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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61B
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61B
管理番号 1333175
異議申立番号 異議2015-700323  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-11-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-12-17 
確定日 2017-08-16 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5735790号発明「眼科撮影装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5735790号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?5〕について訂正することを認める。 特許第5735790号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第5735790号の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成22年12月2日に特許出願され、平成27年4月24日にその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人より特許異議の申立てがされ、平成28年3月9日付けで取消理由通知がされ、その指定期間内である同年5月13日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して同年7月7日に特許異議申立人から意見書が提出され、さらに、同年8月30日付けで取消理由通知(決定の予告)がされ、その指定期間内である同年10月28日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して平成29年1月12日に特許異議申立人から意見書が提出され、さらに、同年2月17日付けで取消理由通知(決定の予告)がされ、その指定期間内である同年4月20日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、当該訂正の請求を「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)があり、本件訂正請求に対して同年7月3日に特許異議申立人から意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断

1 訂正の要旨
本件訂正請求は、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲について、以下のとおり訂正することを求めるものである。(下線部は、訂正箇所を示す。)

(1)本件訂正の内容

ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「被検者眼上の撮像位置を変更するため、光源から発せられた測定光の被検者眼上での照射位置を変更する照射位置変更手段を有し、被検者眼から反射された測定光と,参照光との干渉状態を検出器により検出して眼の断層画像を撮像する光コヒーレンストモグラフィーデバイスと、
第1撮像領域における断層画像の取得後であって、前記第1撮像領域とは異なる第2撮像領域での断層画像を取得する際、前記第1撮像領域にて既に取得された断層画像と,前記第2撮像領域にて取得しようとする断層画像と,の間の連続性に関するずれを、前記被験者眼の概略画像から検出する検出手段と、
を備えることを特徴とする眼科撮影装置。」とあるものを、
「被検者眼上の撮像位置を変更するため、光源から発せられた測定光の被検者眼上での照射位置を変更する照射位置変更手段を有し、被検者眼から反射された測定光と,参照光との干渉状態を検出器により検出して眼の断層画像を撮像する光コヒーレンストモグラフィーデバイスと、
始点から終点まで測定光を走査させる第1のラインスキャンを少なくとも1回行うことによって取得される第1撮像領域における断層画像の取得後であって、前記第1のラインスキャンの終点に対応する走査位置に測定光が照射された後、前記第1のラインスキャンとは別の少なくとも1回の第2のラインスキャンを行うことによって前記第1撮像領域とは異なる第2撮像領域での断層画像であって前記第1撮像領域における断層画像と端部同士が横断方向において連続するように異なる前記第2の撮像領域での断層画像を取得する際、前記第2撮像領域での断層画像を取得するときに取得される概略画像と先に取得された概略画像との重複部分を利用して位置ずれを検出することによって、前記第1撮像領域にて既に取得された断層画像と,前記第2撮像領域にて取得しようとする断層画像と,の間の連続性に関するずれを、前記被検者眼の概略画像から検出する検出手段と、
前記第1撮像領域における断層画像の取得後であって、前記第1のラインスキャンの終点に対応する走査位置に測定光が照射された後、前記第2撮像領域での断層画像を取得する際、前記検出手段の検出結果に基づいて前記被検者眼に対する測定光の相対的な照射位置を少なくとも1回のラインスキャン単位で補正するための照射位置補正手段と、を備え、
前記第1撮像領域における断層画像と前記第2撮像領域における断層画像とに基づいて断層画像のパノラマが取得されることを特徴とする眼科撮影装置。」と訂正する。

イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に、
「第1撮像領域における断層画像の取得後であって、前記第1撮像領域とは異なる第2撮像領域での断層画像を取得する際、前記検出手段の検出結果に基づいて眼底に対する測定光の相対的な照射位置を補正するための照射位置補正手段を備えることを特徴とする請求項1記載の眼科撮影装置。」とあるものを、
「被検者眼上の撮像位置を変更するため、光源から発せられた測定光の被検者眼上での照射位置を変更する照射位置変更手段を有し、被検者眼から反射された測定光と,参照光との干渉状態を検出器により検出して眼の断層画像を撮像する光コヒーレンストモグラフィーデバイスと、
始点から終点まで測定光を走査させるラインスキャンを複数回行うことによって取得される第1撮像領域における3次元断層画像の取得後であって、前記第1撮像領域におけるラインスキャンとは別の複数回のラインスキャンを行うことによって前記第1撮像領域とは異なる第2撮像領域での3次元断層画像を取得する際、前記第2撮像領域での3次元断層画像を取得するときに取得される概略画像と先に取得された概略画像との重複部分を利用して位置ずれを検出することによって、前記第1撮像領域にて既に取得された3次元断層画像と,前記第2撮像領域にて取得しようとする3次元断層画像と,の間の連続性に関するずれを、前記被検者眼の概略画像から検出する検出手段と、
前記第1撮像領域における3次元断層画像の取得後であって、前記第2撮像領域での3次元断層画像を取得する際、前記検出手段の検出結果に基づいて眼底に対する測定光の相対的な照射位置を複数回のラインスキャン単位或いは複数回のラインスキャンを構成する各ラインスキャン単位で補正するための照射位置補正手段と、
を備えることを特徴とする眼科撮影装置。」と訂正する。

ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4に、
「前記検出手段は、第1撮像領域での視標位置と第2撮像領域での視標位置との間における被検者眼の視線方向の変化を考慮して前記連続性に関するずれを、前記被験者眼の概略画像から検出することを特徴とする請求項1?3記載のいずれかの眼科撮影装置。」とあるものを、
「前記検出手段は、第1撮像領域での視標位置と第2撮像領域での視標位置との間における前記固視標投影ユニットによる被検者眼の視線方向の変化量に基づいて前記重複部分を移動させて又は前記変化量に対応するオフセットをかけて前記連続性に関するずれを、前記被検者眼の概略画像から検出することを特徴とする請求項3記載の眼科撮影装置。」と訂正する。

エ 訂正事項4
本件特許明細書の段落【0009】に、
「(1)
被検者眼上の撮像位置を変更するため、光源から発せられた測定光の被検者眼上での照射位置を変更する照射位置変更手段を有し、被検者眼から反射された測定光と,参照光との干渉状態を検出器により検出して眼の断層画像を撮像する光コヒーレンストモグラフィーデバイスと、
第1撮像領域における断層画像の取得後であって、前記第1撮像領域とは異なる第2撮像領域での断層画像を取得する際、前記第1撮像領域にて既に取得された断層画像と,前記第2撮像領域にて取得しようとする断層画像と,の間の連続性に関するずれを、前記被験者眼の概略画像から検出する検出手段と、
を備えることを特徴とする。」 とあるものを、
「(1)
被検者眼上の撮像位置を変更するため、光源から発せられた測定光の被検者眼上での照射位置を変更する照射位置変更手段を有し、被検者眼から反射された測定光と,参照光との干渉状態を検出器により検出して眼の断層画像を撮像する光コヒーレンストモグラフィーデバイスと、
始点から終点まで測定光を走査させる第1のラインスキャンを少なくとも1回行うことによって取得される第1撮像領域における断層画像の取得後であって、前記第1のラインスキャンの終点に対応する走査位置に測定光が照射された後、前記第1のラインスキャンとは別の少なくとも1回の第2のラインスキャンを行うことによって前記第1撮像領域とは異なる第2撮像領域での断層画像であって前記第1撮像領域における断層画像と端部同士が横断方向において連続するように異なる前記第2の撮像領域での断層画像を取得する際、前記第2撮像領域での断層画像を取得するときに取得される概略画像と先に取得された概略画像との重複部分を利用して位置ずれを検出することによって、前記第1撮像領域にて既に取得された断層画像と,前記第2撮像領域にて取得しようとする断層画像と,の間の連続性に関するずれを、前記被検者眼の概略画像から検出する検出手段と、
前記第1撮像領域における断層画像の取得後であって、前記第1のラインスキャンの終点に対応する走査位置に測定光が照射された後、前記第2撮像領域での断層画像を取得する際、前記検出手段の検出結果に基づいて前記被検者眼に対する測定光の相対的な照射位置を少なくとも1回のラインスキャン単位で補正するための照射位置補正手段と、を備え、
前記第1撮像領域における断層画像と前記第2撮像領域における断層画像とに基づいて断層画像のパノラマが取得されることを特徴とする眼科撮影装置。
(2)
被検者眼上の撮像位置を変更するため、光源から発せられた測定光の被検者眼上での照射位置を変更する照射位置変更手段を有し、被検者眼から反射された測定光と,参照光との干渉状態を検出器により検出して眼の断層画像を撮像する光コヒーレンストモグラフィーデバイスと、
始点から終点まで測定光を走査させるラインスキャンを複数回行うことによって取得される第1撮像領域における3次元断層画像の取得後であって、前記第1撮像領域におけるラインスキャンとは別の複数回のラインスキャンを行うことによって前記第1撮像領域とは異なる第2撮像領域での3次元断層画像を取得する際、前記第2撮像領域での3次元断層画像を取得するときに取得される概略画像と先に取得された概略画像との重複部分を利用して位置ずれを検出することによって、前記第1撮像領域にて既に取得された3次元断層画像と,前記第2撮像領域にて取得しようとする3次元断層画像と,の間の連続性に関するずれを、前記被検者眼の概略画像から検出する検出手段と、
前記第1撮像領域における3次元断層画像の取得後であって、前記第2撮像領域での3次元断層画像を取得する際、前記検出手段の検出結果に基づいて眼底に対する測定光の相対的な照射位置を複数回のラインスキャン単位或いは複数回のラインスキャンを構成する各ラインスキャン単位で補正するための照射位置補正手段と、
を備えることを特徴とする眼科撮影装置。」 と訂正する。

(2)一群の請求項について

ア 特許請求の範囲の請求項1?5は、(特許権の設定登録時の)請求項1と請求項2?5とが、特許法施行規則第45条の4に規定する関係を有する一群の請求項であるから、訂正事項1?3に係る本件訂正請求は、請求項1?5からなる一群の請求項ごとに特許請求の範囲の訂正を請求するものである。

イ 訂正事項4は、本件特許明細書の段落【0009】の記載を、本件訂正後の請求項1及び2に対応させる訂正をするものであって、請求項1及び2、並びに請求項1又は2を直接又は間接的に引用する請求項3?5に関係するものであるから、訂正事項4に係る本件訂正請求は、請求項1?5からなる一群の請求項の全てについて行うものである。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)訂正事項1について

ア 訂正の目的の適否
訂正事項1は、「検出手段」を、「始点から終点まで測定光を走査させる第1のラインスキャンを少なくとも1回行うことによって取得される第1撮像領域における断層画像の取得後であって、前記第1のラインスキャンの終点に対応する走査位置に測定光が照射された後、前記第1のラインスキャンとは別の少なくとも1回の第2のラインスキャンを行うことによって前記第1撮像領域とは異なる第2撮像領域での断層画像であって前記第1撮像領域における断層画像と端部同士が横断方向において連続するように異なる前記第2の撮像領域での断層画像を取得する際、前記第2撮像領域での断層画像を取得するときに取得される概略画像と先に取得された概略画像との重複部分を利用して位置ずれを検出することによって、前記第1撮像領域にて既に取得された断層画像と,前記第2撮像領域にて取得しようとする断層画像と,の間の連続性に関するずれを、前記被検者眼の概略画像から検出する」ものに更に限定するものを含み、その訂正の目的は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」に該当する。
また、訂正事項1は、「前記被験者眼の概略画像」を「前記被検者眼の概略画像」とする明らかな誤記を訂正するものを含み、その訂正の目的は、特許法第120条の5第2項ただし書き第2号に掲げる「誤記の訂正」に該当する。
また、訂正事項1は、請求項1に、「前記第1撮像領域における断層画像の取得後であって、前記第1のラインスキャンの終点に対応する走査位置に測定光が照射された後、前記第2撮像領域での断層画像を取得する際、前記検出手段の検出結果に基づいて前記被検者眼に対する測定光の相対的な照射位置を少なくとも1回のラインスキャン単位で補正するための照射位置補正手段」という新たな構成を直列的に付加したものを含み、その訂正の目的は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」に該当する。
また、訂正事項1は、請求項1に、「前記第1撮像領域における断層画像と前記第2撮像領域における断層画像とに基づいて断層画像のパノラマが取得される」という新たな構成を直列的に付加したものを含み、その訂正の目的は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」に該当する。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号及び第2号に掲げる事項を目的とするものである。

イ 新規事項の有無
訂正事項1の「始点から終点まで測定光を走査させる第1のラインスキャンを少なくとも1回行うことによって取得される第1撮像領域における断層画像の取得後であって、前記第1のラインスキャンの終点に対応する走査位置に測定光が照射された後、前記第1のラインスキャンとは別の少なくとも1回の第2のラインスキャンを行うことによって前記第1撮像領域とは異なる第2撮像領域での断層画像であって前記第1撮像領域における断層画像と端部同士が横断方向において連続するように異なる前記第2の撮像領域での断層画像を取得する」ことは、本件特許明細書の段落【0032】、【0035】、【0036】、【0051】、【0068】等の記載に基づいて導き出せる構成である。
また、訂正事項1の「前記第2の撮像領域での断層画像を取得する際、前記第2撮像領域での断層画像を取得するときに取得される概略画像と先に取得された概略画像との重複部分を利用して位置ずれを検出することによって、前記第1撮像領域にて既に取得された断層画像と,前記第2撮像領域にて取得しようとする断層画像と,の間の連続性に関するずれを、前記被検者眼の概略画像から検出する」ことは、本件特許明細書の段落【0037】、【0041】、【0053】、【0055】、【0058】、【0062】等の記載に基づいて導き出せる構成である。
また、訂正事項1の「前記第1撮像領域における断層画像の取得後であって、前記第1のラインスキャンの終点に対応する走査位置に測定光が照射された後、前記第2撮像領域での断層画像を取得する際、前記検出手段の検出結果に基づいて前記被検者眼に対する測定光の相対的な照射位置を少なくとも1回のラインスキャン単位で補正するための照射位置補正手段」は、本件特許明細書の段落【0038】、【0041】、【0051】等の記載に基づいて導き出せる構成である。
また、訂正事項1の「前記第1撮像領域における断層画像と前記第2撮像領域における断層画像とに基づいて断層画像のパノラマが取得される」ことは、本件特許明細書の段落【0067】等の記載に基づいて導き出せる構成である。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
さらに、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(2)訂正事項2について

ア 訂正の目的の適否
訂正事項2は、請求項2を、請求項1を引用する引用請求項形式から、独立請求項形式に改めるものを含み、その訂正の目的は、特許法第120条の5第2項ただし書き第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」に該当する。
また、訂正事項2は、「検出手段」を、「始点から終点まで測定光を走査させるラインスキャンを複数回行うことによって取得される第1撮像領域における3次元断層画像の取得後であって、前記第1撮像領域におけるラインスキャンとは別の複数回のラインスキャンを行うことによって前記第1撮像領域とは異なる第2撮像領域での3次元断層画像を取得する際、前記第2撮像領域での3次元断層画像を取得するときに取得される概略画像と先に取得された概略画像との重複部分を利用して位置ずれを検出することによって、前記第1撮像領域にて既に取得された3次元断層画像と,前記第2撮像領域にて取得しようとする3次元断層画像と,の間の連続性に関するずれを、前記被検者眼の概略画像から検出する」ものに更に限定するものを含み、その訂正の目的は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」に該当する。
また、訂正事項2は、「前記被験者眼の概略画像」を「前記被検者眼の概略画像」とする明らかな誤記を訂正するものを含み、その訂正の目的は、特許法第120条の5第2項ただし書き第2号に掲げる「誤記の訂正」に該当する。
また、訂正事項2は、「照射位置補正手段」を、「前記第1撮像領域における3次元断層画像の取得後であって、前記第2撮像領域での3次元断層画像を取得する際、前記検出手段の検出結果に基づいて眼底に対する測定光の相対的な照射位置を複数回のラインスキャン単位或いは複数回のラインスキャンを構成する各ラインスキャン単位で補正するための」ものに更に限定するものを含み、その訂正の目的は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」に該当する。
よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号、第2号及び第4号に掲げる事項を目的とするものである。

イ 新規事項の有無
訂正事項2の「始点から終点まで測定光を走査させるラインスキャンを複数回行うことによって取得される第1撮像領域における3次元断層画像の取得後であって、前記第1撮像領域におけるラインスキャンとは別の複数回のラインスキャンを行うことによって前記第1撮像領域とは異なる第2撮像領域での3次元断層画像を取得する」ことは、本件特許明細書の段落【0032】、【0035】、【0036】等の記載に基づいて導き出せる構成である。
また、訂正事項2の「前記第1撮像領域とは異なる第2撮像領域での3次元断層画像を取得する際、前記第2撮像領域での断層画像を取得するときに取得される概略画像と先に取得された概略画像との重複部分を利用して位置ずれを検出することによって、前記第1撮像領域にて既に取得された断層画像と,前記第2撮像領域にて取得しようとする断層画像と,の間の連続性に関するずれを、前記被検者眼の概略画像から検出する」ことは、本件特許明細書の段落【0037】、【0041】、【0053】、【0055】、【0058】、【0062】等の記載に基づいて導き出せる構成である。
また、訂正事項2の「前記第1撮像領域における3次元断層画像の取得後であって、前記第2撮像領域での3次元断層画像を取得する際、前記検出手段の検出結果に基づいて眼底に対する測定光の相対的な照射位置を複数回のラインスキャン単位或いは複数回のラインスキャンを構成する各ラインスキャン単位で補正するための照射位置補正手段」は、本件特許明細書の段落【0038】、【0041】、【0051】等の記載に基づいて導き出せる構成である。
よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
さらに、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(3)訂正事項3について

ア 訂正の目的の適否
訂正事項3は、多数項(請求項1?3)を引用している請求項4の引用請求項を1項(請求項3)に減少するものを含み、その訂正の目的は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」に該当する。
また、訂正事項3は、「前記検出手段」を、「第1撮像領域での視標位置と第2撮像領域での視標位置との間における前記固視標投影ユニットによる被検者眼の視線方向の変化量に基づいて前記重複部分を移動させて又は前記変化量に対応するオフセットをかけて前記連続性に関するずれを、前記被検者眼の概略画像から検出する」ものに更に限定するものを含み、その訂正の目的は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」に該当する。
また、訂正事項3は、「前記被験者眼の概略画像」を「前記被検者眼の概略画像」とする明らかな誤記を訂正するものを含み、その訂正の目的は、特許法第120条の5第2項ただし書き第2号に掲げる「誤記の訂正」に該当する。
よって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号及び第2号に掲げる事項を目的とするものである。

イ 新規事項の有無
訂正事項3の「前記検出手段は、第1撮像領域での視標位置と第2撮像領域での視標位置との間における前記固視標投影ユニットによる被検者眼の視線方向の変化量に基づいて前記重複部分を移動させて又は前記変化量に対応するオフセットをかけて前記連続性に関するずれを、前記被検者眼の概略画像から検出すること」は、本件特許明細書の段落【0046】、【0047】、【0064】等の記載に基づいて導き出せる構成である。
よって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
さらに、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(4)訂正事項4について

ア 訂正の目的の適否
訂正事項4は、訂正事項1及び2に伴って、本件特許明細書の記載を特許請求の範囲の請求項1及び2に整合させるものであるから、その訂正の目的は、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」に該当する。
よって、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に掲げる事項を目的とするものである。

イ 新規事項の有無
訂正事項4は、上記「(1)イ」及び「(2)イ」で述べたとおり、本件特許明細書の記載に基づいて導き出せる構成であるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項4は、上記「(1)ウ」及び「(2)ウ」で述べたとおり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

3 本件訂正の適否についての判断のまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号?4号に掲げる事項を目的とするものに該当し、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項までの規定に適合するので、本件訂正後の請求項〔1?5〕について訂正を認める。

第3 取消理由通知に記載した取消理由について

1 取消理由の概要
甲第1号証:特開2010-264225号公報(以下、「甲1」という。)
甲第2号証:特開2010-12109号公報(以下、「甲2」という。)

1-1 平成28年3月9日付け取消理由の概要

(1)取消理由1
本件発明(特許権の設定登録時の特許請求の範囲の請求項に係る発明)1、2及び5は甲1発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定する発明に該当し、特許を受けることができないものである。

(2)取消理由2
本件発明3は、甲1発明及び周知の技術(例えば、甲2)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(3)取消理由3
本件特許明細書の発明の詳細な説明(段落【0006】、【0007】、【0011】?【0073】)には、第1撮像領域及び第2撮像領域を、前記各撮像領域にて取得する断層画像の各々からパノラマ断層画像を得ることを目的として、眼底Ef上に隣接させ、前記各撮像領域の一部が互いに重複するように設定し(段落【0032】、【0067】などを参照。)、前記第1撮像領域にて取得された第1概略画像と、前記第2撮像領域にて取得された第2概略画像との重複部分を利用したマッチングを行い、そのマッチング結果に基づいて、前記第1撮像領域にて既に取得された断層画像と、前記第2撮像領域にて取得しようとする断層画像と、の間の連続性に関するずれを検出すること(段落【0040】、【0041】、【0062】などを参照。)が、課題解決手段として記載されているが、本件発明1?3及び5は、上記課題解決手段が反映されていない。
よって、本件発明1?3及び5は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものであり、請求項1ないし3及び5の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

(4)取消理由4
本件発明4は、「前記検出手段は、第1撮像領域での視標位置と第2撮像領域での視標位置との間における被検者眼の視線方向の変化を考慮して前記連続性に関するずれを、前記被験者眼の概略画像から検出する」ことを特定しているが、ここでの「被検者眼の視線方向の変化を考慮して」という表現が具体性に欠けるため、その結果、本件発明4は、具体的に何を特定しようとしているのか明確でない。
よって、本件発明4は明確であるとはいえないため、請求項4の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

1-2 平成28年8月30日付け取消理由の概要

(1)取消理由1
本件訂正発明(平成28年5月13日付け訂正請求書に添付した特許請求の範囲の請求項に係る発明)1及び5は甲1発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定する発明に該当し、特許を受けることができないものである。

(2)取消理由2
本件訂正発明3は、甲1発明及び周知の技術(例えば、甲2)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

1-3 平成29年2月17日付け取消理由の概要

(1)取消理由1
本件訂正発明(平成28年10月28日付け訂正請求書に添付した特許請求の範囲の請求項に係る発明)1及び5は甲1発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定する発明に該当し、特許を受けることができないものである。

(2)取消理由2
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、段落【0068】に、第1撮像領域における断層画像と端部同士が横断方向において連続するように異なる第2の撮像領域での断層画像を取得することが記載されているのみであり、本件訂正発明1は、「第1撮像領域における断層画像」と「第1撮像領域とは異なる第2撮像領域での断層画像」との位置関係が、垂直方向(y方向)を除外するものと解することはできない。
よって、本件訂正発明1及び3?5は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものであり、請求項1及び3?5の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

2 本件訂正発明
本件訂正請求により訂正された訂正請求項1?5に係る発明(以下、それぞれ「本件訂正発明1」?「本件訂正発明5」という。)は、本件訂正後の請求項1?5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
被検者眼上の撮像位置を変更するため、光源から発せられた測定光の被検者眼上での照射位置を変更する照射位置変更手段を有し、被検者眼から反射された測定光と,参照光との干渉状態を検出器により検出して眼の断層画像を撮像する光コヒーレンストモグラフィーデバイスと、
始点から終点まで測定光を走査させる第1のラインスキャンを少なくとも1回行うことによって取得される第1撮像領域における断層画像の取得後であって、前記第1のラインスキャンの終点に対応する走査位置に測定光が照射された後、前記第1のラインスキャンとは別の少なくとも1回の第2のラインスキャンを行うことによって前記第1撮像領域とは異なる第2撮像領域での断層画像であって前記第1撮像領域における断層画像と端部同士が横断方向において連続するように異なる前記第2の撮像領域での断層画像を取得する際、前記第2撮像領域での断層画像を取得するときに取得される概略画像と先に取得された概略画像との重複部分を利用して位置ずれを検出することによって、前記第1撮像領域にて既に取得された断層画像と,前記第2撮像領域にて取得しようとする断層画像と,の間の連続性に関するずれを、前記被検者眼の概略画像から検出する検出手段と、
前記第1撮像領域における断層画像の取得後であって、前記第1のラインスキャンの終点に対応する走査位置に測定光が照射された後、前記第2撮像領域での断層画像を取得する際、前記検出手段の検出結果に基づいて前記被検者眼に対する測定光の相対的な照射位置を少なくとも1回のラインスキャン単位で補正するための照射位置補正手段と、を備え、
前記第1撮像領域における断層画像と前記第2撮像領域における断層画像とに基づいて断層画像のパノラマが取得されることを特徴とする眼科撮影装置。
【請求項2】
被検者眼上の撮像位置を変更するため、光源から発せられた測定光の被検者眼上での照射位置を変更する照射位置変更手段を有し、被検者眼から反射された測定光と,参照光との干渉状態を検出器により検出して眼の断層画像を撮像する光コヒーレンストモグラフィーデバイスと、
始点から終点まで測定光を走査させるラインスキャンを複数回行うことによって取得される第1撮像領域における3次元断層画像の取得後であって、前記第1撮像領域におけるラインスキャンとは別の複数回のラインスキャンを行うことによって前記第1撮像領域とは異なる第2撮像領域での3次元断層画像を取得する際、前記第2撮像領域での3次元断層画像を取得するときに取得される概略画像と先に取得された概略画像との重複部分を利用して位置ずれを検出することによって、前記第1撮像領域にて既に取得された3次元断層画像と,前記第2撮像領域にて取得しようとする3次元断層画像と,の間の連続性に関するずれを、前記被検者眼の概略画像から検出する検出手段と、
前記第1撮像領域における3次元断層画像の取得後であって、前記第2撮像領域での3次元断層画像を取得する際、前記検出手段の検出結果に基づいて眼底に対する測定光の相対的な照射位置を複数回のラインスキャン単位或いは複数回のラインスキャンを構成する各ラインスキャン単位で補正するための照射位置補正手段と、
を備えることを特徴とする眼科撮影装置。
【請求項3】
前記眼科撮影装置は、
固視標を有し、複数の方向に被検者眼を誘導可能な固視標投影ユニットを備え、
前記光コヒーレンストモグラフィーデバイスは、被検者眼眼底から反射された測定光と,参照光との干渉状態を受光素子により検出して眼底の断層画像を撮像する光コヒーレンストモグラフィーデバイスであり、
固視標投影ユニットを制御して各撮像領域に対応する位置に視標を呈示する制御手段と、
各撮像領域にて取得された断層画像のパノラマを得るパノラマ画像作成手段と、
を備えることを特徴とする請求項1?2記載のいずれかの眼科撮影装置。
【請求項4】
前記検出手段は、第1撮像領域での視標位置と第2撮像領域での視標位置との間における前記固視標投影ユニットによる被検者眼の視線方向の変化量に基づいて前記重複部分を移動させて又は前記変化量に対応するオフセットをかけて前記連続性に関するずれを、前記被検者眼の概略画像から検出することを特徴とする請求項3記載の眼科撮影装置。
【請求項5】
前記検出手段は、
断層撮像位置を含む被検者眼の概略画像を取得するために被検者眼からの反射光を得る光学系と、
第1撮像領域に対応する第1概略画像を基準画像として、第2撮像領域にて取得された第2の概略画像に対して、第1概略画像と第2概略画像との重複部分を利用したマッチングを行い、そのマッチング結果に基づいて前記連続性に関するずれを検出することを特徴とする請求項1?4記載のいずれかの眼科撮影装置。」

3 甲1に基づく新規性進歩性についての判断
上記「1-1」の取消理由1及び2、上記「1-2」の取消理由1及び2並びに上記「1-3」の取消理由は、いずれも甲1を主引用例としていることから、本件訂正発明1?5が、甲1発明を出発点として新規性及び進歩性を有するかを検討する。

(1)甲1の記載
本件特許出願の出願前に頒布された刊行物である甲1には、図面とともに、次の事項が記載されている。(下線は、当審において付加したものである。)

ア 「【0021】
<第1の実施形態>
[構成]
図1及び図2に示すように、眼底観察装置1は、眼底カメラユニット2、OCTユニット100及び演算制御ユニット200を含んで構成される。眼底カメラユニット2は、従来の眼底カメラとほぼ同様の光学系を有する。OCTユニット100には、眼底のOCT画像を取得するための光学系が設けられている。演算制御ユニット200は、各種の演算処理や制御処理等を実行するコンピュータを具備している。
【0022】
〔眼底カメラユニット〕
図1に示す眼底カメラユニット2には、被検眼Eの眼底Efの表面形態を表す2次元画像(眼底像)を形成するための光学系が設けられている。眼底像には、観察画像や撮影画像などが含まれる。観察画像は、たとえば、近赤外光を用いて所定のフレームレートで形成されるモノクロの動画像である。撮影画像は、たとえば、可視光をフラッシュ発光して得られるカラー画像である。なお、眼底カメラユニット2は、これら以外の画像、たとえばフルオレセイン蛍光画像やインドシアニングリーン蛍光画像を取得可能に構成されていてもよい。
【0023】
眼底カメラユニット2には、従来の眼底カメラと同様に、被検者の顔が動かないように支えるための顎受けや額当てが設けられている。更に、眼底カメラユニット2には、従来の眼底カメラと同様に、照明光学系10と撮影光学系30が設けられている。照明光学系10は眼底Efに照明光を照射する。撮影光学系30は、この照明光の眼底反射光を撮像装置(CCDイメージセンサ35、38)に導く。また、撮影光学系30は、OCTユニット100からの信号光LSを眼底Efに導くとともに、眼底Efを経由した信号光LSをOCTユニット100に導く。
・・・
【0029】
LCD39の画面上における固視標の表示位置を変更することにより、被検眼Eの固視位置を変更することが可能である。被検眼Eの固視位置としては、たとえば従来の眼底カメラと同様に、眼底Efの黄斑部を中心とする画像を取得するための位置や、視神経乳頭を中心とする画像を取得するための位置や、黄斑部と視神経乳頭との間の眼底中心を中心とする画像を取得するための位置などがある。
・・・
【0036】
ガルバノミラー44は、OCTユニット100からの信号光LSをx方向に走査する。ガルバノミラー43は、信号光LSをy方向に走査する。これら二つのガルバノミラー43、44により、信号光LSをxy平面上の任意の方向に走査することができる。
【0037】
〔OCTユニット〕
図2に示すOCTユニット100には、眼底Efの断層像を取得するための光学系が設けられている。この光学系は、従来のフーリエドメインタイプのOCT装置と同様の構成を有する。すなわち、この光学系は、低コヒーレンス光を参照光と信号光に分割し、眼底を経由した信号光と参照光路を経由した参照光とを干渉させて干渉光を生成し、この干渉光のスペクトル成分を検出するようになっている。この検出結果(検出信号)は演算制御ユニット200に送られる。
・・・
【0039】
光源ユニット101から出力された低コヒーレンス光L0は、光ファイバ102によりファイバカプラ103に導かれて信号光LSと参照光LRに分割される。なお、ファイバカプラ103は、光を分割する手段(スプリッタ;splitter)、及び、光を合成する手段(カプラ;coupler)の双方の作用を有するが、ここでは慣用的に「ファイバカプラ」と称する。
・・・
【0042】
ファイバカプラ103は、信号光LSの眼底反射光と、参照ミラー114に反射された参照光LRとを合波する。これにより生成された干渉光LCは、光ファイバ115により導光されて出射端116から出射される。更に、干渉光LCは、コリメータレンズ117により平行光束とされ、回折格子118により分光(スペクトル分解)され、集光レンズ57(当審注:「57」は「119」の誤記と認める。)により集光されてCCDイメージセンサ120の受光面に投影される。
・・・
【0045】
〔演算制御ユニット〕
演算制御ユニット200の構成について説明する。演算制御ユニット200は、CCDイメージセンサ120から入力される検出信号を解析して眼底EfのOCT画像を形成する。そのための演算処理は、従来のフーリエドメインタイプのOCT装置と同様である。
・・・
【0047】
眼底カメラユニット2の制御として、演算制御ユニット200は、観察光源11、撮影光源15及びLED51、61の動作制御、LCD39の動作制御、合焦レンズ31の移動制御、反射棒67の移動制御、フォーカス光学系60の移動制御、各ガルバノミラー43、44の動作制御などを行う。」

イ 「【0117】
<第2の実施形態>
第1の実施形態では断層像毎に位置ズレを補正する技術を説明した。前述のように、各走査線は複数の走査点により構成されている。第2の実施形態では、一つ以上の走査点を単位として位置ズレ量を求める技術を説明する。求められた位置ズレ量は、第1の実施形態と同様に位置ズレの補正に用いることもできるし、他の目的に用いることもできる。他の目的の一例として、第2の実施形態では、眼底の同一部位を走査して得られた二以上の画像を重ね合わせて高精度の画像を形成する技術への応用を説明する。
【0118】
この実施形態の眼底観察装置は、第1の実施形態と同様の計測を実行して、各走査点において眼底の深度方向に延びる1次元画像を形成する。この1次元画像をAスキャン像と呼ぶことにする。断層像は、複数の走査点の配列に応じて当該複数のAスキャン像を配列させることにより形成される。
【0119】
更に、この眼底観察装置は、信号光が走査されているときに、所定の時間間隔で眼底の位置を検出し、検出された眼底の位置の時間変化に基づいて眼底表面方向(xy方向)における複数のAスキャン像の位置ズレ量を算出する。
【0120】
ここで、Aスキャン像の位置ズレについて図7を参照しつつ説明する。図7(A)は、複数の走査点Rij(i=1?m、j=1?n)の配列の一例を表している。信号光LSは各走査点Rijに向けて照射される。しかし、計測中に被検眼Eが移動すると、図7(B)に示すように、信号光LSの実際の照射位置Tijが本来の走査点Rijの位置からずれてしまう。
【0121】
そうすると、走査点Rijに対応する眼底Efの位置を描写するべきAスキャン像の位置がずれてしまう(つまり、実際の照射位置Tijに対応する眼底Efの位置を描写するAスキャン像が得られてしまう)。これが、Aスキャン像の位置ズレである。この実施形態では、このようなAスキャン像の位置ズレの量(位置ズレ量)を求める。
【0122】
このとき、各Aスキャン像の位置ズレ量を求めるようにしてもよいし、連続する所定数のAスキャン像の位置ズレ量をまとめて求めるようにしてもよい。なお、第1の実施形態は、各走査線Ri上のn個のAスキャン像の位置ズレ量をまとめて求めるものであり、後者の処理の一例である。
【0123】
Aスキャン像の位置ズレ量はベクトル量である。つまり、この位置ズレ量には、走査点Rijに対する実際の照射位置Tijの変位方向を表す情報(ズレ方向情報)と変位量を表す情報(ズレ量情報)とが含まれる。
【0124】
[構成]
上記のような処理を実現するために、この実施形態に係る眼底観察装置は次のような構成を有する。まず、この眼底観察装置は、第1の実施形態と同様のハードウェア構成を有する。つまり、この眼底観察装置は、図1及び図2に示した構成を有する。以下、これら図面を適宜に参照して説明する。
【0125】
〔制御系〕
この眼底観察装置の制御系の構成について説明する。この眼底観察装置の制御系は、第1の実施形態のそれ(図3を参照)と一部が共通である。この眼底観察装置の制御系の構成の一例を図8に示す。なお、図8に示す構成要素において、第1の実施形態と共通のものには同じ符号が付してある。
【0126】
画像処理部230以外の構成は第1の実施形態と同様である。画像処理部230には、特徴部位特定部261、演算部262、走査点特定部265及び補正部266が設けられている。以下、眼底表面方向における位置ズレ量の演算処理と、眼底Efの深度方向における位置ズレ量の演算処理とに分けて説明する。
【0127】
特徴部位特定部261について説明する。この眼底観察装置は、観察光源11やCCDイメージセンサ35を用いて眼底Efの観察画像K(動画像)を形成する。観察画像Kは、所定のフレームレートで眼底Efを撮影することにより得られる。このフレームレートの逆数は、この発明の「所定の時間間隔」に相当する。
【0128】
特に、この眼底観察装置は、信号光LSが走査されているときの眼底Efを撮影して観察画像Kを形成する。観察画像Kを形成するための構成(照明光学系10や撮影光学系30)は、この発明の「撮影手段」の一例である。
【0129】
特徴部位特定部261は、観察画像Kを形成する各静止画像を解析して、眼底Efの特徴部位に画像領域を特定する。この処理については第1の実施形態で説明した。特徴部位特定部261は、この発明の「画像領域特定手段」の一例である。
【0130】
更に、特徴部位特定部261は、各静止画像における特徴部位の画像領域の位置を眼底Efの位置として求める。つまり、各静止画像には2次元座標系が予め定義されており、特徴部位特定部261は、この2次元座標系における当該画像領域の座標値を眼底Efの位置とする。ここで、当該画像領域の座標値としては、たとえば、当該画像領域内の特徴点(中心点、重心点等)の座標値を用いることができる。なお、各静止画像は眼底表面方向(xy平面方向)に広がる画像であるから、この2次元座標系とxy座標系とは互いに座標変換可能に対応付けられている。特に、この2次元座標系としてxy座標系自体を用いることも可能である。
【0131】
このような撮影手段及び画像領域特定手段は、この発明の「検出手段」の一例を構成する。
【0132】
次に、演算部262について説明する。演算部262は、特徴部位特定部261により求められた眼底Efの位置の時間変化に基づいて、眼底表面方向における複数のAスキャン像の位置ズレ量を算出する。演算部262は、補正部266とともに、この発明の「演算手段」の一例を構成する。上記処理を実行するために、演算部262には位置特定部263と位置ズレ量算出部264が設けられている。
【0133】
ここで、眼底Efの位置検出を行う時間間隔(位置検出間隔)と、信号光LSの走査時間間隔との関係について説明する。走査時間間隔とは、一の走査点Rijに信号光LSが照射されてからその次の走査点Ri(j+1)に信号光LSが照射されるまでの時間間隔を意味する。
【0134】
なお、一の走査線Riの最後の走査点Rinに信号光LSが照射されてから、次の走査線R(i+1)の最初の走査点R(i+1)1に信号光LSが照射されるまでの時間間隔(走査線替え時間間隔)は、上記走査時間間隔と等しくてもよいし異なってもよい。異なる場合、走査線替え時間間隔に合わせて位置検出間隔を制御してもよい。また、位置検出間隔を制御する代わりに、走査線替え時間間隔を走査時間間隔の整数倍の値にすればよい。
【0135】
この実施形態では、位置検出間隔は、走査時間間隔の整数(Q≧1)倍に設定される。つまり、この眼底観察装置は、複数の走査点Rijに順次に信号光LSを照射しつつ、Q個の走査点を走査する度毎に眼底Efの位置を検出する。
【0136】
具体例として、Q=1の場合、この眼底観察装置は、各走査点Rijに信号光LSが照射される度に眼底Efの位置を検出する。また、Q=2の場合、この眼底観察装置は、2個の走査点が走査される度に(つまり走査点1つおきに)眼底Efの位置を検出する。また、Q=n(一の走査線Ri上の走査点の個数)の場合が第1の実施形態に相当する。
【0137】
一般に、この眼底観察装置は、走査点Q個おきに眼底Efの位置を検出する。このような動作は、CCDイメージセンサ35の蓄積時間の制御と、走査駆動部70の制御とを同期させることにより実現される。
【0138】
このような制御が実行されているときに、演算部262は、順次に形成される複数のAスキャン像をQ個毎のAスキャン像群に分割する。この「分割」とは、複数のAスキャン像をQ個毎に実際に分ける(たとえば各Aスキャン像群を別々に記憶する)ものであってもよいし、識別情報を付すなどして各Aスキャン像群を識別可能にするものであってもよい。いずれにしても、以降の処理において個々のAスキャン像群に対して処理を実行できるものであれば十分である。よって、位置検出間隔と走査時間間隔との比率(Q)を記憶しておき、以降の処理において複数のAスキャン像をQ個毎に処理するような場合なども「分割」に包含される。以上の処理により、Q個のAスキャン像群と、Q個の走査点群と、一つの眼底Efの位置の検出結果とが対応付けられる。
【0139】
位置特定部263は、各Aスキャン像群に対応するQ個の走査点が走査されていたときの眼底Efの位置の検出結果に基づいて各1次元画像群の位置を特定する。この処理についてより詳しく説明する。つまり、前述のように、Aスキャン像群には走査点群と眼底Efの位置の検出結果とが対応付けられているので、位置特定部263は、この対応付けを参照して、各Aスキャン像群に対応する眼底Efの位置の検出結果を特定して当該Aスキャン像群の位置とする。この処理は、図7(B)に示す実際の照射位置Tijを特定することに相当する。」

ウ 「【0175】
(変形例2)
上記の実施形態では、Aスキャン像の位置ズレ量に基づいて、既に形成されたAスキャン像の位置を補正している。一方、この変形例では、Aスキャン像の位置ズレ量に基づいて信号光LSの走査をリアルタイムで制御する発明について説明する。
【0176】
信号光LSが走査されているときに、画像処理部230は、所定の時間間隔で順次に検出される眼底Efの位置に基づいて位置ズレ量を順次に算出する。眼底Efの位置の検出は、上記実施形態と同様にして実行できる。また、各位置ズレ量を算出する処理についても上記実施形態と同様に実行される。
【0177】
主制御部211は、順次に算出される位置ズレ量に基づいて走査駆動部70を制御し、眼底Efに対する信号光LSの照射位置を補正する。主制御部211は、この発明の「制御手段」の一例である。
【0178】
信号光LSの照射位置の補正処理についてより詳しく説明する。各走査点Rijに対するガルバノミラー43、44の位置(ミラー位置)は、実行される走査態様に基づいて予め設定されている。主制御部211は、走査駆動部70を制御して、走査点Rijの走査順序にしたがって各ミラー位置に順次にガルバノミラー43、44を移動させる。
【0179】
しかし、計測中に被検眼Eが移動すると、本来の走査点Rijの位置、つまり本来の計測位置から外れた場所に信号光LSが照射されてしまう。上記の実施形態では、このようにして生じた位置ズレを、既に取得されたAスキャン像の位置を補正することによって修正していた。
【0180】
一方、この変形例では、算出された位置ズレ量に応じて信号光LSの照射位置を補正する。つまり、主制御部211は、次の走査点Rijの本来の位置から当該位置ズレ量だけ変位した位置に信号光LSを照射させるように、走査駆動部70を制御する。
【0181】
この処理を順次に実行することで、被検眼E(眼底Ef)の動きに信号光LSの照射位置をリアルタイムで追従させることができ、それにより、信号光LSのスキャン中に被検眼Eが移動した場合であっても高確度なOCT画像を取得することが可能となる。」

(2)甲1に記載された事項の整理、及び甲1発明

ア 上記(1)ウの変形例2は、第1の実施形態と同様なハードウェア構成を有する第2の実施形態(上記(1)イの段落【0124】参照。)の変形例(上記(1)ウの段落【0175】参照。)であるから、変形例2も、第1の実施形態のハードウェア構成を有していることは明らかである。

イ 第2の実施形態は、「Aスキャン像の位置ズレ量」の算出単位として、段落【0135】に「この実施形態では、位置検出間隔は、走査時間間隔の整数(Q≧1)倍に設定される。」と記載されているように、Qの上限は記載されていない。しかし、第2の実施形態は、第1の実施形態のQ=nの場合(nは、一の走査線Ri上の走査点の個数)を含むことが示されており、第1の実施形態のQ=n(nは、一の走査線Ri上の走査点の個数)の場合より、高精度の画像を形成することを目的とするもの(段落【0117】、【0158】などを参照。)であるから、Qの上限は、nであることが示唆されているといえる。この点を踏まえると、第2の実施形態は、「Aスキャン像の位置ズレ量」の算出単位として、Q=n(nは、一の走査線Ri上の走査点の個数)個のAスキャン像群からなる断層像が含まれるといえる。
そして、変形例2は、段落【0175】に記載しているとおり、Aスキャン像の位置ズレ量に基づいて、既に形成されたAスキャン像の位置を補正すること(第2の実施形態)に代えて、こらから形成しようとするAスキャン像の位置を補正する(信号光LSの走査をリアルタイムで制御する)ものであって、この点のみを変形したものであるから、変形例2においても、「Aスキャン像の位置ズレ量」の算出単位として、Q=n(nは、一の走査線Ri上の走査点の個数)個のAスキャン像群からなる断層像を排除するものでないことは明らかである。

ウ 上記イを踏まえると、変形例2の「演算制御ユニット200」における眼底Efの位置の検出及び各位置ズレ量を算出する処理について、第2の実施形態の記載(段落【0122】、【0127】?【0136】など)を考慮すると、変形例2の「演算制御ユニット200」は、「複数の走査点Rijに順次に信号光LSを照射しつつ、Q=n(nは、一の走査線Ri上の走査点の個数)個の走査点を走査する度毎に、Q個のAスキャン像群からなる断層像に対応する眼底Efの各静止画像を取得し、取得した各静止画像における特徴部位の画像領域の位置の時間変化に基づいて、眼底表面方向(xy方向)における前記断層像単位での位置ズレ量を順次に算出」する態様を含むことが理解できる。

エ 上記ア?ウを含めて上記(1)の記載を総合すると、甲1には、
「眼底カメラユニット2、OCTユニット100及び演算制御ユニット200を含んで構成される眼底観察装置1であって、
眼底カメラユニット2には、被検眼Eの眼底Efの表面形態を表す2次元画像(眼底像)を形成するための光学系が設けられ、LCD39の画面上における固視標の表示位置を変更することにより、被検眼Eの固視位置を変更することが可能であり、OCTユニット100からの信号光LSを眼底Efに導くとともに、眼底Efを経由した信号光LSをOCTユニット100に導き、二つのガルバノミラー43、44により、信号光LSを眼底表面(xy平面)上の任意の方向に走査することができ、
OCTユニット100には、信号光LSが走査されているときに、複数の走査点RijのそれぞれにおいてAスキャン像(眼底の深度方向に延びる1次元画像)を取得するための光学系が設けられ、光源ユニット101から出力された低コヒーレンス光L0は、光ファイバ102によりファイバカプラ103に導かれて信号光LSと参照光LRに分割され、ファイバカプラ103は、信号光LSの眼底反射光と、参照ミラー114に反射された参照光LRとを合波し、これにより生成された干渉光LCは、CCDイメージセンサ120の受光面に投影され、
演算制御ユニット200は、
CCDイメージセンサ120から入力される検出信号を解析して眼底EfのOCT画像を形成し、LCD39の動作制御、各ガルバノミラー43、44の動作制御などを行い、
複数の走査点Rijに順次に信号光LSを照射しつつ、Q=n(nは、一の走査線Ri上の走査点の個数)個の走査点を走査する度毎に、Q個のAスキャン像群からなる断層像に対応する眼底Efの各静止画像を取得し、取得した各静止画像における特徴部位の画像領域の位置の時間変化に基づいて、眼底表面方向(xy方向)における前記断層像単位での位置ズレ量を順次に算出し、
順次に算出される位置ズレ量に基づいて、次の走査点Rijの本来の位置から当該位置ズレ量だけ変位した位置に信号光LSを照射させるように、眼底Efに対する信号光LSの照射位置を補正する、
眼底観察装置1。」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。

(3)甲2の記載
本件特許出願の出願前に頒布された刊行物である甲2には、次の事項が記載されている。

「【0003】
上述した、眼科撮影装置においては、例えば蛍光剤を注入し眼底上の血管に蛍光剤が広がっていく様子を撮影する蛍光撮影や、眼底の中心領域から周辺領域に対して複数の撮影を行い、これを繋げることにより広範囲な眼底領域を撮影するパノラマ撮影等、継続的に眼底を観察、撮影することがある。・・・」

(4)本件訂正発明1について

ア 対比
本件訂正発明1と甲1発明を対比する。

(ア)光コヒーレンストモグラフィーデバイス
a 甲1発明の「眼底Ef」、「光源ユニット101」及び「信号光LS」は、それぞれ本件訂正発明1の「被検者眼上」、「光源」及び「測定光」に相当する。
上記相当関係を踏まえると、甲1発明の「光源ユニット101から」の「信号光LSを眼底表面(xy平面)上の任意の方向に走査することができ」る「二つのガルバノミラー43、44」が、「Aスキャン像(眼底の深度方向に延びる1次元画像)を取得する」ための「走査点Rij」位置を変更するものであることから、甲1発明の「二つのガルバノミラー43、44」は、本件訂正発明1の「被検者眼上の撮像位置を変更するため、光源から発せられた測定光の被検者眼上での照射位置を変更する照射位置変更手段」に相当する。

b 甲1発明の「信号光LSの眼底反射光」、「参照ミラー114に反射された参照光LR」、「干渉光LC」、「CCDイメージセンサ120」及び「Q個のAスキャン像群からなる断層像」は、それぞれ本件訂正発明1の「被検者眼から反射された測定光」、「参照光」、「干渉状態」、「検出器」及び「断層画像」に相当する。
上記相当関係を踏まえると、甲1発明の「信号光LSの眼底反射光と、参照ミラー114に反射された参照光LRとを合波し、これにより生成された干渉光LCは、CCDイメージセンサ120の受光面に投影され」る「OCTユニット100」は、「Q個のAスキャン像群からなる断層像」を撮像するものであるから、本件訂正発明1の「被検者眼から反射された測定光と,参照光との干渉状態を検出器により検出して眼の断層画像を撮像する光コヒーレンストモグラフィーデバイス」に相当する。

c よって、甲1発明の「二つのガルバノミラー43、44」と「OCTユニット100」とを併せたものが、本件訂正発明1の「被検者眼上の撮像位置を変更するため、光源から発せられた測定光の被検者眼上での照射位置を変更する照射位置変更手段を有し、被検者眼から反射された測定光と,参照光との干渉状態を検出器により検出して眼の断層画像を撮像する光コヒーレンストモグラフィーデバイス」に相当するといえる。

(イ)検出手段
a 甲1発明の「信号光LS」は、本件訂正発明1の「測定光」に相当する。
上記相当関係を踏まえると、甲1発明の「複数の走査点Rijに順次に信号光LSを照射」させる「Q=n(nは、一の走査線Ri上の走査点の個数)個の走査点」は、「一の走査線Ri」であるから、本件訂正発明1の「始点から終点まで測定光を走査させる第1のラインスキャン」に相当するといえる。

b 甲1発明において、「Q=n(nは、一の走査線Ri上の走査点の個数)個の走査点を走査する度毎に」、順次「取得」される「断層像」のうち、最初に取得される「断層像」と、垂直方向(y方向)において次に取得される「断層像」とは、それぞれ連続する異なる撮像領域(最初の一の走査線と次の一の走査線のそれぞれに連続して異なる撮像領域が存在する。)であると理解できる。
この点を踏まえると、甲1発明の、最初に取得される「断層像」、及び、垂直方向(y方向)において次に取得される「断層像」が、それぞれ本件訂正発明1の「第1撮像領域における断層画像」、及び、「前記第1撮像領域とは異なる第2撮像領域での断層画像」に相当する。

c 甲1発明の垂直方向(y方向)において次に取得される「断層像」は、最初に取得される「断層像」を撮像する際に「取得し」た「静止画像」と、垂直方向(y方向)において次に取得される「断層像」を撮像する際に「取得し」た「静止画像」とに基づいて、「信号光LSの照射位置」が「補正」されて撮像されるものである。そして、ここでの各「静止画像」は、「Q=n(nは、一の走査線Ri上の走査点の個数)個の走査点を走査する度毎」、すなわち各「断層像」の最初の走査点を基準にして取得されたものであるから、垂直方向(y方向)において次に取得される「断層像」は、最初に取得される「断層像」と、始点の水平方向(x方向)位置が同じ位置となることから、始点となる端部同士が連続することになる。
よって、甲1発明の、垂直方向(y方向)において次に取得される「断層像」と、本件訂正発明1の「第1撮像領域における断層画像と端部同士が横断方向において連続するように異なる前記第2の撮像領域での断層画像」とは、「第1撮像領域における断層画像と端部同士が連続するように異なる前記第2の撮像領域での断層画像」である点で共通する。

d 甲1発明において、「眼底表面方向(xy方向)における前記断層像単位での位置ズレ量を順次に算出」することは、「順次に算出される位置ズレ量に基づいて、次の走査点Rijの本来の位置から当該位置ズレ量だけ変位した位置に信号光LSを照射させるように、眼底Efに対する信号光LSの照射位置を補正する」ために、既に取得された「断層像」(最初に取得される「断層像」)と、これから取得しようとする「断層像」(垂直方向(y方向)において次に取得される「断層像」)と、の「位置ズレ量」を検出していることに他ならない。
この点を踏まえると、甲1発明の既に取得された「断層像」、及びこれから取得しようとする「断層像」は、それぞれ本件訂正発明1の「前記第1撮像領域にて既に取得された断層画像」、及び「前記第2撮像領域にて取得しようとする断層画像」に相当する。
そして、甲1発明の、ここでの「位置ズレ量」は、連続する「断層像」の間での「位置ズレ量」であるから、本件訂正発明1の「連続性に関するずれ」に相当する。
よって、甲1発明の「断層像単位で位置ズレ量を順次に算出」する「演算制御ユニット200」は、本件訂正発明1の「前記第1撮像領域にて既に取得された断層画像と,前記第2撮像領域にて取得しようとする断層画像と,の間の連続性に関するずれを」、「検出する検出手段」に相当するといえる。

e 甲1発明において、「Q=n(nは、一の走査線Ri上の走査点の個数)個の走査点を走査する度毎に、Q個のAスキャン像群からなる断層像に対応する眼底Efの各静止画像を取得し、取得した各静止画像における特徴部位の画像領域の位置の時間変化」を求めることは、これから取得しようとする「断層像」(垂直方向(y方向)において次に取得される「断層像」)のときに取得した「静止画像の特徴部位」と、既に取得された「断層像」(最初に取得される「断層像」)のときに取得した「静止画像の特徴部位」との重複部分「の位置」ズレ量を求めていることに他ならない。
そして、ここでの「静止画像」は、「特徴部位の画像領域の位置」が特定される程度にその概略を特定しうる画像であることは明らかであるから、甲1発明の、これから取得しようとする「断層像」のときに取得した「静止画像」、及び既に取得された「断層像」のときに取得した「静止画像」は、それぞれ本件訂正発明1の「前記第2撮像領域での断層画像を取得するときに取得される概略画像」及び「先に取得された概略画像」に相当するといえる。
よって、甲1発明の「Q=n(nは、一の走査線Ri上の走査点の個数)個の走査点を走査する度毎に、Q個のAスキャン像群からなる断層像に対応する眼底Efの各静止画像を取得し、取得した各静止画像における特徴部位の画像領域の位置の時間変化」を求めることは、本件訂正発明1の「前記第2撮像領域での断層画像を取得するときに取得される概略画像と先に取得された概略画像との重複部分を利用して位置ずれを検出すること」に相当するといえる。

f 上記a?eを踏まえると、
甲1発明の「複数の走査点Rijに順次に信号光LSを照射しつつ、Q=n(nは、一の走査線Ri上の走査点の個数)個の走査点を走査する度毎に、Q個のAスキャン像群からなる断層像に対応する眼底Efの各静止画像を取得し、取得した各静止画像における特徴部位の画像領域の位置の時間変化に基づいて、眼底表面方向(xy方向)における前記断層像単位での位置ズレ量を順次に算出」する「演算制御ユニット200」と、
本件訂正発明1の「始点から終点まで測定光を走査させる第1のラインスキャンを少なくとも1回行うことによって取得される第1撮像領域における断層画像の取得後であって、前記第1のラインスキャンの終点に対応する走査位置に測定光が照射された後、前記第1のラインスキャンとは別の少なくとも1回の第2のラインスキャンを行うことによって前記第1撮像領域とは異なる第2撮像領域での断層画像であって前記第1撮像領域における断層画像と端部同士が横断方向において連続するように異なる前記第2の撮像領域での断層画像を取得する際、前記第2撮像領域での断層画像を取得するときに取得される概略画像と先に取得された概略画像との重複部分を利用して位置ずれを検出することによって、前記第1撮像領域にて既に取得された断層画像と,前記第2撮像領域にて取得しようとする断層画像と,の間の連続性に関するずれを、前記被検者眼の概略画像から検出する検出手段」とは、
「始点から終点まで測定光を走査させる第1のラインスキャンを少なくとも1回行うことによって取得される第1撮像領域における断層画像の取得後であって、前記第1のラインスキャンの終点に対応する走査位置に測定光が照射された後、前記第1のラインスキャンとは別の少なくとも1回の第2のラインスキャンを行うことによって前記第1撮像領域とは異なる第2撮像領域での断層画像であって前記第1撮像領域における断層画像と端部同士が連続するように異なる前記第2の撮像領域での断層画像を取得する際、前記第2撮像領域での断層画像を取得するときに取得される概略画像と先に取得された概略画像との重複部分を利用して位置ずれを検出することによって、前記第1撮像領域にて既に取得された断層画像と,前記第2撮像領域にて取得しようとする断層画像と,の間の連続性に関するずれを、前記被検者眼の概略画像から検出する検出手段」である点で共通する。

(ウ)照射位置補正手段
甲1発明の「順次に算出される位置ズレ量に基づいて、次の走査点Rijの本来の位置から当該位置ズレ量だけ変位した位置に信号光LSを照射させるように、眼底Efに対する信号光LSの照射位置を補正する」「演算制御ユニット200」は、「Q=n(nは、一の走査線Ri上の走査点の個数)個の走査点を走査する度毎」に「信号光LSの照射位置を補正する」ことが明らかであるから、本件訂正発明1の「前記第1撮像領域における断層画像の取得後であって、前記第2撮像領域での断層画像を取得する際、前記検出手段の検出結果に基づいて前記被検者眼に対する測定光の相対的な照射位置を少なくとも1回のラインスキャン単位で補正するための照射位置補正手段」に相当する。

(エ)パノラマ
本件訂正発明1では、「断層画像のパノラマが取得される」ことが特定されており、本件特許明細書の段落【0006】及び【0007】によれば、パノラマ断層画像とは、複数の断層画像をスムーズに繋ぎ合わせた画像であると理解できる。
そのような理解に立つと、甲1発明は、垂直方向(y方向)において次に取得される「断層像」は、「眼底表面方向(xy方向)における前記断層像単位での位置ズレ量」が補正されたものであるから、甲1発明は、最初に取得される「断層像」と垂直方向(y方向)において次に取得される「断層像」とに基づいて断層像のパノラマが形成されているといえる。
よって、甲1発明においても、本件訂正発明1の「前記第1撮像領域における断層画像と前記第2撮像領域における断層画像とに基づいて断層画像のパノラマが取得される」ものである。

(オ)眼科撮影装置
甲1発明の「眼底観察装置1」は、本件訂正発明1の「眼科撮影装置」に相当する。

イ 一致点及び相違点
よって、本件訂正発明1と甲1発明とは、

「被検者眼上の撮像位置を変更するため、光源から発せられた測定光の被検者眼上での照射位置を変更する照射位置変更手段を有し、被検者眼から反射された測定光と,参照光との干渉状態を検出器により検出して眼の断層画像を撮像する光コヒーレンストモグラフィーデバイスと、
始点から終点まで測定光を走査させる第1のラインスキャンを少なくとも1回行うことによって取得される第1撮像領域における断層画像の取得後であって、前記第1のラインスキャンの終点に対応する走査位置に測定光が照射された後、前記第1のラインスキャンとは別の少なくとも1回の第2のラインスキャンを行うことによって前記第1撮像領域とは異なる第2撮像領域での断層画像であって前記第1撮像領域における断層画像と端部同士が連続するように異なる前記第2の撮像領域での断層画像を取得する際、前記第2撮像領域での断層画像を取得するときに取得される概略画像と先に取得された概略画像との重複部分を利用して位置ずれを検出することによって、前記第1撮像領域にて既に取得された断層画像と,前記第2撮像領域にて取得しようとする断層画像と,の間の連続性に関するずれを、前記被検者眼の概略画像から検出する検出手段と、
前記第1撮像領域における断層画像の取得後であって、前記第1のラインスキャンの終点に対応する走査位置に測定光が照射された後、前記第2撮像領域での断層画像を取得する際、前記検出手段の検出結果に基づいて前記被検者眼に対する測定光の相対的な照射位置を少なくとも1回のラインスキャン単位で補正するための照射位置補正手段と、を備え、
前記第1撮像領域における断層画像と前記第2撮像領域における断層画像とに基づいて断層画像のパノラマが取得される、眼科撮影装置。」
の発明である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点)
第2撮像領域にて取得しようとする断層画像が、本件訂正発明1では、第1撮像領域における断層画像と端部同士が「横断方向において」連続するように異なる前記第2の撮像領域での断層画像である、すなわち、第1のラインスキャンの終点と第2のラインスキャンの始点とが連続するのに対し、甲1発明では、第1撮像領域における断層画像と端部同士が「垂直方向(y方向)において」連続するように異なる前記第2の撮像領域での断層画像である、すなわち、第1のラインスキャンの始点と第2のラインスキャンの始点とが連続する点。

ウ 当審の判断

(ア)新規性
上記(相違点)が両発明の間にある以上、本件訂正発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえない。

(イ)進歩性
上記相違点について

甲1発明は、「順次に算出される位置ズレ量に基づいて、次の走査点Rijの本来の位置から当該位置ズレ量だけ変位した位置に信号光LSを照射させるように、眼底Efに対する信号光LSの照射位置を補正する」ものであって、上記「位置ズレ量」算出のための「眼底Efの各静止画像を取得」する時点は、甲1発明の「Q=n(nは、一の走査線Ri上の走査点の個数)個の走査点を走査する度毎」以外に、甲1には、「Q≧1個の走査点を走査する度毎」も記載されていることから、甲1の記載を総合すると、甲1から、「複数の走査点Rijに順次に信号光LSを照射しつつ、Q≧1個の走査点を走査する度毎に、Q個のAスキャン像群に対応する眼底Efの各静止画像を取得し、取得した各静止画像における特徴部位の画像領域の位置の時間変化に基づいて、眼底表面方向(xy方向)における前記Q個のAスキャン像群単位での位置ズレ量を順次に算出し、
順次に算出される位置ズレ量に基づいて、次の走査点Rijの本来の位置から当該位置ズレ量だけ変位した位置に信号光LSを照射させるように、眼底Efに対する信号光LSの照射位置を補正する」という技術的事項についても把握できる。
そして、甲1には、「位置ズレ量」算出のための「眼底Efの各静止画像を取得」する時点が、「Q≧1個の走査点を走査する度毎」の具体的として、Q=3の場合が以下のように記載されている。
「【0165】
この推定処理の具体例について図9を参照しつつ説明する。この具体例ではQ=3とする。第1のAスキャン像群に対応する第1の走査点群U1には3つの走査点Ri1?Ri3が含まれ、第2のAスキャン像群に対応する第2の走査点群U2には3つの走査点Ri4?Ri6が含まれている。
【0166】
各走査点群U1、U2において、最初の走査点Ri1、Ri4が走査されているときに眼底Efの位置を検出するものとする。つまり、画像処理部230は、各走査点群U1、U2における最初の走査点Ri1、Ri4が走査されているときに撮影された静止画像(観察画像Kのフレーム)に基づいて、各走査点群U1、U2に対応する位置ズレ量を求める。」
ここで、上記記載からも理解できるように、甲1の上記技術的事項は、例えば、各走査点群U1の最初の走査点Ri1に信号光を既に照射した時点の眼底位置と、各走査点群U2の最初の走査点Ri4に信号光をこれから照射しようとする時点の眼底位置とから位置ズレ量を算出し、本来の各走査点群U2の最初の走査点Ri4の位置から前記位置ズレ量を加えた位置に、信号光を照射するものであって、本来の各走査点群U2の最初の走査点Ri4の位置から位置ズレ量を加えた位置に、信号光を照射する際、各走査点群U1の最後の走査点Ri3を既に照射した時点の眼底位置と、各走査点群U2の最初の走査点Ri4をこれから照射しようする時点の眼底位置とから位置ズレ量を算出するものでないことから、各走査点群U1の走査中、眼底位置が極端に動いた場合、各走査点群U1の最後の走査点Ri3の照射位置と、これから照射しようとする各走査点群U2の最初の走査点Ri4の照射位置との距離が極端に離れてしまうことになる。
してみると、上記甲1には、各走査点群U1の終点と、各走査点群U2の始点とが横断方向において連続するように、各走査点群U2の始点の照射位置を補正することが記載されているとはいえないことから、上記相違点に係る本件訂正発明1の発明特定事項について記載されているとはいえない。
また、甲2及び特許異議申立人が証拠として提出している甲3:特開2008-29467号公報のいずれの文献にも、上記相違点に係る本件訂正発明1の発明特定事項について記載も示唆もされていない。
よって、甲1発明において、上記相違点に係る本件訂正発明1の発明特定事項のように構成することは、当業者が容易に想到し得たことではない。

エ 本件訂正発明1のまとめ
以上のとおり、本件訂正発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものとはいえない。
また、本件訂正発明1は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。

(5)本件訂正発明2について

ア 対比
本件訂正発明2と甲1発明とを対比する。

(ア)光コヒーレンストモグラフィーデバイス
上記「(4)ア(ア)」での対比を踏まえると、甲1発明の「二つのガルバノミラー43、44」と「OCTユニット100」とを併せたものが、本件訂正発明2の「被検者眼上の撮像位置を変更するため、光源から発せられた測定光の被検者眼上での照射位置を変更する照射位置変更手段を有し、被検者眼から反射された測定光と,参照光との干渉状態を検出器により検出して眼の断層画像を撮像する光コヒーレンストモグラフィーデバイス」に相当するといえる。

(イ)検出手段
a 上記「(4)ア(イ)a」での対比を踏まえると、甲1発明の「複数の走査点Rijに順次に信号光LSを照射」させる「Q=n(nは、一の走査線Ri上の走査点の個数)個の走査点」は、「一の走査線Ri」であるから、本件訂正発明2の「始点から終点まで測定光を走査させるラインスキャン」に相当するといえる。

b 上記「(4)ア(イ)b」での対比を踏まえると、甲1発明の、最初に取得される「断層像」、及び、垂直方向(y方向)において次に取得される「断層像」と、本件訂正発明2の「第1撮像領域における3次元断層画像」、及び、「前記第1撮像領域とは異なる第2撮像領域での3次元断層画像」とは、「第1撮像領域における断層画像」、及び、「前記第1撮像領域とは異なる第2撮像領域での断層画像」である点で共通する。

c 上記「(4)ア(イ)d」での対比を踏まえると、甲1発明の「断層像単位で位置ズレ量を順次に算出」する「演算制御ユニット200」と、本件訂正発明2の「前記第1撮像領域にて既に取得された3次元断層画像と,前記第2撮像領域にて取得しようとする3次元断層画像と,の間の連続性に関するずれを」、「検出する検出手段」とは、「前記第1撮像領域にて既に取得された断層画像と,前記第2撮像領域にて取得しようとする断層画像と,の間の連続性に関するずれを」、「検出する検出手段」である点で共通するといえる。

d 上記「(4)ア(イ)e」での対比を踏まえると、甲1発明の「Q=n(nは、一の走査線Ri上の走査点の個数)個の走査点を走査する度毎に、Q個のAスキャン像群からなる断層像に対応する眼底Efの各静止画像を取得し、取得した各静止画像における特徴部位の画像領域の位置の時間変化」を求めることと、本件訂正発明2の「前記第2撮像領域での3次元断層画像を取得するときに取得される概略画像と先に取得された概略画像との重複部分を利用して位置ずれを検出すること」とは、「前記第2撮像領域での断層画像を取得するときに取得される概略画像と先に取得された概略画像との重複部分を利用して位置ずれを検出すること」である点で共通する。

e 上記a?dを踏まえると、甲1発明の「複数の走査点Rijに順次に信号光LSを照射しつつ、Q=n(nは、一の走査線Ri上の走査点の個数)個の走査点を走査する度毎に、Q個のAスキャン像群からなる断層像に対応する眼底Efの各静止画像を取得し、取得した各静止画像における特徴部位の画像領域の位置の時間変化に基づいて、眼底表面方向(xy方向)における前記断層像単位での位置ズレ量を順次に算出」する「演算制御ユニット200」と、本件訂正発明2の「始点から終点まで測定光を走査させるラインスキャンを複数回行うことによって取得される第1撮像領域における3次元断層画像の取得後であって、前記第1撮像領域におけるラインスキャンとは別の複数回のラインスキャンを行うことによって前記第1撮像領域とは異なる第2撮像領域での3次元断層画像を取得する際、前記第2撮像領域での3次元断層画像を取得するときに取得される概略画像と先に取得された概略画像との重複部分を利用して位置ずれを検出することによって、前記第1撮像領域にて既に取得された3次元断層画像と,前記第2撮像領域にて取得しようとする3次元断層画像と,の間の連続性に関するずれを、前記被検者眼の概略画像から検出する検出手段」とは、「始点から終点まで測定光を走査させるラインスキャンを行うことによって取得される第1撮像領域における断層画像の取得後であって、前記第1撮像領域におけるラインスキャンとは別のラインスキャンを行うことによって前記第1撮像領域とは異なる第2撮像領域での断層画像を取得する際、前記第2撮像領域での断層画像を取得するときに取得される概略画像と先に取得された概略画像との重複部分を利用して位置ずれを検出することによって、前記第1撮像領域にて既に取得された断層画像と,前記第2撮像領域にて取得しようとする断層画像と,の間の連続性に関するずれを、前記被検者眼の概略画像から検出する検出手段」である点で共通するといえる。

(ウ)照射位置補正手段
上記「(4)ア(ウ)」での対比を踏まえると、甲1発明の「順次に算出される位置ズレ量に基づいて、次の走査点Rijの本来の位置から当該位置ズレ量だけ変位した位置に信号光LSを照射させるように、眼底Efに対する信号光LSの照射位置を補正する」「演算制御ユニット200」と、本件訂正発明2の「前記第1撮像領域における3次元断層画像の取得後であって、前記第2撮像領域での3次元断層画像を取得する際、前記検出手段の検出結果に基づいて眼底に対する測定光の相対的な照射位置を複数回のラインスキャン単位或いは複数回のラインスキャンを構成する各ラインスキャン単位で補正するための照射位置補正手段」とは、「前記第1撮像領域における断層画像の取得後であって、前記第2撮像領域での断層画像を取得する際、前記検出手段の検出結果に基づいて眼底に対する測定光の相対的な照射位置を補正するための照射位置補正手段」である点で共通する。

(エ)眼科撮影装置
甲1発明の「眼底観察装置1」は、本件訂正発明2の「眼科撮影装置」に相当する。

イ 一致点及び相違点
よって、本件訂正発明2と甲1発明とは、

「被検者眼上の撮像位置を変更するため、光源から発せられた測定光の被検者眼上での照射位置を変更する照射位置変更手段を有し、被検者眼から反射された測定光と,参照光との干渉状態を検出器により検出して眼の断層画像を撮像する光コヒーレンストモグラフィーデバイスと、
始点から終点まで測定光を走査させるラインスキャンを行うことによって取得される第1撮像領域における断層画像の取得後であって、前記第1撮像領域におけるラインスキャンとは別のラインスキャンを行うことによって前記第1撮像領域とは異なる第2撮像領域での断層画像を取得する際、前記第2撮像領域での断層画像を取得するときに取得される概略画像と先に取得された概略画像との重複部分を利用して位置ずれを検出することによって、前記第1撮像領域にて既に取得された断層画像と,前記第2撮像領域にて取得しようとする断層画像と,の間の連続性に関するずれを、前記被検者眼の概略画像から検出する検出手段と、
前記第1撮像領域における断層画像の取得後であって、前記第2撮像領域での断層画像を取得する際、前記検出手段の検出結果に基づいて眼底に対する測定光の相対的な照射位置を補正するための照射位置補正手段と、
を備える、眼科撮影装置。」
の発明である点で一致し、次の2点で相違する。

(相違点1)
検出手段が、本件訂正発明2では、「ラインスキャンを複数回行うことによって取得される第1撮像領域における3次元断層画像の取得後であって、前記第1撮像領域におけるラインスキャンとは別の複数回のラインスキャンを行うことによって前記第1撮像領域とは異なる第2撮像領域での3次元断層画像を取得する際、前記第2撮像領域での3次元断層画像を取得するときに取得される概略画像と先に取得された概略画像との重複部分を利用して位置ずれを検出することによって、前記第1撮像領域にて既に取得された3次元断層画像と,前記第2撮像領域にて取得しようとする3次元断層画像と,の間の連続性に関するずれを、前記被検者眼の概略画像から検出する」もの、すなわち第1撮像領域にて既に取得された3次元断層画像と,第2撮像領域にて取得しようとする3次元断層画像と,の間の連続性に関するずれを検出するものであるのに対し、甲1発明では、「複数の走査点Rijに順次に信号光LSを照射しつつ、Q=n(nは、一の走査線Ri上の走査点の個数)個の走査点を走査する度毎に、Q個のAスキャン像群からなる断層像に対応する眼底Efの各静止画像を取得し、取得した各静止画像における特徴部位の画像領域の位置の時間変化に基づいて、眼底表面方向(xy方向)における前記断層像単位での位置ズレ量を順次に算出」するもの、すなわち第1撮像領域にて既に取得された2次元断層画像と,第2撮像領域にて取得しようとする2次元断層画像と,の間の連続性に関するずれを検出するものである点。

(相違点2)
照射位置補正手段が、本件訂正発明2では、「前記第1撮像領域における3次元断層画像の取得後であって、前記第2撮像領域での3次元断層画像を取得する際、前記検出手段の検出結果に基づいて眼底に対する測定光の相対的な照射位置を複数回のラインスキャン単位或いは複数回のラインスキャンを構成する各ラインスキャン単位で補正するための」もの、すなわち第2撮像領域での3次元断層画像を取得する際の照射位置の補正を、複数回のラインスキャン単位或いは複数回のラインスキャンを構成する各ラインスキャン単位で行うものであるのに対し、甲1発明では、「順次に算出される位置ズレ量に基づいて、次の走査点Rijの本来の位置から当該位置ズレ量だけ変位した位置に信号光LSを照射させるように、眼底Efに対する信号光LSの照射位置を補正する」もの、すなわち第2撮像領域での2次元断層画像を取得する際の照射位置の補正を、1回のラインスキャン単位(Q=n)で行うものである点。

ウ 当審の判断

(ア)新規性
上記(相違点1)及び(相違点2)が両発明の間にある以上、本件訂正発明2は、甲1に記載された発明であるとはいえない。

(イ)進歩性
上記相違点1及び2は、技術的に密接に連関する事項であることから、併せて判断することとする。

甲1発明は、検出手段により、第1撮像領域にて既に取得された2次元断層画像と,第2撮像領域にて取得しようとする2次元断層画像と,の間の連続性に関するずれを検出し、この検出結果に基づいて、照射位置補正手段により、第2撮像領域での2次元断層画像を取得する際の照射位置の補正を、1回のラインスキャン単位(Q=n)で行うものであり、甲1には、甲1全体の記載をみても、第1撮像領域にて既に取得された3次元断層画像と,第2撮像領域にて取得しようとする3次元断層画像と,の間の連続性に関するずれを検出し、この検出結果に基づいて、第2撮像領域での3次元断層画像を取得する際の照射位置の補正を、複数回のラインスキャン単位或いは複数回のラインスキャンを構成する各ラインスキャン単位で行うものについて記載も示唆もされていない。
また、甲2及び特許異議申立人が証拠として提出している甲3:特開2008-29467号公報のいずれの文献にも、上記相違点1及び相違点2に係る本件訂正発明2の発明特定事項について記載も示唆もされていない。
よって、甲1発明において、上記相違点1及び相違点2に係る本件訂正発明2の発明特定事項のように構成することは、当業者が容易に想到し得たことではない。

エ 本件訂正発明2のまとめ
以上のとおり、本件訂正発明2は、甲1に記載された発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものとはいえない。
また、本件訂正発明2は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。

(6)本件訂正発明3?5について
本件訂正発明3?5は、本件訂正発明1又は本件訂正発明2の構成を全て含むものであるから、本件訂正発明3?5も、上記(4)又は(5)と同様の理由により、新規性及び進歩性を有するものである。

4 サポート要件についての判断

(1)上記「1-1」の取消理由3が解消しているか検討する。
本件特許明細書の段落【0006】には、「位置ずれが生じた状態で取得された周辺部の断層像は、撮像位置が異なるため、中心部の断層像とのスムーズな繋ぎ合わせが困難となる」と記載され、当該記載から、第1撮像領域の断層画像(中心部の断層像)と第2撮像領域の断層画像(周辺部の断層像)との間の連続性が位置ずれによって確保できないという問題点を把握することができる。
そして、本件訂正発明1?3及び5は、上記問題点を解決するための手段が反映されていないとはいえないので、上記「1-1」の取消理由3が解消されたといえる。

(2)上記「1-3」の取消理由2が解消しているか検討する。
本件訂正により、本件訂正発明1では、「第1撮像領域における断層画像と端部同士が横断方向において連続するように異なる前記第2の撮像領域での断層画像を取得すること」が特定されたので、本件訂正発明1及び3?5は、上記「1-3」の取消理由2が解消されたといえる。

5 明確性要件についての判断
上記「1-1」の取消理由4が解消しているか検討する。
本件訂正により、本件訂正発明4では、「変化を考慮して」という記載が削除され、「前記検出手段は、第1撮像領域での視標位置と第2撮像領域での視標位置との間における前記固視標投影ユニットによる被検者眼の視線方向の変化量に基づいて前記重複部分を移動させて又は前記変化量に対応するオフセットをかけて前記連続性に関するずれを、前記被検者眼の概略画像から検出する」という表現に訂正された結果、「被検者眼の視線方向の変化」がどのように考慮されるのかが明確になった。
よって、本件訂正発明4では、上記「1-1」の取消理由4が解消されたといえる。

6 特許異議申立人の意見について

(1)特許異議申立人は平成28年7月7日付け意見書(第11頁第20行?第12頁第6行)において、訂正により追加された本件訂正発明1及び2における「先に取得された概略画像」の記載では、過去のあらゆる時刻において得られた概略画像を含むことになり、第1撮像領域の断層画像(または3次元断層画像)の取得との関係が不明であるから、そのような概略画像と第2撮像領域を撮影する際の概略画像とからでは、第1撮像領域の断層画像と第2撮像領域の断層画像との連続性に関するずれを求めることはできない旨、主張している。
しかしながら、第1撮像領域での断層画像を取得するときに取得された概略画像は、1以上の「先に取得された概略画像」に基づいて直接又は間接的に求められることが理解できる。
よって、「先に取得された概略画像」と「第2撮像領域を撮影する際の概略画像」から、第1撮像領域の断層画像と第2撮像領域の断層画像との連続性に関するずれを求めることができないとはいえず、上記主張は、採用することができない。

(2)特許異議申立人は平成28年7月7日付け意見書(第12頁第7行?末行)において、訂正により追加された本件訂正発明2では、「複数回のラインスキャンを構成する各ラインスキャン単位で補正する」ことも記載されており、複数回のラインスキャンごとに検出される位置ズレをどのように各ラインスキャン単位で補正するのか不明である旨、主張している。
しかしながら、本件訂正発明2は、「第2撮像領域での3次元断層画像を取得する」ための1回以上のラインスキャン単位ごとに取得される各「概略画像」と、第1撮像領域での3次元断層画像を取得するための1回以上のラインスキャン単位ごとに取得される各「概略画像」とから、「前記第1撮像領域にて既に取得された3次元断層画像と,前記第2撮像領域にて取得しようとする3次元断層画像と,の間の連続性に関するずれを」「検出する」する態様を含むものと理解でき、このような理解に立つと、検出結果に基づく照射位置は、「複数回のラインスキャン単位或いは複数回のラインスキャンを構成する各ラインスキャン単位で補正する」ことになることは、技術的に明らかであり、上記主張は、採用することができない。

(3)特許異議申立人は平成29年1月12日付け意見書(第13頁第22行?第16頁第4行)において、訂正により追加された本件訂正発明1の「始点から終点まで測定光を走査させる第1のラインスキャンを少なくとも1回行うことによって取得される第1撮像領域における断層画像の取得後であって、前記第1のラインスキャンの終点に対応する走査位置に測定光が照射された後、前記第1のラインスキャンとは別の少なくとも1回の第2のラインスキャンを行うことによって前記第1撮像領域とは異なる第2撮像領域での断層画像であって前記第1撮像領域における断層画像と端部同士が(横断方向において)連続するように異なる前記第2の撮像領域での断層画像を取得する際」における「少なくとも」1回という訂正事項は、本件特許明細書によりサポートされていない旨、主張している。
しかしながら、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、段落【0068】及び図8に、2次元断層画像の端部同士における横断方向の連続性のずれについて記載されていることに加えて、上記(2)で説示したとおり、3次元断層画像同士の連続性のずれを、「複数回のラインスキャンを構成する各ラインスキャン単位で補正する」ことが記載されているといえることから、3次元断層画像の端部同士における横断方向の連続性のずれを、複数回のラインスキャンを構成する各ラインスキャン単位で補正することは、発明の詳細な説明に記載されているに等しい事項であるといえる。
よって、本件訂正発明1の上記訂正事項は、本件特許明細書によりサポートされていないとまではいえないので、上記主張は、採用することができない。

(4)特許異議申立人は平成29年7月3日付け意見書(第6頁第6行?第7頁第22行)において、訂正により追加された本件訂正発明2の記載では、「概略画像」がどの領域の概略画像か不明確であるため、本件訂正発明2における2つの「概略画像」は三次元断層像の撮影領域が異なるにも関わらず全く同じ領域の概略画像をも含む表現となっているから、本件訂正発明2の訂正事項は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された範囲を超えている旨、主張している。
しかしながら、本件訂正発明2における「概略画像」は、2つの「概略画像」の「重複部分を利用して位置ずれを検出する」できる領域であればよいことが理解でき、このことは本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されていることから、上記主張は、採用することができない。

第5 取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由について
異議申立人は、特許異議申立書の申立て理由2(第19頁第24行?第30頁第19行)として、請求項1?5に係る発明は、甲3(特開2008-29467号公報)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると主張しているが、上記「第3」で検討したとおり、本件訂正発明1の相違点、又は本件訂正発明2の相違点1及び2は、特許異議申立人が証拠として提出した甲1?3のいずれにも記載も示唆もされていないことから、甲3に記載された発明を出発点にしても、上記相違点に係る本件訂正発明1の発明特定事項、又は、上記相違点1及び2に係る本件訂正発明2の発明特定事項のように構成することは、当業者が容易に想到し得たことではない。
よって、本件訂正発明1?5は、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
眼科撮影装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、光コヒーレンストモグラフィーによって眼の断層像を撮影する眼科撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光コヒーレンストモグラフィー(OCT:Optical Coherence Tomography)を備える眼科撮影装置は、眼の断層画像(例えば、眼底の断層像)を取得できる。そして、得られた断層画像は、眼の状態の評価に利用される(特許文献1参照)。
【0003】
また、眼底カメラは、眼底のパノラマ画像を得るため、固視標を移動させることによって眼を誘導し、異なる視標位置での正面像を順次撮影する。そして、得られた複数の正面像が繋ぎ合わされ、パノラマ画像が作成される(特許文献2参照)。
【0004】
また、特許文献3の光コヒーレンストモグラフィーは、三次元断層像のパノラマ画像を得るため、固視標を移動させることによって眼を誘導し、異なる視標位置での三次元断層像を順次撮影する。そして、得られた複数の3次元断層像が繋ぎ合わされ、パノラマ画像が作成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】 特開2008-29467号公報
【特許文献2】 特開平9-173298号公報
【特許文献3】 特開2009-183332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、光コヒーレンストモグラフィーを用いて周辺部の断層像を得る場合、中心部の撮影と比較すると、眼のぶれが生じやすく、撮影が困難である。そして、位置ずれが生じた状態で取得された周辺部の断層像は、撮像位置が異なるため、中心部の断層像とのスムーズな繋ぎ合わせが困難となる。
【0007】
本発明は、上記問題点を鑑み、パノラマ断層画像を好適に撮影可能な眼科撮影装置を提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は以下のような構成を備える。
【0009】
(1)
被検者眼上の撮像位置を変更するため、光源から発せられた測定光の被検者眼上での照射位置を変更する照射位置変更手段を有し、被検者眼から反射された測定光と,参照光との干渉状態を検出器により検出して眼の断層画像を撮像する光コヒーレンストモグラフィーデバイスと、
始点から終点まで測定光を走査させる第1のラインスキャンを少なくとも1回行うことによって取得される第1撮像領域における断層画像の取得後であって、前記第1のラインスキャンの終点に対応する走査位置に測定光が照射された後、前記第1のラインスキャンとは別の少なくとも1回の第2のラインスキャンを行うことによって前記第1撮像領域とは異なる第2撮像領域での断層画像であって前記第1撮像領域における断層画像と端部同士が横断方向において連続するように異なる前記第2の撮像領域での断層画像を取得する際、前記第2撮像領域での断層画像を取得するときに取得される概略画像と先に取得された概略画像との重複部分を利用して位置ずれを検出することによって、前記第1撮像領域にて既に取得された断層画像と,前記第2撮像領域にて取得しようとする断層画像と,の間の連続性に関するずれを、前記被検者眼の概略画像から検出する検出手段と、
前記第1撮像領域における断層画像の取得後であって、前記第1のラインスキャンの終点に対応する走査位置に測定光が照射された後、前記第2撮像領域での断層画像を取得する際、前記検出手段の検出結果に基づいて前記被検者眼に対する測定光の相対的な照射位置を少なくとも1回のラインスキャン単位で補正するための照射位置補正手段と、を備え、
前記第1撮像領域における断層画像と前記第2撮像領域における断層画像とに基づいて断層画像のパノラマが取得されることを特徴とする眼科撮影装置。
(2)
被検者眼上の撮像位置を変更するため、光源から発せられた測定光の被検者眼上での照射位置を変更する照射位置変更手段を有し、被検者眼から反射された測定光と,参照光との干渉状態を検出器により検出して眼の断層画像を撮像する光コヒーレンストモグラフィーデバイスと、
始点から終点まで測定光を走査させるラインスキャンを複数回行うことによって取得される第1撮像領域における3次元断層画像の取得後であって、前記第1撮像領域におけるラインスキャンとは別の複数回のラインスキャンを行うことによって前記第1撮像領域とは異なる第2撮像領域での3次元断層画像を取得する際、前記第2撮像領域での3次元断層画像を取得するときに取得される概略画像と先に取得された概略画像との重複部分を利用して位置ずれを検出することによって、前記第1撮像領域にて既に取得された3次元断層画像と,前記第2撮像領域にて取得しようとする3次元断層画像と,の間の連続性に関するずれを、前記被検者眼の概略画像から検出する検出手段と、
前記第1撮像領域における3次元断層画像の取得後であって、前記第2撮像領域での3次元断層画像を取得する際、前記検出手段の検出結果に基づいて眼底に対する測定光の相対的な照射位置を複数回のラインスキャン単位或いは複数回のラインスキャンを構成する各ラインスキャン単位で補正するための照射位置補正手段と、
を備えることを特徴とする眼科撮影装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、パノラマ断層画像を好適に撮影できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る実施形態を図面に基づいて説明する。図1は本実施形態に係る眼科撮影装置の構成について説明する概略構成図である。なお、本実施形態においては、被検者眼(眼E)の軸方向をZ方向、水平方向をX方向、鉛直方向をY方向として説明する。眼底の表面方向をXY方向として考えても良い。
【0012】
装置構成の概略を説明する。本装置は、被検者眼Eの眼底Efの断層像を撮影するための光コヒーレンストモグラフィーデバイス(OCTデバイス)10である。OCTデバイス10は、干渉光学系(OCT光学系)100と、正面観察光学系200と、固視標投影ユニット300と、演算制御部(CPU)70と、を含む。
【0013】
OCT光学系100は、眼底に測定光を照射する。OCT光学系100は、眼底から反射された測定光と,参照光との干渉状態を受光素子(検出器120)によって検出する。OCT光学系100は、眼底Ef上の撮像位置を変更するため、眼底Ef上における測定光の照射位置を変更する照射位置変更ユニット(例えば、光スキャナ108、固視標投影ユニット300)を備える。制御部70は、設定された撮像位置情報に基づいて照射位置変更ユニットの動作を制御し、検出器120からの受光信号に基づいて断層画像を取得する。
【0014】
<OCT光学系>
OCT光学系100は、いわゆる眼科用光断層干渉計(OCT:Optical coherence tomography)の装置構成を持つ。OCT光学系100は、光源102から出射された光をカップラー104によって測定光と参照光に分割する。そして、OCT光学系100は、測定光学系106によって測定光を眼Eの眼底Efに導き,また、参照光を参照光学系110に導く。その後、眼底Efによって反射された測定光と,参照光との合成による干渉光を検出器(受光素子)120に受光させる。
【0015】
検出器120は、測定光と参照光との干渉状態を検出する。フーリエドメインOCTの場合では、干渉光のスペクトル強度が検出器120によって検出され、スペクトル強度データに対するフーリエ変換によって所定範囲における深さプロファイルが取得される。例えば、Spectral-domain OCT(SD-OCT)、Swept-source OCT(SS-OCT)が挙げられる。また、Time-domain OCT(TD-OCT)であってもよい。
【0016】
SD-OCTの場合、光源102として低コヒーレント光源(広帯域光源)が用いられ、検出器120には、干渉光を各周波数成分(各波長成分)に分光する分光光学系(スペクトルメータ)が設けられる。スペクトルメータは、例えば、回折格子とラインセンサからなる。
【0017】
SS-OCTの場合、光源102として出射波長を時間的に高速で変化させる波長走査型光源(波長可変光源)が用いられ、検出器120として、例えば、単一の受光素子が設けられる。光源102は、例えば、光源、ファイバーリング共振器、及び波長選択フィルタによって構成される。そして、波長選択フィルタとして、例えば、回折格子とポリゴンミラーの組み合わせ、ファブリー・ペローエタロンを用いたものが挙げられる。
【0018】
光源102から出射された光は、カップラー104によって測定光束と参照光束に分割される。そして、測定光束は、光ファイバーを通過した後、空気中へ出射される。その光束は、光スキャナ108、及び測定光学系106の他の光学部材を介して眼底Efに集光される。そして、眼底Efで反射された光は、同様の光路を経て光ファイバーに戻される。
【0019】
光スキャナ108は、眼底上でXY方向(横断方向)に測定光を走査させる。光スキャナ108は、瞳孔と略共役な位置に配置される。光スキャナ108は、例えば、2つのガルバノミラーであり、その反射角度が駆動機構50によって任意に調整される。
【0020】
これにより、光源102から出射された光束はその反射(進行)方向が変化され、眼底上で任意の方向に走査される。これにより、眼底Ef上における撮像位置が変更される。光スキャナ108としては、反射ミラー(ガルバノミラー、ポリゴンミラー、レゾナントスキャナ)の他、光の進行(偏向)方向を変化させる音響光学素子(AOM)等が用いられる。
【0021】
参照光学系110は、眼底Efでの測定光の反射によって取得される反射光と合成される参照光を生成する。参照光学系110は、マイケルソンタイプであってもよいし、マッハツェンダタイプであっても良い。参照光学系110は、例えば、反射光学系(例えば、参照ミラー)によって形成され、カップラー104からの光を反射光学系により反射することにより再度カップラー104に戻し、検出器120に導く。他の例としては、参照光学系110は、透過光学系(例えば、光ファイバー)によって形成され、カップラー104からの光を戻さず透過させることにより検出器120へと導く。
【0022】
参照光学系110は、参照光路中の光学部材を移動させることにより、測定光と参照光との光路長差を変更する構成を有する。例えば、参照ミラーが光軸方向に移動される。光路長差を変更するための構成は、測定光学系106の測定光路中に配置されてもよい。
【0023】
<正面観察光学系>
正面観察光学系200は、眼底Efの正面画像を得るために設けられている。観察光学系200は、例えば、光源から発せられた測定光(例えば、赤外光)を眼底上で二次元的に走査させる光スキャナと、眼底と略共役位置に配置された共焦点開口を介して眼底反射光を受光する第2の受光素子と、を備え、いわゆる眼科用走査型レーザ検眼鏡(SLO)の装置構成を持つ。
【0024】
なお、観察光学系200の構成としては、いわゆる眼底カメラタイプの構成であってもよい。また、OCT光学系100は、観察光学系200を兼用してもよい。すなわち、正面画像は、二次元的に得られた断層画像を形成するデータを用いて取得されるようにしてもよい(例えば、3次元断層画像の深さ方向への積算画像、XY各位置でのスペクトルデータの積算値等)。
【0025】
<固視標投影ユニット>
固視標投影ユニット300は、眼Eの視線方向を誘導するための光学系を有する。投影ユニット300は、眼Eに呈示する固視標を有し、複数の方向に眼Eを誘導できる。
【0026】
例えば、固視標投影ユニット300は、可視光を発する可視光源を有し、視標の呈示位置を二次元的に変更させる。これにより、視線方向が変更され、結果的に撮像部位が変更される。例えば、撮影光軸と同方向から固視標が呈示されると、眼底の中心部が撮像部位として設定される。また、撮影光軸に対して固視標が上方に呈示されると、眼底の上部が撮像部位として設定される。すなわち、撮影光軸に対する視標の位置に応じて撮影部位が変更される。
【0027】
固視標投影ユニット300としては、例えば、マトリクス状に配列されたLEDの点灯位置により固視位置を調整する構成、光源からの光を光スキャナを用いて走査させ、光源の点灯制御により固視位置を調整する構成、等、種々の構成が考えられる。また、投影ユニット300は、内部固視灯タイプであってもよいし、外部固視灯タイプであってもよい。
【0028】
<制御部>
制御部70は、各構成100?300の各部材など、装置全体を制御する。また、制御部70は、取得された画像を処理する画像処理部、取得された画像を解析する画像解析部、などを兼用する。制御部70は、一般的なCPU(Central Processing Unit)等で実現される。
【0029】
図2(a)は正面観察光学系200によって得られる正面画像の例であり、図2(b)はOCT光学系100によって得られる断層画像の例である。例えば、制御部70は、OCT光学系100の検出器120から出力される受光信号に基づいて画像処理により断層画像(OCT画像)を取得すると共に、正面観察光学系200の受光素子から出力される受光信号に基づいて正面画像を取得する。また、制御部70は、固視標投影ユニット300を制御して固視位置を変更する。
【0030】
メモリ(記憶部)72、モニタ75、マウス(操作入力部)76は、それぞれ制御部70と電気的に接続されている。制御部70は、モニタ75の表示画面を制御する。取得された眼底像は、モニタ75に静止画又は動画として出力される他、メモリ72に記憶される。メモリ72は、例えば、撮影された断層画像、正面画像、各断層画像の撮影位置情報等の撮影に係る各種情報を記録する。制御部70は、マウス76から出力される操作信号に基づいて、OCT光学系100、正面観察光学系200、固視標投影ユニット300の各部材を制御する。なお、上記OCTデバイス10の詳しい構成については、例えば、特開2008-29467号公報を参考にされたい。
【0031】
<動作説明>
図3(a)は3次元断層像のパノラマを得るために設定される撮像領域の例を示す図であり、図3(b)は、図3(a)の各撮像領域と,眼底との関係を示す図である。図4は、図3(a)の各撮像領域について立体的に説明するための図である。図5は、各撮像領域における重複領域を示す図である。
【0032】
本実施形態において、制御部70は、複数の3次元断層像から構成されるパノラマ断層像を得るため、眼底Ef上に複数の撮像領域(例えば、9つの撮像領域S1?S9)を設定する。各撮像領域は、眼底Ef上の断層取得位置に関して異なる。隣接する2つの撮像領域は、撮像領域の一部が互いに重複する(図3、図4に示された破線により構成される小帯部分参照)。これらの撮像領域は、任意で設定されても良いし、予め設定されていてもよい。
【0033】
制御部70は、投影ユニット300を制御し、各撮像領域に対応する位置に視標を呈示する。そして、制御部70は、各撮像領域にて取得された断層画像のパノラマを得る。
【0034】
撮像領域を変更するとき、制御部70は、例えば、予め設定された順序にて視標位置を順次変更する。また、撮像領域は、マウス76からの操作信号に基づいて任意に変更されてもよい。
【0035】
ある位置にて視標が呈示されると、制御部70は、OCT光学系100を制御し、設定された各領域に対応する3次元断層像を取得すると共に、観察光学系200を制御し、正面像を取得する。
【0036】
三次元断層像を得るとき、制御部70は、光スキャナ108の動作を制御し、撮像領域に対応する走査範囲において測定光をXY方向に二次元的に走査させることにより3次元断層像を取得する。なお、走査パターンとして、例えば、ラスタースキャン、複数のラインスキャンが考えられる。
【0037】
取得された断層像及び正面像は、モニタ75上に観察像として動画にて表示される。また、取得された断層像及び正面像は、撮像領域と対応付けされ、静止画としてメモリ72に記憶される。正面像の取得は、断層画像の取得と同時であってもよいし、断層画像の取得の前後であってもよい。
【0038】
<先に取得された画像を用いたOCTトラッキング>
制御部70は、第1撮像領域にて既に取得された断層画像と,第1撮像領域とは異なる第2撮像領域にて取得しようとする断層画像と,の間の連続性に関するずれを検出する。そして、制御部70は、その検出結果に基づいて、眼底に対する測定光の相対的な照射位置を補正する。
【0039】
例えば、制御部70は、第1撮像領域での視標位置と第2撮像領域での視標位置との間における視線方向の変化を考慮して、連続性に関するずれを検出する。ずれを検出するため、制御部70は、断層撮像位置を含む眼の正面像を取得する。
【0040】
そして、制御部70は、第1撮像領域に対応する第1正面像を基準画像とし、第2撮像領域にて取得された第2正面像に対して、第1正面像像と第2正面像との重複部分を利用したマッチングを行う。そして、制御部70は、そのマッチング結果に基づいて連続性に関するずれを検出する。ここで、制御部70は、第1正面像と第2正面像との間の眼底の表面方向(XY方向)に関するずれを検出する。
【0041】
以下に、連続性に関するずれを検出する場合の一例を示す。例えば、先の撮像領域にて既に取得された正面像は、後の撮像領域にて3次元断層像を得るときのトラッキングに利用される。例えば、制御部70は、先の撮像領域において既に取得された正面像に対し,眼Eの視線移動に応じた補正処理を行う。そして、制御部70は、これを基準画像として設定し、後の撮像領域おいて取得される正面像との相対位置を検出する。そして、制御部70は、眼の移動があっても眼底Efの所望された領域を測定できるように、検出結果に基づいてOCT走査位置を補正する。
【0042】
以下に、隣接する2つの撮像領域(例えば、撮像領域S3と撮像領域S6)に関して断層画像を順次取得する場合について説明する。以下の説明では、撮像領域S6は第1の撮像領域、撮像領域S3は第2の撮像領域として説明する。第1の三次元断層像及び第1正面像は、第1の撮像領域S6に対応する固視位置にて取得された三次元断層像・正面像を指し、第2の三次元断層像及び第2正面像は、第2の撮像領域S3に対応する固視位置にて取得された三次元断層像・正面像を指す。
【0043】
第1に、制御部70は、第1の撮像領域S6に対応する視標を呈示し、第1の三次元断層像と、これに対応する第1正面像を取得する。次に、制御部70は、第2の三次元断層像を得るため、視標の呈示位置を第2の撮像領域S3に対応する位置に切り換える。
【0044】
図6(a)は第1の正面像の例、図6(b)は第2正面像の例である。第1の正面像と第2正面像との間の相対位置の検出において、第1正面像と第2正面像は撮像領域に関して異なっていること、眼Eの視線方向が変化していることを考慮する必要がある。
【0045】
例えば、トラッキングの基準画像を得るため、制御部70は、第1の正面像において第2の正面像と撮像領域が重複する部分(重複部分T1)を抽出する(図6(a)参照)。ここで、眼Eが振られる角度は、既知であるから、各正面像における重複部分の座標位置は予めシミュレーション・実験等によって求められる。なお、重複部分T1を除く他の部分は、トリミングされる。
【0046】
一方、第2の正面像において第1の正面像と撮像領域が重複する部分(重複部分T2)は、第1の撮像領域と隣接している側に現れる(図6(b)参照)。別の言い方をすれば、重複部分T1と重複部分T2は、撮像領域の中心に関して対称な位置に現れる。なお、もし眼が動かない場合、重複部分T1と重複部分T2の相対位置は、投影ユニット300によって誘導される眼Eの視線方向の変化量に対応する。
【0047】
そこで、制御部70は、視線方向の変化量に基づいて,重複部分T1に相当する画像を画像処理により仮想的に移動させる(図7(a)は重複部分T1が移動された後の第1の正面像である)。そして、制御部70は、重複部分T1が移動された後の画像を,トラッキングの基準画像としてメモリ72に記憶する。このとき、重複部分T1に相当する画像は、正面像の画像領域において上端から下端に移動される。
【0048】
視標位置が変更されると、制御部70は、メモリ72に記憶された第1の正面像を基準画像に用いたトラッキングを開始する。制御部70は、観察光学系200を用いて第2の正面像を随時取得する。そして、制御部70は、前述の基準画像を用いて第2の正面像に対しテンプレートマッチング(基準画像と計測画像との間の相互相関解析による評価)を行い、第2の正面像における基準画像の座標位置を検出する。
【0049】
位置ずれが無い場合、基準画像は第1の正面像と同位置にて検出される(図6(b)参照)。一方、位置ずれがある場合、基準画像は、ずれ方向及びずれ量に従って,同位置からずれた状態で検出される(図7(b)参照)。そして、制御部70は、検出された座標位置に基づいて走査位置のずれを検出する。
【0050】
例えば、制御部70は、第2の正面像において基準画像を水平/垂直/回転移動させ、相関値が最大となる箇所を検出する。そして、制御部70は、基準画像に関して、相関値が最大となる箇所を中心座標位置として得る。その後、制御部70は、基準画像と第2の正面像との間で、中心座標位置の移動情報(例えば、移動方向、移動量)を算出し、位置ずれ情報ΔPとして得る。
【0051】
<次の走査位置の設定>
制御部70は、OCT光学系100を制御し、トリガ信号に基づいて第2の三次元断層像を取得する。制御部70は、位置ずれ検出信号(位置ずれ情報ΔP)に基づいて測定光の走査位置を補正する。XY方向に関して二次元走査を行う場合、制御部70は、各ラインスキャンにおける走査位置を補正するのが好ましい。例えば、制御部70は、予め設定された走査の始点と終点のそれぞれに対し、位置ずれ情報ΔPを加え、補正位置として設定する。もちろん、走査位置は、複数のラインスキャン単位で補正されてもよいし、走査範囲全体として補正されてもよい。
【0052】
以上のようにして第2の撮像領域S3における3次元断層像が取得されると、制御部70は、投影ユニット300を制御して、次の撮影領域に対応する位置にて視標を投影する。そして、制御部70は、OCT光学系100を制御し、次の撮像領域での三次元断層像を得る。このようにして、制御部70は、三次元断層像のパノラマを形成するための各三次元断層像を順次取得し、これらの画像をメモリ75に記憶する。
【0053】
例えば、図5(a)に示すように、撮像領域S5の三次元断層像を取得する場合、撮像領域S6に対応する正面像の左端部分と、撮像領域S5に対応する正面像の右端部分とが撮像領域に関して重複する。また、撮像領域S9の三次元断層像を取得する場合、撮像領域S9に対応する正面像の上端部分と、撮像領域S6に対応する正面像の上端部分とが撮像領域に関して重複する。したがって、これらの重複部分を利用して位置ずれが検出され、異なる撮像領域間でのトラッキングが行われる。
【0054】
もちろん、トラッキングの基準画像は、撮像領域S6の正面像に限定されない。例えば、撮像領域S1に対応する断層像を得る場合、撮像領域S1と隣接する撮像領域の正面像として、撮像領域S2、S4、S5の少なくとも何れかが用いられる。この場合、複数の正面画像の合成画像が基準画像として用いられてもよい。
【0055】
なお、特徴部(例えば、血管部)を多く持つ画像が基準画像として選択されるのが好ましい。また、固視が安定する中心固視位置にて取得される画像が基準画像として用いられるようにしてもよい。また、各撮像領域の撮像順についても特に限定されないが、特徴部(例えば、血管部)を多く持つ画像が初めに取得されるのが好ましい。また、中心固視位置での画像が初めに取得されても良い。
【0056】
以上のようにして各撮像領域での3次元断層像が得られると、制御部70は、メモリ75に記憶された各画像の画像データを画像処理によって繋ぎ合わせることによりパノラマ3次元断層像を作成する。このようにして取得されたOCT画像のパノラマは、広範囲における被検者眼の眼底断層情報が含まれるため、眼の異常の早期発見などに利用される。
【0057】
例えば、制御部70は、パノラマ断層画像における網膜の層厚分布を画像処理により測定する。その後、制御部70は、正常眼データベースに記憶された層厚分布と、眼Eの層厚分布と、を比較することにより、眼Eが正常か否かを判定する。これにより、眼底Efの広範囲にわたる層厚分布に基づく解析結果が得られるので、眼の異常の発見が容易となる。
【0058】
このような場合、上記のように先に取得された正面画像を用いてトラッキングを行うことにより、パノラマ画像を構成する各3次元断層像は、的確な撮像位置にて取得されるため、良好なパノラマ画像が得られる。したがって、病変部が発見されやすく、病変部の検出精度が高まる。
【0059】
なお、各断層画像の取得後、パノラマ断層画像を作成するとき、制御部70は、断層画像の特徴部位(例えば、血管部分)がスムーズに繋ぎ合うように各3次元断層像間の位置合わせを行うようにしてもよい。例えば、各3次元画像に含まれる血管部分を利用して画像処理により位置合わせを行う。このようにすれば、画像取得時のトラッキングと、画像取得後の位置合わせとの組み合わせによって撮影位置のずれがいっそう解消される。なお、これらの位置合わせを行う場合、3次元断層像から形成されるOCT眼底像(例えば、積算画像)が利用されてもよいし、各3次元断層像に対応する正面画像が利用されてもよい。
【0060】
また、制御部70は、第1撮像領域にて取得された第1の3次元断層画像と、第2撮像領域にて取得された第2の3次元断層画像と、を相対的に回転させることにより各3次元断層画像間のずれを補正するようにしてもよい。
【0061】
例えば、制御部70は、3次元画像に含まれる網膜の各層がそれぞれスムーズに繋ぎ合うように画像処理によりずれを補正する。例えば、制御部70は、第1の3次元断層画像に対し、ロール軸、ピッチ軸、ヨー軸に関して第2の3次元断層画像を画像処理により回転させればよい。
【0062】
なお、上記実施形態において、トラッキングに利用される正面画像は、観察光学系200によって取得された生画像であってもよいし、ある画像処理(例えば、血管抽出処理)が施された加工画像であってもよい。また、眼底の概略が特定される概略画像であれば、正面像には限定されない。例えば、概略画像として断層画像が用いられる。このとき、三次元断層像における特徴部位(例えば、乳頭、黄斑、病変部、網膜の各層、等)が利用されてもよい。
【0063】
また、第1概略画像と第2概略画像は、異なる種類の概略画像であってもよい(例えば、画像処理前の正面像と画像処理後の正面像)。また、第1概略画像と第2概略画像は、異なる光学系によって取得された画像であってもよい(例えば、第1概略画像は、3次元断層像を形成するデータから取得された正面像であり、第2概略画像は、SLO光学系によって取得される正面像)。
【0064】
なお、上記実施形態において、視線方向の変化量を考慮して第1正面像と第2正面像との間の相対位置を検出する場合、制御部70は、重複部分T1を移動させなくてもよい。例えば、制御部70は、第2正面像において重複部分T1に相当する画像領域を探索し、重複部分T1に相当する画像領域の座標位置を検出する。そして、制御部70は、検出された座標位置に対して視線方向の変化に対応するオフセットをかける。これにより、視線方向を考慮した相対位置が検出される。
【0065】
なお、上記実施形態では、投影ユニット300によって視標位置が変更されることにより撮像領域が変更された。この場合、眼底上において測定光の照射位置を変更可能な構成であれば、これに限定されない。例えば、制御部70は、光スキャナ108によって測定ビームの進行方向を変更することにより撮像領域を変更してもよい。光スキャナ108と投影ユニット300の組み合わせが利用されてもよい。
【0066】
また、上記実施形態において、OCT光学系100によって取得される三次元断層像の撮像範囲と、観察光学系200によって取得される正面像の撮像範囲は、同じサイズであってもよいし、異なるサイズであってもよい。
【0067】
また、上記実施形態において、3次元断層像のパノラマの取得を例としたが、これに限定されない。制御部70は、異なる撮像領域でのOCT断層像を取得し、取得された複数のOCT断層像に基づいてOCT断層像のパノラマを取得する。例えば、制御部70は、ある横断方向に関する断層画像のパノラマを取得する。
【0068】
図8はラインスキャンのパノラマを得るときの具体例を示す図である。LS1、LS2、LS3は、各スキャンラインを示す。例えば、制御部70は、眼底の広範囲に亘るラインスキャン画像を得るため、隣接する断層像の端部同士が連続するように異なる撮像領域にてラインスキャン(LS1、LS2、LS3)を順次行う。この場合においても、制御部70は、各断層像に対応する正面像を得る。そして、次の撮像領域の断層像を得るとき、制御部70は、先に取得された正面像を用いてトラッキングを行う。そして、取得された各スキャンラインの断層像を繋ぎ合わせ、パノラマ画像を作成する。
【0069】
なお、上記の実施形態では、制御部70は、ずれ検出結果を用いて測定位置を補正した。なお、制御部70は、ずれ検出結果をモニタ75に表示するようにしてもよい(例えば、ずれ方向とずれ量が電子的に表示される)。この場合、検者は、モニタ75を見ながら手動にて測定位置を補正できる。また、ずれ情報は、断層像の取得タイミングの参考となる。
【0070】
なお、上記の実施形態では、眼底の断層像を得る装置が例示された。前述のパノラマ断層画像の取得手法は、眼の断層像を得る装置に関して用いられる。例えば、前眼部の断層像を得る装置においても用いられる。前眼部の場合、例えば、前眼部の正面を観察する光学系が設けられ、各撮像領域間の位置ずれを検出するための概略画像として前眼部の正面像が利用される。
【0071】
2つの画像間の位置ずれを検出する手法としては、種々の画像処理手法(各種相関関数を用いる方法、フーリエ変換を利用する方法、特徴点のマッチングに基づく方法)を用いることが可能である。
【0072】
例えば、基準画像又は計測画像(現在の眼底画像)を1画素ずつ位置ずれさせ、基準画像と対象画像を比較し、両データが最も一致したとき(相関が最も高くなるとき)の両データ間の位置ずれ方向及び位置ずれ量を検出する手法が考えられる。また、所定の基準画像及び対象画像から共通する特徴点を抽出し、抽出された特徴点の位置ずれ方向及び位置ずれ量を検出する手法が考えられる。
【0073】
なお、テンプレートマッチングにおける評価関数は、類似度を示すSSD(Sum of Squared Difference)や相違度を示すSAD(Sum of Absolute Difference)などを評価関数として用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】 本実施形態に係る眼科撮影装置の構成について説明する概略構成図である。
【図2】 図2(a)は正面観察光学系200によって得られる正面画像の例であり、図2(b)はOCT光学系100によって得られる断層画像の例である。
【図3】 図3(a)は3次元断層像のパノラマを得るために設定された複数の撮像領域の例を示す図であり、図3(b)は、図3(a)の各撮像領域と,眼底との関係を示す図である
【図4】 図3(a)の各撮像領域について立体的に説明するための図である。
【図5】 各撮像領域における重複領域を示す図である。
【図6】 図6(a)は第1の正面像の例、図6(b)は第2正面像の例である。
【図7】 図7(a)は重複部分T1が移動された後の第1の正面像、図7(b)は位置ずれがある場合の重複部分の関係について説明する図である。
【図8】 ラインスキャンのパノラマを得るときの具体例を示す図である。
【符号の説明】
【0075】
70 制御部
100 光コヒーレンストモグラフィ(OCT光学系)
108 光スキャナ
200 正面観察光学系
300 固視標投影ユニット
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者眼上の撮像位置を変更するため、光源から発せられた測定光の被検者眼上での照射位置を変更する照射位置変更手段を有し、被検者眼から反射された測定光と,参照光との干渉状態を検出器により検出して眼の断層画像を撮像する光コヒーレンストモグラフィーデバイスと、
始点から終点まで測定光を走査させる第1のラインスキャンを少なくとも1回行うことによって取得される第1撮像領域における断層画像の取得後であって、前記第1のラインスキャンの終点に対応する走査位置に測定光が照射された後、前記第1のラインスキャンとは別の少なくとも1回の第2のラインスキャンを行うことによって前記第1撮像領域とは異なる第2撮像領域での断層画像であって前記第1撮像領域における断層画像と端部同士が横断方向において連続するように異なる前記第2の撮像領域での断層画像を取得する際、前記第2撮像領域での断層画像を取得するときに取得される概略画像と先に取得された概略画像との重複部分を利用して位置ずれを検出することによって、前記第1撮像領域にて既に取得された断層画像と,前記第2撮像領域にて取得しようとする断層画像と,の間の連続性に関するずれを、前記被検者眼の概略画像から検出する検出手段と、
前記第1撮像領域における断層画像の取得後であって、前記第1のラインスキャンの終点に対応する走査位置に測定光が照射された後、前記第2撮像領域での断層画像を取得する際、前記検出手段の検出結果に基づいて前記被検者眼に対する測定光の相対的な照射位置を少なくとも1回のラインスキャン単位で補正するための照射位置補正手段と、を備え、
前記第1撮像領域における断層画像と前記第2撮像領域における断層画像とに基づいて断層画像のパノラマが取得されることを特徴とする眼科撮影装置。
【請求項2】
被検者眼上の撮像位置を変更するため、光源から発せられた測定光の被検者眼上での照射位置を変更する照射位置変更手段を有し、被検者眼から反射された測定光と,参照光との干渉状態を検出器により検出して眼の断層画像を撮像する光コヒーレンストモグラフィーデバイスと、
始点から終点まで測定光を走査させるラインスキャンを複数回行うことによって取得される第1撮像領域における3次元断層画像の取得後であって、前記第1撮像領域におけるラインスキャンとは別の複数回のラインスキャンを行うことによって前記第1撮像領域とは異なる第2撮像領域での3次元断層画像を取得する際、前記第2撮像領域での3次元断層画像を取得するときに取得される概略画像と先に取得された概略画像との重複部分を利用して位置ずれを検出することによって、前記第1撮像領域にて既に取得された3次元断層画像と,前記第2撮像領域にて取得しようとする3次元断層画像と,の間の連続性に関するずれを、前記被検者眼の概略画像から検出する検出手段と、
前記第1撮像領域における3次元断層画像の取得後であって、前記第2撮像領域での3次元断層画像を取得する際、前記検出手段の検出結果に基づいて眼底に対する測定光の相対的な照射位置を複数回のラインスキャン単位或いは複数回のラインスキャンを構成する各ラインスキャン単位で補正するための照射位置補正手段と、
を備えることを特徴とする眼科撮影装置。
【請求項3】
前記眼科撮影装置は、
固視標を有し、複数の方向に被検者眼を誘導可能な固視標投影ユニットを備え、
前記光コヒーレンストモグラフィーデバイスは、被検者眼眼底から反射された測定光と,参照光との干渉状態を受光素子により検出して眼底の断層画像を撮像する光コヒーレンストモグラフィーデバイスであり、
固視標投影ユニットを制御して各撮像領域に対応する位置に視標を呈示する制御手段と、
各撮像領域にて取得された断層画像のパノラマを得るパノラマ画像作成手段と、
を備えることを特徴とする請求項1?2記載のいずれかの眼科撮影装置。
【請求項4】
前記検出手段は、第1撮像領域での視標位置と第2撮像領域での視標位置との間における前記固視標投影ユニットによる被検者眼の視線方向の変化量に基づいて前記重複部分を移動させて又は前記変化量に対応するオフセットをかけて前記連続性に関するずれを、前記被検者眼の概略画像から検出することを特徴とする請求項3記載の眼科撮影装置。
【請求項5】
前記検出手段は、
断層撮像位置を含む被検者眼の概略画像を取得するために被検者眼からの反射光を得る光学系と、
第1撮像領域に対応する第1概略画像を基準画像として、第2撮像領域にて取得された第2の概略画像に対して、第1概略画像と第2概略画像との重複部分を利用したマッチングを行い、そのマッチング結果に基づいて前記連続性に関するずれを検出することを特徴とする請求項1?4記載のいずれかの眼科撮影装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-07-31 
出願番号 特願2010-269822(P2010-269822)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (A61B)
P 1 651・ 113- YAA (A61B)
P 1 651・ 121- YAA (A61B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 後藤 順也  
特許庁審判長 伊藤 昌哉
特許庁審判官 ▲高▼見 重雄
渡戸 正義
登録日 2015-04-24 
登録番号 特許第5735790号(P5735790)
権利者 株式会社ニデック
発明の名称 眼科撮影装置  
代理人 水越 邦仁  
代理人 大川 智也  
代理人 大川 智也  
代理人 水越 邦仁  

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