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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 補正却下を取り消す 原査定を取り消し、特許すべきものとする G01J 審判 査定不服 5項独立特許用件 補正却下を取り消す 原査定を取り消し、特許すべきものとする G01J |
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管理番号 | 1333853 |
審判番号 | 不服2017-70 |
総通号数 | 216 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-12-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-01-04 |
確定日 | 2017-11-14 |
事件の表示 | 特願2013-501671「放射線センサ」拒絶査定不服審判事件〔平成23年10月 6日国際公開、WO2011/120657、平成25年 6月17日国内公表、特表2013-524177、請求項の数(14)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2011年(平成23年)3月24日(パリ条約による優先権主張 2010年4月1日 ドイツ)を国際出願日とする出願であって、平成26年10月31日付けで拒絶理由が通知され、平成27年3月5日に意見書及び手続補正書が提出され、平成27年8月28日付けで最後の拒絶理由が通知され、平成28年3月1日に意見書及び手続補正書が提出され、同年8月24日付けで前記平成28年3月1日付け手続補正書でした補正についての却下の決定がされるとともに、同日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされ、平成29年1月4日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。 第2 平成28年8月24日付け補正の却下の決定について 請求人は、審判請求書の請求の理由の「(4)むすび」で、「平成28年3月1日付けの手続補正による請求項1は進歩性を有し、従って却下されるべきではないと思料いたします。従って、原査定を取り消す、この出願の発明はこれを特許すべきものとする、との審決を求めます」と主張しており、「補正の却下の決定」に対して不服が申し立てられているものと認められるため、平成28年8月24日付けの補正の却下の決定の当否について検討する。 [平成28年8月24日付け補正の却下の決定についての結論] 平成28年8月24日付け補正の却下の決定を取り消す。 [理由] 1 補正の内容 平成28年3月1日付け手続補正書でした手続補正(以下「本件補正」という。)は、本件補正前(平成27年3月5日付け手続補正により補正されたもの)の特許請求の範囲を、以下のとおりに補正する内容を含むものである。 (1)本件補正前の特許請求の範囲 本件補正前の、平成27年3月5日付け手続補正による補正後の特許請求の範囲の記載は次のとおりである。 「 【請求項1】 配置ラインに沿って配置されると共にそれぞれ入射する放射線に応じて電気信号をそれぞれ発生する複数の放射線センサ要素(1)と、 前記放射線センサ要素のすべてを収納するハウジング(4)と、 前記配置ラインに沿って配置されたすべての前記センサ要素に向けて入射放射線を収束させるための、光軸を有する1つだけの放射線収束手段と、 前記センサ要素の電気信号を受けると共にこのセンサ要素の電気信号に応じて出力信号を発生する回路(2)とを備える放射線センサ(10)であって、 前記配置ラインの中点は、前記収束手段(5)の光軸に対してオフセットしていることを特徴とする、放射線センサ(10)。 【請求項2】 前記センサ要素の少なくとも一部は、前記配置ラインに沿った寸法で異なる長さの有効検出領域を含む、互いに比較して異なるサイズの検出部分を有することを特徴とする、請求項1に記載の放射線センサ(10)。 【請求項3】 前記センサ要素の少なくとも一部は、互いに比較して異なる相対的感度を有し、異なる構造の検出部分によって作製されるか、または前記センサ要素上に吸収層もしくは反射層を含む影響層を異なるように供給することによって作製されていることを特徴とする、請求項1?2のうちの1項に記載の放射線センサ(10)。 【請求項4】 隣接するセンサ要素の2つ以上のペアは、異なるピッチを有することを特徴とする、請求項1?3のうちの1項に記載の放射線センサ(10)。 【請求項5】 前記収束手段は、放射線を収束させるための1つ以上の収束部分と、放射線を曲げるための1つ以上の曲げ部分とを備え、前記収束部分と前記曲げ部分とは、一体的に形成されていることを特徴とする、請求項1?4のうちの1項に記載の放射線センサ(10)。 【請求項6】 前記配置ラインは前記光軸と交差する直線である、請求項1?5のうちの1項に記載のセンサ。 【請求項7】 前記収束手段は、前記センサ要素を収納する前記ハウジングの一部として設けることができ、前記レンズ部分は、球面レンズまたは補正構造を有するレンズとすることができる、請求項1?6のうちの1項に記載のセンサ。 【請求項8】 前記配置ラインは、前記光軸の片側でより長い部分を有し、前記光軸の反対側でより短い部分を有し、 前記センサ要素のサイズは、前記長い部分上の最も外側のセンサ要素から、前記中点に近いセンサ要素に向かって減少し、 前記センサ要素の感度は、前記長い部分上の最も外側のセンサ要素から、前記中点に近いセンサ要素に向かって増加または減少し、および/または 前記ピッチは、前記長い部分上の最も外側のセンサ要素から、前記中点に近いセンサ要素に向かって小さくなる、請求項2?5のうちの1項に記載のセンサ。 【請求項9】 1つ以上の別の配置ラインに沿って配置された複数の別のセンサ要素を含む、請求項1?8のうちの1項に記載のセンサ。 【請求項10】 前記センサ要素は、赤外線放射線を検出でき、入射放射線の吸収を高めるための影響層によってカバーされている、請求項1?9のうちの1項に記載のセンサ。 【請求項11】 前記回路は、前記センサ要素の各々からの前記出力信号に対して別々に重み付けするための手段を含む、請求項1?10のうちの1項に記載のセンサ。 【請求項12】 前記内部配置ラインの配置を示すための外側マーカーを含む、請求項1?11のうちの1項に記載のセンサ。 【請求項13】 前記光軸に対して所定の角度を有するセンサ表面に設けられた端子を備え、前記角度は、0°または90°、もしくは両者の角度の間の値となっている、請求項1?12のうちの1項に記載のセンサ。 【請求項14】 前記回路は、センサ要素の電気信号またはアナログ入力信号に応じて発生された電気信号のうちの1つ以上を含む信号をアナログ-デジタル変換するためのA/D変換器(2b)、とデジタル信号処理部分(2c)とを含む集積回路を備え、前記集積回路は、 -入力データ、プログラムデータ、測定データ、中間データのうちの1つ以上を記憶するためのメモリ部分、 -出力すべきデータを符号化し、および/または入力データを復号化するための符号化および/または復号化手段、 -前記A/D変換手段および/または前記符号化および/または復号化手段の入力および/または出力の接続を制御するための多重化コマンド手段、 -前記センサ要素の出力から得られた信号を処理するための計算手段 のうちの1つ以上を備えることができ、 前記集積回路は、更に -前記センサ要素からの前記電気信号を増幅するための増幅手段、 -1つのセンサ要素に接続可能なインピーダンス変換手段、 -フィルタ手段 のうちの1つ以上を含むアナログ回路部分(2a)を備えることができる、請求項1?13のうちの1項に記載のセンサ。」 (2)本件補正後の特許請求の範囲 本件補正により、特許請求の範囲は次のとおり補正された(下線部は、請求人が付したもので、補正箇所を示すものである。) 「 【請求項1】 配置ラインに沿って配置されると共にそれぞれ入射する放射線に応じて電気信号をそれぞれ発生する複数の放射線センサ要素(1)と、 前記放射線センサ要素のすべてを収納するハウジング(4)と、 前記配置ラインに沿って配置されたすべての前記センサ要素に向けて入射放射線を収束させるための、光軸を有する1つだけの放射線収束手段と、 前記センサ要素の電気信号を受けると共にこのセンサ要素の電気信号に応じて出力信号を発生する回路(2)とを備える放射線センサ(10)であって、 前記放射線センサが垂直の壁に設置され、前記配置ラインが垂直となった場合に、前記配置ラインの中点が前記収束手段(5)の光軸に対して垂直の方向にオフセットして、前記放射線センサの最上部のセンサ要素はより近い領域を向き、前記放射線センサの最下部のセンサ要素がより遠い領域を向くように構成されている ことを特徴とする、放射線センサ(10)。 【請求項2】 前記センサ要素の少なくとも一部は、前記配置ラインに沿った寸法で異なる長さの有効検出領域を含む、互いに比較して異なるサイズの検出部分を有することを特徴とする、請求項1に記載の放射線センサ(10)。 【請求項3】 前記センサ要素の少なくとも一部は、互いに比較して異なる相対的感度を有し、異なる構造の検出部分によって作製されるか、または前記センサ要素上に吸収層もしくは反射層を含む影響層を異なるように供給することによって作製されていることを特徴とする、請求項1?2のうちの1項に記載の放射線センサ(10)。 【請求項4】 隣接するセンサ要素の2つ以上のペアは、異なるピッチを有することを特徴とする、請求項1?3のうちの1項に記載の放射線センサ(10)。 【請求項5】 前記収束手段は、放射線を収束させるための1つ以上の収束部分と、放射線を曲げるための1つ以上の曲げ部分とを備え、前記収束部分と前記曲げ部分とは、一体的に形成されていることを特徴とする、請求項1?4のうちの1項に記載の放射線センサ(10)。 【請求項6】 前記配置ラインは前記光軸と交差する直線である、請求項1?5のうちの1項に記載のセンサ。 【請求項7】 前記収束手段は、前記センサ要素を収納する前記ハウジングの一部として設けることができるレンズ部分を含み、前記レンズ部分は、球面レンズまたは補正構造を有するレンズとすることができる、請求項1?6のうちの1項に記載のセンサ。 【請求項8】 前記配置ラインは、前記光軸の片側でより長い部分を有し、前記光軸の反対側でより短い部分を有し、 前記センサ要素のサイズは、前記長い部分上の最も外側のセンサ要素から、前記中点に近いセンサ要素に向かって減少し、 前記センサ要素の感度は、前記長い部分上の最も外側のセンサ要素から、前記中点に近いセンサ要素に向かって増加または減少し、および/または 前記ピッチは、前記長い部分上の最も外側のセンサ要素から、前記中点に近いセンサ要素に向かって小さくなる、請求項2?5のうちの1項に記載のセンサ。 【請求項9】 1つ以上の別の配置ラインに沿って配置された複数の別のセンサ要素を含む、請求項1?8のうちの1項に記載のセンサ。 【請求項10】 前記センサ要素は、赤外線放射線を検出でき、入射放射線の吸収を高めるための影響層によってカバーされている、請求項1?9のうちの1項に記載のセンサ。 【請求項11】 前記回路は、前記センサ要素の各々からの前記出力信号に対して別々に重み付けするための手段を含む、請求項1?10のうちの1項に記載のセンサ。 【請求項12】 前記内部配置ラインの配置を示すための外側マーカーを含む、請求項1?11のうちの1項に記載のセンサ。 【請求項13】 前記光軸に対して所定の角度を有するセンサ表面に設けられた端子を備え、前記角度は、0°または90°、もしくは両者の角度の間の値となっている、請求項1?12のうちの1項に記載のセンサ。 【請求項14】 前記回路は、センサ要素の電気信号またはアナログ入力信号に応じて発生された電気信号のうちの1つ以上を含む信号をアナログ-デジタル変換するためのA/D変換器(2b)、とデジタル信号処理部分(2c)とを含む集積回路を備え、前記集積回路は、 -入力データ、プログラムデータ、測定データ、中間データのうちの1つ以上を記憶するためのメモリ部分、 -出力すべきデータを符号化し、および/または入力データを復号化するための符号化および/または復号化手段、 -前記A/D変換手段および/または前記符号化および/または復号化手段の入力および/または出力の接続を制御するための多重化コマンド手段、 -前記センサ要素の出力から得られた信号を処理するための計算手段 のうちの1つ以上を備えることができ、 前記集積回路は、更に -前記センサ要素からの前記電気信号を増幅するための増幅手段、 -1つのセンサ要素に接続可能なインピーダンス変換手段、 -フィルタ手段 のうちの1つ以上を含むアナログ回路部分(2a)を備えることができる、請求項1?13のうちの1項に記載のセンサ。」 (3)補正事項 上記(1)-(2)から、本件補正は、以下の補正事項からなるものである。 (補正事項1)補正前の請求項1における「前記配置ラインの中点は、前記収束手段(5)の光軸に対してオフセットしている」を、「前記放射線センサが垂直の壁に設置され、前記配置ラインが垂直となった場合に、前記配置ラインの中点が前記収束手段(5)の光軸に対して垂直の方向にオフセットして、前記放射線センサの最上部のセンサ要素はより近い領域を向き、前記放射線センサの最下部のセンサ要素がより遠い領域を向くように構成されている」に限定する。 (補正事項2)補正前の請求項7における「前記収束手段は、前記センサ要素を収納する前記ハウジングの一部として設けることができ、前記レンズ部分は、球面レンズまたは補正構造を有するレンズとすることができる」との記載を、「前記収束手段は、前記センサ要素を収納する前記ハウジングの一部として設けることができるレンズ部分を含み、前記レンズ部分は、球面レンズまたは補正構造を有するレンズとすることができる」と補正する。 2 平成28年8月24日付け補正の却下の決定の概要 平成28年8月24日付け補正の却下の決定の概要は、次のとおりである。 (1)平成28年3月1日付け手続補正書による請求項1-14についての補正は限定的減縮を目的としている。 (2-1)請求項1に係る発明は、以下の引用文献1-2に基づいて、又は引用文献3に基づいて、又は引用文献3及び引用文献1、4-5にみられるような周知の技術的事項に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものである。 (2-2)請求項2、4、6-7、9-10、12-14に係る発明は引用文献1-5に基づいて、請求項3、8、11に係る発明は以下の引用文献1-6に基づいて、請求項5に係る発明は以下の引用文献1-7に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (3)したがって、補正後の請求項1-14に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。 (4)よって、平成28年3月1日付け手続補正書でした特許請求の範囲の補正は特許法第17条の2第6項において準用する特許法第126条第7項の規定に違反するものであるから、特許法第53条第1項の規定により、平成28年3月1日付け手続補正書でした補正を却下することを決定する。 <引用文献等一覧> 1.特開平9-101204号公報 2.特開平10-281865号公報 3.特表平2-504440号公報 4.特開平6-94535号公報 5.特開2007-285892号公報 6.特開平10-142046号公報 7.特開平1-209432号公報 3 平成28年8月24日付け補正の却下の決定についての検討 (1)補正の目的について ア 補正事項1 補正事項1(上記1(3))は、限定を付加するものであって、補正の前後で請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であることは明らかであるから、特許法第17条の2第5項第4号に掲げる特許請求の範囲の限定的減縮に該当する。 請求項2-14は、請求項1を直接的又は間接的に引用するものであるから、補正事項1による補正で、請求項1に係る発明が限定的減縮されたことに伴い、請求項2-14に係る発明も限定的減縮されている。 イ 補正事項2 補正事項2(上記1(3))は、平成27年8月28日付けの拒絶理由通知における「理由1」で指摘された不明確な記載を明確な記載となるように補正するものであるから、特許法第17条の2第5項第4号に掲げる明りょうでない記載の釈明に該当する。 そこで、上記補正事項1に係る補正後の請求項1-14に係る発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすか否か)について検討する。 (2)独立特許要件について ア 本願補正発明 本願の請求項1-14に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-14に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1-14に係る発明(それぞれ、「本願補正発明1」-「本願補正発明14」という。)は、上記1(2)に記載のとおりのものであり、本願補正発明1には、以下のとおり、当審にて分説しA)?G)の見出しを付けた。 「 【請求項1】 A)配置ラインに沿って配置されると共にそれぞれ入射する放射線に応じて電気信号をそれぞれ発生する複数の放射線センサ要素(1)と、 B)前記放射線センサ要素のすべてを収納するハウジング(4)と、 C)前記配置ラインに沿って配置されたすべての前記センサ要素に向けて入射放射線を収束させるための、光軸を有する1つだけの放射線収束手段と、 D)前記センサ要素の電気信号を受けると共にこのセンサ要素の電気信号に応じて出力信号を発生する回路(2)と E)を備える放射線センサ(10)であって、 F)前記放射線センサが垂直の壁に設置され、前記配置ラインが垂直となった場合に、前記配置ラインの中点が前記収束手段(5)の光軸に対して垂直の方向にオフセットして、前記放射線センサの最上部のセンサ要素はより近い領域を向き、前記放射線センサの最下部のセンサ要素がより遠い領域を向くように構成されていることを特徴とする、 G)放射線センサ(10)。」 イ 刊行物の記載及び引用発明 (ア)引用文献1について a 引用文献1に記載された事項 平成28年8月24日付けの補正の却下の決定で引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平9-101204号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の記載がある(下線は当審が付した。以下同じ。) (引1a)「【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、焦電型赤外線センサを用いた物体表面温度の測定及び物体の通過検出に関する。 ・・・ 【0011】本発明は、上記従来例の課題を解決するもので、一次元に配列された複数の焦電型赤外線検出素子を用いて、小型でかつ簡単な構造の焦電型赤外線検出装置を構成することを目的とするものである。 【0012】さらに、本発明は、上記焦電型赤外線検出装置を用いて、人体などの温熱物体の通過検出装置を構成し、人体通過箇所に対し、死角をない赤外線検出域を設けるとともに装置設置が容易に行え、人体などの温熱物体の通過検出や情報の確率を向上させることを目的とするものである。」 (引1b)「【0018】 【実施例】以下、本発明の一実施例における焦電型赤外線検出装置について図面とともに説明する。 【0019】図1(a)は、一実施例である焦電型赤外線検出装置の断面図を示しており、1’は図2のように一次元に複数個配列された焦電型赤外線検出素子1により構成された赤外線検出器である。3は赤外線通過レンズであり、赤外線検出器1’の赤外線検出素子1とともに図3の帯状に広がる配光a,b,…hを得る。すなわち、焦電型赤外線検出装置は前記帯状の各配光a,b,…hに対応した部分の放射赤外線を検出する。4は偏平モータのロータに一部切り欠きを有する円板からなるチョッパ機構であり、図4のようにチョッパ機構4を一定周期で動作させると入射赤外線もこれに同期して変化する。そして、この入射赤外線の変化に対応して、焦電型赤外線素子1には電気信号出力が励起される。 【0020】この電気信号出力Vは、ステファン・ボルツマンの法則に従い、(1)式のように、チョッパの絶対温度T_(c)と被測定物体表面絶対温度T_(b)の各4乗の差に比例する。 【0021】 V=k_(1)・(T_(b)^(4)-T_(c)^(4)) (1) (但し、k_(1)は比例定数) しかしながら、被測定物体表面絶対温度T_(b)とチョッパの絶対温度T_(c)の差が小さい場合には、電気信号出力Vは、T_(b)とTcの差に線形的に変化し、(2)式のように表することが可能である。 【0022】 V=k_(2)・(T_(b)-T_(c)) (2) (但し、k_(2)は比例定数) また、図1の5はチョッパの周期を中心通過帯域とする帯域増幅器であり、50/60Hzなどの商用電源の影響や赤外線検出素子の熱的な低周波数のノイズなどを低減するとともに、得られた電気信号出力Vを増幅する。 【0023】したがって、k_(2)が求められれば、被測定物体表面絶対温度T_(b)とチョッパの絶対温度T_(c)の差は、(2)式よりV/k_(2)で簡単に算出でき、チョッパの絶対温度T_(c)が予め分かっていれば、(3)式のように被測定物体表面絶対温度T_(b)が求められる。 【0024】 T_(b)=T_(c)+V/k_(2) (3) 図18の熱画像検出装置も(1)?(3)の計算式により各焦電型赤外線検出素子1に対応した部分の温度測定を行うが、本発明の焦電型赤外線検出装置はステッピングモータ6を匡体内に含まないため、装置を小型化できるとともに特定部分の温度測定を連続して行うことができる。 【0025】図5のように、本焦電型赤外線装置を焦電型赤外線素子1の配列方向と垂直方向に水平回転(a)させたり、直線的に移動(b)させることにより、図18の熱画像検出装置と同様に熱画像の検出が可能である。 【0026】図1(b)は、本焦電型赤外線検出装置8の機能別のブロックダイアグラムを示したものであり、図6は本焦電型赤外線検出装置の動作のフローを示す。焦電型赤外線検出装置による温度検出を行うためには、各焦電型赤外線検出素子1の電気信号出力VをAD変換したり(102)、(3)式の計算(103)を行うマイクロコンピュータ7が必要であり、このマイクロコンピュータ7はチョッパ機構4(101)の制御やその他の通過検出や移動方向検出などの演算(104)を行い、その結果の出力(106)も行う。図1(a)の焦電型赤外線検出装置8の匡体内にマイクロコンピュータ7,出力表示機能や電源などを内蔵することにより携帯可能な焦電型赤外線検出装置8が提供できる。」 (引1c)「【0032】 【発明の効果】本発明は上記説明から明らかなように、一匡体内に、一次元に配列された複数の焦電型赤外線素子、前記赤外線素子の前方に配置した赤外線レンズ、入射赤外線の変化を励起させるためのチョッパ機構、及び前記赤外線素子の後方に赤外線素子に発生した信号を選択増幅するための帯域増幅器を配したり、入出力を有するマイクロコンピュータを有することにより小型で携帯可能な焦電型赤外線検出装置を構成できる。また、本焦電型赤外線検出装置は、同じ箇所の温度測定を連続して行うことができる上に、外部の水平回転機構により焦電型赤外線検出装置を回転駆動させることにより熱画像の検出も可能である。 【0033】また、本焦電型赤外線検出装置において、赤外線検出素子からの信号の時系列変化により人体などの通過を検出が可能であり、本焦電型赤外線検出装置を複数個空間的に組み合わせることにより通過検出帯域の死角をなくすことができる。さらに、装置の設置も容易に行え、人体通過の検出確率,移動方向,在/不在などの状態や移動速度などの情報の精度の向上が期待できる。 【0034】加えて、本焦電型赤外線検出装置により、人体情報に基づいて、警報機,照明装置,自動ドアなどの機器を作動させることにより防犯や安全性を向上させることができる。」 (引1d)図1は、以下のようなものである。 (引1e)図3は、以下のようなものである。 図3において、赤外線透過レンズには符号「2」が付されているが、【0019】段落の記載から、符号「3」の誤記であることは明らかである。 b 引用文献1の記載から把握できる事項 b-1 【0026】段落の「(3)式の計算(103)を行う」ことは、【0020】-【0024】段落の記載から、「比例定数k_(2) 、焦電型赤外線検出素子1の電気信号出力V、及びチョッパの絶対温度T_(c)から、T_(b)=T_(c)+V/k_(2) の式に基づいて、被測定物体表面絶対温度T_(b)の温度を求める」ことであることは明らかである。 b-2 図1、図3から、赤外線透過レンズ3が光軸を有していることは明らかである。 b-3 【0032】段落の「焦電型赤外線素子」及び「赤外線レンズ」は、それぞれ、「焦電型赤外線検出素子1」及び「赤外線透過レンズ3」を指していることは明らかである。 c 引用文献1に記載された発明 上記(引1a)-(引1c)の下線部の事項に、上記bでの検討を加えて整理すると、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。 なお、引用発明1の認定の根拠となった対応する段落番号等を付記した。 「一匡体内に、一次元に配列された複数の焦電型赤外線検出素子1、前記赤外線検出素子1の前方に配置した赤外線透過レンズ3、及び入出力を有するマイクロコンピュータを有する焦電型赤外線検出装置であって(【0032】、上記b-3)、 マイクロコンピュータ7は、各焦電型赤外線検出素子1の電気信号出力VをAD変換したり、比例定数k_(2) 、焦電型赤外線検出素子1の電気信号出力V、及びチョッパの絶対温度T_(c)から、T_(b)=T_(c)+V/k_(2) の式に基づいて、被測定物体表面絶対温度T_(b)の温度を求めたり、その他の通過検出や移動方向検出などの演算(104)を行うものであり(【0026】、上記b-1)、 赤外線通過レンズ3は、光軸を有し、赤外線検出器1’の赤外線検出素子1とともに帯状に広がる配光a,b,…hを得、焦電型赤外線検出装置は前記帯状の各配光a,b,…hに対応した部分の放射赤外線を検出する(【0019】、上記b-2) 焦電型赤外線検出装置」 (イ)引用文献2について 平成28年8月24日付けの補正の却下の決定及び原査定で引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平10-281865号公報(以下「引用文献2」という。)には、以下の記載がある。 (引2a)「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、熱線センサに係り、特にその光学系に関する。 【0002】 【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】従来の熱線センサでは複数の警戒ゾーンを有しているのが通常であり、それらの警戒ゾーンは一つの反射ミラーによって形成されている。従って、従来の熱線センサでは熱線の変化を検知した場合、その熱線の変化がどこの警戒ゾーンで生じたのかを判別することはできないものであった。また、反射ミラーを設けるため、構造が複雑になるものであった。 【0003】本発明は、上記の課題を解決するものであって、構造が簡単で、しかも熱線の変化がどこの警戒ゾーンで生じたかを検知することができる熱線センサの光学系を提供することを目的とするものである。 【0004】 【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するために、本発明の熱線センサの光学系は、複数の検知素子に対して一つの固定焦点の単眼レンズが配置されてなる単位光学系が複数設けられてなり、且つ各単位光学系の単眼レンズの焦点距離は互いに異ならされていることを特徴とする。 【0005】ここで、各単位光学系において、単眼レンズの光軸は複数の検知素子の中心から外すようにすると、警戒ゾーンを所望の方向に形成することができる。」 (引2b)「【0006】 【発明の実施の形態】以下、図面を参照しつつ実施の形態について説明する。図1は本発明に係る熱線センサの光学系の一実施形態を示す図であり、図中、L_(1) 、L_(2) は固定焦点の単眼の凸レンズ(以下、単に単眼レンズと称する)であり、例えばフレネルレンズで構成することができる。なお、図1では各単眼レンズの主面のみを示している。P_(1 )、P_(2) 、P_(3 )、P_(4) 、P_(5) 、P_(6) は検知素子であり、例えば焦電素子が用いられる。O_(1) は単眼レンズL_(1) の光軸、O_(2 )は単眼レンズL_(2) の光軸である。 【0007】3個の検知素子P_(1 )、P_(2) 、P_(3 ) が同一平面上に適宜な間隔で配置されており、これら3個の検知素子P_(1 )、P_(2) 、P_(3 )に対して固定焦点の単眼レンズL_(1) が配置されている。この単眼レンズL_(1) の焦点距離をf1 とすると、3個の検知素子P_(1 )、P_(2) 、P_(3 )の表面と単眼レンズL_(1) の主面までの距離l_(1) は略同じにすればよい。即ち、l_(1) ≒f_(1) とすればよい。l_(1) =f_(1) としてもよいことは当然である。 【0008】単眼レンズL_(1) の光軸O_(1) は3個の検知素子P_(1 )、P_(2) 、P_(3 )の中心位置から外れている。従って、図に示すように、検知素子P_(1 )によって警戒ゾーンZ_(1 )が形成され、検知素子P_(2)によって警戒ゾーンZ_(2) が形成され、検知素子P_(3 ) によって警戒ゾーンZ_(3 ) が形成される。即ち、一つの検知素子によって一つの警戒ゾーンが形成されることになる。そして、単眼レンズL_(1) の光軸O_(1) を3個の検知素子P_(1 )、P_(2) 、P_(3 ) の中心位置から外す度合いを調整することによって、これらの検知素子P_(1 )、P_(2) 、P_(3 )によって形成される警戒ゾーンの位置を調整することができる。なお、光線図は近軸光線の考え方に基づいて描いているものである。 【0009】このように、単眼レンズL_(1) 、検知素子P_(1 )、P_(2) 、P_(3 )で一つの単位光学系を構成している。 【0010】同様に、単眼レンズL_(2) 、検知素子P_(4) 、P_(5) 、P_(6) は一つの単位光学系を構成している。 【0011】3個の検知素子P_(4) 、P_(5) 、P_(6) が同一平面上に適宜な間隔で配置されており、これら3個の検知素子P_(4) 、P_(5) 、P_(6) に対して固定焦点の単眼レンズL_(2) が配置されている。この単眼レンズL_(2) の焦点距離をf_(2) とすると、3個の検知素子P_(4) 、P_(5) 、P_(6) の表面と単眼レンズL_(2) の主面までの距離l_(2)は略同じにすればよい。即ち、l_(2) ≒f_(2) とすればよい。l_(2) =f_(2) としてもよいことは当然である。 【0012】単眼レンズL_(2) の光軸O_(2) は3個の検知素子P_(4) 、P_(5) 、P_(6) の中心位置から外れている。従って、図に示すように、検知素子P_(4)によって警戒ゾーンZ_(4)が形成され、検知素子P_(5) によって警戒ゾーンZ_(5)が形成され、検知素子P_(6)によって警戒ゾーンZ_(6) が形成される。このように、この単位光学系でも一つの検知素子によって一つの警戒ゾーンが形成される。そして、単眼レンズL_(2) の光軸O_(2)を3個の検知素子P_(4) 、P_(5) 、P_(6)の中心位置から外す度合いを調整することによって、これらの検知素子P_(4) 、P_(5) 、P_(6)によって形成される警戒ゾーンの位置を調整することができる。なお、この単位光学系に関しても光線図は近軸光線の考え方に基づいて描いているものである。」 (引2c)図1は、以下のようなものである。 (ウ)引用文献3について a 引用文献3に記載された事項 平成28年8月24日付けの補正の却下の決定で引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特表平2-504440号公報(以下「引用文献3」という。)には、以下の記載がある。 (引3a)「技術分野 本発明は空間内の物体の在在と位置を検出する侵入検出法に関し、特に、赤外線の放射ビームを視野に送出し、選択期間中に視野から反射されるビームの赤外線装置からの距離を測定し、この距離を基準信号と比較し、検出距離が基準距離と所定の態様で異なる場合に出力信号を発生することにより、空間内の物体の位置を求めるアクティブな赤外線装置の作動方法に関する。」(第2頁左上欄3-9行目) (引3b)「発明を実施するための最良の態様 本発明による侵入検出法を実施する装置を第1図に示す。この装置では、光ビームを監視区域である装置の視野に送出する。そして、視野の周辺、例えば、壁、フェンス、床等に光スポットが照射され、イメージセンサーにより、視野の画像内のスポットの位置が検出され、スポットまでの距離が判別される。 第1図を参照して侵入検出装置8の全体構成と動作を説明する。図示のように、光ビームを送出する手段として、発光ダイオード(LED)10がレンズ12に関連して設けられ、これから、装置の視野に光ビームが送出される。好ましくは、ダイオード10は赤外線を出力する。詳細には、ダイオード10は赤外放射の強いコヒーレントなビームを出力する赤外線レーザーダイオードである。(ビームを集光あるいは高指向性の光源から出力する場合にはレンズ12は不要である。)ビームは径路14を通って周壁15のスポットO_(1)を照射する。このシーンの画像は第2のレンズ16を介して光検出手段としての光センサー18のアレー(実施例では赤外線の放射に応答するアレー)に取り込まれる。レンズ16あるいは、同様の偏向機能をもつミラー、ホログラフ要素のような光偏向手段により、反射ビームを反射ビームの装置からの反射距離によって特定される特定の光センサーに偏向入力する。光センサーで光電変換された信号を電子処理回路20で分析して視野から反射したビームの検出装置からの距離を判別する。次に電子処理回路は検出装置から物体までの距離を表わす信号を生成する。第1図に例示するように、視野内の照射スポットの位置は光路14に沿う物体までの距離の関数である。侵入検出装置が距離D1に位置する物体O_(1)に対しては、その照射スポットのイメージはセンサーアレーの位置S1に入力される。これより近い距離D2にある物体O_(2)に対しては、そのスポットのイメージがセンサーアレーの位置S_(2)に入力される。センサーアレーの出力を調べることにより、例えば各素子の出力を比較して最大値の出力の素子を判別することにより、電子処理回路20は視野内の照射スポットの位置、したがって侵入検出装置から物体までの距離を判別できる。次に、このようにして生成された距離信号は比較器(電子処理回路20に内蔵される)に送られ、ここで、選択(現在の)距離信号がメモリに予め記憶された基準信号と比較される。比較器により、選択信号が基準信号と所定の態様で異なると判定されたときは警報信号が出力される。」(第3頁左上欄17行目-同頁左下欄4行目) (引3c)「以下、第1,第2,第3図を参照して、本発明の侵入検出装置の動作を説明する。第3図においてLED10と光センサーアレー18を備えた侵入検出装置8が、例えば廊下152の端壁150に設置される。侵入検出装置は廊下152の長さ方向を向き、複数のドア156?158のような出入口を介して反対の壁154と対向する。LED10とレンズ12により、光ビーム214が視野、この場合、廊下152に沿って壁に投射され、そのスポットを照射する。視野からの反射光はレンズ16を介してセンサーアレー18に取り込まれる。」(第3頁右下欄12-20行目) (引3d)図1は、以下のようなものである。 図1から、第2のレンズ16の光軸は、光センサー18のアレーの中心からずれて配置されていることが読み取れる。 (引3e)図3は、以下のようなものである。 b 引用文献3の記載から把握できる事項 引用文献3の図1及び図3から、図3のように廊下の端壁150に設置された場合の、センサーアレイ18の配置ラインは、水平となっていることは明らかである。 c 引用文献3に記載された発明 上記(引3a)-(引3d)の下線部の事項に、上記bでの検討を加えて整理すると、引用文献3には、以下の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されている。 なお、引用発明の認定の根拠となった対応する摘記箇所等を付記した。 「LED10と光センサーアレー18を備えた侵入検出装置8であって(引3c)、 発光ダイオード(LED)10がレンズ12に関連して設けられ、これから、装置の視野に光ビームが送出され、ダイオード10は赤外線を出力し、ビームは径路14を通って周壁15のスポットO_(1)を照射し、このシーンの画像は第2のレンズ16を介して光検出手段としての光センサー18のアレー(実施例では赤外線の放射に応答するアレー)に取り込まれ、光センサーで光電変換された信号を電子処理回路20で分析して視野から反射したビームの検出装置からの距離を判別し、次に電子処理回路は検出装置から物体までの距離を表わす信号を生成し(引3b)、 廊下152の端壁150に設置され(引3c)、 第2のレンズ16の光軸は、光センサー18のアレーの中心からずれて配置され(図1)、 センサーアレイ18の配置ラインは、水平となっている(上記b) 侵入検出装置8」 (エ)引用文献4について 平成28年8月24日付けの補正の却下の決定及び原査定で引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平6-94535号公報(以下「引用文献4」という。)には、その【0035】段落の記載からみて、「垂直軸上に一次元に配置された複数の焦電型熱検出素子群と前記焦電型熱検出素子群と一体となった光学系と、前記直線軸に平行あるいは一定の角度だけ傾斜させた回転軸を持ち、前記焦電型熱検出素子群により温度を計測しながら前記回転軸を中心として回転させて2次元画像を得る熱画像検出装置」という技術的事項が記載されている。 (オ)引用文献5について 平成28年8月24日付けの補正の却下の決定及び原査定で引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2007-285892号公報(以下「引用文献5」という。)には、その【0005】-【0008】段落、図1、13-15の記載からみて、「赤外線吸収膜が複数個配列されたサーモパイルアレイチップ18と、平凸単レンズ5を備えた赤外線透過窓3を有する金属CANケース4とを同一ケーシングした1行8列のインライン型サーモパイルアレイセンサを用いたサーモパイルアレイ温度検出器であって、インライン型サーモパイルアレイチップ18上吸収膜10の位置は、所定の検出域を例えば前記平凸単レンズ5で近軸光線理論を用いて投影した位置に設定されたサーモパイルアレイ温度検出器」という技術的事項が記載されている。 (カ)引用文献6について 平成28年8月24日付けの補正の却下の決定及び原査定で引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平10-142046号公報(以下「引用文献6」という。)には、その【0031】-【0038】段落及び図5-6の記載からみて、「部屋の天井面や天井面に近い片隅に斜めに取り付けられる焦電型赤外線検出装置において、床面までの距離に応じて赤外線検出素子7の感度を異ならせる」という技術的事項が記載されている。 (キ)引用文献7について 平成28年8月24日付けの補正の却下の決定及び原査定で引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平1-209432号公報(以下「引用文献7」という。)には、その【産業上の利用分野】欄、第3頁右上欄1-5行目及び第6図の記載からみて、「コンパクトカメラ、ビデオカメラ又は電子カメラ等に好適なファインダー光学系において、測光素子8に結像させるための結像レンズ11と光路を折り曲げるためのミラー10とを一体的に形成する」という技術的事項が記載されている。 ウ 対比・判断 ウ-1 本願補正発明1と引用発明1との対比及び判断 (ア)対比 本願補正発明1と引用発明1とを対比する。 a A)について 引用発明1の「一次元に配列された複数の焦電型赤外線素子」は、「放射赤外線を検出」して「電気信号出力V」を出力するものであるから、本願補正発明1の「配置ラインに沿って配置されると共にそれぞれ入射する放射線に応じて電気信号をそれぞれ発生する複数の放射線センサ要素」に相当する。 b B)について 引用発明1の「匡体」は、「一次元に配列された複数の焦電型赤外線素子」を「一匡体内に」配置するものであるから、本願補正発明1の「前記放射線センサ要素のすべてを収納するハウジング」に相当する。 c C)について 引用発明1の「赤外線検出器1’の赤外線検出素子1とともに帯状に広がる配光a,b,…hを得」る「光軸を有し」、「前記赤外線検出素子の前方に配置した赤外線透過レンズ」は、本願補正発明1の「前記配置ラインに沿って配置されたすべての前記センサ要素に向けて入射放射線を収束させるための、光軸を有する1つだけの放射線収束手段」に相当する。 d D)について 引用発明1の「各焦電型赤外線検出素子1の電気信号出力VをAD変換したり、比例定数k_(2) 、焦電型赤外線検出素子1の電気信号出力V、及びチョッパの絶対温度T_(c)から、T_(b)=T_(c)+V/k_(2) の式に基づいて、被測定物体表面絶対温度T_(b)の温度を求めたり、その他の通過検出や移動方向検出などの演算(104)を行う」「マイクロコンピュータ7」は、本願補正発明1の「前記センサ要素の電気信号を受けると共にこのセンサ要素の電気信号に応じて出力信号を発生する回路」に相当する。 e E)、G)について 引用発明の「焦電型赤外線検出装置」は、「放射赤外線を検出する」ものであるから、本願補正発明1の「放射線センサ」に相当する。 f a-eから、本願補正発明1と引用発明1とは、次の一致点で一致し、次の相違点で相違する。 (一致点) 「配置ラインに沿って配置されると共にそれぞれ入射する放射線に応じて電気信号をそれぞれ発生する複数の放射線センサ要素(1)と、 前記放射線センサ要素のすべてを収納するハウジング(4)と、 前記配置ラインに沿って配置されたすべての前記センサ要素に向けて入射放射線を収束させるための、光軸を有する1つだけの放射線収束手段と、 前記センサ要素の電気信号を受けると共にこのセンサ要素の電気信号に応じて出力信号を発生する回路(2)と を備える放射線センサ」 (相違点) <相違点1>放射線センサ要素の配置ラインと、放射線収束手段との位置関係について、本願補正発明1は、「前記放射線センサが垂直の壁に設置され、前記配置ラインが垂直となった場合に、前記配置ラインの中点が前記収束手段(5)の光軸に対して垂直の方向にオフセットして、前記放射線センサの最上部のセンサ要素はより近い領域を向き、前記放射線センサの最下部のセンサ要素がより遠い領域を向くように構成されている」のに対し、引用発明1には、そのような特定がない点。 (イ)判断 上記相違点1について検討する。 (イ-1)引用文献2記載の技術的事項との組み合わせについて 引用文献2には、上記イ(イ)で摘記した(引2a)-(引2b)から、「単眼レンズの光軸を3個の検知素子の中心位置から外すことによって、これらの検知素子によって形成される警戒ゾーンの位置を調整したり警戒ゾーンを所望の方向に形成した単位光学系を2つ有する熱線センサの光学系」の技術的事項が記載されている。 しかしながら、引用発明1の「焦電型赤外線検出装置」は、特定の方向や位置を警戒するためのものではなく、「回転駆動させることにより熱画像の検出も可能」(【0032】段落)であり、また「複数個空間的に組み合わせることにより通過検出帯域の死角をなくすことができる」(【0033】段落)ものであるから、引用発明1の「焦電型赤外線検出装置」において、「配光a,b、…h」の位置や方向を、引用文献1の図3(上記イ(ア)aで摘記した(引1e))に示された位置関係から変更する必要がないことは明らかである。 したがって、配光の位置や方向を変更する必要がない引用発明1に対して、引用文献2記載の警戒ゾーンの位置や方向を調整するための技術的事項を採用することには、動機がない。 仮に、引用文献2記載の技術的事項を採用する動機があったとする。 引用文献1-7には、「放射線センサが垂直の壁に設置され、配置ラインが垂直となった場合に」「放射線センサの最上部のセンサ要素」が「より近い領域」を向くべきであるか「より遠い領域」を向くべきであるかに関して、記載も示唆もされていない。 したがって、引用発明1に、引用文献2記載の技術的事項を採用したとしても、上記相違点1に係る本願補正発明1の「放射線センサが垂直の壁に設置され、配置ラインが垂直となった場合に」「前記放射線センサの最上部のセンサ要素はより近い領域を向き、前記放射線センサの最下部のセンサ要素がより遠い領域を向くように構成」することは、当業者が、容易に想到し得たということはできない。 なお、平成28年8月24日付け補正の却下の決定においては、当該相違点1に係る本願補正発明1の「前記放射線センサの最上部のセンサ要素はより近い領域を向き、前記放射線センサの最下部のセンサ要素がより遠い領域を向くように構成」することについて、「引用文献1の図3に示されている焦電形赤外線検出素子1の位置とその配向との関係から、最上部の焦電形赤外線検出素子1はより近い領域を向き最下部の焦電形赤外線検出素子1はより遠い領域を向くことになるのも明らかである」(「配向」は「配光」の誤記であると認められる)と説示しているが、引用文献1の図3(上記イ(ア)aで摘記した(引1e))からは、配光a?hのうち、どの配光が「より遠い領域を向き」、どの配光が「より近い領域を向」いているのかが明らかであるとはいえないため、引用文献1から、「最上部の焦電形赤外線検出素子1」の配光aが「より近い領域」を向いており、「最下部の焦電形赤外線検出素子1」の配光hが「より遠い領域」を向いていることが、自明であるとはいえない。 (イ-2)引用文献3記載の技術的事項との組み合わせについて 引用文献3の図1には、「第2のレンズ16の光軸は、光センサー18のアレーの中心からずれて配置されている」ことが記載されている。 しかしながら、引用文献3は、光ビームの送出が必要であるアクティブな侵入検出装置に関する文献であって、光ビームの送出を行なわないパッシブな放射赤外線検出器である引用発明1とは、その光学系の設計が異なるものであるから、引用文献3の「第2のレンズ16の光軸は、光センサー18のアレーの中心からずれて配置されている」という技術的事項を、引用発明1に適用する動機がない。 (イ-3)引用文献4-7について 引用文献4-7には、配置ラインの中点と収束手段(5)の光軸とをオフセットさせることについて、記載も示唆もされていない。 したがって、引用発明1、引用文献2ないし7に記載の事項から、当業者が、相違点1に係る本願補正発明1の構成を容易に想到し得たということはできない。 (ウ)小括 したがって、本願補正発明1は、当業者が引用発明1及び引用文献2ないし7に記載の事項に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。 ウ-2 本願補正発明1と引用発明3との対比及び判断 (ア)対比 本願補正発明1と引用発明3とを対比する。 (a) A)について 引用発明3の「光センサー18のアレー」は、対象物から放射された放射線を感知するものではなく、LED10から出力され、視野から反射した赤外線を検出するものである。 したがって、引用発明3の「光センサー18のアレー」と本願補正発明1の「配置ラインに沿って配置されると共にそれぞれ入射する放射線に応じて電気信号をそれぞれ発生する複数の放射線センサ要素」とは、「配置ラインに沿って配置されると共にそれぞれ入射する光線に応じて電気信号をそれぞれ発生する複数のセンサ要素」である点で共通している。 (b) C)について 引用発明3の「第2のレンズ16」及び「レンズ12」と、本願補正発明1の「前記配置ラインに沿って配置されたすべての前記センサ要素に向けて入射放射線を収束させるための、光軸を有する1つだけの放射線収束手段」とは、「光軸を有する収束手段」である点で共通する。 (c) D)について 引用発明3の「電子処理回路」は、本願補正発明1の「前記センサ要素の電気信号を受けると共にこのセンサ要素の電気信号に応じて出力信号を発生する回路」に相当する。 (d) E)、G)について 引用発明3の「光検出手段としての光センサー18のアレー」を備える「侵入検出装置」と、本願補正発明1の「放射線センサ」とは、「センサ」である点で共通している。 (e) F)について 引用発明3の「廊下152の端壁150に設置され」、「第2のレンズ16の光軸は、光センサー18のアレーの中心からずれて配置され」ることと、本願補正発明1の「前記放射線センサが垂直の壁に設置され、前記配置ラインが垂直となった場合に、前記配置ラインの中点が前記収束手段(5)の光軸に対して垂直の方向にオフセットして、前記放射線センサの最上部のセンサ要素はより近い領域を向き、前記放射線センサの最下部のセンサ要素がより遠い領域を向くように構成されている」こととは、「センサが垂直の壁に設置され、前記配置ラインの中点が前記収束手段の光軸に対してオフセットして」いる点で共通する。 (f) (a)-(e)から、本願補正発明1と引用発明3とは、次の一致点で一致し、次の相違点で相違する。 (一致点) 「配置ラインに沿って配置されると共にそれぞれ入射する光線に応じて電気信号をそれぞれ発生する複数のセンサ要素と、 光軸を有する収束手段と、 前記センサ要素の電気信号を受けると共にこのセンサ要素の電気信号に応じて出力信号を発生する回路と を備えるセンサであって、 センサが垂直の壁に設置され、前記配置ラインの中点が前記収束手段の光軸に対してオフセットしている、センサ」 (相違点) <相違点1’> センサ要素の配置ラインと収束手段との位置関係について、本願補正発明1では、「前記放射線センサが垂直の壁に設置され、前記配置ラインが垂直となった場合に、前記配置ラインの中点が前記収束手段(5)の光軸に対して垂直の方向にオフセットして、前記放射線センサの最上部のセンサ要素はより近い領域を向き、前記放射線センサの最下部のセンサ要素がより遠い領域を向くように構成されている」のに対し、引用発明3は、「センサーアレイ18の配置ラインは、水平」であって、「前記配置ラインが垂直となった場合に、」「前記放射線センサの最上部のセンサ要素はより近い領域を向き、前記放射線センサの最下部のセンサ要素がより遠い領域を向くように構成されている」ことについて特定がない点。 <相違点2> 放射線収束手段について、本願補正発明1では、「前記配置ラインに沿って配置されたすべての前記センサ要素に向けて入射放射線を収束させるための、光軸を有する1つだけの放射線収束手段」であるのに対して、引用発明3の「第2のレンズ16」及び「レンズ12」が光センサーに光を収束するように設計されているか否かが不明である点。 <相違点3> センサについて、本願補正発明1では、「放射線センサ要素」を有し放射線を検出する「放射線センサ」であるのに対して、引用発明3は「光検出手段としての光センサー18のアレー」を備える「侵入検出装置」である点。 <相違点4> レンズの数について、本願補正発明1では、「1つだけ」であるのに対して、引用発明3の「侵入検出装置8」は、「レンズ12」及び「第2のレンズ16」の2つのレンズを備える点。 (イ)判断 上記相違点1’について検討する。 引用文献1-7には、「前記配置ラインが垂直となった場合に」「前記放射線センサの最上部のセンサ要素はより近い領域を向き、前記放射線センサの最下部のセンサ要素がより遠い領域を向くように構成」とすることについて、記載も示唆もされておらず、本願の優先日前に周知の技術的事項であったとも認められない。 したがって、引用発明3及び引用文献1-7に記載の事項から、相違点1’に係る本願補正発明1の構成を当業者が容易に想到し得たということはできない。 (ウ)小括 したがって、他の相違点を検討するまでもなく、本願補正発明1は、当業者が引用発明3及び引用文献1-7に記載の事項に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。 エ 本願補正発明2-14について 本願補正発明2-14も、上記相違点1及び1’に係る本願補正発明1が備える構成と同一の構成を備えるものであるから、本願補正発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明1、3及び引用文献1-7に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 オ また、他に本願補正発明1-14について、特許出願の際独立して特許を受けることができることができないとする理由はない。 (3)むすび 上記(2)で検討したように、本願補正発明1-14が特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである、とはいえない。 そして、他に本件補正を却下すべき理由はない。 したがって、原審における平成28年8月24日付け補正の却下の決定を取り消す。 第3 本願発明について判断 以上のとおり、平成28年8月24日付け補正の却下の決定は取り消されたから、本願の請求項1-14に係る発明は、平成28年3月1日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-14に記載された事項により特定されるとおりのものである。 そして、本願の請求項1-14に係る発明については、原査定の拒絶の理由を検討しても、その理由によって拒絶すべきものとすることはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり、審決する。 |
審決日 | 2017-11-02 |
出願番号 | 特願2013-501671(P2013-501671) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WYA
(G01J)
P 1 8・ 575- WYA (G01J) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 蔵田 真彦 |
特許庁審判長 |
福島 浩司 |
特許庁審判官 |
松岡 智也 ▲高▼橋 祐介 |
発明の名称 | 放射線センサ |
代理人 | 特許業務法人浅村特許事務所 |