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審決分類 審判 査定不服 特174条1項 取り消して特許、登録 G08B
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G08B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G08B
管理番号 1334167
審判番号 不服2016-17876  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-11-30 
確定日 2017-11-28 
事件の表示 特願2014-178628「中継器」拒絶査定不服審判事件〔平成26年11月27日出願公開、特開2014-222548、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成22年3月31日に出願した特願2010-81450号(以下、「原出願」という。)の一部を平成26年9月3日に新たな特許出願としたものであって、平成27年6月29日付けで拒絶理由が通知されたの対し、同年8月21日に意見書及び手続補正書が提出され、平成28年1月29日付けで最後の拒絶理由が通知されたの対し、同年4月7日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年8月26日付けで同年4月7日提出の手続補正書でした手続補正が却下され、同日付け(発送日:同年8月30日)で拒絶査定(以下、「原審拒絶査定」という。)がなされ、これに対し、同年11月30日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、その審判請求と同時に手続補正書が提出され、その後、当審において平成29年7月10日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年8月29日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1及び2に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」及び「本願発明2」という。)は、平成29年8月29日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1及び2は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
警戒区域毎に固有の識別情報を保有し、火災を感知すると火災発報というイベント情報を無線通信によって発信する感知手段と、前記イベント情報に基いて火災の発生およびその発生場所を表示し主音響装置を鳴動させて警報するとともに少なくとも建物内の地区音響装置を鳴動させる連動制御を行って警報し、これらの警報を火災復旧まで保持する火災受信機とを有する自動火災報知設備の構成機器間で情報を中継通信する中継器であって、
前記火災受信機と通信し、前記感知手段と通信する送受信部と、
前記感知手段に対応する前記識別情報を記憶する記憶部と、
前記送受信部が前記記憶部に記憶した前記識別情報を保有する感知手段から前記イベント情報を受信したとき、当該イベント情報の発生場所を特定するため、当該イベント情報に前記記憶部の前記識別情報を加えて前記送受信部から前記火災受信機へ送信させるとともに、当該イベント情報を前記記憶部に格納させて前記火災受信機への送信後も保持させるように制御する制御部と
を備える中継器。
【請求項2】
前記送受信部は、さらに他の中継器と互いに無線通信し、他の中継器が送信したイベント情報を受信したとき、前記制御部は、当該イベント情報を前記記憶部に格納するとともに前記送受信部から前記火災受信機へ送信させるように制御する請求項1に記載の中継器。」

第3 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
(1)引用文献1の記載
原審拒絶査定の理由に引用された引用文献1(特開平11-112401号公報)には、「無線中継装置」に関し、図面とともに次の記載がある。

(ア)「【請求項1】複数の中継装置を介して無線信号を伝送する無線システムに使用する中継装置であって、無線信号を受信する受信手段と、受信情報に含まれる階層データと自己の階層データとを比較し、下位階層の装置からの無線信号か否かを判定する判定手段と、前記判定手段にて下位階層の装置からの無線信号と判定したとき該受信情報を記憶する受信情報記憶手段と、前記受信情報記憶手段に記憶している受信情報の全部又は一部に自己の階層データを付加して無線送信する送信手段とを有することを特徴とした中継装置。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】)

(イ)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、無線を用いた警備システムに関し、特に各種センサの検知情報をコントローラまで無線中継する中継装置に関する。」(段落【0001】)

(ウ)「【0011】
【発明の実施の形態】以下、図に基づき本発明の実施の形態を警備システムを例に説明する。図1は、警備システムの全体構成を示している。警備システムは、コントローラ2と警備センター5とを電話回線等の通信回線4にて接続している。そして、警備領域Aには、警備領域A内への侵入のおそれがある箇所や火災のおそれがある箇所等に適宜設置され、検知情報を含む無線信号として送信するるセンサ送信器3と、該センサ送信器3からの検知情報等を含む無線信号を受信すると更に該検知情報等を無線信号により中継送信する中継装置1と、中継装置1またはセンサ発信器3の送信する検知情報等を含む無線信号を受信するとともに、電話回線4を介して警備センター5に通報するコントローラ2とを設置している。
【0012】図2に基づき、センサ送信器3について説明する。
【0013】センサ送信器3は、人体や窓や扉の開などを検知し侵入を検出する侵入センサ、熱や煙を検出する火災検知器、ガス漏れの検知器など種々のセンサ31とセンサ31から検知信号を受けるセンサI/F32と、ROM・RAMからなる記憶部33と、センサ31の検知情報等を無線信号に変換してアンテナ37を介して無線送信する送信部34と、これらを制御するCPU及びその周辺回路からなる制御部35と、これらに電源を供給する電池36から構成される。
【0014】センサ31はボタンとし、人間が自己の意思によって異常信号を送信できるようにしてもよい。また、センサ31をセンサ送信器3に内臓した構成としてもよい。
【0015】記憶部33は、センサ31の種別、各センサ送信器3及び中継装置1毎に割り当てられている個別識別符号、送信フレーム毎に定めるフレーム識別符号、センサ送信器3の動作プログラムなどを記憶している。ここで、送信フレームについて説明する。送信フレームとは、センサ31の検知情報を送信するときの一単位をいう。そして、この送信フレーム毎にフレーム識別符号を定めている。従って、フレーム識別符号は、検知情報を特定するために用いられる。
【0016】このように構成されたセンサ送信器3は、センサ31からの検知信号の入力をセンサI/F32にて受けると、記憶部33に記憶している自己の個別識別符号、フレーム識別符号、センサ31の種別やアドレス等の検知情報を送信部34から無線信号に変換して送信するように動作する。
【0017】次に、図3を参照して中継装置1について説明する。中継装置1は、後述する自己の階層をディップスイッチで設定する階層設定部11と、ROM・RAMから構成され自己の個別識別符号や受信した情報、プログラム等を記憶する記憶部12と、検知情報を中継送信するために無線信号に変換してアンテナ17から送信する送信部13と、アンテナから他の中継装置1又はセンサ送信器3の送信した無線信号を受信しCPUにて処理できる電気的信号に変換する受信部14と、これらを制御するCPU及び周辺回路からなる制御部15と、これらに電源を供給する電池16とから構成される。」(段落【0011】ないし【0017】)

(エ)「【0018】ここで、中継装置1の階層について説明する。階層データは、図1に記載しているように、センサ送信器3が送信する検知情報を中継装置1がコントローラ2まで中継していく順番に応じて決められる。即ち、階層は、コントローラ2に対して無線信号を中継送信する中継装置1を第1階層、該第1階層の中継装置1に対して中継送信する中継装置1は第2階層と順に決める。したがって、同一階層には、中継装置1が複数台となる場合も、1台となる場合もある。また、記憶部12は、受信部14にて受信した受信情報を記憶する受信バッファと、受信バッファに記憶した受信情報を所定数記憶しておく受信履歴バッファを有している。センサ送信器3の階層は、全て予め最下位の階層として定められているため、センサ送信器3の送信する無線信号は、無線信号が届く範囲の全ての中継装置1にて受信される。
【0019】なお、本実施の形態では、中継装置1を設置した後でも容易に、階層を設定・変更できるようディップスイッチにより設定するようにしたが、記憶部12に予め記憶させておいても良い。この場合は、個別識別符号、使用周波数などの中継装置1の設定データを、コントローラ2から中継装置1へ送信するときに、階層データを含めて設定させるなどの方法が採られる。
【0020】次に、このように構成された中継装置1の動作について、図5及び図6を参照して説明する。図5は、中継装置1の受信動作を示す。中継装置1は、警備領域Aにおけるセンサ送信器3又は他の中継装置1から送信された無線信号を受信するのを待っている(ステップS51)。なお、特に説明を付していないが、警備領域Aにおいて有効な信号か否かは、無線信号のヘッダー及び信号の周波数で識別している。
【0021】そして、警備領域Aにおける有効なセンサ送信器3等からの無線信号を受信したと判定すると、受信処理(ステップS52)を行なう。その後、受信情報に含まれる階層データと階層設定部11に設定している階層とを比較し、自己より下位階層、即ち、自己より大きい番号の階層データか否か判定する(ステップS53)。
【0022】下位階層の中継装置1からの無線信号と判定すれば、ステップS54に進む。ステップS54では、受信履歴バッファに記憶しているフレーム識別符号と、受信情報に含まれるのフレーム識別符号とを照合し、既に受信した受信情報が重複したか、即ち重複フレームを受信したか否か判定する。そして、重複フレームでなければステップS55にて、受信情報を受信バッファ及び受信履歴バッファに記憶する。一方、ステップS54にて、重複フレームと判定した場合は、記憶することなく、ステップS51に戻る。
【0023】従って、重複フレームの判定は、受信履歴バッファを参照することにより、既に中継送信済みの検知情報を再度中継送信しないようにできる。なお、受信履歴バッファを参照したのは、後述する処理であるが、中継装置1では中継送信すると受信バッファから当該受信情報を削除するので、受信バッファとの照合では、既に中継送信した検知情報か否か判断できないからである。また、受信履歴バッファには、フレーム識別符号のみを記憶しておけば、受信履歴を少容量で記憶できるという利点もある。
【0024】また、ステップS53にて、自己より下位階層の中継装置1からの信号でないと判定したとき、つまり、同一階層または上位階層からの信号であれば、ステップS56にて受信バッファのフレーム識別符号と受信情報のフレーム識別符号とを照合し、重複フレームか否か判定する。重複フレームがあると判定した場合は、受信バッファに記憶している当該受信情報を削除(ステップS57)し、ステップS51に戻る。これにより、同位階層又は上位階層の中継装置1が既に中継送信した同じ検知情報を中継送信することがなく、無駄な送信をなくすことができる。一方、ステップS56にてフレーム重複がないときは、何もせずステップS51に戻る。」(段落【0018】ないし【0024】)

(オ)「【0025】次に、図6を参照して、中継装置1の送信処理について説明する。中継装置1では、受信バッファに受信情報があるか否か常時監視し、受信バッファに受信情報が記憶されるまで待機している(ステップS61)。受信バッファに受信情報が記憶されると、所定時間の計時を開始する(ステップS62)。ここで、所定時間とは、各中継装置1毎に異ならせた時間であって、同時に中継装置1が同じ検知情報を受信しても、各中継装置が同じタイミングにて送信することを防ぐための待ち合わせ時間である。
【0026】その後、ステップS63では、受信バッファの受信情報が削除されていないかを判断する。これは、図5におけるステップS57での同位階層又は上位階層の中継装置1からの受信情報が受信バッファ中に重複していた場合に、ステップS57にて重複フレームを削除したか否かを判定している。即ち、同位階層又は上位階層の他の中継装置1が当該受信情報の中継送信を終了させていれば、当該受信情報を中継送信する必要がないので、ステップS61に戻り、次の無線信号の到来を待つ。このステップS63の判定を所定時間にわたって行ない(ステップS64)、所定時間経過すると、図7に示すようなデータにヘッダを付けて送信部13から無線信号を送信する(ステップS65)。そして、受信バッファから当該受信情報を削除し(ステップS66)、ステップS61に戻り次の無線信号の到来を待つ。
【0027】ここで、図7を参照し、中継装置1が中継送信する送信データについて説明する。同図は、中継装置1が送信する送信データに含まれる情報内容を示している。階層データ71とは、階層設定部11に設定している自己の階層データである。個別識別符号72とは、記憶部12に予め記憶されている中継装置1毎に異なる符号である。フレーム識別符号73とは、受信信号に含まれていたフレーム識別符号で、センサ送信器3の送信した検知情報を特定するための符号である。検知情報74とは、センサ送信器3に接続しているセンサ31の検知状態やセンサの種別、センサ31のアドレスなどである。」(【0025】ないし【0027】)

(2)引用発明
上記(1)の記載並びに図1ないし4及び7の記載からみて、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「各センサ送信器3毎に割り当てられている個別識別符合を記憶する記憶部33と、熱や煙を検出する火災検知器などのセンサ31と、該センサ31の検知情報等を無線信号に変換して無線送信する送信部34を備えるセンサ送信器3と、LEDやLCDから構成される表示部21を備え、中継装置1やセンサ送信器3から検知情報を受信部14にて受信し、異常発生と判断すると、表示部21に異常表示するとともに通報部25から電話回線4を介して警備センター5に連絡するコントローラ2とを有する警備システムにおいて、センサ31の検知情報をコントローラ2まで無線中継する中継装置1であって、
他の中継装置1又はセンサ送信器3の送信した無線信号を受信する受信部14と、検知情報を中継送信する送信部13と、
自己の個別識別符合72を記憶する記憶部12と、
これらを制御するCPU及び周辺回路からなる制御部15とを備え、
該制御部15は、前記受信部14の受信した受信情報に含まれる階層データと自己の階層データとを比較し、下位の階層の装置からの無線信号と判定したとき、自己の階層データである階層データ71、上記個別識別符合72、受信信号に含まれていたフレーム識別符合で上記センサ送信器3の送信した検知情報を特定するための符合であるフレーム識別符合73及びセンサ31の検知状態やアドレスである検知情報74を送信データとして中継送信する中継装置1。」

2 引用文献2について
原審拒絶査定の理由に引用された引用文献2(特開2008-40555号公報)には、「無線装置」に関し、図面(図1ないし6)とともに次の記載がある。

「【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0017】
図2は、本発明を適用してガス漏れ警報器と火災報知器とを無線で相互に接続した無線連動警報システムの実施の形態を示すブロック図、図3は、図2の無線連動警報システムにおける無線ユニットの構成例を示すブロック図である。
【0018】
図2に示す無線連動警報システムは、a宅内に配置された、ガス漏れ警報器1(請求項中の警報器に相当。)と、ガス漏れ警報器1に接続され、主親機として動作する無線ユニット2(請求項中の無線装置に相当。)と、主親機として動作する無線ユニット2と特定小電力無線通信方式で通信する、子機として動作する無線ユニット3(請求項中の無線装置に相当。)と、無線ユニット3に接続された火災警報器4(請求項中の警報器に相当。)とを含む。また、無線連動警報システムは、a宅と同一地区にある、たとえば隣家のb宅内に配置された、ガス漏れ警報器1(請求項中の警報器に相当。)と、ガス漏れ警報器1に接続され、従親機として動作する無線ユニット2(請求項中の無線装置に相当。)と、従親機として動作する無線ユニット2と特定小電力無線通信方式で通信する、子機として動作する無線ユニット3(請求項中の無線装置に相当。)と、無線ユニット3に接続された火災警報器4(請求項中の警報器に相当。)とを含む。a宅内およびb宅内のガス漏れ警報器1や火災警報器4と無線ユニット2,3は、各無線ユニット2,3が宅内、宅外(たとえば隣家等)を跨いで無線通信を相互に行うことで、宅内、宅外を跨いだ警報の相互報知動作(なかまうち、自主防災)を行う。
…(中略)…
【0020】
なお、ガス漏れ警報器1や火災警報器4の音声報知機能は、自身がガスの漏洩や火災の発生を検知した場合だけでなく、無線ユニット2,3を介して外部から入力される信号(他の無線ユニット2,3に接続されたガス漏れ警報器1や火災警報器4から出力される警報信号に基づいた警報報知信号)によっても作動させることができる。
【0021】
無線ユニット2,3は、図3に示すように、通信用高周波回路部RFと変復調処理用デジタル処理回路部DPと制御用マイクロコンピュータ部(以下、「マイコン部」と略記する。)μCOMとをワンチップ化した集積回路LSIと、ガス漏れ警報器1や火災警報器4がそれぞれ接続されるポートPioと、不揮発性メモリNVMと、通信用高周波回路部RFに接続されたアンテナATと、縁組スイッチESとを有しており、ポートPioと不揮発性メモリNVMと縁組スイッチESは、マイコン部μCOMに接続されている。
…(中略)…
【0023】
なお、不揮発性メモリNVMには、無線ユニット2,3が外部との無線通信において使用する自己の識別信号(以下、機器IDという)や、ガス漏れ警報器1や火災警報器4が出力する警報信号のパルス波形パターンとそれにより示される警報内容(例えばガス漏れ、火災発生等)とを関連づけたテーブルとが、予め登録されている。
【0024】
また、主親機2の不揮発性メモリNVMには、主親機2の機器IDと、主親機2と同一のa宅の宅内グループに属することを表すハウスコードと、主親機のa宅の宅外であってa宅と同じ地区の宅外グループに属することを表す地区コードが、主親機2の識別情報として識別テーブルに登録されている。なお、主親機2のハウスコードおよび地区コードは、主親機2の機器IDと同一のものが設定されている。
…(中略)…
【0029】
同一地区内の他の従親機2は、主親機2と従親機2の縁組み終了の確認後、上述と同様に、縁組みスイッチESの同時長押しにより、主親機2と縁組みし、主親機2からの送信電文に含まれる地区コード(主親機2の機器ID)を不揮発性メモリNVMに登録する。また、従親機2は、マイコン部μCOMに接続された図示しないLEDによる表示部に、主親機2からの識別情報(地区コード)を登録できたことを表示する。このようにして、主親機2と他の従親機2の縁組みが完了する。
【0030】
次に、主親機2および従親機2は、それぞれに属する子機3との間だけで縁組みを行う。すなわち、図5のシーケンス図に示すように、主親機2の縁組スイッチESと、主親機2と同一宅内の子機3の縁組スイッチESがほぼ同時に通常押しされると、主親機2は、不揮発性メモリNVMよりハウスコード(主親機2の機器ID)および地区コード(主親機2の機器ID)を読み込む。子機3から縁組み要求の電文が送信されると、主親機2は、子機3から送信された縁組み要求の電文を受信し、不揮発性メモリNVMから読み込んだハウスコード(主親機2の機器ID)および地区コード(主親機2の機器ID)を含む送信電文を子機3へ送信する。また、主親機2は、マイコン部μCOMに接続された図示しないLEDによる表示部に、子機3との縁組みが終了したことを表示する。
【0031】
子機3は、主親機2からの送信電文を受信し、受信した電文に含まれるハウスコード(主親機2の機器ID)および地区コード(主親機2の機器ID)を不揮発性メモリNVMに登録する。また、子機3は、マイコン部μCOMに接続された図示しないLEDによる表示部に、主親機2からの識別情報(ハウスコードおよび地区コード)を登録できたことを表示する。このようにして、主親機2と子機3の縁組みが完了する。
…(中略)…
【0035】
以上のように識別情報が設定された主親機、従親機および子機を構成する各無線ユニット2,3は、その不揮発性メモリNVMにハウスコード(従親機2の機器ID)および地区コード(主親機2の機器ID)を登録している。この不揮発性メモリNVMは、請求項中の記憶手段に対応している。そして、各無線ユニット2,3は、他の無線装置への報知データの送信時に識別情報としてのハウスコードと地区コードを一緒に送信する。また、各無線ユニット2,3は、他の無線装置からの報知データの受信時に、受信電文に含まれている地区コードが、自己の不揮発性メモリNVMに登録している地区コードと同じだった場合に、同一地区からの通信と判断し、それに対応した動作を行うことができる。
【0036】
次に、各無線ユニット2,3のマイコン部μCOMが内部の不図示のROMに格納された制御プログラムにしたがって実行する無線連動警報処理を、図6のフローチャートを参照しながら説明する。
【0037】
まず、ガス漏れ警報器1や火災警報器4からの警報信号がポートPioに入力されたか否かを確認し(ステップS51)、入力された場合は(ステップS51でY)、不揮発性メモリNVMに登録されたテーブルを参照して、入力された警報信号のパルス波形パターンから発生した警報内容を判別する(ステップS53)。
【0038】
そして、判別した警報信号の警報内容を示す警報発生データを、送信元の識別情報である不揮発性メモリNVMから読み込んだ自己の識別情報、すなわち、ハウスコードおよび地区コードと共に、送信電文として、変復調処理用デジタル処理回路部DPにて変調して通信用高周波回路部RF乃至アンテナATから無線送信させた後(ステップS55)、ステップS51にリターンする。
【0039】
これに対して、ステップS51においてガス漏れ警報器1や火災警報器4からの警報信号がポートPioに入力されていない場合(N)は、他の無線ユニット2,3からの警報発生データおよび識別情報が、受信電文として、アンテナAT乃至通信用高周波回路部RFで受信され変復調処理用デジタル処理回路部DPにて復調されて入力されたか否かを確認する(ステップS57)。
【0040】
他の無線ユニット2,3からの警報発生データおよび識別情報が入力されていない場合は(ステップS57でN)、ステップS51にリターンし、入力された場合は(ステップS57でY)、警報発生データと共に入力された識別情報に含まれるハウスコードが、宅内グループに属する無線ユニット2,3の識別情報として不揮発性メモリNVMに登録されているか否かを確認し(ステップS59)、登録されていない場合は(ステップS59でN)、後述するステップS63に進む。
【0041】
一方、警報発生データと共に入力された識別情報に含まれるハウスコードが、宅内グループに属する無線ユニット2,3の識別情報として不揮発性メモリNVMに登録されている場合は(ステップS59でY)、宅内の他の場所で、警報発生データに示されている他の無線ユニット2,3に接続されたガス漏れ警報器1や火災警報器4において警報状態が発生したことを、ポートPioに接続されているガス漏れ警報器1や火災警報器4おいて音声出力により報知させるための警報報知信号を生成して、ポートPioからガス漏れ警報器1や火災警報器4に出力した後(ステップS61)、ステップS51にリターンする。」(段落【0016】ないし【0041】)

第4 対比・判断
1 本願発明1について
(1) 対比
本願発明1と引用発明とを対比すれば、引用発明における「個別識別符合」と、本願発明1における「識別情報」は、「識別情報」という限りにおいて一致する。
また、引用発明において「熱や煙を検出する」ことは、その構造、機能又は技術的意義からみて、本願発明1において「火災を感知する」ことに、「火災検知器などのセンサ31」の「検知情報等を無線信号に変換して無線送信する」ことは「火災発報というイベント情報を無線通信によって発信する」ことに相当する。
そして、引用発明における「火災検知器などのセンサ31」と「センサ送信器3」(以下、両者をまとめて、便宜上、「火災検知・送信手段」という。)は、その構成及び機能からみて、本願発明1における「感知手段」に相当する。
また、引用発明における「LEDやLCDから構成される表示部21を備え、中継装置1やセンサ送信器3から検知情報を受信部14にて受信し、異常発生と判断すると、表示部21に異常表示するとともに通報部25から電話回線4を介して警備センター5に連絡するコントローラ2」と、本願発明1における「イベント情報に基いて火災の発生およびその発生場所を表示し主音響装置を鳴動させて警報するとともに少なくとも建物内の地区音響装置を鳴動させる連動制御を行って警報し、これらの警報を火災復旧まで保持する火災受信機」は、「イベント情報に基いて火災の発生を表示し、警報する火災受信機」という限りにおいて一致する。
さらに、引用発明において「警備システム」は火災検知・送信手段とコントローラ2とを有し、火災発生を自動的に連絡するものであるから、本願発明1の「自動火災報知設備」に相当し、引用発明における「センサ31の検知情報をコントローラ2まで無線中継する中継装置1」及び「中継装置1」は、その機能からみて、本願発明1における「自動火災報知設備の構成機器間で情報を中継通信する中継器」及び「中継器」に相当する。
また、引用発明における「他の中継装置1又はセンサ送信器3の送信した無線信号を受信する受信部14と、検知情報を中継送信する送信部13」と、本願発明1における「火災受信機と通信し、感知手段と通信する送受信部」は、「火災受信機及び感知手段との通信手段」という限りにおいて一致し、引用発明における「自己の個別識別符合を記憶する記憶部12」と、本願発明1における「感知手段に対応する前記識別情報を記憶する記憶部」は、「識別情報を記憶する記憶部」という限りにおいて一致する。
そして、引用発明における「前記受信部14の受信した受信情報に含まれる階層データと自己の階層データとを比較し、下位の階層の装置からの無線信号と判定したとき、自己の階層データである階層データ71、上記個別識別符合72、受信信号に含まれていたフレーム識別符合で上記センサ送信器3の送信した検知情報を特定するための符合であるフレーム識別符合73及びセンサ31の検知状態やアドレスである検知情報74を送信データとして中継送信する」「CPU及び周辺回路からなる制御部15」と、本願発明1における「前記送受信部が前記記憶部に記憶した前記識別情報を保有する感知手段から前記イベント情報を受信したとき、当該イベント情報の発生場所を特定するため、当該イベント情報に前記記憶部の前記識別情報を加えて前記送受信部から前記火災受信機へ送信させるとともに、当該イベント情報を前記記憶部に格納させて前記火災受信機への送信後も保持させるように制御する制御部」は、「火災受信機及び感知手段との通信手段がイベント情報を受信したとき、当該イベント情報の発生場所を特定するため、当該イベント情報に記憶部の識別情報を加えて火災受信機及び感知手段との通信手段から火災受信機へ送信させる制御部」という限りにおいて一致する。

よって、本願発明1と引用発明とは、
「識別情報を保有し、火災を感知すると火災発報というイベント情報を無線通信によって発信する感知手段と、前記イベント情報に基いて火災の発生を表示し、警報する火災受信機とを有する自動火災報知設備の構成機器間で情報を中継通信する中継器であって、
前記火災受信機及び前記感知手段との通信手段と、
識別情報を記憶する記憶部と、
前記火災受信機及び前記感知手段との前記通信手段が前記イベント情報を受信したとき、当該イベント情報の発生場所を特定するため、当該イベント情報に前記記憶部の前記識別情報を加えて前記火災受信機及び前記感知手段との前記通信手段から前記火災受信機へ送信させる制御部と
を備える中継器。」
である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点>
(a)本願発明1においては、感知手段が「警戒区域毎に固有の識別情報」を保有し、中継器の記憶部が「感知手段に対応する前記識別情報を記憶する」のに対し、引用発明においては、センサ送信機3の記憶部33は「各センサ送信器3毎に割り当てられている個別識別符合」を記憶し、中継装置1の記憶部12は「自己の個別識別符合」を記憶する点(以下、「相違点1」という。)。
(b)「イベント情報に基いて火災の発生を表示し、警報する火災受信機」に関し、本願発明1においては「イベント情報に基いて火災の発生およびその発生場所を表示し主音響装置を鳴動させて警報するとともに少なくとも建物内の地区音響装置を鳴動させる連動制御を行って警報し、これらの警報を火災復旧まで保持する火災受信機」であるのに対し、引用発明においては「LEDやLCDから構成される表示部21を備え、中継装置1やセンサ送信器3から検知情報を受信部14にて受信し、異常発生と判断すると、表示部21に異常表示するとともに通報部25から電話回線4を介して警備センター5に連絡するコントローラ2」である点(以下、「相違点2」という。)。
(c)「火災受信機及び感知手段との通信手段」に関し、本願発明1においては「火災受信機と通信し、感知手段と通信する送受信部」であるのに対し、引用発明においては「他の中継装置1又はセンサ送信器3の送信した無線信号を受信する受信部14と、検知情報を中継送信する送信部13」である点(以下、「相違点3」という。)。
(d)「火災受信機及び感知手段との通信手段がイベント情報を受信したとき、当該イベント情報の発生場所を特定するため、当該イベント情報に記憶部の識別情報を加えて火災受信機及び感知手段との通信手段から火災受信機へ送信させる制御部」に関し、本願発明1においては「前記送受信部が前記記憶部に記憶した前記識別情報を保有する感知手段から前記イベント情報を受信したとき、当該イベント情報の発生場所を特定するため、当該イベント情報に前記記憶部の前記識別情報を加えて前記送受信部から前記火災受信機へ送信させるとともに、当該イベント情報を前記記憶部に格納させて前記火災受信機への送信後も保持させるように制御する制御部」であるのに対し、引用発明においては「前記受信部14の受信した受信情報に含まれる階層データと自己の階層データとを比較し、下位の階層の装置からの無線信号と判定したとき、自己の階層データである階層データ71、上記個別識別符合72、受信信号に含まれていたフレーム識別符合で上記センサ送信器3の送信した検知情報を特定するための符合であるフレーム識別符合73及びセンサ31の検知状態やアドレスである検知情報74を送信データとして中継送信する」「CPU及び周辺回路からなる制御部15」である点(以下、「相違点4」という。)。

(2)相違点に対する判断
まず、上記相違点1について検討すれば、本願発明1に係る「中継器」は、その記憶部が「前記感知手段に対応する前記識別情報」を記憶するとの発明特定事項を有することから明らかであるように、明細書に記載された実施例における「室外中継器3」に対応するものである(平成29年8月29提出の意見書の3.(1)参照。)であって、火災感知器2と室外中継器3とが警戒区域毎に固有の識別情報を保有するのは、「これによって他室との混信を防止する」(本願の明細書の段落【0020】)ためである。
これに対し、引用文献2に記載された技術において、「a宅内およびb宅内のガス漏れ警報器1や火災警報器4と無線ユニット2,3は、各無線ユニット2,3が宅内、宅外(たとえば隣家等)を跨いで無線通信を相互に行う」のは、「宅内、宅外を跨いだ警報の相互報知動作(なかまうち、自主防災)を行う」ためである(上記第3の2の段落【0018】参照)。
したがって、「下位の階層の装置からの無線信号と判定したとき…中継送信する」引用発明において、「宅内、宅外を跨いだ警報の相互報知動作(なかまうち、自主防災)を行う」引用文献2に記載された技術を適用することによって、上記相違点1に係る本願発明1の発明特定事項に想到することが容易であるとはいえない。
以上から、他の相違点について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明及び引用文献2に記載された技術に基いて容易に発明することができたものであるとはいえない。

2 本願発明2について
本願発明2は、本願発明1をさらに減縮した発明であるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献2に記載された技術に基いて容易に発明することができたものであるとはいえない。

第5 原審拒絶査定の概要及び原審拒絶査定についての判断
1 原審拒絶査定の概要
(理由1) 本願の請求項1ないし3に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物AないしDに記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献等一覧
A 特開平11-112401号公報(引用文献1)
B 特開2008-40555号公報(引用文献2)
C 特開昭56-39651号公報(以下、「引用文献3」という。)
D 特開平11-122326号公報(以下、「引用文献4」という。)

(理由2) 本願の特許請求の範囲の記載の請求項1に、「警戒区域毎に対応する前記感知手段の前記識別情報を、他の警戒区域との混信を防止するために記憶する記憶部」との記載があるが、その技術的意味が不明であるから、本願は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

2 原審拒絶査定についての判断
(1)理由1に対して
上記第2に記載したように、本願発明1及び2は、平成29年8月29日に提出の手続補正書による手続補正によって、感知手段が「警戒区域毎に固有の識別情報」を保有し、中継器の記憶部が「感知手段に対応する前記識別情報を記憶する」ことを発明特定事項を有しており、上記第3及び4に記載したように、引用発明及び引用文献2に記載された技術に基いて容易に発明することができたものであるとはいえない。
また、引用文献3及び4にも、感知手段が「警戒区域毎に固有の識別情報」を保有し、中継器の記憶部が「感知手段に対応する前記識別情報を記憶する」ことの開示も示唆もないから、引用発明及び引用文献2ないし4に記載された技術に基いて容易に発明することができたものであるともいえない。

(2)理由2に対して
平成29年8月29日に提出の手続補正書による手続補正によって、本願発明1に係る「中継器」は、その記憶部が「前記感知手段に対応する前記識別情報」を記憶するとの発明特定事項を有することから明らかであるように、明細書に記載された実施例における「室外中継器3」に対応するもの(平成29年8月29提出の意見書の3.(1)参照。)であって、火災感知器2と室外中継器3とが警戒区域毎に固有の識別情報を保有するのは、「これによって他室との混信を防止する」(本願の明細書の段落【0020】)ためであることが明らかになった。
これにより、この拒絶理由は解消した。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、原審拒絶査定を維持することはできない。

第6 当審拒絶理由について
当審では、(1)請求項1及び2に記載された「中継器」に関し、明細書の発明の詳細な説明に記載された「室外中継器3」、「幹線中継器4」及び「地区音響装置5」との対応関係が不明であり、(2)請求項1の記載中「識別情報」を発信するのは、「感知手段」であるのか、それとも「中継器」の「記憶部」であるのかが不明であるため、請求項1及び2に係る発明が不明確であるとの拒絶理由を通知した。しかし、平成29年8月29日に提出の手続補正書による手続補正によって「中継器」が明細書に記載された実施例における「室外中継器3」に対応することが明らかとなり、中継器の送受信部が記憶部に記憶した識別情報を保有する感知手段からイベント情報を受信したとき、…当該イベント情報に前記記憶部の前記識別情報を加えて前記送受信部から火災受信機へ送信させることが明らかとなった結果、この拒絶理由は解消した。
また、当審では、請求項1の記載中「これらの警報を火災復旧まで保持する火災受信機」は、出願当初の明細書及び図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載されておらず、当初明細書等の記載から自明な事項であるとはいえないとの拒絶理由を通知した。しかし、平成29年8月29日提出の意見書において、法令上の規定により、自動火災報知設備における受信機は、火災信号又は火災表示信号を受信したとき、手動で復旧しない限り、表示状態を保持するものでなければならないことが明らかにされた。これによって、「これらの警報を火災復旧まで保持する火災受信機」は、技術常識を参酌することにより当初明細書等の記載から自明であることが明確となり、この拒絶理由も解消した。

第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-11-13 
出願番号 特願2014-178628(P2014-178628)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G08B)
P 1 8・ 537- WY (G08B)
P 1 8・ 55- WY (G08B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 吉村 伊佐雄  
特許庁審判長 冨岡 和人
特許庁審判官 内田 博之
中村 達之
発明の名称 中継器  

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