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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A23L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A23L
管理番号 1333746
審判番号 不服2014-5021  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-03-17 
確定日 2017-11-02 
事件の表示 特願2011-185374「苦味マスキング食材、及び苦味マスキング方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 1月24日出願公開、特開2013- 13390〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年8月27日(優先権主張平成22年9月16日、平成22年11月17日、平成23年2月17日、平成23年6月6日)の出願であって、平成26年2月5日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年3月17日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がされ、その後、当審において平成27年11月6日付けで拒絶理由が通知され、同年12月14日付けで意見書が提出されたものである。

第2 特許請求の範囲の記載
平成26年3月17日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし11の記載は、以下のとおりである。
「【請求項1】
可食物の苦味をマスキングする作用を有する無塩可溶性可食凝集剤を有効成分とすることを特徴とし、及び、さらに、前記可食凝集剤は、凝集作用のないナトリウムやカリウムやマグネシウム等の水酸化物は無効であり、凝集奇特作用を有する水酸化カルシウムを主成分とすることを特徴とする、pH測定の為に何度も水に溶解が不可欠で、かつ非常に変動しやすいpHの調節限定など非常に不安定で手間がかかる面倒な工程をなんら必要とせずに、単に混ぜるだけで有効な、苦い可食物の苦味を奇特強力にマスキングするものであることを特徴とする、苦味マスキング剤。
【請求項2】
オリーブの苦味をマスキングするものであることを特徴とする請求項1に記載の苦味マスキング剤。
【請求項3】
苦瓜の苦味をマスキングするものであることを特徴とする請求項1に記載の苦味マスキング剤。
【請求項4】
可食物の保存作用を有することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の苦味マスキング剤。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の苦味マスキング剤を使うことを特徴とする苦味マスキング方法。
【請求項6】
苦味マスキング剤を、可食物の中に注射することを特徴とする請求項5に記載の苦味マスキング方法。
【請求項7】
請求項1に記載の苦味マスキング剤を使う工程に、さらに炭酸類処理工程を加えることを特徴とする苦味マスキング方法。
【請求項8】
可食物の苦味をマスキングするとともに、該可食物の保存性を向上させることを特徴とする請求項5乃至請求項7のいずれか1項に記載の苦味マスキング方法。
【請求項9】
請求項5乃至請求項8のいずれか1項の苦味マスキング方法を用いて製造することを特徴とする可食物の製造方法。
【請求項10】
前記可食物は、ワイン・ジュース・酢・ポリフェノール液及び内包菓子のいずれかであることを特徴とする請求項9に記載の可食物の製造方法。
【請求項11】
請求項5乃至請求項10のいずれか1項の方法を用いて製造されたことを特徴とする可食物。」

第3 判断
平成27年11月6日付けで通知した拒絶理由は、少なくとも、(1)特許法第36条第6項第2号、(2)特許法第29条第1項第3号を根拠とするものである。

1 特許法第36条第6項第2号についての判断
(1) 請求項1について
ア 請求項1に係る発明は「苦味マスキング剤」に係る発明と認められるところ、請求項1に記載された「前記可食凝集剤は、凝集作用のないナトリウムやカリウムやマグネシウム等の水酸化物は無効であり」は、「苦味マスキング剤」について、いかなる構成を特定しようとするものかが明確でない。
すなわち、「苦味マスキング剤」が、ナトリウムやカリウムやマグネシウム等の水酸化物を含まないことを特定しているのか、ナトリウムやカリウムやマグネシウム等の水酸化物を含んでも良いが、これらが有効成分ではないことを特定しているのか、あるいは、他の事項を特定しているのか、が明確でない。

イ 請求項1の「pH測定の為に何度も水に溶解が不可欠で、かつ非常に変動しやすいpHの調節限定など非常に不安定で手間がかかる面倒な工程をなんら必要とせずに、単に混ぜるだけで有効な」との記載は、文意に不明瞭なところがあるものの、一応、苦味マスキング剤の使用形態を説明しているように解される。しかし、使用形態は、物の構成そのものではないため、上記記載は、請求項1に係る「苦味マスキング剤」という物の発明について、いかなる構成を特定しているのかが明確でない。

ウ 請求項1には、「無塩可溶性可食凝集剤を有効成分とする」と記載されているから、請求項1に係る「苦味マスキング剤」は、「無塩可溶性可食凝集剤」を有効成分とするものである。
また、「前記可食凝集剤は?水酸化カルシウムを主成分とする」と記載されているから、上記「無塩可溶性可食凝集剤」は水酸化カルシウムを主成分とするものである。ところで、水酸化カルシウムが主成分であるということは、水酸化カルシウム以外の成分も含まれているものと解される。
そうすると、請求項1に係る「苦味マスキング剤」は、「無塩可溶性可食凝集剤」を有効成分とするものの、該「無塩可溶性可食凝集剤」には、主成分たる水酸化カルシウムと、その他の成分が含まれていることになる。
ここで、「主成分」は、必ずしも「有効成分」と同義ではないことを踏まえると、上記「無塩可溶性可食凝集剤を有効成分とする」との記載は、主成分たる水酸化カルシウムが有効成分であるのか、その他の成分が有効成分であるのかが明確ではなく、請求項1に係る「苦味マスキング剤」の有効成分を実質的に特定していないというべきである。

エ 請求項1に記載された「凝集奇特作用」、「奇特強力にマスキングする」は、発明の詳細な説明にも記載されておらず、それぞれ、請求項1に係る発明について、いかなる事項を特定しているのかが明確でない。

オ したがって、請求項1に係る発明は明確でなく、請求項1を直接又は間接に引用する請求項2?11に係る発明も同様に明確ではない。

(2)請求項11について
請求項11は、「可食物」という物の発明であるが、「請求項5乃至請求項10のいずれか1項の方法を用いて製造された」との記載は、製造方法の発明を引用する場合に該当するため、当該請求項にはその物の製造方法が記載されているといえる。
ここで、物の発明に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において、当該特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(以下「不可能・非実際的事情」という)が存在するときに限られると解するのが相当である(最高裁第二小法廷平成27年6月5日 平成24年(受)第1204号、平成24年(受)第2658号)。
しかしながら、本願明細書等には不可能・非実際的事情について何ら記載がなく、当業者にとって不可能・非実際的事情が明らかであるとも言えない。また、平成27年12月14日付け意見書においても、不可能・非実際的事情についての主張及び証拠の提出はなされなかった。
したがって、請求項11に係る発明は明確でない。

(3)まとめ
以上のとおり、特許請求の範囲の記載は、請求項1?11に係る発明が明確でなく、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

2 特許法第29条第1項第3号についての判断
上記「1(1)ウ」に示したように、請求項1の記載は、苦味マスキング剤の有効成分として何を特定しているのかが明確ではないものの、発明の詳細な説明の記載等を参酌し、「水酸化カルシウム」を有効成分とするものであると一応解して検討する。以下、請求項1に係る発明を「本願発明」という。

(1)引用文献
当審の拒絶の理由に引用された特開2003-128664号公報(以下「引用文献」という。)には、以下の事項が記載されている。

「【請求項6】ポリフェノールを水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムおよび水酸化カリウムよりなる群から選ばれるアルカリと反応させてポリフェノール塩とすることを特徴とするポリフェノールの渋味、苦味または収斂味の軽減方法。」

「【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明の主たる目的は、渋味等が軽減され、しかも高い生理活性効果が得られるポリフェノール塩、食品および飲料を提供することである。本発明の他の目的は、ポリフェノールおよびポリフェノール含有抽出物の渋味等の軽減方法を提供することである。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、ポリフェノールを特定のポリフェノール塩とすることによって、ポリフェノールの渋味等が軽減され、しかも、このポリフェノール塩は、胃内と同等の酸性環境下では元のポリフェノールに戻って本来の生理活性を発揮するという新たな事実を見出し、本発明を完成させるに至った。」

「【0023】3.食品
本発明の食品は、(1)前記1で得られるポリフェノール塩を食品に添加したもの、(2)前記2で中和処理した抽出物を食品に添加したもの、および(3)ポリフェノールを含有する食品にアルカリを直接添加して中和したものである。」

「【0027】(3) ポリフェノールを含有する食品にアルカリを直接添加して中和する場合ポリフェノールを含有する食品に前記水酸化ナトリウムなどのアルカリを添加してpHを約6.5?7.0、好ましくは約6.8?7.0に調整すればよい。アルカリは、固体の形態で前記ポリフェノール水溶液に添加してもよいが、好ましくは水溶液で添加するのがよい。」

これらの記載によれば、引用文献には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「ポリフェノールを含有する食品に添加してポリフェノールの渋味、苦味または収斂味を軽減する水酸化カルシウム。」

(2)対比
引用発明の「ポリフェノールを含有する食品」は、本願発明の「可食物」及び「苦い可食物」に相当し、引用発明の「苦味・・・を軽減する」ことは、本願発明の「苦味をマスキングする」ことに相当する。
引用発明の「水酸化カルシウム」は、食品に添加して苦味を軽減する作用を有するから、本願発明の「苦味をマスキングする作用を有する無塩可溶性可食凝集剤」に相当し、また、「無塩可溶性可食凝集剤を有効成分とする」「苦味マスキング剤」に相当する。
そして、引用発明の「水酸化カルシウム」が、本願発明の「無塩可溶性可食凝集剤」に相当するということは、本願発明の「前記可食凝集剤は」「水酸化カルシウムを主成分とする」ことに相当する。
よって、本願発明と引用発明との一致点、相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「可食物の苦味をマスキングする作用を有する無塩可溶性可食凝集剤を有効成分とし、前記可食凝集剤は、水酸化カルシウムを主成分とする、苦い可食物の苦味をマスキングするものである苦味マスキング剤。」

[相違点1]
本願発明は、「凝集作用のないナトリウムやカリウムやマグネシウム等の水酸化物は無効であり」と特定されているのに対し、引用発明は、このような特定がない点。

[相違点2]
水酸化カルシウムについて、本願発明は、「凝集奇特作用を有する」と特定されているのに対し、引用発明は、このような特定がない点。

[相違点3]
本願発明は、「pH測定の為に何度も水に溶解が不可欠で、かつ非常に変動しやすいpHの調節限定など非常に不安定で手間がかかる面倒な工程をなんら必要とせずに、単に混ぜるだけで有効な」と特定されているのに対し、引用発明は、このような特定がない点。

[相違点4]
本願発明は、マスキングの態様について「奇特強力に」と特定されているのに対し、引用発明は、このような特定がない点。

(3)判断
ア 相違点1について
本願発明の「凝集作用のないナトリウムやカリウムやマグネシウム等の水酸化物は無効であり」は、上記「1(1)ア」に示したように、ナトリウムやカリウムやマグネシウム等の水酸化物を含まないことを特定しているのか、これらが有効成分ではないことを特定しているのかが明確ではない。
しかし、引用発明は、ナトリウムやカリウムやマグネシウム等の水酸化物を含むものではなく、当然、これらは有効成分ではない。
よって、いずれにせよ、相違点1は実質的な相違点ではない。

イ 相違点2について
本願発明の「凝集奇特作用を有する」は、上記「1(1)エ」に示したように明確ではないものの、本願発明と引用発明とで「水酸化カルシウム」という物質の作用が異なるとは解せないから、相違点2は実質的な相違点ではない。

ウ 相違点3について
本願発明の「pH測定の為に何度も水に溶解が不可欠で、かつ非常に変動しやすいpHの調節限定など非常に不安定で手間がかかる面倒な工程をなんら必要とせずに、単に混ぜるだけで有効な」は、上記「1(1)イ」に示したように、一応、苦味マスキング剤の使用形態を説明しているように解されるものの、使用形態は、物の構成そのものではないため、本願発明と引用発明との構成上の相違点であるとは認められない。
また、引用文献には「pHを約6.5?7.0、好ましくは約6.8?7.0に調整すればよい」(【0027】)との記載があるものの、上記のとおりにpHを調整しなくても、水酸化カルシウムを添加すれば、添加量に応じたポリフェノールがポリフェノール塩となり、相応の苦味の軽減効果は得られるから、引用発明も「単に混ぜるだけで有効な」ものであるともいえる。
よって、相違点3は実質的な相違点ではない。

エ 相違点4について
本願発明の「奇特強力に」は、上記「1(1)エ」に示したように明確ではない。仮に、苦味をマスキングする作用が強いことを特定する趣旨だと解しても、その程度が具体的に特定されているわけではないから、苦味をマスキングする作用を有する引用発明との実質的な相違点とはいえない。

(4)まとめ
以上のとおり、相違点1?4は、いずれも実質的な相違点ではないから、本願発明は引用発明である。

第4 むすび
本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
また、本願発明は、引用発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-03-30 
結審通知日 2016-04-19 
審決日 2016-05-06 
出願番号 特願2011-185374(P2011-185374)
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (A23L)
P 1 8・ 537- WZ (A23L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長谷川 茜水落 登希子  
特許庁審判長 鳥居 稔
特許庁審判官 紀本 孝
山崎 勝司
発明の名称 苦味マスキング食材、及び苦味マスキング方法  

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