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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G06F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1332767
審判番号 不服2016-9274  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-11-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-06-22 
確定日 2017-09-21 
事件の表示 特願2012- 58307「認証システム,処理装置及びプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 9月26日出願公開、特開2013-191135〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯

本件審判請求に係る出願(以下,「本願」という。)は,平成24年3月15日の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。

平成26年11月12日 :出願審査請求書の提出
平成27年 8月19日付け :拒絶理由の通知
平成27年10月23日 :意見書,手続補正書の提出
平成28年 3月16日付け :拒絶査定
平成28年 6月22日 :審判請求書,手続補正書の提出
平成28年 7月13日 :前置報告


第2 平成28年6月22日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

平成28年6月22日付けの手続補正を却下する。

[理由]

1 補正の内容

平成28年6月22日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)の内容は,平成27年10月23日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1乃至6の記載(以下,この特許請求の範囲に記載された請求項を「補正前の請求項」という。)を,

「 【請求項1】
カメラと,
入力された情報とあらかじめ記録されている登録情報とを照合することで被認証物の照合を行ない,照合結果において前記被認証物が正当対象物であると判断した場合に,前記被認証物に対して認証状態を設定する認証部と,
前記認証部による照合前から,前記カメラにより撮影された映像におけるシルエットまたは色のヒストグラムの変化に基づき前記被認証物の存在を継続して検知する検知部と,
前記認証部による照合後,前記検知部が前記被認証物の不在を検知した場合に,前記被認証物の前記認証状態を解除する認証解除部とを備えることを特徴とする,認証システム。
【請求項2】
前記検知部が被認証物の不存在を検知した場合に,当該認証システムの周囲で採取された音声データまたは画像データを記憶装置に記憶させる記憶制御部を備えることを特徴とする,請求項1記載の認証システム。
【請求項3】
入力された情報とあらかじめ記録されている登録情報とを照合することで被認証物の照合が行なわれ,照合結果において前記被認証物が正当対象物であると判断され前記被認証物に対して認証状態が設定される前から,カメラにより撮影された映像におけるシルエットまたは色のヒストグラムの変化に基づき前記被認証物の存在を継続して検知する検知部と,
前記照合後,前記検知部が前記被認証物の不在を検知した場合に,前記被認証物の前記認証状態を解除する認証解除部とを備えることを特徴とする,処理装置。
【請求項4】
前記検知部が被認証物の不存在を検知した場合に,当該処理装置の周囲で採取された音声データまたは画像データを記憶装置に記憶させる記憶制御部を備えることを特徴とする,請求項3記載の処理装置。
【請求項5】
入力された情報とあらかじめ記録されている登録情報とを照合することで被認証物の照合が行なわれ,照合結果において前記被認証物が正当対象物であると判断され前記被認証物に対して認証状態が設定される前から,カメラにより撮影された映像におけるシルエットまたは色のヒストグラムの変化に基づき前記被認証物の存在を継続して検知し,
前記照合後,前記被認証物の不在を検知した場合に,前記被認証物の前記認証状態を解除する,
処理をコンピュータに実行させるプログラム。
【請求項6】
前記被認証物の不存在を検知した場合に,前記コンピュータの周囲で採取された音声データまたは画像データを記憶装置に記憶する,
処理を前記コンピュータに実行させる,請求項5記載のプログラム。」
(当審注:下線は,請求人が付与したものである。以下,この特許請求の範囲に記載された請求項を「補正後の請求項」という。)

に補正するものである。

そして,本件補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされており,特許法第17条の2第3項の規定に適合している。
また,本件補正は,特別な技術的特徴を変更(シフト補正)をしようとするものではなく,特許法第17条の2第4項の規定に適合している。


2 目的要件

本件補正は上記「1 補正の内容」のとおり,本件審判の請求と同時にする補正であり,特許請求の範囲について補正をしようとするものであるから,本件補正が,特許法第17条の2第5項の規定を満たすものであるか否か,すなわち,本件補正が,特許法第17条の2第5項に規定する請求項の削除,特許請求の範囲の減縮(特許法第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって,その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る),誤記の訂正,或いは,明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る)の何れかを目的としたものであるかについて,以下に検討する。

(1)補正前の請求項と補正後の請求項とを比較すると,補正後の請求項1乃至6はそれぞれ,補正前の請求項1乃至6に対応することは明らかである。

(2)よって,本件補正は,下記の補正事項1乃至6よりなるものである。

<補正事項1>
補正前の請求項1の
「認証システム」の構成に,
補正後の請求項1の
「カメラと,」を追加する補正。

<補正事項2>
補正前の請求項1,3,5の
「被認証物の照合」との記載を,
補正後の請求項1,3,5の
「入力された情報とあらかじめ記録されている登録情報とを照合することで被認証物の照合」との記載に変更する補正。

<補正事項3>
補正前の請求項1,3,5の
「前記被認証物の存在を継続して検知」との記載を,
補正後の請求項1,3,5の
「前記カメラにより撮影された映像におけるシルエットまたは色のヒストグラムの変化に基づき前記被認証物の存在を継続して検知」との記載に変更する補正。

<補正事項4>
補正前の請求項1の
「前記検知部が前記被認証物の不在を検知した場合に,」との記載を,
補正後の請求項1の
「前記認証部による照合後,前記検知部が前記被認証物の不在を検知した場合に,」との記載に変更する補正。

<補正事項5>
補正前の請求項3の
「前記検知部が前記被認証物の不在を検知した場合に,」との記載を,
補正後の請求項3の
「前記照合後,前記検知部が前記被認証物の不在を検知した場合に,」との記載に変更する補正。

<補正事項6>
補正前の請求項5の
「前記被認証物の不在を検知した場合に,」との記載を,
補正後の請求項5の
「前記照合後,前記被認証物の不在を検知した場合に,」との記載に変更する補正。

(3)補正事項1について

補正事項1は,「認証部」,「検知部」,「認証解除部」よりなる「認証システム」について,
「カメラ」を,「認証システム」の新たな構成として追加するものである。
そうすると,補正事項1は,限定的減縮を目的とするものとは認められない。
また,請求項の削除,誤記の訂正,或いは,明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る)のいずれにも該当しない。

(4)補正事項2乃至6について

本件補正前の発明特定事項である「被認証物の照合」,「前記被認証物の存在を継続して検知」,「前記被認証物の不在を検知した場合に,」を限定的に減縮することを目的とするものである。
また,本件補正によっても,補正前の請求項に記載された発明とその補正後の請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であることは明らかである。

(5)小括

したがって,上記補正事項2乃至6の目的は限定的減縮であるものの,上記補正事項1の目的は請求項の削除,限定的減縮,誤記の訂正,明りょうでない記載の釈明の何れにも該当しないものである。
以上より,本件補正は,特許法第17条の2第5項第1号の請求項の削除,同条同項第2号の特許請求の範囲の減縮(第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって,その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。),同条同項第3号の誤記の訂正,同条同項第4号の明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)を目的とするものに限られるものではない。

よって,本件補正は,特許法第17条の2第5項の規定に違反する。

3 独立特許要件

以上のように,本件補正は,特許法第17条の2第5項の規定に違反するものであるが,仮に本件補正に含まれる上記補正事項1が限定的減縮を目的として補正されたとして,補正後の請求項1に記載された発明(以下,「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか),念のため以下で検討する。

(1)本件補正発明

本件補正発明は,上記平成28年6月22日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲,明細書及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものと認める。

「 【請求項1】
カメラと,
入力された情報とあらかじめ記録されている登録情報とを照合することで被認証物の照合を行ない,照合結果において前記被認証物が正当対象物であると判断した場合に,前記被認証物に対して認証状態を設定する認証部と,
前記認証部による照合前から,前記カメラにより撮影された映像におけるシルエットまたは色のヒストグラムの変化に基づき前記被認証物の存在を継続して検知する検知部と,
前記認証部による照合後,前記検知部が前記被認証物の不在を検知した場合に,前記被認証物の前記認証状態を解除する認証解除部とを備えることを特徴とする,認証システム。」

(2)引用例

(2-1)引用例1に記載されている技術的事項および引用発明

ア 本願の出願前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となり,原審の拒絶査定の理由である平成27年8月19日付けの拒絶理由通知において引用された,特開2007-172302号公報(平成19年7月5日出願公開,以下,「引用例1」という。)には,以下の技術的事項が記載されている。
(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

A 「【0009】
(第1発明)
前記技術的課題を解決するために,第1発明のCPU内蔵装置は,表示器および複数の機能を有し且つCPUを内蔵したCPU内蔵装置であって,次の構成要件(A01)?(A06)を備えたことを特徴とする。
(A01)前記CPU内蔵装置(U)を使用しようとするユーザが前記CPU内蔵装置(U)を使用する資格のある有資格ユーザであると認証する有資格ユーザ認証手段(C7),
(A02)前記有資格ユーザ認証手段(C7)が前記有資格ユーザであると認証した場合に,前記有資格ユーザが前記CPU内蔵装置(U)を使用可能な状態である認証状態に保持する認証状態保持手段(C9),
(A03)所定の認証状態解除条件を記憶する認証状態解除条件記憶手段(C8e),
(A04)前記認証状態解除条件が成立したか否かを判別する認証状態解除条件判別手段(C11),
(A05)前記認証状態解除条件が成立した場合に,ユーザが前記CPU内蔵装置(U)を使用不可能な状態である非認証状態に保持する非認証状態保持手段(C13),
(A06)前記認証状態を自動的に解除するための認証状態を自動解除条件(すなわち,ログアウト状態移行条件)を設定する認証状態自動解除条件設定手段(C8e)。
【0010】
(第1発明の作用)
前記構成要件(A01)?(A06)を備えた第1発明のCPU内蔵装置では,有資格ユーザ認証手段(C7)は,前記CPU内蔵装置(U)を使用しようとするユーザが前記CPU内蔵装置(U)を使用する資格のある有資格ユーザであると認証する。
認証状態保持手段(C9)は,前記有資格ユーザ認証手段(C7)が前記有資格ユーザであると認証した場合に,前記有資格ユーザが前記CPU内蔵装置(U)を使用可能な状態である認証状態に保持する。
認証状態解除条件記憶手段(C8e)は,所定の認証状態解除条件を記憶する。認証状態解除条件判別手段(C11)は,前記認証状態解除条件が成立したか否かを判別する。非認証状態保持手段(C13)は,前記認証状態解除条件が成立した場合に,ユーザが前記CPU内蔵装置(U)を使用不可能な状態である非認証状態に保持する。
認証状態自動解除条件設定手段(C8e)は,前記認証状態を自動的に解除するための認証状態自動解除条件(すなわち,ログアウト状態移行条件)を設定する。」

B 「【0039】
C6:パスワード入力手段
パスワード入力手段C6は,入力値一時記憶メモリC6aを有している。前記入力値一時記憶メモリC6aは,前記パスワード入力画面12(図3A参照)において,前記タッチパネルUI4の検出信号に応じて選択(入力)された入力値(0?9,*,♯)を選択された順に一時記憶する。
C7:有資格ユーザ認証手段
有資格ユーザ認証手段C7は,パスワード判別手段C7aとパスワード記憶メモリC7bとを有している。前記パスワード判別手段C7aは,前記入力値一時記憶メモリC6aに一時記憶された入力値(入力パスワード)が前記パスワード記憶メモリC7bに記憶されたパスワードと同一か否かを判別する。
C8:認証状態自動解除条件設定手段
認証状態自動解除条件設定手段C8は,回数条件設定手段C8aと,時間条件設定手段C8bと,認証状態解除操作設定手段C8cと,認証状態解除用マシン状態設定手段C8dと,認証状態解除条件記憶手段C8eと,を有している。」

C 「【0043】
C8e:認証状態解除条件記憶手段
認証状態解除条件記憶手段C8eは,認証状態解除条件一時記憶メモリC8e1を有している。
C8e1:認証状態解除条件一時記憶メモリ
認証状態解除条件一時記憶メモリC8e1は,前記回数条件設定手段C8a,時間条件設定手段C8b,認証状態解除操作設定手段C8cおよび認証解除用マシン状態設定手段C8dで設定された認証状態解除条件(前記認証状態解除条件一覧画面19(図6参照)の認証状態解除条件一覧表示欄19aに表示される認証状態解除条件)を記憶する。
【0044】
C9:認証状態保持手段(ログイン状態保持手段)
認証状態保持手段C9は,前記認証状態解除条件一時記憶メモリC8e1に記憶された認証状態解除条件が満たされるまで,前記画像形成装置Uを認証状態(ログイン状態,すなわち画像形成装置を使用可能な状態)に保持する。
C10:認証状態解除条件有無判別手段
認証状態解除条件有無判別手段C10は,次の処理(1)?(3)を行う。
(1)前記認証状態解除条件一時記憶メモリC8e1に記憶された認証解除条件として機能使用可能回数が設定(FL1=「1」)されているか否かを判別する。
(2)前記認証状態解除条件一時記憶メモリC8e1に記憶された認証解除条件として機能使用可能時間が設定(FL2=「1」)されているか否かを判別する。
(3)前記認証状態解除条件一時記憶メモリC8e1に記憶された認証解除条件として認証状態解除用マシン状態(省エネモードが解除された時)が設定(FL3=「1」)されているか否かを判別する。
【0045】
C11:認証状態解除条件判別手段
認証状態解除条件判別手段C11は,前記認証状態解除条件有無判別手段C10の各処理(1)?(3)に基づいて,認証状態解除条件が成立したか否かを判別する。
すなわち,前記回数条件設定状態判別フラグFL1=「1」の場合には,認証状態(ログイン状態)になってから前記認証状態解除条件一時記憶メモリC8e1に記憶された機能使用可能回数だけ使用したか否かを判別する。
前記時間条件設定状態判別フラグFL2=「1」の場合には,認証状態(ログイン状態)に移行して画像形成装置Uの機能が使用可能になってから前記認証状態解除条件一時記憶メモリC8e1に記憶された機能使用可能時間が経過した否かを判別する。
前記認証状態解除用マシン状態設定判別フラグFL3=「1」の場合には,認証状態(ログイン状態)になってから前記認証状態解除条件一時記憶メモリC8e1に記憶された認証状態解除用マシン状態(省エネモードが解除された時)になったか否かを判別する。
【0046】
C12:解除条件成立時認証状態解除手段
解除条件成立時認証状態解除手段C12は,前記認証状態解除条件判別手段C11の判別結果に基づいて認証状態を解除する。
すなわち,前記回数条件設定状態判別フラグFL1=「1」の状態において,前記認証状態解除条件一時記憶メモリC8e1に記憶された機能使用可能回数だけ使用した時点で認証状態(ログイン状態)を解除(非認証状態またはログアウト状態に移行)する。
前記時間条件設定状態判別フラグFL2=「1」の状態において,前記認証状態解除条件一時記憶メモリC8e1に記憶された機能使用可能時間が経過した時点で認証状態を解除する。
前記認証状態解除用マシン状態設定判別フラグFL3=「1」の状態において,前記認証状態解除条件一時記憶メモリC8e1に記憶された認証状態解除用マシン状態(省エネモードが解除された時)になった時点で認証状態を解除する。」

イ ここで,引用例1に記載されている事項を検討する。

(ア)上記Aの段落【0009】の「前記技術的課題を解決するために,第1発明のCPU内蔵装置は,表示器および複数の機能を有し且つCPUを内蔵したCPU内蔵装置であって,次の構成要件(A01)?(A06)を備えたことを特徴とする。」,「(A01)前記CPU内蔵装置(U)を使用しようとするユーザが前記CPU内蔵装置(U)を使用する資格のある有資格ユーザであると認証する有資格ユーザ認証手段(C7),」との記載,段落【0010】の「前記構成要件(A01)?(A06)を備えた第1発明のCPU内蔵装置では,有資格ユーザ認証手段(C7)は,前記CPU内蔵装置(U)を使用しようとするユーザが前記CPU内蔵装置(U)を使用する資格のある有資格ユーザであると認証する。」との記載からすると,「CPU内蔵装置」を使用しようとするユーザが前記「CPU内蔵装置」を使用する資格のある有資格ユーザであると認証する「有資格ユーザ認証手段」が読み取れる。
また,上記Bの段落【0039】の「C7:有資格ユーザ認証手段 有資格ユーザ認証手段C7は,パスワード判別手段C7aとパスワード記憶メモリC7bとを有している。前記パスワード判別手段C7aは,前記入力値一時記憶メモリC6aに一時記憶された入力値(入力パスワード)が前記パスワード記憶メモリC7bに記憶されたパスワードと同一か否かを判別する。」との記載からすると,「有資格ユーザ認証手段」は,「入力値(入力パスワード)がパスワード記憶メモリに記憶されたパスワードと同一か否かを判別する」ことによりユーザを認証することが読み取れるから,引用例1には,
“入力値(入力パスワード)がパスワード記憶メモリに記憶されたパスワードと同一か否かを判別することにより,CPU内蔵装置を使用しようとするユーザが前記CPU内蔵装置を使用する資格のある有資格ユーザであると認証する有資格ユーザ認証手段”
が記載されていると解される。

(イ)上記Aの段落【0009】の「(A02)前記有資格ユーザ認証手段(C7)が前記有資格ユーザであると認証した場合に,前記有資格ユーザが前記CPU内蔵装置(U)を使用可能な状態である認証状態に保持する認証状態保持手段(C9),」との記載,段落【0010】の「認証状態保持手段(C9)は,前記有資格ユーザ認証手段(C7)が前記有資格ユーザであると認証した場合に,前記有資格ユーザが前記CPU内蔵装置(U)を使用可能な状態である認証状態に保持する。」との記載,上記Cの段落【0044】の「C9:認証状態保持手段(ログイン状態保持手段) 認証状態保持手段C9は,前記認証状態解除条件一時記憶メモリC8e1に記憶された認証状態解除条件が満たされるまで,前記画像形成装置Uを認証状態(ログイン状態,すなわち画像形成装置を使用可能な状態)に保持する。」との記載からすると,「認証状態保持手段」は,「有資格ユーザ認証手段」が有資格ユーザであると認証した場合に,認証状態解除条件が満たされるまで,前記有資格ユーザが「CPU内蔵装置」を使用可能な状態である認証状態に保持することが読み取れるから,引用例1には,
“前記有資格ユーザ認証手段が前記有資格ユーザであると認証した場合に,認証状態解除条件が満たされるまで,前記有資格ユーザが前記CPU内蔵装置を使用可能な状態である認証状態に保持する認証状態保持手段”
が記載されていると解される。

(ウ)上記Aの段落【0009】の「(A04)前記認証状態解除条件が成立したか否かを判別する認証状態解除条件判別手段(C11),」との記載,段落【0010】の「認証状態解除条件記憶手段(C8e)は,所定の認証状態解除条件を記憶する。認証状態解除条件判別手段(C11)は,前記認証状態解除条件が成立したか否かを判別する。」との記載,上記Cの段落【0045】の「C11:認証状態解除条件判別手段 認証状態解除条件判別手段C11は,前記認証状態解除条件有無判別手段C10の各処理(1)?(3)に基づいて,認証状態解除条件が成立したか否かを判別する。」との記載からすると,「認証状態解除条件判別手段」は「認証状態保持手段」により「認証状態」になってから,認証状態解除条件が成立したか否かを判別することが読み取れるから,引用例1には,
“前記認証状態になってから前記認証状態解除条件が成立したか否かを判別する認証状態解除条件判別手段”
が記載されていると解される。

(エ)上記Cの段落【0046】の「C12:解除条件成立時認証状態解除手段 解除条件成立時認証状態解除手段C12は,前記認証状態解除条件判別手段C11の判別結果に基づいて認証状態を解除する。」との記載からすると,「解除条件成立時認証状態解除手段」は,「認証状態解除条件判別手段」の判別結果に基づいて,「認証状態」を解除することが読み取れるから,引用例1には,
“前記認証状態解除条件判別手段の判別結果に基づいて,認証状態を解除する解除条件成立時認証状態解除手段”
が記載されていると解される。

(オ)上記(ア)乃至(エ)での検討から,「CPU内蔵装置」が「有資格ユーザ認証手段」,「認証状態保持手段」,「認証状態解除条件判別手段」,「解除条件成立時認証状態解除手段」を備えることは明らかであるから,引用例1には,
“有資格ユーザ認証手段”と,“認証状態保持手段”と,“認証状態解除条件判別手段”と,“解除条件成立時認証状態解除手段”“とを備える,CPU内蔵装置”
が記載されていると解される。

ウ 以上,(ア)乃至(オ)で示した事項から,引用例1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているものと認める。

「入力値(入力パスワード)がパスワード記憶メモリに記憶されたパスワードと同一か否かを判別することにより,CPU内蔵装置を使用しようとするユーザが前記CPU内蔵装置を使用する資格のある有資格ユーザであると認証する有資格ユーザ認証手段と,
前記有資格ユーザ認証手段が前記有資格ユーザであると認証した場合に,認証状態解除条件が満たされるまで,前記有資格ユーザが前記CPU内蔵装置を使用可能な状態である認証状態に保持する認証状態保持手段と,
前記認証状態になってから前記認証状態解除条件が成立したか否かを判別する認証状態解除条件判別手段と,
前記認証状態解除条件判別手段の判別結果に基づいて,認証状態を解除する解除条件成立時認証状態解除手段と,
を備える,CPU内蔵装置。」


(2-2)引用例2に記載されている技術的事項

本願の出願前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となり,原審の拒絶査定の理由である平成27年8月19日付けの拒絶理由通知において引用された,特開2008-146449号公報(平成20年6月26日出願公開,以下,「引用例2」という。)には,以下の技術的事項が記載されている。
(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

D 「【0068】
例えば,図7に示すように操作者HMが矢印AR1の向きに移動してMFP本体40に向けて接近した後に,図8に示すようにIDカード19をカード認証装置10(詳細にはリーダ部11)に挿入すると,第1の認証手法M1による認証動作が実行される。また,認証手法M1による認証に成功した後,図9に示すように操作者HMが矢印AR2の向きに移動して追尾対象領域R2から離れたと判定されると自動ログアウト処理が行われる。さらにその後,図10に示すように,操作者HMが矢印AR3の向きに移動して,再びMFP本体40に接近し,顔認証対象領域R3にまで戻って来ると,認証システム1Aは,今度は第2の認証手法M2による認証動作を実行する。本実施形態の認証システム1Aによれば,以上のような認証動作が実現される。
【0069】
具体的には,まずステップS11?S13において,上述の認証手法M1が実行される。詳細には,ステップS11において,リーダ部11にIDカード19が挿入されたか否かを検知し,IDカード19の挿入が検知された場合には,ステップS12に進む。ステップS12の認証動作においては,カード認証用データベース13に記憶された複数の登録者を対象にして,リーダ部11によって読み出されたID情報(ユーザID)と符合(一致)するものが存在するか否かを判定する。そして,符合するID情報が存在する場合(ステップS13でYES)には,当該IDカード19の所持者である操作者を正規の利用者である旨(すなわち「認証成功」)を判定し,ステップS17に進み,「認証成功状態」となる。一方,符合するID情報が存在しない場合(ステップS13でNO)には認証失敗であると判定し,ステップS14に進む。また,ステップS11でカード挿入が検知されない場合もステップS14に進む。」

E 「【0074】
次のステップS20(図6)においては,認証者登録処理が行われる。具体的には,第1の認証手法M1によって認証された操作者(認証者)HMの顔画像G1(図11参照)が登録される。この登録画像は,再ログイン時における顔認証動作に利用される。また,この登録画像は,ステップS21以降の追尾処理にも利用される。なお上述したように,検出対象領域R1に存在する被写体人物を対象にして当該登録処理は行われるため,検出対象領域R1以外に存在する人物の顔画像G2,G3(図11参照)は登録対象から排除される。
【0075】
その後,ステップS21において追尾処理が開始される。この追尾処理は,撮影画像に基づいて,操作者HMが引き続き追尾対象領域R2内に存在するか否かを判定することによって実行される。この追尾処理においては,第1の認証手法M1によって認証された人物の顔部分を継続して追尾することによって,当該人物が追尾対象領域R2に存在することを確認できるので,当該追尾対象の顔が誰の顔であるかを認識することまでは必要ではない。したがって,処理を簡単化した比較的高速の画像処理を行うことが可能である。
【0076】
また,ログイン中の操作者(認証者)としては,第1の認証手法M1によって認証された人物と,第2の認証手法M2によって認証された人物との両方が想定される。ここでの追尾処理は,両手法M1,M2のいずれによって認証された人物についても実行されるものとする。なお,第2の認証手法M2によって認証される場合には,ステップS20において,認証用の登録画像を再登録するようにしてもよいし,ステップS20における最初の登録時の画像をそのまま登録画像として利用するようにしてもよい。
【0077】
ステップS22において当該操作者が引き続き追尾対象領域R2内に存在することが撮影画像に基づいて確認された場合(図11参照)には,原則として利用許可状態(換言すればログイン状態)が継続される(ステップS24)。
【0078】
一方,ログイン中の操作者が追尾対象領域R2内に存在することが確認できなくなると(図12参照),ステップS25に進み,自動ログアウト処理が実行される。なお,図12は,操作者が追尾対象領域R2から離れた状態の撮影画像を示す図である。図11と比較すると判るように,図12においては操作者HMが存在しない状態になっている。」

上記D,Eの記載からすると,引用例2には,
「所定の認証手法で操作者が認証されると,認証された操作者に対して,引き続き追尾対象領域内に存在するか否かを判定する追尾処理を実行し,当該操作者が引き続き追尾対象領域内に存在することが撮影画像に基づいて確認された場合には,利用許可状態(換言すればログイン状態)が継続し,当該操作者が追尾対象領域内に存在することが確認できなくなると,自動ログアウト処理が実行される技術」(以下,「引用例2記載技術」という。)が記載されている。

(2-3)参考文献1に記載されている技術的事項

本願の出願前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった,特開2007-52770号公報(平成19年3月1日出願公開,以下,「参考文献1」という。)には,以下の技術的事項が記載されている。
(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

F 「【0024】
〈ユーザ情報格納部〉
ユーザ情報格納部5は,顔認証部6が顔認証処理を行うに際して必要となる情報を格納している。図3は,ユーザ情報格納部5が格納しているユーザ情報テーブル5aの具体例を示す図である。ユーザ情報テーブル5aは,正当なユーザのIDに関連づけて,各ユーザの顔画像における特徴量を有する。特徴量とは,各ユーザの顔画像から予め取得されている情報であり,例えば輝度分布や色ヒストグラムを用いて表される。
【0025】
〈顔認証部〉
顔認証部6は,頭部検出部4によって検出された者について,ユーザ情報テーブル5aの内容に基づき,正当なユーザか否か判断する。まず,顔認証部6は,頭部検出部4によって検出された頭部に含まれる顔を検出する。顔認証部6は,例えば,顔全体の輪郭に対応した基準テンプレートを用いたテンプレートマッチングによって顔を検出するように構成されても良い。また,顔認証部6は,顔の構成要素(目,鼻,耳など)に基づくテンプレートマッチングによって顔を検出するように構成されても良い。また,顔認証部6は,クロマキー処理によって頭部などの頂点を検出し,この頂点に基づいて顔を検出するように構成されても良い。また,顔認証部6は,肌の色に近い領域を検出し,その領域を顔として検出するように構成されても良い。また,顔認証部6は,ニューラルネットワークを使って教師信号による学習を行い,顔らしい領域を顔として検出するように構成されても良い。また,顔認証部6による顔検出処理は,その他,既存のどのような技術が適用されることによって実現されても良い。
【0026】
次に,顔認証部6は,検出された顔について認証処理を行う。例えば顔認証部6は,検出された顔の画像から,輝度分布や色ヒストグラム等の特徴量を取得し,ユーザ情報テーブル5aに記憶されている特徴量と比較することによって判断を行う。この比較は,輝度分布の正規化相関や,色ヒストグラムのヒストグラムインタセクション等を類似度として取得することによって行うことができる。即ち,特徴量が類似するか否かを判断し,類似すると判断された場合には同一人物,即ち正当なユーザであると判断することができる。」

(2-4)参考文献2に記載されている技術的事項

本願の出願前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった,特開2003-141088号公報(平成15年5月16日出願公開,以下,「参考文献2」という。)には,以下の技術的事項が記載されている。
(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

G 「【0032】その後,制御部2は,離席監視周期(例えば1秒)を規定するカウンタ(ソフトタイマ)をクリアし(ステップ103),そのカウンタが所定時間を計時するのを待ち受ける(ステップ104,105)。
【0033】カウンタが所定時間を計時すると,制御部2は,カメラ部9からの撮像画像から顔の領域を検出し(ステップ106),検出できたか否かを,言い換えると,利用者が在席か離席かを判別する(ステップ107)。ここで,カメラ部9が電子スチルカメラの場合には,この際に撮像を起動する。また,カメラ部9がビデオカメラの場合には,連続する複数の撮像画像から1枚の撮像画像をこの際に選択する。
【0034】利用者が在席していると(正規の利用者か否かはこの時点では判別できない),制御部2は,検出された顔の領域画像から顔の特徴量を抽出し,得られた顔特徴量と,ログイン情報に基づき設定された登録特徴量とのマッチングを行い,正規の利用者の顔であると認識できたか否かを判別する(ステップ108,109)。より具体的には,得られた顔特徴量と登録顔特徴量との類似度が閾値以上の登録顔特徴量が1個でもある場合には,正規の利用者の顔であると認識し,類似度が閾値以上の登録顔特徴量が1個も存在しない場合には,正規の利用者の顔でないと認識する。
【0035】利用者が在席しており,しかも,その者が正規の利用者であると顔認証できたときには,省電力などに機能するスクリーンセーバー処理ルーチンに割込みを掛けた後(ステップ110),上述したステップ103に戻り,次の離席監視タイミングを待ち受ける。」

(2-5)参考文献3に記載されている技術的事項

本願の出願前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった,特開2008-250599号公報(平成20年10月16日出願公開,以下,「参考文献3」という。)には,以下の技術的事項が記載されている。
(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

H 「【0025】
オペレータAが業務端末(104)から在席した際,ICタグ送受信部(302)がオペレータが携帯しているICタグ(307)との通信を確認後(F701),ICタグ(307)に記憶されているIDデータをICタグ読取部(303)が読取る(F702)。
【0026】
オペレータAはデータ入力部(305)から業務アプリケーションへのログインを行うためのログインID,PWの入力を行う(F703)。
【0027】
IDデータ,ログインID,PWは通信部(301)からネットワーク(102)を介し,ホストサーバ(101)の通信部(204)へ送信され,使用可否判断部(205)にて使用可否判断を行う(F704)。 …(後略)…」


(3)対比

ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。

(ア)引用発明では,「有資格ユーザ認証手段」が「入力値(入力パスワード)がパスワード記憶メモリに記憶されたパスワードと同一か否かを判別することにより,CPU内蔵装置を使用しようとするユーザが前記CPU内蔵装置を使用する資格のある有資格ユーザであると認証する」ところ,「入力パスワード」と「パスワード記憶メモリに記憶されたパスワード」とを照合することで,「ユーザ」の照合を行っているといえるから,引用発明の「入力パスワード」,「パスワード記憶メモリに記憶されたパスワード」,「ユーザ」はそれぞれ,本件補正発明の「入力された情報」,「あらかじめ記録されている登録情報」,「被認証物」に相当するといえる。
また,引用発明では,「認証状態保持手段」が「前記有資格ユーザ認証手段が前記有資格ユーザであると認証した場合に,認証状態解除条件が満たされるまで,前記有資格ユーザが前記CPU内蔵装置を使用可能な状態である認証状態に保持する」ところ,照合結果において「ユーザ」が正当対象物であると判断した場合に,前記「ユーザ」に対して認証状態を設定するとみることができる。
そうすると,引用発明の「有資格ユーザ認証手段」と,「認証状態保持手段」とを合わせた手段は本件補正発明の「認証部」に相当するといえる。

(イ)引用発明では,「認証状態解除条件判別手段」が「認証状態になってから前記認証状態解除条件が成立したか否かを判別する」ところ,「認証状態解除条件」が成立したか否かを判別するといえる。
一方,本件補正発明では,「検知部」が「前記認証部による照合前から,前記カメラにより撮影された映像におけるシルエットまたは色のヒストグラムの変化に基づき前記被認証物の存在を継続して検知する」ところ,「被認証物の存在を継続して検知」は“認証状態”を継続する条件であり,「被認証物の不在」は“認証状態解除条件”であるといえるから,「被認証物の存在を継続して検知する」ことは“認証状態解除条件が成立したか否かを判別する”ことに他ならない。
そうすると,引用発明の「前記認証状態になってから前記認証状態解除条件が成立したか否かを判別する認証状態解除条件判別手段」と,
本件補正発明の「前記認証部による照合前から,前記カメラにより撮影された映像におけるシルエットまたは色のヒストグラムの変化に基づき前記被認証物の存在を継続して検知する検知部」とは,後記する点で相違するものの,
“認証状態解除条件が成立したか否かを判別する検知部”である点で共通するといえる。

(ウ)引用発明では,「解除条件成立時認証状態解除手段」が「前記認証状態解除条件判別手段の判別結果に基づいて,認証状態を解除する」ところ,「有資格ユーザ認証手段」が「有資格ユーザ」であると認証した後に,「認証状態解除条件」が成立したと判別した場合に,「ユーザ」の「認証状態」を解除することは明らかであるから,上記(ア)での検討から,“認証部”による照合後,「認証状態解除条件」が成立したと判別した場合に,“被認証物”の「認証状態」を解除するといえる。
一方,本件補正発明では,「認証解除部」が「前記認証部による照合後,前記検知部が前記被認証物の不在を検知した場合に,前記被認証物の前記認証状態を解除する」ところ,上記(イ)での検討から,「被認証物の不在」は“認証状態解除条件”とみることができる。
そうすると,引用発明の「前記認証状態解除条件判別手段の判別結果に基づいて,認証状態を解除する解除条件成立時認証状態解除手段」と,
本件補正発明の「前記認証部による照合後,前記検知部が前記被認証物の不在を検知した場合に,前記被認証物の前記認証状態を解除する認証解除部」とは,後記する点で相違するものの,
“前記認証部による照合後,前記検知部が前記認証状態解除条件が成立したと判別した場合に,前記被認証物の前記認証状態を解除する認証解除部”である点で共通するといえる。

(エ)引用発明の「CPU内蔵装置」は,「有資格ユーザ認証手段」,「認証状態保持手段」,「認証状態解除条件判別手段」,「解除条件成立時認証状態解除手段」を備えるところ,上記(ア)での検討から,「ユーザ」を認証する“認証システム”とみることができるから,引用発明の「CPU内蔵装置」は本件補正発明の「認証システム」に対応するといえる。

イ 以上から,本件補正発明と引用発明とは,以下の点で一致し,また,以下の点で相違する。

<一致点>

「入力された情報とあらかじめ記録されている登録情報とを照合することで被認証物の照合を行ない,照合結果において前記被認証物が正当対象物であると判断した場合に,前記被認証物に対して認証状態を設定する認証部と,
認証状態解除条件が成立したか否かを判別する検知部と,
前記認証部による照合後,前記検知部が前記認証状態解除条件が成立したと判別した場合に,前記被認証物の前記認証状態を解除する認証解除部と,
を備える,認証システム。」

<相違点1>
本件補正発明では,「カメラ」を備えているのに対して,引用発明では,「カメラ」を備えることは特定されていない点。

<相違点2>
検知部の判別事項に関し,本件補正発明では,「前記カメラにより撮影された映像におけるシルエットまたは色のヒストグラムの変化に基づき前記被認証物の存在を継続して検知する」のに対して,引用発明では,「前記認証状態解除条件が成立したか否かを判別する」ものの,「シルエットまたは色のヒストグラムの変化に基づき前記被認証物の存在を継続して検知する」ことについて言及されていない点。

<相違点3>
検知部の判別タイミングに関し,本件補正発明では,「認証部による照合前から,」検知するのに対して,引用発明では,「認証状態になってから」判別するものの,「認証部による照合前」から検知することについて言及されていない点。

<相違点4>
認証解除部による認証状態解除条件に関し,本件補正発明では,「被認証物の不在を検知した場合に,前記被認証物の前記認証状態を解除する」のに対して,引用発明では,「認証状態解除条件が成立したか否か」の「判別結果に基づいて,認証状態を解除する」ものの,「被認証物の不在」を判別することは特定されていない点。


(4)当審の判断

上記相違点1乃至4について検討する。

ア 相違点1,2,4について

引用発明では,「認証状態になってから前記認証状態解除条件が成立したか否かを判別」し,「判別結果に基づいて,認証状態を解除する」ところ,「CPU内蔵装置」のセキュリティ性向上のために,使用後の「CPU内蔵装置」を自動的に認証解除するものである。
一方,引用例2記載技術のような,「所定の認証手法で操作者が認証されると,認証された操作者に対して,引き続き追尾対象領域内に存在するか否かを判定する追尾処理を実行し,当該操作者が引き続き追尾対象領域内に存在することが撮影画像に基づいて確認された場合には,利用許可状態(換言すればログイン状態)が継続し,当該操作者が追尾対象領域内に存在することが確認できなくなると,自動ログアウト処理が実行される技術」が本願出願前には公知の技術であった。すなわち,引用例2には,認証システムにおいて,ユーザの負担を軽減しつつセキュリティを確保するために,カメラにより撮影された映像に基づき被認証物の存在を継続して検知し,前記被認証物の不在を検知した場合には,前記被認証物の認証状態を解除する旨の技術が記載されていると認められる。
また,撮像画像における被対象物の輪郭(シルエット)または色のヒストグラムの変化に基づき,被対象物を検出することは,参考文献1(上記Fを参照)に記載されるように,本願出願前には当該技術分野における周知技術であった。
そうすると,引用発明と引用例2記載技術とは,セキュリティ性向上のために,自動的に認証を解除するという課題で共通することから,引用発明に引用例2記載技術を適用し,検知部が,認証システムが備えるカメラにより撮影された映像におけるシルエットまたは色のヒストグラムの変化に基づき,被認証物の存在を継続して検知し,認証部による照合後,前記検知部が前記被認証物の不在を検知した場合に,認証解除部が,前記被認証物の認証状態を解除すること,すなわち,上記相違点1,3,4に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

イ 相違点3について

引用発明では,「認証状態解除条件判別手段」は,「認証状態になってから前記認証状態解除条件が成立したか否かを判別する」ところ,「CPU内蔵装置」のセキュリティ性向上のために,「認証状態解除条件」の成否を判別するといえる。
また,セキュリティ性向上のために,被認証物の認証前から,被認証物の存在/不在を検知する旨の技術は,例えば,参考文献2(上記Gを参照),参考文献3(上記Hを参照)に記載されるように,当該技術分野における周知技術であった。
そして,認証システムにおいて,被認証物の存在/不在の検知を,被認証物の認証前から実行するかどうかは,必要に応じて適宜選択し得た設計的事項である。
そうすると,引用発明に上記周知技術を適用し,認証部による照合前から,検知部が,被認証物の存在/不在を検知することは,当業者が容易に想到し得たことである。

ウ 小括

上記で検討したごとく,相違点1乃至4に係る構成は当業者が容易に想到し得たものであり,そして,これらの相違点を総合的に勘案しても,本件補正発明の奏する作用効果は,上記引用発明,引用例2記載技術,及び当該技術分野の周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。
したがって,本件補正発明は,上記引用発明,引用例2記載技術,及び参考文献1乃至3に記載の当該技術分野の周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができない。


4 補正却下の決定のむすび

上記「2 目的要件」で指摘したとおり,上記補正事項1の目的は請求項の削除,限定的減縮,誤記の訂正,明りょうでない記載の釈明の何れにも該当しないものであるから,本件補正は,特許法第17条の2第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
また,仮に本件補正に含まれる上記補正事項1乃至6が限定的減縮を目的として補正されたとしても,上記「3 独立特許要件」で指摘したとおり,補正後の請求項1に記載された発明は,特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから,本件補正は特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって,上記補正却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明について

1 本願発明

平成28年6月22日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,補正後の請求項1に対応する補正前の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成27年10月23日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,以下のとおりのものである。

「 【請求項1】
被認証物の照合を行ない,照合結果において前記被認証物が正当対象物であると判断した場合に,前記被認証物に対して認証状態を設定する認証部と,
前記認証部による照合前から,前記被認証物の存在を継続して検知する検知部と,
前記検知部が前記被認証物の不在を検知した場合に,前記被認証物の前記認証状態を解除する認証解除部とを備えることを特徴とする,認証システム。」

2 引用例に記載されている技術的事項及び引用発明

原査定の拒絶の理由に引用された,引用発明は,前記「第2 平成28年6月22日付けの手続補正についての補正却下の決定」の「3 独立特許要件」の「(2)引用例」に記載したとおりである。

3 対比・判断

本願発明は,前記「第2 平成28年6月22日付けの手続補正についての補正却下の決定」の「3 独立特許要件」で検討した本件補正発明の発明特定事項である
「カメラと,」を削除し,
「入力された情報とあらかじめ記録されている登録情報とを照合することで被認証物の照合を行ない,照合結果において前記被認証物が正当対象物であると判断した場合に,前記被認証物に対して認証状態を設定する認証部」から「入力された情報とあらかじめ記録されている登録情報とを照合することで」との限定事項を削除し,
「前記認証部による照合前から,前記カメラにより撮影された映像におけるシルエットまたは色のヒストグラムの変化に基づき前記被認証物の存在を継続して検知する検知部」から「前記カメラにより撮影された映像におけるシルエットまたは色のヒストグラムの変化に基づき」との限定事項を削除し,
「前記認証部による照合後,前記検知部が前記被認証物の不在を検知した場合に,前記被認証物の前記認証状態を解除する認証解除部」から「前記認証部による照合後,」との限定事項を削除したものである。

そうすると,本願発明の発明特定事項を全て含む本件補正発明が,前記「第2 平成28年6月22日付けの手続補正についての補正却下の決定」の「3 独立特許要件」の「(2)引用例」乃至「(4)当審の判断」に記載したとおり,引用発明,引用例2記載技術,及び当該技術分野の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,上記特定の限定を省いた本願発明も同様の理由により,引用発明,引用例2記載技術,及び当該技術分野の周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。


第4 むすび

以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-07-05 
結審通知日 2017-07-11 
審決日 2017-07-28 
出願番号 特願2012-58307(P2012-58307)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (G06F)
P 1 8・ 575- Z (G06F)
P 1 8・ 121- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 青木 重徳  
特許庁審判長 高木 進
特許庁審判官 須田 勝巳
辻本 泰隆
発明の名称 認証システム,処理装置及びプログラム  
代理人 真田 有  

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