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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61K
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  A61K
審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  A61K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
管理番号 1333220
異議申立番号 異議2016-700865  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-11-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-09-14 
確定日 2017-09-01 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5887072号発明「ヒアルロン酸含有乳化組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5887072号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-12〕について訂正することを認める。 特許第5887072号の請求項1、3ないし12に係る特許を維持する。 特許第5887072号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5887072号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし12に係る特許についての出願は、平成23年6月3日(優先権主張 平成22年6月4日)に出願され、平成28年2月19日にその特許権の設定登録がなされ、同年3月16日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許の全請求項について、同年9月14日に特許異議申立人 榊原 彰子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年12月28日付けで取消理由が通知され、平成29年3月9日に意見書の提出及び訂正の請求(なお、当該訂正の請求は、特許法第120条の2第7項の規定により、取り下げられたものとみなされる。)があり、その訂正の請求に対して申立人から同年4月17日付けで意見書が提出され、同年5月17日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、同年7月21日に意見書の提出及び訂正の請求がなされたものである。

第2 訂正の適否
1 訂正の趣旨
特許権者は、本件特許の特許請求の範囲を平成29年7月21日付けの訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?12について訂正(以下、「本件訂正」という。)することを求める。

2 訂正の内容
本件訂正は、特許請求の範囲を以下のとおり訂正するものである。

<本件訂正前>
「【請求項1】
下記(A)成分、(B)成分、及び(C)成分:
(A)分解ヒアルロン酸、又は薬学的に許容されるその塩
(B)炭素数14以上の直鎖の飽和の高級アルコール、炭素数14以上の直鎖の飽和の脂肪酸グリセリルエステル、及び植物油からなる群より選ばれる少なくとも1種の25℃で固体の油性成分
(C)炭素数4?12のアルキルグリセリルエーテル
を含み、(A)成分と(B)成分との含有量の比率が、(A)成分:(B)成分の重量比として1:0.1?100である、乳化組成物(但し、(a)コラーゲン、加水分解コラーゲンおよびコラーゲン誘導体の群から選ばれる少なくとも1種、(b)リン脂質誘導体および/又はリン脂質重合体、(c)ポリオキシエチレンメチルグルコシドおよび(d)多価アルコールを含有してなる皮膚用化粧料である場合を除く)。
【請求項2】
(A)成分の分解ヒアルロン酸の重量平均分子量が100kDa以下である請求項1に記載の乳化組成物。
【請求項3】
(A)成分の含有量が、乳化組成物の全量に対して、乾燥重量で、0.001?10重量%である、請求項1又は2に記載の乳化組成物。
【請求項4】
(B)成分の含有量が、乳化組成物の全量に対して、0.01?10重量%である、請求項1?3のいずれかに記載の乳化組成物。
【請求項5】
(C)成分の含有量が、乳化組成物の全量に対して、0.01?5重量%である、請求項1?4のいずれかに記載の乳化組成物。
【請求項6】
(A)成分と(B)成分との含有量の比率が、(A)成分:(B)成分の重量比として1:2.5?100である、請求項1?5のいずれかに記載の乳化組成物。
【請求項7】
(B)成分が、炭素数14以上の直鎖の飽和の高級アルコールである、請求項1?6のいずれかに記載の乳化組成物。
【請求項8】
(B)成分が、ベヘニルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、及びセテアリルアルコールからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1?7のいずれかに記載の乳化組成物。
【請求項9】
(C)成分が、2-エチルヘキシルグリセリルエーテルである、請求項1?8のいずれかに記載の乳化組成物。
【請求項10】
(A)成分と(C)成分との含有量の比率が、(A)成分:(C)成分の重量比として1:0.01?1000である、請求項1?9のいずれかに記載の乳化組成物。
【請求項11】
さらに、カルボキシビニルポリマー、及びアクリル酸メタクリル酸アルキル共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種の増粘剤を含む請求項1?10のいずれかに記載の乳化組成物。
【請求項12】
増粘剤の含有量が、乳化組成物の全量に対して、0.001?10重量%である、請求項11に記載の乳化組成物。」

<本件訂正後>
「【請求項1】
下記(A)成分、(B)成分、及び(C)成分:
(A)分解ヒアルロン酸、又は薬学的に許容されるその塩
(B)炭素数14以上の直鎖の飽和の高級アルコール、炭素数14以上の直鎖の飽和の脂肪酸グリセリルエステル、及び植物油からなる群より選ばれる少なくとも1種の25℃で固体の油性成分
(C)炭素数4?12のアルキルグリセリルエーテル
を含み、pHが4?7であり、(A)成分の分解ヒアルロン酸の重量平均分子量が100kDa以下であり、(A)成分と(B)成分との含有量の比率が、(A)成分:(B)成分の重量比として1:0.1?100である、乳化組成物(但し、(a)コラーゲン、加水分解コラーゲンおよびコラーゲン誘導体の群から選ばれる少なくとも1種、(b)リン脂質誘導体および/又はリン脂質重合体、(c)ポリオキシエチレンメチルグルコシドおよび(d)多価アルコールを含有してなる皮膚用化粧料である場合を除く)。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(A)成分の含有量が、乳化組成物の全量に対して、乾燥重量で、0.001?10重量%である、請求項1に記載の乳化組成物。
【請求項4】
(B)成分の含有量が、乳化組成物の全量に対して、0.01?10重量%である、請求項1又は3に記載の乳化組成物。
【請求項5】
(C)成分の含有量が、乳化組成物の全量に対して、0.01?5重量%である、請求項1、3、4のいずれかに記載の乳化組成物。
【請求項6】
(A)成分と(B)成分との含有量の比率が、(A)成分:(B)成分の重量比として1:2.5?100である、請求項1、3?5のいずれかに記載の乳化組成物。
【請求項7】
(B)成分が、炭素数14以上の直鎖の飽和の高級アルコールである、請求項1、3?6のいずれかに記載の乳化組成物。
【請求項8】
(B)成分が、ベヘニルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、及びセテアリルアルコールからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1、3?7のいずれかに記載の乳化組成物。
【請求項9】
(C)成分が、2-エチルヘキシルグリセリルエーテルである、請求項1、3?8のいずれかに記載の乳化組成物。
【請求項10】
(A)成分と(C)成分との含有量の比率が、(A)成分:(C)成分の重量比として1:0.01?1000である、請求項1、3?9のいずれかに記載の乳化組成物。
【請求項11】
さらに、カルボキシビニルポリマー、及びアクリル酸メタクリル酸アルキル共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種の増粘剤を含む請求項1、3?10のいずれかに記載の乳化組成物。
【請求項12】
増粘剤の含有量が、乳化組成物の全量に対して、0.001?10重量%である、請求項11に記載の乳化組成物。」(なお、下線は訂正箇所を示す。)

3 訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、一群の請求項ごとか否か
(1)請求項1についての訂正
この訂正は、請求項1に係る発明である「乳化組成物」について、「pHが4?7」であると特定するとともに、構成成分のうちの「(A)分解ヒアルロン酸、又は薬学的に訂容されるその塩」の分子量を「(A)成分の分解ヒアルロン酸の重量平均分子量が100kDa以下であり」と特定することで限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、上記限定事項は、訂正前の請求項2及び本件特許明細書【0009】、【0025】に記載されている。
したがって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)請求項2についての訂正
この訂正は、訂正前の請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。

(3)請求項3?12についての訂正
この訂正は、請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項3?12について、実質的に請求項1についての訂正と同様に訂正するとともに、請求項2の削除にともない、請求項2を引用しないものに訂正するものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(4)一群の請求項ごとか否か
本件訂正に係る訂正前の請求項1?12は、請求項2?12がそれぞれ訂正の請求の対象である請求項1を直接又は間接的に引用する関係にあるから、訂正前において一群の請求項に該当するものである。したがって、訂正の請求は一群の請求項ごとにされたものである。

4 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、訂正後の請求項〔1?12〕についての訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
上記第2で述べたように、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1、3?12に係る発明(以下、「本件発明1」などともいう。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1、3?12に記載された事項により特定されるとおりのものであると認める。

2 申立人の取消理由の概要
申立人は、証拠方法として以下の甲第1ないし16号証を提示し、概略、次の取消理由1?5を主張する。

(1)取消理由1
本件特許は、特許請求の範囲の請求項1、3?12の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、これら請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

(2)取消理由2
本件特許の請求項1、3?12に係る発明は、本件特許の優先日前日本国内において頒布された甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、これら請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(3)取消理由3
本件特許の請求項1、3?12に係る発明は、本件特許の優先日前日本国内において頒布された甲第1号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、これら請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(4)取消理由4
本件特許の請求項1、3?12に係る発明は、本件特許の優先日前日本国内において頒布された甲第2号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、これら請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(5)取消理由5
本件特許の請求項1、3?12に係る発明は、本件特許の優先日前日本国内において頒布された甲第3号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、これら請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(6)証拠方法
甲第1号証:特開2007-84464号公報
甲第2号証:特開2007-254342号公報
甲第3号証:特開2010-120859号公報
甲第4号証:FFI Journal,Vol.213,No.2,
2008,p.150-156
甲第5号証:特公平8-13847号公報
甲第6号証:特開平9-84595号公報
甲第7号証:化学と生物、2009年、26巻、5号、308-315頁
甲第8号証:甲第7号証の出版年に関するJ-Stageの
検索結果のプリントアウト
甲第9号証:生物工学、2013年、91巻、464-468頁
甲第10号証:株式会社紀文フードケミファの「ヒアルロン酸FCH
化粧品用ヒアルロン酸ナトリウム」と題するカタログ
甲第11号証:キッコーマン株式会社の第97期有価証券報告書
表紙及び3頁
甲第12号証:キューピー株式会社の「ヒアルロンサン HA-LQ
(粉末)シリーズ」と題するカタログ
甲第13号証:佐藤孝俊及び石田達也編著、「香粧品科学」、
朝倉書店、1998年、65-73頁
甲第14号証:特開2007-297320号公報
甲第15号証:特開2007-332036号公報
甲第16号証:国際公開第2007/099830号
(なお、以下、甲第1号証などを単に「甲1」という。)

3 合議体が通知した取消理由の概要
当合議体が、平成28年12月28日付けで通知した取消理由及び平成29年5月17日付けで通知した取消理由(決定の予告)の概要は、上記申立人の取消理由2ないし4と同旨である。

4 取消理由1?5の当否についての判断
(1)取消理由1について(36条6項1号)
ア 申立人の主張する取消理由1は、要するに、本件特許明細書の実施例は、重量平均分子量が約8000Daである加水分解ヒアルロン酸((A)成分)、ベヘニルアルコール((B)成分)、2-エチルヘキシルグリセリルエーテル((C)成分)の組合せのみであり、本件特許明細書には、他の組合せであっても課題を解決し得るのかについて何ら具体的な根拠が示されていないから、本件発明1、3?12は、当業者が本件特許明細書において、本件発明1、3?12の課題を解決できると認識できるように記載された範囲内のものではないというものである。

イ そこで検討するに、本件特許明細書には、乳化組成物に一般的に配合される固形油性成分とともに低分子化したヒアルロン酸を配合すると、ザラザラ又はモロモロした不均一な組成物になってしまうことから、分解ヒアルロン酸を含む使用感のよい乳化組成物を提供することを目的とし、炭素数4?12のアルキルグリセリルエーテルを配合することで、均一でなめらかな乳化組成物となることを見出したものであることが記載されている(【0002】?【0005】参照)。
そして、実施例では、重量平均分子量が約8000Daである加水分解ヒアルロン酸((A)成分)とベヘニルアルコール((B)成分)とを含む組成物に、2-エチルヘキシルグリセリルエーテル((C)成分)を配合すると、これを配合しないものに比べて優れたものとなることが示されており、実施例以外にも【0024】には、2-エチルヘキシルグリセリルエーテル((C)成分)との好ましい組み合わせの(B)成分として、ステアリルアルコールやステアリン酸グリセリルが示され、処方例2では、シアバター、ステアリルアルコール及びステアリン酸グリセリルを含むクリームが例示されている。
また、各成分についても、(A)成分の分解ヒアルロン酸については、重量平均分子量が約0.1kDa?100kDaの範囲のものが好ましく、この範囲であれば、ヒアルロン酸が本来有する保湿作用を有するとともに、肌なじみがよくベタツキのない組成物が得られることが記載されている(【0008】?【0009】参照)。(B)成分の固体の油性成分については、乳化組成物に乳化安定性とコクのある使用感を与える役割を果たすものであることに加えて、具体例が示され(【0013】?【0017】参照)、(C)成分についても、乳化組成物に抗菌力を与え、組成物がザラザラ又はモロモロした不均一な組成物となるのを抑制し、肌なじみやのびが良好で使用感が良い乳化組成物とする役割を果たすものであることに加えて、炭素数4?12のアルケニルグリセリルエーテルの具体例が示されている(【0018】?【0019】、【0022】参照)。
そうすると、本件特許明細書には、実施例の他にも、(A)成分、(B)成分、(C)成分の具体例が示されており、これらの組合せを採用することで、当業者が本件発明1、3?12の課題を解決できると認識できるように記載されているといえる。

ウ さらに、特許権者が平成29年3月9日付けで提出した意見書の試験例Aによれば、(B)成分の固体の油性成分が配合されている場合であっても、高分子量ヒアルロン酸ナトリウムを用いた場合には生じなかった課題が、加水分解ヒアルロン酸を用いた場合に生じるものであることも示されており、さらに(C)成分を配合することで課題を解決し得たことが示されている。

エ 小括
以上のとおりであるから、本件発明1、3?12は、本件特許明細書に記載された発明ではないということはできない。

(2)取消理由2について(甲1を主引例とする新規性)
ア 甲1記載の発明
甲1は、「2-エチルヘキシルグリセリルエーテルを含有した化粧料組成物」(【請求項1】)に関する技術を開示するものであるところ、その化粧料組成物の具体例を示した【実施例】の【0057】の(配合試験)には、次の組成の乳液の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

「以下の組成からなる乳液。
2-エチルヘキシルグリセリルエーテル 0.50質量%
ステアリン酸 3.50質量%
セタノール 0.50質量%
ラノリン 0.50質量%
流動パラフィン 3.00質量%
スクワラン 2.00質量%
トリエタノールアミン 0.80質量%
ジプロピレングリコール 3.00質量%
ソルビトール 2.00質量%
カルボキシビニルポリマー1%液 8.00質量%
ヤシジエタノールアミド 1.00質量%
ヒアルロン酸ナトリウム 0.20質量%
アミノ酸類 0.50質量%
ジブチルヒドロキシトルエン 0.01質量%
トコフェノール 0.03質量%
精製水 残部 」

イ 本件発明1と甲1発明との対比
(ア)甲1発明の「ヒアルロン酸ナトリウム」、「セタノール」及び「2-エチルヘキシルグリセリルエーテル」は、それぞれ、本件発明1の「(A)分解ヒアルロン酸、又は薬学的に許容されるその塩」、「(B)炭素数14以上の直鎖の飽和の高級アルコール、炭素数14以上の直鎖の飽和の脂肪酸グリセリルエステル、及び植物油からなる群より選ばれる少なくとも1種の25℃で固体の油性成分」及び「(C)炭素数4?12のアルキルグリセリルエーテル」に相当し、甲1発明は「乳液」であるから、本件発明1の「乳化組成物」に相当する。
そして、甲1発明では、乳液の全量に対して、「ヒアルロン酸ナトリウム 0.20質量%」((A)成分に相当)と「セタノール 0.50質量%」((B)成分に相当)が含まれているから、これらの重量比は、「1:2.5」であって、本件発明1の「(A)成分と(B)成分との含有量の比率が、(A)成分:(B)成分の重量比として1:0.1?100である」との発明特定事項を満たす。
また、甲1発明は、本件発明1で除くとされる「(a)コラーゲン、加水分解コラーゲンおよびコラーゲン誘導体の群から選ばれる少なくとも1種、(b)リン脂質誘導体および/又はリン脂質重合体、(c)ポリオキシエチレンメチルグルコシドおよび(d)多価アルコールを含有してなる皮膚用化粧料」ではない。

(イ)そうすると、両発明は、次の点で相違し、その余の点で一致する。
相違点1:
本件発明1は、乳化組成物について、「pHが4?7」であり、「(A)成分の分解ヒアルロン酸の重量平均分子量が100kDa以下」であると特定するのに対し、甲1発明は、そのような特定がされていない点。

ウ 相違点についての検討
甲1発明には、「0.50質量%」の「アミノ酸類」が含まれているところ、その具体的な成分は明らかでないから、乳液のpHを特定することはできない。そして、甲1【0022】には、本発明の化粧料には、pH調整剤を適宜配合することができると記載されているが、その際に化粧料のpH値をどのような値とするかについては記載されておらず、甲1発明の乳液のpHが4?7であると認めるに足りる証拠はない。
また、甲1【0024】には、天然由来成分等の好ましい生理活性成分の例として、ヒアルロン酸又はヒアルロン酸ナトリウム等のその塩が挙げられ、【0047】には、保湿剤の例として、ヒアルロン酸ナトリウムが挙げられているが、ヒアルロン酸ナトリウムの重量平均分子量については記載されていない。したがって、甲1発明に配合される「ヒアルロン酸ナトリウム」の重量平均分子量が100kDa以下であるということもできない。

エ 小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1に記載された発明ということはできない。本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明3?12も同様である。

(3)取消理由3について(甲1を主引例とする進歩性)
ア 甲1発明及び本件発明1と甲1発明との相違点は、上記(2)ア、イのとおりである。

イ 相違点についての検討
(ア)上記(2)ウのとおり、甲1には、「ヒアルロン酸ナトリウム」は、天然由来成分の生理活性成分や、保湿剤であるとされている。

(イ)ここで、化粧品に配合される「ヒアルロン酸」について、証拠には以下の記載がある。
甲4には、「上市されているヒアルロン酸は、多様な分子量帯(約10万Da?約300万Da)の製品があるため、化粧品のコンセプトによって適切な分子量を選択することが可能である。例えば、高分子ヒアルロン酸を使用した化粧品では、保湿性が高くリッチな感触を付与することができ、低分子ヒアルロン酸を使用した場合には、保湿性はそのままに、さらっとした使用感に仕上げることができる。このように化粧品では、ヒアルロン酸の分子量による感触の違いが重要視される。その一方で、これまでにない機能性を有する新しいヒアルロン酸も上市されている。平均分子量1万以下の低分子ヒアルロン酸(商品名:ヒアロオリゴ、キユーピー株式会社製)は、最近、皮膚への浸透が確認され、保湿性が長く持続するなどの機能が証明され、また、ヒアルロン酸にプラスの電荷を付与し、マイナスに帯電した毛髪への付着性を持たせたカチオン化ヒアルロン酸も開発され、1%水溶液(商品名:ヒアロベール、キユーピー株式会社製)として、上市されている。」(153頁右欄24?最下行)と記載されている。
また、ヒアルロン酸FCHのカタログである甲10には、ヒアルロン酸ナトリウムは、直鎖状の高分子多糖類であり、安定した保湿性を有すること(1頁「ヒアルロン酸FCH」、「安定した保湿性」参照)、商品名「ヒアルロン酸FCH」のヒアルロン酸ナトリウムが、高分子量から低分子量(約200万?約10万までの計6グレードをスタンダード規格としていることが示されている(3頁「ヒアルロン酸FCHの種類」参照)。
また、ヒアルロン酸HA-LQ(粉末)シリーズのカタログである甲12には、高い保水性を有するヒアルロン酸ナトリウム塩である商品は、分子量が85万?160万のものと、120万?220万のものがあることが示されている(「商品の特徴」参照)。
さらに、特許権者が平成29年7月21日付けで提出した意見書に添付した乙第3号証(以下、同意見書に添付した乙各号証を、単に「乙3」などという。)である日本化粧品工業連合会の化粧品の成分表示名称リストによれば、ヒアルロン酸と加水分解ヒアルロン酸とが区別してリストされており、キューピー株式会社のパンフレット「化粧品用ヒアルロン酸」(乙4)には、甲4に記載の平均分子量1万以下(10kDa以下に相当)の商品名:ヒアロオリゴが、表示名称は加水分解ヒアルロン酸であってヒアルロン酸とは区別されて記載されている。
以上の証拠の記載から、化粧品に配合される成分について「ヒアルロン酸」と表記されていれば、当業者は、分子量が約10万?300万(100kDa?3000kDaに相当)のヒアルロン酸と理解するものといえる。

(ウ)ところで、保湿剤として用いるヒアルロン酸について、甲4には、上記のとおり高分子のものと低分子のものとそれぞれに利点があることが示され、平均分子量1万以下の低分子ヒアルロン酸は皮膚への浸透が確認され、保湿性が長く持続することも示されている。
一方で、特開2003-238385号公報(乙5)には、「一方、ヒアルロン酸の平均分子量が小さ過ぎる(11万未満)と、平均分子量の低いヒアルロン酸は浸透性に優れるものの、保湿性は充分とはいえなかった。一方、平均分子量の大きいヒアルロン酸は、特開昭63-15607号公報にあるように高い保湿感を与えること、更にはその化学構造から高い保湿性を有することは容易に推測しえたが、その持続性に関しては未だ検討されていなかった。しかしながら、ヒアルロン酸を低分子化すると、保湿作用が短期間で消失してしまうという問題があった。」(【0003】)と記載されているように、保湿剤としては高分子量の方が優れているとするものもある。
また、特許第2666210号公報(乙6)には、「ヒアルロン酸及びその塩には、分子量数万?数100万ものが現在市場にある。分子量10万以下のヒアルロン酸及びその塩は、水に分散させても、粘度があがらずヒアルロン酸独特の滑らかな感触が得がたい。分子量20万?80万のヒアルロン酸及びその塩は、高濃度配合することで過度な粘度のものが得られるが、使用時べたつき感があり官能特性上好ましくなく、更に、経日により劣化し粘度低下をみたす。分子量100万以上のヒアルロン酸及びその塩は、水に少量配合するだけで過度な粘度の組成物が得られ、官能特性においても好ましいものが得られる。しかしながら、経日によって粘度低下をきたす。」(2欄13行?3欄9行)と記載されているとおり、分子量の違いで水に分散させた場合に得られる粘度に大きな違いがあることも知られている。

(エ)以上のことから、当業者であれば、甲1発明の乳液に配合される「ヒアルロン酸ナトリウム」は、その記載からみて加水分解ヒアルロン酸とは異なる、重量平均分子量が100kDa以上のヒアルロン酸ナトリウムと理解するものといえるところ、ヒアルロン酸は分子量の違いにより水に配合した際の粘度が大きく異なることや、保湿剤として用いるにしても、必ずしも低分子量の方が優れているという技術常識もない状況において、重量平均分子量が100kDa以上のヒアルロン酸ナトリウムに代えて、重量平均分子量が100kDa以下の分解ヒアルロン酸を用いることが強く動機付けられるとまではいえない。
また、それとともに、乳液のpHを4?7とする動機も見当たらない。

ウ 小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明3?12も同様である。

(4)取消理由4について(甲2を主引例とする進歩性)
ア 甲2に記載の発明
甲2は、「(A)炭素数4?12のアルキルグリセリルエーテルまたはアルケニルグリセリルエーテル及び(B)炭素数4?12の脂肪酸グリセリンエステルを必須成分とする抗菌・防腐剤組成物を配合する皮膚外用剤」(【請求項4】)に関する技術を開示するものであるところ、その皮膚外用剤の具体例を示した【0036】の【実施例2】からみて、次の組成の乳液の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認める。
なお、甲2の実施例2における、「発明例1で用いた抗菌・防腐剤組成物 0.6質量%」は、「2-エチルヘキシルグリセリルエーテル:モノカプリル酸グリセリル=1:1の組成物 0.6質量%」(【0031】【表2】)のことであるから、実施例2では、2-エチルヘキシルグリセリルエーテル 0.3質量%とモノカプリル酸グリセリル 0.3質量%を含む。

「以下の組成からなる乳液。
モノステアリン酸グリセリル 1.0質量%
モノステアリン酸POE(20)ソルビタン 1.0質量%
テトラオレイン酸POE(30)ソルビット 0.5質量%
ステアリン酸 0.2質量%
ベヘニルアルコール 0.4質量%
パルミチン酸セチル 0.4質量%
オリーブスクワラン 2.0質量%
トリ2-エチルヘキサン酸トリメチロールプロパン 2.0質量%
ホホバ油 1.0質量%
酢酸トコフェロール 0.1質量%
パラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシル 0.1質量%
2-エチルヘキシルグリセリルエーテル 0.3質量%
モノカプリル酸グリセリル 0.3質量%
1,3-ブチレングリコール 6.0質量%
ヒアルロン酸ナトリウム(1%水溶液) 1.0質量%
カルボキシビニルポリマー(1%水溶液) 8.0質量%
水酸化カリウム(1%水溶液) 2.1質量%
シソエキス 0.5質量%
アロエベラエキス 0.5質量%
精製水 残余 」

イ 本件発明1と甲2発明との対比
(ア)甲2発明の「ヒアルロン酸ナトリウム」、「ベヘニルアルコール、モノステアリン酸グリセリル、ホホバ油」及び「2-エチルヘキシルグリセリルエーテル」は、それぞれ、本件発明1の「(A)分解ヒアルロン酸、又は薬学的に許容されるその塩」、「(B)炭素数14以上の直鎖の飽和の高級アルコール、炭素数14以上の直鎖の飽和の脂肪酸グリセリルエステル、及び植物油からなる群より選ばれる少なくとも1種の25℃で固体の油性成分」及び「(C)炭素数4?12のアルキルグリセリルエーテル」に相当し、甲2発明は「乳液」であるから、本件発明1の「乳化組成物」に相当する。
また、甲2発明は、本件発明1で除くとされる「(a)コラーゲン、加水分解コラーゲンおよびコラーゲン誘導体の群から選ばれる少なくとも1種、(b)リン脂質誘導体および/又はリン脂質重合体、(c)ポリオキシエチレンメチルグルコシドおよび(d)多価アルコールを含有してなる皮膚用化粧料」ではない。

(イ)甲2発明では、乳液の全量に対して、ヒアルロン酸ナトリウム(1%水溶液)を1.0質量%含むから、「ヒアルロン酸ナトリウムを0.01質量%」を含む((A)成分に相当)。また、「ベヘニルアルコール 0.4質量%」、「モノステアリン酸グリセリル 1.0質量%」、「ホホバ油 1.0質量%」を合計で2.4質量%含む((B)成分に相当)。
したがって、これらの重量比は、0.01:2.4、すなわち、「1:240」である。

(ウ)そうすると、両発明は、次の点で相違し、その余の点で一致する。
相違点2:
本件発明1は、乳化組成物について、「pHが4?7」であり、「(A)成分の分解ヒアルロン酸の重量平均分子量が100kDa以下」であると特定するのに対し、甲2発明は、そのような特定がされていない点。
相違点3:
本件発明1では、「(A)成分と(B)成分との含有量の比率が、(A)成分:(B)成分の重量比として1:0.1?100である」のに対し、甲2発明では、「1:240」である点。

ウ 相違点についての検討
甲2【0025】には、保湿剤の例としてヒアルロン酸が挙げられているが、ヒアルロン酸ナトリウムの重量平均分子量については記載されていない。
また、甲2【0024】?【0025】には、本発明の皮膚外用剤には、pH調整剤を適宜配合することができると記載されているものの、その際に皮膚外用剤のpH値をどのような値とするかについては記載がない。
そこで検討するに、上記(3)イ(イ)で述べたとおり、化粧品に配合される成分について「ヒアルロン酸」と記載されていれば、当業者は、分子量が約100kDa?3000kDaのヒアルロン酸と理解するものといえるから、甲2発明の「ヒアルロン酸ナトリウム」も、その記載からみて重量平均分子量が100kDa以上のヒアルロン酸ナトリウムと理解するものといえる。
そして、上記(3)イ(ウ)で述べたとおり、保湿剤として用いるヒアルロン酸は、必ずしも低分子量の方が優れているというものではなく、そのうえ、分子量の違いで水に分散させた場合に得られる粘度に大きな違いがあることが知られているものである。
そうしてみると、甲1発明で検討したのと同様に、当業者であれば、重量平均分子量が100kDa以上と理解される甲2発明の「ヒアルロン酸ナトリウム」について、それに代えて、重量平均分子量が100kDa以下の分解ヒアルロン酸ナトリウムを用いることが強く動機付けられるとまではいえない。
また、それとともに、乳液のpHを4?7とする動機も見当たらない。

エ 小括
以上のとおりであるから、相違点3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明3?12も同様である。

(5)取消理由5について(甲3を主引例とする進歩性)
ア 甲3に記載の発明
甲3は、「(A)コラーゲン、加水分解コラーゲンおよびコラーゲン誘導体の群から選ばれる少なくとも1種、(B)リン脂質誘導体および/又はリン脂質重合体、(C)ポリオキシエチレンメチルグルコシドおよび(D)多価アルコールを含有してなり、更に、(E)加水分解ヒアルロン酸および/又はその塩を含有してなる皮膚用化粧料」(【請求項1】、【請求項4】)に関する技術を開示するものであるところ、その皮膚用化粧料の具体例を示した【0039】の(処方例3)からみて、次の組成の皮膚用化粧料の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認める。

「以下の組成からなる皮膚用化粧料。
ポリオキシエチレンメチルグルコシド(20E.O.)10.0重量%
グリセリン 10.0重量%
1,2-オクタンジオール 0.2重量%
グリセリンモノ2-エチルヘキシルエーテル 0.1重量%
エタノール 5.0重量%
アテロコラーゲン 0.1重量%
加水分解ヒアルロン酸 1.0重量%
水素添加大豆リン脂質 0.3重量%
2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン・メタクリル酸ブチル共重合体 0.1重量%
モノステアリン酸グリセリル 0.5重量%
モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O.)
1.0重量%
セトステアリルアルコール 1.0重量%
ベヘニルアルコール 0.5重量%
ステアリン酸 0.5重量%
パルミチン酸 0.3重量%
流動パラフィン 10.0重量%
メチルポリシロキサン 1.0重量%
トリ2-エチルヘキサン酸グリセリル 2.0重量%
イソノナン酸イソノニル 1.0重量%
(アジピン酸・2-エチルヘキサン酸・ステアリン酸)グリセリルオリゴエステル 0.5重量%
カルボキシビニルポリマー 0.2重量%
キサンタンガム 0.1重量%
水酸化カリウム 適 量
香料 適 量
精製水 残 部 」

イ 本件発明1と甲3発明との対比
(ア)甲3発明の「加水分解ヒアルロン酸」は、甲3【0023】に、「(E)成分の加水分解ヒアルロン酸とは、平均分子量が1万以下の低分子ヒアルロン酸のことを言う。」と記載されているとおり、本件発明1の「(A)分解ヒアルロン酸、又は薬学的に許容されるその塩」であって、「(A)成分の分解ヒアルロン酸の重量平均分子量が100kDa以下」であるものに相当する。
甲3発明の「モノステアリン酸グリセリル」、「セトステアリルアルコール」及び「ベヘニルアルコール」は、本件発明1の「(B)炭素数14以上の直鎖の飽和の高級アルコール、炭素数14以上の直鎖の飽和の脂肪酸グリセリルエステル、及び植物油からなる群より選ばれる少なくとも1種の25℃で固体の油性成分」に相当し、甲3発明の「グリセリンモノ2-エチルヘキシルエーテル」は、本件発明1の「2-エチルヘキシルグリセリルエーテル」に相当する。

(イ)甲3発明では、皮膚用化粧料の全量に対して、「加水分解ヒアルロン酸 1.0重量%」含み((A)成分に相当)、「モノステアリン酸グリセリル 0.5重量%」、「セトステアリルアルコール 1.0重量%」及び「ベヘニルアルコール 0.5重量%」を合計で2.0重量%含む((B)成分に相当)。
したがって、これらの重量比は、「1:2.0」であって、本件発明1の「(A)成分と(B)成分との含有量の比率が、(A)成分:(B)成分の重量比として1:0.1?100である」との発明特定事項を満たす。

(ウ)そうすると、両発明は、次の点で相違し、その余の点で一致する。
相違点4:
本件発明1は、「乳化組成物」であって、その「pHが4?7」であるのに対し、甲3発明は、「皮膚用化粧料」であって、そのpHが不明な点。
相違点5:
本件発明1では、「(但し、(a)コラーゲン、加水分解コラーゲンおよびコラーゲン誘導体の群から選ばれる少なくとも1種、(b)リン脂質誘導体および/又はリン脂質重合体、(c)ポリオキシエチレンメチルグルコシドおよび(d)多価アルコールを含有してなる皮膚用化粧料である場合を除く)」とされているのに対し、甲3発明は、これらを含む皮膚用化粧料である点。

ウ 相違点についての検討
(ア)甲3【請求項1】に「(A)コラーゲン、加水分解コラーゲンおよびコラーゲン誘導体の群から選ばれる少なくとも1種、(B)リン脂質誘導体および/又はリン脂質重合体、(C)ポリオキシエチレンメチルグルコシドおよび(D)多価アルコールを含有してなる皮膚用化粧料」とあるとおり、甲3発明は、相違点5の本件発明1で除くとされている構成を必須とするものであるから、甲3発明からこれを除くことは困難である。

(イ)さらに進んで検討するに、甲3【0027】には、「本発明の皮膚用化粧料は、保湿効果に優れることから、例えば、顔用、身体用として用いられる液状、乳液状、クリーム状、ジェル状などの保湿剤として好適に用いることができる。」と記載されているが、【0029】には、「実施例1?4および比較例1?4の各皮膚化粧料を常法に準じて液状の形態として調製」したと記載されている以外、甲3発明を含むその他の処方例については、どのような剤形のものとしたかは記載されておらず、特に乳化組成物でなければならないとの記載もない。
また、【0026】に、本発明の皮膚用化粧料には、pH調整剤を適宜配合することができると記載されているものの、その際に皮膚用化粧料のpH値をどのような値とするのかも、得られた皮膚用化粧料のpH値についても記載がない。
さらに、甲3発明は、十分な保湿効果を付与することができるとともに、塗布後のべたつき感がなく、使用感に優れる皮膚用化粧料を提供することを課題とし(【0006】)、その解決手段として、(A)コラーゲン、加水分解コラーゲンおよびコラーゲン誘導体の群から選ばれる少なくとも1種、(B)リン脂質誘導体および/又はリン脂質重合体、(C)ポリオキシエチレンメチルグルコシドおよび(D)多価アルコールを含有してなる皮膚用化粧料としたものである(【0007】)。
そうしてみると、甲3発明の皮膚用化粧料について、課題解決のために配合されている上記(A)?(D)成分以外の成分から、本件発明1で必須とされる成分をその配合比率の条件を満たすように選択して、しかも、pHが4?7である乳化組成物とするに足る動機も見当たらない。

エ 小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲3発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明3?12も同様である。

第4 むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、請求項1、3?12に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1、3?12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項2に係る特許は、本件訂正請求により削除されたため、異議申立人の請求項2に係る特許についての特許異議申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)成分、(B)成分、及び(C)成分:
(A)分解ヒアルロン酸、又は薬学的に許容されるその塩
(B)炭素数14以上の直鎖の飽和の高級アルコール、炭素数14以上の直鎖の飽和の脂肪酸グリセリルエステル、及び植物油からなる群より選ばれる少なくとも1種の25℃で固体の油性成分
(C)炭素数4?12のアルキルグリセリルエーテル
を含み、pHが4?7であり、(A)成分の分解ヒアルロン酸の重量平均分子量が100kDa以下であり、(A)成分と(B)成分との含有量の比率が、(A)成分:(B)成分の重量比として1:0.1?100である、乳化組成物(但し、(a)コラーゲン、加水分解コラーゲンおよびコラーゲン誘導体の群から選ばれる少なくとも1種、(b)リン脂質誘導体および/又はリン脂質重合体、(c)ポリオキシエチレンメチルグルコシドおよび(d)多価アルコールを含有してなる皮膚用化粧料である場合を除く)。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(A)成分の含有量が、乳化組成物の全量に対して、乾燥重量で、0.001?10重量%である、請求項1に記載の乳化組成物。
【請求項4】
(B)成分の含有量が、乳化組成物の全量に対して、0.01?10重量%である、請求項1又は3に記載の乳化組成物。
【請求項5】
(C)成分の含有量が、乳化組成物の全量に対して、0.01?5重量%である、請求項1、3、4のいずれかに記載の乳化組成物。
【請求項6】
(A)成分と(B)成分との含有量の比率が、(A)成分:(B)成分の重量比として1:2.5?100である、請求項1、3?5のいずれかに記載の乳化組成物。
【請求項7】
(B)成分が、炭素数14以上の直鎖の飽和の高級アルコールである、請求項1、3?6のいずれかに記載の乳化組成物。
【請求項8】
(B)成分が、ベヘニルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、及びセテアリルアルコールからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1、3?7のいずれかに記載の乳化組成物。
【請求項9】
(C)成分が、2-エチルヘキシルグリセリルエーテルである、請求項1、3?8のいずれかに記載の乳化組成物。
【請求項10】
(A)成分と(C)成分との含有量の比率が、(A)成分:(C)成分の重量比として1:0.01?1000である、請求項1、3?9のいずれかに記載の乳化組成物。
【請求項11】
さらに、カルボキシビニルポリマー、及びアクリル酸メタクリル酸アルキル共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種の増粘剤を含む請求項1、3?10のいずれかに記載の乳化組成物。
【請求項12】
増粘剤の含有量が、乳化組成物の全量に対して、0.001?10重量%である、請求項11に記載の乳化組成物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-08-23 
出願番号 特願2011-125334(P2011-125334)
審決分類 P 1 651・ 853- YAA (A61K)
P 1 651・ 121- YAA (A61K)
P 1 651・ 851- YAA (A61K)
P 1 651・ 537- YAA (A61K)
P 1 651・ 113- YAA (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 松本 直子  
特許庁審判長 須藤 康洋
特許庁審判官 関 美祝
小川 慶子
登録日 2016-02-19 
登録番号 特許第5887072号(P5887072)
権利者 ロート製薬株式会社
発明の名称 ヒアルロン酸含有乳化組成物  
代理人 勝又 政徳  
代理人 岩谷 龍  
代理人 岩谷 龍  
代理人 勝又 政徳  

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