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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  G03B
審判 全部申し立て 2項進歩性  G03B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G03B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G03B
管理番号 1333255
異議申立番号 異議2017-700700  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-11-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-07-18 
確定日 2017-10-06 
異議申立件数
事件の表示 特許第6062348号発明「フォーカルプレンシャッタ及びカメラ」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第6062348号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
本件特許異議申立事件に係る特許第6062348号(請求項の数6。以下,「本件特許」という。)は,平成25年11月1日に出願され,平成28年12月22日に特許権の設定登録がされたものである。
平成29年1月18日に本件特許の特許掲載公報が発行されたところ,平成29年7月18日に特許異議申立人より請求項1ないし6に係る特許について本件特許異議の申立てがされた。


2 本件特許の請求項1ないし6に係る発明
本件特許の請求項1ないし6に係る発明(以下,それぞれを「本件特許発明1」ないし「本件特許発明6」といい,これらを総称して「本件特許発明」という。)は,設定登録がなされた特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるものであるところ,当該請求項1ないし6の記載は次のとおりである。

「【請求項1】
露光用の開口部を有する地板と,
前記開口部を開閉するべく前記地板に移動自在に設けられた先羽根と,
前記開口部を開閉するべく前記地板に移動自在に設けられた後羽根と,
前記先羽根を駆動する先羽根駆動部材と,
前記先羽根駆動部材を付勢する先羽根用駆動ばねと,
前記後羽根を駆動する後羽根駆動部材と,
前記後羽根駆動部材を付勢する後羽根用駆動ばねと,
前記先羽根駆動部材及び後羽根駆動部材を,前記先羽根用駆動ばねおよび後羽根用駆動ばねの付勢力に抗してシャッタ動作前のセット位置にセットし得るセット部材を備え,
前記先羽根駆動部材は,前記セット部材が係合して前記先羽根用駆動ばねの付勢力に抗しつつシャッタ動作前のセット位置にセットされる主駆動部材と,前記先羽根に連結される従駆動部材を含み,
前記セット位置にセットされる前記主駆動部材に追従するよう前記従駆動部材を付勢するセットばねと,
前記セット部材によるセット動作時に所定条件下で前記従駆動部材の追従を規制するべく作動する規制機構をさらに備えた,フォーカルプレンシャッタであって,
前記規制機構が非作動の状態において,前記主駆動部材が前記セット位置に移動する際に前記従駆動部材の追従を補助する補助機構を設けた,
ことを特徴とするフォーカルプレンシャッタ。
【請求項2】
前記補助機構は,前記セット位置に向けて移動する前記主駆動部材に対して前記従駆動部材を押圧又は引寄せて付勢する共に前記規制機構が作動した状態において前記主駆動部材に対する前記従駆動部材の相対的な移動を許容するように弾性変形し得る付勢部材を含む,
ことを特徴とする請求項1に記載のフォーカルプレンシャッタ。
【請求項3】
前記付勢部材は,前記従駆動部材に設けられた当接部に当接し得ると共に所定以上の抵抗力に対して弾性変形して撓むように前記主駆動部材に設けられた板バネである,
ことを特徴とする請求項2に記載のフォーカルプレンシャッタ。
【請求項4】
前記主駆動部材及び従駆動部材は,同一の軸線回りに回動するように重ねて配置され,
前記板バネは,前記軸線に垂直な面内において撓むように形成され,
前記当接部は,前記板バネの先端領域と当接し得るように前記軸線と平行に伸長して形成されている,
ことを特徴とする請求項3に記載のフォーカルプレンシャッタ。
【請求項5】
前記板バネの先端領域は,前記当接部に向けて凸状に湾曲して形成され,
前記当接部は,前記軸線と平行に伸長する円柱状に形成されている,
ことを特徴とする請求項4に記載のフォーカルプレンシャッタ。
【請求項6】
請求項1ないし5いずれか一つに記載のフォーカルプレンシャッタを備えた,
ことを特徴とするカメラ。」


3 申立理由の概要
特許異議申立人が主張する申立理由は概略次のとおりである。
(1)申立理由1
ア サポート要件違反
請求項1ないし3及び6に係る特許は,次の(ア)及び(イ)の点で,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(ア) 本件特許の請求項1に記載された「補助機構」について,本件特許明細書の発明の詳細な説明には,実質上「主駆動部材51に設けられた付勢部材としての板バネ52及び従駆動部材55に設けられた当接部56」からなるものが記載されているのみで,他の具体的な態様は示されていないから,当業者といえども「板バネ52」及び「当接部56」からなる補助機構以外の補助機構を実現できない。
したがって,出願時の技術常識に照らしても,請求項1,2及び6に係る発明の範囲まで,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できない。
(イ) 本件特許の請求項1ないし3及び6には,露光動作を行う際の補助機構の動作等,連写のコマ速を高めて高速での連続撮影を可能とするための具体的な構成について,明確に特定されておらず,課題を解決するための手段が反映されていないから,本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものとなっている。

明確性要件違反
請求項1ないし3及び6に係る特許は,次の(ア)及び(イ)の点で,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(ア) 本件特許の請求項1に記載された「セットばね」及び「補助機構」について,本件特許明細書の発明の詳細な説明には,セットばねが「板バネ52」であることが特定され,補助機構が「板バネ52」及び「当接部56」であることが特定されている。
そうすると,本件特許の請求項1の記載では,請求項1ないし3及び6に係る発明における「補助機構」が補助する「主駆動部材に従駆動部材を追従させる構成」が何を指しているのか不明確である。
(イ) 本件特許の請求項1の記載では,請求項1ないし3及び6に係る発明における電子ファインダを用いて被写体像を観察できるようにするための構成が不明確であり,露光時における補助機構の動作等の,連写のコマ速を高めて高速での連続撮影を可能とするための構成が不明確である。
(ウ) 本件特許の請求項2の記載では,請求項2,3及び6に係る発明における付勢部材の弾性変形がどのような変形であるのか理解できず,その構成が不明確である。
(エ) 本件特許の請求項3の記載では,請求項3及び6に係る発明におけるどのような状況でどのように板バネが撓むのかが理解できないため,その構成が不明確である。

(2)申立理由2
本件特許の審査経緯において,平成28年8月8日に提出された手続補正書により,補正前の請求項1に記載されていた「従駆動部材」を「主駆動部材に追従するように付勢」する手段について「セットばね」との名称が付され,発明の詳細な説明の【0014】において,当該「セットばね」が,「補助機構M」を構成する板バネ52及び当接部56のうちの「板バネ52」であることが特定されたが,出願当初明細書等の記載からは,「セットばね」は「ガタ寄せバネ」とも理解し得るため,板バネ52をセットばねとすることは出願当初明細書等の記載から自明な事項ではなく,当該補正は新規事項の追加に該当する。
したがって,請求項1ないし6に係る特許は,特許法17条の2 3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものである。

(3)申立理由3及び4
本件特許発明1,2及び6は,甲1に記載された発明と同一であり,特許法29条1項3号に該当するから,その特許は同法29条1項の規定に違反してされたものである。
本件特許発明1は,甲1に記載された発明に基づいて,又は甲1に記載された発明と甲2ないし甲4のいずれかに記載された事項とに基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,その特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
本件特許発明2は,甲1に記載された発明に基づいて,又は甲1に記載された発明と甲3,甲5のいずれかに記載された事項とに基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,その特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
本件特許発明3は,甲1に記載された発明及び甲6に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,その特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
本件特許発明4及び5は,いずれも,甲1に記載された発明,甲4に記載された事項,及び甲6に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,その特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
本件特許発明6は,甲1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,その特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものである。

甲1:特開2011-113060号公報
甲2:特開2011-180213号公報
甲3:特開2001-215555号公報
甲4:実願昭61-26967号(実開昭62-140526号)のマイクロフィルム
甲5:実願平1-38050号(実開平2-131733号)のマイクロフィルム
甲6:特開2006-235260号公報

(4)申立理由5
本件特許明細書の【0030】には,「シャッタ動作完了後(露光動作完了後)の休止状態においては,・・・(中略)・・・補助機構(板バネ52,当接部56)は,図3及び図4に示すように,板バネ52が弾性変形していない状態にあると共に当接部56から離脱した状態にある。」と記載されているが,図3や図4に示された板バネ52は当接部56に当接しているように見受けられる。
また,【0024】には,「当接部56は,図5及び図6に示すように,主駆動部材51がセット位置に移動する際に,板バネ52により押圧されて,主駆動部材51に対して従駆動部材55が確実に追従するように補助し,一方,規制機構80が作動して従駆動部材55の移動を規制する場合の所定以上の抵抗力に対して,図9及び図10に示すように,板バネ52を弾性変形させて当接状態から逸脱させ,従駆動部材55と一緒に規制位置に停止したまま,主駆動部材51のみをセット位置に移動させるようになっている。」と記載されているが,図6に示された板バネ52は当接部52と離間しているように見受けられ,図9や図10に示された板バネ52は当接部52に当接しているように見受けられる。
したがって,本件特許明細書の発明の詳細な説明には,板バネの形状変化が明確に記載されていないため,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。
したがって,請求項1ないし6に係る特許は,特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。


4 申立理由1に対する判断
(1)サポート要件違反について
ア 本件特許明細書には,次の記載がある。
(ア) 「【背景技術】
【0002】
従来のフォーカルプレンシャッタとしては,露光用の開口部を有する略矩形の地板,地板の開口部を開閉するべく地板に対して移動自在に支持された先羽根及び後羽根,先羽根を駆動する先羽根駆動部材(先羽根に連結されると共に先羽根のガタ寄せバネの付勢力を介して第2駆動部材に追従するように付勢された第1駆動部材(従駆動部材)及びシャッタ動作時に第1駆動部材を押して駆動力を及ぼす第2駆動部材(主駆動部材)),後羽根を駆動する後羽根駆動部材,先羽根駆動部材(第2駆動部材)及び後羽根駆動部材をシャッタ動作(露光動作)前のセット位置にセット(チャージ)するセット動作(チャージ動作)を行うセット部材,撮影前の待機時に開口部を開放するべく(ノーマルオープンとするべく)先羽根駆動部材の第1駆動部材(従駆動部材)をシャッタ動作完了位置(先羽根が開口部を全開した位置)に停止させて抑止する抑止手段(規制機構)等を備え,セット動作(チャージ動作)の際に,抑止手段により先羽根駆動部材(第1駆動部材)の移動を止めて開口部を開放した状態とし,電子ファインダを用いて撮影前の被写体像を観察できるようにしたものが知られている・・・(中略)・・・
【0003】
しかしながら,このフォーカルプレンシャッタにおいて,先羽根駆動部材を構成する第1駆動部材と第2駆動部材との関係は,先羽根に連結された第1駆動部材は,セット部材によりセット動作(チャージ動作)が直接行われる第2駆動部材に対して,先羽根をガタ寄せするガタ寄せバネの付勢力により追従するように構成されている。
したがって,抑止手段が非作動の状態(第1駆動部材を抑止しない状態)で,第2駆動部材がセット部材によりセット位置にセット(チャージ)される際に,第1駆動部材はガタ寄せバネの付勢力だけで第2駆動部材に追従してセット位置に移動するため,連写等の際にチャージ速度を速く(チャージ時間を短縮)すると,先羽根の重さ等により第1駆動部材が第2駆動部材に追従せず,再露光を招く虞があり,それ故にチャージ速度を速める(チャージ時間を短縮する)ことができないという問題があった。
・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は,上記の事情に鑑みて成されたものであり,その目的とするところは,電子ファインダを用いて撮影前の被写体像を観察できるように先羽根の駆動部材が二つの駆動部材により構成されるカメラ用のフォーカルプレンシャッタにおいて,構造の簡素化,装置の小型化等を図りつつ,セット部材によるチャージ速度を速くしても,所望の露光動作が得られ,連続撮影(連写)のコマ速(コマ数)を高めて,高速での連続撮影が可能なフォーカルプレンシャッタ及びそれを用いたカメラを提供することにある。」
(イ) 「【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のフォーカルプレンシャッタは,・・・(中略)・・・規制機構が非作動の状態において,主駆動部材がセット位置に移動する際に従駆動部材の追従を補助する補助機構を設けた,ことを特徴としている。・・・(中略)・・・規制機構が作動しない(電子ファインダにて撮影前の被写体像を観察しない)モードの場合,シャッタ動作(露光動作)が完了した(先羽根が開口部を開放しかつ後羽根が開口部を閉鎖した)状態から,セット部材がセット動作(チャージ動作)を開始すると,(先羽根駆動部材の)主駆動部材及び後羽根駆動部材がそれぞれの付勢力に抗してセット位置にセットされると共に(先羽根駆動部材の)従駆動部材が(先羽根のガタ寄せバネ等の)付勢力に加えて補助機構により補助されて主駆動部材に追従してセット位置にセットされ,主駆動部材及び後羽根駆動部材が電磁石等によりセット位置に保持された後にセット部材が(戻しバネ等の)付勢力により休止位置に戻されて機械的な規制が解除されると,電磁石等の通電オフにより,(主駆動部材が従駆動部材を押すようにして)先羽根駆動部材及び後羽根駆動部材が付勢力により移動して先羽根及び後羽根がそれぞれ所望のタイミングで走行してシャッタ動作(露光動作)を行う。
ここでは,規制機構が非作動の状態において,主駆動部材がセット位置に移動する際に従駆動部材の追従を補助する補助機構を設けたことにより,セット動作の際に従駆動部材は主駆動部材に確実に追従してセット位置にセットされるため,セット部材によるチャージ速度を速くしても,所望の露光動作が得られ,連続撮影(連写)のコマ速(コマ数)を高めて,高速での連続撮影が可能となる。」

イ 前記ア(ア)の記載から,従来のフォーカルプレンシャッタには,先羽根駆動部材を,先羽根に連結される従駆動部材と,シャッタ動作時に前記従駆動部材を押して駆動力を及ぼす主駆動部材とで構成するとともに,セット動作の際にセット部材により移動させられる前記主駆動部材に追従して前記従駆動部材が移動するように当該従駆動部材を付勢するガタ寄せバネと,前記従駆動部材をシャッタ動作完了位置に停止させることができる抑止手段とを設け,電子ファインダを用いて被写体像を観察する際には,抑止手段を動作させて従駆動部材をシャッタ動作完了位置に停止させ,セット動作の際の主駆動部材の移動に追従しないようにすることで,露光用の開口部を開放したままにして,電子ファインダを用いて撮影前の被写体像を観察できるように構成したものがあったこと,及び当該従来のフォーカルプレンシャッタでは,セット動作時に,従駆動部材がガタ寄せバネの付勢力だけで主駆動部材に追従することから,チャージ速度を速くすると,従駆動部材が主駆動部材に追従できなくなるおそれがあることから,連写等のためにチャージ速度を速め,チャージ時間を短縮することができないという課題があったことを把握できる。
また,前記ア(イ)の記載に接した当業者は,「補助機構」による作用,機能が,ガタ寄せバネの付勢力による従駆動部材の追従を,補助機構が補助することから,ガタ寄せバネの付勢力だけで追従させる従来のフォーカルプレンシャッタに比べて,チャージ速度を速めることができるというものであること,したがって,補助機構が従駆動部材の追従を補助する機構である限りは,その具体的な構成がどのようなものであっても,前記課題を解決できることを直ちに理解できる。

ウ これに対して,本件特許の請求項1には,「規制機構が非作動の状態において,主駆動部材がセット位置に移動する際に従駆動部材の追従を補助する補助機構」を設けることが記載されており,請求項2,3及び6は,当該請求項1の記載を直接又は間接的に引用する形式で記載されているところ,前記イで述べたことに照らせば,当業者は,当該「補助機構」を有している本件特許発明1ないし3及び6は,課題を解決できると認識できるというほかない。
したがって,本件特許発明1ないし3及び6は,発明の詳細な説明の記載により,当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから,本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものと認められる。

エ 特許異議申立人は,板バネ52及び当接部56からなるもの以外の補助機構に拡張ないし一般化できないなどと主張するが,前記イで述べたとおり,補助機構が従駆動部材の追従を補助する機構である限りは,その具体的な構成がどのようなものであっても,発明の課題を解決できると当業者は理解できるから,当該主張は採用できない。
また,特許異議申立人は,露光動作を行う際の補助機構の動作等が特定されていないから,発明の課題を解決するための手段が反映されていないなどとも主張するが,露光動作を行う際の補助機構の動作等は,セット動作時に従駆動部材が追従できなくなるという課題とは無関係な事項であって,課題を解決するための手段ではないから,当該動作等が特定されていないことがサポート要件違反となることはない。したがって,当該主張も採用できない。

(2)明確性要件違反について
ア(ア) 本件特許の請求項1には,
「前記セット位置にセットされる前記主駆動部材に追従するよう前記従駆動部材を付勢するセットばね・・・(中略)・・・をさらに備えた,フォーカルプレンシャッタであって,
前記規制機構が非作動の状態において,前記主駆動部材が前記セット位置に移動する際に前記従駆動部材の追従を補助する補助機構を設けた,
ことを特徴とするフォーカルプレンシャッタ。」
と記載されているところ,当該記載中の「従駆動部材の追従」が,「セットばね」の付勢力による従駆動部材の主駆動部材への追従のことであることは明らかである。
そして,「セットばね」の付勢力による従駆動部材の主駆動部材への追従を補助する以上,「補助機構」が「セットばね」とは別部材であることは,自明である。

(イ) この点,本件特許明細書の記載を確認してみると,
「【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のフォーカルプレンシャッタは,・・・(中略)・・・規制機構が作動しない(電子ファインダにて撮影前の被写体像を観察しない)モードの場合,シャッタ動作(露光動作)が完了した(先羽根が開口部を開放しかつ後羽根が開口部を閉鎖した)状態から,セット部材がセット動作(チャージ動作)を開始すると,(先羽根駆動部材の)主駆動部材及び後羽根駆動部材がそれぞれの付勢力に抗してセット位置にセットされると共に(先羽根駆動部材の)従駆動部材が(先羽根のガタ寄せバネ等の)付勢力に加えて補助機構により補助されて主駆動部材に追従してセット位置にセットされ,主駆動部材及び後羽根駆動部材が電磁石等によりセット位置に保持された後にセット部材が(戻しバネ等の)付勢力により休止位置に戻されて機械的な規制が解除されると,電磁石等の通電オフにより,(主駆動部材が従駆動部材を押すようにして)先羽根駆動部材及び後羽根駆動部材が付勢力により移動して先羽根及び後羽根がそれぞれ所望のタイミングで走行してシャッタ動作(露光動作)を行う。」
「【0014】
以下,本発明の実施形態について,添付図面を参照しつつ説明する。
この実施形態に係るフォーカルプレンシャッタは,図1ないし図4に示すように,地板10,地板10に対して所定の間隔をおいて平行に配置された支持板20,地板10に移動自在に設けられた先羽根30及び後羽根40,先羽根30を駆動するべく付勢された先羽根駆動部材50(主駆動部材51及び従駆動部材55),後羽根40を駆動するべく付勢された後羽根駆動部材60,先羽根駆動部材50及び後羽根駆動部材60を付勢力に抗しつつシャッタ動作前のセット位置にセット(チャージ)し得るセット部材70,セット部材70によるセット動作時(チャージ動作時)に所定条件下で主駆動部材51に対する従駆動部材55の追従を規制するべく作動する規制機構80,規制機構80が非作動の状態において主駆動部材51がセット位置に移動する際に従駆動部材55の追従を補助する補助機構M(主駆動部材51に設けられた板バネ52(セットばね),従駆動部材55に設けられた当接部56),セット位置において主駆動部材51及び後羽根駆動部材60(の被吸着部51c,60c)に対して磁気的吸引力を及ぼすべくそれぞれに対応して設けられた二つの電磁石90等を備えている。」
「【0019】
先羽根駆動部材50は,図3に示すように,時計回りに回転付勢されると共にセット部材70により(反時計回りに回転した)セット位置にセットされる主駆動部材51,セット位置に向かう(反時計回りに回転する)主駆動部材51に追従するように付勢された(従駆動部材55の駆動ピン55aがアーム34に連結されていることにより,先羽根30をガタ寄せするガタ寄せバネの付勢力を介して反時計回りに付勢された)従駆動部材55により構成されている。」
「【0023】
従駆動部材55は,図1及び図3に示すように,アーム34が連結される駆動ピン55a,主駆動レバー51の係合部51aと離脱可能に係合する係合部55b,規制機構80に含まれる規制部81aが離脱可能に係合して規制する係合部55c等を備え,又,規制機構の一部をなす当接部56を備えており,地板10に対して支軸10h回りに回動自在に支持されると共に,先羽根30をガタ寄せするガタ寄せバネにより反時計回りに回転付勢され,反時計回りに回転する主駆動部材51に追従するようになっている。」
「【0032】
そして,図5に示すように,セット部材70の時計回りの回転により,係合部70aが係合部51bに係合して主駆動部材51を付勢バネ53の付勢力に抗して反時計回りに回転させると,主駆動部材51に設けられた板バネ52の先端領域が従駆動部材55の当接部56に当接して従駆動部材55の追従を補助し,従駆動部材55は先羽根30をガタ寄せするガタ寄せバネの付勢力に加えて板バネ52の押圧力により主駆動部材51に確実に追従して反時計回りに回転し,又,僅かに遅れたタイミングで係合部70bが係合部60bに係合して後羽根駆動部材60を付勢バネ63の付勢力に抗して反時計回りに回転させて,図6及び図7に示すように,セット部材70によるセット位置へのセット動作が完了する。このセット完了の状態において,先羽根30が展開して開口部10aを閉鎖し,後羽根40が重なり合って開口部10aを開放した状態となる。」
等と説明されている。
これらの説明から,ガタ寄せバネの付勢力により従駆動部材55が主駆動部材51に追従すること,及び補助機構Mが板バネ52と当接部56とから構成されており,板バネ52が当接部56を押圧する押圧力が,ガタ寄せバネの付勢力による従駆動部材55の主駆動部材51への追従を補助すること,すなわち,「ガタ寄せバネ」が請求項1記載の「セットばね」に該当する構成であり,「板バネ52及び当接部56」が請求項1記載の「補助機構」に該当する構成であることを理解でき,前記(ア)で述べた請求項1の記載の理解と何ら矛盾しない。

(ウ) なお,本件特許明細書の【0014】には,「板バネ52(セットばね)」なる記載が存在するが,当該記載が誤記であることは当業者に自明であり,請求項1の記載からみても,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載からみても,発明の詳細な説明に記載の「板バネ52」が,請求項1記載の「セットばね」であるとともに,請求項1記載の「補助機構」をも構成していると解する余地はない。

(エ) 以上によれば,たとえ本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌したとしても,請求項1に記載された「セットばね」及び「補助機構」は明確に特定できるのであって,「補助機構」が補助する「主駆動部材に従駆動部材を追従させる構成」に関して,本件特許発明1ないし3及び6が不明確であるということはできない。

イ また,異議申立人が不明確であると主張する,電子ファインダを用いて被写体造を観察できるようにするための構成,露光時における補助機構の動作,付勢部材の弾性変形がどのような変形であるのか,どのような状況でどのように板バネが撓むのか等の点について,各請求項において特定されていないとしても,それらの構成については任意の態様を採用し得るということにすぎないのであって,これら構成が各請求項において特定されていないことが直ちに明確性要件違反となるわけではない。
しかるに,請求項1ないし3及び6の記載中に,フォーカルプレンシャッタ又はカメラという物の発明を不明確とするような発明特定事項は存在しないから,異議申立人が主張する前記各点に関して,本件特許発明1ないし3及び6が不明確であるということはできない。

(3)申立理由1について判断のまとめ
前記(1)及び(2)のとおりであるから,申立理由1は成り立たない。


5 申立理由2に対する判断
前記4(2)ア(ウ)で言及した本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0014】に記載の「板バネ52(セットばね)」なる文言は,平成28年8月8日提出の手続補正書による補正によって明細書中に挿入されたものである。
しかしながら,前記4(2)アで述べたように,特許請求の範囲の記載や本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載からみて,当該文言が誤記であって,「ガタ寄せバネ」が請求項1記載の「セットばね」に該当する構成であり,「板バネ52及び当接部56」が請求項1記載の「補助機構」に該当する構成であることは明らかなのであって,補正によって,請求項1において「従駆動部材」を「主駆動部材に追従するように付勢」する手段について「セットばね」との名称を付し,発明の詳細な説明において前記文言を挿入したことで,出願当初の明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入したことになるとは到底いえない。
したがって,申立理由2は成り立たない。


6 申立理由3及び4に対する判断
(1)甲1
ア 甲1の記載
甲1(特開2011-113060号公報)は,本件特許に係る出願より前に頒布された刊行物であるところ,当該甲1には,次の記載がある。
(ア) 「【請求項1】
先羽根を連結していて被押動部と被抑止部とを有しておりシャッタ地板の第1軸に対して回転可能に取り付けられている先羽根用第1駆動部材と,押動部を有していて前記第1軸に回転可能に取り付力けられており撮影時において先羽根用駆動ばねの付勢によって回転させられその回転時に該押動部が前記被押動部を押して先羽根用第1駆動部材を共に回転させたときには先羽根に露光開口を開かせる先羽根用第2駆動部材と,セット状態においては先羽根用第1駆動部材を先羽根が露光開口を覆う位置へ回転させ得るように直接又は間接に付勢しているセットばねと,後羽根を連結していて前記シャッタ地板の第2軸に回転可能に取り付けられており撮影時には後羽根用駆動ばねの付勢力によって回転させられ後羽根に露光開口を閉じさせる後羽根用駆動部材と,前記シャッタ地板の第3軸に回転可能に取り付けられておりセット作動時には初期位置から回転して先羽根用第2駆動部材と後羽根用駆動部材とを前記各駆動ばねの付勢力に抗して回転させセット位置においてはそれらの駆動部材をセット状態に維持しカメラのレリーズ後であって撮影露光開始前には初期位置へ復帰するセット部材と,前記被抑止部の作動軌跡内に出入り可能な抑止部材を有していて前記シャッタ地板に取り付けられており該抑止部材が前記被抑止部の作動軌跡外にある場合は撮影終了直後であって前記セット部材のセット作動開始前において該抑止部材を前記被抑止部の作動軌跡内に作動させることが可能であり該抑止部材が前記被抑止部の作動軌跡内にある場合は前記被抑止部の抑止状態において該抑止部材を前記被抑止部の作動軌跡外に作動させることが可能な抑止手段と,を備えていることを特徴とするデジタルカメラ用フォーカルプレンシャッタ。」

(イ) 「【技術分野】
【0001】
本発明は,デジタルカメラ用のフォーカルプレンシャッタに関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルカメラ用のフォーカルプレンシャッタには,先羽根と後羽根という二つのシャッタ羽根を備えているタイプのものと,一つのシャッタ羽根を備えているタイプのものとがある。そして,前者のタイプのものは,セット状態においては先羽根が露光開口を覆っており,撮影に際しては,先羽根と後羽根を同じ方向へ順に走行させ,先羽根が露光開口を開き始めることによってCCD等の撮像素子に対する撮影のための露光(以下,撮影露光という)を開始し,後羽根が露光開口を閉じ終わることによって撮影露光を終了するようにしている。そして,その後,撮像情報が撮像素子から情報処理回路を介して記憶装置に記憶されると,レリーズ後におけるカメラとしての一連の撮影作動が終了したことになる。
・・・(中略)・・・
【0004】
本発明は,前者のタイプのデジタルカメラ用フォーカルプレンシャッタに属するものであるが,このタイプのフォーカルプレンシャッタは,先羽根と後羽根は,先羽根用駆動部材と後羽根用駆動部材に連結されており,撮影時には,それらの駆動部材が先羽根用駆動ばねと後羽根用駆動ばねの付勢力によって回転することによって走行させられ,セット時には,それらの駆動部材が,初期位置から回転するセット部材によって,各々の駆動ばねの付勢力に抗してセット位置まで逆転させられるようになっている。・・・(中略)・・・
【0007】
また,デジタルカメラの場合には,撮影前に被写体像を観察する手段として,光学ファインダを備えたものと,液晶パネルなどの表示装置を用いた電子ファインダを備えたものと,それらの両方を備えたものとがあるが,最近では,少なくとも,電子ファインダを備えていることが必須になっている。そして,電子ファインダを用いて撮影前の被写体像を観察できるようにする場合は,撮影用の撮像素子を,撮影前の被写体像を観察する場合の撮像素子として兼用させるのが好都合である・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のように,特許文献1に記載されているフォーカルプレンシャッタは,二つのシャッタ羽根を備えているシャッタではあるが,光学ファインダを用いて撮影をすることができるだけではなく,撮影用の撮像素子を用いて,撮影しようとする被写体像を電子ファインダで観察しながら撮影をすることも可能になっている。即ち,特許文献1に記載されているカメラは,撮影者が,電子ファインダを用いる撮影を選択した場合には,可動ミラー(クイックリターンミラー)はアップ状態に維持され,且つ露光開口は全開状態になっており,撮影に際してカメラのレリーズ釦が押されると,先ず,先羽根が露光開口を閉鎖し,その後,先羽根が露光開口を開き始めることによって撮影露光を開始し,さらに所定時間後に,後羽根が露光開口を閉じ終わることによって撮影露光を終了するように構成されている。
【0011】
ところが,最近の高級カメラは,ますます多機能化が進んでおり,このように二つのシャッタ羽根を作動させて撮影を行えるように構成したフォーカルプレンシャッタであっても,撮影前に撮影者が選択することにより,上記した一つのシャッタ羽根を備えているフォーカルプレンシャッタのように,セット状態においては露光開口が全開になっており,撮影に際してカメラのレリーズ釦が押されると,露光開口を全開にしている状態において,電子制御回路が撮像素子を制御することによって撮影露光を開始し,シャッタ羽根が露光開口を閉じ終わることによって撮影露光を終了するようにした撮影や,撮影露光の開始と終了の両方が,いずれも電子制御回路が撮像素子を制御することによって行われ,その後,後羽根によって露光開口を閉じるようにした撮影も行えるようにしたいという要求がある。
【0012】
本発明は,このような問題点を解決するためになされたものであり,その目的とするところは,光学ファインダを用いて撮影する場合には,セット状態において,先羽根が露光開口を閉じ後羽根が露光開口から退いていて,撮影に際しては,先羽根が露光開口を開き始めることによって撮影露光を開始し後羽根が露光開口を閉じ終わることによって撮影露光を終わるようにしたモードでの撮影を行うようにすることが可能であるし,また,電子ファインダを用いて撮影する場合には,セット状態において,先羽根と後羽根の両方が露光開口を開いているようにし,撮影に際しては,レリーズ後の初期段階において先羽根が露光開口を一旦閉じた後,先羽根が露光開口を開き始めることによって撮影露光を開始し後羽根が露光開口を閉じ終わることによって撮影露光が終わるようにしたモードでの撮影を行うようにすることが可能であると共に,撮影に際しては先羽根を作動させることなく,電子制御回路が撮像素子を制御することにより,撮影露光の開始だけを行わせたり,撮影露光の開始と終了の両方を行わせることによって,後羽根だけを露光開口を閉じるために作動させるようにしたモードでの撮影も行うようにすることの可能な,コンパクトな構成のダイレクトタイプのデジタルカメラ用フォーカルプレンシャッタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために,本発明のデジタルカメラ用フォーカルプレンシャッタは,先羽根を連結していて被押動部と被抑止部とを有しておりシャッタ地板の第1軸に対して回転可能に取り付けられている先羽根用第1駆動部材と,押動部を有していて前記第1軸に回転可能に取り付力けられており撮影時において先羽根用駆動ばねの付勢によって回転させられその回転時に該押動部が前記被押動部を押して先羽根用第1駆動部材を共に回転させたときには先羽根に露光開口を開かせる先羽根用第2駆動部材と,セット状態においては先羽根用第1駆動部材を先羽根が露光開口を覆う位置へ回転させ得るように直接又は間接に付勢しているセットばねと,後羽根を連結していて前記シャッタ地板の第2軸に回転可能に取り付けられており撮影時には後羽根用駆動ばねの付勢力によって回転させられ後羽根に露光開口を閉じさせる後羽根用駆動部材と,前記シャッタ地板の第3軸に回転可能に取り付けられておりセット作動時には初期位置から回転して先羽根用第2駆動部材と後羽根用駆動部材とを前記各駆動ばねの付勢力に抗して回転させセット位置においてはそれらの駆動部材をセット状態に維持しカメラのレリーズ後であって撮影露光開始前には初期位置へ復帰するセット部材と,前記被抑止部の作動軌跡内に出入り可能な抑止部材を有していて前記シャッタ地板に取り付けられており該抑止部材が前記被抑止部の作動軌跡外にある場合は撮影終了直後であって前記セット部材のセット作動開始前において該抑止部材を前記被抑止部の作動軌跡内に作動させることが可能であり該抑止部材が前記被抑止部の作動軌跡内にある場合は前記被抑止部の抑止状態において該抑止部材を前記被抑止部の作動軌跡外に作動させることが可能な抑止手段と,を備えているようにする。
・・・(中略)・・・
【発明の効果】
【0016】
本発明のデジタルカメラ用フォーカルプレンシャッタは,先羽根と後羽根を備えたコンパクトな構成をしているにも関わらず,光学ファインダを用いて撮影する場合には,セット状態においては,先羽根が露光開口を閉じ後羽根が露光開口から退いていて,撮影に際しては,先羽根が露光開口を開き始めることによって撮影露光を開始し後羽根が露光開口を閉じ終わることによって撮影露光を終わるようにしたモードでの撮影も行えるようにすることができるし,また,電子ファインダを用いて撮影する場合には,セット状態においては,先羽根と後羽根の両方が露光開口を開いていて,撮影に際しては,レリーズ後の初期段階において先羽根が露光開口を一旦閉じた後に,先羽根が露光開口を開き始めることによって撮影露光を開始し後羽根が露光開口を閉じ終わることによって撮影露光を終わるようにしたモードでの撮影を行えるようにすることができると共に,撮影に際しては先羽根を作動させることなく,電子制御回路が撮像素子を制御することによって,撮影露光の開始だけを行わせるようにしたり,撮影露光の開始と終了の両方を行わせるようにしたりすることによって,後羽根だけを露光開口を閉じるために作動させるようにしたモードでの撮影も行えるようにすることが可能であるから,少なくとも,それらのうちの二つの撮影モードを選択して撮影することを可能にしたカメラに用いて極めて有効なものである。」

(イ) 「【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施の形態を,図示した実施例によって説明する。上記したように,本発明のデジタルカメラ用フォーカルプレンシャッタは,光学ファインダを用いて撮影する場合には,セット状態において,先羽根が露光開口を閉じ後羽根が露光開口から退いていて,撮影に際しては,先羽根が露光開口を開き始めることによって撮影露光を開始し後羽根が露光開口を閉じ終わることによって撮影露光を終わるようにしたモード(以下,第1撮影モードという)での撮影を行うようにすることが可能であるし,また,電子ファインダを用いて撮影する場合には,セット状態において,先羽根と後羽根の両方が露光開口を開いているようにし,撮影に際しては,レリーズ後の初期段階で先羽根が露光開口を一旦閉じた後に,先羽根が露光開口を開き始めることによって撮影露光を開始し後羽根が露光開口を閉じ終わることによって撮影露光を終わるようにしたモード(以下,第2撮影モードという)での撮影を行えるようにすることも可能である。」

(ウ) 「【実施例】
【0021】
先ず,主に図1?図4を用いて本実施例の構成を説明する。・・・(中略)・・・
【0022】
シャッタ地板1は,合成樹脂製であって,その略中央部には,長方形を横長にした露光用の開口部1aが形成されているが,後述の中間板2と補助地板3の一部が目視できるようにするために,図1においては,その開口部1aの上方の領域の一部を破断して示している。・・・(中略)・・・
【0023】
また,周知のように,シャッタ地板1の撮像装置側には,所定の間隔を空けて,中間板2と補助地板3が順に取り付けられており,シャッタ地板1と中間板2との間に後述する後羽根の羽根室を構成し,中間板2と補助地板3との間に後述する先羽根の羽根室を構成している。・・・(中略)・・・
【0025】
シャッタ地板1の被写体側の面には,開口部1aの左側の領域における上方位置と下方位置に,二つの柱1e,1fが形成されているほか,それらの間の領域に三つの軸1g,1h,1iが立設されている。・・・(中略)・・・また,図3及び図4に示されているように,シャッタ地板1の撮像装置側の面には,二つの軸1j,1kが立設されている。
・・・(中略)・・・
【0028】
支持板6は,薄い金属製の板材で製作されていて,シャッタ地板1側に折り曲げられた複数の折曲部を有している。そして,先羽根用電磁石10と後羽根用電磁石11とは,周知のようにして,それらのうちの複数の折曲部に取り付けられているが,図1及び図2においては,それらの二つの電磁石10,11も,支持板6と同様に,一点鎖線で示してある。・・・(中略)・・・
【0030】
シャッタ地板1の被写体側の面には,ねじ12によって,抑止手段13が取り付けられている。本実施例の抑止手段13は,特開2005-173132号公報などに記載されている周知の電流制御式アクチュエータの構成を変形させた電磁装置である。即ち,上記の公報に記載されている電磁アクチュエータは,シャッタ羽根を往復回転させるための出力ピンを,永久磁石回転子の回転軸と平行になるようにして,永久磁石回転子と一体に形成している。それに対して,本実施例の抑止手段13は,後述の先羽根用第1駆動部材14が,図1などにおいて反時計方向へ回転するのを抑止可能とするために,合成樹脂製であって先端面が方形をした棒状の抑止部材13bを,永久磁石回転子13aの回転軸と垂直になるようにして,永久磁石回転子13aと一体に形成している。
・・・(中略)・・・
【0037】
シャッタ地板1の被写体側において,上記の軸1gには,先羽根用第1駆動部材14と先羽根用第2駆動部材15とが,先羽根用第1駆動部材14をシャッタ地板1側にして,各々,回転可能に取り付けられている。そして,その具体的な取付け構成は,図3に示されているように,先羽根用第2駆動部材15の方は,その筒部15aを,軸1gに対して直接嵌合させており,先羽根用第1駆動部材14の方は,その孔を,先羽根用第2駆動部材15の筒部15aの外側に嵌合させている。
【0038】
そこで先ず,先羽根用第1駆動部材14について説明する。先羽根用第1駆動部材14は,被押動部14aと,被抑止部14bと,駆動ピン14cとを有している。それらのうち,被押動部14aと被抑止部14bとは,両方とも,被写体側に厚く形成されている部位に,被押動部14aが軸1g側となるようにして,隣接して形成されている。そして,その被押動部14aは,後述する先羽根用第2駆動部材15の押動部15dによって押される部位である。また,被抑止部14bは,先羽根用第1駆動部材14が反時計方向へ回転しようとするとき,上記の抑止部材13bの先端に当接して抑止される部位である。
【0039】
また,駆動ピン14cは,シャッタ地板1側に立設されていて,シャッタ地板1の長孔1mに挿入され,先端部を,補助地板3に形成された上記の長孔3bに挿入している。また,この駆動ピン14cは,その根元部と先端部とでは断面形状が異なっており,根元部はD形をしていて,先端部は砲弾形をしている。そして,その根元部は,上記の緩衝部材4に当接する部位であり,また,先端部は,後述の先羽根に連結される部位である。
【0040】
他方,先羽根用第2駆動部材15は,上記の筒部15aのほか,被押動部15bと,被写体側に厚く形成された取付部15cと,押動部15dとを有している。また,図1及び図2においては,取付部15cの一部を,シャッタ地板1と平行に切断して示してあるように,その内部には,鉄片部材16と圧縮ばね17とが収容されている。そして,鉄片部材16は,軸部16aの一端に円盤状をした頭部16bを有しており,軸部16aの他端には鉄片部16cを取り付けていて,軸部16aに嵌装した圧縮ばね17によって,鉄片部16cを取付部15c内から突き出すように付勢されている。尚,図3においては,図面を見やすくするために,取付部15cの図示が省略されている。
・・・(中略)・・・
【0042】
そして,先羽根用駆動ばね18は,周知のように,一端を先羽根用第2駆動部材15の図示していないばね掛け部に掛け,他端をラチェット部材19の図示していないばね掛け部に掛けて,先羽根用第2駆動部材15を図1において時計方向へ回転させるように付勢しており,その付勢力は,ラチェット爪6aを一時的に外し,ラチェット部材19の回転位置を変えることによって調整できるようになっている。尚,先羽根用駆動ばね18は,図3にだけ示され,ラチェット部材19は,図1?図3にだけ示されている。
【0043】
シャッタ地板1に立設されている上記の軸1hには,後羽根用駆動部材20が回転可能に取り付けられている。この後羽根用駆動部材20は,筒部20aと,取付部20bと,駆動ピン20cとを有しているほか,図3に示されているように,抜け止め部材を圧入することによってローラー20dを回転可能に取り付けていて,筒部20aを軸1hに嵌合させている。また,取付部20bの内部は,先羽根用第2駆動部材15の取付部15cと全く同じ構成をしていて,鉄片部材21と圧縮ばねが収容されている。尚,取付部20bは,上記の取付部15cのように断面で示されていないので,図1及び図2においては,鉄片部材21の頭部21bと鉄片部21cは目視することができるが,軸部21aは目視することができない。また,圧縮ばねは,後述するどのような作動状態においても目視することができない。そして,図3においては,この取付部20bの図示が省略されている。
【0044】
また,駆動ピン20cは,上記の先羽根用第1駆動部材14の駆動ピン14dと同様に,シャッタ地板1側に立設されていて,シャッタ地板1の長孔1nに挿入され,先端部を,補助地板3に形成されている上記の長孔3cに挿入している。また,この駆動ピン20cも,その根元部と先端部とでは断面形状が異なっていて,根元部は円形をしており,先端部は砲弾形をしている。そして,その根元部は,上記の緩衝部材5に当接する部位であり,また,先端部は,後述の後羽根に連結される部位である。
【0045】
後羽根用駆動部材20の筒部20aには,図3に示されているように,後羽根用駆動ばね22が緩く嵌装されている。また,シャッタ地板1の軸1hの小径部には,ラチェット部材23が回転可能に取付けられている。更に,図1及び図2に示されているように,支持板6は,折曲部の一つをラチェット爪6bとしていて,その先端を,ラチェット部材23の外周部に形成されているラチェット歯に噛合させ,ラチェット部材23の反時計方向への回転を阻止している。
【0046】
そして,後羽根用駆動ばね22は,一端を後羽根用駆動部材20の図示していないばね掛け部に掛け,他端をラチェット部材23の図示していないばね掛け部に掛けていて,後羽根用駆動部材20を図1において時計方向へ回転させるように付勢しており,その付勢力は,ラチェット爪6bを一時的に外し,ラチェット部材23の回転位置を変えることによって調整できるようになっている。尚,後羽根用駆動ばね22は,図3にだけ示されており,ラチェット部材23は,図1?図3にだけ示されている。
【0047】
シャッタ地板1に立設されている上記の軸1iには,セット部材24が回転可能に取り付けられており,図示していないばねによって反時計方向へ回転するように付勢されている。また,このセット部材24は,シャッタ地板1側の面に,図示していない係合ピンを立設しており,軸1iを中心にしてシャッタ地板1に円弧状に形成された図示していない長孔に挿入されている。そして,図1及び図2においては,セット部材24は,その図示していないばねの付勢力によって反時計方向へ回転させられ,その係合ピンが,上記の図示していない長孔の一端に当接して停止させられている。以下,セット部材24については,この位置を初期位置ということにする。
【0048】
また,このセット部材24は,上記の図示していない係合ピンのほか,筒部24aと,二つの押動部24b,24cと,被押動部24dとを有していて,筒部24aを軸1iに回転可能に嵌合させている。そして,押動部24bは,先羽根用第2駆動部材15の被押動部15bを押す部位であり,押動部24cは,後羽根用駆動部材20のローラー20dを押す部位であり,被押動部24dは,図示していないカメラ本体側の部材によって押される部位である。
【0049】
次に,シャッタ地板1の背面側に配置されている先羽根と後羽根の構成を,主に図4を用いて説明する。先ず,中間板2と補助地板3との間に配置されている先羽根は,シャッタ地板1の背面側において,上記の軸1gに対して回転可能に取り付けられたアーム25と,上記の軸1jに対して回転可能に取り付けられたアーム26と,それらの両方に対して先端部に向けて順に枢支された3枚の羽根27,28,29とで構成されており,羽根29が先羽根のスリット形成羽根となっている。そして,周知のように,上記の先羽根用第1駆動部材14の駆動ピン14cの先端部が,アーム25に形成された長孔25a(図3に,断面で示されている)に嵌合している。尚,図3に示されているように,アーム25は,実際には,かしめ加工によって一体化された部材の孔を,軸1gに嵌合させている。
【0050】
更に,シャッタ地板1の軸1jには,コイルばねであるセットばね30が嵌装されていて,その一端をシャッタ地板1に設けた図示していないばね掛け部に掛け,他端をアーム26に掛けて,アーム26を反時計方向へ回転させるように付勢している。従って,本実施例においては,このセットばね30は,後述する作動説明からも明らかなように,先羽根を介して,先羽根用第1駆動部材14を反時計方向へ回転させる役目をしているが,それと同時に,周知のような,先羽根のガタ寄せばねの役目もしている。そして,このセットばね30の付勢力は,上記の先羽根用駆動ばね18の付勢力よりも小さい。尚,本実施例では,このセットばね30は,軸1jに嵌装されているが,軸1gに嵌装するようにして,アーム25を反時計方向へ回転させるように付勢するようにしても差し支えない。
【0051】
他方,後羽根は,シャッタ地板1と中間板2の間に配置されており,シャッタ地板1の背面側において,上記の軸1hに対して回転可能に取り付けられたアーム31と,上記の軸1kに対して回転可能に取り付けられたアーム32と,それらの両方に対し先端部に向けて順に枢支された3枚の羽根33,34,35とで構成されており,羽根35が後羽根のスリット形成羽根となっている。そして,後羽根用駆動部材20の駆動ピン20cの先端部が,周知のようにして,アーム31に形成されている長孔31a(図3に,断面で示されている)に嵌合している。
【0052】
更に,シャッタ地板1の上記の軸1kには,上記のセットばね30と同じようにして,ばね36が嵌装されており,その一端をシャッタ地板1に設けられた図示していないばね掛け部に掛け,他端をアーム32に掛けていて,アーム32を反時計方向へ回転させるように付勢している。従って,このばね36は,後羽根を介して,後羽根用駆動部材20を反時計方向へ回転させるように付勢していることになるが,その付勢力は,上記した後羽根用駆動ばね22の付勢力よりも小さい。尚,このばね36は,上記のセットばね30とは異なり,周知のガタ寄せばねの役目をしているだけである。そのため,このばね36の場合には,アーム32に対して,時計方向への回転力を付与するように構成しても差し支えない。また,軸1hに嵌装し,アーム31を,いずれか一方へ回転させるように構成しても差し支えない。
【0053】
次に,本実施例の作動を説明する。既に説明したように,本実施例のカメラ用フォーカルプレンシャッタは,撮影前に,カメラに備えられている選択手段を操作することによって,三つの撮影モードのうちから所望の撮影モードを選択して撮影をすることが可能である。そのため,本実施例の作動説明に際しては,第1撮影モードでの作動,第2撮影モードでの作動,第3撮影モードでの作動の順に説明をし,それらの切換え作動についても適時に説明することにする。
【0054】
そこで先ず,第1撮影モードでの作動を,各々の作動段階における各構成手段の作動状態を示した図4?図7の平面図と,主要な構成手段の作動関係を示した図8のタイミングチャートを用いて説明する。尚,上記したように,第1撮影モードは,光学ファインダを用いて撮影をする場合であって,先羽根が露光開口を開き始めることによって撮影露光を開始し後羽根が露光開口を閉じ終わることによって撮影露光を終わるようにしたモードである。
【0055】
図4は,撮影前に,撮影者が選択手段を操作することによって,第1撮影モードを選択したときのセット状態を示したものである。このとき,可動ミラーを備えた一眼レフカメラの場合には,図示していない可動ミラーがダウン状態になっていて,光学ファインダによって被写体像を観察することができるようになっている。また,セット部材24は,セット作動時に,その被押動部24dを図示していないカメラ本体側の部材に押されて,図示していないばねの付勢力に抗して初期位置からセット位置まで時計方向へ回転させられており,このセット状態においては,そのカメラ本体側の部材によって初期位置への復帰を抑止されている。
【0056】
また,このとき,先羽根用電磁石10と後羽根用電磁石11には通電されていないが,セット部材24によるセット作動時に,先羽根用第2駆動部材15は,先羽根用駆動ばね18の付勢力に抗して,その被押動部15bをセット部材24の押動部24bに押されて反時計方向へ回転させられ,また,後羽根用駆動部材20は,後羽根用駆動ばね22の付勢力に抗して,ローラー20dをセット部材24の押動部24cに押されて反時計方向へ回転させられており,それらに取り付けられている鉄片部材16,21は,各々の鉄片部16c,21cを,上記の電磁石10,11の鉄芯部材10a,11aに接触させた状態にさせられている。
【0057】
また,先羽根用第1駆動部材14は,セット作動時における先羽根用第2駆動部材15の反時計方向への回転に伴って,セットばね30の付勢力によって反時計方向へ回転させられており,その被押動部14aを,先羽根用第2駆動部材15の押動部15dに接触させた状態を維持させられている。更に,抑止手段13には通電されておらず,永久磁石回転子13aは,抑止部材13bを,先羽根用第1駆動部材14の被抑止部14bの作動軌跡外において,ストッパピン1qに接触させ,既に説明したようにして,その状態を維持させられている。
【0058】
そのため,このセット状態においては,先羽根用第1駆動部材14に連結されている先羽根は,3枚の羽根27?29を展開させて開口部1aを閉じており,後羽根用駆動部材20に連結されている後羽根は,3枚の羽根33?35を重畳させて開口部1aの上方位置に格納されていて,CCDなどの撮像素子には被写体光が当たっていない。
・・・(中略)・・・
【0060】
このような図4の状態において,光学ファインダで被写体像を観察しながらカメラのレリーズボタンを押すと,先ず,上記の可動ミラーがアップ状態にさせられると共に,先羽根用電磁石10のコイル10bと,後羽根用電磁石11のコイル11bの両方に通電される。そのため,それまでは,各々の電磁石10,11の鉄芯部材10a,11aに対して単に接触させられていただけの鉄片部材16,21が,電磁力によって吸着保持された状態になる。他方,この撮影モードが選択されているときには,抑止手段13のコイル13eには通電されることが全くない。そのため,抑止手段13の抑止部材13bは,常にストッパピン1qに接触させられた状態を維持したままである。
【0061】
このように,鉄片部材16,21が二つの電磁石10,11の鉄芯部材10a,11aによって吸着保持されると,図示していないカメラ本体側の部材が,セット部材24の被押動部24dの作動軌跡から退いていくので,それに追従して,セット部材24は,図示していないばねの付勢力によって反時計方向へ回転させられていくが,その過程で,セット部材24の押動部24bが先羽根用第2駆動部材15の被押動部15bから離れ,押動部24cが後羽根用駆動部材20のローラー20dから離れる。・・・(中略)・・・
【0062】
・・・(中略)・・・その後,セット部材24が,初期位置へ復帰し,図示していない上記の係合部が,シャッタ地板1に形成された図示していない上記の長孔の一端に当接して停止させられた状態が,図5に示されている。尚,図8においては,このような先羽根と後羽根の僅かな作動の図示が省略されている。そして,このことは,他のタイミングチャートでも同じである。
【0063】
このようにして図5の状態になると,被写体光などの撮影条件に対応し,露光時間制御回路によって決められた時間間隔で,先羽根用電磁石10のコイル10bに対する通電と,後羽根用電磁石11のコイル11bに対する通電とが順に断たれる。先ず,先羽根用電磁石10のコイル10bに対する通電が断たれると,先羽根用第2駆動部材15が,先羽根用駆動ばね18の付勢力によって急速に時計方向へ回転させられるが,このとき,先羽根用第2駆動部材15の押動部15dが先羽根用第1駆動部材14の被押動部14aを押すので,先羽根用第1駆動部材14も,セットばね30の付勢力に抗して時計方向へ急速に回転させられる。そのため,先羽根の3枚の羽根27?29は,隣接する羽根同士の重なりを大きくしながら急速に下方へ走行させられ,開口部1aを上方から下方へ向けて開いていく。
【0064】
続いて,後羽根用電磁石11のコイル11bに対する通電が断たれると,後羽根用駆動部材20は,後羽根用駆動ばね22の付勢力によって急速に時計方向へ回転させられ,後羽根の3枚の羽根33?35を,隣接する羽根同士の重なりを小さくさせながら急速に下方へ走行させ,開口部1aを上方から下方へ向けて閉じさせていく。このような後羽根用駆動部材20の回転は,被写体光が比較的明るい場合には,先羽根が開口部1aを全開にする前に開始させられる。従って,その場合には,撮像素子の撮像面は,先羽根のスリット形成羽根29と後羽根のスリット形成羽根35との間に形成されるスリットにより,上方から下方へ向けて連続的に露光されていく。
・・・(中略)・・・
【0066】
・・・(中略)・・・また,図7は,上記のような被写体光の明るさがいずれの場合であるかに関係なく,先羽根の3枚の羽根27?29が重畳状態となって,開口部1aの下方位置に格納された後,後羽根の3枚の羽根33?35が展開状態となって開口部1aを閉じ,後羽根用駆動部材20が,駆動ピン20cを緩衝部材5に当接させて停止させられた状態を示したものである。
【0067】
このようにして図7の状態になると,撮影された撮像情報が,撮像装置から情報処理回路を介して転送され,記憶装置に記憶される。そして,撮像情報が記憶装置に記憶されると,図示していない可動ミラーがダウン状態に作動させられると共に,直ちにセット作動が開始される。そして,そのセット作動は,図7の状態において,図示していないカメラ本体側の部材が,セット部材24の被押動部24dを押し,図示していないばねの付勢力に抗してセット部材24を時計方向へ回転させることによって行われる。
・・・(中略)・・・
【0073】
次に,カメラの選択手段によって,上記のような第1撮影モードが選択されている状態において,即ち上記の図4に示されたセット状態において,第2撮影モードや第3撮影モードを選択した場合における切換え作動を説明するが,その説明に際しては,上記の第1撮影モードでの作動説明から充分理解することの可能なところを,簡略的に説明することにする。
・・・(中略)・・・
【0076】
図4は,上記のように,第1撮影モードでの撮影が選択されているときのセット状態を示したものである。この状態で,撮影者が,カメラの選択手段によって,第2撮影モード又は第3撮影モードを選択すると,図示していない可動ミラーが,例えば特許文献1に記載されているような手段によってアップ状態にさせられ,その状態を維持し続けるようにさせられると共に,図11に示されているように,そのときの切換え信号によって,上記の第1撮影モードでの撮影と同様に,各電磁石10,11に通電されてから,セット部材24が初期位置へ復帰させられる。
【0077】
その後,二つの電磁石10,11に対する通電が断たれるが,図11においては,それらのタイミングは,便宜上,上記の図8に示されている両者のタイミングと同じになるようにして示してある。即ち,先羽根が図6に示された状態になってから,後羽根の作動を開始させるタイミングで示してある。しかしながら,カメラ本体側の制御システムとの関係で問題がないのであれば,切換え作動時間は出来るだけ短い方がよい。そのため,電磁石11に対する通電を断つタイミングを,もっと早くしてもよいし,それによって電磁石10に対する通電を断つタイミングと同じにしても構わない。
【0078】
このようにして,二つの電磁石10,11に対する通電が断たれて,各駆動部材14,15,20が時計方向へ回転し,先羽根と後羽根の走行が終了すると,上記のように図7の状態になる。そして,後羽根の走行が終了すると,抑止手段13のコイル13eに対して逆方向の電流が供給される。そのため,永久磁石回転子13aは,図7において時計方向へ回転させられ,抑止部材13bがストッパピン1pに当接することによって停止させられる。その後,コイル13eに対する通電を断った状態が,図9に示されているが,この状態においては,抑止部材13bの先端は,先羽根用第1駆動部材14の被抑止部14bの作動軌跡内に入っている。
【0079】
図9の状態が得られると,直ちにセット作動が開始される。図9の状態において,図示していないカメラ本体側の部材が被押動部24dを押すと,セット部材24は,図示していないばねの付勢力に抗して初期位置から時計方向へ回転させられていく。その過程で,先ず,セット部材24の押動部24bが先羽根用第2駆動部材15の被押動部15bを押し,先羽根用第2駆動部材15を先羽根用駆動ばね18の付勢力に抗して反時計方向へ回転させ始める。そのため,先羽根用第1駆動部材14も,セットばね30の付勢力によって追従し,反時計方向へ回転し始める。
【0080】
ところが,先羽根用第1駆動部材14だけは,僅かに回転したところで,先羽根が開口部1aに入る前に,その被抑止部14bが抑止部材13bの先端面に当接して停止させられてしまう。そのため,それ以後は,先羽根用第2駆動部材15だけが,先羽根用駆動ばね18の付勢力に抗して反時計方向へ回転させられていく。尚,このときの先羽根の作動は僅かであるため,図11には示されていない。そして,このことは,図12?図14のタイミングチャートにおいても同じである。
【0081】
このようにして,先羽根用第1駆動部材14の回転が抑止されると,続いて,セット部材24の押動部24cが後羽根用駆動部材20のローラー20dを押し始めるので,後羽根用駆動部材20は,後羽根用駆動ばね22の付勢力に抗して,反時計方向へ回転させられ,後羽根を上方へ移動させ始める。そのため,それ以後は,先羽根用第2駆動部材15と後羽根用駆動部材20だけが,共に反時計方向へ回転させられていくことになる。そして,後羽根の3枚の羽根33?35が,重畳状態になって開口部1aから上方へ退くと,その直後に,鉄片部材16,21の鉄片部16c,21cが,相前後して電磁石10,11の鉄芯部材10a,11aに当接する。そして,それらの当接の僅か後にセット部材24の回転が停止し,図10に示されたセット状態になる。
・・・(中略)・・・
【0092】
次に,上記のようにして選択された第2撮影モードでの作動,即ち電子ファインダを用いて撮影する場合であって,セット状態においては,先羽根と後羽根の両方が露光開口を開いていて,撮影に際しては,レリーズ後の初期段階において先羽根が露光開口を一旦閉じた後,先羽根が露光開口を開き始めることによって撮影露光を開始し後羽根が露光開口を閉じ終わることによって撮影露光を終了するようにしたモードでの作動を,上記の図4?図7,図9,図10のほか,新たに図14を用いて説明する。尚,図14は,第2撮影モードで撮影する場合における各主要構成手段の作動関係を示すタイミングチャートである。また,この第2撮影モードの作動は,これまでの説明から充分に理解することができるところを簡略化して説明する。
【0093】
図10は,第2撮影モードを選択したときのセット状態を示したものである。そのため,上記したように,可動ミラーはアップ状態を維持されている。また,このとき,二つの電磁石10,11のコイル10b,11bと,抑止手段13のコイル13eには通電されていない。しかし,抑止手段13の永久磁石回転子13aは,時計方向へ回転させられた状態になっており,抑止部材13bの先端部は,先羽根用第1駆動部材14の被抑止部14bに接触し,セットばね30の付勢力による先羽根用第1駆動部材14の反時計方向の回転を抑止している。そのため,第1撮影モードの場合のセット状態とは異なり,開口部1aが全開状態になっているので,カメラの電源スイッチがオンになっていれば,電子ファインダによって,撮影しようとする被写体の現在の状態を観察することが可能になっている。
【0094】
このセット状態において,電子ファインダで被写体像を観察しながら,カメラのレリーズボタンを押すと,二つの電磁石10,11のコイル10b,11bに通電され,同時に抑止手段13のコイル13eに対しても順方向の電流が供給される。それにより,一方では,それまで,各々の電磁石10,11の鉄芯部材10a,11aに対し単に接触していただけの鉄片部材16,21が,電磁力によって吸着保持されるようになる。また,他方では,抑止手段13の永久磁石回転子13aが,抑止部材13bがストッパピン1qに当接するまで反時計方向へ回転させられ,その後,コイル13eに対する通電が断たれる。
【0095】
このように,永久磁石回転子13aが反時計方向へ回転し,抑止部材13bによる先羽根用第1駆動部材14の抑止を解くと,先羽根用第1駆動部材14は,セットばね30の付勢力によって反時計方向へ回転し,駆動ピン14cによって先羽根の3枚の羽根27?29を上方へ走行させる。そのため,先羽根の3枚の羽根27?29は,隣接する羽根同士の重なり量を小さくしてゆくが,先羽根用第1駆動部材14の回転が,その被押動部14aを先羽根用第2駆動部材15の押動部15dに当接させて停止したときには,展開状態となって,開口部1aを完全に閉じるようになる。そのときの状態が,図4に示された状態である。
【0096】
図4に示された状態が得られると,図示していないカメ本体側の部材がセット部材24の被押動部24dから退いていく。そのため,セット部材24は,それに追従し,図示していないばねの付勢力によって反時計方向への回転を開始する。そして,その回転の初期段階において,先羽根用第2駆動部材15と後羽根用駆動部材20とは,既に説明したようにして,僅かに時計方向へ回転したところで停止させられる。その後,セット部材24が初期位置へ復帰して停止した状態が,図5に示された状態である。
【0097】
図5に示された状態が得られると,第1撮影モードでの撮影の場合と同様に,先羽根用電磁石10に対する通電と,後羽根用電磁石11に対する通電が,被写体の明るさに対応した時間間隔で順に断たれる。」

イ 甲1に記載された発明
前記ア(ア)ないし(ウ)で摘記した記載を含む甲1の全記載から,甲1に次の発明が記載されていると認められる。(なお,セット部材24の係合ピンが挿入される長孔は図示されておらず,符号が付されていないが,長孔1m,1nと区別するために「長孔1o」と表現した。)

「軸1g,1h,1i,1j,1kが立設され,長孔1m,1n,1o及び露光用の開口部1aが形成されたシャッタ地板1と,
前記軸1gに対して回転可能に取り付けられたアーム25,前記軸1jに対して回転可能に取り付けられたアーム26,及びそれらの両方に枢支された3枚の羽根27,28,29で構成された先羽根と,
被押動部14a,被抑止部14b,及び前記長孔1mに挿入されるとともにその先端部が前記先羽根に連結された駆動ピン14cを有し,前記軸1gに回転可能に取り付けられた先羽根用第1駆動部材14と,
被押動部15b,及び時計方向に回転する際に前記先羽根用第1駆動部材14の被押動部14aを押す押動部15dを有し,前記軸1gに回転可能に取り付けられた先羽根用第2駆動部材15と,
前記先羽根用第2駆動部材15を時計方向へ回転させるように付勢する先羽根用駆動ばね18と,
前記先羽根用駆動ばね18の付勢力よりも小さい付勢力によって,前記アーム26を反時計方向へ回転させるように付勢するセットばね30と,
前記軸1hに対して回転可能に取り付けられたアーム31,前記軸1kに対して回転可能に取り付けられたアーム32,及びそれらの両方に枢支された3枚の羽根33,34,35で構成された後羽根と,
前記長孔1nに挿入されるとともにその先端部が前記後羽根に連結された駆動ピン20c,及び回転可能に取り付けられたローラー20dを有し,前記軸1hに回転可能に取り付けられた後羽根用駆動部材20と,
前記後羽根用駆動部材20を時計方向へ回転させるように付勢する後羽根用駆動ばね22と,
前記後羽根用駆動ばね22の付勢力よりも小さい付勢力によって,前記アーム32を反時計方向へ回転させるように付勢する付勢ばね36と,
時計方向へ回転する際に前記先羽根用第2駆動部材15の被押動部15bを押す押動部24b,時計方向へ回転する際に前記後羽根用駆動部材20のローラー20dを押す押動部24c,及び前記長孔1oに挿入された係合ピンを有し,ばねによって反時計方向へ回転するように付勢され,前記軸1iに回転可能に取り付けられたセット部材24と,
前記先羽根用第1駆動部材14の被抑止部14bの作動軌跡内に出入り可能な抑止部材13bを有し,当該抑止部材13bを前記被抑止部14bの作動軌跡内に移動させることによって前記先羽根用第1駆動部材14が反時計方向へ回転するのを抑止することができる抑止手段13と,
を有し,
光学ファインダを用いて撮影する第1撮影モードにおいて,
セット作動時には,先羽根の3枚の羽根27,28,29が重畳して前記開口部1aの下方位置に格納され,後羽根の3枚の羽根33,34,35が展開して前記開口部1aを閉じた状態,すなわち,先羽根と後羽根の走行が終了した状態において,前記抑止部材13bが前記先羽根用第1駆動部材14の被抑止部14bの作動軌跡外におかれた状態となるよう前記抑止手段13を動作させ,前記セット部材24を前記ばねの付勢力に抗して初期位置から時計方向へ回転させることによって,前記先羽根用第2駆動部材15の被押動部15bが前記セット部材24の押動部24bに押されて,前記先羽根用第2駆動部材15が前記先羽根用駆動ばね18の付勢力に抗して反時計方向へ回転させられるとともに,前記セットばね30の付勢力によって,前記先羽根用第1駆動部材14の被押動部14aが前記先羽根用第2駆動部材15の押動部15dに接触した状態を維持するように,前記先羽根用第1駆動部材14が反時計方向へ回転させられ,かつ,前記後羽根用駆動部材20のローラー20dが前記セット部材24の押動部24cに押されて,前記後羽根用駆動部材20が前記後羽根用駆動ばね22の付勢力に抗して反時計方向へ回転させられ,
前記セット部材24をセット位置まで回転させると,先羽根の3枚の羽根27,28,29が展開して前記開口部1aを閉じ,後羽根の3枚の羽根33,34,35が重畳して前記開口部1aの上方位置に格納されたセット状態となり,
撮影時には,前記セット状態から,前記先羽根用駆動ばね18の付勢力によって前記先羽根用第2駆動部材15を時計方向へ回転させ,前記先羽根用第2駆動部材15の押動部15dが前記先羽根用第1駆動部材14の被押動部14aを押すことによって前記先羽根用第1駆動部材15を時計方向へ回転させ,先羽根が前記開口部1aを開き始めることで撮影露光を開始し,次いで前記後羽根用駆動ばね22の付勢力によって前記後羽根用駆動部材20を時計方向へ回転させ,後羽根が前記開口部1aを閉じ終わることで撮影露光を終わるよう構成されているとともに,
電子ファインダを用いて撮影する第2撮影モードにおいて,
セット作動時には,前記第1撮影モードと同様の先羽根と後羽根の走行が終了した状態において,前記抑止部材13bが前記先羽根用第1駆動部材14の被抑止部14bの作動軌跡内に入るよう前記抑止手段13を動作させ,前記セット部材24を初期位置から時計方向へ回転させることによって,前記先羽根用第2駆動部材15の被押動部15bが前記セット部材24の押動部24bに押されて,前記先羽根用第2駆動部材15が前記先羽根用駆動ばね18の付勢力に抗して反時計方向へ回転させられる一方,先羽根が前記開口部1aに入る前に前記被抑止部14bが前記抑止部材13bに当接することにより前記先羽根用第1駆動部材14は停止させられ,かつ,前記後羽根用駆動部材20のローラー20dが前記セット部材24の押動部24cに押されて,前記後羽根用駆動部材20が前記後羽根用駆動ばね22の付勢力に抗して反時計方向へ回転させられ,
前記セット部材24がセット位置まで回転させると,先羽根と後羽根の両方が前記開口部1aを開いたセット状態となり,
撮影時には,前記セット状態から,セットばね30の付勢力によって先羽根用第1駆動部材14を反時計方向へ回転させ,先羽根で前記開口部1aを一旦閉じた後に,前記先羽根用駆動ばね18の付勢力によって前記先羽根用第2駆動部材15を時計方向へ回転させ,前記先羽根用第2駆動部材15の押動部15dが前記先羽根用第1駆動部材14の被押動部14aを押すことによって前記先羽根用第1駆動部材15を時計方向へ回転させ,先羽根が前記開口部1aを開き始めることで撮影露光を開始し,次いで前記後羽根用駆動ばね22の付勢力によって前記後羽根用駆動部材20を時計方向へ回転させ,後羽根が前記開口部1aを閉じ終わることで撮影露光を終わるよう構成されている,
デジタルカメラ用フォーカルプレンシャッタ。」(以下,「甲1発明」という。)

(2)甲2ないし甲6
ア 甲2の記載
甲2(特開2011-180213号公報)は,本件特許に係る出願より前に頒布された刊行物であるところ,当該甲2には,次の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は,デジタルカメラ用のフォーカルプレンシャッタに関する。」
「【0050】
このようにして,セット部材27と抑止部材28が回転を開始すると,その後,先ず,セット部材27の押動部27bが先羽根用第2駆動部材17の被押動部17bを押し,先羽根用第2駆動部材17を先羽根用駆動ばね23の付勢力に抗して反時計方向へ回転させ始める。このとき,先羽根用第1駆動部材16には,セットばね34により,先羽根を介して反時計方向へ回転する力が与えられているため,先羽根用第1駆動部材16も,その被押動部16cが先羽根用第2駆動部材17の押動部17dに追従して,反時計方向へ回転し,先羽根の3枚の羽根31?33を展開させながら上方へ移動させ始める。」

イ 甲3の記載
甲3(特開2001-215555号公報)は,本件特許に係る出願より前に頒布された刊行物であるところ,当該甲3には,次の記載がある。
「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,撮影に際して,先羽根と後羽根とを同一方向へ順次作動させ,両者によって形成されたスリットにより,撮像面を露光するようにしたデジタルカメラ用のフォーカルプレンシャッタに関する。」
「【0052】・・・(中略)・・・また,上記の実施例においては,セットばね28がアーム23に掛けられていて,ガタ寄せばねを兼用しているが,兼用させない場合には,セットばね28に相当するセットばねをアーム22や先羽根用第1駆動部材8に掛け,従来からのガタ寄せばねをアーム23に掛けるようにしても差し支えない。そして,先羽根用第1駆動部材8に掛ける場合には,先羽根用第2駆動部材9との間に掛けると,露光作動を行なうとき,そのセットばねの付勢力が負荷として作用しないようにすることができる。」

ウ 甲4の記載
甲4(実願昭61-26967号(実開昭62-140526号)のマイクロフィルム)は,本件特許に係る出願より前に頒布された刊行物であるところ,当該甲4には,次の記載がある。
「〔考案の技術分野〕
本考案は,分割羽根を用いるカメラ用フォーカルプレーンシャッタの制動機構に関する。」(明細書3ページ4ないし6行)
「この作動の過程において,第2図(a)に示す如く,羽根操作部材1は,突部1bは羽根駆動部材2の突部1cに当接し,この時羽根駆動部材2がその材質及び肉薄2a形状の働きにより弾性変形することより制動作用を受け,その作動速度が急激に低下する。
また,突部1bが突部2cを通過後,羽根操作部材1の側面1cが羽根駆動部材2の腕部2bに当接して羽根操作部材1がバウンドを起すが,突部1bが突部2cに当って直ちに減衰される。」(明細書8ページ10ないし19行)

エ 甲5の記載
甲5(実願平1-38050号(実開平2-131733号)のマイクロフィルム)は,本件特許に係る出願より前に頒布された刊行物であるところ,当該甲5には,次の記載がある。
「[産業上の利用分野]
本考案は,カメラ用のフォーカルプレンシャッタに関し,特に撮影時およびチャージ動作時以外には先羽根群と後羽根群とが開口部を閉塞するフォーカルプレンシャッタに関する。」(明細書2ページ11ないし15行)
「12はバネで,前記第1の駆動レバー8と第2の駆動レバー10とにそれぞれの一端を係留され,第2の駆動レバー10の係合部10aが第1の後駆動レバーの被係合部8cに当接する方向の引っ張り力を両部材8,10間に付与している。そして,第1図示の状態では,その係合部10aを前記被係合部8cに当接させた第2の後駆動レバー10は第1の後駆動レバー8と共に前記バネ11の力により左旋し,第1の後駆動レバー8の駆動ピン8aが講述する緩衝片21と当接することによって,両レバー8,10はこれ以上の左旋を阻止される。また,駆動ピン8aは,不図示の操作レバーを介して不図示の後羽根を公知のごとく駆動するようになっており,第1図の状態では後羽根はアパーチャを覆った閉鎖位置にある。」(明細書7ページ16行ないし8ページ10行)

オ 甲6の記載
甲6(特開2006-235260号公報)は,本件特許に係る出願より前に頒布された刊行物であるところ,当該甲6には,次の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は,一つ又は二つのシャッタ羽根を備えているカメラ用フォーカルプレンシャッタに関する。」
「【0026】
このようにして,セット作動が行われてゆき,先羽根の3枚の羽根が開口部1aを覆い,後羽根の3枚の羽根18?20が開口部1aの上方位置に退いた状態になると,各駆動部材9,12の鉄片部材11,14が,先羽根用電磁石と後羽根用電磁石の鉄芯に接触し,その直後には,セット部材15の回転が停止されて,セット作動が終了する。そして,セット作動が完了したときには,先羽根駆動部材9の突起部9dが,接片部材7から完全に離れており,接片部材7は,自己の弾性力によって,係合部7bをプリント配線板6の端面に接触させた状態になっている。図2(a)は,このときの先羽根駆動部材9と,二つの接片部材7,8の関係位置を示したものである。」

(3)本件特許発明1の新規性及び進歩性について
ア 本件特許発明1と甲1発明の対比
(ア) 甲1発明の「デジタルカメラ用フォーカルプレンシャッタ」は,本件特許発明1の「フォーカルプレンシャッタ」に相当する。

(イ) 甲1発明の「シャッタ地板1」には,「露光用の開口部1a」が形成されているから,本件特許発明1の「露光用の開口部を有する地板」に相当する。

(ウ) 甲1発明の「先羽根」は,「シャッタ地板1」(本件特許発明1の「地板」に相当する。以下,「ア 本件特許発明1と甲1発明の対比」欄において,「」で囲まれた甲1発明の構成に付された()内の文言は,当該甲1発明の構成に相当する本件特許発明1の発明特定事項を指す。)に立設された軸1g,1jに対してそれぞれ回転可能に取り付けられたアーム25,26と当該アーム25,26に枢支された3枚の羽根27,28,29とから構成されており,3枚の羽根27,28,29が展開して「開口部1a」(開口部)を閉じた状態(第1撮影モードのセット状態)や,重畳して「開口部1a」(開口部)の下方位置に格納された状態(先羽根の走行が終了した状態)に移動するのであるから,本件特許発明1の「開口部を開閉するべく地板に移動自在に設けられた先羽根」に相当する。

(エ) 甲1発明の「後羽根」は,「シャッタ地板1」(地板)に立設された軸1h,1kに対してそれぞれ回転可能に取り付けられたアーム31,32と当該アーム31,32に枢支された3枚の羽根33,34,35とから構成されており,3枚の羽根33,34,35が展開して「開口部1a」(開口部)を閉じた状態(後羽根の走行が終了した状態)や,重畳して「開口部1a」(開口部)の上方位置に格納された状態(第1撮影モード及び第2撮影モードのセット状態)に移動するのであるから,本件特許発明1の「開口部を開閉するべく地板に移動自在に設けられた後羽根」に相当する。

(オ) 甲1発明の先羽根用第1駆動部材14には「先羽根」(先羽根)が連結され,先羽根用第2駆動部材15には先羽根用駆動ばね18の付勢力が作用して,両者が協働して,先羽根用駆動ばね18の付勢力を「先羽根」(先羽根)に伝達し,セット状態から走行が終了した状態に移動させるのであるから,甲1発明の「先羽根用第1駆動部材14と先羽根用第2駆動部材15からなる構成」は,本件特許発明1の「先羽根を駆動する先羽根用駆動部材」に相当する。

(カ) 甲1発明の「先羽根用駆動ばね18」は,「先羽根用第1駆動部材14及び先羽根用第2駆動部材15」(先羽根用駆動部材)のうちの先羽根用第2駆動部材15を時計方向へ回転させるよう付勢しているから,本件特許発明1の「先羽根駆動部材を付勢する先羽根用駆動ばね」に相当する。

(キ) 甲1発明の「後羽根用駆動部材20」には「後羽根」(後羽根)が連結されるとともに,後羽根用駆動ばね22の付勢力を「後羽根」(後羽根)に伝達し,セット状態から走行が終了した状態に移動させるのであるから,本件特許発明1の「後羽根を駆動する後先羽根用駆動部材」に相当する。

(ク) 甲1発明の「後羽根用駆動ばね22」は,「後羽根用駆動部材20」(後羽根用駆動部材)を時計方向へ回転させるよう付勢しているから,本件特許発明1の「後羽根駆動部材を付勢する後羽根用駆動ばね」に相当する。

(ケ) 甲1発明の「セット部材24」は,時計方向へ回転する際に「先羽根用第1駆動部材14と先羽根用第2駆動部材15からなる構成」(先羽根用駆動部材)のうちの先羽根用第2駆動部材15を押して「先羽根用駆動ばね18」(先羽根用駆動ばね)の付勢力に抗して反時計方向へ回転させ,先羽根の走行が終了した状態から第1撮影モード及び第2撮影モードのセット状態まで移動させるとともに,「後羽根用駆動部材20」(後羽根用駆動部材)を押して「後羽根用駆動ばね22」(後羽根用駆動ばね)の付勢力に抗して反時計方向へ回転させ,後羽根の走行が終了した状態から第1撮影モード及び第2撮影モードのセット状態まで移動させるところ,撮影はこれらセット状態において開始されるから,甲1発明の「セット部材24」は本件特許発明1の「先羽根駆動部材及び後羽根駆動部材を,先羽根用駆動ばねおよび後羽根用駆動ばねの付勢力に抗してシャッタ動作前のセット位置にセットし得るセット部材」に相当する。

(コ) 甲1発明の「先羽根用第2駆動部材15」は,時計方向へ回転する「セット部材24」(セット部材)に押されて,先羽根の走行が終了した状態から第1撮影モード及び第2撮影モードのセット状態まで移動するから,本件特許発明1の「セット部材が係合して先羽根用駆動ばねの付勢力に抗しつつシャッタ動作前のセット位置にセットされる主駆動部材」に相当する。
また,甲1発明の「先羽根用第1駆動部材14」には,「先羽根」(先羽根)が連結されているから,本件特許発明1の「先羽根に連結される従駆動部材」に相当する。
したがって,甲1発明の「先羽根用第1駆動部材14と先羽根用第2駆動部材15からなる構成」は,本件特許発明1の「先羽根駆動部材」と,「セット部材が係合して先羽根用駆動ばねの付勢力に抗しつつシャッタ動作前のセット位置にセットされる主駆動部材と,先羽根に連結される従駆動部材を含」む点で一致する。

(サ) 甲1発明の「抑止手段13」は,抑止部材13bを「先羽根用第1駆動部材14」(従駆動部材)の被抑止部14bの作動軌跡内に入れることができるよう構成されていて,第2撮影モードにおけるセット作動時に,セットばね30の付勢力によって「先羽根用第1駆動部材14」(従駆動部材)が「先羽根用第2駆動部材15」(主駆動部材)とともに反時計方向へ回転するのを抑止するから,本件特許発明1の「セット部材によるセット動作時に所定条件下で従駆動部材の追従を規制するべく作動する規制機構」に相当する。

(シ) 前記(ア)ないし(サ)に照らせば,本件特許発明1と甲1発明は,
「露光用の開口部を有する地板と,
前記開口部を開閉するべく前記地板に移動自在に設けられた先羽根と,
前記開口部を開閉するべく前記地板に移動自在に設けられた後羽根と,
前記先羽根を駆動する先羽根駆動部材と,
前記先羽根駆動部材を付勢する先羽根用駆動ばねと,
前記後羽根を駆動する後羽根駆動部材と,
前記後羽根駆動部材を付勢する後羽根用駆動ばねと,
前記先羽根駆動部材及び後羽根駆動部材を,前記先羽根用駆動ばねおよび後羽根用駆動ばねの付勢力に抗してシャッタ動作前のセット位置にセットし得るセット部材を備え,
前記先羽根駆動部材は,前記セット部材が係合して前記先羽根用駆動ばねの付勢力に抗しつつシャッタ動作前のセット位置にセットされる主駆動部材と,前記先羽根に連結される従駆動部材を含み,
前記セット位置にセットされる前記主駆動部材に追従するよう前記従駆動部材を付勢するセットばねと,
前記セット部材によるセット動作時に所定条件下で前記従駆動部材の追従を規制するべく作動する規制機構をさらに備えた,
フォーカルプレンシャッタ。」
である点で一致し,次の点で相違する。

相違点1:
本件特許発明1が,規制機構が非作動の状態において,主駆動部材がセット位置に移動する際に従駆動部材の追従を補助する補助機構を設けているのに対して,
甲1発明は,このような補助機構を有していない点。

イ 判断
(ア)新規性欠如について
相違点1は実質的な相違点である。
しかるに,本件特許発明1と甲1発明の間に相違点1が存在する以上,本件特許発明1は甲1発明と同一ではない。
したがって,本件特許発明1について,申立理由3は成り立たない。

(イ)進歩性欠如について
甲2ないし甲6のいずれにも,先羽根駆動部材が,セット部材が係合して先羽根用駆動ばねの付勢力に抗しつつシャッタ動作前のセット位置にセットされる主駆動部材と,先羽根に連結される従駆動部材とからなり,セットばねの付勢力によってセット位置にセットされる前記主駆動部材に前記従駆動部材を追従させるように構成されたフォーカルプレンシャッタにおいて,前記従駆動部材の追従を補助する補助機構を設けることは,記載も示唆もされていない。
したがって,たとえ甲1発明に甲2ないし甲6のいずれに記載された事項を適用したとしても,相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項には至らない。
そして,本件特許発明1は,相違点1に係る発明特定事項を備えることによって,セット部材によるチャージ速度を速くしても,所望の露光動作が得られ,高速での連続撮影が可能になるという本件特許明細書に記載された効果を奏するものと認められる。
以上のとおりであるから,本件特許発明1は,甲1発明及び甲2ないし甲6のいずれかに記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでない。
よって,本件特許発明1について,申立理由4は成り立たない。

(4)本件特許発明2ないし6の新規性及び進歩性について
本件特許の請求項2ないし6は,請求項1の記載を直接又は間接的に引用する形式で記載されており,本件特許発明2ないし6は本件特許発明1の発明特定事項を全て具備し,他の発明特定事項を付加したものであるところ,本件特許発明1が甲1発明と同一でなく,甲1発明及び甲2ないし甲6のいずれかに記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない以上,本件特許発明2ないし6についても,同様の理由で,甲1発明と同一でなく,甲1発明及び甲2ないし甲6のいずれかに記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
したがって,本件特許発明2ないし6についても,申立理由3及び4は成り立たない。


7 申立理由5に対する判断
(1)【0030】の記載について
本件特許発明において特定されている「板バネ(付勢部材)」の構成は,主駆動部材に設けられ,当接部に当接し得るとともに所定以上の抵抗力に対して弾性変形して撓むこと(請求項3),主駆動部材及び従駆動部材の回動軸線に垂直な面内において撓むこと(請求項4),先端領域が当接部に向けて凸上に湾曲して形成されていること(請求項5)であり,「当接部」の構成は,従駆動部材に設けられること(請求項3),板バネの先端領域と当接し得るように前記回動軸線と平行に伸長する円柱状に形成されていること(請求項4,5)であって,シャッタ動作完了後の休止状態における板バネ52と当接部56の当接・離間の別は,本件特許発明の発明特定事項ではない。
したがって,シャッタ動作完了後の休止状態において,板バネ52と当接部56とを離間した状態とすることは,そもそも本件特許発明の実施とは無関係の事項なのであって,特許異議申立人が主張する本件特許明細書の【0030】の記載と図3,4による図示との齟齬が仮に事実だとしても,当該齟齬をもって,実施可能要件に違反するということはできない。
また,このことを措くとしても,そもそも,板バネ52は主駆動部材51に設けられ,当接部56は従駆動部材55に設けられていて,主駆動部材51と従駆動部材55とは同じ支軸10hを中心として相対的に回動できるよう構成されているのであるから,シャッタ動作完了後の休止状態において,板バネ52と当接部56とを離間した状態にしたいのであれば,当該休止状態(すなわち,ガタ寄せバネの付勢力によって主駆動部材52の係合部51aと従駆動部材55の係合部55bとが係合している状態)において板バネ52と当接部56とが離間しており,主駆動部材52の係合部51aと従駆動部材55の係合部55bとが少し離間した状態においては板バネ52と当接部56とが当接することとなるような位置に,板バネ52と当接部56とを設置すればよいことである。そして,このことは各図を参酌しなくても当業者が容易に理解できることである。
したがって,特許異議申立人が主張する本件特許明細書の【0030】の記載に関して,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に違反するとは認められない。

(2)【0024】の記載について
本件特許明細書の【0024】の記載は,本件特許発明3における「当接部に当接し得るとともに所定以上の抵抗力に対して弾性変形して撓む」という「付勢部材」に係る発明特定事項,及び本件特許発明5における「先端領域は,当接部に向けて凸上に湾曲して形成」されるという「板バネ」に係る発明特定事項に関して,実施形態では,規制機構80によって従駆動部材55の移動が規制されていないときには,主駆動部材51がセット位置に移動する際に,従駆動部材55に設けられた当接部56が板バネ52により押圧されて,従駆動部材55の追従が補助されるよう構成されていること,及び,規制機構80によって従駆動部材55の移動が規制されているときには,主駆動部材51がセット位置に移動する際に,板バネ52が弾性変形して当接部56との当接状態から逸脱することによって,従駆動部材55が停止したままとなるよう構成されていることを説明するものであるところ,従駆動部材55の追従を補助する際の板バネ52による当接部56の押圧が,当接部56に向けて凸上に湾曲して形成された板バネ52の先端領域によりなされることは,図6等を参酌することで当業者が容易に理解できることであり,かつ,板バネ52が弾性変形して当接部56との当接状態から逸脱するという事項は,図10に図示された板バネ52の変形状態や当接部56との位置関係を参酌すれば,当業者がその内容を明確に理解できることであって,当業者は,これらの記載に基づいて,本件特許発明を実施することができるものと認められる。
図面は,発明の内容を理解しやすくするために,明細書の補助として使用されるものであって,発明の内容を理解するのに十分な程度の正確さと精度があれば足り,設計図面のように詳細かつ厳密なものまでは必要でないと解されるところ,図6において板バネ52と当接部52が離間しているよう見受けられるとの特許異議申立人の主張は,実質上,図面が正確に描かれていないことを指摘しているにすぎない。実施形態における板バネ52と当接部56の位置関係は,本件特許明細書の【0024】の記載等から明確に理解できるから,特許異議申立人が主張する点をもって実施可能要件に違反するということはできない。
また,【0024】に記載された「当接状態から逸脱する」との表現が,板バネ52と当接部56とが離間することを指しているのでなく,板バネ52が弾性変形してその先端領域が当接部56から外れ,先端領域による当接部56への押圧がなされなくなることを指していることは,図10を参酌することで,当業者が明確に理解できることである。当該表現に関する特許異議申立人の主張は,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載を誤解したものであって,これを採用することはできない。
したがって,特許異議申立人が主張する本件特許明細書の【0024】の記載に関して,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に違反するとは認められない。

(3)申立理由5について判断のまとめ
前記(1)及び(2)のとおりであるから,申立理由5は成り立たない。


8 むすび
以上のとおりであるから,特許異議申立書に記載された申立ての理由によっては,本件特許の請求項1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に本件特許の請求項1ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-09-25 
出願番号 特願2013-227789(P2013-227789)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (G03B)
P 1 651・ 537- Y (G03B)
P 1 651・ 121- Y (G03B)
P 1 651・ 113- Y (G03B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小倉 宏之  
特許庁審判長 鉄 豊郎
特許庁審判官 河原 正
清水 康司
登録日 2016-12-22 
登録番号 特許第6062348号(P6062348)
権利者 日本電産コパル株式会社
発明の名称 フォーカルプレンシャッタ及びカメラ  
代理人 特許業務法人 英知国際特許事務所  
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