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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B66B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B66B
管理番号 1333263
異議申立番号 異議2017-700500  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-11-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-05-23 
確定日 2017-10-10 
異議申立件数
事件の表示 特許第6029766号発明「エスカレータ手摺の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6029766号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第6029766号の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、2014年9月19日(優先権主張2013年9月26日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成28年10月28日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人所智恵子により特許異議の申立てがされたものである。

2.本件発明
特許第6029766号の請求項1ないし3の特許に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明3」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものである。

3.申立理由の概要
特許異議申立人は、証拠として甲第1号証ないし甲第12号証を提出し、以下の申立理由を主張している。

(1)特許法第29条第1項第3号
本件特許発明1ないし3は、甲第1号証に記載された発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号に掲げる発明に該当し、特許を受けることができないものであり、請求項1ないし3に係る特許は、取り消すべきものである。

(2)特許法第29条第2項
ア 本件特許発明1は、甲第1号証及び甲第2号証、甲第1号証及び甲第3号証、甲第1号証及び甲第4号証、甲第1号証及び甲第5号証、又は甲第1号証ないし甲第11号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであり、請求項1に係る特許は、取り消すべきものである。

イ 本件特許発明2及び3は、甲第1号証及び甲第6号証、又は甲第1号証ないし甲第11号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであり、請求項2及び3に係る特許は、取り消すべきものである。

〔証拠方法〕

甲第1号証:特表2010-538932号公報
甲第2号証:特表2010-538933号公報
甲第3号証:国際公開第03/025278号
甲第4号証:特表2007-514873号公報
甲第5号証:特開昭51-10585号公報
甲第6号証:米国特許出願公開第2007/0125301号明細書
甲第7号証:実願昭57-197715号(実開昭59-102324号)のマイクロフィルム
甲第8号証:特開2012-11718号公報
甲第9号証:米国特許第5,096,645号明細書
甲第10号証:米国特許第3,616,496号明細書
甲第11号証:特開2005-193494号公報
甲第12号証:ESTANE(R)58277カタログ(当審注:Rを○で囲った記号は「(R)」と表記した。)

4.甲1発明
甲第1号証(特に、段落【0001】、【0005】、【0028】、【0041】、【0045】、【0056】、【0057】、【0059】ないし【0062】、【0081】、【0083】、【0092】、【0093】、【0108】、【0127】及び【0130】並びに図1、2a、3、4、7、8a、9、11、12及び14)には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。

「ケーブル50及び熱可塑性材料を含む複合押出物58を備えたエスカレータのハンドレールの製造方法であって、
ストランド芯線とストランド芯線を囲むように複数の外側ストランドを配置して、ケーブル50を生成するケーブル50生成工程と、
ケーブル50を予備加熱する予備加熱工程と、
予備加熱工程にて予備加熱されたケーブル50と溶融した熱可塑性材料を一体化し、ダイ組立体22から押し出して複合押出物58を形成する複合押出物58形成工程と、
複合押出物58形成工程にて形成された複合押出物58を冷却する冷却工程と、を含むエスカレータのハンドレールの製造方法。」

5.判断
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、後者の「ケーブル50」は前者の「金属鋼線」に相当し、以下同様に、「熱可塑性材料」は「熱可塑性樹脂」に、「複合押出物58」は「複合材料」に、「エスカレータのハンドレール」は「エスカレータ手摺」に、「ストランド芯線」は「中心素線」に、「外側ストランド」は「ストランド」に、「予備加熱」は「加温」に、「予備加熱工程」は「プリヒート工程」に、「ダイ組立体22」は「ダイス」に、「複合押出物58形成工程」は「複合材料形成工程」に、「冷却」は「強制冷却」にそれぞれ相当する。

したがって、両者は、
「金属鋼線及び熱可塑性樹脂を含む複合材料を備えたエスカレータ手摺の製造方法であって、
中心素線と中心素線を囲むように複数のストランドを配置して、金属鋼線を生成する金属鋼線生成工程と、
金属鋼線を加温するプリヒート工程と、
プリヒート工程にて加温された金属鋼線と溶融した熱可塑性樹脂を一体化し、ダイスから押し出して複合材料を形成する複合材料形成工程と、
複合材料形成工程にて形成された複合材料を強制冷却する冷却工程と、を含むエスカレータ手摺の製造方法。」
で一致し、次の点で相違する。

〔相違点1〕

本件特許発明1は、「中心素線とストランドとの距離が同一となるように、中心素線及びストランドの延伸方向に張力をかけて」金属鋼線を生成し、金属鋼線を「溶融した熱可塑性樹脂の温度以上に」加温するのに対し、
甲1発明は、ストランド芯線とストランド芯線を囲むように複数の外側ストランドを配置して、ケーブル50を生成し、ケーブル50を予備加熱するものであるが、ストランド芯線と外側ストランドとの距離が同一となるように、ストランド芯線及び外側ストランドの延伸方向に張力をかけて、ケーブル50を生成し、ケーブル50を溶融した熱可塑性材料の温度以上に加温するか否か不明である点(以下、「相違点1」という。)。

〔相違点2〕

本件特許発明1は、「エスカレータ手摺の断面形状に加工された」ダイスから押し出して複合材料を形成するのに対し、
甲1発明は、ダイ組立体22から押し出して複合押出物58を形成するものであるが、ダイ組立体22がエスカレータのハンドレールの断面形状に加工されていない点(以下、「相違点2」という。)。

イ 判断
本件特許発明1と甲1発明とは、相違点1及び相違点2で実質的に相違するから、同一ではない。

次に、相違点について検討する。

(ア)相違点1について
甲第1号証(段落【0061】)には、ケーブル50を約300°F(約149°C)に予備加熱する点が記載されている。しかしながら、甲第1号証には、ケーブル50を、ケーブル50と一体化する溶融した熱可塑性材料の温度以上に予備加熱することは記載も示唆もされていない。
異議申立人は、甲第1号証(段落【0083】)には、熱可塑性材料としてハンドレールの外側である外層127に、ルーブリゾール(Lubrizol)社のESTANE(登録商標)58277を使用する点が記載されており、甲第12号証に基いて、ESTANE(登録商標)58277は融点が130°Cである旨主張している。しかしながら、甲第1号証に記載されたハンドレールの外層127の熱可塑性材料は、ケーブル50と一体化する熱可塑性材料とは異なるものであり、ケーブル50と一体化するのは、ハンドレールの内層128の熱可塑性材料であるから、かかる主張は採用できない。
また、甲第1号証(段落【0061】)には、予備加熱の温度を接着剤の良好な接着を促進するような温度とすることが記載されている。しかしながら、甲第1号証には、接着剤の良好な接着を促進するような温度と溶融した熱可塑性材料の温度との関係については記載されていない。してみると、当業者であっても、ケーブル50を溶融した熱可塑性材料の温度以上に加温することは、容易に想到できたとはいえない。

甲第2号証及び甲第3号証並びに甲第5号証ないし甲第11号証には、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項は記載も示唆もされていない。

また、甲第4号証(特に、段落【0005】、【0007】、【0016】、【0018】、【0025】ないし【0032】及び【0053】並びに図1、2a及び8を参照。)には、「トラクション・エレメントの製造方法において、コア・ストランド124(中心素線)は熱可塑性プラスチック材料層126で覆われ、ストランド・コード128(ストランド)を撚って、ストランデッド・ケーブル16(金属鋼線)を生成し、ストランデッド・ケーブル16(金属鋼線)を液化(溶融)したプラスチック材料(熱可塑性樹脂)の溶融温度の約±20℃の温度まで予備加熱(加温)する技術。」(括弧内に本件特許発明1において対応する用語を示す。以下、「甲4技術」という。)が記載されている。
ここで、本件特許発明1は、金属鋼線の中心素線とストランドの間に溶融した熱可塑性樹脂を充填するために、「中心素線とストランドとの距離が同一となるように、中心素線及びストランドの延伸方向に張力をかけ」ることを発明特定事項とし、更に、「金属鋼線を溶融した熱可塑性樹脂の温度以上に加温する」という発明特定事項をも採用している。
しかしながら、甲第4号証には、「中心素線とストランドとの距離が同一となるように、中心素線及びストランドの延伸方向に張力をかけ」ることは記載されていない。しかも、ストランデッド・ケーブル16を予備加熱する温度は、プラスチック材料の溶融温度の約±20℃の温度であって、「溶融したプラスチック材料の温度以上」に相当するとはいえない。
また、甲4技術が、「コア・ストランド124は熱可塑性プラスチック材料層126で覆われ、ストランド・コード128を撚って、ストランデッド・ケーブル16を生成」するものであることを参酌すると、甲4技術において、更に、金属鋼線の中心素線とストランドの間に溶融した熱可塑性樹脂を充填するために、「中心素線とストランドとの距離が同一となるように、中心素線及びストランドの延伸方向に張力をかけ」る必要がないことは明らかである。
したがって、甲第4号証には、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項が記載も示唆もされておらず、また、甲1発明及び甲4技術に基いて、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を、当業者が容易に想到できたとはいえない。

したがって、本件特許発明1は、上記相違点2について検討するまでもなく、甲第1号証ないし甲第11号証に基いて、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

(イ)まとめ
以上のとおり、本件特許発明1は、甲1発明とは同一でなく、又は甲第1号証ないし甲第11号証に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件特許発明2及び3について
本件特許発明2及び3は、本件特許発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、本件特許発明1についての判断と同様の理由により、本件特許発明2及び3は、甲1発明とは同一でなく、又は甲第1号証ないし甲第11号証に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

6.むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-09-28 
出願番号 特願2015-539158(P2015-539158)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (B66B)
P 1 651・ 121- Y (B66B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 大谷 光司  
特許庁審判長 冨岡 和人
特許庁審判官 西山 智宏
槙原 進
登録日 2016-10-28 
登録番号 特許第6029766号(P6029766)
権利者 三菱電機株式会社
発明の名称 エスカレータ手摺の製造方法  
代理人 村上 啓吾  
代理人 竹中 岑生  
代理人 吉澤 憲治  
代理人 大岩 増雄  

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