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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01L
管理番号 1333165
異議申立番号 異議2016-701167  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-11-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-12-22 
確定日 2017-08-17 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5937770号発明「半導体装置用ボンディングワイヤ」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第5937770号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-10〕について,訂正することを認める。 特許第5937770号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第5937770号の請求項1ないし10に係る特許についての出願は,平成27年9月18日(優先権主張 平成27年5月26日,平成27年6月5日)に特許出願がなされ,平成28年5月20日にその特許権の設定登録がなされた。
その後,その特許について,特許異議申立人田中電子工業株式会社(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされ,平成29年4月17日付けで取消理由の通知がなされ,同年6月5日付けで特許権者から意見書の提出及び訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)がなされ,その訂正の請求に対して申立人から同年7月12日付けで意見書の提出がなされたものである。

2 訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下のア及びイのとおりである(下線は,特許権者が付与した。)。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に,
「前記ボンディングワイヤがAs,Teから選ばれる少なくとも1種以上の元素を含み,ワイヤ全体に対する前記元素の濃度が合計で0.1質量ppm以上100質量ppm以下である」
と記載されているのを,
「前記ボンディングワイヤがAs,Teから選ばれる少なくとも1種以上の元素を含み,ワイヤ全体に対する前記元素の濃度が合計で2質量ppm以上100質量ppm以下である」
に訂正する。
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に,
「ワイヤ全体に対するAs,Teから選ばれる少なくとも1種以上の元素の濃度が合計で1質量ppm以上100質量ppm以下である」
と記載されているのを,
「ワイヤ全体に対するAs,Teから選ばれる少なくとも1種以上の元素の濃度が合計で3質量ppm以上100質量ppm以下である」
に訂正する。

(2)訂正の目的の適否,特許請求の範囲の拡張・変更の存否,新規事項の有無,及び一群の請求項について
ア 訂正事項1について
訂正事項1は,請求項1のワイヤ全体に対するAs,Teから選ばれる少なくとも1種以上の元素の濃度について,「合計で0.1質量ppm以上100質量ppm以下」であったものを,「合計で2質量ppm以上100質量ppm以下」であるものに限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。また,上記限定された事項は,本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件特許明細書」という。)の段落【0014】に記載されているから,訂正事項1は新規事項の追加に該当しない。
イ 訂正事項2にいついて
訂正事項2は,請求項2のワイヤ全体に対するAs,Teから選ばれる少なくとも1種以上の元素の濃度について,「合計で1質量ppm以上100質量ppm以下」であったものを「合計で3質量ppm以上100質量ppm以下」であるものに限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。また,上記限定された事項は,本件特許明細書の段落【0014】に記載されているから,訂正事項2は新規事項の追加に該当しない。
ウ 一群の請求項について
本件訂正請求による訂正は,請求項1と,請求項1を直接あるいは間接に引用する全ての請求項である請求項2ないし10を対象とするものであるから,上記訂正事項1及び2に係る各訂正は,一群の請求項ごとに請求されたものである。

(3)小括
以上のとおりであるから,本件訂正請求による訂正は,特許法第120条の5第2項第1号,第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条第4項,及び,同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので,訂正後の請求項〔1-10〕について訂正を認める。

3 特許異議の申立てについて
(1)本件特許発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし10に係る発明(以下「本件特許発明1」ないし「本件特許発明10」という。)は,本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
Cu合金芯材と,前記Cu合金芯材の表面に形成されたPd被覆層とを有する半導体装置用ボンディングワイヤにおいて,
前記ボンディングワイヤがAs,Teから選ばれる少なくとも1種以上の元素を含み,ワイヤ全体に対する前記元素の濃度が合計で2質量ppm以上100質量ppm以下である
ことを特徴とする半導体装置用ボンディングワイヤ。
【請求項2】
ワイヤ全体に対するAs,Teから選ばれる少なくとも1種以上の元素の濃度が合計で3質量ppm以上100質量ppm以下であることを特徴とする請求項1記載の半導体装置用ボンディングワイヤ。
【請求項3】
前記Pd被覆層の厚さが0.015μm以上0.150μm以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の半導体装置用ボンディングワイヤ。
【請求項4】
前記Pd被覆層上にさらにAuとPdを含む合金表皮層を有することを特徴とする請求項1?3のいずれか1項記載の半導体装置用ボンディングワイヤ。
【請求項5】
前記AuとPdを含む合金表皮層の厚さが0.0005μm以上0.050μm以下であることを特徴とする請求項4記載の半導体装置用ボンディングワイヤ。
【請求項6】
前記ボンディングワイヤがさらにNi,Zn,Rh,In,Ir,Pt,Ga,Geから選ばれる少なくとも1種以上の元素を含み,ワイヤ全体に対する前記元素の濃度がそれぞれ0.011質量%以上1.2質量%以下であることを特徴とする請求項1?5のいずれか1項記載の半導体装置用ボンディングワイヤ。
【請求項7】
前記Cu合金芯材がPdを含み,前記Cu合金芯材に含まれるPdの濃度が0.05質量%以上1.2質量%以下であることを特徴とする請求項1?6のいずれか1項記載の半導体装置用ボンディングワイヤ。
【請求項8】
前記ボンディングワイヤがさらにB,P,Mg,Ca,Laから選ばれる少なくとも1種以上の元素を含み,ワイヤ全体に対する前記元素の濃度がそれぞれ1質量ppm以上100質量ppm以下であることを特徴とする請求項1?7のいずれか1項記載の半導体装置用ボンディングワイヤ。
【請求項9】
前記ボンディングワイヤ表面の結晶方位を測定したときの測定結果において,前記ボンディングワイヤ長手方向に対して角度差が15度以下である結晶方位<111>の存在比率が30%以上100%以下であることを特徴とする請求項1?8のいずれか1項記載の半導体装置用ボンディングワイヤ。
【請求項10】
前記ボンディングワイヤの最表面にCuが存在することを特徴とする請求項1?9のいずれか1項記載の半導体装置用ボンディングワイヤ。」

(2)取消理由の概要
平成29年4月17日付けで通知した取消理由は,以下のとおり。
特許請求の範囲の請求項1に係る発明は,本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができないから,その発明に係る特許は取り消すべきものである。
・甲第01号証 特許第4958249号公報
・甲第04号証 三宅保彦,「工業材料としての高純度銅の製造と
応用」,日本金属学会会報,1992年,第31
巻,第4号,p.267-276
・甲第07号証 加藤正憲,「高純度銅の特性と用途」,伸銅技術
研究会誌,1996年,第35号,p.28-35

(3)刊行物について
ア 甲第01号証
(ア)甲第01号証の記載
甲第01号証には,以下の記載がある。
(1A)「【請求項1】
銅(Cu)または銅合金からなる芯材,パラジウム(Pd)からなる中間層および表面層からなる,線径が10?25μmのボールボンディング用被覆銅ワイヤにおいて,
上記中間層は,ワイヤ径の0.001?0.02倍の膜厚のパラジウム(Pd)被覆層であり,
上記芯材が0.5?99質量ppmのジルコニウム(Zr),スズ(Sn),バナジウム(V),ホウ素(B),チタン(Ti)の少なくとも一種を含み,残部が純度99.9質量%以上の銅(Cu)からなり,
前記表面層は,金(Au),銀(Ag),銅(Cu)又はこれらの合金からなり,ダイヤモンドダイスにより理論的な最終膜厚が1?7nmまで連続伸線され,かつ,前記中間層の厚さに対して1/8以下の厚さとした最上層の被覆層
であることを特徴とするボールボンディング用被覆銅ワイヤ。」
(1B)「【0001】
本発明は,半導体素子上の電極と回路配線基板の配線とをボールボンディングで接続するために用いられる被覆銅ワイヤに関する。」
(1C)「【実施例】
【0032】
以下,具体的に実施例について説明する。始めに,各実施例の共通項目を説明する。
中間層とは芯材の銅(Cu)と金(Au)や銀(Ag)などの最表面層と芯材との間に形成された被覆層である。また,表面層は,前記の中間層の外側に形成された最表面層である。
芯材の銅(Cu)は,以下のA?Fの6種類の純度の成分組成を原材料として用いた。
なお,原材料には不純物としてケイ素(Si),鉄(Fe),銀(Ag),マグネシウム(Mg),マンガン(Mn),硫黄(S),鉛(Pb)などが含有していることが考えられる。
A:99.9質量%銅(Cu)
B:99.95質量%銅(Cu)
C:99.99質量%銅(Cu)
D:99.999質量%銅(Cu)
E: 50質量ppmリン(P)と残部99.9質量%銅(Cu)からなる合金
F:450質量ppmリン(P)と残部99.9質量%銅(Cu)からなる合金
上記原材料は,溶解,鋳造し,圧延,伸線して線径500μmまで加工し,線径500μmで芯材の銅(Cu)にPd中間層の被覆を施し,その後,Auなどの表面層を形成した。」
(1D)【表2-1】の実験No.28には,線材の種類が「F」,線径が25μm,Pd中間層の厚さが0.24μm,Au表面層の厚さが6nmとしたボンディングワイヤが記載されている。
(イ)甲第01号証に記載された発明
上記(ア)の記載から,甲第01号証には,下記の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「銅合金からなる芯材,パラジウム(Pd)からなる中間層および表面層からなる,線径が25μmのボールボンディング用被覆銅ワイヤにおいて,
上記中間層は,厚さが0.24μmのパラジウム(Pd)被覆層であり, 上記芯材が450質量ppmリン(P)と残部99.9質量%銅(Cu)の合金からなり,
前記表面層は,厚さが6nmの金(Au)からなる最上層の被覆層
である,半導体素子上の電極と回路配線基板の配線とをボールボンディングで接続するために用いられるボールボンディング用被覆銅ワイヤ。」

イ 甲第04号証記載
甲第04号証には,以下の記載がある。
(4A)「(iii)脱硫元素添加帯溶融精製法(31)(32)
ICボンディングワイヤに使われる銅は,ボールボンディングに際し,十分軟いボールであることが必要である。」(270頁右欄11行?14行) (4B)各種純Cuの微量不純物分析結果が記載された表6には,ICボンディングワイヤの製造に使われる4N純度の銅(OFC)が,Asを1.7質量ppm,Teを0.2質量ppm,不純物として含んでいることが記載されている。

ウ 甲第07号証の記載
甲第07号証には,以下の記載がある。
(7A)「1 はじめに
銅は,電気伝導性や熱伝導性に優れ,耐食性や加工性も良好な材料なので,古くから様々な用途に利用されてきた。近年,先端技術分野において,高性能な同材料の開発に関心が寄せられ,高純度化や合金化の研究が進められている。・・・中略・・・高純度銅のこれらの特徴を利用して,音響機器用部材やIC用接続用部材が開発されている。」(28頁左欄1行?21行) (7B)「5.2 IC用ボンディングワイヤ
Siチップとリードフレームを結ぶボンディングワイヤに,Au線やAl線が使用されている。・・・中略・・・コストパフォーマンスと上記問題点の解消を目指したCuのボンディングワイヤの開発が始まった。」(32頁右欄17行?33頁左欄6行)
(7C)高純度銅の不純物含有量が記載されたTable2には,4N銅が,Asを0.5ppm,Teを0.1ppm,不純物として含んでいることが記載されている。

(4)本件特許発明1と甲1発明の対比
甲1発明の「銅合金からなる芯材」は,「450質量ppmリン(P)と残部99.9質量%銅(Cu)の合金からなる芯材」であるから,下記の相違点を除いて,本件特許発明1の「Cu合金芯材」に相当する。
甲1発明の「パラジウム(Pd)からなる中間層」は,「厚さが0.24μmのパラジウム(Pd)被覆層」であり,「銅合金からなる芯材」を被覆する被覆層であるから,下記の相違点を除いて,本件特許発明1の「前記Cu合金芯材の表面に形成されたPd被覆層」に相当する。
甲1発明の「半導体素子上の電極と回路配線基板の配線とをボールボンディングで接続するために用いられるボールボンディング用被覆銅ワイヤ」は,下記の相違点を除いて,本件特許発明1の「半導体装置用ボンディングワイヤ」に相当する。
よって,本件特許発明1と甲1発明とは,次の点で一致し,また,相違する。
[一致点]
「Cu合金芯材と,前記Cu合金芯材の表面に形成されたPd被覆層とを有する半導体装置用ボンディングワイヤ。」
[相違点]
本件特許発明1は,「前記ボンディングワイヤがAs,Teから選ばれる少なくとも1種以上の元素を含み,ワイヤ全体に対する前記元素の濃度が合計で2質量ppm以上100質量ppm以下である」のに対し,甲1発明の「ボールボンディング用被覆銅ワイヤ」は,As,Teから選ばれる少なくとも1種以上の元素を含むものであるか定かではない点。

(5)当審の取消理由の判断
ア ボンディングワイヤの芯材の原料となる銅について
上記(3)のイ及びウから,ボンディングワイヤの芯材の材料として用いられる純度4Nの銅では,0.5?1.7質量ppmのAsと0.1?0.2質量ppmのTeが,不純物として含まれ得るものである。
イ 特許法第29条第1項第3号について
甲1発明には,線径が25μmのボールボンディング用被覆銅ワイヤにおいて,金(Au)からなる表面層は厚さが6nmであり,パラジウム(Pd)からなる中間層の厚さは0.24μmであり,銅合金の芯材は450質量ppmリン(P)と残部99.9質量%銅(Cu)であるから,全体に対する芯材の銅は少なくとも90質量%以上であると認められる。
しかしながら,甲第01号証には,「ボールボンディング用被覆銅ワイヤ」がAs及びTeの元素を含有することは記載されておらず,上記アに記載したように,ボンディングワイヤの芯材の材料として使われる純度4Nの銅には,不純物として0.5?1.7質量ppmのAsと0.1?0.2質量ppmのTeが含まれ得ることから,甲1発明の銅合金の芯材の製造に利用した銅(Cu)には,不純物であるAsとTeの元素が同程度に含まれ得るものであるとしても,全体に対するAsとTeの元素の濃度の合計は,2質量ppm以上100質量ppm以下の範囲になるとは認められない。
そうすると,甲1発明の「ボールボンディング用被覆銅ワイヤ」では,ワイヤ全体に対するAsとTeの元素の濃度の合計は,「2質量ppm以上100質量ppm以下」の範囲になるとは認められないので,上記相違点は実質的な相違点である。
よって,本件特許発明1である請求項1に係る発明は,甲第01号証には記載された発明ではないので,特許法第29条第1項第3号の規定に該当したものではなく,同法第113条第2号に該当しない。

4 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由及び申立人の意見書について
(1)特許法第29条第2項について
ア 検討事項
特許異議申立書の「4 申立て理由」の「(3)申立ての根拠」欄では,請求項1に対する特許法第29条第2項の証拠として甲第01号証ないし甲第04号証が記載されているのに対し,特許異議申立書の「4 申立て理由」の「(4)具体的理由」欄では,「甲第02号証ないし甲第04号証の甲各号証は,甲第01号証を補強するものである。」,「また,甲第03号証ないし甲第09号証の甲各号証は,Cu中に含まれる不純物について当業者の技術常識を書証によって示すものである。」ことが記載され,申立人の平成29年7月12日付け意見書の「4 意見の内容」欄には,甲第06号証の記載(当審注:意見書では「甲第04号証」と記載しているが,「ユーゴスラビヤS社無酸素銅」が記載されているのは甲第06号証であることから,甲第06号証と判断した。)を参照して,訂正発明が「甲第01号証に記載された発明から容易想到することができ,特許法第29条第2項の規定に違反する発明です。」と記載されている。
そこで,本件特許発明1である請求項1に係る発明が,甲第01号証に記載された発明(甲1発明)及び甲第02号証ないし甲第09号証に記載された事項から当業者が容易に想到し得たものであるかを検討する。
イ 甲1発明及び本件特許発明1と甲1発明との対比
甲1発明は,上記3(3)ア(イ)に記載されたとおりのものであり,本件特許発明1と甲1発明は,上記3(4)に記載されたように,再掲すると,次の点で一致し,また,相違する。
[一致点]
「Cu合金芯材と,前記Cu合金芯材の表面に形成されたPd被覆層とを有する半導体装置用ボンディングワイヤ。」
[相違点]
本件特許発明1は,「前記ボンディングワイヤがAs,Teから選ばれる少なくとも1種以上の元素を含み,ワイヤ全体に対する前記元素の濃度が合計で2質量ppm以上100質量ppm以下である」のに対し,甲1発明の「ボールボンディング用被覆銅ワイヤ」は,As,Teから選ばれる少なくとも1種以上の元素を含むものであるか定かではない点。
ウ 判断
本件特許明細書の段落【0006】,【0007】,【0016】及び【表1-1】及び【表1-5】には,HASTにおいて100時間以上の接合寿命が要求されるボンディングワイヤにおいて,従来のPd被覆層を有するCuボンディングワイヤではボール接合部の接合寿命が100時間未満となる場合があり,車載用デバイスで要求される接合信頼性が十分ではなかったところ,本発明のようにPd被覆CuボンディングワイヤがAs,Te,Sn,Sb,Bi,Seから選ばれる少なくとも1種以上の元素を所定量含有することで,Clの作用で腐食しやすいCu_(9)A_(14)の生成量が少なくなり,ボール接合部の高温高湿環境での接合信頼性が格段に向上することが記載されている。
これに対して,甲第01号証には,「ボールボンディング用被覆銅ワイヤ」がAs及びTeの元素を含有することでボール接合部の高温高湿環境での接合信頼性が格段に向上する点については記載も示唆もされていないどころか,そもそも,As及びTeについては何等記載されていない。さらに,甲第02号証ないし甲第09号証には,As及びTeを含有する無酸素銅等の記載はあるものの,該As及びTeが,ボールボンディング用被覆銅ワイヤにおいて,ボール接合部の高温高湿環境での接合信頼性を格段に向上する点については記載も示唆もされていない。
そうすると,As及びTeについて何等記載されていない甲第01号証に接した当業者にとって,甲第02号証ないし甲第09号証にAs及びTeを多く含有する無酸素銅等について記載がなされていたとしても,甲1発明に対してAs及びTeを所定量だけ含有させる動機付けがないことから,甲1発明を「前記ボンディングワイヤがAs,Teから選ばれる少なくとも1種以上の元素を含み,ワイヤ全体に対する前記元素の濃度が合計で2質量ppm以上100質量ppm以下である」とすることは,容易であったとはいえない。
そして,本件特許発明1は,相違点の構成によりボール接合部の高温高湿環境での接合信頼性が格段に向上できるという格別な作用効果を奏するものであり,この効果は,甲1発明,甲第01号証ないし甲第09号証に記載された事項から予測し得るものではない。
よって,本件特許発明1である請求項1に係る発明は,甲1発明,甲第01号証ないし甲第09号証に記載された事項から,当業者が容易に発明できたものとはいえない。
さらに,本件特許発明1を限定した発明である本件特許発明2ないし本件特許発明10についても,上記と同様の理由により,甲1発明,甲第01号証ないし甲第09号証に記載された事項から,当業者が容易に発明できたものとはいえない。

(2)特許法第36条について
特許異議申立書の「4 申立て理由」の「(4)具体的理由」欄では,特許請求の範囲の請求項1に記載された「Cu合金芯材」の意味が曖昧であるため本件特許発明の範囲が不明確であり,また,「Cu合金芯材」に請求項1のAsまたはTeの添加元素を0.1質量ppm添加したところで,「高温高湿環境でのボール接合部の接合寿命を向上し,接合信頼性を改善することができる」という作用・効果を奏することがあり得るとは信じがたいことから,「本件特許発明は特許法第36条第6項第2号等の記載要件に違反するものである。」と主張している。
しかしながら,本件特許明細書の段落【0025】には,
「ボンディングワイヤ中にAs,Te,Sn,Sb,Bi,Seを含有させるに際し,これら元素をCu芯材中に含有させる方法,Cu芯材あるいはワイヤ表面に被着させて含有させる方法のいずれを採用しても,上記本発明の効果を発揮することができる。」
ことが記載されている。また,本件特許明細書の【表1-5】には,AsまたはTeを添加していないNo.11?14の場合のHAST結果は「×」であり,【表1-1】には,Asの含有量が0.4質量ppmであるNo.12,及び,Teの含有量が0.1質量ppmであるNo.5の場合のHAST結果は「○」であるのに対し,【表1-1】には,Asの含有量が1.2質量ppm及び12質量ppmであるNo.2及びNo.3の場合,及び,Teの含有量が1.2質量ppm及び15質量ppmであるNo.6及びNo.7の場合のHAST結果は「◎」となることが記載されている。これらの記載から,本件特許明細書には,ボンディングワイヤに含まれるAs及びTeがCu芯材中に含有させる必要はなく,Cu芯材あるいはワイヤ表面に被着させて含有させてもよいこと,ボンディングワイヤにAs及びTeを添加しないまたは添加量が少ない場合より,添加量がある程度多い場合の方がHAST結果が良好であることが記載せれているといえる。
そうすると,本件特許発明1において,ボンディングワイヤの芯材にAs及びTeが含有される必要はなく,ボンディングワイヤ全体としてのAs及びTeの含有量が特定されていれば十分であり,ボンディングワイヤの芯材として「Cu合金」が特定されていればボンディングワイヤの芯材は明確であると認められるので,「Cu合金芯材」の意味が曖昧であるとまではいえない。また,ボンディングワイヤの全体に対するAs及びTeの濃度が合計で2質量ppm以上100質量ppm以下であれば,ボンディングワイヤへのAs及びTeの添加しない場合や添加量が少ない場合に比べて,HAST結果が良好であると認められることから,本件特許発明1が「高温高湿環境でのボール接合部の接合寿命を向上し,接合信頼性を改善することができる」という作用・効果を奏しないとまではいえない。
よって,申立人の「本件特許発明は特許法第36条第6項第2号等の記載要件に違反するものである。」との主張を採用することはできない。

(3)小括
上記(1)及び(2)から,本件特許発明1ないし10は,甲1発明,甲第01号証ないし甲第09号証に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず,本件特許請求の範囲の記載及び明細書が,特許法第36条第6項第2号等の記載要件に違反したものともいえない。

5 むすび
以上のとおりであるから,取消理由通知に記載した取消理由,特許異議申立書に記載した特許異議申立理由,及び申立人による意見書の主張によっては,本件請求項1ないし10に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に本件請求項1ないし10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu合金芯材と、前記Cu合金芯材の表面に形成されたPd被覆層とを有する半導体装置用ボンディングワイヤにおいて、
前記ボンディングワイヤがAs、Teから選ばれる少なくとも1種以上の元素を含み、ワイヤ全体に対する前記元素の濃度が合計で2質量ppm以上100質量ppm以下である
ことを特徴とする半導体装置用ボンディングワイヤ。
【請求項2】
ワイヤ全体に対するAs、Teから選ばれる少なくとも1種以上の元素の濃度が合計で3質量ppm以上100質量ppm以下であることを特徴とする請求項1記載の半導体装置用ボンディングワイヤ。
【請求項3】
前記Pd被覆層の厚さが0.015μm以上0.150μm以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の半導体装置用ボンディングワイヤ。
【請求項4】
前記Pd被覆層上にさらにAuとPdを含む合金表皮層を有することを特徴とする請求項1?3のいずれか1項記載の半導体装置用ボンディングワイヤ。
【請求項5】
前記AuとPdを含む合金表皮層の厚さが0.0005μm以上0.050μm以下であることを特徴とする請求項4記載の半導体装置用ボンディングワイヤ。
【請求項6】
前記ボンディングワイヤがさらにNi、Zn、Rh、In、Ir、Pt、Ga、Geから選ばれる少なくとも1種以上の元素を含み、ワイヤ全体に対する前記元素の濃度がそれぞれ0.011質量%以上1.2質量%以下であることを特徴とする請求項1?5のいずれか1項記載の半導体装置用ボンディングワイヤ。
【請求項7】
前記Cu合金芯材がPdを含み、前記Cu合金芯材に含まれるPdの濃度が0.05質量%以上1.2質量%以下であることを特徴とする請求項1?6のいずれか1項記載の半導体装置用ボンディングワイヤ。
【請求項8】
前記ボンディングワイヤがさらにB、P、Mg、Ca、Laから選ばれる少なくとも1種以上の元素を含み、ワイヤ全体に対する前記元素の濃度がそれぞれ1質量ppm以上100質量ppm以下であることを特徴とする請求項1?7のいずれか1項記載の半導体装置用ボンディングワイヤ。
【請求項9】
前記ボンディングワイヤ表面の結晶方位を測定したときの測定結果において、前記ボンディングワイヤ長手方向に対して角度差が15度以下である結晶方位<111>の存在比率が30%以上100%以下であることを特徴とする請求項1?8のいずれか1項記載の半導体装置用ボンディングワイヤ。
【請求項10】
前記ボンディングワイヤの最表面にCuが存在することを特徴とする請求項1?9のいずれか1項記載の半導体装置用ボンディングワイヤ。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-08-08 
出願番号 特願2015-548080(P2015-548080)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (H01L)
P 1 651・ 121- YAA (H01L)
P 1 651・ 113- YAA (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 工藤 一光  
特許庁審判長 鈴木 匡明
特許庁審判官 飯田 清司
加藤 浩一
登録日 2016-05-20 
登録番号 特許第5937770号(P5937770)
権利者 日鉄住金マイクロメタル株式会社 新日鉄住金マテリアルズ株式会社
発明の名称 半導体装置用ボンディングワイヤ  
代理人 特許業務法人酒井国際特許事務所  
代理人 宮崎 悟  
代理人 特許業務法人酒井国際特許事務所  
代理人 特許業務法人酒井国際特許事務所  
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