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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C07D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07D
管理番号 1332546
審判番号 不服2016-10009  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-11-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-07-04 
確定日 2017-09-11 
事件の表示 特願2013-550766「液晶化合物および液晶媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 8月 2日国際公開、WO2012/100809、平成26年 5月15日国内公表、特表2014-511358〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、2011年12月30日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2011年1月25日 ドイツ(DE))を国際出願日とするものであって、平成27年9月1日付けで拒絶理由が通知され、平成28年2月3日に意見書および手続補正書が提出され、同年3月1日付けで拒絶査定され、同年7月4日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年10月17日付けで上申書が提出されたものである。

第2 平成28年7月4日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成28年7月4日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1 補正の内容
平成28年7月4日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について、平成28年2月3日付け手続補正により補正された請求項1である
「【請求項1】
式I
【化1】

式中、
L^(1)は、HまたはFを示し、
Xは、OまたはCH_(2)を示し、
R^(1)は、1?15個のC原子を有する非置換のアルキルラジカルを示し、ここでさらに、このラジカル中の1つまたは2つ以上のCH_(2)基は、各々、互いに独立して、-C≡C-、-CH=CH-、-CF=CF-、-CF=CH-、-CH=CF-、-(CO)O-、-O(CO)-、-(CO)-または-O-によって、O原子が互いに直接結合しないように置き換えられていてもよく、
ならびに
R^(2)は、CF_(3)またはOCF_(3)を示す、
で表される化合物。」

「【請求項1】
式I
【化1】

式中、
L^(1)は、Fを示し、
Xは、OまたはCH_(2)を示し、
R^(1)は、1?15個のC原子を有する非置換のアルキルラジカルを示し、
ならびに
R^(2)は、CF_(3)またはOCF_(3)を示す、
で表される化合物。」
とする補正を含むものである。

なお、「ラジカル」との記載は、(radical-「基」)「基」の誤訳であるとして取り扱う。

2 補正の適否
上記補正は、発明を特定する事項であるL^(1)に関し、本件補正前の請求項1の「HまたはF」との特定を「F」に限定し、R^(1)については、「1?15個のC原子を有する非置換のアルキルラジカルを示し、ここでさらに、このラジカル中の1つまたは2つ以上のCH_(2)基は、各々、互いに独立して、-C≡C-、-CH=CH-、-CF=CF-、-CF=CH-、-CH=CF-、-(CO)O-、-O(CO)-、-(CO)-または-O-によって、O原子が互いに直接結合しないように置き換えられていてもよく」との特定を、CH_(2)基が置き換えられる場合を除いて、「1?15個のC原子を有する非置換のアルキルラジカルを示」す場合のみに限定するものであり、補正前後で、発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるので、特許法第17条の2第5項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで、補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるか否か(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するか否か)について検討する。

(1)引用刊行物
刊行物1:国際公開第2010/134430号(原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1)
刊行物2:特開平10-81679号公報(原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2)
刊行物3:特開2004-352720号公報(原査定の拒絶の理由に引用された引用文献6)
刊行物4:特表2008-545668号公報(原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4)

なお、刊行物2?4は、本願優先日時点の技術水準を示すためのものである。

(2)引用刊行物の記載事項
ア 刊行物1
原査定の拒絶の理由に引用された本願の優先日前に頒布された刊行物である国際公開第2010/134430号には、以下の記載がある。
(1a)「[0301](実施例23)
下図に示す液晶化合物を、下記の割合で混合することにより液晶組成物Gを調製した。
構造式の右側に一般式との対応を記した。本件化合物については化合物番号を記した。
・・・

・・・
この液晶組成物Gの相転移温度(℃)はN 87.1?87.8 Iであった。
[0302]次に、液晶組成物G(91.5wt%)と、キラル剤BN-H3(4.75wt%)とBN-5(3.75wt%)からなる液晶組成物Hを得た。
この液晶組成物Hの相転移温度(℃)はN*60.1 BP であった。
・・・
[0306](実施例26)
下図に示す液晶化合物を、下記の割合で混合することにより液晶組成物Iを調製した。
構造式の右側に一般式との対応を記した。本件化合物については化合物番号を記した。
・・・

・・・
この液晶組成物Iの相転移温度(℃)はN 87.3?88.9 Iであった。
[0307] 次に、液晶組成物I(93.7wt%)と、キラル剤BN-H3(6.3wt%)からなる液晶組成物Jを得た。
この液晶組成物Jの相転移温度(℃)はN*74.8 BP であった。
・・・」

(1b)「技術分野
[0001] 本発明は光素子用の材料として有用な液晶化合物、液晶媒体に関する。詳しくは、大きな誘電率異方性、屈折率異方性を有し、融点が低い化合物、および広い液晶相温度範囲、大きな誘電率異方性、屈折率異方性を持つ液晶媒体に関する。加えて、この液晶媒体を用いた光素子に関する。詳しくは、幅広い温度範囲で使用可能であり、低電圧駆動が可能であり、高速な電気光学応答を得ることができる光素子に関する。
背景技術
[0002] 液晶組成物を用いた液晶表示素子は、時計、電卓、ワ-プロなどのディスプレイに広く利用されている。これらの液晶表示素子は液晶化合物の屈折率異方性、誘電率異方性などを利用したものである。液晶表示素子における動作モードとしては、主として1枚以上の偏光板を利用して表示するPC(phase change)、TN(twisted nematic)、STN(super twisted nematic)、BTN(Bistable twisted nematic)、ECB(electrically controlled birefringence)、OCB(opticallycompensated bend)、IPS(in-plane switching)、VA(vertical alignment)などが知られている。さらに近年は光学的に等方性の液晶相において電場を印加し、電気複屈折を発現させるモードも盛んに研究されている(特許文献1?9、非特許文献1?3)。
[0003] さらに光学的に等方性の液晶相の一つであるブルー相における電気複屈折を利用した波長可変フィルター、波面制御素子、液晶レンズ、収差補正素子、開口制御素子、光ヘッド装置などが提案されている(特許文献10?12)。
素子の駆動方式に基づいた分類は、PM(passive matrix)とAM(active matrix)である。PM(passive matrix)はスタティック(static)とマルチプレックス(multiplex)などに分類され、AMはTFT(thin film transistor)、MIM(metal insulator metal)などに分類される。
[0004] これらの液晶表示素子は、適切な物性を有する液晶組成物を含有する。液晶表示素子の特性を向上させるには、この液晶組成物が適切な物性を有するのが好ましい。液晶組成物の成分である液晶化合物に必要な一般的物性は、次のとおりである。
(1)化学的に安定であること、および物理的に安定であること、
(2)高い透明点(液晶相-等方相の相転移温度)を有すること、
(3)液晶相(ネマチック相、コレステリック相、スメクチック相、ブルー相などの光学的に等方性の液晶相等)の下限温度が低いこと、
(4)他の液晶化合物との相溶性に優れること、
(5)適切な大きさの誘電率異方性を有すること、
(6)適切な大きさの屈折率異方性を有すること、
である。
特に、光学的に等方性の液晶相においては、誘電率異方性と屈折率異方性が大きな液晶化合物が駆動電圧低減の観点から好ましい。
[0005] (1)のように化学的、物理的に安定な液晶化合物を含む液晶組成物を液晶表示素子に用いると、電圧保持率を高くすることができる。
また、(2)および(3)のように、高い透明点、あるいは液晶相の低い下限温度を有する液晶化合物を含む液晶組成物ではネマチック相や光学的に等方性の液晶相の温度範囲を広げることが可能となり、幅広い温度範囲で表示素子として使用することができる。液晶化合物は、単一の化合物では発揮することが困難な特性を発現させるために、他の多くの液晶化合物と混合して調製した液晶組成物として用いることが一般的である。したがって、液晶表示素子に用いられる液晶化合物は、(4)のように、他の液晶化合物等との相溶性が良好であることが好ましい。近年は特に表示性能、例えばコントラスト、表示容量、応答時間特性等のより高い液晶表示素子が要求されている。さらに使用される液晶材料には駆動電圧の低い液晶組成物が要求されている。また光学的に等方性の液晶相で駆動させる光素子を低電圧で駆動させるためには、誘電率異方性および屈折率異方性が大きい液晶化合物を用いることが好ましい。」

(1c)「発明が解決しようとする課題
[0009] 本発明の第一の目的は、熱、光などに対する安定性、大きな屈折率異方性、大きな誘電率異方性を有し、かつ融点が低い液晶化合物を提供することである。第二の目的は、熱、光などに対する安定性、広い液晶相温度範囲、大きな屈折率異方性、大きな誘電率異方性を有し、光学的に等方性の液晶相を有する液晶媒体を提供することである。第三の目的は、この液晶媒体を含有し、広い温度範囲で使用可能であり、短い応答時間、大きなコントラスト、および低い駆動電圧を有する各種光素子を提供することである。

(1d)「[0028][18]式(7)、(8)、(9)および(10)のそれぞれで表される化合物の群から選択される少なくとも1つの化合物をさらに含有する、項[11]に記載の液晶組成物。
・・・

・・・
これらの式において、R^(6)は炭素数1?10のアルキル、炭素数2?10のアルケニルまたは炭素数2?10のアルキニルであり、アルキル、アルケニルおよびアルキニルにおいて任意の水素はフッ素で置き換えられてもよく、任意の-CH_(2)-は-O-で置き換えられてもよく;X^(4)はフッ素、塩素、-SF_(5)、-OCF_(3)、-OCHF_(2)、-CF_(3)、-CHF_(2)、-CH_(2)F、-OCF_(2)CHF_(2)、または-OCF_(2)CHFCF_(3)であり;環E^(1)、環E^(2)、環E^(3)および環E^(4)は独立して、1,4-シクロヘキシレン、1,3-ジオキサン-2,5-ジイル、ピリミジン-2,5-ジイル、テトラヒドロピラン-2,5-ジイル、1,4-フェニレン、ナフタレン-2,6-ジイル、任意の水素がフッ素または塩素で置き換えられた1,4-フェニレン、または任意の水素がフッ素または塩素で置き換えられたナフタレン-2,6-ジイルであり;Z^(11)、Z^(12)およびZ^(13)は独立して、-(CH_(2))_(2)-、-(CH_(2))_(4)-、-COO-、-CF_(2)O-、-OCF_(2)-、-CH=CH-、-C≡C-、-CH_(2)O-、または単結合である、ただし、環E^(1)、環E^(2)、環E^(3)および環E^(4)のいずれかが3-クロロ-5-フルオロ-1,4-フェニレンであるときには、Z^(11)、Z^(12)およびZ^(13)は-CF_(2)O-であることはなく;L^(10)およびL^(11)は独立して、水素またはフッ素である。」

(1e)「[0121]3 化合物(7)?(11)
本発明の第3の態様は、成分Aに以下に示す成分EおよびFから選ばれた成分を加えることにより得られる液晶組成物である。
[0122] 成分Aに加える成分として、前記式(7)、(8)、(9)および(10)からなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物からなる成分E、または前記式(11)からなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物からなる成分Fを混合したものが好ましい。
・・・
[0124]・・・式(7)で表される化合物の好適例として式(7-1)?(7-8)、式(8)で表される化合物の好適例として式(8-1)?(8-26)、式(9)で表される化合物の好適例として式(9-1)?(9-22)、式(10)で表される化合物の好適例として式(10-1)?(10-5)をそれぞれ挙げることができる。
・・・
[0127]
・・・

・・・
(式中、R^(6)、X^(4)は前記と同じ意味を表し、(F)は水素またはフッ素を表し、(F,Cl)は水素またはフッ素または塩素を表す。)
[0128] これらの式(7)?(10)で表される化合物すなわち成分Eは、誘電率異方性値が正でありかつ非常に大きく、熱安定性や化学的安定性が非常に優れているので、TFT駆動などのアクティブ駆動用の液晶組成物を調製する場合に好適である。本発明の液晶組成物における成分Fの含有量は、液晶組成物の全重量に対して1?99重量%の範囲が適するが、好ましくは10?97重量%、より好ましくは40?95重量%である。また式(6)で表される化合物(成分D)をさらに含有させることにより透明点および粘度調整をすることができる。」

(1f)「[0138]4.3 光学的に等方性の液晶相
液晶組成物が光学的に等方性を有するとは、巨視的には液晶分子配列は等方的であるため光学的に等方性を示すが、微視的には液晶秩序が存在することをいう。「液晶組成物が微視的に有する液晶秩序に基づくピッチ(以下では、ピッチと呼ぶことがある)」は700nm以下であることが好ましく、500nm以下であることがさらに好ましく、350nm以下であることが最も好ましい。
[0139] ここで、「非液晶等方相」とは一般的に定義される等方相、すなわち、無秩序相であり、局所的な秩序パラメーターがゼロでない領域が生成したとしても、その原因がゆらぎによるものである等方相である。たとえばネマチック相の高温側に発現する等方相は、本明細書では非液晶等方相に該当する。本明細書におけるキラルな液晶についても、同様の定義があてはまるものとする。そして、本明細書において「光学的に等方性の液晶相」とは、ゆらぎではなく光学的に等方性の液晶相を発現する相を表し、たとえばプレートレット組織を発現する相(狭義のブルー相)はその一例である。
[0140] 本発明の光学的に等方性の液晶組成物において、光学的に等方性の液晶相ではあるが、偏光顕微鏡観察下、ブルー相に典型的なプレートレット組織が観測されないことがある。そこで本明細書において、プレートレット組織を発現する相をブルー相と称し、ブルー相を含む光学的に等方性の液晶相を光学的に等方性の液晶相と称する。すなわちブルー相は光学的に等方性の液晶相に包含される。
[0141] 一般的に、ブルー相は3種類に分類され(ブルー相I、ブルー相II、ブルー相III)、これら3種類のブルー相はすべて光学活性であり、かつ、等方性である。ブルー相Iやブルー相IIのブルー相では異なる格子面からのブラッグ反射に起因する2種以上の回折光が観測される。ブルー相は一般的に非液晶等方相とキラルネマチック相の間で観測される。
光学的に等方性の液晶相が二色以上の回折光を示さない状態とは、ブルー相I、ブルー相IIに観測されるプレートレット組織が観測されず、概ね一面単色であることを意味する。二色以上の回折光を示さない光学的に等方性の液晶相では、色の明暗が面内で均一であることまでは不要である。」

(1g)「[0223](実施例1)
化合物(S1-11)の合成
化合物(S1-11)は、式(1-4-3)において、R^(1)がC_(4)H_(9)であり、L^(1)が水素であり、L^(2)、L^(4)、およびL^(5)が全てフッ素であり、X^(1)が-CF_(3)である化合物である。
・・・
[0228]化合物(S1-11)の合成
窒素雰囲気下の反応器へ、化合物(S1-9) 16.5g、3,5-ジフルオロ-4-トリフルオロメチルフェノール(S1-10) 5.0g、炭酸カリウム 10.5g、テトラブチルアンモニウムブロミド0.5g、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF) 150mlを加え、95℃で90分攪拌した。反応混合物を25℃に戻した後、氷水 50mlに注ぎ込み混合させ、トルエン 100mlを加え有機層と水層とに分離させ抽出操作を行い得られた有機層を分取し、続いて飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、食塩水で順次洗浄して、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。得られた溶液を、減圧下で濃縮し、残渣をヘプタンを展開溶媒とし、シリカゲルカラムクロマトグラフィーによる分取操作で精製した。さらにエタノール/酢酸エチル=9/1の混合溶媒からの再結晶により精製し、乾燥させ、(S1-11)5.5gを得た。(S1-11)の(S1-8)からの収率は23.3%であった。
[0229] 得られた化合物(S1-11)の相転移温度は以下の通りであった。
相転移温度(℃) :K 83.7 I 。
このことから、化合物(S1-11)は融点が比較的低いことがわかった。
[0230] ^(1)H-NMR分析の化学シフトδ(ppm)は以下の通りであり、得られた化合物が、 (S1-11)であることが同定できた。なお、測定溶媒はCDCl_(3)である。化学シフトδ(ppm);7.53(m,1H),7.37?7.33(m,2H),7.12?7.07(m,3H),7.04?7.01(m,3H),2.67(t、2H),1.67?1.61(m,2H),1.43?1.35(m,2H),0.96(t,3H).
[0231] 液晶化合物(S1-11)の物性
前述した母液晶Aとして記載された4つの化合物を混合し、ネマチック相を有する母液晶Aを調製した。この母液晶Aの物性は以下のとおりであった。
上限温度(T_(NI))=71.7℃;誘電率異方性(Δε)=11.0;屈折率異方性(Δn)=0.137。
[0232] 母液晶A 90重量%と、実施例1で得られた(S1-10)の10重量%とからなる液晶組成物AS1を調製した。得られた液晶組成物AS1の物性値を測定し、測定値を外挿することで液晶化合物(S1-11)の物性の外挿値を算出した。その値は以下のとおりであった。
上限温度(TNI)=14.7℃;誘電率異方性(Δε)=63.7;屈折率異方性(Δn)=0.137。
これらのことから液晶化合物(S1-11)は、他の液晶化合物との優れた相溶性を有し、誘電率異方性(Δε)、屈折率異方性(Δn)の大きい化合物であることがわかった。
[0233](実施例2)
化合物(S2-1)の合成
化合物(S2-1)は、式(1-4-3)において、R^(1)がC_(5)H_(11)であり、L^(1)が水素であり、L^(2)、L^(4)、およびL^(5)が全てフッ素であり、X^(1)が-CF_(3)である化合物である。

[0234]化合物(S2-1)の合成
(S2-1)の合成は、実施例1の(S1-11)を合成する手法に準じた。得られた化合物(S2-1)の相転移温度は以下の通りであった。
相転移温度(℃) :K 91.4(N 34.4) I 。
[0235] ^(1)H-NMR分析の化学シフトδ(ppm)は以下の通りであり、得られた化合物が、 (S2-1)であることが同定できた。なお、測定溶媒はCDCl_(3)である。化学シフトδ(ppm);7.53(m,1H),7.37?7.33(m,2H),7.12?7.07(m,3H),7.04?7.01(m,3H),2.66(t、2H),1.69?1.63(m,2H),1.41?1.31(m,4H),0.92(t,3H).
[0236](比較例1)
化合物(Ref-1)
・・・
化合物(Ref-1)の相転移温度は以下の通りであった。
相転移温度(℃) :K 102.0 I 。
実施例2に記載の化合物(S2-2)は、化合物(Ref-1)より、融点が10.6℃も低く、相溶性に優れる化合物であることがわかった。
[0238](実施例3)
化合物(S3-1)の合成
化合物(S3-1)は、式(1-4-3)において、R^(1)がC_(6)H_(13)であり、L^(1)が水素であり、L^(2)、L^(4)、およびL^(5)が全てフッ素であり、X^(1)が-CF_(3)である化合物である。(化合物(1-4-3-c)と同一)
・・・
[0239]化合物(S3-1)の合成
(S3-1)の合成は、実施例1の(S1-11)を合成する手法に準じた。得られた化合物(S3-1)の相転移温度は以下の通りであった。
相転移温度(℃) :K 69.4(N 27.7) I 。
[0240] ^(1)H-NMR分析の化学シフトδ(ppm)は以下の通りであり、得られた化合物が、 (S3-1)であることが同定できた。なお、測定溶媒はCDCl_(3)である。化学シフトδ(ppm);7.53(m,1H),7.37?7.33(m,2H),7.12?7.07(m,3H),7.04?7.01(m,3H),2.66(t、2H),1.68?1.62(m,2H),1.39?1.29(m,6H),0.90(t,3H).

液晶化合物(S3-1)の物性
前述した母液晶Aとして記載された4つの化合物を混合し、ネマチック相を有する母液晶Aを調製した。この母液晶Aの物性は以下のとおりであった。
上限温度(T_(NI))=71.7℃;誘電率異方性(Δε)=11.0;屈折率異方性(Δn)=0.137。
[0241] 母液晶A 85重量%と、実施例3で得られた(S3-1)の15重量%とからなる液晶組成物AS3を調製した。得られた液晶組成物AS3の物性値を測定し、測定値を外挿することで液晶化合物(S3-1)の物性の外挿値を算出した。その値は以下のとおりであった。
上限温度(T_(NI))=18.4℃;誘電率異方性(Δε)=59.7;屈折率異方性(Δn)=0.130。
これらのことから液晶化合物(S3-1)は、他の液晶化合物との優れた相溶性を有し、誘電率異方性(Δε)、屈折率異方性(Δn)の大きい化合物であることがわかった。
[0242](実施例4)
化合物(S4-1)の合成
化合物(S4-1)は、式(1-1-2)において、R^(1)がC_(6)H_(13)であり、L^(1)およびL^(3)が共に水素であり、L^(2)、L^(4)、およびL^(5)が全てフッ素であり、X^(1)がフッ素である化合物である。
・・・
[0243]化合物(S4-1)の合成
(S4-1)の合成は、実施例1の(S1-11)を合成する手法に準じた。得られた化合物(S4-1)の相転移温度は以下の通りであった。
相転移温度(℃) :K 82.9 N 136.6 I 。
[0244]
^(1)H-NMR分析の化学シフトδ(ppm)は以下の通りであり、得られた化合物が、 (S3-1)であることが同定できた。なお、測定溶媒はCDCl_(3)である。化学シフトδ(ppm);7.53(m,1H),7.41?7.34(m,3H),7.23?7.18(m,4H),7.11?7.02(m,4H),2.66(t、2H),1.67?1.62(m,2H),1.39?1.32(m,6H),0.90(t,3H).
[0245] 母液晶A 85重量%と、実施例4で得られた(S4-1)の15重量%とからなる液晶組成物AS4を調製した。得られた液晶組成物AS4の物性値を測定し、測定値を外挿することで液晶化合物(S4-1)の物性の外挿値を算出した。その値は以下のとおりであった。
上限温度(T_(NI))=72.4℃;誘電率異方性(Δε)=54.1;屈折率異方性(Δn)=0.177。
これらのことから液晶化合物(S4-1)は、他の液晶化合物との優れた相溶性を有し、透明点が高く、誘電率異方性(Δε)、屈折率異方性(Δn)の大きい化合物であることがわかった。
[0246](実施例5)
化合物(S5-1)の合成
化合物(S5-1)は、式(1-4-3)において、R^(1)がC_(8)H_(17)であり、L^(1)が水素であり、L^(2)、L^(4)、およびL^(5)が全てフッ素であり、X^(1)が-CF_(3)である化合物である。
・・・
[0247]化合物(S5-1)の合成
(S5-1)の合成は、実施例1の(S1-11)を合成する手法に準じた。得られた化合物(S5-1)の相転移温度は以下の通りであった。
相転移温度(℃) :K 72.5 I 。
[0248] 母液晶A 85重量%と、実施例5で得られた(S5-1)の15重量%とからなる液晶組成物AS5を調製した。得られた液晶組成物AS5の物性値を測定し、測定値を外挿することで液晶化合物(S5-1)の物性の外挿値を算出した。その値は以下のとおりであった。
上限温度(T_(NI))=21.0℃;誘電率異方性(Δε)=55.6;屈折率異方性(Δn)=0.130。
これらのことから液晶化合物(S5-1)は、他の液晶化合物との優れた相溶性を有し、誘電率異方性(Δε)、屈折率異方性(Δn)の大きい化合物であることがわかった。
[0249](実施例6)
化合物(S6-1)の合成
化合物(S6-1)は、式(1-1-2)において、R^(1)がC_(8)H_(17)であり、L^(1)およびL^(3)が共に水素であり、L^(2)、L^(4)、およびL^(5)が全てフッ素であり、X^(1)がフッ素である化合物である。
・・・
[0250]化合物(S6-1)の合成
(S6-1)の合成は、実施例1の(S1-11)を合成する手法に準じた。得られた化合物(S6-1)の相転移温度は以下の通りであった。
相転移温度(℃) :K 68.6 N 126.8 I 。
[0251] 母液晶A 85重量%と、実施例6で得られた(S6-1)の15重量%とからなる液晶組成物AS6を調製した。得られた液晶組成物AS6の物性値を測定し、測定値を外挿することで液晶化合物(S6-1)の物性の外挿値を算出した。その値は以下のとおりであった。
上限温度(T_(NI))=73.7℃;誘電率異方性(Δε)=50.3;屈折率異方性(Δn)=0.177。
これらのことから液晶化合物(S6-1)は、他の液晶化合物との優れた相溶性を有し、透明点が高く、誘電率異方性(Δε)、屈折率異方性(Δn)の大きい化合物であることがわかった。
[0252](実施例7)
化合物(S7-1)の合成
化合物(S7-1)は、式(1-6-2)において、R^(1)がC_(6)H_(13)であり、L^(3)が水素であり、L^(4)、およびL^(5)が共にフッ素であり、X^(1)がフッ素である化合物である。
・・・
[0253]化合物(S7-1)の相転移点
化合物(S7-1)の相転移温度は以下の通りであった。
相転移温度(℃) :K 61.4 (N 13.5) I 。
[0254] 母液晶A 85重量%と、実施例7で得られた(S7-1)の15重量%とからなる液晶組成物AS7を調製した。得られた液晶組成物AS7の物性値を測定し、測定値を外挿することで液晶化合物(S7-1)の物性の外挿値を算出した。その値は以下のとおりであった。
上限温度(T_(NI))=-3.6℃;誘電率異方性(Δε)=45.7;屈折率異方性(Δn)=0.110。
これらのことから液晶化合物(S7-1)は、他の液晶化合物との優れた相溶性を有し、誘電率異方性(Δε)の大きい化合物であることがわかった。
[0255](実施例8)
化合物(S8-1)の合成
化合物(S8-1)は、式(1-4-3)において、R^(1)がC_(4)H_(9)であり、L^(1)が水素であり、L^(2)、L^(4)、およびL^(5)が全てフッ素であり、X^(1)がフッ素である化合物である。
・・・
[0256]化合物(S8-1)の合成
(S8-1)の合成は、実施例1の(S1-11)を合成する手法に準じた。得られた化合物(S8-1)の相転移温度は以下の通りであった。
相転移温度(℃) :K 75.2 I 。
[0257] 母液晶A 85重量%と、実施例8で得られた(S8-1)の15重量%とからなる液晶組成物AS8を調製した。得られた液晶組成物AS8の物性値を測定し、測定値を外挿することで液晶化合物(S8-1)の物性の外挿値を算出した。その値は以下のとおりであった。
上限温度(T_(NI))=14.4℃;誘電率異方性(Δε)=47.6;屈折率異方性(Δn)=0.130。
これらのことから液晶化合物(S8-1)は、他の液晶化合物との優れた相溶性を有し、誘電率異方性(Δε)、屈折率異方性(Δn)の大きい化合物であることがわかった。
[0258](実施例9)
化合物(S9-1)の合成
化合物(S9-1)は、式(1-4-3)において、R^(1)がC_(5)H_(11)であり、L^(1)が水素であり、L^(2)、L^(4)、およびL^(5)が全てフッ素であり、X^(1)がフッ素である化合物である。
・・・
[0259]化合物(S9-1)の合成
(S9-1)の合成は、実施例1の(S1-11)を合成する手法に準じた。得られた化合物(S9-1)の相転移温度は以下の通りであった。
相転移温度(℃) :K 56.6 (N 34.1) I 。
[0260] 母液晶A 85重量%と、実施例9で得られた(S9-1)の15重量%とからなる液晶組成物AS9を調製した。得られた液晶組成物AS9の物性値を測定し、測定値を外挿することで液晶化合物(S9-1)の物性の外挿値を算出した。その値は以下のとおりであった。
上限温度(T_(NI))=19.7℃;誘電率異方性(Δε)=49.6;屈折率異方性(Δn)=0.137。
これらのことから液晶化合物(S9-1)は、他の液晶化合物との優れた相溶性を有し、誘電率異方性(Δε)、屈折率異方性(Δn)の大きい化合物であることがわかった。
[0261](実施例10)
化合物(S10-1)の合成
化合物(S10-1)は、式(1-4-3)において、R^(1)がC_(6)H_(13)であり、L^(1)が水素であり、L^(2)、L^(4)、およびL^(5)が全てフッ素であり、X^(1)がフッ素である化合物である。
・・・
[0262](実施例11)
化合物(S11-1)の合成
化合物(S11-1)は、式(1-1-2)において、R^(1)がC_(5)H_(11)であり、L^(1)およびL^(3)が共に水素であり、L^(2)、L^(4)、およびL^(5)が全てフッ素であり、X^(1)がフッ素である化合物である。
・・・
[0263]化合物(S11-1)の合成
(S11-1)の合成は、実施例1の(S1-11)を合成する手法に準じた。得られた化合物(S11-1)の相転移温度は以下の通りであった。
相転移温度(℃) :K 95.7 N 149.0 I 。
[0264] 母液晶A 90重量%と、実施例11で得られた(S11-1)の10重量%とからなる液晶組成物AS11を調製した。得られた液晶組成物AS11の物性値を測定し、測定値を外挿することで液晶化合物(S11-1)の物性の外挿値を算出した。その値は以下のとおりであった。
上限温度(T_(NI))=76.7℃;誘電率異方性(Δε)=53.4;屈折率異方性(Δn)=0.187。
これらのことから液晶化合物(S11-1)は、透明点が高く、誘電率異方性(Δε)、屈折率異方性(Δn)の大きい化合物であることがわかった。」

イ 刊行物2
原査定の拒絶の理由に引用された本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平10-81679号公報には、以下の記載がある。
(2a)「【0028】
【発明の実施の形態】本発明の一般式(1)で示される液晶性化合物のフェニルジオキサン誘導体は、ジオキサン環を含め3環から5環のコアを有し、かつコア内部の1,4-フェニレン基のラテラル位にフッ素原子または塩素原子が置換した構造を基本としており、このような構造とすることにより非常に大きなΔεを有し、既存の液晶性化合物との相溶性も良好で、さらに驚くべきことに、その電圧保持率はラテラル位に上記した如きフッ素原子または塩素原子が置換していない構造の式(15)で表されるようなフェニルジオキサン誘導体のそれに比べ高いことが知られる。このような効果は、液晶性化合物がその分子中にジオキサン環とラテラル位にフッ素原子が置換した1,4-フェニレン基を合わせ有する構造とされたことによって初めて達成されたものである。
【0029】本発明の一般式(1)で示される液晶性化合物は、既存の液晶性化合物との相溶性も良好であり、かつ高い電圧保持率を有するため、これを液晶組成物の成分として用いる場合、本発明化合物の混合比を大きくすることができる。このことと大きなΔεを有することとにより、本発明の化合物は特にTFT型液晶表示素子の低電圧化に有用な液晶組成物を提供し得る。
【0030】上記の一般式(1)中、Rはアルキル基で、その炭素数は1?20、化合物の粘性と透明点のバランスという観点からみて好ましくは1?7、さらに好ましくは2?5が適する。連結基のZaとZbは、それぞれに独立して単結合、-COO-または-CF_(2)O-を示すが、それらのうち、単結合は比較的高い透明点を有し、比較的低粘性であり、他の液晶性化合物または液晶組成物との相溶性に優れ、化学的および電気的に安定な化合物を、-COO-は高い透明点を有しかつ大きなΔεを示す有する化合物を、また-CF_(2)O-は低粘性で、比較的大きなΔεを有し、化学的および電気的に安定な化合物をそれぞれ与えることができる。連結基Zcは、単結合または-CH_(2)CH_(2)-で、前者は高い透明点を示す化合物を、後者は良好な相溶性の化合物をそれぞれ与えることができる。
【0031】また、n1とn2はそれぞれに独立して0または1であり、それらの具体的な組み合わせとして、n1とn2が共に0、n1が0でn2が1およびn1が1でn2が0の場合を挙げることができる。この組み合わせに順次対応する化合物として、以下の式(1-a)、(1-b)および(1-c)で表されるものを示すことができる。
【0032】
【化21】
・・・

・・・
【0033】上記化合物のうち、式(1-a)で表されるものは、低粘性で、他の液晶性化合物または液晶組成物との相溶性に優れる上大きなΔεを有し、式(1-b)で表されるものは、大きなΔnと大きなΔεを有し、また式(1-c)で表されるものは、高い透明点を有する上式(1-b)で表される化合物より低粘性である。
【0034】末端置換基のYは、水素原子、ハロゲン原子または炭素数1?5のハロゲン化アルキル基を示すが、該基中の相隣合わない1つ以上のメチレン基は酸素原子または硫黄原子で置き換わったものでもよい。これらのうち、ハロゲン原子が特にFである化合物は、比較的大きなΔεを有し、低粘性でありかつ他の液晶性化合物または液晶組成物との相溶性に優れている。また、ハロゲン化アルキル基がCF_(3)である化合物は非常に大きなΔεを有するものであり、同じくOCF_(3)である化合物は低粘性である。ハロゲン原子がClであるもの、およびハロゲン化アルキル基であって該基中の相隣合わない1つ以上のメチレン基が酸素原子で置き換わったものがOCF_(2)CF_(2)HまたはOCF_(2)CFHCF_(3)である化合物は、大きなΔnと高い透明点を有する。ハロゲン化アルキル基またはハロゲン化アルキル基であって該基中の相隣合わない1つ以上のメチレン基が酸素原子で置き換わった基の好適例でとして、さらにジフルオロメチル基、ジフルオロクロロメチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、2-フルオロエチル基、3-フルオロプロピル基、4-フルオロブチル基、ジフルオロメトキシ基、ジフルオロクロロメトキシ基、ペンタフルオロエトキシ基およびヘプタフルオロプロポキシ基等を挙げることができる。
【0035】側方置換基のQ_(1)?Q_(6)は、それぞれに独立して水素原子、フッ素原子または塩素原子を示すが、n2が0の場合Q_(3)はフッ素原子または塩素原子であり、n2が1の場合はQ_(1)とQ_(3)のうちの少なくとも一方がフッ素原子または塩素原子であることが好ましい。これらのQ_(1)?Q_(6)のうち、水素原子の数が多くなる程高い液晶相温度範囲と低粘性を示す化合物を、またフッ素原子の数が多くなる程大きなΔεを有する化合物を与えることができる。
【0036】本発明の化合物は、前記した通りいずれもジオキサン環とフッ素または塩素置換された1,4-フェニレン基を分子中に有するものであるが、それらのうちジオキサン環に隣接する1,4-フェニレン基のラテラル位にフッ素原子または塩素原子が置換した置換1,4-フェニレン基を有する化合物が特異的に大きなΔεを有する点で好ましい。該置換1,4-フェニレン基の中でも、特に3-フルオロ-1,4-フェニレン基は、比較的大きなΔεを有し、高い液晶相温度範囲と低粘性を示し、かつ良好な相溶性を有する化合物を、また3,5-ジフルオロフェニレン基は非常に大きなΔεを有するとともに非常に良好な相溶性を示す化合物を与えることができる。なお、本発明の化合物において、これを構成する各元素はそれらの同位体から選ばれるものを含んでいてもよい。
【0037】本発明の化合物は、特にTFT用液晶組成物の成分として好適なものであるが、他の用途、例えばTN用、ゲストホストモ-ド用、ポリマ-分散型液晶表示素子用、動的散乱モ-ド用、STN用、インプレーンスイッチング用、OCBモード用またはR-OCBモード用液晶組成物の成分としても有効な液晶性化合物であり、さらに強誘電性液晶用や反強誘電性液晶用の化合物としても適する。
【0038】本発明により提供される液晶組成物は、第一成分として一般式(1)で示される液晶性化合物を少なくとも1種類含有することからなる。その含有量は、液晶組成物の重量に基づき0.1?99.9重量%とすることが優良な特性を発現するために必要であり、好ましくは1?50重量%、より好ましくは3?20重量%である。本発明の液晶組成物は上記第一成分のみでもよいが、これに加え、第二成分として既述参照の一般式(2)、(3)および(4)からなる群から選択される少なくとも1種類の化合物(以下第二A成分と称する)および/または一般式(5)および(6)からなる群から選択される少なくとも1種類の化合物(以下第二B成分と称する)を混合したものや、これらにそれぞれ第三成分として一般式(7)、(8)および(9)からなる群から選択される少なくとも1種類の化合物を混合したものが好ましく、さらにその他の成分として光学活性化合物や、しきい値電圧、液晶相温度範囲、Δε、Δnおよび粘度等を調整する目的で公知の化合物を混合することもできる。」

(2b)「【0116】n1とn2が共に0である前記化合物(1-a)において、Zaが単結合である化合物例の合成:2-アルキル-1,3-プロパンジオール(18)にベンズアルデヒド誘導体(19)を酸触媒の存在下に作用させてフェニルジオキサン誘導体(20)を得・・・」

ウ 刊行物3
原査定の拒絶の理由に引用された本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2004-352720号公報には、以下の記載がある。
(3a)「【0089】
例5
【化36】
・・・
2.80g(31.10mmol)の2-メチル-1,3-プロパンジオール(II-1)、9.60g(31.14mmol)の例1からのアルデヒドI-1および0.63g(3.30mmol)のp-トルエンスルホン酸を、トルエンに溶解し、水分離器上で30分間還流させる。室温に冷却した後、混合物を、水で、次に飽和NaHCO_(3)溶液で洗浄する。有機相を蒸発させる。残留する残留物を、トルエン/ヘプタン=1:1中に吸収させ、シリカゲルを通して濾過し、溶離液を、減圧下で再蒸発させる。ヘプタンから再結晶させた後に、固体を、トルエン/ヘプタンに溶解し、シリカゲルおよび塩基性酸化アルミニウムを通して濾過する。減圧下での蒸発およびヘプタンからの再結晶により、再び、トランス-III-1(3.3g)が得られ、これは、HPLC分析により純粋である。」

エ 刊行物4
原査定の拒絶の理由に引用された本願の優先日前に頒布された刊行物である特表2008-545668号公報には、以下の記載がある。
(4a)「【0052】
本発明の方法の更なる好ましい実施形態にて、式IIのホモアリルアルコールを式IIIのアルデヒドとルイス酸および/またはブレンステッド酸の存在下で反応させて入手できる式Iの化合物は、置換基X^(1)を還元的に脱離することで、式IVのテトラヒドロピラン誘導体を与える。
【0053】
【化11】
・・・
ただし、a、b、c、d、e、f、R^(1)、R^(2)、A^(1)、A^(2)、A^(3)、A^(4)、A^(5)、A^(6)、Z^(1)、Z^(2)、Z^(3)、Z^(4)、Z^(5)、Z^(6)は、独立に式Iで上に定義される通りであり、即ち、置換基は、一般に、式I、II、IIIおよびIV中で、異なる定義を有してよい。
【0054】
本発明は、更に、式IIのホモアリルアルコールを、式IIIのアルデヒドまたはそれのアセタールまたは水和物と上述のように反応させる少なくとも1つの工程を含む式IVの化合物の調製方法を含む。
【0055】
【化12】
・・・
【0056】
【化13】
・・・
本発明の方法は、好ましくは、式Iの化合物上の置換基X1を還元的に脱離することを特徴とする工程を更に有し、ただし、テトラヒドロピラン環の他の置換基は、誘導体化のために異なる意味を有することもできる。この更なる工程は、好ましくは、IIのIIIとの反応の後に還元的脱離によって行われ、特に好ましくは、環形成後に更なる中間工程なしで行われる。
【0057】
IVを与えるIの還元的脱離の好ましい実施形態は、フリーラジカル連鎖反応を含み、反応の過程において-形式的に考えれば-式Iのテトラヒドロピラン誘導体中のハロゲン原子X^(1)が取り除かれ水素原子で置き換えられる。ここで、反応される式Iの化合物中のX^(1)は臭素または塩素であることが特に好ましく、特に臭素である。
【0058】
本発明の還元的脱離の好ましい実施形態は、好ましくは水素化有機スズまたは水素化有機ケイ素の存在下で行う。ここで、好ましい水素化有機スズは水素化トリアルキルおよびアラルキルジアルキルスズ、特に好ましくは水素化トリアルキルスズ、特には水素化トリ-n-ブチルスズ(Bu_(3)SnH)である。典型的には、還元されるべき式Iの化合物に基づき1?10等量および好ましくは2?4等量の水素化スズを使用する。更に、固体、好ましくは固体有機担体に結合している水素化有機スズの使用が好ましく、非常に特に好ましい固体担体に結合している水素化有機スズは、Bu_(2)SnHLi(Buはn-ブチル)(その場で形成されたもの)をα-ハロアルキルポリスチレンと反応させて得られるものである(例えば、U.Gerigkら、Synthesis(1990)、448?452およびG.Dumartinら、Synlett.(1994)、952?954参照)。固体担体に結合した水素化有機スズは、通常、式Iの化合物に基づき2?4等量で使用される。」

(3)引用刊行物記載の発明
刊行物1の摘記(1a)には、液晶媒体に含まれる化合物として、(9-21)の化合物が記載され、実施例23又は実施例26において、その化合物を組成を明らかにした組成物として実際に用いた具体的例示が記載されている。
また、その製造方法は、刊行物2摘記(2b),刊行物3(3a)に記載されるように本願優先日当時、技術常識として知られていたものである。
したがって、刊行物1には、(9-21)の化合物として以下の発明が記載されているといえる(以下「刊行物発明」という。)。



の化学式で表される化合物」(以下、この化合物を「(9-21)の化合物」という。)

(4)対比・判断
ア 対比
刊行物発明の(9-21)の化合物は、1,3ジオキサン環の5置換基がC_(4)H_(9)-であり、炭素原子4個の非置換のアルキル基であるから、本願補正発明のR^(1)の「1?15個のC原子を有する非置換のアルキルラジカル」に該当する。
そして、刊行物発明の1,3ジオキサン環の化学構造部分は、本願補正発明のXがOの選択肢の場合である。
そうすると、本願補正発明と刊行物発明とは、
式I

式中、
L^(1)は、Fを示し、
Xは、OまたはCH_(2)を示し、
R^(1)は、1?15個のC原子を有する非置換のアルキルラジカルを示す
化合物で、R^(2)以外の部分で一致し、以下の点で相違している。

相違点:R^(2)に関して、本願補正発明は、「CF_(3)またはOCF_(3)を示す」と特定されているのに対して、刊行物発明は、Fである点

相違点の判断
上記相違点について検討する。

(ア)置換基R^(2)に関して
引用刊行物の摘記(1d)には、「 【0028】
・・・式(7)、(8)、(9)および(10)のそれぞれで表される化合物の群から選択される少なくとも1つの化合物をさらに含有する、・・・液晶組成物。
・・・

(9)
・・・
これらの式において、R^(6)は炭素数1?10のアルキル、炭素数2?10のアルケニルまたは炭素数2?10のアルキニルであり、アルキル、アルケニルおよびアルキニルにおいて任意の水素はフッ素で置き換えられてもよく、任意の-CH_(2)-は-O-で置き換えられてもよく;X_(4)はフッ素、塩素、-SF_(5)、-OCF_(3)、-OCHF_(2)、-CF_(3)、-CHF_(2)、-CH_(2)F、-OCF_(2)CHF_(2)、または-OCF_(2)CHFCF_(3)であり;環E^(1)、環E^(2)、環E^(3)および環E^(4)は独立して、1,4-シクロヘキシレン、1,3-ジオキサン-2,5-ジイル、ピリミジン-2,5-ジイル、テトラヒドロピラン-2,5-ジイル、1,4-フェニレン、ナフタレン-2,6-ジイル、任意の水素がフッ素または塩素で置き換えられた1,4-フェニレン、または任意の水素がフッ素または塩素で置き換えられたナフタレン-2,6-ジイルであり;Z^(11)、Z^(12)およびZ^(13)は独立して、-(CH_(2))_(2)-、-(CH_(2))_(4)-、-COO-、-CF_(2)O-、-OCF_(2)-、-CH=CH-、-C≡C-、-CH_(2)O-、または単結合である、ただし、環E^(1)、環E^(2)、環E^(3)および環E^(4)のいずれかが3-クロロ-5-フルオロ-1,4-フェニレンであるときには、Z^(11)、Z^(12)およびZ^(13)は-CF_(2)O-であることはなく;L^(10)およびL^(11)は独立して、水素またはフッ素である。」(下線は、当審にて追加。以下同様。)と記載され、
摘記(1e)には、「

」と記載され、
刊行物発明の上位概念としての一般式(9)の記載部分において、右末端のX^(4)の選択肢として、フッ素とともに、-OCF_(3),-CF_(3)が並列して示され、より具体化した一般式(9-21)についても記載されているのであるから、当業者であれば、刊行物発明の右末端置換基を-Fに代えて、-OCF_(3)や-CF_(3)に変更してみることは、容易に想起できる技術的事項であるといえる。
また、上記のとおり、刊行物1の摘記(1d)摘記(1e)のとおり、X^(4)において、F以外にOCF_(3、)CF_(3)を採用し得ることが記載されるとともに、刊行物2の摘記(2a)の「【0034】末端置換基のYは、水素原子、ハロゲン原子または炭素数1?5のハロゲン化アルキル基を示すが、該基中の相隣合わない1つ以上のメチレン基は酸素原子または硫黄原子で置き換わったものでもよい。これらのうち、ハロゲン原子が特にFである化合物は、比較的大きなΔεを有し、低粘性でありかつ他の液晶性化合物または液晶組成物との相溶性に優れている。また、ハロゲン化アルキル基がCF_(3)である化合物は非常に大きなΔεを有するものであり、同じくOCF_(3)である化合物は低粘性である。」との記載されていることからみても分かるとおり、刊行物2の構造式と刊行物1の構造式の類似性からみて、刊行物発明でも、末端置換基の変更によって、Δε、他の液晶性化合物または液晶組成物との相溶性、粘性等の特性の改善を試みることは当業者が容易に想到し得るといえ、どの点を重視するかによって、刊行物発明のFを他のCF_(3)やOCF_(3)に変更する十分な動機付けがあるといえる。

ウ 本願補正発明の効果について
(ア)本願明細書には、本願補正発明に対応して、例1として、一般式Iにおいて、XがCH_(2)であり、R^(1)がC_(3)H_(7)-であり、R^(2)が-CF_(3)である化合物がΔε=37,Δn=0.131,γ_(1)=752mPa・s,Δε・Δn=4.9であり、例2として、XがOであり、R^(1)がC_(3)H_(7)-であり、R^(2)が-OCF_(3)である化合物がΔε=36,Δn=0.129,γ_(1)=752mPa・s,Δε・Δn=4.7であり、例3として、XがCH_(2)であり、R^(1)がC_(5)H_(11)-であり、R^(2)が-CF_(3)である化合物がΔε=38,Δn=0.130,γ_(1)=1194mPa・s,Δε・Δn=5.0であり、例5として、XがCH_(2)であり、R^(1)がC_(3)H_(7)-であり、R^(2)が-OCF_(3)である化合物がΔε=30,Δn=0.125,γ_(1)=615mPa・s,Δε・Δn=3.8であり、例7として、XがOであり、R^(1)がC_(3)H_(7)-であり、R^(2)が-CF_(3)である化合物がΔε=40,Δn=0.1314,γ_(1)=436mPa・s,Δε・Δn=5.3であることが示されている。
そして、末端置換基がフッ素である例として、例4に、XがCH_(2)であり、R^(1)がC_(3)H_(7)-であり、R^(2)が-Fである化合物がΔε=27,Δn=0.129,γ_(1)=459mPa・s,Δε・Δn=3.5であり、例6に、XがOであり、R^(1)がC_(3)H_(7)-であり、R^(2)が-Fである化合物がΔε=35,Δn=0.129,γ_(1)=436mPa・s,Δε・Δn=4.5であることが示されている。

本願明細書の具体的例示の比較から、R^(1)置換基やR^(2)置換基の変更、Xを含む環が1,3ジオキサン環であるかテトラヒドロピラン環であるかによって、ΔεやΔn、γ_(1)の値に一定の変化が認められる。

(イ)一方、刊行物1の液晶化合物(S1-11)、(S3-1)?(S9-1)、(S11-1)の物性は、以下のとおりである(摘記(1g))。

(S1-11):上限温度(T_(NI))=14.7℃
;誘電率異方性(Δε)=63.7
;屈折率異方性(Δn)=0.137
(R^(1)がC_(4)H_(9)、L^(1)が水素、L^(2)、L^(4)、およびL^(5)が全てフッ素、X^(1)が-CF_(3) )

(S3-1) :上限温度(T_(NI))=18.4℃
;誘電率異方性(Δε)=59.7
;屈折率異方性(Δn)=0.130
(R^(1)がC_(6)H_(13)、L^(1)が水素、L^(2)、L^(4)、およびL^(5)が全てフッ素、X^(1)が-CF_(3) )

(S4-1) :上限温度(T_(NI))=72.4℃
;誘電率異方性(Δε)=54.1
;屈折率異方性(Δn)=0.177
(R^(1)がC_(6)H_(13)、L^(1)がおよびL^(3)が共に、L^(2)、L^(4)、およびL^(5)が全てフッ素、X^(1)がフッ素 )

(S5-1) :上限温度(T_(NI))=21.0℃
;誘電率異方性(Δε)=55.6
;屈折率異方性(Δn)=0.130
(R^(1)がC_(8)H_(17)、L^(1)が水素、L^(2)、L^(4)、およびL^(5)が全てフッ素、X^(1)が-CF_(3))

(S6-1) :上限温度(T_(NI))=73.7℃
;誘電率異方性(Δε)=50.3
;屈折率異方性(Δn)=0.177
(R^(1)がC_(8)H_(17)、L^(1)およびL^(3)が共に水素、L^(2)、L^(4)、およびL^(5)が全てフッ素、X^(1)がフッ素)

(S7-1) :上限温度(T_(NI))=-3.6℃
;誘電率異方性(Δε)=45.7
;屈折率異方性(Δn)=0.110
(R^(1)がC_(6)H_(13)、L^(3)が水素、L^(4)、およびL^(5)が共にフッ素、X^(1)がフッ素)

(S8-1) :上限温度(T_(NI))=14.4℃
;誘電率異方性(Δε)=47.6
;屈折率異方性(Δn)=0.130。
(R^(1)がC_(4)H_(9)、L^(1)が水素、L^(2)、L^(4)、およびL^(5)が全てフッ素、X^(1)がフッ素)

(S9-1) :上限温度(T_(NI))=19.7℃
;誘電率異方性(Δε)=49.6
;屈折率異方性(Δn)=0.137
(R^(1)がC_(5)H_(11)、L^(1)が水素、L^(2)、L^(4)、およびL^(5)が全てフッ素、X^(1)がフッ素)

(S11-1): 上限温度(T_(NI))=76.7℃
;誘電率異方性(Δε)=53.4
;屈折率異方性(Δn)=0.187
(R^(1)がC_(5)H_(11)、L^(1)およびL^(3)が共に水素、L^(2)、L^(4)、およびL^(5)が全てフッ素、X^(1)がフッ素)

上記化合物群の物性比較からみて、刊行物1の記載から、液晶媒体のメソゲン構造の成分化合物の特性として、末端置換基R^(1)の炭素数や末端置換基X^(1)の変化によって、誘電率異方性(Δε)が値として15程度変化することや、屈折率異方性(Δn)の値が0.05程度変化することが確認できる。

(ウ)また、刊行物2の摘記(2a)の記載から、本願発明や刊行物発明と類似する構造の液晶媒体の成分となる液晶化合物(一般式(1-b))に関して、
左末端基であるアルキル基Rの炭素数として化合物の粘性と透明点のバランスという観点からみて好ましくは1?7、さらに好ましくは2?5が適する
こと、
連結基ZaとZbとして、単結合は比較的高い透明点を有し、比較的低粘性であり、他の液晶性化合物または液晶組成物との相溶性に優れ、化学的および電気的に安定な化合物を、-CF_(2)O-は低粘性で、比較的大きなΔεを有し、化学的および電気的に安定な化合物をそれぞれ与えることができること、
式(1-b)で表されるものは、大きなΔnと大きなΔεを有すること、
末端置換基Yは、Fである化合物は、比較的大きなΔεを有し、低粘性でありかつ他の液晶性化合物または液晶組成物との相溶性に優れており、CF_(3)である化合物は非常に大きなΔεを有するものであり、OCF_(3)である化合物は低粘性であること、
側方置換基Q_(1)?Q_(6)は、水素原子の数が多くなる程高い液晶相温度範囲と低粘性を示す化合物を、またフッ素原子の数が多くなる程大きなΔεを有する化合物を与えることができること、
置換1,4-フェニレン基の中でも、特に3-フルオロ-1,4-フェニレン基は、比較的大きなΔεを有し、高い液晶相温度範囲と低粘性を示し、かつ良好な相溶性を有する化合物を、3,5-ジフルオロフェニレン基は非常に大きなΔεを有するとともに非常に良好な相溶性を示す化合物を与えることの各記載が確認できる。

上記特性に関する記載からみて、本願発明や刊行物発明と類似する構造の液晶媒体の成分となる液晶化合物に関して、左末端アルキル基、連結基、1,4-フェニレン基の数や側方置換基の各種特性に与える影響とともに、末端置換基が、FからCF_(3)やOCF_(3)に変化した場合に、粘性、Δε、相溶性にどのような変化が生じるかが確認できる。

(エ)そうすると、刊行物発明のような液晶媒体の成分となる液晶化合物において、その末端置換基によって、Δn、Δε等が、誘電率異方性(Δε)の値として15程度、屈折率異方性(Δn)の値として0.05程度変化することは、当業者の予測の範囲である。
したがって、本願補正発明の効果は、その範囲内に留まるものであるから、格別顕著なものとはいえない。

(オ)上述のとおり、末端置換基として、CF_(3)やOCF_(3)を有する本願補正発明がフッ素を有する刊行物発明に比較して、顕著な効果を有するとはいえない。
したがって、本願補正発明の効果は、刊行物1記載の発明及び本願優先日時点の技術常識からみて、当業者の予測を超える顕著なものとはいえない。

エ 小括
以上のとおり、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3 補正却下のまとめ
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明の認定
第2で検討したとおり、平成28年7月4日付け手続補正は却下されることとなったので、この出願の請求項1及び7に係る発明は、平成28年2月3日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の記載からみて、請求項1及び7に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、それぞれ「本願発明1」及び「本願発明7」という。)。
「【請求項1】
式I
【化1】

式中、
L^(1)は、HまたはFを示し、
Xは、OまたはCH_(2)を示し、
R^(1)は、1?15個のC原子を有する非置換のアルキルラジカルを示し、ここでさらに、このラジカル中の1つまたは2つ以上のCH_(2)基は、各々、互いに独立して、-C≡C-、-CH=CH-、-CF=CF-、-CF=CH-、-CH=CF-、-(CO)O-、-O(CO)-、-(CO)-または-O-によって、O原子が互いに直接結合しないように置き換えられていてもよく、
ならびに
R^(2)は、CF_(3)またはOCF_(3)を示す、
で表される化合物。」(本願発明1)

「【請求項7】
式I
【化2】

式中、
L^(1)は、Fを示し、
Xは、CH_(2)を示し、
R^(1)は、1?9個のC原子を有する非置換のアルキルラジカルを示し、
ならびに
R^(2)は、F、CF_(3)またはOCF_(3)を示す、
で表される化合物。」(本願発明7)

なお、「ラジカル」との記載は、(radical-「基」)「基」の誤訳であるとして取り扱う。

第4 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、概略、以下のとおりのものと認める。

この出願の請求項1?14に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である引用文献1?6に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
上記引用文献1は、前記刊行物1である。
拒絶査定の対象となった、平成28年2月3日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1,7である本願発明1,本願発明7は、拒絶理由通知の対象となった、願書に最初に添付された特許請求の範囲の請求項1に、いずれも対応している。

第5 当審の判断
当審は、原査定の拒絶の理由のとおり、本願発明1及び本願発明7は、刊行物1に記載された発明及び本願優先日当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,と判断する。
理由は以下のとおりである。

1 引用刊行物
刊行物1:国際公開第2010/134430号
刊行物2:特開平10-81679号公報(原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2)
刊行物3:特開2004-352720号公報(原査定の拒絶の理由に引用された引用文献6)
刊行物4:特表2008-545668号公報(原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4)

なお、刊行物2?4は、本願優先日時点の技術水準を示すためのものである。

2 引用刊行物の記載
刊行物1?4には、第2 2(2)に記載のとおりの記載がある。

3 刊行物1に記載された発明について
刊行物1には、第2 2(3)で示したとおり、刊行物発明である(9-21)の化合物の発明が記載されている。

4 対比・判断
(1)本願発明1について
本願発明1は、L^(1)の選択肢として、本願補正発明のFに加えて、Hを追加し、「HまたはFを示し」と特定し、R^(1)の特定として、本願補正発明の「1?15個のC原子を有する非置換のアルキルラジカルを示し」に加えて、「ここでさらに、このラジカル中の1つまたは2つ以上のCH_(2)基は、各々、互いに独立して、-C≡C-、-CH=CH-、-CF=CF-、-CF=CH-、-CH=CF-、-(CO)O-、-O(CO)-、-(CO)-または-O-によって、O原子が互いに直接結合しないように置き換えられていてもよく」との場合を付加したものである。
そうすると、本願発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定したものに相当する本願補正発明が、前記第2 2(3)(4)に記載したとおり、刊行物発明及び刊行物2?4に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明することができたものであるから、本願発明1も、同様の理由により、刊行物発明及び刊行物2?4に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明することができたものである。

(2)本願発明7について
ア 対比
刊行物発明の(9-21)の化合物は、1,3ジオキサン環の5置換基がC_(4)H_(9)-であり、炭素原子4個の非置換のアルキル基であるから、本願発明7のR^(1)の「1?9個のC原子を有する非置換のアルキルラジカル」に該当する。
そして、刊行物発明の末端置換基がFであることは、本願発明7のR^(2)の「F、CF_(3)またはOCF_(3)を示す」に該当する。
そうすると、本願発明7と刊行物発明とは、
式I

式中、
L^(1)は、Fを示し、
R^(1)は、1?9個のC原子を有する非置換のアルキルラジカルを示し、
ならびに
R^(2)は、F、CF_(3)またはOCF_(3)を示す化合物
であり、左端の酸素含有ヘテロ環以外の部分で一致し、以下の点で相違している。

相違点:式Iの左端の酸素含有ヘテロ環に関して、本願発明7は、3-テトラヒドロピラン環であるのに対して、刊行物発明は、1,3ジオキサン環である点

相違点の判断
上記相違点について検討する。
(ア)酸素含有ヘテロ環に関して
引用刊行物の摘記(1d)には、「 【0028】
・・・式(7)、(8)、(9)および(10)のそれぞれで表される化合物の群から選択される少なくとも1つの化合物をさらに含有する、・・・液晶組成物。
・・・

(9)
これらの式において、R^(6)は炭素数1?10のアルキル、炭素数2?10のアルケニルまたは炭素数2?10のアルキニルであり、アルキル、アルケニルおよびアルキニルにおいて任意の水素はフッ素で置き換えられてもよく、任意の-CH_(2)-は-O-で置き換えられてもよく;X_(4)はフッ素、塩素、-SF_(5)、-OCF_(3)、-OCHF_(2)、-CF_(3)、-CHF_(2)、-CH_(2)F、-OCF_(2)CHF_(2)、または-OCF_(2)CHFCF_(3)であり;環E^(1)、環E^(2)、環E^(3)および環E^(4)は独立して、1,4-シクロヘキシレン、1,3-ジオキサン-2,5-ジイル、ピリミジン-2,5-ジイル、テトラヒドロピラン-2,5-ジイル、1,4-フェニレン、ナフタレン-2,6-ジイル、任意の水素がフッ素または塩素で置き換えられた1,4-フェニレン、または任意の水素がフッ素または塩素で置き換えられたナフタレン-2,6-ジイルであり;Z^(11)、Z^(12)およびZ^(13)は独立して、-(CH_(2))_(2)-、-(CH_(2))_(4)-、-COO-、-CF_(2)O-、-OCF_(2)-、-CH=CH-、-C≡C-、-CH_(2)O-、または単結合である、ただし、環E^(1)、環E^(2)、環E^(3)および環E^(4)のいずれかが3-クロロ-5-フルオロ-1,4-フェニレンであるときには、Z^(11)、Z^(12)およびZ^(13)は-CF_(2)O-であることはなく;L^(10)およびL^(11)は独立して、水素またはフッ素である。」(下線は、当審にて追加。以下同様。)と記載され、刊行物発明の上位概念としての一般式(9)の記載部分において、末端アルキル基が置換したE^(1)環の選択肢として、1,3-ジオキサン-2,5-ジイルと共にテトラヒドロピラン-2,5-ジイルが並列して示され、その合成方法も、刊行物4(4a)に記載されるとおり、アリルアルコールとアルデヒドから合成することが良く知られているのであるから、1,3-ジオキサン-2,5-ジイルに代えてテトラヒドロピラン-2,5-ジイルに変更してみることは、当業者が、容易に想起できる技術的事項であるといえる。
また、刊行物4(4b)に、背景技術として、「分子の中心的構成要素としてテトラヒドロピラン環を有する化合物類は、例えば、天然または合成芳香物質、薬剤またはメソゲン性または液晶化合物の成分として、またはこれらの有益な物質を合成するための前駆体として、有機化学において重要な役割を演じている。」とされているのであるから、液晶化合物の成分として、刊行物発明のジオキサン環をテトラヒドロピラン環に変更する十分な動機付けがあるといえる。

ウ 本願発明7の効果について
(ア)本願明細書には、本願発明7に対応して、例1として、一般式Iにおいて、XがCH_(2)であり、R^(1)がC_(3)H_(7)-であり、R^(2)が-CF_(3)である化合物がΔε=37,Δn=0.131,γ_(1)=752mPa・s,Δε・Δn=4.9であり、例3として、XがCH_(2)であり、R^(1)がC_(5)H_(11)-であり、R^(2)が-CF_(3)である化合物がΔε=38,Δn=0.130,γ_(1)=1194mPa・s,Δε・Δn=5.0であり、例4に、XがCH_(2)であり、R^(1)がC_(3)H_(7)-であり、R^(2)が-Fである化合物がΔε=27,Δn=0.129,γ_(1)=459mPa・s,Δε・Δn=3.5であり、例5として、XがCH_(2)であり、R^(1)がC_(3)H_(7)-であり、R^(2)が-OCF_(3)である化合物がΔε=30,Δn=0.125,γ_(1)=615mPa・s,Δε・Δn=3.8であることが示されている。
そして、酸素含有シクロヘテロ環が1,3ジオキサンである例として、例2として、XがOであり、R^(1)がC_(3)H_(7)-であり、R^(2)が-OCF_(3)である化合物がΔε=36,Δn=0.129,γ_(1)=752mPa・s,Δε・Δn=4.7であり、例6に、XがOであり、R^(1)がC_(3)H_(7)-であり、R^(2)が-Fである化合物がΔε=35,Δn=0.129,γ_(1)=436mPa・s,Δε・Δn=4.5であり、例7として、XがOであり、R^(1)がC_(3)H_(7)-であり、R^(2)が-CF_(3)である化合物がΔε=40,Δn=0.1314,γ_(1)=744mPa・s,Δε・Δn=5.3であることが示されている。

本願明細書の具体的例示の比較から、R^(1)置換基やR^(2)置換基の変更、Xを含む環が1,3ジオキサン環であるかピラン環であるかによって、ΔεやΔn、γ_(1)=の値に一定の変化が見られる。

(イ)そして、本願明細書に示された、酸素含有ヘテロ環の部分以外のR^(1)やR^(2)の部分が同じ化合物同士を比較すると、例1と例7の化合物は、ピラン環である例1が、Δε=37,Δn=0.131,γ_(1)=752mPa・s,Δε・Δn=4.9であるのに対して、1,3ジオキサン環である例7が、Δε=40,Δn=0.1314,γ_(1)=744mPa・s,Δε・Δn=5.3であり、例5と例2の化合物は、ピラン環である例5が、Δε=30,Δn=0.125,γ_(1)=615mPa・s,Δε・Δn=3.8であるのに対して、1,3ジオキサン環である例2がΔε=36,Δn=0.129,γ_(1)=752mPa・s,Δε・Δn=4.7 、例4と例6の化合物は、ピラン環である例4が、Δε=27,Δn=0.129,γ_(1)=459mPa・s,Δε・Δn=3.5であるのに対して、1,3ジオキサン環である例6がΔε=35,Δn=0.129,γ_(1)=436mPa・s,Δε・Δn=4.5である。
したがって、摘記(1b)に記載されるように、液晶成分化合物としては、誘電率異方性および屈折率異方性が大きいものを用いることが好ましいとの技術常識の下で、本願発明7のピラン環を用いた化合物は、刊行物発明の1,3ジオキサン環を用いたものよりΔε,Δnの特性が相対的には小さくなっており、低粘度のものが求められる技術常識の下で、本願発明7のピラン環を用いた化合物は、刊行物発明の1,3ジオキサン環を用いたものと同等程度であるといえ、液晶成分化合物としては、本願発明7のピラン環を用いた化合物の性能が刊行物発明より優れているとはいえない。

エ 以上のとおり、刊行物発明の1,3ジオキサン環を有する化合物が本来有する特性からみて、テトラヒドロピラン環を有する本願発明7が顕著な効果を有するとはいえない。

したがって、本願発明7の効果は、刊行物1記載の発明及び本願優先日時点の技術常識からみて、当業者の予測を超える顕著なものとはいえない。

(4)請求人の主張について
ア 請求人は、平成28年7月4日付け審判請求書3頁14?29行において、例6のDUQGU-3-F、例2のDUQGU-3-OT、例7のDUQGU-3-Tの物性値を比較し、ブルー相用途でかかる化合物を用いるためには積Δε・Δnが重要であるところ、本願請求項1に係る発明の化合物DUQGU-3-OTおよびDUQGU-3-Tは、化合物DUQGU-3-Fよりも、好ましい電気光学的性能を誘導し得ることや誘電異方性に関し、例7のDUQGU-3-T(Δε=40)例2のDUQGU-3-OT(Δε=36)が、例6のDUQGU-3-F(Δε=35)よりも、有利にも高い値を示していること、相挙動に関し、例2のDUQGU-3-OT(C 61 N 93 I、ネマチック相範囲:32℃)が例3のDUQGU-3-F(C 61 N 79 I、ネマチック相範囲:18℃)よりも広範なネマチック相範囲という優れた効果を呈することを主張している。
しかしながら、前記のとおり、刊行物2の摘記(2a)の「末端置換基のYは、水素原子、ハロゲン原子または炭素数1?5のハロゲン化アルキル基を示すが、該基中の相隣合わない1つ以上のメチレン基は酸素原子または硫黄原子で置き換わったものでもよい。これらのうち、ハロゲン原子が特にFである化合物は、比較的大きなΔεを有し、低粘性でありかつ他の液晶性化合物または液晶組成物との相溶性に優れている。また、ハロゲン化アルキル基がCF_(3)である化合物は非常に大きなΔεを有するものであり、同じくOCF_(3)である化合物は低粘性である。」との記載のように、末端置換基が、変化した場合に、粘性、Δn、Δεにどのような変化が生じるかは、一定の予測性があり、ネマチック相範囲についても末端アルキル基、連結基、フェニレン基の置換基等の変更によって変化することが知られているのであるから(摘記(2a)摘記(1g)参照)、本願明細書の例2,6,7の化合物が置換基の変更によって、特性の変化が一定程度生じたからといって、顕著な効果を有するものとは認められない。

イ また、請求人は、上記審判請求書31?47行において、XがOである該化合物に関し、右末端基が-CF_(3)または-OCF_(3)である該化合物は、右末端基が-Fである化合物と比較して、驚くべき有利な効果を実現するものであることや、XがCH_(2)である該化合物、および請求項7に係る発明の化合物に関し、例3?5において上記例2および例7と同様に化合物AUQGU-5-T、AUQUG-3-FおよびAUQGU-3-OTが、液晶組成物において用いられる際に該組成物がブルー相を呈するものとするために有利な化合物としての物性を具備することを実証している旨主張している。
しかしながら、右末端基が-CF_(3)または-OCF_(3)である該化合物は、右末端基が-Fである化合物と比較して、驚くべきことにも有利な効果を実現するものである旨の主張は、アで述べたとおり、顕著な効果を有するものとは認められないし、例3?5のテトラヒドロピラン環を用いた化合物に関する主張は、本願発明7のピラン環を用いた化合物は、刊行物発明の1,3ジオキサン環を用いたものよりΔε,Δnの特性が相対的には小さくなっており、粘度に関しても、本願発明7のテトラヒドロピラン環を用いた化合物は、刊行物発明の1,3ジオキサン環を用いたものと同等程度であるといえることから、顕著な効果を奏しているといえないのは前記のとおりである。
そして、光学的に等方性の液晶相であるブルー相を液晶として利用することは、刊行物1においても背景技術として認識され、そのための化合物の特性も知られていることに過ぎないのであるから(摘記(1b)(1f)参照)、そのための有利な化合物を提供した旨の主張も当業者の予測を超える顕著なものと認めることはできない。
よって、請求人の主張は採用できない。

ウ 請求人は、上述のとおり、液晶組成物において用いられる際に該組成物がブルー相を呈するものとするために有利な化合物としての物性を具備するものを実施例における検証により初めて実現した旨の主張をしているので、念のため検討するが、イで述べたとおり、刊行物1においても摘記(1b)(1f)に記載されるように、光学的に等方性の液晶相であるブルー相の液晶の利用に関しては、背景技術として認識された技術的事項に過ぎないものであり、本願明細書においても、1?7の液晶組成物の成分となる化合物の特性を示したものにすぎず、他の成分と混合した混合物としては、広い温度範囲にわたってブルー相を示すことが一行記載として記載されるだけで、混合物例1?6に関して、個別に特性評価している記載も一切ないのであるから、この一行記載をもって、当業者の予測を超えた顕著な効果が生じたということはできない。
さらに、液晶組成物において用いられる際の効果の主張は、用途を限定していない化合物をクレームした本願発明1や本願発明7が、刊行物発明に比較して、顕著な効果を有することの理由にはならず、特許請求の範囲に基づかない主張であるともいえ、いずれにしても、請求人の主張を採用することはできない。

5 まとめ
以上のとおり、本願発明1及び7は、刊行物1に記載された発明および本願優先日当時の技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1及び7は、本願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物1に記載された発明および本願優先日当時の技術常識に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明することができたものであるから、その余の請求項について検討するまでもなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-04-20 
結審通知日 2017-04-21 
審決日 2017-05-02 
出願番号 特願2013-550766(P2013-550766)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07D)
P 1 8・ 575- Z (C07D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 三上 晶子  
特許庁審判長 井上 雅博
特許庁審判官 瀬良 聡機
冨永 保
発明の名称 液晶化合物および液晶媒体  
代理人 葛和 清司  

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