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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  G01P
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  G01P
審判 全部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  G01P
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G01P
管理番号 1333057
審判番号 無効2014-800181  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-11-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-11-11 
確定日 2017-10-06 
事件の表示 上記当事者間の特許第4180369号発明「素材シートの移動を測定する方法及びこの方法を実行するための光学センサー」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認めない。 特許第4180369号の請求項1ないし6に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由
第1 手続の経緯
被請求人は,2001年11月5日(優先権主張 平成12年11月6日 欧州特許庁),名称を「素材シートの移動を測定する方法及びこの方法を実行するための光学センサー」とする発明について国際特許出願をし(特願2002-539827号,特表2004-513348号),平成20年9月5日に,特許の設定登録を受けた(特許第4180369号,以下「本件特許」といい,また,本件特許の明細書を「本件特許明細書」という。)。
これに対して,請求人は,平成26年11月11日,本件特許の請求項1ないし6に係る発明についての特許を無効とする,との審決を求めることを請求の趣旨とする審判を請求した(以下「本件無効審判」という。)。
本件無効審判に関する,その後の手続の経緯は,概略,以下のとおりである。

平成27年 3月24日:答弁書(以下,「答弁書1」という。)
平成27年 3月24日:訂正請求書
(以下,この訂正請求書による訂正請求を「訂正請求1」という。)
平成27年 5月28日:審理事項通知書
平成27年 7月 7日:口頭審理陳述要領書(請求人)
平成27年 7月 9日:口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成27年 7月22日:口頭審理
平成27年 8月 5日:上申書(請求人)
平成27年 8月24日:上申書(被請求人,以下「被請求人上申書」という。)
平成27年 9月16日:無効理由通知
平成27年11月10日:訂正請求書
(以下,この訂正請求書を「本件訂正請求書」といい,この訂正請求書による訂正請求を,「本件訂正請求」という。)
平成27年11月10日:意見書
平成27年12月25日:弁駁書(以下,「弁駁書1」という。)
平成28年 1月27日:訂正拒絶理由通知
平成28年 3月18日:補正書(補正対象項目名:請求の理由)
平成28年 3月18日:補正書(補正対象項目名:特許請求の範囲)
(以下,この同日付け補正書をまとめて「平成28年3月18日付け補正書」という。)
平成28年 3月18日:意見書
平成28年 6月20日:補正許否の決定
平成28年 7月14日:弁駁書(以下,「弁駁書2」という。)
平成28年 8月 5日:答弁書(以下,「答弁書2」という。)
平成28年12月22日:審決の予告
平成29年 5月15日:審理終結通知

なお,平成27年11月10日付けで本件訂正請求がなされたため,特許法第134条の2第6項の規定により,訂正請求1は取り下げられたものとみなされる。


第2 本件訂正請求について
1 本件訂正請求の趣旨及び訂正の内容
本件訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)は,本件特許明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明を,本件訂正請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正することを求めるものであって,本件特許明細書の特許請求の範囲については,一群の請求項ごとに訂正することを求めるものである。

訂正の内容は,以下のとおりである。

(請求項1ないし6からなる一群の請求項についての訂正)
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1において,
「定期的に変化する電流が前記レーザー空洞に供給され,前記電気信号の第1及び第2測定信号が比較されることにより,前記素材シートのシート移動方向における移動が決定され,前記第1及び第2測定信号は,それぞれ,前記定期的に変化する電流の第1半期及び第2半期中に生成される」という特徴を追加することにより訂正する。

イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2において,
「前記素材シートの移動速度」とあるのを,「前記素材シートのシート移動方向における移動の速度」に訂正する。

ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3において,
「前記ダイオードレーザーのレーザー空洞のインピーダンスを測定する」とあるのを,「前記レーザー空洞の動作の変化を検出するために前記ダイオードレーザーのレーザー空洞のインピーダンスを測定する」に訂正する。

エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項3に「請求項1又は2記載の方法」とあるのを,「請求項1記載の方法」に訂正する。

オ 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項4において,
「前記レーザー放射の強度を測定する」とあるのを,「前記レーザー空洞の動作の変化を検出するために前記レーザー放射の強度を測定する」 に訂正する。

カ 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項4に「請求項1乃至3記載の方法」とあるのを,「請求項1記載の方法」 に訂正する。

(明細書の訂正)
キ 訂正事項7
願書に添付した明細書の段落【0076】に記載された「府の数」とあるのを,「負の数」に訂正する。


2 訂正の適否についての判断
(1)訂正拒絶理由書
本件訂正請求について,当審は,平成28年1月27日付けで訂正拒絶理由を通知した。訂正拒絶理由の概略は次のとおりである。

「第1 手続の経緯
(略)

第2 当合議体の判断
1 本件訂正後発明
本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1及び請求項2を,構成要件毎に分説して記載すると,以下のとおりとなる(以下,請求項1及び2に係る発明を,それぞれ「本件訂正後発明1」及び「本件訂正後発明2」という。)。なお,下線は当合議体が付したものであり,訂正箇所を示す。

【請求項1】
A ダイオードレーザーを有するシートセンサーに対する素材シートのシート移動方向における移動を測定する方法であって,
B 前記ダイオードレーザーのレーザー空洞から放射される測定レーザービームであって,前記素材シートの移動方向に対して鋭角な測定レーザービームを前記素材シートに照射し,
C 前記素材シートによって反射されて前記放射された測定レーザービームの方向に沿って戻る一部の測定レーザービームを前記レーザー空洞に再侵入させ,前記再侵入した測定レーザービームを前記レーザー空洞内のレーザー放射と干渉させて前記レーザー空洞の動作の変化を促し,
D 前記レーザー空洞の動作の変化を検出し,
E 前記検出されたレーザー空洞の動作の変化を前記素材シートの移動の測定を表す電気信号に変換する工程から構成され,
K 定期的に変化する電流が前記レーザー空洞に供給され,前記電気信号の第1及び第2測定信号が比較されることにより,前記素材シートの移動方向における移動が決定され,前記第1及び第2測定信号は,それぞれ,前記定期的に変化する電流の第1半期及び第2半期中に生成されることを特徴とする方法。

【請求項2】
F 前記素材シートのシート移動方向における移動の速度は,前記ダイオードレーザーにおけるレーザー放射のパワー,レーザー放射の周波数,レーザー放射の線幅,及びレーザー閾値利得を含むパラメータのうちの少なくとも1つのパラメータ値を測定することによって確定されることを特徴とする請求項1記載の方法。

2 126条5項について
(1) 本件訂正後発明1について
ア 構成要件Kについて
本件訂正後発明1は,構成要件Kを具備する。
ここで,構成要件Kに関して,請求項1には,「前記電気信号の第1及び第2測定信号が比較されることにより,前記素材シートの移動方向における移動が決定され」と記載され,「前記電気信号の第1及び第2測定信号が比較されることにより,前記素材シートの移動方向が決定され」とは記載されていない。すなわち,請求項1の記載によると,「比較」によって決定されるものは,「移動方向」ではなく,「移動方向における移動」と解するのが相当である。また,「移動方向における移動」という記載は,「移動」の前提として「移動方向」があることを意味するから,本件訂正後発明1においては,比較が行われる前に,「移動方向」は既に決定されていると解するのが相当である。

イ 出願当初明細書等の記載
構成要件Kに関して,願書に最初に添付した明細書の発明の詳細な説明の段落【0071】?【0076】には,以下のとおり記載されている。なお,構成要件Kについての訂正の根拠については,被請求人も段落【0074】及び【0076】の記載を指摘しているところである。
「【0071】(略)
【0072】(略)
【0073】(略)
【0074】(略)
【0075】(略)
【0076】(略)

ウ 判断
段落【0071】?【0076】には,素材シートのシート移動方向及び速度を,それぞれ,第1及び第2測定信号を相互に比較すること,並びに,引くことによって決定する方法が記載されている。そして,第1及び第2測定信号を相互に比較することによって決定されるものは,素材シートの移動の方向(正か,負か,固定か)であると理解できる。
すなわち,本件特許の願書に添付した明細書及び図面(以下「出願当初明細書等」という。)に記載された技術的事項は,「第1及び第2測定信号が比較されることにより素材シートの移動方向が決定される」という技術的事項である。出願当初明細書等には,「第1及び第2測定信号が比較されることにより素材シートの移動方向における移動が決定される」という技術的事項は開示されていない。また,出願当初明細書等には,「第1及び第2測定信号が比較される前に素材シートの移動方向が決定されている」という技術的事項も開示されていない。

(2) 本件訂正後発明2について
ア 構成要件Fについて
本件訂正後発明2は,訂正後の構成要件Fを具備する。
しかしながら,段落【0071】?【0076】の記載からは,「前記素材シートのシート移動方向における移動の速度は,前記ダイオードレーザーにおけるレーザー放射のパワー及びレーザー閾値利得を含むパラメータのうちの少なくとも1つのパラメータ値を測定することによって確定されること」は理解できるとしても,「前記素材シートのシート移動方向における移動の速度は,前記ダイオードレーザーにおけるレーザー放射のパワー,レーザー放射の周波数,レーザー放射の線幅,及びレーザー閾値利得を含むパラメータのうちの少なくとも1つのパラメータ値を測定することによって確定されること」までは理解できない。
(ア)周波数について
段落【0074】には,定期ドライブ電流Idにより【図6】に示されるようなレーザー放射の周波数変動が発生すること,また,段落【0075】には,定期ドライブ電流Id及びシートの移動により【図7】に示されるようなレーザー放射の周波数変動が発生することまでは開示されているが,レーザー放射の周波数を測定することによって,素材シートのシート移動方向における移動の速度が確定されることまでは理解できない。
すなわち,【図6】及び【図7】からは,周波数が常に変動し,周波数として測定困難と思われる波形が理解できるところ,このような波形から周波数を定量化し速度に換算する方法が,出願当初明細書等には開示されていない。

(イ)線幅
線幅については,段落【0071】?【0076】に記載がない。また,線幅については,【0006】に「自己結合効果(self-coupling effect)によって変化するパラメータは,レーザー放射及びレーザー閾値利得のパワーと,周波数と,線幅とである。」と記載があるのみである。そして,段落【0071】?【0076】の構成において,線幅を定量化し速度に換算する方法が,出願当初明細書等には開示されていない。

第3 むすび
以上のとおり,本件訂正は,134条の2第9項で準用する126条第5項の規定に適合しないから,本件訂正は認められない。 」


(2)訂正拒絶理由通知書に対する補正(平成28年3月18日付け手続補正書による補正)

訂正拒絶理由通知書に対する補正(平成28年3月18日付け手続補正書による補正)は次の補正を含むものである(なお,同日付け意見書参照)。

(補正1)補正前の特許請求の範囲の請求項1の訂正事項1について,「定期的に変化する電流が前記レーザー空洞に供給され,前記電気信号の第1及び第2測定信号が比較されることにより,前記素材シートのシート移動方向における移動が決定され,前記第1及び第2測定信号は,それぞれ,前記定期的に変化する電流の第1半期及び第2半期中に生成される」との事項を,「定期的に変化する電流が前記レーザー空洞に供給され,前記電気信号の第1及び第2測定信号が比較されることにより,前記素材シートのシート移動方向及び速度が決定され,前記第1及び第2測定信号は,それぞれ,前記定期的に変化する電流の第1半期及び第2半期中に生成される」とする。

(補正2)
補正前の「(訂正事項2)特許請求の範囲の請求項2において,「前記素材シートの移動速度」とあるのを,「前記素材シートのシート移動方向における移動の速度」に訂正する。」とあるのを,補正後は,「特許請求の範囲の請求項2を削除することにより訂正する」とする。

(補正3)
「(ク)訂正事項8「特許請求の範囲の請求項5に「請求項1乃至4記載の方法」とあるのを,「請求項1,3又は4記載の方法」に訂正する」との事項を追加する。

(3)上記補正についての当審の判断
上記(補正1)は,補正前の特許請求の範囲の請求項1の訂正事項1について,「定期的に変化する電流が前記レーザー空洞に供給され,前記電気信号の第1及び第2測定信号が比較されることにより,前記素材シートのシート移動方向における移動が決定され,」との事項(訂正後発明1についての特定事項)を「定期的に変化する電流が前記レーザー空洞に供給され,前記電気信号の第1及び第2測定信号が比較されることにより,前記素材シートのシート移動方向及び速度が決定され,」と補正するものである。

この補正は,「電気信号の第1及び第2測定信号が比較されることにより」決定されるものが,「前記素材シートのシート移動方向」のみにならず,「速度」についても決定されるという技術的事項を付加したものである。
このような補正は,訂正事項の削除,軽微な瑕疵の補正等,訂正請求書の要旨を変更しないものいうことができず,訂正事項を変更するものであるから,本件訂正請求書の要旨を変更するものである。

よって,補正1は,特許法第134条の2第9項において準用する特許法第131条の2第1項の規定に適合しないから,本件訂正請求の補正1を認めることができない。

(4)本件訂正請求についての当審の判断
本件訂正請求による本件訂正後発明1については,「2」「(1)」の訂正拒絶理由通知書の上記「第2」「2(1)本件訂正後発明1について」「ウ判断」で示したように,本件特許明細書及び図面に,「第1及び第2測定信号が比較されることにより素材シートの移動方向における移動が決定される」との技術的事項,及び「第1及び第2測定信号が比較される前に素材シートの移動方向が決定されている」との技術事項は開示されていないとの訂正拒絶理由を有するものである。
そして,上記(3)に記載したように,本件訂正請求の補正1を認めることができないから,本件訂正後発明1は,訂正拒絶理由を依然として解消していない。

したがって,本件訂正請求による請求項1に係る訂正は,明細書等に記載した事項の範囲内においてするものではなく,特許法第134条の2第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しない。
そして,本件訂正請求は,請求項1ないし6からなる一群の請求項ごとに訂正することを求めるものであるから,その余の請求項に係る訂正について検討するまでもなく,本件訂正は認められない。


第3 本件発明
上記「第2」に記載したとおり,本件訂正は認められず,また,上記「第1」で示したとおり,訂正請求1は取り下げられたものとみなされるから,本件発明は,特許第4180369号として登録された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるもの(以下,それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明6」という。)であって,以下のとおりものである。

「【請求項1】
ダイオードレーザーを有するシートセンサーに対する素材シートのシート移動方向における移動を測定する方法であって,
前記ダイオードレーザーのレーザー空洞から放射される測定レーザービームであって,前記素材シートの移動方向に対して鋭角な測定レーザービームを前記素材シートに照射し,
前記素材シートによって反射されて前記放射された測定レーザービームの方向に沿って戻る一部の測定レーザービームを前記レーザー空洞に再侵入させ,前記再侵入した測定レーザービームを前記レーザー空洞内のレーザー放射と干渉させて前記レーザー空洞の動作の変化を促し,
前記レーザー空洞の動作の変化を検出し,
前記検出されたレーザー空洞の動作の変化を前記素材シートの移動の測定を表す電気信号に変換する工程から構成されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記素材シートの移動速度は,前記ダイオードレーザーにおけるレーザー放射のパワー,レーザー放射の周波数,レーザー放射の線幅,及びレーザー閾値利得を含むパラメータのうちの少なくとも1つのパラメータ値を測定することによって確定されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ダイオードレーザーのレーザー空洞のインピーダンスを測定することを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記レーザー放射の強度を測定することを特徴とする請求項1乃至3記載の方法。
【請求項5】
前記素材シートに対する前記測定ビームのフォーカス状態を検出する工程を更に有することを特徴とする請求項1乃至4記載の方法。
【請求項6】
前記フォーカス状態は,前記レーザー空洞の動作の変化の振幅を確定することによって検出されることを特徴とする請求項5記載の方法。」


第4 請求人の主張及び証拠方法
1 請求人の主張の概要
審判請求書,口頭審理陳述要領書(請求人),上申書及び弁駁書1の記載内容を総合すると,請求人の主張は,以下の理由により,本件発明1ないし本件発明6についての特許を無効とすべきであるというものである。

(1)無効理由1
本件特許の請求項2に係る特許は,特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであり,本件特許の,請求項2を引用する請求項3,請求項2及び請求項3を引用する請求項4,及び請求項6に係る特許は,特許法第36条第6項第1号若しくは同第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから,本件発明2ないし本件発明4及び本件発明6についての特許は,特許法第123条第1項第4号に該当し,無効とすべきものである。

(2)無効理由2
ア 本件発明1,本件発明2及び本件発明4は,甲第2号証に記載された発明であるか,又は,甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたから,特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し特許を受けることができないものであるか,または特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。よって,本件発明1,本件発明2及び本件発明4についての特許は,特許法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものである。

イ 本件発明2及び本件発明3は,甲第2号証及び甲第3号証(甲第3号証の1,甲第3号証の2)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。よって,本件発明2及び本件発明3についての特許は,特許法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものである。

ウ 本件発明5は,甲第2号証及び甲第4号証に記載された発明,又は,甲第2号証,甲第3号証(甲第3号証の1,甲第3号証の2)及び甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。よって,本件発明5についての特許は,特許法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものである。

エ 本件発明6は,甲第2号証,甲第4号証及び甲第5号証に記載された発明,又は,甲第2号証,甲第3号証(甲第3号証の1,甲第3号証の2),甲第4号証及び甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。よって,本件発明6についての特許は,特許法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものである。

2 証拠方法
請求人が提出した証拠は,以下のとおりである。

(審判請求書とともに提出された証拠)
甲第1号証;特許第4180369号特許掲載公報
(本件特許の特許掲載公報本件特許発明を立証する。)
甲第2号証;特開平6-82553号公報
(刊行物1:本件特許発明の進歩性を否定する発明が刊行物に記載されていることを立証する。)
甲第3号証の1;三橋慶喜著「半導体レーザの自己結合効果とその応用に関する研究」昭和61年4月,表紙,目次,P.1-31頁
(刊行物2:本件特許発明2及び3の進歩性を否定する発明が刊行物に記載されていることを立証する。)
甲第3号証の2:国立国会図書館所蔵図書資料に関する証明書
(甲第3号証の1の文献が昭和62年9月24日に国会図書館に受け入れられていたことを立証する。)
甲第4号証;特開平7-167956号公報
(刊行物3:本件特許発明5及び6の進歩性を否定する発明が刊行物に記載されていることを立証する。)
甲第5号証;特許第2733990号特許掲載公報
(刊行物4:本件特許発明6の進歩性を否定する発明が刊行物に記載されていることを立証する。)

(口頭審理陳述要領書とともに提出された証拠)
甲第6号証;「岩波 理化学事典 第3版」岩波書店1971年5月30日
発行,p.758,759,1241
(変位とは位置の移動であり,速度を時間で積分することにより求められることを立証する。
甲第7号証;特開平7-20243号公報
(本件特許の出願前に当業者がドップラー速度計により物体の移動距離を測定することを認識していたこと)
甲第8号証;特開平7-198849号公報
(本件特許の出願前に当業者がドップラー速度計により被測定物の長さを測定することを認識していたこと)
甲第9号証;特開平7-229912号公報
(本件特許の出願前に当業者がドップラー速度計により移動物体の変位に関する変位情報を測定することを認識していたこと)

(上申書とともに提出された証拠)
甲第10号証;特開平10-236685号公報
(本件特許の出願前に,レーザードップラー速度計がプリンタの用紙の移動速度の測定に用いられていたことを立証する。)
甲第11号証;特開平8-285554号公報
(レーザードップラー速度計の特性を立証する。)
甲第12号証;アクト電子株式会社 技術情報 レーザドップラ速度計http://www.actele.co.jp/knowledge/laser_tech.html#laser_tech_p1
(レーザードップラー速度計の特性を立証する。)
甲第13号証;特開平9-304534号公報
(レーザードップラー速度計がシート材の移動速度の測定に適していることを立証する。)

(弁駁書1とともに提出された証拠)
甲第14号証;富士通テン技報Vol.15,No.2 平成9年11月20日発行,表紙,目次,第9-18頁及び奥付
(甲第5号証に記載された周波数を三角波変調して速度を求めることは,FM-CWレーダ方式として周知の手法であることを立証する。)
甲第15号証;テレビジョン学会年次大会講演予稿集 1990年7月25日,「国立国会図書館所蔵と資料に関する証明書」,表紙,目次及び第25-26頁
(自己結合型半導体レーザーを用いた速度計においてレーザー出力を三角波変調することが公知であることを立証する。)
甲第16号証;「APPLIED OPTICS」Vol.25,No.9 1986年5月1日,表紙,図書館受入印頁,目次,第1439-1442頁及び図書館受入票頁
(自己結合型半導体レーザーを用いた速度計においてレーザー出力を三角波変調することが公知であることを立証する。)

第5 被請求人の主張
答弁書1,口頭審理陳述要領書(被請求人),被請求人上申書及び答弁書2の記載内容を総合すると,被請求人の主張の概要は,以下のとおりである。
(1)無効理由1
ア 本件特許の請求項2に係る特許は,特許法第36条第4項に規定する要件を具備する出願に対してされたものであるから,本件発明2についての特許は,特許法第123条第1項第4号に該当するものではなく,無効とすべきものではない。
イ 本件特許の請求項3,請求項4に係る特許は,訂正請求1により,請求項3が1のみを引用し,請求項4が請求項1のみを引用するように訂正されたことにより,本件特許の,請求項2を引用する請求項3,請求項2及び請求項3を引用する請求項4は,削除されたため,対象となる請求項が存在しない。したがって,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものとする無効理由は存在しない。
ウ 本件特許の請求項6に係る特許は,発明の詳細な説明に記載したものであり,かつ特許請求の範囲の記載は明確であって,特許法第36条第6項第1号,及び同第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものではないから,特許法第123条第1項第4号に該当するものではなく,無効とすべきものではない。

(2)無効理由2
ア 本件発明1と,甲第2号証に記載された発明には,相違点があり,また,本件発明1は,甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから,特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当せず,また,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものでもない。よって,本件発明1についての特許は,特許法第123条第1項第2号に該当せず,無効とすべきものではない。

イ 本件発明2ないし本件発明6は,本件発明1の従属項であり,上記アのとおり,特許発明1は,甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから,本件発明2ないし本件発明6についても,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。よって,本件発明2ないし本件発明6についての特許は,特許法第123条第1項第2号に該当せず,無効とすべきものではない。


第6 当審の判断
上記「第2」に記載したとおり,本件訂正は認められず,また,上記「第1」で示したとおり,訂正請求1は取り下げられたものとみなされる。したがって,訂正請求1により訂正される前の,請求項2ないし請求項6を対象に検討する。

1 無効理由1について

(1)請求項2について

請求項2に係る特許は,素材シートの移動速度について「前記ダイオードレーザーにおけるレーザー放射のパワー,レーザー放射の周波数,レーザー放射の線幅,及びレーザー閾値利得を含むパラメータのうちの少なくとも1つのパラメータ値を測定することによって確定される」ことを含むものであり,これに対応する本件特許明細書の発明の詳細な説明には,
「【0006】
本発明の方法は,ダイオードレーザーにおけるいわゆる自己ミキシング効果(self-mixing effect)を用いる。これはダイオードレーザーによって放たれた放射であってダイオードレーザーの空洞に再侵入するものが,レーザーの利得の変化を誘発し,したがってレーザーによって放たれた放射の利得の変化をも誘発するという現象である。測定されるシート及びシートセンサーは,シートの移動の方向がレーザービームの方向にコンポーネントを有するような関係において配置される。シートセンサーに対応してシートが動く際,シートによって反射され散乱する放射は,ドップラー効果によってシートを照射する放射の周波数とは異なる周波数を得る。散乱する(放射)光の1部はオブジェクトの照射ビームにフォーカスするレンズと同様のレンズによってダイオードレーザーにフォーカスされる。散乱する放射のうちレーザー鏡を通じてレーザー空洞に入るものがあるため,レーザーにおいて光の干渉が生じる。これはレーザーのプロパティ及び放たれた放射の根本的な変化につながる。自己結合効果(self-coupling effect)によって変化するパラメータは,レーザー放射及びレーザー閾値利得のパワーと,周波数と,線幅とである。レーザー空洞内の干渉の結果これらのパラメータの価値は,2つの放射周波数の差と同等である周波数によって変動する。この差はシートの速度に比例する。したがってシートの速度及びシートの変位量はこれらのパラメータのうちの1つの価値を測定することによって確定されることが可能である。この方法はごく単純で小数のコンポーネントによって実行されることができ,さらにこれらのコンポーネントの緊密な連係を要さない。オブジェクトあるいは一般的な固体及び液体の速度を測定するために自己ミキシング効果を利用する方法は従来においても知られている技法である。この一例として以下の文献を参照する。(略)」と記載されている(下線は,当審で付した。)。

そして,請求項2における「レーザー放射のパワー」,「レーザー放射の周波数」,「レーザー放射の線幅」,及び「レーザー閾値利得」は,レーザの技術分野において,普通に用いられる技術用語であって,これらを測定し得ることは当業者において広く知られた事項である。
また,これらのパラメータの価値は,レーザー空洞内の干渉の結果2つの放射周波数の差と同等である周波数によって変動し,この差はシートの速度に比例することから,これらのパラメータは,シートの速度に1対1に対応するものであるから,当業者であれば,予め試料用のシートを用いて,パラメータの値からシートの速度の対応関係を求めるなどして,種々のシートの速度を測定し得るものである。
したがって,本件特許明細書は,本件発明2を当業者が実施することができる程度に記載されているということができる。

よって,請求項2に係る発明の詳細な説明の記載は,特許法第36条第4項の規定に適合するものであるから,特許法第123条第1項第4号に該当するものではない。


(2)請求項3について

請求項3は,請求項2を引用していることから,請求項2を引用する本件発明3は,「前記素材シートの移動速度は,前記ダイオードレーザーにおけるレーザー放射のパワー,レーザー放射の周波数,レーザー放射の線幅,及びレーザー閾値利得を含むパラメータのうちの少なくとも1つのパラメータ値を測定することによって確定され,さらに前記ダイオードレーザーのレーザー空洞のインピーダンスを測定することを特徴とする」方法を含む。

そうすると,請求項3は,請求項2において特定されるパラメータの1つによって素材シートの移動速度を確定し,さらにダイオードレーザーのレーザー空洞のインピーダンスを測定するものとなり,一方,本件特許明細書の発明の詳細な説明によれば,レーザー空洞のインピーダンスを測定することは,シートの移動を測定するための手段である(下記【0023】,【0070】参照。下線は当審で付した。)。


「【0023】
本発明の一実施形態に従ったシートセンサーは,前記の測定手段が,レーザー空洞のインピーダンスの変異を測定する手段であることを特徴とする。」

「【0070】
利得の変化すなわちシートの移動を測定する別の方法としては,レーザー放射の強度がレーザーの接合部における伝導バンド内の電子の数に比例するという要因を利用する方法がある。さらにこの数は,この接合部のレジスタンスに反比例する。このレジスタンスを測定することによってオブジェクトの移動を確定することが可能になる。この測定方法の実施形態は図4において示される。この図では,ダイオードレーザーの能動レイヤ35,及びこのレーザーを供給するための電流供給源36が示される。ダイオードレーザーをわたるボルトは,キャパシタ38を介して電子回路40に供給される。電流と共にレーザーを介してノーマライズされるこのボルトは,レーザー空洞のレジスタンスあるいはインピーダンスに比例する。ダイオードレーザーと連係するインダクタンス37は,ダイオードレーザーをわたる信号のインピーダンスを高くする。」

したがって,本件特許明細書の発明の詳細な説明には,請求項2に挙げられたパラメータの1つによって素材シートの移動速度を測定する別の方法として,ダイオードレーザーのレーザー空洞のインピーダンスを測定してシートの移動を測定するものが記載されているものの,請求項2に挙げられたパラメータの1つによって素材シートの移動速度を確定し,さらにダイオードレーザーのレーザー空洞のインピーダンスを測定してシートの移動を測定するものについては記載されておらずまた自明でもない。
したがって,請求項2を引用する本件発明3は,発明の詳細な説明に記載されておらず,請求項3に係る特許請求の範囲の記載は,特許法第36条第6項第1号の規定に適合しない。

(3)請求項4について

請求項4は,請求項2,及び請求項2を引用する請求項3を引用していることから,請求項2を直接または間接的に引用する本件発明4は,「前記素材シートの移動速度は,前記ダイオードレーザーにおけるレーザー放射のパワー,レーザー放射の周波数,レーザー放射の線幅,及びレーザー閾値利得を含むパラメータのうちの少なくとも1つのパラメータ値を測定することによって確定され,さらに前記レーザー放射の強度を測定することを特徴とすることを特徴とする」方法を含む。

そうすると,請求項4は,請求項2において特定されるパラメータの1つによって素材シートの移動速度を確定した上でさらにダイオードレーザーのレーザー空洞のインピーダンスを測定するものとなり,一方,本件特許明細書の発明の詳細な説明によれば,レーザー放射の強度を測定することは,シートの移動を測定するための手段である(下記【0069】参照。下線は当審で付した。)。


「【0069】
モニターダイオードを用いてレーザー後面で放射強度を測定することによってオブジェクトの移動により発生するレーザー空洞利得の変化を測定することが最も単純な測定法であり,したがって最も魅力的な方法である。一般的にはこのダイオードはレーザー放射の強度を一定に保つために用いられるが,ここではオブジェクトの移動を測定するためにも用いられる。」

したがって,本件特許明細書の発明の詳細な説明には,請求項2に挙げられたパラメータの1つによって素材シートの移動速度を測定する別の方法として,レーザー放射の強度を測定してシートの移動を測定するものが記載されているものの,請求項2に挙げられたパラメータの1つによって素材シートの移動速度を確定し,さらにレーザー放射の強度を測定してシートの移動を測定するものについては記載されておらずまた自明でもない。
したがって,請求項2を引用する本件発明4は,発明の詳細な説明に記載されておらず,請求項4に係る特許請求の範囲の記載は,特許法第36条第6項第1号の規定に適合しない。


(4)請求項6について

本件発明6は,「前記フォーカス状態は,前記レーザー空洞の動作の変化の振幅を確定することによって検出される」ことを含むものであり,これに対応する本件特許明細書の発明の詳細な説明には,
「【0089】
またフォーカスエラー信号は,自己ミキシング信号の波動の振幅から推論されることもできる。測定ビームがシートに最適にフォーカスされた場合,前記の振幅は最高値に達する。最適フォーカスから逸脱した場合は,この振幅は縮小される。したがって実際の振幅を,最適フォーカスを表すリファレンスと対比することによってフォーカスエラーは確定される。」と記載されている。

そして,請求項6は,請求項1を間接的に引用するものであって,請求項1の「前記素材シートによって反射されて前記放射された測定レーザービームの方向に沿って戻る一部の測定レーザービームを前記レーザー空洞に再侵入させ,前記再侵入した測定レーザービームを前記レーザー空洞内のレーザー放射と干渉させて前記レーザー空洞の動作の変化を促し」との事項を前提にするものであるから,レーザー空洞の動作の変化の振幅が自己ミキシング信号の波動の振幅に対応するものである。
したがって,レーザー空洞の動作の変化の振幅を確定することにより,前記振幅が最高値に達する場合には最適にフォーカスされており,前記振幅が縮小されている場合には最適フォーカスから逸脱しているというフォーカス状態を検出するものであるということができる。
よって,本件発明6は,発明の詳細な説明に記載したものであり,かつ特許請求の範囲の記載は明確であるから,請求項6に係る特許請求の範囲の記載は,特許法第36条第6項第1号,及び同第2号の規定に適合するものである。

(5)無効理由1についてのまとめ
以上のとおり, 請求項2を引用する請求項3,請求項2及び請求項3を引用する請求項4に係る特許請求の範囲の記載は,特許法第36条第6項第1号の規定に適合しないものであるから,請求項3,請求項4に係る特許は,特許法第123条第1項第4号に該当し,無効とすべきものである。
請求項2に係る発明の詳細な説明の記載は,特許法第36条第4項の規定に適合するものであり,請求項6に係る特許請求の範囲の記載は,特許法第36条第6項第1号,及び同第2号の規定に適合するものであるから,請求項2,請求項6に係る特許は,特許法第123条第1項第4号に該当するものではなく,無効とすべきものではない。


2 無効理由2について
本件発明1ないし6を,以下に再掲する。

「【請求項1】
ダイオードレーザーを有するシートセンサーに対する素材シートのシート移動方向における移動を測定する方法であって,
前記ダイオードレーザーのレーザー空洞から放射される測定レーザービームであって,前記素材シートの移動方向に対して鋭角な測定レーザービームを前記素材シートに照射し,
前記素材シートによって反射されて前記放射された測定レーザービームの方向に沿って戻る一部の測定レーザービームを前記レーザー空洞に再侵入させ,前記再侵入した測定レーザービームを前記レーザー空洞内のレーザー放射と干渉させて前記レーザー空洞の動作の変化を促し,
前記レーザー空洞の動作の変化を検出し,
前記検出されたレーザー空洞の動作の変化を前記素材シートの移動の測定を表す電気信号に変換する工程から構成されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記素材シートの移動速度は,前記ダイオードレーザーにおけるレーザー放射のパワー,レーザー放射の周波数,レーザー放射の線幅,及びレーザー閾値利得を含むパラメータのうちの少なくとも1つのパラメータ値を測定することによって確定されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ダイオードレーザーのレーザー空洞のインピーダンスを測定することを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記レーザー放射の強度を測定することを特徴とする請求項1乃至3記載の方法。
【請求項5】
前記素材シートに対する前記測定ビームのフォーカス状態を検出する工程を更に有することを特徴とする請求項1乃至4記載の方法。
【請求項6】
前記フォーカス状態は,前記レーザー空洞の動作の変化の振幅を確定することによって検出されることを特徴とする請求項5記載の方法。」

(1)当審の無効理由通知
平成27年9月16日付けで通知した当審の無効理由の概略は次のとおりである。

「第1 手続の経緯
(略)
第2 本件特許発明
(略)
第3 当審判体の無効理由
1 引用例又は周知例(無効審判の証拠に合わせるため欠番がある)
甲第2号証:特開平6-82553号公報
甲第3号証:三橋慶喜,「半導体レーザの自己結合効果とその応用に関する研究」,昭和61年4月,表紙,目次,1?31頁
甲第4号証:特開平7-167956号公報
甲第10号証:特開平10-236685号公報
甲第13号証:特開平9-304534号公報
2 本件特許発明1について
(1) 本件特許発明1と甲2の図1に記載された発明(以下「甲2発明」という。)を対比すると,両者は以下の構成において一致する。
「レーザーを有するセンサーに対する測定対象の移動を測定する方法であって,
前記レーザーのレーザー空洞から放射される測定レーザービームを前記測定対象に照射し,
前記測定対象によって反射されて前記放射された測定レーザービームの方向に沿って戻る一部の測定レーザービームを前記レーザー空洞に再侵入させ,前記再侵入した測定レーザービームを前記レーザー空洞内のレーザー放射と干渉させて前記レーザー空洞の動作の変化を促し,
前記レーザー空洞の動作の変化を検出し,
前記検出されたレーザー空洞の動作の変化を前記測定対象の移動の測定を表す電気信号に変換する工程から構成されることを特徴とする方法。」

(2) 本件特許発明1と甲2発明の相違点は,以下のとおりである。
ア 相違点1
本件特許発明1の「レーザー」は,「ダイオードレーザー」であるのに対して,甲2発明の「レーザー」は,「レーザー発振器2」である点。

イ 相違点2
本件特許発明1は,「素材シート」を測定対象物とするのに対し,甲2発明は「被測定物7」である点。

ウ 相違点3
本件特許発明1は,「素材シートのシート移動方向における移動」を測定対象量とするのに対し,甲2発明は「被測定物7の移動速度」である点。

エ 相違点4
本件特許発明1は,「前記素材シートの移動方向に対して鋭角な測定レーザービームを」前記素材シートに照射しているのに対し,甲2発明は,これが明らかではない点。

(3) 判断
ア 相違点1について
甲2の段落【0014】?【0017】の記載内容からみて,甲2発明は,「自己結合効果」を測定原理とする発明である。また,例えば,甲2の段落【0016】には,「Lの小さな小型レーザではτlを短くでき,しかもτpがτlに比例するので,極めて大きなKを得ることができる。」と記載があるところ,半導体レーザー(ダイオードレーザー)はL(レーザー共振器長)が短いレーザーであるから,甲2発明の「レーザー発振器2」として適したものである。加えて,例えば,甲3の1頁22?24行,甲4の段落【0004】においても,自己結合効果が得られるレーザーとして,半導体レーザーが開示されている。
甲2発明の「レーザー発振器2」として「ダイオードレーザー」を採用することは,当業者が容易にできたものである。

イ 相違点2について
甲2には,被測定物を特定の物に制限するような記載は存在しない。また,甲2の図2?5及び段落【0018】?【0020】からは被測定物の材質が紙であっても,実際に測定可能であることが理解できる。
甲2発明の被測定物を紙,すなわち素材シートとすることは,当業者が容易にできたものである。

あるいは,甲2の段落【0002】?【0009】の記載からは,(A)従来のレーザードップラー方式によるレーザー速度計では,ビート信号を検出するために光学系が複雑になり,高感度の光検出系及び高度の光信号処理系を必要とし,速度計として極めて高価なものになること,(B)ビート信号を直接測定する装置を一切必要とせずに,被測定物の移動速度を超高感度で測定することのできるレーザー速度計を提供するという課題があること,(C)甲2発明の構成を採用すると,レーザー発振器の光源から出射する出力光の強度揺らぎの周波数から,被測定物の移動速度を簡便かつ超高感度で求めることができることが理解できるところ,(D)レーザードップラー方式によるレーザー速度計の測定対象として,素材シートは,周知技術であった(例えば,甲10の段落【0143】には,「レーザドップラ速度計を前述のPEセンサ13の近傍位置に設置し,用紙の表面にレーザ光を照射することで用紙の移動速度を測定できる。」と記載され,甲13の段落【0002】には,「図5に,レーザドップラ式速度計の産業分野への適用例として,布の染色ラインへ適用した例を示す。図5において,1は一対のロール2a,2bによって矢印イ又はロ方向に搬送され,噴霧器4から噴霧される染色料5によって染色されるシート状の搬送物であって,例えば布や紙を例としてあげることができる。」と記載されている。)。
甲2発明の被測定物を,レーザードップラー方式によるレーザー速度計によって測定されていた物である,素材シートとすることは,甲2発明が示唆するところである。

ウ 相違点3について
甲2発明の被測定物を素材シートとしてなるものは,自ずと,「素材シートのシート移動方向における移動」を測定対象量とするものになる。

エ 相違点4について
甲2発明の被測定物を素材シートとしてなるものは,自ずと,「前記素材シートの移動方向に対して鋭角な測定レーザービームを」前記素材シートに照射するものとなる。すなわち,被測定物からの戻り光がドップラー周波数偏位を受けるためには,被測定物7の移動方向と光源の発振軸のなす角θが鋭角でなければならない(甲2の段落【0014】の記載から理解できる事項である。)。

(4) 効果について
本件特許発明1の効果は,甲2発明から予測可能な範囲内のものである。

3 本件特許発明2について
(略)
4 本件特許発明3について
(略)
5 本件特許発明4について
(略)
6 本件特許発明5について
(略)
7 本件特許発明6について
(略)

第4 まとめ
1 本件特許発明1は,甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり特許法29条2項の規定に違反してされたものであるから,請求項1に記載された発明についての特許は,特許法123条1項2号に該当し,無効とすべきものである。
2 本件特許発明2は,(A)甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである,(B)甲2に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである,(C)甲2に記載された発明及び甲3に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり特許法29条2項の規定に違反してされたものであるから,請求項2に記載された発明についての特許は,特許法123条1項2号に該当し,無効とすべきものである。
3 本件特許発明3は,甲2に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり特許法29条2項の規定に違反してされたものであるから,請求項3に記載された発明についての特許は,特許法123条1項2号に該当し,無効とすべきものである。
4 本件特許発明4は,甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり特許法29条2項の規定に違反してされたものであるから,請求項4に記載された発明についての特許は,特許法123条1項2号に該当し,無効とすべきものである。
5 本件特許発明5は,(A)甲2に記載された発明及び甲3に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである,(B)甲2に記載された発明,周知技術及び甲3に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり特許法29条2項の規定に違反してされたものであるから,請求項5に記載された発明についての特許は,特許法123条1項2号に該当し,無効とすべきものである。
6 本件特許発明6は,(A)甲2に記載された発明及び甲3に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである,(B)甲2に記載された発明,周知技術及び甲3に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり特許法29条2項の規定に違反してされたものであるから,請求項6に記載された発明についての特許は,特許法123条1項2号に該当し,無効とすべきものである。

第5 その他
(略)」

(2)無効理由通知で通知された各甲号証に記載された事項
ア 甲第2号証
甲第2号証には,次の事項が記載されている(下線は,当審にて付与した。(2)の項において同様である。)。

a「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は,レーザ発振光電界と被測定物からの散乱光電界のビートを直接測定することなく,前記被測定物の移動速度を超高感度で測定することのできるレーザ速度計に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来のレーザ速度計は,基本的に,光源から出力されるレーザ光を被測定物に入射させ,該被測定物の移動速度に応じてドップラーシフトした散乱光の電界と前記レーザ光の電界とのビート信号を直接測定し,このビート信号から前記被測定物の移動速度を求める方法が採られている。このレーザ速度計では,レーザ光と極微弱な散乱光との波面を整合させる必要があるために,上記波面整合の困難性を回避する速度計として,差動型光学系を採用したレーザ速度計がよく用いられている。
【0003】このレーザ速度計は,図7に示す様に,2つのレーザビームを被測定物中で干渉させて散乱粒子の移動により生ずる干渉じまの変化を測定するものである。このレーザ速度計では,振動する光信号の周波数f[Hz]
【数1】(略)
を検出することにより,被測定物の移動速度を測定することができる。ここで,λ0は入射光の波長,nは被測定物の屈折率,vは被測定物の移動速度,2θは2つのレーザビームの交差角である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら,上記の差動型光学系を採用したレーザ速度計では,交差部の光強度分布がガウス分布をしているために,ペデスタルと呼ばれる低周波成分が重畳され,図8に示す様な光強度スペクトルとなり,被測定物の移動速度が小さいと分離不能になる。そこで,このペデスタルを除去する方法として周波数偏移法等の方法がいくつか提案されているが,いずれも大掛かりな装置を必要とするという欠点がある。また,このレーザ速度計では,被測定物は基本的に流体に限られるという欠点もある。以上の様に,従来のレーザ速度計では,ビート信号を検出するために光学系が複雑になり,高感度の光検出系及び高度の光信号処理系を必要とし,速度計として極めて高価なものになる。
【0005】本発明は,上記事情に鑑みてなされたものであって,ビート信号を直接測定する装置を一切必要とせずに,被測定物の移動速度を超高感度で測定することのできるレーザ速度計を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために,本発明は次の様なレーザ速度計を採用した。すなわち,請求項1記載のレーザ速度計は,光源から出射する出力光の一部を被測定物に入射させ,該被測定物からの戻り光を前記光源に帰還させるレーザ発振器と,該帰還光と前記出力光との干渉により誘起される出力光の強度揺らぎの周波数を測定する測定手段とを具備してなることを特徴としている。
【0007】また,請求項2記載のレーザ速度計は,請求項1記載のレーザ速度計において,前記レーザ発振器と被測定物との間に光ファイバを挿入してなることを特徴としている。
【0008】また,請求項3記載のレーザ速度計は,請求項1または2記載のレーザ速度計において,前記出力光を検波する光検出器と,前記測定手段からの信号に基づき被測定物の移動速度を求める信号処理手段とを具備してなることを特徴としている。
【0009】
【作用】本発明の請求項1記載のレーザ速度計では,レーザ発振器の光源から出射する出力光の一部を被測定物に入射させ,該被測定物からの戻り光を前記光源に帰還させる。また,測定手段が該帰還光と前記出力光との干渉により誘起される出力光の強度揺らぎの周波数を測定する。したがって,この出力光の強度揺らぎの周波数から被測定物の移動速度を簡便かつ超高感度で求めることができる。」

b「【0011】また,請求項3記載のレーザ速度計では,光検出器が出力光を検波し,信号処理手段が測定手段からの信号に基づき被測定物の移動速度を求める。したがって,出力光の強度揺らぎの周波数から被測定物の移動速度を直ちに求めることができる。
【0012】
【実施例】以下,本発明に係るレーザ速度計の各実施例について説明する。
(第1実施例)図1は,本発明の第1実施例のレーザ速度計を示す概略構成図である。このレーザ速度計1は,レーザ発振器2,ビームスプリッタ3,集光レンズ4,光検出器5,信号処理装置6(測定手段及び信号処理手段)から概略構成されている。光検出器5としては,例えばInGaAsのフォトダイオード等が,また,信号処理装置6としては,周波数トラッカ,周波数カウンタ,スペクトラムアナライザ,オッシロスコープ等が好適に用いられる。また,7は移動する被測定物である。
【0013】なお,このレーザ速度計1においては,集光レンズ4は必ずしも必要とされるものではない。また,ビームスプリッタ3を除き,レーザ発振器2の反対側から出射する出力光を光検出器5で検出し,信号処理装置6で信号処理する構成も当然含まれる。
【0014】次に,このレーザ速度計1の動作原理について説明する。このレーザ速度計1では,レーザ発振器1の光源から出射する出力光の一部(発振光)を被測定物7に入射させると,該被測定物7からの戻り光は前記光源の発振軸方向に帰還され,この帰還光Esは,次式の様なドップラー周波数偏移fD[Hz]をうける。
【数2】(略)
ここで,vは被測定物7の移動速度,θは被測定物7の移動方向と光源の発振軸のなす角である。したがって,fDだけ周波数が偏移した光が前記光源に注入されることになる。
【0015】この結果,帰還光Esは発振光Eoと干渉し,これら2つの電界の差周波数,すなわちfDで発振光Eoが変調される。この発振強度(So=Eo2)の時間変化は,次式の様に表される。
【数3】(略)
ただし,t=T/τ(T:時間),Κ=τ/τp,τp=τl/κ2である。ここで,npは反転分布密度に対応し,κはレーザ共振器の出力鏡の振幅透過率,cは光速度,Lはレーザ共振器長,τl(=2L/c)は光のレーザ共振器中での往復時間,τは反転分布寿命,τpは光子寿命,Kは寿命比である。
【0016】式(3)から明らかな様に,発振強度はfDの周波数で変調を受けることになり,この場合の変調度はK(=τ/τp)に比例する。したがって,散乱光の振幅が極微弱であってもKを大きくすれば十分大きな変調度が得られることになる。例えば,Lの小さな小型レーザではτlを短くでき,しかもτpがτlに比例するので,極めて大きなKを得ることができる。なお,従来のビート検出法ではKに基づく増幅は存在しない。
【0017】この変調された発振光を光検出器5で検出して電気信号に変換し,この電気信号を信号処理装置6に入力する。信号処理装置6では電気信号に変換された発振光の光強度の変動周波数信号を基に式(2)により被測定物7の移動速度を求める。
【0018】図2は,前記レーザ速度計1のより具体的な構成を示す構成図である。このレーザ速度計11は,レーザ発振器としてアルゴン(Ar)レーザ12で励起される1mm厚のLNP(LiNdP_(4)O_(12))レーザ13(K=10^(5)?10^(6))を用い,該LNPレーザ13とビームスプリッタ3との間に赤外透過フィルタ(IR)14を挿入し,ビームスプリッタ3と集光レンズ4との間に可変光減衰器(VA)15を挿入し,信号処理装置6としてスペクトラムアナライザ,オッシロスコープのいずれかを用いたものである。また,被測定物7は,速度可変のモータの軸16に取り付けた金属円板17に紙18を貼り付けたものである。
【0019】図3ないし図5は,前記レーザ速度計11を用いて被測定物7の移動速度を測定した実験結果を示す図である。ここでは,発振光と被測定物7の移動方向とのなす角を45度に固定し,回転速度vを変化させながら,発振光の発振強度スペクトルをスペクトラムアナライザで測定した。
【0020】この実験結果より,被測定物7の移動速度を求めると,図3では5.9m/s,図4では12.3m/s,図5では17.8m/sとなり,これらの値はモータの回転数から実測した移動速度と完全に一致した。また,被測定物7の移動速度は,1cm/s?100m/sの範囲で測定することができた。また,このLNPレーザ13は,Κが10^(5)?10^(6)と極めて大きいために,Es/Eo<10^(-5)と極微弱の散乱光に対しても充分感度良く測定することができた。
【0021】以上説明した様に,本実施例のレーザ速度計1,11によれば,帰還光と出力光との干渉により誘起される出力光の強度揺らぎの周波数を測定することにより被測定物7の移動速度を極めて簡便かつ超高感度で直ちに求めることができる。」

c 図2には,レーザー発振器の出力光を紙18に照射することが示されている。

A 上記段落【0001】には,「被測定物の移動速度を測定することのできるレーザ速度計」が記載されている。

B 上記段落【0009】の記載から,甲第2号証には「レーザ発振器の光源から出射する出力光の一部を被測定物に入射させ,該被測定物からの戻り光を前記光源に帰還させ,測定手段が該帰還光と前記出力光との干渉により誘起される出力光の強度揺らぎの周波数を測定することにより,この出力光の強度揺らぎの周波数から被測定物の移動速度を求める」ことが記載されているということができる。

C 「【0012】‥‥‥図1は,本発明の第1実施例のレーザ速度計を示す概略構成図である。このレーザ速度計1は,レーザ発振器2,ビームスプリッタ3,集光レンズ4,光検出器5,信号処理装置6(測定手段及び信号処理手段)から概略構成されている。光検出器5としては,例えばInGaAsのフォトダイオード等が,また,信号処理装置6としては,周波数トラッカ,周波数カウンタ,スペクトラムアナライザ,オッシロスコープ等が好適に用いられる。また,7は移動する被測定物である。【0013】‥‥‥また,ビームスプリッタ3を除き,レーザ発振器2の反対側から出射する出力光を光検出器5で検出し,信号処理装置6で信号処理する構成も当然含まれる。」との記載から,レーザ速度計1の構成において,ビームスプリッタ3を除き,光検出器5をレーザ発振器2の反対側から出射する出力光を検出する構成にすることが記載されているから,甲第2号証には,「レーザ速度計1は,レーザ発振器2,集光レンズ4,レーザ発振器2の反対側から出射する出力光を検出するフォトダイオードからなる光検出器5,信号処理装置6(測定手段及び信号処理手段)から概略構成されている」ことが記載されているということができる。

D 上記段落【0014】の記載から,「レーザ発振器1の光源から出射する出力光の一部(発振光)を被測定物7に入射させると,該被測定物7からの戻り光は前記光源の発振軸方向に帰還され,この帰還光Esは,ドップラー周波数偏移fD[Hz]をうけ,fDだけ周波数が偏移した光が前記光源に注入される」ことが記載されている。

E 上記段落【0015】,【0017】の記載から,「この結果,帰還光Esは発振光Eoと干渉し,これら2つの電界の差周波数,すなわちfDで発振光Eoが変調され,この変調された発振光を光検出器5で検出して電気信号に変換し,電気信号に変換された発振光の光強度の変動周波数信号を基に被測定物7の移動速度を求める」ことが記載されており,ここで,光検出器5は,レーザ発振器2の反対側から出射する出力光を検出するものを含むから(上記b段落【0013】),「この結果,帰還光Esは発振光Eoと干渉し,これら2つの電界の差周波数,すなわちfDで発振光Eoが変調され,この変調された発振光を,レーザ発振器2の反対側から出射する出力光を検出する光検出器5で検出して電気信号に変換し,電気信号に変換された発振光の光強度の変動周波数信号を基に被測定物7の移動速度を求める」ことが記載されている。

したがって,甲第2号証には,次の発明が記載されているものと認められる(以下,「甲2発明」という。)。

「被測定物の移動速度を測定することのできるレーザ速度計であって,
レーザ発振器の光源から出射する出力光の一部を被測定物に入射させ,該被測定物からの戻り光を前記光源に帰還させ,測定手段が該帰還光と前記出力光との干渉により誘起される出力光の強度揺らぎの周波数を測定することにより,この出力光の強度揺らぎの周波数から被測定物の移動速度を求めるものであり,
レーザ速度計1は,レーザ発振器2,集光レンズ4,レーザ発振器2の反対側から出射する出力光を検出するフォトダイオードからなる光検出器5,信号処理装置6(測定手段及び信号処理手段)から概略構成され,
レーザ発振器1の光源から出射する出力光の一部(発振光)を被測定物7に入射させると,該被測定物7からの戻り光は前記光源の発振軸方向に帰還され,この帰還光Esは,ドップラー周波数偏移fD[Hz]をうけ,fDだけ周波数が偏移した光が前記光源に注入され,
この結果,帰還光Esは発振光Eoと干渉し,これら2つの電界の差周波数,すなわちfDで発振光Eoが変調され,この変調された発振光を,レーザ発振器2の反対側から出射する出力光を検出する光検出器5で検出して電気信号に変換し,電気信号に変換された発振光の光強度の変動周波数信号を基に被測定物7の移動速度を求める,
レーザ速度計。」

イ 甲第3号証

a「レーザにはレーザそれ自身が出す光が戻って来ると,レーザの動作が影響されるという現象が知られている。著者は,半導体レーザでは,それが特異的かつ顕著であることを見出し,半導体レーザの自己結合効果と名付けた。」(1頁22ないし24行)

b「スクープ方式ではフォーカシング,トラッキングと呼ばれるピックアップに必要な制御機能は,ウオブリング法と呼ばれる方法で対処できる。」(4頁10ないし12行)

c「2.1 自己結合効果のあらまし」(13頁10行)

d「(2)波長スペクトルの変化
発振光の波長スペクトルには,
(a)分布が長波長側にシフトし,
(b)発振軸モード数の変化(単一縦モードで発振していたものがマルチ縦モードで発振するようになる,他),
(c)発振線幅の増大・減少,
などの変化が生じる。
(3)電気抵抗の変化
戻り光があると,半導体レーザの電極間の抵抗値が図2.2にしめるように変化する,すなわち,
(a)一般的に抵抗値は減り,
(b)そのピークは戻り光がないときの閾値(I_(th)^(0))付近にある。
(c)マルチ縦モードレーザや,横モードが発生するレーザでは,その変化は複雑であり,
(d)ホモ接合レーザの場合には増加することもある。」(14頁7行ないし19行)」

ウ 甲第4号証
a「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は,レーザ光によって被測定物の速度の速さ及び方向を測定するレーザドップラ速度計に関する。」

b「【0004】半導体レーザ51は,レーザ駆動回路57に駆動されて作動することにより,コヒーレント光を出力する。そして,被測定物54に散乱されてドップラ周波数偏移を受けた反射散乱光51bが半導体レーザ51に戻ると,半導体レーザ51の共振器内部では,ドップラ周波数偏移を受けていないレーザ照射光51aと反射散乱光51bとの間で自己混合作用が生じ,ドップラビートが発生する。これにより,半導体レーザ駆動電流には,ビート周波数に対応した鋸歯状波信号が重畳される。」

エ 甲第10号証
a「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,給紙性能の安定した給紙装置およびこれを備えた画像形成装置に関する。」

b「【0143】上述した実施形態1,2では,用紙の搬送時間,あるいは,給紙ローラの周移動量に基づいて,用紙と給紙ローラとの滑り量を検出していた。しかし,該滑り量の検出に,用紙の移動速度を直接検出可能なセンサを用いてもよい。例えば,レーザドップラ速度計を前述のPEセンサ13の近傍位置に設置し,用紙の表面にレーザ光を照射することで用紙の移動速度を測定できる。このようにして検出した移動速度と,そのときの給紙ローラの周速度において本来予定されている移動速度との差を求めることで,滑り量が得られる。」

上記a,bから項第10号証には次の事項が記載されているということができる。

「給紙性能の安定した給紙装置およびこれを備えた画像形成装置において,用紙の移動速度を直接検出可能なセンサを用いるにあたり,レーザドップラ速度計を設置し,用紙の表面にレーザ光を照射することで用紙の移動速度を測定する」技術。

オ 甲第13号証

a「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は,光のドップラ効果を利用して,物体の速度,ワウ・フラッタ,長さおよび運動変位を測定するレーザドップラ式速度計の改良に関するものであって,測定精度および分解能の向上を目的としている。
【0002】
【従来の技術】図5に,レーザドップラ式速度計の産業分野への適用例として,布の染色ラインへ適用した例を示す。図5において,1は一対のロール2a,2bによって矢印イ又はロ方向に搬送され,噴霧器4から噴霧される染色料5によって染色されるシート状の搬送物であって,例えば布や紙を例としてあげることができる。3は一対の搬送ロール2a,2bの一方である駆動ロール2bを駆動する駆動モータ,4は搬送物1を染色する染色料5を噴霧する噴霧器であって,噴霧量制御装置6によって噴霧される染色料5の噴霧量を制御する。7はレーザドップラ式速度計のセンサ部であって,速度測定対象である搬送物1にレーザビーム8を照射し,搬送物1の表面でドップラ信号を含む散乱光となったものを受光する。9はセンサ部7で受光されたドップラ信号を含む図示していない散乱光を搬送物1の搬送速度に変換し,速度信号10を出力するレーザドップラ式速度計の信号処理部であって,その出力10は駆動モータ3及び噴霧量制御装置6を制御する制御信号として用いる。」

上記aから甲第13号証には次の事項が記載されているということができる。

「光のドップラ効果を利用して,物体の速度,長さおよび運動変位を測定するレーザドップラ式速度計において,レーザドップラ式速度計の産業分野への適用例として,染色ラインへ適用した例であって,
染色されるシート状の搬送物は,例えば紙をあげることができ,
レーザドップラ式速度計のセンサ部は,速度測定対象である搬送物1にレーザビーム8を照射し,搬送物1の表面でドップラ信号を含む散乱光となったものを受光する」技術。


(3)本件発明1について

ア 対比

(ア)甲2発明は「被測定物の移動速度を測定することのできるレーザ速度計」であって,「レーザ発振器の光源から出射する出力光の一部を被測定物に入射させ,該被測定物からの戻り光を前記光源に帰還させ,測定手段が該帰還光と前記出力光との干渉により誘起される出力光の強度揺らぎの周波数を測定することにより,この出力光の強度揺らぎの周波数から被測定物の移動速度を求めるものであ」るから,「被測定物の移動速度を測定する方法」と捉えることができる。
したがって,甲2発明の「被測定物の移動速度を測定することのできるレーザ速度計」による測定方法と,本件発明1の「ダイオードレーザーを有するシートセンサーに対する素材シートのシート移動方向における移動を測定する方法」とは,「レーザーを有するセンサーに対する被測定物の移動を測定する方法」である点で共通する。

(イ)甲2発明は「レーザ発振器の光源から出射する出力光の一部を被測定物に入射させ,該被測定物からの戻り光を前記光源に帰還させ」るものであって,具体的には「戻り光」である「帰還光Es」の「ドップラー周波数偏移fD[Hz]」に起因する「発振光の光強度の変動周波数信号を基に被測定物7の移動速度を求める」ものである。
したがって,甲2発明は,被測定物の移動方向に対してレーザ発振器の光源から出射する出力光の一部を被測定物に入射させるものと捉えることができ,また,レーザ発振器の光源から出射する出力光が,レーザー空洞から放射されることは技術常識である。
よって,甲2発明の,被測定物の移動方向に対してレーザ発振器の光源から出射する出力光の一部を被測定物に入射させることと,本件発明1の「前記ダイオードレーザーのレーザー空洞から放射される測定レーザービームであって,前記素材シートの移動方向に対して鋭角な測定レーザービームを前記素材シートに照射」することとは,「前記レーザーのレーザー空洞から放射される測定レーザービームであって,測定レーザービームを前記被測定物に照射」する点で共通する。

(ウ)甲2発明は「該被測定物からの戻り光を前記光源に帰還させ,測定手段が該帰還光と前記出力光との干渉により誘起される出力光の強度揺らぎの周波数を測定することにより,この出力光の強度揺らぎの周波数から被測定物の移動速度を求めるものであり」,具体的には,「該被測定物7からの戻り光は前記光源の発振軸方向に帰還され,この帰還光Esは,ドップラー周波数偏移fD[Hz]をうけ,fDだけ周波数が偏移した光が前記光源に注入され,この結果,帰還光Esは発振光Eoと干渉し,これら2つの電界の差周波数,すなわちfDで発振光Eoが変調され,この変調された発振光を光検出器5で検出して電気信号に変換」するものであり,ここで,戻り光,すなわち,帰還光Esが「前記光源に注入され」,「レーザ発振器2の反対側から出射する出力光を検出する光検出器5」で検出して電気信号に変換するものであるから,「戻り光」,すなわち,「帰還光Es」がレーザ発振器2のレーザー空洞に侵入し,発振光Eoと干渉し,この干渉により変調された発振光を,「レーザ発振器2の反対側から出射する出力光を検出する光検出器5」で検出することは,レーザ発振器2のレーザー空洞で干渉により変調がされているものを検出器5で検出しているものと捉えることができる。
したがって,甲2発明の,「戻り光」,すなわち,「帰還光Es」がレーザ発振器2のレーザー空洞に侵入し,発振光Eoと干渉し,この干渉により変調されているものを検出器5で検出することは,本件発明1の「前記素材シートによって反射されて前記放射された測定レーザービームの方向に沿って戻る一部の測定レーザービームを前記レーザー空洞に再侵入させ,前記再侵入した測定レーザービームを前記レーザー空洞内のレーザー放射と干渉させて前記レーザー空洞の動作の変化を促し,前記レーザー空洞の動作の変化を検出」することと,「前記被測定物によって反射されて前記放射された測定レーザービームの方向に沿って戻る一部の測定レーザービームを前記レーザー空洞に再侵入させ,前記再侵入した測定レーザービームを前記レーザー空洞内のレーザー放射と干渉させて前記レーザー空洞の動作の変化を促し,前記レーザー空洞の動作の変化を検出」する点で共通する。

(エ)甲2発明の「この変調された発振光を」「光検出器5で検出して電気信号に変換し,電気信号に変換された発振光の光強度の変動周波数信号を基に被測定物7の移動速度を求める」ことは,本件発明の「前記検出されたレーザー空洞の動作の変化を前記素材シートの移動の測定を表す電気信号に変換する工程」と,「前記検出されたレーザー空洞の動作の変化を前記被測定物の移動の測定を表す電気信号に変換する工程」を含む点で共通する。

よって,本件発明1と甲2発明との一致点,相違点は次のとおりである。

(一致点)

「レーザーを有するセンサーに対する被測定物の移動を測定する方法であって,
前記レーザーのレーザー空洞から放射される測定レーザービームであって,測定レーザービームを前記被測定物に照射し,
前記被測定物によって反射されて前記放射された測定レーザービームの方向に沿って戻る一部の測定レーザービームを前記レーザー空洞に再侵入させ,前記再侵入した測定レーザービームを前記レーザー空洞内のレーザー放射と干渉させて前記レーザー空洞の動作の変化を促し,
前記レーザー空洞の動作の変化を検出し,
前記検出されたレーザー空洞の動作の変化を前記被測定物の移動の測定を表す電気信号に変換する工程から構成されることを特徴とする方法。」

(相違点1)
本件発明1の「レーザー」は,「ダイオードレーザー」であるのに対して,甲2発明の「レーザー」は,「レーザ発振器2」である点。

(相違点2)
本件発明1は,「素材シート」を測定対象物とするのに対し,甲2発明は「被測定物7」である点。
また,これに関連して本件発明1は,「シート」センサーであるのに対し,甲2発明はこのような特定がない点。

(相違点3)
本件発明1は,「シート移動方向における移動を測定する」のに対し,甲2発明は「被測定物の移動速度」を測定する点。

(相違点4)
本件発明1は,「前記素材シートの移動方向に対して鋭角な」測定レーザービームを用いているのに対し,甲2発明は,これが明らかではない点。


イ 判断

(相違点1)について
甲第2号証の段落【0014】ないし【0017】(上記(2)ア)の記載内容からみて,甲2発明は,自己結合効果を測定原理とする発明である。また,例えば,甲第2号証の段落【0016】には,「Lの小さな小型レーザではτlを短くでき,しかもτpがτlに比例するので,極めて大きなKを得ることができる。」と記載があるところ,半導体レーザー(ダイオードレーザー)はL(レーザー共振器長)が短いレーザーであるから,甲2発明の「レーザー発振器2」として適したものである。加えて,例えば,甲第3号証の1頁22?24行(上記(2)イ),甲第4号証の段落【0004】(上記(2)ウ)においても,自己結合効果(自己混合作用)が得られるレーザーとして,半導体レーザーが開示されている。
甲2発明の「レーザ発振器2」として周知な「ダイオードレーザー」を採用することは,当業者が容易にできたものである。

よって,本件発明1の(相違点1)に係る構成とすることは格別なことではない。

(相違点2)について
甲第2号証には,被測定物を特定の物に制限するような記載は存在しない。また,甲第2号証の図2?5及び段落【0018】ないし【0020】(上記(2)ア)からは被測定物の材質が紙であっても,実際に測定可能であることが理解できる。
甲2発明の被測定物を紙,すなわち素材シートとすることは,当業者が容易にできたものである。

あるいは,甲第2号証の段落【0002】ないし【0009】の記載(上記(2)ア)からは,(A)従来のレーザードップラー方式によるレーザー速度計では,ビート信号を検出するために光学系が複雑になり,高感度の光検出系及び高度の光信号処理系を必要とし,速度計として極めて高価なものになること,(B)ビート信号を直接測定する装置を一切必要とせずに,被測定物の移動速度を超高感度で測定することのできるレーザー速度計を提供するという課題があること,(C)甲2発明の構成を採用すると,レーザー発振器の光源から出射する出力光の強度揺らぎの周波数から,被測定物の移動速度を簡便かつ超高感度で求めることができることが理解できるところ,(D)レーザードップラー方式によるレーザー速度計の測定対象として,素材シートは,周知技術であった(例えば,甲第10号証(上記(2)エ),甲第13号証(上記(2)オ)。)。
したがって,甲2発明の被測定物を,レーザードップラー方式によるレーザー速度計によって測定されていた物である,素材シートとすることは,当業者が容易にできたものである。
また,レーザードップラー方式によるレーザー速度計によって測定されていた物を,素材シートとすることでもって,甲2発明のレーザ速度計が,「シート」センサーとしての機能を有することになることは明らかである。

よって,本件発明1の(相違点2)に係る構成とすることは格別なことではない。

(相違点3)について
甲2発明は,「被測定物の移動速度を測定することのできるレーザ速度計」であって,具体的には「ドップラー周波数偏移fD[Hz]」に起因する「発振光の光強度の変動周波数信号を基にして被測定物7の移動速度を求める」ものであるから,被測定物の前進又は後進及び速度を測定することができるものである。
一方,本件発明1の「ダイオードレーザーを有するシートセンサーに対する(被測定物)素材シートのシート移動方向における移動を測定する方法」において,被請求人は,「シート移動方向における移動」とは,「被請求人は,請求項内の「移動方向」を「測定軸」と同様に考え,測定軸に沿った移動の前進又は後進及び速度を「移動方向における移動」と表現していました。」としている(被請求人の,平成28年3月18日付け意見書6.(a)(1)のなお書き)ことから,シートの前進又は後進及び速度を含むものと解される。
したがって,甲2発明において,本件発明1のように「移動方向における移動を測定する」とする点に格別の困難性はなく,また,測定対象物としてシートを用いることは,上記(相違点2)について の項において記載したように当業者が容易にできたものである。

よって,本件発明1の(相違点3)に係る構成とすることは格別なことではない。

(相違点4)について
被測定物からの戻り光がドップラー周波数偏位を受けるためには,被測定物7の移動方向が光源の発振軸方向の成分を有することが必要とされるのであって,その被測定物7の移動方向と光源の発振軸のなす角θを鋭角とすることは適宜なし得る事項である(甲第2号証の段落【0014】の記載から理解できる事項である。)。

よって,本件発明1の(相違点4)に係る構成とすることは格別なことではない。

また,本件発明1の効果は,甲2発明及び周知技術から予測可能な範囲内のものである。

ウ 本件発明1についてのまとめ
以上のとおり,本件発明1は,(相違点1)ないし(相違点4)を有するから,特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当しない。
しかしながら,本件発明1は,甲2発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(4)本件発明2について

ア 対比
甲2発明は,「帰還光Esは発振光Eoと干渉し,これら2つの電界の差周波数,すなわちfDで発振光Eoが変調され,この変調された発振光を,レーザ発振器2の反対側から出射する出力光を検出する光検出器5で検出して電気信号に変換し,電気信号に変換された発振光の光強度の変動周波数信号を基に被測定物7の移動速度を求める」ものであって,被測定物7の移動速度は,発振光の光強度の変動周波数信号に基づいて求めるものであるから,被測定物7の移動速度は,レーザー放射の周波数のパラメータ値を測定することによって確定されるものということができる。

したがって,甲2発明の「帰還光Esは発振光Eoと干渉し,これら2つの電界の差周波数,すなわちfDで発振光Eoが変調され,この変調された発振光を,レーザ発振器2の反対側から出射する出力光を検出する光検出器5で検出して電気信号に変換し,電気信号に変換された発振光の光強度の変動周波数信号を基に被測定物7の移動速度を求める」ことは,本件発明2の「前記素材シートの移動速度は,前記ダイオードレーザーにおけるレーザー放射のパワー,レーザー放射の周波数,レーザー放射の線幅,及びレーザー閾値利得を含むパラメータのうちの少なくとも1つのパラメータ値を測定することによって確定されること」と,「前記被測定物の移動速度は,前記レーザーにおけるレーザー放射のパワー,レーザー放射の周波数,レーザー放射の線幅,及びレーザー閾値利得を含むパラメータのうちの少なくとも1つのパラメータ値を測定することによって確定される」点で共通する。

したがって,本件発明2は甲2発明と次の点で相違する。

上記(3)アに記載の(相違点1)ないし(相違点4)に加え,

(相違点5)
本件発明2は,「素材シート」を測定対象物とするのに対し,甲2発明は「被測定物7」である点。

イ 判断
(相違点1)ないし(相違点4)について
上記(3)イ「(相違点1)について」ないし「(相違点4)について」の項に記載したとおりである。

(相違点5)について
上記(相違点5)は,上記(相違点2)と同等なものであって,上記(3)イ「(相違点2)について」の項において判断したように,甲2発明の被測定物を,素材シートとすることは,当業者が容易にできたものである。

よって,本件発明2の(相違点5)に係る構成とすることは格別なことではない。

また,本件発明2の効果は,甲2発明及び周知技術から予測可能な範囲内のものである。

ウ 本件発明2についてのまとめ
以上のとおり,本件発明2は,(相違点1)ないし(相違点5)を有するから,特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当しない。
しかしながら,本件発明2は,甲2発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


(5)本件発明3について
上記1(2)に記載のとおり,本件発明3のうち,請求項2を引用する本件発明3は,発明の詳細な説明に記載されておらず,請求項3に係る特許請求の範囲の記載は,特許法第36条第6項第1号の規定に適合しない。したがって,請求項1を引用する本件発明3の場合について検討する。

ア 対比
本件発明3は甲2発明と次の点で相違する。
上記(3)アに記載の(相違点1)ないし(相違点4)に加え,

(相違点6)
本件発明3は「前記ダイオードレーザーのレーザー空洞のインピーダンスを測定する」のに対し,甲2発明はこのような特定がない点。

イ 判断
(相違点1)ないし(相違点4)について
上記(3)イ「(相違点1)について」ないし「(相違点4)について」の項に記載したとおりである。

(相違点6)について

半導体レーザーにおける自己結合効果によって,半導体レーザーの電極間の抵抗値が変化することは,周知である(例えば,甲第3号証の14頁14行(a)(上記(2)イd))から,半導体レーザーにおける自己結合効果を検出する手段として,半導体レーザーのレーザー空洞のインピーダンスを測定することは,当業者が容易に想到し得る事項である。
したがって,甲2発明の「レーザー発振器2」として周知な「ダイオードレーザー」を採用することは当業者が容易にできたものであり(上記(3)イ「(相違点1)について」),また,甲2発明の光検出器5及び信号処理装置6に換えて,半導体レーザーであるダイオードレーザーのレーザー空洞のインピーダンスを測定する手段を採用することは,当業者が容易にできたことである。

また,本件発明3の効果は,甲2発明及び周知技術から予測可能な範囲内のものである。

ウ 本件発明3についてのまとめ
以上のとおり,本件発明3は,甲2発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(6) 本件発明4について
上記1(3)に記載のとおり,請求項2を引用する本件発明4は,発明の詳細な説明に記載されておらず,請求項4に係る特許請求の範囲の記載は,特許法第36条第6項第1号の規定に適合しない。したがって,請求項1を引用する本件発明4の場合について検討する。

ア 対比

本件発明4は甲2発明と次の点で相違する。

上記(3)アに記載の(相違点1)ないし(相違点4)に加え,

(相違点7)
本件発明4は「前記レーザー放射の強度を測定する」のに対し,甲2発明は「フォトダイオードからなる光検出器5」を有するもののこの点について明らかでない点。

イ 判断
(相違点1)ないし(相違点4)について
上記(3)イ「(相違点1)について」ないし「(相違点4)について」の項に記載したとおりである。

(相違点7)について
甲2発明は「フォトダイオードからなる光検出器5」を有するものであって,「発振光の光強度」を検出するものであり,光強度の変化を用いて被測定物の移動速度を求めるものであるから,移動速度を求めるために光強度を測定することは,当業者が容易に想到し得る事項である。

また,本件発明4の効果は,甲2発明及び周知技術から予測可能な範囲内のものである。

ウ 本件発明4についてのまとめ
以上のとおり,本件発明4は,(相違点1)ないし(相違点4),(相違点7)を有するから,特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当しない。
しかしながら,本件発明4は,甲2発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(7)本件発明5について

ア 対比
本件発明5は甲2発明と次の点で相違する。

上記(相違点1)ないし(相違点7)に加え,

(相違点8)
本件発明5は「前記素材シートに対する前記測定ビームのフォーカス状態を検出する工程を更に有する」ものであるのに対し,甲2発明は,「集光レンズ4」を具備するものの,このような特定がない点。

イ 判断
(相違点1)ないし(相違点4)について
上記(3)イ「(相違点1)について」ないし「(相違点4)について」の項に記載したとおりである。

(相違点5)について
上記(4)イ「(相違点5)について」の項に記載したとおりである。

(相違点6)について
上記(5)イ「(相違点6)について」の項に記載したとおりである。

(相違点7)について
上記(6)イ「(相違点7)について」の項に記載したとおりである。

(相違点8)について
甲2発明は,「集光レンズ4」を具備するものである。
ここで,自己結合効果をより強く発生させるためには,被測定物からの戻り光の強度を大きくすることが望ましい(甲第2号証の【数3】(略)からも理解できる事項である。)から,レーザー発振器2の光源から出射する出力光は,被測定物にフォーカシングさせることが望ましいということは明らかである。また,フォーカシングに必要な制御機能は,ウォブリングにより対処できることは周知である(例えば,甲第3号証の4頁10?12行(上記(2)イb))。
したがって,甲2発明の「レーザー発振器2」として周知な「ダイオードレーザー」を採用することは当業者が容易にできたものであり(上記(3)イ「(相違点1)について」),また,甲2発明の被測定物を紙,すなわち素材シートとすることは,当業者が容易にできたものであって(上記(3)イ「(相違点2)について」),被測定物に対する測定ビームのフォーカシングに必要な制御機能として,前記測定ビームのフォーカス状態を検出する工程を設けることは当業者が容易にできたことである。

また,本件発明5の効果は,甲2発明及び周知技術から予測可能な範囲内のものである。

ウ 本件発明5についてのまとめ
以上のとおり,本件発明5は,甲2発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(8)本件発明6について

ア 対比
本件発明6は甲2発明と次の点で相違する。

(相違点1)ないし(相違点8)に加え,

(相違点9)
本件発明6は「前記フォーカス状態は,前記レーザー空洞の動作の変化の振幅を確定することによって検出される」ものであるのに対し,甲2発明は,このような特定がない点。

イ 判断
(相違点1)ないし(相違点4)について
上記(3)イ「(相違点1)について」ないし「(相違点4)について」の項に記載したとおりである。

(相違点5)について
上記(4)イ「(相違点5)について」の項に記載したとおりである。

(相違点6)について
上記(5)イ「(相違点6)について」の項に記載したとおりである。

(相違点7)について
上記(6)イ「(相違点7)について」の項に記載したとおりである。

(相違点8)について
上記(7)イ「(相違点8)について」の項に記載したとおりである。

(相違点9)について
甲2発明は,「集光レンズ4」を具備するものである。
ここで,自己結合効果が得られるレーザーとして,自己結合効果をより強く発生させるためには,被測定物からの戻り光の強度を大きくすることが望ましく(甲第2号証の【数3】(略)からも理解できる事項である。),一方,集光レンズ4のフォーカス状態によって,戻り光の強度が変わることは明らかであるから,自己結合効果の状態,すなわち,レーザー空洞の動作の変化の振幅の状態を確定することによって,フォーカス状態を検出することは,当業者が容易にできたものである

また,本件発明6の効果は,甲2発明及び周知技術から予測可能な範囲内のものである。

ウ 本件発明6についてのまとめ
以上のとおり,本件発明6は,甲2発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(9)無効理由2についてのまとめ
以上のとおり,本件発明1,2,4は,少なくとも(相違点1)ないし(相違点4)を有するから,特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当しない。
しかしながら,本件発明1ないし6は,甲2発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって,本件発明1ないし6についての特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから,特許法123条1項2号に該当し,無効とすべきものである。


第7 むすび
以上のとおり,本件発明1ないし6についての特許は,無効とすべきものである。
審判に関する費用については,特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により,被請求人の負担とする。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-05-15 
結審通知日 2017-05-17 
審決日 2017-05-31 
出願番号 特願2002-539827(P2002-539827)
審決分類 P 1 113・ 121- ZB (G01P)
P 1 113・ 841- ZB (G01P)
P 1 113・ 537- ZB (G01P)
P 1 113・ 536- ZB (G01P)
最終処分 成立  
前審関与審査官 松川 直樹  
特許庁審判長 中塚 直樹
特許庁審判官 関根 洋之
酒井 伸芳
登録日 2008-09-05 
登録番号 特許第4180369号(P4180369)
発明の名称 素材シートの移動を測定する方法及びこの方法を実行するための光学センサー  
代理人 笛田 秀仙  
代理人 津軽 進  
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