• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
管理番号 1333192
異議申立番号 異議2016-700607  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-11-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-07-12 
確定日 2017-08-28 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5841210号発明「燃料電池セル」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5841210号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?6について訂正することを認める。 特許第5841210号の請求項1?6に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第5841210号の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成26年8月28日に特許出願され、平成27年11月20日にその特許権の設定登録がなされ、その後、その特許について、平成28年7月12日差出で特許異議申立人亀崎伸宏(以下、単に「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされ、同年10月20日に審尋が通知され、その指定期間内である同年12月21日に回答書(以下、単に「回答書」という。)が提出され、平成29年1月23日に取消理由(以下、単に「取消理由」という。)が通知され、その指定期間内である同年3月27日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされ、その訂正の請求に対し、同年4月26日に訂正拒絶理由が通知され、その指定期間内である同年5月31日に意見書が提出され、その訂正の請求に対して申立人から意見書は提出されなかった。

2 訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正の趣旨は、「特許第5841210号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の通り、訂正後の請求項1?6について訂正することを求める。」というものであって、本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。
なお、下線は、変更された箇所を表すために当審が付与したものである。

特許請求の範囲の請求項1に「一般式ABO_(3)で表され、Aサイトに少なくともSrを含むペロブスカイト型酸化物を主成分とする主相と、硫酸ストロンチウムとクロム酸ストロンチウムを主成分とする第二相と、を含む空気極と、前記燃料極と前記空気極の間に配置される固体電解質層と、を備え、前記空気極の断面における前記第二相の面積占有率は、10.2%以下である」とあるのを「一般式ABO_(3)で表され、Aサイトに少なくともSrを含むペロブスカイト型酸化物を主成分とする主相と、硫酸ストロンチウムとクロム酸ストロンチウムとが混在する第二相と、を含む空気極と、前記燃料極と前記空気極の間に配置される固体電解質層と、を備え、前記空気極の断面における硫酸ストロンチウムの面積占有率とクロム酸ストロンチウムの面積占有率との合計である前記第二相の面積占有率は、10.2%以下である」に訂正する(以下、「訂正事項」という。)。

(2)訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
上記訂正事項に関連する記載として、本件明細書には、【0050】?【0071】に実施例が記載されており、より詳しくは、「【0056】 [面積占有率の測定]
まず、各サンプルの空気極を精密機械研磨した後に、株式会社日立ハイテクノロジーズのIM4000によってイオンミリング加工を施した。
【0057】
次に、インレンズ二次電子検出器を用いたFE-SEMによって倍率10000倍に拡大された空気極の断面を示すFE-SEM画像を取得した。
【0058】
次に、各サンプルのFE-SEM画像をMVTec社(ドイツ)製画像解析ソフトHALCONで解析することによって解析画像を取得した。
【0059】
次に、解析画像を用いて、SrSO_(4)及びSrCrO_(4)を含む第二相の面積占有率を算出した。第二相の面積占有率の算出結果は、表1に示す通りである」と記載されており、表1は【0068】に次のとおり記載されている。
「【表1】



この表1における、「空気極断面における第二相の面積占有率(%)」(以下、「第二相占有率」という。)、「空気極断面におけるSrSO_(4)の面積占有率(%)」(以下、「SrSO_(4)占有率」という。)及び「空気極断面におけるSrCrO_(4)の面積占有率(%)」(以下、「SrCrO_(4)占有率」という。)の値に注目すると、No.3のサンプルは、SrSO_(4)占有率が第二相占有率を上回っているから、No.3のサンプルについては上記3つの占有率のいずれかには明らかに誤記があると推察されるものの、それ以外のNo.1、No.2、No.4?No.20のサンプルは全て、SrSO_(4)占有率とSrCrO_(4)占有率との合計が第二相占有率と一致している。
そうすると、No.3を除く上記サンプルにおいて、「第二相の面積占有率」は「硫酸ストロンチウムの面積占有率とクロム酸ストロンチウムの面積占有率との合計である」といえ、また、「第二相」は「SrSO_(4)」と「SrCrO_(4)」とが固溶することなく別々に存在するものであるから、「硫酸ストロンチウムとクロム酸ストロンチウムとが混在する」ものであるといえる。
したがって、上記訂正事項のうち、本件訂正前の発明特定事項である「第二相」について、「硫酸ストロンチウムとクロム酸ストロンチウムを主成分とする」事項を「硫酸ストロンチウムとクロム酸ストロンチウムとが混在する」事項とした訂正、及び、本件訂正前の発明特定事項である「第二相の面積占有率」を「硫酸ストロンチウムの面積占有率とクロム酸ストロンチウムの面積占有率との合計である」とした訂正は、いずれも本件明細書に記載された事項の範囲内においてなされたものであって、第二相の成分として、硫酸ストロンチウムとクロム酸ストロンチウムが含まれるのみならず、これらが混在すること、すなわち、別々に存在することを明らかにすることによって、本件訂正前の発明特定事項をさらに限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
そして、本件訂正後の請求項2?6は本件訂正後の請求項1を引用するものであって、本件訂正後の請求項1?6は一群の請求項であるといえるから、上記訂正事項は、一群の請求項に対して請求されたものである。

.(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1?6について訂正を認める。

3 特許異議の申立てについて
(1)本件発明
本件訂正請求により訂正された訂正特許請求の範囲の請求項1?6に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明6」という。また、これらをまとめて「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
燃料極と、
一般式ABO_(3)で表され、Aサイトに少なくともSrを含むペロブスカイト型酸化物を主成分とする主相と、硫酸ストロンチウムとクロム酸ストロンチウムとが混在する第二相と、を含む空気極と、
前記燃料極と前記空気極の間に配置される固体電解質層と、
を備え、
前記空気極の断面における硫酸ストロンチウムの面積占有率とクロム酸ストロンチウムの面積占有率との合計である前記第二相の面積占有率は、10.2%以下である、
燃料電池セル。
【請求項2】
前記第二相の面積占有率は、0.20%以上である、
請求項1に記載の燃料電池セル。
【請求項3】
前記第二相の面積占有率は、0.36%以上である、
請求項1に記載の燃料電池セル。
【請求項4】
前記断面における前記第二相の平均円相当径は、0.05μm以上2.5μm以下である、
請求項1乃至3のいずれかに記載の燃料電池セル。
【請求項5】
前記第二相の密度は、前記主相の密度よりも小さい、
請求項1乃至4のいずれかに記載の燃料電池セル。
【請求項6】
前記ペロブスカイト型酸化物は、LSCFである、
請求項1乃至5のいずれかに記載の燃料電池セル。」

(2)申立理由の概要
(2)-1 取消理由の概要
訂正前の請求項1?5に係る特許に対して特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
ア 特許法第29条第1項第3号及び同条第2項について
取消理由1 本件特許の本件発明1?5は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。
取消理由2 本件特許の本件特許発明1?5は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。

<刊行物>J.Andreas Schuler 他6名,"Combined Cr and S poisoning in solid oxide fuel cell cathodes",Journal of Power Sources,2011年11月9日 201 (2012) p112-120(申立人が提出した甲第1号証。以下、単に「刊行物」という。)

なお、上記取消理由1及び2に対応する申立理由の証拠として、申立人は上記甲第1号証以外に下記の甲第2?4号証を提出している。
甲第2号証:Sota SHIMIZU 他3名,"Effect of microstructure on the conductivity of porous (La_(0.8)Sr_(0.2))_(0.99)MnO_(3),Journal of the Ceramic Society of Japan,2009,117[8]p895-898
甲第3号証:「化学大事典9 縮刷版」共立出版株式会社、1962年7月31日初版、1964年3月15日縮刷版発行、第712頁
甲第4号証:「化学大事典3 縮刷版」共立出版株式会社、1960年9月30日初版、1963年9月15日縮刷版発行、第206頁

(2)-2 取消理由に採用しなかった申立理由の概要
訂正前の請求項1?6に係る特許に対して、取消理由で通知しなかった申立て理由の概要は、次のとおりである。
ア 特許法第36条第4項第1号について
申立理由ア 本件発明の解決しようとする課題は、時間の経過とともに、すなわち、後発的に空気極内部に発生するSr(Cr,S)O_(4)によって燃料電池の初期出力が低下することを防ぐことであり、本件明細書の発明の詳細な説明には、当該課題を解決することが記載されていないから、当業者が本件発明1?6の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されているとはいえず、本件明細書の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。(異議申立書第13頁第16行?第15頁第12行)

イ 特許法第36条第6項第1号について
申立理由イ-1 本件発明の解決しようとする課題は、時間の経過とともに、すなわち、後発的に空気極内部に発生するSr(Cr,S)O_(4)によって燃料電池の初期出力が低下することを防ぐことであり、本件明細書の発明の詳細な説明には、当該課題を解決することが記載されておらず、本件発明1?6は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないから、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。(異議申立書第15頁第14行?第17頁第2行)

申立理由イ-2 本件発明1?5の「一般式ABO_(3)で表され、Aサイトに少なくともSrを含むペロブスカイト型酸化物を主成分とする主相」について、本件明細書の発明の詳細な説明には、該ペロブスカイト型酸化物がLSCFである場合に限り、空気極断面における第二相の面積占有率が10.2%以下であるときに、効果が得られることが記載されているのみであり、該ペロブスカイト型酸化物がLSCF以外の物質の場合に、空気極断面における第二相の面積占有率が10.2%であるときに本件発明の効果が得られるかは不明である。
よって、本件発明1?6は、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるものとはいえないから、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。(異議申立書第17頁第4行?第18頁第7行)

ウ 特許法第36条第6項第2号について
申立理由ウ 請求項1の「空気極の断面における前記第二相の面積占有率」を画像から算出するに際し、空気極全体の断面から算出するのか、画像が取得された空気極の一部の断面から算出するのか不明であって、請求項1の「空気極の断面における前記第二相の面積占有率」は明確とはいえないから、請求項1?6に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。(異議申立書第18頁第9行?第18頁最終行)

(3)当審の判断
(3)-1 取消理由について
ア 特許法第29条第1項第3号及び同条第2項について
ア-1 取消理由1及び2について
まず、本件発明1が、刊行物に記載された発明であるか否かを検討する。
刊行物には、高いCr濃度でSも含む環境下に晒されたサンプルA1(第115頁左欄第7行)の「固体酸化物形燃料電池」は、LSM/YSZ複合カソード内に、Sr(Cr_(0.85),S_(0.15))O_(4)の粒子が存在しており、SrSO_(4)相とSrCrO_(4)相とが固溶体を形成していることが記載されている(第116頁左欄第43?48行、同右欄第22?32行)から、刊行物に記載された発明において本件発明1の「第二相」に相当するSr(Cr_(0.85),S_(0.15))O_(4)は、「硫酸ストロンチウムとクロム酸ストロンチウムとが混在する」ものであって、「第二相の面積占有率」が「硫酸ストロンチウムの面積占有率とクロム酸ストロンチウムの面積占有率との合計である」ものとはいえない。
したがって、刊行物には、本件発明1の「第二相」が「硫酸ストロンチウムとクロム酸ストロンチウムとが混在する」ものであって、「第二相の面積占有率」が「硫酸ストロンチウムの面積占有率とクロム酸ストロンチウムの面積占有率との合計である」発明特定事項(以下、「本件発明特定事項」という。」)が記載されているとはいえない。
よって、本件発明1は、刊行物に記載された発明であるとはいえない。

次に、刊行物記載の発明において、上記本件発明特定事項を、当業者が容易に発明をすることができたか否かを検討する。
上述したように、刊行物に記載されたサンプルA1の「固体酸化物形燃料電池」のLSM/YSZ複合カソードは、高いCr濃度でSも含む環境下に晒すことにより、Sr(Cr_(0.85),S_(0.15))O_(4)の粒子が生成され、SrSO_(4)相とSrCrO_(4)相との固溶体が形成されたものである(第116頁左欄第43?48行、同右欄第22?32行)。
一方、本件発明1の空気極は、「一般式ABO_(3)で表され、AサイトにSrを含むペロブスカイト型酸化物粉末とSrSO_(4)粉末とSrCrO_(4)粉末の混合材料」(本件明細書【0035】)から形成することにより、上記本件発明特定事項を得るものである。
そうすると、刊行物に記載された「固体酸化物形燃料電池」において、SrSO_(4)相とSrCrO_(4)相との固溶体が形成されたLSM/YSZ複合カソードに対し、SrSO_(4)とSrCrO_(4)とが別々に混在するようにすることは、高いCr濃度でSも含む環境下に晒すことにより形成された、刊行物記載のSr(Cr_(0.85),S_(0.15))O_(4)の形成過程を考えると、困難であるといわざるを得ないし、また、刊行物記載の「固体酸化物形燃料電池」のLSM/YSZ複合カソードは、CrとSの汚染について検討しているものであるから、その製造過程において、わざわざ汚染物質となり得るSrSO_(4)粉末とSrCrO_(4)粉末を混入しようとする動機があるとはいえず、到底困難であるといわざるを得ない。
したがって、刊行物記載の発明において、上記本件発明特定事項を、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3)-2 取消理由に採用しなかった申立理由について
ア 特許法第36条第4項第1号について
ア-1 申立理由アについて
(ア)まず、本件発明の解決しようとする課題について、検討する、
本件明細書には、「本発明は、・・(略)・・初期出力を向上可能な燃料電池セルを提供することを目的とする」(【0005】)と記載されており、本件明細書【0050】?【0071】の実施例の記載において、「微少クラックの有無」(【0064】)、「出力密度(初期出力)」(【0065】)及び「電圧降下率」の検証を行っている。
また、回答書によれば、特許権者は、「本発明の課題は、燃料電池において、所望の出力を得ることだと言えます」と述べている。
以上を勘案すると、本件発明の解決しようとする課題は、燃料電池セルにおいて、所望の初期出力を得ることであると認められる。
(イ)次に、本件発明1が、上記課題を解決するものであるか否かについて、検討する。
本件発明1は、「燃料極と、一般式ABO_(3)で表され、Aサイトに少なくともSrを含むペロブスカイト型酸化物を主成分とする主相と、硫酸ストロンチウムとクロム酸ストロンチウムとが混在する第二相と、を含む空気極と、前記燃料極と前記空気極の間に配置される固体電解質層と、を備え、前記空気極の断面における硫酸ストロンチウムの面積占有率とクロム酸ストロンチウムの面積占有率との合計である前記第二相の面積占有率は、10.2%以下である、燃料電池セル」(【請求項1】)の発明である。
(ウ)一方、本件明細書【0050】?【0071】の実施例の記載において、「空気極断面における第二相の面積占有率」が10.2%以下である、No.1?10,12?15,17?19のサンプルでは、出力密度(初期出力)が全て0.15W/cm^(2)以上であるのに対し、「空気極断面における第二相の面積占有率」が10.2%より大きい、No.11,16,20のサンプルでは、出力密度(初期出力)が全て0.11W/cm^(2)以下であるから(【0068】の【表1】参照。)、No.1?10,12?15,17?19のサンプルでは、上記課題である「所望の初期出力を得る」ことについて、ある程度の効果が得られているといえる。
(エ)そして、上記(ウ)で述べた、No.1?10,12?15,17?19のサンプルは、本件発明1の範囲内のものであり、No.11,16,20のサンプルは、本件発明1の範囲外のものであるから、本件明細書の発明の詳細な説明には、発明が解決しようとする課題及びその解決手段が記載されているといえる。
(オ)したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1?6の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されていないとはいえず、経済産業省令において規定された要件を満たすものであるから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものである。

イ 特許法第36条第6項第1号について
イ-1 申立理由イ-1について
(ア)本件発明1の解決しようとする課題は、上記ア、ア-1、(ア)で述べたとおりである。
(イ)一方、上記ア、ア-1、(ウ)で述べたように、本件明細書【0050】?【0071】の実施例の記載において、「空気極断面における第二相の面積占有率」が10.2%以下であるものは、上記課題を達成し得るものであるのに対し、10.2%より大きいものは上記課題を達成し得ないものである。
(ウ)そして、本件発明1は、上記ア、ア-1、(イ)で述べたものであるから、上記(イ)で述べたように、上記課題を達成し得るものである。
(エ)そうすると、本件発明1?6は、発明の詳細な説明に記載されたものであり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。

イ-2 申立理由イ-2について
(ア)本件明細書には、空気極材料の主成分が、LSF、SSCであって、「空気極断面における第二相の面積占有率」が10.2%である場合に、どの程度の出力密度(初期出力)となるか明記されておらず、上記課題を解決し得るか否かが一見不明である。
(イ)しかしながら、本件明細書【0050】?【0071】の実施例の記載において、No.9,15,19のサンプルを比較すると、空気極材料の主成分がLSCFであって、「空気極断面における第二相の面積占有率」が9.2%の場合に出力密度が0.18W/cm^(2)(No.9)、空気極材料の主成分がLSFであって、「空気極断面における第二相の面積占有率」が9.5%の場合に出力密度が0.18W/cm^(2)(No.15)、空気極材料の主成分がSSCであって、「空気極断面における第二相の面積占有率」が9.5%の場合に出力密度が0.26W/cm^(2)(No.19)の結果が得られており、空気極材料の主成分がLSCFであって、「空気極断面における第二相の面積占有率」が10.2%の場合に出力密度が0.15W/cm^(2)(No.10)であることを考慮すると、空気極材料の主成分がLSF及びSSCであって「空気極断面における第二相の面積占有率」が10.2%の場合に、No.10のサンプルと同程度かそれ以上の出力密度が得られる蓋然性が高いといえる。
(ウ)よって、本件発明1?5は、空気極材料の主成分がLSF及びSSCであっても、上記課題を解決し得るものであるから、発明の詳細な説明に記載されたものである。

ウ 特許法第36条第6項第2号について
ウ-1 申立理由ウについて
請求項1の「空気極の断面における前記第二相の面積占有率」の算出方法について、本件明細書【0027】?【0034】に、インレンズ二次電子検出器を用いたFE-SEMによって倍率10000倍に拡大された空気極14の断面を取得し、次に、このFE-SEM画像を画像解析ソフトによって画像解析を行うことにより第二相を特定し、気孔を除いた領域(すなわち、空気極14の固相)の総面積に対する第二相の合計面積の割合を算出すことにより、「空気極の断面における前記第二相の面積占有率」を算出する旨が記載されている。
ここで、倍率10000倍に拡大された空気極14の断面のFE-SEM画像を取得するに際し、空気極全体の倍率10000倍に拡大された断面のFE-SEM画像を取得することは、過度な負担が生じて現実的ではないから、上記記載の「気孔を除いた領域(すなわち、空気極14の固相)の総面積」とは、空気極のうち、画像が取得された空気極の一部の断面の面積を意味することは明らかである。
そして、上記記載の「気孔を除いた領域(すなわち、空気極14の固相)の総面積」をこのように解釈することにより、本件明細書【0027】?【0034】の記載から、請求項1の「空気極の断面における前記第二相の面積占有率」を算出することができるから、請求項1の「空気極の断面における前記第二相の面積占有率」は、明確でないとはいえない。
よって、本件発明1?6は、明確でないとはいえないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとはいえない。

4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に、本件請求項1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料極と、
一般式ABO_(3)で表され、Aサイトに少なくともSrを含むペロブスカイト型酸化物を主成分とする主相と、硫酸ストロンチウムとクロム酸ストロンチウムとが混在する第二相と、を含む空気極と、
前記燃料極と前記空気極の間に配置される固体電解質層と、
を備え、
前記空気極の断面における硫酸ストロンチウムの面積占有率とクロム酸ストロンチウムの面積占有率との合計である前記第二相の面積占有率は、10.2%以下である、
燃料電池セル。
【請求項2】
前記第二相の面積占有率は、0.20%以上である、
請求項1に記載の燃料電池セル。
【請求項3】
前記第二相の面積占有率は、0.36%以上である、
請求項1に記載の燃料電池セル。
【請求項4】
前記断面における前記第二相の平均円相当径は、0.05μm以上2.5μm以下である、
請求項1乃至3のいずれかに記載の燃料電池セル。
【請求項5】
前記第二相の密度は、前記主相の密度よりも小さい、
請求項1乃至4のいずれかに記載の燃料電池セル。
【請求項6】
前記ペロブスカイト型酸化物は、LSCFである、
請求項1乃至5のいずれかに記載の燃料電池セル。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-08-17 
出願番号 特願2014-174137(P2014-174137)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (H01M)
P 1 651・ 121- YAA (H01M)
P 1 651・ 113- YAA (H01M)
P 1 651・ 537- YAA (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 太田 一平  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 土屋 知久
結城 佐織
登録日 2015-11-20 
登録番号 特許第5841210号(P5841210)
権利者 日本碍子株式会社
発明の名称 燃料電池セル  
代理人 新樹グローバル・アイピー特許業務法人  
代理人 新樹グローバル・アイピー特許業務法人  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ