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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  D21H
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  D21H
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  D21H
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  D21H
管理番号 1334316
異議申立番号 異議2016-701044  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-11-11 
確定日 2017-09-20 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5916902号発明「フィブリルセルロースを濃縮するための方法、およびフィブリルセルロース製品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5916902号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項22?24について訂正することを認める。 特許第5916902号の請求項1?21に係る特許を維持する。 特許第5916902号の請求項22?24に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5916902号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?24に係る特許についての出願は、平成25年2月13日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 平成24年2月13日、フィンランド)を国際出願日とする出願であって、平成28年4月15日にその特許権の設定登録がされた。
その後、請求項1?24に係る特許について、特許異議申立人実川栄一郎(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされ、平成29年1月18日付けで取消理由が通知され、平成29年4月20日付けで意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされ、平成29年4月28日付けで申立人に対し本件訂正請求があった旨の通知がなされ、平成29年6月7日付けで申立人から意見書(以下、「申立人意見書」という。)が提出された。

2.本件訂正請求についての判断
(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下のとおりである。
ア.訂正事項1
特許請求の範囲の請求項22を削除する。
イ.訂正事項2
特許請求の範囲の請求項23を削除する。
ウ.訂正事項3
特許請求の範囲の請求項24を削除する。

(2)訂正の適否
訂正事項1?3は、各々請求項22?24を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項22?24について訂正を認める。

3.特許異議の申立てについて
(1)本件発明
上記のとおり訂正が認められるから、本件特許の請求項1?21に係る発明(以下「本件発明1?21」といい、これらの発明をまとめて「本件発明1等」という。)は、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1?21に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、本件発明1、17、18は、以下に示すとおりのものである。
《本件発明1》
ナノフィブリル化セルロースを濃縮する方法であって、
6%以下の濃度および30?70℃の温度で水性媒体中にある、本質的に少なくとも55%の結晶化度を有する結晶であり、かつ植物材料からなり、木材由来の繊維性原料を均質化することによって製造されるナノフィブリル化セルロースを、ナノフィブリル化セルロースに少なくとも5barの圧力を加えることによって液体が2つの対向する方向でナノフィブリル化セルロースから除去される加圧濾過をすることと、
最初に存在する液体の50%以上がナノフィブリル化セルロースから除去されるエンドポイントまで、加圧濾過が継続されて、ナノフィブリル化セルロースが10?30%の最終乾燥物質とすることとを含み、
それによって、最終乾燥物質におけるナノフィブリル化セルロースは、水に再分散可能であり、0.5?1.0wt%の範囲の分散濃度で水に再分散されたとき、同じ分散濃度において元来有していた粘度特性に等しい粘度特性を示すことを特徴とする方法。

《本件発明17》
10?30%の乾燥物質含有量のナノフィブリル化セルロースを有する濃縮ナノフィブリル化セルロース製品であって、ナノフィブリル化セルロースは本質的に少なくとも55%の結晶化度を有する結晶であり、かつ植物材料からなり、木材由来の繊維性原料を均質化することによって製造され、当該ナノフィブリル化セルロースは、水に再分散可能であり、0.5?1.0wt%の範囲の分散濃度で水に再分散されたとき、同じ分散濃度において元来有していた粘度特性に等しい粘度特性を示すことを特徴とする濃縮ナノフィブリル化セルロース製品。

《本件発明18》
化学的に純粋なセルロースを含み、10?35%の乾燥物質含有量のナノフィブリル化セルロースを有する濃縮ナノフィブリル化セルロース製品であって、ナノフィブリル化セルロースは本質的に少なくとも55%の結晶化度を有する結晶であり、かつ植物材料からなり、木材由来の繊維性原料を均質化することによって製造され、当該ナノフィブリル化セルロースは、水に再分散可能であり、0.5?1.0wt%の範囲の分散濃度で水に再分散されたとき、同じ分散濃度において元来有していた粘度特性に等しい粘度特性を示すことを特徴とする濃縮ナノフィブリル化セルロース製品。

(2)取消理由の概要
平成29年1月18日付け取消理由通知の概要は、以下のとおりである。
なお、上記取消理由通知において申立人の特許異議申立理由は全て採用した。

《理由1》
本件発明17?21は、その出願(優先日)前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物である甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。
《理由2》
本件発明1?24は、その出願(優先日)前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物である甲1?9に記載された発明に基いて、その出願(優先日)前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
《理由3》
本件特許は、明細書、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号及び第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


《刊行物》
甲1.特開平3-152130号公報
甲2.特開2012-25896号公報
甲3.特開平9-316102号公報
甲4.特開平11-246602号公報
甲5.特許第4753874号公報
甲6.特開2011-236398号公報
甲7.特開2009-67910号公報
甲8.特開2009-62332号公報
甲9.松本雄二ほか,「2010 Pan Pacific Conference 報告」,紙パ技協誌、紙パルプ技術協会,2010年9月1日,第64巻,第9号,p.42?48

《理由1.及び理由2.について》
甲1?9は、特許異議の申立ての甲第1号証?甲第9号証であり、甲1に記載された発明を、甲1発明といい、甲1?9に記載された事項を、各々、甲1記載事項?甲9記載事項という。

ア.本件発明1について
本件発明1は、甲1発明及び甲2記載事項?甲9記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

イ.本件発明2?16について
本件発明2?16は、甲1発明及び甲2記載事項?甲9記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

ウ.本件発明17?21について
本件発明17?21は、甲1発明と同一である。
また、仮に、本件特許発明17?21は、甲1発明と同一といえないとしても、甲1発明及び甲5記載事項?甲9記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

エ.本件発明22?24について
本件発明22?24は、甲1発明及び甲5記載事項?甲9記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

《理由3.について》
以下のオ.及びカ.に示す理由により、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1、17、18、22?24について、当業者がその実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載したものであるとはいえないし、また、本件発明1、17、18、22?24は、明確であるともいえない。

オ.本件発明1、17及び18における「0.5?1.0wt%の範囲の分散濃度で水に再分散されたとき、同じ分散濃度において元来有していた粘度特性に等しい粘度特性を示す」について、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、粘度の測定方法及び測定条件が記載されておらず、前記「粘度特性」がどのようなものであるのかが不明確である。
本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2?16及び18を直接又は間接的に引用する本件発明19?21についても同様である。

カ.本件発明22における「0.5%の濃度で測定された、1000?8000Pa・sのゼロ剪断粘度、および1?10Paの降伏応力」、本件発明23における「5000から25000mPa・sまでのブルックフィールド粘度(1.5%、10rpm)」、本件発明24における「25000から50000mPa・sまでのブルックフィールド粘度(1.5%、10rpm)」について、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「ゼロ剪断粘度」、「降伏応力」及び「ブルックフィールド粘度」についての具体的な測定方法及び測定条件が記載されておらず、前記「ゼロ剪断粘度」、「降伏応力」及び「ブルックフィールド粘度」が各々どのようなものであるのかが不明確である。

(3)判断
事案に鑑み、《理由3》から判断する。
ア.《理由3》のオ.について
本件発明1、17及び18における「0.5?1.0wt%の範囲の分散濃度で水に再分散されたとき、同じ分散濃度において元来有していた粘度特性に等しい粘度特性を示す」(以下、「発明特定事項A」という。)に関して、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載(以下、「本件特許明細書記載事項A)という。)がある。

「【0040】
・・・分散液の粘度は、羽根形のAR-G2レオメータ(TA Instruments, UK)を用いて、加えられた剪断応力の関数として測定された。
【0041】
図1は、加圧濾過によって30%まで濃縮された材料から作製された0.5%および1%のフィブリルセルロース分散液と、濃縮されていない材料から作製されたものとの流動曲線としての粘度測定の結果を示す。濃縮材料から作製された0.5%および1.0%フィブリルセルロース分散液の粘度は、調査された剪断応力範囲全体において、同じ濃度を有するが濃縮されていない材料から作製された分散液の粘度と同等であった。・・・
・・・
【0043】
[実施例2]
・・・分散液の粘度は、実施例1に記載されたように測定された。
【0044】
図2は、濃縮されていない材料から作製された0.5%分散液と比較した、様々な乾燥物質量に濃縮された材料から作製された0.5%フィブリルセルロース分散液の流動曲線を示す。再分散は、低出力ブレンダ(Mini-Mix)またはビュッヒ-ミキサを用いて実施された。
【0045】
図2における結果は、10および15%の乾燥物質含有量に濃縮されたフィブリルセルロースが低出力ブレンダを用いて良好に再分散することが可能であり、ビュッヒ-ミキサを用いて得られるものと同様の粘度レベルに達することが可能であることを示す。・・・
【0046】
図1および図2のいずれにおいても、最終濃度に無関係に、濃縮されていない試料と同様の同じゼロ剪断粘度レベル(剪断応力がゼロに接近するときの、粘度対剪断応力図における平担部)を得ることが可能であることがわかる。0.5%の測定濃度におけるゼロ剪断粘度は、濃縮されていない試料と、9.5?30%に濃縮され、測定濃度に再分散された試料とのいずれにおいても、1000Pa・s以上である。また、1000Pa・sを超えるグラフ領域において、濃縮された試料によって得られた個々の測定点は、濃縮されていない試料によって得られた測定点のわずかに上もしくは下であることが分かり、このことは、各粘度グラフ間でよく一致していることを示している。」

まず、「粘度」の「測定方法及び測定条件」について、本件特許明細書記載事項Aには、「羽根形のAR-G2レオメータ(TA Instruments, UK)を用いて、加えられた剪断応力の関数として測定」したとしか記載されておらず、測定時の温度等については言及されていない。
一方、「粘度特性」という用語に関し、一般に「特性」とは「あるものに特別に備わっている性質。」(大辞林 第三版)という意味であることを踏まえると、本件発明1等における「粘度特性」は、「ナノフィブリル化セルロースが具備する性質であって、加えられた剪断応力の関数として測定されるものであり、図1及び図2に示されるような、ある剪断応力範囲に亘る剪断応力と粘度との関係を表す流動曲線としての粘度測定の結果を示すという性質」を意味するものと解することができる。
そして、本件発明1における発明特定事項Aは、本件発明1の発明特定事項である「6%以下の濃度および30?70℃の温度で水性媒体中にある、本質的に少なくとも55%の結晶化度を有する結晶であり、かつ植物材料からなり、木材由来の繊維性原料を均質化することによって製造されるナノフィブリル化セルロース」が、「ナノフィブリル化セルロースに少なくとも5barの圧力を加えることによって液体が2つの対向する方向でナノフィブリル化セルロースから除去される加圧濾過」され、「最初に存在する液体の50%以上がナノフィブリル化セルロースから除去されるエンドポイントまで、加圧濾過が継続されて、ナノフィブリル化セルロースが10?30%の最終乾燥物質」となるように処理された「ナノフィブリル化セルロース」について、「0.5?1.0wt%の範囲の分散濃度で水に再分散されたとき」に示す粘度特性と、同じ分散濃度において元来有していた粘度特性と(以下、これらの粘度特性を「両粘度特性」という。)を比較して、それらが等しいことを規定する事項である。
同様に、本件発明17における発明特定事項Aは、本件発明17の発明特定事項である「10?30%の乾燥物質含有量のナノフィブリル化セルロースを有する濃縮ナノフィブリル化セルロース製品」おける「ナノフィブリル化セルロースは本質的に少なくとも55%の結晶化度を有する結晶であり、かつ植物材料からなり、木材由来の繊維性原料を均質化することによって製造され」た「濃縮ナノフィブリル化セルロース」について、その両粘度特性が等しいことを規定する事項であり、本件発明18における発明特定事項Aは、本件発明18の発明特定事項である「化学的に純粋なセルロースを含み、10?35%の乾燥物質含有量のナノフィブリル化セルロースを有する濃縮ナノフィブリル化セルロース製品」における「ナノフィブリル化セルロースは本質的に少なくとも55%の結晶化度を有する結晶であり、かつ植物材料からなり、木材由来の繊維性原料を均質化することによって製造され」た「濃縮ナノフィブリル化セルロース」について、その両粘度特性が等しいことを規定する事項である。
ここで、本件特許明細書記載事項Aの「図2における結果は、10および15%の乾燥物質含有量に濃縮されたフィブリルセルロースが低出力ブレンダを用いて良好に再分散することが可能であり、ビュッヒ-ミキサを用いて得られるものと同様の粘度レベルに達することが可能であることを示す。」(【0045】)との記載は、「同じ分散濃度(0.5?1.0wt%の範囲の分散濃度)において元来有していた粘度特性」が、「0.5?1.0wt%の範囲の分散濃度で水に再分散されたとき」に再現されることを意味するものと解されることを踏まえると、両粘度特性の測定は、特段の事情がない限り、同じ測定方法を用い、同じ測定条件で行なわれるものと解するのが自然である。
してみると、たとえ「粘度」は、測定方法や測定温度等の測定条件に依存して変動することが技術常識であるとしても、発明特定事項Aについて、さらに、両粘度特性の測定時の具体的な測定方法や測定条件が規定されることは必ずしも必要ではないといえる。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、粘度の測定方法及び測定条件が記載されていないことを理由に、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1?21について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないとまではいえないし、また、本件発明1?21は、明確でないともいえない。

なお、申立人は、発明特定事項Aについて、「等しい粘度特性」が、どの程度の同一性を意味しているのかについて全く理解することができず、特許を受けようとする発明の範囲が不明確である旨を主張している。(特許異議申立書49頁8?20行及び申立人意見書15頁2?末行)
しかしながら、本件特許明細書記載事項Aや、図1及び図2の記載は、いずれも、本件発明1等の実施例についての記載であることを踏まえると、本件特許明細書に接した当業者は、「等しい粘度特性」における「等しい」とは、両粘度特性が完全に同一であることに加え、図1及び図2に示される程度の差異がある場合をも含む概念であると解するのが自然であり、どの程度の同一性を意味しているのかについて全く理解することができないとまではいえない。
したがって、申立人の主張は採用できない。

イ.《理由3》のカ.について
上記2.で示したとおり本件訂正請求が認められたことにより、請求項22?24は削除されたため、《理由3》のカ.については、対象となる請求項が存在しないこととなり、理由のないものとなった。

ウ.《理由1.及び理由2.について》
(ア)本件発明1について
a.甲1発明
甲1の2頁左上欄9行?右下欄18行、3頁左上欄6行?右下欄14行、4頁左上欄16行?右上欄11行、5頁左上欄17行?左下欄12行の記載からみて、甲1には以下の甲1発明1が記載されている。
《甲1発明1》
濃度2%、粘度1,950cps(25℃)、常温(25℃)で前処理されたミクロフィブリル化セルロースの水懸濁液について、フィルタープレスを用いて圧力4kg/cm^(2)(4.08bar)で圧搾脱液処理を行い、固形分25%のケーキを得ることを含み、このケーキを粉砕して粉粒体物を得るようにする、粉粒体状の微小繊維材料の製造方法であって、当該粉粒体物を濃度2%で再解離したときの微小繊維材料懸濁液の粘度が2,050cps(25℃)である、粉粒体状の微小繊維材料の製造方法。
b.対比、判断
本件発明1と甲1発明1とを対比すると、甲1発明1の「ミクロフィブリル化セルロース」、「フィルタープレスを用いて」「圧搾脱液処理を行い」、「固形分25%のケーキを得る」は、各々、本件発明1の「ナノフィブリル化セルロース」、「ナノフィブリル化セルロースに」「圧力を加えることによって液体が2つの対向する方向でナノフィブリル化セルロースから除去される加圧濾過をする」、「ナノフィブリル化セルロースが10?30%の最終乾燥物質とする」に相当する。
そして、本件発明1と甲1発明1とは、少なくとも以下の点で相違する。
《相違点》
本件発明1は、「最終乾燥物質におけるナノフィブリル化セルロースは、水に再分散可能であり、0.5?1.0wt%の範囲の分散濃度で水に再分散されたとき、同じ分散濃度において元来有していた粘度特性に等しい粘度特性を示す」のに対し、甲1発明1は、「ミクロフィブリル化セルロースの水懸濁液」を処理して得られた「固形分25%のケーキ」を粉砕して得た「粉粒体物」を「濃度2%で再解離したときの微小繊維材料懸濁液の粘度が2,050cps(25℃)」であり、処理前の「ミクロフィブリル化セルロースの水懸濁液」は「濃度2%、粘度1,950cps(25℃)」である点。
上記相違点について検討する。
本件発明1における「粘度特性」とは、上記3.(3)ア.で示したとおり、「ナノフィブリル化セルロースが具備する性質であって、加えられた剪断応力の関数として測定されるものであり、図1及び図2に示されるような、ある剪断応力範囲に亘る剪断応力と粘度との関係を表す流動曲線としての粘度測定の結果を示すという性質」を意味するものと解することができる。
一方、甲1発明1の「粘度」は、「濃度2%で再解離したとき」が「2,050cps(25℃)」であり、処理前の「濃度2%」のものが、「1,950cps(25℃)」であるものの、ここに示された粘度は、ある剪断応力範囲に亘る剪断応力と粘度との関係を表す流動曲線としての粘度測定の結果を示すとは認められない。
甲1には、「しかるに本発明者等はミクロフィブリル化繊維を媒体中に懸濁してなる懸濁液をフィルタープレス或いは遠心分離等により脱液して固形分濃度が10?60%程度のケーキ状物質となし、これを粉砕して得られる粉粒体状物が、実質的に再ブロック化しない粉粒体として取り扱い可能な微小繊維材料であって、特開昭59-189141号公報に記載の如きポリヒドロキシ化合物等の添加物を配合しなくても、ミクロフィブリル化繊維の分散性、水和性、粘性等の性能が実質的に変化しないことを見出して、本発明に到ったものである。」(3頁左上欄6?17行)、「即ち本発明は、媒体で湿潤された状態のミクロフィブリル化繊維よりなり、実質的に再ブロック化しない粉粒体として取り扱い可能な微小繊維材料であって、媒体に再分散した時粉粒体化前に媒体に分散した同一濃度のミクロフィブリル化繊維の粘度の少なくとも50%の粘度を有することを特徴とする粉粒体状の微小繊維材料に係るものであり」(3頁左上欄18行?右上欄5行)、「本発明の微小繊維材料は、粘性が実質上変化乃至低下しないことで示される媒体への再分散性を保持するに必要な量の媒体を含有すると共に、その形態が粉粒体として取り扱い可能な実質的に再ブロックしない粉粒体状である点に特徴を有し」(3頁右上欄11?17行)との記載がある。
しかし、これらの記載のみからは、甲1発明1の「2,050cps(25℃)」、「1,950cps(25℃)」といった「粘度」が、ある剪断応力範囲に亘る剪断応力と粘度との関係を表す流動曲線としての粘度測定の結果を示すもの、すなわち、本件発明1における「粘度特性」を示すものとはいえない。
また、甲1発明1の「2,050cps(25℃)」、「1,950cps(25℃)」といった「粘度」が、本件発明1における「粘度特性」を示すものと解すべきことは、甲2?甲9や申立人意見書に添付された参考資料1?6をみても記載や示唆はされていない。
したがって、本件発明1は、甲1発明1及び甲2記載事項?甲9記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(イ)本件発明2?16について
本件発明1の発明特定事項の全てを含み、さらに、技術的な限定を加える事項を発明特定事項としている、本件発明2?16は、上記と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ウ)本件発明17について
甲1の2頁左上欄9行?右下欄18行、3頁左上欄6行?右下欄14行、4頁左上欄16行?右上欄11行、5頁左上欄17行?左下欄12行の記載からみて、甲1には以下の甲1発明2が記載されている。
《甲1発明2》
濃度2%、粘度1,950cps(25℃)、常温(25℃)で前処理されたミクロフィブリル化セルロースの水懸濁液について、固形分25%のケーキを得ることで製造され、このケーキを粉砕して得られた粉粒体物であって、当該粉粒体物を濃度2%で再解離したときの微小繊維材料懸濁液の粘度が2,050cps(25℃)である、粉粒体状の微小繊維材料。
b.対比、判断
本件発明17と甲1発明2とを対比すると、甲1発明2の「ミクロフィブリル化セルロース」、「固形分25%のケーキ」は、各々、本件発明17の「ナノフィブリル化セルロース」、「10?30%の乾燥物質」に相当する。
そして、本件発明1と甲1発明2とは、少なくとも以下の点で相違する。
《相違点》
本件発明17は、「最終乾燥物質におけるナノフィブリル化セルロースは、水に再分散可能であり、0.5?1.0wt%の範囲の分散濃度で水に再分散されたとき、同じ分散濃度において元来有していた粘度特性に等しい粘度特性を示す」のに対し、甲1発明2は、「ミクロフィブリル化セルロースの水懸濁液」を処理して得られた「固形分25%のケーキ」を粉砕して得た「粉粒体物」を「濃度2%で再解離したときの微小繊維材料懸濁液の粘度が2,050cps(25℃)」であり、処理前の「ミクロフィブリル化セルロースの水懸濁液」は「濃度2%、粘度1,950cps(25℃)」である点。
上記相違点について検討する。
上記相違点は、単なる表現の差異等の形式的なものではなく、実質的な相違点であるから、本件発明17は、甲1発明2ではない。
また、上記3.(3)ウ.(ア)で示したことと同様の理由により、甲1発明2の「2,050cps(25℃)」、「1,950cps(25℃)」といった「粘度」が、ある剪断応力範囲に亘る剪断応力と粘度との関係を表す流動曲線としての粘度測定の結果を示すもの、すなわち、本件発明17における「粘度特性」を示すものとは認められないし、甲1発明2の「2,050cps(25℃)」、「1,950cps(25℃)」といった「粘度」が、本件発明17における「粘度特性」を示すものと解すべきことは、甲2?甲9や申立人意見書に添付された参考資料1?6をみても記載や示唆はされていない。
したがって、本件発明17は、甲1発明2及び甲2記載事項?甲9記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(エ)本件発明18について
本件発明18と甲1発明2とを対比すると、甲1発明2の「ミクロフィブリル化セルロース」、「固形分25%のケーキ」は、各々、本件発明18の「ナノフィブリル化セルロース」、「10?35%の乾燥物質」に相当する。
そして、本件発明18と甲1発明2とは、少なくとも以下の点で相違する。
《相違点》
本件発明18は、「最終乾燥物質におけるナノフィブリル化セルロースは、水に再分散可能であり、0.5?1.0wt%の範囲の分散濃度で水に再分散されたとき、同じ分散濃度において元来有していた粘度特性に等しい粘度特性を示す」のに対し、甲1発明2は、「ミクロフィブリル化セルロースの水懸濁液」を処理して得られた「固形分25%のケーキ」を粉砕して得た「粉粒体物」を「濃度2%で再解離したときの微小繊維材料懸濁液の粘度が2,050cps(25℃)」であり、処理前の「ミクロフィブリル化セルロースの水懸濁液」は「濃度2%、粘度1,950cps(25℃)」である点。
相違点について検討する。
上記相違点は、単なる表現の差異等の形式的なものではなく、実質的な相違点であるから、本件発明18は、甲1発明2ではない。
また、上記3.(3)ウ.(ア)で示したことと同様の理由により、甲1発明2の「2,050cps(25℃)」、「1,950cps(25℃)」といった「粘度」が、ある剪断応力範囲に亘る剪断応力と粘度との関係を表す流動曲線としての粘度測定の結果を示すもの、すなわち、本件発明18における「粘度特性」を示すものとは認められないし、甲1発明2の「2,050cps(25℃)」、「1,950cps(25℃)」といった「粘度」が、本件発明18における「粘度特性」を示すものと解すべきことは、甲2?甲9や申立人意見書に添付された参考資料1?6をみても記載や示唆はされていない。
したがって、本件発明18は、甲1発明2及び甲2記載事項?甲9記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(オ)本件発明19?21について
本件発明18の発明特定事項の全てを含み、さらに、技術的な限定を加える事項を発明特定事項としている、本件発明19?21は、上記と同様の理由により、甲1発明2ではないし、甲1発明2及び甲2記載事項?甲9記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(カ)本件特許発明22?24について
上記2.で示したとおり本件訂正請求が認められたことにより、請求項22?24は削除されたため、《理由1.及び2.》のエ.については、対象となる請求項が存在しないこととなった。

(4)小括
以上のとおり、本件発明1?21に係る特許は、特許法第29条第1項第3号、同条第2項、第36条第4項第1号及び第6項第2号の規定に違反してされたものではないから、同法第113条第2号及び第4号の規定に該当することを理由に取り消されるべきものとすることはできない。

4.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件発明1?21に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?21に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件特許の請求項22?24は、本件訂正が認められることにより、削除され、本件特許の請求項22?24についての特許異議の申立ては、その対象が存在しないものとなった。
よって、本件特許の請求項22?24についての特許異議の申立ては、不適法であって、その補正をすることができないものであるから、特許法第120条の8で準用する同法第135条の規定により、却下すべきものである。
したがって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノフィブリル化セルロースを濃縮する方法であって、
6%以下の濃度および30?70℃の温度で水性媒体中にある、本質的に少なくとも55%の結晶化度を有する結晶であり、かつ植物材料からなり、木材由来の繊維性原料を均質化することによって製造されるナノフィブリル化セルロースを、ナノフィブリル化セルロースに少なくとも5barの圧力を加えることによって液体が2つの対向する方向でナノフィブリル化セルロースから除去される加圧濾過をすることと、
最初に存在する液体の50%以上がナノフィブリル化セルロースから除去されるエンドポイントまで、加圧濾過が継続されて、ナノフィブリル化セルロースが10?30%の最終乾燥物質とすることとを含み、
それによって、最終乾燥物質におけるナノフィブリル化セルロースは、水に再分散可能であり、0.5?1.0wt%の範囲の分散濃度で水に再分散されたとき、同じ分散濃度において元来有していた粘度特性に等しい粘度特性を示すことを特徴とする方法。
【請求項2】
加圧濾過される水性ナノフィブリル化セルロースは、0.5?5.0%の濃度であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
加圧濾過は、ナノフィブリル化セルロースが少なくとも15%の濃度に達するエンドポイントまで継続されることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
加圧濾過は、ナノフィブリル化セルロースが少なくとも20%の濃度に達するエンドポイントまで継続されることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
加圧濾過は、ナノフィブリル化セルロースが少なくとも30%の濃度に達するエンドポイントまで継続されることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
加圧濾過される水性ナノフィブリル化セルロースは、4%以下の濃度であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
加圧濾過は、ナノフィブリル化セルロースが少なくとも10%の濃度に達するエンドポイントまで継続されることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
加圧濾過は、ナノフィブリル化セルロースが少なくとも20%の濃度に達するエンドポイントまで継続されることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項9】
加圧濾過は、ナノフィブリル化セルロースが30%の濃度に達するエンドポイントまで継続されることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項10】
加圧濾過される水性ナノフィブリル化セルロースは1?4%の濃度であり、加圧濾過は、ナノフィブリル化セルロースの濃度が15?25%の最終乾燥物質になるまで継続されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項11】
加圧濾過工程は、先行する製造工程の結果としてナノフィブリル化セルロースが到達した温度で、またはナノフィブリル化セルロースが先行する製造工程の結果として到達した温度から冷却された温度で実施されることを特徴とする請求項1?10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
加圧濾過中は、5?100barの圧力が使用されることを特徴とする請求項1?11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
ナノフィブリル化セルロースのセルロースは、化学的に純粋であることを特徴とする請求項1?12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
ナノフィブリル化セルロースは水性ナノフィブリル化セルロースであり、加圧濾過において除去される液体は水であることを特徴とする請求項1?13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
加圧濾過後、ナノフィブリル化セルロースは、液体媒体に分散されることを特徴とする請求項1?14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
請求項1?15のいずれか1項に記載の方法のための加圧濾過装置の使用。
【請求項17】
10?30%の乾燥物質含有量のナノフィブリル化セルロースを有する濃縮ナノフィブリル化セルロース製品であって、ナノフィブリル化セルロースは本質的に少なくとも55%の結晶化度を有する結晶であり、かつ植物材料からなり、木材由来の繊維性原料を均質化することによって製造され、当該ナノフィブリル化セルロースは、水に再分散可能であり、0.5?1.0wt%の範囲の分散濃度で水に再分散されたとき、同じ分散濃度において元来有していた粘度特性に等しい粘度特性を示すことを特徴とする濃縮ナノフィブリル化セルロース製品。
【請求項18】
化学的に純粋なセルロースを含み、10?35%の乾燥物質含有量のナノフィブリル化セルロースを有する濃縮ナノフィブリル化セルロース製品であって、ナノフィブリル化セルロースは本質的に少なくとも55%の結晶化度を有する結晶であり、かつ植物材料からなり、木材由来の繊維性原料を均質化することによって製造され、当該ナノフィブリル化セルロースは、水に再分散可能であり、0.5?1.0wt%の範囲の分散濃度で水に再分散されたとき、同じ分散濃度において元来有していた粘度特性に等しい粘度特性を示すことを特徴とする濃縮ナノフィブリル化セルロース製品。
【請求項19】
ナノフィブリル化セルロースは、加圧濾過されたナノフィブリル化セルロースであることを特徴とする請求項18に記載のナノフィブリル化セルロース製品。
【請求項20】
ナノフィブリル化セルロースは、濾過ケーキの形状をなすことを特徴とする請求項19に記載のナノフィブリル化セルロース製品。
【請求項21】
ナノフィブリル化セルロースは、細かく砕かれ、粉砕された、1?5mmの粒径を有する濾過ケーキの形状であることを特徴とする請求項20に記載のナノフィブリル化セルロース製品。
【請求項22】
削 除
【請求項23】
削 除
【請求項24】
削 除
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-09-11 
出願番号 特願2014-557097(P2014-557097)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (D21H)
P 1 651・ 113- YAA (D21H)
P 1 651・ 536- YAA (D21H)
P 1 651・ 121- YAA (D21H)
最終処分 維持  
特許庁審判長 千壽 哲郎
特許庁審判官 渡邊 豊英
小野田 達志
登録日 2016-04-15 
登録番号 特許第5916902号(P5916902)
権利者 ウーペーエム-キュンメネ コーポレイション
発明の名称 フィブリルセルロースを濃縮するための方法、およびフィブリルセルロース製品  
代理人 西教 圭一郎  
代理人 西教 圭一郎  

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