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審決分類 審判 全部無効 1項3号刊行物記載  H01M
審判 全部無効 2項進歩性  H01M
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
管理番号 1333081
審判番号 無効2015-800062  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-11-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-03-16 
確定日 2017-10-18 
事件の表示 上記当事者間の特許第5245201号発明「負極、二次電池」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第5245201号(以下「本件特許」という。)は、平成18年3月16日に出願(特願2006-73116号)されたものであって、その請求項1及び2に係る発明について、平成25年4月19日に特許権の設定登録がなされたものである。
これに対し、松田一弘外1名から平成27年3月16日付けで請求項1及び2に係る発明の特許について無効審判の請求がなされたものであるところ、審判請求以降の手続は、おおむね次のとおりである。

平成27年 6月 2日付け 審判事件答弁書
同年 6月26日付け 審理事項通知書
同年 7月31日付け 口頭審理陳述要領書(請求人)
同年 7月31日付け 口頭審理陳述要領書(被請求人)
同年 8月12日付け 審理事項通知書(2回目)
同年 8月28日付け 口頭審理陳述要領書(2)(請求人)
同年 8月28日付け 口頭審理陳述要領書(2)(被請求人)
同年 9月 4日 第1回口頭審理
同年 9月 4日付け 上申書(請求人)
同年 9月 4日付け 上申書(被請求人)
同年 9月 8日付け 上申書(請求人)
同年10月 2日付け 上申書(請求人)
同年11月 6日付け 上申書(被請求人)
平成28年 1月15日付け 上申書(請求人)

第2 本件発明
本件特許の請求項1及び2に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」及び「本件発明2」といい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
負極集電体と負極活物質とから構成され、
前記負極活物質が、ホストである黒鉛の層間に、リチウムと合金化可能な金属の微粒子からなる金属層がゲストとしてインターカレートされた、黒鉛層間化合物から成り、
前記金属が、Sn,Si,Pb,Al,Gaから選択される金属である
負極。
【請求項2】
正極及び負極と共に電解質を備え、
前記負極が負極集電体と負極活物質とから構成され、
前記負極活物質が、ホストである黒鉛の層間に、リチウムと合金化可能な金属の微粒子からなる金属層がゲストとしてインターカレートされた、黒鉛層間化合物から成り、
前記金属が、Sn,Si,Pb,Al,Gaから選択される金属である
二次電池。」

第3 当事者の主張及び証拠方法
1 請求人の主張の概要
請求人は、「特許第5245201号の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された発明についての特許を無効にする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」と主張し、審判請求書とともに甲第1号証?甲第4号証を提出し、口頭審理陳述要領書とともに甲第5号証及び甲第6号証を提出し、口頭審理陳述要領書(2)とともに甲第3号証の2、甲第5号証の2及び甲第6号証の2を提出し、平成27年9月4日付け上申書を提出し、同年9月8日付け上申書とともに甲第7号証及び甲第8号証を提出し、同年10月2日付け上申書とともに甲第9号証?甲第11号証を提出し、さらに、平成28年1月15日付け上申書を提出しており、上記提出した書面の全趣旨及び第1回口頭審理調書によれば、請求人は、以下の4つの無効理由を主張するものである。

(1) 本件発明1及び2は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである(以下、「無効理由1」という。)。

(2) 本件発明1及び2は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された発明及び周知慣用技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである(以下、「無効理由2-1」という。)。

(3) 本件発明1及び2は、黒鉛層間化合物に関する周知技術、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明並びに周知慣用技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである(以下、「無効理由2-2」という。)。

なお、無効理由2-2に関し、主引用発明が何であるかを問い合わせた(平成27年9月4日に作成した応対記録参照。)結果、甲第1号証に記載されたものである旨の回答が平成27年9月4日付け上申書にてなされた。

(4) 本件特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである(以下、「無効理由3」という。)。

なお、「本件特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、特許を受けることができないものである。」との無効理由の追加は、審判請求書における当初の請求の理由の要旨を変更するものであるから、許可しない旨の補正許否の決定を行った(第1回口頭審理調書 審判長3参照。)。

[請求人の証拠方法]
甲第1号証:特開平9-249407号公報
甲第2号証:特開2005-71678号公報
甲第3号証:稲垣道夫、「黒鉛層間化合物の機能性」、炭素、1988年、No.133、p.127-137
甲第3号証の2:甲第3号証の発行年月を証明する証拠
甲第4号証:芳尾真幸、小沢昭弥編、「リチウムイオン二次電池-材料と応用-」、初版、日刊工業新聞社、1996年3月29日、p.153-157
甲第5号証:塩山洋、「金属塩化物の黒鉛層間における反応」、炭素、1997年、No.178、p.128-132
甲第5号証の2:甲第5号証の発行年月を証明する証拠
甲第6号証:田沼静一、「グラファイト層間化合物-インターカラントの種類と挙動-」、炭素、1990年、No.145、p.311-326
甲第6号証の2:甲第6号証の発行年月を証明する証拠
甲第7号証:「工業所有権法(産業財産権法)逐条解説」、第19版、p.382-387
甲第8号証:「審判便覧」、51-18、p.1-4
甲第9号証:竹田稔、永井紀昭編、「特許審決取消訴訟の実務と法理」、初版、社団法人発明協会、2003年10月22日、p.124-145
甲第10号証:平成17年(行ケ)第10406号判決
甲第11号証:平成18年(行ケ)第10217号判決

2 被請求人の主張の概要
被請求人は、審判事件答弁書を提出し、口頭審理陳述要領書を提出し、口頭審理陳述要領書(2)とともに乙第1号証?乙第6号証を提出し、さらに、平成27年9月4日付け上申書及び同年11月6日付け上申書を提出しており、上記提出した書面の全趣旨及び第1回口頭審理調書によれば、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては本件発明を無効とすることはできないと主張している。

[被請求人の証拠方法]
乙第1号証:「エッセンシャル化学辞典」、株式会社東京化学同人、1999年3月10日、p.74
乙第2号証:特開2011-144054号公報
乙第3号証:塩山洋、外1名、「グラファイト層間における金属微粒子の生成機構」、日本化学会誌、1996年、No.8、p.673-679
乙第4号証:塩山洋、外4名、「グラファイト層間化合物中での金属塩化物の還元反応」、炭素、1993年、No.156、p.37-39
乙第5号証:S.Cahen et al.,Chemical Reduciton of SiCl_(4) for the Preparation of Silicon-Graphite Composites used as Negative Electrodes in Lithium-Ion Batteries,Journal of The Electrochemical Society,2008,155(7),A512-519
乙第6号証:特開2014-197551号公報

3 甲号証の記載事項
請求人が証拠方法として提出した甲第1号証?甲第6号証の記載事項は、それぞれ次のとおりである。
(1) 甲第1号証(特開平9-249407号公報)
(甲1a) 「【0003】一方、黒鉛粒子と、金属あるいは非金属の元素とからなり、黒鉛結晶の層間に金属が入って形成された化合物(以下、層間化合物と称する)を含む黒鉛複合物が知られている。・・・」(当審注:下線は当審が付与した。また、「・・・」は、記載の省略を意味する。以下、同様である。)

(甲1b) 「【0004】
【発明が解決しようとする課題】前記のCVD法により形成された黒鉛粒子とLiと合金をつくる元素微粒子からなる黒鉛複合物は、該黒鉛粒子の結晶性が十分でなく、また炭化物が形成されているものもあり、こうした黒鉛複合物をリチウム2次電池の負極材料として使用した場合、低電位における黒鉛粒子のリチウム放電容量が少ないという不具合があった。また、この方法により形成された黒鉛複合物は水素、酸素等の不純物を多量に含むため、リチウム2次電池の負極材料として使用した場合に、これらの不純物がリチウムと反応し、不可逆容量を増大させる原因となっていた。また、この方法は製造コストが高く工業的実用性が低かった。
【0005】一方、上記金属を加熱して気相で黒鉛と接触反応させて製造された黒鉛複合物や、電気化学的な方法を用いて製造された黒鉛複合物は、黒鉛中に層間化合物と金属とが十分に微細分散されておらず、リチウム2次電池の負極材料として使用した場合に充放電を繰り返すうちに上記金属が剥離して負極活物質として作用しなくなるという不具合があった。
【0006】本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、リチウム2次電池等の電極材料等に利用される黒鉛複合物を提供することを目的とする。」

(甲1c) 「【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者は、黒鉛粒子と、Si結晶粒子と、からなる原料粉末を調製し、この原料粉末を所定の粉砕条件で機械的に粉砕することによって、結晶性の良い黒鉛粒子が形成され、Si結晶粒子が微粒子として分散して存在する黒鉛複合物が得られることを見出し、本発明を完成したものである。
【0008】すなわち、本発明の黒鉛複合物は、少なくとも2G以上の粉砕加速度で粉砕混合された黒鉛粒子と、固体の元素微粒子と、からなり、該黒鉛粒子は少なくとも40原子%含まれ、該元素微粒子は900nm以下の粒径であって該黒鉛粒子中に分散して存在していることを特徴とする。また、本発明の黒鉛複合物の製造方法は、少なくとも40原子%の黒鉛粒子と、固体の元素粒子とからなる原料粉末を調製する原料調製工程と、該原料粉末を少なくとも2G以上の粉砕加速度で粉砕しながら混合し、該元素粒子の粒径が900nm以下で該黒鉛粒子中に分散した黒鉛複合物とする粉砕工程と、からなることを特徴とする。」

(甲1d) 「【0009】
【発明の実施の形態】・・・
【0013】本発明の黒鉛粒子は黒鉛を原料とし、純度の高い天然黒鉛や、高配向性熱分解黒鉛(HOPG)のような黒鉛化度の高い人造黒鉛を用いることが望ましい。本発明の元素微粒子としての元素は、LiおよびLiと合金を形成する金属および非金属がある。ここでLiと合金を形成する金属としてはAl、Sn、Pb、Cd、Ag、Au、Ba、Be、Bi、Ca、Cr、Cu、K、Mn、Mo、Nb、Ni、Na、Pd、Ru、Te、Ti、Pt、Pu、Rb、Zr、Zn、Se、Sr、Sb、TlまたはVを挙げることができる。Liと合金を形成する非金属としてはSi、GeおよびSをあげることができる。また、この元素微粒子としての元素としてはLiと合金を形成しない金属または非金属でもよい。
・・・
【0015】本発明の黒鉛複合物は2G以上の粉砕加速度で粉砕混合されたものである。粉砕加速度が2G未満の場合には微細分散が不十分となり好ましくない。図3に本発明の黒鉛複合物の黒鉛粒子と元素微粒子とが微細に分散した状態を模式的に示す。なお、本発明の黒鉛複合物の元素微粒子は黒鉛と層間化合物を形成しているのがより好ましい。層間化合物を形成している割合は元素微粒子の10原子%以上がより好ましい。この場合、本発明の黒鉛複合物は黒鉛の微結晶層間化合物(当審注:「微結晶層間化合物」は、「層間化合物」の誤記と認められる。)と元素微粒子と黒鉛粒子とが微細に分散したものとなる。
【0016】図4に本発明の黒鉛複合物の黒鉛粒子と元素微粒子とが微細に分散し、かつ一部の元素微粒子が黒鉛粒子と層間化合物を作っている状態を模式的に示す。本発明の黒鉛複合物を構成する黒鉛粒子は40原子%以上である必要がある。黒鉛粒子の割合が40原子%未満の場合、上記元素微粒子との微細分散が困難になる。また、黒鉛粒子の割合は99原子%以下が好ましい。上記元素微粒子の割合が1原子%未満の場合、上記元素微粒子の配合効果が少なく、黒鉛粒子単独の場合との差が少なくなる。」

(甲1e) 「【0018】
【作用】本発明の黒鉛複合物は、黒鉛粒子の結晶性が良いためにリチウム2次電池の負極材料として使用されると、黒鉛粒子の層間に多量のリチウムイオンがインターカレートされる。さらに、水素、酸素等の不純物の量が少ないため、黒鉛粒子の末端に形成される水酸基やカルボキシル基が少なくなる。また、微細に分散した金属微粒子により導電性に優れた黒鉛複合物とすることができる。
【0019】また、元素微粒子との複合物としているため、多量のリチウムが元素微粒子と合金をつくり、リチウムイオンが多量に取り込まれることになる。さらに、Liと合金をつくる元素微粒子の比表面積が大きいため合金化されるリチウム量が増加する。また、リチウムが合金化されるとき主として表面が合金化されることにより体積変化が少なくなる。
【0020】また、黒鉛粒子と層間化合物を形成する処理条件とすることによって、黒鉛粒子よりも層間距離の大きい層間化合物が形成されるため、黒鉛粒子よりもさらに多量のリチウムイオンが層間化合物の層間にインターカレートされる。また、微細に分散した層間化合物により黒鉛複合物の導電性をさらに向上させ、さらには反応性に富んだ黒鉛複合物とすることができる。
【0021】また、本発明の黒鉛複合物は、黒鉛粒子と元素粒子とをボールミル等で粉砕することにより容易に調製できる。」

(甲1f) 「【0036】
【発明の効果】本発明の黒鉛複合物は、リチウム2次電池の負極材料として使用されると、多量のリチウムイオンが黒鉛粒子の層間にインターカレートされるため、放電容量の大きいリチウム2次電池とすることができる。また、結晶粒子の末端に形成される水酸基やカルボキシル基が少ないため、不可逆容量の少ないリチウム2次電池とすることができる。
【0037】また、本発明の黒鉛複合物はLiおよびSi等の元素微粒子が微細に分散しているため、この黒鉛複合物をリチウム2次電池の負極材料として用いることにより、多量のLiと合金化した元素微粒子によりリチウムイオンが多量に充放電され、リチウム2次電池の放電容量が大きくなる。また、元素微粒子がLiと合金を形成するとき、黒鉛複合物の体積変化が少ないため、形状設計の自由度が大となる。また、図3や図4に示すような構造を有するためサイクル特性に優れたリチウム2次電池とすることができる。また、繰り返し充放電を行った結果、Liと合金をつくる元素微粒子のうち黒鉛複合物の表面に存在するものが表面剥離、微結晶化しても、黒鉛複合物中に分散しているため導電性が保たれ、Liと合金をつくり充放電反応がなされる。
【0038】また、元素微粒子と黒鉛粒子とが層間化合物を形成している場合、この黒鉛複合物を、リチウム2次電池の負極材料として使用することにより、多量のリチウムイオンが、黒鉛粒子および黒鉛結晶層間化合物の層間にインターカレートされるため、さらに放電容量の大きいリチウム2次電池とすることができる。さらに、本発明の黒鉛複合物は、導電性に優れるため軽量高電導材料として使用することができ、金属の種類を用途によって換えることにより、吸着材料、超電導材料、重合反応を起こさせる試薬、および、アンモニア合成やダイヤモンド合成等で利用される触媒として使用することができる。」

(甲1g) 「【0022】
【実施例】・・・
【0032】
・・・
(リチウム2次電池の作製、および電池の放電容量の測定)次に、この黒鉛複合物を4重量%のテフロン(PTFE)と混練した。そして、これら黒鉛複合物をそれぞれ、ニッケルからなる円板状の集電体(サイズ;直径15mm、厚さ50μm)上に圧縮成形して黒鉛複合物の圧粉体を集電体上に成形して試料極を形成した。これらの試料極を負極に用い、金属リチウムからなる対極(サイズ;直径15mm、厚さ1.8mm)および対照極(サイズ;2mm×0.5mm×3mm)を用い、電解液としては、エチレンカーボネイトとジエチレンカーボネイトとをそれぞれ体積比1:1で混合した溶液に1mol/lのLiPF_(6) を溶解した混合溶液1mlを用いてボタン形リチウム2次電池(サイズ;直径20mm、厚さ4mm)をそれぞれ作製した。」

(甲1h) 「【図3】



(甲1i) 「【図4】



(2) 甲第2号証(特開2005-71678号公報)
(甲2a) 「【0017】
負極22は、例えば、対向する一対の面を有する負極集電体22Aと、負極集電体22Aの両面あるいは片面に設けられた負極合剤層22Bとを有している。負極集電体22Aは、例えば、銅(Cu)箔,ニッケル箔あるいはステンレス箔などの金属箔により構成されている。」

(甲2b) 「【0023】
リチウムを吸蔵および離脱することが可能な負極材料としては、また、リチウムと合金を形成可能な金属元素あるいは半金属元素の単体,合金または化合物が挙げられる。これらは高いエネルギー密度を得ることができるので好ましく、特に、炭素材料と共に用いるようにすれば、高エネルギー密度を得ることができると共に、優れた充放電サイクル特性を得ることができるのでより好ましい。なお、本明細書において、合金には2種以上の金属元素からなるものに加えて、1種以上の金属元素と1種以上の半金属元素とからなるものも含める。その組織には固溶体,共晶(共融混合物),金属間化合物あるいはそれらのうちの2種以上が共存するものがある。
【0024】
リチウムと合金を形成可能な金属元素あるいは半金属元素としては、スズ(Sn),鉛(Pb),アルミニウム,インジウム(In),ケイ素(Si),亜鉛(Zn),アンチモン(Sb),ビスマス(Bi),カドミウム(Cd),マグネシウム(Mg),ホウ素(B),ガリウム(Ga),ゲルマニウム(Ge),ヒ素(As),銀(Ag),ジルコニウム(Zr),イットリウム(Y)またはハフニウム(Hf)が挙げられる。・・・
【0025】
中でも、長周期型周期表における14族の金属元素あるいは半金属元素の単体,合金または化合物が好ましく、特に好ましいのはケイ素あるいはスズ、またはこれらの合金あるいは化合物である。これらは結晶質のものでもアモルファスのものでもよい。」

(甲2c) 「【0055】
また、負極活物質として平均粒径25μmの粒状黒鉛粉末を用意し、この粒状黒鉛粉末90質量%と、結着剤であるポリフッ化ビニリデン10質量%とを混合して負極合剤を調製した。次いで、この負極合剤を溶剤であるN-メチル-2-ピロリドンに分散させてペースト状の負極合剤スラリーとし、厚み15μmの帯状銅箔よりなる負極集電体22Aの両面に均一に塗布して乾燥させ、圧縮成型して負極合剤層22Bを形成し、総厚み160μmの負極22を作製した。なお、正極21と負極22の対向面における容量比は、負極22の容量が、リチウムの吸蔵および離脱による容量成分と、リチウムの析出および溶解による容量成分とを含み、かつその和により表されるように、正極容量:負極容量=130:100となるようにした。」

(3) 甲第3号証(稲垣道夫、「黒鉛層間化合物の機能性」、炭素、1988年、No.133、p.127-137)
(甲3a) 「黒鉛層間化合物はホストである黒鉛の層間に,種々の原子,分子,イオンがゲストとして入った(インターカレートした)ものであり,広義の複合材である。・・・」(127頁左欄16?18行)

(甲3b) 「3.層間化合物化によるゲスト機能の効率化
黒鉛層間の二次元的に広がった空間にゲストを二次元的な層としてインターカレートさせることによって,ゲストが本来持っている機能を効率的に発揮させ得る場合,さらにはゲストそのものでは取り扱い困難であるものが黒鉛層間で安定化され本来の機能を発揮させ得る場合が考えられる。前者の例は二次電池電極材として用いられる黒鉛層間化合物,あるいは触媒として用いられるものであり,後者の例はリチウム一次電池の正極として広く用いられているフッ化黒鉛の場合である。
Flandrois et al.^(20))は,NiCl_(2)の黒鉛層間化合物C_(11.3)NiCl_(2.13)を合成し,それとカドミウムを対極とした二次電池を開発した。また,Inagaki et al.^(16))はNiCl_(2)-層間化合物の合成には600Torr以上の塩素ガスと長時間を要することから,NiCl_(2)-FeCl_(3)溶融塩を用いて低温で簡便にNiCl_(2)-FeCl_(3)-黒鉛三元層間化合物が合成し得ることを見出した。そして,それを正極とする二次電池を試作している。黒鉛層間にインターカレートした塩化物はKOH中での電解(あるいは充・放電の繰り返し)で水酸化物に変化することが明らかとなった^(21))。第1ステージの塩化物-層間化合物から出発しても,電解によって生成する水酸化物-層間化合物は第2ステージとなり,非常に安定な化合物である。この層間に保持されたニッケル水酸化物は充・放電によって,Ni^(2+)(OH)_(2)=Ni^(3+)OOHの反応をし,電池出力を生じる。現在市販されているNi-Cd電池ではニッケル水酸化物が絶縁体であるため,普通は黒鉛粉末と混合,成型して,電極としている。このニッケル水酸化物-黒鉛層間化合物は,水酸化物を単分子層として,導電性の黒鉛層の間に保持しているもので,層間化合物としての電導度は黒鉛よりも高くなっており,それ自体で電極とし得る。また,ニッケルの酸化・還元も効率的に行うことができ,Flandrois et al.^(20))によればその効率は75%に達する。」(130頁右欄27行?131頁左欄14行)

(4) 甲第4号証(芳尾真幸、小沢昭弥編、「リチウムイオン二次電池-材料と応用-」、初版、日刊工業新聞社、1996年3月29日、p.153-157)
(甲4a) 「まず,図12.1に,リチウムイオン電池の製造工程の概略を示す。リチウムイオン電池は正,負極活物質を所定の箔に塗り,セパレータを間に入れて巻き取り,所定の缶に挿入し,電解液を充填し封缶することにより完成する。
電池は正極合剤,負極合剤,セパレータ,電解液を主な構成材料として成っている。リチウムイオン電池はこれらの構成材料を用いて製造されるが,この製造工程は大きく四つに分けられる。(丸1)(当審注:丸数字は、(丸1)等と表記する。以下、同様である。)正極,負極合剤の混合,コーティング,乾燥,プレス工程,(丸2)正極,負極およびセパレータの巻取り工程,(丸3)電池ケースへの電極挿入工程,および電解液の注入工程,(丸4)封口工程。
第1の電極製造工程では,金属箔に活物質合剤を塗布,圧着し電極を製造する。・・・
負極活物質にはカーボンまたはグラファイトが使われている。バインダにはPVDFを用いる。一部にはポリイミドが添加されていることもある。PVDFはカーボン材料や金属集電体(銅箔)に対し結着作用があり,このため負極材料を固着させられる。・・・」(153頁1行?155頁7行)

(甲4b) 「

」(154頁)

(5) 甲第5号証(塩山洋、「金属塩化物の黒鉛層間における反応」、炭素、1997年、No.178、p.128-132)
(甲5a) 「2.金属塩化物の還元
黒鉛層間で反応が起こるためには,当然のことではあるが反応物が層間に存在している必要がある。つまりインターカレーションが可能な化学種のみが反応に関与できる。この制限のために,容易に黒鉛層間にインターカレーションされる金属塩化物の還元反応に関する研究が最も多い。また金属塩化物のGICは大気中で比較的安定であり,反応の相手方の化学種をインターカレーションする作業が容易なことも研究例の多い原因である。
層間にインターカレーションされた金属塩化物の還元であるが,還元剤として作用する水素ガスやアルカリ金属を用いる方法がよく使われている。水素ガスによる還元^(14)-17))は,金属塩化物-GICを数百度の設定温度で水素ガス流と接触させると起こる。アルカリ金属による還元は,金属塩化物-GICに直接気相のアルカリ金属を作用させる^(16),18)-24))か,液体アンモニアや有機溶媒に溶解したアルカリ金属を化学的^(15),18),25)-34))若しくは電気化学的^(35)-39))処理により,層間へインターカレーションすることによって行う。またわずかながら,一酸化炭素COで還元を行ったという報告例もある^(40))。
・・・
金属塩化物が還元されると,反応条件や還元剤の能力に応じて,金属の価数が減少し,0価の金属原子が生成する場合が多い。例えばFeCl_(3)の場合は,FeCl_(2)を経てFe^(0)にまで還元される。次にこの0価の金属原子が黒鉛層間でどういう配列をとるかが,特異な2次元空間で起こる反応において問題となる。Vol'pinらは鉄やコバルトの塩化物を各種の方法で還元すると,この還元されて生成した金属原子が黒鉛層間に2次元配列している金属-GICが生成すると最初に報告している^(15))。この論文にはMo-GICを例にあげて,0価の金属原子のみがあたかもアルカリ金属-GICの様に黒鉛層間に配列している図が掲載されているが(Fig.2),それを証明する実験結果は得られていない。・・・
この論文が与えたインパクトによってこの分野の研究が加速された。さまざまな研究者が類似の方法で金属-GICの合成を試み,成功したという報告^(17),35),37),41))と,金属微粒子が生成しているだけで金属-GICは得られないと明記している報告^(36),42))の両方が公表されている。いずれにしても還元反応で副生する0価の金属以外の生成物の存在を考えると,Vol'pinらが論文で報告している磁性等の物理諸特性を測定できるほどの純粋な金属-GICの合成は,実験技術的にかなり困難なことは確かである。
・・・
3.層間での金属微粒子生成
前章では金属塩化物を黒鉛層間で還元すると,Fe-GICの様に層間で金属原子が2次元配列したGICが生成することを述べた。ところがこれはかなり特殊な例と考えられ,実際は金属原子が層間で凝集し,金属微粒子の生成する場合の方が一般的である。FeCl_(3)のアルカリ金属による還元を例としてこの微粒子生成メカニズムを説明する。FeCl_(3)-GICに有機溶媒に溶解したアルカリ金属を室温で作用させると,アルカリ金属がインターカレーションされ,まず層間全域へアルカリ金属原子の拡散が起こり,その後にFeCl_(3)の還元が始まる。この事実はMessaoudiらによって反応開始後の時間を追ってのX線粉末回折とエネルギー分散型X線分光の精密な測定によって確認されている^(27))。ここで還元反応により生成した鉄原子であるが,多くの場合黒鉛層間を移動して会合し,鉄微粒子に成長する。ここで鉄原子1つ若しくは直径数オングストロームくらいまでの鉄クラスターならグラファイト層間での移動は可能であろうが,ある程度以上大きく成長したものは動きがにぶくなり,他の小さく移動しやすい微粒子の到着を待つことになる^(34))。
このようなメカニズムで微粒子が生成するが故に,反応系や反応条件を変えることにより生成微粒子の粒径が制御できる。例えば,還元後生成した金属原子が凝集する際の金属クラスターの黒鉛層間における移動度は,同じ直径ではその金属のバルク状態での融点が低い程大きい。つまりバルク状態での融点の低い金属銅は,同じ粒径のクラスターを比較した場合金属鉄や金属ニッケルと比べて移動度が大きく,より長い距離の移動が可能である。したがって反応条件が同じなら,融点の低い金属ほど黒鉛層間で得られる金属微粒子の粒径が大きくなる^(29),31))。・・・
いずれにしても,黒鉛層間で生成する金属微粒子の粒径はさまざまな因子によって決定されており,したがってさまざまな方法によって粒径制御が可能である。また,層間で生成した金属微粒子の形状は,黒鉛層の間で生成していることから,コイン状若しくは端部が薄くて中央になるほど厚くなったコイン状であることが,電子顕微鏡の精密な観察から分かっている^(33),34))ことを補足しておく。また以上で述べた黒鉛層間での金属微粒子の生成スキームをFig.4にまとめた。
なお前章では,遷移金属-GICにおいて金属原子と炭素六角網目平面との相互作用は弱いことが多いと述べたが,金属原子が会合して生成する微粒子を考えた場合も,炭素六角網目平面との電荷移動等の相互作用はほとんどないと思われる。換言すれば,反応速度の制御によって金属微粒子の成長が黒鉛層間で起こり,ミクロな混合物が得られたものと考えられる。」(128頁右欄下から4行?131頁右欄2行)

(甲5b) 「

」(131頁)

(6) 甲第6号証(田沼静一、「グラファイト層間化合物-インターカラントの種類と挙動-」、炭素、1990年、No.145、p.311-326)
(甲6a) 「・・・なかで単体層状結晶のグラファイトは,他のホストに比べ,圧倒的に多彩なインターカレーションを示めす。・・・どのような原子・分子がインターカラント(侵入種)として知られているかをTable1^(1)) に掲げる。・・・」(311頁右欄5?11行)

(甲6b) 「

」(312頁)

4 乙号証の記載事項
被請求人が証拠方法として提出した乙第1号証、乙第3号証及び乙第4号証の記載事項は、それぞれ次のとおりである。
(1) 乙第1号証(「エッセンシャル化学辞典」,株式会社東京化学同人,1999年3月10日,p.74)
(乙1a) 「SiCl_(4)とSi_(2)Cl_(6)の沸点はそれぞれ58℃と147℃・・・である。・・・SiCl_(4)は、純粋なケイ素製造の際の重要な中間生成物である。」(74頁左欄31?37行)

(2) 乙第3号証(塩山洋、外1名、「グラファイト層間における金属微粒子の生成機構」、日本化学会誌、1996年、No.8、p.673-679)
(乙3a) 「グラファイト層間における金属微粒子形成の反応メカニズムについて紹介する。各種の金属塩化物-グラファイト層間化合物(GIC)をリチウム-ナフタレン-有機溶媒の混合物中に浸漬すると,グラファイト層間で金属塩化物が還元されて金属の微粒子が生成する。・・・」(673頁5?7行)

(乙3b) 「グラファイトに金属塩化物をintecalationするには,2-バルブ法という方法を用いる。すなわちガラス管中の一方に高配向性熱分解グラファイト(HOPG)を,他方に金属塩化物を配置して真空引きした後,必要に応じて塩素ガスを加えて溶封する。得られたアンプルを加熱すると,金属塩化物が気化してグラファイトと反応し,GICが生成する。ここでグラファイト部分と金属塩化物部分の温度を変えることにより,intecalationされる量を制御することができる。GICの大変興味ある特徴の一つは,intecalationされるゲストの量に応じて「ステージ構造」を形成することである。・・・」(673頁右欄2?11行)

(乙3c) 「

」(673頁)

(乙3d) 「グラファイト約10mgを,リチウム金属200mgおよびナフタレン50mgと共にテトラヒドロフラン(THF)2mL中に封入し,室温で数日間放置すると,リチウムがグラファイト層間へインターカレーションすることが知られている。グラファイトの替わりに金属塩化物-GICを用いた場合も,同様の処理を行うと層間にリチウムがintercalationし,既に存在している金属塩化物との反応が予想される。」(674頁左欄11?17行)

(3) 乙第4号証(塩山洋、外4名、「グラファイト層間化合物中での金属塩化物の還元反応」、炭素、1993年、No.156、p.37-39)
(乙4a) 「・・・これはリチウム-ナフタレン-THF混合物中で生成したリチウムカチオンが,THFに溶媒和された状態で金属塩化物-GIC中にインターカレーションし,グラファイト層間内で金属塩化物を還元する反応が起こったためと思われる。」(38頁右欄7?11行)

第4 当審の判断
1 甲号証に記載された発明
(1) 甲第1号証に記載された発明
ア 甲第1号証の上記(甲1d)には、黒鉛複合物について、層間化合物と元素微粒子と黒鉛粒子とが微細に分散したものであること、一部の元素微粒子が黒鉛粒子と層間化合物を作っていること、元素微粒子としての元素は、Liと合金を形成する金属および非金属があり、前記金属は、Al、Sn、Pb、Cd、Ag、Au、Ba、Be、Bi、Ca、Cr、Cu、K、Mn、Mo、Nb、Ni、Na、Pd、Ru、Te、Ti、Pt、Pu、Rb、Zr、Zn、Se、Sr、Sb、Tl又はVであり、前記非金属は、Si、Ge又はSであることが記載されているから、黒鉛複合物は、元素微粒子、黒鉛粒子、及び、元素微粒子と黒鉛粒子との層間化合物が微細に分散したものであり、前記元素微粒子の元素は、Liと合金を形成する金属又は非金属であり、前記金属は、Al、Sn、Pb、Cd、Ag、Au、Ba、Be、Bi、Ca、Cr、Cu、K、Mn、Mo、Nb、Ni、Na、Pd、Ru、Te、Ti、Pt、Pu、Rb、Zr、Zn、Se、Sr、Sb、Tl又はVであり、前記非金属は、Si、Ge又はSであるといえる。

イ 甲第1号証の上記(甲1e)の【0018】には、黒鉛複合物をリチウム2次電池の負極材料として使用することが記載されているから、黒鉛複合物は、リチウム2次電池の負極材料用であるといえる。

ウ 上記ア?イから、甲第1号証には、
「黒鉛粒子、元素微粒子、及び、黒鉛粒子と元素微粒子との層間化合物とが微細に分散したリチウム2次電池の負極材料用黒鉛複合物であって、
前記元素微粒子としての元素は、Liと合金を形成する金属又は非金属であり、前記金属は、Al、Sn、Pb、Cd、Ag、Au、Ba、Be、Bi、Ca、Cr、Cu、K、Mn、Mo、Nb、Ni、Na、Pd、Ru、Te、Ti、Pt、Pu、Rb、Zr、Zn、Se、Sr、Sb、Tl又はVであり、前記非金属は、Si、Ge又はSである
リチウム2次電池の負極材料用黒鉛複合物。」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

(2) 甲第2号証に記載された事項
甲第2号証の上記(甲2b)によれば、甲第2号証には、リチウムを吸蔵および離脱することが可能な負極材料としては、リチウムと合金を形成可能な金属元素あるいは半金属元素が挙げられること、リチウムと合金を形成可能な金属元素あるいは半金属元素としては、スズ(Sn),鉛(Pb),アルミニウム,インジウム(In),ケイ素(Si),亜鉛(Zn),アンチモン(Sb),ビスマス(Bi),カドミウム(Cd),マグネシウム(Mg),ホウ素(B),ガリウム(Ga),ゲルマニウム(Ge),ヒ素(As),銀(Ag),ジルコニウム(Zr),イットリウム(Y)またはハフニウム(Hf)が挙げられること、及び、中でも、ケイ素あるいはスズが特に好ましいことが記載されている。

2 無効理由1について
(1) 本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
ア 甲1発明の「元素微粒子としての元素」は、上記1(1)ウに示したところによると、「Liと合金を形成する金属又は非金属」であって、Sn、Pb又はAlからなる金属、又は、Siからなる非金属を含むものである。
ここで、Siについて、甲1発明では「非金属」とされているが、Siは、金属として扱われることもあるから、甲1発明の「元素微粒子としての元素」は、Liと合金を形成する金属であって、Sn,Si,Pb,Alから選択される金属を含むものであるということができる。
そして、甲1発明の「Liと合金を形成する金属」とは、リチウムと合金化可能な金属に他ならないから、甲1発明の「元素微粒子としての元素」は、リチウムと合金化可能な金属であって、Sn,Si,Pb,Alから選択される金属を含むものである。
一方、本件発明1において、「リチウムと合金化可能な金属の微粒子」の「前記金属が、Sn,Si,Pb,Al,Gaから選択される金属」であることは、金属が、Sn,Si,Pb,Alから選択される金属であることを含むものである。
したがって、甲1発明と本件発明1とは、いずれも、リチウムと合金化可能な金属が、Sn,Si,Pb,Alから選択される金属であり得るから、甲1発明の「前記元素微粒子としての元素は、Liと合金を形成する金属又は非金属であり、前記金属は、Al、Sn、Pb、Cd、Ag、Au、Ba、Be、Bi、Ca、Cr、Cu、K、Mn、Mo、Nb、Ni、Na、Pd、Ru、Te、Ti、Pt、Pu、Rb、Zr、Zn、Se、Sr、Sb、Tl又はVであり、前記非金属は、Si、Ge又はSである」ことは、本件発明1の「リチウムと合金化可能な金属の微粒子」の「前記金属が、Sn,Si,Pb,Al,Gaから選択される金属である」ことに相当する。

イ 甲第1号証の上記(甲1a)によれば、「層間化合物」とは、「黒鉛結晶の層間に金属が入って形成された化合物」のことであり、また、一般に「黒鉛層間化合物」とは、例えば、甲第3号証の上記(甲3a)に記載されているように、「ホストである黒鉛の層間に,種々の原子,分子,イオンがゲストとして入った(インターカレートした)もの」であることからすると、甲1発明の「黒鉛粒子と元素微粒子との層間化合物」は、ホストである黒鉛粒子の層間に元素微粒子がゲストとしてインターカレートされた黒鉛層間化合物であるといえる。
そして、上記アにおける検討によれば、甲1発明の「元素微粒子としての元素」は、リチウムと合金化可能な金属である。
したがって、甲1発明の「黒鉛粒子と元素微粒子との層間化合物」は、ホストである黒鉛粒子の層間に、リチウムと合金化可能な金属の元素微粒子がゲストとしてインターカレートされた黒鉛層間化合物であると認められる。
一方、本件発明1の「黒鉛層間化合物」は、「ホストである黒鉛の層間に、リチウムと合金化可能な金属の微粒子からなる金属層がインターカレートされた」ものである。
そうすると、「黒鉛層間化合物」について、甲1発明と本件発明1とは、いずれも、ホストである黒鉛の層間に、リチウムと合金化可能な金属の微粒子がゲストとしてインターカレートされたものであるから、甲1発明の「黒鉛粒子」、「Liと合金を形成する金属又は非金属」の「元素微粒子」は、それぞれ、本件発明1の「黒鉛」、「リチウムと合金化可能な金属の微粒子」に相当し、甲1発明の「黒鉛粒子と元素微粒子との層間化合物」と、本件発明1の「ホストである黒鉛の層間に、リチウムと合金化可能な金属の微粒子からなる金属層がゲストとしてインターカレートされた、黒鉛層間化合物」は、ホストである黒鉛の層間に、リチウムと合金化可能な金属の微粒子がゲストとしてインターカレートされた、黒鉛層間化合物である点で共通する。

ウ 本件発明1の「負極活物質」と、甲1発明の「リチウム2次電池の負極材料用黒鉛複合物」について
甲第1号証の上記(甲1f)の【0038】の「元素微粒子と黒鉛粒子とが層間化合物を形成している場合、この黒鉛複合物を、リチウム2次電池の負極材料として使用することにより、多量のリチウムイオンが、黒鉛粒子および黒鉛結晶層間化合物の層間にインターカレートされるため、さらに放電容量の大きいリチウム2次電池とすることができる」との記載からすると、甲1発明の「リチウム2次電池の負極材料用黒鉛複合物」が、「負極活物質」として機能することは、当業者にとって自明の事項である。
また、甲1発明の「リチウム2次電池の負極材料用黒鉛複合物」は、「黒鉛粒子、元素微粒子、及び、黒鉛粒子と元素微粒子との層間化合物とが微細に分散した」ものであるから、甲1発明において、リチウム2次電池の負極材料用黒鉛複合物は、黒鉛粒子、元素微粒子、及び、黒鉛粒子と元素微粒子との層間化合物からなるものであるといえる。
一方、本件発明1の「負極活物質」は、「ホストである黒鉛の層間に、リチウムと合金化可能な金属の微粒子からなる金属層がゲストとしてインターカレートされた、黒鉛層間化合物から成」るものである。
そうすると、本件発明1は、「負極活物質」が、「ホストである黒鉛の層間に、リチウムと合金化可能な金属の微粒子」「がゲストとしてインターカレートされた、黒鉛層間化合物から成」るのに対して、甲1発明は、「負極活物質」として機能する「リチウム2次電池の負極材料用黒鉛複合物」が、「黒鉛粒子、元素微粒子、及び、黒鉛粒子と元素微粒子との層間化合物」からなる点で相違しているといえる。

エ 以上から、両者は、「ホストである黒鉛の層間に、リチウムと合金化可能な金属の微粒子がゲストとしてインターカレートされ、
前記金属が、Sn,Si,Pb,Al,Gaから選択される金属である
黒鉛層間化合物。」である点で一致し、以下の3点で相違する。

相違点1:「ホストである黒鉛の層間に」、「ゲストとしてインターカレートされ」ている「金属の微粒子」が、本件発明1は、「金属層」であるのに対し、甲1発明は、「金属層」であるか不明である点

相違点2:本件発明1は、「負極活物質」が、「ホストである黒鉛の層間に、リチウムと合金化可能な金属の微粒子」「がゲストとしてインターカレートされた、黒鉛層間化合物から成」るのに対して、甲1発明は、「負極活物質」として機能する「リチウム2次電池の負極材料用黒鉛複合物」が、「黒鉛粒子、元素微粒子、及び、黒鉛粒子と元素微粒子との層間化合物」からなる点

相違点3:本件発明1は、「負極集電体と負極活物質とから構成され」る「
負極」であるのに対し、甲1発明は、「リチウム2次電池の負極材料用黒鉛複合物」である点

(2) 相違点についての判断
ア 相違点1について
(ア) まず、本件発明1の「金属層」、すなわち、「ホストである黒鉛の層間に」、「ゲストとしてインターカレートされた」「リチウムと合金化可能な金属の微粒子からなる金属層」について、本件特許明細書及び図面をみてみる。
(ア-1) 本件特許明細書及び図面には、黒鉛の層間にインターカレートされている、リチウムと合金化可能な金属の微粒子であるSn粒子について、以下の記載がある。
「【0106】
得られた黒鉛層間化合物の構造をXRDにより確認したところ、Snが黒鉛の層間にインターカレートされており、ゲスト挿入層の層間距離は1.716nmであり、黒鉛のc軸方向のSn粒子の厚さは3?4原子層程度であった。
また、得られた黒鉛層間化合物をTEM(透過型電子顕微鏡)により観察した。観察されたTEM像を、図5に示す。
さらに、得られた黒鉛層間化合物の粒径分布の測定を行った。粒径分布の測定結果を、図6に示す。
観察されたTEM像及び粒径分布により、Sn粒子の黒鉛面内における平均粒子径が6.5nmであり、黒鉛の層間に金属Snの微粒子(ナノパーティクル)がインターカレートされていることが確認された。また、比較的狭い粒径分布であることが確認された。」
「【図5】


「【図6】



(ア-2) 上記(ア-1)における本件特許明細書の【0106】によれば、図5に示す、黒鉛層間化合物をTEM(透過型電子顕微鏡)により観察したTEM像、及び、測定された粒径分布により、Sn粒子の黒鉛面内における平均粒子径が6.5nmであり、黒鉛の層間に金属Snの微粒子がインターカレートされていることが確認されたとの記載からすると、図5において、黒く粒子状に写っているものは、黒鉛面内における金属(Sn)の微粒子であり、当該微粒子の間で白く写っているものは、微粒子間の隙間であるといえる。なお、「隙間」とは、「物と物との間の少しあいている所」(広辞苑 第五版、1998年11月11日、株式会社岩波書店、p.1421)との意味である。
そうすると、図5のTEM像から、黒鉛の層間に金属の微粒子がインターカレートされている状態として、多数の金属の微粒子が、黒鉛の層間において、黒鉛面内を埋め尽くしている状態(ただし、微粒子は不定形なので、当該微粒子間に隙間は当然含まれる。)を見て取ることができるので、本件特許明細書には、「金属層」の明確な定義はされていないけれども、本件発明1の「ホストである黒鉛の層間に」、「ゲストとしてインターカレートされた」「リチウムと合金化可能な金属の微粒子からなる金属層」とは、金属の微粒子が、上記の状態にあることをいうものであるということができる。

(ア-3) 以上から、本件発明1の「ホストである黒鉛の層間に」、「ゲストとしてインターカレートされた」「リチウムと合金化可能な金属の微粒子からなる金属層」とは、多数の「リチウムと合金化可能な金属の微粒子」が、黒鉛の層間において、黒鉛面内を埋め尽くしていることを表しているものと認められる。

(イ) 一方、上記(1)イにおける検討によれば、甲1発明の「黒鉛粒子と元素微粒子との層間化合物」は、ホストである黒鉛粒子の層間に、リチウムと合金化可能な金属の元素微粒子(以下、単に「金属の元素微粒子」ともいう。)がゲストとしてインターカレートされた黒鉛層間化合物であるといえる。
しかしながら、甲第1号証には、金属の元素微粒子が金属層となっていること、すなわち、多数の金属の元素微粒子が、黒鉛粒子の層間において、黒鉛面内を埋め尽くしていることは記載も示唆もされていない。
また、甲第1号証の上記(甲1c)の【0008】によれば、甲1発明の「黒鉛粒子と元素微粒子との層間化合物」は、黒鉛粒子と元素微粒子とを、少なくとも2G以上の粉砕加速度で粉砕混合する方法によって形成されるものであるところ、当該方法によって形成された「黒鉛粒子と元素微粒子との層間化合物」中の多数の元素微粒子が、黒鉛粒子の層間において、黒鉛面内を埋め尽くしていることを裏付け得る記載は、請求人及び被請求人が提出したいずれの証拠においても見つけることができない。
さらに、当該方法によって形成された「黒鉛粒子と元素微粒子との層間化合物」中の多数の元素微粒子が、黒鉛粒子の層間において、黒鉛面内を埋め尽くしていることは、本件出願時において技術常識であるともいえない。
したがって、相違点1は実質的な相違点である。

イ 相違点2について
(ア) 本件発明1は、「負極活物質」が、「ホストである黒鉛の層間に、リチウムと合金化可能な金属の微粒子」「がゲストとしてインターカレートされた、黒鉛層間化合物から成」るのに対して、甲1発明は、「負極活物質」として機能する「リチウム2次電池の負極材料用黒鉛複合物」が、「黒鉛粒子、元素微粒子、及び、黒鉛粒子と元素微粒子との層間化合物」からなるものであるところ、甲1発明の「黒鉛粒子」は、その層間に元素微粒子がインターカレートされていない黒鉛粒子(以下、「単なる黒鉛」という。)であることは明らかであるから、甲1発明の「リチウム2次電池の負極材料用黒鉛複合物」(以下、「黒鉛複合物」という。)は、「単なる黒鉛」を含んでいるといえる。

(イ) 一方、本件発明1は、「負極活物質」が、「黒鉛層間化合物から成」るものであって、「単なる黒鉛」、「リチウムと合金化可能な金属の微粒子」、及び、「黒鉛層間化合物」から成ることは特定されていない。

ここで、本件特許明細書を参酌すると、同【0073】?【0074】、【0087】、【0094】には、金属の微粒子は、全てが黒鉛の層間に入り込んでいることが望ましいが、本件発明1では、金属の微粒子の一部が黒鉛の層間以外に存在する場合も含むこと、黒鉛の層内ではなく、黒鉛の表面に露出している金属の微粒子があること、及び、本件発明1では、金属の微粒子の一部が黒鉛の層構造以外に存在する場合も含むことが記載されているから、本件発明1の「負極活物質」には、「黒鉛層間化合物」のみから成る態様の他に、「金属の微粒子」及び「黒鉛層間化合物」のみから成る態様もあるといえる。
しかし、本件特許明細書には、「負極活物質」が、「黒鉛層間化合物」とともに「単なる黒鉛」をも含むことは記載も示唆もされていない。
そうすると、本件発明1においては、「負極活物質」が、「黒鉛層間化合物」とともに「単なる黒鉛」をも含む態様を想定しているとはいえない。
したがって、本件発明1は、「負極活物質」が、「単なる黒鉛」を含んでいないのに対して、甲1発明は、「負極活物質」として機能する「黒鉛複合物」が、「単なる黒鉛」を含んでいる点で実質的に相違していると認められる。
よって、相違点2は実質的な相違点である。

ウ 相違点3について
上記(1)ウで検討したとおり、甲1発明の「リチウム2次電池の負極材料用黒鉛複合物」が、負極活物質として機能することは、当業者にとって自明の事項であるから、上記「リチウム2次電池の負極材料用黒鉛複合物」は、負極活物質であるといえるものの、本件発明1によれば、「負極」は、「負極集電体と負極活物質から構成され」るものであるから、甲1発明の「リチウム2次電池の負極材料用黒鉛複合物」と、本件発明1の「負極」とは、明らかに異なるものである。
したがって、相違点3は実質的な相違点である。

エ 以上のとおり、相違点1?3は実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。

(3) 本件発明2について
ア 本件発明2と甲1発明との対比・判断
本件発明2は、本件発明1の発明特定事項を全て有するものであることからすると、本件発明2と甲1発明とは、少なくとも上記相違点1?3で相違するものと認められる。
そうすると、上記(2)において述べた理由と同じ理由により、上記相違点1?3は実質的な相違点であるから、本件発明2も、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。

(4) 小括
以上のとおりであるから、請求人の主張する無効理由1には理由がない。

3 無効理由2-2について
無効理由2-1及び2-2は、いずれも、特許法第29条第2項違反についての無効理由であるところ、まず、無効理由2-2について検討する。

(1) 本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、上記2(1)エに記載のとおりである。

(2) 相違点についての判断
ア 相違点1について
(ア) 上記2(2)ア(イ)で検討したとおり、甲第1号証には、黒鉛粒子の層間にインターカレートされている、リチウムと合金化可能な金属の元素微粒子が、金属層となっていること、すなわち、多数の金属の元素微粒子が、黒鉛粒子の層間において、黒鉛面内を埋め尽くしていることは記載も示唆もされていない。
そこで、甲1発明において、黒鉛粒子の層間にインターカレートされる金属の元素微粒子を金属層とすることが、当業者にとって容易になし得るものであるか否か検討する。

(イ) まず、甲第1号証の記載を見てみる。
甲第1号証の上記(甲1b)、(甲1c)、(甲1e)及び(甲1f)には、従来知られていた、CVD法により形成された黒鉛粒子とLiと合金をつくる元素微粒子からなる黒鉛複合物、金属を加熱して気相で黒鉛と接触反応させて製造された黒鉛複合物、電気化学的な方法を用いて製造された黒鉛複合物は、いずれもリチウム2次電池の負極材料として使用した場合に不具合があったため、リチウム2次電池等の電極材料等に利用される黒鉛複合物を提供することを目的として、黒鉛複合物を、少なくとも2G以上の粉砕加速度で粉砕混合した、層間化合物と黒鉛粒子と元素微粒子とが微細に分散したものとするとともに、黒鉛粒子を少なくとも40原子%含み、元素微粒子の粒径を900nm以下とし、この黒鉛複合物を、リチウム2次電池の負極材料として使用することにより、サイクル特性に優れたリチウム2次電池とすることができ、多量のリチウムイオンが、黒鉛粒子および黒鉛結晶層間化合物の層間にインターカレートされるため、さらに放電容量の大きいリチウム2次電池とすることができ、また、微細に分散した層間化合物により黒鉛複合物の導電性をさらに向上させ、さらには反応性に富んだ黒鉛複合物とすることができるという作用効果を奏することが記載されている。
以上から、甲第1号証においては、黒鉛粒子と元素微粒子とを、少なくとも2G以上の粉砕加速度で粉砕混合する方法(以下、「粉砕法」という。)によって黒鉛複合物を得ることを、課題解決手段とするものであるといえるから、この粉砕法によって黒鉛複合物を形成することが、甲1発明の前提となる技術思想であると認められる。

(ウ) 次に、甲第2号証には、そもそも、甲1発明の前提となる技術思想である粉砕法によって黒鉛複合物を形成することについて何ら記載も示唆もされていないから、粉砕法によって、黒鉛粒子の層間にインターカレートされる金属の元素微粒子を金属層とすること、すなわち、多数の金属の元素微粒子が、黒鉛粒子の層間において、黒鉛面内を埋め尽くしているようにすることが記載されていないことは明らかである。
さらに、請求人が提出した、黒鉛層間化合物に関する周知技術、周知慣用技術を含むいずれの証拠、及び、被請求人が提出したいずれの証拠を見ても、粉砕法によって、黒鉛粒子の層間にインターカレートされる金属の元素微粒子を金属層とすること、すなわち、多数の金属の元素微粒子が、黒鉛粒子の層間において、黒鉛面内を埋め尽くしているようにすることは何ら記載も示唆もされていない。

(エ) そうすると、粉砕法によって黒鉛複合物を形成することを、前提となる技術思想とする甲1発明において、黒鉛粒子の層間にインターカレートされる金属の元素微粒子を金属層とすることは、当業者にとって容易に想到し得るものとはいえない。

(オ) また、金属塩化物還元法を用いて黒鉛粒子に元素微粒子をインターカレートすると金属層が形成されるとしても(甲第5号証の上記(甲5a)?(甲5b)、及び、乙第3号証の上記(乙3a)?(乙3f)を参照。)、上記(イ)で検討したように、甲1発明においては、粉砕法によって黒鉛複合物を形成することが、前提となる技術思想であるから、上記粉砕法に代えて、金属塩化物還元法を用いる動機付けはない。

(カ) したがって、甲1発明において、黒鉛粒子の層間にインターカレートされる金属の元素微粒子を金属層とすること、すなわち、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、黒鉛層間化合物に関する周知技術、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明並びに周知慣用技術に基づいても、当業者にとって容易になし得るものであるとはいえない。

イ 相違点2について
(ア) 上記2(2)イ(イ)で検討したとおり、本件発明1は、「負極活物質」が、「単なる黒鉛」を含んでいないのに対して、甲1発明は、「負極活物質」として機能する「黒鉛複合物」が、「単なる黒鉛」を含んでいる点で実質的に相違していると認められるから、甲1発明において、「黒鉛複合物」に、「単なる黒鉛」を含ませないようにすることが、当業者にとって容易に想到し得るものであるか否かについて検討する。

(イ) 甲第1号証には、「黒鉛複合物」に、「単なる黒鉛」を含ませないようにすることは、何ら記載も示唆もされていない。
また、甲1発明の「黒鉛複合物」に、「単なる黒鉛」を含ませないようにすることは、甲第2号証には、記載も示唆もされていないし、また、請求人が提出した、黒鉛層間化合物に関する周知技術、周知慣用技術を含むいずれの証拠、及び、被請求人が提出したいずれの証拠を見ても、この点について記載も示唆もされていない。

(ウ) したがって、甲1発明において、「黒鉛複合物」に、「単なる黒鉛」を含ませないようにすること、すなわち、相違点2に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、黒鉛層間化合物に関する周知技術、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明並びに周知慣用技術に基づいても、当業者にとって容易に想到し得るものであるとはいえない。

ウ 相違点3について
甲第1号証の上記(甲1g)には、黒鉛複合物を集電体上に成形した試料極を負極に用いることが記載されているから、甲1発明の「リチウム2次電池の負極材料用黒鉛複合物」と負極集電体とで負極を構成することは、当業者であれば容易になし得るものである。

エ 以上のとおりであるから、本件発明1は、黒鉛層間化合物に関する周知技術、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明並びに周知慣用技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3) 本件発明2について
ア 本件発明2と甲1発明との対比・判断
上記2(3)アで検討したとおり、本件発明2と甲1発明とは、少なくとも上記相違点1?3で相違するものと認められる。
そうすると、上記(2)において述べた理由と同じ理由により、本件発明2は、黒鉛層間化合物に関する周知技術、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明並びに周知慣用技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4) 小括
以上のとおりであるから、請求人の主張する無効理由2-2も理由がない。

4 無効理由2-1について
(1) 本件発明1と甲1発明との対比
上記2(1)及び3(1)で検討したように、無効理由2-2では、相違点1?3を相違点とし、本件発明1のリチウムと合金化可能な金属がGaである点については、甲1発明との相違点としなかったが、仮に、この点が本件発明1と甲1発明との相違点(以下、「相違点4」という。)であるとして、以下検討する。

(2) 判断
無効理由2-1に関し、請求人は、相違点4を格別の発明力を要することではない旨主張している(審判請求書13頁10行?14頁下から6行)ものの、上記3で検討したとおり、本件発明1及び2は、相違点1、2の点において、黒鉛層間化合物に関する周知技術、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明並びに周知慣用技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、相違点4について、請求人の上記主張のとおりであるとしても、本件発明1及び2は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された発明及び周知慣用技術に基づいても、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
したがって、請求人の主張する無効理由2-1も理由がない。

5 無効理由3について
(1) 請求人の主張
請求人が主張する無効理由3に係る特許法第36条第6項第1号違反は、次のとおりである(審判請求書19頁下から9行?20頁16行)。
サポート要件の充足性は、出願時の明細書において、特許請求の範囲の記載が、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものか否かにより決せられるものであるところ、本件発明1及び2においては、ホストである黒鉛の層間にインターカレントする「リチウムと合金化可能な金属」について、これを「Sn,Si,Pb,Al,Gaから選択される金属」と5種の元素に特定されているが、本件特許明細書にはこれら5種の元素のうちSnについて実施例が記載されているのみであって、Sn以外の4種の元素については実施例またはこれに相当する具体例がまったく記載されていない。のみならず、本件特許明細書を精査しても、それらが、本件発明の課題(本件特許明細書【0016】よれば、「高容量と長いサイクル寿命とを共に実現すること」)をSnと同様に解決することができる範囲内ものであると、当業者をして認識せしめるに足る記載を見いだすことはできないし、しかも、このような本件特許明細書の記載を事後的にサポートに適合させることはできないから、本件は、本件発明1及び2のいずれについても、特許法36条第6項第1号所定のサポート要件を充足しない。

(2) 判断
ア 特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号の要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであるから(知的財産高等裁判所特別部判決平成17年(行ケ)第10042号参照。)、このような観点に立って、以下検討する。

イ 特許請求の範囲の記載と本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載とを対比する。
(ア) まず、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載について検討する。
(ア-1) 本件特許明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
A 「【発明が解決しようとする課題】
・・・
【0016】
上述した問題の解決のために、本発明においては、高容量と長いサイクル寿命とを共に実現することを可能にする負極及びこの負極を用いた二次電池を提供するものである。」

B 「【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の負極は、負極集電体と負極活物質とから構成され、この負極活物質が、ホストである黒鉛の層間に、リチウムと合金化可能な金属の微粒子からなる金属層がゲストとしてインターカレートされた、黒鉛層間化合物から成り、前記金属が、Sn,Si,Pb,Al,Gaから選択される金属であるものである。
本発明の二次電池は、正極及び負極と共に電解質を備え、負極が上記本発明の負極の構成であるものである。
【0019】
上述の本発明の負極の構成によれば、負極活物質が、ホストである黒鉛の層間に、リチウムと合金化可能な金属の微粒子からなる金属層がゲストとしてインターカレートされた、黒鉛層間化合物から成ることにより、リチウムと合金化可能な金属が黒鉛の層間という導電性マトリックス内にある。これにより、金属と黒鉛との電気的な接触が充分になされ電気伝導性を確保することができ、また金属を微粒子化しても、導電性マトリックス内に囲われているので、金属の微粒子によって電解液が分解しないように抑制することができる。
そして、負極活物質がリチウムと合金化可能な金属を有するので、負極を備えた電池の容量を高めることが可能になる。
【0020】
上述の本発明の二次電池の構成によれば、負極が上記本発明の負極の構成であることにより、負極において金属と黒鉛との電気的な接触が充分になされ電気伝導性を確保することができるため、充放電に伴う負極活物質の体積の膨張・収縮による電気伝導性の低下を抑制することができる。
また、金属の微粒子によって電解液が分解しないように抑制することができるので、サイクル特性を改善することができる。
さらにまた、負極の負極活物質が黒鉛層間化合物であり、ベースが黒鉛であって、黒鉛構造ではない炭素質物を必要としないため、このような炭素質物による放電容量や初期充放電効率の低下を回避することが可能になる。」

C 「【実施例】
【0104】
以下、実施例をもって本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明は、これにより限定されるものではない。
【0105】
(実施例1)
負極活物質のベースとなる黒鉛材料として、メソフェーズ系球晶黒鉛を用いた。
そして、平均粒子径20μmのメソフェーズ系球晶黒鉛粉末と、平均粒子径20μmのSnCl_(2)粉末とを、50重量部/50重量部の比でパイレックスアンプル内において混合した後に、アンプル内を真空引きした。
続いて、アンプル内に塩素ガスを充填させてから、シールすることにより、塩素ガス雰囲気の密閉アンプルを作製した。
さらに、この密閉アンプルを、SnCl_(2)の融点より高い400℃で3日保持した。これにより、SnCl_(2)-メソフェーズ系球晶黒鉛の黒鉛層間化合物から成る前駆体を作製した。
続いて、作製した前駆体の構造をXRD(X線回折)により確認した。その結果、SnCl_(2)が黒鉛の層間にインターカレートされており、このときのステージは、第2ステージと第3ステージの混合ステージであることがわかった。
次に、得られた前駆体を還元した。還元方法は、以下のようにして行った。
まず、リチウム金属とナフタレンとを、テトラヒドロフラン(THF)溶液に混合し、室温で超音波照射したまま保持した。溶液の色が黒色化したところで超音波照射を停止して、得られた前駆体を溶液に加えて、2日間放置した。これにより、Sn-メソフェーズ系球晶黒鉛の黒鉛層間化合物を作製した。
【0106】
得られた黒鉛層間化合物の構造をXRDにより確認したところ、Snが黒鉛の層間にインターカレートされており、ゲスト挿入層の層間距離は1.716nmであり、黒鉛のc軸方向のSn粒子の厚さは3?4原子層程度であった。
・・・
【0110】
(放電容量の測定)
続いて、得られた黒鉛層間化合物から成る負極活物質を負極に用いて、放電容量を調べた。
まず、得られた黒鉛層間化合物の粉末90質量%と、結着剤であるポリフッ化ビニリデン10質量%とを混合して、負極合剤を調製した。
次に、この負極合剤を溶剤であるN-メチル-2-ピロリドンに分散させて、ペースト状の負極合剤スラリーとした。
そして、この負極合剤スラリーを、厚さ15μmの帯状の銅箔より成る負極集電体11に塗布した後に、乾燥させることにより、負極10を作製した。
次に、この負極10を使用して、正極に金属リチウムを用い、セパレータにポリエチレン製多孔質膜を用い、電解液に炭酸エチレンと炭酸ジエチルとの混合溶媒(1:1(体積比))にLiPF_(6)を1mol/dm^(3)の割合で溶解させた溶液を用いて、直径20mmで厚さ1mmのコイン型のテストセルを作製した。
【0111】
上述のテストセルに対して、まず、0.1Cの定電流で平衡電位がリチウムに対し30mVとなるまで充電を行い、さらに、30mVで20時間の定電圧充電を行った。その後、テストセル電圧が1.5Vになるまで0.1Cの定電流で放電を行い、その放電容量を負極の放電容量とした。なお、0.1Cは、理論容量を10時間で放出しきる電流値である。このようにして見積もられた放電(負極)容量は、平衡電位を基準としているので、材料固有の特性を反映したものとなっている。
【0112】
測定の結果として、477mAh/gという高い放電容量が得られた。
【0113】
(サイクル試験)
続いて、得られた黒鉛層間化合物から成る負極活物質を負極に用いて二次電池を作製して、サイクル試験を行った。
まず、レーザ回折法により得られる累積50%粒径が15μmのリチウム・コバルト複合酸化物を正極活物質として用いて、このリチウム・コバルト複合酸化物粉末95質量%と炭酸リチウム粉末5質量%とを混合し、この混合物94質量%と、導電剤であるケッチェンブラック3質量%と、結着剤であるポリフッ化ビニリデン3質量%とを混合して、正極合剤を調製した。
次に、この正極合剤を溶剤であるN-メチル-2-ピロリドンに分散させて、ペースト状の正極合剤スラリーとした。
そして、この正極合剤スラリーを、厚さ20μmの帯状のアルミニウム箔より成る正極集電体に均一に塗布した後に、乾燥して、さらに圧縮成型することにより正極合剤層を形成して、正極を作製した。
また、放電容量の測定で使用した負極10と同様にして、負極10を作製した。
次に、作製した正極及び負極10を、ポリエチレン製セパレータを介して、直径20mmで厚さ1mmのコインセルに組み込み、電解液として炭酸エチレンと炭酸ジエチルとの混合溶媒(1:1(体積比))にLiPF_(6)を1mol/dm^(3)の割合で溶解させた溶液を用いてコイン型のテストセル(二次電池)を作製した。
【0114】
上述のテストセル(二次電池)に対して、下記のようにして初回放電容量(mAh)を測定した。
まず、テストセルに対して、1.0Cの定電流で電池電圧が4.2Vとなるまで充電を行い、さらに4.2Vで3時間の定電圧充電を行った。その後、電池電圧が3.0Vになるまで1.0Cの定電流で放電を行い、初回放電容量とした。なお、1.0Cは、理論容量を1時間で放出しきる電流値である。
【0115】
また、下記のようにして放電容量維持率(%)を算出した。
まず、1.0Cの定電流で電池電圧が4.2Vとなるまで充電を行い、さらに4.2Vで3時間の定電圧充電を行った。その後、電池電圧が3.0Vになるまで1.0Cの定電流で放電を行い、この充放電を続けて行い、100サイクル時の放電容量を測定した。
そして、1サイクル時の放電容量(即ち、初回放電容量)に対する100サイクル時の放電容量(100サイクル時の放電容量/1サイクル時の放電容量)を求めて、その容量維持率((100サイクル時の放電容量/1サイクル時の放電容量)×100)(%)を放電容量維持率(%)とした。
【0116】
サイクル試験の結果、初期放電容量は10.2mAhとなり、100サイクル後の容量維持率は92.5%と高いサイクル特性を示した。
【0117】
(実施例2)
平均粒子径20μmのメソフェーズ系球晶黒鉛粉末と、平均粒子径20μmのSnCl_(2)粉末とを50重量部/50重量部の比でサンプル瓶内において混合し、さらにCCl_(4)とSOCl_(2)を適量ずつ添加して混合した後に、サンプル瓶を密封した。
続いて、室温で超音波照射を2日行い、その他は実施例1と同様にして、黒鉛層間化合物から成る前駆体を作製した。
続いて、作製した前駆体の構造をXRDにより確認した。その結果、SnCl_(2)が黒鉛の層間にインターカレートされていることが確認された。
次に、得られた前駆体を、実施例1と同様の方法で還元して、黒鉛層間化合物を作製した。
【0118】
得られた黒鉛層間化合物の構造をXRDにより確認したところ、Snが黒鉛の層間にインターカレートされており、ゲスト挿入層の層間距離は1.701nmであることがわかった。
【0119】
続いて、実施例1と同様の方法により、それぞれの測定用のコイン型テストセル(正極がリチウムであるテストセル及び正極活物質がリチウム・コバルト複合酸化物であるテストセル)を作製した。
そして、作製したそれぞれのテストセルを使用して、放電容量の測定及びサイクル試験を行った。
その結果、476mAh/gという高い放電容量が得られ、100サイクル後の容量維持率は91.5%と高いサイクル特性を示した。
【0120】
(実施例3)
負極活物質のベースとなる黒鉛材料として、メソフューズ系球晶黒鉛の代わりに天然黒鉛を用いた他は、実施例1と同様にして、黒鉛層間化合物を作製した。
【0121】
得られた黒鉛層間化合物の構造をXRDにより確認したところ、Snが黒鉛の層間にインターカレートされており、ゲスト挿入層の層間距離は1.710nmであることがわかった。
【0122】
続いて、実施例1と同様の方法により、それぞれの測定用のコイン型テストセルを作製した。
そして、作製したそれぞれのテストセルを使用して、放電容量の測定及びサイクル試験を行った。
その結果、489mAh/gという高い放電容量が得られ、100サイクル後の容量維持率は90.2%と高いサイクル特性を示した。
・・・
【0134】
(比較例1)
負極活物質のベースとなる黒鉛材料として、メソフェーズ系球晶黒鉛を用いた。
そして、平均粒子径20μmのメソフェーズ系球晶黒鉛70質量部と、平均粒子径0.3μmのSn粒子30質量部、フェノール樹脂(残炭率約40質量%)10質量部、及びエタノール200質量部を、二軸混練機を用いて混合して、分散液を調製した。
次に、この分散液を、アグロマスターを用いてスプレー噴霧すると同時に、80℃でエタノールを除去し、機内で流動させることによって造粒した。
次に、造粒品を、ホソカワミクロン(株)製のメカノフュージョンシステム(メカノフュージョンはホソカワミクロン(株)の登録商標)内に投入して、回転ドラムの周速度20m/s、処理時間30分、回転ドラムと内部部材の距離5mmの条件で、圧縮力と剪断力を繰り返し付加した。
このようにして得られた複合体100質量部、コールタールピッチ(残炭率約60質量%)7質量部、及びタール中油100質量部を、二軸混練機を用いて、150℃で1時間混合した後に、減圧してタール中油を除去して、乾燥した。
さらに、この乾燥させた複合体を、1000℃で10時間焼成して、複合黒鉛粒子を得た。
【0135】
続いて、得られた複合黒鉛粒子から成る負極活物質を用いて、実施例1と同様にして負極を作製した。
この負極を使用して、実施例1と同様の方法により、それぞれの測定用のコイン型テストセルを作製した。
そして、作製したそれぞれのテストセルを使用して、放電容量の測定及びサイクル試験を行った。
その結果、466mAh/gという放電容量が得られたが、100サイクル後の容量維持率は10.8%と低いサイクル特性を示した。
【0136】
即ち、リチウムと合金化可能な金属と黒鉛を単に混合しただけの複合材料では、充分なサイクル特性が得られないことがわかる。
一方、実施例1?実施例3のように、金属を黒鉛の層間にインターカレートした黒鉛層間化合物・・・を、負極活物質に使用することにより、充分なサイクル特性が得られ、長寿命の二次電池を実現できることがわかる。
・・・
【0137】
なお、上述の各実施例では、リチウムと合金化可能な金属としてSnを使用したが、Si,Pb,Al,Ga等のその他の金属を用いても、同様に、本発明の効果が得られる。」

(ア-1-1) 上記(ア-1)Aによれば、本件発明が解決すべき課題は、高容量と長いサイクル寿命とを共に実現することを可能にする負極及びこの負極を用いた二次電池を提供することである。

(ア-1-2) ここで、上記(ア-1)Bの【0017】には、上記(ア-1-1)における課題を解決する手段について、本件発明1の負極は、負極集電体と負極活物質とから構成され、この負極活物質が、ホストである黒鉛の層間に、リチウムと合金化可能な金属の微粒子からなる金属層がゲストとしてインターカレートされた、黒鉛層間化合物から成り、前記金属が、Sn,Si,Pb,Al,Gaから選択される金属であること、及び、本件発明2の二次電池は、正極及び負極と共に電解質を備え、負極が上記本件発明1の負極の構成であることが記載されている。

(ア-1-3) そして、上記(ア-1)Bの【0019】には、上記(ア-1-2)における、本件発明1の負極の構成によれば、リチウムと合金化可能な金属が黒鉛の層間という導電性マトリックス内にあるので、金属と黒鉛との電気的な接触が充分になされ電気伝導性を確保することができ、また、金属を微粒子化しても、導電性マトリックス内に囲われているので、金属の微粒子によって電解液が分解しないように抑制することができ、さらに、負極活物質がリチウムと合金化可能な金属を有するので、負極を備えた電池の容量を高めることが可能になること、及び、上記(ア-1-2)における、本件発明2の二次電池の構成によれば、負極において金属と黒鉛との電気的な接触が充分になされ電気伝導性を確保することができるため、充放電に伴う負極活物質の体積の膨張・収縮による電気伝導性の低下を抑制することができ、また、金属の微粒子によって電解液が分解しないように抑制することができるので、サイクル特性を改善することができ、さらに、負極の負極活物質が黒鉛層間化合物であり、ベースが黒鉛であって、黒鉛構造ではない炭素質物を必要としないため、このような炭素質物による放電容量や初期充放電効率の低下を回避することが可能になることが記載されている。

(ア-1-4) また、上記(ア-1)Cの【0105】?【0136】には、本件発明の実施例である実施例1?3について、Snが黒鉛の層間にインターカレートされた黒鉛層間化合物を負極活物質として使用すると、高い放電容量と、高いサイクル特性が得られたこと、及び、比較例1について、Snと黒鉛を単に混合しただけの複合材料では、充分なサイクル特性が得られなかったことが記載されている。
さらに、同【0137】によれば、本件特許明細書には、上述の各実施例では、リチウムと合金化可能な金属としてSnを使用したが、Si,Pb,Al,Gaの金属を用いても、同様に、本件発明の効果が得られることが記載されている。

(ア-1-5) 上記(ア-1-4)によれば、本件特許明細書に記載されている実施例1?3は、上記(ア-1-2)における負極及び二次電池において、リチウムと合金化可能な金属の一例として、Snを用いた場合に、上記(ア-1-3)に示した作用効果を奏すること、及び、上記(ア-1-1)に示した課題を解決できることを裏付けるものであるといえる。

(ア-1-6) そして、甲第1号証の上記(甲1d)の【0013】、及び、甲第2号証の上記(甲2b)の【0024】によれば、Snのほかに、Si,Pb,Al,Gaが、いずれもリチウムと合金化可能な金属であることは、本件特許出願時において技術常識であったといえることからすると、負極集電体と負極活物質とから構成され、前記負極活物質が、ホストである黒鉛の層間に、リチウムと合金化可能な金属の微粒子からなる金属層がゲストとしてインターカレートされた、黒鉛層間化合物から成る負極(以下、「特定の負極」という。)、若しくは、正極及び負極と共に電解質を備え、前記負極を前記「特定の負極」の構成とする二次電池において、前記リチウムと合金化可能な金属として、Si,Pb,Al,Gaを用いた場合であっても、Snを用いた場合と同様に、上記(ア-1-3)に示した効果を奏すること、また、上記(ア-1-1)に示した課題を解決できることは、本件特許明細書に接した当業者であれば十分に理解し得るものである。

(ア-2) 以上から、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載、及び、上記技術常識によれば、上記(ア-1-2)に示した、本件特許明細書の【0017】に記載されている負極、及び、二次電池、すなわち、負極集電体と負極活物質とから構成され、この負極活物質が、ホストである黒鉛の層間に、リチウムと合金化可能な金属の微粒子からなる金属層がゲストとしてインターカレートされた、黒鉛層間化合物から成り、前記金属が、Sn,Si,Pb,Al,Gaから選択される金属である負極、及び、正極及び負極と共に電解質を備え、前記負極が負極集電体と負極活物質とから構成され、この負極活物質が、ホストである黒鉛の層間に、リチウムと合金化可能な金属の微粒子からなる金属層がゲストとしてインターカレートされた、黒鉛層間化合物から成り、前記金属が、Sn,Si,Pb,Al,Gaから選択される金属である二次電池は、いずれも、当業者であれば上記課題を解決できると認識できる範囲のものであると認められる。

(イ) 一方、本件発明1及び2は、上記第2に示したとおりのものであるところ、再掲すると、以下のとおりである。
「【請求項1】
負極集電体と負極活物質とから構成され、
前記負極活物質が、ホストである黒鉛の層間に、リチウムと合金化可能な金属の微粒子からなる金属層がゲストとしてインターカレートされた、黒鉛層間化合物から成り、
前記金属が、Sn,Si,Pb,Al,Gaから選択される金属である
負極。
【請求項2】
正極及び負極と共に電解質を備え、
前記負極が負極集電体と負極活物質とから構成され、
前記負極活物質が、ホストである黒鉛の層間に、リチウムと合金化可能な金属の微粒子からなる金属層がゲストとしてインターカレートされた、黒鉛層間化合物から成り、
前記金属が、Sn,Si,Pb,Al,Gaから選択される金属である
二次電池。」

(ウ) そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載、及び、上記技術常識に照らして、当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものは、本件発明1及び2と相違しない。
したがって、本件発明1及び2は、発明の詳細な説明に記載された発明である。

(エ) よって、本件発明1及び2に係る特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。

(3) 小括
以上のとおりであるから、請求人の主張する無効理由3には理由がない。

第5 まとめ
以上のとおり、本件発明1及び2についての特許は、請求人の主張及び証拠方法によっては、無効とすることができない。
また、審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-06-15 
結審通知日 2016-06-17 
審決日 2016-06-29 
出願番号 特願2006-73116(P2006-73116)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (H01M)
P 1 113・ 113- Y (H01M)
P 1 113・ 537- Y (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石井 徹守安 太郎  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 河本 充雄
小川 進
登録日 2013-04-19 
登録番号 特許第5245201号(P5245201)
発明の名称 負極、二次電池  
代理人 杉浦 正知  
代理人 杉浦 拓真  
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