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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A01G
審判 全部申し立て 4号2号請求項の限定的減縮  A01G
審判 全部申し立て 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明  A01G
管理番号 1333218
異議申立番号 異議2017-700209  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-11-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-03-02 
確定日 2017-09-08 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5985348号発明「空気調和システムおよび植物栽培装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5985348号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 特許第5985348号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5985348号の請求項1ないし5に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、平成24年10月24日に特許出願され、平成28年8月12日にその特許権の設定登録がされた。
その後、その特許に対し、特許異議申立人大坪隆司(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされ、平成29年4月25日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年6月9日付けで意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)がされ、その後申立人に対し平成29年6月28日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)を送付し期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、申立人からは応答がなかったものである。


第2 訂正の適否についての判断
1 訂正内容
本件訂正請求による訂正内容は、以下の(1)及び(2)のとおりである。

(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を、
「栽培室内に栽培棚とともに設置される空気調和システムであって、
前記栽培棚の周囲を前記栽培棚の各段の棚上の各開口部以外からは空気が流れないように、かつ前記各段の棚上は閉鎖されないように閉鎖し、前記栽培棚の長手方向の位置に配置されて前記栽培室を2つの空間に仕切る隔壁と、
前記隔壁に設けられ、一方の空間に存在する空気を吸引し、圧縮して他方の空間へ供給することにより、2つの空間に圧力差を生じさせる空気圧縮手段とを含み、
生じた前記圧力差により、前記栽培棚の複数の棚上の各開口部を通して前記他方の空間から前記一方の空間へ流れる空気流を各前記棚上に形成させる、空気調和システム。」(下線は訂正箇所を示す。以下同様。)
に訂正する。

(2) 訂正事項2
明細書の課題を解決するための手段の欄の段落【0005】の記載を、
「本発明は、上記課題を解決するために、栽培室内に栽培棚とともに設置される空気調和システムであって、前記栽培棚の周囲を前記栽培棚の各段の棚上の各開口部以外からは空気が流れないように、かつ前記各段の棚上は閉鎖されないように閉鎖し、前記栽培棚の長手方向の位置に配置されて前記栽培室を2つの空間に仕切る隔壁と、前記隔壁に設けられ、一方の空間に存在する空気を吸引し、圧縮して他方の空間へ供給することにより、2つの空間に圧力差を生じさせる空気圧縮手段とを含み、生じた前記圧力差により、前記栽培棚の複数の棚上の各開口部を通して前記他方の空間から前記一方の空間へ流れる空気流を各前記棚上に形成させる、空気調和システムが提供される。」
に訂正する。

2 訂正の適否
(1) 訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項1は、訂正前の請求項1の
「前記栽培棚の周囲を閉鎖し、前記栽培室を2つの空間に仕切る隔壁」を、「前記栽培棚の周囲を前記栽培棚の各段の棚上の各開口部以外からは空気が流れないように、かつ前記各段の棚上は閉鎖されないように閉鎖し、前記栽培棚の長手方向の位置に配置されて前記栽培室を2つの空間に仕切る隔壁」に減縮する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無
訂正事項1について、「隔壁」が「前記栽培棚の周囲を前記栽培棚の各段の棚上の各開口部以外からは空気が流れないように、かつ前記各段の棚上は閉鎖されないように閉鎖し、前記栽培棚の長手方向の位置に配置されて前記栽培室を2つの空間に仕切る」ことは、
本件特許の明細書に、
「隔壁18は、・・・棚11の各段の棚上の各開口部20以外からは空気が流れないように閉鎖する。」(段落【0018】)、
「また、図2に示すように、各段の棚上は、隔壁18によって閉鎖されない・・・」(段落【0021】。)、
「隔壁18は、栽培棚11の長手方向のいずれの位置に配設されていてもよいが、図2に示すように、栽培棚11の周囲を閉鎖し、図1に示すように、栽培室10を2つの空間に仕切る。」(段落【0017】)、
と記載されているものである。
以上のように、訂正事項1に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。

ウ 特許請求の拡張・変更の存否
上記アで述べたように、訂正事項1に係る訂正は、特許請求の範囲を減縮するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2) 訂正事項2について
訂正事項2は、明細書の記載を訂正事項1の内容に整合させるものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3) 一群の請求項について
本件訂正請求は、「請求の趣旨」、及び「訂正の理由」の「一群の請求項についての説明」に記載されているとおり、一群の請求項である請求項[1?5]について訂正することを求めるものである。

(4) 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する特許法第126条第4項ないし第6項の規定に適合する。
よって、本件訂正請求による訂正を認める。


第3 特許異議の申立てについて
1 本件特許の請求項1ないし5に係る発明
上記第2のとおり本件訂正請求による訂正は認められるから、本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、訂正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下「本件訂正発明1」?「本件訂正発明5」という。)。

「【請求項1】
栽培室内に栽培棚とともに設置される空気調和システムであって、
前記栽培棚の周囲を前記栽培棚の各段の棚上の各開口部以外からは空気が流れないように、かつ前記各段の棚上は閉鎖されないように閉鎖し、前記栽培棚の長手方向の位置に配置されて前記栽培室を2つの空間に仕切る隔壁と、
前記隔壁に設けられ、一方の空間に存在する空気を吸引し、圧縮して他方の空間へ供給することにより、2つの空間に圧力差を生じさせる空気圧縮手段とを含み、
生じた前記圧力差により、前記栽培棚の複数の棚上の各開口部を通して前記他方の空間から前記一方の空間へ流れる空気流を各前記棚上に形成させる、空気調和システム。

【請求項2】
前記栽培室内には、前記栽培棚へ載置する栽培トレイと、前記栽培棚に載置された栽培トレイとを搬送するための2つの搬送装置が設置され、前記栽培室は、前記2つの搬送装置が移動するための2つのスペースを有し、前記2つのスペースは、前記2つの空間のそれぞれに存在し、前記各棚上に形成された空気の流路をつなぐヘッダーを形成する、請求項1に記載の空気調和システム。

【請求項3】
前記栽培室内を除湿するための除湿手段をさらに備える、請求項1または2に記載の空気調和システム。

【請求項4】
前記栽培室内に浮遊する浮遊物を除去するための浮遊物除去手段をさらに備える、請求項1?3のいずれか1項に記載の空気調和システム。

【請求項5】
植物を植栽するための栽培トレイが載置される複数段の棚を有する栽培棚と、請求項1?4のいずれか1項に記載の空気調和システムとを含む、植物栽培装置。」

2 取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし5に係る特許に対して平成29年4月25日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は次のとおりである。

・特許法第29条第2項(進歩性欠如)(同法第113条第2号)
本件請求項1ないし5に係る発明は、甲第1号証記載の発明及び周知技術(甲第2ないし8号証)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
甲第1号証:特公昭61-30533号公報
甲第2号証:特開平5-71762号公報
甲第3号証:特開平11-98924号公報
甲第4号証:特開2001-16981号公報
甲第5号証:特開2011-212012号公報
甲第6号証:登録実用新案3026502号公報
甲第7号証:特開平8-140478号公報
甲第8号証:特開2011-144957号公報

3 取消理由についての判断
(1) 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、申立人の主張のとおり、以下の発明が記載されている(異議申立書7頁11行から最下行)。
「発芽育成室6内に栽培棚とともに設置される自動制御システムであって、
前記栽培棚の周囲を閉鎖し、前記発芽育成室6を育成室8と発芽室7に仕切る隔壁12と、
育成室8に存在する空気を吸引し、圧縮して発芽室7へ供給することにより、発芽室7と育成室8に圧力差を生じさせるファン11とを含み、
生じた前記圧力差により、前記栽培棚の複数の棚上の各開口部を通して前記発芽室7から前記育成室8へ流れる空気流を各前記棚上に形成させ、
前記栽培室は、前記栽培棚へ載置する受け皿と、前記栽培棚に載置された受け皿とを搬送するための2つのスペースを有し、前記2つのスペースは、発芽室7と育成室8のそれぞれに存在し、前記各棚上に形成された空気の流路をつなぐヘッダーを形成する、自動制御システム。」

(2) 本件訂正発明1について
ア 対比・検討
本件訂正発明1と上記(1)で特定した甲第1号証記載の発明を対比すると、少なくとも、本件訂正発明1は、「栽培棚の長手方向の位置に配置されて栽培室を2つの空間に仕切る」「隔壁」が、「栽培棚の周囲の閉鎖」について、「栽培棚の周囲を栽培棚の各段の棚上の各開口部以外からは空気が流れないように、かつ各段の棚上は閉鎖されないように閉鎖」するものであるのに対し、甲第1号証記載の発明の「発芽育成室6を育成室8と発芽室7に仕切る隔壁12」は、「栽培棚の周囲の閉鎖」について、このような特定を有していない点で相違しているが(以下「相違点」という。)、当該相違点は、甲第2号証ないし甲第8号証にも記載されておらず、当業者にとり周知の技術でもない。したがって、甲第1号証記載の発明において、上記相違点に係る本件訂正発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。

イ 申立人の主張について
上記相違点に係る本件訂正発明1の構成である、「隔壁」が「前記栽培棚の周囲を前記栽培棚の各段の棚上の各開口部以外からは空気が流れないように、かつ前記各段の棚上は閉鎖されないように閉鎖し、前記栽培棚の長手方向の位置に配置されて前記栽培室を2つの空間に仕切る」ことは、上記第2で述べたように、本件訂正請求による訂正で減縮されたものである。
上記第1で述べたように、これについて期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、申立人からは応答がなかった。

ウ 小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明1は、甲第1号証記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3) 本件訂正発明2ないし5について
本件訂正発明2ないし5は本件訂正発明1を更に減縮あるいは引用するものであるから、上記(2)での検討と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4) 小括
以上のとおり、特許法第29条第2項(進歩性欠如)に係る取消理由によっては、訂正後の請求項1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。

(5) 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
特許異議申立理由は、全て取消理由において採用したので、取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由はない。


第4 むすび
したがって、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
空気調和システムおよび植物栽培装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の栽培室内に設置される空気調和システムおよびその空気調和システムを備えた植物栽培装置に関する。
【背景技術】
【0002】
植物を栽培するには、水、栄養分、光のほか、適当な温度や湿度、適量の二酸化炭素、適当な気流速が必要とされる。従来、栽培室の天井や壁に空気調和システム、送風機、二酸化炭素注入ノズル等を設置して、温度や湿度、気流速を調整し、適量の二酸化炭素を供給する技術が知られている(例えば、特許文献1?4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】 特開2011-147384号公報
【特許文献2】 特開2010-45989号公報
【特許文献3】 特開2004-329130号公報
【特許文献4】 特開2004-275119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
空気調和システム、送風機、二酸化炭素注入ノズル等の近傍では、適切に温度、湿度、二酸化炭素濃度、気流速が調整されるため、これらの値は、ほぼ一定に維持される。しかしながら、それらから離れた場所では、温度、湿度、二酸化炭素濃度、気流速はいずれも不均一となっている。その結果、それらの近傍と、それらから離れた場所とでは、栽培される植物の品質に大きなばらつきが生じていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するために、栽培室内に栽培棚とともに設置される空気調和システムであって、前記栽培棚の周囲を前記栽培棚の各段の棚上の各開口部以外からは空気が流れないように、かつ前記各段の棚上は閉鎖されないように閉鎖し、前記栽培棚の長手方向の位置に配置されて前記栽培室を2つの空間に仕切る隔壁と、前記隔壁に設けられ、一方の空間に存在する空気を吸引し、圧縮して他方の空間へ供給することにより、2つの空間に圧力差を生じさせる空気圧縮手段とを含み、生じた前記圧力差により、前記栽培棚の複数の棚上の各開口部を通して前記他方の空間から前記一方の空間へ流れる空気流を各前記棚上に形成させる、空気調和システムが提供される。
【発明の効果】
【0006】
本発明の空気調和システムおよびその空気調和システムを備える植物栽培装置を提供することにより、圧力差により空気流を形成するので、各棚上の気流速をほぼ均一にすることができ、これにより、温度、湿度、二酸化炭素濃度もほぼ均一にすることができる。また、気流速、温度、湿度、二酸化炭素濃度がほぼ均一になることにより、栽培室内のどの場所においても、栽培される植物の品質をほぼ均一にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】 空気調和システムの第1の構成例を示した図。
【図2】 図1に示す空気調和システムを別の角度から見た図。
【図3】 空気調和システムの第2の構成例を示した図。
【図4】 空気調和システムの第3の構成例を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1は、本発明の植物栽培装置が備える空気調和システムの第1の構成例を示した図である。この空気調和システムは、植物を栽培する栽培室10内に、栽培棚11とともに設置される。栽培室10は、例えば、鉄筋コンクリートにより構築された出入口を備える構造物の一室とされる。
【0009】
植物栽培装置は、空気調和システムと、栽培棚11とを含んで構成される。この栽培棚11は、複数段の棚を有していて、各段の棚上には、植栽された植物12が載置される。図1では、栽培棚11は、薄膜水耕(NFT)用の多段型栽培棚とされている。ここで、NFTとは、約1%の緩やかな傾斜をもつ棚上に、植物の栄養分となる養液を薄く少量ずつ流す水耕栽培である。なお、NFTに限定されるものではなく、養液を溜め、その養液のみで栽培を行う湛液型水耕(DFT)にも適用できるものである。
【0010】
例えば、栽培棚11の各段の棚上には、複数の樋13が隣接して、あるいは一定の間隔で平行に並ぶように、上記角度で傾斜して載置され、複数の樋13上に、互いに隣接するように複数の栽培トレイ14が載置される。樋13としては、例えば、住宅建築において用いられる雨樋を採用することができる。雨樋は、筒をその長手方向に半分に切断した形状を有するものである。
【0011】
栽培トレイ14は、一定の厚さを有するポリエチレンやポリプロピレン等のプラスチック樹脂製あるいはセラミック製の平板に、一定間隔で穴が設けられたものとされる。植物12は、ポリウレタン製の植栽用スポンジに植えられ、このスポンジをその穴に嵌め込むことにより栽培トレイ14に植栽される。栽培トレイ14に植栽された植物12は、根が栽培トレイ14の下方に伸び、葉が栽培トレイ14の上方に拡がっている。
【0012】
栽培トレイ14を複数の樋13に跨るように載置すると、各植物12の根が各樋13の内部に収納される。各樋13内には、傾斜に沿って養液が薄く流されていて、その養液に根の先端が浸漬するようになっている。このため、植物12は、根の先端から栄養分や水を吸収し、その成長のために使用することができる。
【0013】
栽培トレイ14が載置される棚の1段上の棚の下面には、植物12の葉に光を照射するための照明装置15が取り付けられる。照明装置15は、光を照射することができればいかなる光源を用いてもよいが、例えば、蛍光灯、発光ダイオード(LED)を用いることができる。消費電力を少なくし、光源から発生する熱を極力少なくすることができる点で、LEDが好ましい。照明装置15から発生した熱を植物12が受けると、熱による障害を引き起こすからである。
【0014】
しかしながら、LEDでも、熱が発生するので、LEDが実装される金属製の基板を直接冷却するために、内部に冷却水が流れる冷却パイプを取り付けたものを採用することができる。この冷却パイプ内には、冷却水に限らず、冷却することができるものであればいかなる熱媒体でも使用することができる。したがって、空気等の気体を使用し、空冷するものであってもよい。また、この冷却方法は一例を示したものであり、これまでに知られたいかなる方法でも採用することができるものである。
【0015】
栽培トレイ14は、互いに隣接して複数の樋13上に載置される。これは、樋13の内部を流れる養液に光が当たらないようにするためである。なお、光が当たると、樋13内に藻や細菌が発生し、それらが根に付着すると、病気等の障害が発生する。
【0016】
養液は、養液を貯留する養液循環タンク16から養液循環ポンプ17によって、傾斜して載置された複数の樋13の上部側へ供給され、その傾斜に沿って下部側へ流れる。下部側へ流れた養液は、各樋13に設けられた穴から落下し、漏斗状の集液器に回収され、養液循環タンク16へ戻される。
【0017】
本発明においては、このような栽培棚11が設置された栽培室10に、隔壁18と、空気圧縮手段としての有圧扇19とから構成される空気調和システムが設置される。隔壁18は、栽培棚11の長手方向のいずれの位置に配設されていてもよいが、図2に示すように、栽培棚11の周囲を閉鎖し、図1に示すように、栽培室10を2つの空間に仕切る。
【0018】
隔壁18は、一定の厚さを有する木製、プラスチック樹脂製、金属製の板から作製され、栽培棚11の各段の棚上の各開口部20以外からは空気が流れないように閉鎖する。したがって、最下段の棚の下側も、隔壁18により閉鎖する。
【0019】
有圧扇19は、複数枚の回転する羽根を有する大型の換気扇であって、空気に圧力をかけて流れを作り、その静圧が294?392Paのものとされている。この有圧扇19は、空気の吸入口が、隔壁18により仕切られた一方の空間側(図1では、向かって右側の空間)にあり、空気の吐出口が、他方の空間側(図1では、向かって左側の空間)となるように、隔壁18に配設される。
【0020】
図2では、有圧扇19が、4つ配設されているのが示されている。すなわち、栽培室10の天井側に2つ配設され、床側に残りの2つが配設されている。なお、床側に配設された2つの有圧扇19は、栽培棚11の最下段の棚の下側に配設されている。これらの配設位置は、適宜決定することができ、また、その数は、適切な圧力差になるように適宜決定することができる。
【0021】
また、図2に示すように、各段の棚上は、隔壁18によって閉鎖されないことから、空気が流れることを可能にする各開口部20を有する。この開口部20は、図2に示すように、左右が隔壁18により画定され、上下が上下段の棚により画定された開口とされる。なお、栽培トレイ14は、樋13の長手方向にスライドさせることができ、一方の側から栽培トレイ14を取り除いて収穫し、他方の側には新しい栽培トレイ14を追加することができる。このため、開口部20は、栽培トレイ14をスライドさせたときに、植物12の葉がその開口部20を通り抜けることができるようになっている。
【0022】
図1を参照して、空気の流れについて説明すると、隔壁18の表面から突出するように配設された有圧扇19により、その有圧扇19が突出した一方の側の空間に存在する空気を吸引し、圧縮して、他方の側の空間へ供給する。4つの有圧扇19がこのように圧縮して他方の側の空間へ供給すると、他方の側の空間の圧力が上昇し、一方の側の空間の圧力が低下する。このように、隔壁18で仕切られた2つの空間に圧力差が生じると、2つの空間をつなぐ開口があれば、その圧力差により、その開口を通して圧力が高い他方の側の空間から圧力が低い一方の側の空間へ空気が流れることになる。
【0023】
栽培棚11の各段の棚上には、各開口部20があるため、各開口部20を通して空気が流れる。圧力差により生じた空気の流れは、ファンやブロワ等により強制的に空気を送る場合と比較して、各段の棚上に均一な気流速を生じさせる。
【0024】
図1に示すような多段型の栽培棚11を用い、栽培トレイ14をスライドさせることにより収穫および新しい栽培トレイの追加を行う場合、マテリアルハンドリング装置と呼ばれる栽培トレイ14を持ち上げて搬送する搬送装置も設置される。このマテリアルハンドリング装置は、図1に示す栽培棚11から突出する樋13のさらに外側を移動可能に設置される。このため、樋13の長手方向の両側には、このマテリアルハンドリング装置を設置し、その装置が移動可能なスペースが確保される。
【0025】
これらのスペースは、比較的大きく、各棚上に形成された空気の流路が合流する部分であることから、ヘッダーを形成する。ヘッダー内の圧力は、ほぼ一定であることから、いずれの棚上へもほぼ同じ圧力の空気を供給することができ、また、ほぼ同じ圧力で流れてきた空気を回収することができる。このため、気流速を、より一定に維持することができる。なお、気流速は、植物12の周囲にある空気を交換するのに必要とされる約0.3?約0.5m/sに維持することができる。
【0026】
図1には図示していないが、栽培室10内の空気は、適宜入れ替えることができ、入れ替えるための換気扇等を備えることもできる。また、二酸化炭素を供給するためのノズルやボンベ等を備えることができ、栽培室10内に適宜供給することができる。栽培室10内を一定の温度に保持するために、クーラーやヒータ等を備えることも可能である。
【0027】
図3は、空気調和システムの第2の構成例を示した図である。栽培棚11、樋13、栽培トレイ14、照明装置15、養液循環タンク16、養液循環ポンプ17、隔壁18、有圧扇19についてはすでに説明したので、ここではその説明を省略する。図3に示す空気調和システムでは、隔壁18、有圧扇19に加えて、除湿手段としての除湿機21を備えている。
【0028】
養液には、植物12が生きていくために必要とされる水が含まれており、その養液が樋13内を流れる間等において、その水の一部は蒸発する。また、植物12の気孔から水蒸気が蒸散する。このため、栽培室10内は、湿度が次第に高くなっていく。この高くなる湿度を一定の湿度に維持するべく、除湿機21が設けられる。
【0029】
除湿機21は、隔壁18により仕切られた2つの空間の一方に設置される。そして、その空間内にある水蒸気を凝縮する等して除去し、除湿する。2つの空間内の空気は、有圧扇19により循環されるので、適宜、除湿機21を起動し、除湿することにより、一定の湿度に保つことができる。
【0030】
除湿機21としては、冷媒を冷却コイルで蒸発させ冷却する方式、ブラインで空気を冷却する方式、冷水を空気と混合することにより冷却する方式、圧縮機で圧縮して空気中の水分を凝縮させる方式、空気を圧縮して透過膜に通し、水蒸気を分離させる方式、吸着剤に水蒸気を吸着させる方式等のいずれかを採用した除湿機を用いることができる。
【0031】
なお、図3では、隔壁18により仕切られた2つの空間のうち、圧力が小さい側(向かって右側)の空間の、栽培室10の天井に除湿機21が配設されている。これは一例であるので、いずれの空間のどの位置に配設されていてもよい。また、除湿機21は、1台に限らず、必要に応じて2台以上配設することができる。
【0032】
図4は、空気調和システムの第3の構成例を示した図である。栽培棚11、樋13、栽培トレイ14、照明装置15、養液循環タンク16、養液循環ポンプ17、隔壁18、有圧扇19、除湿機21については、図3において説明したので、ここではこれらの説明を省略する。図4に示す空気調和システムでは、さらに、空気中に浮遊する浮遊物を除去するためのHEPA(High Efficiency Particulate Filter)ユニット22を備えている。
【0033】
空気中には、埃や菌が浮遊しており、人の出入り等において虫が侵入する可能性がある。植物12は、こうした菌や虫により病気にかかったり、食べられたりする。
【0034】
HEPAユニット22は、空気中から微小の埃や菌を取り除き、空気清浄するためのHEPAフィルタを含む。このHEPAフィルタは、定格風量で粒径が0.3μmの粒子を99.97%以上捕集する能力をもつフィルタであって、クリーンルームのメインフィルタとして用いられるものである。
【0035】
HEPAユニット22は、HEPAフィルタのほか、空気を取り込み、HEPAフィルタへ向けて送風するためのファン、そのファンにより空気を取り込む際、比較的大きな埃や虫等を除去するためのプレフィルタを備えることができる。
【0036】
図4では、HEPAユニット22が栽培室10の天井であって、隔壁18に隣接して配設されている。このため、一方の側の空間にある空気を上記ファンにより取り込み、その際、プレフィルタで一部を除去してHEPAフィルタへ送っている。そして、HEPAフィルタでは、微小の埃や菌等を除去し、他方の側の空間へ送っている。
【0037】
このHEPAユニット22による埃や菌等の除去処理を連続して実施することにより、栽培室10内をクリーンルームと同等に維持することができる。このクリーンルームと同等に維持することにより、農薬等を用いることなく、植物12を栽培することができる。
【0038】
本発明の植物栽培装置により栽培することができる植物12としては、サラダ菜、サニーレタス、リーフレタス、チンゲン菜、小松菜、スイートバジル、ニチニチソウ、トマト、イチゴ、ねぎ等を挙げることができる。なお、これは一例であるので、これに限られるものではない。また、養液としては、植物の成長に必要とされる窒素、リン酸、カリウム、カルシウム、マグネシウム等を含む水溶液を挙げることができる。各物質の濃度は、栽培する植物に応じて適宜決定することができる。
【0039】
このように本発明の空気調和システムおよびそのシステムを備える植物栽培装置を提供することにより、各棚上の気流速をほぼ均一に維持することができるので、各棚上の温度、湿度、二酸化炭素濃度をほぼ均一に維持することができ、その棚上で栽培される植物はどこの棚上であっても、また、その棚上のどの場所であっても、品質をほぼ均一のものとすることができる。
【0040】
これまで本発明の空気調和システムおよび植物栽培装置について図面に示した実施形態を参照しながら詳細に説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態や、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0041】
10…栽培室、11…栽培棚、12…植物、13…樋、14…栽培トレイ、15…照明装置、16…養液循環タンク、17…養液循環ポンプ、18…隔壁、19…有圧扇、20…開口部、21…除湿機、22…HEPAユニット
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
栽培室内に栽培棚とともに設置される空気調和システムであって、
前記栽培棚の周囲を前記栽培棚の各段の棚上の各開口部以外からは空気が流れないように、かつ前記各段の棚上は閉鎖されないように閉鎖し、前記栽培棚の長手方向の位置に配置されて前記栽培室を2つの空間に仕切る隔壁と、
前記隔壁に設けられ、一方の空間に存在する空気を吸引し、圧縮して他方の空間へ供給することにより、2つの空間に圧力差を生じさせる空気圧縮手段とを含み、
生じた前記圧力差により、前記栽培棚の複数の棚上の各開口部を通して前記他方の空間から前記一方の空間へ流れる空気流を各前記棚上に形成させる、空気調和システム。
【請求項2】
前記栽培室内には、前記栽培棚へ載置する栽培トレイと、前記栽培棚に載置された栽培トレイとを搬送するための2つの搬送装置が設置され、前記栽培室は、前記2つの搬送装置が移動するための2つのスペースを有し、前記2つのスペースは、前記2つの空間のそれぞれに存在し、前記各棚上に形成された空気の流路をつなぐヘッダーを形成する、請求項1に記載の空気調和システム。
【請求項3】
前記栽培室内を除湿するための除湿手段をさらに備える、請求項1または2に記載の空気調和システム。
【請求項4】
前記栽培室内に浮遊する浮遊物を除去するための浮遊物除去手段をさらに備える、請求項1?3のいずれか1項に記載の空気調和システム。
【請求項5】
植物を植栽するための栽培トレイが載置される複数段の棚を有する栽培棚と、請求項1?4のいずれか1項に記載の空気調和システムとを含む、植物栽培装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-08-30 
出願番号 特願2012-234529(P2012-234529)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (A01G)
P 1 651・ 572- YAA (A01G)
P 1 651・ 574- YAA (A01G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 門 良成  
特許庁審判長 井上 博之
特許庁審判官 前川 慎喜
藤田 都志行
登録日 2016-08-12 
登録番号 特許第5985348号(P5985348)
権利者 東京冷化機工業株式会社 学校法人玉川学園 西松建設株式会社
発明の名称 空気調和システムおよび植物栽培装置  
代理人 特許業務法人エム・アイ・ピー  
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代理人 特許業務法人エム・アイ・ピー  
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