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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1333723
審判番号 不服2016-8966  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-06-16 
確定日 2017-10-20 
事件の表示 特願2012-280641「反射防止フィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 7月 7日出願公開,特開2014-126570〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
特願2012-280641号(以下,「本件出願」という。)は,平成24年12月25日の特許出願であって,その手続の経緯は,概略,以下のとおりである。
平成27年10月23日付け:拒絶理由通知書
平成27年11月27日差出:意見書,手続補正書
平成28年 3月30日付け:拒絶査定
平成28年 6月16日差出:審判請求書,手続補正書
平成29年 4月21日付け:拒絶理由通知書
平成29年 7月 6日差出:意見書,手続補正書

第2 本願発明について
1 本願発明
本件出願の特許請求の範囲の請求項1?請求項4に係る発明は,平成29年7月6日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?請求項4に記載された事項により特定されるものと認められるところ,その請求項1に係る発明は,次のとおりである(以下「本願発明」という。)。
「屈折率が1.63?1.68である基材フィルム上に,易接着層と,ハードコート層と,屈折率が1.71?1.88で厚みが130?170nmの高屈折率層と,屈折率が1.31?1.39で厚みが90?110nmの低屈折率層とをこの順に備え,
基材フィルムと易接着層との屈折率差の絶対値が0.02未満,基材フィルムとハードコート層との屈折率差の絶対値が0.02未満,および,易接着層とハードコート層との屈折率差の絶対値が0.02未満であり,かつ,視感反射率が0.50%未満であり,
前記易接着層が分子中に縮合多環式芳香族環を含むポリエステル樹脂と,酸化ジルコニウムを易接着層の固形分総量100質量%に対して20質量%以上80質量%以下含有することを特徴とする,反射防止フィルム。」

2 当審の拒絶の理由
平成29年4月21日付け拒絶理由通知書による拒絶の理由は,概略,本件出願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は,本件出願の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開2000-111706号公報(以下「引用例1」という。上記拒絶理由通知書では「引用例2」と表示。)に記載された発明,及び,本件出願の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開2010-72039号公報(以下「引用例2」という。上記拒絶理由通知書では「引用例1」と表示。)に記載された事項,並びに,周知技術に基づいて,本件出願の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

第3 引用例
1 引用例1
(1)引用例1の記載
引用例1には,以下の事項が記載されている。なお,下線は,当合議体が付したものであり,引用発明の認定に活用した箇所を示す(引用例2についても,同様である。)。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 1.55以上の屈折率を有する透明支持体,1.55以上の屈折率を有する下塗り層,1.55以上の屈折率を有するハードコート層および1.55未満の屈折率を有する低屈折率層がこの順に積層されており,透明支持体の屈折率と下塗り層の屈折率との差および透明支持体の屈折率とハードコート層の屈折率との差がいずれも0.1以下である反射防止膜。
・・・(略)・・・
【請求項5】 ハードコート層と低屈折率層との間に,1.70以上の屈折率を有する高屈折率層を有し,高屈折率層の屈折率が透明支持体の屈折率よりも高い請求項1に記載の反射防止膜。」

イ 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,透明支持体,下塗り層,ハードコート層および低屈折率層がこの順に積層されている反射防止膜に関する。
【0002】
【従来の技術】
・・・(略)・・・
【0004】反射防止膜の透明支持体としては,セルロースエステルフイルム,特にトリアセチルセルロース(TAC)フイルムが最も頻繁に用いられている。ただし,支持体表面の平滑性や引き裂き強度の観点では,セルロースエステルフイルムよりも,ポリエステルフイルム,ポリカーボネートフイルム,ポリスチレンフイルムのような合成ポリマーフイルムの方が優れている。透明支持体に耐傷性を付与するため,透明支持体と光学的機能層との間にハードコート層を設けることが普通である。耐傷性を得るため,ハードコート層には,硬い(通常は架橋している)ポリマーをバインダーとして使用する。ただし,透明支持体とハードコート層との接着に問題が生じる場合が多い。その場合は,透明支持体とハードコート層との間に下塗り層を設けて,透明支持体とハードコート層との接着力を強化する対策が普通に採用されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明者が,表面の平滑性と引き裂き強度が優れた合成ポリマーフイルムを透明支持体として使用した反射防止膜を研究したところ,セルロースエステルフイルムを透明支持体とする反射防止膜には存在しない問題を発見した。反射防止膜は,可視領域の様々な波長の光に対して,波長とは無関係にほぼ均一に反射を防止する(反射率を低下させる)ことが望ましい。本発明者の研究により,透明支持体として合成ポリマーフイルムを使用した反射防止膜では,光の波長が変化すると,反射率も大きく変動する問題が発見された。本発明者がさらに研究を進めた結果,この問題は,透明支持体,下塗り層およびハードコート層の屈折率差により生じる干渉縞が原因であることが判明した。セルロースエステルフイルムは屈折率が低く,下塗り層やハードコート層の屈折率との差が小さいため,干渉縞の発生は軽微である。これに対して,合成ポリマーフイルムのような屈折率の高い(1.55以上)透明支持体を使用すると,下塗り層やハードコート層の屈折率との差が大きく,干渉縞が顕著に生じる。このような屈折率の干渉がおきると,反射防止膜の性能の指標となる可視領域全体の平均屈折率が大きく低下する。本発明の目的は,屈折率の高い透明支持体を用いているにもかかわらず,高い反射防止機能を有する反射防止膜を提供することである。また,本発明の目的は,適切な手段により反射が防止されている画像表示装置を提供することでもある。」

ウ 「【0008】
【発明の効果】屈折率が高い(1.70以上の)透明支持体を用いた反射防止膜に生じる問題は,本発明者の研究により,透明支持体と下塗り層およびハードコート層との屈折率差が原因であることが判明した。ハードコート層は,透明支持体に耐傷性を付与するために設けられる。下塗り層は,透明支持体とハードコート層との間の接着力を強化するために設けられる。従来の技術では,これらの層の機械的な機能のみに着目して,屈折率を含む光学的性質については,ほとんど考慮されていなかった。従来のハードコート層と下塗り層は,屈折率が低く(1.70未満であり),透明支持体との屈折率の差が大きい。本発明者は研究を進め,下塗り層とハードコート層の屈折率を高く(1.70以上に)して,透明支持体の屈折率に近づける(差を0.1以下とする)ことに成功した。なお,層の屈折率を高くするためには,主に,バインダーの種類の変更と無機微粒子の添加との二通りの手段がある。本発明の研究によれば,下塗り層には前者の手段が,ハードコート層には後者の手段がそれぞれ適している。以上の結果,本発明の反射防止膜は,屈折率の高い透明支持体を用いているにもかかわらず,高い反射防止機能を有している。この反射防止膜を用いることで,画像表示装置の画像表示面における光の反射を有効に防止することができる。」

エ 「【0010】図1の(b)に示す反射防止膜は,透明支持体(1),下塗り層(2),ハードコート層(3),高屈折率層(5),そして低屈折率層(6)の順序の層構成を有する。透明支持体(1),下塗り層(2),ハードコート層(3),高屈折率層(5)および低屈折率層(6)は,以下の関係を満足する屈折率を有する。低屈折率層(6)の屈折率<1.55≦透明支持体(1)の屈折率≒下塗り層(2)の屈折率≒ハードコート層(3)の屈折率<高屈折率層(5)の屈折率」

オ 「【0013】[透明支持体]本発明では,屈折率が高い(1.55以上の)透明支持体を用いる。透明支持体の屈折率は,1.55以上1.90未満であることが好ましく,1.60以上1.70未満であることがさらに好ましい。透明支持体は,屈折率が高いポリマーから形成するプラスチックフイルムであることが好ましい。屈折率が高いポリマーの例には,ポリカーボネート,ポリエステル(例,ポリエチレンテレフタレート,ポリエチレンナフタレート,ポリ-1,4-シクロヘキサンジメチレンテレフタレート,ポリエチレン-1,2-ジフェノキシエタン-4,4’-ジカルボキシレート,ポリブチレンテレフタレート)およびポリスチレン(例,シンジオタクチックポリスチレン)が含まれる。ポリカーボネートおよびポリエチレンテレフタレートが好ましい。透明支持体の光透過率は,80%以上であることが好ましく,86%以上であることがさらに好ましい。透明支持体のヘイズは,2.0%以下であることが好ましく,1.0%以下であることがさらに好ましい。
【0014】[下塗り層]下塗り層は,透明支持体とハードコート層との間の接着力を強化する機能を有する。さらに,本発明では,下塗り層を屈折率が高い(1.55以上の)層として形成し,透明支持体の屈折率と下塗り層の屈折率との差を0.1以下にする。下塗り層の屈折率は,1.55以上1.90未満であることが好ましく,1.60以上1.70未満であることがさらに好ましい。透明支持体の屈折率と下塗り層の屈折率との差は,0.05以下であることが好ましく,0.02以下であることがさらに好ましく,0.01以下であることが最も好ましい。屈折率が高い層を形成するには,屈折率が高いポリマーをバインダーとして用いて層を形成する手段と屈折率が高い物質(例えば,無機微粒子)を層に添加する手段がある。下塗り層は,前者の手段を採用することが好ましい。下塗り層の接着力強化機能のためには,無機微粒子のような添加剤はなるべく小量にして,バインダーとして機能するポリマー主体の層にすることが好ましい。小量の添加剤で層の屈折率を高くすることは難しい。下塗り層のバインダーとして用いる屈折率が高いポリマーは,環状基を有するポリマーまたはフッ素以外のハロゲン原子を含むポリマーであることが好ましい。フッ素以外のハロゲン原子を含むポリマーよりも,環状基を有するポリマーの方が好ましい。環状基とフッ素以外のハロゲン原子の双方を含むポリマーを用いてもよい。環状基には,芳香族基,複素環基および脂肪族環基が含まれる。芳香族環基が特に好ましい。フッ素以外のハロゲン原子ととしては,塩素原子が好ましい。
・・・(略)・・・
【0023】[ハードコート層]ハードコート層は,透明支持体に耐傷性を付与する機能を有する。さらに,本発明では,ハードコート層を屈折率が高い(1.55以上の)層として形成し,透明支持体の屈折率とハードコート層の屈折率との差を0.1以下にする。ハードコート層の屈折率は,1.55以上1.90未満であることが好ましく,1.60以上1.70未満であることがさらに好ましい。透明支持体の屈折率とハードコート層の屈折率との差は,0.05以下であることが好ましく,0.02以下であることがさらに好ましく,0.01以下であることが最も好ましい。屈折率が高い層を形成するには,屈折率が高いポリマーをバインダーとして用いて層を形成する手段と屈折率が高い物質(例えば,無機微粒子)を層に添加する手段がある。ハードコート層は,後者の手段を採用することが好ましい。無機微粒子には,層の強度を強化する機能があり,ハードコート層の透明支持体に耐傷性を付与する機能にとって都合が良い。ハードコート層のバインダーとして機能するポリマー(およびそれを形成するためのモノマー)については,前述した通りである。ハードコート層には,高い屈折率を得るため,無機微粒子を添加することが好ましい。無機微粒子の例には,二酸化ケイ素粒子,二酸化チタン粒子,酸化アルミニウム粒子,酸化錫粒子,炭酸カルシウム粒子,硫酸バリウム粒子,タルク,カオリンおよび硫酸カルシウム粒子が含まれる。二酸化チタン粒子が特に好ましい。無機微粒子の平均粒子径は,1乃至2000nmであることが好ましく,2乃至1000nmであることがより好ましく,5乃至500nmであることがさらに好ましく,10乃至200nmであることが最も好ましい。無機微粒子の添加量は,ハードコート層の全量の1乃至99重量%であることが好ましく,10乃至90重量%であることがより好ましく,20乃至80重量%であることがさらに好ましく,40乃至60重量%であることが最も好ましい。ハードコート層またはその塗布液には,さらに,着色剤(顔料,染料),消泡剤,増粘剤,レベリング剤,難燃剤,紫外線吸収剤,酸化防止剤や改質用樹脂を添加してもよい。ハードコート層の厚さは,1乃至15μmであることが好ましい。
【0024】[高屈折率層および中屈折率層]図1の(b)に示すように,ハードコート層と低屈折率層との間に,高屈折率層を設けることができる。また,図1の(c)に示すように,ハードコート層と高屈折率層との間に中屈折率層を設けてもよい。高屈折率層の屈折率は,1.70以上である。高屈折率層の屈折率は,1.70以上2.40未満であることが好ましく,1.75以上2.20未満であることがさらに好ましく,1.80以上2.10未満であることが最も好ましい。。中屈折率層の屈折率は,透明支持体の屈折率と高屈折率層の屈折率との中間の値となるように調整する。中屈折率層の屈折率は,1.70以上である。中屈折率層の屈折率は,1.70以上1.80未満であることが特に好ましい。高屈折率層および中屈折率層の厚さは,5nm乃至100μmであることが好ましく,10nm乃至10μmであることがさらに好ましく,30nm乃至1μmであることが最も好ましい。高屈折率層および中屈折率層のヘイズは,5%以下であることが好ましく,3%以下であることがさらに好ましく,1%以下であることが最も好ましい。高屈折率層および中屈折率層の強度は,1kg荷重の鉛筆硬度でH以上であることが好ましく,2H以上であることがさらに好ましく,3H以上であることが最も好ましい。
・・・(略)・・・
【0028】[低屈折率層]低屈折率層の屈折率は,1.55未満である。低屈折率層の屈折率は,1.20以上1.55未満であることが好ましく,1.30以上1.55未満であることがさらに好ましい。低屈折率層の厚さは,50乃至400nmであることが好ましく,50乃至200nmであることがさらに好ましい。低屈折率層のバインダーとして機能するポリマー(およびそれを形成するためのモノマー)については,前述した通りである。低屈折率層は,オーバーコート層の形成前に,3乃至50体積%の空隙率を有する層として形成することが好ましい。オーバーコート層の形成前の低屈折率層の空隙率は,5乃至35体積%であることがさらに好ましい。低屈折率層の空隙は,微粒子を用いて微粒子間または微粒子内のミクロボイドとして形成することができる。微粒子の平均粒径は,0.5乃至200mmであることが好ましく,1乃至100nmであることがより好ましく,3乃至70nmであることがさらに好ましく,5乃至40nmの範囲であることが最も好ましい。微粒子の粒径は,なるべく均一(単分散)であることが好ましい。無機微粒子あるいは有機微粒子を低屈折率層に用いることができる。」

カ 「【0039】
【実施例】[実施例1]
・・・(略)・・・
【0045】(反射防止膜の作成)厚さが188μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フイルム(屈折率:1.66)をコロナ放電処理し,その上に上記下塗り層用塗布液をバーコーターを用いて塗布し,160℃で乾燥して下塗り層(屈折率:1.66)を形成した。下塗り層の厚さは,0.07μmであった。下塗り層の上に,上記ハードコート層用塗布液を,バーコーターを用いて塗布し,120℃で乾燥した。160W/cmの空冷メタルハライドランプを用いて,照度400mW/cm^(2) ,照射量600mJ/cm^(2) で紫外線を照射して,ハードコート層(屈折率:1.66)を形成した。ハードコート層の厚さは,6μmであった。ハードコート層の上に,上記低屈折率層用塗布液をバーコーターを用いて塗布し,120℃で乾燥した。次に,ハードコート層と同様に,紫外線を照射して低屈折率層(屈折率:1.40)を形成した。低屈折率層の厚さは0.072μmであった。低屈折率層の上に,上記オーバーコート層用塗布液を#3のワイヤーバーを用いて塗布し,100℃で5分間乾燥した。直ちに160W/cmの空冷メタルハライド水銀ランプを用いて照度400mW/cm^(2) ,照射量600mJ/cm^(2)で紫外線を照射してオーバーコート層を形成した。オーバーコート層の厚さは,20nmであった。以上のように反射防止膜を作成した。
【0046】(反射防止膜の評価)
(1)分光反射率
分光光度計(日本分光(株)製)を用いて,380?780nmの波長領域において,入射角5゜における分光反射率を測定した。結果は図1に示す。
(2)平均反射率
反射防止性能は広い波長領域において反射率が小さいほど良好であるため,分光反射率の測定結果から450?650nmにおける平均反射率を求めた。結果は第1表に示す。
(3)耐傷性
反射防止膜を温度25℃,相対湿度60%の条件で2時間調湿した後,JIS-S-6006が規定する試験用鉛筆を用いて,JIS-K-5400が規定する鉛筆硬度評価方法に従い,1kgの加重にて傷が全く認められない硬度を測定した。結果は第1表に示す。
【0047】[実施例2]
・・・(略)・・・
【0049】(反射防止膜の作成および評価)実施例1と同様に,透明支持体(屈折率:1.66)上に,下塗り層(屈折率:1.66)およびハードコート層(屈折率:1.66)を形成した。ハードコート層の上に,上記中屈折率層用塗布液をバーコーターを用いて塗布し,120℃で乾燥した。次に,実施例1のハードコート層と同様に,紫外線を照射して中屈折率層(屈折率:1.72)を形成した。中屈折率層の厚さは0.081μmであった。中屈折率層の上に,上記高屈折率層用塗布液をバーコーターを用いて塗布し,120℃で乾燥した。次に,実施例1のハードコート層と同様に,紫外線を照射して高屈折率層(屈折率:1.92)を形成した。高屈折率層の厚さは0.053μmであった。高屈折率層の上に,低屈折率層およびオーバーコート層を,実施例1と同様に形成して反射防止膜を作成した。作成した反射防止膜について,実施例1と同様に,分光反射率,平均反射率および耐傷性を評価した。分光反射率の結果は図2に,平均反射率および耐傷性の結果は第1表に示す。
・・・(略)・・・
【0055】
【表1】
第1表
────────────────────────────────
反射 透明支持 下塗り層 ハードコー 中・高 分光 平均 耐傷
防止膜 体屈折率 屈折率 ト層屈折率 屈折率層 反射率 反射率 性
────────────────────────────────
実1 1.66 1.66 1.66 なし 図2 1.11% 2H
実2 1.66 1.66 1.66 あり 図3 0.32% 2H
比1 1.66 1.52 1.66 なし 図4 1.67% 2H
比2 1.66 1.66 1.54 なし 図5 2.07% 2H
比3 1.66 1.66 1.54 あり 図6 0.43% 2H
────────────────────────────────


(2)引用発明
引用例1には,請求項1を引用して記載された請求項5に係る発明として,以下の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。
「 1.55以上の屈折率を有する透明支持体,1.55以上の屈折率を有する下塗り層,1.55以上の屈折率を有するハードコート層および1.55未満の屈折率を有する低屈折率層がこの順に積層されており,透明支持体の屈折率と下塗り層の屈折率との差および透明支持体の屈折率とハードコート層の屈折率との差がいずれも0.1以下であり,
ハードコート層と低屈折率層との間に,1.70以上の屈折率を有する高屈折率層を有し,高屈折率層の屈折率が透明支持体の屈折率よりも高い,
反射防止膜。」

2 引用例2の記載事項
(1)引用例2の記載
引用例2には,以下の事項が記載されている。
ア「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,プラズマディスプレイ(PDP),液晶ディスプレイ(LCD)等の表面に適用され,視感度反射率が極めて低く,反射色の色目が穏やかであり,かつ干渉縞の発生を抑えた反射防止性フィルム及びそれを用いた電子画像表示装置に関する。
【背景技術】
・・・(略)・・・
【0004】
例えばハードコート層,高屈折率層,低屈折率層の屈折率及び厚みをそれぞれ規定することで,短波長領域,中波長領域,長波長領域それぞれにおける反射率を低く抑えることにより,反射色の色目を穏やかにした反射防止フィルムが提案されている。(例えば特許文献1を参照)
しかしながら,特許文献1で規定された構成では,高屈折率層の屈折率は1.60?1.70,厚みは120?140nmに規定され,低屈折率層の屈折率は1.38?1.45,厚みは70?90nmに規定され,低屈折率層の屈折率がさほど低くないため,十分な反射防止性能が得られていない。
さらに,透明基材フィルムとして主に使用されているポリエチレンテレフタラート(PET)フィルムの屈折率は1.65であり,特許文献1で規定された屈折率のハードコート層をPETフィルムの上に塗工した場合,PETフィルムとハードコート層との間には0.10?0.20の屈折率差が生じる。屈折率の異なる層の界面では光の反射が発生するため,両者の界面で生じる反射光の干渉によって,蛍光灯などの下でフィルムをみると虹色のムラ(干渉縞)が目立ってしまう。」

イ「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は,以上のような背景技術を解決しようとするものであり,視感度反射率が極めて低く,反射色の色目が穏やかであり,かつ干渉縞の発生を抑えた反射防止性フィルム及びそれを用いた電子画像表示装置を提供することを目的とする。」

ウ「【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するために,本発明の第1の発明の反射防止性フィルムは,ポリエステルフィルム上に,接着層を介してハードコート層,高屈折率層,低屈折率層をこの順で積層した反射防止性フィルムにおいて,前記接着層の膜厚が5?30nmであり,前記ポリエステルフィルムと前記ハードコート層との屈折率差が0.02以内であり,前記高屈折率層の屈折率は1.70?1.90であり,前記低屈折率層の屈折率は1.28?1.36であることを特徴とするものである。」

エ「【発明の効果】
【0013】
本発明によれば,次のような効果を発揮することができる。
本発明の第1の発明の反射防止性フィルムは,ポリエステルフィルム上に,接着層を介してハードコート層,高屈折率層,低屈折率層をこの順で積層し,ポリエステルフィルムとハードコート層との屈折率差が0.02以内であり,高屈折率層の屈折率が1.70?1.90であり,低屈折率層の屈折率が1.28?1.36である。各層の屈折率をこのように設定することで,視感度波長範囲(光の波長500nm?650nm)における反射率を極めて低くすることができると共に,反射スペクトルの波形がフラットになり,反射色の色目を穏やかにすることができる。よって,プラズマディスプレイ(PDP)や液晶ディスプレイ(LCD)等の電子画像表示装置のディスプレイ表面に貼合することにより,蛍光灯などの外部光源から照射された光線の反射を抑え,視認性を高めることができると同時に,色再現性が良く,良好な映像を提供することができる。また,ポリエステルフィルムとハードコート層との屈折率差が0.02以内に設定されており,かつ接着層の膜厚が5?30nmという薄い厚みに設定されていることから,屈折率差に基づいて生ずる干渉縞の発生を抑制しつつ,ポリエステルフィルムとハードコート層との間の密着性を向上させることができる。」

オ「【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の反射防止性フィルムは,基材(基層)としてポリエステルフィルムを用い,その上に,順に(A)接着層,(B)ハードコート層,(C)高屈折率層,(D)低屈折率層を積層して構成されるものである。
【0019】
まず,本発明に用いる基材(基層)について説明する。
本発明に用いる基材フィルムとしては,成形の容易性,入手の容易性及びコストの点で優れるポリエチレンテレフタラート(PET,n=1.65)等のポリエステルフィルムを採用する。また,このポリエステルフィルムの厚みは,好ましくは25?400μm,さらに好ましくは50?200μmである。この膜厚が25μm未満の場合や400μmを超える場合には,反射防止性フィルムの製造時及び使用時における取り扱い性が低下して好ましくない。なお,このポリエステルフィルムには,各種の添加剤が含有されていても良い。そのような添加剤としては例えば紫外線吸収剤,帯電防止剤,安定剤,可塑剤,滑剤,難燃剤等が挙げられる。
【0020】
次に,前記ポリエステルフィルムの上に設けられる(A)接着層について説明する。
本発明における(A)接着層は,光学的な悪影響を及ぼすことなく,前記ポリエステルフィルムと後述する(B)ハードコート層との密着性を高める機能を有している。この接着層の膜厚は5?30nm,好ましくは10?20nmであり,ポリエステルフィルムとハードコート層との密着性を高めることができる限り,接着剤として任意の屈折率を有する公知の樹脂層が適用可能である。この接着層の膜厚が5nm未満の場合には,ポリエステルフィルムとハードコート層間の密着性が保てず,その一方,接着層の膜厚が30nmを越える場合,例えば市販の接着層を設けたポリエステルフィルムでは厚い接着層が光学的な悪影響を及ぼすために干渉縞が多くなる。
・・・(略)・・・
【0026】
次に,前記ポリエステルフィルムの一方の面に用いられる(B)ハードコート層について説明する。
本発明における(B)ハードコート層は,その屈折率とポリエステルフィルムの屈折率との差が0.02以内であり,表面硬度や耐擦傷性を向上できる限り,ハードコート層に用いられる公知の全ての樹脂が使用可能であり,特に電離放射線硬化型樹脂と金属酸化物微粒子とを含有する材料から形成されることが好ましい。
ここで,金属酸化物微粒子とは,平均粒子径が好ましくは150nm以下,より好ましくは10?150nmである金属酸化物を意味する。この平均粒子径が150nmを越えると,微粒子が大きくなり過ぎてハードコート層の透明性が損なわれる結果を招く。
前記のようにハードコート層の屈折率を前記ポリエステルフィルムの屈折率との差が0.02以内に近づけて反射光を低減させることにより,反射光の干渉によって発生する干渉縞を低減させることができる。一方,ポリエステルフィルムとハードコート層との屈折率の差が0.02を越える場合には,ポリエステルフィルムとハードコート層との界面の反射光が強くなることにより,干渉縞が強くなって不適当である。
・・・(略)・・・
【0032】
次に(C)高屈折率層について説明する。
本発明における(C)高屈折率層の屈折率は,1.70?1.90である。この屈折率が1.70未満である場合には,短波長領域における反射率が高くなり,一方,1.90を超える場合には,長波長領域における反射率が高くなり,いずれも反射スペクトルがフラットでなくなり(V字状になる),反射色の色目がきつくなってしまう。すなわち反射スペクトルがV字状になるとV字の底の波長の補色の色が見えるようになる。よって,塗膜形成時の膜厚ムラにより,V字の底の波長がずれると,場所によって様々な色が見え,着色ムラが発生してしまう。
・・・(略)・・・
【0034】
次に(D)低屈折率層について説明する。
本発明における(D)低屈折率層の屈折率は,1.28?1.36である。この低屈折率層の屈折率が1.36を超える場合には,全体の反射率が高くなり,十分な反射防止性能が得られない。一方,屈折率が1.28未満の場合には,十分に硬い層を形成することが困難となる。」

カ「【0067】
〔製造例2,接着層積層ポリエステルフィルムの作製〕
(製造例2-1,接着層積層ポリエステルフィルムAの作製)
二軸延伸ポリエステルフィルム(片面に接着膜が設けられているポリエチレンテレフタレートフィルム,東洋紡績(株)製,コスモシャインA4100,厚さ100μm,屈折率1.65)の接着膜のない面に,前記接着剤塗布液をグラビアコート法で塗布した。フィルム断面をSEM観察したところ,接着層の厚さは乾燥膜厚で15nmであった。
・・・(略)・・・
【0074】
〔製造例4,表面にハードコート層を有するフィルムの製造)
(製造例4-1,ハードコートフィルムAの作製)
前記製造例2-1で得られた接着層積層ポリエステルフィルムAの接着層上に前記製造例3-1で得られたハードコート層塗布液Aを,乾燥膜厚5μm程度になるようにスピンコート法で塗布後,紫外線照射装置(アイグラフィックス社製,120W高圧水銀灯)を用いて400mJの紫外線を照射して硬化させることにより,ハードコートフィルムAを作製した。ハードコート層の屈折率は1.64であった。
・・・(略)・・・
【0081】
[製造例5,高屈折率層塗布液の調製]
(製造例5-1,高屈折率層塗布液Aの調製)
酸化ジルコニウムの25質量%メチルエチルケトン分散液[商品名:「ZRMEK25WT%-F47」,シーアイ化成(株)製]296質量部,多官能アクリレート化合物(6官能のジペンタエリスリトールヘキサアクリレートと5官能のジペンタエリスリトールペンタアクリレートとの混合物,平均官能基数5.5,日本化薬(株)製,DPHA)26質量部及びUVラジカル開始剤(チバスペシャルティケミカルズ(株)製,イルガキュア184)5質量部を撹拌混合し,高屈折率層塗布液Aとした。該塗液Aの重合硬化物(窒素雰囲気下で400mJの紫外線を照射して硬化)の屈折率は1.75であった。
・・・(略)・・・
【0092】
(製造例8-2,低屈折率層塗布液Bの調製)
前記製造例6-1で得られた変性中空シリカゾルαを固形分換算で45部,1,12-ビス{(メタ)アクリロイルオキシ}-3,10-ジヒドロキシ5,5,6,6,7,7,8,8-オクタフルオロドデカン(以下,OD2H2Aと略記する)を固形分換算で55部,イルガキュア907を5部及びイソプロピルアルコール2000部を混合して低屈折率層塗布液Bを得た。該塗液Bの重合硬化物(窒素雰囲気下で400mJの紫外線を照射して硬化)の屈折率は1.36であった。
・・・(略)・・・
【0094】
(製造例8-4,低屈折率層塗布液Dの調製)
前記製造例6-1で得られた変性中空シリカゾルαを固形分換算で40部,前記製造例7で得られた溶媒可溶性の含フッ素反応性ポリマーを固形分換算で60部,イルガキュア907を5部及びイソプロピルアルコール2000部を混合して低屈折率層塗布液Dを得た。該塗液Dの重合硬化物(窒素雰囲気下で400mJの紫外線を照射して硬化)の屈折率は1.32であった。
・・・(略)・・・
【0096】
(製造例8-6,低屈折率層塗布液Fの調製)
前記製造例6-2で得られた変性中空シリカゾルβを固形分換算で50部,前記製造例7で得られた溶媒可溶性の含フッ素反応性ポリマーを固形分換算で50部,イルガキュア907を5部及びイソプロピルアルコール2000部を混合して低屈折率層塗布液Fを得た。該塗液Fの重合硬化物(窒素雰囲気下で400mJの紫外線を照射して硬化)の屈折率は1.35であった。
・・・(略)・・・
【0098】
<実施例1>
前記製造例4-1で作製したハードコートフィルムA上に,前記製造例5-1で調製した高屈折率層塗布液Aを乾燥膜厚がおよそ140nmになるようにスピンコート法で塗布後,紫外線照射装置(アイグラフィックス社製,120W高圧水銀灯)を用いて,窒素雰囲気下で400mJの紫外線を照射して硬化させた。さらにその上に,前記製造例8-1で調製した低屈折率層塗布液Aを乾燥膜厚がおよそ100nmになるようにスピンコート法で塗布後,紫外線照射装置(アイグラフィックス社製,120W高圧水銀灯)を用いて,窒素雰囲気下で400mJの紫外線を照射して硬化させ,反射防止性フィルムを得た。
得られた反射防止性フィルムについて反射率,abクロマCab*,耐擦傷性,表面抵抗値,密着性,皮膜の耐水性及び干渉縞の評価を以下に記載する方法で行い,それらの結果を表1に示す。
【0099】
(1)反射率の測定
測定面の裏面反射を除くため,裏面をサンドペーパーで粗し,5°正反射測定装置のついた分光光度計〔日本分光(株)製,商品名:U-best V560〕を用いて反射率を測定した。得られた反射スペクトルより,C光源に対する視感度反射率(%)を計算した。
・・・(略)・・・
【0103】
<実施例5>
前記実施例1において,低屈折率層塗布液Aに代えて,前記製造例8-2で調製した低屈折率層塗布液Bを用いた以外は,前記実施例1と同様にして,反射防止性フィルムを作製した。その評価結果を表1に示す。
・・・(略)・・・
【0113】
【表1】


・・・(略)・・・
【0116】
<実施例8>
前記実施例1において,低屈折率層塗布液Aに代えて,前記製造例8-4で調製した低屈折率層塗布液Dを用いた以外は,前記実施例1と同様にして,反射防止性フィルムを作製した。その評価結果を表2に示す。
・・・(略)・・・
【0118】
<実施例10>
前記実施例1において,低屈折率層塗布液Aに代えて,前記製造例8-6で調製した低屈折率層塗布液Fを用いた以外は,前記実施例1と同様にして,反射防止性フィルムを作製した。その評価結果を表2に示す。
・・・(略)・・・
【0120】
【表2】



(2)引用例2記載技術
引用例2には,以下の技術が記載されている(以下,「引用例2記載技術」という。)。
「 ポリエステルフィルム上に,接着層を介してハードコート層,高屈折率層,低屈折率層をこの順で積層した反射防止性フィルムにおいて,前記接着層の膜厚が5?30nmであり,前記ポリエステルフィルムと前記ハードコート層との屈折率差が0.02以内であり,前記高屈折率層の屈折率は1.70?1.90であり,前記低屈折率層の屈折率は1.28?1.36であり,
高屈折率層の屈折率が1.70未満である場合には,短波長領域における反射率が高くなり,一方,1.90を超える場合には,長波長領域における反射率が高くなり,
低屈折率層の屈折率が1.36を超える場合には,全体の反射率が高くなり,一方,1.28未満の場合には,十分に硬い層を形成することが困難となる,
反射防止性フィルム。」

第4 対比
1 本願発明と引用発明とを対比すると,以下のとおりとなる。
(1)層順
引用発明は,「1.55以上の屈折率を有する透明支持体,1.55以上の屈折率を有する下塗り層,1.55以上の屈折率を有するハードコート層および1.55未満の屈折率を有する低屈折率層がこの順に積層されており」及び「ハードコート層と低屈折率層との間に,1.70以上の屈折率を有する高屈折率層を有し」という構成を具備する。
したがって,引用発明の「反射防止膜」は,「透明支持体」上に,「下塗り層」と,「ハードコート層」と,「高屈折率層」と,「低屈折率層」とをこの順に備えたものである。

(2)基材フィルム
引用発明の「透明支持体」は,引用発明の「反射防止膜」の各層の基となる部材である。また,「反射防止膜」の一部をなすものであるから,フィルム状のものといえる。加えて,引用発明の「透明支持体」と他の層は,前記(1)で述べた層順にある。
したがって,引用発明の「透明支持体」は,本願発明の「基材フィルム」に相当する。

(3)下塗り層
引用発明の「下塗り層」は,「ハードコート層」の「下塗り層」として,「透明支持体」に積層されたものであるから,透明支持体とハードコート層との間の接着力を強化するための層といえる(引用例1の【0014】からも確認できる事項である。)。また,引用発明の「下塗り層」と他の層は,前記(1)で述べた層順にある。
したがって,引用発明の「下塗り層」は,本願発明の「易接着層」に相当する。

(4)ハードコート層
引用発明の「ハードコート層」は,技術的にみて,耐擦傷性を向上するための層といえる(引用例1の【0023】からも確認できる事項である。)。また,引用発明の「ハードコート層」と他の層は,前記(1)で述べた層順にある。
したがって,引用発明の「ハードコート層」は,本願発明の「ハードコート層」に相当する。

(5)高屈折率層
引用発明の「高屈折率層」は,その文言からみて,引用発明の「反射防止膜」において,反射を防止するための「高屈折率層」として機能する層である。また,引用発明の「高屈折率層」と他の層は,前記(1)で述べた層順にある。
したがって,引用発明の「高屈折率層」は,本願発明の「高屈折率層」に相当する。

(6)低屈折率層
引用発明の「低屈折率層」は,その文言からみて,引用発明の「反射防止膜」において,反射を防止するための「低屈折率層」として機能する層である。また,引用発明の「低屈折率層」と他の層は,前記(1)で述べた層順にある。
したがって,引用発明の「低屈折率層」は,本願発明の「低屈折率層」に相当する。

(7)反射防止膜
引用発明の「反射防止膜」は,「反射」を「防止」するものである。また,「膜」であるから,フィルム状のものである。加えて,引用発明の「反射防止膜」は,前記(1)で述べた層順を具備する。
したがって,引用発明の「反射防止膜」は,本願発明の「反射防止フィルム」に相当する。

2 一致点及び相違点
(1)一致点
上記1を踏まえると,本願発明と引用発明は,次の構成で一致する。
「基材フィルム上に,易接着層と,ハードコート層と,高屈折率層と,低屈折率層とをこの順に備えた,
反射防止フィルム。」

(2)相違点
本願発明と引用発明とは,以下の点で相違する,あるいは,一応相違する。
(相違点1)
本願発明の「反射防止フィルム」は,その屈折率,厚さ及び視感反射率について,「屈折率が1.63?1.68である」基材フィルム上に,易接着層と,ハードコート層と,「屈折率が1.71?1.88で厚みが130?170nmの」高屈折率層と,「屈折率が1.31?1.39で厚みが90?110nmの」低屈折率層とをこの順に備え,「基材フィルムと易接着層との屈折率差の絶対値が0.02未満,基材フィルムとハードコート層との屈折率差の絶対値が0.02未満,および,易接着層とハードコート層との屈折率差の絶対値が0.02未満であり,かつ,視感反射率が0.50%未満」であるのに対して,引用発明の「反射防止膜」は,その屈折率について,「1.55以上の屈折率を有する」透明支持体,「1.55以上の屈折率を有する」下塗り層,「1.55以上の屈折率を有する」ハードコート層及び「1.55未満の屈折率を有する」低屈折率層がこの順に積層されており,「透明支持体の屈折率と下塗り層の屈折率との差および透明支持体の屈折率とハードコート層の屈折率との差がいずれも0.1以下であり」,ハードコート層と低屈折率層との間に,「1.70以上の屈折率を有する」高屈折率層を有し,「高屈折率層の屈折率が透明支持体の屈折率よりも高い」ものとされ,また,厚さ及び視感反射率は特定されていない点。

(相違点2)
本願発明は,「前記易接着層が分子中に縮合多環式芳香族環を含むポリエステル樹脂と,酸化ジルコニウムを易接着層の固形分総量100質量%に対して20質量%以上80質量%以下含有する」のに対して,引用発明は,「下塗り層」の組成が特定されていない点。

第5 判断
1 相違点1について
引用例1には,引用発明の「透明支持体」が採り得る屈折率として,「1.55以上1.90未満」との範囲が開示されている(段落【0013】)。同様に,「下塗り層」,「ハードコート層」,「高屈折率層」及び「低屈折率層」について,「1.55以上1.90未満」,「1.55以上1.90未満」,「1.70以上2.40未満」及び「1.20以上1.55未満」が開示されている(段落【0014】,【0023】,【0024】及び【0028】)。
しかしながら,引用例1には,(A)透明支持体(屈折率1.66),透明支持体と同じ屈折率の下塗り層及びハードコート層,及び低屈折率層(屈折率1.40)からなる実施例1の反射防止膜(段落【0045】)と,(B)透明支持体(屈折率1.66),透明支持体と同じ屈折率の下塗り層及びハードコート層,中屈折率層(屈折率1.72),高屈折率層(屈折率1.92),及び低屈折率層(屈折率1.40)からなる実施例2の反射防止膜(段落【0049】)は開示されているが,(C)引用発明に対応する(透明支持体,下塗り層,ハードコート層,高屈折率層,低屈折率層からなる)具体的実施例は開示されていない。
したがって,引用発明を具体化しようとする当業者ならば,引用発明が前提とする構成に類似した公知技術を参考にすると思われるところ,当業者ならば,引用例2記載技術を心得ている。そうしてみると,引用発明を具体化しようとする当業者において,(a)引用例1に開示された,透明支持体(屈折率1.66),透明支持体と同じ屈折率の下塗り層及びハードコート層を前提としつつ,(b)「高屈折率層の屈折率が1.70未満である場合には,短波長領域における反射率が高くなり,一方,1.90を超える場合には,長波長領域における反射率が高くなり」及び「低屈折率層の屈折率が1.36を超える場合には,全体の反射率が高くなり,一方,1.28未満の場合には,十分に硬い層を形成することが困難となる」という,引用例2記載技術を参考にして,(c)引用発明の「高屈折率層」及び「低屈折率層」の屈折率を,1.70と1.90の中間である1.80近傍,及び,1.28と1.36の中間程度の1.32近傍とすることは,引用発明及び引用例2記載技術の示唆に従う当業者における通常の創意工夫の範囲内の事項といえる。また,引用例2に記載された実施例においては,「高屈折率層」及び「低屈折率層」の厚さとして,それぞれ「140nm」及び「100nm」が示されているから(段落【0098】),引用例2記載技術を参考にした当業者ならば,この値を採用するといえる。
そして,以上のとおり引用発明と引用例2記載技術を組み合わせてなる「反射防止膜」は,本願発明の「屈折率が1.63?1.68である基材フィルム上に,易接着層と,ハードコート層と,屈折率が1.71?1.88で厚みが130?170nmの高屈折率層と,屈折率が1.31?1.39で厚みが90?110nmの低屈折率層とをこの順に備え,基材フィルムと易接着層との屈折率差の絶対値が0.02未満,基材フィルムとハードコート層との屈折率差の絶対値が0.02未満,および,易接着層とハードコート層との屈折率差の絶対値が0.02未満」の要件を満たすものとなる。また,引用例2の段落【0113】及び【0120】に記載された実施例1?実施例9の反射防止フィルムの視感反射率が0.1?0.3%であることを考慮すると,以上のとおり引用発明と引用例2記載技術を組み合わせてなる「反射防止膜」は,本願発明の「視感反射率が0.50%未満であり」という要件も満たすといえる(あるいは,少なくともこのような視感反射率を満たすように引用発明を具体化することは,「反射防止膜」として当然のことといえる。)。

以上のとおりであるから,当業者が,引用発明と引用例2記載技術を組み合わせることにより,相違点1に係る本願発明の構成を具備したものとすることは,当業者が容易に発明できた事項である。

2 相違点2について
(1)引用例1には,段落【0014】に,下塗り層に関して,「屈折率が高い層を形成するには,屈折率が高いポリマーをバインダーとして用いて層を形成する手段と屈折率が高い物質(例えば,無機微粒子)を層に添加する手段がある。」と記載されている(上記第3 1(1)オを参照。)。したがって,引用発明において,「1.55以上の屈折率を有する下塗り層」を実現するために,屈折率が高いポリマーを用いたり,屈折率が高い無機微粒子を層に添加することは,引用例1の記載が示唆する範囲内の事項である。

(2)「分子中に縮合多環式芳香族環を含むポリエステル樹脂」は,屈折率が高いポリマーとして周知の材料である。また,樹脂層の屈折率を高くするために,「酸化ジルコニウム」を添加することも周知の技術である。そして,例えば,本件出願の出願前に頒布された刊行物である特開2009-143226号公報(以下,「引用例3」という。段落【0001】,【0009】,【0020】,【0031】,【0093】?【0097】等を参照),及び,特開2011-240533号公報(以下,「引用例4」という。段落【0001】?【0005】,【0009】?【0010】,【0023】?【0027】等を参照)に記載されるように,ポリエステルフィルムからなる基材上に接着層を介してハードコート層を設ける際に,基材とハードコート層の密着性を向上し,かつ,屈折率を高くして干渉縞の発生を防止することを目的として,ナフタレンジカルボン酸を含むポリエステル樹脂に,酸化ジルコニウムを含有させた材料により,接着層を構成することも,周知の技術である(以下,「周知技術」という。)。
また,酸化ジルコニウムのような無機微粒子を添加することにより屈折率を調節する場合に,その含有量が少なければ,屈折率の上昇が不十分であり,他方,含有量が多すぎれば接着力が低下するため,好適な含有量の範囲が存在することは技術常識である(引用例3の段落【0032】,引用例4の段落【0042】を参照)。そして,引用例3及び4の実施例(引用例3の段落【0069】,【0073】,【0093】?【0097】,引用例4の段落【0069】?【0070】,段落【0082】の【表1】中の塗布液8及び9を参照。)における,酸化ジルコニウムの含有量からみて,相違点7に係る「酸化ジルコニウムを易接着層の固形分総量100質量%に対して20質量%以上80質量%以下含有する」という好適範囲が,当業者に容易に想到しえないものということもできない。

(3)引用発明と上記周知技術とは,いずれも,基材フィルム上に接着層を介してハードコート層を設けたフィルムにおいて,干渉縞の発生を防止することを課題としている。そして,当該課題を解決するために,接着層の屈折率を調節する点でも共通する。したがって,引用発明において,下塗り層に所望の密着性と屈折率を与えるために,上記周知技術を採用して,相違点2に係る本願発明の構成を具備させることは,当業者が容易にできたことである。

3 発明の効果について
本願発明の効果について,本件出願の明細書の段落【0014】には,「本発明によれば,反射防止性に優れ,かつ着色が抑制された無彩色に近い反射防止フィルムを低コストで提供することができる。さらに,本発明によれば,干渉縞の発生が極めて抑制された反射防止フィルムを提供することができる。」と記載されている。しかし,当該効果は,引用発明又は引用例2記載技術が有する効果である(引用例1の段落【0005】,【0008】,【0055】,引用例2の段落【0004】,【0007】,【0013】,【0113】,【0120】を参照。)から,当業者であれば予測し得た範囲のものである。

4 請求人の主張について
(1)平成29年7月6日付け意見書において請求人は,引用例1(意見書では「引用例2」と表示。)について,「引用例2における下塗り層(易接着層に相当)の技術思想は,[0014]に記載のとおり,無機微粒子のような添加剤はなるべく少量にして,バインダーとして機能するポリマー主体の層にすることにあります。つまり,引用例2の記載から,補正後の本願の請求項1の要件である「易接着層が,酸化ジルコニウムを易接着層の固形分総量100質量%に対して20質量%以上80質量%以下含有する」を満たすように無機微粒子を添加するという動機付けは得られません。」と主張する。
引用例1には,請求人が指摘する段落【0014】の記載に加えて,段落【0008】にも,「なお,層の屈折率を高くするためには,主に,バインダーの種類の変更と無機微粒子の添加との二通りの手段がある。本発明の研究によれば,下塗り層には前者の手段が,ハードコート層には後者の手段がそれぞれ適している。」と記載されている(上記第3 1(1)ウを参照。)。そこで,引用例1におけるこれらの記載により,引用発明において上記周知技術を適用する動機付けが得られないといえるか,あるいは,これらの記載が,引用発明において上記周知技術を適用することを阻害する事情となり得るか,検討する。

(2)引用発明において,下塗り層に求められる機能及び特性は,透明支持体とハードコート層との間の接着力の強化と,透明支持体と同程度に高い屈折率である(段落【0014】を参照。)。一方,上記2(2)に記したように,上記周知技術も接着性と高屈折率の両者を実現することを目的としている。そうしてみると,引用発明と上記周知技術とは,課題が共通するものである。更に,上記2(1)に記したように,引用例1には,屈折率層が高い層を形成する手段として,無機微粒子を添加する手段も記載されているから(段落【0014】),上記周知技術を適用することに関する示唆があるということもできる。したがって,引用発明に上記周知技術を適用する動機付けがないとする,請求人の主張は採用できない。

第6 まとめ
以上のとおりであるから,本願発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。したがって,他の請求項に係る発明について審理するまでもなく,本件出願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-08-09 
結審通知日 2017-08-15 
審決日 2017-08-28 
出願番号 特願2012-280641(P2012-280641)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 後藤 亮治  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 佐藤 秀樹
鉄 豊郎
発明の名称 反射防止フィルム  
代理人 一條 力  

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