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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 F02B 審判 全部申し立て 特17条の2、3項新規事項追加の補正 F02B 審判 全部申し立て 2項進歩性 F02B |
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管理番号 | 1333271 |
異議申立番号 | 異議2017-700288 |
総通号数 | 215 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-11-24 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-03-21 |
確定日 | 2017-10-18 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第5995989号発明「ウエストゲートバルブおよびウエストゲートバルブを備えた排気ターボチャージャ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5995989号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許第5995989号「ウエストゲートバルブおよびウエストゲートバルブを備えた排気ターボチャージャ」の請求項1ないし7に係る特許(以下、「本件特許1」ないし「本件特許7」という。)についての出願は、平成23年12月27日に特許出願され、平成28年9月2日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人トヨタ自動車株式会社(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審において、平成29年5月23日に審尋を行い、平成29年7月21日に回答書が提出されたものである。 2.本件発明 特許第5995989号の請求項1ないし7に係る特許に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明7」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 タービンハウジングの排ガス通路の入口側から排ガスの一部を抜き取り排ガス出口通路に送る排ガスバイパス通路を開閉する弁体と、該弁体に立設した弁軸と、該弁軸が遊嵌挿入される挿入穴を一端側に有し他端側に回動力が与えられる操作レバーと、前記挿入穴を貫通した弁軸の弁体側の端部とは反対の端部に設けられた支持プレートと、前記弁体の振動を抑制するように前記支持プレートと前記操作レバーとの間の軸方向に介在されるダンパー部材と、を備え、 前記ダンパー部材は、 最も大径となる一つの大径部、 前記操作レバー側と接触する第1接触部を形成する、前記大径部よりも小径の第1小径部、 及び前記支持プレート側と接触する第2接触部を形成する、前記大径部よりも小径の第2小径部、 を前記支持プレートと前記操作レバーとの間の軸方向の空間内に有し、 前記ダンパー部材は、前記第1小径部および前記第2小径部の各々から前記最も大径となる一つの大径部に向かって、前記ダンパー部材の径が次第に拡大するように構成され、 前記ダンパー部材は、前記大径部と前記第1小径部を有する皿ばねと、前記大径部と前記第2小径部とを有する皿ばねとの、2つの皿ばねを弁軸の軸方向に、前記大径部を互いに結合した2段重ねからなり、 さらに、前記第1小径部の前記第1接触部および前記第2小径部の前記第2接触部は、略同一径の接触径を有し、前記第1接触部は前記操作レバーの前記挿入穴の開口縁部に位置されることを特徴とするウエストゲートバルブ。 【請求項2】 前記大径部と前記第1小径部と前記第2小径部とを軸方向に有する前記ダンパー部材が一体構造であることを特徴とする請求項1記載のウエストゲートバルブ。 【請求項3】 前記一体構造は前記支持プレートと前記第2接触部との間に介在されるワッシャーを含めて一体とされることを特徴とする請求項2に記載のウエストゲートバルブ。 【請求項4】 前記2つの皿ばねの各々は、前記大径部の外周部に形成されたフランジ部を有し、前記2つの皿ばねの前記フランジ部が互いに結合されることを特徴とする請求項1に記載のウエストゲートバルブ。 【請求項5】 タービンハウジングの排ガス通路の入口側から排ガスの一部を抜き取り排ガス出口通路に送る排ガスバイパス通路を開閉する弁体と、該弁体に立設した弁軸と、該弁軸が遊嵌挿入される挿入穴を一端側に有し他端側に回動力が与えられる操作レバーと、前記弁体の振動を抑制するように前記弁軸と前記操作レバーとの間に径方向に介在されるダンパー部材と、を備え、前記ダンパー部材は、前記挿入穴の内周面と前記弁軸との間に取り付けられ拡径方向に付勢力が付与された弾性リング部材によって構成されるとともに、前記弾性リング部材の外周面と前記挿入孔の内周面とが接触し、前記弾性リング部材の内周面と前記弁軸の外周面とが接触するように構成され、 さらに、前記弾性リング部材は、前記挿入穴の長さの略中央部に配設されて、前記弁軸が前記挿入穴内で搖動可能に構成されることを特徴とするウエストゲートバルブ。 【請求項6】 前記弁体が中空形状からなることを特徴とする請求項1?5のいずれか一項に記載のウエストゲートバルブ。 【請求項7】 前記請求項1?6のいずれか一項に記載のウエストゲートバルブを備えたことを特徴とする排気ターボチャージャ。」 3.申立理由の概要 (1)異議申立人は、平成28年6月3日付け手続補正書により請求項1に「前記第1接触部は前記操作レバーの前記挿入穴の開口縁部に位置される」という事項を追加した補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲を超えてされたものであり、本件特許1ないし7は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第1号の規定により、本件特許1ないし7を取り消すべきものである旨主張している。 (2)異議申立人は、本件の請求項1に記載された「開口縁部」との用語は複数の意味に解釈でき、明確でないから、本件の請求項1、2ないし4、6及び7に係る発明は明確でなく、本件特許1、2ないし4、6及び7は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号の規定により、本件特許1、2ないし4、6及び7を取り消すべきものである旨主張している。 (3)異議申立人は、証拠として、甲第1号証ないし甲第15号証を提出し、本件特許1ないし7は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第113条第2号の規定により、本件特許1ないし7を取り消すべきものである旨主張している。 <証拠方法> 甲第1号証:国際公開2010-135104号公報 甲第2号証:特表2012-527575号公報 甲第3号証:実願昭59-117814号(実開昭61-33923号)のマイクロフィルム 甲第4号証:特開2003-322220号公報 甲第5号証:特開2002-54773号公報 甲第6号証:「ばね使用と設計のポイント」(小玉正雄ほか、1977年10月26日発行、財団法人日本規格協会) 甲第7号証:特開2001-140980号公報 甲第8号証:特開2006-105260号公報 甲第9号証:特開2011-242242号公報 甲第10号証:特開2004-60842号公報 甲第11号証:特開2005-14815号公報 甲第12号証:特開昭59-13149号公報 甲第13号証:仏国特許発明第928052号明細書 甲第14号証:特開2005-226591号公報 甲第15号証:特開平4-272430号公報 4.刊行物の記載 (1)甲第1号証には、 「タービンハウジング4のタービン入口側から排ガスの一部を抜き取りタービン出口側に送るバイパス通路を開閉するフラッププレート7’と、フラッププレート7’に立設した弁軸と、弁軸が遊嵌挿入される開口を一端側に有し他端側に回動力が与えられるレバー5と、開口を貫通した弁軸のフラッププレート7’側の端部とは反対の端部に設けられたディスク11と、フラッププレート7’の振動を抑制するようにディスク11とレバー5との間の軸方向に介在されるスプリング要素10と、を備え、 スプリング要素10は、 最も大径となる一つの大径部、 及びディスク11側と接触する接触部を形成する、大径部よりも小径の小径部、 をディスク11とレバー5との間の軸方向の空間内に有し、 スプリング要素10は、小径部から前記最も大径となる一つの大径部に向かって、前記スプリング要素10の径が次第に拡大するように構成され、 スプリング要素10は、大径部と小径部を有する皿ばねからなる、 ウェイストゲート装置。」 という発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。 (2)甲第3号証には、第2図に関して、 「弁部材34a、34bと、 弁部材34a、34bの端部に設けられた突軸36a、36bと、 突軸36a、36bをそれぞれ半径方向に十分な遊隙を存して端部に支持すると共に、弁ケーシング24に枢支された支持軸40a、40bに固着された揺動腕38a、38bと、 突軸36a、36bの弁部材34a、34bとは反対側の端部に設けられた固定ナット35a、35bと、 揺動腕38a、38b背面と固定ナット35a、35b(ワッシャ37a、37b)との間に設けられたコイルバネ45’a、45’bと、を備え、 コイルバネ45’a、45’bは円筒状のコイルであり、 コイルバネ45’a、45’bの揺動腕38a、38b側の接触部は、突軸36a、36bが貫通する揺動腕38a、38bの貫通穴の開口縁部に位置される、弁組立体。」 という発明(以下、「甲3発明1」という。)、及び、第1図に関して、 「弁部材34a、34bと、 弁部材34a、34bの端部に設けられた突軸36a、36bと、 突軸36a、36bをそれぞれ半径方向に十分な遊隙を存して端部に支持すると共に、弁ケーシング24に枢支された支持軸40a、40bに固着された揺動腕38a、38bと、 突軸36a、36bの弁部材34a、34bとは反対側の端部に設けられた固定ナット35a、35bと、 揺動腕38a、38b背面と固定ナット35a、35b(ワッシャ37a、37b)との間に設けられた皿バネ45a、45bと、を備え、 皿バネ45a、45bは、小径部が揺動腕38a、38b側と接触し且つ大径部が固定ナット35a、35b側と接触し且つ小径部が揺動腕38a、38bの貫通穴の開口縁部に位置されるように配置される、弁組立体。」 という発明(以下、「甲3発明2」という。)が記載されている。 (3)甲第4号証には、 「圧縮コイルバネの代わりに、『2つの皿バネを弁軸の軸方向に大径部を互いに結合した2段重ねからなる』構成を有するものを用いること。」及び 「2段重ねの皿ばねを複数段重ねるのではなく、2段重ねの皿ばねを1段のみにすること。」が記載されている。 (4)甲第5号証には、「圧縮コイルバネの代わりに、『2つの皿バネを弁軸の軸方向に大径部を互いに結合した2段重ねからなる』のような構成を有するものを用いること。」が記載されている。 (5)甲第6号証には、 「圧縮コイルバネの代わりに、『2つの皿バネを弁軸の軸方向に大径部を互いに結合した2段重ねからなる』のような構成を有するものを用いること。」、 「弾性部材として皿ばねを用いている場合に、複数の皿ばねを直列に重ねて配置すること。」及び 「複数の皿ばねを直列に重ねて配置するのに、同一の皿ばねを互いに逆向きに大径部同士が当接するように重ねること。」が記載されている。 (6)甲第7号証には、 「弾性部材として皿ばねを用いている場合に、複数の皿ばねを直列に重ねて配置すること。」及び 「複数の皿ばねを直列に重ねて配置するのに、同一の皿ばねを互いに逆向きに大径部同士が当接するように重ねること。」が記載されている。 (7)甲第8号証には、 「2段重ねの皿ばねを複数段重ねるのではなく、2段重ねの皿ばねを1段のみにすること。」、 「弾性部材として皿ばねを用いている場合に、複数の皿ばねを直列に重ねて配置すること。」及び 「複数の皿ばねを直列に重ねて配置するのに、同一の皿ばねを互いに逆向きに大径部同士が当接するように重ねること。」が記載されている。 (8)甲第9号証には、 「複数の皿ばねを一体化するにあたって、皿ばねの大径部同士を接触させて皿ばねを一体的に構成すること。」が記載されている。 (9)甲第10号証には、 「複数の皿ばねを一体化するにあたって、皿ばねの大径部同士を接触させて皿ばねを一体的に構成すること。」及び 「皿ばねの外周にフランジ部を設けること。」が記載されている。 (10)甲第11号証には、 「皿ばねとワッシャ(板体)を一体化するにあたって、皿ばねの小径部とワッシャとを結合する構成」、 「皿ばねとワッシャ(板体)を一体化するにあたって、皿ばねの大径部とワッシャとを結合する構成」及び 「皿ばねの外周にフランジ部を設けること」が記載されている。 (11)甲第12号証には、 「皿ばねの外周にフランジ部を設けること」が記載されている。 (12)甲第13号証には、 「開口を開閉する弁6と、 弁6に繋止されて弁6に立設したビス8と、 ビス8が挿入される開口を備えるレバー10と、 ビス8とレバー10に形成された開口の内周面との間に設けられた圧縮可能で変更可能なプラスチック材料製部材33と、を備え、 プラスチック材料製部材33の外周面とレバー10に形成された開口の内面とは互いに接触し、プラスチック材料製部材33の内周面とビス8の外周面とは互いに接触し、 プラスチック材料製部材33は弁6が弁座4に嵌まることができるように弾性的な遊動支持を行う、弁組立体。」 という発明(以下、「甲13発明」という。)が記載されている。 (13)甲第14号証には、 「ウエストゲートバルブの弁体の形状を中空とすること」が記載されている。 (14)甲第15号証には、 「ウエストゲートバルブの弁体の形状を中空とすること」が記載されている。 (15)周知・慣用技術1 甲第4号証、甲第5号証及び甲第6号証からは、「圧縮コイルバネの代わりに、『2つの皿バネを弁軸の軸方向に大径部を互いに結合した2段重ねからなる』のような構成を有するものを用いること」が周知・慣用技術であることが認定される。 (16)周知・慣用技術2 甲第4号証及び甲第8号証からは、「2段重ねの皿ばねを複数段重ねるのではなく、2段重ねの皿ばねを1段のみにすること」が設計的事項であって周知・慣用技術であることが認定される。 (17)周知・慣用技術3 甲第6号証、甲第7号証及び甲第8号証からは、「弾性部材として皿ばねを用いている場合に、複数の皿ばねを直列に重ねて配置すること」が周知・慣用技術であることが認定される。 (18)周知・慣用技術4 甲第6号証、甲第7号証及び甲第8号証からは、「複数の皿ぱねを直列に重ねて配置するのに、同一の皿ばねを互いに逆向きに大径部同士が当接するように重ねること」が周知・慣用技術であることが認定される。 (19)周知・慣用技術5 甲第9号証及び甲第10号証からは、「複数の皿ばねを一体化するにあたって、皿ばねの大径部同士を接触させて皿ばねを一体的に構成すること」が周知・慣用技術であることが認定される。 (20)周知技術6 甲第11号証からは、「皿ばねとワッシャ(板体)を一体化するにあたって、皿ばねの小径部とワッシャとを結合する構成」が周知技術であることが認定される。 (21)周知技術7 甲第11号証からは、「皿ばねとワッシャ(板体)を一体化するにあたって、皿ばねの大径部とワッシャとを結合する構成」が周知技術であることが認定される。 (22)周知・慣用技術8 甲第10号証、甲第11号証及び甲第12号証からは、「皿ばねの外周にフランジ部を設けること」が周知・慣用技術であることが認定される。 (23)周知・慣用技術9 甲第14号証及び甲第15号証からは、「ウエストゲートバルブの弁体の形状を中空とすること」が周知・慣用技術であることが認定される。 5.判断 (1)特許法第17条の2第3項について 本件特許出願の願書に最初に添付された図面の図3の記載から、第1接触部35が挿入穴29の開口縁部に位置されていることが看取できる。 したがって、平成28年6月3日付け手続補正書により「前記第1接触部は前記操作レバーの前記挿入穴の開口縁部に位置される」という事項を追加した補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるから、本件特許1ないし7は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものではない。 (2)特許法第36条第6項第2号について 「挿入穴の開口縁部」とは、挿入穴の開口縁のごく近傍の領域であって、明細書の段落【0037】ないし【0041】に記載された作用効果を奏することができる領域と解されるから、「挿入穴の開口縁部」という記載が不明確とはいえない。 (3)特許法第29条第2項について (3)-1 本件発明1について ア 対比・判断 (ア)対比 本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「タービンハウジング4」は、その技術的意義からみて、本件発明1における「タービンハウジング」に相当し、以下同様に、「タービン入口側」は「排ガス通路の入口側」に、「タービン出口側」は「排ガス出口通路」に、「バイパス通路」は「排ガスバイパス通路」に、「フラッププレート7’」は「弁体」に、「開口」は「挿入穴」に、「レバー5」は「操作レバー」に、「ディスク11」は「支持プレート」に、「スプリング要素10」は「ダンパー部材」に、「ウェイストゲート装置」は「ウエストゲートバルブ」に、それぞれ、相当する。 したがって、両者は、 「タービンハウジングの排ガス通路の入口側から排ガスの一部を抜き取り排ガス出口通路に送る排ガスバイパス通路を開閉する弁体と、該弁体に立設した弁軸と、該弁軸が遊嵌挿入される挿入穴を一端側に有し他端側に回動力が与えられる操作レバーと、前記挿入穴を貫通した弁軸の弁体側の端部とは反対の端部に設けられた支持プレートと、前記弁体の振動を抑制するように前記支持プレートと前記操作レバーとの間の軸方向に介在されるダンパー部材と、を備えるウエストゲートバルブ。」 という点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点> ダンパー部材に関して、本件発明1においては、「ダンパー部材は、最も大径となる一つの大径部、操作レバー側と接触する第1接触部を形成する、大径部よりも小径の第1小径部、及び支持プレート側と接触する第2接触部を形成する、大径部よりも小径の第2小径部、を支持プレートと操作レバーとの間の軸方向の空間内に有し、ダンパー部材は、第1小径部および第2小径部の各々から最も大径となる一つの大径部に向かって、ダンパー部材の径が次第に拡大するように構成され、ダンパー部材は、大径部と第1小径部を有する皿ばねと、大径部と第2小径部とを有する皿ばねとの、2つの皿ばねを弁軸の軸方向に、大径部を互いに結合した2段重ねからなり、さらに、第1小径部の第1接触部および第2小径部の第2接触部は、略同一径の接触径を有し、第1接触部は操作レバーの挿入穴の開口縁部に位置される」のに対し、甲1発明においては、「スプリング要素10は、最も大径となる一つの大径部、及びディスク11側と接触する接触部を形成する、大径部よりも小径の小径部、をディスク11とレバー5との間の軸方向の空間内に有し、スプリング要素10は、小径部から前記最も大径となる一つの大径部に向かって、前記スプリング要素10の径が次第に拡大するように構成され、スプリング要素10は、大径部と小径部を有する皿ばねからなる」点(以下、「相違点1」という。)。 (イ)判断 a 異議申立人が主張する「理由1」及び「理由2」(特許異議申立書の第35ページ第13行ないし第44ページ下から第6行)について 甲第3号証には、上記甲3発明1及び甲3発明2が記載されている。 しかしながら、甲1発明において、甲3発明2を適用すると、甲1の図3の板ばねまたは平面スプリング要素10が上下逆に配置されることになる。 また、甲1発明において、甲3発明1を適用すると、甲1の図3の板ばね10がコイルバネに置換されたものになる。 どちらにしても、甲第3号証には、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項は記載も示唆もされていないから、本件発明1には至らない。 よって、本件発明1は、甲1発明において、甲3発明1又は甲3発明2を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 異議申立人は、甲1発明において、甲3発明1(又は甲3発明2)を適用したものに、さらに、周知・慣用技術1を適用する旨を主張している。 しかしながら、異議申立人が周知・慣用技術1と主張する、二段重ねの板ばねは、ネジの上下動によって圧縮・伸長するものであって、本件発明1のように操作レバー15の円弧運動によって圧縮・伸長するものではないから、本件発明1のように「弁座へ均一にかつ確実に着座できるようになり弁体のシール性が向上する」(本件明細書の段落【0013】)ことを意図するものではない。 したがって、甲1発明において、甲3発明1又は甲3発明2を適用したものに、さらに周知・慣用技術1を適用する動機がない。 また、甲1発明において、甲3発明1又は甲3発明2を適用することによりばねを置換したものに対し、さらに周知・慣用技術1を適用することによりばねを置換するということは、いわゆる「容易の容易」に相当し、当業者が容易に想到できたものとはいえない。 よって、本件発明1は、甲1発明において、甲3発明1又は甲3発明2、及び周知・慣用技術1から当業者が容易に発明をすることができたものではない。 b 異議申立人が主張する「理由3」(特許異議申立書の第44ページ下から第5行ないし第46ページ第10行)について 異議申立人が主張する「理由3」についても、甲1の皿ばねまたはスプリング要素10に、甲3発明2(第1図)の皿ばねをさらに配置するという発想には無理があり、動機もないことから、当業者が容易に想到できたものとはいえない。 よって、本件発明1は、甲1発明において、甲3発明2を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)-2 本件発明5について ア 対比・判断 (ア)対比 本件発明5と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「タービンハウジング4」は、その技術的意義からみて、本件発明5における「タービンハウジング」に相当し、以下同様に、「タービン入口側」は「排ガス通路の入口側」に、「タービン出口側」は「排ガス出口通路」に、「バイパス通路」は「排ガスバイパス通路」に、「フラッププレート7’」は「弁体」に、「開口」は「挿入穴」に、「レバー5」は「操作レバー」に、「スプリング要素10」は「ダンパー部材」に、「ウェイストゲート装置」は「ウエストゲートバルブ」に、それぞれ、相当する。 したがって、両者は、 「タービンハウジングの排ガス通路の入口側から排ガスの一部を抜き取り排ガス出口通路に送る排ガスバイパス通路を開閉する弁体と、弁体に立設した弁軸と、弁軸が遊嵌挿入される挿入穴を一端側に有し他端側に回動力が与えられる操作レバーと、弁体の振動を抑制するダンパー部材と、を備えるウエストゲートバルブ。」 という点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点> ダンパー部材に関して、本件発明5においては、弁体の振動を抑制するように「弁軸と操作レバーとの間に径方向に介在され」、「ダンパー部材は、挿入穴の内周面と弁軸との間に取り付けられ拡径方向に付勢力が付与された弾性リング部材によって構成されるとともに、弾性リング部材の外周面と挿入孔の内周面とが接触し、弾性リング部材の内周面と弁軸の外周面とが接触するように構成され、さらに、弾性リング部材は、挿入穴の長さの略中央部に配設されて、弁軸が前記挿入穴内で搖動可能に構成される」のに対し、甲1発明においては、「ディスク11とレバー5との間の軸方向に介在されるスプリング要素10」を備え、「スプリング要素10は、最も大径となる一つの大径部、及びディスク11側と接触する接触部を形成する、大径部よりも小径の小径部、をディスク11とレバー5との間の軸方向の空間内に有し、スプリング要素10は、小径部から前記最も大径となる一つの大径部に向かって、前記スプリング要素10の径が次第に拡大するように構成され、スプリング要素10は、大径部と小径部を有する皿ばねからなる」点(以下、「相違点2」という。)。 (イ)判断 甲第13号証には、「開口を開閉する弁6と、弁6に繋止されて弁6に立設したビス8と、ビス8が挿入される開口を備えるレバー10と、ビス8とレバー10に形成された開口の内周面との間に設けられた圧縮可能で変更可能なプラスチック材料製部材33と、を備え、プラスチック材料製部材33の外周面とレバー10に形成された開口の内面とは互いに接触し、プラスチック材料製部材33の内周面とビス8の外周面とは互いに接触し、プラスチック材料製部材33は弁6が弁座4に嵌まることができるように弾性的な遊動支持を行う、弁組立体。」(上記「甲13発明」)が記載されている。 しかしながら、甲13発明において、プラスチック材料製部材33は、「挿入穴の長さの略中央部に配設され」るものではなく、挿入穴の長さの全長を超えて配設されるものである。 したがって、甲1発明において、甲13発明を適用したとしても、本件発明5には至らない。 また、甲13発明は、排気ターボチャージャのウエストゲートバルブに関するものではないから、甲1発明において、甲13発明を適用するための動機も乏しい。 よって、本件発明5は、甲1発明において、甲13発明を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)-3 本件発明2ないし4について 本件発明2ないし4は、本件発明1をさらに限定するものであるから、本件発明1と実質的に同様の理由により、甲1発明、甲3発明1又は甲3発明2、及び周知・慣用技術1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)-4 本件発明6及び7について 本件発明6及び7は、本件発明1又は本件発明5をさらに限定するものであるから、本件発明1と実質的に同様の理由により、甲1発明、甲3発明1或いは甲3発明2、及び周知・慣用技術1に基づいて、又は本件発明5と実質的に同様の理由により、甲1発明及び甲13発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 6.むすび したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2017-10-06 |
出願番号 | 特願2014-548342(P2014-548342) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(F02B)
P 1 651・ 561- Y (F02B) P 1 651・ 537- Y (F02B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 稲葉 大紀 |
特許庁審判長 |
冨岡 和人 |
特許庁審判官 |
金澤 俊郎 松下 聡 |
登録日 | 2016-09-02 |
登録番号 | 特許第5995989号(P5995989) |
権利者 | 三菱重工業株式会社 |
発明の名称 | ウエストゲートバルブおよびウエストゲートバルブを備えた排気ターボチャージャ |
代理人 | 鶴田 準一 |
代理人 | 伊藤 公一 |
代理人 | 森本 有一 |
代理人 | 誠真IP特許業務法人 |