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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01B
審判 全部申し立て (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  H01B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01B
審判 全部申し立て 特126 条1 項  H01B
管理番号 1333261
異議申立番号 異議2016-700179  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-11-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-03-01 
確定日 2017-09-27 
異議申立件数
事件の表示 特許第5773292号発明「レーザーエッチング加工用導電性ペースト、導電性薄膜および導電性積層体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5773292号の請求項1ないし9に係る特許を取り消す。 
理由 第1 手続の経緯

特許第5773292号の請求項1?9に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、2013年7月8日(優先権主張2012年7月20日 日本国)を国際出願日とする出願であって、平成27年7月10日に特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、平成28年3月1日に特許異議申立人 加藤加津子(以下「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年同月28日付けで異議申立人より甲第3号証についての手続補正書が提出され、同年4月12日付けで取消理由が通知され、同年6月3日に特許権者従業員 早川聡らとの面接が行われ、前記取消理由の通知の指定期間内である同年6月16日付けで特許権者より意見書の提出及び訂正請求があり、同年8月3日付けで訂正請求があった旨が通知され、その指定期間内である同年同月31日付けで異議申立人より意見書が提出がされ、同年12月21日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、前記取消理由(決定の予告)の通知の指定期間内である平成29年3月3日付けで特許権者より意見書の提出及び訂正請求があり、同年5月15日付けで訂正拒絶理由が通知され、その指定期間内である平成29年6月16日付けで特許権者より意見書が提出されたものである。


第2 平成29年3月3日付けの訂正請求の適否
平成29年3月3日付けの訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の請求の趣旨、及び、訂正の内容は、上記訂正請求書の記載によれば、それぞれ以下のとおりのものである。

なお、平成28年6月16日付けの訂正請求書による訂正の請求は、本件訂正の請求がなされたため、特許法第134条の2第6項の規定により、取り下げたものとみなされる。

1. 訂正請求の趣旨
本件特許の明細書、特許請求の範囲を本件訂正の請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?9について訂正することを求める。


2.訂正の内容
本件訂正の内容は、以下のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、塩化ビニル樹脂、繊維素誘導体樹脂からなる群から選ばれる1種又は2種以上の混合物からなるバインダ樹脂(A)、金属粉(B)および有機溶剤(C)を含有し、前記バインダ樹脂(A)が、数平均分子量が5,000?60,000であり、なおかつ、ガラス転移温度が60?100℃である熱可塑性樹脂であることを特徴とする、レーザーエッチング加工用導電性ペースト。」とあるのを、
「ポリウレタン樹脂、フェノキシ樹脂、塩化ビニル樹脂、繊維素誘導体樹脂からなる群から選ばれる1種又は2種以上の混合物からなるバインダ樹脂(A)、金属粉(B)および有機溶剤(C)を含有し、
前記バインダ樹脂(A)が、数平均分子量が5,000?60,000であり、なおかつ、ガラス転移温度が60?100℃である熱可塑性樹脂であり、
レーザーエッチング加工により、平面方向のラインおよびスペースの幅がいずれも50μm以下である電極回路配線を、全面または一部に透明導電性層を有する基材の前記透明導電性層上に、形成するために用いられ、
ビーム径30μmのレーザー光を用いたレーザーエッチング加工により、前記ラインの幅が28?32μmである電極回路配線を形成することが可能な、レーザーエッチング加工用導電性ペースト。」に訂正し、その結果として、請求項1を引用する請求項2?9も訂正する。

(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4に「請求項3に記載の導電性薄膜と基材とが積層されている導電性積層体。」とあるのを、
「請求項3に記載の導電性薄膜と、全面または一部に透明導電性槽を有する基材とが積層されている導電性積層体。」に訂正し、その結果として、請求項4を引用する請求項5?6も訂正する。

(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5を削除する。

(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項6に「請求項4または5に記載の導電性積層体」とあるのを
「請求項4に記載の導電性積層体」に訂正する。

(5) 訂正事項5
明細書の段落【0007】において、「 (1)ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、塩化ビニル樹脂、繊維素誘導体樹脂からなる群から選ばれる1種又は2種以上の混合物からなるバインダ樹脂(A)、金属粉(B)および有機溶剤(C)を含有し、前記バインダ樹脂(A)が、数平均分子量が5,000?60,000であり、なおかつ、ガラス転移温度が60?100℃である熱可塑性樹脂であることを特徴とする、レーザーエッチング加工用導電性ペースト。」とあるのを、
「 (1)ポリウレタン樹脂、フェノキシ樹脂、塩化ビニル樹脂、繊維素誘導体樹脂からなる群から選ばれる1種又は2種以上の混合物からなるバインダ樹脂(A)、金属粉(B)および有機溶剤(C)を含有し、
前記バインダ樹脂(A)が、数平均分子量が5,000?60,000であり、なおかつ、ガラス転移温度が60?100℃である熱可塑性樹脂であり、
レーザーエッチング加工により、平面方向のラインおよびスペースの幅がいずれも50μm以下である電極回路配線を、全面または一部に透明導電性層を有する基材の前記透明導電性層上に、形成するために用いられ、
ビーム径30μmのレーザー光を用いたレーザーエッチング加工により、前記ラインの幅が28?32μmである電極回路配線を形成することが可能な、レーザーエッチング加工用導電性ペースト。」に訂正する。

(6) 訂正事項6
明細書の段落【0007】において、「 (4)前記(3)に記載の導電性薄膜と基材とが積層されている導電性積層体。」とあるのを、
「 (4)前記(3)に記載の導電性薄膜と、全面または一部に透明導電性層を有する基材とが積層されている導電性積層体。」に訂正する。

(7) 訂正事項7
明細書の段落【0007】における、「 (5)前記基材が透明導電性層を有することを特徴とする(4)に記載の導電性積層体。」という記載を削除する。

(8) 訂正事項8
明細書の段落【0007】において、「 (6)前記(3)に記載の導電性薄膜、または、(4)または(5)に記載の導電性積層体、を用いてなる電気回路。」とあるのを、
「 (6)前記(3)に記載の導電性薄膜、または、(4)に記載の導電性積層体、を用いてなる電気回路。」に訂正する。

(9) 訂正事項9
明細書の段落【0011】に「<バインダ樹脂(A)>
バインダ樹脂(A)の種類は熱可塑性樹脂であれば特に限定されないが、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン、スチレンーアクリル樹脂、スチレンーブタジエン共重合体、フェノール樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂、スチレンーアクリル樹脂、スチレンーブタジエン共重合樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合、ポリスチレン、シリコーン樹脂、フッ素系樹脂等を挙げることができ、これらの樹脂は単独で、あるいは2種以上の混合物として、使用することができる。ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂、繊維素誘導体樹脂からなる群から選ばれる1種又は2種以上の混合物であることが好ましい。また、これらの樹脂の中でも、ポリエステル樹脂および/またはポリエステル成分を共重合成分として含有するポリウレタン樹脂(以下ポリエステルポリウレタン樹脂と呼ぶ場合がある)が、バインダ樹脂(A)として好ましい。」とあるのを、
「<バインダ樹脂(A)>
バインダ樹脂(A)の種類は熱可塑性樹脂であれば特に限定されないが、ポリエステル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン、スチレンーアクリル樹脂、スチレンーブタジエン共重合体、フェノール樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂、スチレンーアクリル樹脂、スチレンーブタジエン共重合樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合、ポリスチレン、シリコーン樹脂、フッ素系樹脂等を挙げることができ、これらの樹脂は単独で、あるいは2種以上の混合物として、使用することができる。ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、繊維素誘導体樹脂からなる群から選ばれる1種又は2種以上の混合物であることが好ましい。また、これらの樹脂の中でも、ポリエステル樹脂および/またはポリエステル成分を共重合成分として含有するポリウレタン樹脂(以下ポリエステルポリウレタン樹脂と呼ぶ場合がある)が、バインダ樹脂(A)として好ましい。」に訂正する。


3. 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び
特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(当審注:「…」は記載の省略を表す。以下、同じ。)
(1) 訂正事項1
上記2.(1)に示した訂正事項1(以下、単に「訂正事項1」という。)は、訂正前の請求項1?9について、平成28年4月12日付けで通知された、エポキシ樹脂が熱可塑性樹脂であるかのような技術常識に反する記載を含んでおり、発明が明確であるとはいえない旨の取消理由を解消するために、訂正前の請求項1から、「エポキシ樹脂、」との記載を削除して、請求項1?9の記載の明瞭化とを図るとともに、訂正前の請求項1における、「レーザーエッチング加工用導電性ペースト」について、「 レーザーエッチング加工により、平面方向のラインおよびスペースの幅がいずれも50μm以下である電極回路配線を、全面または一部に透明導電性層を有する基材の前記透明導電性層上に、形成するために用いられ、 ビーム径30μmのレーザー光を用いたレーザーエッチング加工により、前記ラインの幅が28?32μmである電極回路配線を形成することが可能な、」との発明特定事項を付加して、請求項1?9記載の発明の減縮を図るものであるから、明瞭でない記載の釈明、及び、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
しかしながら、訂正事項1により訂正前の請求項1?9に付加された、「レーザーエッチング加工により、平面方向のラインおよびスペースの幅がいずれも50μm以下である電極回路配線を…形成するために用いられ、 ビーム径30μmのレーザー光を用いたレーザーエッチング加工により、前記ラインの幅が28?32μmである電極回路配線を形成することが可能な、」との発明特定事項は、以下のア.?ク.の検討により、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、それらを総称して「特許明細書等」という。また、願書に添付した明細書については「特許明細書」という。)に記載した事項の範囲内のものとはいえないから、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものである。

ア. 訂正事項1について、特許権者は、特許明細書の【0007】の第1段落の「本発明者らは平面方向に高密度で電極回路配線を配置する製造方法について鋭意検討した結果、バインダ樹脂と導電粉体からなる層を絶縁性基材上に形成し、その一部をレーザー光照射により絶縁性基材上から除去することにより、スクリーン印刷法では実現困難なL/Sが50/50μm以下の高密度電極回路配線を製造することができることを見出した。また、このような製造方法に適するバインダ樹脂と導電粉体からなる層を形成するのに適する導電性ペーストを見出した。」との記載、同書の【0003】の「抵抗膜方式の透明タッチパネルの額縁部分の電極回路配線の配置密度は、平面方向のラインとスペースの幅が各々200μm(以下、L/S=200/200μmというように略記する)以上程度であり、これを導電性ペーストのスクリーン印刷によって形成することが従来から行われている。」との記載、同書の【0071】の「上記直線部分の線間のレーザーエッチング加工は、ビーム径30μmのレーザー光を60μmピッチで各2回走査することによって行った」との記載、同書の【0073】の「 ○;導電性薄膜が除去された部位のライン幅が28?32μm」との記載、表4?表6など、に基づいて導き出される、特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正事項である旨主張している(平成29年 3月 3日付け訂正請求書第6頁第6?21行、第7頁第4行?第8頁第1行、第10頁第12?18頁、第10頁第24行?第11頁第4行)。

イ. そこで、「ビーム径30μmのレーザー光を用いたレーザーエッチング加工」に関し、特許明細書等にどのような記載があるか検討してみるに、特許明細書には次のような記載があり、また、特許明細書等の図面として、次のような図面がある。

(ア) 「スクリーン印刷法により、…基材(東レ社製ルミラーS(厚み100μm))上に、導電性ペーストを2.5×10cmの長方形に印刷塗布した。…印刷塗布後、熱風循環式乾燥炉にて120℃で30分間の乾燥を行って導電性薄膜を得た。…次いで、上記方法にて作成した導電性薄膜にレーザーエッチング加工を行い、図1に示す長さ50mmの4本の直線部分を有するパターンを作製し、レーザーエッチング加工適性評価試験片とした。上記直線部分の線間のレーザーエッチング加工は、ビーム径30μmのレーザー光を60μmピッチで各2回走査することによって行った。…」(【0071】)

(イ) 「評価項目、測定条件は以下の通りである。
(レーザーエッチング加工幅評価)
前記レーザーエッチング加工適性評価試験片において、導電性薄膜が除去された部位の線幅を測定した。測定は、レーザー顕微鏡(キーエンスVHX-1000)を用いて行い、下記の評価判断基準で判定した。
○;導電性薄膜が除去された部位のライン幅が28?32μm

(レーザーエッチング加工適性評価(1)細線両端間導通性)
前記レーザーエッチング加工適性評価試験片において、細線1b、2b、3b、4bの両端の間の導通が確保されているかにより評価した。具体的には、端子1a-端子1c間、端子2a-端子2c間、端子3a-端子3c間、端子4a-端子4c間、のそれぞれについてテスターを当てて導通の有無を確認し、下記評価基準で判定した。
○;4本の細線の全てについて細線の両端間に導通がある

(レーザーエッチング加工適性評価(2)隣接細線間絶縁性)
前記レーザーエッチング加工適性評価試験片において、隣接する細線の間の絶縁が確保されているかにより評価した。具体的には、端子1a-端子2a間、端子2a-端子3a間、端子3a-端子4a間、のそれぞれについてテスターを当てて導通の有無を確認し、下記評価基準で判定した。
○;すべての隣接細線間が絶縁されている

(導電性薄膜が除去された部位の残渣の評価)
前記レーザーエッチング加工適性評価試験片において、導電性薄膜が除去された部位をレーザー顕微鏡で観察し、残渣の付着有無を下記評価基準により判定した。
○:導電性薄膜が除去された部位に残渣がない。
…」(【0072】?【0075】)

(ウ) 「実施例1(以下、実施例1は全て参考例1と読み替える)
…得られた導電性ペーストを所定のパターンに印刷後、120℃×30分間乾燥し、導電性薄膜を得た。本導電性薄膜を用いて基本物性を測定し、次いで、レーザーエッチング加工の検討を行った。ペーストおよびペースト塗膜、レーザーエッチング加工性の評価結果を表4に示した。
実施例2?13(以下、実施例2?6、13?17はそれぞれ参考例2?6、13?17と全て読み替える)
導電性ペーストの樹脂および配合を変えて実施例2?17を実施した。導電性ペーストの配合および評価結果を表4?表6に示した。」(【0086】?【0087】)

(エ) 【表4】


(【0089】)

(オ) 【表5】


(【0090】)

(カ) 【表6】


(【0091】)

(キ)【図1】


上記(ア)の記載を踏まえると、【図1】からは、基材上に形成された導電性薄膜にビーム径30μmのレーザー光を60μmピッチで各2回走査するというレーザーエッチング加工を行って、導電性薄膜を線状に除去することによって、端子1aと端子1cとの間に長さ50mm以上の直線部分である細線1bが形成されたパターンと、端子2aと端子2cとの間に長さ50mm以上の直線部分である細線2bが形成されたパターンと、端子3aと端子3cとの間に長さ50mm以上の直線部分である細線3bが形成されたパターンと、端子4aと端子4cとの間に長さ50mm以上の直線部分である細線4bが形成されたパターンとを作製したことが視認されるところ、これらのパターンは、基材上に形成された導電性薄膜にビーム径30μmのレーザー光を60μmピッチで各2回走査するというレーザーエッチング加工を行うことによって形成された、平面方向のラインおよびスペースのパターンを表しており、技術常識に照らし、平面方向のラインおよびスペースの幅がいずれも約30μmである電極回路配線を形成するために用いられるといえる。

ウ. 上記イ.の(ウ)によれば、実施例1?6、13?17は参考例と読み替えるとされているから、上記イ.の(エ)?(カ)の【表4】?【表6】に示されている実施例1?17のうちで、実施例として記載されているのは、上記イ.の(オ)の【表5】に示されているうちの、実施例8?12のみである。

エ. そして、上記イ.の(オ)の【表5】には、実施例8?12のレーザーエッチング特性に関し、細線幅(μm)が、それぞれ、27、26、25、31、27であり、いずれの実施例も「○」との評価が示されているところ、上記イ.の(イ)、(キ)によれば、「細線」とは、細線1b?4bで形成された、平面方向のラインのことであるから、「細線幅」とは、平面方向のラインの幅のことであるのに対し、「○」との評価の、導電性薄膜が除去された部位のライン幅が28?32μmとは、導電性薄膜が除去された部位、すなわち、平面方向のスペースについての幅が28?32μmということであり、また、レーザーエッチング特性とは、基材上に形成された導電性薄膜にビーム径30μmのレーザー光を60μmピッチで各2回走査するというレーザーエッチング加工を行うことによって形成された、平面方向のラインおよびスペースの幅がいずれも約30μmである電極回路配線を形成するために用いられるパターンの特性を意味しているといえることから、当該【表5】には、基材上に形成された導電性薄膜にビーム径30μmのレーザー光を60μmピッチで各2回走査するというレーザーエッチング加工を行うことによって、実施例8?12の5つの実施例では、平面方向のラインの幅が25?31μmであり、平面方向のスペースの幅が28?32μmである電極回路配線を形成することが可能なことが示されているといえる。

オ. 上記イ.?エ.の検討によれば、「ビーム径30μmのレーザー光を用いたレーザーエッチング加工」に関し、特許明細書等には、5つの実施例に基づいた、基材上に形成された導電性薄膜にビーム径30μmのレーザー光を60μmピッチで各2回走査するというレーザーエッチング加工を行うことによって、平面方向のラインの幅が25?31μmであり、平面方向のスペースの幅が28?32μmである電極回路配線を形成することが可能なことを示す記載事項があるといえる。

カ. 上記オ.に示したような、特許明細書等の記載事項に対して、訂正事項1は、上記したとおり、「レーザーエッチング加工用導電ペースト」について、「レーザーエッチング加工により、平面方向のラインおよびスペースの幅がいずれも50μm以下である電極回路配線を…形成するために用いられ、 ビーム径30μmのレーザー光を用いたレーザーエッチング加工により、前記ラインの幅が28?32μmである電極回路配線を形成することが可能な、」との発明特定事項を付加するものであるところ、当該発明特定事項は、上記オ.に示したような、特許明細書等の記載事項とは整合していないことは明らかである。
すなわち、前記発明特定事項における、「ビーム径30μmのレーザー光を用いたレーザーエッチング加工」は、上記オ.に示したように特許明細書等に記載される、「基材上に形成された導電性薄膜にビーム径30μmのレーザー光を60μmピッチで各2回走査するというレーザーエッチング加工」よりも広範な態様を包含する技術事項であることは明らかであるし、また、前記発明特定事項における、「平面方向のラインの幅が28?32μmである電極回路配線を形成することが可能な」ことは、上記オ.に示したように特許明細書等に記載される、「平面方向のラインの幅が25?31μmであ」「る電極回路配線を形成することが可能なこと」とは、平面方向のラインの幅の数値範囲が異なるし、また、「平面方向のスペースの幅が28?32μmである電極回路配線を形成することが可能なこと」とは、幅が28?32μmである箇所が異なることから、特許明細書等の記載事項とは整合していないことは明らかである。

キ. また、特許明細書等を参照してみても、「レーザーエッチング加工用導電ペースト」について、訂正事項1によって追加される、「ビーム径30μmのレーザー光を用いたレーザーエッチング加工により、平面方向のラインの幅が28?32μmである電極回路配線を形成することが可能な」という特定事項が、上記オ.に示したような、特許明細書等の記載事項と等価であると解釈し得る根拠も見当たらない。

ク. してみると、訂正事項1は、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではないことは明らかであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものである。


(2) 訂正事項5
上記2.(5)に示した訂正事項5(以下、単に「訂正事項5」という。)」は、発明の詳細な説明の記載と、訂正事項1により変更された、特許請求の範囲の記載との整合を図るものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるが、上記(1)と同様の検討により、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものである。


(3) 訂正事項2?4、6?9
本件訂正の請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲によれば、訂正後の請求項1?9は一群の請求項であり、また、本件訂正の請求書によれば、訂正事項1および訂正事項5は、いずれも、前記一群の請求項についての訂正事項であるところ、上記(1)?(2)で検討したとおり、訂正事項1および訂正事項5は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、訂正事項2?4、6?9についての検討を行うまでもなく、前記一群の請求項についての本件訂正の請求を認めることはできない。


(4) 補足
(4-1) 特許権者の主張
上記(1)?(2)に示したことを理由とする、平成29年5月15日付けの訂正拒絶理由通知書に対して、特許権者は、同年6月16日付けの意見書で以下の主張をしている。
1ア. 特許明細書の段落【0057】に、「レーザー光の走査を複数回同パターンで行わないことも、好ましい実施態様のひとつである。」と記載されていることから、特許明細書等には、レーザー光の走査を複数回行う場合と複数回行わない場合の両方を包含するレーザーエッチング加工が記載され、すなわち、訂正事項1および訂正事項5の「ビーム径30μmのレーザー光を用いたレーザーエッチング加工」が記載されている。
1イ. 訂正事項1および訂正事項5の「前記ライン幅が28?32μmである」点について、特許明細書の段落【0073】には、「○:導電性薄膜が除去された部位のライン幅が28?32μm」との記載があり、上記「ライン幅」が除去された部位の幅を示すことは明らかである。

(4-2) 当審の見解
2ア. 平成29年3月3日付けの訂正請求書によれば、
訂正事項1は、上記2.(1)のとおり、請求項1の記載を、「ポリウレタン樹脂、フェノキシ樹脂、塩化ビニル樹脂、繊維素誘導体樹脂からなる群から選ばれる1種又は2種以上の混合物からなるバインダ樹脂(A)、金属粉(B)および有機溶剤(C)を含有し、
前記バインダ樹脂(A)が、数平均分子量が5,000?60,000であり、なおかつ、ガラス転移温度が60?100℃である熱可塑性樹脂であり、
レーザーエッチング加工により、平面方向のラインおよびスペースの幅がいずれも50μm以下である電極回路配線を、全面または一部に透明導電性層を有する基材の前記透明導電性層上に、形成するために用いられ、
ビーム径30μmのレーザー光を用いたレーザーエッチング加工により、前記ラインの幅が28?32μmである電極回路配線を形成することが可能な、レーザーエッチング加工用導電性ペースト。」とする訂正事項であり、
また、訂正事項5は、上記2.(5)のとおり、明細書の段落【0007】の記載を、「 (1)ポリウレタン樹脂、フェノキシ樹脂、塩化ビニル樹脂、繊維素誘導体樹脂からなる群から選ばれる1種又は2種以上の混合物からなるバインダ樹脂(A)、金属粉(B)および有機溶剤(C)を含有し、
前記バインダ樹脂(A)が、数平均分子量が5,000?60,000であり、なおかつ、ガラス転移温度が60?100℃である熱可塑性樹脂であり、
レーザーエッチング加工により、平面方向のラインおよびスペースの幅がいずれも50μm以下である電極回路配線を、全面または一部に透明導電性層を有する基材の前記透明導電性層上に、形成するために用いられ、
ビーム径30μmのレーザー光を用いたレーザーエッチング加工により、前記ラインの幅が28?32μmである電極回路配線を形成することが可能な、レーザーエッチング加工用導電性ペースト。」とする訂正事項である。

2イ. そして、上記2.(1)および上記2.(5)のとおり、訂正事項1および訂正事項5には、いずれにも、「 ビーム径30μmのレーザー光を用いたレーザーエッチング加工により、前記ラインの幅が28?32μmである電極回路配線を形成することが可能な、」との事項が含まれているところ、訂正事項1自体の記載および訂正事項5自体の記載によれば、この事項における、「前記ラインの幅」は、当該記載よりも前に記載されている「平面方向のラインおよびスペースの幅がいずれも50μm以下である電極回路配線」における「平面方向のラインの幅」しか意味し得ないことは明らかであるから、特許権者の上記1イ.の主張は妥当な主張とは認められない。

2ウ. また、訂正事項1および訂正事項5における、「 ビーム径30μmのレーザー光を用いたレーザーエッチング加工により、前記ラインの幅が28?32μmである電極回路配線を形成することが可能な、」との事項における、「前記ラインの幅」が、訂正事項1自体の記載および訂正事項5自体の記載にかかわらず、特許権者の上記1イ.の主張とおり、特許明細書の段落【0073】に記載される、「導電性薄膜が除去された部位のライン幅が28?32μm」における「導電性薄膜が除去された部位のライン」のことであると仮定してみても、当該段落の「導電性薄膜が除去された部位のライン幅が28?32μm」とのレーザエッチング加工幅評価は、上記(1)イ.?カ.の検討のとおり、基材上に形成された導電性薄膜にビーム径30μmのレーザー光を60μmピッチで各2回走査するというレーザーエッチング加工を行うことによって得られた加工幅評価にとどまる。
よって、特許権者の上記1ア.の主張も妥当な主張とは認められない。


3. 小括
以上のとおりであるから、本件訂正の請求を認めることはできない。


第3 本件特許発明
上記第2のとおり本件訂正の請求は認めることはできないし、また、平成28年6月16日付けの訂正請求書による訂正の請求は、本件訂正の請求がなされたため、取り下げたものとみなされるから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?9は、特許第5773292号の特許請求の範囲の請求項1?9に記載された、次のとおりのものである。
「【請求項1】
ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、塩化ビニル樹脂、繊維素誘導体樹脂からなる群から選ばれる1種又は2種以上の混合物からなるバインダ樹脂(A)、金属粉(B)および有機溶剤(C)を含有し、前記バインダ樹脂(A)が、数平均分子量が5,000?60,000であり、なおかつ、ガラス転移温度が60?100℃である熱可塑性樹脂であることを特徴とする、レーザーエッチング加工用導電性ペースト。
【請求項2】
更にレーザー光吸収剤(D)を含有することを特徴とする請求項1に記載のレーザーエッチング加工用導電性ペースト。
【請求項3】
請求項1?2のいずれかに記載のレーザーエッチング加工用導電性ペーストから形成された導電性薄膜。
【請求項4】
請求項3に記載の導電性薄膜と基材とが積層されている導電性積層体。
【請求項5】
前記基材が透明導電性層を有することを特徴とする請求項4に記載の導電性積層体。
【請求項6】
請求項3に記載の導電性薄膜、または、請求項4または5に記載の導電性積層体、を用いてなる電気回路。
【請求項7】
請求項3に記載の導電性薄膜の一部に、炭酸ガスレーザー、YAGレーザー、ファイバーレーザーおよび半導体レーザーから選ばれるレーザー光を照射して、前記導電性薄膜の一部を除去することによって形成された配線部位を有する電気回路。
【請求項8】
前記導電性薄膜が透明導電性層上に形成されていることを特徴とする請求項7に記載の電気回路。
【請求項9】
請求項6?8のいずれかに記載の電気回路を構成部材として含むタッチパネル。」

また、本件特許の明細書及び図面は、特許第5773292号の明細書及び図面に記載されたとおりのものである。


第4 取消理由の概要
平成28年4月12日付けの取消理由通知の概要は、以下のとおりである。

I) 本件特許は、特許請求の範囲の請求項1?9が、エポキシ樹脂が熱可塑性樹脂であるかのような技術常識に反する記載を含んでおり、発明が明確であるとはいえないし、明細書の記載を参照しても、発明が明確であるとはいえないため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、取り消すべきものである。
II) 本件特許の請求項1?9に係る発明は、その優先日前に日本国内または外国において頒布された下記の刊行物1?3に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許を受けたものであり、本件特許は取り消すべきものである。


刊行物1:国際公開第2011/046076号(甲第3号証)
刊行物2:特開2012-138017号公報(甲第2号証)
刊行物3:特開平10-65312号公報(甲第9号証)


第5 取消理由についての判断
1. 上記理由I)の取消理由(特許法第36条第6項第2号)について
(1) 上記第3のとおり特許請求の範囲の請求項1(以下、単に「請求項1」ということがある。)には、「ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、塩化ビニル樹脂、繊維素誘導体樹脂からなる群から選ばれる1種又は2種以上の混合物からなるバインダ樹脂(A)」が、「数平均分子量が5,000?60,000であり、なおかつ、ガラス転移温度が60?100℃である熱可塑性樹脂である」との発明特定事項を備えた発明が記載されている。

(2) 上記(1)に示したとおり、請求項1には、「エポキシ樹脂からなるバインダ樹脂(A)が、数平均分子量が5,000?60,000であり、なおかつ、ガラス転移温度が60?100℃である熱可塑性樹脂である」との発明特定事項を含む発明が記載されている。

(3) ここで、技術常識からすると、樹脂はその性質上、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂とに分けられ、エポキシ樹脂は熱硬化性樹脂であるとされている(久保亮五ら編集「岩波 理化学辞典 第4版」第1刷、1987年10月12日 岩波書店発行、第142?143頁(甲第10号証))。

(4) 上記(3)の技術常識を踏まえると、上記(2)に示した発明特定事項は技術常識に反するため、その発明特定事項によって特定される事項が明確であるとはいえない。

(5) また、上記(2)に示した発明特定事項について、本件特許の明細書には、
「…本願発明は以下の構成からなるものである。
(1)ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、塩化ビニル樹脂、繊維素誘導体樹脂からなる群から選ばれる1種又は2種以上の混合物からなるバインダ樹脂(A)、金属粉(B)および有機溶剤(C)を含有し、前記バインダ樹脂(A)が、数平均分子量が5,000?60,000であり、なおかつ、ガラス転移温度が60?100℃である熱可塑性樹脂であることを特徴とする、レーザーエッチング加工用導電性ペースト。
…」(【0007】)、
「バインダ樹脂(A)の種類は熱可塑性樹脂であれば特に限定されないが、…エポキシ樹脂…等を挙げることができ、これらの樹脂は単独で、あるいは2種以上の混合物として、使用することができる。ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂、繊維素誘導体樹脂からなる群から選ばれる1種又は2種以上の混合物であることが好ましい。」(【0011】)という事項が記載されているが、これら以外には、エポキシ樹脂が熱硬化性樹脂ではなく、熱可塑性樹脂であるということについての説明は見当たらない。

(6) 上記(3)?(5)を踏まえても、上記(2)に示した発明特定事項は、技術常識に反するため、その発明特定事項によって特定される事項が明確であるとはいえない。

(7) 上記(1)?(6)のため、本件特許の特許請求の範囲の請求項1の記載では、本件特許の明細書の記載を参照しても、発明が明確であるとはいえない。また、請求項1を引用する、本件特許の特許請求の範囲の請求項2?9の記載についても、請求項1と同様、発明が明確であるとはいえない。

(8) よって、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?9の記載では発明が明確であるとはいえないし、明細書の記載を参照しても、発明が明確であるとはいえないため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


2. II)の取消理由(特許法第29条第2項)について
上記1.で指摘したとおり、特許第5773292号の特許請求の範囲の請求項1?9に記載されたとおりでは、発明が明確であるとはいえないが、当該記載から上記1.(2)に示した発明特定事項が削除されて、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たすようになっていたと仮定して、II)の取消し理由について、以下に、検討しておくこととする。

(2-1) 本件発明
本件特許の特許請求の範囲の請求項1?9に係る発明は、特許第5773292号の特許請求の範囲の請求項1?9に記載されたとおりのものから上記1.(2)に示した発明特定事項が削除された、次のとおりの事項により特定されるものと仮定する(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明9」という。)。

「特許請求の範囲
【請求項1】
ポリウレタン樹脂、フェノキシ樹脂、塩化ビニル樹脂、繊維素誘導体樹脂からなる群から選ばれる1種又は2種以上の混合物からなるバインダ樹脂(A)、金属粉(B)および有機溶剤(C)を含有し、前記バインダ樹脂(A)が、数平均分子量が5,000?60,000であり、なおかつ、ガラス転移温度が60?100℃である熱可塑性樹脂であることを特徴とする、レーザーエッチング加工用導電性ペースト。
【請求項2】
更にレーザー光吸収剤(D)を含有することを特徴とする請求項1に記載のレーザーエッチング加工用導電性ペースト。
【請求項3】
請求項1?2のいずれかに記載のレーザーエッチング加工用導電性ペーストから形成された導電性薄膜。
【請求項4】
請求項3に記載の導電性薄膜と基材とが積層されている導電性積層体。
【請求項5】
前記基材が透明導電性層を有することを特徴とする請求項4に記載の導電性積層体。
【請求項6】
請求項3に記載の導電性薄膜、または、請求項4または5に記載の導電性積層体、を用いてなる電気回路。
【請求項7】
請求項3に記載の導電性薄膜の一部に、炭酸ガスレーザー、YAGレーザー、ファイバーレーザーおよび半導体レーザーから選ばれるレーザー光を照射して、前記導電性薄膜の一部を除去することによって形成された配線部位を有する電気回路。
【請求項8】
前記導電性薄膜が透明導電性層上に形成されていることを特徴とする請求項7に記載の電気回路。
【請求項9】
請求項6?8のいずれかに記載の電気回路を構成部材として含むタッチパネル。」


(2-2) 刊行物
刊行物1:国際公開第2011/046076号(甲第3号証)
刊行物2:特開2012-138017号公報(甲第2号証)
刊行物3:特開平10-65312号公報(甲第9号証)


(2-3) 各刊行物の記載事項・視認事項
刊行物1?3には、それぞれ、次の事項が記載され、視認される。

(2-3-1) 刊行物1の記載事項・視認事項
ア. 「背景技術
[0002] 指や専用のペン等で画面に触れることにより操作を行う透明タッチパネルはATM、カーナビゲーションシステム、ゲーム機、駅の切符自動販売機、複写機、博物館の解説端末、及びコンビニの情報端末等、幅広い用途に用いられている。
[0003] 透明タッチパネルは、透明な二枚の導電性薄膜を重ね合わせてスイッチを形成するように構成されている。一般的にこの種の透明タッチパネルの透明導電性薄膜は、蒸着法やスパッタ法により、透明電極材料となる酸化インジウム・スズ膜(以下ITO膜と略記する場合がある)をポリエステルフィルム、ガラス等の基材に付着させ、そのITO膜をエッチングすることによりパターニングして形成されている。
[0004] タッチパネルには種々の方式があり、抵抗膜方式と静電容量方式が代表的である。
[0005] 抵抗膜方式は、圧力を感知して触った位置を特定するというシンプルな仕組みで、製造が簡単で低コストで生産できるのが特徴であり、細かな位置検出がしやすく、ペンによる文字入力にも対応できる。一方、デメリットとしては、液晶の上に導電膜フィルムを貼る構造のため、画面の透過率が低くなり、鮮明な画面を実現しにくい点が挙げられる。
[0006] 静電容量方式は、指や専用のペンでパネルに触れることで起こる放電現象等を感知して位置を特定する方式で、多点感知できることが特徴である。
[0007] タッチパネルはペンや指先等で入力しようとすると、その固定電極側の透明導電性薄膜と可動電極(フィルム電極)側の透明導電性薄膜との透明導電性薄膜同士が接触又は接近するようになっているが、近年、ゲーム機等に見られるペン入力形態の多様化に伴い、入力時の荷重、特にペン入力による荷重で透明導電性薄膜にクラック、剥離等の破壊が生じることが問題となっている。そのためペン摺動耐久性を向上させることが必須となってきており、透明導電性薄膜の強度を向上させる試みが近年活発に行われている。
[0008] 透明導電性薄膜の強度を上げるための試みとして、例えば、薄膜を構成する酸化物を結晶化することが有効であると考えられている。透明導電性薄膜を結晶化させるためには、非結晶性の透明導電性薄膜をプラスチックフィルム基材上に成膜した後、得られた積層フィルムを透明導電性薄膜の結晶化温度以上に加熱するという手法がある(例えば、特許文献1)。
[0009] その他には特許文献2に示される…結晶性ITO薄膜を得る方法等、各社耐久性向上のため、結晶化率の向上を目指している。
[0010] 一方で前記のように透明導電性薄膜を構成する酸化物の結晶化に伴い、透明導電性薄膜上に形成される導電性塗膜の密着性を確保することが難しくなってきている。接続電極である導電性塗膜形成は一般的に、銀等の導電性粉末を含む導電性ペーストのスクリーン印刷塗布によって実施されるが、透明導電性薄膜を構成する酸化物が結晶性の場合、結晶化により透明導電性薄膜の表面構造の秩序が保たれているため、表面活性も低く、凹凸によるアンカー効果が低下する傾向にある。さらに構造の秩序が保たれているため、導電性ペースト中に存在する溶剤の下地層への浸透効果が非晶性透明導電性薄膜よりも弱まる傾向にある。これらの理由により、乾燥後の密着性を確保するのが困難である。
[0011] 以上のことから、特に結晶性透明導電性薄膜に対しての密着性が良好で、導電性を確保した低温加工可能な導電性ペーストが現在強く求められているが、現状はそのような導電性ペーストの開発は十分ではない。
[0012] 従来のタッチパネル用の導電性ペーストとしては、従来のメンブレンスイッチや感圧センサ等の電極用途として用いられる導電性ペーストをタッチパネル用途に転用して用いる場合が多い。例えば、…特許文献4にはポリエステル樹脂やポリウレタン樹脂をバインダー樹脂とする導電性ペーストが開示されているが、結晶性透明導電性薄膜に対する密着性は必ずしも十分ではない。言い換えるならば透明導電性薄膜を構成する酸化物との密着性を向上させるための樹脂や添加剤の設計思想が盛り込まれておらず、酸化物の種類によって密着性にバラツキが生じ、特に結晶性透明導電性薄膜に対する密着性については極めて乏しいといわざるを得ない。

先行技術文献
特許文献
[0016] 特許文献1:特開2005-141981号公報
特許文献2:特開2004-323877号公報
特許文献3:特開2003-203523号公報
特許文献4:特開2003-223812号公報
特許文献5:特開2006-059720号公報
特許文献6:特開平1-159906号公報」

イ. 「発明が解決しようとする課題
[0017] 本発明は、透明導電性層等を有する基材に対して、密着性を顕著に向上させ、高信頼性及び高導電性を付与できる導電性薄膜を形成させるための導電性ペーストを提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
[0018] このような問題を解決するために、鋭意検討した結果、導電性ペースト中に特定の数平均分子量、酸価、及びガラス転移温度を有するポリウレタン樹脂をバインダー樹脂として含有することが、導電性薄膜を形成する導電性ペーストとして有用であるという知見を得た。本発明は、斯かる知見に基づき完成されたものである。」

ウ. 「[0079] 後述する製造例において製造されたポリエステル樹脂(P)及びポリウレタン樹脂(U)の物性評価(1.数平均分子量、2.ガラス転移温度(Tg)、3.酸価及び4.樹脂組成)の測定方法を以下に示す。
[0080] また、製造例において製造されたポリエステル樹脂(P)及びポリウレタン樹脂(U)を用いて調製した導電性ペーストの10.貯蔵安定性、及び導電性ペーストを用いて形成したテストピースについての物性評価(5.密着性、6.比抵抗、7.鉛筆硬度、8.環境試験及び9.耐ブロッキング性)の測定方法を以下に示す。
[0081] 1.数平均分子量
試料樹脂を、樹脂濃度が0.5重量%程度となるようにテトラヒドロフランに溶解または希釈し、孔径0.5μmのポリ四フッ化エチレン製メンブランフィルターで濾過し、GPC測定試料とした。テトラヒドロフランを移動相とし、島津製作所社製のゲル浸透クロマトグラフ(GPC)Prominenceを用い、示差屈折計(RI計)を検出器として、カラム温度30℃、流量1ml/分にて樹脂試料のGPC測定を行なった。数平均分子量既知の単分散ポリスチレンのGPC測定結果を用いて試料樹脂のポリスチレン換算数平均分子量を求め、それを本願における試料樹脂の数平均分子量とした。ただしカラムは昭和電工(株)製のshodex KF-802、804L、806Lを用いた。
[0082] 2.ガラス転移温度(Tg)
試料樹脂5mgをアルミニウム製サンプルパンに入れて密封し、セイコーインスツルメンツ(株)製の示差走査熱量分析計(DSC)DSC-220を用いて、200℃まで、昇温速度20℃/分にて測定し、ガラス転移温度以下のベースラインの延長線と遷移部における最大傾斜を示す接線との交点の温度で求めた。
[0083] 3.酸価
試料樹脂0.2gを精秤し20mlのクロロホルムに溶解した。ついで、0.01Nの水酸化カリウム(エタノール溶液)で滴定して求めた。指示薬には、フェノールフタレイン溶液を用いた。酸価の単位はeq/ton、すなわち試料1トン当たりの当量とした。
[0084] 4.樹脂組成
クロロホルム-dに試料樹脂を溶解し、VARIAN製400MHz-NMR装置を用い、^(1)H-NMRにより樹脂組成比を求めた。
[0085] 5.密着性
作製した導電性ペーストを厚み100μmのアニール処理をしたPETフィルム又は結晶性ITO膜にスクリーン印刷法により25×200mmのパターンを印刷し、150℃で30分乾燥、硬化したものをテストピースとした。乾燥膜厚は20?30μmになるように調整した。このテストピースを用いてJIS K-5600-5-6:1991に従って、セロテープ(登録商標)(ニチバン(株)製)を用い、剥離試験により評価した。但し、格子パターンの各方向のカット数は11個、カット間隔は1mmとした。100/100は剥離がなく密着性が良好であることを示し、0/100は全て剥離してしまい、密着性が劣ることを表す。
[0086] 6.比抵抗
5.と同様に作製したテストピースを25×450mm幅に切り取り、シート抵抗と膜厚を測定し、比抵抗を算出した。なお、膜厚はゲージスタンドST-022(小野測器社製)を用い、PETフィルムの厚みをゼロ点として硬化塗膜の厚みを5点測定し、その平均値を用いた。シート抵抗はMILLIOHMMETER4338B(HEWLETT PACKARD社製)を用いて25×450mm幅のテストピースを4枚測定し、その平均値を用いた。
[0087] 7.鉛筆硬度
5.密着性試験で作製したテストピースを厚さ2mmのSUS304板上に置き、JIS K 5600-5-4:1999に従って測定し、剥離の有無で判断した。
[0088] 8.環境試験:
5.密着性試験でITO膜上に作製したテストピースを、80℃で300時間加熱する耐熱試験及び85℃、85%RH(相対湿度)で300時間加熱する耐湿熱試験を行い、加熱終了後24時間常温で放置した後、抵抗値を測定した。
環境試験の良否は、前記耐熱試験及び耐湿熱試験の実施前後における導電性塗膜の密着性及び鉛筆硬度の評価にて行った。
[0089] 9.耐ブロッキング性:
5.密着性試験のようにITO膜上に作製した塗膜を2枚、塗膜面を接するように重ね合わせ、導電性塗膜部分に500gの荷重を印加して、80℃で72時間放置した。ついで荷重を取り除き常温で1時間放置した後に以下の基準で外観により良否を判定した。
○:塗膜双方への転写がなく、元の塗膜状態を保持している。
×:双方への転写が見られ、ハガレが生じている。
[0090] 10.貯蔵安定性
導電性ペーストをポリ容器に入れ、密栓したものを40℃で1ヶ月貯蔵した。貯蔵後に粘度及び4と同様に作製したテストピースを用い、比抵抗、鉛筆硬度、密着性を測定した。
○:著しい粘度変化はなく、初期の比抵抗、鉛筆硬度、密着性を維持している。
×:かなりの粘度上昇が認められ、比抵抗、鉛筆硬度、密着性の低下が認められる。
[0091] 樹脂の製造例
ポリエステルポリオール(P)の合成

[0092]…ポリエステルポリオール(P-1)?(P-5)、及び(P-7)の組成並びに樹脂物性を表1に示す。
[0093] ポリエステル樹脂(P-6)の合成

[0094] 結果を表1に示す。
[0095]
[表1]


[0096] ポリウレタン樹脂の合成
ポリウレタン樹脂(U-1)の合成
…ポリウレタン樹脂(U-1)を製造する際に用いた各成分及び樹脂物性を表2に示す。
[0097] ポリウレタン樹脂(U-2)?(U-6)の合成
…ポリウレタン樹脂(U-2)?(U-6)を製造する際に用いた各成分及び樹脂物性を表2に示す。…
[0098] 表2に記載される略称は、以下のとおりである。
DMBA:ジメチロールブタン酸
DMPA:ジメチロールプロピオン酸
NPG:ネオペンチルグリコール
DMH:2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール
MDI:4,4’-ジフェニルメタンジイイソシアネート
IPDI:イソホロンジイソシアネート
[0099]
[表2]



[0105] 実施例1
固形分濃度35質量%のポリウレタン樹脂溶液(U-1)を2,858部(固形部換算1,000部)、フェロ・ジャパン(株)製のフレーク状銀粉SF70Aを6,540部、カーボンブラックとしてライオン(株)製のECP600JDを76部、(株)中越黒鉛工業所製のグラファイトBFを76部、レベリング剤として共栄社化学(株)製のMKコンクを58部、分散剤としてビックケミー・ジャパン(株)製のDisperbyk2155を16部、溶剤としてエチルジグリコールアセテート(ECA)を640部、ブチルカルビトールアセテート(BCA)を210部配合し、チルド三本ロール混練り機で3回通して分散した。表4に全溶液中の各成分の量を示す。得られた銀ペーストをアニール処理をしたPETフィルムを基材とし、5.密着性試験において規定した方法で印刷した後、120℃×30分で乾燥した。得られた塗膜物性は、比抵抗は4.9×10^(-5)Ω・cm、密着性100/100、鉛筆硬度Hで良好であった。結果を表4に示す。
[0106] 一方で、基材として結晶性ITOフィルムKA500(尾池工業(株)製)を用い、5.密着性試験において記述した方法で印刷、乾燥し評価した。また環境試験を実施した。評価結果を表4に示す。
[0107] 実施例2?7
表4に示す成分及び配合により実施例1と同様に銀ペーストを作製し、アニール処理をしたPETフィルムを基材として塗膜を作製した。塗膜物性を表4に示す。
[0108] また、実施例1と同様に結晶性ITOフィルムKA500(尾池工業(株)製)を用い、5.密着性試験において記述した方法で印刷、乾燥し評価した。また環境試験を実施した。評価結果を表4に示す。
[0109] いずれの実施例もオーブン120℃×30分という低温短時間な条件で良好な塗膜物性を得た。またITOへの密着性、環境試験後の密着性、耐ブロッキング性等も良好であった。
[0110] なお、表4に示す、導電粉末、添加剤及び溶剤は以下のものを用いた。
銀粉1:フェロ・ジャパン(株)製のSF70A
銀粉2:福田金属箔粉工業(株)製のAgC-2011
カーボンブラック:ライオン(株)製のケッチェンECP600JD
グラファイト粉:(株)中越黒鉛工業所製のグラファイトBF
硬化剤:旭化成ケミカルズ(株)製のMF-K60X
硬化触媒:共同薬品(株)製のKS1260
レベリング剤:共栄社化学(株)のMKコンク
分散剤1:ビックケミー・ジャパン(株)社製のDieperbyk2155
分散剤2:ビックケミー・ジャパン(株) 社製のDieperbyk180
ECA:ダイセル化学工業(株)製のエチルジグリコールアセテート
BCA:ダイセル化学工業(株)製のブチルグリコールアセテート
[0111]
[表4]




エ. 「請求の範囲
[請求項1] (A)成分:酸価が50?500eq/ton、ガラス転移温度が60?150℃である、ポリウレタン樹脂からなるバインダー樹脂、
(B)成分:金属粉末、及び
(C)成分:有機溶媒
を含有する導電性ペースト。

[請求項10] 請求項1?9のいずれかに記載の導電性ペーストを用いてなる導電性薄膜。
[請求項11] 請求項10に記載の導電性薄膜を透明導電性層上に積層した導電性積層体。

[請求項13] 請求項11又は12に記載の導電性積層体を用いたタッチパネル。」

オ. 上記エ.の[請求項1]には、
「酸価が50?500eq/ton、ガラス転移温度が60?150℃である、ポリウレタン樹脂からなるバインダー樹脂、金属粉末、及び、有機溶媒を含有する導電性ペースト」に係る発明が記載されている。

カ. 上記オ.に示した導電性ペーストに係る発明におけるポリウレタン樹脂からなるバインダー樹脂ついて、上記ウ.の[0079]?[0099]には、U-1、U-2、U-4、U-5として、(ガラス転移温度、酸価、数平均分子量)が、それぞれ、(70℃、380eq/ton、55000)、(97℃、180eq/ton、35000)、(71℃、150eq/ton、25000)、(70℃、110eq/ton、20000)であるポリウレタン樹脂が記載され、さらに、上記ウ.の[0105]?[0111]によれば、上記オ.に示した導電性ペーストに係る発明についての具体例は、実施例1?2、4?5として、U-1、U-2、U-4またはU-5であるポリウレタン樹脂と銀粉とカーボンブラックとグラファイトと有機溶媒とを含有する銀ペーストであるとされている。

キ. 上記カ.の記載からすると、上記オ.に示した導電性ペーストに係る発明は、具体的には、
「ガラス転移温度が70?97℃、酸価が110?380eq/ton、数平均分子量が20000?55000である、ポリウレタン樹脂からなるバインダー樹脂と、銀粉とカーボンブラックとグラファイトと有機溶媒とを含有する銀ペースト」に係る発明であるといえる。

ク. 上記キ.に示した銀ペーストに係る発明は、上記イ.によれば、透明導電性層等を有する基材に対して、密着性を顕著に向上させ、高信頼性及び高導電性を付与できる導電性薄膜を形成させるための導電性ペーストを提供することを、発明が解決しようとする課題としており、その課題の解決には、導電性ペースト中に特定の数平均分子量、酸価、及びガラス転移温度を有するポリウレタン樹脂をバインダー樹脂として含有することが有用であるという知見を得、斯かる知見に基づき完成されたものであるとされている。

ケ. 上記ク.に示したことからすると、上記キ.に示した銀ペーストは、透明導電性層等を有する基材に導電性薄膜を形成させるための導電性ペーストであるといえるところ、透明導電性層等を有する基材とは、上記ア.によれば、透明導電性層等を有するタッチパネルの基材のことである。

コ. 上記オ.?ケ.の検討を踏まえると、刊行物1には、以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「ガラス転移温度が70?97℃、酸価が110?380eq/ton、数平均分子量が20000?55000である、ポリウレタン樹脂からなるバインダー樹脂と、銀粉とカーボンブラックとグラファイトと有機溶媒とを含有する、透明導電性層等を有するタッチパネルの基材に導電性薄膜を形成させるための銀ペースト。」

サ. また、刊行物1には、上記エ.の[請求項10]?[請求項13]を考慮すると、以下の発明も記載されていると認められる。

引用発明2:「引用発明1の銀ペーストを用いてなる導電性薄膜。」
引用発明3:「引用発明2の導電性薄膜を透明導電性層上に積層した
導電性積層体。」
引用発明4:「引用発明3の導電性積層体を用いたタッチパネル。」

シ. なお、引用発明1?4をまとめて、引用発明ということがある。


(2-3-2) 刊行物2の記載事項・視認事項
タ. 「【0009】
近年は、タッチパネルの意匠性や操作性を向上させる観点から、タッチパネル自体は大型化させずにアクティブエリアをより大きくすることが求められている。このような要求に応えるために、近年のタッチパネルは、額縁領域の面積をより少なくしてアクティブエリアを拡大することが種々検討されている。
【0010】
しかし、額縁領域の面積を少なくすると、この額縁領域に配置された第1の取出配線又は第2の取出配線をより細線化しなければならず、また各取出配線の設置場所の位置精度をより向上させなければならない。…スクリーン印刷のような印刷法により取出配線を形成する場合には、導電性インクを基材フィルム上に塗布して取出配線を形成するので、取出配線の細線化や設置場所の位置精度の向上が難しいという問題がある。…」


チ. 「【0020】
(タッチパネル1の構成)
図1に示すように、…タッチパネル1は、タッチパネルセンサ2とフレキシブル基板3とから構成されている。タッチパネルセンサ2は、表面に接触した物体の位置を検出するためのもので、第1の取出配線4に接続された接続端子(以下、第1の接続端子5と言う。)及び第2の取出配線6に接続された接続端子(以下、第2の接続端子7と言う。)がタッチパネルセンサ2の側部に形成されている。…なお、説明の便宜上、図1ではタッチパネルセンサ2とフレキシブル基板3とを分離して記載した。また、図1における符号8は、タッチパネルセンサ2の上に設けられる接着層である。この接着層8は、図示しないカバーガラスをタッチパネルセンサ2の上に設置する際に、これらタッチパネルセンサ2とカバーガラスとを接着するためのものである。
【0021】
タッチパネルセンサ2は、図示しないカバーガラスの表面に接触した物体の位置を検出するためのセンサ部材である。図2に示すように、タッチパネルセンサ2は、操作者が視認することができるとともに、表面に指等の物体の接触を検知可能なアクティブエリア11と、このアクティブエリア11の周囲に形成され、通常は操作者が視認することができない額縁領域12とに区画されている。この額縁領域12は、フレキシブル基板3が接合されるとともに第1の取出配線4の一部、第1の接続端子5、第2の取出配線6、及び第2の接続端子7が配置されている第1の額縁領域13と、少なくとも第1の取出配線4の一部が配置されている第2の額縁領域14とを有している。
【0022】
第1の額縁領域13は幅W1を有するように形成され、第2の額縁領域14は幅W2を有するように形成されている。これら幅W1及び幅W2は、幅W1が幅W2に比べて広くなるように形成されている。これは、第1の額縁領域13がフレキシブル基板3をタッチパネルセンサ2に接合するための領域でもあり、該フレキシブル基板3を接合するために必要な幅を確保する必要があるからである。
【0023】
なお、…第1の額縁領域13がアクティブエリア11の先端側に形成され、第2の額縁領域14がアクティブエリア11の左右端側に形成されているが、これら第1の額縁領域13及び第2の額縁領域14は、この位置に限定されるものではない。例えば、図1において、フレキシブル基板3がアクティブエリア11の右端側に接合される場合には、第1の額縁領域13はアクティブエリア11の右端側になり、第2の額縁領域14は、アクティブエリア11の先端側及び後端側になる。…
【0024】
図3に示すように、タッチパネルセンサ2は、第1の透明基板16の下面16aと第2の透明基板17の上面17aとを対向させて、第1の透明基板16を第2の透明基板17の上に接着層18を介して積層して構成されている。第1の透明基板16は、光透過性樹脂フィルムで形成された部材であり、図3及び図4に示すように、一方側の面としての上面16bに、第1の透明電極19、第1の取出配線4及び第1の接続端子5が配置形成されている。また、第2の透明基板17は、光透過性樹脂フィルムで形成された部材であり、図3及び図5に示すように、第2の透明電極20、第2の取出配線6及び第2の接続端子7が上面17aに配置形成されている。なお、以下においては、第1の透明基板16を構成する光透過性樹脂フィルムを第1の光透過性樹脂フィルム30といい、第2の透明基板17を構成する光透過性樹脂フィルムを第2の光透過性樹脂フィルム35という。

【0029】
第2の取出配線6は、フレキシブル回路を介して、第2の透明電極20で生成された検知信号を外部の装置へ送出するためのものである。第2の取出配線6は、図1、図3及び図5に示すように、先端側の端部はフレキシブル回路と接続するための第2の接続端子7と接続し、後端側の端部は第2の透明電極用端子24と接続するように形成されている。なお、図5においてハッチングを施しているのは、第2の取出配線6、第2の接続端子7及び第2の透明電極用端子24である。
【0030】
第2の取出配線6は、額縁領域12の先端側に形成されている第1の額縁領域13に形成されている。…

【0032】
図6は、図1のA-A´線における断面図、図7は、図5のB-B´線における断面図である。なお、図6は、説明の便宜上、左右両端と中央の一部を省略して記載する。…

【0038】
第2の透明基板17は、図5のB-B´線の断面に示すように、第2の透明導電膜層38が形成されている部分と、図1のA-A´線の断面に示すように、該第2の透明導電膜層38が形成されていない部分がある。例えば、図5に示す部分では、第2の透明基板17は、第2の光透過性樹脂フィルム35の上面に、第2のアンダーコート層36、第2の誘電体層37、第2の透明導電膜層38及び第2の遮光導電膜層39が積層されている。また、図1に示す箇所では、第2の透明基板17は、第2の光透過性樹脂フィルム35の上面に、第2のアンダーコート層36、第2の誘電体層37及び第2の遮光導電膜層39が積層されており、第2の透明導電膜層38が形成されていない。これは、額縁領域12は操作者が視認することができる場所ではなく、金属又は合金からなる第2の遮光導電膜層39を形成することが許容されており、また第2の遮光導電膜層39を形成しやすくすることができるからである。…

【0043】
第2の遮光導電膜層39は、第2の取出配線6、第2の透明電極用端子24及び第2の接続端子7を構成するものであり、これら第2の取出配線6、第2の透明電極用端子24及び第2の接続端子7の形状に対応するパターンを形成するように、第2の誘電体層37及び第2の透明導電膜層38の上に形成されている。
【0044】
第2の遮光導電膜層39は、ペースト状の電極材料が第2の誘電体層37上又は第2の透明導電膜層38上にスクリーン印刷法で塗布されて形成されている。第2の遮光導電膜層39は、金属材料と樹脂材料からなるペースト状の導電性材料によって形成されている。…」

ツ.「【0045】
…上記のペーストを用いてスクリーン印刷法で外周パターンを形成した後に、レーザー加工を行い、微細部のパターニングを行ってもよい…」

テ. 「【図1】


【図2】


上記チ.の【0020】?【0022】の記載を踏まえると、【図1】?【図2】からは、タッチパネルにおいては、そのセンサ2がアクティブエリア11と額縁領域12とに区画され、その額縁領域には、フレキシブル基板3をタッチパネルセンサ2に接合するために必要な領域を確保しつつ、取出配線が形成されているということが視認される。」

ト. 「【図3】


【図4】


【図5】


上記チ.の【0024】?【0030】の記載を踏まえると、【図3】?【図5】からは、タッチパネルにおいては、そのセンサ2は、第1の透明基板16と第2の透明基板17とが接着層18を介して積層して構成され、第1の透明基板16は額縁領域12に第1の取出配線4等が形成された第1の光透過性樹脂フィルム30からなり、また、第2の透明基板17は額縁領域12に第2の取出配線6等が形成された第2の光透過性樹脂フィルム35からなっていることが視認される。」

ナ. 「【図6】


【図7】


上記チ.の【0032】?【0044】の記載を踏まえると、図1のA-A’線の断面図である【図6】と、図5のB-B’線の断面図である【図7】とからは、第2の取出配線6等を構成する第2の遮光導電膜層39は、第2の透明導電層38を介して、又は、第2の透明導電層38を介さずに、第2の透明基板17を構成する第2の光透過性樹脂フィルム35の額縁領域12に、金属材料と樹脂材料からなるペースト状の電極材料がスクリーン印刷法で塗布されてパターン形成されたことが視認される。」

ニ. 刊行物2の上記テ.?ナ.によれば、タッチパネルにおいては、そのセンサ2がアクティブエリア11と額縁領域12とに区画され、その額縁領域12には、フレキシブル基板3をタッチパネルセンサ2に接合するために必要な領域を確保しつつ、取出配線の細線化や設置場所の位置精度の向上が図られており、また、そのセンサ2は、第1の透明基板16と第2の透明基板17とが接着層18を介して積層して構成され、第1の透明基板16は額縁領域12に第1の取出配線4等が形成された第1の光透過性樹脂フィルム30からなり、また、第2の透明基板17は額縁領域12に第2の取出配線6等が形成された第2の光透過性樹脂フィルム35からなっているところ、第2の取出配線6は、第2の透明基板17を構成する第2の光透過性樹脂フィルム35の額縁領域12の、第2の透明導電層38の上に、又は、第2の透明導電層38の上以外の箇所に、金属材料と樹脂材料からなるペースト状の電極材料がスクリーン印刷法で塗布されてパターン形成された取出配線であるとされる。

ヌ. 上記ニ.に示したことは、金属材料と樹脂材料からなるペースト状の電極材料に注目すると、金属材料と樹脂材料からなるペースト状の電極材料が、タッチパネルの第2の透明基板17を構成する第2の光透過性樹脂フィルム35の額縁領域12の、第2の透明導電層38の上に、又は、第2の透明導電層38の上以外の箇所に、スクリーン印刷法で塗布されて、第2の取出配線6をパターン形成するために用いられると言い換えることができる。

ネ. そして、上記ヌ.に示した、金属材料と樹脂材料からなるペースト状の電極材料について、刊行物2の上記タ.には、近年は、タッチパネルの意匠性や操作性を向上させる観点から、タッチパネル自体は大型化させずにアクティブエリアをより大きくすることが求められており、このような要求に応えるために、近年のタッチパネルは額縁領域の面積をより少なくすることが種々検討されているが、前記額縁領域の面積をより少なくするには、この額縁領域に配置された取出配線をより細線化しなければならず、また、各取出配線の設置場所の位置精度をより向上させなければならないところ、スクリーン印刷のような印刷法により取出配線を形成する場合には、取出配線の細線化や設置場所の位置精度の向上が難しいという問題があるということが記載されている。

ノ. また、上記ヌ.に示した、金属材料と樹脂材料からなるペースト状の電極材料について、刊行物2の上記ツ.には、タッチパネルの額縁領域にスクリーン印刷法でパターンを形成した後に、レーザー加工を行い、微細部のパターニングを行ってもよいとの技術事項が記載されている。


(2-3-3) 刊行物3の記載事項
ハ. 「【特許請求の範囲】

【請求項2】 基板上に厚膜導体を所定パターンで形成する工程と、
該厚膜導体の一部にレーザ光を照射して不要部分を昇華,除去し部品搭載部分を形成する工程とを具備した、
ことを特徴とする導体パターン形成方法。
…」

ヒ. 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ランド等の導体を基板上に形成する導体パターン形成方法に関するものである。」

フ. 「【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかし、スクリーン印刷技術を利用した従来の導体パターン形成方法は、コストが低く済む反面、導体ペーストの粘度制御が困難であるため幅50μm以下の導体を高精度で形成することが難しい。…
【0008】本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、所望形状の導体を高精度且つ安定に形成できる導体パターン形成方法を提供することにある。」

ヘ. 「【0009】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、…
【0010】請求項2の発明に係る導体パターン形成方法は、基板上に厚膜導体を所定パターンで形成する工程と、該厚膜導体の一部にレーザ光を照射して不要部分を昇華,除去し部品搭載部分を形成する工程とを具備した、ことをその特徴としている。この導体パターン形成方法によれば、厚膜導体の一部にレーザ光を照射して不要部分を昇華,除去し部品搭載部分を形成することにより、端縁ラインが綺麗で且つ厚みが均一な部品搭載部分を有する導体を形成できる。」

ホ. 「【0020】…基板1に、スクリーン印刷法によって所定形状の導体膜3を形成してこれを乾燥させる。…
【0022】…基板1または…光学系の少なくとも一方を一定速度で移動させながら、…導体膜3の不要部分…にレーザ光Lを照射して同部分を昇華,除去する。
【0023】…除去する部分の幅が照射レーザ光Lのスポット径よりも大きい場合は、レーザ光Lを複数回走査して上記の部分除去を実施する。
【0024】…最初に形成された導体膜3はその不要部分をレーザ光照射により除去され、これにより…所望形状の導体膜3’が基板1上に作成される。」

マ. 「【0028】…レーザ光照射による加工精度をより向上させるには、導体膜2,3のレーザ光吸収性を高めるために、カーボン,有機色素,低融点金属粉等を導体ペーストに予め添加しておくとよい。」


(2-4) 本件発明と引用発明との対比・判断
(2-4-1) 本件発明1と引用発明1との対比・判断
本件発明1と、上記(2-3-1)コ.に示した、引用発明1とを対比すると、引用発明1における「銀粉」、「有機溶媒」、「銀ペースト」は、それぞれ、本件発明1における「金属粉(B)」、「有機溶剤(C)」、「導電性ペースト」に相当し、また、引用発明1における「ポリウレタン樹脂からなるバインダー樹脂」は、本件発明1における「ポリウレタン樹脂、フェノキシ樹脂、塩化ビニル樹脂、繊維素誘導体樹脂からなる群から選ばれる1種又は2種以上の混合物からなるバインダ樹脂(A)」のうちの、ポリウレタン樹脂からなるバインダ樹脂(A)に相当し、また、引用発明1における「バインダー樹脂」が、「ガラス転移温度が70?97℃、」「数平均分子量が20000?55000である」ことは、本件発明1における「前記バインダ樹脂(A)が、数平均分子量が5,000?60,000であり、なおかつ、ガラス転移温度が60?100℃である」ことと数値範囲が重複する。
そうすると、本件発明1と引用発明1との一致点、相違点は以下のとおりである。

<一致点>
ポリウレタン樹脂からなるバインダ樹脂(A)、金属粉(B)および有機溶剤(C)を含有し、前記バインダ樹脂(A)が、数平均分子量が20,000?55,000であり、なおかつ、ガラス転移温度が70?97℃である、導電性ペースト。

<相違点>
相違点1:ポリウレタン樹脂からなるバインダ樹脂(A)が、本件発明1では、熱可塑性樹脂であるのに対し、引用発明1では熱可塑性樹脂であるとの特定はされていない点。
相違点2:導電性ペーストが、本件発明1は、「レーザーエッチング加工用」であるのに対し、引用発明1は、透明導電性層等を有するタッチパネルの基材に導電性薄膜を形成させるためのペーストであるものの、「レーザーエッチング加工用」であるとの特定はされていない点。


(2-4-2) 判断
上記相違点について検討する。
ア. まず、上記相違点1につき検討するに、引用発明1における、ガラス転移温度が70?97℃、酸価が110?380eq/ton、数平均分子量が20000?55000である、ポリウレタン樹脂からなるバインダー樹脂の根拠となっている、刊行物1記載のU-1、U-2、U-4、U-5のポリウレタン樹脂からなるバインダー樹脂(以下、「刊行物1記載のバインダー樹脂」という。)は、それらの原料の組成が、それぞれ、本件特許の明細書記載の実施例における、U-1、U-2、U-3、U-4のポリウレタン樹脂からなるバインダー樹脂(以下、「本件特許のバインダー樹脂」という。)の原料の組成と同一である(上記(2-3-1)ウ.の[0091]?[0111]、本件特許の明細書【0077】?【0090】)ところ、本件特許の明細書によれば、本件特許のバインダー樹脂は熱可塑性樹脂とされている(本件特許の明細書【0009】?【0010】)から、刊行物1記載のバインダー樹脂、ひいては、引用発明1におけるバインダー樹脂も熱可塑性樹脂であるといえる。

イ. 上記ア.のため、上記相違点1は実質的な相違点とはいえない。

ウ. 次に、上記相違点2につき検討するに、引用発明1は、透明導電性層等を有するタッチパネルの基材に導電性薄膜を形成させるための銀ペーストであって、上記(2-3-1)ア.?イ.、及び、上記(2-3-1)ウ.の[0079]?[0089]からすると、透明導電性層等を有するタッチパネルの基材にスクリーン印刷塗布によって導電性薄膜を形成する際に用いられるペーストであるところ、タッチパネルの構成が記載されている、刊行物2の記載全体を参照すると、タッチパネルの製造に際し、透明導電性層等を有するタッチパネルの基材にスクリーン印刷塗布によって導電性薄膜を形成する際に用いられるペーストは、上記(2-3-2)ヌ.に示した、金属材料と樹脂材料からなるペースト状の電極材料以外には見当たらないことからして、引用発明1が、上記(2-3-2)ヌ.に示した、金属材料と樹脂材料からなるペースト状の電極材料に包含されることは明らかである。

エ. そして、引用発明1のペーストが包含される、ペースト状の電極材料について、上記(2-3-2)ネ.に示したように、近年は、タッチパネルの意匠性や操作性を向上させる観点から、そのペーストで額縁領域に形成される配線を、より細線化しなければならず、また、設置場所の位置精度をより向上させなければならないが、スクリーン印刷のような印刷法により取出配線を形成する場合には、取出配線の細線化や設置場所の位置精度の向上が難しいという問題があるところ、上記(2-3-2)ノ.に示したように、タッチパネルの額縁領域にスクリーン印刷法でパターンを形成した後に、レーザー加工を行い、微細部のパターニングを行ってもよいとの技術事項が刊行物2に記載されている。

オ. ここで、本件特許の出願の優先日前においては、タッチパネルの電極配線の微細化の要求は、2009年(平成21年)に100μm・100μmであったライン・スペースの要求が、2010年(平成22年)には、50μm・50μmになってきていたという状況であったことは技術常識である(平成28年8月31日付けで特許異議申立人が提出した参照資料1(印刷雑誌 第93巻第5号,2010年5月15日 印刷学会出版部発行,第39?43頁)参照。)。

カ. 一方、刊行物3には、上記(2-3-3)ハ.?ホ.に示したように、スクリーン印刷法で形成した導体パターンにレーザー加工を行うことで、幅50μm以下の導体、すなわち、50μm以下のラインを高精度で形成することができ、除去する部分の最小幅、すなわち、スペースは照射レーザ光のスポット径に対応するという技術事項が記載されているところ、スクリーン印刷法で形成した導体パターンのレーザー加工を行うに際しては、スポット径が20μm以下のレーザ光を使用できるため、配線間の間隔、すなわち、スペースの幅を20μmにまで高精細にできることは周知の技術的事項である(平成28年8月31日付けで特許異議申立人が提出した参照資料4(特開2001-76569号公報の【0016】参照。)。

キ. 上記ウ.?カ.の検討を踏まえると、本件特許の出願の優先日前において、ライン・スペースが50μm・50μmであるとのタッチパネルの電極配線の微細化の要求に対応するため、引用発明1のペーストを用いてスクリーン印刷法で形成した導体パターンに対して、レーザー加工を行って、ラインとスペースのそれぞれが幅50μm以下であるタッチパネルの電極配線を形成するために用いることは、引用発明1、刊行物2?3記載の発明、技術常識、及び、周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に想到し得た技術事項であるといえる。

ク. そして、上記キ.に示したように、引用発明1のペーストを、スクリーン印刷法で形成した導体パターンにレーザー加工を行って、ラインとスペースのそれぞれが幅50μm以下であるタッチパネルの電極配線を形成するために用いると、引用発明1のペーストは、上記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を備えることとなる。

ケ. また、レーザーエッチング加工適性に優れ、なおかつレーザーエッチング加工後においても基材に対する初期および湿熱環境負荷後の密着性に優れる導電性薄膜を形成することができるという本件発明1の効果は、上記カ.に示した周知の技術事項等を考慮すると、刊行物1?3の記載に基づいて、当業者が予測し得る範囲内の効果にすぎない。


(2-4-3) 補足
3ア. 特許権者の主張
上記(2-4-2)ウ.?ク.に示したような、上記相違点2についての判断に対して、特許権者は、平成28年6月16日付けの意見書、及び、平成29年3月3日付けの意見書で以下のような主張をしている。
(ア) 刊行物2には、比較的広範囲が確保されているので細線化する必要のない領域13は印刷法で形成し、挟領域化して細線化が必要な領域14はスパッタ法等の真空プロセスとフォトリソグラフィー法によるエッチング処理を併用して形成することを前提としており、細線化の必要性が高い取出配線の形成にレーザー加工を用いることは記載も示唆もされていないので、刊行物2の段落[0045]の記載は、タッチパネルのアクティブエリアを拡大する細線化が必要な取出配線に対して、レーザー加工を行うことを示唆するものではない(平成28年6月16日付けの意見書第4頁第24行?第6頁第24行、平成29年3月3日付けの意見書第6頁第9行?第8頁第15行)。
(イ) 刊行物3には、ガラスフリット及びバインダを必須成分とし、600?850℃の高温で焼成される導体ペーストしか記載されておらず、そのバインダは、このような高温での焼成により昇華されると考えられるのに対して、刊行物1の引用発明のバインダー樹脂、および、刊行物2発明の樹脂材料はいずれも、最終的に残存するので、ガラスフリットを必須成分とする刊行物3発明から一部の特徴のみを取り出して、刊行物1の引用発明および刊行物2発明に組み合わせることの動機付けが存在しない(平成28年6月16日付けの意見書第7頁第2?23行。)
(ウ) 特許異議申立人が提出した参考資料1は、ライン・スペースの狭小化をスクリーン印刷技術のみで達成することについて記載されており、印刷後のレーザー加工については何ら記載されていないし、また、刊行物3には、電極回路配線のラインの幅を50μm以下とすることの示唆があるとしても、導体間の間隔(電極回路配線のスペースの幅)を50μm以下とすることについては、一切の記載も示唆もなされていない。(平成29年3月3日付けの意見書第8頁第17行?第9頁第2行、同書第9頁第25行?第10頁第2行)。

3イ. 当審の見解
(カ) タッチパネルの額縁領域において、スクリーン印刷のような印刷法により取出配線を形成する場合には、取出配線の細線化や設置場所の位置精度の向上が難しいという問題があるが、タッチパネルの額縁領域にスクリーン印刷法でパターンを形成した後に、レーザー加工を行い、微細部のパターンニングを行ってもよいとの技術事項が刊行物2に記載されている(上記(2-3-2)タ.?テ.)ところ、本件特許の出願の優先日前においては、タッチパネルの電極配線の微細化の要求は、2009年(平成21年)に100μm・100μmであったライン・スペースの要求が、2010年(平成22年)には、50μm・50μmになってきていたという状況であった(平成28年8月31日付けで特許異議申立人が提出した参照資料1(印刷雑誌 第93巻第5号,2010年5月15日 印刷学会出版部発行,第39?43頁)参照。)ことから、刊行物2には、タッチパネルの額縁領域にスクリーン印刷法で形成したパターンに対してレーザー加工を行い、微細部のパターンニングを行って、取出配線の細線化に関する50μm・50μmとのライン・スペースの要求に対処するということが記載されているに等しいといえる。
したがって、特許権者の上記(ア)の主張は妥当な主張とはいえず、採用できない。

(キ) 刊行物3に具体的に記載されている導体ペーストにはガラスフリットが含有されているとしても、スクリーン印刷した後にレーザー加工を行うことで50μm以下のラインを高精度で形成することができ、除去する部分の最小幅、すなわち、スペースは照射レーザ光のスポット径に対応するという刊行物3に記載の技術事項(上記(2-3-3)ハ.?ホ.)が、引用発明のペーストや刊行物2に記載の金属材料と樹脂材料からなる導電性ペーストに対しては適用し得ないと認定し得る合理的根拠は見当たらない。
したがって、特許権者の上記(イ)の主張も採用できない。

(ク) 上記(2-4-2)オ.に示したように、特許異議申立人が提出した参考資料1は、本件特許の出願の優先日前においては、タッチパネルの電極配線の微細化の要求は、2009年(平成21年)に100μm・100μmであったライン・スペースの要求が、2010年(平成22年)には、50μm・50μmになってきていたという状況であったことを客観的に裏付ける資料であるし、また、上記(2-4-2)カ.に示したように、スクリーン印刷法で形成した導体パターンのレーザー加工を行うに際しては、スポット径が20μm以下のレーザ光を使用できるため、配線間の間隔、すなわち、スペースの幅を20μmにまで高精細にできることは周知の技術的事項であることからして、スクリーン印刷した後にレーザー加工を行うことで、50μm以下のラインを高精度で形成することができ、除去する部分の最小幅、すなわち、スペースは照射レーザ光のスポット径に対応するという刊行物3記載の技術事項(上記(2-3-3)ハ.?ホ.)からは、スクリーン印刷した後にレーザー加工を行うことで、50μm以下のラインを配線間のスペースの幅を20μmにまで高精度で形成できることが合理的に導出できる。
したがって、特許権者の上記(ウ)の主張も採用できない。


(2-4-4) 小括
以上のとおり、本件発明1は、引用発明1、刊行物2?3記載の発明、技術常識、及び、周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


(2-5) 本件発明2と引用発明1との対比・判断
(2-5-1) 本件発明2と引用発明1との対比
本件発明2と引用発明1とを対比すると、上記(2-4-1)と同様の検討から、上記相違点1?2以外に、以下の点でも相違し、その余の点で一致しているといえる。

相違点3: 導電性ペーストが、本件特許発明1では、レーザー光吸収剤(D)を含有するのに対し、引用発明1ではレーザー光吸収剤を含有するとの特定はされていない点。

(2-5-2) 判断
上記相違点1?2については上記(2-4-2)ア.?ケ.で検討したとおりであるから、上記相違点3につき検討するに、引用発明1の銀ペーストは、バインダー樹脂と銀粉と有機溶剤の他に、カーボンブラックとグラファイトとを含有するところ、上記(2-3-3)マ.に示されるように、カーボンが導体ペーストのレーザ光吸収性を高めることとなるから、引用発明1の銀ペーストを、上記(2-4-2)ウ.?ケ.で検討したように、「レーザーエッチング加工用」とすると、カーボンである、カーボンブラックとグラファイトがその銀ペーストのレーザ光吸収性を高める、すなわち、カーボンブラックとグラファイトがレーザー光吸収剤となるため、上記相違点3に係る構成を備えることとなる。

(2-5-3) 小括
以上のとおり、本件発明2は、本件発明1と同様に、引用発明1、刊行物2?3記載の発明、技術常識、及び、周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


(2-6) 本件発明3と引用発明2との対比・判断
本件発明3と、上記(2-3-1)サ.に示した、引用発明2とを対比すると、上記(2-5-1)と同様の検討により、上記相違点1?3で相違し、その余の点で一致していると認められる。
そして、上記(2-5-2)での検討と同様にして、本件発明3は、本件発明2と同様に、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。


(2-7) 本件発明4?5と引用発明3との対比・判断
本件発明4?5と引用発明3とを対比するに、引用発明3は、上記(2-3-1)コ.?サ.に示したとおり、引用発明1の銀ペーストを用いてなる導電性薄膜を透明導電性層上に積層した導電性積層体に係る発明であるところ、引用発明1は、透明導電性層等を有するタッチパネルの基材に導電性薄膜を形成させるための銀ペーストであるから、引用発明3はタッチパネルの基材の透明導電性層上に導電性薄膜を積層した導電性積層体に係る発明であり、本件発明4が備える「導電性薄膜と基材とが積層されている導電性積層体」との発明特定事項を備え、さらに、本件発明5が備える「前記基材が透明導電性層を有する」との発明特定事項も備えているものであるため、上記(2-6)と同様の検討により、上記相違点1?3で相違し、その余の点で一致していると認められる。
そして、上記(2-6)での検討と同様にして、本件発明4?5は、本件発明3と同様に、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。


(2-8) 本件発明6と引用発明3との対比・判断
(2-8-1) 本件発明6と引用発明3との対比
本件発明6と引用発明3とを対比するに、上記(2-7)と同様の検討により、上記相違点1?3以外に、以下の点でも相違し、その余の点で一致していると認められる。

相違点4:本件発明6は「導電性積層体を用いてなる電気回路」であるのに対し、引用発明3は「導電性積層体」であるものの、その「導電性積層体を用いてなる電気回路」であるのか否かが明らかでない点。

(2-8-2) 判断
サ. 上記相違点1?3については、上記(2-7)での検討と同様であるから、上記相違点4につき検討するに、引用発明3は、上記(2-3-1)サ.に示したとおり、引用発明1の銀ペーストを用いてなる導電性薄膜を透明導電性層上に積層した導電性積層体に係る発明であり、上記(2-4-2)ウ.?ケ.の検討のとおり、引用発明1の銀ペーストに上記相違点2に係る発明特定事項を備えさせることは当業者が容易になし得るものであるところ、引用発明1の銀ペーストが上記相違点2に係る発明特定事項を備えると、引用発明1の銀ペーストを用いてなる導電性薄膜は、当然に、導体パターンのレーザー加工を行って形成されたタッチパネルの電極配線となる。

シ. そうすると、引用発明1の銀ペーストが上記相違点2に係る発明特定事項を備えることにより、引用発明3は、導体パターンのレーザー加工を行って形成されたタッチパネルの電極配線を備えることとなる。

ス. ここで、電気回路とは電流の流れる通路を意味するとの技術常識を考慮すると、上記シ.に示した、引用発明3における、タッチパネルの電極配線は、本件発明6における「電気回路」に相当するといえる。

セ. してみると、引用発明1の銀ペーストが上記相違点2に係る発明特定事項を備えることにより、引用発明3は、上記相違点4に係る発明特定事項を備えることとなる。

(2-8-3) 小括
以上のとおり、本件発明6は、本件発明3?5と同様に、当業者が容易に発明をすることができたものである。


(2-9) 本件発明7と引用発明3との対比・判断
(2-9-1) 本件発明7と引用発明3との対比
本件発明7と引用発明3とを対比するに、上記(2-6)と同様の検討により、上記相違点1?3以外に、以下の点でも相違し、その余の点で一致していると認められる。

相違点5:本件発明7は「導電性薄膜の一部に、炭酸ガスレーザー、YAGレーザー、ファイバーレーザーおよび半導体レーザーから選ばれるレーザー光を照射して、前記導電性薄膜の一部を除去することによって形成された配線部位を有する電気回路」であるのに対し、引用発明3は「導電性薄膜」を有するものの、前記のような「電気回路」であるのか否かが明らかでない点。

(2-9-2) 判断
タ. 上記相違点1?3については、上記(2-6)での検討と同様であるから、上記相違点5につき検討するに、上記(2-8-2)サ.?シ.の検討と同様にして、引用発明1の銀ペーストが上記相違点2に係る発明特定事項を備えることにより、引用発明3は、導体パターンのレーザー加工を行って形成されたタッチパネルの電極配線を備えることとなる。

チ. ここで、上記タ.に示した、「導体パターンのレーザー加工を行って形成されたタッチパネルの電極配線を備えること」のうちの、「導体パターン」、「タッチパネルの電極配線」は、それぞれ、本件発明7における、「導電性薄膜」、「配線部位を有する電気回路」に相当し、また、「導体パターンのレーザー加工を行って形成されたタッチパネルの電極配線」は、技術常識からして、本件発明7における、「導電性薄膜の一部に、炭酸ガスレーザー、YAGレーザー、ファイバーレーザーおよび半導体レーザーから選ばれるレーザー光を照射して、前記導電性薄膜の一部を除去することによって形成された配線部位を有する電気回路」に相当することは明らかである。

ツ. してみると、引用発明1の銀ペーストが上記相違点2に係る発明特定事項を備えることにより、引用発明3は、上記相違点5に係る発明特定事項を備えることとなる。

(2-9-3) 小括
以上のとおり、本件発明7は、本件発明3と同様に、当業者が容易に発明をすることができたものである。


(2-10) 本件発明8と引用発明3との対比・判断
本件発明8と引用発明3とを対比するに、上記(2-9-1)と同様の検討により、上記相違点1?3、5の点で相違し、その余の点で一致していると認められる。
そして、上記相違点1?3、5については、上記(2-9-2)で検討したとおりである。
してみると、本件発明8は、本件発明7と同様に、当業者が容易に発明をすることができたものである。


(2-11) 本件発明9と引用発明4との対比・判断
本件発明9と、上記(2-3-1)サ.に示した、引用発明4とを対比するに、上記(2-8-1)あるいは上記(2-10)と同様の検討により、上記相違点1?5の点で相違し、その余の点で一致していると認められる。
そして、上記相違点1?5については、上記(2-8-2)あるいは上記(2-10)で検討したとおりである。
してみると、本件発明9は、本件発明6あるいは本件発明8と同様に、当業者が容易に発明をすることができたものである。


第6 むすび
以上のとおり、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?9の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、特許法第113条第4項に該当するから、本件特許は取り消されるべきものである。
また、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?9の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たすようになっていたと仮定しても、本件特許の請求項1?9に係る発明は、引用発明、刊行物2?3記載の発明、技術常識、及び、周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、特許法第113条第2項に該当し、本件特許は取り消されるべきものである。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-08-14 
出願番号 特願2013-532388(P2013-532388)
審決分類 P 1 651・ 537- ZB (H01B)
P 1 651・ 841- ZB (H01B)
P 1 651・ 85- ZB (H01B)
P 1 651・ 121- ZB (H01B)
最終処分 取消  
前審関与審査官 藤原 敬士  
特許庁審判長 板谷 一弘
特許庁審判官 小川 進
宮澤 尚之
登録日 2015-07-10 
登録番号 特許第5773292号(P5773292)
権利者 東洋紡株式会社
発明の名称 レーザーエッチング加工用導電性ペースト、導電性薄膜および導電性積層体  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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