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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B01F
管理番号 1333040
審判番号 不服2016-2760  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-11-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-02-24 
確定日 2017-10-02 
事件の表示 特願2011-31153「超微細気泡含有液製造装置」拒絶査定不服審判事件〔平成24年9月6日出願公開,特開2012-166173〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,平成23年2月16日の出願であって,平成27年11月13日付けで拒絶査定(謄本送達日平成27年11月24日)がなされ,それに対して,平成28年2月24日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。
そして,当審において,平成29年1月19日付けで拒絶理由(発送日平成29年1月24日)を通知し,応答期間内である平成29年3月27日に意見書及び手続補正書が提出され,当審において,平成29年4月20日付けで最後の拒絶理由(発送日平成29年4月25日)を通知し,応答期間内である平成29年6月26日に意見書及び手続補正書が提出されたところである。


第2 平成29年6月26日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)の適否

1 本件補正の内容
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により,特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおり補正された。

【請求項1】
少なくとも、気体透過面に、高分子樹脂フィルムに表裏連通するクレーズを生成させて通気性を持たせた気体透過性フィルムを配し、該気体透過性フィルムにおける気体透過量の制限下において、超微細な気泡を水中に放出させる筒状の気体透過部(1)と、該筒状の気体透過部(1)の外周径より大きな内周径を有する両端が開放状態にある筒状ケーシング(2)で構成される気液混合装置であって、該筒状の気体透過部(1)と該筒状ケーシング(2)を嵌合することにより、該筒状の気体透過部(1)の外周径と該筒状ケーシング(2)の内周径との差異により形成される間隙(液体流路(6))に、送水機器(送水ポンプ)を用いて水圧を調節して水を導入するとともに、送気機器(コンプレッサ、レギュレタ)を用いて、該筒状の気体透過部へ加圧状態を調節して気体を供給することにより、水中に気泡を混入させる装置であって、内周径の異なる筒状ケーシング(2)を適宜変換して、該筒状気体透過部(1)の外周径との差異により形成される間隙(液体流路(6))を可変させて液体の流量、液圧を微調整することにより、特定されたサイズの超微細な気泡を水中に含有させることを特徴とする超微細気泡含有液製造装置。

(2)本件補正後の明細書の段落【0005】,【0013】,【0015】の記載
本件補正により,明細書の段落【0005】,【0013】,【0015】の記載はそれぞれ,次のとおり補正された。

【0005】
本発明の超微細気泡含有液製造装置は、少なくとも、気体透過面に、高分子樹脂フィルムに表裏連通するクレーズを生成させて通気性を持たせた気体透過性フィルムを配し、該気体透過性フィルムにおける気体透過量の制限下において、超微細な気泡を水中に放出させる筒状の気体透過部と、該筒状の気体透過部の外周径より大きな内周径を有する両端が開放状態にある筒状ケーシングで構成される。
該筒状の気体透過部と該筒状ケーシングを嵌合することにより、該筒状の気体透過部の外周径と該筒状ケーシングの内周径との差異により形成される間隙(液体流路)に、送液機器(送水ポンプ)を用いて、水圧を調節しながら水を導入するとともに、送気機器(コンプレッサ、レギュレタ)を用いて、該筒状の気体透過部へ加圧状態を調節して気体を供給することにより、水中に気泡を混入させる装置であって、内周径の異なる筒状ケーシングを適宜変換して、該筒状気体透過部の外周径との差異により形成される間隙(液体流路)を可変させて液体の流量、液圧を微調整することにより、特定されたサイズの超微細な気泡が水中に含有される。

【0013】
ベース(基台)7には、気体導入管3、液体導入管4、気体透過部1、ケーシング2をそれぞれベース(基台)7に固定する嵌合部と、気体導入管3を経て送気されてきた気体を気体透過部1の開口部に導く通気路9、液体導入管4を経て送液されてきた水を気体透過部1の外周気体透過面に導く液体流路6が形成されている。

【0015】
送水機器(送水ポンプ)により加圧調節して送液される加圧状態の水は、液体導入管4、液体流路6を経て気体透過部1の外周気体透過面と筒状ケーシングの内周面との間に形成される液体流路に導かれる。

(3)本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の,平成29年3月27日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。

【請求項1】
少なくとも、気体透過面に、高分子樹脂フィルムに表裏連通するクレーズを生成させて通気性を持たせた気体透過性フィルムを配し、該気体透過性フィルムにおける気体透過量の制限下において、超微細な気泡を水もしくは薬剤の溶解された溶液中に放出させる筒状の気体透過部(1)と、該筒状の気体透過部(1)の外周径より大きな内周径を有する両端が開放状態にある筒状ケーシング(2)で構成され、該筒状の気体透過部(1)と該筒状ケーシング(2)を嵌合することにより、該筒状の気体透過部(1)の外周径と該筒状ケーシング(2)の内周径との差異により形成される間隙(液体流路(6))に、送液ポンプ、流量調節器等の送液機器を用いて、水もしくは薬剤の溶解された溶液の液圧を調節して導入するとともに、コンプレッサ、レギュレタ等の送気機器を用いて、該筒状の気体透過部へ加圧状態を調節して気体を供給することにより、水もしくは薬剤の溶解された溶液中に気泡を混入させる装置であって、内周径の異なる筒状ケーシング(2)を適宜変換して、該筒状気体透過部(1)の外周径との差異により形成される間隙(液体流路(6))を可変させて液体の流量、液圧等を微調整することにより、液中に目的とするサイズの超微細気泡を含有させることを特徴とする超微細気泡含有液製造装置。

(4)本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の,平成29年3月27日にされた手続補正により補正された明細書の段落【0005】,【0013】,【0015】の記載はそれぞれ,次のとおりである。

【0005】
本発明の超微細気泡含有液製造装置は、少なくとも、気体透過面に、高分子樹脂フィルムに表裏連通するクレーズを生成させて通気性を持たせた気体透過性フィルムを配し、該気体透過性フィルムにおける気体透過量の制限下において、超微細な気泡を水もしくは薬剤の溶解された溶液中に放出させる筒状の気体透過部と、該筒状の気体透過部の外周径より大きな内周径を有する両端が開放状態にある筒状ケーシングで構成される。
該筒状の気体透過部と該筒状ケーシングを嵌合することにより、該筒状の気体透過部の外周径と該筒状ケーシングの内周径との差異により形成される間隙(液体流路)に、送液ポンプ、流量調節器等の送液機器を用いて、水もしくは薬剤の溶解された溶液の液圧を調節して導入するとともに、コンプレッサ、レギュレタ等の送気機器を用いて、該筒状の気体透過部へ加圧状態を調節して気体を供給することにより、水もしくは薬剤の溶解された溶液中に気泡を混入させる装置であって、内周径の異なる筒状ケーシングを適宜変換して、該筒状気体透過部の外周径との差異により形成される間隙(液体流路)を可変させて液体の流量、液圧等を微調整することにより、液中に目的とするサイズの超微細気泡を含有させる。

【0013】
ベース(基台)7には、気体導入管3、液体導入管4、気体透過部1、ケーシング2をそれぞれベース(基台)7に固定する嵌合部と、気体導入管3を経て送気されてきた気体を気体透過部1の開口部に導く通気路9、液体導入管4を経て送液されてきた水もしくは薬剤の溶解された溶液を気体透過部1の外周気体透過面に導く液体流路6が形成されている。

【0015】
送水機器(送水ポンプ)により加圧調節して送液される加圧状態の水は、液体導入管4、液体流路6を経て気体透過部1の外周気体透過面と筒状ケーシングの内周面との間に形成される液体流路に導かれる。


2 本件補正の適否

(1)新規事項について
本件補正は,平成29年4月20日付けの当審拒絶理由において,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下,「当初明細書等」という。)に記載されていない事項(以下,「新規事項」という。)であると指摘した,本件補正前の「薬剤の溶解された溶液」及び「流量調節器等の送液機器」という事項を削除し,平成29年4月20日付けの当審拒絶理由のなお書きで不明りょうであると指摘した,本件補正前の請求項1の「気体透過部と,・・・筒状ケーシングで構成され」及び「液中に目的とするサイズの超微細気泡を含有させる」という事項を「気体透過部と、・・・筒状ケーシングで構成される気液混合装置であって」及び「特定されたサイズの超微細な気泡が水中に含有される」と補正するものであるとともに,本件補正前の請求項1の「液体の流量,液圧等」,「送液ポンプ,流量調整器等」,「コンプレッサ,レギュレタ等」の表現から「等」を削除する補正であって,当初明細書等の範囲内でなされた補正であり,特許法第17条の2第3項に適合する。

(2)補正の目的について
本件補正は,上記(1)のとおり,平成29年4月20日付けの当審拒絶理由において指摘した事項に対応する補正であるから,特許法第17条の2第5項第4号の明りようでない記載の釈明を目的とするものに該当する。


3 むすび

本件補正は,特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合する。


第3 本願発明について
本件補正は上記のとおり,特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合するから,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される上記第2の1(1)のとおりのものである。


1 平成29年4月20日付け当審拒絶理由について

当審で通知した平成29年4月20日付け拒絶の理由は,特許請求の範囲の【請求項1】,明細書の段落【0005】,【0013】,【0015】に追加された「薬剤の溶解された溶液」及び「流量調節器等の送液機器」という事項が新規事項であるというものである。そして,本件補正の結果,上記第2の2のとおり,特許請求の範囲の【請求項1】,明細書の段落【0005】,【0013】,【0015】は新規事項を含まないものとなったことから,当該拒絶理由は解消した。


2 平成29年1月19日付け当審拒絶理由の概要

当審で通知した平成29年1月19日付け拒絶の理由2の概要は,次のとおりである。

理由2(実施可能要件)
この出願は,発明の詳細な説明の記載が,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

(1)請求項1に係る発明の「通気性フィルム」を得るためにはどのようにすればよいかが,発明の詳細な説明で明確かつ十分に説明されているとはいえない。

(2)請求項1に係る発明の「超微細気泡含有液製造装置」を実現させるためにどのようにするかが,発明の詳細な説明で明確かつ十分に説明されているとはいえない。


3 当審の判断

(1)発明の詳細な説明の記載について
平成29年6月26日にされた手続補正により補正された明細書の発明の詳細な説明には,次のような記載がある。

ア 技術分野

「本発明は、水中に超微細な気泡が混入された気泡含有液を効率よく製造するための、超微細気泡含有液製造装置に関する。」(段落【0001】)

イ 背景技術

「気泡含有水を製造する従来の技術としては、空気圧縮機と送水ポンプを用いて、それぞれ送気管と送水管を介して、気泡水製造器に空気と水を供給し、該気泡水製造器において、この2種の流体を混合して製造された気泡含有水を水中に放出する方法が広く知られている。」(段落【0002】)

「しかし、微細な、さらには超微細な気泡と称されるマイクロサイズ、ナノサイズの気泡が混入されてなる超微細気泡含有水の取得が望まれる近年に於いて、効率良い気泡の微細化と、その微細な、さらには超微細な気泡を含有する微細気泡含有水の製造を、安定した状態で推移させることが難しいという欠点があった。」(段落【0003】)

ウ 発明が解決しようとする課題

「効率良い気泡の微細化と、その微細な、さらには超微細な気泡の発生条件を制御することにより、所望する微細気泡含有液を取得することを目的とする。」(段落【0004】)

エ 課題を解決するための手段

「本発明の超微細気泡含有液製造装置は、少なくとも、気体透過面に、高分子樹脂フィルムに表裏連通するクレーズを生成させて通気性を持たせた気体透過性フィルムを配し、該気体透過性フィルムにおける気体透過量の制限下において、超微細な気泡を水中に放出させる筒状の気体透過部と、該筒状の気体透過部の外周径より大きな内周径を有する両端が開放状態にある筒状ケーシングで構成される。
該筒状の気体透過部と該筒状ケーシングを嵌合することにより、該筒状の気体透過部の外周径と該筒状ケーシングの内周径との差異により形成される間隙(液体流路)に、送液機器(送水ポンプ)を用いて、水圧を調節しながら水を導入するとともに、送気機器(コンプレッサ、レギュレタ)を用いて、該筒状の気体透過部へ加圧状態を調節して気体を供給することにより、水中に気泡を混入させる装置であって、内周径の異なる筒状ケーシングを適宜変換して、該筒状気体透過部の外周径との差異により形成される間隙(液体流路)を可変させて液体の流量、液圧を微調整することにより、特定されたサイズの超微細な気泡が水中に含有される。」(段落【0005】)

オ 発明の効果

「本発明の超微細気泡含有液製造装置は、気体の供給条件と、液体の送液条件を総合的に制御することにより、目的とするサイズ、含有量、含有密度等を仔細に特定して、超微細な気泡含有液を製造することが容易であり、水質の浄化等に活用されるのみならず、気体としてオゾンガスを採用することにより、農作物に散水した場合には安全且つ有効な除虫効果が発揮される。」(段落【0009】)

カ 発明を実施するための形態

「以下、本発明の実施の一例を図面に基づいて説明する。」(段落【0011】)

「図1は、本発明の一実施例の断面図であって、5は本発明の超微細気泡含有液製造装置の主要部であり、1が気体透過部、7が各種部材を勘合して固定するベース(基台)、2が筒状ケーシングである。」(段落【0012】)

「ベース(基台)7には、気体導入管3、液体導入管4、気体透過部1、ケーシング2をそれぞれベース(基台)7に固定する嵌合部と、気体導入管3を経て送気されてきた気体を気体透過部1の開口部に導く通気路9、液体導入管4を経て送液されてきた水を気体透過部1の外周気体透過面に導く液体流路6が形成されている。」(段落【0013】)

「コンプレッサ(図示せず)で加圧調節された気体、及び耐圧ボンベ(図示せず)等より加圧調節して送出された加圧状態の気体は、気体導入管3、通気路9、気体透過部1の開口部を経て気体透過部1の内部に送気されると共に、気体透過部1の外周気体透過面に配置された高分子樹脂フィルムに表裏連通するクレーズ領域を生成させて通気性を持たせた気体透過性フィルム(以下「クレーズフィルム」と記載する)における気体透過量の制限下において、クレーズ領域を透過して徐々に液体流路中に放出される。」(段落【0014】)

「送水機器(送水ポンプ)により加圧調節して送液される加圧状態の水は、液体導入管4、液体流路6を経て気体透過部1の外周気体透過面と筒状ケーシングの内周面との間に形成される液体流路に導かれる。」(段落【0015】)

「ケーシング2は、該筒状の気体透過部の外周径より大きな内周径を有し、両端が開放状態にある筒状であることから、該筒状ケーシングの一端をベース(基台)7に形成された所定の嵌合部に固定することにより、該筒状の気体透過部1の外周径と該筒状ケーシング2の内周径との差異により該筒状の気体透過部1の外周気体透過面と該筒状ケーシング2の内周径との間隙に液体流路が形成される。
このとき内周径の大きな筒状ケーシング2を選定することにより流量は増大し、内周径の小さな筒状ケーシング2を選定することにより流量を減少させることができる。」(段落【0016】)

「ケーシング2の一端は、パッキン、Oリング等を採用して、気体の漏れ、並びに漏液が防止されるが、漏液を防止する方法、構造については、特定されるものではない。また、ケーシングの内周径は、一例としてドリルチャックの挟着部にみられるような開口部を開閉自在な構造とすることで変移させてもよいが、この場合も漏水が防止される構造とすることが必要となる。」(段落【0017】)

「[超微細な気泡の生成]
気体透過部1の中空間部に収容された加圧状態の気体は、気体透過部1の外周面に密着被覆されたクレーズフィルムを透過して、液体流路を通過する液中に超微細な泡の状態で生成される。
詳しくは、クレーズを構成するボイド(微細な連通孔)を拡張して強制的に透過する加圧された気体が、一方クレーズを構成するボイド(微細な連通孔)に透過量を制限されながら徐々に水中に透過され、さらに液体流路を通過する液流により、気体透過面で気体透過の初期段階に成長する気泡がせん断されることで、超微細な気泡が液中に生成される。」(段落【0018】)

「[加圧された微細な気泡]
加圧された微細な気泡が容易に液中に融合されることは、次式により表される。
w=kP
この式においてwは液体に溶ける気体の質量、Pは気体の圧力であり、kは比例定数である。
このことから、溶ける気体の質量は気体の圧力に正比例することが解る。つまり液体に気体が溶けるときには、その液体に接触している気体の圧力が高くなるほど多くの気体が液体に溶けることになるのである。」(段落【0019】)

「本発明の超微細気泡含有液製造装置は、液体を水とし、気体を空気とした場合に、水中に200nm?5μm程度の超微細な気泡が容易に生成される装置であって、水中に生成された微細な気泡は目視できるものでも、浮力が小さく、水中を漂う、一方視認できない超微細な気泡にあっては水に溶け込みあるいは混合されて水中に滞留する、超微細気泡を豊富に含有する気液混合水を生成することができる。」(段落【0020】)

「[クレーズフィルム]
本発明に用いるクレーズフィルムは、気体は透過するが水や油等の液体は透過させないという特質を有するフィルムであり、樹脂膜にクレージング処理を施すことにより気体透過性を発現させたフィルムである。クレーズは、基本的に、特許第3156058号公報に開示されているものと同様なものであり、樹脂フィルムの分子配向の方向と略平行に、幅が一般に0.5?100μm、好ましくは1?50μmのものである。このクレーズが、フィルムの厚み方向に貫通しているクレーズの数の割合が全クレーズの数に対して10%以上、好ましくは20%以上、特に好ましくは40%以上必要であり、貫通している割合が上記範囲未満であると十分な通気性が得られ難くなる。ここで言うクレーズとは、樹脂膜の表面に現れる表面クレーズと内部に発生する内部クレーズを含むものであって、微細なひび状の模様を有する領域を言う。」(段落【0021】)

「[超微細気泡の成分]
本発明に用いられる泡の成分は、一例として空気を圧縮して強制的に気体透過材を透過させ、超微細な泡を発生させていることから、空気中に存在する窒素、酸素等の成分が主であるが、精製された二酸化炭素、酸素等を単独或いは、複合して用いてもよく、オゾンなどを、状況に応じて採用することにより適した水質の改善等を図ることができる。」(段落【0022】)

(2)本願発明の「気体透過性フィルム」及び「超微細気泡含有液製造装置」について

ア 本願発明の記載は上記第2の1(1)に記載のとおり,
「少なくとも、気体透過面に、高分子樹脂フィルムに表裏連通するクレーズを生成させて通気性を持たせた気体透過性フィルムを配し、該気体透過性フィルムにおける気体透過量の制限下において、超微細な気泡を水中に放出させる筒状の気体透過部(1)と、該筒状の気体透過部(1)の外周径より大きな内周径を有する両端が開放状態にある筒状ケーシング(2)で構成される気液混合装置であって、該筒状の気体透過部(1)と該筒状ケーシング(2)を嵌合することにより、該筒状の気体透過部(1)の外周径と該筒状ケーシング(2)の内周径との差異により形成される間隙(液体流路(6))に、送水機器(送水ポンプ)を用いて水圧を調節して水を導入するとともに、送気機器(コンプレッサ、レギュレタ)を用いて、該筒状の気体透過部へ加圧状態を調節して気体を供給することにより、水中に気泡を混入させる装置であって、内周径の異なる筒状ケーシング(2)を適宜変換して、該筒状気体透過部(1)の外周径との差異により形成される間隙(液体流路(6))を可変させて液体の流量、液圧を微調整することにより、特定されたサイズの超微細な気泡を水中に含有させることを特徴とする超微細気泡含有液製造装置。」というものである。

イ 平成29年1月19日付け当審拒絶理由を通知した時点での特許請求の範囲の請求項1の記載は,平成27年10月23日に手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。

「少なくとも、気体透過面に、気体透過量を制限し得る高分子樹脂フィルムにクレーズを生成してなる通気性フィルムを配して超微細な気泡を水中に放出させる筒状の気体透過部1と、該筒状の気体透過部へ加圧状態の気体を供給する送気システムと、該筒状の気体透過部1の外周径より大きな内周径を有する両端が開放状態にある筒状ケーシング2と該筒状の気体透過部1とを勘合することにより該筒状の気体透過部1の外周径と該筒状ケーシング2の内周径との差異により形成される間隙(液体流路6)に水等の液体を導入する送水システムで構成され、気体透過部1に供給される気体の加圧状態を送気システムで調節し、水等の液体を供給する送液システムにおいて送水圧を調節するとともに、内周径の異なる筒状ケーシング2を適宜採用して、該筒状気体透過部1の外周径との差異により形成される間隙(液体流路6)を可変させて液体の流量等を調整することで、液体に所望する超微細気泡を含有させることを特徴とする超微細気泡含有液製造装置。」

ウ 上記イには,「気体透過量を制限し得る高分子樹脂フィルムにクレーズを生成してなる通気性フィルム」との記載があり,当該記載は,上記アの本願発明における「高分子樹脂フィルムに表裏連通するクレーズを生成させて通気性を持たせた気体透過性フィルム」に対応することは明らかであるから,上記2(1)の当審拒絶理由で指摘した「通気性フィルム」は,本願発明の「気体透過性フィルム」に対応するものである。

エ 次に,上記(1)の発明の詳細な説明の記載事項によれば,発明の詳細な説明には,次の点が開示されていることが認められる。

(ア)気泡含有水を製造する従来の技術としては,空気圧縮機と送水ポンプを用いて,それぞれ送気管と送水管を介して,気泡水製造器に空気と水を供給し,該気泡水製造器において,この2種の流体を混合して製造された気泡含有水を水中に放出する方法が広く知られている(段落【0002】)。

しかし,微細な,さらには超微細な気泡と称されるマイクロサイズ,ナノサイズの気泡が混入されてなる超微細気泡含有水の取得が望まれる近年に於いて,効率良い気泡の微細化と,その微細な,さらには超微細な気泡を含有する微細気泡含有水の製造を,安定した状態で推移させることが難しいという欠点があった(段落【0003】)。

(イ)本願発明の主な目的は,上記(ア)の従来技術の状況に鑑み,「効率良い気泡の微細化と,その微細な,さらには超微細な気泡の発生条件を制御することにより,所望する微細気泡含有液を取得する」ことを目的とする(段落【0004】)。

そして,上記目的の解決手段として,本願発明では,上記ア記載の請求項1に規定する構成を採用した。

(ウ)本願発明の「超微細気泡含有液製造装置」は,上記アの構成を採用し,気体の供給条件と,液体の送液条件を総合的に制御することにより,目的とするサイズ,含有量,含有密度等を仔細に特定して,超微細な気泡含有液を製造することが容易であり,水質の浄化等に活用されるのみならず,気体としてオゾンガスを採用することにより,農作物に散水した場合には安全且つ有効な除虫効果が発揮される,という効果を奏する(段落【0009】)。

オ 本願発明の「気体透過性フィルム」の実施可能要件について

(ア)上記アの請求項1の記載によれば,本願発明の「超微細気泡含有液制御装置」における「気体透過性フィルム」は,高分子樹脂フィルムに表裏連通するクレーズを生成させて通気性を持たせたものであって,気体透過量を制限するものである。

(イ)上記(1)カの発明を実施するための形態の記載によると,「・・・クレーズを構成するボイド(微細な連通孔)を拡張して強制的に透過する加圧された気体が、一方クレーズを構成するボイド(微細な連通孔)に透過量を制限されながら徐々に水中に透過され、さらに液体流路を通過する液流により、気体透過面で気体透過の初期段階に成長する気泡がせん断されることで、超微細な気泡が液中に生成される。」(段落【0018】)であるから,気体透過性フィルムのクレーズはボイド(微細な連通孔)を有するものであって,このボイドは,加圧された気体によって拡張されるものであると認められる。

(ウ)上記(イ)に記載された,加圧気体によって拡張されるボイドによって構成されたクレーズを有するフィルムをどのように製造するかについて,上記(1)カの発明の詳細な説明の記載には,「基本的に、特許第3156058号公報に開示されているものと同様なものであり、樹脂フィルムの分子配向の方向と略平行に、幅が一般に0.5?100μm、好ましくは1?50μmのものである。このクレーズが、フィルムの厚み方向に貫通しているクレーズの数の割合が全クレーズの数に対して10%以上、好ましくは20%以上、特に好ましくは40%以上必要であり、貫通している割合が上記範囲未満であると十分な通気性が得られ難くなる。ここで言うクレーズとは、樹脂膜の表面に現れる表面クレーズと内部に発生する内部クレーズを含むものであって、微細なひび状の模様を有する領域を言う。」(段落【0021】)と記載されており,本願発明のクレーズは「樹脂フィルムの分子配向の方向と略平行に,幅が一般に0.5?100μm,好ましくは1?50μm」のものであって,「フィルムの厚み方向に貫通しているクレーズの数の割合が全クレーズの数に対して10%以上,好ましくは20%以上,特に好ましくは40%以上必要」なものである,と認められる。しかしながら,そのクレーズの幅と方向,貫通しているクレーズの数の割合という形状については記載があるが,どのように製造すれば,そのような幅のクレーズとなり,かつ,その際に全クレーズの数に対して貫通しているクレーズの数がそのような割合とすることができるのかは,記載されていない。

(エ)発明の詳細な説明で引用されている特許第3156058号公報を参照すると,同公報には,クレイズを有するフィルムの製造にあたって,高分子樹脂フィルムの厚さ及び材質(段落【0019】),製造装置の構成とその製造工程(段落【0020】-【0021】,【図5】,【図6】,【図7】),クレイズ同士の間隔及びクレイズ自身の幅は製造時の高分子樹脂フィルムの張力に依存する旨の記載(段落【0029】)がみられる。しかしながら,同公報に記載されているのは「視野選択性フィルム及びその製造方法」の発明であって,透明性の高分子樹脂フィルムに,該高分子樹脂フィルムの分子配向方向と略平行に縞状のクレーズ領域を設ける(【請求項1】)ことで,クレイズ領域は光が透過せず(【図3】及び【図4】),クレイズ同士の間隙を平行に光が入射した場合(【図3】)のみ光を透過させる,というフィルムである。そして,同公報には気泡の発生どころか気体透過に関連した記載もなく,同公報のクレーズが気体によって拡張されるボイドによって構成されるものであるかどうかも記載されていない。当然,全クレーズの数に対してフィルムの厚み方向に貫通しているクレーズの数の割合を変化させて所望の範囲の割合とするためにどのような製造条件で製造するか,ということも記載がない。

(オ)本願の気体透過性フィルムは,加圧気体によってクレーズを構成するボイドが拡張されるものであるから,その気体の透過は,加圧気体の圧力,フィルムの厚み,フィルムの材質(弾性率)といったパラメータの影響を受けると考えられるが,これらのパラメータと気体透過率との関係についても本願の発明の詳細な説明や上記特許第3156058号公報には記載されていない。

(カ)上記(ウ)ないし(オ)のとおり,発明の詳細な説明には「気体透過性フィルム」を当業者がどのようにして製造できるかが明確かつ十分に記載されていないことから,発明の詳細な説明は,「気体透過性フィルム」を含む本願発明を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。

(キ)請求人は,平成29年3月27日に提出した意見書において
「本願出願人は、御指摘の請求項1における記載の不備を解消すべく、別途手続補正書を提出して、かかる御指摘の請求項1について、下記の如く訂正致しました。
【請求項1】
少なくとも、気体透過面に、高分子樹脂フィルムに表裏連通するクレーズを生成させて通気性を持たせた気体透過性フィルムを配し、該気体透過性フィルムにおける気体透過量の制限下において、超微細な気泡を水もしくは薬剤の溶解された溶液中に放出させる筒状の気体透過部(1)と、該筒状の気体透過部(1)の外周径より大きな内周径を有する両端が開放状態にある筒状ケーシング(2)で構成され、該筒状の気体透過部(1)と該筒状ケーシング(2)を嵌合することにより、該筒状の気体透過部(1)の外周径と該筒状ケーシング(2)の内周径との差異により形成される間隙(液体流路(6))に、送液ポンプ、流量調節器等の送液機器を用いて、水もしくは薬剤の溶解された溶液の液圧を調節して導入するとともに、コンプレッサ、レギュレタ等の送気機器を用いて、該筒状の気体透過部へ加圧状態を調節して気体を供給することにより、水もしくは薬剤の溶解された溶液中に気泡を混入させる装置であって、内周径の異なる筒状ケーシング(2)を適宜変換して、該筒状気体透過部(1)の外周径との差異により形成される間隙(液体流路(6))を可変させて液体の流量、液圧等を微調整することにより、液中に目的とするサイズの超微細気泡を含有させることを特徴とする超微細気泡含有液製造装置。
(今回の[請求の範囲]の補正においては全文を全面補正致しました。)

かかる補正された本願の[特許請求の範囲]並びに[明細書]の内容を御検討頂ければ、本願の特許請求の範囲に対する記載不備事由は、解消されるに至ったものと思料し、本願が、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていると思料致します。」
と主張しているが,発明の詳細な説明には,「気体透過性フィルム」を当業者が得るためにどのようにすればよいかが実施可能な程度に記載されていないことは,上記(ウ)ないし(カ)のとおりであって,請求人の当該主張は採用の限りでない。

(ク)請求人は,平成29年6月26日に提出した意見書において
「(1)本願発明は『気体透過量を制限し得る高分子樹脂フィルムにクレーズを生成してなる通気性フィルム』を用いるものであり、『本発明に用いるクレーズフィルムは、気体は透過するが水や油等の液体は透過させないという特質を有するフィルムであり、樹脂膜にクレージング処理を施すことにより気体透過性を発現させたフィルムである。
特許第3156058号公報を引用して基本的に、同様なものであるとした『視野選択制フィルム及びその製造方法』に記載のクレーズフィルムのクレーズとは、樹脂膜の表面に現れる表面クレーズと内部に発生する内部クレーズを含むものであって、このクレーズを形成する連通孔をフィルム表裏に貫通させることによりフィルムに気体透過性がもたらされる。
通気性を有するクレーズフィルムにあっては、特許第3156058号公報に記載のクレーズフィルムを『通気性フィルム』として活用する旨の技術も開示されている。(特開平7-256676)
本出願人においては、クレーズフィルムの独自開発を旨とするものの、基本的にはフィルムの材質、クレーズの生成方法等を違とするものとなっていません。」
と主張している。

しかしながら,当該主張のうち,「本発明に用いるクレーズフィルムは、気体は透過するが水や油等の液体は透過させないという特質を有するフィルムであり、樹脂膜にクレージング処理を施すことにより気体透過性を発現させたフィルム」という主張は,クレーズフィルムの特性を説明したものに過ぎない。そのため,当該主張によっては,本願発明の「気体透過性フィルム」を当業者が製造するにはどのようにすればよいかが本願の発明の詳細な説明に明確かつ十分に記載されているとすることはできない。

また,当該主張の「特許第3156058号公報を引用して・・・フィルムに気体透過性がもたらされる。」という事項は,上記(エ)及び(オ)のとおり,特許第3156058号公報に気体透過性についての言及がなく,気体透過性を実現させるための空気の圧力等の条件も全く不明であるから,特許第3156058号公報において記載された,複数種類の材質,複数の製造方法,複数種類の添加剤の組合せから想定される種々のフィルムのうち,どのような組合せのものが,本願発明の「気体透過性フィルム」に該当するのかは,本願の発明の詳細な説明及び特許第3156058号公報の双方を参照しても明らかではない。そのため,当該主張のうちの特許第3156058号公報に言及した主張によっても,本願発明の「気体透過性フィルム」を当業者が製造するにはどのようにすればよいかが本願の発明の詳細な説明に明確かつ十分に記載されているとすることはできない。

さらに,請求人は,当該主張で特開平7-256676号公報についても言及している。確かに,特開平7-256676号公報には「通気性フィルム」が開示されており,その出願人及び発明者は,特許第3156058号の出願人及び発明者と一部重複するものの,特開平7-256676号公報に記載された「通気性フィルム」と特許第3156058号公報に記載された「視野選択性フィルム」とは別の発明であるから,そのフィルムが本願の発明の詳細な説明で引用する特許第3156058号公報に記載された「視野選択性フィルム」と同じ物であるとは認められない。そして,本願の発明の詳細な説明及び特許第3156058号公報のいずれにおいても特開平7-256676号公報の存在について触れられていない以上,当該主張によっても本願発明の「気体透過性フィルム」を当業者が製造するにはどのようにすればよいかが本願の発明の詳細な説明に明確かつ十分に記載されているとすることはできない。
したがって,請求人の当該主張は採用の限りでない。

(ケ)したがって,請求人の主張を検討しても,発明の詳細な説明には「気体透過性フィルム」を当業者が実現するためにどのようにすればよいかが明確かつ十分に記載されているとはいえない。

カ 本願発明の「超微細気泡含有液製造装置」の実施可能要件について

(ア)本願発明の「超微細気泡含有液制御装置」は,送水機器(送水ポンプ)を用いて水圧を調節して水を導入するとともに,送気機器(コンプレッサ,レギュレタ)を用いて,該筒状の気体透過部へ加圧状態を調節して気体を供給することにより,水中に気泡を混入させる装置であって,内周径の異なる筒状ケーシングを適宜変換して,該筒状気体透過部の外周径との差異により形成される間隙(液体流路)を可変させて液体の流量,液圧を微調整するものであり,上記(1)カの発明を実施するための形態にも「コンプレッサ(図示せず)で加圧調節された気体、及び耐圧ボンベ(図示せず)等より加圧調節して送出された加圧状態の気体・・・」(段落【0014】),「送水機器(送水ポンプ)により加圧調節して送液される加圧状態の水・・・」(段落【0015】),「・・・このとき内周径の大きな筒状ケーシング2を選定することにより流量は増大し、内周径の小さな筒状ケーシング2を選定することにより流量を減少させることができる。」(段落【0016】)と記載されていることから,送水機器(送水ポンプ)が水圧の調節手段であること,送気機器(コンプレッサ,レギュレタ)が気体の加圧状態の調節手段であること及び内周径の異なる筒状ケーシングを適宜交換することで液体の流量,液圧を微調整するものであることが認められる。

(イ)上記エ(イ)及びエ(ウ)のとおり,本願発明は,気泡の発生条件を制御することにより,所望する微細気泡含有液を取得することを目的とするものであって,気体の供給条件と,液体の送液条件を総合的に制御することにより,目的とするサイズ,含有量,含有密度等を仔細に特定して,超微細な気泡含有液を製造することが容易なものであるから,気泡の発生条件,すなわち,気体の供給条件と液体の送液条件と得られる気泡との関係について,発明の詳細な説明の記載を確認する。

(ウ)得られる気泡の目的とするサイズ,含有量,含有密度について
上記(イ)のとおり,本願発明は気泡の目的とするサイズ,含有量,含有密度等を仔細に特定するものであるところ,発明の詳細な説明には,目的とする気泡のサイズについて次の記載がある。
「本発明の超微細気泡含有液製造装置は、液体を水とし、気体を空気とした場合に、水中に200nm?5μm程度の超微細な気泡が容易に生成される装置であって、水中に生成された微細な気泡は目視できるものでも、浮力が小さく、水中を漂う、一方視認できない超微細な気泡にあっては水に溶け込みあるいは混合されて水中に滞留する、超微細気泡を豊富に含有する気液混合水を生成することができる。」(段落【0020】)

このことから,本願発明で目的とする気泡のサイズは,液体を水とし,気体を空気とした場合に,200nm?5μm程度であるといえる。一方で,含有量,含有密度について具体的な数値は開示されていない。

(エ)気体の加圧状態について
上記(ア)のとおり,送気機器(コンプレッサ,レギュレタ)が気体の加圧状態の調節手段であるところ,発明の詳細な説明には加圧された気体について次の記載がある。
「[加圧された微細な気泡]
加圧された微細な気泡が容易に液中に融合されることは、次式により表される。
w=kP
この式においてwは液体に溶ける気体の質量、Pは気体の圧力であり、kは比例定数である。
このことから、溶ける気体の質量は気体の圧力に正比例することが解る。つまり液体に気体が溶けるときには、その液体に接触している気体の圧力が高くなるほど多くの気体が液体に溶けることになるのである。」(段落【0019】)

しかしながら,w=kPという式及び当該段落は液体への気体の溶解量についての説明であり,気泡発生について示したものではなく,また,具体的な数値についても記載されていない。また,発明の詳細な説明には,ほかに具体的に気体圧力に言及した記載はない。そのため,どの程度の数値範囲に気体の圧力を調節すると,どの程度の気泡が得られるかが明らかでない。

(オ)送水機器(送水ポンプ)で調節される水圧について
上記(ア)のとおり,本願発明では送水機器(送水ポンプ)が水圧の調節手段であるところ,発明の詳細な説明にはどの程度の水圧に調整されるか,について記載されている箇所は存在しない。

(カ)液体流量,液圧の微調整手段(内周径の異なる筒状ケーシング)について
上記(ア)のとおり,本願発明では,内周径の異なる筒状ケーシングを適宜交換することで液体の流量,液圧を微調整するものであるところ,発明の詳細な説明には筒状ケーシングの交換については次の記載がある。
「ケーシング2は、該筒状の気体透過部の外周径より大きな内周径を有し、両端が開放状態にある筒状であることから、該筒状ケーシングの一端をベース(基台)7に形成された所定の嵌合部に固定することにより、該筒状の気体透過部1の外周径と該筒状ケーシング2の内周径との差異により該筒状の気体透過部1の外周気体透過面と該筒状ケーシング2の内周径との間隙に液体流路が形成される。
このとき内周径の大きな筒状ケーシング2を選定することにより流量は増大し、内周径の小さな筒状ケーシング2を選定することにより流量を減少させることができる。」(段落【0016】)

しかしながら,筒状ケーシングの内周径について,具体的な数値の記載はなく,また,筒状ケーシングと共に液体流路を形成する気体透過部の外周径についても具体的に記載されていない。そうすると,当該構成による液体流量,液圧の微調整が,どの程度の範囲で行われることになるのか,開示されているとはいえない。

(キ)気泡の発生条件について
上記(ウ)ないし(カ)のとおり,発明の詳細な説明では,気体の供給条件,液体の送液条件について具体的に記載されておらず,これらの条件と得られる気泡との関係についても記載されているとはいえない。そうすると,気泡の発生条件を制御することにより,所望する微細気泡含有液を取得することを目的とする本願発明において,気泡の発生条件をどのように制御するかが発明の詳細な説明に記載されているとは認められない。

(ク)請求人は審判請求書の(3)「b)本願発明の実施(実用化)」において,
「本願出願人は『クレーズフィルム』を気体透過材とすることにより、マイクロ・ナノサイズの超微細な気泡の生成をなし得、『クレーズフィルム』の通気度、気体透過部に供給される気体の加圧状態、水等の液体を供給する送水圧を調整もしくは調節することにより、気泡のサイズ、気泡の噴出量等を細分化しました。
・・・(略)・・・
しかし、マイクロ・ナノサイズの超微細な気泡の綿密な規格化は、上記気泡のサイズ、気泡の噴出量等を細分化する手段のみでは、十分達成され得るものではなく、さらなる技術の向上が求められる。
そこで、本願出願人は、内周径の異なる筒状ケーシングを適宜採用して、該筒状気体透過部の外周径との差異により形成される間隙(液体流路)を可変させて液体の流量等を調整する手段を技術構成とすることで、マイクロ・ナノサイズの超微細な気泡の綿密な規格化がさらになされることを、本件出願において開示しました。
気泡のサイズ、気泡の噴出量等の細分化は、蓄積されたデータに基づき、それぞれの気泡生成手段を制御することによりなされる。・・・(略)・・・ 」
と述べていることからしても,本願発明の超微細気泡の生成には,「蓄積されたデータ」に基づき,「クレーズフィルム」の通気度,気体透過部に供給される気体の加圧状態,水等の液体を供給する送水圧といった気泡生成手段を制御することで初めて実現(発明の実施)がなされると考えられる。

しかしながら,気泡生成手段の制御について具体的に開示がないのは,上記(ウ)ないし(カ)のとおりである。

(ケ)上記(ウ)ないし(ク)のとおり,発明の詳細な説明には「超微細気泡含有液製造装置」を当業者が実現するためにどのようにすればよいかが明確かつ十分に記載されていないことから,発明の詳細な説明は,当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。

(コ)請求人は,平成29年3月27日に提出した意見書において「本願出願人は、御指摘の請求項1における記載の不備を解消すべく、別途手続補正書を提出して、かかる御指摘の請求項1について、下記の如く訂正致しました。
・・・(略)・・・
かかる補正された本願の[特許請求の範囲]並びに[明細書]の内容を御検討頂ければ、本願の特許請求の範囲に対する記載不備事由は、解消されるに至ったものと思料し、本願が、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていると思料致します。」と主張しているが,発明の詳細な説明には,「超微細気泡含有液製造装置」を実現させるために当業者がどのようにすればよいかが明確かつ十分に記載されていないのは,上記(ウ)ないし(ク)のとおりであって,請求人の当該主張は採用の限りでない。

(サ)請求人は,平成29年6月26日に提出した意見書の「(実施可能要件)について」では,「通気性フィルム」以外には主張がなされていない。

(シ)したがって,請求人の主張を検討しても,発明の詳細な説明には「超微細気泡含有液製造装置」を当業者が実現するためにどのようにすればよいかが明確かつ十分に記載されているとはいえない。

キ 小括

以上によれば,本願の発明の詳細な説明には,本願発明の「気体性透過フィルム」及び「超微細気泡含有液製造装置」について,当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されておらず,当審で通知した平成29年1月19日付け拒絶の理由2が解消しているとはいえない。


4 むすび
したがって,本願は,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-07-26 
結審通知日 2017-08-01 
審決日 2017-08-15 
出願番号 特願2011-31153(P2011-31153)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (B01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 仲村 靖  
特許庁審判長 西村 泰英
特許庁審判官 平岩 正一
長清 吉範
発明の名称 超微細気泡含有液製造装置  

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