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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09D
管理番号 1332789
審判番号 無効2014-800168  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-11-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-10-16 
確定日 2017-09-13 
事件の表示 上記当事者間の特許第4961115号発明「可逆熱変色性筆記具用水性インキ組成物及びそれを収容した筆記具」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第4961115号の請求項1ないし7に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由
第1 手続の経緯

本件特許の請求項1?7のそれぞれに係る発明は、平成17年6月1日に特許出願され、平成24年3月30日にその特許権の設定の登録がされた。
請求人は、平成26年10月16日付けで、本件特許の請求項1?7のそれぞれに係る発明についての特許を無効にすることについて審判を請求した。
これに対し、被請求人は、平成27年2月16日付け答弁書を提出した。
その後、請求人及び被請求人は、いずれも同年9月3日付け口頭審理陳述要領書を提出した。さらに、請求人及び被請求人は、同月14日付け口頭審理陳述要領書(2)を提出した。
当審は、同月17日に第1回口頭審理を行った。
その後、さらに、被請求人は、第1回口頭審理(第1回口頭審理調書の「審判長2」参照)に基づいて同年10月1日付け上申書を提出し、これに対し、請求人は、同月30日付け上申書を提出した。
その後、当審は、平成27年12月28日付けで審決の予告をした。

第2 本件特許に係る発明

本件特許の請求項1?7のそれぞれに係る発明は、明細書の特許請求の範囲の請求項1?7のそれぞれに記載された事項によって特定される以下のとおりのものである。
なお、以下では、本件特許の請求項1?7のそれぞれに係る発明を、対応する請求項の番号を用いて、「本件発明1」などという。また、本件発明1?7をまとめて「本件発明」という。さらに、明細書を「本件明細書」という。

「【請求項1】
可逆熱変色性筆記具用水性インキ組成物を収容したボールペン形態の筆記具であって、
前記可逆熱変色性筆記具用水性インキ組成物は、(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)前記両者の呈色反応の生起温度を決める反応媒体からなる可逆熱変色性組成物を内包させた可逆熱変色性マイクロカプセル顔料と、水を少なくとも含有してなり、ここで、前記可逆熱変色性マイクロカプセル顔料の平均粒子径は、0.5?2.0μmの範囲にあり、且つ、4.0μmを超える粒子が全マイクロカプセル顔料中の10体積%未満であり、2.0μm未満の粒子が全マイクロカプセル顔料中の50体積%以上であり、
前記筆記具のキャップの一部又は軸筒の一部に、弾性体である擦過部材が設けられていることを特徴とする、筆記具。

【請求項2】
前記可逆熱変色性マイクロカプセル顔料が、色濃度-温度曲線に関して完全消色温度(t4)が50?90℃である請求項1記載の筆記具。

【請求項3】
前記可逆熱変色性マイクロカプセル顔料が、色濃度-温度曲線に関して40℃乃至70℃のヒステリシス幅(ΔH)を示し、発色開始温度(t2)が0℃以下である請求項1又は2記載の筆記具。

【請求項4】
前記可逆熱変色性マイクロカプセル顔料が、前記可逆熱変色性筆記具用水性インキ組成物全量に対して2?40重量%である請求項1乃至3のいずれかに記載の筆記具。

【請求項5】
前記可逆熱変色性筆記具用水性インキ組成物が、剪断減粘性付与剤を含んでなる請求項1乃至4のいずれかに記載の筆記具。

【請求項6】
ボールペンチップを筆記先端部に装着してなり、前記ボールペンチップのボールが0.4?1.0mm径である請求項1乃至5に記載の筆記具。

【請求項7】
前記擦過部材がゴム、エラストマー又はプラスチック発泡体である請求項1乃至6のいずれか記載の筆記具。」

第3 請求人が主張する無効理由・証拠方法

請求人は、「特許第4961115号の特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求め、証拠方法として下記の書証を提出し、本件特許は、特許法第123条第1項第4号の規定により無効とされるべきであり(理由1、理由2)、また同項第2号の規定により無効とされるべき(理由3、理由4)である旨主張している。
その無効理由1及び2の概要は以下のとおりである。

1 無効理由1(明確性要件違反)

本件発明は、不明確であるから、本件特許出願は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、本件特許は同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

2 無効理由2(サポート要件違反)

本件発明は、発明の詳細な説明に記載されていない発明であるから、本件特許出願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、本件特許は同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

3 無効理由3(新規性の欠如)

本件特許の請求項1?7に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において公然実施された発明(当審注:以下、「公然実施発明」とする。)、すなわち、その出願前に販売された「メタモカラー イリュージョン(当審注:以下、単に「イリュージョン」とする。)」(甲第2号証?甲第5号証)と同一であるから、特許法第29条第1項第2号に該当し、特許を受けることができるものではなく、同法同条に違反して特許されたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

4 無効理由4(新規性の欠如)

本件特許の請求項1?7に係る発明は、甲第12号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものではなく、同法同条に違反して特許されたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

5 無効理由5(進歩性の欠如)

本件特許の請求項1?7に係る発明は、公然実施発明及び甲第12号証に記載された発明並びに甲第8号証、甲第13号証?甲第17号証に示される周知慣用技術に基いて、特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

6 証拠方法

甲第1号証:特許第4961115号公報
甲第2号証:試験報告書(製品構成)(平成23年1月24日)
甲第3号証:平成14年10月27日付文具流通マガジン
甲第4号証:月刊「文具と事務機」 第79巻 第11号 株式会社ニチマ 2002年11月15日発行
甲第5号証:東京地裁平成23年(ワ)第377号 特許権侵害差止請求事件の第3準備書面(原告)(平成23年11月14日 原告:株式会社パイロットコーポレーション作成)
甲第6号証:イリュージョンの説明書
甲第7号証:上申書(提出日:平成22年4月21日)
甲第8号証:特開2004-148744号
甲第9号証:三菱鉛筆株式会社 特許室 課長代理の岩元淳氏による陳述書(平成26年9月22日)
甲第10号証:CILAS粒度分布測定報告書(平成24年7月12日作成)
甲第11号証:島津SALD-3100(測定年月日:2012年7月12日)
甲第12号証:特開2005-1369号公報
甲第13号証:特開2000-136339号公報
甲第14号証:特開2001-19888号公報
甲第15号証:特開2003-11574号公報
甲第16号証:特開2003-221543号公報
甲第17号証:特開2003-231855号公報
甲第18号証:微粒子ハンドブック 初版第1刷 株式会社朝倉書店 1991年9月1日
甲第19号証:日機装株式会社ウェブサイト「基礎 粒度分布測定の一般論、光の基礎理論」
甲第19号証の2:日機装株式会社ウェブサイト「粒子径分布測定における体積平均径[MV]とはどのような粒子径か?」
甲第20号証:「調査報告書(筆記具用インクの粒子径測定方法に関する調査)」(平成23年5月11日)
甲第21号証:「鑑定意見書」(作成者:椿淳一郎)(平成24年4月23日)
甲第22号証:現場で役立つ粒子径計測技術 初版第1刷 第2?7頁 日刊工業新聞社 2001年10月26日
甲第23号証:特開2003-206432号公報
甲第24号証:特開2001-207101号公報
甲第25号証:「粒子径分布測定装置を使うために知っておきたいこと?レーザ回析/散乱式測定を中心に?」 粉体技術 Vol.1 No.6 2009年
甲第26号証:「ナノメートルからセンチメートルまでの粒子径分布測定技術」 粉体技術 Vol.1 No.11 2009年
甲第27号証:「粉体技術者のための粉体入門講座53 入門の予習編-6 粒子の大きさの表し方-3」 粉体技術 Vol.6 No.6 2014年
甲第28号証:「粒度分布測定はなぜ難しいか」 Readout HORIBA Technical Reports No.4 株式会社堀場製作所 1992年1月
甲第29号証:「微粒子工学-分散の基礎と応用-」 株式会社朝倉書店 1994年6月25日
甲第30号証の1:「9 アクリルコポリマー着色ビーズ ラブコロール [RUBCOULEUR]」(大日精化工業株式会社の真球状アクリル系ポリマー微粒子)のパンフレット
甲第30号証の2:「ラブコロール測定結果まとめ」
甲第30号証の3の1?2:ラブコロール/日機装株式会社 HRA-100の測定結果(計測日時:2015年8月21日)
甲第30号証の4の1?3:ラブコロール/株式会社島津製作所 SLAD-3100の測定結果(測定年月日:2015年7月15日)
甲第30号証の5の1?6:ラブコロール/測定者:株式会社セイシン企業 LMS-2000eの測定結果(測定日:2015年7月22日)
甲第30号証の6の1?2:ラブコロール/Operator:tokumaru CILAS1064の測定結果(Date:2015年7月15日)
甲第30号証の7の1?2:ラブコロール/株式会社堀場製作所 LA-300の測定結果
甲第30号証の8の1?2:ラブコロール/株式会社堀場製作所 LA-920の測定結果
甲第30号証の9:ラブコロール/株式会社堀場製作所 レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置LA-950V2の測定結果
甲第30号証の10:ラブコロール/株式会社堀場製作所 CAPA-700の測定結果
甲第30号証の11:ラブコロール/ベックマン・コールター社 Multisizer 4の測定結果(2015年7月27日)
甲第31号証の1:「アートパール(登録商標)」(根上工業株式会社の真球状架橋ポリマー微粒子)のパンフレット Ver.1.05 第1頁(表紙)、第3頁、第7頁、第21頁 2014年7月31日
甲第31号証の2:「J-4PY測定結果まとめ」
甲第31号証の3の1?3:J-4PY/日機装株式会社 HRA-100の測定結果(計測日時:2015年8月21日)
甲第31号証の4の1?4:J-4PY/株式会社島津製作所 SALD-3100の測定結果(測定年月日:2015年8月25日)
甲第31号証の5の1?2:J-4PY/株式会社セイシン企業 LMS-2000eの測定結果(測定日:2015年8月12日)
甲第31号証の6の1?3:J-4PY/Operator:tokumaru CILAS1064の測定結果(Date:2015年8月10日)
甲第31号証の7の1?4:J-4PY/株式会社堀場製作所 LA-300の測定結果
甲第31号証の8の1?4:J-4PY/株式会社堀場製作所 LA-920の測定結果
甲第31号証の9の1?2:J-4PY/株式会社堀場製作所 レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置LA-950V2の測定結果
甲第31号証の10:J-4PY/株式会社堀場製作所 CAPA-700の測定結果
甲第31号証の11:J-4PY/ベックマン・コールター社 Multisizer 4の測定結果(2015年8月17日)
甲第32号証:粒子径計測技術 初版第1刷 日刊工業新聞社 1994年11月30日
甲第33号証:「粒度分布測定の基礎知識 6.粒度分布測定原理」 ベックマン・コールター社のウェブページ 2011年
甲第34号証:「JIS Z 8825-1:2001(ISO 13320-1:1999) 粒子径解析-レーザー回折法-第1部:測定原理」 第1刷 財団法人日本規格協会 平成13年6月30日
甲第35号証:「JIS Z 8825:2013 粒子径解析-レーザー回折・散乱法」 第1刷 一般財団法人日本規格協会 平成25年12月20日
甲第36号証:滝田誠一郎「消せるボールペン」30年の開発物語 初版第1刷 株式会社小学館 2015年4月6日
甲第37号証:特開平7-33997号公報
甲第38号証:特開平7-179777号公報
甲第39号証:特開平7-241388号公報
甲第40号証:特開平8-39936号公報
甲第41号証:特開2004-107367号公報
甲第42号証:特公平4-17154号公報
甲第43号証:口頭審理陳述要領書(事件の表示:無効2014-800128)(平成27年5月15日 被請求人パイロットインキ株式会社及び株式会社パイロットコーポレーション作成)
甲第44号証:特開2004-148744号公報
甲第45号証:特開2004-151600号公報
甲第46号証:特開2004-244489号公報
甲第47号証:特開2005-89576号公報
甲第48号証:化学大辞典8 縮刷版第1刷 共立出版株式会社 昭和39年2月15日
甲第10号証の2:CILASでのイリュージョン測定結果(甲第11号証のデータを屈折率1.65-00iで変換した結果)(Date:2015年9月9日)
甲第22号証の2:現場で役立つ粒子径計測技術 初版第1刷 第73?75頁 日刊工業新聞社 2001年10月26日
甲第30号証の2の2:「ラブコロール測定結果まとめ(追加版)」
甲第30号証の3の3:ラブコロール/日機装株式会社 HRA-100の測定結果(屈折率1.65-00iで再測定した結果)(計測日時:2015年9月4日)
甲第30号証の5の7?12:ラブコロール/株式会社セイシン企業 LMS-2000eの測定結果(甲30の5の1?6の各データを屈折率1.65-00iで変換した結果)(測定日:2015年7月22日)
甲第30号証の6の3?4:ラブコロール/CILAS1064の測定結果(甲30号証の6の1?2の各データを屈折率1.65-00iで変換した結果)(Date:2015年9月4日)
甲第31号証の2の2:「J-4PY測定結果まとめ(追加版)」
甲第31号証の3の4:ラブコロール/日機装株式会社 HRA-100の測定結果(屈折率1.65-00iで再測定した結果)(計測日時:2015年9月4日)
甲第31号証の5の3:J-4PY/株式会社セイシン企業 LMS-2000eの測定結果(甲31の5の1のデータを屈折率1.65-00iで変換した結果)(測定日:2015年8月12日)
甲第31号証の6の4?5:J-4PY/Operator:tokumaru CILAS1064の測定結果(甲第31号証の6の1?2の各データを屈折率1.65-00iで変換した結果)(Date:2015年9月4日)
甲第49号証:報告書「レーザー回折法の粒度分布測定における屈折率の設定について」(平成23年10月28日 被請求人パイロットインキ株式会社従業員作成)
甲第50号証:測定情報
甲第51号証:「【問い合わせ】粒度分布測定 屈折率の件」株式会社アイシンナノテクノロジーズ従業員からのメール(2015年8月21日)
甲第52号証:Microtrac(登録商標)粒度分析計「測定時の入力条件に関するガイドライン」 日機装株式会社
甲第53号証:報告書「レーザー回折法の粒度分布測定における屈折率設定について」(平成24年2月22日 被請求人パイロットインキ株式会社従業員作成)
甲第54号証:報告書(平成24年4月20日 請求人三菱鉛筆株式会社従業員作成)
甲第55号証:Multisizer 3の仕様(ベックマン・コールター社のウェブページ)(2015年9月8日)
甲第56号証:「JIS Z 8827-1:2008 粒子径解析-画像解析法- 第1部:静的画像解析法」 第1刷 財団法人日本規格協会 平成20年3月20日

第4 被請求人の主張・証拠方法

被請求人は、本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、上記「第3 1」?「第3 5」に記載した無効理由1?無効理由5は、いずれも理由がない旨を主張し、下記の証拠方法を提出している。

乙第1号証:JASIS2013新技術説明会 株式会社堀場製作所 2013年
乙第2号証:微粒子工学 -分散の基礎と応用- 初版第1刷 63?66頁 株式会社朝倉書店 1994年6月25日
乙第3号証:ビギナーズブックス16 はじめての粉体技術 初版第1刷 20?23頁 株式会社工業調査会 2000年11月15日
乙第4号証:フィラー活用事典 初版第1刷 40?43頁 株式会社大成社 1994年5月31日
乙第5号証:株式会社島津製作所のホームページのサイト「実践コース:測り方疑問解決編 レーザー回折式粒度分布測定装置 2 測定原理に依存する粒度分布」(2011年5月24日)
乙第6号証:試験報告書(マイクロカプセル平均粒子径測定)(イリュージョンの粒子径を測定したもの)(平成27年1月23日 被請求人株式会社パイロットコーポレーション従業員作成)
乙第7号証:精密粒度分布測定装置Multisizer(登録商標) 4e (ベックマン・コールター社製)の説明書(2014年12月)
乙第8号証:試験報告書(マイクロカプセルの平均粒子径測定-コールター法、画像解析法)(平成27年8月31日 被請求人株式会社パイロットコーポレーション従業員作成)
乙第9号証:「アートパール(登録商標)」(根上工業株式会社の真球状架橋ポリマー微粒子)のパンフレット Ver.1.05 第1頁(表紙)、第7頁、第21頁、第22頁 2014年7月31日
乙第10号証の1:コールター法による平均粒子径測定データ
乙第10号証の2:粒度分布レポート(画像解析法による平均粒子径測定データ)(測定日時:2015年1月19日)
乙第11号証:「レーザ回折 ナノメートルからミリメートルサイズまでの粒度分布」 レーザー回折法による粒子径測定:粒子計測のマルバーン

第5 当審の判断
1 無効理由1(明確性要件違反)について

(1) 無効理由1に関して、請求人は、以下の主張をしている。

『特許請求の範囲の記載中「前記可逆熱変色性マイクロカプセル顔料の平均粒子径は、0.5?2.0μmの範囲にあり」(構成要件C)との記載は、明細書の記載を考慮しても、それが具体的にどのような平均粒子径を有するマイクロカプセル顔料を指すかが不明であり、・・・(以下省略)』(審判請求書第2頁「7.(1)I.理由1の欄」)

『本件の請求項1に記載の発明特定事項のうち「平均粒子径」の定義ないし測定方法について、発明の詳細な説明の記載から明らかでないから、請求項1及びこれに従属する請求項2乃至7に係る特許発明は、明確でなく、特許法第36条第6項第2号により特許を受けることができないものであり、・・・(以下省略)』(審判請求書第10頁「7.(3)I.理由1の欄」)

(2) 特許法36条6項2号には、「特許を受けようとする発明が明確であること」でなければならない旨が規定されており、その趣旨は、仮に、特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には、特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となり、第三者に不測の不利益を及ぼすことがあり得るので、そのような不都合な結果を防止することにあると解される。
また、36条6項2号の解釈、すなわち、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時(優先権主張が伴う場合には、優先当時)における技術的常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。

(3) そこで、まず、「平均粒子径」の一般的技術的意義について検討する。

「平均粒子径」は、可逆熱変色性マイクロカプセル顔料(以下、単に「顔料」ということもある。)の「粒子」における複数の「粒子径」の和をその複数の個数で除したものであることは万人が認めるところであり、この際、当該「粒子」を「個別の粒子」として捉えるか、または、当該「個別」の「粒子」を集めたものである「粒子の集合体」として捉えるかによって、その「平均粒子径」が指す意味は全く別異のものとならざるを得ない。
最初に、当該「粒子」を「個別」のものとして捉える場合であるが、これは、該粒子が等しい直径を有する球状形のものでなくラグビーボール状のものやドーナツ形状のように一部凹んだもののように、非球状形の粒子の大きさ(長さ)を特定するために有効であるが、例えば、当該「個別の粒子」の「最大外径」と「最小外径」の長さを何らかの測定方法で取得し、その和(合計)を「2」で除して求める方法があり、実際、被請求人が出願し、本件特許出願前に特許公開公報として公開され、後に特許登録された特許第4312987号(特開2003-206432号公報)の【0007】に、「・・・当該マイクロカプセルの平均粒子径〔(最大外径+中央部の最小外径)/2〕が1?3μmの範囲・・・」旨明記されており、そのほか、特許第4271401号(【0015】、特開2003-253149号公報)、特許第3984509号(【0015】、特開2004-27047号公報)、特許第3984510号(【0015】、特開2004-27048号公報)、特許第4087222号(【0010】、特開2004-151600号公報)、特許第4024668号(【0010】、特開2004-205568号公報)、特許第4326817号(【0009】、特開2004-244489号公報)にも同様に明記されており、少なくとも本件特許出願時における被請求人においては、『平均粒子径〔(最大外径+中央部の最小外径)/2〕』は、「個別の粒子」の大きさ(長さ)を特定するためによく使われる指標、あるいはパラメーターであることが推認できるものである。
次に、当該「個別の粒子」を集めたものである「粒子の集合体」として捉える場合であるが、これは、上記「個別の粒子」で想定される粒子の形状はここでも同様であり、当該「粒子の集合体」においては、「球状形の粒子の集合体」、「非球状形の粒子の集合体」、または、「球状形の粒子と非球状形の粒子の混合である集合体」の態様が含まれていると認められ、上記どのような集合体であっても、その「粒子の集合体」としての「平均粒子径」とするのであれば、各「個別の粒子」の大きさ(長さ)を何らかの基準で特定した上で特定し、何らかの測定方法で、その大きさ(長さ)を取得し、各「個別の粒子」の大きさ(長さ)の和(合計)を「個別の粒子」の個数で除して求める方法があるが、一般に、「粒子の集合体」は、その粒子の大きさにもよるが、各「個別の粒子」それぞれの大きさ(長さ)を取得することは非実際・不可能であることから、下記学術文献で説明されているように、様々な取得方法が存在する。

(4) 「粒子の集合体」としての「平均粒子径」に対する学術文献上の定義

ア 『「微粒子ハンドブック」 初版第1刷 株式会社朝倉書店 1991年9月1日』(甲第18号証)には、以下の記載がある。

(ア) 「2.2.1 粒子径
粒子の大きさを表す場合,次の三つのものが重要となる。i)1個の粒子の大きさをどのように表すか〔代表径のとり方〕,ii)粒子の大きさに分布がある粒子群をどのように表すか〔粒度分布(→2.2.2)の表し方〕,および,iii)粒子群を代表する平均的な大きさをどのように選ぶか〔平均粒子径(→2.2.3)の選び方〕。
1個の粒子(とくに非球形の粒子)の大きさを表すのに種々の表し方があり,それらを代表径という。表1は主な代表径を示したものである。代表径には大きく分けて,幾何学的な寸法から定まるものと,何らかの物理量と等価な球の直径におきかえた相当径の二つがある(当審注・表1(下記参照。)は、「主な代表径とその意味」を示すものであり,幾何学的径として定方向径,マーチン径,ふるい径等が掲げられ,相当径として投影面積円相当径,等表面積球相当径,等体積球相当径,ストークス径,空気力学的径,流体抵抗相当径,光散乱径が挙げられている。)。また,代表径は単に粒子径または粒径とよばれることが多いが,その場合にはどの代表径によるものであるのかをあらかじめ明示しておくことが必要である。表中の代表径について補足説明の要するものについて以下に述べる。
顕微鏡写真を撮ってそれから粒径を求める場合,定方向径がよく用いられる。これは,粒子が三次元的にランダムに配向しているものとして,表1中の図のように一定の方向に粒子の寸法を測ることで得られるものである。針状粒子とか扁平な粒子では,粒子の配向が決して三次元的なランダムとはならないが,それはそれとしてある意味をもった粒径を与えることになる。この代表径と次のマーチン径は1個の粒子に対して意味はなく,あくまでも多数個の粒子を統計的に処理するときに有効なものとなるものである。
マーチン径は,定方向径と同じく一定方向に寸法を測って得られるものであるが,そのとき表1中の図に示すように粒子の面積が二分割される線分の長さで定義される。
ふるい径は相隣る目開きの間にふるい分けられた粒子径である。標準ふるいについてはJISで針金の直径および目開きが定められている。・・・(中略)・・・
次に,相当径のうち投影面積円相当径,等表面積相当径および等体積球相当径は,いずれも類似の意味を持った粒子径である。まず投影面積円相当径は,表1に示すように,粒子の投影面積と等しい面積をもつ円の直径である。粒子に平行光線を照射したときのさえぎり光量を検知して粒径を求める粒径測定法で得られる粒子径がこれに相当する。等表面積球相当径は,粒子の表面積と同じ表面積をもつ球の直径である。等体積球相当径は粒子の体積と等しい体積をもった球の直径であり,電気的検知帯法(→3.3.5.c)によって測定される粒子径はこれに相当する。
ストークス径は,現在最も広く用いられる代表径で,静止流体中を重力で落下する粒子の沈降速度(→3.3.5.e)vtと同じ沈降速度をもち,また同じ密度をもつ球形粒子の直径で,表1中の式のように表される。このような物理的な意味をもつので,流体中で運動する粒子の諸現象を考える場合に有用な代表径であるといえる。ストークス径は,表1中の式からわかるように,流体の粘度や粒子・流体密度が既知のときには,沈降速度vtを測定することから求められるし,またそれ以外の慣性法(→3.3.5.g)といわれる粒径測定法によってもこれが求められる。ストークス径は等沈降速度球相当径ともよぶことができる。
・・・(中略)・・・
流体抵抗力相当径は,ある粒子の流体から受けるストークスの流体抵抗力と等しい抵抗力をもった球形粒子の直径として定義される。拡散法(→3.3.5),モビリティアナライザー(→3.3.5.i),光子相関法(→3.3.5.b)などによって測定される粒子径はこれに相当する。
光散乱径は,1個の粒子に光を照射したときの粒子からの散乱光の強弱から求まる粒子径である。この散乱光の強弱は,粒子の大きさ,形状,屈折率や照射する光の波長などに依存するため,通常は粒子からの散乱光の強さと等しい散乱光強さをもったポリスチレンラテックス球形粒子の直径として表す。すなわち,光散乱径はポリスチレンラテックス粒子の光散乱光強さにおきかえられた相当径である。
以上のことからわかるように,代表径は粒径測定法と密接に関係しており,多くの場合測定法がきまると代表径はきまる。
上で述べた代表径は,球形粒子及び非球形粒子について適用できるが,球形粒子の場合には,ふるい径,空気力学的径及び光散乱径を除いてすべての代表径は等しくなる。」

(イ) 「2.2.2 粒度分布
ある粒子群の個々の粒子の大きさがある代表径(→2.2.1)で測定されたとする。測定された個々の粒子の大きさが不揃いである粒子群を多分散といい,非常に揃っている粒子群を単分散であるという。多分散粒子の特徴は,通常,頻度分布またはこれを積算した積算分布-これらを総称して粒度分布という-の形で表される。ある粒子群の粒度分布を表示する場合,代表径を明示しておくことと,粒子の量がどのような基準-個数,長さ,面積,体積(または質量)-で測定されたかを明確に区別しておくことが必要である。これらによって粒度分布が異なるからである。」

(ウ) 「2.2.3 平均粒子径
ある代表径(→2.2.1)を用いて,ある基準で測定された粒度分布(→2.2.2)が与えられたとき,ある粒径区分dp±Δdp/2(ただし,Δdpは粒径区分の幅)内にある粒子群の個数,長さ,表面積,質量をそれぞれn,l,s,m・・・(中略)・・・とし,・・・(中略)・・・表1に示すような種々の平均粒子径が定義できる〔当審注:表1は「各種平均粒子径とその定義式」を示すものであり,平均粒子径の種類として,個数平均径,長さ平均径,面積平均径,質量(または体積)平均径,平均面積径,平均体積径,調和平均径,個数中位径・幾何平均径,質量(または体積)中位径が掲げられるとともに,その定義式が掲げられている。〕。・・・(中略)・・・結果を図1に示した。この図から,平均粒子径はその定義のしかたによってずいぶん異なることが理解できるであろう。」

(エ) 「


(オ) 「3.3.2 粒度測定法一覧
1.光などに対するレスポンス,および通過法


2.気流中の粒子の挙動



イ 『「現場で役立つ粒子径計測技術」 初版第1刷 第2?7頁 日刊工業新聞社 2001年10月26日』(甲第22号証)には、以下の記載がある。

(ア) 「1.2 粒子の大きさの決め方
粒子の大きさを一つの数値で表すことは,結構難しいことである。図1.3では,理想的な粒子として球粒子と立方体粒子を,実在粒子の代表として石灰石を例にとった。球の大きさはと聞かれれば,直径で答えるし,立方体の大きさはと聞かれれば,たいていの人は一辺の長さで答える。では石灰石の大きさはと聞かれると,???となってしまう。石灰石は球や立方体と何が違うか,違いは2つある。1つは形の表現の問題である。「球」,「立方体」といえば,誰もが同じ形を思い浮かべる。形を正確に特定できるから,大きさを表す「直径」,「一辺」も正確に特定することができる。それに対して石灰石では,形を一言で表現することはできない。
もう1つの違いは,形の相似性である。人間の形はおおむね相似であるため形を正確に表現できなくとも,身長や体重などで人間の大きさを代表することができる。人間の身長や胴回りのように,粒子の大きさを代表するものを代表粒子径と呼ぶ。しかし実在粒子は図1.1や図1.3の石灰石粒子のように,何となく共通する特徴は認められるものの,とても相似といえるような形ではない。したがって代表粒子径は幾何学的に定義されたり,粒子の大きさが関与する物理現象を利用して定義される。・・・(中略)・・・
幾何学的な代表粒子径の定義の例は,図1.4に示す粒子影像を平行線で挟んだフェレー(Feret)径や,図1.5に示すふるい目開きである。また図1.6に示す,粒子と同じ体積を持つ球の直径も代表径として良く定義される。体積の他に表面積や粒子の投影面積,周長が等しい球や円の直径も代表径としてはよく定義される。このように何らかの方法で置き換えられた球や円の直径は,球相当径,円相当径と呼ばれる。
図1.7に示すように,粒子と同じ沈降速度を持つ球(密度は粒子と同じ)の直径も代表粒子径としてよく用いられ,沈降相当径あるいはストークス径と呼ばれる。遠心沈降透過法やX線透過法に代表される液相沈降法によって測定される粒子径は,沈降相当径である。図1.8に示すように粒子に光を当てると粒子は光を散乱するが,散乱パターンが最も近い球の直径を代表粒子径としているのが,現在粒子径分布測定技術の主流となっているレーザ回折・散乱法である。
このように代表粒子径は測定原理に対応して定義されるので,人間の大きさを身長で表した場合と肩幅で表した場合のように,原理的には代表粒子径が異なれば,同じ粒子でも異なる粒子径となる。」

(イ) 「



(5) 学術文献上の「平均粒子径」の意義のまとめ

上記学術文献上の記載によれば、1個の粒子の大きさ(粒子径、代表径)の表し方としては種々のものがあり、大きく幾何学的径と相当径(何らかの物理量と等価な球の直径に置き換えたもの)とがあり、幾何学的径には定方向径、マーチン径、ふるい径などがあり、相当径には投影面積円相当径、等表面積球相当径、等体積球相当径、ストークス径、流体抵抗力相当径、光散乱径など種々のものがある。「粒子の集合体」としての「平均粒子径」とは、「粒子の集合体」を代表する平均的な粒子径(代表径)を意味するものであるが、個数平均径、長さ平均径、面積平均径、体積平均径等といった種々の平均粒子径及びその定義式(算出方法)があり、同じ粒子であってもその代表径の算出方法によって異なるものである。
したがって、本件発明1の「平均粒子径は、0.5?2.0μmの範囲にあり、」のように、抽象的に平均粒子径として特定の数値範囲を示すだけでは、それがいかなる算出方法によるものであるかが明らかにならないから、その範囲が具体的に特定できないことになる。他方、粒子径(代表径)は、測定原理に対応して定義されているように、粒径測定法と密接に関係していることが認められ、測定方法が決まれば粒子径(代表径)が定まるということができる。
よって、明細書中に、平均粒子径の定義(算出方法)を記載するか、又はその測定方法に関する記載があれば、特定の数値範囲に属する平均粒子径のものを示すものとして、その特定に欠けるところはないことになる。そこで、本件明細書の記載を検討する。

(6) 本件明細書の記載の検討

ア 「平均粒子径」に関し、本件明細書の発明の詳細な説明には、次のとおりの記載がある。

(ア) 「本発明は前述した問題点を解消しようとするものであって、即ち、筆跡を擦過という簡便な手段により変色させることができ、前記筆跡は剥離したり転移することなく、明瞭且つ色濃度の維持が可能な可逆熱変色性筆記具用水性インキ組成物及びそれを収容した筆記具を提供しようとするものである。」(【発明が解決しようとする課題】、【0003】)

(イ) 「本発明は、前記した従来の可逆熱変色性筆記具用水性インキ組成物及びそれを収容した筆記具の問題点を解消しようとするものであって、即ち、(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)前記両者の呈色反応の生起温度を決める反応媒体からなる可逆熱変色性組成物を内包させた可逆熱変色性マイクロカプセル顔料と、水を少なくとも含有してなり、前記可逆熱変色性マイクロカプセル顔料の平均粒子径が0.5?2.0μmの範囲にあり、且つ、4.0μmを超える粒子が全マイクロカプセル顔料中の10体積%未満であり、2.0μm未満の粒子が全マイクロカプセル顔料中の50体積%以上である可逆熱変色性筆記具用水性インキ組成物を要件とする。」(【0004】)

(ウ) 「前記三成分からなる可逆熱変色性組成物はマイクロカプセルに内包して使用される。それは、酸性物質、塩基性物質、過酸化物等の化学的に活性な物質又は他の溶剤成分と接触しても、その機能を低下させることがないことは勿論、耐熱安定性が保持できるためであり、種々の使用条件において可逆熱変色性組成物は同一の組成に保たれ、同一の作用効果を奏することができるからである。
前記マイクロカプセルは、平均粒子径0.5?2.0μmの範囲が実用性を満たす。
平均粒子径が2.0μmを越える系では、擦過によってマイクロカプセル顔料が筆跡から剥離し易くなる。一方、0.5μm以下の系では、高濃度の発色性を示し難い。
更に、前記マイクロカプセル顔料中の4.0μmを越える粒子が全マイクロカプセル顔料中の10体積%未満、好ましくは7体積%未満、より好ましくは5体積%未満であり、2.0μm未満の粒子が全マイクロカプセル顔料中の50体積%以上、好ましくは60体積%以上、より好ましくは70体積%以上である。
4.0μmを越える粒子が顔料中10体積%を越えると、インキ流通性を損ない易くなり、筆跡がかすれたり、筆跡を形成できなくなる。
また、2.0μm未満の粒子が顔料中50体積%未満では、紙面に浸透する粒子が少なく、紙面上に存在する粒子が多くなるため、擦過によって筆跡から剥離したり、空白部分に転移する粒子が多く存在するため、筆跡の明瞭且つ色濃度の維持ができなくなる。
前記マイクロカプセルは、内包物/壁膜=7/1?1/1(重量比)の範囲が有効であり、内包物の比率が前記範囲より大になると発色時の色濃度及び鮮明性の低下を免れず、好適には、内包物/壁膜=6/1?1/1(重量比)である。
前記可逆熱変色性組成物のマイクロカプセル化は、界面重合法、界面重縮合法、in Situ重合法、コアセルベート法、液中硬化被覆法、水溶液からの相分離法、有機溶媒からの相分離法、融解分散冷却法、気中懸濁被覆法、スプレードライング法等があり適宜選択される。更にマイクロカプセルの表面には、目的に応じて更に二次的な樹脂皮膜を設けて耐久性を付与させたり、表面特性を改質させて実用に供することもできる。
前記マイクロカプセル顔料は、円形断面の形態であっても非円形断面の形態であってもよい。」(【0010】)

(エ) 「実施例1
可逆熱変色性マイクロカプセル顔料の調製
(イ)成分として1,3-ジメチル-6-ジエチルアミノフルオラン2.5部、(ロ)成分として2,2-ビス(4′-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン5.0部、1,1-ビス(4′-ヒドロキシフェニル)n-デカン3.0部、(ハ)成分としてカプリン酸4-ベンジルオキシフェニルエチル50.0部からなる色彩記憶性を有する可逆熱変色性組成物を均一に加温溶解し、壁膜材料として芳香族イソシアネートプレポリマー30.0部、助溶剤40.0部を混合した溶液を、8%ポリビニルアルコール水溶液中で、平均粒子径が約1.8μmになるよう分散条件を調整して乳化分散し、70℃で約1時間撹拌を続けた後、水溶性脂肪族変性アミン2.5部を加え、更に6時間撹拌を続けて可逆熱変色性マイクロカプセル顔料懸濁液を得た。
前記懸濁液を遠心分離して可逆熱変色性マイクロカプセル顔料を単離した。
なお、前記マイクロカプセル顔料(T1:-18℃、T2:-9℃、T3:45℃、T4:64℃)は橙色から無色に色変化し、平均粒子径は1.79μm、4.0μmを越える粒子が全マイクロカプセル顔料中4.4体積%、2.0μm未満の粒子が全マイクロカプセル顔料中60.8体積%であった。
・・・(中略)・・・
筆跡の変色挙動
前記筆記具を用いて市販PPC用紙に筆記して「ABCDEF」の文字(筆跡)を形成した。
前記筆跡は室温下(25℃)で橙色であり、「DEF」の文字上を軸筒に取り付けられたSEBS製摩擦部材でこすると、「DEF」の文字が消色した。
ついで、用紙を-18℃の冷凍庫内で冷却すると「DEF」の文字が再び発色し、もとの「ABCDEF」の筆跡となった。「ABC」と「DEF」の橙色はほぼ同程度の濃度で、摩擦による筆跡の剥離や紙面の空白部分の汚染は見られなかった。」(【0023】、【0026】)

(オ) 「実施例2
可逆熱変色性マイクロカプセル顔料の調製
(イ)成分として4,5,6,7-テトラクロロ-3-〔4-(ジエチルアミノ)-2-エトキシフェニル〕-3-〔4-(ジエチルアミノ)-2-メチルフェニル〕-1(3H)-イソベンゾフラノン2.0部、(ロ)成分として1,1-ビス(4′-ヒドロキシフェニル)n-デカン8.0部、(ハ)成分としてステアリン酸ステアリル、50.0部、ステアロン5.0部からなる色彩記憶性を有する可逆熱変色性組成物を均一に加温溶解し、壁膜材料として芳香族イソシアネートプレポリマー30.0部、助溶剤40.0部を混合した溶液を、8%ポリビニルアルコール水溶液中で、平均粒子径が1.6μmになるよう分散条件を調整して乳化分散し、70℃で約1時間撹拌を続けた後、水溶性脂肪族変性アミン2.5部を加え、更に6時間撹拌を続けて可逆熱変色性マイクロカプセル顔料懸濁液を得た。
前記懸濁液を遠心分離して可逆熱変色性マイクロカプセル顔料を単離した。
なお、前記マイクロカプセル顔料(T1:43℃、T2:52℃、T3:52℃、T4:45℃、ΔH:58℃)は青緑色から無色に色変化し、平均粒子径は1.56μm、4.0μmを越える粒子が全マイクロカプセル顔料中1.8体積%、2.0μm未満の粒子が全マイクロカプセル顔料中75.8体積%であった。
・・・(中略)・・・
筆跡の変色挙動
前記筆記具を用いて市販PPC用紙に筆記して「あいうえお かきくけこ」の文字(筆跡)を形成した。
前記筆跡は室温下(25℃)で青緑色であり、「あいうえお」の文字上を軸筒に取り付けられたSEBS製擦過部材でこすると、「あいうえお」の文字が消色した。
擦過を止めてしばらく放置すると、「あいうえお」の文字が自然に発色し、元の「あいうえお かきくけこ」の筆跡となった。「あいうえお」と「かきくけこ」の青緑色はほぼ同程度の濃度で、摩擦による筆跡の剥離や紙面の空白部分の汚染は見られなかった。」(【0027】、【0030】)

(カ) 「比較例1
可逆熱変色性マイクロカプセル顔料の調製
実施例1の乳化条件を変更した以外は同様の方法により平均粒子径が2.93μm、4.0μmを越える粒子が全マイクロカプセル顔料中25.4体積%、2.0μm未満の粒子が全マイクロカプセル顔料中16.1体積%のマイクロカプセル顔料を調製した。
・・・(中略)・・・
筆跡の変色挙動
前記筆記具を用いて市販PPC用紙に筆記して「ABCDEF」の文字(筆跡)を形成した。
前記筆跡は室温下(25℃)で橙色であり、「DEF」の文字上を軸筒に取り付けられたSEBS製擦過部材でこすると、「DEF」の文字が消色した。
ついで、用紙を約-18℃の冷凍庫内で冷却すると「DEF」の文字が発色したが、該文字は初期の30%程度の色濃度であり、しかも文字周囲に橙色のインキが転移して空白部分を汚染していた。これは、擦過部材で擦過した際、可逆熱変色性マイクロカプセル顔料が紙面から脱落および転移したためと考えられる。」(【0034】、【0037】)

(キ) 「比較例2
可逆熱変色性マイクロカプセル顔料の調製
実施例2の乳化条件を変更した以外は同様の方法により平均粒子径が2.47μm、4.0μmを越える粒子が全マイクロカプセル顔料中19.3体積%、2.0μm未満の粒子の全マイクロカプセル顔料中31.8体積%のマイクロカプセル顔料を調製した。
・・・(中略)・・・
筆跡の変色挙動
前記筆記具を用いて市販PPC用紙に筆記して「あいうえお かきくけこ」の文字(筆跡)を形成した。この筆跡は室温下(25℃)で青緑色であり、「あいうえお」の文字上を軸筒に取り付けられたSEBS製擦過部材でこすると、「あいうえお」の文字が消色した。
擦過を止めてしばらく放置すると、「あいうえお」の文字が自然に発色してきたが、該文字は初期と比べて色濃度が低く、しかも文字周囲に青緑色のインキが転移して空白部分を汚染していた。これは、擦過部材で擦過した際、可逆熱変色性マイクロカプセル顔料が紙面から脱落および転移したためと考えられる。」(【0034】、【0037】)

イ 本件発明は、「筆記具」に係る発明であって、「可逆熱変色性マイクロカプセル顔料」を含有する「可逆熱変色性筆記具用水性インキ組成物」を有し、かかる「可逆熱変色性マイクロカプセル顔料」に関しては、「平均粒子径は、0.5?2.0μmの範囲にあり、」との事項(以下、「本件平均粒子径事項」という。)を発明を特定するために必要な事項として備えるものである。
そして、かかる事項を備えることで、上記(6)アの摘示(ア)に記載の課題、特に、摩擦による筆跡の剥離を解決するものと認められる。これについて、上記(6)アの摘示(エ)?(キ)の実施例1、2、比較例1、2における実験結果によれば、平均粒子径が約1.8μmの実施例1及び平均粒子径が1.6μmの実施例2では、摩擦による筆跡の剥離は見られなく、一方、平均粒子径が2.93μmの比較例1及び平均粒子径が2.47μmの比較例2では、摩擦による筆跡の脱落(剥離)が見られたことから追認できるものである。

ウ また、本件明細書には、本件発明の可逆熱変色性マイクロカプセル顔料である粒子の調製方法として、例えば、実施例1として、「(イ)成分として1,3-ジメチル-6-ジエチルアミノフルオラン2.5部、(ロ)成分として2,2-ビス(4′-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン5.0部、1,1-ビス(4′-ヒドロキシフェニル)n-デカン3.0部、(ハ)成分としてカプリン酸4-ベンジルオキシフェニルエチル50.0部からなる色彩記憶性を有する可逆熱変色性組成物を均一に加温溶解し、壁膜材料として芳香族イソシアネートプレポリマー30.0部、助溶剤40.0部を混合した溶液を、8%ポリビニルアルコール水溶液中で、平均粒子径が約1.8μmになるよう分散条件を調整して乳化分散し、70℃で約1時間撹拌を続けた後、水溶性脂肪族変性アミン2.5部を加え、更に6時間撹拌を続けて可逆熱変色性マイクロカプセル顔料懸濁液を得た。
前記懸濁液を遠心分離して可逆熱変色性マイクロカプセル顔料を単離した。」と記載されているのみで、本件発明の「平均粒子径」の測定につき採用されるべき測定方法について明示の記載はない。

エ なお、上記(6)アの摘示(イ)の「4.0μmを超える粒子が全マイクロカプセル顔料中の10体積%未満であり、2.0μm未満の粒子が全マイクロカプセル顔料中の50体積%以上である」との記載には、「個別の粒子」ではなく、「粒子の集合体」としてとらえることの示唆がある。また、同じく上記記載より、粒子の大きさ以外に、粒子の体積を測定しているものと推察され、上記『学術文献上の「平均粒子径」の意義のまとめ』から、本件発明は、「平均粒子径」の一つである「体積平均径」であると解釈する余地があり、この点については、請求人、被請求人共に争いの余地はない。(審判請求書第16頁下から第5行?末行、答弁書第10頁下から第3行?第11頁第1行)

(7) そこで、「体積平均径」に関する技術常識について考察する。
上記学術文献ア、イによれば、電気的検知帯法(当審注:コールカウンター法ともいう。)で扱われる「等体積球相当径」は、粒子の体積と等しい体積をもつ球に置き換えたとき(幾何学的特性)のその球の直径であり、また、光散乱法で扱われる「光散乱相当径」は、粒子と同じ光の散乱パターンをもつ球に置き換えたとき(光学的特性)のその球の直径であり、また、光回折法で扱われる「光の回折相当径」は、粒子と同じ光の回折パターンをもつ球に置き換えたとき(光学的特性)のその球の直径であり、さらに、沈降法で扱われる「ストークス径」は、粒子と同じ沈降速度をもつ球に置き換えたとき(動力学的)のその球の直径であり、これらの方法から「体積平均径」が求められることは、当業者に顕著である。
なお、それらは、それぞれ着目する特性を違えて測定して体積平均径から平均粒子径を得ているのであるから、測定方法の違いにより平均粒子径の値自体に差異が生じないとは言い切れない。

(8) また、当審合議体において、職権審理により、本件特許である「特許第4961115号」の出願日(平成17年6月1日)当時の当業者(但し、請求人、被請求人を除く)における筆記具用インキに含有されている顔料の平均粒子径(平均粒径)の測定の際、どのような方法が採用されていたのかを、下記検索条件に基づく特許出願の特許公開公報の該当個所を調査したところ、以下のとおりである。

〔検索条件〕

ア 出願日:平成14年6月1日?平成17年5月31日
イ 出願人:請求人、被請求人を除く
ウ IPC(国際特許分類):C09D11/16(筆記用インキ)
:C09D11/18(ボールペンに使用
するもの)
エ 全文検索キーワード:「平均粒子径」または「平均粒径」
オ その他:分割出願を除く。

〔調査結果〕

A社:電子顕微鏡法(特開2006-265519号公報【0008】等)
レーザー光回折・散乱法(特開2006-206704号公報【0008】等)
B社:遠心沈降法(特開2004-197011号公報【0026】等)
C社:電子顕微鏡法(特開2005-29766号公報【0032】)
D社:レーザー光回折・散乱法(特開2004-238502号公報【0020】)
電子顕微鏡法(特開2004-238502号公報【0028】)
E社:遠心沈降法(特開2004-51802号公報【0080】等)

そして、上記〔調査結果〕によれば、本件特許の出願(平成17年6月)当時において、当業者は、レーザ回折法、遠心沈降法、電子顕微鏡法等の様々な方法による測定装置により筆記具用インクで使用される顔料の粒子の平均粒子径を測定していたと認められるものの、当業者において、レーザ回析法による測定装置で計測することが既に主流になっていたとか、一般化していたということもできないというべきであって、既にレーザ回折法による測定装置で計測することが当然であるという技術常識が存在していたということはできない。

ここで、被請求人は、「本件明細書の記載及び技術常識によれば、本件特許発明に係る粒子径がレーザー回折法による球相当径を測定するのが合理的な方法であると理解できる」旨述べており、「レーザー回折法」を強調しているが、当審と別事件では、被請求人である株式会社パイロットコーポレーションから、東京地方裁判所民事第29部に対して提出された、平成23年11月14日付け「第3準備書面(原告)」(東京地裁平成23年(ワ)第377号 特許権侵害差止請求事件、原告:株式会社パイロットコーポレーション、被告:三菱鉛筆株式会社、以下、「甲第5号証」という。)の第2頁の第1.1.「(1) 甲特許の出願経過と平均粒子径の測定法」の欄には、「甲特許の明細書には、構成要件甲1Bの「平均粒子径」の測定法について直接の指示はない。しかし、本件特許出願当時、平均粒子径の測定は、レーザー回折式又は遠心沈降式を使用するのが当業者の技術常識であり、本件特許明細書に接した当業者ならば、「平均粒子径」とはレーザー回折式か遠心沈降式で測定した値であると理解するのが通常であったことについて、原告第1・第2準備書面で詳細に説明し、各甲号証によっても立証済みである。」と記載されており(なお、上記記載における「甲特許」は、『特許第4601720号』であり、「本件特許出願当時」は、『甲特許の原出願の出願日当時』であり平成14年10月31日当時であること、を意味することについては、第1回口頭審理において、両当事者に対して確認済である(「第1回口頭審理調書」参照。)、「遠心沈降式」の有無により、その主張は一貫していない。

したがって、本件明細書には、本件特許出願時の技術常識を考慮しても本件平均粒子径事項に係る平均粒子径の測定方法が記載されているとはいえない。

(9) 発明の明確性に関して、その充足・非充足を審査官(審判官の合議体)が確定できない場合には、出願人(特許無効審判の被請求人)が証明責任を負うと解するのが相当である。

(10) してみると、本件発明は、本件平均粒子径事項に係る平均粒径の測定方法が明らかでなく、上述したとおり、平均粒径の値自体はその測定方法の違いにより差異が生じないとは言い切れず、測定方法の不明な本件平均粒子径事項に係る平均粒子径の値のみではかかる値を有する粒子を特定できず、その粒子自体が明確とはいえないから、結局、特許を受けようとする発明の技術的範囲が明確でなく、第三者に不測の不利益を及ぼすことがあり得るといえる。

なお、被請求人は、「測定対象粒子の形状が真球であれば、その幾何学的な直径が粒子径であって、特定の測定方法によって真球を測定した場合に測定装置から出力される粒子径をもって粒子径を定義する必要性は全く生じない。測定対象粒子の形状が真球で無い場合には、厳密には、測定原理によって、測定対象粒子と同一の挙動をする球形粒子の直径は異なる。しかし、測定対象粒子の形状が球に近ければ、それらのどの方法を採っても測定結果に大きな差が生じない。したがって、測定方法を特定しなくても、第三者に対して不測の不利益を及ぼすことにはならないのであるから、複数の方法があること自体は明確性要件違反とすべき根拠にはならない。すなわち、代表径のとり方に基づく誤差は粒子の形が球形から乖離した歪な構造になっていることに基づいて生ずるものであるところ、本件特許発明において想定している「マイクロカプセル顔料」は、その用途・機能からも明らかなように、厳密な球形でないにせよ略球形である。従って、特に説明をしなくても、これを球形とみなして粒子径を測定することが可能であり、測定方法が異なっても、大きな差は生じない。すなわち、上記の方法が本件における「マイクロカプセル顔料」の測定に適したものであるか否かはともかく、請求人の主張するどの測定方法を用いても、(同一の測定方法で行った際に不可避的に生ずるような)誤差程度の違いしか出ないと考えるのが合理的である・・・(中略)・・・。」旨(答弁書第13頁下から第9行?第14頁第10行)述べているが、本件明細書には、上記(6)アの摘示(ウ)によれば、「前記マイクロカプセル顔料は、円形断面の形態であっても非円形断面の形態であってもよい。」とのことであり、非円形断面を排除するものでなく、また、上記(6)アの摘示(エ)?(キ)の実施例1、2、比較例1、2を参酌しても、円形断面の粒子と非円形断面の粒子とがどのような割合で調製されるのかとか、その粒子の形状等認識できる記載は一切ないことから、被請求人を主張するように、本件特許発明において想定している「マイクロカプセル顔料」が「略球形」であると断定することは不可能であり、上記被請求人の主張を採用することはできない。

(11) したがって、本件特許の出願は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。

第6 むすび

以上のとおり、本件発明に係る特許請求の範囲の記載が、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は同法第123条第1項第4号に該当するので、他の無効理由について検討するまでもなく、無効とすべきものである。

審判に関する費用については、特許法169条2項の規定で準用する民事訴訟法61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-05-27 
結審通知日 2016-05-31 
審決日 2016-06-28 
出願番号 特願2005-161272(P2005-161272)
審決分類 P 1 113・ 537- Z (C09D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 桜田 政美  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 冨士 良宏
國島 明弘
登録日 2012-03-30 
登録番号 特許第4961115号(P4961115)
発明の名称 可逆熱変色性筆記具用水性インキ組成物及びそれを収容した筆記具  
代理人 青木 篤  
代理人 中村 行孝  
代理人 近藤 惠嗣  
代理人 柏 延之  
代理人 伊藤 健太郎  
代理人 三橋 真二  
代理人 堀田 幸裕  
代理人 前川 英明  
代理人 中村 行孝  
代理人 堀田 幸裕  
代理人 近藤 惠嗣  
代理人 山口 健司  
代理人 勝沼 宏仁  
代理人 勝沼 宏仁  
代理人 柏 延之  
代理人 島田 哲郎  
代理人 萩尾 保繁  
代理人 前川 英明  
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