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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B01D
審判 全部申し立て 2項進歩性  B01D
管理番号 1333230
異議申立番号 異議2016-700877  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-11-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-09-15 
確定日 2017-09-06 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5890981号発明「分離膜モジュール」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5890981号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。 特許第5890981号の請求項2に係る特許についての申立を却下する。 特許第5890981号の請求項1、3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5890981号の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、平成23年8月19日の出願であって、平成28年2月26日に特許権の設定登録がされ、その後、その請求項1ないし3に係る特許に対して特許異議申立人 大谷正名(以下、「申立人1」という。)により特許異議の申立てが、その請求項1ないし2に係る特許に対して特許異議申立人 野本玲司、同 伊勢川和江(以下、それぞれ「申立人2」、「申立人3」という。)により特許異議の申立てが、それぞれされた。その後の経緯は以下のようである。

平成28年11月22日付け 取消理由通知
平成29年 1月27日 訂正請求書並びに意見書の提出
同年 3月 1日 意見書提出(申立人2)
同年 同月 7日 意見書提出(申立人1及び3)
同年 同月28日付け 取消理由通知(決定の予告)
同年 5月25日 特許権者との面接(訂正請求について)
同年 5月30日 訂正請求書並びに意見書の提出
同年 7月 7日 意見書提出(申立人1及び2)
申立人3は期間内の意見書提出なし

第2 訂正請求について
平成29年1月27日の訂正請求は、同年5月30日の訂正請求がなされたため、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。
よって、以下に、同年5月30日の訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)が認められるかについて検討する。

1.訂正の内容
平成29年5月30日の訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は、以下の(1)ないし(3)のとおりである。
(1)訂正事項1
訂正前の請求項1の「管状分離膜エレメントの外径よりも大きいものとなされていて、」を、「管状分離膜エレメントの外径の1.20?1.50倍であり、」に訂正する。
(2)訂正事項2
訂正前の請求項2を、削除する。
(3)訂正事項3
訂正前の請求項3の「請求項1または2に記載の」を、「請求項1に記載の」に訂正する。

2.訂正の理由
2-1.訂正事項1について
(a)訂正の目的について
訂正事項1の訂正は、訂正前の請求項1の「各邪魔板に設けられた管状分離膜エレメント挿通孔の内径が、管状分離膜エレメントの外径よりも大きいものとなされていて」を、訂正後の「各邪魔板に設けられた管状分離膜エレメント挿通孔の内径が、管状分離膜エレメントの外径の1.20?1.50倍であり」と訂正するものである。
ここで、訂正前の「管状分離膜エレメント挿通孔の内径が、管状分離膜エレメントの外径よりも大きい」は「管状分離膜エレメント挿通孔の内径が、管状分離膜エレメントの外径の1倍超」であることと同義だから、これを「管状分離膜エレメント挿通孔の内径が、管状分離膜エレメントの外径の1.20?1.50倍」とすることは、「1倍超」を「1.20?1.50倍」に数値範囲を限定して特定することにあたるものといえる。
よって、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号の規定に適合する。

(b)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であることについて
i)上限値を「1.50倍」とすることについては、本件特許明細書【0032】の「本発明による分離膜モジュール(1)においては、各邪魔板(6)に設けられた管状分離膜エレメント挿通孔(7)の内径は、管状分離膜エレメント(5)の外径の1.10?1.50倍、・・・」との記載に基づくものである。
したがって、上限値を「1.50倍」とする訂正については、上記のように本件特許明細書に記載があることから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえる。
ii)下限値を「1.20倍」とすることについては、本件特許明細書【0032】に「本発明による分離膜モジュール(1)においては、各邪魔板(6)に設けられた管状分離膜エレメント挿通孔(7)の内径は、管状分離膜エレメント(5)外径の1.10?1.50倍、好ましくは1.15?1.40倍であることが好ましい。このような範囲で、管状分離膜エレメント挿通孔(7)の内周面と管状分離膜エレメント(5)の外周面との間に混合流体流通間隙(8)が設けられることにより、分離膜モジュール(1)内の邪魔板(6)の設置数を増やしても、分離膜モジュールの稼動時の圧力損失を抑えることができ、管状分離膜エレメント(5)の透過の駆動力である被分離成分の1次側と2次側の分圧差を充分に確保することができて、透過蒸気量の減少を防止することができ、かつ邪魔板(6)による混合流体の流れの撹乱の効果を損なうことがないうえに、分離膜モジュール(1)内の各管状ゼオライト分離膜(10)の全長にわたって膜分離の機能を有効に働かせることができるものである。」と記載され、この数値範囲から「1.20未満」の場合を除外したにすぎず、この「1.20」という下限値により新たな技術的事項が導入されるわけではないから、新規事項を追加するものではない。
(なお、上記の検討について必要であれば、平成22年(行ケ)10234号、平成23年(行ケ)10139号などの知財高裁の裁判例を参照されたい。)
iii)よって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。

(c)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことについて
上記(a)でみたように、訂正事項1の訂正は、「各邪魔板に設けられた管状分離膜エレメント挿通孔の内径が、管状分離膜エレメントの外径よりも大きいものとなされていて」を、「各邪魔板に設けられた管状分離膜エレメント挿通孔の内径が、管状分離膜エレメントの外径の1.20?1.50倍であり」に減縮するものだから、カテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
よって、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。

2-2.訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項2を削除する訂正だから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正でないから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号、同法第9項で準用する第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

2-3.訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項3の被従属項を「請求項1または2」から「請求項1」のみとする訂正であり、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正でないから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号、同法第9項で準用する第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

2-4.一群の請求項について
訂正事項1に係る訂正前の請求項1ないし3について、請求項2ないし3は請求項1を直接又は間接的に引用しているものであって、請求項1に連動して訂正されるものであり、訂正前の請求項1ないし3は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

3.訂正請求についての結言
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、請求項1ないし3について特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とし、かつ、特許法第120条の5第4項及び第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1.本件訂正発明
本件訂正請求により訂正された訂正請求項1ないし3に係る発明(以下、「本件訂正発明1」ないし「本件訂正発明3」と呼称し、総称して「本件訂正発明」ということがある。)は、その訂正特許請求の範囲に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。(下線部は、訂正箇所であり、特許権者が付与した。)

【請求項1】
ケーシング内に、管板に支持された並列状の管状分離膜エレメントと、これらの管状分離膜エレメントに対して直交状に配置された所要数の邪魔板とを備えている分離膜モジュールであって、邪魔板は、ケーシングの内径に略等しい外径を有する円板の端部が切除された欠円形を有するものであり、隣り合う邪魔板の切断端が交互に配されることにより、邪魔板の切断端と、これに対向するケーシング内壁面との間にあけられた混合流体流通路が、ケーシング内において交互に設けられ、各邪魔板に設けられた管状分離膜エレメント挿通孔の内径が、管状分離膜エレメントの外径の1.20?1.50倍であり、該挿通孔の内周面と管状分離膜エレメントの外周面との間に、混合流体流通間隙が設けられており、該間隙内においても管状分離膜エレメントの分離膜による混合流体分離機能が果たされるようになされていることを特徴とする、分離膜モジュール。

【請求項2】(削除)

【請求項3】
各邪魔板に設けられた管状分離膜エレメント挿通孔の内部に、該挿通孔の内壁から管状分離膜エレメントの分離膜外壁面に向かって伸びる複数個の間隔保持用凸起が設けられ、混合流体の濃縮成分を排出する排出口に最も近い邪魔板は管状分離膜エレメントを支持する管板を兼ねており、該邪魔板には、該排出口に挿通する貫通孔を有することを特徴とする、請求項1に記載の分離膜モジュール。

2.取消理由について
2-1.取消理由の概要
特許異議申立人は、以下に示す証拠と次表の論理構成に基づく新規性要件違反及び進歩性要件違反の申立理由を主張し、訂正前の請求項1ないし3に記載された発明に係る本件特許は取り消されるべき旨を申立てた。
以下の表において、提出された証拠を整理して新たに「丙各号証」と呼称する。


そして、上記申立てについて検討し、当審は取消理由として以下の概要のものを通知した。

<当審による取消理由の概要>
訂正前の請求項1及び2に係る発明に関する特許は、同発明が、丙第2号証に記載された発明であるので、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものに対してされたものであるから、取り消されるべきものである。

2-2.取消理由の判断
以下に、本件訂正発明1について、取消理由が解消しているかについて検討する。

2-2-1.丙第2号証の記載事項
丙第2号証には次の記載がある。
(ア)【0001】「本発明は、分離膜モジュールの構造に係るものである。特に、モジュール内部にバッフル板を備え、このバッフル板でゼオライト分離膜単管を複数本束ねたものに関する。ゼオライト分離膜モジュールは、主に有機溶媒の脱水用途(エタノール脱水、IPA(イソプロピルアルコール)脱水等)に用いられる。」
【0002】「現在、エタノールの脱水、IPA脱水、その他水分を大量に含んだ有機溶媒廃液からの脱水精製等に用いられるゼオライト分離膜モジュール構造として、二重管構造とバッフル板構造がある。」
(イ)【0005】「一方、バッフル板構造は、チューブ状の分離膜が遊貫して備えられるバッフル板を適当な間隔でモジュール容器内に配置する構造である(例えば、特許文献3?13)。」
(ウ)【0006】「バッフル板構造は、比較的簡単な設計でよく、製造コストも安い。しかし、二重管構造と比較して膜表面の流速を上げて攪拌することが難しいため、通常は切り欠きの付いたバッフル板を使用してできるだけ供給液の流路を蛇行させた構造とすることが主流である。」
(エ)【0007】「実際のバッフル板構造では、バッフル板とゼオライト分離膜との間に隙間(クリアランス)があり、僅かながらこの隙間から供給液が抜けるため、理想的な蛇行流とはならない。」
(オ)【0008】「そこで、バッフル板とゼオライト分離膜との間に存在する隙間を接着剤(セラミック系、エポキシ系、シリコン系)などで完全に埋める、又はゼオライト分離膜を通すバッフル板の孔を小さくして隙間をなくす対策が考えられる(例えば、特許文献14、15)。」
(カ)【0009】「しかし、流体が流れることにより生じる振動やモジュール外部から伝達する機械的振動等によりバッフル板とゼオライト分離膜が擦れあい、分離膜表面を傷める可能性がある。また、モジュールは、比較的高温で使用されるため、接着部分の溶剤耐性によっては亀裂を生じることもある。」
(キ)【0010】「したがって、バッフル板とゼオライト膜との間の隙間は、通常1mm程度開けておくのが一般的である。」
(ク)【0040】「・・・ゼオライト分離膜7の外径φ=12mm・・・に設定した。」

2-2-2.丙第2号証に記載された発明
i)丙2の記載事項(ア)?(ウ)から、丙2には、「内部にバッフル板を備」え、「チューブ状の分離膜」すなわち「ゼオライト分離膜単管」が「遊貫して備え」られる当該「バッフル板」を「適当な間隔でモジュール容器内に配置」し、「ゼオライト分離膜単管を複数本束ねた」構造を有する「バッフル板構造」の「分離膜モジュール」であって、当該構造は「切り欠きの付いたバッフル板を使用してできるだけ供給液の流路を蛇行させた構造」であることが記載されている。
そして、同(ウ)から上記「分離膜モジュール」は「通常は切り欠きの付いたバッフル板」を使用して「供給液の流路を蛇行させた構造」とするものだから、「複数本」の「ゼオライト分離膜単管」に対して「バッフル板」を直交して配置するものといえる。
また、同(イ)から、「バッフル板構造」は周知の構造であり、例えば丙2の【0015】に記載された「【特許文献3】特許第3760415号公報」(2頁30?49行、図6)や「【特許文献4】特開2006-224019号公報」(【0023】?【0028】、【0034】?【0038】、【図2】)から、上記「分離膜モジュール」でも、「複数本」の「ゼオライト分離膜単管」が「管板」に並列状に支持されており、それらの「ゼオライト分離膜単管」に対して直交状に配置された「バッフル板」を備えるものであり、供給液の流れは「バッフル板」により蛇行するものといえる。
すると、同(ウ)から、上記「分離膜モジュール」は、「通常は切り欠きの付いたバッフル板」を使用して「供給液の流路を蛇行させた構造」とするものだから、上記周知の構造から、「複数本」の「ゼオライト分離膜単管」が「管板」に並列状に支持されており、それらの「ゼオライト分離膜単管」に対して直交状に配置された「バッフル板」を備えるものといえる。
ii)上記「分離膜モジュール」において、「バッフル板」に「チューブ状の分離膜が遊貫して備えられる」から、「バッフル板」には「ゼオライト分離膜単管」を「遊貫」させる孔があり、その径は、同(エ)?(キ)から、「バッフル板とゼオライト膜との間の隙間は、通常1mm程度開けて」あることが一般的だから、上記「分離膜モジュール」において、上記孔の内径は「ゼオライト分離膜単管」の外径より大きく、それらの「隙間」は「1mm程度」といえる。
そして、同(ア)から、「ゼオライト分離膜単管」は水を含む「有機溶媒」の「脱水機能」を持つといえる。
iii)「バッフル板」は、「分離膜モジュール」の内面に設置されて、「分離膜モジュール」の内面とで「供給液の流路」を形成するためのものだから、「分離膜モジュール」の内面との間に隙間のないことが必要で、「分離膜モジュール」は通常円筒形であるから、「バッフル板」も、「分離膜モジュール」の内径に略等しい外径を有する円板であり、当該円板に「切り欠きの付いた」ものといえる。
そして、「供給液の流路を蛇行させ」るものだから、隣り合う「バッフル板」はその「切り欠き」が交互に配置されるものといえる。
iv)以上のことから、訂正後の請求項1の記載に則して整理すれば、丙2には、
「内部に、管板に並列状で支持された複数本のゼオライト分離膜単管と、それらのゼオライト分離膜単管に対して直交状に配置されたバッフル板を備える分離膜モジュールであって、
バッフル板は分離膜モジュールの内径に略等しい外径を有する円板で切り欠きの付いたものであり、
隣り合うバッフル板はその切り欠きが交互に配置され、切り欠きとこれに対向する分離膜モジュールの内面とで供給液を蛇行させる流路が設けられ、 バッフル板のゼオライト分離膜単管を遊貫させる孔の内径は、ゼオライト分離膜単管の外径よりも大きく、上記孔の内周面とゼオライト分離膜単管の外周面との間に1mm程度の隙間が設けられており、複数本のゼオライト分離膜単管による水を含む有機溶媒の脱水が行われる分離膜モジュール。」の発明(以下、「丙2発明」という。)が記載されていると認められる。

2-2-3.本件訂正発明1と丙2発明との対比
i)丙2発明の「ゼオライト分離膜単管」、「バッフル板」は、本件訂正発明1の「管状分離膜エレメント」、「邪魔板」にそれぞれ相当する。
ii)丙2発明の「円板で切り欠きの付いたもの」は本件訂正発明1の「円板の端部が切除された欠円形を有するもの」に相当する。
iii)丙2発明の「供給液」、「供給液を蛇行させる流路」は、本件訂正発明1の「混合流体」、「ケーシング内において交互に設けられ」た「混合流体流通路」にそれぞれ相当するから、丙2発明の「隣り合うバッフル板はその切り欠きが交互に配置され、切り欠きとこれに対向する分離膜モジュールの内面とで供給液を蛇行させる流路が設けられ、」は、本件訂正発明1の「隣り合う邪魔板の切断端が交互に配されることにより、邪魔板の切断端と、これに対向するケーシング内壁面との間にあけられた混合流体流通路が、ケーシング内において交互に設けられ、」に相当する。
iv)丙2発明の「バッフル板のゼオライト分離膜単管を遊貫させる孔の内径は、ゼオライト分離膜単管の外径よりも大きく、上記孔の内周面とゼオライト分離膜単管の外周面との間に1mm程度の隙間が設けられており」と、本件訂正発明1の「各邪魔板に設けられた管状分離膜エレメント挿通孔の内径が、管状分離膜エレメントの外径の1.20?1.50倍であり、該挿通孔の内周面と管状分離膜エレメントの外周面との間に、混合流体流通間隙が設けられており、」とは、「各邪魔板に設けられた管状分離膜エレメント挿通孔の内径が、管状分離膜エレメントの外径よりも大きいものとなされていて、該挿通孔の内周面と管状分離膜エレメントの外周面との間に、間隙が設けられて」いる点で一致する。
v)さらに、丙2の記載事項(エ)から、丙2発明の「隙間」は、「供給液」すなわち水を含む「有機溶媒」が「抜け」るので、本件訂正発明1の「混合流体流通間隙」に相当し、丙2発明でも、当該「隙間」に位置する「ゼオライト分離膜単管」において「水を含む有機溶媒」の脱水が行われるものといえ、本件訂正発明1の「間隙内においても管状分離膜エレメントの分離膜による混合流体分離機能が果たされるようになされている」ことに相当する。
vi)以上より、本件訂正発明1と丙2発明とは、
「ケーシング内に、管板に支持された並列状の管状分離膜エレメントと、これらの管状分離膜エレメントに対して直交状に配置された所要数の邪魔板とを備えている分離膜モジュールであって、
邪魔板は、ケーシングの内径に略等しい外径を有する円板の端部が切除された欠円形を有するものであり、
隣り合う邪魔板の切断端が交互に配されることにより、邪魔板の切断端と、これに対向するケーシング内壁面との間にあけられた混合流体流通路が、ケーシング内において交互に設けられ、
各邪魔板に設けられた管状分離膜エレメント挿通孔の内径が、管状分離膜エレメントの外径よりも大きいものとなされていて、該挿通孔の内周面と管状分離膜エレメントの外周面との間に、混合流体流通間隙が設けられており、該間隙内においても管状分離膜エレメントの分離膜による混合流体分離機能が果たされるようになされている、分離膜モジュール。」の点で一致し、次の点で相違する。

(相違点)「邪魔板に設けられた管状分離膜エレメント挿通孔」の「内周面」と「管状分離膜エレメントの外周面との間」の「間隙」について、本件訂正発明1では、「管状分離膜エレメント挿通孔の内径が、管状分離膜エレメントの外径の1.20?1.50倍」であるのに対して、丙2発明では、「間隙」は「1mm程度の隙間」である点。

2-2-4.相違点の検討
(1)当審の判断
i)丙2発明における「バッフル板のゼオライト分離膜単管を遊貫させる孔の内径」と「ゼオライト分離膜単管の外径」との大きさについて考察する。
上記「内径」の内周面と「外径」の外周面との間には「1mm程度の隙間」があるから、(内径)=(外径)+1mm+1mm である。
ii)ここで、「ゼオライト分離膜単管の外径」についてみれば、丙第2号証の記載事項(ク)に「・・・ゼオライト分離膜7の外径φ=12mm・・・に設定した。」と記載され、丙第1号証(【0020】)には、「実施例1」と同様の「比較例1」として、「A型ゼオライトを成膜した管状分離膜エレメント」の外径を「1.2cm」とすることが、丙第5号証(14頁右欄最下行?15頁左上欄3行、15頁右欄27?40行、図2)には、分離膜としての「円筒状ゼオライト複合膜」の「外径12φ」とすることが、丙第6号証(45頁右欄19?46頁左欄2行)には、「ゼオライト結晶体」を外面に析出させた分離膜としての「多孔質セラミックチューブ」の外径が「12φ」であることが、それぞれ記載されていることから、ゼオライトを用いる管状の分離膜の外径として「12mm」のものを用いることは通常のことといえる。
すると、丙2発明でも「ゼオライト分離膜単管の外径」は「12mm」ということができる。
iii)してみると、丙2発明の、「バッフル板」に設けられた「管状分離膜エレメント挿通孔」の「内径」と、「管状分離膜エレメント」の「外径」との間の「1mm程度の隙間」は、上記「内径」が、上記「外径」を「1.17倍」(=(12+1+1)/12)することで得られることを意味し、これは本件訂正発明1における「1.20?1.50倍」と一致しない。
iv)よって、上記相違点は実質的なものであるので、本件訂正発明1は丙第2号証に記載された発明とはいえない。

(2)申立人の主張について
(2-1)申立人1の意見書(平成29年7月7日)の主張について
申立人1は、丙第2号証【0040】には「バッフル板6に形成される孔の径φ=16?17mm(ゼオライト分離膜7とのクリアランス2?2.5mm)、ゼオライト分離膜7の外径φ=12mm」とする実施例が開示され、これは、「管状分離膜エレメント挿通孔の内径」が「管状分離膜エレメントの外径」の1.33倍(16/12)?1.42倍(17/12)であることを開示するものであり、これは本件訂正発明1にあたると主張する。
しかしながら、上記【0040】に記載されるのは丙第2号証の【図2】に示されている欠けた部分のない円形のバッフル板を用いるものであって、「円板の端部が切除された欠円形を有」するバッフル板を用いる丙2発明とはその前提が異なるから、上記の「1.33?1.42倍」とする「管状分離膜エレメント挿通孔の内径」と「管状分離膜エレメントの外径」の比は、丙2発明として採用し得ないものである。

(2-2)申立人2の意見書(平成29年7月7日)の主張について
申立人2は、丙第2号証には、当該「隙間」について「通常1mm程度」と記載されている(【0010】)ことからも分かるように、丙2発明の「間隙」は、ちょうど1mmである必要はなく、1mm前後であればよいこと、換言すれば、丙2発明は、「間隙」がちょうど1mmであるもののみならず、1mm前後のものをも含むことは当業者にとって自明であるところ、丙2発明の「ゼオライト分離膜単管」の外径は12mmであるから、丙2発明において、本件訂正発明1における「管状分離膜エレメント挿通孔の内径」の「管状分離膜エレメントの外径」に対する比の下限値である「1.20」を満たすような「隙間」x(mm)を逆算して求めると、
(12+2x)/12=1.20 より、x=1.2mmとなる。
このように、丙2発明において、「間隙」を、1mm前後である1.2mmとするだけで、本件訂正発明1の「管状分離膜エレメント挿通孔の内径が、管状分離膜エレメントの外径の1.20?1.50倍」という構成要件を満たすものである、と主張する。
しかしながら、上記「通常1mm程度」が、「1mm前後」を意味するとしても、「1.2mm」を含み得るとする根拠はなく、「1.2mm」を含むとまではいえない。

2-2-5.取消理由についての結言
以上から、本件訂正発明1について取消理由は妥当せず、訂正後の請求項2は削除され取消理由の対象がないから、当該取消理由は解消された。

3.取消理由において採用しなかった特許異議申立理由について
取消理由において採用しなかった特許異議申立理由は、上記表における論理No.1及び3ないし23の論理であるが、その内容は、丙第1号証、丙第2号証、丙第5号証、丙第6号証の何れかを主引例とするものなので、それら各丙号証について以下に検討する。

3-1.丙第1号証について
i)丙第1号証には、「多管式分離膜モジュール」(【発明の名称】)であって、「円筒状のシェル1と、シェル1の両端に固定される一対の管板2a,2bと、管板2a,2bによりシェル1の長手方向に支持された複数の管状分離膜エレメント3と、管板2a,2bを覆うようにシェル1に取り付けられたチャンネル4a,4bとを具備し、シェル1内に円の一部を切り欠いた形状のバッフル5が取り付けられ」た「図6」に示す「従来の多管式分離膜モジュールの一例」において、「膜透過流体F2が管状分離膜エレメント3を透過して膜透過成分出口8a,8bから流出し、残りの流体F3は流体出口7から流出する」(【0002】)のであるが、「処理能力は、管状分離膜エレメント3単体の処理能力から算出される多管式分離膜モジュール全体の処理能力の設計値と比較すると遥かに劣っており、十分であるとは言い難い」(【0003】)ところ、「バッフルは切欠きを有さず管状分離膜エレメントを貫通させるための開口部のみを有し、入口から流入した流体は実質的にバッフルの開口部と管状分離膜エレメントとの間隙を通過して出口から流出」する(【0007】)構造とすることで、「バッフルを切り欠きの無い円盤状とするとともに、管状分離膜エレメントを貫通させるための開口部をバッフルに設けることにより、入口から流入した流体は実質的にバッフルの開口部と管状分離膜エレメントとの間隙を通過する。これにより流体がモジュール全体に分散し、各管状分離膜エレメントが有効に作動する。さらに管状分離膜エレメント近傍での流体の流速が増加するため、管状分離膜エレメントを透過する流体の流束が増加し、多管式分離膜モジュールの処理能力が向上する。」(【0021】)という効果を奏することが記載されている。
そして、「バッフル5は複数の開口部51を有し、開口部51を管状分離膜エレメント3が貫通している。・・・開口部51の内径Dと管状分離膜エレメント3の外径dの比は1.5以下であるのが好ましく、1.3以下であるのがより好ましい。・・・D/dの比の下限は1.1であるのが好ましく、1.15であるのがより好ましい。」(【0013】)ことが記載され、実施例(【0019】【0020】)には、「切り欠きの無い円盤状」の「バッフル」の「管状分離膜エレメント」より大きい孔に同エレメントを挿通したものは、「切り欠きのある円盤状」の「バッフル」の「管状分離膜エレメント」と同じ大きさの孔に同エレメントを挿通したものよりも処理能力が向上することが示されている。
ii)したがって、丙第1号証には、本件の訂正後の請求項1の記載に則して整理すれば、
「シェル内に、管板に支持された並列状の管状分離膜エレメントと、これらの管状分離膜エレメントに対して直交状に配置された所要数のバッフルとを備えている多管式分離膜モジュールであって、バッフルは、シェルの内径に略等しい外径を有する切り欠きの無い円盤状を有するものであり、各バッフルに設けられた管状分離膜エレメント挿通孔の内径が、管状分離膜エレメントの外径の1.15?1.30倍であり、該挿通孔の内周面と管状分離膜エレメントの外周面との間に、混合流体流通間隙が設けられており、該間隙内においても管状分離膜エレメントの分離膜による混合流体分離機能が果たされるようになされている管状分離膜モジュール。」の発明(以下、「丙1発明」という。)が記載されているといえる。
iii)本件訂正発明1は「邪魔板は、ケーシングの内径に略等しい外径を有する円板の端部が切除された欠円形を有するものであり、隣り合う邪魔板の切断端が交互に配されることにより、邪魔板の切断端と、これに対向するケーシング内壁面との間にあけられた混合流体流通路が、ケーシング内において交互に設けられ」るのに対して、丙1発明は「バッフルは、シェルの内径に略等しい外径を有する切り欠きの無い円盤状を有するものであり・・・該挿通孔の内周面と管状分離膜エレメントの外周面との間に、混合流体流通間隙が設けられ」ているものである。
したがって、「邪魔板」(「バッフル」)の構造について、前者は「円板の端部が切除された欠円形」であるのに対して、後者は「切り欠きの無い円盤状」であり、当該構造の相違に基づき、主たる混合流体の流路について、前者は、「邪魔板の切断端と、これに対向するケーシング内壁面との間にあけられた混合流体流通路が、ケーシング内において交互に設けられ」て、混合流体がジグザグに流れ、「管状分離膜エレメント」に直交するように流れるのに対して、後者は「挿通孔の内周面と管状分離膜エレメントの外周面との間」の「混合流体流通間隙」を「管状分離膜エレメント」に並行に混合流体が流れるものである。
iv)よって、丙1発明は本件訂正発明1にあたらないから、本件訂正発明1は丙第1号証に記載された発明ではない。
また、丙1発明において、「切り欠きの無い円盤状」の「バッフル」を「円板の端部が切除された欠円形」とすることは、上記i)でみたように処理能力の劣化が想定されるので、阻害要因があるといえる。
そして、申立人が提出した他の丙号証に記載された技術手段も当該阻害要因を治癒し得ない。
よって、丙1発明及び他の丙号証に記載された技術手段に基いて本件訂正発明1に想到することは容易に成し得るものではない。
本件訂正発明1を引用する本件訂正発明3についても同様である。

3-2.丙第2号証について
3-2-1.当審の判断
i)上記「2-2.」でみたように、丙2発明は本件訂正発明1にあたらないから、本件訂正発明1は丙第2号証に記載された発明ではない。
ii)上記「2-2-2.」から、丙2発明を以下に再掲する。
「内部に、管板に並列状で支持された複数本のゼオライト分離膜単管と、それらのゼオライト分離膜単管に対して直交状に配置されたバッフル板を備える分離膜モジュールであって、
バッフル板は分離膜モジュールの内径に略等しい外径を有する円板で切り欠きの付いたものであり、
隣り合うバッフル板はその切り欠きが交互に配置され、切り欠きとこれに対向する分離膜モジュールの内面とで供給液を蛇行させる流路が設けられ、 バッフル板のゼオライト分離膜単管を遊貫させる孔の内径は、ゼオライト分離膜単管の外径よりも大きく、上記孔の内周面とゼオライト分離膜単管の外周面との間に1mm程度の水を含む有機溶媒が流通する隙間が設けられており、同隙間においても複数本のゼオライト分離膜単管による水を含む有機溶媒の脱水が行われる分離膜モジュール。」
iii)本件訂正発明1は、丙2発明において「ゼオライト分離膜単管を遊貫させる孔の内径は、ゼオライト分離膜単管の外径よりも大きく、上記孔の内周面とゼオライト分離膜単管の外周面との間に1mm程度の水を含む有機溶媒が流通する隙間が設けられ」ていることを、「バッフル板に設けられたゼオライト分離膜単管を遊貫させる孔の内径が、ゼオライト分離膜単管の外径の1.20?1.50倍」としたものであり、上記「2-2-4.」でみたように、上記「隙間」を大きくすることで成し得る。
iv)しかし、丙第2号証には、「切り欠きの付いたバッフル板を使用してできるだけ供給液の流路を蛇行させた構造とする」(丙第2号証の記載事項(ウ)を参照)べきところ、「バッフル板とゼオライト分離膜との間に隙間(クリアランス)があり、僅かながらこの隙間から供給液が抜けるため、理想的な蛇行流とはならない」(同(エ)を参照)ので、「バッフル板とゼオライト分離膜との間に存在する隙間を接着剤(セラミック系、エポキシ系、シリコン系)などで完全に埋め」(同(オ)を参照)ようとすると、「流体が流れることにより生じる振動やモジュール外部から伝達する機械的振動等によりバッフル板とゼオライト分離膜が擦れあい、分離膜表面を傷める」(同(カ)を参照)ので、「バッフル板とゼオライト膜との間の隙間は、通常1mm程度開けておく」(同(キ)を参照)ことが記載されている。
すると、丙2発明において、「隙間」を開けるのは振動等で膜が壊れるのを防ぐためで、もともとこの隙間があるためにバッフル板による蛇行流が不完全だから、本来は「隙間」を塞ぎ、隙間に流体を流さないことを指向するものといえる。
したがって、丙2発明において上記「隙間」を大きくすることには阻害要因があるといえる。
そして、申立人が提出した他の丙号証に記載された技術手段も当該阻害要因を治癒し得ない。
よって、丙2発明及び他の丙号証に記載された技術手段に基いて本件訂正発明1に想到することは容易に成し得るものではない。
本件訂正発明1を引用する本件訂正発明3についても同様である。

3-2-2.申立人の主張について
(1)申立人1の意見書(平成29年7月7日)の主張について
a)申立人1の主張
この丙2発明に基づく本件訂正発明1の容易想到性の点について、申立人1は、概ね次のように主張する。
(主張の概略)
丙第1号証【0013】には「開口部51の内径Dと管状分離膜エレメント3の外径dの比は1.5以下であるのが好ましく、1.3以下であるのがより好ましい。またD/dの比が1に近すぎると、圧損が大きすぎるので、D/dの比の下限は1.1であるのが好ましく、1.15であるのがより好ましい。」との記載がある。
つまり管状分離膜エレメント挿通孔の内径が管状分離膜エレメントの外径の1.10?1.50倍となる範囲が開示されていて、より好ましい範囲として1.15?1.3倍の範囲であることを示す技術手段が記載されており、本件訂正発明1は、当業者が、丙第2号証に記載された発明に、丙第1号証に記載された技術手段を適用して容易に発明をすることができたものである。
b)当審の判断
しかしながら、上記丙第1号証の【0013】に記載されるのは、丙第1号証の【図3】に示されている欠けた部分のない円形の「バッフル板」を用いるものであり、「円板の端部が切除された欠円形を有」する「邪魔板」を用いる丙2発明とはその前提が異なるから、丙第2号証に記載された発明に、丙第1号証に記載された「管状分離膜エレメント挿通孔の内径」と「管状分離膜エレメントの外径」の比についての技術手段を適用することを示唆するものとはいえない。
よって、申立人1の意見書(平成29年7月7日)の主張は根拠がない。
(2)申立人2の意見書(平成29年7月7日)の主張について
a)申立人2の主張
この丙2発明に基づく本件訂正発明1の容易想到性の点について、申立人2は、概ね次のように主張する。
(主張の概略)
丙2発明において、「隙間」がちょうど1mmである場合には、「管状分離膜エレメント挿通孔の内径が、管状分離膜エレメントの外径」の1.17倍となるが、この「1.17」という値は、本件訂正発明1における「1.20」に極めて近いもの(2.5%の差)である。
このような従来技術の存在下において、本件訂正発明1が進歩性を有するためには、下限値である「1.20」という値が明確な臨界的意義を有している必要がある。
しかしながら、本件特許明細書等を参照しても、「1.20」という下限値の臨界的意義は見出せないことに加え、本件特許権者自身も、本件訂正請求書において、「1.20」という下限値が臨界的意義を有しないことを認めている(本件訂正請求書5頁18行?24行)。
したがって、本件訂正発明1は、丙2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
b)当審の判断
上記「管状分離膜エレメント挿通孔の内径が、管状分離膜エレメントの外径」の「1.17倍」から「1.20倍」以上にするためには、上記「2-2-4.(2-2)」から、「隙間」を少なくとも「1mm」から「1.2mm以上」へ拡大する必要があるところ、上記「3-2-1.iv)」から、丙2発明において「隙間」を大きくすることには阻害要因がある。
よって、本件訂正発明1は、丙2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない。

3-3.丙第5号証について
i)丙第5号証には、「有機溶媒脱水用」であり「ゼオライト複合膜125本/モジュール」を有し、「処理対象流体は膜の外側を流れ、膜外側に設けられた欠円形の邪魔板で加速されかつ乱さ」れ「透過物は膜内側を通り真空容器に集められ、コンデンサーで凝縮」される「円筒型膜モジュール」(15頁右欄「2.2 円筒型膜モジュール」、16頁図2)であって、「ゼオライト複合膜」は「外表面にゼオライト膜を有する円筒状ゼオライト複合膜(外径12φ、内径9φ、長さ800mm)」(14頁右欄最終行?15頁左欄3行)であることが記載されている。
ii)すると、丙第5号証には、従来の「欠円形の邪魔板」を有する「円筒型膜モジュール」が記載されているが、「円筒型膜モジュール」の外径と「欠円形の邪魔板」の挿通孔の内径との関係は記載も示唆もない。
したがって、本件訂正発明1は、丙第5号証に記載された発明とはいえない。
iii)また、上記「2-2-4.」でみたように、丙第2号証の【0006】?【0010】の記載から、従来の「欠円形の邪魔板」を有する「円筒型膜モジュール」では「円筒型膜モジュール」の外径と「欠円形の邪魔板」の挿通孔の内径との間に「1mm程度の隙間」があるので、これを丙第5号証に適用しても、丙第5号証の「円筒状ゼオライト複合膜」は「外径12φ」であるから、「円筒型膜モジュール」の外径と「欠円形の邪魔板」の挿通孔の内径との比は「1.17」となり、本件訂正発明1の「1.20?1.50」とは異なる。
また、申立人が提出した他の丙号証に記載された技術手段も本件訂正発明1の上記比を「1.20?1.50」とすることについて示唆するものはない。
よって、丙第5号証に記載された発明及び他の丙号証に記載された技術手段に基いて本件訂正発明1に想到することは容易に成し得るものではない。
なお、本件訂正発明1を引用する本件訂正発明3についても同様である。

3-4.丙第6号証について
i)丙第6号証には、「ゼオライトNaA膜用としてのチューブラー型」の「チューブラー膜を相互に差し入れるタイプとしてまとめられており、同一円筒シェル内へチューブラー膜の充填密度を上げてあ」り(49頁右欄下から10行?50頁左欄2行)、欠円形の邪魔板へチューブラー膜が挿通され(図18)、チューブラー膜は「通常のモレキュラーシーブ用NaA型ゼオライト結晶体を多孔質セラミックチューブ(外径/内径:12φ/9φ×800(長さ:mm)(ムライト質)外面上に結晶膜として形成・析出させたもの」である(45頁右欄19行?46頁左欄2行)「膜モジュール」が記載されている。
ii)すると、丙第6号証には、従来の「欠円形の邪魔板」を有する「円筒型膜モジュール」が記載されているが、「円筒型膜モジュール」の外径と「欠円形の邪魔板」の挿通孔の内径との関係は記載も示唆もない。
したがって、本件訂正発明1は、丙第6号証に記載された発明とはいえない。
iii)また、上記「2-2-4.」でみたように、丙第2号証の【0006】?【0010】の記載から、従来の「欠円形の邪魔板」を有する「円筒型膜モジュール」では「円筒型膜モジュール」の外径と「欠円形の邪魔板」の挿通孔の内径との間に「1mm程度の隙間」があるので、これを丙第6号証に適用しても、丙第6号証の「チューブラー膜」は「外径」「12φ」であるから、「チューブラー膜」の外径と「欠円形の邪魔板」の挿通孔の内径との比は「1.17」となり、本件訂正発明1の「1.20?1.50」とは異なる。
また、申立人が提出した他の丙号証に記載された技術手段も本件訂正発明1の上記比を「1.20?1.50」とすることについて示唆するものはない。
よって、丙第6号証に記載された発明及び他の丙号証に記載された技術手段に基いて本件訂正発明1に想到することは容易に成し得るものではない。
なお、本件訂正発明1を引用する本件訂正発明3についても同様である。

なお、丙第3,4,7号証については、丙第4号証は丙第3号証の公開日を示すにすぎず、丙第3号証及び丙第7号証は、何れも副引例として引用され得るにすぎない。

3-5.結言
以上から、取消理由において採用しなかった特許異議申立理由について、丙第1号証ないし丙第7号証をどのように組み合せても、本件訂正発明1及びこれを引用する本件訂正発明3を当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

4.むすび
以上のとおりであるから、当審の取消理由及び異議申立理由によっては、本件請求項1及び3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1及び3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、訂正により請求項2が削除されたため、請求項2に係る特許に対する特許異議申立については対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシング内に、管板に支持された並列状の管状分離膜エレメントと、これらの管状分離膜エレメントに対して直交状に配置された所要数の邪魔板とを備えている分離膜モジュールであって、
邪魔板は、ケーシングの内径に略等しい外径を有する円板の端部が切除された欠円形を有するものであり、
隣り合う邪魔板の切断端が交互に配されることにより、邪魔板の切断端と、これに対向するケーシング内壁面との間にあけられた混合流体流通路が、ケーシング内において交互に設けられ、
各邪魔板に設けられた管状分離膜エレメント挿通孔の内径が、管状分離膜エレメントの外径の1.20?1.50倍であり、該挿通孔の内周面と管状分離膜エレメントの外周面との間に、混合流体流通間隙が設けられており、該間隙内においても管状分離膜エレメントの分離膜による混合流体分離機能が果たされるようになされていることを特徴とする、分離膜モジュール。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
各邪魔板に設けられた管状分離膜エレメント挿通孔の内部に、該挿通孔の内壁から管状分離膜エレメントの分離膜外壁面に向かって伸びる複数個の間隔保持用凸起が設けられ、
混合流体の濃縮成分を排出する排出口に最も近い邪魔板は管状分離膜エレメントを支持する管板を兼ねており、該邪魔板には、該排出口に挿通する貫通孔を有することを特徴とする、請求項1に記載の分離膜モジュール。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-08-25 
出願番号 特願2011-179633(P2011-179633)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (B01D)
P 1 651・ 113- YAA (B01D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 岡田 三恵  
特許庁審判長 大橋 賢一
特許庁審判官 中澤 登
永田 史泰
登録日 2016-02-26 
登録番号 特許第5890981号(P5890981)
権利者 日立造船株式会社
発明の名称 分離膜モジュール  
代理人 岸本 瑛之助  
代理人 松村 直都  
代理人 渡邉 彰  
代理人 渡邉 彰  
代理人 尋木 浩司  
代理人 岸本 瑛之助  
代理人 松村 直都  

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