• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B65G
審判 全部申し立て 2項進歩性  B65G
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B65G
管理番号 1332268
異議申立番号 異議2017-700616  
総通号数 214 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-10-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-06-16 
確定日 2017-09-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第6052446号発明「カゴ台車の前詰め装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6052446号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6052446号の請求項1ないし5に係る特許(以下、「請求項1に係る特許」ないし「請求項5に係る特許」という。)についての出願(以下、「本件出願」という。)は、2015年6月4日(優先権主張 2014年8月19日 日本国)を国際出願日とする特願2016-507930号の一部を平成28年2月18日に新たな特許出願としたものであって、平成28年12月9日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、平成29年6月16日に特許異議申立人 岩崎 勇(以下、単に「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
請求項1ないし5に係る特許に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明5」という。)は、それぞれ、本件特許の明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、当該明細書を「本件特許明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
キャスター車輪付きのカゴ台車を複数台搬送し、前詰めして整列させるカゴ台車の前詰め装置であって、
カゴ台車を搬送する装置が床面上に設けられており、
前記装置は、カゴ台車の搬送経路の右側及び左側に各々設けられたパネルを有し、
前記パネルは鉛直方向に駆動軸を持つサイドローラを有し、
前記サイドローラは、搬送経路の両側に対を成して配置され、
前記サイドローラは、カゴ台車の側面に接触するように、付勢部材により付勢され、
カゴ台車の側面に接触するサイドローラを搬送経路の左右で逆向きに回転させることにより、サイドローラからカゴ台車の側面に働く摩擦力により、カゴ台車を搬送経路の進行方向に進行させて前詰めして整列させるように構成されていることを特徴とする、カゴ台車の前詰め装置。
【請求項2】
前記サイドローラは、カゴ台車の長さよりも短い間隔で、搬送経路の両側に複数対設けられていることを特徴とする、請求項1に記載のカゴ台車の前詰め装置。
【請求項3】
搬送経路に沿った順序で最初のサイドローラよりも搬送経路の入口側に、発光部と受光部とから成る、カゴ台車の検出用のセンサが設けられていることを特徴とする、請求項1または2に記載のカゴ台車の前詰め装置。
【請求項4】
搬送経路のカゴ台車1台分のスペース毎に、発光部と受光部とから成る、カゴ台車の検出用のセンサが設けられていることを特徴とする、請求項1?3のいずれかに記載のカゴ台車の前詰め装置。
【請求項5】
搬送経路の先頭に位置する、カゴ台車1台分の第1のスペースに、発光部と受光部とから成るカゴ台車の検出用の第1のセンサが設けられ、
搬送経路で先頭の次に位置する、カゴ台車1台分の第2のスペースに、発光部と受光部とから成るカゴ台車の検出用の第2のセンサが設けられ、
第2のスペースに、サイドローラが2対配置され、
第1のセンサがカゴ台車を検出せず、かつ第2のセンサがカゴ台車を検出する際に、第2のスペースのサイドローラを駆動して、カゴ台車を第2のスペースから第1のスペースへ前進させ、
カゴ台車が第2のスペースから第1のスペースへ前進し終わると、第2のスペースのサイドローラを停止させるように構成されていることを特徴とする、請求項1?4のいずれかに記載のカゴ台車の前詰め装置。」

第3 特許異議申立ての理由の概要
特許異議申立人は、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第3号証(以下、「甲1」ないし「甲3」という。)及び参考資料1ないし4を提出し、次の異議理由1ないし3を主張している。

甲1:特表2013-536106号公報
甲2:特開2005-81950号公報
甲3:国際公開第2009/060528号
参考資料1:特開2016-150838号公報
参考資料2:特願2015-29896号の平成27年3月4日付け拒絶理由通知書
参考資料3:特許第5784850号公報
参考資料4:特願2016-507930号(本件出願の原出願)の平成28年6月27日提出の意見書

1.異議理由1(特許法第36条第6項第2号)
(1)本件特許の請求項1の記載における「カゴ台車」について
本件特許の請求項1における記載「(A)キャスター車輪付きのカゴ台車を複数台搬送し、前詰めして整列させるカゴ台車の前詰め装置であって、」については、本件特許の搬送装置の用途(「カゴ台車を搬送する」ためのもの)が規定されているが、このカゴ台車は、「キャスター車輪付きの」カゴ台車であるとしか規定されておらず、カゴ台車の具体的な構成は何ら規定されていない。即ち、本件特許の請求項1のカゴ台車は、本件特許の目的を達成できないようなあらゆる形状や形態のカゴ台車が包含されている。
具体的には、現在の規定では、例えば(i)スーパーマーケットで顧客が購入物品を物品配置場所からレジまで運搬するのに使用するカゴ台車や、(ii)同じくスーパーマーケットに存在する前方に向かって車幅が先細になっているカゴ台車も、本件特許の装置の搬送対象に包含されることになる。
しかしながら、上記で例示した(i)?(ii)の台車は、本件特許の装置では、その形状や形態の点で、本件特許の目的のために好適に使用されることができないものである。つまり、上記の(i)のスーパーマーケットで使用されるカゴ台車は、通常、軽量化のために棒状のフレームのみで構成されており、サイドローラが接触するような側面は存在しない。このような形状の台車は、そもそもサイドローラで好適に前進させることは難しい。また、本件特許の請求項1の構成要件(F)(カゴ台車の側面とサイドローラとの接触を規定する構成要件)が成立しなくなる。さらに、上記の(ii)のような先細形状のカゴ台車では、その側面を両方からサイドローラで接触させて前送りすることは実質的に不可能である。なぜなら、カゴ台車の前後で車幅の違いが有意に存在すれば、搬送方向の前後に存在するサイドローラがカゴ台車の左右の側面に好適に接触することが困難になるからである。さらに述べると、キャスター車輪の位置も、ほぼ四隅になければ本件特許の目的を達成することができない。
このように、本件特許の請求項1の構成要件(A)のカゴ台車の構成の規定は何ら具体的でなく、あらゆる形状や形態のものを包含するため、本件特許の目的のために好適に使用されることができないものや、本件特許の装置で本来的に使用されることができないものまでもが含まれている。
従って、本件特許の請求項1の記載は、この点で明確性の要件を満たさない。

(2)本件特許の請求項1の記載におけるカゴ台車の「側面」について
本件特許の請求項1の記載「前記サイドローラは、カゴ台車の側面に接触するように、付勢部材により付勢され、」においては、サイドローラがカゴ台車の「側面」に接触することが規定されている。
しかしながら、上記(1)で指摘したように、カゴ台車は、「キャスター車輪付き」のものであるとしか規定されておらず、その具体的な構成は何ら規定されていない。そもそもカゴ台車の「側面」という言葉は、カゴ台車における位置を示したにすぎず、カゴ台車に対してどのような構成で側面を存在させるべきかが全く不明である。そして、上記(1)で指摘したように、全てのカゴ台車が「側面」を有するわけではなく、例えば、スーパーマーケットで使用されるカゴ台車の場合、通常、軽量化のために棒状のフレームのみで構成されており、サイドローラが安定して接触するような側面は存在しない。
従って、カゴ台車の「側面」は、具体的に台車との関係で何を指し、どのような構成のものであるかは全く不明確である。してみれば、この「側面」とサイドローラとの接触を規定する上記請求項1の記載「前記サイドローラは、カゴ台車の側面に接触するように、付勢部材により付勢され、」も、全体として技術的に特定できず、意味が不明確である。

よって、上記(1)及び(2)の理由により、本件特許の特許請求の範囲における請求項1及び請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2ないし5の記載は明確ではないから、本件出願は、特許法第36条第6項第2号の規定する要件を満たしておらず、本件発明1ないし5に係る特許は、特許法第113条第4号の規定により取り消すべきものである。

2.異議理由2(特許法第36条第4項第1号及び特許法第36条第6項第1号)
(1)本件特許の請求項1の記載における「サイドローラ」の具体的構成について
本件特許の請求項1の記載において、「サイドローラ」の具体的な構成は、何ら規定されていない。本件特許の請求項1の記載においては、ローラの構成としてローラがカゴ台車のサイドに存在する程度しかわからない。それ以外の条件は全く不明である。
しかしながら、サイドローラの構成を具体的に規定しないと、本件特許の目的を十分に達成することができないことは明らかである。
まず、本件特許のサイドローラの形態が全く不明である。単にサイドにローラがあるという規定では、どのような形態及び配置のローラでカゴ台車の側面に接触するかが不明である。サイドローラの形態及び配置を具体的に規定しないと、本件特許の目的を達成できないものも包含されることになってしまう。
さらに述べると、本件発明の作用機構を考慮すると、まずサイドローラは、その表面が特定の弾性の材料から形成されていなければ、本件発明の効果を十分に奏することができないはずである。本件発明では、サイドローラは、付勢部材によってカゴ台車の側面に接触させられ、駆動されて回転することによって、その回転力をカゴ台車に伝達し、カゴ台車を前進させるようである。ここで、サイドローラの回転力がカゴ台車に伝達される部分に注目すると、この部分では、サイドローラが付勢部材の付勢作用によって変形して広い接触面積でカゴ台車と接触し、この接触部分に生じる高い摩擦力によってカゴ台車を前進させていることは明らかである。そうすると、サイドローラは、前述したように、ある程度弾性の材料から形成されていることが必要である。仮に、サイドローラが例えば硬い金属や樹脂などの実質的に弾性のない材料から形成されているとすると、円形のサイドローラは、付勢部材によって付勢されてもほとんど変形せず、カゴ台車の側面において鉛直方向で線に相当する極めて狭い接触面積でしか接触しないため、十分な摩擦力で安定してカゴ台車を前進させることが実質的に不可能である。
このように、本件発明の効果を十分に奏するためには、サイドローラは、少なくともその形態及び配置を規定したうえで、弾性を有する材料から形成されていなければならないが、本件特許の請求項1の記載において、サイドローラの構成は、何ら具体的に特定されていない。
したがって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載したものではないし、本件特許明細書における発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。
本件発明2ないし5においても同様である。
なお、本件特許明細書において、サイドローラの形態に言及している部分として、「高さ方向に沿って少なくとも2段に重ねる」(本件特許の明細書[0015]参照)があり、サイドローラの構成について言及している部分として、例えば「空気入りのゴムタイヤ」(本件特許の明細書[0013]参照)がある。

(2)本件特許の請求項1の記載におけるサイドローラの対の個数及び配置間隔について
本件特許の請求項1の記載においては、サイドローラの対の個数及び配置間隔は、何ら規定されておらず、本件特許の請求項2において初めて規定されている(即ち、本件特許の請求項2では、「前記サイドローラは、カゴ台車の長さよりも短い間隔で、搬送経路の両側に複数対設けられていること」が規定されている)。したがって、本件特許の請求項1は、サイドローラが一対だけ存在する態様や、サイドローラが複数対存在するが、それらの配置間隔がカゴ台車の長さよりもかなり長い間隔である態様も包含する。
しかしながら、これらの態様の場合、カゴ台車を前詰めして整列させるという本件特許の目的を十分に達成することができず、本件特許の請求項2の態様にまで限定することが必要であることは、当業者には明らかである。本件発明3ないし5についても同様である。

したがって、上記(1)及び(2)の理由により、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1ないし5を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、本件出願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、本件発明1ないし5に係る特許は、特許法第113条第4号の規定により取り消すべきものである。
また、本件発明1ないし5は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されているものではないから、本件発明1ないし5は特許法第36条第6項第1号の規定する要件を満たしておらず、本件発明1ないし5に係る特許は、特許法第113条第4号の規定により取り消すべきものである。

3.異議理由3(特許法第29条第2項)
本件発明1ないし5は、甲1ないし甲3の発明に基いて、それぞれ当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1ないし5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであって、特許法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。

第4 当審の判断
[1]異議理由1(特許法第36条第6項第2号)について
1.上記第3 1.(1)本件特許の請求項1の記載における「カゴ台車」についての検討
本件特許の請求項1の記載によれば、「カゴ台車」は「キャスター車輪付き」のものであって、請求項1の「サイドローラは、カゴ台車の側面に接触するように、付勢部材により付勢され、カゴ台車の側面に接触するサイドローラを搬送経路の左右で逆向きに回転させることにより、サイドローラからカゴ台車の側面に働く摩擦力により、カゴ台車を搬送経路の進行方向に進行させ」の記載によれば、「カゴ台車」は、側面を有し、その側面にサイドローラが接触して搬送経路の進行方向に進行するというのであるから、そのような構造を有するものであるという意味において明確である。
なお、異議申立人の主張するような、カゴ台車が前後で車幅の違いが有意に存在するものであっても、本件特許明細書の段落【0006】に「・・付勢力によりサイドローラをカゴ台車の側面に接触させるので、カゴ台車の幅がバラついても良い。・・」と記載されているように、サイドローラはカゴ台車の側面に接触するように付勢部材によりカゴ台車の側面に対して付勢されており、車幅の違いがあっても付勢部材により付勢されたサイドローラは、搬送経路に対してがカゴ台車の左右の側面に接触する限りにおいては、カゴ台車はサイドローラにより搬送され得るのであり、それが、同一のカゴ台車の前後の車幅の違いであっても同様である。さらに、キャスター車輪の位置が、必ずしもカゴ台車のほぼ四隅になくても搬送路をカゴ台車が走行しうることは明らかであるから、「カゴ台車」に関して、前後で車幅の違いが有意に存在するものではないこと、また、キャスター車輪の位置がほぼ四隅あることの記載がないことをもって本件特許の請求項1の記載が不明確であるとすることはできない。

2.上記第3 1.(2)本件特許の請求項1の記載におけるカゴ台車の「側面」についての検討
本件特許の請求項1の記載「サイドローラは、カゴ台車の側面に接触するように、付勢部材により付勢され、カゴ台車の側面に接触するサイドローラを搬送経路の左右で逆向きに回転させることにより、サイドローラからカゴ台車の側面に働く摩擦力により、カゴ台車を搬送経路の進行方向に進行させ」によれば、カゴ台車は側面を有するとともに、カゴ台車の側面は、「カゴ台車の側面に接触するサイドローラ」の記載からみて、サイドローラに接触するものであって、さらに、「サイドローラからカゴ台車の側面に働く摩擦力により、カゴ台車を搬送経路の進行方向に進行させ」るものであるという意味において明確である。

3.小括
上記1.及び2.の検討により、本件特許の特許請求の範囲における請求項1及び請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2ないし5の記載は明確であって、本件出願は、特許法第36条第6項第2号の規定する要件を満たしていないとすることはできない。

[2]異議理由2(特許法第36条第4項第1号及び特許法第36条第6項第1号)について
1.上記第3 2.(1)本件特許の請求項1の記載における「サイドローラ」についての検討
カゴ台車の側面に接触する「サイドローラ」について、本件特許明細書の段落【0013】には「好ましくは、サイドローラは空気入りのゴムタイヤである。このようにすると、台車の側面に凹凸等があっても搬送できる。」と記載され、同段落【0019】には「・・14は空気入りのタイヤで、例えば上下2段に重ねられている・・タイヤ14は表面に水切りの溝16を備える空気入りのゴムタイヤであるが、ウレタンゴムタイヤ等のソリッドゴムタイヤでも良い。・・」と記載されている。
特に、上記本件特許明細書の段落【0013】には、「好ましくは、サイドローラは空気入りのゴムタイヤである。」及び「ウレタンゴムタイヤ等のソリッドゴムタイヤでも良い。」(下線は、当審が付与した。以下同様。)の記載からみて、本件特許明細書の実施例においては、サイドローラとして好適にはゴムタイヤやソリッドゴムタイヤを採用しうるというにすぎず、サイドローラを特段、ゴムタイヤやソリッドゴムタイヤに限るという記載ではない。
そして、サイドローラからカゴ台車の側面に働く摩擦力を及ぼすにあたって、弾性体以外であっても摩擦力を及ぼすもの(例えば、硬い金属や樹脂であってもローラ表面を粗く加工したものなど)であればサイドローラとして採用しうることは、技術常識からみて明らかである。
そうすると、本件発明1の「サイドローラ」は、弾性を有する材料から形成されていることを特定せずとも発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえず、また、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないとすることはできない。

2.上記第3 2.(2)本件特許の請求項1の記載におけるサイドローラの対の個数及び配置間隔についての検討
本件特許明細書の段落【0007】には、「好ましくは、前記サイドローラは、カゴ台車の長さよりも短い間隔で、搬送経路の両側に複数対設けられている。このようにすると、搬送経路の途中でカゴ台車が動かなくなることがない。」と記載されているとおり、サイドローラがカゴ台車の長さよりも短い間隔で、搬送経路の両側に複数対設けられていれば、確実に搬送経路の途中でカゴ台車が動かなくなることがないから、好適である。
しかしながら、サイドローラがカゴ台車の長さよりも短い間隔で設けられていなくても、例えば、サイドローラがカゴ台車の長さと等しい間隔で設けられている場合において、1つのカゴ台車の側面に1つのサイドローラが対応することは明らかであって、仮にサイドローラがカゴ台車の長さよりも長い間隔で設けられていたとしても、前詰めに整列させるカゴ台車の台数が限られており、最後尾のカゴ台車の側面にまでサイドローラが対応する場合があることも考慮すれば、何らかの形態で搬送経路の進行方向に進行するカゴ台車の側面にサイドローラが接触していれば、カゴ台車は搬送経路の進行方向に進行することは明らかであるから、サイドローラの対の個数及び配置間隔は、必ずしも「カゴ台車の長さよりも短い間隔で、搬送経路の両側に複数対設けられ」ることに限られるものではない。
一方、請求項1の記載「・・サイドローラからカゴ台車の側面に働く摩擦力により、カゴ台車を搬送経路の進行方向に進行させて前詰めして整列させるように構成されている・・」を参酌すると、カゴ台車を前詰めして整列させるためには、カゴ台車を搬送経路の進行方向に進行させるのであるから、カゴ台車の側面に働く摩擦力を及ぼすサイドローラが前詰めして整列するカゴ台車に対応して設けられることが前提となるのはその記載からみれば明らかである。
したがって、本件発明1は、「サイドローラは、カゴ台車の長さよりも短い間隔で、搬送経路の両側に複数対設けられ」ることを特定せずとも発明の詳細な説明に記載したものではないとはいえず、また、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないとすることはできない。

3.小括
上記1.及び2.の検討により、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載したものではないとはいえず、また、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないとすることはできない。
さらに、本件発明2ないし5についても同様である。

[3]甲1ないし甲3の記載等
1.甲1の記載等
(1)甲1の記載
甲1には、「台車式搬送装置」に関して、図面とともに概略以下の記載がある。(下線は、理解の一助のために当審が付与した。)

1a)「【請求項1】
昇降自在なワーク支持台(2)とこのワーク支持台(2)を昇降駆動する昇降駆動手段(3)が設けられた搬送台車(1)の走行経路中に、ワーク支持高さ切換え位置(C1,C2,E1,E2)が設定され、このワーク支持高さ切換え位置(C1,C2,E1,E2)を前記搬送台車(1)が通過するとき、前記昇降駆動手段(3)を作動させて前記ワーク支持台(2)の高さを切り換えるように構成された台車式搬送装置であって、
前記ワーク支持高さ切換え位置(C1,C2,E1,E2)における搬送台車(1)の走行経路脇に、当該走行経路に沿って往復移動自在に設けられた動力源用台車(52)と、この動力源用台車(52)を一定距離だけ前記搬送台車(1)と同期走行させる同期駆動手段(60)が設けられ、
前記搬送台車(1)には、前記昇降駆動手段(3)の駆動軸(43)と連動連結された受動軸(22)と、この受動軸(22)が回転力を受け入れていないときにワーク支持台(2)の降下を阻止するロック手段(23)が設けられ、
前記動力源用台車(52)には、前記受動軸(22)に回転力を伝達する伝動軸(58)と、この伝動軸(58)を回転駆動する動力源(59)が設けられ、前記搬送台車(1)と前記動力源用台車(52)との同期走行状態において前記受動軸(22)と伝動軸(58)とを互いに連動連結する切離し自在な連動手段(61)が設けられている、台車式搬送装置。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】)

1b)「【0001】
本発明は、自動車組立てラインでの車体の搬送に活用出来る台車式搬送装置に関するものである。」(段落【0001】)

1c)「【0019】
以下、上記搬送台車1の詳細を、図2?図5に基づいて説明すると、搬送台車1は、その平面矩形の台車本体1aの中央部の上側にワーク支持台2が昇降駆動手段3によって昇降自在に支持され、走行経路側の床面上に敷設された左右一対のガイドレール4a,4b上を走行出来るように、台車本体1aの底部に左右一対、前後二組の車輪ユニット5a?5dが設けられている。各車輪ユニット5a?5dは、ガイドレール4a,4b上を転動する支持用車輪6と、ガイドレール4a,4bの上面を清掃するブラシなどから成る清掃具7を備えると共に、片側のガイドレール4bに対応する前後一対の車輪ユニット5b,5dには、図5に示すように、ガイドレール4bを左右両側から挟むように垂直軸の周りに回転自在に軸支された振れ止め用ローラー8が設けられている。」(段落【0019】)

1d)「【0022】
尚、摩擦駆動装置Qの一例を図2?図4に基づいて説明すると、この摩擦駆動装置Qは、搬送台車1の台車本体1aを挟むように配設された左右一対の対称構造の駆動ユニット12a,12bから構成されたもので、各駆動ユニット12a,12bは、垂直支軸13の周りに一定範囲内で水平揺動自在に軸支された可動台14、この可動台14上に垂直向きに取り付けられた減速機付きモーター15、可動台14の下側で前記減速機付きモーター15の垂直出力軸に取り付けられた摩擦駆動輪16、及びこの摩擦駆動輪16を搬送台車1の走行経路側へ移動させる方向に可動台14を付勢するスプリング17から構成されている。而して、両駆動ユニット12a,12bの摩擦駆動輪16が、減速機付きモーター15により互いに逆向きに同一周速度で回転駆動されている状態において、搬送台車1の台車本体1aにおける互いに平行で直線状の垂直左右両側面で形成された摩擦駆動面1b,1cにスプリング17の付勢力で圧接することにより、搬送台車1を定速で前進走行させることが出来る。尚、摩擦駆動装置Qの位置を通過するときの搬送台車1の姿勢を走行経路方向(ガイドレール4a,4bの長さ方向)と完全な平行姿勢に保持させるために、図4に示すように、各駆動ユニット12a,12bに、摩擦駆動輪16の前後両側で搬送台車1の摩擦駆動面1b,1cに当接する回転自在な前後一対のガイドローラー18a,18bを設けておくことが出来る。」(段落【0022】)

(2)上記(1)及び図面から分かること
1e)図1の図示内容から、台車式搬送装置は、搬送台車1を複数台走行させるものであることが分かる。

1f)図3の図示内容から、駆動ユニット12a、12bが床面上に設けられていることが分かる。

1g)上記(1)1d)の記載から、搬送台車1の垂直左右両側面に圧接される摩擦駆動輪16を互いに逆向きに回転駆動させることにより、摩擦駆動輪16から搬送台車1の垂直左右両側面に形成された摩擦駆動面1b、1cに働く摩擦力により、搬送台車1を前進方向に進行させることが分かる。

(3)甲1発明
上記(1)及び(2)並びに図面の記載を総合すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。

「車輪ユニット5a?5dを備えた搬送台車1を複数台走行させる台車式搬送装置であって、
搬送台車1を走行させる駆動ユニット12a、12bが床面上に設けられており、
駆動ユニット12a、12bは、垂直出力軸に取り付けられた摩擦駆動輪16を有し、
摩擦駆動輪16は、搬送台車1の走行経路の両側に対を成して配置され、
摩擦駆動輪16は、搬送台車1の垂直左右両側面に圧接するように、スプリング17により付勢され、
搬送台車1の垂直左右両側面に圧接する摩擦駆動輪16を走行経路の両側で互いに逆向きに回転駆動させることにより、摩擦駆動輪16から搬送台車1の垂直左右両側面に働く摩擦力により、搬送台車1を前進方向に進行させる台車式搬送装置。」

2.甲2の記載等
(1)甲2の記載
甲2には、「摩擦駆動の台車式搬送装置」に関して、図面とともに概略以下の記載がある。(下線は、理解の一助のために当審が付与した。)

2a)「【請求項1】
自在車輪で走行可能に支持される搬送用台車の中央寄り前後2箇所に主被ガイド部材が設けられ、走行経路側には、前後一対の主被ガイド部材が係合する主ガイドレールが敷設されると共に、搬送用台車の走行方向と平行な被摩擦面に当接して当該搬送用台車を推進させる摩擦駆動手段が配設された摩擦駆動の台車式搬送装置において、前記搬送用台車には、前後一対の主被ガイド部材よりも前方と後方とにそれぞれ前後一対の前側副被ガイド部材と後側副被ガイド部材とが主ガイドレールには係合しない位置に設けられ、前後一対の主被ガイド部材間の距離よりも巾広で主ガイドレールが敷設されない走行経路横断通路の上手側には後側副被ガイド部材が係合する後側副ガイドレールが敷設されると共に、当該走行経路横断通路の下手側には前側副被ガイド部材が係合する前側副ガイドレールが敷設され、搬送用台車が前記走行経路横断通路を通過するとき、当該通路の少なくとも前後何れか一方で、又は通路の前後に跨がって、少なくとも前後2つの被ガイド部材がガイドレールに係合するように構成されている、摩擦駆動の台車式搬送装置。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】)

2b)「【0011】
以下に本発明の具体的実施例を添付図に基づいて説明すると、図1及び図2に示すようにこの実施形態で使用される搬送用台車1は、自動車ボディなどのワークWを搭載する、長さ方向の中間に水平方向の関節部を持たない長尺一体型の台車本体2の下側に、左右一対前後2組の自在車輪3と、前後方向中心線上の中央寄り位置に前後一対設けられた主被ガイド部材4,5と、この主被ガイド部材4,5よりも前方で前後方向中心線に対し右方へ外れた位置(左方でも良いが、以下の実施形態の説明は、図示の構造に基づいて説明する)に前後一対設けられた前側副被ガイド部材6,7と、主被ガイド部材4,5よりも後方で前後方向中心線に対し左方へ外れた位置に前後一対設けられた後側副被ガイド部材8,9とを備えている。又、台車本体2の左右両側に走行方向と平行な被摩擦面10a,10bを備えている。この被摩擦面10a,10bは、台車本体2の左右両側面そのものを利用して構成しても良いし、台車本体2に取り付けた前後方向部材の側面で構成しても良い。尚、前側副被ガイド部材6,7間の間隔と後側副被ガイド部材8,9間の間隔とは等しい。
【0012】
各被ガイド部材4?9は、台車本体2に固着された垂直な筒状支持部材11を上下方向に貫通し且つ垂直軸心の周りに自転可能に支承された垂直ピンの下端突出部で構成しているが、この各被ガイド部材4?9の構造は、これに限定されない。而して、図2に示すように、各被ガイド部材4?9の自在車輪走行面に対する高さは、主被ガイド部材4,5の高さH1が一番低く、後側副被ガイド部材8,9の高さH2が中間高さで、前側副被ガイド部材6,7の高さH3が一番高くなるように構成している。
【0013】
上記搬送用台車1の走行経路、即ち、前記自在車輪走行面は、自在車輪3が表面上を転動するように床面上に架台12を介して水平に敷設された左右一対の帯状板13a,13bによって構成され、両帯状板13a,13b間の中央位置には、台車走行経路の全域にわたって、搬送用台車1の主被ガイド部材4,5が係合する主ガイドレール14が敷設されている。この主ガイドレール14は、主被ガイド部材4,5である垂直ピンの下端突出部が丁度遊嵌する程度の巾を隔てて並設された左右一対の垂直レール板15a,15bから構成されている。尚、前記帯状板13a,13bを床面に直に敷設しても良いし、床面そのものが前記自在車輪走行面となるように構成しても良い。
【0014】
上記搬送用台車1の走行経路には、図1A及び図2Aに示すように摩擦駆動手段16が併設されている。この摩擦駆動手段16は、それぞれ垂直軸心の周りに回転自在な摩擦駆動ローラー17とバックアップローラー18を備えている。摩擦駆動ローラー17は、図示省略された付勢手段により台車本体2の被摩擦面10a,10bの一方に圧接されるもので、モーター19により回転駆動される。バックアップローラー18は、台車本体2の被摩擦面10a,10bの他方に当接する。尚、摩擦駆動手段16は、バックアップローラー18を省いて摩擦駆動ローラー17のみから構成することもできるし、或いは図3に20で示す摩擦駆動手段のように、バックアップローラー18を使用しないで摩擦駆動ローラー17を左右一対並設して構成することもできる。」(段落【0011】ないし【0014】)

2c)「【0018】
即ち、図5Aに示すように、通路26の上手側ターン部23に送り込まれた搬送用台車1は、ターン部摩擦駆動手段27の各摩擦駆動ローラー17で前方に送られながら、その前後一対の主被ガイド部材4,5がターン部23の主ガイドレール14に案内されることにより、当該ターン部23に沿って90度右方に転向し、直線経路部25に進入する。この過程において、当該搬送用台車1の前側副被ガイド部材6,7は、主ガイドレール14の右側から左側へ移行した後、再び後側副ガイドレール31及びこれに並列する主ガイドレール14に対しその左側から右側へ移行することになるが、当該前側副被ガイド部材6,7は後側副ガイドレール31及び主ガイドレール14よりも高く、これら後側副ガイドレール31及び主ガイドレール14の側面に衝突することはない。」(段落【0018】)

(2)上記(1)及び図面から分かること
2d)図3の図示内容から、台車式搬送装置は、搬送用台車1を複数台走行させるものであることが分かる。

2e)図2の図示内容から、搬送用台車1を走行させる摩擦駆動手段16が床面上に設けられていることが分かる。

2f)図2及び図3の図示内容並びに上記(1)1b)段落【0014】の記載「図3に20で示す摩擦駆動手段のように、バックアップローラー18を使用しないで摩擦駆動ローラー17を左右一対並設して構成することもできる。」を併せみると、摩擦駆動ローラー17は、走行経路の左右両側に一対設けられ、搬送用台車1の走行経路の左右両側で回転することが分かる。そして、搬送用台車1の左右両側に設けられた摩擦駆動ローラー17が、互いに逆向きに回転するのは自明である。

(3)甲2発明
上記(1)及び(2)並びに図面の記載を総合すると、甲2には次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。

「自在車輪3を備えた搬送用台車1を複数台走行させる台車式搬送装置であって、
搬送用台車1を走行させる摩擦駆動手段16が床面上に設けられており、
摩擦駆動手段16は、垂直軸心の周りに回転自在な摩擦駆動ローラー17を有し、
摩擦駆動ローラー17は、走行経路の左右両側に一対設けられ、
摩擦駆動ローラー17は、搬送用台車1の側面の被摩擦面10a,10bに接触するように、付勢手段により圧接され、
搬送用台車1の側面の被摩擦面10a,10bに接触する摩擦駆動ローラ17を走行経路の左右両側で逆向きに回転させることにより、摩擦駆動ローラー17から搬送用台車1の側面の被摩擦面10a,10bに働く摩擦力により、搬送用台車1を前方に走行させる台車式搬送装置。」

3.甲3の記載等
(1)甲3の記載
甲3には、「駆動ユニット及び搬送システム」に関して、図面とともに概略以下の記載がある。(下線は、理解の一助のために当審が付与した。)

3a)「[0014] (1)略平坦な床面に設置される基台と、該基台上に固定され、矩形状のパレットを移動可能に支持する低背の移送手段と、前記移送手段上に水平に載置された前記パレットの一方の側面をトラクション駆動する駆動手段と、前記パレットの他方の側面を前記駆動手段側へ押圧する付勢手段とを含み、前記駆動手段は、前記パレットの一方の側面にトラクション駆動の駆動力を伝達する駆動ローラ及び前記駆動ローラを駆動するモータとで構成される駆動装置を備え、そのモータを前記パレットの上面より上側に配置したことを特徴とする駆動ユニットを提供することができる。
[0015] ここで、基台は、作業対象となる被搬送物及びそのマウントを変形することなく支持可能な部材であることが好ましい。このような基台は、例えば、レールを含んでよく、水平な基準面を備えられることが好ましい。被搬送物は、例えば、エンジンアセンブリのような作業者と同等の大きさの部材をも含んでよい。梯子、脚立、踏み台等の使用がなくても作業者がそのまま作業可能な大きさのものが好ましい。低背な移送手段とは、例えば、その高さが、立った作業者の膝の位置以下程度の高さのものが好ましい。
[0016] 前記駆動手段は、前記低背の移送手段に固定されるので、低背であることが好ましい。例えば、プーリ、ギア、その他の円板状の部材や、略垂直に立てられる高さの低い円筒状の部材若しくは短いローラ等を例として含むことができる。このような駆動手段を駆動する動力源は、望ましくはモータを含んでよい。平べったいモータがあれば、用いることができる。また、平べったいモータ以外に、通常の円筒形のモータであっても、略垂直に立てた回転駆動軸により、また、チェーン、タイミングベルト、Vベルト等の動力伝達手段により前記駆動手段に駆動力を伝達できればよく、特に形状を問わない。円筒形のモータを用いる場合は、前記パレットの上面よりも上に配置することが好ましい。前記パレットの上面よりも下に配置すると、ピットを掘ったりして床下に収納しなければならず、搬送装置の敷設に多大なコストがかかるだけでなく、一旦敷設した搬送装置の模様替えをすることがより困難になる。モータは、床面に固定された基台等に所定のマウントにより固定されてもよく、床に直接アンカー等により固定されてもよい。モータの回転運動が、駆動手段の駆動力に変換され、所定の被搬送物を載せたパレットをその側面で駆動するので、駆動力により容易に変形若しくは位置ずれが生じないようにモータを固定するモータマウントがあることが望ましい。尚、パレットの底面及び/又は側面に永久磁石等を用い、リニアモータにより駆動することも可能である。
[0017] 前記移送手段は、前記基台上に固定され、搬送方向に設けられた複数の支持部材を含める構造としてもよい。前記支持部材は、その上を移動するパレットを移動可能に支持することができ、例えば、ローラ等の回転体を1又は2以上を含むことができる。また、前記パレットを支持可能に、パレットの両側縁近傍を支持してもよい。前記ローラは、パレットの移動方向に従って回転可能となってよい。」(段落[0014]ないし[0017])

3b)「[0054] 以下、図面を参照しつつ、本発明の実施例について詳しく説明するが、以下の記載は、本発明の実施例を説明するためになされたもので、本発明をこれらの実施例に限定するものではない。また、同一若しくは同種類の要素については、同一若しくは関連性のある符号を用い、重複する説明は省略する。
[0055] 図1は、本発明の実施例の(本発明の好適一実施の形態に係る)駆動ユニットの略式平面図であり、図2は、当該駆動ユニットを図1中の下側から視た略式側面図であり、図3は、当該駆動ユニットの略式正面図である。そして、図4は、かかる駆動ユニットを実際に製品の生産等を行うライン上に用いた場合の部分拡大した略式斜視図である。当該駆動ユニット100は、ワーク等の被搬送物を積載してパレット50を搬送するようにワンフロアー全体が平らな床面20に設置される搬送・組立ライン(以下、「ライン」という)において配置される。なお、図4において、被搬送物の搬送方向を矢印Pで示しているが、ライン上で、被搬送物の向きについて述べる場合は、以下において、上流側を後方と下流側を前方として扱うものとする。
[0056] 当該駆動ユニット100は、搬送方向Pに沿って設置される略平行な一対のレール102L及び102Rを含む基台110と、前記パレット50の第1(一方)の側面52(図21、22を参照)に当接してトラクションにより駆動させる駆動装置130と、第1の側面52と反対側の第2(他方)の側面54(図21、22を参照)に当接して前記駆動装置130側へ押圧する付勢装置150と、前記基台110に備えられて前記パレット50の下面の対向する両縁部に接触して支持する支持部材180(図3参照)とで基本的に構成されている。
[0057] 上述するレール102L及び102Rは、同一形状の金属製の部材からなる、駆動ユニット100の搬送方向Pの長さと略同じ長さをした左右一対のものである。これらレール102L及び102Rは、パレット50が移動可能にパレット50の幅と略同じ長さの間隔を空けて平行に配置され、重量物を支持可能に床面20に直接的に固定されている。これらのレール102R及び102Lの前方及び後方には、架台104、104が搬送方向Pに略直角にそれぞれ配置され、これらレール102L及び102Rと共に、平面視で四角枠を形成している。当該四角枠は、アンカーボルト108(図6参照)によって床面20に固定されている。また、前記四角枠を形成するレール102L及び102Rの内側面には、高さを調節するアジャストボルト109が構成されている。
[0058] 前記支持部材180(図3参照)は、前記レール102L及び102Rの上に、それぞれ、搬送方向Pに沿って、所定の間隔を空けて平行に配置されている。この支持部材180は、ワーク30を載せたパレット50の重量を支持する。また支持部材180は、重量物が前記パレット50に積載されても耐え得るように充分な強度を有している。当該支持部材180は、レール102L及び102Rから突設した一対の連結脚部182及び連結脚部182の間に回転自在に軸受けされた支持ローラ184から構成されている。そして、一般的な搬送装置と同様に、床面20に固定される際には、レール102L及び102Rは、水準器等の調節器具を使用しアジャストボルト109を調節することにより水平に設置されている。従って、支持部材180も水平に設置されている。そのため、パレット50は、そのままで静止状態を維持可能であり、必要に応じて、レール102L及び、102R上を容易に移動できる。
[0059] 駆動ユニット100に備えられる駆動装置130は、搬送方向Pの前方を向いて左手側のレール102Lの(パレット50搬送位置から)外側に、駆動ユニット100の前方及び後方にそれぞれ1機ずつ設けられている。それぞれの駆動装置130は、駆動力を付与するモータユニットであって、モータ本体131と、モータ軸が搬送方向略直角に内側に向かって差し込まれる変速機としてのギアボックス140と、該ギアボックス140から上記モータ軸に対して略直角な向きであって、鉛直下向きに突出する回転軸136と、この回転軸136により駆動されるトラクションローラたる駆動ローラ134とから主に構成される。また、前方及び後方の駆動装置130、130の配置間隔L1は、パレット50の搬送方向長さL2よりも短い配置間隔で配置されている。
[0060] 駆動ローラ134には、下向き戴頭円錐形状の部材135が備えられ、そのテーパー面により、パレット50の上側辺部を上から拘束し、パレット50が駆動ローラ134の外周面から外れることを防止する。駆動ローラ134のトラクション面である外周面は、パレット50の側面52に当接するが、駆動ローラ134の幅は、パレット50の側面の高さに略一致、若しくは、駆動ローラ134の外周面の幅の方がやや大きい。そして、駆動ローラ134は、的確なトラクション力を伝えるため、適度な摩擦力が必要である。また、パレット50の側面52との適度な接触面積を有することが好ましく、駆動ローラ134は比較的軟らかいゴム(硬質ゴムを含む)等から構成される。また、適度な弾力を与えるために、空気が入るタイヤのような構造にしてもよい。また、必要に応じて表面(即ち摺動面)に凹凸(例えば、縦溝、横溝、パターン等)を形成しても良い。」(段落[0054]ないし[0060])

3c)「[0063] また、前方及び後方の駆動装置130、130の配置間隔L1は、パレット50の搬送方向Pの長さL2よりも短い方が好ましい。このように2つの駆動装置130、130を所定の間隔を空けて駆動ユニット100に配置し、同時に駆動することにより、パレット50の移送を安定化させやすくなる。また、レール102Lの外側であり、前方及び後方の駆動装置130、130の間には、カバー146が構成され、作業者10はその上を移動することができる。従って、カバー146は、作業者が乗ってもその重量に耐え得る強度で形成されて構成され、カバー146の上面の床面からの高さH2は、パレット50の上面の床面からの高さH1と略同じ高さ(ここでは、約20cm)となり、作業者10が容易に昇降することが可能である。
[0064] 図1から3を参照すれば、4つの付勢装置150が、レール102Rに沿って配置されている。これらの付勢装置150は、実質的に同じものである。図3に示すように、レール102Rの前端部及び後端部に配置される付勢装置150、150は、前記基台110を挟んで駆動装置130、130と対向する位置に配置される。該付勢装置150は、スライド部材154と、このスライド部材154に回転自在に軸支される付勢ローラ152と、該付勢ローラ152に付勢力を与えるバネ158と、付勢装置150を固定する付勢ベース160と、から構成される。ここで用いられる付勢ローラ152は、従動ローラであるため、駆動装置を備える必要もなく、さしたる抵抗もなく回転するローラであることが好ましい。かかる付勢ローラ152と、前述した駆動ローラ134との間にパレット50が搬送されてきた場合であって、駆動ローラ134がパレット50に駆動力を付与する際は、付勢ローラ152が、パレット50の向きが曲がらないように、動きを制限すると共に、パレット50を駆動ローラ134側へ押付け、付勢する。これにより駆動ローラ134の駆動力が確実にパレット50に伝達される。」(段落[0063]及び[0064])

3d)「[1]略平坦な床面に設置される基台と、
該基台上に固定され、矩形状のパレットを移動可能に支持する低背の移送手段と、
前記移送手段上に水平に載置された前記パレットの一方の側面をトラクション駆動する駆動手段と、
前記パレットの他方の側面を前記駆動手段側へ押圧する付勢手段と、
を含み、
前記駆動手段は、前記パレットの一方の側面にトラクション駆動の駆動力を伝達する駆動ローラ及び前記駆動ローラを駆動するモータとで構成される駆動装置を備え、そのモータを前記パレットの上面より上側に配置したことを特徴とする駆動ユニット。
[2] 前記パレットの上面高さは、前記床面に位置する作業員が昇降できる高さ及び/又は跨ぐことができる高さであることを特徴とする請求項1に記載の駆動ユニット。
[3] 前記駆動手段は、前記パレットの搬送方向に沿って設けられる第1の駆動装置及び第2の駆動装置で構成され、前記第1の駆動装置と前記第2の駆動装置との配置間隔をパレットの搬送方向の長さより短い長さで配置したことを特徴とする請求項1又は2に記載の駆動ユニット。」(請求の範囲の請求項1ないし3)

(2)甲3技術
上記(1)及び図面の記載を総合すると、甲3には次の技術(以下、「甲3技術」という。)が記載されている。

「パレットを複数個搬送するための搬送システムであって、パレットの一方の側面にトラクション駆動の駆動力を伝達する駆動ローラ及び駆動ローラを駆動するモータとで構成される駆動装置130が設けられたものにおいて、駆動装置130、130の配置間隔L1を、パレット50の搬送方向長さL2よりも短い配置間隔とする技術。」

[4]異議理由3(特許法第29条第2項)について
A.甲1発明と対比した場合の検討
1.本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明における「?を備えた」は、その機能、構成又は技術的意義から、本件発明1における「?付きの」に相当し、以下同様に、「走行させる」は「搬送する」または「搬送し」に、「走行させる駆動ユニット12a、12b」は「搬送する装置」に、「摩擦駆動輪16」は「サイドローラ-」に、「垂直出力軸に取り付けられた摩擦駆動輪16」は「鉛直方向に駆動軸を持つサイドローラー」に、「搬送台車1の走行経路の両側」は「搬送経路の両側」に、「垂直左右両側面」は「側面」に、「圧接」は「接触」に、「スプリング17」は「付勢部材」に、「走行経路の両側」は「搬送経路の左右」に、「互いに逆向きに回転駆動させる」は「逆向きに回転させる」に、「前進方向」は「進行方向」に、それぞれ相当する。
そして、甲1発明における「車輪ユニット5a?5d」と本件発明1における「キャスター車輪」とは、「車輪」という限りにおいて一致し、
甲1発明における「搬送台車1」と本件発明1における「カゴ台車」とは、「台車」という限りにおいて一致し、
甲1発明における「台車式搬送装置」と本件発明1における「前詰めして整列させるカゴ台車の前詰め装置」とは、「搬送装置」という限りにおいて一致する。

よって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「車輪付きの台車を複数台搬送する搬送装置であって、
台車を搬送する装置が床面上に設けられており、
台車を搬送する装置は、鉛直方向に駆動軸を持つサイドローラを有し、
サイドローラは、搬送経路の両側に対を成して配置され、
サイドローラは、台車の側面に接触するように、付勢部材により付勢され、
台車の側面に接触するサイドローラを搬送経路の左右で逆向きに回転させることにより、サイドローラから台車の側面に働く摩擦力により、台車を搬送経路の進行方向に進行させる台車の搬送装置。」

[相違点1]
「車輪」に関して、本件発明1においては「キャスター車輪」であるのに対して、甲1発明においては「車輪ユニット5a?5d」である点(以下、「相違点1」という。)。

[相違点2]
「台車」に関して、本件発明1においては「カゴ台車」であるのに対して、甲1発明においては「搬送台車1」である点(以下、「相違点2」という。)。

[相違点3]
「搬送装置」に関して、本件発明1においては「前詰めして整列させるカゴ台車の前詰め装置」であるのに対して、甲1発明においては「台車式搬送装置」である点(以下、「相違点3」という。)。

[相違点4]
本件発明1においては「台車を搬送する装置」が「カゴ台車を搬送する装置」であって、「カゴ台車の搬送経路の右側及び左側に各々設けられたパネルを有し、パネルは鉛直方向に駆動軸を持つサイドローラを有」するのに対して、甲1発明においては「搬送台車1を走行させる駆動ユニット12a、12b」であって、「駆動ユニット12a、12bは、垂直出力軸に取り付けられた摩擦駆動輪16を有」するものであるが、搬送台車1の走行経路の両側の各々にそのようなパネルを有するか不明である点(以下、「相違点4」という。)。

事案に鑑み、まず上記相違点3について検討する。

[相違点3について]
まず、本件発明1における「前詰めして整列させる」の「前詰め」の意味は、本件特許明細書段落【0009】「・・1つのスペースにカゴ台車が存在して次のスペースが空であると、カゴ台車を前進させて、前詰めに整列させることができる」の記載によれば、1つのスペースにカゴ台車が存在して次のスペースが空であると、カゴ台車を前進させることであると認められる。
そうすると、甲1発明の「台車式搬送装置」において、1つのスペースに搬送台車1が存在して次のスペースが空であると、搬送台車1を前進させることによる搬送台車1の「前詰め」を行うかについては不明であり、また、搬送台車1を「前詰め」することが技術常識であるともいえないから、甲1発明に基いて上記相違点3に係る本件発明1の発明特定事項とすることは当業者が容易になし得たことではない。
また、甲3の技術においても、パレットを「前詰め」することについて示唆するものではないから、甲1発明及び甲3技術に基いて上記相違点3に係る本件発明1の発明特定事項とすることは当業者が容易になし得たことではない。

そうすると、上記相違点1、2及び4について検討するまでもなく本件発明1は、甲1発明あるいは甲1発明及び甲3技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2.本件発明2ないし5について
本件特許の特許請求の範囲における請求項2ないし5は、請求項1の記載を直接又は間接的に、かつ、請求項1の記載を他の記載に置き換えることなく引用して記載されたものであるから、本件発明2ないし5は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものである。
したがって、本件発明2ないし5は、本件発明1と同様の理由で、甲1発明あるいは甲1発明及び甲3技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

B.甲2発明と対比した場合の検討
1.本件発明1について
本件発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明における「?を備えた」は、その機能、構成又は技術的意義から、本件発明1における「?付きの」に相当し、以下同様に、「走行させる」は「搬送する」または「搬送し」に、「走行させる摩擦駆動手段16」は「搬送する装置」に、「摩擦駆動ローラ17」は「サイドローラ-」に、「垂直軸心の周りに回転自在な摩擦駆動ローラー17」は「鉛直方向に駆動軸を持つサイドローラー」に、「走行経路」は「搬送経路」に、「左右両側に一対設けられ」は「両側に対を成して配置され」に、「側面の被摩擦面10a,10b」は「側面」に、「付勢手段」は「付勢部材」に、「圧接され」は「付勢され」に、「走行経路の左右両側で逆向きに回転させる」は「搬送経路の左右で逆向きに回転させる」に、「前方に走行させる」は「搬送経路の進行方向に進行させる」に、それぞれ相当する。
そして、甲2発明における「自在車輪3」と本件発明1における「キャスター車輪」とは、「車輪」という限りにおいて一致し、
甲2発明における「搬送用台車1」と本件発明1における「カゴ台車」とは、「台車」という限りにおいて一致し、
甲2発明における「台車式搬送装置」と本件発明1における「前詰めして整列させるカゴ台車の前詰め装置」とは、「搬送装置」という限りにおいて一致する。

よって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「車輪付きの台車を複数台搬送する搬送装置であって、
台車を搬送する装置が床面上に設けられており、
台車を搬送する装置は、鉛直方向に駆動軸を持つサイドローラを有し、
サイドローラは、搬送経路の両側に対を成して配置され、
サイドローラは、台車の側面に接触するように、付勢部材により付勢され、
台車の側面に接触するサイドローラを搬送経路の左右で逆向きに回転させることにより、サイドローラから台車の側面に働く摩擦力により、台車を搬送経路の進行方向に進行させる台車の搬送装置。」

[相違点1]
「車輪」に関して、本件発明1においては「キャスター車輪」であるのに対して、甲2発明においては「自在車輪3」である点(以下、「相違点1」という。)。

[相違点2]
「台車」に関して、本件発明1においては「カゴ台車」であるのに対して、甲2発明においては「搬送用台車1」である点(以下、「相違点2」という。)。

[相違点3]
「搬送装置」に関して、本件発明1においては「前詰めして整列させるカゴ台車の前詰め装置」であるのに対して、甲2発明においては「台車式搬送装置」である点(以下、「相違点3」という。)。

[相違点4]
本件発明1においては、「台車を搬送する装置」が「カゴ台車を搬送する装置」であって、「カゴ台車の搬送経路の右側及び左側に各々設けられたパネルを有し、パネルは鉛直方向に駆動軸を持つサイドローラを有」するのに対して、甲2発明においては「搬送用台車1を走行させる摩擦駆動手段16」であって、「垂直軸心の周りに回転自在な摩擦駆動ローラー17を有」するものであるが、搬送用台車1の走行経路の左右両側の各々にパネルを有するか不明である点(以下、「相違点4」という。)。

事案に鑑み、まず上記相違点3について検討する。

[相違点3について]
上記A.1.において検討したとおり、本件発明1における「前詰めして整列させる」の「前詰め」の意味は、本件特許明細書段落【0009】「・・1つのスペースにカゴ台車が存在して次のスペースが空であると、カゴ台車を前進させて、前詰めに整列させることができる」の記載によれば、1つのスペースにカゴ台車が存在して次のスペースが空であると、カゴ台車を前進させることであると認められる。
そうすると、甲2発明の「台車式搬送装置」において、1つのスペースに搬送用台車1が存在して次のスペースが空であると、搬送用台車1を前進させることによる搬送用台車1の「前詰め」を行うかについては不明であり、また、搬送用台車1を「前詰め」することが技術常識であるともいえないから、甲2発明に基いて上記相違点3に係る本件発明1の発明特定事項とすることは当業者が容易になし得たことではない。
また、甲3の技術においても、パレットを「前詰め」することについて示唆するものではないから、甲2発明及び甲3技術に基いて上記相違点3に係る本件発明1の発明特定事項とすることは当業者が容易になし得たことではない。

そうすると、上記相違点1、2及び4について検討するまでもなく本件発明1は、甲2発明あるいは甲2発明及び甲3技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2.本件発明2ないし5について
本件特許の特許請求の範囲における請求項2ないし5は、請求項1の記載を直接又は間接的に、かつ、請求項1の記載を他の記載に置き換えることなく引用して記載されたものであるから、本件発明2ないし5は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものである。
したがって、本件発明2ないし5は、本件発明1と同様の理由で、甲2発明あるいは甲2発明及び甲3技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第5 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-08-29 
出願番号 特願2016-28610(P2016-28610)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (B65G)
P 1 651・ 121- Y (B65G)
P 1 651・ 537- Y (B65G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 岡崎 克彦  
特許庁審判長 佐々木 芳枝
特許庁審判官 松下 聡
槙原 進
登録日 2016-12-09 
登録番号 特許第6052446号(P6052446)
権利者 村田機械株式会社
発明の名称 カゴ台車の前詰め装置  
代理人 塩入 明  
代理人 塩入 みか  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ