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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C02F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C02F
管理番号 1333204
異議申立番号 異議2017-700124  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-11-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-02-09 
確定日 2017-08-31 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5967337号発明「逆浸透膜処理システムの運転方法及び逆浸透膜処理システム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5967337号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり〔1-3〕、〔4-6〕について訂正することを認める。 特許第5967337号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5967337号の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、平成28年3月24日(優先権主張 平成27年3月31日 日本国)を国際出願日とする出願であって、平成28年7月15日に特許の設定登録がされ、その後、その特許に対して特許異議申立人 西山智裕により特許異議の申立てがされたので、これを検討して平成29年4月11日付けで当審から取消理由を通知したところ、同年6月5日付けで訂正請求がなされると共に意見書が提出され、これに対する意見を特許異議申立人に求めたところ、同年7月11日付けで意見書が提出されたものである。

第2 訂正請求について
1.訂正の内容
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記逆浸透膜装置の被処理水に、前記エネルギー回収装置に導入される前記濃縮水の残留ハロゲン濃度が全塩素換算濃度で0.1?10000mg/Lとなるように、結合塩素系および安定化臭素系の少なくともいずれかのスライムコントロール剤を添加する」と記載されているのを、「前記逆浸透膜装置の被処理水に、前記エネルギー回収装置に導入される前記濃縮水の残留ハロゲン濃度が全塩素換算濃度で0.2?34mg/Lとなるように、結合塩素系スライムコントロール剤を連続的に添加する」に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「クロロスルファミン酸塩系およびブロモスルフアミン酸塩系の少なくともいずれかのスライムコントロール剤」と記載されているのを、「クロロスルファミン酸塩系スライムコントロール剤」に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4に「前記逆浸透膜装置の被処理水に結合塩素系および安定化臭素系のすくなくともいずれかのスライムコントロール剤を添加する薬注手段と、前記エネルギー回収装置に導入される濃縮水の残留ハロゲン濃度を測定する残留ハロゲン濃度測定手段と、該残留ハロゲン濃度測定手段の測定値に基いて、前記薬注手段におけるスライムコントロール剤の添加量を制御する制御手段とを設けた」と記載されているのを、「前記逆浸透膜装置の被処理水に結合塩素系スライムコントロール剤を連続的に添加する薬注手段と、前記エネルギー回収装置に導入される濃縮水の残留ハロゲン濃度を測定する残留ハロゲン濃度測定手段と、該残留ハロゲン濃度測定手段の測定値に基いて、前記薬注手段におけるスライムコントロール剤の添加量を制御する制御手段とを設け、前記残留ハロゲン濃度測定手段で測定される残留ハロゲン濃度が全塩素換算濃度で0.2?34mg/Lとなるように、前記制御手段により、前記薬注手段におけるスライムコントロール剤の添加量が制御される」に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5に「前記スライムコントロール剤がクロロスルファミン酸塩系およびブロモスルファミン酸系の少なくともいずれかのスライムコントロール剤であり、前記残留ハロゲン濃度測定手段で測定される残留ハロゲン濃度が全塩素換算濃度で0.1?10000mg/Lとなるように、前記制御手段により、前記薬注手段におけるスライムコントロール剤の添加量が制御される」と記載されているのを、「前記スライムコントロール剤がクロロスルファミン酸塩系スライムコントロール剤である」に訂正する。

2.訂正要件の判断
(1)訂正事項1について
a)訂正の目的について
訂正前の請求項1に係る発明では、「前記エネルギー回収装置に導入される前記濃縮水の残留ハロゲン濃度が全塩素換算濃度で0.1?10000mg/L」とされ、スライムコントロール剤は「結合塩素系および安定化臭素系の少なくともいずれかのスライムコントロール剤」であり、スライムコントロール剤の添加については単に「添加する」とされている。
これに対して、訂正後の請求項1に係る発明では、「前記エネルギー回収装置に導入される前記濃縮水の残留ハロゲン濃度が全塩素換算濃度で0.2?34mg/L」に、スライムコントロール剤を「結合塩素系スライムコントロール剤」に、また、スライムコントロール剤を「連続的に添加する」にするものだから、何れも特定事項を限定しようとするものである。
よって、訂正事項1の訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の規定に適合するものである。
b)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であることについて
訂正事項1の「前記エネルギー回収装置に導入される前記濃縮水の残留ハロゲン濃度が全塩素換算濃度で0.2?34mg/Lとなるように、結合塩素系スライムコントロール剤を連続的に添加する」構成のうち、濃縮水の残留ハロゲン濃度の上下限値については、願書に添付した明細書の【表1】(【0088】)の実施例1,2において、この残留ハロゲン濃度(全塩素濃度)が「0.2mg/L」「34mg/L」であることに基づいて導き出され、また、「結合塩素系スライムコントロール剤を連続的に添加する」構成も、同実施例1,2で「連続」添加される「添加薬剤」が「結合塩素系スライムコントロール剤」である「NHClSO_(3)Na」(モノクロロスルファミン酸ナトリウム)(【0096】【0099】)であることに基づいて導き出されるもので、訂正事項1の訂正は、新たな技術的事項を導入するものではない。
よって、訂正事項1の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。
c)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことについて
上記a)の理由から明らかなように、訂正事項1は、発明特定事項を限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
よって、訂正事項1の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

(2)訂正事項2について
a)訂正の目的について
訂正事項2は、上記訂正事項1の訂正に伴い、特許請求の範囲の記載の矛盾をなくすために、訂正前の請求項2に「クロロスルファミン酸塩系およびブロモスルファミン酸塩系の少なくともいずれかのスライムコントロール剤」とあるのを、「クロロスルファミン酸塩系スライムコントロール剤」に訂正するもので、これは選択的発明特定事項の一部を削除するものといえる。
よって、訂正事項2の訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の規定に適合するものである。
b)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であることについて
訂正事項2は、上記訂正事項1の訂正に伴い、「ブロモスルファミン酸塩系」の「スライムコントロール剤」を削除するにすぎず、新たな技術的事項を導入するものではない。
よって、訂正事項2の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。
c)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことについて
訂正事項2は、上記訂正事項1の訂正に伴い、「スライムコントロール剤」が「クロロスルファミン酸塩系」と「ブロモスルフアミン酸塩系」の二種類から選択されるものであったのを「クロロスルファミン酸塩系スライムコントロール剤」の一種類にしたもので、カテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
よって、訂正事項2の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

(3)訂正事項3について
a)訂正の目的について
訂正前の請求項4に係る発明では、スライムコントロール剤は「結合塩素系および安定化臭素系の少なくともいずれかのスライムコントロール剤」であり、スライムコントロール剤の添加については単に「添加する」とあり、「制御手段」による「薬注手段におけるスライムコントロール剤の添加量の制御」についても何ら特定されていない。
これに対して、訂正後の請求項4に係る発明では、スライムコントロール剤を「結合塩素系スライムコントロール剤」に、また、スライムコントロール剤を「連続的に添加する」ことを特定すると共に、「前記残留ハロゲン濃度測定手段で測定される残留ハロゲン濃度が全塩素換算濃度で0.2?34mg/Lとなるように、前記制御手段により、前記薬注手段におけるスライムコントロール剤の添加量が制御される」旨特定するものであって、何れも特定事項を限定しようとするものである。
よって、訂正事項3の訂正は、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の規定に適合する。
b)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であることについて
訂正事項3の「逆浸透膜装置の被処理水に結合塩素系スライムコントロール剤を連続的に添加する薬注手段」、「前記残留ハロゲン濃度測定手段で測定される残留ハロゲン濃度が全塩素換算濃度で0.2?34mg/Lとなるように、前記制御手段により、前記薬注手段におけるスライムコントロール剤の添加量が制御される」構成について、残留ハロゲン濃度の上下限値については、願書に添付した明細書の【表1】(【0088】)の実施例1,2において、この残留ハロゲン濃度(全塩素濃度)が「0.2mg/L」「34mg/L」であることに基づいて導き出され、また、「結合塩素系スライムコントロール剤を連続的に添加する」構成も、同実施例1,2で「連続」添加される「添加薬剤」が「結合塩素系スライムコントロール剤」である「NHClSO_(3)Na」(モノクロロスルファミン酸ナトリウム)(【0096】【0099】)であることに基づいて導き出されるもので、訂正事項3の訂正は、新たな事項を導入するものではない。
したがって、訂正事項3の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。
c)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことについて
上記a)の理由から明らかなように、訂正事項3は、発明特定事項を限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
よって、訂正事項3の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

(4)訂正事項4について
a)訂正の目的について
訂正事項4は、訂正事項2と同様に、訂正前の請求項5の「クロロスルファミン酸塩系およびブロモスルファミン酸塩系の少なくともいずれかのスライムコントロール剤」とあるのを「クロロスルファミン酸塩系スライムコントロール剤」に特定して選択的発明特定事項の一部を削除すると共に、請求項5が請求項4を引用することによる重複する記載を削除するために、「前記残留ハロゲン濃度測定手段で測定される残留ハロゲン濃度が全塩素換算濃度で0.1?10000mg/Lとなるように、前記制御手段により、前記薬注手段におけるスライムコントロール剤の添加量が制御される」の記載を削除するものである。
よって、訂正事項4の訂正は、特許請求の範囲を減縮を目的とするものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の規定に適合する。
b)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であることについて
訂正事項4は、上記の通り、上記訂正事項3の訂正に伴い、特許請求の範囲の記載の矛盾をなくすために、特定事項を減縮ないし削除するもので、新たな事項を導入するものではない。
よって、訂正事項4の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。
c)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であること及び実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項4は、上記の通り、上記訂正事項3の訂正に伴い、特許請求の範囲の記載の矛盾をなくすために、特定事項を減縮ないし削除するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
よって、訂正事項4の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

(5)一群の請求項についての説明
訂正事項1,2に係る訂正前の請求項1ないし3について、請求項2ないし3は請求項1を引用しているものであって、請求項1に連動して訂正されるものであり、訂正前の請求項1ないし3は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
また、訂正事項3,4に係る訂正前の請求項4ないし6について、請求項5ないし6は請求項4を引用しているものであって、請求項4に連動して訂正されるものであり、訂正前の請求項4ないし6は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

3.訂正請求についての結言
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、
請求項1ないし3について特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とし、請求項4ないし6について特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とし、かつ、特許法第120条の5第4項及び第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、訂正後の請求項[1-3]、[4-6]について訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1.本件訂正発明
本件訂正請求により訂正された訂正請求項1ないし6に係る発明(以下、「本件訂正発明1」ないし「本件訂正発明6」と呼称し、総称して「本件訂正発明」ということがある。)は、その訂正特許請求の範囲に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。(下線部は、訂正箇所であり、特許権者が付与した。)

【請求項1】
逆浸透膜装置と、該逆浸透膜装置の濃縮水が導入されるエネルギー回収装置とを備えた逆浸透膜処理システムの運転方法において、
前記逆浸透膜装置の被処理水に、前記エネルギー回収装置に導入される前記濃縮水の残留ハロゲン濃度が全塩素換算濃度で0.2?34mg/Lとなるように、結合塩素系スライムコントロール剤を連続的に添加することを特徴とする逆浸透膜処理システムの運転方法。
【請求項2】
請求項1において、前記スライムコントロール剤がクロロスルファミン酸塩系スライムコントロール剤であることを特徴とする逆浸透膜処理システムの運転方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記逆浸透膜処理システムが海水の淡水化のための逆浸透膜処理システムであることを特徴とする逆浸透膜処理システムの運転方法。
【請求項4】
逆浸透膜装置と、該逆浸透膜装置の濃縮水が導入されるエネルギー回収装置とを備えた逆浸透膜処理システムにおいて、前記逆浸透膜装置の被処理水に結合塩素系スライムコントロール剤を連続的に添加する薬注手段と、前記エネルギー回収装置に導入される濃縮水の残留ハロゲン濃度を測定する残留ハロゲン濃度測定手段と、該残留ハロゲン濃度測定手段の測定値に基いて、前記薬注手段におけるスライムコントロール剤の添加量を制御する制御手段とを設け、前記残留ハロゲン濃度測定手段で測定される残留ハロゲン濃度が全塩素換算濃度で0.2?34m/Lとなるように、前記制御手段により、前記薬注手段におけるスライムコントロール剤の添加量が制御されることを特徴とする逆浸透膜処理システム。
【請求項5】
請求項4において、前記スライムコントロール剤がクロロスルファミン酸塩系スライムコントロール剤であることを特徴とする逆浸透膜処理システム。
【請求項6】
請求項4又は5において、海水の淡水化のための逆浸透膜処理システムであることを特徴とする逆浸透膜処理システム。

2.取消理由について
2-1.取消理由の概要
特許異議申立人は、以下に示す証拠と次表の論理構成に基づく進歩性要件違反、及び、記載要件違反の申立理由を主張し、訂正前の請求項1ないし6に記載された発明に係る本件特許は取り消されるべき旨を申立てたが、当審が取消理由として通知したのは以下の概要のものである。

進歩性要件違反の取消理由の概要>
訂正前の請求項1ないし3に記載された発明に係る特許は、同発明が、甲第1ないし10号証の記載に基づき、下表に示す異議申立人が申し立てた論理の内の#1ないし4、8、10の各論理により、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに対してされたものであるから、取り消されるべきものである。

<記載要件違反の取消理由の概要>
訂正前の請求項1ないし6に記載された発明に係る特許は、異議申立人が主張する全ての点(以下の「2-2-1.」の(ア)ないし(オ)の点)で、同発明が、発明の詳細な説明に記載されたものでないので、特許法第36条第6項第1号の規定に適合しない特許出願に対してなされたものであるから、取り消されるべきものである。

<甲各号証>
甲第1号証 : 国際公開第2011/030589号
甲第2号証 : 国際公開第2014/058041号
甲第3号証 : 特開2006-263510号公報
甲第4号証 : 特開2010-201313号公報
甲第5号証 : 特表2005-537920号公報
甲第6号証 : 国際公開第2015/029504号
甲第7号証 : 国際公開第2015/073170号
甲第8号証 : 特表2016-538119号公報
(甲第7号証の日本語パテントファミリー)
甲第9号証 : 特開2014-188473号公報
甲第10号証: 特開平1-115412号公報
甲第11号証: 本件特許に係る国際出願の優先権主張の基礎出願
(特願2015-72956号)の明細書


2-2.記載要件についての取消理由の判断
事案に鑑み、本件訂正発明1ないし6について、記載要件違反の取消理由(サポート要件)が解消しているかについて、まず検討する。

2-2-1.通知した記載要件違反の取消理由
通知した記載要件違反の取消理由の要旨(ア)ないし(オ)を以下に示す。 (ア)訂正前の請求項1に記載された発明の「エネルギー回収装置に導入される前記濃縮水の残留ハロゲン濃度が全塩素換算濃度で0.1?10000mg/Lとなる」について、【表1】(【0088】)では「0.1」で効果の奏されることは示されていない。表1には、「0.2」で効果が奏され、「0.08」で効果の奏されないことが示されているから、「0.1」は「0.2」よりも「0.08」に近いから、「0.1」では効果の奏されないことが想定され、そのような発明は明細書の記載により裏付けられていない。
(イ)「安定化ハロゲンスライムコントロール剤」の添加は、「間欠的に添加」する場合と「連続的に添加」する場合とあるが、連続的に添加すれば「エネルギー回収装置に導入される前記濃縮水の残留ハロゲン濃度が全塩素換算濃度で0.1?10000mg/L」であるとしても、間欠的に添加したら、図1の装置構造からみて、容器内で撹拌する等で「残留ハロゲン濃度」を一定化する箇所などはないから、連続的に添加するのと同様の効果を奏し得るのか不明なため、訂正前の請求項1及び5に記載された発明は明細書の記載により裏付けられていない。
また、間欠的な添加で効果を奏する場合が表1に実施例3,4として記載されるが、間欠的に添加する量が「エネルギー回収装置の入口」で「70」(実施例3)未満の場合は実施例がなく、訂正前の請求項に記載された発明は明細書の記載により裏付けられていない。
さらに、「連続的に添加」すれば本願発明1の「エネルギー回収装置に導入される前記濃縮水の残留ハロゲン濃度が全塩素換算濃度で0.1?10000mg/Lとなる」について、【表1】(【0088】)では「0.1」で効果の奏されることは示されていない。表1には、「0.2」で効果が奏され、「0.08」で効果の奏されないことが示されているから、「0.1」は「0.2」よりも「0.08」に近いから、「0.1」では効果の奏されないことが想定され、訂正前の請求項に記載された発明は明細書の記載により裏付けられていない。
(ウ)表1で、「結合塩素系スライムコントロール剤」(クロロスルファミン酸塩)のデータはあるが、「安定化臭素系スライムコントロール剤」(ブロモスルファミン酸塩)のデータはなく、表2まで含めて考えると、両者の効果には差違があり、「結合塩素系スライムコントロール剤」の効果が示されていても、「安定化臭素系スライムコントロール剤」の効果が推測できるものではなく、訂正前の請求項1ないし6に記載された発明は明細書の記載により裏付けられていない。
(エ)訂正前の請求項4に記載された発明で薬剤の濃度(「0.1?10000mg/L」)が特定されておらず、同発明は明細書の記載により裏付けられていない。
(オ)【0046】の記載によれば、「安定化ハロゲンスライムコントロール剤」には一剤型と二剤型があるところ、一剤型しか効果が確認されていない。
よって、二剤型については、訂正前の請求項1及び4に記載された発明は明細書の記載により裏付けられていない。

2-2-2.本件訂正発明1ないし6について、記載要件違反の取消理由が解消しているかについて
(1)当審の判断
本件訂正請求により、本件訂正前の請求項1ないし6に記載された発明は本件訂正発明1ないし6に訂正された。
当該訂正は、上記「第2」でみたように、
i)「濃縮水の残留ハロゲン濃度が全塩素換算濃度で0.1?10000mg/L」を「濃縮水の残留ハロゲン濃度が全塩素換算濃度で0.2?34mg/L」に、
ii)「結合塩素系」及び「安定化臭素系」の「少なくともいずれかのスライムコントロール剤」を、「結合塩素系」の「スライムコントロール剤」に、
iii)「スライムコントロール剤」の「添加」を、「スライムコントロール剤」の「連続的」な「添加」に、
それぞれ訂正することを主体とする訂正であり、当該訂正により訂正された本件訂正発明1ないし6であれば、訂正後の発明特定事項からみて、上記(ア)ないし(エ)の取消理由は妥当せず、当該取消理由は解消された。(オ)の取消理由については、詳細を以下の(2)に述べる。

(2)異議申立人の主張について
i)異議申立人は、上記(オ)の取消理由について、意見書において、「結合塩素系スライムコントロール剤」が二剤型(遊離塩素剤とスルファミン酸)の場合には、「遊離塩素剤とスルファミン酸との反応時間」や、「遊離塩素剤とスルファミン酸との添加比率」により、生成される結合塩素系スライムコントロール剤の濃度、スライム防止効果に加えて、逆浸透膜へ及ぼす影響が大きく異なるから、「1液型薬剤」(モノクロロスルファミン酸)である場合の結果をもって、「2液型薬剤」(遊離塩素剤+スルファミン酸)にまで拡張ないし一般化することはできないと主張する。
ii)しかしながら、「結合塩素系スライムコントロール剤」が二剤型であっても、「遊離塩素剤とスルファミン酸との反応時間」が十分にとれるような添加手段、添加手法を採用することや、「遊離塩素剤とスルファミン酸との添加比率」をどちらかが反応後に残ってしまわないような添加比率にすることは、当業者が当然に対応する技術常識というべきものであって、そのような技術常識を踏まえれば二剤型であっても効果を奏すると当業者は認識できるから、本件特許明細書にその具体例が記載されていないというだけで、本件訂正発明1及び4がサポート要件を欠くものとはいえない。
iii)よって、(オ)の取消理由も妥当せず、当該取消理由は解消された。

(3)記載要件についての取消理由の結言
以上から、本件訂正発明1ないし6については上記(ア)ないし(オ)の記載要件に関する取消理由は妥当せず、当該取消理由は解消された。

2-3.進歩性要件についての取消理由の判断
2-3-1.本件訂正発明1(#1の論理)について
#1の論理の概要は、本件訂正発明1は、甲第1号証に記載された発明に、甲第4号証と甲第3ないし6号証と甲第9号証に記載された周知技術を考慮すれば、甲第3号証に記載された技術手段を適用することができるので、容易に成し得るとするものだから、以下では主に甲第1号証と甲第3号証について検討する。
(1)甲第1号証に記載された発明
i)甲第1号証には、「水環境の悪化」に対処するために「海水と河川水」のような「複数種の原水」から「淡水」を「エネルギー回収装置」を用いて「低コスト」で製造する方法と装置([0001][0002][0008][0009])であって、以下の[図7]に示されるように、「半透膜ユニット9」と、該「半透膜ユニット9」の濃縮水が導入される「圧力交換式エネルギー回収ユニット4」とを備えた淡水製造装置であって、「半透膜ユニット9」の被処理水に「第1薬液タンク27」から「クロラミン」をはじめとする「殺菌剤又は制菌剤又は洗浄剤」を添加する「供給ポンプ28」と、「圧力交換式エネルギー回収ユニット4」から排出される「濃縮排水16」に、「必要に応じて」「第1中和液タンク29」から中和液を添加して「中和処理」を行う「供給ポンプ30」([0046][0047])を有するものが記載されている。


ii)「クロラミン」をはじめとする「殺菌剤又は制菌剤又は洗浄剤」は、少なくとも「半透膜ユニット9」を殺菌等できる濃度で「第1薬液タンク27」「供給ポンプ28」から供給され、それは殺菌等の確実性から当該濃度より高めといえ、「半透膜ユニット9」からの「濃縮水」には殺菌等により消費された残部の濃度の同剤が含まれ、その残部の濃度が大きすぎる場合には、同「濃縮水」がさらに「圧力交換式エネルギー回収ユニット4」を通過した「濃縮排水16」に、「供給ポンプ30」から「第1中和液タンク29」の中和液を添加して、同剤の中和をしてから外部に排出されるものといえる。
したがって、同「濃縮水」には、殺菌等のために「一定濃度以上」にされた同剤が含まれているものといえる。
iii)「第1薬液タンク27」に接続される「供給ポンプ28」から被処理水に供給される「クロラミン」をはじめとする「殺菌剤又は制菌剤又は洗浄剤」は、被処理水が連続的に供給されるのだから、被処理水中の濃度が一様に保たれるために連続的に被処理水に添加されるといえる。
また、同剤の被処理水中の濃度を測定する手段が存在して測定が行われ、当該測定値を基にして、「半透膜ユニット9」の殺菌又は制菌又は洗浄のために被処理水への添加量を制御する手段が存在して当該制御が行われるのは当然のことといえる。
さらに、「供給ポンプ30」から「第1中和液タンク29」の中和液の供給量を決めることも必要だから、同剤の被処理水中の濃度を測定する手段は、「濃縮水」での濃度を測る必要があるといえる。
iv)上記i)のように、甲第1号証には、「淡水」を「低コスト」で製造する方法と装置が記載されるが、実質的にみて、当該装置は被処理水の処理システムともいえるものであり、「半透膜ユニット9」として「逆浸透膜」を用いることが好ましい([0032])ことから、当該装置と方法は、「淡水」を製造するための「逆浸透膜処理システム」と「逆浸透膜処理システムの運転方法」ともいうことができる。
v)以上を総合し、訂正された請求項1及び4の記載に則して整理すれば、甲第1号証には、次の二つの発明が記載されていると認められる。

○「半透膜ユニットと、該半透膜ユニットの濃縮水が導入される圧力交換式エネルギー回収ユニットとを備えた逆浸透膜処理システムの運転方法において、
前記半透膜ユニットの被処理水に、前記圧力交換式エネルギー回収ユニットに導入される前記濃縮水の、クロラミンをはじめとする殺菌剤又は制菌剤又は洗浄剤の濃度が一定濃度以上となるように、クロラミンをはじめとする殺菌剤又は制菌剤又は洗浄剤を連続的に添加する逆浸透膜処理システムの運転方法。」(以下、「引用発明A」とし、本件訂正発明1ないし3の検討で用いる。)

○「半透膜ユニットと、該半透膜ユニットの濃縮水が導入される圧力交換式エネルギー回収ユニットとを備えた逆浸透膜処理システムにおいて、
前記半透膜ユニットの被処理水にクロラミンをはじめとする殺菌剤又は制菌剤又は洗浄剤を連続的に添加する供給ポンプと、前記圧力交換式エネルギー回収ユニットに導入される濃縮水のクロラミンをはじめとする殺菌剤又は制菌剤又は洗浄剤の濃度を測定する手段と、その測定値に基いて、前記供給ポンプにおけるクロラミンをはじめとする殺菌剤又は制菌剤又は洗浄剤の添加量を制御する手段とを設け、測定されるクロラミンをはじめとする殺菌剤又は制菌剤又は洗浄剤の濃度が一定濃度以上となるように、前記制御する手段により、前記供給ポンプにおけるクロラミンをはじめとする殺菌剤又は制菌剤又は洗浄剤の添加量が制御される逆浸透膜処理システム。」
(以下、「引用発明B」とし、本件訂正発明4ないし6の検討で用いる。)

(2)本件訂正発明1と引用発明Aとの対比
i)引用発明Aの「半透膜ユニット」、「圧力交換式エネルギー回収ユニット」は、本件訂正発明1の「逆浸透膜装置」、「エネルギー回収装置」にそれぞれ相当する。
ii)引用発明Aの「前記半透膜ユニットの被処理水に、前記圧力交換式エネルギー回収ユニットに導入される前記濃縮水の、クロラミンをはじめとする殺菌剤又は制菌剤又は洗浄剤の濃度が一定濃度以上となるように、クロラミンをはじめとする殺菌剤又は制菌剤又は洗浄剤を連続的に添加する」と、本件訂正発明1の「前記逆浸透膜装置の被処理水に、前記エネルギー回収装置に導入される前記濃縮水の残留ハロゲン濃度が全塩素換算濃度で0.2?34mg/Lとなるように、結合塩素系スライムコントロール剤を連続的に添加する」は、「前記逆浸透膜装置の被処理水に、前記エネルギー回収装置に導入される前記濃縮水」に添加されている薬剤を「連続的に添加する」ものである点で、両者は一致する。
iv)以上から、本件訂正発明1と引用発明Aとは、
「逆浸透膜装置と、該逆浸透膜装置の濃縮水が導入されるエネルギー回収装置とを備えた逆浸透膜処理システムの運転方法において、
前記逆浸透膜装置の被処理水に、前記エネルギー回収装置に導入される前記濃縮水に添加されている薬剤を、連続的に添加する逆浸透膜処理システムの運転方法。」である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点1>「逆浸透膜装置の被処理水」に「添加」される「薬剤」について、本件訂正発明1では「結合塩素系スライムコントロール剤」であるのに対して、引用発明Aでは「クロラミン」をはじめとする「殺菌剤又は制菌剤又は洗浄剤」である点。

<相違点2>「エネルギー回収装置に導入される前記濃縮水に添加されている薬剤の濃度」について、本件訂正発明1では、「残留ハロゲン濃度が全塩素換算濃度で0.2?34mg/L」になるようにされるのに対して、引用発明Aでは「一定濃度以上」とされて濃度が不明である点。

(3)相違点の検討
事案に鑑み、相違点2について検討する。
甲第3号証には、「耐塩素性の低いポリアミド系高分子等を素材とする透過膜においても、透過膜を損傷することなく、微生物による汚染を有効に防止し得る膜分離用スライム防止剤」(【0001】)として「塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とからなる結合塩素剤」を「膜分離装置への給水又は洗浄水に添加して透過膜に供給することにより、ポリアミド系高分子膜等の耐塩素性の低い透過膜においても、透過膜の劣化を引き起こすことなく、微生物による透過膜の汚染を防止」できる(【0010】)ことが記載されている。
そして、「膜分離用スライム防止剤」としての効果についてみると、「実施例1」として、「次亜塩素酸ナトリウム」と「スルファミン酸ナトリウム」でなる「スライム防止剤」を「市水」に添加し、「ポリアミド系逆浸透膜」による透過実験を行ったところ、「除去率(脱塩率)も99.7%以上を維持」し、「透過膜の劣化、除去率の低下は確認され」ず、「微生物の増殖によるスライム障害の発生は確認され」ず(【0051】?【0057】)、その際の「全残留塩素濃度」は「40?100mg-Cl/L」(【図2】(b))であったことが記載されている。
すると、甲第3号証には、「ポリアミド系逆浸透膜」で「市水」を透過するときに、「次亜塩素酸ナトリウム」と「スルファミン酸ナトリウム」でなる「スライム防止剤」を「全残留塩素濃度」が「40?100mg-Cl/L」になるように添加すると、十分な脱塩率が得られ、「透過膜の劣化、除去率の低下」なしに「微生物の増殖によるスライム障害の発生」を防止できるという効果が奏されるという技術手段が記載されているといえる。
しかしながら、当該技術手段における「全残留塩素濃度」を、「40?100mg-Cl/L」から「0.2?34mg/L」にまで薄めることの動機付けは見いだせない。
すると、「クロロスルファミン酸塩系酸化剤」はスライム防止効果と併せて殺菌効果があること(甲第4号証【0008】後述の「2-3-3.i)?」参照。)、逆浸透膜の劣化を防止しつつスライムの発生を防止することは周知の課題であること(甲第3号証【0010】、甲第4号証【0008】、甲第5号証【0007】後述の「3-2-2.ii)」参照、甲第6号証【0011】後述の「3-2-2.iii)」参照、甲第9号証【0008】後述の「3-2-1.(2)ii)」参照)が知られていたとしても、引用発明Aに甲第3号証に記載の技術手段を適用して「全塩素換算濃度で0.2?34mg/L」に想到し得るものとはいえない。
よって、相違点1について検討するまでもなく、引用発明Aにおいて、相違点2を解消することが容易想到であるものとはいえない。

(4)結言
以上から、本件訂正発明1は、周知技術(甲第4号証、甲第3ないし6号証、甲第9号証に記載)を考慮しても、甲第1号証に記載された発明に甲第3号証に記載された技術手段を適用して当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2-3-2.本件訂正発明1(#2の論理)について
#2の論理の概要は、本件訂正発明1は、甲第1号証に記載された発明に基いて容易に成し得るとするものだが、上記「2-3-1.」でみたように、少なくとも相違点2を解消することについて、甲第1号証には記載も示唆もない。
よって、本件訂正発明1は、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2-3-3.本件訂正発明1(#3の論理)について
#3の論理の概要は、本件訂正発明1は、甲第1号証に記載された発明に、甲第4号証に記載された技術手段を適用して容易に成し得るとするものだから、上記「2-3-1.(1)」で検討した相違点1及び2について、甲第4号証を以下に検討する。

i)事案に鑑み、相違点2について検討する。
甲第4号証には、「工水、市水等」の原水(【0005】)から「液晶や半導体などを製造する電子産業分野」で使用される「超純水ないし純水」を「逆浸透(RO)膜分離装置」によって製造(【0001】?【0003】)する装置又は方法において、「・・・特許文献3(当審注:甲第3号証)に記載されるクロロスルファミン酸塩系酸化剤であれば・・・安定した微生物の殺菌・増殖抑制効果を得ることができ、また・・・耐塩素性の低いポリアミド系高分子等を素材とする透過膜を用いる場合においても、透過膜の酸化劣化を回避することができ、効率良く膜分離を行うことが可能」(【0008】)であることが記載されている。
ii)そして「クロロスルファミン酸塩系酸化剤」の効果についてみると、「実施例1」(【図1】)として以下の図面に記載される「水処理装置」において、「工水」を原料水とし、「第1のRO膜分離装置5」(【0055】より芳香族ポリアミド超低圧RO膜である)の給水に、「次亜塩素酸ナトリウム2重量%(有効塩素濃度として)、スルファミン酸8重量%、及び水酸化ナトリウム1重量%を含むpH13の水溶液からなるクロロスルファミン酸塩系酸化剤」を添加(【0054】?【0056】)し、「第1のRO膜分離装置5」からの「濃縮水槽9」を経た「濃縮水」に、「還元剤(NaHSO_(3))」の添加を行った後の「第2のRO膜分離装置」への給水の「クロロスルファミン酸塩系酸化剤」の濃度が40mg/L程度(【図2(b)】、【0058】)であり、「第2のRO膜分離装置に導入される給水中に適当量の酸化剤を存在させて、膜の酸化劣化を引き起こすことなく、酸化剤による微生物の殺菌・増殖抑制効果を有効に発揮させて膜汚染を防止」できる(【0061】)ことが記載されている。


iii)すると、甲第4号証には、「次亜塩素酸ナトリウム2重量%(有効塩素濃度として)」を含む「クロロスルファミン酸塩系酸化剤」を添加した「工水」を「芳香族ポリアミド超低圧RO膜」で透過して「超純水ないし純水」を製造するときに、同RO膜の「濃縮水」の「クロロスルファミン酸塩系酸化剤」の濃度が40mg/L程度になり、これにより「第2のRO膜分離装置」で「膜の酸化劣化を引き起こすことなく、酸化剤による微生物の殺菌・増殖抑制効果を有効に発揮させて膜汚染を防止」できること、及び、「クロロスルファミン酸塩系酸化剤」は「全残留塩素濃度」換算で40mg/L×(2/100)=0.8mg/Lの濃度で、「第2のRO膜分離装置」に給水される前の「第1のRO膜分離装置」の「濃縮水」に添加されているという技術手段が記載されているといえる。
iv)しかしながら、引用発明Aは、主として飲用水を製造するために、「海水と河川水」のような比較的微生物や不純物の多く含まれる「複数種の原水」から「淡水」を「エネルギー回収装置」を用いて「低コスト」で製造する方法と装置(甲第1号証の[0001][0002][0008][0009])に関する発明であるのに対して、甲第4号証に記載された技術手段は、電子産業で用いられる「超純水ないし純水」を製造するために、「工水、市水等」のような微生物や不純物の少ない原水から「超純水ないし純水」を「逆浸透(RO)膜分離装置」によって製造する装置又は方法(甲第4号証【0001】【0003】【0005】)に関する技術手段であるので、両者は、製造される水の用途が異なることから、その原水の性質が全く異なる。
v)してみると、甲第4号証に記載された技術手段における「超純水ないし純水」になる「きれい」な原水に対して、その濃縮水において「クロロスルファミン酸塩系酸化剤」を「全残留塩素濃度」で「0.8mg/L」となるように添加することによって「微生物の殺菌・増殖抑制効果を有効に発揮させて膜汚染を防止」できたとしても、引用発明Aの「淡水」を得られればよい原水に対して、同剤が同じくその濃縮水において「0.8mg/L」となるようにすることや、その結果「半透膜ユニット」と「圧力交換式エネルギー回収ユニット」におけるスライム防止が可能であることを当業者は予測できない。
vi)したがって、引用発明Aにおいて、甲第4号証に記載の「超純水ないし純水」の製造に用いる「クロロスルファミン酸塩系酸化剤」の濃度を適用することは、その動機付けも作用効果の予測性もないものといえる。
vii)よって、本件訂正発明1は、甲第1号証に記載された発明に甲第4号証に記載された技術手段を適用して当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2-3-4.本件訂正発明1(#4の論理)について
#4の論理の概要は、本件訂正発明1は、甲第1号証に記載された発明に甲第7号証に記載の技術手段を適用して容易に成し得るとするものである。 ここで、本件の経緯をみるに、訂正前の請求項1に記載された発明は「結合塩素系のスライムコントロール剤」と「安定化臭素系のスライムコントロール剤」を共に特定事項としていたが、「安定化臭素系のスライムコントロール剤」については本件の優先権主張の基礎出願に記載がなく(甲第11号証を参照)、「安定化臭素系のスライムコントロール剤」については本件の優先権主張の効果が認められないため、公開日が本件の国際出願日と本件優先権主張日の間であって「安定化臭素系のスライムコントロール剤」について記載のある甲第7号証を公知文献として、甲第1号証に記載された発明に甲第7号証に記載の技術手段を適用して訂正前の請求項1に記載された発明は当業者が容易に発明をすることができる旨の取消理由が通知されたものである。
しかしながら、本件訂正発明1は「結合塩素系のスライムコントロール剤」を特定事項として、「安定化臭素系のスライムコントロール剤」を特定事項としないから、優先権主張の効果が認められるため、本件訂正発明1に対して甲第7号証は公知文献ではない。
よって、本件訂正発明1は、甲第1号証に記載された発明に甲第7号証に記載された技術手段を適用して当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2-3-5.本件訂正発明2(#8の論理)について
#8の論理の概要は、本件訂正発明2は、甲第5号証又は甲第6号証に記載の技術手段を考慮すれば、甲第1号証に記載された発明に甲第3号証に記載の技術手段を適用して容易に成し得るとするものである。
ここで、甲第5号証(下記「3-2-2.ii)」参照)には、逆浸透膜のスライム防止剤として安定化臭素系スライムコントロール剤(ブロモスルファメート)を被処理水に添加し、逆浸透膜の濃縮水がエネルギー回収装置(タービン圧ブースター)に流入すること(【0013】、【図3-1】等)が記載され、甲第6号証(下記「3-2-2.iii)」参照)には、逆浸透膜のスライム抑制剤(スライムコントロール剤)として、次亜臭素酸安定化組成物を用いることが記載されている([0001]等)のみで、「全塩素換算濃度で0.2?34mg/Lとなるように、結合塩素系スライムコントロール剤を連続的に添加する」ことが示唆されるものではない。
すると、本件訂正発明2は本件訂正発明1を引用するから、上記「2-3-1.」でみたように本件訂正発明1が甲第1号証に記載された発明に甲第3号証に記載された技術手段を適用して当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、甲第5号証又は甲第6号証に記載の技術手段を考慮しても、本件訂正発明2は、甲第1号証に記載された発明に甲第3号証に記載の技術手段を適用して容易に発明をすることができたものとはいえない。

2-3-6.本件訂正発明3(#10の論理)について
#10の論理の概要は、本件訂正発明3は、甲第1号証に記載された発明に基いて容易に成し得るとするものである。
しかし、本件訂正発明3は本件訂正発明1又は2を引用するから、上記「2-3-1.」でみたように、本件訂正発明1が甲第1号証に記載された発明のみから容易に成し得るとはいえないから、本件訂正発明3も同様に、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2-4.進歩性要件についての取消理由の判断についての結言
以上より、本件訂正発明1ないし3について、取消理由に記載した進歩性要件に関する取消理由は妥当せず、当該取消理由は解消された。

3.取消理由において採用しなかった特許異議申立理由について
取消理由において採用しなかった特許異議申立理由は、上記表「本件異議申立における進歩性要件違反についての論理構成」における#5-7,9,11-17の論理であるので、以下に述べる。

3-1.甲第2号証に記載された発明を主引例とする論理について
甲第2号証に記載された発明を主引例とする論理は#5-7,9,11,13,15,17である。
i)甲第2号証には、「海水、かん水、下廃水処理水等の原水を脱塩処理するときの水質評価技術に関し、特に原水のバイオフィルム形成をモニタリングする装置、及びその評価結果に基づく逆浸透膜ろ過プラントの運転方法」に関して記載されており、以下に示す甲第2号証に記載された「本発明の運転方法を採用している海水淡水化用の逆浸透膜プラントのフロー図の一例」([0042])において、「バイオフィルム形成基材を収容した通水容器16a?16e」([0066])を設置し、各設置箇所でのバイオフィルム量を測定し評価して、「原水取水部100、前処理部200、および逆浸透膜ろ過部300からなる群から選ばれる少なくとも1つの工程の運転制御を行う」([0066])ことで、「通水容器の一部を分割して取出すことでバイオフィルム形成基材に直接触れるリスクが少なく、外側からハンドリングできるため、操作性が大幅に向上し、その結果、逆浸透膜ろ過プラントの運転制御をより簡便に行うことができる。」([0026])ものである。


ii)そして、同「運転方法」により運転されるプラントにおいては、「殺菌剤溶液貯槽10」から被処理水に殺菌剤が添加([0050])され、当該殺菌剤を添加された被処理水は「逆浸透膜モジュール11」で「透過水と非透過水とに分離」([0053])され、「透過水」はさらに必要な薬剤の添加後に「飲料水基準に適合するような淡水」として取り出される([0054])が、上記「殺菌剤」を添加されている「非透過水」は「必要に応じて逆浸透膜非透過水無害化溶液貯槽31、逆浸透膜非透過水無害化溶液供給ポンプ34を備えた逆浸透膜非透過水無害化処理槽32でpHを調整したり、殺菌剤を無害化する処理を経た後、逆浸透膜非透過水排水管33、濃縮水出口503を通って海へ廃棄」([0053])される。
iii)また、「非透過水」に添加されている上記殺菌剤は、「通水容器16b、および/または、通水容器16cを設置した場合、通水容器の通水面上のバイオフィルム量の推移に基づいて、その大小から、殺菌剤添加の条件を、強めたり弱めたりすることも可能」である([0100])ものである。
iv)さらに、上記「逆浸透膜モジュール11」の「非透過水」について、「逆浸透膜の非透過水は圧力エネルギーを有しており、運転コストの低減化のためには、このエネルギーを回収することが好ましい。エネルギー回収の方法としては任意の部分の高圧ポンプに取り付けたエネルギー回収装置で回収することもできるが、高圧ポンプの前後や、モジュール間に取り付けた専用のタービンタイプのエネルギー回収ポンプで回収することが好ましい。」([0061])と記載されており、上記プラントは「エネルギー回収装置」を備え得るものであるといえるが、「エネルギー回収装置」について他の記載は見いだせず、上記[図1]中にも図示されていない。
v)すると、上記iv)からは、「逆浸透膜モジュール11」からの「非透過水」に対して、プラント内のどこに、どのような状況で「エネルギー回収装置」が配置されるのか明らかではなく、また、「非透過水」が「逆浸透膜モジュール11」から直ちに「エネルギー回収装置」に流入すると仮定しても、上記「殺菌剤」は「必要に応じて」「無害化する処理を経」る(上記ii)を参照)ものの、上記iii)から、「逆浸透膜モジュール11」の「バイオフィルム」に対処するに十分な濃度に止まるものといえる。
vi)よって、甲第2号証に記載された発明において、「逆浸透膜モジュール11」からの「非透過水」が、「エネルギー回収装置」にその内部を十分に殺菌できるように流入していることについて記載も示唆も認められない。
また、上記の点について、甲第3号証(「2-3-1.(3)」参照。)、甲第4号証(「2-3-3.i)?」参照。)、甲第5号証(「3-2-2.ii)」参照。)、甲第6号証(「3-2-2.iii)」参照。)、甲第7号証(「2-3-4.」参照。)、甲第9号証(「3-2-1.(2)ii)」参照。)、甲第10号証(「3-2-1.(2)iii)」参照。)にも記載や示唆は認められない。

以上から、甲第2号証に記載された発明を主引例とする#5-7,9,11,13,15,17の論理からは、本件訂正発明1ないし6は当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

3-2.甲第1号証に記載された発明を主引例とする他の論理について
3-2-1.本件訂正発明4(#12の論理)について
#12の論理の概要は、本件訂正発明4は、甲第1号証に記載された発明及び甲第4号証と甲第9ないし10号証に記載された周知技術に基いて容易に成し得るとするものだから、甲第1号証については上記「2-3-1.」で検討した引用発明Bを援用し、甲第4号証について上記「2-3-3.i)?」を援用し、甲第9ないし10号証について以下に検討する。
(1)本件訂正発明4と引用発明Bとの対比
甲第1号証に記載された引用発明B(上記「2-3-1.(1)v)」を参照。)を再掲する。
<引用発明B>
「半透膜ユニットと、該半透膜ユニットの濃縮水が導入される圧力交換式エネルギー回収ユニットとを備えた逆浸透膜処理システムにおいて、
前記半透膜ユニットの被処理水にクロラミンをはじめとする殺菌剤又は制菌剤又は洗浄剤を連続的に添加する供給ポンプと、前記圧力交換式エネルギー回収ユニットに導入される濃縮水のクロラミンをはじめとする殺菌剤又は制菌剤又は洗浄剤の濃度を測定する手段と、その測定値に基いて、前記供給ポンプにおけるクロラミンをはじめとする殺菌剤又は制菌剤又は洗浄剤の添加量を制御する手段とを設け、測定されるクロラミンをはじめとする殺菌剤又は制菌剤又は洗浄剤の濃度が一定濃度以上となるように、前記制御する手段により、前記供給ポンプにおけるクロラミンをはじめとする殺菌剤又は制菌剤又は洗浄剤の添加量が制御される逆浸透膜処理システム。」

i)引用発明Bの「半透膜ユニット」、「圧力交換式エネルギー回収ユニット」、「供給ポンプ」は、本件訂正発明4の「逆浸透膜装置」、「エネルギー回収装置」、「薬注手段」にそれぞれ相当する。
ii)引用発明Bの「前記半透膜ユニットの被処理水にクロラミンをはじめとする殺菌剤又は制菌剤又は洗浄剤を連続的に添加する供給ポンプと、前記圧力交換式エネルギー回収ユニットに導入される濃縮水のクロラミンをはじめとする殺菌剤又は制菌剤又は洗浄剤の濃度を測定する手段と、その測定値に基いて、前記供給ポンプにおけるクロラミンをはじめとする殺菌剤又は制菌剤又は洗浄剤の添加量を制御する手段とを設け、測定されるクロラミンをはじめとする殺菌剤又は制菌剤又は洗浄剤の濃度が一定濃度以上となるように、前記制御する手段により、前記供給ポンプにおけるクロラミンをはじめとする殺菌剤又は制菌剤又は洗浄剤の添加量が制御される」と、
本件訂正発明4の「前記逆浸透膜装置の被処理水に結合塩素系スライムコントロール剤を連続的に添加する薬注手段と、前記エネルギー回収装置に導入される濃縮水の残留ハロゲン濃度を測定する残留ハロゲン濃度測定手段と、該残留ハロゲン濃度測定手段の測定値に基いて、前記薬注手段におけるスライムコントロール剤の添加量を制御する制御手段とを設け、前記残留ハロゲン濃度測定手段で測定される残留ハロゲン濃度が全塩素換算濃度で0.2?34mg/Lとなるように、前記制御手段により、前記薬注手段におけるスライムコントロール剤の添加量が制御される」とは、
「前記逆浸透膜装置の被処理水に薬剤を連続的に添加する薬注手段と、前記エネルギー回収装置に導入される濃縮水の薬剤の濃度を測定する測定手段と、該測定手段の測定値に基いて、前記薬注手段における薬剤の添加量を制御する制御手段とを設け、前記測定手段で測定される薬剤の濃度が特定の濃度となるように、前記制御手段により、前記薬注手段における薬剤の添加量が制御される」点で一致する。
iv)以上から、本件訂正発明4と引用発明Bとは、
「逆浸透膜装置と、該逆浸透膜装置の濃縮水が導入されるエネルギー回収装置とを備えた逆浸透膜処理システムにおいて、
前記逆浸透膜装置の被処理水に薬剤を連続的に添加する薬注手段と、前記エネルギー回収装置に導入される濃縮水に添加されている薬剤の濃度を測定する手段と、該測定手段の測定値に基いて、前記薬注手段における薬剤の添加量を制御する制御手段とを設け、前記測定手段で測定される薬剤の濃度が特定の濃度となるように、前記制御手段により、前記薬注手段における薬剤の添加量が制御される逆浸透膜処理システム。」の点で一致し、次の点で相違する。

<相違点1’>「逆浸透膜装置の被処理水」に「添加」される「薬剤」について、本件訂正発明4では「結合塩素系スライムコントロール剤」であるのに対して、引用発明Bでは「クロラミン」をはじめとする「殺菌剤又は制菌剤又は洗浄剤」である点。

<相違点2’>「エネルギー回収装置に導入される濃縮水に添加されている薬剤の濃度」について、本件訂正発明1では、「残留ハロゲン濃度が全塩素換算濃度で0.2?34mg/L」になるようにされるのに対して、引用発明Bでは「一定濃度以上」とされて濃度が不明である点。

(2)相違点の検討
i)相違点1’及び相違点2’は、上記「2-3-1.(2)」で検討した相違点1及び相違点2と同一である。
そこで、事案に鑑み相違点2’について検討する。
引用発明Bは甲第1号証に記載された発明であり、同じく甲第1号証に記載された引用発明Aと同様に「淡水」の製造に関するものである。
すると、上記「2-3-3.」で検討したように、引用発明Bにおける「淡水」の製造に、甲第4号証に記載の「超純水ないし純水」の製造に用いる「クロロスルファミン酸塩系酸化剤」の濃度についての技術手段を適用することはできないものといえる。
ii)次に、甲第9号証について検討する。
甲第9号証には、「電子部品製造工場などから排出される工場排水や下水処理排水などの排水、又は、海水など」(【0025】)を被処理水として「飲料水、工業用洗浄水、工業用水などの用途で使用される」水(【0027】)を製造する「逆浸透膜の詰まりを低下させしかも逆浸透膜の劣化を抑えつつ水処理を行うことができる水処理方法」(【0008】)において、被処理水に酸化剤として「ハロゲン化スルファミン酸化合物」(【0040】【0044】)を添加し、その添加量を「逆浸透膜ユニット3」での圧力損失に応じて変化させる(【0035】?【0039】)ことで処理することが記載されている。
また、添加される酸化剤の濃度は「逆浸透膜ユニット3」の濃縮水について計測される(【図1】【0048】【0056】【0058】)が、当該濃度は酸化剤の量で記載されており、本件訂正発明の「全塩素換算濃度」に換算するためには上記「2-3-3.iii)」でみたように有効塩素濃度としてのハロゲンの濃度(例えば「ハロゲン化スルファミン酸化合物」を形成する原料としての「次亜塩素酸ナトリウム」の濃度)を要するが、それは甲第9号証に記載が無い。
よって、甲第9号証に記載される「逆浸透膜ユニット」の濃縮水に添加された「ハロゲン化スルファミン酸化合物」の「全塩素換算濃度」は不明であり、しかも圧力損失により変化するものであるから、本件訂正発明4の「濃縮水」の「残留ハロゲン濃度が全塩素換算濃度で0.2?34mg/L」であること示すものではない。
iii)次に、甲第10号証について検討する。
甲第10号証には、「河川水、井水、海水等を供給して脱塩水を得る逆浸透装置の運転方法」(1頁左下欄11-13行)に関して、「逆浸透装置に供給する原水に滅菌用塩素を間欠的に注入し該間欠的塩素注入を塩素注入時逆浸透装置より流出する濃縮水中の塩素が検出されるまで継続することを特徴とする逆浸透装置の運転方法。」【特許請求の範囲】を採用することで、「間欠的に供給原水中に塩素を注入することにより、逆浸透膜の酸化劣化を防ぐとともに、滅菌が不充分とならぬよう、塩素注入時には、濃縮水中に塩素が検出されるまで塩素の注入を継続し、逆浸透膜の微生物による侵食、有機物等の付着による製造水量の低下、圧力損失の増加を防止する」こと(2頁右上欄19行-左下欄6行)が記載されており、「濃縮水中の塩素濃度」を計測すること(2頁右下欄3行-14行)も記載されている。
よって、甲第10号証には、本件訂正発明4の「濃縮水」の「残留ハロゲン濃度が全塩素換算濃度で0.2?34mg/L」であることを示すものはない。
iv)以上から、甲第9、10号証に記載された技術手段により、濃縮水の残留ハロゲン濃度を測定し、それに応じてスライムコントロール剤の添加量を制御することは周知であるとしても、本件訂正発明4の「濃縮水」の「残留ハロゲン濃度が全塩素換算濃度で0.2?34mg/L」であることは示唆されるものではない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件訂正発明4の「濃縮水」の「残留ハロゲン濃度が全塩素換算濃度で0.2?34mg/L」であることについて、甲第4号証と甲第9ないし10号証に記載された技術手段のいずれも示すものでなく、また、当業者が容易に想到し得るものともいえない。

(3)結言
以上から、本件訂正発明4は、甲第1号証に記載された発明及び甲第4号証と甲第9ないし10号証に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

3-2-2.本件訂正発明5(#14の論理)について
#14の論理の概要は、本件訂正発明5は、甲第1号証に記載された発明、甲第3ないし7号証に記載された技術手段、及び甲第9ないし10号証に記載された周知技術に基いて容易に発明をすることができたとするものだから、甲第1号証に関して上記「2-3-1.(1)v)」「3-2-1.」の引用発明Bと各相違点及び甲第9ないし10号証について援用し、甲第3号証について上記「2-3-1.(3)」を援用し、甲第4号証について「2-3-3.」を援用し、甲第7号証について上記「2-3-4.」を援用し、甲第5号証、甲第6号証について検討する。
i)本件訂正発明5は本件訂正発明4を引用するから、本件訂正発明5と引用発明Bとは上記「3-2-1.」でみたように各相違点を有するところ、事案に鑑み相違点2’について検討すると、
甲第4号証については、上記「2-3-3.」「3-2-1.」で検討したように、引用発明Bにおける「淡水」の製造に、甲第4号証に記載の「超純水ないし純水」の製造に用いる「クロロスルファミン酸塩系酸化剤」の濃度についての技術手段を適用することは直ちにはできるものではないから、甲第4号証から「濃縮水」の「残留ハロゲン濃度が全塩素換算濃度で0.2?34mg/L」であること示唆されない。
また、甲第3号証については、「3-2-1.(2)」でみたように相違点2’は相違点2と同一だから、「2-3-1.(3)」でみたように甲第3号証から「濃縮水」の「残留ハロゲン濃度が全塩素換算濃度で0.2?34mg/L」であることは示唆されない。
ii)甲第5号証には、「地表の汽水(入り江、湾、小川、等)および海水」(【0004】)から、「飲用および工業用の両方に使用する清浄水」(【0002】)を製造するのに、「酸化性ハロゲン含有殺菌剤物質を、海水流中に、逆浸透メンブランから上流で、該メンブランの近くで、または接触して総ハロゲン0.05?4ppm、好ましくは総ハロゲン0.1?2ppm、最も好ましくは総ハロゲン0.5?1ppmを与えるように供給する」(【0015】)ことで、「メンブランの寿命を大幅に短縮すること」なく(【0018】)、「生物被膜を除去する」ことが除去できる(【0007】)ことが記載され、「酸化性ハロゲン含有殺菌剤物質」として「本発明の目的に好ましい化合物は、ブロモクロロジメチルヒダントイン(BCDMH)である。」(【0013】)こと、「容器#3」内のRO膜の「濃縮水」が「タービン圧ブースター」に流入すること(【0040】【図3-1】)が記載され、実施例も「ブロモクロロジメチルヒダントイン(BCDMH)」についてのものである。
すると、甲第5号証に記載されるのは、「逆浸透メンブランから上流」で
「ブロモクロロジメチルヒダントイン(BCDMH)」を「総ハロゲン0.05?4ppm」で添加すると、「メンブランの寿命を大幅に短縮すること」なく「生物被膜を除去」できることで、「逆浸透メンブラン」からの濃縮水における濃度について言及するものではないから、甲第3号証から「濃縮水」の「残留ハロゲン濃度が全塩素換算濃度で0.2?34mg/L」であることは示唆されない。
iii)甲第6号証には、「RO膜等の分離膜のスライム抑制方法」([0008])として「次亜塩素酸をスルファミン酸で安定化させたクロロスルファミン酸等の結合塩素系の酸化系薬剤によるスライム抑制処理も提案されている(特許文献7)。これら結合塩素系の酸化系薬剤は膜の劣化への影響は小さいが、スライム抑制効果が不十分である。」([0011])ので、「分離膜を備える膜分離装置への給水または洗浄水中に、前記次亜臭素酸安定化組成物の製造方法で得られた次亜臭素酸安定化組成物、または前記次亜臭素酸安定化組成物を存在させることにより、分離膜の劣化、処理水(透過水)や濃縮水等の水質悪化を抑制し、十分なスライム抑制効果を得ることができる。」([0033])ことが記載されている。
すると、甲第6号証に記載されるのは、「RO膜等の分離膜のスライム抑制方法」に「次亜臭素酸安定化組成物」を用いて「分離膜の劣化」を抑制し、「スライム抑制効果」を得ることであって、「RO膜」の濃縮水に「結合塩素系スライムコントロール剤」を添加することについての記載は無いから、甲第6号証から「濃縮水」の「残留ハロゲン濃度が全塩素換算濃度で0.2?34mg/L」であることは示唆されない。
iv)甲第7号証については、上記「2-3-4.」でみたように、本件訂正発明5は「安定化臭素系のスライムコントロール剤」を特定事項としないから、同号証は公知文献でなく、そもそも証拠として採用されない。
v)甲第9、10号証については、上記「3-2-1.(2)ii)iii)」を援用すると、「濃縮水」の「残留ハロゲン濃度が全塩素換算濃度で0.2?34mg/L」であることは示唆されない。
vi)以上から、引用発明Bにおいて、甲第3ないし7号証に記載された技術手段、及び甲第9ないし10号証に記載された周知技術を適用しても、「濃縮水」の「残留ハロゲン濃度が全塩素換算濃度で0.2?34mg/L」であることに想到し得ないといえる。
vii)以上から、本件訂正発明5は、甲第1号証に記載された発明、甲第3ないし7号証に記載された技術手段、及び甲第9ないし10号証に記載された周知技術に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。

3-2-3.本件訂正発明6(#16の論理)について
#16の論理の概要は、本件訂正発明6は、甲第1号証に記載された発明に基いて容易に成し得るとするものである。
しかし、本件訂正発明6は本件訂正発明4又は5を引用するから、上記「3-2-1.」「3-2-2.」でみたように、本件訂正発明4及び5が甲第1号証に記載された発明から容易に成し得るとはいえないから、本件訂正発明6も同様に、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、訂正された本件請求項1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に、訂正された本件請求項1ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
逆浸透膜装置と、該逆浸透膜装置の濃縮水が導入されるエネルギー回収装置とを備えた逆浸透膜処理システムの運転方法において、
前記逆浸透膜装置の被処理水に、前記エネルギー回収装置に導入される前記濃縮水の残留ハロゲン濃度が全塩素換算濃度で0.2?34mg/Lとなるように、結合塩素系スライムコントロール剤を連続的に添加することを特徴とする逆浸透膜処理システムの運転方法。
【請求項2】
請求項1において、前記スライムコントロール剤がクロロスルファミン酸塩系スライムコントロール剤であることを特徴とする逆浸透膜処理システムの運転方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記逆浸透膜処理システムが海水の淡水化のための逆浸透膜処理システムであることを特徴とする逆浸透膜処理システムの運転方法。
【請求項4】
逆浸透膜装置と、該逆浸透膜装置の濃縮水が導入されるエネルギー回収装置とを備えた逆浸透膜処理システムにおいて、前記逆浸透膜装置の被処理水に結合塩素系スライムコントロール剤を連続的に添加する薬注手段と、前記エネルギー回収装置に導入される濃縮水の残留ハロゲン濃度を測定する残留ハロゲン濃度測定手段と、該残留ハロゲン濃度測定手段の測定値に基いて、前記薬注手段におけるスライムコントロール剤の添加量を制御する制御手段とを設け、前記残留ハロゲン濃度測定手段で測定される残留ハロゲン濃度が全塩素換算濃度で0.2?34mg/Lとなるように、前記制御手段により、前記薬注手段におけるスライムコントロール剤の添加量が制御されることを特徴とする逆浸透膜処理システム。
【請求項5】
請求項4において、前記スライムコントロール剤がクロロスルファミン酸塩系スライムコントロール剤であることを特徴とする逆浸透膜処理システム。
【請求項6】
請求項4又は5において、海水の淡水化のための逆浸透膜処理システムであることを特徴とする逆浸透膜処理システム。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-08-21 
出願番号 特願2016-517009(P2016-517009)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C02F)
P 1 651・ 121- YAA (C02F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 片山 真紀  
特許庁審判長 大橋 賢一
特許庁審判官 中澤 登
瀧口 博史
登録日 2016-07-15 
登録番号 特許第5967337号(P5967337)
権利者 栗田工業株式会社
発明の名称 逆浸透膜処理システムの運転方法及び逆浸透膜処理システム  
代理人 重野 剛  
代理人 重野 剛  
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