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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B29C
審判 全部申し立て 2項進歩性  B29C
管理番号 1332261
異議申立番号 異議2016-700774  
総通号数 214 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-10-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-08-24 
確定日 2017-08-14 
異議申立件数
事件の表示 特許第5872689号発明「ドレープ成形及びプレス成形工具、並びにプリフォーム及び繊維プラスチック複合部品の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5872689号の請求項1ないし5、8、9に係る特許を取り消す。 同請求項6、7、10に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5872689号の請求項1?10に係る特許についての出願は、2011年12月16日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年6月16日)を国際出願日として特許出願され、平成28年1月22日に特許権の設定登録がされ、同年3月1日にその特許公報が発行され、その後、同年8月24日に特許異議申立人特許業務法人朝日奈特許事務所(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、その後、平成28年11月22日付けで取消理由が通知され、特許権者から応答がされなかったものである。

第2 本件発明
特許第5872689号の請求項1?10に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明10」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】少なくとも部分的に固化されたプリフォーム(2)を製造するための、外面が互いに対面する2つの工具半体(1,1’)を有するドレープ成形及びプレス成形工具であって、
前記工具半体(1,1’)の少なくとも一方が、複数のプランジャセグメント(3,3’)を備え、前記プランジャセグメントは昇降運動を行うもので、個々に調整可能且つ個々に移動可能であり、前記プランジャセグメントは前記プリフォーム(2)を製造するための前記工具半体(1,1’)の成形工具面を形成し、異なる幅及び/又は奥行を有し、及び、油圧、空気圧又は電動式に動作可能であることを特徴とするドレープ成形及びプレス成形工具。
【請求項2】請求項1に記載のドレープ成形及びプレス成形工具であって、
前記プランジャセグメント(3,3’)を備えた少なくとも一方の前記工具半体(1)が、凸状の成形工具面を備えることを特徴とするドレープ成形及びプレス成形工具。
【請求項3】請求項1又は2に記載のドレープ成形及びプレス成形工具であって、
前記ドレープ成形及びプレス成形工具が、個々に調整可能な複数の加熱素子を備える少なくとも1つの加熱装置を備え、前記加熱素子は前記工具半体(1,1’)の少なくとも一方の前記成形工具面内、又はその下に配置され、個々の移動可能な前記プランジャセグメント(3,3’)との連係運動で直線的に移動可能であることを特徴とするドレープ成形及びプレス成形工具。
【請求項4】請求項1から3のいずれか一項に記載のドレープ成形及びプレス成形工具であって、
前記ドレープ成形及びプレス成形工具が、空気ノズルを備える冷却装置を含むことを特徴とするドレープ成形及びプレス成形工具。
【請求項5】請求項1から4のいずれか一項に記載のドレープ成形及びプレス成形工具であって、
前記ドレープ成形及びプレス成形工具が、固定作業ステーションを形成し、又は制御可能に移動するロボット装置の一部として配置されることを特徴とするドレープ成形及びプレス成形工具。
【請求項6】請求項1から5のいずれか一項に記載のドレープ成形及びプレス成形工具であって、
前記ドレープ成形及びプレス成形工具がマトリックス形成プラスチック系用の射出手段を含むことを特徴とするドレープ成形及びプレス成形工具。
【請求項7】請求項1から6のいずれか一項に記載のドレープ成形及びプレス成形工具であって、
前記ドレープ成形及びプレス成形工具が、プランジャセグメント(3,3’)なしで実施される複数の下部工具半体(1’)を含み、前記工具半体(1’)が、
前記ドレープ成形及びプレス成形工具内に、且つその外側に移動可能であり、及び、
異なる形状を成形する成形工具面を備えることを特徴とするドレープ成形及びプレス成形工具。
【請求項8】請求項1から7のいずれか一項に記載のドレープ成形及びプレス成形工具を使用して成形され、少なくとも部分的に固化されたプリフォーム(2)を製造する方法であって、
-前記ドレープ成形及びプレス成形工具内の前記工具半体(1,1’)の間に結合材を含む繊維層を配置するステップであって、前記2つの工具半体(1,1’)のうちの少なくとも1つの工具半体(1,1’)が、昇降運動を行う、個々に調整可能且つ個々に移動可能なプランジャセグメント(3,3’)を備えるステップと、
-前記プランジャセグメント(3,3’)を調整し、前記プランジャセグメント(3,3‘)を、挿入された前記繊維層の方向に局部的且つ連続的に移動させ、その際に局部的な押圧により前記繊維層をスタックとしてドレープ成形するステップと、を含むことを特徴とする方法。
【請求項9】請求項8に記載の方法であって、
-少なくとも1つの加熱装置を動作させ、前記プランジャセグメント(3,3’)の移動と連係して、前記繊維層のスタックを少なくとも局部的に加熱するステップと、
-前記プリフォーム(2)を少なくとも部分的に冷却して又は冷却なしで固化するステップと、を含む方法。
【請求項10】請求項1から7のいずれか一項に記載のドレープ成形及びプレス成形工具を使用してプリフォーム(2)から繊維プラスチック複合部品を製造する方法であって、
-請求項8又は9に記載の方法で前記プリフォーム(2)を製造するステップと、次いで、
-マトリックス形成プラスチック系を射出し、前記閉鎖されたドレープ成形及びプレス成形工具内に残されたプリフォーム(2)に前記マトリックス形成プラスチック系を含浸するステップと、
-前記マトリックス形成プラスチック系の硬化条件を整えるステップであって、少なくとも一方の前記工具半体(1,1’)の前記プランジャセグメント(3,3’)によりプレス圧を加えて含浸されたプリフォーム(2)を前記マトリックス形成プラスチック系の硬化温度まで加熱するステップと、
-前記繊維プラスチック複合部品を硬化し、取り出すステップと、を含む方法。」

第3 取消理由

1 特許異議申立人が申し立てた取消理由
請求項1?10に係る特許に対して特許異議申立人が申し立てた取消理由の概要は、以下のとおりである。

(1)特許法第29条第1項第3号(以下「理由1」という。)
本件発明1?4、8、9は、本件優先日前に頒布された以下の甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。
本件発明1?4、8、9は、本件優先日前に頒布された以下の甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。
本件発明1、2、8、10は、本件優先日前に頒布された以下の甲第3号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。
よって、本件発明1?4、8?10に係る特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
甲第1号証:特開2009-119701号公報
甲第2号証:特開2004-322442号公報
甲第3号証:特開2006-188791号公報
(以下、それぞれ「甲1」、「甲2」、「甲3」という。)

なお、特許異議申立書20頁「理由の要点」2行目には「・請求項1-4、8-10:甲第1号証に記載の発明である。」と、同20?21頁「(3-1)申立ての理由1」には「特許法第29条第1項第3号 ・・・ 請求項1-4、8-10について甲第1号証」と、それぞれ記載されているが、これらの記載における「請求項1-4、8-10」は、特許異議申立書のその余の記載との関係において明らかに「請求項1-4、8-9」の誤記と認められるので、上記のように認定した。

(2)特許法第29条第2項(以下「理由2」という。)
本件発明1?6、8、9は、本件優先日前に頒布された以下の甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
本件発明7は、本件出願前に頒布された以下の甲第1号証(主引用例)及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
本件発明1?9は、本件出願前に頒布された以下の甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
本件発明1?6、8?10は、本件出願前に頒布された以下の甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件発明1?10に係る特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
甲第1号証:特開2009-119701号公報
甲第2号証:特開2004-322442号公報
甲第3号証:特開2006-188791号公報
(以下、それぞれ「甲1」、「甲2」、「甲3」という。)

なお、特許異議申立書20頁「理由の要点」6?7行には「・請求項1-10:甲第1?第3号証に記載の発明に基づき容易想到である。」と、同21頁「(3-2)申立ての理由2」の「請求項1-10 ・・・ 特許法第29条第2項 ・・・ 甲第1?第3号証」と、それぞれ記載されているが、特許異議申立書のその余の記載から、上記のように認定した。

2 平成28年11月22日付けの取消理由通知で通知した取消理由
請求項1?5、8、9に係る特許に対して上記取消理由通知で通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。

(1)特許法第29条第1項第3号(以下「理由1」という。)
本件発明1?4、8、9は、その出願前に頒布された下記の刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。
よって、本件発明1?4、8、9に係る特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
刊行物1:特開2004-322442号公報(特許異議申立人が提出した甲2)

(2)特許法第29条第2項(以下「理由2」という)
本件発明5は、その出願前に頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件発明5に係る特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
刊行物1:特開2004-322442号公報(特許異議申立人が提出した甲2)

第4 当審の判断

1 平成28年11月22日付けの取消理由通知で通知した取消理由について
当審は、本件発明1?5、8、9について、上記取消理由通知で通知したとおり、取り消されるべきであると判断する。その理由は、以下のとおりである。

(1)理由1について

ア 刊行物の記載

(ア)刊行物1
(1a)「【請求項1】曲面状の賦形面を有する下型に対して、該下型の前記賦形面上に層間接着できる接着材料を付与した複数枚の強化繊維基材からなる積層シートを配置し、さらにその上から前記下型の賦形面に一致する賦形面を有する上型を順次、積層シート各部の小領域に型押しすることにより、前記積層シートに所定のプリフォーム形状を賦形することを特徴とするFRPのプリフォーム製造方法。
【請求項2】積層シートを上下の賦形型に挟み込み、この状態で積層シートを加熱することにより、各繊維基材間の層間接着をすることを特徴とする請求項1に記載のFRPのプリフォーム製造方法。
【請求項3】積層シートを層間接着する接着材料は、熱可塑性樹脂粉末であることを特徴とする請求項1または2に記載のFRPのプリフォーム製造方法。
【請求項4】強化繊維基材は、炭素繊維織物であることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載のFRPのプリフォーム製造方法。
【請求項5】請求項1?4のいずれかに記載のプリフォーム製造方法により賦形時のシワ・弛みの発生が抑制された強化繊維基材に、マトリックス樹脂が含浸されてなる繊維強化複合部材。
【請求項6】賦形面としてプリフォーム成形すべき曲面を有する下型と、下型の賦形面のうちの少なくとも一部の領域の賦形面に一致する曲面を型押し面として有する上型と、前記下型と前記上型との間に位置し、強化繊維基材の積層シートを下型の賦形面上に移載する移載手段を備えたトレーとを有するとともに、前記上型または下型の一方を他方に押圧する手段を備えたことを特徴とするFRPのプリフォーム製造装置。
【請求項7】さらに、上型または下型に積層シートを加熱する手段を備えたことを特徴とする請求項6に記載のFRPのプリフォーム製造装置。
【請求項8】上型は、賦形面が複数個に分割された分割型であり、個々の分割型の賦形面が下型に対して個々に進退する型押し手段を備えたことを特徴とする請求項6または7に記載のFRPのプリフォーム製造装置。
【請求項9】下型は、ベース架台上に複数枚の賦形プレートをスリット状に等間隔で配列し、賦形プレートの先端面の集合面が前記賦形面を構成していることを特徴とする請求項6?8のいずれかに記載のFRPのプリフォーム製造装置。
【請求項10】上下型は、いずれも全面もしくは局部的にエアーが貫通できる手段を備えたことを特徴とする請求項6?9のいずれかに記載のFRPのプリフォーム製造装置。
【請求項11】上型の賦形面をメッシュ状の曲面にしたことを特徴とする請求項6?10のいずれかに記載のFRPのプリフォーム製造装置。
【請求項12】積層シートの加熱手段は、加熱エアーを積層シートに対して、その全面または局部的に当てる手段であることを特徴とする請求項7?11のいずれかに記載のFRPのプリフォーム製造装置。
【請求項13】上型または下型の加熱手段は、ヒータであることを特徴とする請求項7?12のいずれかに記載のFRPのプリフォーム製造装置。
【請求項14】積層シートが加熱成形されたあと、さらに冷却する手段を備えたことを特徴とする請求項7?13のいずれかに記載のFRPのプリフォーム製造装置。」(2?3頁、特許請求の範囲の請求項1?14)
(1b)「【0001】【発明の属する技術分野】
本発明は、FRP(繊維強化プラスチック)の成形に用いるプリフォームの製造方法および製造装置に関する。詳しくは強化繊維基材を積層してなる繊維強化複合材料用のプリフォームを早いサイクルで、しかも高い精度で成形するプリフォームの製造方法および製造装置に関する。」
(1c)「【0002】【従来の技術】
従来より、FRPは、ハンドレイアップ成形法による人手作業や、半硬化状態の熱硬化性樹脂を含浸させた中間基材(プリプレグ)を積層し、オートクレーブ内で加圧加熱成形するなどの各種成形法により、一般産業用途に広く製造されていた。
【0003】しかし、最近のFRPの用途は、自動車用途など、輸送機器部材などの低コスト大量生産が必要な用途が増加し、成形サイクルの短縮・自動化などの、より一層の生産性向上が望まれている。
【0004】そのため、これまでのプリプレグを使用した成形法よりも、格段に成形サイクルが短縮できるRTM法(レジン・トランスファー・モールディング)、成形型内を真空吸引して樹脂の含浸を助けるVa-RTM法、RIM法(レジン・インジェクション・モールディング)など、樹脂が未含浸の強化繊維基材を使用してプリフォームを成形した後に樹脂を一括含浸させる成形法が盛んになってきている。
【0005】その際の課題として、最終製品たるFRP成形部材の形状とほぼ一致するサイズのプリフォームを成形するために、成形サイクルが短かく、積層された強化繊維基材が一体化できて成形すべき形態が保持され、かつ成形金型で成形した後の成形品のバリ処理加工等が殆ど不要となる精度の高いプリフォーム化技術が要求されている。
【0006】例えば、ガラス繊維製プリフォームの賦形方法として、特許文献1には、スクリーン状またはメッシュ状の上型、下型間に、ガラス繊維マットを型の展開図状に配置し、これに対して加熱空気を上下型およびガラス繊維マットに貫通して、同時に上型、下型を合わせ、低圧プレス後、冷却空気を貫通してプリフォームを賦形する方法が提案されている。
【0007】しかしながら、このような方法では、上型も下型のどちらも賦形面が大きなサイズに1面化されており、賦形形状が複雑になれば、当然にプリフォーム成形するガラス繊維マットが賦形面に馴染まない状態や、マットにシワ・弛み等が発生することが予想される。また、賦形型の装置としては大がかりになるため、成形数が少ない少量生産にはコスト面でも現実的ではないという問題がある。他にもマットの位置決めが難しい点や、マットの歩留まりが悪くなる欠点があるうえ、精度の高いプリフォーム化が困難であるという問題がある。
【0008】【特許文献1】特開平5-8313号公報
【0009】【発明が解決しようとする課題】
本発明は、これら従来技術の問題点を解決すべくなされたものであって、積層した強化繊維基材を用いてプリフォームを成形する際に、成形部材のシワ・弛み等の不具合が少なく、少量生産にも対応した低コストタイプの賦形型で、成形サイクルを短かくする量産タイプの賦形型にも適用でき、しかも精度の高いプリフォームを製作するためのFRPのプリフォーム製造方法および製造装置を提供することを目的とする。」
(1d)「【0024】【発明の実施の形態】
以下、本発明の好ましい実施の形態をその一実施例の図面を参照して説明する。
【0025】まず、本発明のプリフォーム製造装置の一実施態様を説明する。図1?図7は、いずれも本発明のプリフォーム製造装置の一実施態様に係る図面であり、図1と図3はその斜視図、図2はその断面図で図1の積層シート5を下型2と上型3とで挟み込んだ状態の縦断面図である。また、図4と図5は、本発明の製造方法に用いる上型の一例を示す拡大斜視図である。また、図6と図7は、本発明に係るプリフォーム製造装置により成形したプリフォームの斜視図である。
【0026】図1に示すように、本発明のFRPのプリフォーム製造装置1は、基本的には、曲面を呈したスリット状の複数枚の賦形プレートが連続する賦形面2aを有する下型2と、賦形面2aと対応する賦形面である凹曲面を呈した上型3と、これら上下型の間に位置し、プリフォームとして成形すべき積層シート5を載せるトレー4とから構成されている。
【0027】下型2は、後述するトレー4の上に載置した積層シート5を、その賦形面2a上に載置するための部材であり、図に示すように賦形部外形が山形状の賦形面2aを有する賦形プレート2eが一定間隔でベース2dに複数枚固定され、これら複数の賦形面2aの集合体(以下、賦形面という。)が成形すべきプリフォームの三次元形状に一致するようになっている。また、ベース2dの四隅にはトレー4のガイド穴4cにピッタリ合うように、ガイドピン2bが設けられ、トレー4にダンパー効果がでるようにコイルバネ2cがセットされてある。
【0028】トレー4は、積層シート5を下から支え、前述の下型2の賦形面2a上に移動させるための部材であり、矩形状の枠材4bと、積層シートを支えるため一定間隔で複数本が枠材に固定された支持材4aとで構成されている。支持材4aの配列ピッチは、下型2の賦形プレート2eの固定ピッチと一致し、枠材4bの内法寸法は賦形プレート2eの全長よりも大きくなっている。すなわち、トレー4は、図2に示すように、積層シート5を積載した状態で枠材4b間に下型の賦形プレート2eが抜き差しできるような位置関係に形成されている。また、枠材4bの四隅には前述の下型2のガイドピン2bが嵌るガイド穴4cと、積層シート5の位置決めするストッパー4dとが設けられている。なお、ストッパー4dは、積層したシートの耳端部を揃えるようにするためのものである。
【0029】上型3は、積層シート5をトレー4に積載した状態で下型2の賦形面上に移載した後、積層シート5をその上から押圧し、積載した積層シート5に最終的にプリフォーム形状を賦形固定するためのもので、図1に示すように平面方向に複数個に分割された分割型3aからなっており、それぞれの分割型3aの下型対向面は全ての分割型3aの下型対向面の集合面が前述の下型2の賦形面2aと一致する三次元形状となっている。なお、3dは取手である。
【0030】また、個々の分割型3aは、下型2上の賦形面に対応して独立して個々に上下動することができ、積層シート5との接触面である下型対向面には例えばパンチングメタル、アルミ製エキスパンドメタル等が用いられ、メッシュ状をしており通気性を有するようになっている。
【0031】分割型3aの上下動手段としては、特に限定するものではなく、例えば図3に示すように個々の分割型3aの裏面にエアシリンダー3bのピストン側を固定し、シリンダ側はその上に設けた共通ベース3cに全て固定し、個々のシリンダーを図示しないコントローラにより下型2方向に上下動させる手段が挙げられる。分割型3aの通気手段としては、上記メッシュ状部材の他、図4に示すように、個々の分割型の賦形面に通気孔3fを多数設けたものでもよい。この孔は、分割型3aの全面もしくは局部的に設けることによりエアーが貫通できるものでも良い。
【0032】さらに、個々の分割型3aには、図5に示すようにヒーター3gが内蔵され、図示しない温度コントローラにより個々に賦形面と積層シート5とが120?150℃の温度範囲に昇温できるようになっている。これらの加熱手段としては、上記ヒータの他、図2に示すように、上型3の上部に内部が空洞のボックス6と、これに接続される蛇腹ホースを設け、図示しない空気加熱器から加熱エアーHAをボックス内に引き込み、空気加熱器のエアー温度をコントロールすることで所望温度にコントロールしても良い。また、下型2のスリット下面よりスリット間に加熱エアーHAを供給しても良く、さらに、下型や上型そのものが積層シート5を加熱することのできるヒータであってもよい。また、賦形型に加熱エアーHAを供給しながら、上下賦形型を加熱できるヒータの構成であってもよい。
【0033】以上が本発明の製造装置の概要であるが、個々には次に述べる手段を採用しても良い。まず、上述した下型2と上型3の三次元形状の賦形面は、成形形状や作業性を考慮し、図1?図5で説明したものとは賦形面が上下逆になっても構わない。また、賦形したい形状が例えばドーム状であったりした場合は、上型の分割型はドーム形状の一部分を複数箇所に移動させて、プリフォーム成形しても問題ない。また、上型の賦形面2aにおいては、一例としてスリット状のものを図示したが、これに限定されず例えば円筒状、矩形筒状、三角形筒状、ハニカム形筒状、あるいは扇形筒状等の形状部材を用いて賦形面を構成することも可能である。また、その材質は、取り扱い性や強度面から金属製(一般構造用圧延材、ステンレス鋼材等)が一般的であるが、賦形型の重量が重くなることからアルミニウムを使用すると軽量化ができ好ましい。賦形型の製作コストや耐久性を考慮して、木製や木製の表面に樹脂等をコーティングした賦形型でも良いが、加熱エアー等の熱(約150?200℃)に影響を受けない耐熱性を有することが望ましい。複雑形状に対応できる樹脂材質や複合材料でも問題ない。また、部分的に樹脂やアルミ、金属と組み合わせて使用しても良い。
【0034】また、図5の上型3は、複数個の分割型の昇温手段をヒーター3gで構成したが、プレートヒーターやアルミ鋳込みヒーター、シリコンラバーヒーター等で構成してもよい。図2では、加熱エアーHAを賦形型に供給することで、積層シート5の積層間に介在するバインダー樹脂を溶かし、層間接着する方法を取っているが、図5のように賦形型自体がヒーター3gとなる加熱方法でも問題はない。要するに賦形面に合った形状が保たれ、かつ、必要な熱容量が積層シート5に伝えることができれば良い。」
(1e)「【0035】次に、上記図面を用いて本発明の製造方法を工程順に説明する。
1.積層シート5の準備工程
まず、樹脂が未含浸のガラス繊維や炭素繊維などからなる図1の強化繊維基材シート5(積層シート)を、プリフォーム成形する型サイズより大きく裁断し、基材シートの裁断周囲は、あらかじめ解れ止め処理を施す。解れ止め処理は、シートの取り扱い性を良くし、強化繊維基材シートの傷みを防止するうえ、位置決めの精度も向上する。強化繊維基材シートの片面または両面に、バインダーの役目をする熱可塑性ポリマーの粒状物を、図示を省略した装置により分散・固着し、所望のプリフォームが製造できるための強化繊維基材シートを準備する。
【0036】なお、上記熱可塑性ポリマーの粒状物は、積層シート5を層間接着するためのバインダーであり、これを加熱することにより、複数の基材シートの層間が接着できることで一体化でき、プリフォームの形態保持ができるという効果がある。このためコスト面や成形後剥離強度等の点からも、熱可塑性ポリマーの粒状物はできる限り低密度で均一分散されて付着されているのが好ましい。このような材質のものとしては、ナイロン、共重合ナイロン、塩化ビニエリデン、塩化ビニル、ポリエステル、ポリウレタンなどが挙げられ、中でもマトリックス樹脂として一般的な熱硬化性樹脂との接着性の点で、共重合ナイロンが好適であり、具体的にナイロン6、ナイロン66、および610などが好ましい。
【0037】強化繊維基材の積層シート5に用いられる強化繊維としては、高強度、高弾性率繊維が望ましく、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、ポリアミド繊維などが使用できるが、その他の材料であっても、性能面で良好な材料であれば使用可能である。
2.積層シート5の載置およびトレー4による移載工程
次に所定サイズに裁断した強化繊維基材シートを必要枚数積層し、図1に示す積層シート5のように、トレー4の支持材4a上の定位置にセットする。トレー4のガイド穴4cを下型2のガイドピン2bへ嵌め込み、下型2のスリット状の賦形面2a上に積層シート5が若干接しながら載るように、静かにトレー4を降下させる。この際、ガイドピン2bにはコイルバネ2cがセットされてあるので、ダンパー効果とトレー4はセット高さ位置にとどまる。この昇降方法は、機械的にシリンダーやクランク機構、ボールネジ等を用いて、トレー4を昇降することも可能である。
3.上型3による賦形工程
次に上型3の分割型3aの中央部3eの取手3dを手で持ち上げ、位置が分かるようにマーキングされたトレー4上の積層シート5に接地し、中央の分割上型3eを下方向へ荷重を加えながら下型2の賦形面2aに接触する位置まで押す。押圧力としては、基材シートの単位面積当たり、0.5?10kg/cm2の範囲内となる圧力が好ましい。上型3の中央部周囲の分割型を、前記手順で順次型押しを行う。この際に、積層シート5の表面にシワ・弛み等が発生しないように、中央部から周囲に広がるように分割型で型押しを行う。
4.積層シートの加熱・冷却工程
トレー4が下型2のスリット部に収まり、下型2と上型3のクリアランスに積層シート5が型押しされた賦形状態(図2参照)で、上型3の上面に加熱エアーHAを供給するボックス6をセットして、上型3に加熱エアーHAを貫通させて積層シート5に熱を加える。エアーの加熱温度は、150?300℃の温度範囲内となるのが好ましい。積層シート5は加熱されることで、積層間に介在する熱可塑性ポリマーの粒状物が溶けだしバインダーの役目をするため、積層面を層間接着することで形態保持ができる。積層シート5を加熱エアーで加熱完了後に、冷却エアーに切り替え積層シート5を冷やしてプリフォーム成形品の形態保持をする。
5.脱型工程
次に、ボックス6や上型3を取り除き、トレー4を用いてプリフォーム成形品5Aを下型2より脱型する。この脱型の際、プリフォーム成形品5Aの型くずれが発生しないように、慎重にトレー4を上昇させて脱型作業を行う。取り出したプリフォーム成形品5Aの不要基材部を、次工程の樹脂成形型に合うサイズに、図示を省略した装置等によりエッジをトリミングして、一連の製造工程が完了する。トリミングをしていない状態のものが図6のプリフォーム成形品5Aである。
【0038】最後に、プリフォーム完成品5Bが脱型後に変形しないよう、プリフォーム完成品5Bの形状に合ったトレー等を準備して、次工程に備える。この状態を示したものが図7のプリフォーム完成品5Bであり、上記成形品5Aのエッジをトリミング処理し、裏面にストックトレー5aを当てることにより賦形したプリフォーム形態を固定したものである。
【0039】以上で本発明の製造方法の全工程が終了するが、本発明の製造方法によれば、賦形工程の上型もしくは下型を分割構成しているので、賦形したい基材シートにシワや弛みの発生が少ない優れた効果を奏することができる。」
(1f)「【0040】【実施例】
[実施例1]
本実施例では、図2に示す装置を用いた。すなわち主要品はベース2d上に取り付けられた下型2と、分割された上型3と、強化繊維基材の積層シート5を層間接着するための加熱エアーHAを供給するボックス6と、積層シート5を載せるトレー4である。まず、下型2として、賦形面が三次元形状を呈し、プリフォームのサイズが長さ1000mm、幅600mmのものを製造することとし、下型2の賦形面2aにはスリット状に配列した賦形プレート2eを用いた。賦形プレート2eは、一般構造用材料を用い、板厚2.3mmで一対の賦形プレート2e間の隔たりを約20mmとし、三次元形状に加工した賦形プレート2eを配置した。ベース2dには、60mm角のアルミニウム製で外寸の長さが1200mm、幅800mmのフレームに賦形プレート2eは固定され、賦形面2aを造り下型2となる。
【0041】また、上型3は、厚さ0.8mmのアルミニウム材で、菱形形状の網状に加工されたエキスパンドメタルを型加工し、賦形面2aに対応するように6分割した。上型3を形成する分割型は、型の縁を折り曲げ強度アップし、大面積の分割型にはリブを入れ補強した。隣接する分割型にマーキングを行い、上型3の位置ズレを防止した。上型3に使用したエキスパンドメタルの菱形サイズは、長尺14mm,短尺7mmで網目状に加工後、さらに圧延加工が施され平板状となったものを使用した。また、下型2のベース2dの上面4隅に、直径φ20のガイドピン2bを垂直に取り付け、ガイドピン2bにはトレー4と積層シート5の自重を支持し、セット位置にとどめることができるコイルバネ2cを挿入した。また、下型2とトレー4の枠材とに、上型3の降下が止まればトレー4をその降下した位置で一旦固定できるよう、図示を省略した止め金具を具備した。
【0042】また、図2に示す加熱エアーHAは、図示を省略した熱風発生装置で加熱空気の温度が任意に変更でき、最高設定温度が350℃まで設定可能な装置で、直径φ60のフレキシブルなダクトを介してボックス6に吹き込むよう接続した。
【0043】また、図1、図2乃至図3に示す主要品の一つであるトレー4は、下型2のスリットの形状に合わせ、一般構造用材料で板厚1.2mm,幅20mmの帯状物からなる支持材4aをピッチ約50mmで等間隔に列べたものを、枠材4bの30mm角のアルミニウム製角材に取り付けた。支持材4aの複数枚にはストッパー4dを取り付け、積層シート5の耳端部が揃うようにした。
【0044】使用した強化繊維基材は、炭素繊維(東レ株式会社製“トレカ”T700-12K)にサイジング剤が付着した幅6mmの扁平糸を用いた織物で、目付300g/m^(2) のものである。この基材の片面にバインダーの役目をさせるため、熱可塑性ポリマーの粒状物(東レ株式会社製,品番842-48)を図示を省略した装置により、0.8?1.5g/m^(2) の目付で分散・固着した。積層シート5は、縦糸または横糸の軸方向が0および90°方向、または±45°方向の少なくとも一方の積層方向のものが含まれるように基材シートをカットしたものを積層した。 トレー4に、積み重ねた積層シート5を人手作業で運搬し、トレー4のガイド穴4cを下型2のガイドピン2bにセットする。
【0045】次に、上型3の分割型3eを手で移動し、トレー4上にセットされた積層シート5の上に当接しながら、トレー4を押し下げていき下型2の賦形面2aに、積層シート5が接触するまで力を付与した。
【0046】同様に、上型3の分割型3aを個々に可動させて下型2の賦形面2aに積層シート5を挟み込むように押さえた。この際、中央部から周囲に向けて分割型で押さえ込むようにすると、積層シート5が徐々に賦形面2aへ馴染むため、基材に発生するシワや弛みが抑制できた。トレー4は、積層シート5を上型3の分割型3aで型押しするたびに、トレー4の高さ位置を調節し、支持材4aは下型2の賦形プレート2eのスリット間に収納される。すべての分割押さえ型である上型3が、積層シート5を下型2の賦形面2aに挟み込んだ状態を保持する。
【0047】次に、加熱エアーHAを供給するボックス6を上型3の上面に取り付け、図示を省略した熱風発生装置より送られてきた約300℃の加熱エアーHAを、ボックス6に約60秒間供給し、積層シート5を加熱した。積層シート5の積層間に介在する層間接着用の熱可塑性ポリマーの粒状物が熱融着した状態で、加熱エアーHAを冷却エアーに切り替え数十秒間積層シート5を冷やすと、積層シート5の層間が接着する。上型3を個々にすべて取り外し、トレー4をゆっくりと上昇させ、下型2より脱型したプリフォーム成形品5Aを取り出した。成形品は、成形型の曲げ曲面が大きい箇所にもシワや弛み等が発生することなく、全体がしっかりと形態保持され、成形型への貼り付や毛羽・変形も無く品位の高いプリフォームが得られた。
【0048】[実施例2]
図3で上型3の全体を昇降させる低圧プレス装置(図示省略)と、分割の上型3aを個々に上下可動させるエアーシリンダー3b設置したプリフォーム製造装置を用い、その他の条件は実施例1と同様にしてプリフォーム成形を実施した。
【0049】その結果、プリフォーム成形品の品位は実施例1と同程度の優れたもので、成形する所要時間を短縮することができた。
【0050】[実施例3]
図5で示すヒーター3gで構成された上型3を用いて、加熱エアーHA使用しない方法とし、これ以外は実施例1と同様にしてプリフォーム成形を実施した。
【0051】その結果、プリフォーム成形品の品位は実施例1と同程度の優れたもので、成形する所要時間も変わりなかった。
【0052】[比較例1]
実施条件として、上型3を分割しないで一体形状として賦形した以外は、全て実施例1と同1条件とした。
【0053】得られたプリフォーム成形品は、賦形型の曲面の曲率が大きい箇所に、積層シート5の表面の一部にシワや弛みが生じ、賦形型に馴染まないプリフォームであった。
【0054】また、上型3を一体形状で積層シート5を押さえ込んだため、積層シート5の表層と下型2で一部基材が擦れ、毛羽や目ズレが発生した。同様に積層シート5の表層と上型3の接触箇所にも発生した。」
(1g)「【0055】【発明の効果】
以上説明したように、本発明は、強化繊維基材を積層した繊維強化複合材料用プリフォームを成形する際に、曲面を呈した賦形型の下型に対応した上型を、下型の上面に配置した強化繊維基材の積層シート各部の小領域を順次上型で押しながら、強化繊維基材の積層間に層間接着するバインダー樹脂を介在させた積層シートを加熱し、積層シートを層間接着することで、強化繊維基材をプリフォーム成形するものである。
【0056】したがって、プリフォーム成形する際には、賦形する型の形状やサイズおよび曲面にあわせて、下型と上型の構成方法を考慮し、型押しする際に発生する積層シートのシワや弛みが抑制されるように、上型もしくは下型を分割構成とすることができるので、積層シート上にシワや弛みが発生しないという優れた効果を奏することができる。
【0057】また、積層した強化繊維基材をトレーに載せた状態で、下型と上型間に移動できるようにしたので、積層した強化繊維基材の撓みが防止でき、かつ耳端部が揃え易くなる。よって、精度の高いプリフォームが人手作業で容易に製造できるため、小ロット生産の場合には賦形型の製造コストが抑えられ、製品コストも下げることができる。さらに、大量生産の場合は、上型などの型押し機構を自動化することで、短い成形サイクルで量産できるため、低コスト化が図れる。」
(1h)「【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るプリフォーム製造装置の一実施態様例を示す斜視図である。
【図2】本発明に係るプリフォーム製造装置の一実施態様例を示す縦断面図である。
【図3】本発明に係るプリフォーム製造装置の一実施態様例を示す斜視図である。
【図4】本発明に用いる上型の一実施態様例を示す拡大斜視図である。
【図5】本発明に用いる上型の一実施態様例を示す拡大斜視図である。
【図6】本発明に係るプリフォーム製造装置により成形したプリフォームの一実施態様例を示す斜視図である。
【図7】本発明に係るプリフォーム製造装置により成形を完了したプリフォームの一実施態様例を示す斜視図である。
【符号の説明】
1:プリフォーム製造装置
2:下型
2a:下型の賦形面
2b:ガイドピン
2c:コイルバネ
2d:ベース
2e:賦形プレート
3:上型
3a:分割型
3b:エアーシリンダー
3c:共通ベース
3d:上型の取手
3e:上型の分割型の中央部
3f:通気孔
3g:ヒーター
4:トレー
4a:トレーの支持材
4b:トレーの枠材
4c:トレーのガイド穴
4d:トレーのストッパー
5:積層シート
5A:プリフォーム成形品
5B:プリフォーム完成品
5a:ストックトレー
6:ボックス
HA:加熱エアー
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】



イ 刊行物に記載された発明

(ア)刊行物1は、FRPのプリフォーム製造方法及び製造装置に関する特許文献であり、そこに記載される発明は、積層した強化繊維基材を用いてプリフォームを成形する際に、成形部材のシワ・弛み等の不具合が少なく、少量生産にも対応した低コストタイプの賦形型で、成形サイクルを短かくする量産タイプの賦形型にも適用でき、しかも精度の高いプリフォームを製作するためのFRPのプリフォーム製造方法及び製造装置を提供することを課題として、特許請求の範囲の請求項1?4に記載されるFRPのプリフォーム製造方法及び請求項6?14に記載されるFRPのプリフォーム製造装置とする、というものである(摘示(1a)?(1c))。発明の詳細な説明及び図面には、具体的に説明がされている(摘示(2d)?(2h))。そして、請求項8に記載されるFRPのプリフォーム製造装置の「型押し手段」としては、図1に関連して3dで示される「取手」(摘示(1d)【0029】、摘示(1h)図1)、図3に関連して3bで示される「エアシリンダー」(摘示(1d)【0031】、摘示(1f)【0048】、摘示(1h)図3)が記載されている。
したがって、刊行物1には、請求項6を引用する請求項8に係るFRPのプリフォーム製造装置であって、その「型押し手段」が「取手」又は「エアシリンダー」である、以下の
「賦形面としてプリフォーム成形すべき曲面を有する下型と、下型の賦形面のうちの少なくとも一部の領域の賦形面に一致する曲面を型押し面として有する上型と、前記下型と前記上型との間に位置し、強化繊維基材の積層シートを下型の賦形面上に移載する移載手段を備えたトレーとを有するとともに、前記上型または下型の一方を他方に押圧する手段を備えたFRPのプリフォーム製造装置であって、上型は、賦形面が複数個に分割された分割型であり、個々の分割型の賦形面が下型に対して個々に進退する型押し手段である取手又はエアシリンダーを備えた、上記のFRPのプリフォーム製造装置」
の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているということができる。

(イ)また、刊行物1には、下型と上型の賦形面の形状について、「図1?図5で説明したものとは賦形面が上下逆になっても構わない」と記載されている(摘示(1e)【0033】)から、以下の
「引用発明1のFRPのプリフォーム製造装置であって、賦形面が図1?図5と上下逆になっている、FRPのプリフォーム製造装置」
の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているということができる。

(ウ)また、刊行物1には、上型又は下型に積層シートを加熱する手段を設けることについて記載されている(摘示(1a)請求項7、摘示(1d)【0032】【0034】、摘示(1h)図2及び図5)から、以下の
「引用発明1又は2のFRPのプリフォーム製造装置であって、上型又は下型に積層シートを加熱する手段を設けた、FRPのプリフォーム製造装置」
の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されているということができる。

(エ)また、刊行物1には、「下型2と上型3のクリアランスに積層シート5が型押しされた賦形状態」で積層シートを加熱した後、「冷却エアーに切り替え積層シート5を冷やしてプリフォーム成形品の形体保持をする」と記載されており(摘示(1e)【0037】)、このことは、FRPのプリフォーム製造装置が、冷却エアーを吹き付ける冷却装置を有することを意味するから、以下の
「引用発明3のFRPのプリフォーム製造装置であって、積層シートに冷却エアーを吹き付ける冷却装置を有する、FRPのプリフォーム製造装置」
の発明(以下「引用発明4」という。)の発明が記載されているということができる。

(オ)そして、刊行物1には、上記引用発明1?4のFRPのプリフォーム製造装置を用いて、刊行物1の請求項1に記載されるようにして行うFRPのプリフォーム製造方法についても記載されているといえるから(摘示(1a)?(1h))、以下の
「引用発明1?4のFRPのプリフォーム製造装置を用いたFRPのプリフォーム製造方法であって、曲面状の賦形面を有する下型に対して、該下型の前記賦形面上に層間接着できる接着材料を付与した複数枚の強化繊維基材からなる積層シートを配置し、さらにその上から前記下型の賦形面に一致する賦形面を有する上型を順次、積層シート各部の小領域に型押しすることにより、前記積層シートに所定のプリフォーム形状を賦形する、FRPのプリフォーム製造方法」
の発明(以下「引用発明P1」という。)及び
「引用発明4のFRPのプリフォーム製造装置を用いたFRPのプリフォーム製造方法であって、曲面状の賦形面を有する下型に対して、該下型の前記賦形面上に層間接着できる接着材料を付与した複数枚の強化繊維基材からなる積層シートを配置し、さらにその上から前記下型の賦形面に一致する賦形面を有する上型を順次、積層シート各部の小領域に型押しすることにより、前記積層シートに所定のプリフォーム形状を賦形し、賦形状態で積層シートを加熱した後、冷却エアーにより積層シートを冷やしてプリフォーム成形品の形体保持をする、FRPのプリフォーム製造方法」
の発明(以下「引用発明P2」という。)が記載されているということができる。

ウ 本件発明1について

(ア)対比
本件発明1と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「賦形面としてプリフォーム成形すべき曲面を有する下型と、下型の賦形面のうちの少なくとも一部の領域の賦形面に一致する曲面を型押し面として有する上型」は、本件発明1の「外面が互いに対面する2つの工具半体(1,1’)」に相当する。
引用発明1の「上型は、賦形面が複数個に分割された分割型であり、個々の分割型の賦形面が下型に対して個々に進退する型押し手段である取手又はエアシリンダーを備え」は、その上型が、エアシリンダーの空気圧により進退する分割型からなるものであり、本件発明1の所定の複数のプランジャセグメント(3,3’)を備える工具半体に相当するので、本件発明1の「前記工具半体(1,1’)の少なくとも一方が、複数のプランジャセグメント(3,3’)を備え、前記プランジャセグメントは昇降運動を行うもので、個々に調整可能且つ個々に移動可能であり、前記プランジャセグメントは前記プリフォーム(2)を製造するための前記工具半体(1,1’)の成形工具面を形成し、異なる幅及び/又は奥行を有し、及び、油圧、空気圧又は電動式に動作可能である」に相当する。
引用発明1の「FRPのプリフォーム製造装置」は、積層シートを押圧して賦形して、FRPのプリフォームを製造する装置であり、FRPのプリフォームは、多少とも固化されたものであるから、本件発明1の「少なくとも部分的に固化されたプリフォーム(2)を製造するための・・・ドレープ成形及びプレス成形工具」に相当する。
そうすると、本件発明1と引用発明1とは、
「少なくとも部分的に固化されたプリフォーム(2)を製造するための、外面が互いに対面する2つの工具半体(1,1’)を有するドレープ成形及びプレス成形工具であって、
前記工具半体(1,1’)の少なくとも一方が、複数のプランジャセグメント(3,3’)を備え、前記プランジャセグメントは昇降運動を行うもので、個々に調整可能且つ個々に移動可能であり、前記プランジャセグメントは前記プリフォーム(2)を製造するための前記工具半体(1,1’)の成形工具面を形成し、異なる幅及び/又は奥行を有し、及び、油圧、空気圧又は電動式に動作可能であることを特徴とするドレープ成形及びプレス成形工具」
である点で一致し、相違するものではない。

(イ)したがって、本件発明1は、刊行物1に記載された発明である。

エ 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1において「前記プランジャセグメント(3,3’)を備えた少なくとも一方の前記工具半体(1)が、凸状の成形工具面を備える」と特定されたものである。
本件発明2と引用発明2とを対比する。
引用発明2の「賦形面が図1?図5と上下逆になっている」は、賦形面が、刊行物1の図1?図5におけるような上に凸の形状ではなく、下に凸の形状であることを意味する。すなわち、上型が凸状で、下型が凹状である。そして、上記ウ(ア)と同様に、引用発明2の上型が、エアシリンダーの空気圧により進退する分割型からなるものであり、本件発明2の所定の複数のプランジャセグメント(3,3’)を備える工具半体に相当するのであるから、引用発明2の「賦形面が図1?図5と上下逆になっている」は、本件発明2の「前記プランジャセグメント(3,3’)を備えた少なくとも一方の前記工具半体(1)が、凸状の成形工具面を備える」に相当する。
本件発明2のその余の発明特定事項は、上記ウ(ア)と同様、引用発明2と一致する。
そうすると、本件発明2と引用発明2とは、相違するものではなく、したがって、本件発明2は、刊行物1に記載された発明である。

オ 本件発明3について
本件発明3は、本件発明1又は2において「前記ドレープ成形及びプレス成形工具が、個々に調整可能な複数の加熱素子を備える少なくとも1つの加熱装置を備え、前記加熱素子は前記工具半体(1,1’)の少なくとも一方の前記成形工具面内、又はその下に配置され、個々の移動可能な前記プランジャセグメント(3,3’)との連係運動で直線的に移動可能である」と特定されたものである。
本件発明3と引用発明3とを対比する。
引用発明3の「上型又は下型に積層シートを加熱する手段を設けた」は、図5のように分割型にヒーターが内蔵されたものか、図2のように加熱エアーを吹き付けるようにするものを意味している。そして、この、分割型にヒーターが内蔵されたものは、本件発明3の「前記ドレープ成形及びプレス成形工具が、個々に調整可能な複数の加熱素子を備える少なくとも1つの加熱装置を備え、前記加熱素子は前記工具半体(1,1’)の少なくとも一方の前記成形工具面内、又はその下に配置され、個々の移動可能な前記プランジャセグメント(3,3’)との連係運動で直線的に移動可能である」に相当する。
本件発明3のその余の発明特定事項は、上記ウ(ア)及びエと同様、引用発明3と一致する。
そうすると、本件発明3と引用発明3とは、相違するものではなく、したがって、本件発明3は、刊行物1に記載された発明である。

カ 本件発明4について
本件発明4は、本件発明1?3の何れかにおいて「前記ドレープ成形及びプレス成形工具が、空気ノズルを備える冷却装置を含む」と特定されたものである。
本件発明4と引用発明4とを対比する。
引用発明4の「積層シートに冷却エアーを吹き付ける冷却装置を有する」は、本件発明4の「前記ドレープ成形及びプレス成形工具が、空気ノズルを備える冷却装置を含む」に相当する。
本件発明4のその余の発明特定事項は、上記ウ(ア)、エ及びオと同様、引用発明4と一致する。
そうすると、本件発明4と引用発明4とは、相違するものではなく、したがって、本件発明4は、刊行物1に記載された発明である。

キ 本件発明8について

(ア)対比
本件発明8と引用発明P1とを対比する。
引用発明P1の「引用発明1?4のFRPのプリフォーム製造装置を用いたFRPのプリフォーム製造方法」は、本件発明8の「請求項1から7のいずれか一項に記載のドレープ成形及びプレス成形工具を使用して成形され、少なくとも部分的に固化されたプリフォーム(2)を製造する方法」のうちの「請求項1から4のいずれか一項に記載のドレープ成形及びプレス成形工具を使用して成形され、少なくとも部分的に固化されたプリフォーム(2)を製造する方法」に相当する。
引用発明P1の「曲面状の賦形面を有する下型に対して、該下型の前記賦形面上に層間接着できる接着材料を付与した複数枚の強化繊維基材からなる積層シートを配置し」は、そこで用いる引用発明1?4のFRPのプリフォーム製造装置の「上型」の構成からして、本件発明8の「-前記ドレープ成形及びプレス成形工具内の前記工具半体(1,1’)の間に結合材を含む繊維層を配置するステップであって、前記2つの工具半体(1,1’)のうちの少なくとも1つの工具半体(1,1’)が、昇降運動を行う、個々に調整可能且つ個々に移動可能なプランジャセグメント(3,3’)を備えるステップ」に相当する。
引用発明P1の「さらにその上から前記下型の賦形面に一致する賦形面を有する上型を順次、積層シート各部の小領域に型押しすることにより、前記積層シートに所定のプリフォーム形状を賦形する」は、本件発明8の「-前記プランジャセグメント(3,3’)を調整し、前記プランジャセグメント(3,3‘)を、挿入された前記繊維層の方向に局部的且つ連続的に移動させ、その際に局部的な押圧により前記繊維層をスタックとしてドレープ成形するステップ」に相当する。
そうすると、本件発明8と引用発明P1とは、
「請求項1から4のいずれか一項に記載のドレープ成形及びプレス成形工具を使用して成形され、少なくとも部分的に固化されたプリフォーム(2)を製造する方法であって、
-前記ドレープ成形及びプレス成形工具内の前記工具半体(1,1’)の間に結合材を含む繊維層を配置するステップであって、前記2つの工具半体(1,1’)のうちの少なくとも1つの工具半体(1,1’)が、昇降運動を行う、個々に調整可能且つ個々に移動可能なプランジャセグメント(3,3’)を備えるステップと、
-前記プランジャセグメント(3,3’)を調整し、前記プランジャセグメント(3,3‘)を、挿入された前記繊維層の方向に局部的且つ連続的に移動させ、その際に局部的な押圧により前記繊維層をスタックとしてドレープ成形するステップと、を含む方法」
である点で一致し、相違するものではない。

(イ)したがって、本件発明8は、刊行物1に記載された発明である。

ク 本件発明9について
本件発明9は、本件発明8において
「-少なくとも1つの加熱装置を動作させ、前記プランジャセグメント(3,3’)の移動と連係して、前記繊維層のスタックを少なくとも局部的に加熱するステップと、
-前記プリフォーム(2)を少なくとも部分的に冷却して又は冷却なしで固化するステップと、を含む」
と特定されたものである。
本件発明9と引用発明P2とを対比する。
引用発明P2の「賦形状態で積層シートを加熱した後、冷却エアーにより積層シートを冷やしてプリフォーム成形品の形体保持をする」は、そこで用いる引用発明4のFRPのプリフォーム製造装置の「積層シートを加熱する手段」及び「積層シートに冷却エアーを吹き付ける冷却装置」の構成からして、本件発明9の
「-少なくとも1つの加熱装置を動作させ、前記プランジャセグメント(3,3’)の移動と連係して、前記繊維層のスタックを少なくとも局部的に加熱するステップと、
-前記プリフォーム(2)を少なくとも部分的に冷却して又は冷却なしで固化するステップと、を含む」
に相当する。
本件発明9のその余の発明特定事項は、上記キと同様、引用発明P2と一致する。
そうすると、本件発明9と引用発明P2とは、相違するものではなく、したがって、本件発明9は、刊行物1に記載された発明である。

ケ 理由1についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1?4、8、9は、本件優先日前に頒布された刊行物1(甲2)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項3号に該当し特許を受けることができない。
よって、本件発明1?4、8、9に係る特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

(2)理由2について

ア 刊行物の記載
刊行物1の記載は、上記(1)アに記載したとおりである。

イ 刊行物に記載された発明
刊行物1に記載された発明は、上記(1)イに記載したとおりである。

ウ 本件発明5について
本件発明は、本件発明1?4の何れかにおいて「前記ドレープ成形及びプレス成形工具が、固定作業ステーションを形成し、又は制御可能に移動するロボット装置の一部として配置される」と特定されたものである。
本件発明5と引用発明1?4とを対比する。
引用発明1?4のFRPのプリフォーム製造装置は、それぞれ、本件発明1?4のドレープ成形及びプレス成形工具と相違するものではないところ、本件発明5と引用発明1?4とは、本件発明5においては上記のように「固定作業ステーションを形成し」又は「制御可能に移動するロボット装置の一部として配置される」と特定されているのに対し、引用発明1?4においては、そのように特定されていない点で相違する。
しかし、引用発明1?4のようなFRPのプリフォーム製造装置にあっては、それを工場内に固定して設置するか、又は移動可能に、制御可能に移動するロボット装置の一部として配置するかは、当業者が所望に応じ適宜決定し得る事項である。
したがって、本件発明5は、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

エ 理由2についてのまとめ
以上のとおり、本件発明5は、本件優先日前に頒布された刊行物1(甲2)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件発明5に係る特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立人が申し立てた取消理由について
特許異議の申し立てがされた本件発明1?10のうち、本件発明1?5、8、9については、上記1のとおり取り消されるべきであるので、以下、本件発明6、7、10について判断する。

(1)理由1について
本件発明10が対象で、証拠は甲3である。

ア 甲号証の記載

(ア)甲3
(33a)「【請求項1】賦形型を用いて、繊維基材を所定の立体形状に賦形するプリフォームの製造方法であって、
前記繊維基材を前記賦形型にセットするステップと、
前記賦形型にセットされた繊維基材の略中央に設定された中央部を押さえるステップと、
前記繊維基材の略中央から端部へ離隔する方向に向かって、繊維基材を連続的に押さえるステップと、を有するプリフォームの製造方法。
・・・・・・・・・・・・・・・
【請求項14】繊維基材を所定の立体形状に賦形する賦形型と、
前記賦形型にセットされた繊維基材の所定の部分を所定のタイミングで押さえる押さえ装置と、を有するプリフォーム製造装置であって、
前記押さえ装置は、前記繊維基材の略中央に設定された中央部を最初に押さえ、その後前記繊維基材の略中央から端部へ向かって離隔する位置に設定された1又は2以上の部分を、前記中央部から離隔する順に押さえるように制御するコントローラを備えたプリフォームの製造装置。」(特許請求の範囲の請求項1及び14)
(33b)「【0001】本発明は、繊維強化複合材料の中間製品であるプリフォームの製造方法に関し、賦形型を用いて繊維基材を賦形するプリフォームの製造方法に関する。」
(33c)「【0002】賦形型を用いて繊維基材を成形する場合、凸形状の起伏の高いところから順に繊維基材を押さえる手法が知られている。この種の成形手法に関し、第1特許文献には、流動性のある治具を起伏の高い位置から繊維基材に押し当てる手法が記載されている。
【0003】しかしながら、この流動性治具は賦形型の角部の隅まで入り込むことができないため、複雑な形状部分ではブリッジング(繊維機材が突っ張って賦形型に密着しない状態)が生じてしまうという問題があった。また、複雑な形状部分では流動性治具の賦形速度が遅く生産性が低いという問題があった。
【特許文献1】特開2001-269987号公報
【発明の開示】
【0004】本発明は、以上の課題を鑑みてなされたものであり、ブリッジング等の不具合の発生を抑制するとともに、生産効率を向上させることを目的とする。
本発明によれば、賦形型にセットされた繊維基材の略中央を押さえ、その後繊維基材の略中央から端部へ離隔する方向に向かって繊維基材を押さえるプリフォームの製造方法が提供される。
【0005】本発明のプリフォームの製造方法によれば、ブリッジング、目ずれ、シワ等を発生させることなく、高強度のプリフォームを高い生産効率で製造することができる。」
(33d)「【0006】<第1実施形態>
以下、図1?図7に基づいて、本発明に係る第1実施形態のプリフォーム製造方法について説明する。本実施形態のプリフォーム製造方法は、賦形型を用いて所定の立体形状に繊維基材を賦形する方法である。このプリフォーム製造方法では、まず所定の立体形状を成形する賦形型を準備し、準備した賦形型に繊維基材をセットし、繊維基材をセットした状態で賦形型を型締めし、繊維基材を所定の立体形状に賦形する。
・・・・・・・・・・・・・・・
【0016】繊維基材1を賦形型2に押し付ける手順を図2に示した。図2に示すS1、S21、S22、S31、S32は、図1のそれと対応する。図2(A)は繊維基材1を賦形型2にセットした状態を示す。図2(B)は図2(A)の状態に続き、繊維基材1の略中央の押し付け部分S1を押し付けた状態を示す。続く図2(C)は押し付け部分S21とS22とを押し付けた状態を示す。さらに、図2(D)は押し付け部分S31とS32とを押し付けた状態を示す。ここでは、S1、S21、S22、S31、S32を順次押さえる手法を説明したが、S1からS21を経てS31まで連続的に撫でるように押さえてもよい。S1?S22を経てS32までも同様である。
【0017】このように、繊維基材の略中央から端部へ向かう方向に沿って連続的又は設定された部分を順番に、押さえることにより、シワや目ずれの発生を抑制することができ、部分的な強度差のない安定した品質のプリフォームを得ることができる。
・・・・・・・・・・・・・・・
【0024】賦形型により賦形されたプリフォームは、繊維強化複合材料の製造工程に搬送される。賦形後のプリフォームには、必要に応じてバインダを塗布する。ハンドリング性を向上させるためである。バインダは、プリフォームの形態/形状を安定させることができればよく、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、ゴム、でんぷん等を用いることが好ましい。
【0025】次に、得られたプリフォームを用いて繊維強化複合材料を製造する。本実施形態では、RTM(Resin Transfer Molding)成形法を用いて、繊維強化複合材料を得る。雌雄一対の気密型に予め得たプリフォームと、必要なインサート部品類をセットする。セット後、気密型の型締めを行い、樹脂を含むマトリックスを圧入充填する。これによりプリフォームにマトリックスを含浸させる。繊維強化複合材料のマトリックスは、特に限定されないが、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂を用いることができる。また熱可塑性樹脂としては汎用プラスチックとエンジニアリングプラスチックを用いることができるが、主に後者を利用することが好ましい。エンジニアリングプラスチックとしては、ポリアミド、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ナイロン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミドなどを例示することができる。
【0026】マトリックス含浸後、加温等により樹脂を硬化させる。温度低下後、離型し、目的の立体形状に賦形された繊維強化複合材料を得る。
【0027】目ずれやシワがないプリフォームを用いることにより、繊維強化複合材料の強度も向上させることができる。」
(33e)「【0040】<第3実施形態>
第3実施形態は、第1実施形態の製造方法に用いられるプリフォーム製造装置である。図17(A)に本実施形態のプリフォーム製造装置3の構成の概要を示した。本実施形態のプリフォーム製造装置3は、繊維基材を所定の立体形状に賦形する賦形型2と、賦形型2にセットされた繊維基材1の所定の部分を所定のタイミングで押さえる押さえ装置3とを有する。押さえ装置3は、3次元に駆動可能な押さえローラ31、32、33と、を有している。押さえローラ31、32、33の駆動はコントローラ35により独立に制御される。
【0041】コントローラ35による制御手法を図17に基づいて説明する。図17(A)に示したプリフォーム製造装置3の押さえ機能が起動すると、コントローラ35は、押さえローラ31を繊維基材の略中央部の上部に移動させ、繊維基材に接するように押さえローラ31を下降させ、繊維基材の略中央部を押さえさせる。この状態を図17(B)に示した。図17(B)に示すように、押さえローラ31は繊維基材の略中央部に接している。
【0042】その後、コントローラ35は、押さえローラ32及び33を、繊維基材の略中央から端部に向かって離隔する位置N,Mの上部に移動させ、繊維基材に接するように押さえローラ32及び33を下降させ、繊維基材の略中央部を押さえさせる。この状態を図17(C)に示した。図17(C)に示すように、押さえローラ32及び33は繊維基材の位置N及びMに接している。
【0043】その後、コントローラ35は、押さえローラ32及び33を上昇させ、位置S,Tの上部に移動させ、繊維基材に接するように押さえローラ32及び33を下降させ、繊維基材の端部を押さえさせる。この状態を図17(D)に示した。図17(D)に示すように、押さえローラ32及び33は繊維基材の位置S及びTに接している。なお、図17の(A)?(D)は、第1実施形態の製造方法に係る図2の(A)?(D)に対応する。
【0044】本例では、設定された略中央部と、位置N、S、M、Tとを順次押さえるようにしたが、略中央部から位置Nを経て位置Sまで押さえローラを回転させて、連続的に押さえてもよい。中央部から位置Mを経て位置Tまでについても同様である。また、本例では押さえローラを用いて繊維基材を押さえたが、これに限定されず、ピン状の押さえ、棒状の押さえを用いることができる。なお、押さえローラの昇降及び水平移動の駆動機構は特に限定されない。
【0045】このように押さえる位置と押さえる順番が制御可能なプリフォーム製造装置によれば、現在人手によって行っている繊維基材のセット工程を自動化することができる。また、略中心から端部へ離隔する方向に向かって繊維基材を押さえることによって、第1実施形態の方法と同様の効果を奏するとともに、目ずれ、シワ、又はブリッジングを発生させることなくプリフォームの製造工程を自動化することができる。」
(33f)「


(33g)「


(33h)「



イ 甲3に記載された発明

(ア)甲3は、繊維強化複合材料の中間製品であるプリフォームの製造方法及び製造装置に関する特許文献であり、そこに記載される発明は、ブリッジング、目ずれ、シワ等を発生させることなく、高強度のプリフォームを高い生産効率で製造することができる、というものである(摘示(33a)?(33c))。発明の詳細な説明及び図面には、具体的に説明がされている(摘示(33d)?(33h))。
したがって、甲3には、その請求項14に係るプリフォームの製造装置である、以下の
「繊維基材を所定の立体形状に賦形する賦形型と、
前記賦形型にセットされた繊維基材の所定の部分を所定のタイミングで押さえる押さえ装置と、を有するプリフォーム製造装置であって、
前記押さえ装置は、前記繊維基材の略中央に設定された中央部を最初に押さえ、その後前記繊維基材の略中央から端部へ向かって離隔する位置に設定された1又は2以上の部分を、前記中央部から離隔する順に押さえるように制御するコントローラを備えたプリフォームの製造装置」
の発明(以下「甲3発明1」という。)が記載されているということができる。

(イ)また、甲3には、上記甲3発明1のプリフォームの製造装置を用いて、甲3の請求項1に記載されるようにして行うプリフォームの製造方法についても記載されているといえるから(摘示(33a)?(33h))、以下の
「甲3発明1の装置の賦形型を用いて、繊維基材を所定の立体形状に賦形するプリフォームの製造方法であって、
前記繊維基材を前記賦形型にセットするステップと、
前記賦形型にセットされた繊維基材の略中央に設定された中央部を押さえるステップと、
前記繊維基材の略中央から端部へ離隔する方向に向かって、繊維基材を連続的に押さえるステップと、を有するプリフォームの製造方法」
の発明(以下「甲3発明2」という。)が記載されているということができる。

(ウ)また、甲3には、得られたプリフォームを用いRTM成形法を用いて繊維強化複合材料を製造することについて、第1実施形態の項に「雌雄一対の気密型に予め得たプリフォームと、必要なインサート部品類をセットする。セット後、気密型の型締めを行い、樹脂を含むマトリックスを圧入充填する。これによりプリフォームにマトリックスを含浸させる。・・・マトリックス含浸後、加温等により樹脂を硬化させる。温度低下後、離型し、目的の立体形状に賦形された繊維強化複合材料を得る」と記載されているから(摘示(33d))、以下の
「甲3発明2の方法によりプリフォームを製造し、雌雄一対の気密型にこのプリフォームと必要なインサート部品類をセットし、セット後、気密型の型締めを行い、樹脂を含むマトリックスを圧入充填してプリフォームにマトリックスを含浸させ、マトリックス含浸後、加温等により樹脂を硬化させ、温度低下後、離型し、目的の立体形状に賦形された繊維強化複合材料を得る、繊維強化複合材料の製造方法」
の発明(以下「甲3発明3」という。)が記載されているということができる。

ウ 本件発明10について

(ア)甲3発明3との対比

a 本件発明10と甲3発明3との対比
本件発明10と甲3発明3とを対比する。
甲3発明3の「繊維強化複合材料の製造方法」は、本件発明10の「繊維プラスチック複合部品を製造する方法」に相当するから、両者は、
「繊維プラスチック複合部品の製造方法」
である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点101)
本件発明10においては、本件発明1?7の何れかのドレープ成形及びプレス成形工具を使用する本件発明8又は9の方法で、プリフォームを製造するステップを有することが、特定されているのに対し、甲3発明3においては、プリフォームを製造する方法が甲3発明2の方法である点
(相違点102)
本件発明10においては、以下のステップ
「-マトリックス形成プラスチック系を射出し、前記閉鎖されたドレープ成形及びプレス成形工具内に残されたプリフォーム(2)に前記マトリックス形成プラスチック系を含浸するステップと、
-前記マトリックス形成プラスチック系の硬化条件を整えるステップであって、少なくとも一方の前記工具半体(1,1’)の前記プランジャセグメント(3,3’)によりプレス圧を加えて含浸されたプリフォーム(2)を前記マトリックス形成プラスチック系の硬化温度まで加熱するステップと、
-前記繊維プラスチック複合部品を硬化し、取り出すステップ」
を含むことが特定されていて、マトリックス形成プラスチック系が射出されるのは、その中にプリフォームが残されている閉鎖されたドレープ成形及びプレス成形工具内であるのに対し、甲3発明3においては、樹脂を含むマトリックスが圧入充填されるのは、甲3発明2の方法で用いる甲3発明1の装置の賦形型とは別の、雌雄一対の気密型である点

b 相違点についての検討
相違点102について検討すると、相違点102は、製造したプリフォームにその場で樹脂を射出成形するのか、製造したプリフォームを別の装置に運んで樹脂を射出するのかが違うのであるから、実質的な相違点である。

c したがって、本件発明10は、その余の相違点について検討するまでもなく、甲3に記載された発明であるとはいえない。

d 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、本件発明10を構成要件10A?同10Eに分説し、構成要件10Cの「-マトリックス形成プラスチック系を射出し、前記閉鎖されたドレープ成形及びプレス成形工具内に残されたプリフォーム(2)に前記マトリックス形成プラスチック系を含浸するステップと、」に関し、「甲3には、甲3発明が、気密型内に残されたプリフォームに樹脂を含浸させるステップ(構成要件10Cに相当)を具備し得ることが開示されているに等しい」と主張している。
しかし、甲3に記載された「雌雄一対の気密型」は、プリフォームを製造する装置(本件発明10においてはドレープ成形及びプレス成形工具、甲3においては賦形型)とは別の装置であるから、特許異議申立人の主張は、採用することができない。

エ 理由1についてのまとめ
以上のとおり、本件発明10は、本件優先日前に頒布された甲3に記載された発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない、ということはできない。
よって、本件発明10についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるということはできず、同法第113条第2号に該当せず、理由1によって取り消されるべきものではない。

(2)理由2について
本件発明6、7、10が対象で、証拠は甲1?甲3である。

ア 甲号各証の記載

(ア)甲1
(11a)「【請求項1】FRP成形用強化繊維基材の目標賦形形状に応じた外形の下金型(2)と、下金型(2)に対向配置されると共に下金型(2)に向けて押し付け可能に設けられた上金型(5)とを有し、下金型(2)にセットした被賦形基材(K)を上金型(5)により押し付け賦形してプリフォーム(F)を得るように構成されたFRP成形用強化繊維基材の賦形装置(10)であって、
上金型(5)は、被賦形基材(K)の中央部(Kc)に対向する中央金型(5C)と、中央金型(5C)の周囲に配設された複数の横金型(5S)との分割構成を有し、
賦形装置(10)は、
中央金型(5C)を上下方向に駆動する中央金型駆動手段(7)と、
中央金型(5C)が押し付けている被賦形基材(K)に対し、各横金型(5S)がその被賦形基材(K)の中央部の周辺部(Ks)を引き伸ばしながら押し付けるように各横金型(5S)を駆動する横金型駆動手段(8)と、
を有することを特徴とするFRP成形用強化繊維基材の賦形装置。
・・・・・・・・・・・・・・・
【請求項7】請求項1?6のいずれかに記載の賦形装置を用いた賦形方法であって、
下金型(2)に被賦形基材(K)をセットするステップと、
下金型(2)にセットした被賦形基材(K)に向けて中央金型(5C)を下方に駆動することにより被賦形基材(K)の中央部(Kc)を押し付けるステップと、
中央金型(5C)が押し付けている被賦形基材(K)に対し、各横金型(5S)がその被賦形基材(K)の中央部の周辺部(Ks)を引き伸ばしながら押し付けるように各横金型(5S)を駆動するステップと、
を有すること特徴とするFRP成形用強化繊維基材の賦形方法。」(特許請求の範囲の請求項1及び7)
(11b)「【0001】本発明は、FRP(繊維強化プラスチック)成形用強化繊維基材の賦形装置及び賦形方法に関し、より詳しくは、強化繊維基材を望ましい形状のプリフォームへと自動的に賦形可能な装置及び方法に関する。」
(11c)「【0002】近年、自動車、鉄道車両、船舶、航空機等の輸送機器の製造、あるいは建築などの分野で用いられる材料には、環境問題の観点から、軽量で二酸化炭素削減などの省エネルギー化に寄与する材料が望まれ、その開発が進みつつある。このような材料の一つとして、強化繊維基材を用いたFRPがある。強化繊維基材を用いて所定形状のFRP製品に成形する手法の一例を示すに、まず、複数枚の強化繊維基材を賦形型に積層し、予備賦形してプリフォームとする。その後、そのプリフォームを成形型に入れて、樹脂(マトリックス樹脂)を含浸させて硬化させる。この時、強化繊維基材の賦形に関しては、人手により所定形状に基材をレイアップすることが多く、生産性が低いと共にコストが高いという問題の原因となっていた。
【0003】そこで、上記問題に鑑み、生産性の向上及び低コスト化を図った賦形方法が提案されている(例えば、特許文献1)。特許文献1に記載の賦形方法の一例について説明する。図11に示すように、賦形型131に強化繊維基材132を配置し、基材132の上に、押し子133a,133bを直接押し当てて賦形型131に沿うように予備的に賦形する。その後、賦形型131の周囲をシール134a,134bで囲み、その上からシート135を被せる。真空ポンプ136により、シート135と賦形型131で囲まれた空間を真空引き(減圧)することで、基材132を押し子133a,133bで押さえながら、所定形状に賦形させたプリフォームとする。137a、137bは、必要に応じて配置される加熱源や冷却源を示している。
【特許文献1】特開2006-123404号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】しかし、図11に示したような賦形方法では、シート135と賦形型131とで囲まれた空間内を真空にする際に、基材132の表面に皺が発生することがあった。皺の発生は、成形品の強度を弱めたり、美観を損ねたりするため、そのような成形品を製品として用いることはできず、歩留まりの悪化につながった。
【0005】本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、表面に皺のない良質のFRP成形用強化繊維基材のプリフォームを自動的に得ることのできる賦形装置及び賦形方法を提供することを目的とする。
・・・・・・・・・・・・・・・
【0016】本発明のFRP成形用強化繊維基材の賦形装置及び賦形方法によれば、表面に皺のない良質のプリフォームを自動的に得ることができる。これにより、生産性の向上及び低コスト化を図ることができることと併せて、歩留まりの向上を達成できる。」
(11d)「【0017】以下、図面を参照しながら、本発明の望ましい実施の形態について説明する。
図1は本発明の一実施態様に係る賦形装置10の外観斜視図、図2は図1の賦形装置10の一部断面表示正面図、図3は賦形装置10の上金型5及びその周辺部を示す概略平面図である。各図において、直交座標系の3軸をX、Y、Zとし、XY平面は水平面、Z軸方向は鉛直方向(上下方向)を示している。
【0018】図1から図3に示すように、賦形装置10は、基台1、下金型2、架台3、中間板4、上金型5、中間板駆動部6、中央金型駆動部(中央金型駆動手段)7、横金型駆動部(横金型駆動手段)8、制御装置9を備えている。基台1は、下金型2を設置する部位であり、生産現場の床上に据え付けられる。
【0019】下金型2は、目的のプリフォームの形状に応じた外形、すなわち目的とする成形体の立体形状を僅かな相似比で縮小した立体形状を呈する雄型である。その材質は例えばアルミニウムとされる。なお、基材Kからの離脱性を良くするために、その表面は非粘着処理されていることが好ましい。アルミニウム以外にも、ステンレス鋼等の熱伝導性の良い材質で構成することもできる。下金型2は内部に加熱手段としてヒーター21を備え、これをオンすることにより下金型2の表面を90℃?120℃程度に加熱可能である。また、下金型2を冷却するための冷却手段(図示せず)を設けておくことが好ましい。冷却手段としては、例えば下金型2の内部を冷媒が流通する冷媒流通機構や、下金型2に向けて低温窒素ガス等の冷却ガスを噴射する冷却ガス噴射機構を挙げることができる。また、下金型2の中央表面の対角位置にはZ方向上向きに突出した2本の位置決めピン22を備えている。位置決めピン22は、金属または合成樹脂などを材質とし、その先端は細く尖った形状とされている。
【0020】架台3は、基台1の上方にこれを跨ぐように設けられている。中間板4は、図2に示すように、中間板駆動部6を介して上下駆動自在に架台3に取り付けられている。中間板4は、押さえロッド穴41及びガイド穴42を備えている。押さえロッド穴41は、2本の押さえロッド51(後述)がそれぞれ貫通するように中間板4の2箇所に穿設された貫通穴である。ガイド穴42は、2本のガイドロッド52(後述)がそれぞれ貫通するように中間板4の2箇所に穿設された貫通穴である。
【0021】上金型5は、図3に示すように、下金型2と一対となる雌型を複数個に分割した形状をなし、中央金型5Cとその周囲に配設された複数の横金型5Sとからなる。上金型5についても、下金型2と同様に加熱手段及び冷却手段を設けてもよい。
【0022】中央金型5Cは、押付け面(底部)が略平面形状、つまり凹凸部が少ない形状とされ、2本の押さえロッド51及び2本のガイドロッド52を取り付けた構成とされる。押さえロッド51は、上下方向に伸縮自在であり且つ位置決めピン22を内挿可能な筒体を備えている。そして、下金型2における位置決めピン22に対応する平面視位置(XY位置)に設けられ、中間板4における押さえロッド穴41を貫通する。ガイドロッド52は、ガイド穴42を貫通するように設けられた棒状体である。中央金型5Cは、中央金型駆動部7を介して上下駆動自在に中間板4に取り付けられている。
【0023】中央金型駆動部7は、油圧シリンダ、空気圧シリンダまたはサーボモータなどで構成することができ、下金型2にセットされた基材Kの中央部を中央金型5Cが、賦形物に応じた任意の力で押し付けるように、中央金型5CをZ軸方向に駆動可能となっている。
【0024】各横金型5Sは、中央金型5Cの周囲に、各金型を隣接させた状態で、下金型2における周辺部位に対応した形状の雌型である。本実施態様では、10個の横金型5S_(1),5S_(2),5S_(3)・・・5S_(10) が設けられている。これら横金型5S_(1)?5S_(10) は、それぞれ横金型駆動部8S_(1)?8S_(10) を介して上下駆動自在に中間板4に取り付けられる。本明細書において、各横金型を特にそれぞれ分けて考える必要がない場合には、横金型の符号は末尾の下付の数字を略して単に「5S」と記載する。横金型駆動部の符号についても、上と同様な場合には、単に「8S」と記載する。
【0025】各横金型駆動部8Sは、油圧シリンダ、空気圧シリンダまたはサーボモータなどで構成することができ、各横金型5Sをそれぞれ独立に上下方向に駆動可能とすると共に横方向にも駆動可能とする。更に水平支軸J1の周りに回動駆動可能とする。ここで横方向とは、より具体的には、下金型2にセットした基材Kの中心に向かう水平方向(XY方向)である。また、上下方向への駆動については、より詳しくは、下金型2にセットされた基材Kの周辺部位を各横金型5Sが、賦形物(被賦形基材)に応じた任意の力で押付けるように各横金型5Sを駆動可能とする。図9では、横金型駆動部8として、横方向に伸縮可能なシリンダSH1,SH2、及び上下方向に伸縮可能なシリンダSV1を図示する。
【0026】制御装置9は、タッチパネル等の入出力装置、メモリチップやマイクロプロセッサなどを主体とした適当なハードウエア、このハードウエアを動作させるためのコンピュータプログラムを組み込んだハードディスク装置、及び各構成部とデータ通信を行う適当なインターフェイス回路などから構成される。即ち、賦形装置10が一連の賦形動作を行うように、賦形装置10の各構成部を制御するためのコンピュータである。
【0027】制御装置9のハードディスク装置には、例えば、中央金型5Cの押圧力の大きさ、各横金型5Sを駆動する順序、各横金型5Sを横方向に駆動するときの水平速度、各横金型5Sの押圧力の大きさなどの各データが記憶されている。これら各データは、例えば、前もって幾通りかの試し賦形をして最も皺のできにくい組合せを適用(採用)したものである。中央金型駆動部7及び各横金型駆動部8の制御は、これらのデータに基づいて行われる。」
(11e)「【0028】次に、図4から図10も参照して、以上のように構成された賦形装置10の賦形動作を説明する。図4は賦形装置10による賦形動作の概要を示すフローチャート、図5は周辺部押付け動作のフローチャート、図6は基材Kのセット要領を示す図、図7は賦形装置10による賦形動作のフローを示す図、図8は賦形装置10による賦形動作のフローを示す図(図7の続き)、図9は周辺部押付け動作を具体的に示す図、図10は目的とするプリフォームFの正面断面図である。
【0029】図4に示すように、賦形装置10の賦形動作は、基材セットステップS1、押し付け準備ステップS2、中央部押し付けステップS3、周辺部押し付けステップS4、押し付け終了ステップS5、取り外しステップS6からなる。ここで賦形装置10は次の初期状態にあるものとする。中間板4は待機位置である最上方位置P1に配置されている。中央金型5C及び各横金型5Sは、ともに待機位置である最上方位置P2に配置されている。下金型2のヒーター21はオン状態である。
【0030】〔基材セットステップS1〕
作業者は下金型2に基材Kをセットする〔図7(A)〕。強化繊維基材Kは、図6に示すように、複数枚のシート状強化繊維材K1?Km(mは2以上の任意の整数)を、隣り合う上下間で繊維の配向方向が互いに異なるように積層した積層体である。各シート状強化繊維材K2?Kmの裏側面には熱可塑性の接着剤がまぶしてある。基材Kのセットは次のように行う。合計m枚のシート状強化繊維材K1?Kmを積層した状態で、基材Kにおける所定の2箇所を位置決めピン22に突き刺す。その後、位置決めピン22に沿って下金型2に向けて基材Kを下降させる。その結果、基材Kの中央部は下金型2の中央部の表面に重なる。
【0031】〔押し付け準備ステップS2〕
中間板駆動部6が中間板4を下降させることにより、中央金型5C及び横金型5Sを中間位置P1に配置する〔図7(B)〕。続いて、押さえロッド41が伸延し下降する。こ
のとき、2本の位置決めピン22は、押さえロッド41の中空部に入り、押さえロッド41の下端面が基材Kを押圧することで、基材Kは下金型2の中央部に固定保持される〔図7(C)〕。
【0032】〔中央部押し付けステップS3〕
押さえロッド41が基材Kを固定保持した状態で、中間板駆動部6は中間板4を更に下降させることにより、中央金型5C及び横金型5Sを下側位置P2に配置する。下側位置P2では、中央金型5Cの下面が基材Kの表面と近接する〔図7(D)〕。続いて、中央金型駆動部7は中央金型5Cを下降させる。このとき中央金型5Cが、賦形物に応じた任意の力で、下金型2にセットされた基材Kを押付けるように中央金型5Cを駆動する〔図8(E)〕。
【0033】〔周辺部押し付けステップS4〕
横金型駆動部8は、横金型5Sを一つずつ順次下降させて基材Kの押付けを行う。その際、例えば横金型5S_(1) は、中央金型5Cが押付けている被賦形基材Kに対し、各横金型5Sがその被賦形基材Kの中央部の周辺部Ksを引き伸ばしながら押し付けるように駆動される〔図8(F)、詳細は図9、図5参照〕。
【0034】より具体的に言えば、図9(A)?(B)のように、基材Kの上方に配置された横金型5S_(1) は、基材Kの中央部の外方部(周辺部)Ksを左横から下金型2に擦りつけながら下降する。この動作はシリンダSH1を伸ばした状態で、シリンダSV1を伸ばすことで行う。これにより、基材Kの中央外方部Ksは基材Kの中央部を中央金型5Cで押し付けるので図中の矢印Q方向に張った状態となる。その後、図9(B)?(C)のように、横金型5S_(1) は、水平支軸J1を軸心として横金型5S_(1) が旋回することにより、下金型2に嵌り込むように下降する。この動作は、シリンダSH2を伸ばし且つシリンダSH1を縮めながら、シリンダSV1を伸ばすことで行う。このように、横金型5S_(1) は、押し付ける位置よりも若干高め位置から斜め下方向に向けて駆動されて寄せ込まれる。その際、横金型5Sは基材Kを所定距離だけ引きずる形となる。その結果、基材Kの中央外方部Ksは、若干長さが伸びると共により一層張った状態で賦形されるので、皺のない賦形ができる。また、横金型5S_(1) は、基材Kの表面に沿ってこれを均しながら移動するため、基材Kと下金型2との間に空隙ができない。そして折り曲げの境界部Bで基材Kが丁度折り込まれ、皺や弛みが発生せず、均一に平らな表面が形成される。このような駆動を残りの全ての横金型5S_(2)?5S_(10) について順次行うことで(例えば、図5に示すステップS41?S43を所定回数繰り返すことで)、基材Kを表面に皺のない良品質のプリフォームに自動的に賦形することができる。
【0035】〔押し付け終了ステップS5〕
冷却手段により下金型2及び上金型5を冷却する。その後、中央金型駆動部7は中央金型5Cを上昇させる。それと同時に、横金型駆動部8は全ての横金型5Sを同時に上昇させる。その後、中間板駆動部6は、中間板4を上方位置P0まで上昇させる。中央金型5C及び横金型5Sを上昇させるタイミングは、冷却手段による冷却により各シート状強化繊維材K2?Kmの熱可塑性の接着剤(樹脂)が硬化し、各シート状強化繊維材K1?Kmが接着される時間の経過後である。冷却手段により上金型5及び下金型2を冷却することにより、下金型2及び上金型5の温度を迅速に下げることができるため、賦形動作のタクトタイムの短縮を図ることができる。
【0036】〔取外しステップS6〕
所定の形状に賦形されたプリフォームFを下金型2から外して取り出す。」
(11f)「【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】



(イ)甲2
甲2は上記1で検討した刊行物1である。甲2の記載事項は、上記1(1)ア(ア)に、刊行物1の記載事項として記載したとおりである。

(ウ)甲3の記載事項は、上記(1)ア(ア)に記載したとおりである。

イ 甲1?甲3に記載された発明

(ア)甲1に記載された発明
甲1は、FRP成形用強化繊維基材の賦形装置及び賦形方法に関する特許文献であり、そこに記載される発明は、表面に皺のない良質のプリフォームを自動的に得ることができ、これにより、生産性の向上及び低コスト化を図ることができることと併せて、歩留まりの向上を達成できる、というものである(摘示(11a)?(11c))。発明の詳細な説明及び図面には、具体的に説明がされている(摘示(11d)?(11f))。
したがって、甲1には、請求項1に係るFRP成形用強化繊維基材の製造装置である、以下の
「FRP成形用強化繊維基材の目標賦形形状に応じた外形の下金型(2)と、下金型(2)に対向配置されると共に下金型(2)に向けて押し付け可能に設けられた上金型(5)とを有し、下金型(2)にセットした被賦形基材(K)を上金型(5)により押し付け賦形してプリフォーム(F)を得るように構成されたFRP成形用強化繊維基材の賦形装置(10)であって、
上金型(5)は、被賦形基材(K)の中央部(Kc)に対向する中央金型(5C)と、中央金型(5C)の周囲に配設された複数の横金型(5S)との分割構成を有し、
賦形装置(10)は、
中央金型(5C)を上下方向に駆動する中央金型駆動手段(7)と、
中央金型(5C)が押し付けている被賦形基材(K)に対し、各横金型(5S)がその被賦形基材(K)の中央部の周辺部(Ks)を引き伸ばしながら押し付けるように各横金型(5S)を駆動する横金型駆動手段(8)と、
を有する、FRP成形用強化繊維基材の賦形装置」
の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているということができる。

(イ)甲2に記載された発明
甲2は上記1で検討した刊行物1である。甲2に記載された発明は、上記1(1)イ(ア)?(オ)に、引用発明1、同2、同3、同4、同P1及び同P2として記載したとおりである。引用発明1を再掲する。以下、「甲2発明」という。
甲2発明(上記1(1)イ(ア)に記載した引用発明1):
「賦形面としてプリフォーム成形すべき曲面を有する下型と、下型の賦形面のうちの少なくとも一部の領域の賦形面に一致する曲面を型押し面として有する上型と、前記下型と前記上型との間に位置し、強化繊維基材の積層シートを下型の賦形面上に移載する移載手段を備えたトレーとを有するとともに、前記上型または下型の一方を他方に押圧する手段を備えたFRPのプリフォーム製造装置であって、上型は、賦形面が複数個に分割された分割型であり、個々の分割型の賦形面が下型に対して個々に進退する型押し手段である取手又はエアシリンダーを備えた、上記のFRPのプリフォーム製造装置」

(ウ)甲3に記載された発明
甲3に記載された発明は、上記(1)イ(ア)?(ウ)に記載したとおりの、甲3発明1、同2、同3である。甲3発明1?甲3発明3を再掲する。
甲3発明1:
「繊維基材を所定の立体形状に賦形する賦形型と、
前記賦形型にセットされた繊維基材の所定の部分を所定のタイミングで押さえる押さえ装置と、を有するプリフォーム製造装置であって、
前記押さえ装置は、前記繊維基材の略中央に設定された中央部を最初に押さえ、その後前記繊維基材の略中央から端部へ向かって離隔する位置に設定された1又は2以上の部分を、前記中央部から離隔する順に押さえるように制御するコントローラを備えたプリフォームの製造装置」
甲3発明2:
「甲3発明1の装置の賦形型を用いて、繊維基材を所定の立体形状に賦形するプリフォームの製造方法であって、
前記繊維基材を前記賦形型にセットするステップと、
前記賦形型にセットされた繊維基材の略中央に設定された中央部を押さえるステップと、
前記繊維基材の略中央から端部へ離隔する方向に向かって、繊維基材を連続的に押さえるステップと、を有するプリフォームの製造方法」
甲3発明3:
「甲3発明2の方法によりプリフォームを製造し、雌雄一対の気密型にこのプリフォームと必要なインサート部品類をセットし、セット後、気密型の型締めを行い、樹脂を含むマトリックスを圧入充填してプリフォームにマトリックスを含浸させ、マトリックス含浸後、加温等により樹脂を硬化させ、温度低下後、離型し、目的の立体形状に賦形された繊維強化複合材料を得る、繊維強化複合材料の製造方法」

ウ 本件発明6について

(ア)甲1発明との対比・判断

a 本件発明6と甲1発明との対比
本件発明6は、本件発明1?5の何れかにおいて「前記ドレープ成形及びプレス成形工具がマトリックス形成プラスチック系用の射出手段を含む」と特定されたものである。ここで、本件発明1?5のドレープ成形及びプレス成形工具は、少なくとも、本件発明1のドレープ成形及びプレス成形工具に係る以下の
「少なくとも部分的に固化されたプリフォーム(2)を製造するための、外面が互いに対面する2つの工具半体(1,1’)を有するドレープ成形及びプレス成形工具であって、
前記工具半体(1,1’)の少なくとも一方が、複数のプランジャセグメント(3,3’)を備え、前記プランジャセグメントは昇降運動を行うもので、個々に調整可能且つ個々に移動可能であり、前記プランジャセグメントは前記プリフォーム(2)を製造するための前記工具半体(1,1’)の成形工具面を形成し、異なる幅及び/又は奥行を有し、及び、油圧、空気圧又は電動式に動作可能である」
との構成(以下「本件発明1の基本構成」という。)を備えるものである。
本件発明6と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「FRP成形用強化繊維基材の賦形装置」は、本件発明6の「ドレープ成形及びプレス成形工具」に相当するから、両者は、
「ドレープ成形及びプレス成形工具」
である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点61)
本件発明6においては、ドレープ成形及びプレス成形工具が、本件発明1の基本構成を備えるとともに、「マトリックス形成プラスチック系用の射出手段を含む」と特定されているのに対し、甲1発明においては、対応するFRP成形用強化繊維基材の賦形装置が、甲1発明の構成を備えるものであって、マトリックス形成プラスチック系用の射出手段を含むものではない点

b 相違点についての検討
相違点61について検討する。
甲1発明のFRP成形用強化繊維基材の賦形装置は、「FRP成形用強化繊維基材の目標賦形形状に応じた外形の下金型(2)」と「下金型(2)に向けて押し付け可能に設けられた上金型(5)」とを有し、その上金型(5)は、「中央金型(5C)」と、中央金型(5C)の周囲に配設された「複数の横金型(5S)」との分割構成を有し、「中央金型(5C)が押し付けている被賦形基材(K)に対し、各横金型(5S)がその被賦形基材(K)の中央部の周辺部(Ks)を引き伸ばしながら押し付けるように各横金型(5S)を駆動する横金型駆動手段(8)と、を有する」というものである。この賦形装置は、マトリックス形成プラスチック系用の射出手段を設けることが想定されたものではないし、プリフォームの製造後に樹脂が射出される空間が形成されるようなものであるとも認められない。
そうすると、甲1発明のFRP成形用強化繊維基材の賦形装置において、マトリックス形成プラスチック系用の射出手段を設けることとして、相違点61に係る本件発明6の構成を備えるものとすることを、当業者が容易に想到できたとはいえない。

c 発明の効果について
本件発明6の効果は、本件明細書の段落【0037】及び【0045】の記載からみて、プリフォームを製造するドレープ成形及びプレス成形工具内で、RTM法を施すことができ、その結果、FRP部品を形成するために必要な工具の構成部品が単一の工具に最小化される、ということであると認められる。
このような効果は、マトリックス形成プラスチック系用の射出手段を設けることが想定されず、設けることができるものでもない、甲1の記載から、当業者が予測することができないものである。

d したがって、本件発明6は、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

e 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、「そもそも成形工具を、マトリックス形成プラスチック系用の射出手段を含むよう構成することは、証拠を挙げるまでもなく成形工具を実施する際の一実施態様として自明である。そうすると、甲1?甲3に記載のそれぞれの賦形装置等において、これらにマトリックス形成プラスチック系用の射出手段を含むよう構成することは、当業者が適宜なし得る設計的事項である」と主張している。
しかし、甲1発明のFRP成形用強化繊維基材の賦形装置は、マトリックス形成プラスチック系用の射出手段を設けることが想定されたものではないし、プリフォームの製造後に樹脂が射出される空間が形成されるようなものであるとも認められないから、特許異議申立人の主張は、採用することができない。

(イ)甲2発明との対比・判断

a 本件発明6と甲2発明との対比
本件発明6と甲2発明を、上記1(1)ウ(ア)で本件発明1と引用発明1とを対比したのと同様に対比すると、両者は、
「本件発明1の基本構成を備えたドレープ成形及びプレス成形工具」
である点で一致する。そして、以下の点で相違する。
(相違点62)
本件発明6においては、「マトリックス形成プラスチック系用の射出手段を含む」と特定されているのに対し、甲2発明においては、マトリックス形成プラスチック系用の射出手段を含むものではない点

b 相違点についての検討
相違点62について検討する。
甲2発明のFRPのプリフォーム製造装置は、「賦形面としてプリフォーム成形すべき曲面を有する下型」と「下型の賦形面のうちの少なくとも一部の領域の賦形面に一致する曲面を型押し面として有する上型」と「トレー」とを有し、その上型は、「賦形面が複数個に分割された分割型であり、個々の分割型の賦形面が下型に対して個々に進退する型押し手段である取手又はエアシリンダーを備え」というものである。このプリフォーム製造装置は、マトリックス形成プラスチック系用の射出手段を設けることが想定されたものではないし、プリフォームの製造後に樹脂が射出される空間が形成されるようなものであるとも認められない。
そうすると、甲2発明のFRPのプリフォーム製造装置において、マトリックス形成プラスチック系用の射出手段を設けることとして、相違点62に係る本件発明6の構成を備えるものとすることを、当業者が容易に想到できたとはいえない。

c 発明の効果について
本件発明6の効果は、上記(ア)cで述べたとおりであり、このような効果は、マトリックス形成プラスチック系用の射出手段を設けることが想定されず、設けることができるものでもない、甲2の記載から、当業者が予測することができないものである。

d したがって、本件発明6は、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

e 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、「そもそも成形工具を、マトリックス形成プラスチック系用の射出手段を含むよう構成することは、証拠を挙げるまでもなく成形工具を実施する際の一実施態様として自明である。そうすると、甲1?甲3に記載のそれぞれの賦形装置等において、これらにマトリックス形成プラスチック系用の射出手段を含むよう構成することは、当業者が適宜なし得る設計的事項である」と主張している。
しかし、甲2発明のFRPのプリフォーム製造装置は、マトリックス形成プラスチック系用の射出手段を設けることが想定されたものではないし、プリフォームの製造後に樹脂が射出される空間が形成されるようなものであるとも認められないから、特許異議申立人の主張は、採用することができない。

(ウ)甲3発明1との対比・判断

a 本件発明6と甲3発明1との対比
本件発明6と甲3発明1とを、上記(ア)と同様に対比すると、両者は、
「ドレープ成形及びプレス成形工具」
である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点63)
本件発明6においては、ドレープ成形及びプレス成形工具が、本件発明1の基本構成を備えるとともに、「マトリックス形成プラスチック系用の射出手段を含む」と特定されているのに対し、甲3発明1においては、対応するFRP成形用強化繊維基材の賦形装置が、甲3発明1の構成を備えるものであって、マトリックス形成プラスチック系用の射出手段を含むものではない点

b 相違点についての検討
相違点63について検討する。
甲3発明1のプリフォームの製造装置は、「繊維基材を所定の立体形状に賦形する賦形型」と「押さえ装置」とを有し、その押さえ装置は「賦形型にセットされた繊維基材の所定の部分を所定のタイミングで押さえる押さえ装置」であって、「前記繊維基材の略中央に設定された中央部を最初に押さえ、その後前記繊維基材の略中央から端部へ向かって離隔する位置に設定された1又は2以上の部分を、前記中央部から離隔する順に押さえるように制御するコントローラを備え」というものである。このプリフォームの製造装置は、マトリックス形成プラスチック系用の射出手段を設けることが想定されたものではないし、プリフォームの製造後に樹脂が射出される空間が形成されるようなものであるとも認められない。
そうすると、甲3発明1のFRPのプリフォームの製造装置において、マトリックス形成プラスチック系用の射出手段を設けることとして、相違点63に係る本件発明6の構成を備えるものとすることを、当業者が容易に想到できたとはいえない。

c 発明の効果について
本件発明6の効果は、上記(ア)cで述べたとおりであり、このような効果は、マトリックス形成プラスチック系用の射出手段を設けることが想定されず、設けることができるものでもない、甲3の記載から、当業者が予測することができないものである。

d したがって、本件発明6は、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

e 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、「そもそも成形工具を、マトリックス形成プラスチック系用の射出手段を含むよう構成することは、証拠を挙げるまでもなく成形工具を実施する際の一実施態様として自明である。そうすると、甲1?甲3に記載のそれぞれの賦形装置等において、これらにマトリックス形成プラスチック系用の射出手段を含むよう構成することは、当業者が適宜なし得る設計的事項である」と主張している。
しかし、甲3発明1のプリフォームの製造装置は、マトリックス形成プラスチック系用の射出手段を設けることが想定されたものではないし、プリフォームの製造後に樹脂が射出される空間が形成されるようなものであるとも認められないから、特許異議申立人の主張は、採用することができない。

エ 本件発明7について

(ア)甲1発明との対比・判断

a 本件発明7と甲1発明との対比
本件発明7は、本件発明1?6の何れかにおいて
「前記ドレープ成形及びプレス成形工具が、プランジャセグメント(3,3’)なしで実施される複数の下部工具半体(1’)を含み、前記工具半体(1’)が、
前記ドレープ成形及びプレス成形工具内に、且つその外側に移動可能であり、及び、
異なる形状を成形する成形工具面を備える」
と特定されたものである。
本件発明7と甲1発明とを、上記ウ(ア)と同様に対比すると、両者は、
「ドレープ成形及びプレス成形工具」
である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点71)
本件発明7においては、ドレープ成形及びプレス成形工具が、本件発明1の基本構成を備えるとともに、「プランジャセグメント(3,3’)なしで実施される複数の下部工具半体(1’)を含み、前記工具半体(1’)が、前記ドレープ成形及びプレス成形工具内に、且つその外側に移動可能であり、及び、異なる形状を成形する成形工具面を備える」と特定されているのに対し、甲1発明においては、対応するFRP成形用強化繊維基材の賦形装置が、甲1発明の構成を備えるものであって、上記の、プランジャセグメント(3,3’)なしで実施される複数の下部工具半体(1’)、すなわち、ドレープ成形及びプレス成形工具の内と外に移動可能で、異なる形状を成形する成形工具面を備える、複数の下部工具半体(1’)を、含むものではない点

b 相違点についての検討
相違点71について検討する。

(a)甲1発明のFRP成形用強化繊維基材の賦形装置は、「FRP成形用強化繊維基材の目標賦形形状に応じた外形の下金型(2)」と「下金型(2)に向けて押し付け可能に設けられた上金型(5)」とを有し、その上金型(5)は、「中央金型(5C)」と、中央金型(5C)の周囲に配設された「複数の横金型(5S)」との分割構成を有し、「中央金型(5C)が押し付けている被賦形基材(K)に対し、各横金型(5S)がその被賦形基材(K)の中央部の周辺部(Ks)を引き伸ばしながら押し付けるように各横金型(5S)を駆動する横金型駆動手段(8)と、を有する」というものである。この賦形装置は、上金型(5)が、下金型(2)に向けて押し付け可能に設けられ、「下金型(2)にセットした被賦形基材(K)を上金型(5)により押し付け賦形してプリフォーム(F)を得るように構成された」ものである。発明の詳細な説明を参照すると、下金型の成形面の形状と、上金型の成形面の形状は、間に被賦形基材(K)を挟んで押し付け賦形してプリフォーム(F)を得るのに適した、ほぼ相補的な形状である。すなわち、上金型は、異なる形状の下金型に対応して交換せずとも形状を変更して対応できるものではない。
そうすると、甲1発明のFRP成形用強化繊維基材の賦形装置において、本件発明7の「プランジャセグメント(3,3’)なしで実施される」ところの「下部工具半体(1’)」に対応する甲1発明の「下金型(2)」について、異なる形状を成形する成形工具面を備えるものを複数用意し、それらを賦形装置の内と外に移動可能に構成することは、動機付けられない。

(b)次に、甲2を参照すると、甲2発明のFRPのプリフォーム製造装置は、「賦形面としてプリフォーム成形すべき曲面を有する下型」と「下型の賦形面のうちの少なくとも一部の領域の賦形面に一致する曲面を型押し面として有する上型」と「トレー」とを有し、その上型は、「賦形面が複数個に分割された分割型であり、個々の分割型の賦形面が下型に対して個々に進退する型押し手段である取手又はエアシリンダーを備え」というものである。発明の詳細な説明を参照すると、下型の賦形面の形状と、上型の型押し面の形状は、間に積層シートを挟んで型押しを行い賦形してプリフォームを得るのに適した、ほぼ相補的な形状である。すなわち、上型は、異なる形状の下型に対応して交換せずとも形状を変更して対応できるものではない。
そうすると、甲1発明に、甲2に記載される発明を組み合わせても、甲1発明の「下金型(2)」について、異なる形状を成形する成形工具面を備えるものを複数用意し、それらを賦形装置の内と外に移動可能に構成することは、動機付けられない。

(c)以上によれば、甲1と甲2とを組み合わせても、甲1発明のFRP成形用強化繊維基材の賦形装置において、その「下金型(2)」について、異なる形状を成形する成形工具面を備えるものを複数用意し、それらを賦形装置の内と外に移動可能に構成することとして、相違点71に係る本件発明7の構成を備えるものとすることを、当業者が容易に想到できたとはいえない。

c 発明の効果について
本件発明7の効果は、本件明細書の段落【0048】の記載からみて、セグメント化された工具半体が調整可能なプランジャセグメントによって成形工具面の形状を変更できることができることから、工具内で様々なプリフォーム/部品の製造を可能にする異なる形状の複数の下部工具1’を備えることができる、ということであると認められる。
このような効果は、FRP成形用強化繊維基材の賦形装置の上金型が、異なる形状の下金型に対応して交換せずとも形状を変更して対応できるものではない、甲1の記載から、また、FRPのプリフォーム製造の上型が、異なる形状の下型に対応して交換せずとも形状を変更して対応できるものではない、甲2の記載から、当業者が予測することができないものである。

d したがって、本件発明7は、甲1(主引用例)及び甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

e 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、本件発明7を構成要件7A?同7Cに分説し、構成要件7Cの「前記工具半体(1’)が、前記ドレープ成形及びプレス成形工具内に、且つその外側に移動可能であり、及び、異なる形状を成形する成形工具面を備えることを特徴とする」に関し、「甲2発明において・・・賦形プレートは、成形すべきプリフォームの三次元形状に一致するように構成されていることから・・・当業者であれば、所望するプリフォームの形状に合わせて、賦形プレートをプリフォーム製造装置内に、その外側に移動可能となるよう構成すること(構成要件7C)は設計的事項に過ぎない。そうすると、当業者であれば、甲1発明において、甲2発明に基づいて、所望するプリフォームの形状に合わせて、下型として移動可能な賦形プレートの構成を採用することは容易に想到し得る」と主張している。
しかし、甲1発明のFRP成形用強化繊維基材の賦形装置の上金型は、異なる形状の下金型に対応して交換せずとも形状を変更して対応できるものではないから、仮に、甲1発明の下金型を、甲2発明の下型であって賦形プレートの構成のものに置き換えることができたとしても、単に下金型だったものが甲2の下型に変わるだけであって、本件発明7の「プランジャセグメント(3,3’)なしで実施される複数の下部工具半体(1’)」に係る「ドレープ成形及びプレス成形工具内に、且つその外側に移動可能であり」かつ「異なる形状を成形する成形工具面を備える」との構成には至らない。したがって、特許異議申立人の主張は、採用することができない。

(イ)甲2発明との対比・判断

a 本件発明7と甲2発明との対比
本件発明7と甲2発明を、上記1(1)ウ(ア)で本件発明1と引用発明1とを対比したのと同様に対比すると、両者は、
「本件発明1の基本構成を備えたドレープ成形及びプレス成形工具」
である点で一致する。そして、以下の点で相違する。
(相違点72)
本件発明7においては、「プランジャセグメント(3,3’)なしで実施される複数の下部工具半体(1’)を含み、前記工具半体(1’)が、前記ドレープ成形及びプレス成形工具内に、且つその外側に移動可能であり、及び、異なる形状を成形する成形工具面を備える」と特定されているのに対し、甲2発明においては、上記の、プランジャセグメント(3,3’)なしで実施される複数の下部工具半体(1’)であって、ドレープ成形及びプレス成形工具の内と外に移動可能で、異なる形状を成形する成形工具面を備える、複数の下部工具半体(1’)を、含むものではない点

b 相違点についての検討
相違点72について検討する。
甲2発明のFRPのプリフォーム製造装置は、上記(ア)b(b)で述べたとおり、「賦形面としてプリフォーム成形すべき曲面を有する下型」と「下型の賦形面のうちの少なくとも一部の領域の賦形面に一致する曲面を型押し面として有する上型」と「トレー」とを有し、その上型は、「賦形面が複数個に分割された分割型であり、個々の分割型の賦形面が下型に対して個々に進退する型押し手段である取手又はエアシリンダーを備え」というものである。発明の詳細な説明を参照すると、下型の賦形面の形状と、上型の型押し面の形状は、間に積層シートを挟んで型押しを行い賦形してプリフォームを得るのに適した、ほぼ相補的な形状である。すなわち、上型は、異なる形状の下型に対応して交換せずとも形状を変更して対応できるものではない。
そうすると、甲2発明のFRPのプリフォーム製造装置において、本件発明7の「プランジャセグメント(3,3’)なしで実施される」ところの「下部工具半体(1’)」に対応する甲2発明の「下型」について、異なる形状を成形する成形工具面を備えるものを複数用意し、それらを賦形装置の内と外に移動可能に構成することは、動機付けられない。
したがって、甲2発明のFRPのプリフォーム製造装置において、その「下型」について、異なる形状を成形する成形工具面を備えるものを複数用意し、それらを賦形装置の内と外に移動可能に構成することとして、相違点72に係る本件発明7の構成を備えるものとすることを、当業者が容易に想到できたとはいえない。

c 発明の効果について
本件発明7の効果は、上記(ア)cで述べたとおりであり、このような効果は、FRPのプリフォーム製造装置の上型が、異なる形状の下型に対応して交換せずとも形状を変更して対応できるものではない、甲2の記載から、当業者が予測することができないものである。

d したがって、本件発明7は、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

e 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、本件発明7を構成要件7A?同7Cに分説し、構成要件7Bの「前記ドレープ成形及びプレス成形工具が、プランジャセグメント(3,3’)なしで実施される複数の下部工具半体(1’)を含み、」及び構成要件7Cの「前記工具半体(1’)が、前記ドレープ成形及びプレス成形工具内に、且つその外側に移動可能であり、及び、異なる形状を成形する成形工具面を備えることを特徴とする」に関し、「甲2発明は、構成要件7Bを具備している。また、甲2発明において、構成要件7Cを備えることは、設計的事項である」と主張している。
しかし、甲2発明のFRPのプリフォーム製造装置の上型は、異なる形状の下型に対応して交換せずとも形状を変更して対応できるものではないから、仮に、下型を、ドレープ成形及びプレス成形工具内外に移動可能な、異なる形状を成形する成形工具面を備える複数の、下型に、構成することができたとしても、それだけでは、FRPのプリフォーム製造装置として機能するものにはならないから、本件発明7の構成には至らない。したがって、特許異議申立人の主張は、採用することができない。

オ 本件発明10について

(ア)甲3発明3との対比・判断

a 本件発明10と甲3発明3との一致点及び相違点は、上記(1)ウ(ア)aに記載したとおりである。一致点並びに相違点101及び102を再掲する。
一致点:
「繊維プラスチック複合部品の製造方法」
相違点101:
本件発明10においては、本件発明1?7の何れかのドレープ成形及びプレス成形工具を使用する本件発明8又は9の方法で、プリフォームを製造するステップを有することが、特定されているのに対し、甲3発明3においては、プリフォームを製造する方法が甲3発明2の方法である点
相違点102:
本件発明10においては、以下のステップ
「-マトリックス形成プラスチック系を射出し、前記閉鎖されたドレープ成形及びプレス成形工具内に残されたプリフォーム(2)に前記マトリックス形成プラスチック系を含浸するステップと、
-前記マトリックス形成プラスチック系の硬化条件を整えるステップであって、少なくとも一方の前記工具半体(1,1’)の前記プランジャセグメント(3,3’)によりプレス圧を加えて含浸されたプリフォーム(2)を前記マトリックス形成プラスチック系の硬化温度まで加熱するステップと、
-前記繊維プラスチック複合部品を硬化し、取り出すステップ」
を含むことが特定されていて、マトリックス形成プラスチック系が射出されるのは、その中にプリフォームが残されている閉鎖されたドレープ成形及びプレス成形工具内であるのに対し、甲3発明3においては、樹脂を含むマトリックスが圧入充填されるのは、甲3発明2の方法で用いる甲3発明1の装置の賦形型とは別の、雌雄一対の気密型である点

b 相違点についての検討
相違点102について検討する。
甲3発明3の繊維強化複合材料の製造方法は、甲3発明2の方法によりプリフォームを製造した後、「雌雄一対の気密型にこのプリフォームと必要なインサート部品類をセットし、セット後、気密型の型締めを行い、樹脂を含むマトリックスを圧入充填してプリフォームにマトリックスを含浸させ、マトリックス含浸後、加温等により樹脂を硬化させ、温度低下後、離型し、目的の立体形状に賦形された繊維強化複合材料を得る」、というものであって、製造したプリフォームを別の装置に運んで樹脂を射出成形するものである。プリフォームの製造装置内で製造したプリフォームにその場で樹脂を射出成形することが想定されたものではない。
また、甲3発明2の方法で用いるプリフォームの製造装置は、甲3発明1の装置であって、「繊維基材を所定の立体形状に賦形する賦形型」と「押さえ装置」とを有し、その押さえ装置は「賦形型にセットされた繊維基材の所定の部分を所定のタイミングで押さえる押さえ装置」であって、「前記繊維基材の略中央に設定された中央部を最初に押さえ、その後前記繊維基材の略中央から端部へ向かって離隔する位置に設定された1又は2以上の部分を、前記中央部から離隔する順に押さえるように制御するコントローラを備え」というものである。このプリフォームの製造装置の賦形型を備える部分は、プリフォームの製造後に樹脂が射出される空間が形成されるようなものであるとは認められない。
そうすると、甲3発明3の繊維強化複合材料の製造方法において、甲3発明2の方法によりプリフォームを製造した後、製造したプリフォームを別の装置に運んで樹脂を射出成形する代わりに、製造したプリフォームにその場で樹脂を射出成形することは、動機付けられない。
したがって、甲3発明3において、相違点102係る本件発明10の構成を備えるものとすることを、当業者が容易に想到できたとはいえない。

c 発明の効果について
本件発明10の効果は、本件発明6について、上記ウ(ア)cで述べた本件発明6の効果と同様、本件明細書の段落【0037】及び【0045】の記載からみて、プリフォームを製造するドレープ成形及びプレス成形工具内で、RTM法を施すことができ、その結果、FRP部品を形成するために必要な工具の構成部品が単一の工具に最小化される、ということであると認められる。
このような効果は、マトリックス形成プラスチック系用の射出手段を設けることが想定されず、設けることができるものでもない、甲3の記載から、当業者が予測することができないものである。

d したがって、本件発明10は、相違点101について検討するまでもなく、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

e 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、「本件発明10は、甲3に記載の発明であり、新規性がない。そうすると、本件発明10は、当然に進歩性がない」と主張している。
しかし、この主張は、「本件発明10は、甲3に記載の発明であり、新規性がない」とする前提において誤りである。したがって、特許異議申立人の主張は、採用することができない。

カ 理由2についてのまとめ
以上のとおり、本件発明6は、本件優先日前に頒布された甲1、甲2又は甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、ということはできない。
また、本件発明7は、本件優先日前に頒布された甲1(主引用例)及び甲2に記載された発明に基づいて、又は甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、ということはできない。
また、本件発明10は、本件優先日前に頒布された甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、ということはできない。
よって、本件発明6、7、10についての特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるということはできず、同法第113条第2号に該当せず、理由2によって取り消されるべきものではない。

第5 むすび
以上のとおり、本件発明1?5、8、9に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
本件発明6、7、10に係る特許は、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、取り消すことはできない。
また、ほかに本件発明6、7、10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-04-05 
出願番号 特願2014-515070(P2014-515070)
審決分類 P 1 651・ 121- ZC (B29C)
P 1 651・ 113- ZC (B29C)
最終処分 一部取消  
前審関与審査官 長谷部 智寿  
特許庁審判長 佐藤 健史
特許庁審判官 中田 とし子
加藤 幹
登録日 2016-01-22 
登録番号 特許第5872689号(P5872689)
権利者 ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフト
発明の名称 ドレープ成形及びプレス成形工具、並びにプリフォーム及び繊維プラスチック複合部品の製造方法  
代理人 村山 みどり  
代理人 田中 清  

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