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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B60C
審判 全部申し立て 2項進歩性  B60C
管理番号 1333251
異議申立番号 異議2017-700652  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-11-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-06-26 
確定日 2017-10-06 
異議申立件数
事件の表示 特許第6055564号発明「タイヤインナーライナー用フィルム及び空気入りタイヤ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6055564号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6055564号の請求項1ないし8に係る特許についての出願は、2013年(平成25年)3月8日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2012年3月8日 韓国(KR),2012年3月8日 韓国(KR))を国際出願日とする出願である特願2014-558689号(以下「原出願」という。)の一部を平成28年1月21日に新たな特許出願としたものであって、平成28年12月9日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人 山本千惠子(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第6055564号の請求項1ないし8の特許(以下「本件特許」という。)に係る発明(以下「本件発明1ないし8」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
第1方向に延伸又は配向し、第1方向に垂直な第2方向には未延伸状態の基材フィルムを含み、
前記第1方向が空気入りタイヤ製造用タイヤ成形ドラムの軸方向と平行に設定され、
前記基材フィルムの第1方向及び第2方向の引張強度比が1.1:1?2:1であり、
第1方向は、基材フィルムの横方向(TD)と同一であり、第2方向は、基材フィルムの縦方向(MD)と同一であり、
前記基材フィルムの第2方向の長さが1000mm以上であるタイヤインナーライナー用フィルム。
【請求項2】
前記基材フィルムがポリアミド系セグメントとポリエーテル系セグメントとを含む共重合体(i);又はポリアミド系セグメントを含む重合体及びポリエーテル系セグメントを含む重合体の間の樹脂混合物(ii)を含み、
前記共重合体のポリエーテル系セグメントの含有量、又は前記ポリエーテル系セグメントを含む重合体の含有量が、前記基材フィルムの全体重量中、5?50重量%である請求項1に記載のタイヤインナーライナー用フィルム。
【請求項3】
前記共重合体は、ポリアミド系セグメント及びポリエーテル系セグメントを、7:3?3:7の重量比で含む請求項2に記載のタイヤインナーライナー用フィルム。
【請求項4】
前記樹脂混合物は、前記ポリアミド系セグメントを含む重合体及びポリエーテル系セグメントを含む重合体を、7:3?3:7の重量比で含む請求項2に記載のタイヤインナーライナー用フィルム。
【請求項5】
前記基材フィルムは、3.0?4.0の相対粘度(硫酸96%溶液)を有するポリアミド系樹脂をさらに含む請求項2に記載のタイヤインナーライナー用フィルム。
【請求項6】
前記基材フィルムが前記ポリアミド系樹脂と前記共重合体(i)又は樹脂混合物(ii)を、7:3?3:7の重量比で含む請求項5に記載のタイヤインナーライナー用フィルム。
【請求項7】
前記基材フィルムの少なくとも一面に形成され、レゾルシノール-ホルマリン-ラテックス(RFL)系接着剤を含む接着層をさらに含む請求項1に記載のタイヤインナーライナー用フィルム。
【請求項8】
請求項1?7のいずれかに記載のタイヤインナーライナー用フィルムを用いて製造された空気入りタイヤ。」

第3 申立理由の概要
1 申立人の主張の概要
(1)申立理由1(進歩性欠如)
本件発明1ないし8は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件発明1ないし8は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、本件特許は同法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである。
(2)申立理由2(サポート要件違反)
本件発明の効果を得るには、フィルムを特定の向きに設定してタイヤを製造する製造工程を経たことが必須要件になる。しかしながら、本件発明1?7ではタイヤの製造工程が要件になっていないので本件発明の効果を得ることができない。よって、本件発明1?7は、願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の発明の詳細な説明に記載された内容を超える内容を含んでいる。
剛体のコアを用いるタイヤの製造方法では、剛体のコアの外周面に製品タイヤの最終寸法に近い寸法を有するグリーンタイヤを形成した後に剛体のコアとともにグリーンタイヤを加硫成形するので(甲第5号証(特開2006-103106号公報)の段落【0002】、【0016】?【0017】)、タイヤの円周方向における変形率とラジアル方向における変形率とにはほとんど差がない。そのため、具体的なタイヤの製造方法を特定していない本件発明1?8では、本件発明の効果を得ることができない場合が含まれている。よって、本件発明1?8は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された内容を超える内容を含んでいる。
また、シェーピングプラグや加硫プラグを用いる製造方法では、タイヤの円周方向における変形率がラジアル方向の変形率に比してどの程度になるかはー律ではなく、タイヤの仕様や製造条件等によって様々である。そのため、製造工程でのタイヤの円周方向/ラジアル方向の変形率比を何ら特定していない本件発明1?8では、本件発明の効果を得ることができない場合が含まれている。よって、本件発明1?8は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された内容を超える内容を含んでいる。
本件発明の効果を得るには.基材フィルムの厚さおよび材質(物性)は必須要件であると考えられるが、本件発明1?8では、基材フィルムの厚さおよび材質(物性)が特定されていない。そのため、これら発明には、本件発明の効果を得ることができないフィルムが含まれている。よって、本件発明1?8は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された内容を超える内容を含んでいる。
実施例1?6のインナーライナーフィルムによる効果と同様の効果が、実施例1?6のフィルム材質以外の場合にも当然に得られるとは言えず、同様の効果が得られることを裏付ける証拠も本件明細書には記載されていない。それ故、基材フィルムの材質を特定していない本件発明1、7、8には、本件発明の効果を得ることができないフィルムが含まれている。したがって、本件発明1、7、8は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された内容を超える内容を含んでいる。
したがって、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、本件特許は同法第113条第4号の規定に該当し、取り消すべきものである。

2 申立人が提出した証拠方法
(1)甲第1号証:特開2007-30691号公報
(2)甲第2号証:国際公開第2011/122876号
(3)甲第3号証:国際公開第2012/002750号
(4)甲第4号証:特開昭59-93345号公報
(5)甲第5号証:特開2006-103106号公報
以下、甲第1号証ないし甲第5号証を甲1ないし甲5という場合がある。

第4 各甲号証の記載事項
1 甲第1号証
原出願の優先日前に頒布された刊行物と認められる甲第1号証には、「タイヤ用インナーライナー及びそれを用いた空気入りタイヤ」に関し、以下の事項が記載されている。
以下、各甲号証の(1a)等の記載事項を「摘示(1a)」などという場合がある。
なお、下線は当審で付与した。
(1a)「【0017】
実施例1?2及び比較例1?4
表Iに示す材料のフィルムの動的弾性率E’、破断強度(TB)及び破断伸び(EB)、50%モジュラス(M50)、通気度及び耐久性を以下の方法で測定した。結果は、表Iに示す。
【0018】
・・・
引張試験(25℃):JIS K6251に準拠して、インナーライナー成形品のタイヤ幅方向とタイヤ周方向のTB(破断強度)及びEB(破断伸び)を測定し、その比を求めた。
・・・
【0020】
耐久性:各例に記載の材料を用いて、195/65R15サイズのタイヤを作製し、空気圧200KPa、排気量2000ccクラスの車両に装置し、寒冷地にて冬期30000Km走行させ、次いで走行後タイヤのインナーライナーを観察し、クラックが発生していないものを良、発生したものを不良とした。」
(1b)「【0023】
・・・比較例2は実施例1で用いたイソブチレンーパラメチルスチレンの臭素化物とナイロン6のブレンド物(ブレンド重量比=55/45)からなる熱可塑性エラストマーをインフレーション成形にて240℃、吐出量/引取速度167g/m、ブロー比1.1の条件で2軸延伸し、成形方向がタイヤ幅方向、周方向がタイヤ周方向になるように切断して用いた。」
(1c)「【0021】


(1d)「【0024】
表Iの結果から明らかなように、実施例1は熱可塑性エラストマーの2軸延伸フィルムで幅方向/周方向の物性差が小さく、モジュラスが小さいためタイヤ耐久試験で良好な耐久性を示している。実施例2は同じ熱可塑性エラストマーのプレス成形フィルムで、これも幅方向/周方向の物性差が小さいため耐久性は良好である。
【0025】
一方、比較例1は同じ熱可塑性エラストマーを1軸延伸で成形したフィルムであるが、亀裂が延伸方向に進展しやすいためタイヤ耐久試験でクラックが発生した。比較例2は同じ熱可塑性エラストマーを2軸延伸で作製しているが、ブロー比が小さいため成形方向に大きく延伸されており、タイヤ耐久試験でクラックが発生した。比較例3は低透過性のEVOHを1軸延伸で作製したフィルムであるが、モジュラスが非常に高いためタイヤ耐久試験で大きなクラックが多数発生した。比較例4は低透過性のナイロン6を2軸延伸で幅方向/周方向の物性差がないように作製したフィルムであるが、これもモジュラスが非常に高いためタイヤ耐久試験で大きなクラックが発生した。」
上記摘示(1a)ないし(1c)から、比較例2の2軸延伸熱可塑性エラストマーフィルムは、195/65R15サイズのタイヤのインナーライナーとして使用されるものであること、かかるフィルムのタイヤ幅方向とタイヤ周方向のTB(破断強度)比が2.0であることが明らかである。
以上によれば、甲第1号証には「熱可塑性エラストマーをインフレーション成形にて240℃、吐出量/引取速度167g/m、ブロー比1.1の条件で2軸延伸し、成形方向がタイヤ幅方向、周方向がタイヤ周方向になるように切断してなる195/65R15サイズのタイヤのインナーライナーとして使用され、前記タイヤ幅方向と前記タイヤ周方向のTB(破断強度)比が2.0である、2軸延伸熱可塑性エラストマーフィルム」の発明が記載されているといえる(以下「引用発明」という。)。

2 甲第2号証
原出願の優先日前に頒布された刊行物と認められる甲第2号証には、「タイヤインナーライナ用フィルム」に関し、図面とともに以下の事項が記載されている。
なお、仮訳は、甲第2号証のパテントファミリー文献である特表2013-528666号公報を参考にして当審で作成した。
また、摘記箇所の頁及び行数の表記に加え、便宜のため、前記公報の対応する段落番号等を併記した。
(2a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド系セグメント;およびフィルム全体重量に対して5乃至50重量%のポリエーテル系セグメントを含む共重合体を含み、
30乃至300μmの厚さを有する、タイヤインナーライナ用フィルム。
・・・
【請求項13】
少なくともフィルムの一表面上に形成されており、レゾルシノール-ホルマリン-ラテックス(RFL)系接着剤を含む接着層をさらに含む、請求項1に記載のタイヤインナーライナ用フィルム。
【請求項14】
ポリアミド系樹脂をさらに含む、請求項1に記載のタイヤインナーライナ用フィルム。」(31頁1行?34頁14行)
(2b)「前記ポリアミド系樹脂は2.5乃至4.0の相対粘度を有することができる。前記相対粘度が2.5未満である場合には靭性(toughness)の低下によって十分な伸び率が確保されなくて、タイヤの製造時や自動車の運行時に破損が発生でき、4.0超過である場合にはモジュラスまたは粘度が不必要に高まって、製造工程の効率および経済性などを低下させることができる。このようなポリアミド系樹脂の粘度は、微細管式粘度計または振動式粘度計など以前に知られていた粘度計と通常使用される溶媒および方法を大きい制限なしに使用することができる。例えば、ポリアミド系樹脂を96%硫酸に溶解し、硫酸とポリアミド樹脂溶液の落下速度の比率から相対粘度を測定することができる。」(13頁3?11行。【0055】)
(2c)「実施例1
インナーライナフィルム用樹脂重合のためのε-カプロラクタム70wt%およびポリオキシエチレンジアミン(Mw.1000)30wt%の混合物にポリオキシエチレンジアミンと同様のモル数のアジピン酸を混合して、100℃の窒素雰囲気下で30分間溶融した。前記溶融液を250℃で3時間加熱して、8kg/cm^(2)まで昇圧して圧力を維持した。そして、1時間の間1kg/cm^(2)に減圧した。
前記減圧された溶融物をチップ形状に製造した後、製造されたチップを260℃温度で環状ダイに圧出して、30m/minの速度で延伸および熱処理区間を経ずに、70μmの厚さを有する未延伸タイヤインナーライナ用フィルムを得た。
そして、前記インナーライナ用フィルム上にレゾルシノール-ホルマリン-ラテックス(RFL)系接着剤をグラビアコーターを利用して5μmの厚さにコーティングして、150℃で1分間乾燥および反応させて接着層を形成した。
製造されたタイヤインナーライナフィルムの厚さはゲージテスターを利用して測定した。この時、フィルムの厚さは接着剤層を除いたフィルムだけの厚さを意味する。

実施例2
ε-カプロラクタム60wt%およびポリオキシエチレンジアミン40wt%を混合した点を除いて、実施例1と同様な方法で70μmの未延伸タイヤインナーライナフィルムを得た。」(18頁19行?19頁11行。【0079】?【0083】)

3 甲第3号証
原出願の優先日前に頒布された刊行物と認められる甲第3号証には、「タイヤインナーライナ用フィルム」に関し、図面とともに以下の事項が記載されている。
なお、仮訳は、甲第3号証のパテントファミリー文献である特表2013-531101号公報を参考にして当審で作成した。
また、摘記箇所の頁及び行数の表記に加え、便宜のため、前記公報の対応する段落番号等を併記した。
(3a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド系樹脂の50乃至95重量%;及びポリエーテル系樹脂の5乃至50重量%を含む共重合体または混合物を含む30乃至300μm厚さの基材フィルム;及び
レゾルシノールとホルムアルデヒドの縮合物2乃至32重量%及びラテックス68乃至98重量%を含有する接着剤を含む接着層;を含むタイヤインナーライナ用フィルム。」(44頁1?8行)
(3b)「【0046】
このようなポリアミド系樹脂は、2.5乃至4.0の相対粘度を有してもよい。前記相対粘度が2.5未満の場合には靭性(toughness)の低下によって十分な伸び率が確保されないことで、タイヤの製造時や自動車の運行時に破損が発生することがあり、4.0超過の場合にはモジュラスまたは粘度が不必要に高まることで、製造工程の効率及び経済性などが低下することがある。」(10頁23?27行。【0046】)
(3c)「6.実施例6
(1)基材フィルムの製造
基材フィルム用樹脂重合のためのε-カプロラクタム70wt%及びポリオキシエチレンジアミン(Mw1000)30wt%の混合物にポリオキシエチレンジアミンと同一のモル(mole)数のアジピン酸を混合して、100℃の窒素雰囲気下で30分間溶融した。前記溶融額を250℃で3時間加熱し、8kg/cm^(2)まで昇圧して圧力を維持した。そして、1時間1kg/cm^(2)に減圧した。
前記減圧された溶融物をチップ形状に製造後、製造されたチップを260℃温度で環状ダイで押出して、延伸及び熱処理区間を経ずに、30m/minの速度で100μm厚さの未延伸基材フィルムを得た。
(2)接着層組成物の製造
レゾルシノールとホルムアルデヒドを1:2のモル比で混合した後、縮合反応してレゾルシノールとホルムアルデヒドの縮合物を得た。
前記レゾルシノールとホルムアルデヒドの縮合物12重量%とスチレン/ブタジエン-1,3/ビニルピリジンラテックス88重量%を混合して、濃度20%のレゾルシノール/ホルムアルデヒド/ラテックスの混合物を得た。
(3)タイヤインナーライナフィルムの製造
前記基材フィルム(200×300mm)の両面に、それぞれ前記レゾルシノール-ホルマリン-ラテックス(RFL)系接着層の組成物をグラビアコーターを利用して塗布した。その後、熱風オーブン150℃で60秒間の乾燥及び熱処理を行って、基材フィルムの両面に0.5μm厚さの接着層が形成されたタイヤインナーライナ用フィルムを製造した。

7.実施例7
基材フィルムの製造過程において、ε-カプロラクタム60重量%及びポリオキシエチレンジアミン(Mw1,000)40重量%の混合物を用いた点を除いて、実施例6と同様な方法でタイヤインナーライナ用フィルムを製造した。」(28頁1?29行。【0120】?【0125】)

4 甲第4号証
原出願の優先日前に頒布された刊行物と認められる甲第4号証には、「タイヤ構成材料の供給方法及びその装置」に関し、以下の事項が図面とともに記載されている。
(4a)「【特許請求の範囲】
・・・
2.組立てドラムの巻回長さと略等しい幅のタイヤ構成材料を定尺コンベヤを介して引出し、このタイヤ構成材料を前記組立てドラムの幅方向に対応して所定の長さに切断する切断装置と、前記定尺コンベヤと直行する向きに配設され、且つ前記切断されたタイヤ構成材料をタイヤ成形機に順次供給するタイヤ材料供給装置とから成るタイヤ構成材料の供給装置。」(1頁左下欄13?20行)
(4b)「組立てドラム11へタイヤ構成材料Wを移送し、且つ巻回するための貼付コンベヤ201と、この貼付コンベヤ201と直行する向きに配設されたインナライナシートW1(ゴムシート)を移送する為の定尺コンベヤ202」(2頁右下欄2?7行)

第5 当審の判断
1 申立理由1(進歩性欠如)について
(1)本件発明1について
ア 対比
(ア)引用発明の「2軸延伸熱可塑性エラストマーフィルム」は、「195/65R15サイズのタイヤのインナーライナーとして使用され」るから、本件発明1の「基材フィルム」及び「タイヤインナーライナー用フィルム」に相当するといえる。
(イ)
(i)本件明細書の段落【0031】の記載によれば、本件発明1の「基材フィルム」の「第1方向」と同一とされる「横方向(TD)」は、タイヤのラジアル方向、すなわちタイヤ幅方向に、「第2方向」と同一とされる「縦方向(MD)」は、タイヤの円周方向、すなわちタイヤ周方向に適用されるものといえる。そうすると、引用発明の「成形方向がタイヤ幅方向、周方向がタイヤ周方向になるように切断してな」る「2軸延伸熱可塑性エラストマーフィルム」は、「タイヤ幅方向」及び「タイヤ周方向」を観念することができるから、本件発明1の「第1方向」と同一とされる「横方向(TD)」及び「第1方向に垂直な第2方向」と同一とされる「縦方向(MD)」を有しているといえる。
(ii)また、タイヤ製造装置において、タイヤ製造用タイヤ成形ドラムの軸方向と平行な方向がタイヤ幅方向と同一の方向となることは技術常識といえるから、上記(i)をも踏まえると、引用発明の「2軸延伸熱可塑性エラストマーフィルム」は、本件発明1の「第1方向が空気入りタイヤ製造用タイヤ成形ドラムの軸方向と平行に設定され」る構成を有しているといえる。
(iii)さらに、引用発明の「2軸延伸熱可塑性エラストマーフィルム」は、「熱可塑性エラストマーをインフレーション成形にて240℃、吐出量/引取速度167g/m、ブロー比1.1の条件で2軸延伸し、成形方向がタイヤ幅方向、周方向がタイヤ周方向になるように切断してなる」ものであるから、上記(i)及び(ii)をも踏まえると、「成形方向」である「タイヤ幅方向」、すなわち第1方向に延伸又は配向されるものであるとともに、「周方向」である「タイヤ周方向」、すなわち第2方向にも延伸されているということができる。
(ウ)引用発明の「2軸延伸熱可塑性エラストマーフィルム」は、「195/65R15サイズのタイヤのインナーライナーとして使用され」るものであるから、上記(イ)(i)をも踏まえると、かかるタイヤのサイズに相応するタイヤ周方向、すなわち第2方向において所定長さの寸法を有していることが明らかである。
(エ)引用発明の「2軸延伸熱可塑性エラストマーフィルム」の「前記タイヤ幅方向と前記タイヤ周方向のTB(破断強度)比が2.0である」構成は、破断強度が引張強度と実質同一であるといえるから、上記(ア)、(イ)(i)をも踏まえると、本件発明1の「前記基材フィルムの第1方向及び第2方向の引張強度比が1.1:1?2:1であ」る構成に相当するといえる。
以上(ア)?(エ)を踏まえると、引用発明の「熱可塑性エラストマーをインフレーション成形にて240℃、吐出量/引取速度167g/m、ブロー比1.1の条件で2軸延伸し、成形方向がタイヤ幅方向、周方向がタイヤ周方向になるように切断してなり、195/65R15サイズのタイヤのインナーライナーとして使用され、前記タイヤ幅方向と前記タイヤ周方向のTB(破断強度)比が2.0である、2軸延伸熱可塑性エラストマーフィルム」と本件発明1とは、「第1方向に延伸又は配向し、第1方向に垂直な第2方向には所定延伸状態の基材フィルムを含み、
前記第1方向が空気入りタイヤ製造用タイヤ成形ドラムの軸方向と平行に設定され、
前記基材フィルムの第1方向及び第2方向の引張強度比が1.1:1?2:1であり、
第1方向は、基材フィルムの横方向(TD)と同一であり、第2方向は、基材フィルムの縦方向(MD)と同一であり、
前記基材フィルムの第2方向の長さが所定長さであるタイヤインナーライナー用フィルム」の限度で共通するといえる。
以上を総合すると、本件発明1と引用発明との一致点及び相違点は以下のとおりといえる。
<一致点>
「第1方向に延伸又は配向し、第1方向に垂直な第2方向には所定延伸状態の基材フィルムを含み、
前記第1方向が空気入りタイヤ製造用タイヤ成形ドラムの軸方向と平行に設定され、
前記基材フィルムの第1方向及び第2方向の引張強度比が1.1:1?2:1であり、
第1方向は、基材フィルムの横方向(TD)と同一であり、第2方向は、基材フィルムの縦方向(MD)と同一であり、
前記基材フィルムの第2方向の長さが所定長さであるタイヤインナーライナー用フィルム」
<相違点1>
基材フィルムの第2方向における所定延伸状態に関し、本件発明1は、「未延伸状態」にあるのに対して、引用発明の2軸延伸熱可塑性エラストマーフィルムは「2軸延伸」されるものであるから、「延伸状態」にある点。
<相違点2>
基材フィルムの第2方向が所定長さであることに関し、本件発明1は、それが「1000mm以上」という長さに特定されているのに対して、引用発明は、「195/65R15サイズのタイヤのインナーライナーとして使用され」るものであるから、かかるタイヤのサイズに相応するタイヤ周方向、すなわち第2方向において所定長さの寸法を有しているといえるものの、その具体的な長さについては特定されていない点。

イ 判断
相違点1について検討する。
本件発明1の「未延伸状態」とは、本件特許に係る願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の発明の詳細な説明の段落【0029】に「タイヤインナーライナー用フィルムの製造過程で実質的に延伸が発生しなかったり、延伸した程度がわずかで製造されるフィルムに配向が発生しなかったり、フィルムの形態が実質的に変更されていない状態を意味する」と記載されていることから、本件発明1の基材フィルムは、タイヤ幅方向にのみ実質的に延伸又は配向するもの、すなわち、タイヤ幅方向に一軸延伸するものを意味すると解するのが相当といえる。
引用発明の「2軸延伸熱可塑性エラストマーフィルム」は、「インフレーション成形にて」、「ブロー比1.1の条件で2軸延伸し」て製造されるものであるところ、2軸延伸して製造されるものと明確に特定されていることはもとより、インフレーション成形の具体的な条件として、ブロー比が1.1と特定されているのであるから、インフレーション成形における周方向、すなわちタイヤ周方向においても、実質的に延伸しているとみるのが自然である。さらにいうと、甲1の表I(摘示(1c)参照)には、比較例1にもみられるように、2軸延伸熱可塑性エラストマーフィルムと表記上も明確に区別する態様で1軸延伸熱可塑性エラストマーフィルムであることが記載されていることからみても、比較例2の2軸延伸熱可塑性エラストマーフィルムをタイヤ幅方向にのみ実質的に延伸又は配向するものを意味すると解すべき合理的理由は存在しないというべきである。
甲2及び3には、基材フィルムに用いられる具体的な樹脂材料が、甲4には、タイヤ成形材料の供給方法及びその装置が記載されているものの、上記相違点1に係る本件発明1の構成については記載も示唆もされていない。
したがって、引用発明に甲2ないし4に記載された技術事項を適用しても、上記相違点1に係る本件発明1の構成には至らない。
また、他に上記相違点1に係る本件発明1の構成を容易想到であるとする理由も証拠も見当たらない。
よって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明及び甲第2ないし4号証に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件発明2ないし8について
本件発明2ないし8は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに減縮するものであり、上記(1)において本件発明1について判断したのと同様の理由により、引用発明及び甲第2ないし4号証に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

(3)小括
本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたとはいえないから、特許法第113条第2号の規定に該当するものとして取り消すことはできない。

2 申立理由2(サポート要件違反)について
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである(知財高裁平成17年11月11日判決、平成17年(行ヶ)第10042号、判例時報1911号48頁参照)
以下、上記観点に立って、本件について検討することとする。

(1)本件明細書の特許請求の範囲の記載について
特許請求の範囲の本件発明1に係る請求項1には、「第1方向に延伸又は配向し、第1方向に垂直な第2方向には未延伸状態の基材フィルムを含み、 前記第1方向が空気入りタイヤ製造用タイヤ成形ドラムの軸方向と平行に設定され、前記基材フィルムの第1方向及び第2方向の引張強度比が1.1:1?2:1であり、第1方向は、基材フィルムの横方向(TD)と同一であり、第2方向は、基材フィルムの縦方向(MD)と同一であ」る「タイヤインナーライナー用フィルム」という事項(以下「発明特定事項A」という場合がある。)が記載されており、かかる事項により、「タイヤへの適用時、全方向にわたって均一かつ優れた物性を示すことができ、タイヤの製造過程や自動車走行過程においても優れた耐久性及び耐疲労特性を確保することができるタイヤインナーライナー用フィルムを提供する」(段落【0015】)という課題を解決するものであるといえる。

(2)本件明細書の発明の詳細な説明の記載について
発明の詳細な説明には以下の事項が記載されている。
なお、下線は当審で付与した。
「【0030】
タイヤの成形及び製造過程において、インナーライナーは、空気注入によるタイヤ成形及び加硫工程などの諸工程で形態の変形が生じ、特に、タイヤのラジアル方向(Radial Direction)及び円周方向(Circumferential Direction)は変形程度の差が特に大きくなる。一般に、タイヤの円周方向(Circumferential Direction)における変形率がタイヤのラジアル方向(Radial Direction)に対比してはるかに高く、結果的に、前記両方向の間にはタイヤ製造工程による変形によって配向差が大きく発生し、これによってインナーライナーの物性不均一を誘発し、相対的に物性が脆弱な部分が発生してしまう。このような物性の脆弱な部分に外部応力が集中することによって、インナーライナーの損傷又は破壊などの現象が現れ、タイヤに要求される耐久性及び耐疲労特性を確保しにくいことがある。」
「【0032】
これに対し、前記発明の一実施形態にかかるタイヤインナーライナー用フィルムは、一定程度の配向又は延伸が行われた部分をタイヤのラジアル方向(Radical Direction)に適用し、未延伸部分を円周方向(Circumferential Direction)に適用することで、タイヤ製造工程時に発生するタイヤのラジアル方向(Radial Direction)及び円周方向(Circumferential Direction)における変形程度の差による配向不均一に起因する物性不均一の問題を解消することができるため、タイヤインナーライナーの物性が全方向においてすべて均一に発現させることができ、これによって外部応力による破壊現象が生じ得る脆弱部分を除去するため、タイヤにおいて要求される耐久性及び耐疲労特性を確保することができる。
【0033】
具体的には、前記基材フィルムの第1方向及び第2方向の引張強度比は、1.1:1?2:1、好ましくは1.2:1?1.6:1であってよい。このようなフィルムの第1方向及び第2方向の間の引張強度比は、前記フィルムの横方向(TD)の延伸程度によるものであって、このような引張強度比を有することによって、最終製造されるタイヤ内において特定方向への厚さや物性の差がないインナーライナーが形成可能であり、タイヤの製造過程や自動車走行過程において必要な機械的物性、耐久性及び耐疲労特性を確保することができる。」



以上の記載事項によると、本件明細書の発明の詳細な説明には、タイヤ製造過程において、タイヤの円周方向における変形率がタイヤのラジアル方向(タイヤの幅方向)に対比して高く、かかる変形程度の差により生じる配向差によりインナーライナーの物性不均一を誘発し、相対的に物性が脆弱な部分に外部応力が集中すると、インナーライナーの損傷又は破壊などの現象が現れ、タイヤに要求される耐久性及び耐疲労特性を確保しにくいという課題、すなわち、タイヤ製造工程時に発生するタイヤのラジアル方向(タイヤの幅方向、基材フィルムの幅方向(TD))及び円周方向(タイヤの円周方向、基材フィルムの縦方向(MD))における変形程度の差による配向不均一に起因する物性不均一の課題を解決するために、タイヤインナーライナー用フィルムは、一定程度の配向又は延伸が行われた部分をタイヤのラジアル方向(タイヤの幅方向、基材フィルムの幅方向(TD))に適用し、未延伸部分を円周方向(タイヤの円周方向、基材フィルムの縦方向(MD))に適用するとともに、前記フィルムの第1方向(タイヤの幅方向、基材フィルムの幅方向(TD))及び第2方向(タイヤの円周方向、基材フィルムの縦方向(MD))の引張強度比を、1.1:1?2:1に設定するという構成を採用することにより、最終製造されるタイヤ内において特定方向への厚さや物性の差がないインナーライナーが形成可能であり、タイヤの製造過程や自動車走行過程において必要な機械的物性、耐久性及び耐疲労特性を確保することができるという作用効果を奏することが記載されているといえる。
そして、上記構成の引張強度比に係る数値範囲を満たす実施例1?6と満たさない比較例1?3との対比実験からも、上記構成を採用したことによる作用効果が裏付けられているといえる。

(3)本件発明1の課題が解決できると認識できる範囲のものか
発明の詳細な説明には、上記(2)で述べたように、上記(1)で述べた本件発明1と同じ事項が記載されており、本件発明1の上記発明特定事項Aを採用することにより、本件発明1の課題、すなわち、タイヤへの適用時、全方向にわたって均一かつ優れた物性を示すことができ、タイヤの製造過程や自動車走行過程においても優れた耐久性及び耐疲労特性を確保することができるという課題を解決できることは、当業者が上記(2)において摘記した発明の詳細な説明に記載されている事項及び技術常識を参酌することにより、十分認識することができるといえる。
これに対し、異議申立人は、作用効果との関係で、タイヤの製造工程の特定、基材フィルムの厚さ及び材質の特定が必須要件であると主張(上記1(2))するので以下検討する。
まず、タイヤの製造工程の特定が必須要件であるとの主張について検討する。
本件発明1は「タイヤインナーライナー用フィルム」という「物の発明」であるから、通常その物の形状、構造、特性等が特定されれば足りるというべきである。
本件発明1の「タイヤインナーライナー用フィルム」は、タイヤの構成部分であるインナーライナーの原材料ともいうべき物であり、それ自体の形状、構造、特性等がタイヤの製造工程により何ら特定されるものとはいえない。
したがって、本件発明1の「インナーライナー用フィルム」という「物の発明」を特定するために必要な事項として、タイヤの製造工程が必須要件であるとする理由はない。
仮に、特定のタイヤの製造工程を含むタイヤ製造方法において、本件発明1の「タイヤインナーライナー用フィルム」が好適に使用されない、あるいは効果が発揮されない製造工程が存在するとしても、それはあくまで、本件発明1の「タイヤインナーライナー用フィルム」のその後の使用、利用に係る事情であって、本件発明1がタイヤインナーライナー用フィルムの使用方法に関する発明であればまだしも、そうではないのであるから、かかる事情が本件発明1がサポート要件の判断を左右するものとはいえない。
そして、上述のとおり、本件発明1の上記発明特定事項Aを採用した「タイヤインナーライナー用フィルム」によれば、タイヤの円周方向における変形率がタイヤのラジアル方向(タイヤの幅方向)に対比して高いようなタイヤ製造過程における当該フィルムの物性不均一の課題が解決できることは当業者が十分認識できるといえるから、上記主張は採用できない。
次に、厚さや材質の特定が必須要件であるとの主張について検討する。
物の厚さや材質がその物の耐久性に影響を及ぼすことは、あらゆる物に共通する事項といえるところ、そうであるとすると、耐久性の確保を課題とするすべての物の発明において厚さや材質の特定なければ、サポート要件を満たさないということになり、そのような前提は、発明の適正な保護の観点で必ずしも妥当であるとはいえない。
本件発明1のタイヤインナーライナー用フィルムにおいても、その厚さや材質がタイヤへの適用時に耐久性に影響を及ぼす要因となることはいえるかもしれないが、本件発明1は、タイヤ製造過程に発生するタイヤ円周方向とラジアル方向との変形程度の差による配向不均一に起因する物性不均一の問題を解決するためになされたものであって、上記(1)で述べた発明特定事項Aを採用することによって、最終製造されるタイヤ内において特定方向への厚さや物性の差がないインナーライナーを形成可能とするものであるところ、当業者であれば、通常想定される厚さや材質を有するタイヤインナーライナー用フィルムにおいて、物性の不均一の解消がはかられれば、耐久性の確保の点で一定程度の効果が得られることは十分理解できるものといえるから、かかるフィルムの厚さや材質までをも特定されなければサポート要件を満たさないということはできない。
よって、上記主張は採用できない。
また、本件発明2ないし8は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに減縮するものであるから、本件発明1と同様にサポート要件を満たすといえる。
したがって、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたともいえないことから、特許法第113条第4号の規定に該当するものとして取り消すことはできない。

第6 むすび
以上のとおり、特許異議の申立ての理由によっては、本件特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-09-26 
出願番号 特願2016-9942(P2016-9942)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (B60C)
P 1 651・ 121- Y (B60C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 大村 博一  
特許庁審判長 氏原 康宏
特許庁審判官 尾崎 和寛
和田 雄二
登録日 2016-12-09 
登録番号 特許第6055564号(P6055564)
権利者 コーロン インダストリーズ インク
発明の名称 タイヤインナーライナー用フィルム及び空気入りタイヤ  
代理人 山下 託嗣  
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