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審決分類 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  E02D
審判 一部申し立て 1項2号公然実施  E02D
審判 一部申し立て 2項進歩性  E02D
管理番号 1333258
異議申立番号 異議2017-700641  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-11-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-06-21 
確定日 2017-10-04 
異議申立件数
事件の表示 特許第6049844号発明「不等沈下制止構造及びその施工方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6049844号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6049844号の請求項1に係る特許についての出願は、平成27年11月30日に特許出願され、平成28年12月2日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人株式会社技研製作所(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

2 本件発明
特許第6049844号の請求項1に係る発明(以下「本件特許発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。

3 申立理由の概要
申立人は、証拠として甲第1号証ないし甲第7号証を提出し、取消理由1および取消理由2により、請求項1に係る特許を取り消すべき旨主張している。

(取消理由1)
本件特許発明は、甲第1号証ないし甲第6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるので、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきものである。

(取消理由2)
本件特許発明は、甲第7号証に記載された発明であるから、その特許は特許法第29条第1項第2号及び第3号の規定に違反してなされたものであるので、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきものである。

(証拠方法)
甲第1号証:特開2011-196022号公報
甲第2号証:特開昭63-304833号公報
甲第3号証:特開2010-209605号公報
甲第4号証:特開2007-255108号公報
甲第5号証:特開2014-70478号公報
甲第6号証:特開平3-206212号公報
甲第7号証:株式会社技研製作所、インプラントロック工法、日経コンストラクション、日経BP社、2014.01.27発行

4 刊行物の記載
(1)甲第1号証
ア 甲第1号証には、その記載事項からみて、
「崩壊の可能性がある比較的緩い地盤において、安定して定着深度まで埋設する杭であって、
地中深く打ち込まれた鋼管からなる杭10を有し、
この杭10はその下端部付近に杭10の外径より径大となったセメントミルクが固化した拡径体11’が一体形成されている杭。」
の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

イ 申立人の主張について
申立人は、甲第1号証に、
「崩壊の可能性がある比較的緩い地盤において、安定して定着深度まで埋設する杭であって、
地中深く打ち込まれたケーシング2を有し、
このケーシング2はその下端部付近にケーシング2の外径より径大となったセメントミルクが固化した拡径体11’が一体形成されている杭。」
の発明が記載されていると主張する。
しかしながら、甲第1号証には、ケーシング2は杭施工装置1を構成するものであること(段落0024を参照。)、及び、杭10の下部に袋体11が装着され、袋体11が拡径体11’を形成すること(段落0026を参照。)が記載されているから、上記アのように認定した。

(2)甲第2号証
甲第2号証には、次の事項が記載されている。
ア 記載事項2-1(「産業上の利用分野」の欄)
「この発明は、軟弱地盤に建設されたくい基礎構造物が、側方流動によって変位するのを防止する工法に関するものである。」

イ 記載事項2-2(「実施例」の欄)
「軟弱地盤1に先行して建設されたくい基礎構造物2の1階床部分に、剛な床版3を設けて、地盤中に打設した多数のくい4のくい頭を水平面で一体化する。
・・・
またアーカアンカー8、8を、隅角部のローラ5、5を介して隣接の地下工事施工側に、水平及び鉛直方向共に斜めに導き出し、先端部を堅硬地盤9に定着する。」

ウ 記載事項2-3(「発明の効果」の欄)
「またアースアンカーに引張力を導入するだけで構造物の側方流動が防止されるため、施工も簡単で場所的制限も受け難く、軟弱地盤上に先行して建設された多くのくい基礎構造物に応用することができるなどの特長を有する。」

(3)甲第3号証
甲第3号証には、次の事項が記載されている。
ア 記載事項3-1
「【0002】
構築された構造物の全荷重が加えられると過大な圧密沈下が生じる軟弱地盤は、直接基礎では構造物を支持できない。このため、軟弱地盤の下層にある支持地盤まで到達する支持杭で構造物を支持する杭基礎が採用されている。」

イ 記載事項3-2
「【0019】
図1に示すように、第1の実施の形態に係るパイルド・ラフト基礎10は、構造物12が軟弱地盤16の上に建てられている。
軟弱地盤16は、構造物の重量Wにより過大な圧密沈下が発生する正規圧密状態ないしそれに近い状態にある軟弱な粘性土の地盤である。性状が悪いにも関わらず直接基礎14の下の軟弱地盤16は地盤改良がされていない。
【0020】
構造物12の基礎は中空部を備えた直接基礎14とされ、直接基礎14の底面は、軟弱地盤16の上に設けられている。構造物12の柱28の直下には第1杭22が埋め込まれ、構造物12の重量Wは柱28を経由して第1杭22に伝達される。
【0021】
第1杭22は場所打ちコンクリート杭、PHC杭(高強度プレストレストコンクリート杭)、若しくは鋼管杭とされ、過圧密地盤18の下層にある硬い支持地盤20に到達する長さを有し、下端部が支持地盤20に根入れされている。」

(4)甲第4号証
甲第4号証には、次の事項が記載されている。
ア 記載事項4-1
「【0001】
本発明は杭の施工方法に係わり、特に、引き抜き強度に優れるばかりでなく周囲地盤に対する液状化防止効果も得られる鋼管杭の施工方法に関する。」

イ 記載事項4-2
「【0004】
上記事情に鑑み、本発明は充分な引き抜き耐力を持たせることができ、同時に周囲地盤に対する液状化防止効果も得られ、したがって杭の損傷を防止して建物の浮き上がりや転倒や崩壊を確実に防止することのできる合理的にして有効な鋼管杭の施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は引き抜き強度に優れかつ周囲地盤に対する液状化防止効果が得られる鋼管杭の施工方法であって、鋼管からなる杭本体の周面に予め固化材の流出口を形成しておき、該杭本体を地盤中に設置した後、該杭本体の内部から前記流出口を通して周囲地盤に固化材を加圧注入して拡径部を形成するとともに、該固化材の加圧注入により周囲地盤を締め固めかつ地盤改良を行うことを特徴とする。」

ウ 記載事項4-3
「【0016】
しかる後に、図3に示すように、地上部に設置した適宜の加圧注入手段(図示せず)から、注入管19を通して圧入空間18に固化材17を適宜の注入圧によって供給し、それによって圧入空間18から各流出口13を通して固化材17を周囲地盤に対して徐々に加圧注入していき、図4に示すように各流出口13から加圧注入された固化材17どうしが連続して杭本体12の周囲全体を取り囲み、かつ螺旋翼11全体を内包するまで、所望量の固化材17を連続的に加圧注入する。
本実施形態で採用する固化材17としては、周囲地盤への加圧注入時には充分な流動性と適度の粘性を有するとともに最終的には地盤中において自ずと固化して充分な強度を発現する周知のグラウト材を用いれば良く、たとえばセメントモルタルや地盤改良材としての各種の可塑状ゲル剤(たとえば特開2003-105745号公報に開示されている可塑性グラウト等)が好適に採用可能である。
【0017】
本実施形態の施工方法によれば、杭本体12の内部から周囲地盤に加圧注入された固化材17は最終的には固化して一体の固化材塊となり、その固化材塊は杭本体12の下端部に自ずと一体化して拡径部20となり、そのような拡径部20が螺旋翼11を介して杭本体12の下端部に一体に形成されることから、螺旋翼11のみによる場合に比べて引き抜き耐力が格段に増強されたものとなる。
【0018】
しかも、固化材17を周囲地盤に加圧注入することに伴い、その固化材17の体積相当分の土砂が自ずと外方に押圧されていき、そのような固化材17の加圧注入により周囲地盤に対する締め固め効果が得られ、かつ固化材17が固化することによる地盤改良効果が得られ、それらの効果により地盤の密度および強度を自ずと高めることができる。
つまり、本工法における固化材17の加圧注入工程は杭に対する拡径部20の形成工程であると同時に、周囲地盤に対する締め固め工程および地盤改良工程でもあり、それにより杭の引き抜き耐力を充分に増強できるばかりでなく、周囲地盤の液状化に対する強度を相乗的に高めることができ、その結果、巨大地震時における液状化の発生やそれによる杭の損傷、その結果としての建物の浮き上がりや転倒や崩壊を確実に防止することができる。」

(5)甲第5号証
甲第5号証には、次の事項が記載されている。
ア 記載事項5-1
「【0005】
本発明の目的は、所望する場所に施工でき、低コストで支持力や引抜抵抗力の向上を図ることができる地盤食い込み型支持杭及びその造成方法を提供することである。」

イ 記載事項5-2
「【0014】
ここで、まず支持杭10を構築するために用いる鋼管杭1(施工前の支持杭)について説明する。
鋼管杭1は、図2に示すように、杭材内部より押圧されて拡開する複数のスリット開口部10bを有している。
スリット開口部10bは、例えば、鋼管杭1の軸心を挟んで対向する位置に対を成して形成されている。なお、スリット開口部10bの数や位置は杭の目的や地盤(地層)の状況に応じて任意に決められ、この態様に限られるものではない。
このスリット開口部10bは、例えば、図3に示すように、杭材の周面に設けられた略X字形状を呈する切込み状の開口と、スリット開口部10bが拡開した際に外方へ突出する四葉の切片10Cを有している。」

ウ 記載事項5-3
「【0018】
次いで、図7に示すように、鋼管杭1の内部に固化材料20を加圧充填するための注入装置50を鋼管杭1内に挿入する。なお、固化材料20としては、流動状態から固化して強度を有するものであればよく、例えば、コンクリートや樹脂などを用いることができる。
注入装置50は、例えば、図7に示すように、固化材料20の流路である注入管51と、中央の開口部分に注入管51が固定された円盤状の隔壁52と、隔壁52の周囲に設けられ鋼管杭1の内面に密着するシール部53と、固化材料20の流入量を切り替える開閉部54と、隔壁52の下面に設けられた圧力センサー55と、装置支持体56に取り付けられた加圧手段57と係止手段58とを備えている。
そして、所定の位置で係止手段58を作動させると、シリンダの駆動によって進退する当接部58aが鋼管杭1の内面に当接して、注入装置50の姿勢を安定させることができる。
この注入装置50が適正な位置に配設された状態で、注入管51を通じて隔壁52の開口から鋼管杭1内に固化材料20を注入する。そして、隔壁52まで固化材料20が満たされたら、加圧手段57を作動させ、シリンダの駆動によって隔壁52を下方に押し下げることで、予め設定された圧力で固化材料20を加圧する。この加圧によって鋼管杭1内に固化材料20を加圧充填すると、杭材周面のスリット開口部10bから固化材料20が漏出しつつ、スリット開口部10bが拡開した箇所に固化材料20が充填される。なお、この際、固化材料20中の余剰水や空気もスリット開口部10bから排出される。
鋼管杭1内に固化材料20を所定量注入した後、加圧手段57と係止手段58を停止させ、注入装置50を鋼管杭1内から引き上げる。
【0019】
所定時間後、固化材料20が固化することで、外方に突出した切片10cとその切片10cに密着した固化材料20とからなる突部10aが形成され、支持杭10が構築される。
【0020】
このように、地盤などに埋設した鋼管杭1におけるスリット開口部10bが拡開されて外方に突出した切片10cが地山に当接し、さらには押圧することで、地山を圧密補強する効果が見込まれる。
さらに、その鋼管杭1内に固化材料20を充填することで、拡開した切片10cが硬化した固化材料20によって補強されるので、鋼管杭1に鉛直外力が作用しても外方に突出した切片10cが押し戻されることはない。
そして、杭材周面に突出した複数の突部10aが引抜き・押込み抵抗となるので、その突部10aを有する支持杭10の支持力や引抜抵抗力は向上する。
つまり、複数の突部10aを有する支持杭10は、支持力や引抜抵抗力が向上した優れた支持杭として、各種基礎構造物の施工に用いることができる。」

(6)甲第6号証
甲第6号証には、次の事項が記載されている。
ア 記載事項6-1(「実施例」の欄)
「第1図ないし第3図は本発明の第1工法の説明図である。
管状杭1は、鋼管、コンクリート管、樹脂管などからなり、側面全体、或いは地中内に入る部分に複数個の穴部2が設けてある。この穴部2の大きさはおよび数、管状杭1の太さや長さ、或いは地中に埋設する深さおよび地質などに合せ、適宜選択設定するばよい。
・・・
上記管状杭1を埋設するにあたり、導管を回転圧入、或いは振動圧入して導管内の土砂を、従来公知技術によって排出した後に、管状杭1を導管内に入れ、導管と管状杭の間に土砂を入れて導管を抜き取り、管状杭1内へコンクリートミルク、或いはグラウト剤、或いは膨張性モルタルなどの充填材3を流し入れる方法とするか、或いは、直接管状杭1を回転圧入或いは振動圧入で地中に埋設し、管状杭1内に充填材3を流し入れる方法とする。
上記方法で流し入れられた充填材3は穴部2から流れ出て土砂と共に凝固する。」

イ 記載事項6-2(「実施例」の欄)
「すると、第2図示のように管状杭1の穴部2から樹木の根のように突起体3が形成され、土砂の崩れを止める。」

ウ 記載事項6-3(「産業上の利用分野」の欄)
「本発明は、地中に管状杭を埋設する土留工法および管状杭に関する。」

(7)甲第7号証
ア 甲第7号証には、その記載事項からみて、
「液状化により地盤が沈下しても、堤防高を維持する杭構造であって、
堤防の基礎下へ地中深く打ち込まれたインプラントロック杭を有し、
このインプラントロック杭はその下端部が液状化しやすい地盤を超えて基盤層に達しており、前記下端部の下方から該下端部より所要長さ上方位置にかけて、インプラントロック杭の外径よりも径大であり、凹凸形状を有するコンクリートの塊がインプラントロック杭の下端部及び周壁に設けられた穴から突出して一体形成されているインプラントロック杭構造。」
の発明(以下「甲7発明」という。)が記載されていると認められる。

イ 申立人の主張について
申立人は、甲第7号証に、
「水際に建てられた堤防などの建築物の不等沈下を制止する杭構造であって、
建築物の基礎下へ地中深く打ち込まれたインプラントロック杭を有し、
このインプラントロック杭はその下端部が液状化しやすい地盤を超えて基盤層に達しており、前記下端部付近にインプラントロック杭の外径より径大となったコンクリート製径大部が一体形成されているとともに、該径大部より所要長さ上方位置のインプラントロック杭の周壁外周面にコンクリート製凸部が複数個、インプラントロック杭の周壁に設けられた穴から突出して一体形成されていることを特徴とするインプラントロック杭構造。」
の発明が記載されていると主張する。
しかしながら、甲第7号証に記載された「杭構造」は、「堤防」に対して「液状化により地盤が沈下しても、堤防高を維持し、津波の侵入を防ぐ」ものであり、「建築物の不等沈下を制止する」ものであるとはいえない。
また、インプラントロック杭に設けられたコンクリートは一つの塊をなしているから、これをコンクリート製径大部とコンクリート製凸部のように、複数の部分として認定することは妥当ではない。したがって、インプラントロック杭は、コンクリート製塊が一体形成されているとともに、コンクリート製凸部が一体形成されているということはできない。
そして、インプラントロック杭の周壁外周面に設けられたコンクリートは凹凸を有するものの、一つの塊をなしている。したがって、インプラントロック杭は、周壁外周面にコンクリート製凸部が複数個、一体形成されているということはできない。
さらに、インプラントロック杭の周壁外周面に設けられたコンクリートは、インプラントロック杭下端部付近のコンクリートに隣接しており、所要長さ離れていない。したがって、インプラントロック杭は、インプラントロック杭下端部付近のコンクリートより所要長さ上方位置の周壁外周面にコンクリート凸部が一体形成されているということはできない。
以上のとおり、甲第7号証に記載された「インプラントロック杭」は、「下端部付近にインプラントロック杭の外径より径大となったコンクリート製径大部が一体形成されているとともに、該径大部より所要長さ上方位置のインプラントロック杭の周壁外周面にコンクリート製凸部が複数個、一体形成されている」ということはできない。
したがって、甲第7号証に記載された発明は、上記アのように認定した。

5 当審の判断
(1)取消理由1について
ア 対比・判断
(ア)本件特許発明と甲1発明を対比すると、少なくとも、本件特許発明では、「鋼管杭」が「該塊より所要長さ上方位置の鋼管杭の周壁外周面にイボ状のコンクリート製凸部が複数個、周壁に穿設した穴から突出して一体形成されている」のに対し、甲1発明ではそのように構成されていない点で相違しているが(以下「相違点」という。)、当該相違点は、甲第2号証ないし甲第6号証にも記載されていない。したがって、甲1発明において、上記相違点に係る本件特許発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。

イ 申立人の主張について
(ア)申立人は、特許異議申立書において、
a 建築物の不等沈下を抑制するための杭に対し、その杭の外周壁面に穴を穿設し、その穴からコンクリートを突出してコンクリート製凸部を一体形成すること(以下「主張aの技術事項」という。)は、上記記載事項4-1?4-2、上記記載事項5-1、乃至上記記載事項6-1に摘記したように当該技術分野において周知の事項であること、
b これらの周知事項を甲1発明に適用することに何ら困難性は見いだせないばかりかそれを阻害する事由もないから、上記相違点のようにすることは、甲1発明及び甲第4号証乃至甲第6号証に記載された上記周知技術を適用して当業者が容易に想到することができた事項であること
を、主張している。

(イ)そこでまず、上記主張aについて検討する。
甲第4号証についてみると、甲第4号証には、杭の外周壁面に穴を穿設し、その穴からコンクリートを突出してコンクリート製凸部を一体形成することは、記載されていると認められる。しかしながら、甲第4号証に記載された鋼管杭は、「建築物の不等沈下を抑制するための」杭であるか不明である。また、甲第4号証に記載された拡径部20は一つの塊をなしているから、本件特許発明の「イボ状のコンクリート製凸部が複数個、……一体形成されている」という構成は甲第4号証には記載されていない。
甲第5号証についてみると、突部10aは「外方に突出した切片10cとその切片10cに密着した固化材料20とからなる」ものである(記載事項5-3、特に段落0019を参照。)。ここで、甲第5号証には、「地盤などに埋設した鋼管杭1におけるスリット開口部10bが拡開されて外方に突出した切片10cが地山に当接し、さらには押圧することで、地山を圧密補強する効果が見込まれる。さらに、その鋼管杭1内に固化材料20を充填することで、拡開した切片10cが硬化した固化材料20によって補強されるので、鋼管杭1に鉛直外力が作用しても外方に突出した切片10cが押し戻されることはない。」と記載されている(記載事項5-3、特に段落0020を参照。)。してみると、地山に当接し、支持力や引抜抵抗力を向上させるために直接的に貢献するのは、切片10cであって、固化材料20ではないと認められる。そうすると、甲第5号証に記載された技術事項は、スリット開口部10bから固化材料20が漏出するとはいえ(記載事項5-3、特に段落0018を参照。)、固化材料20を積極的に突出させるものではないから、「コンクリート製凸部が……突出して一体形成されている」ものではない。また、固化材料20の作用からすれば、漏出する固化材料20は少ない方が経済的に有利であるから、漏出する固化材料20は少量に過ぎず、「イボ状のコンクリート製凸部」を形成するには至らないものと認められる(図7を参照しても、そのことが裏付けられる。)。さらに、甲第5号証は、既設堤体30等の構造物を支持する支持杭に関するものであるものの、「建築物の不等沈下を抑制するための杭」とも言いがたい。したがって、甲第5号証は主張aの技術事項を開示するものではない。
甲第6号証は、記載事項6-3にあるように、土留工法が記載されたものである。また、記載事項6-1に続いて記載された記載事項6-2にあるように、記載事項6-1の技術事項は、「土砂の崩れを止める」という作用を奏するものである。してみると、甲第6号証は「建築物の不等沈下を抑制するための杭」に関するものではないから、主張aの技術事項を開示するものではない。
したがって、甲第4号証ないし甲第6号証の記載事項からみて主張aの技術事項が周知技術であるとは、認められない。

(ウ)上記(イ)のとおり、主張aの技術事項は周知技術ではない。また、主張aの技術事項は、「建築物の不等沈下を抑制するための杭に対し、その杭の外周壁面に穴を穿設し、その穴からコンクリートを突出してコンクリート製凸部を一体形成する」というものであるから、特に「イボ状のコンクリート製凸部が複数個、……一体形成されている」点の有無で、相違点に係る本件特許発明の構成を充足しない。しかしながら、上記主張bに関し、甲1発明に甲第4号証ないし甲第6号証の技術事項を適用することについても検討しておく。
甲1発明において、袋体11によって形成される拡径体11’は、高い鉛直支持力を発現させるという作用を奏するものであると認められる(段落0002を参照。)。ここで、甲第4号証に記載された拡径部20は、引き抜き耐力が格段に増強されるという作用を発揮するものであり(記載事項4-3、特に段落0017を参照。)、甲第5号証に記載された凸部10aは、支持力や引抜抵抗力が向上するという作用を発揮するものである(記載事項5-3、特に段落0020を参照。)。そうすると、甲1発明の拡径体11’と甲第4号証に記載された拡径部20及び甲第5号証に記載された凸部10aとは、同様の作用を発揮するものであるから、これらを置換することは当業者が容易に想到できるとしても、これらを複数、組み合わせようとする動機付けが見いだせない。
仮に、甲1発明の拡径体11’と甲第4号証に記載された拡径部20を組み合わせたとしても、甲第4号証に記載された拡径部20は一つの塊をなしているから、本件特許発明のように、「イボ状のコンクリート製凸部が複数個、……一体形成されている」形態には至らない。
同じく、甲1発明の拡径体11’と甲第5号証に記載された技術事項を組み合わせたとしても、甲第5号証に記載された技術事項は、固化材料20を積極的に突出させるものではないし、漏出する固化材料20は少量に過ぎず、「イボ状のコンクリート製凸部」を形成するには至らないものと認められるから、本件特許発明のように「イボ状のコンクリート製凸部が……突出して一体形成されている」形態には至らない。
甲第6号証に記載された技術事項は土留工法であるから、「建築物の不等沈下を抑制するための杭」に関する甲1発明に甲第6号証に記載された技術事項を適用することに、動機付けがあるとはいえない。
したがって、甲1発明に対して相違点に係る本件特許発明の構成を採用することは、当業者であっても容易に想到できるものとは認められない。

ウ 取消理由1のまとめ
上記イのとおり、申立人の主張は採用することができず、本件特許発明は、甲第1号証ないし甲第6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。したがって、本件特許発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

(1)取消理由2について
ア 対比・判断
(ア)本件特許発明と甲7発明を対比すると、少なくとも、本件特許発明では、「鋼管杭」が「前記下端部付近に鋼管杭の外径より径大となった基礎石となるダンゴ状のコンクリート製塊が一体形成されているとともに、該塊より所要長さ上方位置の鋼管杭の周壁外周面にイボ状のコンクリート製凸部が複数個、周壁に穿設した穴から突出して一体形成されている」のに対し、甲7発明では、「インプラントロック杭」が「このインプラントロック杭はその下端部が液状化しやすい地盤を超えて基盤層に達しており、前記下端部の下方から該下端部より所要長さ上方位置にかけて、インプラントロック杭の外径よりも径大であり、凹凸形状を有するコンクリートの塊がインプラントロック杭の下端部及び周壁に設けられた穴から突出して一体形成されている」点で相違している。したがって、本件特許発明は、甲7発明ではない。

イ 申立人の主張と、それに対する当審の判断は、上記「4(7)イ」のとおりである。

ウ 取消理由2のまとめ
上記のとおり、本件特許発明は、甲第7号証に記載された発明ではない。したがって、本件特許発明の特許は特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものではない。
また、他に本件特許発明が公然実施をされた発明であることを示す証拠もない。したがって、本件特許発明の特許は特許法第29条第1項第2号の規定に違反してされたものでもない。

6 むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-09-22 
出願番号 特願2015-233247(P2015-233247)
審決分類 P 1 652・ 121- Y (E02D)
P 1 652・ 112- Y (E02D)
P 1 652・ 113- Y (E02D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 亀谷 英樹  
特許庁審判長 小野 忠悦
特許庁審判官 太田 恒明
住田 秀弘
登録日 2016-12-02 
登録番号 特許第6049844号(P6049844)
権利者 八百板 勇平
発明の名称 不等沈下制止構造及びその施工方法  
代理人 松沼 泰史  
代理人 五十嵐 和壽  
代理人 棚井 澄雄  
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