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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04N
管理番号 1332863
審判番号 不服2015-22933  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-11-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-12-28 
確定日 2017-10-10 
事件の表示 特願2014- 6965「ショベル」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 7月 3日出願公開、特開2014-123955〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.経緯
1.手続
本願は、平成22年11月16日に出願した特願2010-256295号の一部を平成26年1月17日に新たな特許出願としたものであって、平成26年12月11日(起案日)付けで拒絶の理由が通知され、それに応答して平成27年2月16日付けで手続補正がなされ、平成27年5月27日(起案日)付けで最後の拒絶の理由が通知され、それに応答して平成27年7月28日付けで意見書が提出されたが、平成27年9月18日(起案日)付けで拒絶査定がなされた。
これに対し、平成27年12月28日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

2.査定
原査定の理由は、概略、以下のとおりである。

本願の請求項1に係る発明は、下記刊行物1,4,5に記載された発明、本願の請求項2ないし8に係る発明は、下記刊行物1ないし5に記載された発明、及び請求項9,10に係る発明は、下記刊行物1ないし7に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

記(引用文献)
引用文献1:特開2010-204821号公報
引用文献2:特開2010-219587号公報
引用文献3:特開2006-48451号公報
引用文献4:特開2002-166802号公報
引用文献5:特開2002-19556号公報
引用文献6:特開2009-171537号公報
引用文献7:特開2009-202689号公報

第2.本願発明
本願の請求項1ないし10に係る発明は、平成27年2月16日付けの手続補正によって補正された明細書、特許請求の範囲、及び図面の記載からみて、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載した事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、そのうち、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、下記のとおりである。
なお、本願発明の各構成の符号は、説明のために当審において付与したものであり、以下、構成(A)、構成(B)などと称する。

(本願発明)
(A)走行動作を行う下部走行体と、
前記下部走行体に旋回自在に搭載される上部旋回体と、
前記上部旋回体に取り付けられ、アタッチメントに含まれるブームと、
前記ブームに取り付けられ、前記アタッチメントに含まれるアームと、
前記上部旋回体の三方向を撮像するように、前記上部旋回体の左側面、右側面、及び後面の3箇所に搭載される撮像装置と、
前記撮像装置の撮像画像から出力画像を生成する制御部と、
前記上部旋回体に搭載される運転室と、
前記運転室内に設置される表示装置と、を有するショベルであって、
(B)前記撮像装置は、隣り合う撮像装置の撮像範囲が重複する重複領域が前記上部旋回体の左後方及び右後方の2方向に形成されるように配置され、
(C)前記制御部は、前記隣り合う撮像装置のそれぞれの撮像画像を合成して前記重複領域に対応する出力画像部分を生成し、
(D)前記表示装置には、前記2方向に形成された前記重複領域に対応する出力画像部分を含み、且つ、上方を除いた状態で前記出力画像が表示される、
(E)ショベル。

第3.当審の判断
1.引用文献の記載事項
(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1である特開2010-204821号公報には、「周囲監視装置を備えた作業機械」(発明の名称)に関し、図面と共に次に掲げる事項が記載されている。

【0010】
本発明は、これらの問題点に鑑みてなされたもので、作業機械の上方に視点を持つ俯瞰画像と周囲を撮影するカメラからのカメラ画像を最適位置で結合して違和感のない結合画像を生成するものである。

【0015】
以下、最良の実施形態を添付図面を参照しながら説明する。図1は、作業機械の例としての油圧ショベルの外観を示す図である。油圧ショベルは、それぞれが垂直方向に回動するブーム1a、アーム1b及びバケット1cを備えた多関節型のフロント作業機1Aと、上部旋回体1d及び下部走行体1eからなる車体1Bとで構成される。
【0016】
上部旋回体1dには、運転室1fが備えられている。フロント作業機1Aのブーム1aの基端は上部旋回体1dの前部に支持されている。ブーム1a、アーム1b、バケット1c、上部旋回体1d及び下部走行体1eはそれぞれブームシリンダ3a、アームシリンダ3b、バケットシリンダ3c、旋回モータ3d(図1には図示しない)及び左右の走行モータ3e,3f(図示しない)の各アクチュエータによりそれぞれ駆動される。また、ブーム1a、アーム1b、バケット1c、上部旋回体1dは、それぞれの回動角を検出する角度検出器8a,8b,8c,8dを備える。また、油圧ショベルの後方には、たとえば作業員20が存在することがある。
【0017】
図2は、油圧ショベルを上方視点から見た外観(俯瞰画像)図である。上部旋回体1dの上部の車体1Bには、右側方監視用のカメラ13a、後方監視用のカメラ13b、左側方監視用のカメラ13cが備えられ、これらの監視範囲は12a,12b、12cである。また、油圧ショベルは下部走行体1e、1e’を備え、前記監視範囲には、フロント作業機1Aの作業範囲14が含まれる。
【0018】
図3は、本実施形態にかかる周囲監視装置を説明する図である。図3において31はカメラ13aの映像信号、32はカメラ13bの映像信号、33はカメラ13cの映像信号、50は画像処理装置、900はカメラ13a及び13b及び13cにより周囲シーン撮影して作業機械周囲の映像等を表示するモニタテレビ、1000は表示装置900の表示内容を監視する運転室1fの運転員である。
【0019】
画像処理装置50は、画像入力部200、俯瞰画像作成部300、結合位置算出部400、結合画像作成部450、結合画像合成部500、合成画像障害物検知部600、作業機械の姿勢データ取込み部700、作業機械の動作データ取込み部750、表示画像生成部800を備える。なお、画像処理装置50はこれらの画像処理が実現できるPC又は画像処理専用装置で構成することができる。
【0020】
処理に際しては、まず、カメラ13aにより撮影対象シーン12aを撮影して、撮影した映像信号31を画像処理装置50へ伝送する。画像処理装置50は、前記映像信号31を入力して画像入力部200に格納する。また、カメラ13bにより撮影対象シーン12bを撮影して、撮影した映像信号32を画像処理装置50へ伝送する。画像処理装置50は、前記映像信号32を入力して画像入力部200に格納する。カメラ13cは、撮影対象シーン12cを撮影して、撮影した映像信号33を画像処理装置50へ伝送する。画像処理装置50は、映像信号33を入力し画像入力部200に格納する。格納した映像信号31及び映像信号32及び映像信号33は俯瞰変換して俯瞰画像300を作成する。なお、俯瞰画像300の作成は、公知の技術(例えば特開2006-48451号公報参照)により実現できる。
【0021】
次に、作業機械のフロント作業機1Aの姿勢データ700を取り込み、更に、上部旋回体1d及び下部走行体1eの動作データ750を取り込み、これらの姿勢データ700と動作データ750から、カメラ13aが撮影したシーン12aに対して、動作データ750及び動作データ750の変動に連動させて俯瞰画像300における結合位置を算出400し、入力した画像200における結合位置も算出400し、俯瞰画像300と入力画像200と算出した結合位置400を用いて、結合画像450を作成する。
【0022】
同様に、カメラ13bが撮影したシーン12bに対して、俯瞰画像300における結合位置を算出400し、入力した画像200における結合位置も算出400し、俯瞰画像300と入力画像200と算出した結合位置400を用いて、結合画像450を作成する。また、カメラ13cが撮影したシーン12cに対して、俯瞰画像300における結合位置を算出400し、入力した画像200における結合位置も算出400し、俯瞰画像300と入力画像200と算出した結合位置400を用いて、結合画像450を作成する。シーン12aに対する結合画像450及びシーン12bに対する結合画像450及びシーン12cに対する結合画像450を用いて、上方視点の模擬作業機械を中心にし周囲に結合画像を配置して結合画像を合成500する。
【0023】
更に、合成した結合画像500に対して、画像処理手法を用いて障害物検知600を行い、障害物検知600の検知結果を重畳し、フロント作業機1Aの姿勢データ700から取り込んだフロント作業機の先端位置のデータを用いて危険範囲も重畳し、フロント作業機1Aの動作データ750から取り込んだ旋回範囲及び/又は走行予想軌跡及び/又は走行ガイドラインも重畳する表示画像の生成800を行い、モニタ等の表示装置900に表示する。

【0048】
図14は、結合画像合成部500の詳細を説明する図である。まず、501において、上方視点における模擬作業機械の中心位置(OC)を設定する。502において、右側方カメラ13aの右側方結合画像格納メモリを読み込み、503において、後方カメラ13bの後方結合画像格納メモリを読み込み、504において、左側方カメラ13cの左側方結合画像格納メモリを読み込む。505において、右側方結合画像502を右側方へ配置するための右側90°回転を行い、506において、後方結合画像503を後方へ配置するための上下反転を行い、507において、左側方結合画像504を左側方へ配置するための左側90°回転を行う。次に、508において、右側方結合画像の中心位置と上方視点における模擬作業機械の中心位置OCをあわせて配置し、509において、後方結合画像の中心位置と上方視点における模擬作業機械の中心位置OCをあわせて配置し、510において、左側方結合画像の中心位置と上方視点における模擬作業機械の中心位置OCをあわせて配置する。最後に、511において、上方視点における模擬作業機械の右側に右側方結合画像508を配置し、後方に後方結合画像509を配置し、左側に左側方結合画像510を配置して、表示用画像を作成する。
【0049】
図15は、右側方結合画像の中心位置523を示す例である。右側方結合画像の上部端の延長線521と、下部端の延長線522の交点が中心位置523である。
【0050】
図16は、結合画像合成部500で作成した合成画像における結合位置がカメラから遠方の例である。まず、右側方入力画像に対し、結合位置算出部400で算出した結合位置532において結合した結合画像533の交点523を、上方視点から見た模擬作業機械1の中心531にあわせて配置する。次に、後方入力画像に対し、結合位置算出部400で算出した結合位置534において結合した結合画像535の交点523を、上方視点から見た模擬作業機械1の中心531にあわせて配置する。更に、左側方入力画像に対し、結合位置算出部400で算出した結合位置536において結合した結合画像537の交点523を、上方視点から見た模擬作業機械1の中心531にあわせて配置する。ここで、後方カメラの視野内に存在する人物20の頭部が入力画像で結合されるため、違和感の少ない人物538になる。また、模擬作業機械1の後部における死角発生有無が確認でき、黒部539の死角が発生していることがわかる。これにより、運転員が操作している模擬作業機械1の運転席から、作業機械の周囲の作業員の存在方向や位置、カメラ設置の死角有無を確認できる。また、作業機械周囲の狭い範囲が詳細に把握でき、近くの作業員を鮮明に表示することができる。

【0056】
なお、表示装置900は運転室内に設けてもよく、運転員が目視確認可能な位置ならどこでも良い。また、合成画像障害物検知部600が、障害物20を検知した場合、表示装置900に表示するとともに、運転員に音声で報知してもよい。また、旋回開始時点で、障害物が存在している等のアラームを出力したり、障害物の退去を音声で出力しても良い。

【0058】
図20は、表示装置900に表示される画面の例(フロント作業機の先端が短い場合で周囲の狭い範囲を監視する画面の例)であり、障害物が検出された場合の例である。結合画像合成部500で結合した障害物538に対し、障害物マーク905を重畳し、危険範囲905を重畳する。また、画面下部には、障害物検知を検知したのは、後方カメラ901、右側方カメラ902、左側方カメラ903のどれであるか判別しやすいように表示する。例えば後方カメラ901が検知した場合、該部分を誇張して表示し、作業機械の旋回状態を表示908する。更に、表示を拡大906したり、標準表示907するI/Fを設定しても良い。

(2)同じく原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4である特開2002-166802号公報には、「車両周辺モニタ装置」(発明の名称)に関し、図面と共に次に掲げる事項が記載されている。

【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、運転者にとって死角となる車両周辺の画像情報を撮像装置を用いて取り込み、画像処理したうえで表示装置に表示することで運転者を支援する車両周辺モニタ装置に関する。

【0019】本実施形態においては、カメラ20a?20dは、それぞれ車両1の前部、左側面、後部、右側面にそれぞれ1台ずつ配置される広画角カメラである。ここでは、水平画角175度、垂直画角89度のカメラを利用している。なお、カメラの配置は、1箇所に1台ずつに限られるものではなく、各箇所に水平画角90度程度のカメラを2台ずつ組み合わせて配置してもよい。また、車両1の角部分に配置してもよく、角部分と前後および側方の略中央部の双方に配置してもよい。
【0020】図2に示されるようなカメラ配置を採用すると、それらの撮像領域を車両1の上から見ると、図3に示されるようになる。図3から明らかなように、車両1のごく近傍までの画像情報を取得するためには、各カメラ20a?20dにはできるだけ水平画角の広いカメラを採用する必要がある。一方で、このように水平画角の広いカメラを用いると、隣り合うカメラ同士(例えば、前方カメラ20aと左側方カメラ20d同士)で重複する撮像領域が生ずる。後述する視点変換においては、この重複撮像領域の処理が問題となる。

【0024】画像処理ECU11は、さらに、各カメラで取得した画像から視点変換により任意の視点、例えば、車両1の上方から車両の周囲を見た画像をそれぞれ生成し、これらとメモリ等に格納されている車両1のその位置から見た画像とを合成することで、あたかも車両1の上方から撮影したかのような画像を合成して表示装置32へと表示するものである。

【0027】これらを重ね合わせて表示画像を生成する際の重複領域の処理方法として従来のように重複領域全体についていわゆるαブレンディングを用いた場合、図6(c)に示されるように両カメラ20c、20dの撮像領域の重複領域7内には、ポール5を変換した画像5A、5Bがそれぞれ映し出されるとともに、輝度が半分になるため、いずれも薄く表示されることから、ぼやけた画像として表示されることになる。従来は、このため、運転者にとって立体物の認識が困難であるという欠点があった。

(3)同じく原査定の拒絶の理由に引用された引用文献5である特開2002-19556号公報には、「監視システム」(発明の名称)に関し、図面と共に次に掲げる事項が記載されている。

【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、車両に設置した複数のカメラの撮像画像を用いて合成画像を生成する画像処理技術に関するものであり、特に、車両運転の際の安全確認の補助などに利用される監視システムに有効な技術に属する。

【0020】(第1の実施形態)図1は本発明の第1の実施形態に係る監視システムの構成を示すブロック図である。図1において、画像処理部2は、撮像部1から出力された複数のカメラ画像を入力とし、これらを合成して新たな画像を生成する。この合成画像は、表示装置3によって表示される。
【0021】撮像部1は複数のカメラ11を有し、各カメラ11には、一対のフレームメモリ12が設けられている。ここでは各カメラ11はCCDタイプであるものとする。カメラがCMOSタイプの場合には、カメラにフレームメモリの機能を持たせることも可能であり、この場合はフレームメモリを省くことができる。

【0028】図4は図2に示すカメラ配置における各カメラの撮影範囲を示す図である。図4に示すように、各ペアカメラの撮影範囲は互いに重複している。そして、画像合成の際には、この重複範囲OLa?OLdについては、各カメラ画像の画素データをブレンド、すなわち重み付けして混合することによって、合成画像を生成する。

2.引用発明
上記引用文献1記載された発明について検討する。

(1)引用文献1の段落0010,0015,0017の記載によれば、引用文献1には、右側方監視用のカメラ、後方監視用のカメラ、左側方監視用のカメラが備えられ、カメラ画像の結合画像を生成する「油圧ショベル」に関する発明が記載されている。

(2)引用文献1の段落0015,0016,図1の記載によれば、引用文献1の「油圧ショベル」は、左右の走行モータ3e,3fにより駆動される下部走行体1e、及び旋回モータ3dにより駆動される上部旋回体1dからなる車体1Bと、ブーム1a、アーム1b及びバケット1cを備え、ブーム1aの基端は上部旋回体1dの前部に支持されている多関節型のフロント作業機1Aを有している。
そして、上部旋回体1dは旋回モータ3dにより駆動されて下部走行体1eに対して旋回自在に搭載されているものといえる。
また、ブーム1a及びアーム1bは、多関節型のフロント作業機1Aに含まれており、アーム1bはブーム1aに取り付けられ、ブーム1aの基端は上部旋回体1dの前部に支持されている。
すなわち、引用文献1の「油圧ショベル」は、「走行モータにより駆動される下部走行体」、「旋回モータにより駆動され、下部走行体に対して旋回自在に搭載される上部旋回体」、「上部旋回体に支持され、フロント作業機に含まれるブーム」、「ブームに取り付けられ、フロント作業機に含まれるアーム」を有する。

(3)引用文献1の段落0017,図2の記載によれば、引用文献1の「油圧ショベル」は、上部旋回体1dの上部の右側方、後方、左側方に、それぞれ右側方監視用のカメラ13a、後方監視用のカメラ13b、左側方監視用のカメラ13cを有している。
そして、図2を参照すれば、これらの監視範囲は、12a(右側方),12b(後方),12c(左側方)の三方向であり、12a(右側方)と12b(後方)、12b(後方)と12c(左側方)の監視範囲には、重複する領域が存在する。
すなわち、引用文献1の「油圧ショベル」は、「上部旋回体の右側方、後方、左側方の三方向を撮像するように、上部旋回体の右側方、後方、左側方の3箇所に搭載されるカメラ」を有し、「カメラ」は、「右側方と後方、後方と左側方の隣り合うカメラの監視範囲には重複する領域が存在するように配置され」ている。

(4)引用文献1の段落0018?0023,0048?0050,図3,図14,図16の記載によれば、引用文献1の「油圧ショベル」は「画像処理装置50」を有し、「画像処理装置50」は、それぞれのカメラにより撮影した映像信号から俯瞰画像を作成し、俯瞰画像と入力画像(カメラにより撮影した映像信号)を結合した結合画像を作成する。そして、模擬作業機械の右側に右側方結合画像を配置し、後方に後方結合画像を配置し、左側に左側方結合画像を配置して、それぞれの結合画像を合成した表示用画像を作成する。さらに、合成した表示用画像をモニタ等の表示装置に表示する。
また、引用文献1の段落0058,図20の記載によれば、表示用画像は、模擬作業機械の前方を表示用画像の上側、模擬作業機械の後方を表示用画像の下側とした状態で、表示装置に表示される。
すなわち、引用文献1の「油圧ショベル」は、「カメラにより撮影した映像信号から表示用画像を作成する画像処理装置」と「表示装置」を有し、「画像処理装置」は、「模擬作業機械の前方を上側として、模擬作業機械の右側に右側方の画像を配置し、下側に後方の画像を配置し、左側に左側方の画像を配置して、それぞれの画像を合成して表示用画像を作成」し、「表示装置」には「合成した表示用画像が表示」される。

(5)引用文献1の段落0016,図1の記載によれば、引用文献1の「油圧ショベル」は、「上部旋回体に備えられた運転室」を有し、段落0018,0056の記載によれば、引用文献1の「油圧ショベル」は、「運転室内に設けられる表示装置」を有する。

(6)まとめ
上記(1)ないし(5)によると、引用文献1には下記の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(引用発明)
(a)走行モータにより駆動される下部走行体と、
旋回モータにより駆動され、下部走行体に対して旋回自在に搭載される上部旋回体と、
上部旋回体に支持され、フロント作業機に含まれるブームと、
ブームに取り付けられ、フロント作業機に含まれるアームと、
上部旋回体の右側方、後方、左側方の三方向を撮像するように、上部旋回体の右側方、後方、左側方の3箇所に搭載されるカメラと、
カメラにより撮影した映像信号から表示用画像を作成する画像処理装置と、
上部旋回体に備えられた運転室と、
運転室内に設けられる表示装置と、を有する油圧ショベルであって、
(b)カメラは、右側方と後方、後方と左側方の隣り合うカメラの監視範囲には重複する領域が存在するように配置され、
(c)画像処理装置は、模擬作業機械の前方を上側として、模擬作業機械の右側に右側方の画像を配置し、下側に後方の画像を配置し、左側に左側方の画像を配置して、それぞれの画像を合成して表示用画像を作成し、
(d)表示装置には、合成した表示用画像が表示される、
(e)油圧ショベル。

3.対比
本願発明と引用発明とを対比する。

(1)本願発明の構成(A)及び(E)と引用発明の構成(a)及び(e)との対比
引用発明の「フロント作業機」、「カメラ」、「油圧ショベル」は、それぞれ、本願発明の「アタッチメント」、「撮像装置」、「ショベル」に相当する。
また、引用発明の「画像処理装置」は、カメラにより撮影した映像信号から表示用画像を作成するものであり、表示用画像は出力画像であるから、本願発明の「撮像装置から出力画像を生成する制御部」に相当する。
そうすると、引用発明の構成(a)である「走行モータにより駆動される下部走行体と、旋回モータにより駆動され、下部走行体に対して旋回自在に搭載される上部旋回体と、上部旋回体に支持され、フロント作業機に含まれるブームと、ブームに取り付けられ、フロント作業機に含まれるアームと、上部旋回体の右側方、後方、左側方の三方向を撮像するように、上部旋回体の右側方、後方、左側方の3箇所に搭載されるカメラと、カメラにより撮影した映像信号から表示用画像を作成する画像処理装置と、上部旋回体に備えられた運転室と、運転室内に設けられる表示装置と、を有する油圧ショベルであって」、及び構成(e)の「油圧ショベル」は、本願発明の構成(A)の「走行動作を行う下部走行体と、前記下部走行体に旋回自在に搭載される上部旋回体と、前記上部旋回体に取り付けられ、アタッチメントに含まれるブームと、前記ブームに取り付けられ、前記アタッチメントに含まれるアームと、前記上部旋回体の三方向を撮像するように、前記上部旋回体の左側面、右側面、及び後面の3箇所に搭載される撮像装置と、前記撮像装置の撮像画像から出力画像を生成する制御部と、前記上部旋回体に搭載される運転室と、前記運転室内に設置される表示装置と、を有するショベルであって」、及び構成(E)の「ショベル」と一致する。

(2)本願発明の構成(B)と引用発明の構成(b)との対比
引用発明の構成(b)は、「カメラは、右側方と後方、後方と左側方の隣り合うカメラの監視範囲には重複する領域が存在するように配置され」るものである。
そして、右側方と後方、後方と左側方の隣り合うカメラによる重複する領域が、カメラが搭載される上部旋回体の左後方及び右後方の2方向に形成されることは明らかであるから、引用発明の構成(b)は本願発明の構成(B)の「前記撮像装置は、隣り合う撮像装置の撮像範囲が重複する重複領域が前記上部旋回体の左後方及び右後方の2方向に形成されるように配置され」と一致する。

(3)本願発明の構成(C)と引用発明の構成(c)との対比
引用発明の構成(c)は、「画像処理装置は、模擬作業機械の前方を上側として、模擬作業機械の右側に右側方の画像を配置し、下側に後方の画像を配置し、左側に左側方の画像を配置して、それぞれの画像を合成して表示用画像を作成」するものである。
そして、「右側方の画像」、「後方の画像」、「左側方の画像」は、隣り合うカメラのそれぞれが撮影した画像であり、それらの画像を合成するものであるから、本願発明の構成(C)とは、「前記制御部は、前記隣り合う撮像装置のそれぞれの撮像画像を合成し」というものである点で一致する。
ただし、この制御部の動作に関し、本願発明は、撮像画像を合成して「前記重複領域に対応する出力画像部分を生成」するのに対し、引用発明は、監視範囲の重複する領域が存在する隣り合うカメラの画像から、重複領域に対応する出力画像部分を生成することは特定されていない点で、両者は相違する。

(4)本願発明の構成(D)と引用発明の構成(d)との対比
引用発明の構成(d)は、「表示装置には、合成した表示用画像が表示される」というものであり、表示用画像は、構成(c)にあるように、模擬作業機械の前方を上側として、模擬作業機械の右側に右側方の画像を配置し、下側に後方の画像を配置し、左側に左側方の画像を配置して作成されたものである。
したがって、引用発明の表示装置に表示される表示用画像は、模擬作業機械の右側、下側、左側にカメラが撮影した画像が配置されているが、模擬作業機械の上側にはカメラが撮影した画像は配置されていない表示用画像である。
ここで、本願発明の「上方を除いた状態で前記出力画像が表示される」という構成について確認すると、本願明細書の段落0111の「図10は、ショベル60に搭載された二台のカメラ2(右側方カメラ2R及び後方カメラ2B)の入力画像を用いて生成される出力画像を表示部5に表示させたときの表示例である。」、段落0116の「出力画像は、ショベル60のCG画像を、ショベル60の前方が表示部5の画面上方と一致し」、請求項3の「前記撮像画像は、前記上方の部分が扇形に除かれている」の記載、及び図10,11を参酌すると、本願明細書、特許請求の範囲、及び図面に記載される技術事項は、『表示部5に表示される出力画像の画面上方がショベル60の前方に対応し、画面の上方の部分が除かれた状態の出力画像が表示される』というものと認められ、本願発明の上記構成は、この技術事項を示すものといえる。
そうすると、引用発明も、模擬作業機械の上側にはカメラが撮影した画像は配置されていない表示用画像を表示装置に表示するものであるから、上方を除いた状態で表示用画像が表示されるものといえ、引用発明の構成(d)は、本願発明の構成(D)と、「前記表示装置には、上方を除いた状態で前記出力画像が表示される」ものである点で一致する。
ただし、本願発明は、表示装置に「前記2方向に形成された前記重複領域に対応する出力画像部分を含」む出力画像が表示されるのに対し、引用発明は、上記(3)において検討したように、「重複領域に対応する出力画像部分を生成」することは特定されていないことから、表示装置にそのような出力画像部分を含む出力画像が表示されるということは特定されていない点で、両者は相違する。

(5)まとめ
以上(1)ないし(4)の対比結果を踏まえると、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

[一致点]
走行動作を行う下部走行体と、
前記下部走行体に旋回自在に搭載される上部旋回体と、
前記上部旋回体に取り付けられ、アタッチメントに含まれるブームと、
前記ブームに取り付けられ、前記アタッチメントに含まれるアームと、
前記上部旋回体の三方向を撮像するように、前記上部旋回体の左側面、右側面、及び後面の3箇所に搭載される撮像装置と、
前記撮像装置の撮像画像から出力画像を生成する制御部と、
前記上部旋回体に搭載される運転室と、
前記運転室内に設置される表示装置と、を有するショベルであって、
前記撮像装置は、隣り合う撮像装置の撮像範囲が重複する重複領域が前記上部旋回体の左後方及び右後方の2方向に形成されるように配置され、
前記制御部は、前記隣り合う撮像装置のそれぞれの撮像画像を合成し、
前記表示装置には、上方を除いた状態で前記出力画像が表示される、
ショベル。

[相違点1]
制御部の動作に関し、本願発明は、撮像画像を合成して「前記重複領域に対応する出力画像部分を生成」するのに対し、引用発明は、監視範囲の重複する領域が存在する隣り合うカメラの画像から、重複領域に対応する出力画像部分を生成することは特定されていない点。

[相違点2]
本願発明は、表示装置に「前記2方向に形成された前記重複領域に対応する出力画像部分を含」む出力画像が表示されるのに対し、引用発明は、表示装置にそのような出力画像部分を含む出力画像が表示されるということは特定されていない点。

4.判断
(1)相違点1及び相違点2について
相違点1及び相違点2は、どちらも撮像装置の撮像範囲が重複する重複領域の処理に関するものであるので、合わせて検討する。

まず、車両周辺をモニタする装置において、複数のカメラから取得した重複領域を含む画像を合成して表示装置へ表示する場合、重複領域についてブレンディング(重み付けして混合)を用いて合成して表示画像を生成する技術は、引用文献4,5に開示されているように本願出願前の周知技術である(引用文献4の段落0001,0019,0020,0024,0027,図6(c)、引用文献5の段落0001,0020,0021,0028,図4参照)。

ここで、請求人の主張を確認すると、請求人は意見書及び審判請求書において、引用文献1の段落0010,0012,0050,図16を引用し、『右側方入力画像、後方入力画像、及び、左側方入力画像を用いた表示用画像を作成するためには、それぞれの結合位置の端部が、隣り合う結合画像の境界に形成される必要がある。つまり、右側方入力画像、後方入力画像、及び、左側方入力画像は、明確な境界を形成する必要があり、隣り合う画像の重複を避ける必要がある。』、『引用文献1は、右側方結合画像533、後方結合画像535、及び左側方結合画像537を重複させることなく境界を形成した状態で並べた合成画像を生成しなければなりません。』、『引用文献1は、重複部分のない合成画像を開示するのみであり、重複部分を含む合成画像を開示も示唆もしていません。』、『仮に、引用文献1の装置において、個別に生成した右側方結合画像533、後方結合画像535、及び左側方結合画像537を部分的に重複させて最終的な結合画像を生成した場合、引用発明が解決しようとする課題である「作業機械の上方に視点を持つ俯瞰画像と周囲を撮影するカメラからのカメラ画像を最適位置で結合して違和感のない結合画像を生成する」(段落[0010]参照。)という課題を解決できなってしまうのは明確である。』、『引用文献1の結合画素の生成方法では、本願発明の如く「隣り合う撮像装置のそれぞれの撮像画像を合成して前記重複領域に対応する出力画像部分を生成すること」を、実質的に排除していることは明確である。』と述べている。
これらの主張について検討すると、引用文献1の段落0010に記載される課題に関しては、段落0030ないし0044及び図7ないし10にその解決方法が示されているように、あくまでも、各カメラが撮影した画像について俯瞰画像と入力画像とを結合する際に、それらの結合位置を調整することにより、違和感のない結合画像を作成するという技術事項が記載されているのみであって、各カメラが撮影した画像に対応する3つの結合画像を合成する際に、それぞれの結合画像を違和感なく合成して表示用画像を作成するという技術事項は開示されていない。
引用文献1の段落0050及び図16の記載においても、「人物20の頭部が入力画像で結合されるため、違和感の少ない人物538になる。」と記載されるように、違和感のない画像の生成は、あくまでも俯瞰画像と入力画像との結合に関するものである。
したがって、請求人が主張するような、『右側方入力画像、後方入力画像、及び、左側方入力画像は、明確な境界を形成する必要があり、隣り合う画像の重複を避ける必要がある。』、『引用文献1は、右側方結合画像533、後方結合画像535、及び左側方結合画像537を重複させることなく境界を形成した状態で並べた合成画像を生成しなければなりません。』といった技術事項は、引用文献1の記載から導くことができるものではない。
そして、上記2(3)において認定したように、引用文献1に記載されるカメラの撮影する画像には重複する領域が存在しているが、引用文献1には、その重複する領域の画像に対してどのような処理を行って結合画像を合成し、表示用画像を作成しているかについては何ら特定されていないものである。
引用文献1の図16に示される結合画像の合成方法は、例えば、請求人が述べるように、それぞれの結合画像が表示する範囲を重複させることなく各結合画像があたかも連続するように合成するものであると想定することは可能であるかもしれないが、そのように想定しても図16は結合画像の合成方法の一例であって、合成方法には、その他に、表示される画像において周囲の物体が消失することを防ぐために、各結合画像の表示範囲にある程度のマージンを持たせ、重複する領域の一部を隣り合う結像画像の両方に表示する方法(周知例として提示した引用文献5の段落0036,0037,図7)なども想定することができるものである。
よって、引用文献1の結合画像の合成は、その処理を何ら特定していないものであって、本願発明の「隣り合う撮像装置のそれぞれの撮像画像を合成して前記重複領域に対応する出力画像部分を生成すること」を排除しているものではない。

さらに、本願発明の「前記隣り合う撮像装置のそれぞれの撮像画像を合成して前記重複領域に対応する出力画像部分を生成」するという構成についても、本願の実施例に記載されるチェッカーシャドー錯視を利用した格子模様に合成する手法に限定されるものではなく、ブレンディング(重み付けして混合)も合成という技術概念に含まれるものである。

そうすると、上述したように、車両周辺をモニタする装置において、複数のカメラから取得した重複領域を含む画像を合成して表示装置へ表示する場合、重複領域についてブレンディング(重み付けして混合)を用いて合成して表示画像を生成する技術が周知であることから、引用発明のカメラが撮影する画像に存在する重複する領域の処理について、上記周知技術を適用し、監視範囲の重複する領域が存在するカメラの画像を合成する際に、監視範囲の重複する領域を、ブレンディング(重み付けして混合)を用いて合成し、重複領域に対応する出力画像部分を生成すること(相違点1)、及び、表示装置には、その重複領域に対応する出力画像部分を含む表示用画像を表示すること(相違点2)は当業者が容易に想到できることである。
なお、上記3(2)において検討したように、引用発明のカメラにおける隣り合うカメラによる重複する領域は、カメラが搭載される上部旋回体の左後方及び右後方の2方向に形成されるものであるから、表示用画像に含まれる出力画像部分は、その2方向に形成されるものである。
以上のことから、引用発明に上記周知技術を適用することにより、相違点1に係る、撮像画像を合成して「前記重複領域に対応する出力画像部分を生成」するものとし、相違点2に係る、表示装置に「前記2方向に形成された前記重複領域に対応する出力画像部分を含」む出力画像が表示されるものとすることは、当業者が容易に想到できることである。

(2)効果等について
本願発明の構成は、上記のように当業者が容易に想到できたものであるところ、本願発明が奏する効果は、その容易想到である構成から当業者が容易に予測しうる範囲内のものであり、同範囲を超える格別顕著なものがあるとは認められない。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、本願発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献4,5に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のように、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1記載された発明及び引用文献4,5に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-09-29 
結審通知日 2016-10-04 
審決日 2016-10-17 
出願番号 特願2014-6965(P2014-6965)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐野 潤一秦野 孝一郎鈴木 隆夫  
特許庁審判長 藤井 浩
特許庁審判官 清水 正一
戸次 一夫
発明の名称 ショベル  
代理人 小島 誠  

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