とすることを特徴とするセメント組成物の製造方法。 【請求項5】 前記原料工程において、製造される前記クリンカ組成物1トンあたり、石灰石500?1500kg、珪石10?200kg、石炭灰0?300kg、粘土0?100kg、高炉スラグ0?100kg、建設発生土0?200kg、汚泥0?100kg、及び鉄源0?100kgと、前記Niを含有する廃棄物及び前記Liを含有する廃棄物とを配合する請求項4に記載のセメント組成物の製造方法。 なお、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1に記載された「ボーグ式で算出されるC_(3)Sが55?65質量%」は、訂正請求書で請求項1の当該箇所に対する訂正の請求がなされていなため、本件特許の特許請求の範囲の請求項1の記載のとおりの「ボーグ式で算出される、C_(3)Sが55?65質量%」の誤記である。 また、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項4に記載された「ボーグ式で算出されるC_(3)Sが55?65質量%、C_(2)Sが3?15質量%、C_(3)Aが5?12質量%、及びC_(4)AFが6?18質量%」は、訂正請求書で請求項4に対する訂正の請求がなされていないため、本件特許の特許請求の範囲の請求項4の記載のとおりの「ボーグ式で算出される、C_(3)Sが55?65質量%、C_(2)Sが3?15質量%、C_(3)Aが5?12質量%、C_(4)AFが6?18質量%」の誤記である。 したがって、本件発明1及び4は、上記のとおりに認定する。 (上記誤記は特許権者代理人に確認し、訂正特許請求の範囲の上記誤記を職権訂正することで合意した(応対記録参照)。) 2 取消理由の概要 訂正前の請求項1?3に係る特許に対して平成29年3月22日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は次のとおりである。 (1)刊行物一覧 甲第1号証:「化学分析用セメント標準物質211S(普通ポルトランドセメント)証明書」、[online]、2014年8月、一般社団法人セメント協会、[平成28年11月4日検索]、インターネット 甲第2号証:セメント標準物質化学分析用211Sの化学分析値および比表面積報告書、三菱マテリアル株式会社セメント技術カンパニーセメント研究所、2017年1月18日(作成日) 甲第3号証:大門正機、「JME材料科学セメントの科学」、株式会社内田老鶴圃、1989年10月31日、第11頁 甲第4号証:「コンクリート技士研修テキスト」、社団法人日本コンクリート工学協会、平成22年6月15日、第5頁 甲第5号証:千葉淳治、「セッコウの微量元素にみられるアソシエーション」、石膏と石灰、石膏石灰学会、昭和52年11月1日、第151号、第25?31頁 (なお、上記各甲号証は、異議申立人2が証拠として提出した甲第1号証?甲第5号証である。) (2)請求項1?3について 甲第1号証及び甲第2号証の記載から、本件特許明細書段落【0021】に記載されたボーグ式で算出される下記の鉱物組成、及びNi、Li、Mn含有量を有すると認められる『化学分析用セメント標準物質211S』は、2014年8月に公然実施されたものと認められる。 ・C_(3)S 64質量% ・C_(2)S 11質量% ・C_(3)A 11質量% ・C_(4)AF 8質量% ・Ni含有量 48ppm ・Li含有量 22ppm ・Mn含有量 0.031質量% ・Ni含有量とLi含有量との質量比(Ni/Li) 2.2 あるいは、甲第1号証及び甲第2号証の記載から、甲第3号証に記載された一般に知られているボーグ式で算出される下記の鉱物組成、及びNi、Li、Mn含有量を有すると認められる『化学分析用セメント標準物質211S』は、2014年8月に公然実施されたものと認められる。 ・C_(3)S 58質量% ・C_(2)S 15質量% ・C_(3)A 11質量% ・C_(4)AF 8質量% ・Ni含有量 48ppm ・Li含有量 22ppm ・Mn含有量 0.031質量% ・Ni含有量とLi含有量との質量比(Ni/Li) 2.2 そして、甲第4号証及び甲第5号証の記載から、「セッコウを添加、粉砕して『化学分析用セメント標準物質211S』となるセメントクリンカ」における、ボーグ式で算出される鉱物組成、及びNi、Li、Mn含有量は、訂正前の請求項1に係る発明で特定される範囲内であると認められる。 また、該セメントクリンカにセッコウを添加し、粉砕した『化学分析用セメント標準物質211S』は、訂正前の請求項2に係る発明である。 さらに、甲第2号証の記載から、上記『化学分析用セメント標準物質211S』のSO_(3)は2.08質量%、ブレーン比表面積は3330cm^(2)/gであるから、上記『化学分析用セメント標準物質211S』は、訂正前の請求項3に係る発明である。 したがって、訂正前の請求項1?3に係る発明は、甲第1号証?甲第5号証に基づき、本件特許に係る出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明であって、特許法第29条第1項第2号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 3 取消理由通知に記載した取消理由に対する当審の判断 (1)特許法第29条第1項第2号について 上記「セッコウを添加、粉砕して『化学分析用セメント標準物質211S』となるセメントクリンカ」(以下、「公然実施発明」という。)と本件発明1を対比すると、「Co含有量」及び「C_(3)AとC_(4)AFとの合計量」について相違している。 すなわち、「Co含有量」に関して、本件発明1は「Co含有量が0.002質量%未満」であることが特定されている。 これに対して、公然実施発明にセッコウを添加、粉砕して得られる『化学分析用セメント標準物質211S』の「Co含有量」は明示されておらず、公然実施発明の「Co含有量」も不明である。 また、「C_(3)AとC_(4)AFとの合計量」に関して、本件発明1は「C_(3)AとC_(4)AFとの合計量が20?28質量%」であることが特定されている。 これに対して、公然実施発明にセッコウを添加、粉砕して得られる『化学分析用セメント標準物質211S』の「C_(3)AとC_(4)AFとの合計量」は、19質量%(=11質量%(C_(3)A)+8質量%(C_(4)AF))であり、そして、セメントクリンカを粉砕してセメントにしても、鉱物組成は一般的に変化しないことから、公然実施発明の「C_(3)AとC_(4)AFとの合計量」も、上記『化学分析用セメント標準物質211S』と同じ19質量%であるといえる。 したがって、本件発明1と公然実施発明は、「Co含有量」及び「C_(3)AとC_(4)AFとの合計量」で相違するから、本件発明1は公然実施発明であるとはいえない。 したがって、本件発明1?3は、本件特許に係る出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明であるといえず、特許法第29条第1項第2号に該当しない。 (2)異議申立人の意見について 異議申立人1は、意見書において新たな証拠として、甲第8A号証(「セメント化学専門委員会報告書 C-8 セメント中の微量成分の定量方法の検討」、社団法人セメント協会、2004年3月15日、第11?12頁)、甲第9A号証(平井昭司他、含有元素による各種セメントの特質、第45回セメント技術大会講演集、社団法人セメント協会、1991年4月、第86?91頁)、甲第10A号証(三隅英俊他、高SO_(3)・高C_(4)AFクリンカーを使用したセメントの物性、第62回セメント技術大会講演要旨、社団法人セメント協会、2008年5月20日、第218?219頁)、及び、甲第11A号証(荻野正貴他、高間隙相型セメントの流動性と水和特性、第66回セメント技術大会講演要旨、社団法人セメント協会、2012年4月30日、第48?49頁)を提出し、上記相違点に関して、公然実施発明のCo含有量を0.002質量%未満にすること、及び、C_(3)AとC_(4)AFとの合計量を25質量%程度に調整することは、当業者が適宜なし得る設計事項にすぎないと主張している(異議申立人1意見書第6頁第23行?第9頁第17行)。 しかしながら、上記『化学分析用セメント標準物質211S』は、標準物質、すなわち、その特性値が適切に確定された物質であるから、その組成を変更することには阻害要因がある。そして、「セッコウを添加、粉砕して『化学分析用セメント標準物質211S』となるセメントクリンカ」である公然実施発明についても、その組成を変更することに阻害要因があるから、異議申立人1の上記主張は妥当でない。 4 訂正の請求に付随して生じた異議申立人の意見について (1)特許法第36条第6項第1号 異議申立人1及び2は、訂正によって請求項1に新たに特定された「Co含有量が0.002質量%未満」との事項について、Co含有量をどの程度まで少なくすれば、フリーライム低減という課題を解決できるのかについて本件特許明細書の発明の詳細な説明には実質的な開示がないから、本件発明1はサポート要件を充足しておらず、さらに、異議申立人2は、請求項1の「Mn含有量が0.05質量%未満」との特定事項についても、本件特許明細書の発明の詳細な説明の実施例に具体的な記載がなく、本件発明1はサポート要件を充足しておらず、特許法第36条第6項第1号の要件を満たさない旨を主張している(異議申立人1意見書第10頁第7行?第11頁第10行、異議申立人2意見書第2頁第11行?第5頁第2行)。 しかしながら、本件特許明細書の段落【0022】には、特願2014-230787号において、Niと共に少量のCo又はMnが存在しても、フリーライム量の低減効果は認められるが、Niだけの効果に比べて、その効果が抑えられたと推察されたことが記載されており、また、段落【0022】?【0024】には、Niによる効果を発揮させやすくするために、Co含有量を0.002質量%未満とすること、及び、Mn含有量を0.05質量%未満とすることが好ましいことも記載されている。 そうしてみると、実施例にCo含有量及びMn含有量の具体的な記載がないとしても、本件特許明細書の上記記載から、Co含有量を0.002質量%未満又はMn含有量が0.05質量%未満であれば、フリーライム低減という課題を解決できると当業者であれば認識できるから、異議申立人1及び2の上記主張は妥当でない。 5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について (1)特許法第29条第1項第3号及び第2項(異議申立人1) ア 異議申立人1の主張 異議申立人1は、特許異議申立書において、谷田貝敦他、鉱物組成を調整したクリンカーを用いた高炉セメントA種の特性、セメント・コンクリート論文集、社団法人セメント協会、2003年2月25日、第338?345頁(以下、「甲第1A号証」という。)、山下牧生他、セメントの諸物性に及ぼす臭化物イオンの影響、宇部三菱セメント研究報告、平成18年1月4日、株式会社宇部三菱セメント研究所、第7号、第10?16頁(以下、「甲第2A号証」という。)、中西陽一郎他、石灰石粉を利用した環境負荷の低い高炉セメントの開発、セメント研究所研究報告、平成23年1月4日、三菱マテリアル株式会社セメント事業カンパニー技術統括部研究開発部セメント研究所、第12号、第9?14頁(以下、「甲第3A号証」という。)、特開2014-125390号公報(以下、「甲第4A号証」という。)、特開2013-23394号公報(以下、「甲第5A号証」という。)、山田知行他、ICP質量分析装置の技術動向とセメント分析への応用、宇部三菱セメント研究報告、平成18年1月4日、株式会社宇部三菱セメント研究所、第7号、第23?30頁(以下、「甲第6A号証」という。)、及び、若杉幸子、原子吸光分光分析法/ICP発光分光分析法 基礎と分析、平成18年度セメント若手の会テキスト、2006年、セメント若手の会、第127?128頁(以下、「甲第7A号証」という。)を提出し、訂正前の請求項1?5に係る発明に関して、請求項1?3に係る発明は、甲第1A号証、甲第2A号証、又は甲第3A号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、または、請求項1?5に係る発明は、甲第1A号証?甲第7A号証に記載された発明から当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反しているから、請求項1?5に係る特許を取り消すべきものであると主張している(異議申立人1の特許異議申立書第7頁第26行?第22頁第17行)。 イ 甲第1A号証?甲第7A号証の記載 甲第1A号証には、Mn含有量が0.0401質量%であり、ボーグ式で算出される、C_(3)Sが58.7質量%、C_(2)Sが14.0質量%、C_(3)Aが8.5質量%、C_(4)AFが10.2質量%、及びC_(3)AとC_(4)AFとの合計量が18.7質量%である普通ポルトランド(OPC)クリンカの発明が記載されている。 甲第2A号証には、Mn含有量が0.0488質量%であり、ボーグ式で算出される、C_(3)Sが60質量%、C_(2)Sが14質量%、C_(3)Aが9質量%、C_(4)AFが8質量%、及びC_(3)AとC_(4)AFとの合計量が17質量%である普通ポルトランド(OPC)クリンカの発明が記載されている。 甲第3A号証には、Mn含有量が0.0407質量%であり、ボーグ式で算出される、C_(3)Sが62.8質量%、C_(2)Sが11.3質量%、C_(3)Aが8.7質量%、C_(4)AFが8.4質量%、及びC_(3)AとC_(4)AFとの合計量が17.1質量%であるベースセメント中のクリンカ分の発明が記載されている。 甲第4A号証には、原料にリチウムイオン電池セル廃材を使用しないセメントクリンカの微量金属成分として、Liが20ppm、Niが28ppm含まれていることが記載されている(サンプルNo.1)。また、優れた強度のセメント硬化体を得るために、セメントクリンカにLiを35?1000ppm、Niを10?100ppmを添加することが記載されている(段落【0016】?【0018】)。 甲第5A号証には、原料にリチウムイオン電池セル廃材を使用しないセメントクリンカの微量金属成分として、Liが20ppm、Niが28ppm含まれていることが記載されている(試験例1)。また、優れた強度のセメント硬化体を得るために、セメントクリンカにLiを30?10000ppm、Niを50?25000ppmを添加することが記載されている(段落【0033】)。 甲第6A号証には、普通ポルトランドセメントに含まれるNi含有量が35mg/kgであることが記載されている(表3)。 甲第7A号証には、普通ポルトランドセメントに含まれるNi含有量が65.8mg/kgまたは28.6mg/kgであることが記載されている(第127頁上表)。 ウ 当審の判断 (ア)本件発明1について 本件発明1と、甲第1A号証、甲第2A号証、又は甲第3A号証に記載された発明とを対比すると、甲第1A号証、甲第2A号証、又は甲第3A号証に記載された発明は、少なくとも、「Ni含有量が20?200ppm」、「Li含有量が10?100ppm」及び「前記Ni含有量と前記Li含有量との質量比(Ni/Li)が1以上」であることが特定されていない点で、本件発明1と相違している。 そして、甲第4A号証及び甲第5A号証に記載されたLiが20ppm、Niが28ppm含まれているセメントクリンカは、甲第1A号証及び甲第2A号証に記載された発明の普通ポルトランド(OPC)クリンカであるとも、甲第3A号証に記載された発明のベースセメント中のクリンカ分であるともいえないから、甲第6A号証及び甲第7A号証に記載されたように、普通ポルトランドセメントに含まれるNi含有量が知られていたとしても、甲第1A号証、甲第2A号証、又は甲第3A号証に記載された発明のNi及びLiの含有量が、「Ni含有量が20?200ppm」、「Li含有量が10?100ppm」及び「前記Ni含有量と前記Li含有量との質量比(Ni/Li)が1以上」となっているとはいえない。 したがって、本件発明1は、甲第1A号証、甲第2A号証、又は甲第3A号証に記載された発明であるといえない。 また、甲第4A号証及び甲第5A号証には、優れた強度のセメント硬化体を得るために、セメントクリンカにLiを35?1000ppm、Niを10?100ppmを添加すること(甲第4A号証)、あるいは、Liを30?10000ppm、Niを50?25000ppmを添加すること(甲第5A号証)が記載されているが、フリーライム含有量や初期強度及び長期強度を改善するために、Ni及びLiの含有量やその割合(Ni/Li)を適切な範囲とすることは記載も示唆もされていないから、甲第1A号証、甲第2A号証、又は甲第3A号証に記載された発明において、「Ni含有量が20?200ppm」、「Li含有量が10?100ppm」及び「前記Ni含有量と前記Li含有量との質量比(Ni/Li)が1以上」とすることを当業者が容易になし得たことであるとはいえない。 したがって、本件発明1は、甲第1A号証?甲第3A号証に記載された発明及び甲第4A号証?甲第7A号証に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものといえない。 (イ)本件発明2?3について 本件発明2?3は、本件発明1を引用するから、上記(ア)で検討したと同様に、甲第1A号証、甲第2A号証、又は甲第3A号証に記載された発明であるといえないし、甲第1A号証?甲第3A号証に記載された発明及び甲第4A号証?甲第7A号証に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものといえない。 (ウ)本件発明4について 本件発明4は、セメント組成物の製造方法の発明であるが、「Ni含有量が20?200ppm、Li含有量が10?100ppmで、前記Ni含有量と前記Li含有量との質量比(Ni/Li)が1以上」となるように「クリンカ組成物」を製造する工程を有していることから、上記(ア)で検討したと同様な理由により、本件発明4は、甲第1A号証?甲第3A号証に記載された発明及び甲第4A号証?甲第7A号証に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものといえない。 (エ)本件発明5について 本件発明5は、本件発明4を引用するから、上記(ウ)で検討したと同様に、甲第1A号証?甲第3A号証に記載された発明及び甲第4A号証?甲第7A号証に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものといえない。 エ まとめ 以上で検討したとおり、本件発明1?3は、特許法第29条第1項第3号に該当せず、または、本件発明1?5は、特許法第29条第2項の規定に違反していないから、異議申立人1の上記主張に理由がない。 (2)特許法第29条第2項(異議申立人2) 異議申立人2は、証拠として、上記甲第1号証?甲第5号証に加えて、特開2014-125390号公報(甲第6号証)を提出して、所望の組成のクリンカ組成物が得られるように、原料として使用する複数種の廃棄物の配合量を調節することは一般的に行われていること(甲第4号証)であり、原料の一部にNiを含有する廃棄物及びLiを含有する廃棄物を使用することも周知技術(甲第6号証)であるから、訂正前の請求項4?5に係る発明は、上記『化学分析用セメント標準物質211S』の製造に際して、ありふれた製造方法を規定したものにすぎず、進歩性を欠如していると主張している(異議申立人2の特許異議申立書第15頁第26行?第17頁第6行)。 しかしながら、甲第6号証には、Liを含有する原料として廃棄リチウム電池などが好ましいこと、及び、該リチウムイオン電池はLiの他にNiなどの金属を含んでいることが記載されるにとどまり、甲第1号証?甲第6号証のいずれにも、本件発明4の「前記Niを含有する廃棄物及び前記Liを含有する廃棄物の配合量を調整することによって前記Ni含有量と前記Li含有量との質量比(Ni/Li)を1以上とする」ことについて、記載も示唆もされていない。 したがって、本件発明4及びこれを引用する本件発明5は、甲第1号証に記載された『化学分析用セメント標準物質211S』及び甲第1号証?甲第6号証に記載された事項から、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、異議申立人2の上記主張に理由がない。 (3)特許法第36条第6項第1号 ア 異議申立人1は、発明の解決しようとする課題は、クリンカ組成物中のフリーライム量が低減され、初期強度だけでなく、長期強度も高いセメントセメント組成物を提供すること(段落【0006】?【0007】)であるところ、訂正前の請求項1及び4に係る発明のC_(3)S、C_(2)S、C_(3)A及びC_(4)AFの鉱物組成の範囲に対して、発明の詳細な説明において所望の効果を発揮することが確認されている鉱物組成はごく限られた範囲であるから、請求項1?5に係る発明は、発明の詳細な説明に開示された内容を超えるものであり、請求項1?5に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであると主張している(異議申立人1の特許異議申立書第22頁第18行?第23頁第3行)。 しかしながら、C_(3)S、C_(2)S、C_(3)A及びC_(4)AFの主要鉱物の特性は技術常識であるし、また、本件特許明細書の段落【0017】?【0020】には、鉱物組成の含有量と上記課題との関係も記載されていることから、訂正前の請求項1及び4に記載された「C_(3)Sが55?65質量%、C_(2)Sが3?15質量%、C_(3)Aが5?12質量%、C_(4)AFが6?18質量%、及びC_(3)AとC_(4)AFとの合計量が28質量%以下」との鉱物組成においても、訂正後の本件発明1の「C_(3)Sが55?65質量%、C_(2)Sが3?15質量%、C_(3)Aが5?12質量%、C_(4)AFが6?18質量%、及びC_(3)AとC_(4)AFとの合計量が20?28質量%」においても、「Ni含有量が20?200ppm」、「Li含有量が10?100ppm」及び「前記Ni含有量と前記Li含有量との質量比(Ni/Li)が1以上」とすることで、上記課題を解決できると、当業者が認識できる範囲のものである。 したがって、異議申立人1の上記主張に理由がない。 イ 上記鉱物組成に関連して、本件発明1の「C_(3)AとC_(4)AFとの合計量が20?28質量%」について、異議申立人2は、前記合計量が20質量%以上25.7質量%未満の範囲はサポート要件を充足していないと主張している(異議申立人2意見書第5頁第3行?第6頁第7行)。また、異議申立人1は、本件発明1の「C_(3)AとC_(4)AFとの合計量が20?28質量%」の下限値の臨界的意義が具体的に記載されていないから、本件発明1はサポート要件を満たしていないと主張している(異議申立人1意見書第11頁第11行?第12頁第9行)。 しかしながら、上記アで検討したとおり、本件特許明細書の記載及び技術常識に照らせば、本件発明1は、「C_(3)AとC_(4)AFとの合計量が28質量%以下」においても、上記課題を解決できると当業者が認識できる発明であり、しかも、前記合計量の下限値(20質量%)に特徴がある発明であるともいえないから、特許異議申立人1及び2の上記主張は妥当でない。 6 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?5に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 Ni含有量が20?200ppm、Li含有量が10?100ppm、Mn含有量が0.05質量%未満、Co含有量が0.002質量%未満であり、 前記Ni含有量と前記Li含有量との質量比(Ni/Li)が1以上であり、 ボーグ式で算出される、C_(3)Sが55?65質量%、C_(2)Sが3?15質量%、C_(3)Aが5?12質量%、C_(4)AFが6?18質量%、及びC_(3)AとC_(4)AFとの合計量が20?28質量%であるクリンカ組成物。 【請求項2】 請求項1に記載のクリンカ組成物と石膏とを含むセメント組成物。 【請求項3】 SO_(3)が1.5?2.5質量%、ブレーン比表面積が3000?4000cm^(2)/gである請求項2に記載のセメント組成物。 【請求項4】 クリンカ組成物において、Ni含有量が20?200ppm、Li含有量が10?100ppmで、前記Ni含有量と前記Li含有量との質量比(Ni/Li)が1以上であり、かつ、ボーグ式で算出される、C_(3)Sが55?65質量%、C_(2)Sが3?15質量%、C_(3)Aが5?12質量%、C_(4)AFが6?18質量%、及びC_(3)AとC_(4)AFとの合計量が28質量%以下となるように、石灰石、珪石、石炭灰、粘土、高炉スラグ、建設発生土、汚泥、及び鉄源の少なくともいずれかと、Niを含有する廃棄物及びLiを含有する廃棄物とを配合し、粉砕する原料工程と、粉砕後の原料を焼成してクリンカ組成物を製造する焼成工程と、クリンカ組成物と石膏とを混合し粉砕を行う仕上工程を含み、 前記Niを含有する廃棄物及び前記Liを含有する廃棄物の配合量を調整することによって前記Ni含有量と前記Li含有量との質量比(Ni/Li)を1以上とすることを特徴とするセメント組成物の製造方法。 【請求項5】 前記原料工程において、製造される前記クリンカ組成物1トンあたり、石灰石500?1500kg、珪石10?200kg、石炭灰0?300kg、粘土0?100kg、高炉スラグ0?100kg、建設発生土0?200kg、汚泥0?100kg、及び鉄源0?100kgと、前記Niを含有する廃棄物及び前記Liを含有する廃棄物とを配合する請求項4に記載のセメント組成物の製造方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2017-07-13 |
出願番号 | 特願2015-43704(P2015-43704) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YAA
(C04B)
P 1 651・ 112- YAA (C04B) P 1 651・ 121- YAA (C04B) P 1 651・ 537- YAA (C04B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 小川 武 |
特許庁審判長 |
新居田 知生 |
特許庁審判官 |
永田 史泰 宮澤 尚之 |
登録日 | 2016-06-24 |
登録番号 | 特許第5954455号(P5954455) |
権利者 | 住友大阪セメント株式会社 |
発明の名称 | クリンカ組成物、セメント組成物及びその製造方法 |
代理人 | 大谷 保 |
代理人 | 大谷 保 |